説明

プレス加工装置及び中空ラックバーの製造方法

【課題】中空鋼管に平坦部を形成するためにパンチで押し付けた場合であっても、異形に変形したり、型が割れる等の不具合を防止すること。
【解決手段】水平方向に開くとともに、前記中空鋼管が挟持される左右型31,32と、左右型31,32の上部に配置され、上方からの押圧力を前記左右型を閉める方向への押圧力に変換するテーパ面31b,32b及び41a,41bと、左右型31,32に挟持された中空ラックバー10の上部に平坦部11aを形成するパンチ43と、パンチ43を上下動させる押圧機構52と、押圧機構52と独立して上下動し、テーパ面31b,32b及び41a,41bを介して押圧する固定加圧機構51とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワーステアリング装置等に使用されるラック&ピニオンギアに用いられるラックバー、プレス加工装置及び中空ラックバーの製造方法に関し、特に製品形状を安定化できるとともに、型寿命の向上を図れるものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のパワーステアリング装置に使用されるラックバーは、素材となる中空鋼管を加工して形成されるもので、中間部にピニオンギアに噛み合わされる歯部、両端部の内側にネジ溝を有している。
【0003】
このようなラックバー100は、最初に中空鋼管を図7,8に示すような型200,201に入れ、歯を成形する部分101に型201の貫通孔202を介してパンチ203を用いて平坦面を形成し(例えば、特許文献1参照)、次にこの平坦面に歯部を形成するという2段階の工程を有している。
【0004】
また、ラック軸の外周面は平坦部と円周面で構成され、その断面形状が略D字形状となっている。この断面形状が略D字形形状の中空ラック軸では曲げ力が働く方向による曲げ強度のばらつきが大きい傾向にある。ところで、コスト低減の要請のため、レイアウトの異なる複数の舵取り装置でラック軸が共用化されている。したがって、曲げ強度が低い方向への曲げ負荷は避けなければならず、舵取り装置のレイアウトに制限があった。この目的を達成するために、断面形状が略六角形形状とされ、一の平坦部にラック歯が形成され、外周面の断面形状が六角形形状とされることにより、曲げ方向による曲げ強度のばらつきを少なくしつつ、ラック歯の歯幅を確保されるように形成されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
なお、製品を金型によって成形する場合、金型が2つに分割されるものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−103644号公報(図2及び図3)
【特許文献2】特許第3763339号公報
【特許文献3】特開平11−105038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したラックバーの製造方法では、次のような問題があった。すなわち、パンチで中空鋼管を押し付けていくと、上型が左右に開こうとするため、中空鋼管が異形になったり、上型が割れてしまう虞があった。
【0008】
そこで本発明は、中空鋼管に平坦部を形成するためにパンチで押し付けた場合であっても、異形に変形したり、型が割れる等の不具合を防止することができるラックバー、プレス加工装置及び中空ラックバーの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のラックバー、プレス加工装置及び中空ラックバーの製造方法は次のように構成されている。
【0010】
(1)ピニオンギアに噛み合わされる歯部を軸部に有するラックバーにおいて、前記歯部の軸方向に直交する断面の外周が、前記歯部が形成される第1直線部分と、この直線部分の中央の角度位置を0°として、90°及び270°の角度位置を含む範囲に形成された一対の第2直線部分とを備えていることを特徴とする。
【0011】
(2)ピニオンギアに噛み合わされる歯部を軸部に有する中空ラックバーに、前記歯部が形成される平坦部を形成するプレス加工装置において、水平方向に開くとともに、前記中空鋼管が挟持される左右型と、前記左右型の上部に配置され、上方からの押圧力を前記左右型を閉める方向への押圧力に変換する圧力方向変換伝達部と、前記左右型に挟持された前記中空ラックバーの上部に前記平坦部を形成するパンチと、前記パンチを上下動させる押圧機構と、この押圧機構と独立して上下動し、前記圧力方向変換伝達部を下方に押圧する固定加圧機構とを備えていることを特徴とする。
【0012】
(3)中空鋼管の長さの一部分を押圧して外面円周の一部を平坦部とし、前記中空鋼管を歯部形成型を内面に有する型内に収容して歯部形成型を平坦部に接触させ、マンドレルを中空鋼管の内部に押込むことにより平坦部にされた部分の内面を順次しごき加工をして前記歯部形成型に従って歯部を形成する中空ラックバーの製造方法において、前記中空鋼管の前記歯部の軸方向に直交する断面の外周が、前記歯部が形成される第1直線部分を有する平坦部と、この直線部分の中央の角度位置を0°として、90°及び270°の角度位置を含む範囲に形成された第2直線部分を有する平面部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
(4)ピニオンギアに噛み合わされる歯部を軸部に有する中空鋼管に、前記歯部が形成される平坦部を形成する中空ラックバーの製造方法において、左右型によって水平方向から前記中空鋼管を挟持し、前記左右型の上方からの押圧力を前記左右型を閉める方向への押圧力に変換し、前記左右型に挟持された前記中空鋼管の上部に前記平坦部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中空鋼管に平坦部を形成するためにパンチで押し付けた場合であっても、異形に変形したり、型が割れる等の不具合を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る中空ラックバーを示す斜視図。
【図2】同中空ラックバーを図1中I−I線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図3】同中空ラックバーに平坦部を形成するためのプレス加工装置を示す断面図。
【図4】同平坦部に歯部を形成する工程を示す断面図。
【図5】同中空ラックバーに熱処理を行う熱処理工程を示す断面図。
【図6】同中空ラックバーが組み込まれたラック&ピニオンギアの要部を示す断面図。
【図7】従来のプレス加工装置を示す縦断面図。
【図8】同プレス加工装置を図6中II−II線で切断して矢印方向に見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一実施の形態に係る中空ラックバー10を示す斜視図、図2は同中空ラックバー10を図1中I−I線で切断して矢印方向に見た断面図、図3は同中空ラックバー10に平坦部11aを形成するためのプレス加工装置20を示す断面図である。
【0017】
中空ラックバー10は、中空鋼管からなる軸部11と、この軸部11の中間部に設けられた歯部12を備えている。歯部12は、軸部11の所定範囲を平坦に潰した形成された平坦部11aに形成されている。なお、図1中13は中空部、14はネジ部、Cは軸心線を示している。
【0018】
軸部11は、図2に示すように、軸部11の軸方向に直交する断面の外周が、前記歯部が形成される平坦部(第1直線部分)11aと、平坦部11aの中央の角度位置を0°として、90°及び270°の角度位置を含む範囲に形成された平面部(第2直線部分)11bとを備えている。また、その他の部分は円弧状に形成されており、特にパワーステアリング装置に組み込まれた場合に摺動部となる範囲11cについては所定の円弧が形成されている。
【0019】
次に、このような中空ラックバー10の形成方法について説明する。図3に示すプレス加工装置20は、左右に開く左右型30と、この左右型30に支持された軸部11をプレスするプレス機構40と、このプレス機構40に加圧力を加える加圧機構50とを備えている。
【0020】
左右型30は、左右に開く左型31及び右型32を備えている。これら左型31及び右型32の中央部には軸部11が挿入される凹部31a,32aが形成されている。凹部31a,32aはいずれも断面半円形状で底部が平面状となっている。また、左型31及び右型32は、上面から側面にかけて水平面に対し所定の角度θを有するテーパ面31b,32bが形成されている。左型31及び右型32の下側には左型31及び右型32を分離させるためのイジェクトピン33が設けられている。テーパ面31b,32bの下端は少なくとも凹部31a,32aの底部の下端の位置まで設けられている。また、所定の角度θは、55〜80°の範囲とすることが好ましい。
【0021】
プレス機構40は、円筒状の支持ブロック41を備えている。この支持ブロック41の下面には、前述したテーパ面31b,32bを押圧するテーパ面41a,41bが形成されている。支持ブロック41の中央部には、貫通孔42が設けられ、パンチ43が往復動自在に支持されている。なお、パンチ43は付勢部材44により上方に付勢されている。
【0022】
なお、上述したテーパ面31b,32bとテーパ面41a,41bとにより、下方への押圧力を左型31及び右型32を閉じる方向への押圧力に変換する圧力方向変換伝達部が形成されている。
【0023】
加圧機構50は、支持ブロック41を介して左型31及び右型32が開くことを防止する固定加圧機構51と、この固定加圧機構51の中央に設けられ、パンチ43を下方に押圧するための押圧機構52とを備えている。なお、支持ブロック41と固定加圧機構51とは、ボルト等により一体化されている。
【0024】
このように構成されたプレス加工装置20では、次のようにして中空ラックバー10に平坦部11aを形成する。すなわち、凹部31a,32aに加工前の軸部11を挿入する。次に、プレス機構40を下降させ、支持ブロック41のテーパ面41a,41bを左型31及び右型32のテーパ面31b,32bにそれぞれ押し当てる。これにより、左型31及び右型32が閉じ、軸部11が位置決めされる。
【0025】
次に、所定の圧力で固定加圧機構51及び支持ブロック41を下降し、下方に押圧する。これにより、左型31及び右型32は強い力でチャックされる。
【0026】
そして、押圧機構52を所定の圧力で下降させ、パンチ43を軸部11に押圧する。この動作を繰り返し、平坦部11aを形成し、所定の形状に達したところで加圧機構50を上方に移動し、押圧力を解除する。続いて、プレス機構40を上方に移動する。最後にイジェクトピン33を上方に押し上げることにより、左型31及び右型32を分離し、凹部31a,32aの形状が転写されるとともに、平坦部11aが形成された軸部11を取り出す。
【0027】
プレス加工装置20では、パンチ43が上方から加工力を与えるのに対し、左右に開く左型31及び右型32を用いているので、加工力は左型31及び右型32が開く方向に働くことになり、左型31及び右型32が破壊されることがない。したがって、割れや変形が発生しにくく、型寿命を向上させることができる。
【0028】
また、左型31及び右型32をプレス機構40の支持ブロック41を用いて上方から押圧することにより、左型31及び右型32が移動することがなく、加工精度を向上させることが可能となる。特に、テーパ面31b,32bの下端が凹部31a,32aの底部の下端の位置まで設けられているので、平面部11bの形状を精度よく形成することができる。
【0029】
図4は、平坦部11aに歯部12を形成する工程を示す断面図である。図4に示すように、軸部11を下型60に載置し、上型70を軸部11に被せる。下型60及び上型70は、内面形状がラックバーの完成品の外形形状と一致している。このとき、軸部11の左右には、平面部11bが形成されているので、上型70と下型60の隙間に軸部11の外周部を挟むことがない。次に、上型70側に歯部形成型71をセットする。軸部11の中空部にマンドレルを往復動させることで平坦部11aの内部からしごき加工を行い、平坦部11aに凸部を隆起させ、歯部形成型71に倣った歯部12を形成する。
【0030】
歯部12が形成された後、焼入れ・焼戻し等の熱処理を行う。熱処理を行う際、図5に示すように、上下左右から治具80を当接させて拘束を行う。このとき、左右に平面部11cが形成されているので、治具80と面接触することにより、高精度に位置決めすることが可能となる。なお、治具80との接触する直線部分は少なくとも0.3mm以上あれば良い。
【0031】
上述したように、中空ラックバー10では、平面部11bが形成されていることにより、歯部形成工程における型への挿入性や熱処理時のチャックの精度を向上させることが可能となる。また、プレス加工装置20によれば、軸部11に平坦部11aを形成するためにパンチ43で押し付けた場合であっても、異形に変形したり、型が割れる等の不具合を防止することが可能となる。
【0032】
このような中空ラックバー10は、図6に示すラック&ピニオンギア300に用いられる。ラック&ピニオンギア300は、ケーシング301と、このケーシング301に軸受302を介して回転自在に取り付けられたピニオンギア303と、このピニオンギア303に対して直交する方向に移動自在に設けられた中空ラックバー10と、この中空ラックバー304の外壁面(角度範囲M)を摺動自在に支持するラックガイド305と、このラックガイド305をピニオンギア303側に押圧するスプリング306とを備えている。
【0033】
前述した平面部11bは、ラックガイド305と平面接触する部分が形成されることになるため、ラックガイド305で押さえることができる。
【0034】
なお、平面部11bの長さは、0.3mm以上10mm以下に形成されていることが好ましい。また、軸部11の直径δを基準にした場合、ラックガイド305に摺動される範囲をα°、平面部11bの長さをL、軸部11の直径をδ、平坦部11aに対向し、かつ、一対の平面部11bに挟まれ、ラックガイド305に摺動される範囲をα°としたとき、L≦δ×sin[(180°−α°)/2]の条件を満たすことが好ましい(図2参照)。
【0035】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
10…中空ラックバー、11…軸部、11a…平坦部(第1直線部分)、11b…平面部(第2直線部分)、11c…範囲、12…歯部、20…プレス加工装置、30…左右型、31b,32b…テーパ面、40…プレス機構、41…支持ブロック、41a,41b…テーパ面、43…パンチ、50…加圧機構、50…加圧機構、51…固定加圧機構、52…押圧機構、60…下型、70…上型、80…治具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギアに噛み合わされる歯部を軸部に有するラックバーにおいて、
前記歯部の軸方向に直交する断面の外周が、前記歯部が形成される第1直線部分と、
この直線部分の中央の角度位置を0°として、90°及び270°の角度位置を含む範囲に形成された一対の第2直線部分とを備えていることを特徴とするラックバー。
【請求項2】
前記一対の第2直線部分は、それぞれ0.3mm以上10mm以下に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のラックバー。
【請求項3】
前記一対の第2直線部分の長さをLとした場合、前記軸部の直径をδ、前記第1直線部分に対向し、かつ、前記一対の第2直線部分に挟まれ、ラックガイドに摺動される範囲をα°としたとき、L≦δ×sin[(180°−α°)/2]の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載のラックバー。
【請求項4】
ピニオンギアに噛み合わされる歯部を軸部に有する中空ラックバーに、前記歯部が形成される平坦部を形成するプレス加工装置において、
水平方向に開くとともに、前記中空鋼管が挟持される左右型と、
前記左右型の上部に配置され、上方からの押圧力を前記左右型を閉める方向への押圧力に変換する圧力方向変換伝達部と、
前記左右型に挟持された前記中空ラックバーの上部に前記平坦部を形成するパンチと、
前記パンチを上下動させる押圧機構と、
この押圧機構と独立して上下動し、前記圧力方向変換伝達部を下方に押圧する固定加圧機構とを備えていることを特徴とするプレス加工装置。
【請求項5】
中空鋼管の長さの一部分を押圧して外面円周の一部を平坦部とし、
前記中空鋼管を歯部形成型を内面に有する型内に収容して歯部形成型を平坦部に接触させ、
マンドレルを中空鋼管の内部に押込むことにより平坦部にされた部分の内面を順次しごき加工をして前記歯部形成型に従って歯部を形成する中空ラックバーの製造方法において、
前記中空鋼管の前記歯部の軸方向に直交する断面の外周が、前記歯部が形成される第1直線部分を有する平坦部と、
この直線部分の中央の角度位置を0°として、90°及び270°の角度位置を含む範囲に形成された第2直線部分を有する平面部とを備えていることを特徴とする中空ラックバーの製造方法。
【請求項6】
ピニオンギアに噛み合わされる歯部を軸部に有する中空鋼管に、前記歯部が形成される平坦部を形成する中空ラックバーの製造方法において、
左右型によって水平方向から前記中空鋼管を挟持し、
前記左右型の上方からの押圧力を前記左右型を閉める方向への押圧力に変換し、
前記左右型に挟持された前記中空鋼管の上部に前記平坦部を形成することを特徴とする中空ラックバーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−82008(P2013−82008A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257715(P2012−257715)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2008−112937(P2008−112937)の分割
【原出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】