説明

プリント回路板用樹脂組成物、プリプレグ、支持基材付き絶縁板、積層板および多層プリント回路板

【課題】樹脂組成物中に充填材を含んだプリント回路板用樹脂組成物、プリプレグ、支持基材付き絶縁材、積層板および多層プリント回路板を提供すること。
【解決手段】水系媒体と、前記水系媒体中に分散したエマルジョン樹脂とを含み、前記エマルジョン樹脂は、充填材を含み、また、前記エマルジョン樹脂は、エポキシ樹脂を含み、また、前記エマルジョン樹脂は、シアネート樹脂を含むことを特徴とするプリント回路板用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路板用樹脂組成物、プリプレグ、支持基材付き絶縁板、積層板および多層プリント回路板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化等の要求にともない、電子部品の高密度集積化が進んでいる。これらに使用されるプリント回路板についても、従来にも増して、小型化かつ高密度化が進んでいる。そしてプリント回路板の製造に用いられる積層板にも、高密度化に対応した特性、例えば、耐熱性、寸法安定性などが求められている。
【0003】
最近は、さらに、積層板について、その色調が黒色であることや、紫外線透過率が小さいことが求められる場合がある。すなわち、銅張積層板を用いてプリント配線板を製造する際に、積層板の色調が黒色であると、銅パターン形成後のパターン検査が容易になるという利点があるので黒色化することが求められる場合がある。また、両面にソルダーレジストパターンを形成するのに、両面同時露光法を採用した場合、露光時にフォトレジストを透過した紫外線が、さらに積層板内を透過し、互いに反対面のフォトレジストをも露光してしまい、正常なソルダーレジストパターンが形成されないという、いわゆる裏焼けに対する改善策のために、紫外線透過率が小さい積層板が求められる場合がある。
【0004】
このような、要求に対応するのに、色調が黒色の積層板の場合、従来は黒色系着色剤として、カーボンブラックの粉末を、樹脂組成物中に添加して用いられている(例えば特許文献1)。しかし、これら樹脂組成物とカーボンブラックを有機溶媒中に分散させている。そのため、ワニスの状態では、カーボンブラックは均一に分散しているが、例えばガラス織布にこのワニスを含浸させ加熱を行い溶媒を除去する過程で、カーボンブラックを均一に分散させていた有機溶媒が飛散していく。それで、均一に分散していたカーボンブラックが再凝集してしまうという問題があった。そして、樹脂組成物中に不均一な分散となっている。そのため、例えば積層板では、電気絶縁性が損なわれたり、紫外線透過率が積層板内で安定しないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−278957
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、樹脂組成物中に充填材を均一に分散させたプリント回路板用樹脂組成物、プリプレグ、支持基材付き絶縁材、積層板および多層プリント回路板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプリント回路板用樹脂組成物は、水系媒体と、前記水系媒体中に分散したエマルジョン樹脂とを含み、前記エマルジョン樹脂中には、充填材を含むことを特徴とする。
【0007】
このプリント回路板用樹脂組成物においては、水系にエマルジョンとして分散している樹脂中に充填材を含んでいる。これにより、水系中や溶媒中に充填材を分散させているのとは異なり、充填材の二次凝集を防ぐことができる。さらに、基材等に含浸させた場合、水や溶媒を除去する工程において、水や溶媒濃度が高くなっても、充填材が樹脂中に分散しているためさらなる凝集を防ぐとことができ、樹脂組成物中に充填材が均一に分散したプリント回路板用樹脂組成物を提供することができる。
【0008】
また、プリント回路板用樹脂組成物を基材に含浸させてもよい。これによりプリプレグを提供することが可能となる。
【0009】
また、金属箔または樹脂フィルムからなる支持基材に、プリント回路板用樹脂組成物からなる層が形成された支持基材付き絶縁材としてもよい。
【0010】
また、プリプレグを一枚以上積層し成形して積層板としてもよい。
【0011】
さらに、支持基材付き絶縁材を内層回路板の少なくとも一方の面側に積層し、加熱加圧して多層プリント回路板としてもよい。これにより、たとえば、両面同時露光を行うプリント回路板の用途において、UV光が均一に分散され、裏写りのないプリント回路板を提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂組成物中に充填材を含んだ樹脂組成物、プリプレグ、支持基材付き絶縁材、積層板および多層プリント回路板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のプリント回路板用樹脂組成物(以下樹脂組成物ともいう)、プリプレグ、支持基材付き絶縁材、積層板および多層プリント回路板について、詳細に説明する。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、水系媒体と、前記水系媒体中に分散したエマルジョン樹脂とを含む。エマルジョン樹脂中には、充填材が分散している。
【0015】
また、本発明のプリプレグは、上記の樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするプリプレグである。
【0016】
また、本発明の支持基材付き絶縁材は、金属箔または樹脂フィルムからなる支持基材に、上記の樹脂組成物からなる層が形成されている。
【0017】
また、積層板は、上記のプリプレグを一枚以上積層し成形してなることを特徴とする。
【0018】
また、多層プリント回路板は、支持基材付き絶縁材を内層回路板の少なくとも一方の面側に積層し、加熱加圧して得られる。
【0019】
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0020】
本発明におけるエマルジョン樹脂は、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂等が用いられる。中でも、硬化性と保存性、硬化物の耐熱性、耐湿性、耐薬品性に優れるエポキシ樹脂および/またはシアネート樹脂が好適に用いられる。
【0021】
エポキシ樹脂は、室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂のうち、いずれを用いてもよい。また、樹脂が室温で固形のエポキシ樹脂と、室温で液状のエポキシ樹脂とを含んでもよい。これにより、樹脂溶融挙動の設計の自由度をさらに高めることができる。
【0022】
室温で固形のエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、3官能エポキシ樹脂、4官能エポキシ樹脂等が挙げられる。さらに具体的には、固形3官能エポキシ樹脂とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とを含んでもよい。
【0023】
また、室温で液状のエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂とすることができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0024】
シアネート樹脂は、そのプレポリマーをも含むものであり、これらは例えば、ハロゲン化シアン化合物とフェノール類とを反応させ、必要に応じて加熱等の方法でプレポリマー化することにより得ることができる。具体的には、ノボラック型シアネート樹脂 、ビスフェノールA型シアネート樹脂 、ビスフェノールE型シアネート樹脂 、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂 等のビスフェノール型シアネート樹脂 等を挙げることができる。これらの中でもノボラック型シアネート樹脂 が好ましい。これにより、架橋密度増加による耐熱性向上と、積層板の難燃性を向上することができる。ノボラック型シアネート樹脂 は、その構造上ベンゼン環の割合が高く、炭化しやすいためと考えられる。
【0025】
前記ノボラック型シアネート樹脂 としては、例えば式(1)で示されるものを使用することができる。
【0026】
【化1】

【0027】
上記式(1)で表されるノボラック型シアネート樹脂 のn数は、特に限定されないが、1〜10が好ましく、特に1〜7が好ましい。これより少ないとノボラック型シアネート樹脂 は結晶化しやすくなり、汎用溶媒に対する溶解性が比較的低下するため、取り扱いが困難となる場合がある。また、これより多いと架橋密度が高くなりすぎ、耐水性の低下や、硬化物が脆くなるなどの現象を生じる場合がある。
【0028】
前記シアネート樹脂 及び/またはそのプレポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量500〜4,500が好ましく、特に600〜3,000が好ましい。これより小さいとタック性が生じ、層間絶縁層同士が接触したとき互いに付着したり、樹脂の転写が生じたりする場合がある。また、これより大きいと反応が速くなりすぎ、積層板とした場合に、成形不良を生じたり、層間ピール強度が低下したりする場合がある。
【0029】
前記シアネート樹脂 等の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の5〜80重量%が好ましく、特に10〜50重量%が好ましい。シアネート樹脂 等の含有量が前記下限値未満では、耐熱性や低熱膨張化する効果が低下する場合があり、前記上限値を超えると架橋密度が高くなり自由体積が増えるため耐湿性が低下する場合がある。
【0030】
これらの熱硬化性樹脂の含有量は、樹脂組成物100重量部に対して、好ましくは、50重量%以上、98重量%以下であり、より好ましくは65重量%以上、95重量%以下である。上記範囲とすることにより、良好な硬化性が得られると共に、良好な溶融挙動の設計が可能となる。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂中には充填材を含んでいる。これにより、両面同時露光法を採用した場合、露光時にフォトレジストを透過した紫外線が、さらに積層板内を透過し、互いに反対面のフォトレジストをも露光してしまい、正常なソルダーレジストパターンが形成されないという、いわゆる裏焼けを改善することができる。
【0032】
充填材としては、特に限定はされないが、無機充填材、有機充填材用いることができる。これらのなかでも、耐熱性の面から無機充填材が好ましい。
【0033】
無機充填材として例えばタルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、シリカ、溶融シリカ等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物、カーボンブラック等を挙げることができる。これらの中でもカーボンブラックが好ましい。
【0034】
前記充填材 の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmが好ましく、特に0.2〜2μmが好ましい。粒径がこの範囲内であれば、可視光やUV光を遮蔽の効果を維持しつつ樹脂液の乳化を妨げることがない。
【0035】
前記無機充填材 の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の20〜70重量%が好ましく、特に35〜60重量%が好ましい。含有量がこの範囲内であると可視光やUV光を遮蔽の効果を維持しつつ樹脂液の乳化を妨げることがない。
【0036】
また、無機充填材としては、無機の顔料を用いることができる。無機顔料 としては、実質的に水に不溶性であれば特に限定はされないが、無機の白色顔料としては例えば、二酸化チタン(チタン白、チタニウムホワイト)、酸化亜鉛(亜鉛華)、塩基性炭酸鉛(鉛白)、チタン酸ストロンチウム、酸化アンチモン、リトポン(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混晶)など、有色顔料 としては例えば、弁柄、紺青、郡青、コバルト青、クロムグリーンなどが挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種類以上を併せて用いることもできる。
【0037】
これらの無機顔料 の中でも、白色顔料 としては二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンは白さ、隠蔽力、着色力などにおいて優れた特性を有するため、比較的低い濃度で用いてもこれらの特性を発揮することができる。
【0038】
無機顔料 の粒度としては特に限定されないが、平均粒径が0.1〜1μmのものを用いることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。これにより、積層板表面の平滑性と、表面層の下層側の色調を遮蔽する能力に優れたものとすることができる。平均粒径がこの範囲内にあると可視光やUV光を遮蔽の効果を維持しつつ樹脂液の乳化を妨げることがない。
【0039】
有機充填材としては、染料や有機顔料を用いることができる。また、有機染料および有機顔料は、樹脂中に溶解あるいは分散していてもよい。染料 は、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、クマリン誘導体、トリアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラゾリン誘導体、ナフタル酸誘導体、イミダゾロン誘導体等で特に限定されるものではない。
【0040】
有機顔料 としては、水に不溶性であれば特に限定はされないが、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノン系イエロー、キナクリドン系レッド、ペリレン系レッド等が使用できる。
【0041】
また、本発明において用いられる充填材は、熱重量示差熱分析法(TG−DTA法)による重量保持率が300℃において90%以上のものを用いることが好ましい。これにより、近年、プリント回路板や多層プリント回路板に求められる耐熱性に対応することができる。これは、シリコンチップの使用環境に近い条件においても安定した回路板であることが求められている。すなわち、この条件下でも層間剥離がおこらない回路板が求められている。そのためには、基板材料において300℃程度で揮発分が可能な限り少ないことが望ましい。このような揮発分としては、樹脂の熱分解、硬化剤や硬化促進剤の熱分解や昇華などに起因するものもあり、さらに、本発明のように例えば有機の充填材を使用した場合には、この充填材の熱分解によるものもある。本発明においては、この有機の充填材の熱分解性をTG−DTA法による重量保持率により判定することとし、この重量保持率が300℃において90%以上にすることにより層間剥離の起こらない回路板とすることができる。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、乳化剤を含んでいてもよい。乳化剤 としては、非イオン系分散剤のなかで、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシアルキレンアリールエーテル型あるいはポリオキシエチレン脂肪酸エステル型などの一部が該当し、具体的には、花王(株)製のエマルゲンA−500(ポリオキシエチレンアリールエーテル型)やエマルゲンA−4085(ポリオキシエチレンアルキルエーテル型)、エマルゲン220(ポリオキシエチレンアルキルエーテル型)、エマノーン3199(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型)、レオドールTW−S120V(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型)などがある。また、水溶液タイプとして、エマルゲン1150S−70(ポリオキシエチレンアルキルエーテル型)がある。
【0043】
乳化剤 の含有量は、熱硬化性樹脂100重量部に対して0.5〜30重量部であることが好ましい。より好ましくは、2〜20重量部である。上記下限値未満では水性エマルジョン樹脂液が不安定で、一度エマルジョン化した樹脂が再凝集してしまうまでの時間が短くなりやすく、上記上限値を越えると乳化剤 量が過剰であり、積層板の耐熱性や機械的特性(特に、引き剥がし強度)に悪影響を与えることがあり、コスト高にもなる。
【0044】
本発明の水系熱硬化性樹脂エマルジョンには硬化剤を分散させていてもよい。硬化剤としては、水に難溶性である硬化剤を用いることができる。これにより、加熱乾燥工程まで樹脂の硬化を抑制する潜在性を持たせることができ、塗布液の保存安定性を向上させることができる。又、プリプレグ作成の際にガラスクロスフィラメント間隙に選択的に硬化剤が含浸することがないサイズにしておくことが出来るため組成の不均一による耐熱性及び電気特性の低下を抑制することが出来る。そのような硬化剤としては、酸無水物化合物、アミン化合物、イミダゾール化合物、及びノボラック型フェノール樹脂等を用いることができる。また、硬化促進剤を用いることもでき、そのようなものとして、イミダゾール化合物、第3級アミン化合物等を挙げることができる。

【0045】
次に、本発明の熱硬化性樹脂の水性エマルジョン化について説明する。 本発明においては、熱硬化性樹脂と乳化剤及び充填材とを溶融混合し、しかる後、この溶融した樹脂組成物に水を添加して水性エマルジョンとする。エマルジョン化は、通常、まず、第1の水添加として乳化剤を含有する溶融樹脂に水を徐々に添加し攪拌混合し、ウォーターインオイル型エマルジョンを経てオイルインウォーター型エマルジョンに転相させる。この第1の水添加は、通常乳化剤を含まない水を使用するが、乳化剤水溶液を使用してもよい。その後、さらに攪拌混合を継続した後、第2の水添加として、エマルジョンの安定化のために水を添加することにより行う。第2の水添加において使用する水は乳化剤を含むものであることが、エマルジョンをより安定化させるために好ましい。続いて、通常、攪拌速度を弱くしつつ冷却を行う。
【0046】
第1の水添加工程では、樹脂および添加する水の温度は、樹脂の軟化点をベースにして決定することができる。即ち、樹脂の軟化点ないしこれより15℃高い温度の範囲である。2種以上の樹脂を使用する場合、これらの共融軟化点をベースとするが、各々の樹脂の軟化点と各々の樹脂の配合割合との積の合計を計算上の軟化点としてもよい。
【0047】
それぞれの水添加工程において、添加する水の量は、第1の水添加では、好ましくは、樹脂量に対して15〜50重量%であり、この量の水を添加し攪拌混合して樹脂を水性エマルジョン化する。第2の水添加では、好ましくは、樹脂量に対して第1の水添加量との合計量で50〜200重量%である。この量の水を添加し攪拌混合することにより、エマルジョンをより安定化させる。
【0048】
第1の水添加工程において、水の添加終了後10分間以上攪拌混合することが好ましい。これにより、オイルインウォーター型(水性)に転相したエマルジョンを得ることができる。攪拌時間が10分間未満であると、オイルインウォーター型エマルジョンに十分に転相しないことがある。また、通常は120分間程度攪拌を行えば十分であり、それ以上長く攪拌する必要はない。なお、オイルインウォーター型への転相は、樹脂液の電気伝導度を測定し、その変化から確認することができる。攪拌は、転相までは高速(例えば、周速度200m/分以上)で行い、転相後乳化剤水溶液を添加し冷却する段階では低速(例えば、周速度100m/分以下)で行うことが好ましい。
【0049】
エマルジョン粒子の平均粒径は5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2μm以下である。これにより、エマルジョン化した樹脂液を高濃度で低粘度とすることができ、かつ樹脂粒子が基材の繊維間へ侵入しやすくなり、塗布含浸性に優れたものとすることができる。水性エマルジョンの樹脂濃度が高いというとは、乾燥に費やすエネルギーも少ないことであり、有機溶剤を使用しないことと共に、環境負荷の少ない処方を提供するものである。エマルジョン粒子の平均粒径が上記上限値より大きいと、分散したエマルジョン粒子が再凝集して分離沈殿することがある。
【0050】
上記のように、乳化剤を含む溶融した熱硬化性樹脂を水または水と乳化剤水溶液とにより水性エマルジョンとするが、これにより、安定な水性エマルジョンが得られ、樹脂液のハンドリング性に優れ、かつ繊維基材へ含浸性に優れているので、有機溶剤を実質的に使用しない処方として極めて有用である。
【0051】
次に、上記エマルジョンに他の添加剤、例えば、硬化剤、硬化促進剤、有機フィラー、無機フィラーなどを配合して含浸用樹脂液とし、しかる後、この樹脂液を繊維基材に担持させる。無機フィラーはスラリーとして用いることが好ましい。無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、カオリンクレー、ハイドロタルサイト、アタパルジャイト、セピオライト、マイカ、錫酸亜鉛、シリカ、コレマナイト、ブルーサイト、タルク、合成水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等があるが、低熱膨張率を維持するという理由から、シリカ及びタルクが好ましい。また、平均粒径は、水分散性や含浸性を良好とするために0.1〜5μmが好ましい。従って、平均粒径0.1〜5μmのシリカ及びタルクが特に好ましい。かかる無機フィラーはカップリング剤で処理されたものが好ましいが、水性エマルジョン樹脂液の中に予めカップリング剤を添加しておいてもよい。
【0052】
無機フィラーの配合により、樹脂付き基材及び積層板の特性を実質的に低下させることなく、積層板の熱膨張率の低下や耐熱性の向上とともに、樹脂付き基材からの粉落ちを防止することができる。配合量としては特に限定されないが、樹脂およびフィラーを含む組成物全体100重量%(固形分)に対して、30〜80重量%であることが好ましく、更に好ましくは40〜75重量%である。
【0053】
配合量が前記下限値未満の場合は、耐燃性や熱膨張率を小さくするという効果が不十分となることがある。特に、積層板に搭載される部品の熱膨張との差が大きいと、熱サイクル試験等の信頼性に問題が発生することがある。一方、前記上限値を越えると、樹脂液のチクソ性も大きくなり、含浸性の低下や樹脂付き基材あるいは積層板の外観が低下することがあり、積層板のドリル加工等の加工性が低下する傾向にある。また、相対的に樹脂の不足から耐熱性の低下などがみられることがある。そのため、耐燃性や熱膨張率の向上や、含浸性や樹脂付き基材あるいは積層板の外観の向上、さらに積層板の加工性の観点から、上記数値範囲にあることが好ましい。
【0054】
かかる担持方法としては、特に限定されないが、例えば、この樹脂液をスプレーノズルなどの噴射装置を用いて基材に噴射して塗工する方法、樹脂液中に基材を浸漬する方法、ナイフコーター、コンマコーター等の各種コーターにより樹脂液を基材に塗工する方法、あるいは、転写ロールにより樹脂液を基材に転写する方法、などが挙げられる。
【0055】
これらの中でも、樹脂液を噴射装置により基材に噴射して塗工する方法では、噴射装置から噴射された樹脂液がエネルギーをもって基材に衝突するので、基材内への含浸性が向上して好ましい。
【0056】
なお、噴射装置を用いて樹脂液を基材に噴射して塗工する方法や、樹脂液中に基材を浸漬する方法などを適用する場合は、その方法のみによって行ってもよいし、担持する樹脂組成物量の調整やプリプレグ表面の平滑性を向上させるために、コンマコーター、ナイフコーター、ダイコーター、スクイズロールなどを併せて用いることもできる。
【0057】
本発明のプリプレグでは、以上のようにして熱硬化性樹脂を繊維基材に担持させた後、これを通常加熱乾燥する。これにより、水が実質的に全て蒸発するとともに、樹脂成分が溶融して低粘度化し、基材繊維間に含浸したプリプレグを得ることができる。なお、必要に応じて樹脂成分が半硬化状態になるまでさらに熱を加えてもよい。加熱乾燥する条件としては、特に限定されないが、通常100〜220℃、好ましくは120〜1
90℃で2〜10分間行う。 また、プリプレグに担持させる樹脂組成物の量(固形分)は特に限定されないが、通常、プリプレグ全体(基材+樹脂組成物)に対して、40〜60重量%程度である。
【0058】
本発明の積層板は、上記のプリプレグを加熱加圧成形することを特徴とするものである。加熱加圧成形は、従来の有機溶剤を使用した樹脂ワニスからのプリプレグを成形する場合と同様の条件で行うことができ、例えば、多段熱盤法では、温度170〜200℃、圧力20〜40kg/cmにて100〜200分間加熱加圧する。このようにして、従来のものと同等の、ボイドのない耐熱性の優れた積層板を得ることができる。
【0059】
本実施形態では、基材に樹脂組成物を含浸させてシート状のプリプレグを形成する形態について説明したが、種々の形態で利用される。例えば、支持基材として金属箔または樹脂フィルムに塗工して樹脂付き金属箔または樹脂付き樹脂フィルム(支持基材付き絶縁材)とすることができる。
【0060】
金属箔としては、ステンレス箔、鉄箔、アルミ箔、銅箔などが用いられ、加工性などの点から銅箔が好ましい。また、樹脂フィルムとしては、例えばポリイミド樹脂フィルム 、ポリエーテルイミド樹脂フィルム 、ポリアミドイミド樹脂フィルム 等のポリイミド樹脂系樹脂フィルム 、ポリアミド樹脂フィルム 等のポリアミド樹脂系フィルム、ポリエステル樹脂フィルム 等のポリエステル樹脂系フィルムが挙げられる。このうち、価格と生産性の面からポリエステル樹脂フィルムが好ましい。
【0061】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
エポキシ樹脂として日本化薬製NC3000Hを32重量部とシアネート樹脂にロンザ製のプリマセットPT30を50重量部と花王製乳化剤A500、5重量部を75℃にて溶融混合した後、三菱化学製の無処理カーボンブラックMA600の1重量部を攪拌しながら混合した。この、溶融混合樹脂に50℃の水を少量づつ加えていきながらディスパーザーを5000rpmで30分間回転してエマルションを得た。次に、シリカスラリー240重量部に硬化剤としてのカヤハードGPH103の18重量部を分散させた液を加えて混合攪拌し、最後に、触媒のエピキュアP200Kの微粉イミダゾール0.1重量部を分散剤入りの分散水の状態で加え攪拌混合し塗布液とした。
【0063】
エポキシシラン処理ガラス基材2116タイプ100μm厚みクロスに上記の塗布液を塗布し、160℃で5分間加熱乾燥しプリプレグとした。更に、この両面に18μm銅箔を配置して175℃90分間加熱加圧成形して、積層板とした。
【0064】
この時のエマルション平均粒径は0.69μmであった。また、積層板をパターン作成後に印加電圧下での85℃85%加熱加湿処理での絶縁破壊時間は、1000時間以上となった。UV遮蔽性も良好であり、表側から当てた紫外線による裏面に塗られた紫外線硬化型エッチングレジストが硬化する事は無かった。さらに、光学系のパターン認識のS/N比は充分に高かった。
(実施例2)
エポキシ樹脂を26重量部、シアネート樹脂を56重量部、カーボンブラックを0.5重量部にした以外は実施例1を同様に作成し、エマルション平均粒径0.74μmとなった。絶縁破壊時間は1000時間以上であった。UV遮蔽性も使用可能範囲であり、表側から当てた紫外線による裏面に塗られた紫外線硬化型エッチングレジストが硬化する事は無かった。さらに、光学系のパターン認識のS/N比は使用可能範囲であった。
(実施例3)
カーボンブラックの量を2重量部にした以外は実施例1と同様に作成した。エマルション平均粒径で0.69μmであった。絶縁破壊時間は1000時間以上であった。UV遮蔽性も良好であり、表側から当てた紫外線による裏面に塗られた紫外線硬化型エッチングレジストが硬化する事は無かった。さらに、光学系のパターン認識のS/N比は充分に高かった。
(実施例4)
充填材である酸化チタンを1重量部、花王製乳化剤A500を12重量部とした以外は実施例1と同様に作成した。エマルション平均粒径、積層板印加電圧下絶縁破壊時間はUV遮蔽性、さらに、光学系のパターン認識のS/N比は表に記載の通りである。
(実施例5)
充填材である顔料としてナフトールレッドを1重量部、花王製乳化剤A500を6重量部とした以外は実施例1と同様に作成した。エマルション平均粒径、積層板印加電圧下絶縁破壊時間はUV遮蔽性、さらに、光学系のパターン認識のS/N比は表に記載の通りである。
(実施例6)
充填材である染料として、熱重量示差熱分析法(TG−DTA法)による重量保持率が300℃において95%のSol.Black7を1重量部、花王製乳化剤A500を3重量部とした以外は実施例1と同様に作成した。エマルション平均粒径、積層板印加電圧下絶縁破壊時間はUV遮蔽性、さらに、光学系のパターン認識のS/N比は表に記載の通りである。
(比較例1)
カーボンブラックを溶融混合樹脂中に分散しないで、エマルションを作成し、分散剤水溶液に分散したものを塗布液中に配合した以外は実施例1と同様な方法で作成した。エマルション平均粒径は0.67μmと良好であったが、絶縁破壊時間が450時間となった。
(比較例2)
溶剤としてMIBKをもちいて溶解した樹脂を用いた以外は実施例1と同様に作成した。絶縁破壊時間は840時間となった。
(比較例3)
充填材を添加しない以外は、実施例1と同様に作成した。UV遮蔽効果がなくまた、光学系のパターン認識のS/N比使用不可能範囲だった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
(測定方法)
加熱時の分散剤重量保持率:TG−DTA法により300℃における重量保持率を測定した。装置はTAインスツルメント社製のものを使用し、昇温速度10℃/分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体と、
前記水系媒体中に分散したエマルジョン樹脂とを含み、
前記エマルジョン樹脂中には、充填材を含むことを特徴とするプリント回路板用樹脂組成物。
【請求項2】
前記エマルジョン樹脂は、エポキシ樹脂を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エマルジョン樹脂は、シアネート樹脂を含む請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記充填材は、カーボンブラックを含む請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記充填材は有機充填材を含み、前記有機充填材の熱重量示差熱分析法による重量保持率が300℃において90%以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
無機フィラーを含有するスラリーをさらに含む請求項1ないし5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記水系媒体には、硬化剤が分散している請求項1ないし6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項9】
前記基材は、ガラス織布である請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
金属箔または樹脂フィルムからなる支持基材に、請求項1ないし7のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層が形成された支持基材付き絶縁材。
【請求項11】
請求項8または9に記載のプリプレグを一枚以上積層し成形してなることを特徴とする積層板。
【請求項12】
請求項10に記載の支持基材付き絶縁材を内層回路板の少なくとも一方の面側に積層し、加熱加圧して得られることを特徴とする多層プリント回路板。

【公開番号】特開2008−144071(P2008−144071A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334286(P2006−334286)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】