説明

ベイジアンネットワークを用いた事故警告通知システム

【課題】ベイジアンネットワークを用いる事により、過去の事故データからより正確な事故確率を算出し、事故要因の複雑性に関する問題点を解消する。
【解決手段】交通管理センターは、過去の事故データを保持するデータ部を有し、ベイジアンネットワークシステムはある危険場所における過去の事故データとその場所を通過する各車両の走行データを元にして、その事故発生に対する事故要因ごとの確率テーブルを作成するベイジアンネットワーク形成部と、走行中の車両が、その危険場所に接近した際に、その車両の情報と各種道路の状態に関する情報を取得し、前記ベイジアンネットワーク形成部において形成された確率テーブルとの比較により、その車両が直面している事故確率を算出するベイジアンネットワーク演算部とを有し、ドライバーI/F部は、各事故要因に関する車両情報の取得と、運転者に対する事故警告の通知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が運転する車両が、交通事故が多発している危険場所に接近した場合、その運転者に対して、警告を通知する事故警告通知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
事故警告通知システムとして過去の事故データから抽出した一般的な事故データと運転者が運転する車両に関する情報から、予測される事故を推定し、その推定される事故を未然に防ぐ目的で、警告情報を運転者に提示する方法がある。
【0003】
また、予め個々の道路ごとに事故データを取得しておき、次に、実際に運転者がある事故多発地点に接近すると、その位置情報をVICSシステム(GPS等)が認識し、その位置における事故データと運転者が運転する車両データとの比較から適切と思われる警告メッセージを運転者に対して提示する方法がある。
【0004】
さらには事故要因を複数のパラメータとして設定し、その和として事故発生に対する危険値を算出、評価する方法がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−120478号公報
【特許文献2】特開2003−14474号公報
【特許文献3】特開平11−306458号公報
【特許文献4】特開2006−330833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した車両が過去に交通事故があった場所に近づいた際に過去の事故データと車両の現在状況との比較における共通点を比較し、そこに共通点が存在するか否かにより、警告メッセージを発する方法にあっては、個々の道路状況に応じた警告情報を運転者に対して提示することができない。
【0007】
また、予め個々の道路ごとに事故データを取得しておき、次に、実際に運転者がある事故多発地点に接近すると、その位置情報をVICSシステム(GPS等)が認識し、その位置における事故データと運転者が運転する車両データとの比較から適切と思われる警告メッセージを運転者に対して提示する方法や上記事故データと運転者が運転する車両データとの比較において、単純に過去の事故データと車両の現在状況との比較における共通点を比較し、そこに共通点が存在するか否かにより、警告メッセージを出力させる方法にあっては、事故要因が複数絡まりあった状態(複雑系)において、その真の要因を的確に指摘することができない。
【0008】
さらに事故要因を複数のパラメータとして設定し、その和として事故発生に対する危険値を算出、評価する方法にあっては、基本的に各事故要因は確率的な意味において独立しており、正しく、事故に対する危険度を表しているとは言えない。例えば、雨でスピード超過という複数の事故要因が併発した場合、その危険度というのは、単純な各事故要因に関する危険度の足し合わせ(線形)ではなく、複数の要因が重なりあった場合の事故発生確率(非線形)、つまり、例えば、雨でスピード超過という条件での事故発生確率に従って考えないと、その真の危険性を表すことはできないはずである。つまり、従来の技術では、各事故要因が複数絡まりあった際に、その危険度が的確に算出されておらず、従って、事故の危険性についても的確に指示できているとはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、自己警告通知システムにベイジアンネットワークを用い、複数の事故要因が絡まりあった複雑系において、過去の事故データからより正確な事故確率を算出し、事故要因の複雑性に関する問題点を解消するものであり、事故データを管理する交通管理センターと、車両情報取得部、警告通知部からなるドライバーI/F部と、ベイジアンネットワークシステムからなる事故警告通知システムとから構成され、
前記交通管理センターは警察等、過去の事故データを保持するデータ部を有し、ベイジアンネットワークシステムはある危険場所における過去の事故データとその場所を通過する各車両の走行データを元にして、その事故発生に対する事故要因ごとの確率テーブルを作成するベイジアンネットワーク形成部と、走行中の車両が、その危険場所に接近した際に、その車両の情報と各種道路の状態に関する情報を取得し、前記ベイジアンネットワーク形成部において形成された確率テーブルとの比較により、その車両が直面している事故確率を算出するベイジアンネットワーク演算部とを有し、
前記ドライバーI/F部は、各事故要因に関する車両情報の取得と、運転者に対する事故警告の通知を行う部位から構成され、前記データ部の過去の事故データから、実際の事故の発生確率を算出し、複数の事故要因が絡み合う場合においても、前記ベイジアンネットワークシステムにて、その事故発生確率をより的確に算出し、その結果を前記ドライバーI/F部に通知する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より的確な事故発生確率を算出する事により各者が得られる。例えば、
(1)運転者にとっては、事故をより的確に予測し、事故の発生を未然に防ぐことができる。
(2)警察署にとっては、事故の発生数を減らすことが期待できる。
(3)自動車メーカまたはカーナビメーカにとっては、自動車やカーナビに対して新たな需要が発生するものと考える。
(4)システム構築メーカにとっては、本発明に関連したシステムの需要が発生するものと考える。
【0011】
また、例えば、予め運転者が警告を通知する事故発生確率の下限値を設定し、事故発生確率が低い場合に関しては、警告が通知されないように設定すれば、上述した運転者に対する警告通知頻発に対する煩わしさの解消にも繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
請求項1の発明は、データ部、ベイジアンネットワークシステム、ドライバーI/F部の3部から構成される事故警告通知システムである。データ部とは、警察等、事故情報を管理するセンターを意味し、本発明では、総称して交通事故管理センターと呼ぶ。ベイジアンネットワークシステム部とは、過去の事故データ等を用いて事故に対する確率テーブルの形成を行い、その形成されたベイジアンネットワークに対して、現在、走行中の車両データを当てはめる事によって事故確率の算出を行う部位を指し示す。
【0013】
また、ドライバーI/F部とは、走行中の位置情報や各種、事故要因に繋がる車両データの取得を行う部位であり、前記ベイジアンネットワークシステムにこれらデータを渡す事によって、事故確率の算出を行い、必要に応じて、このドライバーI/F部より運転者に対する事故の警告が発せられる。
なお、前記ベイジアンネットワークシステムとは、交通事故管理センター等が保持している過去の事故データとその場所を通過する各車両の走行データ、例えば、速度、気象、日照度等を元にしてベイジアンネットワーク形成部において、その事故に繋がる要因ごとの確率値テーブルを作成する。
【0014】
また、走行中の車両が、その危険場所に接近した際に、例えば、速度、気象、日照度等、各種車両に関する情報を取得し、前記、ベイジアンネットワーク形成部において形成された確率値テーブルとの比較により、その車両が直面している事故確率をベイジアンネットワーク演算部にて算出する。この事により、過去の事故データから実際の事故の発生確率を算出することになる為、例え、複数の事故要因が絡み合う場合においても、その事故発生確率をより的確に算出することができる。
【0015】
請求項2の発明は、前記ベイジアンネットワーク演算部により算出された事故発生確率に関して、予め設定された閾値以上の場合に、運転者に対して事故の警告を通知する機能を有し、また、その閾値に関しては、運転者が自ら設定することができる。これにより、運転者自らが警告の頻度を設定することができる。つまり、前記特許文献4にて指摘されているような、運転者に対する警告情報通知頻発による煩わしさを解消することができる。
【0016】
請求項3の発明は、走行中の車両は、その位置に関する情報を取得し、その位置が危険場所に接近している際にベイジアンネットワークによる演算を行い、接近していない場合には、再びその位置に関する情報を取得する事とする。このことにより、位置情報取得のたびにベイジアンネットワークの演算や形成を行う手間を省き、本当に危険である場所に接近した際に迅速に、ベイジアンネットワークの演算と形成を行う事ができる。
【0017】
請求項4の発明は、走行中の車両では、前記ベイジアンネットワーク演算部で事故確率算出後、そのベイジアンネットワーク演算時に使用した各種車両データを使用して、再びベイジアンネットワークの形成を行う。このことにより、逐次、ベイジアンネットワークの形成が行われ、走行中の車両に関して常に最新のベイジアンネットワークを用いた演算が行われる事になる。
【0018】
請求項5の発明は、運転者に対する事故警告通知をする際には、事故の危険性に関して通知すると共に、その事故確率が閾値を超える場合の各事故要因の組み合わせに関して抽出し、その各事故要因に関して運転者に対する警告を行う事によって、運転者が注意すべき事項を明確にすることができる。このことにより、運転者は、実際に何に注意をするべきなのかを明確に認識することができる。
【0019】
請求項6の発明は、予め運転者に対してアンケートを行い、各運転者固有の注意事項に関しての登録を行う。例えば、速度により注意する必要があれば、速度に関する登録を行う。そして、運転者がある危険場所に接近した際には、その予め登録された事故要因に関して、その事故要因が実際に起こっている、例えば速度に関して、制限速度を越えている場合いおいては、運転者に対する警告通知の閾値を下げる事により、各運転者固有の警告を通知することができる。
【0020】
すなわち、従来の事故警告通知システムと比較して、その事故発生確率を算出する際に単に各事故要因が実際に事故に繋がる確率を足し合せて事故発生確率を算出する(線形)のではなく、ベイジアンネットワークを用いて、実際の事故データから各事故要因を複合的に分析し(非線形)、その分析に元づいた事故発生確率を算出する事にその意味が存在する。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例について説明する。図1は、本発明の一例を示す事故警告通知システムの構成例である。同図において、事故警告通知システム0101は、過去の事故データ等を元にして、ベイジアンネットワークを形成する機能と、各種車両に関するデータを前記ベイジアンネットワークを形成する機能により形成されたベイジアンネットワークに通すことにより、その事故確率を算出し、その事故確率に応じた警告情報を運転者に対して発する機能を有するシステムである。
【0022】
図1の構成例では、交通事故管理センター0111とベイジアンネットワークシステム0102と運転者I/F部0103により構成される事故警告通知システム0101であり、各々のシステム部、例えばベイジアンネットワークシステム0102では、ベイジアンネットワークの形成や演算が行われ、運転者I/F部0103では、実際の運転者との接点に位置し、車両に関するデータの取得と運転者に対する警告情報の通知などの機能を備える。また交通事故管理センター0111とは、事故が起こった際に、その事故要因に関するデータ0110を保持するセンターを意味し、具体的には、警察などが該当する。 なお、これらデータはベイジアンネットワーク形成部0114においてベイジアンネットワークの形成に使用される。
続いて、図1に関連した実際の処理に関して述べる。まず、本事故警告通知システム0101では、その機能により主に次の2つに分けることができる。1つは、ベイジアンネットワークを形成する機能であり、もう一つは、走行中の車両データをベイジアネットワークに通し、実際の事故発生確率を算出する機能である。各々の機能に関して、その主な実行部位となるのは、ベイジアンネットワークを形成するベイジアンネットワーク形成部0114と、ベイジアンネットワークの演算を行うベイジアンネットワーク演算部0115である。
【0023】
以下では、これら部位を分けて説明する。まず、前記ベイジアンネットワーク形成部0114では、そのベイジアンネットワーク形成に際して、交通事故管理センター0111が保持している過去の事故データ0110と、走行車両からの車両データとを車両データ0113として保持し、これらデータを元として、実際にベイジアンネットワークを形成する部位を指し示す。また、このようにして形成されたベイジアンネットワークは、再び、車両データ0113として保持され、次にベイジアンネットワークの形成をする際には、この車両データ0113に新たな車両データを加味する事により、再びベイジアンネットワークを再形成する。
【0024】
なお、具体的な形成方法に関しては、後述の実施例4に記載する。また、ベイジアンネットワーク演算部0115とは、現在の運転者の車両情報を運転者I/F部0103内の車両情報取得部0105より取得し、その車両情報を前記、ベイジアンネットワーク形成部0114により作成されたベイジアンネットワークに通す事によって、その運転者に対する事故確率を算出する機能を有する部位を指し示す。具体的な計算方法に関しては、実施例4に記載する。仮に、その事故確率が閾値0116より高ければ、警告内容送信部0118を通して、運転者I/F部0103の警告通知部0119にその警告内容が送信され、スピーカ等を通して運転者に対する警告が発せられる。また、この場合、閾値0116に関わりなく、運転者の車両情報は車両データ取得部0117を通して、新たなベイジアンネットワーク形成に利用される。
【0025】
また、これらの処理に際しては、交通事故管理センター0111の事故データ0110、あるいは、交通事故管理センター0111より特別危険区域に指定された場所0106に関するデータが危険区域データ0107として保持され、これら、保持された危険区域データ0107は、走行中の車両において、車両情報取得部0105より取得される位置情報0109を位置情報取得部0104より受け、前記危険区域データ0107との照らし合わせにより、例えば、過去に事故が発生しているあるいは特別危険区域に指定されている場合0108には、実際のベイジアンネットワークの演算や形成が行われることとする。
【0026】
また、過去に事故が発生していないまた特別危険区域でもない場合においては、再び位置情報の取得0109が行われ、前記危険区域データ0107との比較を繰り返す事になる。詳細に関しては、実施例2にて述べる。
【実施例2】
【0027】
図2は、事故警告通知システムの処理フロー図である。このフローでは、まず、走行中の車両では、その走行中の車両の位置に関する情報が取得される(位置情報の取得(ステップ0201))。このような位置に関する情報は、例えば、運転者が所持するカーナビゲーションシステム(GPS機能付き)を通して取得する事を想定している。
【0028】
続いて、この取得された位置情報に対して、その位置において実際にベイジアンネットワークの形成や演算が必要かどうかの判断がなされる。これは、位置情報取得のたびにベイジアンネットワークの形成や演算を行うことは、その処理に時間を要し、現実的にその実現が難しいと考える為である。また、このような判断に際しては、その位置上で過去に事故が発生していないか、あるいは、交通事故管理センター(警察等)によって特別危険区域(警察などによって特別に事故に関する警告を発せられるように指定した場所)に指定されていないか等を複合的に判断し、このような事故予測の必要性に関して決定する。
本実施例では、実際に過去に事故があった(ステップ0202)あるいは特別危険区域 (ステップ0209)であると判断される場合にのみ、その車両情報を取得し(ステップ0203)、その車両情報等を実際のベイジアンネットワークに通すことにより、その車両が直面する事故の発生確率を算出することになる(ステップ0204)。具体的なベイジアンネットワークの演算方法に関しては、実施例4に記載する。
【0029】
なお、本実施例のように過去に事故があった(ステップ0202)あるいは特別危険区域 (ステップ0209)を事故予測が必要である区域と考えるのは、あくまで一例であり、実際には柔軟にその区域の指定が行われることとする。続いて、このようにして得られた事故発生確率は、運転者等により予め定められた閾値以上(ステップ0205)の場合には、運転者に警告情報を通知する(ステップ0206)。
【0030】
また、このような閾値は、例えば、運転者が自ら設定することができるものとする。つまり、運転者がこの閾値を高く設定すれば、本当に危険が差し迫った状況下のみ警告情報が発せられる事になり、逆に、この閾値を低く設定すれば、運転者はあらゆる危険状況を察知することができる。
【0031】
続いて、このようにして運転者に警告情報が通知された後には、ベイジアンネットワークへの登録(ステップ0207)が行われる。このようなベイジアンネットワークへの登録は、先の警告情報の通知(ステップ0206)が行われないとしても、その登録自体は行われる事とする。
【0032】
このようにして、逐一、新たな車両データを元にしたベイジアンネットワークの形成が行われる。以下、再び、位置情報の取得(ステップ0201)が行われ、必要に応じて警告情報が通知される。
【実施例3】
【0033】
図3は、ドライバーI/F部―ベイジアンネットワーク演算部の相互処理に関して図1におけるベイジアンネットワークシステム0102と運転者I/F部0103の相互間の処理シーケンスに関して記載する。
【0034】
まず、位置情報取得部0301にてGPS等により取得された位置情報は、ベイジアンネットワークシステム0102内の位置情報取得部0104によりベイジアンネットワークシステム0102内に取り込まれ、その位置情報を元にして、過去の事故データの有無と強制取得区域の判断がなされる(ステップ0108)。仮にベイジアンネットワークの形成あるいは演算が必要であると判断される場合には、続いて車両情報の取得(ステップ0303)」が行われる。具体的には、交通センターよりVICSシステムを使った渋滞情報や事故情報の取得(ステップ0302)、車載検知装置より速度、日照度、運転者属性等、事故の要因となりうるデータの取得を行う(ステップ0304)。続いて、これら車両情報の取得後、そのデータをベイジアンネットワーク演算部0115に通し、実際の事故確率を算出する事になる。
【0035】
そして、この事故確率が閾値以上(ステップ0116)の場合には、警告内容の送信(ステップ0118)が行われ、その情報が警告通知部0119に送出される。そして、更に、上記データを次回の事故データに生かす為、ベイジアンネットワークへの登録(ステップ0305)が行われる。
【0036】
なお、上記した運転者属性とは、例えば、予め、運転者ごとにアンケートを実施し、雨やカーブ、日照度等、各事故要因として、その運転者特有の注意事項に関しての登録を行う。
【0037】
そして、実際の事故確率算出の際には、例えば、予め運転者のアンケートにより、カーブに関してより注意が必要であると指定されている場合には、カーブにさしかかったときに、その事故確率に対する閾値を下げる等の処置がなされる。このようにする事により、その運転者に合わせた警告情報の通知を行うことができる。
【実施例4】
【0038】
本実施例では、上記ベイジアンネットワークの形成と演算に関して、その実際例を記載する。なお、本項記載に当たっては、説明の簡略化のため、その事故要因の例として天候、速度のみを採り上げる。但し、実際には、図3にもあるように渋滞情報、事故情報、速度、日照度、運転者属性等もその事故要因として含まれることを前提としており、この点に関しては、ベイジアンネットワークを形成する上で、例え複数の事故要因が含まれたとしても、そのベイジアンネットワークの形成や演算の根本的な考え方は変わらないため本項記載においては割愛する(詳細は、本項最後部に記載)。以上をふまえ、まずは、ベイジアンネットワークの形成に関してのみ記載する。
【0039】
まず、このようなベイジアンネットワークの形成と演算を行う上で、その根本となる原理としてベイズ理論がある。ベイズ理論とは、ある結果(データ)が得られた時、その結果を反映した下での次の事象の発生確率を求める定理となる。この考え方をもととした式として、次式が挙げられる。
【0040】
P(A|B) = P(B|A) × P(A) / P(B) ・・・・・・・・(1)
上式では、Bが起こるときにAが起こる条件付き確率P(A|B)は、Aが起こるときにBが起こる条件付き確率P(B|A)とA,B各々が起こる確率P(A),P(B)で表される。これを、次式のようにA:天候、B:速度、C:事故として、本事故警告通知システムに当てはめると、
P(C|A,B) = P(A,B|C) × P(C) / P(A,B) ・・・・・・・・(2)
となる。
【0041】
但し、事故発生に結びつく各要因に関しては、図4にも記載したように各々の要因(たとえば天候、速度等)は独立していることをその前提とする。
【0042】
つまり、A:天候、とB:速度の元でのC:事故の条件付き確率P(C|A,B)は、C:事故の元での条件付き確率P(A,B|C)とC:事故の確率P(C)、A:天候とB:速度の確率P(A,B)によって求められることを意味する。そこで、上式(2)に関して、右項の確率値に関するテーブル(図5A,B,C)を作成する。
【0043】
まず、過去の事故データ(0110)から図5にある(1)P(A,B|C=1)」に関する確率を求める。求め方は、例えば過去に事故が発生した(C=1)ときの、天候が雨(A=1)と速度が制限速度以上(B=1)の確率を求めれば、P(A=1,B=1|C=1)が求まる。また同様にして、過去に事故が発生したときの(C=1)、天候が雨(A=1)と速度が制限速度以下(B=0)である確率を求めれば、P(A=1,B=0|C=1)が求まる。P(A=0,B-1|C=1),P(A=0,B=0|C=1)に関しても同様である。また、車両データ(0117)より、図5の(2)と(3)の確率を各々、求める事になる。つまり、走行中の車両が例えば、「過去に事故が発生した」あるいは特別危険区域に近づくたびに、ベイジアンネットワーク形成部0114により、P(A,B)やP(C)の確率を再算出することになる。以上より取得された各確率により、ベイジアンネットワークが形成される。
【0044】
なお、図5の具体例では、各々、その例として具体的な確率値を当てはめているが、その数値に根拠はない。実際には、警察や走行車両から図5の各々の確率値を算出することになる。また、以上のようなベイジアンネットワークの形成は、図1のベイジアンネットワーク形成部0114にて行われ、そのテーブル情報は、車両データ(0113)に一端保持される。その後、新しい事故データや走行データが入ってくる度に再度、ベイジアンネットワーク形成部0114にて、ベイジアンネットワークの再形成が行われる。
【0045】
続いて、上記により形成されたベイジアンネットワークを利用して、実際に車両が過去に事故が発生したあるいは特別危険区域に近づいた際の事故発生確率の算出方法について述べる。上記、ベイジアンネットワークの形成において作成した図5のテーブルに関して、上記(2)式と照らし合わせる事によって、その各々の要因が実際の事故に結びつく確率値を算出することができる。具体的な確率値算出の計算式を以下に示す。
【0046】
(1)P(C=1|A=1,B=1) = P(A=1,B=1|C=1)×P(C=1)/P(A=1,B=1) = 0.1×1/5=0.02%
(2)P(C=1|A=1,B=0) = P(A=1,B=0|C=1)×P(C=1)/P(A=1,B=0) = 0.1×1/10=0.01%
(3)P(C=1|A=0,B=1) = P(A=0,B=1|C=1)×P(C=1)/P(A=0,B=1) = 0.7×1/50=0.014%
(4)P(C=1|A=0,B=0) = P(A=0,B=0|C=0)×P(C=0)/P(A=0,B=0) = 0.1×1/35=0.003%
上式において左項を求めるには、上記で求めた図5の各々の確率を代入すればよい事になる。上式では、実際に図5記載の確率値を代入した結果が示されている。ここで、例えば、事故発生の閾値を0.02%以上と設定してあれば、上式の中でも(1)式の雨(A=1)と速度が制限速度以上(B=1)の時にのみ、その事故発生確率が閾値を超えており、運転者に対する警告情報が通知される。
【0047】
以上、ベイジアンネットワークの形成に際しては、上記、計算式によって、その演算が行われるが、実際のベイジアンネットワークの演算と形成に関しては、例えば株式会社数理システムが販売するベイジアンネットワーク構築支援システム(Baysian Network Construction System:BayoNet)(http://www.msi.co.jp/BAYONET)や、Hugin Explert社が販売するHUGIN Explorer(http://www.hugin.com/Products_Services/Products/Commercial/Explorer)を用いることもできる。
【0048】
また、本実施例では簡略化の為に、各事故要因を天候(雨かどうか)と速度(制限速度を超えているか)という2項目に絞って、その例を説明した。しかし、実際には、例えば、上記の天候に関しても雪、大雨、雷・・・など、様々な項目を設定して、その各々の項目ごとの確率を求めることも可能である。
【0049】
また、天候や速度だけでなく、図3にある渋滞情報、日照度・・等の項目をアレンジし、その各々の項目に対する事故発生確率を算出することも可能である。また、特に運転者属性に関しては、実施例3でも述べたように、予め運転者ごとのアンケートを実施し、各運転者特有の注意事項、例えば、天候に関して、とりわけ注意する必要があるのならば、図6において天候に関してのフラグが「1」の時には、その事故確率の閾値を例えば0.01%に設定する。そうすれば(1)式雨(A=1)と速度が制限速度未満(B=0)の時にも運転者に対して、警告情報を通知することができる。
【0050】
最後に、上記、事故発生確率の予測のもと、運転者に対して警告が通知される場合の具体的な警告内容に関して記載する。まず、上記したように車両が例えば、過去に事故があったあるいは特別危険区域に接近した際には、その事故発生確率が算出される。また、その値が仮に閾値を越えていた場合には警告が通知される。但し、この場合だけだと、運転者は具体的にどのような事に注意すればよいのかがわからない。
【0051】
この点に関しては、先の図6にあるように、その事故発生確率に該当する項目に関して、その該当する事故要因項目のフラグが「1」になっている項目に関して、運転者に対する警告を発せるようにする方法がある。つまり、例えば、図6において天候が雨(A=1)で速度が制限速度以上(B=1)の時に警告が発せられた場合には、天候が雨(A=1)と速度が制限速度以上(B=1)の2項目が各々、事故要因項目のフラグが「1」となっており、この2項目に関して、運転者に対する警告が発せられることになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】事故警告通知システム図
【図2】事故警告通知システム処理フロー図
【図3】運転者I/F部―ベイジアンネットワーク部の処理シーケンス図
【図4】各事故要因の独立性に関しての説明図
【図5】ベイジアンネットワークの形成例を示す図
【図6】ベイジアンネットワークの演算例を示す図
【符号の説明】
【0053】
0101:事故警告通知システム。
0103:カーナビゲーションなどを想定した運転者インターフェース部。
0106:警察等によって特別危険区域に指定される。
0107:交通事故が発生頻発の可能性が高い区域に関する情報を保持する。
0108:本例では「過去に事故がある」あるいは、「特別警戒区域」に指定された場合にその事故確率を算出する。
0109:GPS装置等により走行車両の位置に関する情報を取得する。
0110:場所別に過去の交通事故に関するデータが保管されている。
0111:警察など、事故データを取り扱う交通事故管理センター。
0113:過去の事故データや走行車両のデータを保持する。
0116:ユーザ自ら設定する閾値。
0119:スピーカ等を通して、事故に対する警告が発せられる。
0202:交通事故管理センター(警察等)によって保管されている事故データ。
0203:速度、天候等、事故要因に繋がる車両情報の取得。
0205:ユーザ自ら設定する閾値。
0209:警察等によって指定された特別警戒区域。
0302:VICSシステム等による事故情報、渋滞情報の入手。
0305:ベイジアンネットワークの再構築を行い、そのテーブル情報を登録する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
事故データを管理する交通管理センターと、車両情報取得部、警告通知部からなるドライバーI/F部と、ベイジアンネットワークシステムからなる事故警告通知システムとから構成され、前記交通管理センターは警察等、過去の事故データを保持するデータ部を有し、ベイジアンネットワークシステムはある危険場所における過去の事故データとその場所を通過する各車両の走行データを元にして、その事故発生に対する事故要因ごとの確率テーブルを作成するベイジアンネットワーク形成部と、走行中の車両が、その危険場所に接近した際に、その車両の情報と各種道路の状態に関する情報を取得し、前記、ベイジアンネットワーク形成部において形成された確率テーブルとの比較により、その車両が直面している事故確率を算出するベイジアンネットワーク演算部とを有し、前記ドライバーI/F部は、各事故要因に関する車両情報の取得と、運転者に対する事故警告の通知を行う部位から構成され、前記データ部の過去の事故データから、実際の事故の発生確率を算出し、複数の事故要因が絡み合う場合においても、前記ベイジアンネットワークシステムにて、その事故発生確率をより的確に算出し、その結果を前記ドライバーI/I/F部に通知する事を特徴とする事故警告通知システム。
【請求項2】
前記ベイジアンネットワークシステムは、前記ベイジアンネットワーク演算部により算出された事故発生確率に関して、予め設定された閾値以上の場合に、運転者に対して事故の警告を通知する機能を有し、また、その閾値に関しては、運転者が自ら設定することができ、それにより、運転者自らが警告の頻度を設定することができることを特徴とする事故警告通知システム。
【請求項3】
前記ベイジアンネットワークシステムは、走行中の車両は、その位置に関する情報を取得し、その位置が危険場所に接近している際にベイジアンネットワークによる演算を行い、接近していない場合には、再びその位置に関する情報を取得し危険場所に接近しているかの判断し、この判断により、必要以上にベイジアンネットワークによる形成や演算の手間を省くことが可能としたことを特徴とする事故警告通知システム。
【請求項4】
前記ベイジアンネットワークシステムは、走行中の車両では、前記ベイジアンネットワーク演算部で事故確率算出後、そのベイジアンネットワーク演算時に使用した各種車両データを使用して、再びベイジアンネットワークの形成を行い、これにより、逐次、新しいベイジアンネットワークが形成されることを特徴とする事故警告通知システム。
【請求項5】
前記ベイジアンネットワークシステムは、運転者に対する事故警告通知をする際には、事故の危険性に関して通知すると共に、その事故確率が閾値を超える場合の各事故要因の組み合わせに関して抽出し、その各事故要因に関して運転者に対する警告を行う事によって、運転者が注意すべき事項を明確にすることが可能となる機能を有する事故警告通知システム。
【請求項6】
前記ベイジアンネットワークシステムは、予め運転者に対してアンケートを行い、各運転者固有の注意事項に関しての登録を行い、また、運転者がある危険場所に接近した際には、その予め登録された事故要因に関して、その事故要因が実際に起こっている状況下では、運転者に対する警告通知の閾値を下げる機能を有し、この事によって、各運転者固有の警告を通知できることを特徴とする事故警告通知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−282873(P2009−282873A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136181(P2008−136181)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】