説明

プロセスモニタ装置及び成膜装置、並びにプロセスモニタ方法

【課題】成膜装置の状態を個別に認識した上で、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能なプロセスモニタ装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るプロセスモニタ装置1は、バルブにより仕切られたチャンバを有する成膜装置50に接続して使用され、前記成膜装置に接続されたガス分析手段30を制御するコンピュータ10には、予め、プロセスガス中の特定ガスの分圧について、バルブが開いた第一状態における警告閾値と、バルブが閉じた第二状態における異常閾値とが、それぞれ設定されており、前記コンピュータは、前記ガス分析手段により検出された特定ガスの分圧を監視し、該分圧が、信号送信手段20により送信された前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置に送信すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスモニタ装置及び成膜装置、並びにプロセスモニタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の成膜チャンバと各成膜チャンバ間に仕切りバルブを連続的または非連続的に持つ成膜装置において、成膜チャンバに装着したガス分析計/プロセスモニタによるリアルタイムな分圧測定とその測定値管理は、成膜装置を用いて生産されるフラットパネルディスプレイ(FPD)・半導体デバイスの品質維持・管理において、重要な要因の一つである。
【0003】
フラットパネルディスプレイ・半導体デバイスを生産する成膜装置において、ガス分析計/プロセスモニタの適切な運用を行うためには、ガス分析計/プロセスモニタの使用可能・使用不可能状態や、分圧測定値の管理などの運用状況を相互で確立するための、成膜装置とのインターフェイスを考慮する必要がある。一般には、ガス分析計/プロセスモニタの分圧測定値や、任意に決めた1つの閾値に対する上方・下方への遷移の記録を、同装置よりみて上位として扱われる成膜装置や工場管理ホストシステムに、シリアル信号通信やパラレル信号通信を用いて伝達している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来の成膜装置においては、成膜工程を行うプロセス状態と、成膜工程を行う前の準備段階であるアイドル状態とが、連続的に変動する装置状態の遷移に対して、自動的かつ従属的に閾値が変更されることは行われないため、装置の状態がアイドル状態かプロセス状態かを個別に認識した上で、閾値に対して、分圧測定値が上回っているか、下回っているかを識別することは出来ない。
【0005】
成膜装置が、生産稼動中における既設の状態においては、成膜装置を制御するソフトウェアの改変が必要となる場合があり、少なくともソフトウェア改変に関しては、所要する改造工事期間による生産稼動停止や、新たな改造費用が発生することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−537603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、成膜装置を制御するソフトウェアの改変等を必要とせず既存の装置を使用することができ、成膜装置の状態を個別に認識した上で、それぞれの状態について、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能であり、成膜工程の最適化や、成膜装置の状態監視モニタとして有用なプロセスモニタ装置を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、チャンバのそれぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができ、成膜工程を最適化することができ、装置の稼働率や生産性を向上させることが可能な成膜装置を提供することを第二の目的とする。
また、本発明は、成膜装置を制御するソフトウェアの改変等を必要とせず、成膜装置の状態を個別に認識した上で、それぞれの状態について、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能であり、成膜工程の最適化や、成膜装置の状態監視として有用なプロセスモニタ方法を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載のプロセスモニタ装置は、バルブにより仕切られたチャンバを有する成膜装置に接続して使用されるプロセスモニタ装置であって、前記成膜装置に接続されたガス分析手段を制御するコンピュータと、前記チャンバの状態について、前記バルブが開いた第一状態であるか、バルブが閉じた第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータに送信する信号送信手段と、前記チャンバに接続され、該チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するガス分析手段と、を備え、前記コンピュータには、予め、前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値と、前記第二状態における異常閾値とが、それぞれ設定されており、前記コンピュータは、前記ガス分析手段により検出された特定ガスの分圧を監視し、該分圧が、前記信号送信手段により送信された前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置に送信すること、を特徴とする。
本発明の請求項2に記載の成膜装置は、請求項1に記載のプロセスモニタ装置を備えたこと、を特徴とする。
本発明の請求項3に記載のプロセスモニタ方法は、バルブにより仕切られたチャンバを有する成膜装置に接続して使用され、前記成膜装置に接続されたガス分析手段を制御するコンピュータと、前記チャンバの状態について、前記バルブが開いた第一状態であるか、バルブが閉じた第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータに送信する信号送信手段と、前記チャンバに接続され、該チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するガス分析手段と、を備えたプロセスモニタ装置を用いたプロセスモニタ方法であって、予め、前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値、前記第二状態における異常閾値を、それぞれ設定するステップと、前記チャンバの状態について、前記第一状態であるか、前記第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータに送信するステップと、前記チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するステップと、前記特定ガスの分圧が、前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置に送信するステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプロセスモニタ装置では、これが接続された成膜装置を構成するチャンバの状態について、バルブが開いた第一状態であるか、バルブが閉じた第二状態であるかを示す状態信号を信号送信手段を介してプロセスモニタ制御用のコンピュータに送信するとともに、前記コンピュータには、予め、前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値と、前記第二状態における異常閾値とが、それぞれ設定されている。そして、前記コンピュータは、前記ガス分析手段により検出された特定ガスの分圧が、前記信号送信手段により送信された前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置に送信している。
これにより、成膜装置のチャンバの状態を個別に認識した上で、その状態に応じて、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能となる。その結果、本発明のプロセスモニタ装置では、成膜装置のそれぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるようになり、成膜工程の最適化や、成膜装置の状態監視モニターとして有用となる。また、本発明によれば、成膜装置を制御するソフトウェアの改変等を必要とせず既存の装置を使用することができる。
【0010】
また、本発明の成膜装置は、チャンバの状態を個別に認識した上で、それぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるプロセスモニタ装置を備えているので、成膜工程を最適化することができ、装置の稼働率や生産性を向上させることが可能な成膜装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明のプロセスモニタ方法では、特定ガスの分圧について、バルブが開いた第一状態における警告閾値と、バルブが閉じた第二状態における異常閾値とを、それぞれ設定しておき、チャンバの状態について、第一状態であるか第二状態であるかを示す状態信号をプロセスモニタ制御用のコンピュータに送信している。そして、前記チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出し、該特定ガスの分圧が、前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を送信している。
これにより、成膜装置のチャンバの状態を個別に認識した上で、その状態に応じて、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能となる。その結果、本発明のプロセスモニタ方法では、成膜装置のそれぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるようになり、成膜工程の最適化や、成膜装置の状態監視として有用となる。また、本発明によれば、成膜装置を制御するソフトウェアの改変等が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のプロセスモニタ装置の概要を模式的に示す図である。
【図2】四重極型質量分析計の内部構造を示す図である。
【図3】プロセスモニタの手順を示すフローチャートである。
【図4】成膜装置において想定される代表的な動作遷移、特定ガスの分圧の状態と、警告信号又は異常信号の発信状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るプロセスモニタ装置及び成膜装置、並びにプロセスモニタ方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明のプロセスモニタ装置の概要を模式的に示す図である。
本発明のプロセスモニタ装置1は、バルブ(図1の「仕切りバルブ」を指す)により仕切られたチャンバ(図1の「成膜チャンバ」を指す)を有する成膜装置50に接続して使用されるプロセスモニタ装置であって、前記成膜装置50のプロセスモニタを制御するコンピュータ(図1の「専用PC」を指す)10と、前記チャンバの状態について、前記バルブが開いたアイドル状態(第一状態)であるか、バルブが閉じたプロセス状態(第二状態)であるかを示す状態信号を前記コンピュータ10に送信する信号送信手段(図1の「成膜装置PLC」を指す)20と、前記チャンバに接続され、該チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するガス分析手段(図1の「ガス分析計/プロセスモニタ」を指す)30と、を備える。
【0015】
そして本発明のプロセスモニタ装置1は、前記コンピュータ10には、予め、前記特定ガスの分圧について、前記アイドル状態(第一状態)における警告閾値と、前記プロセス状態(第二状態)における異常閾値とが、それぞれ設定されており、前記コンピュータ10は、前記ガス分析手段30により検出された特定ガスの分圧を監視し、該分圧が、前記信号送信手段20により送信された前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置50に送信すること、を特徴とする。
【0016】
従来のプロセスモニタ装置のソフトウェアにおいては、成膜装置の運転状況が、仕切りバルブを開けた成膜工程を行う前の準備段階であるアイドル状態(第一状態)と、仕切りバルブを閉じた成膜工程を行うプロセス状態(第二状態)と、の如何にかかわらず、予め規定された1つの閾値に対して、測定中の特定ガスの分圧値が上回っているか、下回っているかの判断を行っていた。そのため、プロセス状態/アイドル状態が連続的に遷移する成膜装置において、変動する成膜チャンバ内の分圧遷移に対しての、一意的な閾値判定しか出来なかった。
【0017】
この問題を解決するために、本発明では、成膜装置50の運転状況についてプロセス状態/アイドル状態を判定するための情報として、チャンバに装着されている仕切りバルブの開閉状態情報を予め受信することにより、閾値判定基準を仕切りバルブの開状態(アイドル状態)と閉状態(プロセス状態)とでそれぞれもつこととした。
【0018】
すなわち、本発明のプロセスモニタ装置1では、チャンバの状態について、バルブが開いたアイドル状態(第一状態)であるか、バルブが閉じたプロセス状態(第二状態)であるかを示す状態信号をコンピュータ10に送信するとともに、コンピュータ10には、予め、前記特定ガスの分圧について、前記アイドル状態における警告閾値と、前記プロセス状態における異常閾値とが、それぞれ設定されている。そして、前記コンピュータ10は、前記ガス分析手段30により検出された特定ガスの分圧が、前記信号送信手段20により送信された前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置50に送信している。
【0019】
これにより、成膜装置50のチャンバの状態を個別に認識した上で、その状態に応じて、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能となる。その結果、本発明のプロセスモニタ装置1では、成膜装置50のそれぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるようになり、成膜工程の最適化や、成膜装置50の状態監視モニターとして有用となる。また、本発明によれば、ソフトウェアの改変等を必要とせず既存の装置を使用することができる。
【0020】
そして、このような本発明のプロセスモニタ装置1を備えた成膜装置50は、チャンバの状態を個別に認識した上で、それぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるので、成膜工程を最適化することができ、装置の稼働率や生産性を向上させることが可能となる。
【0021】
図1に示すように、成膜装置50は、例えば、最初に基板を搬入し減圧雰囲気下とする仕込み(L:Lord)室(ロードロック室)51が配置されている。なお、仕込み室51の後段に、プロセスに応じて、基板温度を一定温度まで加熱する加熱チャンバを設けても良い。仕込み室に引き続き、第一チャンバ(成膜チャンバ(1):成膜反応室)52、第二チャンバ(成膜チャンバ(2):成膜反応室)53が配置して構成されている。また最後に、減圧状態を大気雰囲気に戻し基板を搬出する取出(UL:Unlord)室(図示略)が配されていてもよい。
これら仕込み室51、第一チャンバ52、第二チャンバ53、取り出し室は、仕切りバルブV,V…によりそれぞれ仕切られている。
【0022】
なお、ここでは、2つのチャンバ(成膜反応室)を備えた場合を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、該成膜装置50により製造されるものに応じて、チャンバを1つのみ備えていてもよいし、3つ以上のチャンバを備えていてもよい。
また、ここでは、仕込み室51、第一チャンバ52、第二チャンバ53、取出室が連続して直線状に配された場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各室が連続していなくてもよいし、直線状に配されていなくてもよい。
【0023】
本発明のプロセスモニタ装置1は、このような成膜装置50に接続して用いられる。なお、ここでは、成膜装置50の第一チャンバ52における、プロセスガス中の特定ガス分圧を計測、プロセスモニタする場合を例に挙げて説明するが、第二チャンバ(成膜反応室)53についても同様であるため、説明は省略する。
【0024】
コンピュータ10は、前記成膜装置50のプロセス状態を監視する。
信号送信手段20は、前記第一チャンバ52の状態について、前記仕切りバルブV,Vが開いた第一状態であるか、仕切りバルブV,Vが閉じた第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータ10に送信する。
信号送信手段20として、プロセスモニタ装置1のソフトウェアを起動しているコンピュータ10において、成膜装置50の制御機器の一つであるプログラマブルロジックコントローラ(PLC)又は成膜装置50の各チャンバ間に装着された仕切りバルブV,V本体、並びに、仕切りバルブV,V本体に付属される出力接点信号より、仕切りバルブV,Vの開閉状態の情報をコンピュータ10に送信する。
【0025】
ガス分析手段30は、前記チャンバ(ここでは第一チャンバ52)に接続され、該チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出する。
このガス分析手段30としては、例えば、被測定ガスの質量電荷比ごとのイオン電流値を検出して分圧を測定する四重極型質量分析計が用いられる。
【0026】
図2は、四重極型質量分析計の内部構造を示す図である。図2に示すように、四重極型質量分析計は有底の金属製の容器31を有している。この容器31は一方が開口された円筒形状からなり、内部に質量検出部32が配置され、前記開口側31aが成膜装置のチャンバに取り付けられるようになっている。
【0027】
まず、質量検出部32を説明すると、該質量検出部32は、取付筒33と、イオン化装置34と、四重極部35と、コレクタ電極36とを有している。
取付筒33は絶縁物が円筒形状に成形されて構成されており、その二個の開口のうち一方は容器31の開口31a側に向けられ、他方はコレクタ電極36に向けられている。
【0028】
四重極部35は金属製円柱から成る四本の電極で構成されており、取付筒33の内部に配置されている(図では二本が見える)。また、四重極部35を構成する四本の電極は、それぞれ取付筒33の中心軸線に沿った方向に向けられており、互いに所定間隔を開けて取付筒33内部の壁面にネジ止め固定されている。
イオン化装置34は熱フィラメントであり、取付筒33の開口付近であって、その開口と、容器31の開口31aとの間の位置に配置されている。また、イオン化装置34と四重極部35の間には、スリット37が配置されている。
【0029】
チャンバの内部に存する気体は、容器31の開口31aを通って容器31の内部に進入するため、容器31内部の雰囲気は、チャンバの内部の雰囲気と同じになっている。従って、イオン化装置34周囲の雰囲気は、チャンバの内部の雰囲気と同じ組成、及び同じ圧力になっている。
そして、イオン化装置34に通電し、イオン化装置34から熱電子を放出させると、その熱電子がイオン化装置34周囲に存する気体分子に衝突し、イオンが生成される。
【0030】
スリット37は、小孔37aを有しており、その小孔37aは、四重極部35を構成する四本の電極の間に位置している。
イオン化装置34によって生成されたイオンは、スリット37の小孔37aを通過して四重極部35の内部に進入する。
【0031】
四重極部35を構成する各電極には、直流バイアス電圧に所定周波数の交流電圧が重畳された電圧が印加されており、四重極部35の内部に進入したイオンは、直流バイアス電圧の大きさと、交流電圧の大きさと、その周波数に応じた質量電荷比を有するものだけが、四重極部35の間を通過するようになっている。従って、それらの大きさを変化させると、所望の質量電荷比のイオンだけを通過させることができる。
取付筒33とコレクタ電極36との間にはスリット38が配置されている。
したがって、四重極部35の内部を通過したイオンはスリット38の小孔38aに向かって飛行し、小孔38aを通過してコレクタ電極36に入射する。
【0032】
コレクタ電極36にイオンが入射するとイオン電流が生成され、イオン電流が演算部39で検出される。また、そのときの質量電荷比とそれに応じたイオン電流の大きさが検出される。イオン電流の値は、入射イオンの量に比例するため、イオン電流の大きさからその質量電荷比を有するイオンの量が分かり、その結果、チャンバ内の各気体の分圧等が認識可能となる。
【0033】
次に、このようなプロセスモニタ装置1を用いた、プロセスモニタ方法について説明する。
本発明のプロセスモニタ方法は、予め、前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値、前記第二状態における異常閾値を、それぞれ設定するステップと、前記チャンバの状態について、前記第一状態であるか、前記第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータ10に送信するステップと、前記チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するステップと、前記特定ガスの分圧が、前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置50に送信するステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【0034】
本発明のプロセスモニタ方法では、予め前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値、前記第二状態における異常閾値を、それぞれ設定しておき、チャンバの状態について、第一状態であるか第二状態であるかを示す状態信号をコンピュータ10に送信している。そして、前記チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出し、該特定ガスの分圧が、前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を送信している。
【0035】
これにより、成膜装置50のチャンバの状態を個別に認識した上で、その状態に応じて、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能となる。その結果、本発明のプロセスモニタ方法では、成膜装置50のそれぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるようになり、成膜工程の最適化や、成膜装置50の状態監視として有用となる。また、本発明によれば、成膜装置を制御するソフトウェアの改変等が不要となる。
以下、ステップ順に説明する。
【0036】
(1)予め、前記特定ガスの分圧について、アイドル状態(第一状態)においては警告閾値を、プロセス状態(第二状態)においては異常閾値を、それぞれ設定する。
特に、本実施形態では、アイドル状態において2点の警告閾値(第一警告閾値(値A)、第二警告閾値(B値))を、プロセス状態において2点の異常閾値(第一異常閾値(値C)、第二異常閾値(値D))を、それぞれ設定しているが、これに限定されるものではない。
【0037】
プロセスモニタ装置1の成膜装置を制御するソフトウェアにおいて、測定質量数、異常閾値、警告閾値を設定入力する。アイドル状態において警告閾値、プロセス状態において異常閾値をそれぞれ2点ずつ設定入力する。その一例を、表1に示す。
特定ガスの分圧が、これらの異常閾値、警告閾値を超えた時の状態を、それぞれ、分圧異常(アラーム)発生、分圧警告(ワーニング)発生とする。
【0038】
【表1】

【0039】
(2)前記チャンバの状態について、アイドル状態(第一状態)であるか、プロセス状態(第二状態)であるかを示す状態信号を前記コンピュータ10に送信する。
プロセスモニタ装置1の成膜装置を制御するソフトウェアを起動しているコンピュータ10において、成膜装置50の制御機器の一つであるプログラマブルロジックコントローラ(PLC)又は成膜装置50の各チャンバ間に装着された仕切りバルブ本体、並びに、仕切りバルブ本体に付属される出力接点信号より、仕切りバルブの開閉状態の情報をコンピュータ10に送信し、コンピュータ10は該信号を受信する。
一般的に、仕切りバルブが閉状態はプロセス状態であり、仕切りバルブが開状態はアイドル状態である。
【0040】
(3)前記チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出する。
四重極型質量分析計(ガス分析手段30)は、四重極に直流バイアスと交流バイアスを印加し、イオン化装置で被測定ガスをイオン化させ、所定の質量電荷比に対応するイオン電流を測定することで、ガス種ごとの分圧を得る。
【0041】
(4)前記特定ガスの分圧が、前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置50に送信する。
アイドル状態においては、上記(1)で設定した2点の警告閾値[第一警告閾値(値A)、第二警告閾値(値B)]を監視して、測定された特定ガスの分圧値がそれらの閾値を上回ったら、分圧警告発生の信号[第一警告信号又は第二警告信号]を成膜装置50に対して送信する。
プロセス状態においては、上記(1)で設定した2点の異常閾値[第一異常閾値(値C)、第二異常閾値(値D)]を監視して、測定された特定ガスの分圧値がそれらの閾値を上回ったら、分圧異常発生の信号[第一異常信号又は第二異常信号]を成膜装置50に対して送信する。
成膜装置50を運用する作業者は、プロセスモニタから発報された信号[警告信号又は異常信号]を判断して、成膜装置50の運転状態に対して、成膜工程中止、成膜工程一時停止などの入力を行い、成膜装置50の運転を管理する。
【0042】
また、図3は、プロセスモニタ装置1及び成膜装置50における、プロセスモニタの具体的な手順を示すフローチャートである。
以下、このフローチャートを参照しながら、プロセスモニタの具体的な手順について説明する。
まず、成膜装置50は、プロセスモニタの使用可能状態を、プロセスモニタ装置1に対して送信する(S1)。
プロセスモニタ装置1において、ガス分析手段30は特定ガスの分圧測定を開始する。また、測定開始とほぼ同時に分圧測定値をコンピュータ10に送信する(S2)。また、成膜装置50は、分圧測定値を受信する(S3)。
【0043】
成膜装置50は、仕切りバルブが開状態(すなわち、成膜装置50がアイドル状態)であることを示す信号をプロセスモニタに送信する(S4)。
そしてプロセスモニタ装置1は、分圧測定値と警告閾値とを比較する(S5)。すなわち、「警告閾値[第一警告閾値又は第二警告閾値]<測定値」であるか否かを判断する(S6)。
Yes(警告閾値<測定値)の場合、プロセスモニタ装置1は成膜装置50に分圧警告信号[第一警告信号又は第二警告信号]を送信する(S7)。測定は継続する。
その際、成膜装置50はアイドル状態である(S8)。
【0044】
成膜装置50において、アイドル状態からプロセス状態へ移行するため、仕切りバルブが閉状態となる(S9)。
そして、成膜装置50は、仕切りバルブが閉状態(すなわち、成膜装置50がプロセス状態)であることを示す信号をプロセスモニタ装置1のコンピュータ10に送信する(S10)。
プロセスモニタ装置1において、コンピュータ10は分圧測定値と異常閾値とを比較する(S5)。すなわち、異常閾値(第一異常閾値又は第二異常閾値)<測定値であるかを判断する(S12)。
Yes(異常閾値<測定値)の場合、コンピュータ10は成膜装置50に分圧異常信号[第一異常信号又は第二異常信号]を送信する(S13)。測定は継続する。
その際、成膜装置50はプロセス状態である(S14)。
【0045】
図4は、成膜装置50において想定される代表的な動作遷移、特定ガスの分圧の状態と、警告信号又は異常信号の発信状況を示した図である。なお、図4中、黒丸(●)は警告信号又は異常信号の発令有りを示し、白丸(○)は警告信号又は異常信号の発令無しを示している。
図4中(a)〜(g)におけるそれぞれの状態について説明する。
【0046】
(a)は、仕切りバルブが開状態であり、成膜装置50がアイドル状態である。
チャンバは、到達圧力状態であり、測定中のガス分圧は、警告閾値より下回った状態となっており、警告信号または異常信号のいずれの発令もない。
【0047】
(b)は、仕切りバルブが開状態であり、成膜装置50がアイドル状態である。
所定外のリーク発生による圧力上昇や、マスフローコントローラによる所定ガス導入時において、オーバーシュートの発生により、一時的な想定以上の圧力上昇が発生した状態である。
ガス分圧が、第一警告閾値(値A)及び第二警告閾値(値B)のいずれをも上回っており、第一警告信号及び第二警告信号の双方が発令されている。
【0048】
(c)は、仕切りバルブが開状態であり、成膜装置50がアイドル状態である。
前記圧力上昇状態が緩和されたものの、(a)の到達圧力よりは高い圧力状態である。
ガス分圧は第二警告閾値(値B)は下回ったが、第一警告閾値(値A)は上回っており、第一警告信号のみが発令されている。
【0049】
(d)は、仕切りバルブが開状態から閉状態となり、成膜装置50はアイドル状態からプロセス状態に遷移する。
【0050】
(e)は、仕切りバルブが閉状態であり、成膜装置50がプロセス状態である。
仕切りバルブが閉状態となり、成膜装置50はガスを導入するプロセス状態の前状態においても、到達圧力は前記(a)の状態と比べて高くなる。
ガス分圧は、第一異常閾値(値C)および第二異常閾値(値D)より下回った状態となっており、第一異常信号または第二異常信号のいずれの発令もない。
【0051】
(f)は、仕切りバルブが閉状態であり、成膜装置50がプロセス状態である。
プロセス開始直後の放電時放出ガス増大による圧力上昇や、マスフローコントラーラによる所定ガス導入時において、オーバーシュートの発生により、一時的な想定以上の圧力上昇が発生した状態である。
ガス分圧が、第一異常閾値(値C)及び第二異常閾値(値D)のいずれをも上回っており、第一異常信号及び第二異常信号の双方が発令されている。
【0052】
(g)は、仕切りバルブが閉状態であり、成膜装置50がプロセス状態である。
前記圧力上昇状態が緩和されたものの、(e)の到達圧力よりは高い圧力状態である。
ガス分圧は第二異常閾値(値D)は下回ったが、第一異常閾値(値C)は上回っており、第一異常信号のみが発令されている。
【0053】
このように、本発明によれば、閾値判定基準を仕切りバルブの開状態(アイドル状態)と閉状態(プロセス状態)とでそれぞれ設定しておくとともに、仕切りバルブの開閉状態、ひいてはチャンバの状態を示す信号をプロセスモニタ制御用のコンピュータに前もって送信することで、成膜装置のチャンバの状態がアイドル状態であるか、プロセス状態であるかを個別に認識した上で、その状態に応じて、プロセスガス中の特定ガスの分圧について測定値が閾値を上回っているか下回っているかを個別に認識することが可能となる。その結果、本発明では、成膜装置のそれぞれの状態における適切なガス分圧状態を管理することができるようになり、成膜工程の最適化や、成膜装置の状態監視モニターとして有用となる。また、本発明によれば、成膜装置を制御するソフトウェアの改変等を必要とせず既存の装置を使用することができる。
【0054】
以上、本発明のプロセスモニタ装置及び成膜装置、並びにプロセスモニタ方法について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、プロセスモニタ装置及び成膜装置、並びにプロセスモニタ方法について、広く適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 プロセスモニタ装置、10 コンピュータ、20 信号送信手段、30 ガス分析手段、50 成膜装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブにより仕切られたチャンバを有する成膜装置に接続して使用されるプロセスモニタ装置であって、
前記成膜装置に接続されたガス分析手段を制御するコンピュータと、
前記チャンバの状態について、前記バルブが開いた第一状態であるか、バルブが閉じた第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータに送信する信号送信手段と、
前記チャンバに接続され、該チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するガス分析手段と、を備え、
前記コンピュータには、予め、前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値と、前記第二状態における異常閾値とが、それぞれ設定されており、
前記コンピュータは、前記ガス分析手段により検出された特定ガスの分圧を監視し、該分圧が、前記信号送信手段により送信された前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置に送信すること、を特徴とするプロセスモニタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプロセスモニタ装置を備えたこと、を特徴とする成膜装置。
【請求項3】
バルブにより仕切られたチャンバを有する成膜装置に接続して使用され、
前記成膜装置に接続されたガス分析手段を制御するコンピュータと、
前記チャンバの状態について、前記バルブが開いた第一状態であるか、バルブが閉じた第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータに送信する信号送信手段と、
前記チャンバに接続され、該チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するガス分析手段と、を備えたプロセスモニタ装置を用いたプロセスモニタ方法であって、
予め、前記特定ガスの分圧について、前記第一状態における警告閾値、前記第二状態における異常閾値を、それぞれ設定するステップと、
前記チャンバの状態について、前記第一状態であるか、前記第二状態であるかを示す状態信号を前記コンピュータに送信するステップと、
前記チャンバ内のプロセスガス中の特定ガスの分圧を検出するステップと、
前記特定ガスの分圧が、前記チャンバの状態に応じた警告閾値又は異常閾値を超えた場合に、警告信号又は異常信号を前記成膜装置に送信するステップと、
を少なくとも有することを特徴とするプロセスモニタ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−40559(P2011−40559A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186470(P2009−186470)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】