説明

ベルト式無段変速機の制御装置

【課題】変速用ソレノイド弁の個体バラツキによるベルト挟圧ばらつきを抑制できるベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】プライマリ油室へ供給される作動油を流量制御する変速制御弁76,77と、指示デューティ比に応じて変速制御弁を制御するための信号圧を発生するソレノイド弁DS1,DS2と、ソレノイド弁へ一定圧を供給する定圧弁73と、定圧弁から第1信号圧が供給され、挟圧コントロール用ソレノイド弁SLSから第2信号圧が供給され、セカンダリ油室への作動油を圧力制御する挟圧コントロール弁79と、セカンダリ油室の油圧を検出する油圧センサ108とを備える。停車アイドリング時にソレノイド弁へ入力されるデューティ比を一定の時間勾配で変化させ、その時の油圧センサの検出値からセカンダリ油圧の上昇分を記憶し、記憶された上昇分に基づいて挟圧コントロール用ソレノイド弁への指令信号を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の制御装置、特に変速制御ばらつきや挟圧制御ばらつきを抑制するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを巻き掛け、プライマリプーリの油室への供給油量をレシオコントロール弁(流量制御弁)で制御することによって、プーリ比を制御すると共に、セカンダリプーリの油室への供給油圧を挟圧コントロール弁(圧力制御弁)で制御することによって、ベルト挟圧を制御するベルト式無段変速機が知られている。
【0003】
特許文献1には、上述のようなベルト式無段変速機の油圧制御装置の一例が開示されている。図8はその油圧制御装置の概略を示し、100はプライマリプーリの油室、101はセカンダリプーリの油室を表す。ソレノイドモジュレータ弁102はクラッチモジュレータ圧を受けて一定のソレノイドモジュレータ圧を出力する定圧弁である。ソレノイドモジュレータ圧は、アップシフト用デューティソレノイド弁103とダウンシフト用デューティソレノイド弁104とにそれぞれ供給され、各ソレノイド弁103、104はデューティ比に応じた信号圧を発生する。レシオコントロール弁105にはソレノイド弁103、104の信号圧が対向方向に入力され、これら信号圧に応じてライン圧を流量制御し、プライマリプーリ100に作動油を供給している。ソレノイドモジュレータ圧は、挟圧コントロール弁106の一端に信号圧としても入力されている。挟圧コントロール弁106の他端には、図示しないリニアソレノイド弁によって調圧されたソレノイド圧が入力されている。このソレノイド圧とソレノイドモジュレータ圧との相対関係によってライン圧を圧力制御し、セカンダリプーリ101へ作動油を供給している。セカンダリプーリ101の油圧は、ベルト挟圧をフィードバック制御するために油圧センサ107によって検出される。
【0004】
上述のような構成の油圧制御装置の場合、変速用ソレノイド弁103、104の特性バラツキによって、同じアクセル操作をしても車両の変速挙動が異なるという問題がある。図9は、ソレノイド弁103,104におけるデューティ比と消費流量との関係を示した図である。消費流量とは、ソレノイド弁を流れる油の総流量(レシオコントロール弁105へ供給される油量とドレーンされる油量との総和)のことである。図示するように、デューティ比の増大につれて消費流量が増大し、ほぼ50%付近で最大流量となった後、デューティ比の増大につれて消費流量は減少し、100%で消費流量は0となる。ソレノイド弁103,104には、製造上の特性ばらつきがあるため、変速特性にバラツキが発生する。図9の実線は変速中央の特性(規格特性)、破線は変速上限の特性、一点鎖線は変速下限の特性を示す。3つの特性は、変速上限〜下限で油圧立ち上がり時のデューティ比やピークとなるデューティ比が異なる。0%〜油圧立ち上がり時のデューティ比までの範囲が不感帯である。変速上限では比較的小さなデューティ比でも消費流量が大きくなるので、変速ハンチングが発生しやすく、一方変速下限では、同じデューティ比でも消費流量が小さいので、変速応答性が悪化する。一般的には、変速上限〜下限のすべての変速制御でハンチングが発生しないような設定を行っているため、変速応答性が犠牲になりやすい。
【0005】
変速用ソレノイド弁の特性ばらつきは、変速特性だけでなく、ベルト挟圧特性にも影響を与える。ベルト挟圧は、ソレノイドモジュレータ圧とスプリング力とリニアソレノイド弁のソレノイド圧とのバランスによって、挟圧コントロール弁106により決定されるが、ソレノイドモジュレータ圧は変速用ソレノイド弁の消費流量が大きいときに低下する性質がある。そのため、変速用ソレノイド弁が変速上限の特性を持つ場合、変速下限の特性を持つ場合に比べて、挟圧コントロール弁106の一端に入力されるソレノイドモジュレータ圧が相対的に低くなり、挟圧コントロール弁106の油圧バランスが変化し、セカンダリプーリ101の油圧も変化する。その結果、目標ベルト挟圧に対する追従性が悪化する可能性がある。
【0006】
特許文献2には、プライマリプーリへ作動油を給排するアップシフト弁とダウンシフト弁とを有し、ダウンシフト弁を遮断状態に保持しながらアップシフト弁を遮断状態から連通状態に切り換え、アップシフト弁が連通状態に切り換わる際の駆動電流を学習し、同様に、アップシフト弁を遮断状態に保持しながらダウンシフト弁を遮断状態から連通状態に切り換え、ダウンシフト弁が連通状態に切り換わる際の駆動電流を学習するものが開示されている。
【0007】
特許文献2の場合、走行状態では前述のような学習を行うことが難しいため、実際にはNレンジの車両停車時に実施される(段落0033参照)。しかし、Nレンジで駆動輪と変速機とが切り離されるような変速機、つまり変速機構より下流側にクラッチを備えた変速機であれば、変速が可能であり、前述のような学習が可能であるが、変速機構より下流側にクラッチを備えていない変速機では実施できない。さらに、アップシフト弁/ダウンシフト弁を制御するソレノイド弁と、ソレノイドモジュレータ弁と、挟圧コントロール弁との関係が示されていないので、上述のような変速用ソレノイド弁の特性ばらつきがベルト挟圧特性にも影響を与えるという課題がない。
【0008】
特許文献3には、プライマリプーリへ供給される作動油の流量を制御する変速制御弁と、プライマリプーリの作動油の圧力を検出する油圧検出手段と、プライマリプーリの油圧の検出結果により変速制御弁の流量特性を診断する手段と、変速制御弁の流量特性を補正する補正手段とを設けた変速制御装置が開示されている。この変速制御装置では、プーリ停止時に変速制御弁の強制的駆動により、プライマリプーリの油圧を検出することで、変速制御弁の特性を補正している。
【0009】
しかしながら、この変速制御装置では、変速制御弁の制御対象であるプライマリプーリの油圧を直接検出して補正するものであるから、プライマリプーリの油圧を検出するために格別の油圧センサが必要になる。一般的な無段変速機では、プライマリプーリへ供給される作動油は、その油圧ではなく流量を制御することで変速するものであるから、変速制御弁の特性補正の機能しか持たない油圧センサを別に設けることは、コスト上昇を招くという欠点がある。さらに、変速用ソレノイド弁のばらつきがベルト挟圧特性にも影響を与える点について、全く示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−181175公報
【特許文献2】特開2007−263261号公報
【特許文献3】特開平10−311416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、変速用のデューティソレノイド弁を用いてプライマリプーリへ供給される作動油を流量制御するベルト式無段変速機において、ベルト挟圧特性バラツキを少なくできる制御装置を提供することにある。
他の目的は、変速特性バラツキをも抑制できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを備え、前記両プーリにそれぞれ可動シーブを作動させる油室が設けられたベルト式無段変速機であって、前記プライマリプーリの油室へ供給される作動油を流量制御する変速制御弁と、入力されるデューティ比に応じて前記変速制御弁を制御するための信号圧を発生するアップシフト用ソレノイド弁及びダウンシフト用ソレノイド弁と、前記両ソレノイド弁へ一定圧を供給する定圧弁と、前記定圧弁から一定圧が第1の信号圧として供給され、当該第1の信号圧と対向して挟圧コントロール用ソレノイド弁から第2の信号圧が供給され、両信号圧のバランスにより前記セカンダリプーリの油室への供給油圧を圧力制御する挟圧コントロール弁と、前記セカンダリプーリの油室の油圧を検出する油圧センサと、を備えたベルト式無段変速機において、アイドリング停車時に、前記アップシフト用ソレノイド弁及びダウンシフト用ソレノイド弁の一方を遮断状態に保持し、他方へ入力されるデューティ比を一定の時間勾配で変化させて遮断状態から開放状態へと変化させるソレノイド弁駆動手段と、前記デューティ比を一定の時間勾配で変化させた時の油圧センサの検出値から、前記デューティ比に対するセカンダリプーリの油圧の上昇分を記憶する上昇油圧記憶手段と、前記記憶された上昇分とデューティ比との関係に基づいて、前記挟圧コントロール用ソレノイド弁への指令信号を補正する第1補正手段と、を設けたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【0013】
変速に使用しているアップシフト用及びダウンシフト用のソレノイド弁の個体バラツキにより、油圧特性がばらつきので、変速特性もばらつくという問題がある。そこで、本発明では、アイドリング停車時に学習を実施する。アイドリング停車時に学習を実施する理由は、変速用ソレノイド弁の作動以外の要因によるセカンダリ圧の変化を招かないからである。なお、Pレンジなどの非走行レンジだけでなく、Dレンジなどの走行レンジで学習してもよいが、挟圧コントロール弁へ入力されるリニアソレノイド弁の信号圧やライン圧が変化し、セカンダリ圧が変化する可能性があるので、非走行レンジで学習する方が望ましい。
【0014】
この状態で、変速用ソレノイド弁の一方をOFF(デューティ比0%)し、他方のデューティ比を0%から100%へ一定の時間勾配で変化、つまりスイープアップする。スイープさせる理由は、デューティ比の変化に対する定圧弁の出力圧やセカンダリ圧の応答遅れを小さくするためである。デューティ比の変化につれて変速用ソレノイド弁の消費流量が増大するので、元圧を供給する定圧弁の出力圧も変化する。定圧弁の出力圧は挟圧コントロール弁に対し信号圧としても供給されているので、挟圧コントロール弁の出力圧であるセカンダリプーリの油圧も変化する。一般には、定圧弁の出力圧が低下すると、セカンダリプーリの油圧は上昇する。セカンダリプーリの油圧は油圧センサで検出できるので、デューティ比とセカンダリプーリ油圧の上昇分とを対応させて記憶する。
【0015】
その後、他方の変速用ソレノイド弁をOFF(デューティ比0%)とし、一方の変速用ソレノイド弁のデューティ比をを0%から100%へ一定の時間勾配で変化させ、その時のセカンダリプーリの油圧の上昇分を油圧センサで検出し、その上昇分とデューティ比とを対応させて記憶する。
【0016】
このようにして各変速用ソレノイド弁のデューティ比と対応させて求めたセカンダリプーリの上昇分を学習値として記憶し、この学習値に基づいて挟圧コントロール用ソレノイド弁への指令信号を補正する。その結果、変速用ソレノイド弁(デューティソレノイド弁)の作動中に上昇する挟圧分を学習補正により相殺することができ、フィードフォワードでの補正精度が向上し、フィードバックゲインを小さくでき、安定したベルト挟圧制御を実施できる。すなわち、フィードバック制御は実挟圧と目標挟圧との差に対してフィードバックするため、フィードフォワードで差を小さくしておけば、フィードバック非作動でも実挟圧と目標挟圧とが乖離せずに済み、その小さな乖離に対してフィードバックすることで、さらに乖離が小さくなる。フィードバックゲインを大きくすれば、その分だけ目標に近づくが、一方で収束性が悪化してハンチングが発生する可能性がある。したがって、フィードフォワードで小さくした乖離に対してフィードバックすれば、ゲインをあまり大きく設定することなく、安定性がよく乖離も小さい実挟圧に制御できる。
【0017】
また、油圧センサで検出された検出値が最大値となるデューティ比を記憶するデューティ比記憶手段と、記憶されたデューティ比と予め設定された規格デューティ比との差分を用いて、アップシフト用ソレノイド弁及びダウンシフト用ソレノイド弁へのデューティ比を補正する第2補正手段と、を設けてもよい。すなわち、セカンダリプーリの油圧の上昇分が最大になる時のデューティ比を求め、このデューティ比と予め設定された規格デューティ比との差分を求め、その差分を用いて変速用ソレノイド弁の指令デューティ比を補正すれば、変速用ソレノイド弁の個体バラツキがあっても、変速特性を均一化させることができる。
【0018】
本発明で使用される油圧センサは、セカンダリプーリの油圧、つまりベルト挟圧をフィードバック制御するために用いられる油圧センサと共用できるので、格別な油圧センサを必要としない。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、格別な装置を追加することなく、変速用ソレノイド弁の特性ばらつきに起因するベルト挟圧特性のバラツキを学習補正できるので、変速用ソレノイド弁に個体ばらつきがあっても、安定したベルト挟圧制御を実施できる。
【0020】
また、検出されたベルト挟圧の上昇分が最大値となるデューティ比と規格デューティ比との差分を用いて、変速用ソレノイド弁への指令デューティ比を補正できるので、変速用ソレノイド弁の個体バラツキによる変速特性のバラツキを抑制でき、変速フィーリングの改善、燃費の向上を実現できる。
【0021】
さらに、格別なセンサなどを追加する必要がなく、既存の油圧回路をそのまま利用できるので、簡素でかつ安価に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る無段変速機を搭載した車両の構成を示すスケルトン図である。
【図2】本発明に係る無段変速機の油圧制御装置の一例を示す回路図である。
【図3】図2に示す油圧制御装置の要部の拡大図である。
【図4】変速用ソレノイド弁をスイープした時のセカンダリ圧(ベルト挟圧)の変化を示す図である。
【図5】図4から求めた学習値(ベルト挟圧の上昇分)とデューティ比との関係を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る学習・補正方法のフローチャート図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る学習・補正方法のフローチャート図である。
【図8】従来のベルト式無段変速機の油圧回路の一例の概略図である。
【図9】変速用ソレノイド弁のデューティ比と消費流量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明に係るベルト式無段変速機を搭載した車両の構成の一例を示す。エンジン1の出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト(出力軸)32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速装置4、油圧制御装置7及びエンジン1により駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0024】
無段変速機2は、トルクコンバータ3のタービン軸5の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達する前後進切替装置8、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21及び両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15を有する変速装置4、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。タービン軸5とプライマリ軸10とは同一軸線上に配置され、セカンダリ軸20とドライブシャフト32とがタービン軸5に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機2は全体として3軸構成とされている。ここで用いられるVベルト15は、公知の圧縮駆動タイプの金属ベルトである。
【0025】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキB1と直結クラッチC1とで構成されている。逆転ブレーキB1と直結クラッチC1は、それぞれ湿式多板式のブレーキ及びクラッチである。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸5に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。遊星歯車機構80はシングルピニオン方式であり、逆転ブレーキB1はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチC1はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチC1を解放して逆転ブレーキB1を締結すると、タービン軸5の回転が逆転され、かつ減速されてプライマリ軸10へ伝えられ、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と同方向に回転するため、前進走行状態となる。逆に、逆転ブレーキB1を解放して直結クラッチC1を締結すると、キャリア84とサンギヤ81とが一体に回転するので、タービン軸5とプライマリ軸10とが直結され、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と逆方向に回転するため、後進走行状態となる。
【0026】
プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間に油室13が形成されている。油室13に供給される作動油を、後述するレシオコントロール弁76,77で流量制御することにより、変速制御が実施される。
【0027】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間に油室23が形成されている。この油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト挟圧力が与えられる。なお、油室23には初期挟圧力を与えるバイアススプリング24が配置されている。セカンダリプーリ21の油室23の近傍の供給油路中には、セカンダリ圧を検出する油圧センサ108(図2参照)が設けられている。
【0028】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延び、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0029】
無段変速機2は電子制御装置100(図1参照)によって制御される。電子制御装置100には、エンジン回転数センサ101、車速(又はセカンダリプーリ回転数)センサ102、スロットル開度(又はアクセル開度)センサ103、シフトポジションセンサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、ブレーキ信号センサ106、CVTの作動油温センサ107、及びセカンダリ圧を検出する油圧センサ108からそれぞれ検出信号が入力されている。入力信号として、その他の信号を入力してもよいことは勿論である。プライマリプーリ回転数センサ105及び車速センサ102の検出信号により、プーリ比を検出できる。
【0030】
電子制御装置100は、油圧制御装置7に内蔵された複数のソレノイド弁を制御している。油圧制御装置7は、オイルポンプ6、プライマリプーリ11の油室13、セカンダリプーリ21の油室23、逆転ブレーキB1、直結クラッチC1とそれぞれ接続されている。電子制御装置100は、車速とスロットル開度とに応じて予め設定された変速マップに従って目標プライマリ回転数を決定し、油圧制御装置7内のソレノイド弁を制御することによって、無段変速機2のプライマリプーリ11の油室13への供給油量を制御し、プライマリ回転数を目標値へとフィードバック制御している。また、エンジントルクと変速比とからベルト伝達トルクを求め、ベルト滑りを発生させない最低限のベルト挟圧力となるように、セカンダリプーリ21の油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を目標値へとフィードバック制御している。この際、油圧センサ108で実際のセカンダリ圧が検出される。なお、油圧制御装置7は逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1への供給油圧を制御する機能も有している。
【0031】
図2は油圧制御装置7の一例の油圧回路図であり、図3はその要部の油圧回路図である。レギュレータ弁71はオイルポンプ6の吐出圧を所定のライン圧PL に調圧する弁である。クラッチモジュレータ弁72はライン圧を減圧して、リニアソレノイド弁SLSの元圧及び直結クラッチC1,逆転ブレーキB1への元圧となるクラッチモジュレータ圧Pcmを出力する減圧弁である。ガレージシフト弁74は、ガレージシフト時に直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1への供給圧を過渡制御できるように油路を切り替える切替弁である。マニュアル弁75はシフトレバーと機械的に連結され、直結クラッチC1,逆転ブレーキB1への油路を切り替える手動操作弁である。上述のレギュレータ弁71、クラッチモジュレータ弁72、ガレージシフト弁74及びマニュアル弁75は本発明と直接関係のない弁であるため、詳しい説明を省略する。図2では、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1に関する油圧回路だけを示してあるが、トルクコンバータ3に内蔵されたロックアップクラッチ3a等の油圧回路については、省略されている。
【0032】
アップシフト用レシオコントロール弁76及びダウンシフト用レシオコントロール弁77は、本発明の変速制御弁の一例であり、後述するようにソレノイド弁DS1、DS2が出力するアップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 との相対関係によって、プライマリ油室13に給排される作動油量を調整する流量制御弁である。レシオチェック弁78は、閉じ込み制御のために、プライマリ油室13への作動油を流量制御から圧力制御に切り替えて、プライマリ油室13の油圧とセカンダリ油室23の油圧との比率を予め設定された関係に保持するための弁である。
【0033】
また、SLSはリニアソレノイド弁であり、ライン圧制御、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1の過渡制御、及びセカンダリプーリ21の油室23の圧力制御を行うためのソレノイド圧Psls を出力する。DS1はアップシフト用信号圧Pds1 を発生するアップシフト用デューティソレノイド弁であり、DS2はダウンシフト用信号圧Pds2 を発生するダウンシフト用デューティソレノイド弁である。ソレノイド弁DS1,DS2は、変速制御だけでなく、閉じ込み制御や、後述する学習制御にも使用される。本実施形態では、リニアソレノイド弁SLSは常開型のリニアソレノイド弁、ソレノイド弁DS1,DS2は共に常閉型のデューティソレノイド弁である。
【0034】
変速用ソレノイド弁DS1,DS2は、走行状態に応じて次のように制御される。
【表1】

【0035】
表1において、○は作動状態、×は非作動状態を示す。なお、○及び×はON状態又はOFF状態だけでなく、デューティ制御状態を含む。両方のソレノイド弁を同時にOFFする閉じ込み制御は、車速=0、最Low状態での閉じ込み制御であり、再発進時のベルト滑り防止のために実施される。一方、両方のソレノイド弁をONする閉じ込み制御は、ガレージシフト時に実施される。
【0036】
ソレノイドモジュレータ弁73は、クラッチモジュレータ圧Pcmを調圧して、スプリング荷重に相当する一定のソレノイドモジュレータ圧Psmを発生する定圧弁である。ソレノイドモジュレータ圧Psmは、デューティソレノイド弁DS1、DS2の元圧となると共に、ガレージシフト弁74及び挟圧コントロール弁79に対して信号圧として供給されている。
【0037】
アップシフト用レシオコントロール弁76は、アップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 との相対関係によってバルブ開口面積を変化させ、プライマリプーリ11の油室13への供給油量を調整する流量制御弁である。すなわち、図3に示すように、アップシフト用レシオコントロール弁76はスプリング76aによって一方向に付勢されたスプール76bを備えており、スプリング76aが収容された一端側の信号ポート76cに信号圧Pds2 が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート76dに信号圧Pds1 が入力されている。中間部の入力ポート76eにはライン圧PL が供給されており、出力ポート76fはプライマリプーリ11の油室13と接続されている。入力ポート76eとドレーンポート76gとの間には、後述するレシオチェック弁78のポート78hと接続されたポート76hが形成され、出力ポート76fと信号ポート76dとの間には、ダウンシフト用レシオコントロール弁77のポート77f及びレシオチェック弁78のポート78dと接続されたポート76iが形成されている。アップシフト用ソレノイド弁DS1をON(100%)、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をOFF(0%)すると、スプール76bは図3の左側へ切り替わり、ポート76e、76fを介してプライマリプーリ13の油室へ作動油が供給され、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をON(100%)、アップシフト用ソレノイド弁DS1をOFF(0%)すると、スプール76bは図3の右側へ切り替わり、プライマリプーリ13の作動油はポート76f,76iを介して排出される。
【0038】
ダウンシフト用レシオコントロール弁77も、アップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 との相対関係によってバルブ開口面積を変化させ、プライマリプーリ11の油室13からの排出油量を調整する流量制御弁である。ダウンシフト用レシオコントロール弁77は、スプリング77aによって一方向に付勢されたスプール77bを備えており、スプリング77aが収容された一端側の信号ポート77cに信号圧Pds1 が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート77dに信号圧Pds2 が入力されている。中間部には、ドレーンポート77eと、アップシフト用レシオコントロール弁76のポート76iと接続されたポート77fと、レシオチェック弁78のポート78fと接続されたポート77gとが順に形成されている。アップシフト用ソレノイド弁DS1をON、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をOFFすると、スプール77bは図3の左側へ切り替わり、ポート77fはポート77gと連通する。ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をON、アップシフト用ソレノイド弁DS1をOFFすると、スプール77bは図3の右側へ切り替わり、プライマリプーリ13の作動油をポート77f,77eを介してドレーンさせる。
【0039】
レシオチェック弁78は、閉じ込み制御の際に、プライマリプーリ11の油室13の油圧を流量制御から圧力制御に切り替えて、プライマリ圧とセカンダリ圧とを予め設定された関係に保持するための弁である。つまり、プライマリ圧とセカンダリ圧との比率が所定の関係となるようにプライマリ圧を制御し、所定の変速比に保持する弁である。レシオチェック弁78は、スプリング78aによって一方向に付勢されたスプール78bを備えており、スプリング78aが収容された一端側の信号ポート78cにセカンダリプーリ油室23の油圧が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート78dには、プライマリ油室13の油圧がアップシフト用レシオコントロール弁76のポート76f,76iを介して入力されている。入力ポート78eにはライン圧PL が供給されており、出力ポート78fはダウンシフト用レシオコントロール弁77のポート77gと接続されている。さらに、出力ポート78fとドレーンポート78gとの間には、アップシフト用レシオコントロール弁76のポート76hと接続されたポート78hが形成されている。なお、レシオチェック弁78とプライマリ油室13とを結ぶ供給油路は、アップシフト用レシオコントロール弁76及びダウンシフト用レシオコントロール弁77を経由しており、ポート78fと77g間の油路に小径なオリフィス90が設定されている。これらオリフィス90の作用により、閉じ込み制御への切替時に急変速するのを防止している。
【0040】
挟圧コントロール弁79は、セカンダリプーリ21の作動油室23の油圧(セカンダリ圧)を制御するための弁である。スプリング79fによって一方向に付勢されたスプール79gを備え、スプリング荷重と対向する一端側の信号ポート79aにソレノイドモジュレータ弁73から一定圧Psmが供給されている。入力ポート79bにはライン圧PL が供給されており、出力ポート79cはセカンダリプーリ21の作動油室23と接続され、セカンダリ圧はポート79dにフィードバックされている。スプリング79fが収容された他端側の信号ポート79eにはリニアソレノイド弁SLSからソレノイド圧Psls が供給される。ポート79hはドレーンポートである。そのため、信号ポート79eに入力されたソレノイド圧Psls を所定の増幅度で増幅した油圧を、セカンダリ圧としてセカンダリプーリ21の作動油室23に供給することができる。作動油室23の油圧(セカンダリ圧)は油圧センサ108によって検出され、検出された油圧に基づいてベルト挟圧力又はベルト伝達トルクを求めることができる。
【0041】
−第1実施形態−
次に、本発明の第1実施形態について説明する。図9に示したように、変速用ソレノイド弁DS1又はDS2を作動させたとき、その消費流量が変化するため、元圧であるソレノイドモジュレータ圧Psmが低下する。ソレノイドモジュレータ圧Psmは挟圧コントロール弁79の信号ポート79aにも入力されており、そのソレノイドモジュレータ圧Psmが低下すると、スプール79g(図3参照)が調圧位置より上方に移動し、セカンダリプーリ23に供給されるセカンダリ圧は通常時より高い油圧となる。しかも、その上昇分とデューティ比との関係は、個々のソレノイド弁DS1/DS2によって異なる。その結果、変速用ソレノイド弁の特性ばらつきがベルト挟圧制御にも影響を及ぼすことになる。
【0042】
そこで、本発明では、変速用ソレノイド弁の特性ばらつきによるベルト挟圧の影響度を知るため、図4のように、変速用ソレノイド弁DS1,DS2の一方のデューティ比を一定の時間勾配で0〜100%に徐々に変化(スイープ)させ、そのときのセカンダリ圧(ベルト挟圧)の変化を求める。ソレノイド弁DS1,DS2のデューティ比をスイープすると、約50%付近で消費流量が最大になると共に、ソレノイドモジュレータ圧Psmの低下量が最大になり、それに応じてセカンダリ圧も高くなる。図4の挟圧変化のうち、太線は変速上限、細線は変速下限の場合を示す。このセカンダリ圧の上昇分を油圧センサ108により検出、記憶し、その上昇分を各デューティ比に対応した学習値として求めたものが図5である。
【0043】
図5は、学習値(上昇分)の一例であるが、図9に示す消費流量の特性とほぼ類似した特性を持つ。すなわち、変速上限では小さいデューティ比から立ち上がり、変速下限では遅れて立ち上がる。デューティ比が約50%付近で最大値となり、デューティ比が100%では0となる。この学習値に基づいて、リニアソレノイド弁への指令信号を補正すれば、変速用ソレノイド弁DS1又はDS2の作動ばらつきに起因したベルト挟圧のばらつきを解消又は抑制できる。
【0044】
次に、変速用ソレノイド弁DS1/DS2の作動によるセカンダリ圧(ベルト挟圧)のばらつきを学習補正する手順を以下に説明する。
【0045】
(1)停車アイドリング状態で、一方のソレノイド弁DS1/DS2をOFF(0%)とした状態で、他方のソレノイド弁DS2/DS1を0〜100%へ一定の時間勾配をもってゆっくり上昇(スイープ)させる。スイープさせる理由は、デューティ比の変化に対するソレノイドモジュレータ圧やセカンダリ圧の応答遅れを小さくするためである。また、停車アイドリング状態とした理由は、リニアソレノイド弁SLSから供給されるソレノイド圧Psls を一定状態とすることで、変速用ソレノイド弁の作動以外の要因によるセカンダリ圧の変化を招かない条件で学習するためである。停車アイドリング時とは、車速及びスロットル開度が0近傍の所定値以下で、エンジン回転数がアイドル回転数近傍にある状態をいう。なお、停車アイドリング状態だけでなく、車両の安定状態(変速機油温、エンジン水温、バッテリ電圧、エンジン回転数などが安定した状態)でスイープを行うのが望ましい。学習は車両の安定状態で実施するのが望ましい。不安定な状態で学習すると、ベルト挟圧特性のばらつきを助長する可能性があるからである。
【0046】
(2)ソレノイド弁のデューティ比を0〜100%へスイープさせると、その消費流量が増大するので、その作動量に応じたソレノイドモジュレータ圧Psmの低下が発生する。ソレノイドモジュレータ圧Psmは、変速用ソレノイド弁DS1/DS2以外に、ガレージシフト弁74及び挟圧コントロール弁79の信号圧としても利用されているが、いずれも閉じられた信号ポートに供給されているだけであるから、変速用ソレノイド弁DS1/DS2の作動以外の原因でソレノイドモジュレータ圧Psmの低下は生じないと考えられる。ソレノイドモジュレータ圧Psmは挟圧コントロール弁79のポート79aに信号圧として入力されているので、ソレノイドモジュレータ圧Psmの低下は、挟圧コントロール弁79の調圧位置をずらし、図4のようなセカンダリ圧(ベルト挟圧)の変化をもたらす。セカンダリ圧の変化は油圧センサ108で検出でき、図5のように、ソレノイド弁へのデューティ比に対するセカンダリ圧(ベルト挟圧)の上昇分を学習値として記憶する。
【0047】
(3)その後、記憶された学習値を用いて、ベルト挟圧を制御するリニアソレノイド弁SLSへの指令信号を補正する。例えば、デューティ比Daにおけるベルト挟圧の上昇分をΔpとし、リニアソレノイド弁SLSへの目標指令信号(目標電流値)をArとすると、デューティ比Daにおける補正された指令信号Acは、
Ac=Ar−Δp×k (k:係数)
で表すことができる。なお、補正方法は上式に限るものではない。この補正値を用いてリニアソレノイド弁SLSへの指令信号を補正すれば、ソレノイド圧Psls は補正量に応じた分だけ低下し、挟圧コントロール弁79の調圧状態が保たれる。そのため、変速用ソレノイド弁DS1又はDS2の影響を解消又は抑制した、高精度なベルト挟圧制御を実施できる。
【0048】
具体的な学習補正方法を、図6に示すフロー図を参照しながら説明する。まずアイドリング停車時であるかどうかを判定する(ステップS1)。具体的にはPレンジのような非走行レンジであって、停車かつエンジンが安定したアイドリング状態であるかどうかを判定する。なお、この状態では通常、無段変速機は最Lowでの閉じ込み状態であり、リニアソレノイド圧Psls も一定圧に維持されている。
【0049】
次に、アップシフト用ソレノイド弁DS1をOFFし(ステップS2)、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2への指示デューティ比を0%から100%へ一定の時間勾配で変化させる(ステップS3)。つまり、スイープ出力する。これにより、ソレノイド弁DS2の弁開度が増大し、ソレノイド弁DS2の消費流量の増大がソレノイドモジュレータ圧Psmの低下をもたらす。
【0050】
次に、ソレノイドモジュレータ圧Psmの低下によって、セカンダリ圧が上昇するため、その上昇分を油圧センサ108で検出し、その上昇分をデューティ比に対する学習値としてメモリーに記憶する(ステップS4)。なお、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をスイープした場合には、デューティ比を100%まで上昇させても、プライマリプーリの油室13の作動油が排出されるだけで、Low状態を維持するので、問題はない。
【0051】
ダウンシフト用ソレノイド弁DS2について学習補正を実施した後、アップシフト用ソレノイド弁DS1についても同様に実施する。すなわち、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をOFFし(ステップS5)、アップシフト用ソレノイド弁DS1への指示デューティ比を0%から100%へスイープする(ステップS6)。そして、スイープ中のセカンダリ圧の上昇分を油圧センサ108で検出し、その上昇分をデューティ比に対する学習値としてメモリーに記憶する(ステップS7)。最後に、アップシフト用ソレノイド弁DS1をOFFして学習を終了する(ステップS8)。
【0052】
なお、ここではダウンシフト用ソレノイド弁DS2を先にスイープしたが、アップシフト用ソレノイド弁DS1を先にスイープしてもよい。車両停止中にはベルトとプーリとが共に止まっているため、プライマリプーリ及びセカンダリプーリのシーブ・ベルト間の摩擦力以上の力をかけないとベルトをすべらせて変速することはできないので、アップシフト用ソレノイド弁DS1のデューティ比を最大値まで上昇させても、アップシフト側へ変速することはない。
【0053】
図6(a)に示す学習が終了した後、図6(b)に示すベルト挟圧値の補正を実施する。すなわち、まず負荷トルクや変速比などに応じて目標ベルト挟圧Pを決定し(ステップS9)、次に、変速用ソレノイド弁への入力デューティ比に対応した学習値ΔPをメモリから読み出す(ステップS10)。次に、学習値ΔPだけ補正した指示挟圧(P−ΔP)を求め(ステップS11)、P−ΔPに対応したリニアソレノイド弁SLSへの目標指示電流Iを決定し、出力する(ステップS12)。これにより、変速用ソレノイド弁の作動ばらつきに起因するベルト挟圧のばらつきを抑制できる。
【0054】
−第2実施形態−
第1実施形態では、図4に示すようにソレノイド弁DS1、DS2をスイープアップしたときのセカンダリ圧の上昇分を各デューティ比に対応して学習したが、第2実施形態では、セカンダリ圧の最大値をもたらすデューティ比を検出することで、ソレノイド弁DS1、DS2の特性バラツキ(つまり、変速制御バラツキ)を学習補正する方法である。
【0055】
例えば図4におけるベルト挟圧(セカンダリ圧)を検出した際において、セカンダリ圧の最大値をもたらすデューティ比をDmを求め、そのデューティ比Dmを規格デューティ比Drと比較し、その差分ΔD(=Dr−Dm)をメモリーに記憶する。実際の変速指令時には、この差分デューティ比ΔDを用いて変速用ソレノイド弁への指令信号全域に対して補正をかければよい。例えば差分ΔDが正の値である場合、その変速用ソレノイド弁の特性は変速上限側にあると考えられるので、その変速用ソレノイド弁への指令デューティ比がDであれば、補正デューティ比D−ΔD(ΔD>0)を出力することで、変速用ソレノイド弁による変速バラツキを抑制できる。逆に、差分ΔDが負の値である場合、その変速用ソレノイド弁の特性は変速下限側にあると考えられるので、その変速用ソレノイド弁への指令デューティ比がDであれば、補正デューティ比D−ΔD(ΔD<0)を出力することで、変速用ソレノイド弁による変速バラツキを抑制できる。
【0056】
図7(a)、(b)は第2実施形態における変速制御の学習補正方法のフロー図である。図7(a)は学習の流れを示し、ますアイドリング停車時かどうかを判定し(ステップS20)、一方のソレノイド弁DS1をOFFし(ステップS21)、他方のソレノイド弁DS2をスイープする(ステップS22)。これらステップS20〜22は図6のステップS1〜3と同じである。スイープ中、セカンダリ圧が最大値となるデューティ比を求め、このデューティ比と規格値との差分ΔDをメモリに記憶する(ステップS23)。
【0057】
次に、他方のソレノイド弁DS2をOFFし(ステップS24)、一方のソレノイド弁DS1をスイープする(ステップS25)。これも、図6のステップS5、6と同じである。スイープ中、セカンダリ圧が最大値となるデューティ比を求め、このデューティ比と規格値との差分ΔDをメモリに記憶する(ステップS26)。最後にソレノイド弁DS1をOFFする(ステップS27)。
【0058】
図7(b)は実際のアップシフト変速制御における補正の流れを示す。まず、スロットル開度や車速等に基づいて目標入力回転数を求め、現在の回転数から目標入力回転数に変化させるために必要となる変速用ソレノイド弁DS1の目標デューティ比Dを決定する(ステップS28)。次に、ソレノイド弁DS1の差分ΔDをメモリから読み出し(ステップS29)、その差分が正か負か、または0近傍かを判定する(ステップS30)。もし、差分ΔDが正の値であれば、ソレノイド弁DS1は変速上限側の特性を持つので、ソレノイド弁DS1にD−ΔDを出力し(ステップS31)、差分ΔDが負の値であれば、ソレノイド弁DS1は変速下限側の特性を持つので、ソレノイド弁DS1にD−ΔDを出力する(ステップS32)。さらに、差分ΔDが0近傍であれば、ソレノイド弁DS1が変速中央の特性を持つので、目標デューティ比Dをそのまま出力する(ステップS33)。なお、図7(b)は一方の変速用ソレノイド弁DS1についての補正を示したが、他方の変速用ソレノイド弁DS2についても同様に補正すればよい。このようにして、ソレノイド弁DS1の個体ばらつきの変速制御への影響を抑制できる。
【0059】
第1実施形態と第2実施形態は同時に実施することも可能である。すなわち、両実施形態ともに、学習に際しては変速用ソレノイド弁をスイープさせた時のセカンダリ圧の上昇分を検出し、又はセカンダリ圧が最大値となるときのデューティ比を検出するものであり、補正に際しては、前者では油圧上昇分とデューティ比との関係に基づいてベルト挟圧を学習補正し、後者は最大値となるデューティ比を用いて変速用ソレノイド弁自体を学習補正するものだからである。
【0060】
−第3実施形態−
第2実施形態では、セカンダリ圧の最大値をもたらすデューティ比Dmと規格デューティ比Drとの差分ΔD(=Dr−Dm)を用いて変速用ソレノイド弁への指令信号を補正したが、第3実施形態では、セカンダリ圧の最大値をもたらすデューティ比Dmと規格デューティ比Drとを大小比較することによって、変速上限、変速中央、変速下限の分類分けを行うものである。
Dm<Dr−αのとき ・・・変速上限
Dm>Dr+αのとき ・・・変速下限
Dr−α≦Dm≦Dr+αのとき ・・・変速中央
ここで、αは判別マージンであり、例えばデューティ比1〜2%程度とすればよい。
【0061】
対象となる変速用ソレノイド弁の特性が、変速上限、変速中央、変速下限のいずれかであると判定されれば、それに応じて実際の指令デューティ比を補正すればよい。例えば、変速上限にある変速用ソレノイド弁の場合には、指令デューティ比を所定量低めになるように補正し、逆に変速下限にある変速用ソレノイド弁の場合には、指令デューティ比を所定量高めになるように補正すればよい。
【0062】
前記実施例では、変速制御弁としてアップシフト用レシオコントロール弁76とダウンシフト用レシオコントロール弁77の2個の流量制御弁を用いたが、特許文献1のように1個の流量制御弁で構成し、その両端にアップシフト用ソレノイド弁DS1とダウンシフト用ソレノイド弁DS2の信号圧を対向して入力してもよい。
【0063】
また、挟圧コントロール用ソレノイド弁としてリニアソレノイド弁SLSを用いたが、デューティソレノイド弁であってもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン
2 無段変速機
7 油圧制御装置
11 プライマリプーリ
13 プライマリ油室
21 セカンダリプーリ
23 セカンダリ油室
73 ソレノイドモジュレータ弁
76 アップシフト用レシオコントロール弁
77 ダウンシフト用レシオコントロール弁
78 レシオチェック弁
79 挟圧コントロール弁
108 油圧センサ
SLS リニアソレノイド弁(挟圧コントロール用ソレノイド弁)
DS1 アップシフト用ソレノイド弁
DS2 ダウンシフト用ソレノイド弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを備え、前記両プーリにそれぞれ可動シーブを作動させる油室が設けられたベルト式無段変速機であって、前記プライマリプーリの油室へ供給される作動油を流量制御する変速制御弁と、入力されるデューティ比に応じて前記変速制御弁を制御するための信号圧を発生するアップシフト用ソレノイド弁及びダウンシフト用ソレノイド弁と、前記両ソレノイド弁へ一定圧を供給する定圧弁と、前記定圧弁から一定圧が第1の信号圧として供給され、当該第1の信号圧と対向して挟圧コントロール用ソレノイド弁から第2の信号圧が供給され、両信号圧のバランスにより前記セカンダリプーリの油室への供給油圧を圧力制御する挟圧コントロール弁と、前記セカンダリプーリの油室の油圧を検出する油圧センサと、を備えたベルト式無段変速機において、
アイドリング停車時に、前記アップシフト用ソレノイド弁及びダウンシフト用ソレノイド弁の一方を遮断状態に保持し、他方へ入力されるデューティ比を一定の時間勾配で変化させて遮断状態から開放状態へと変化させるソレノイド弁駆動手段と、
前記デューティ比を一定の時間勾配で変化させた時の油圧センサの検出値から、前記デューティ比に対するセカンダリプーリの油圧の上昇分を記憶する上昇油圧記憶手段と、
前記記憶された上昇分とデューティ比との関係に基づいて、前記挟圧コントロール用ソレノイド弁への指令信号を補正する第1補正手段と、を設けたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記油圧センサで検出された検出値が最大値となるデューティ比を記憶するデューティ比記憶手段と、
前記記憶されたデューティ比と予め設定された規格デューティ比との差分を用いて、前記アップシフト用ソレノイド弁及びダウンシフト用ソレノイド弁へのデューティ比を補正する第2補正手段と、を設けたことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−117546(P2012−117546A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264692(P2010−264692)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】