説明

ポリイミド系化合物フィルムの製造方法および装置

【課題】 ポリイミド系化合物の製膜法において、フィルムの幅方向の膜厚分布を制御し、均一な厚みを有するポリイミド系フィルムを作製する。
【解決手段】 ポリイミド系化合物と該ポリイミド系化合物の前駆体との群から選択される樹脂の溶液をダイに供給して拡幅、流延し、製膜するポリイミド系化合物フィルムの製造方法において、前記溶液の粘度を、前記ダイに前記溶液を供給する供給路において調整し、更に、粘度調整した後のポリイミド系化合物のワニスを押出ダイに導入する前に、その粘度を測定し、粘度が一定になるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイを用いたポリイミド系化合物フィルムの製造方法において、かかるフィルムの厚みや、幅方向の膜厚分布を制御し得るポリイミド系化合物フィルムの製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びており、中でも、フレキシブル積層板(フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」と言う。)等とも呼ばれる。)の需要が特に伸びている。
【0003】
かかるフレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有しており、一般的に、各種絶縁材料により形成され、かつ柔軟性を有する基体フィルムの表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着して貼りあわせることにより製造される。ここで、基体フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられている。また、接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられており(熱硬化性接着剤を用いて構成されるフレキシブル積層板を、以下「三層FPC」と言う。)、かかる熱硬化性接着剤には、比較的低温での接着が可能であるという利点がある。
【0004】
その一方で、今後、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった要求特性が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは、熱硬化性接着剤の耐熱性、及び電気特性が劣るため、かかる要求に十分対応することが困難になると考えられた。
【0005】
これに対し、接着材料に熱可塑性ポリイミド系化合物を使用したFPC(以下、「二層FPC」と言う。)が提案されている。この二層FPCは、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性に優れるポリイミド系化合物を主成分に絶縁性フィルムが構成されるため、三層FPCより優れた特性を有し、産業上有用な製品となることが期待される。
【0006】
かかる二層FPCの作製方法としては、様々な方法が提案されているが、熱可塑性ポリイミド系化合物を介してポリイミドフィルムと金属箔とを貼りあわせるラミネート法は、対応できる金属箔の厚み範囲が広く、装置に要するコストが低いという点で優れている。
【0007】
ここで、かかる三層FPCや二層FPCに使用する絶縁性フィルムの生産方法としては、種々の方法が提案されている。例えば、三層FPCや二層FPCに使用するポリイミドフィルムの製造方法としては、押出ダイを用いた流延製膜法により、高耐熱性のポリイミド系化合物及び/又はその前駆体の溶液(以下、「高耐熱性ポリイミド化合物ワニス」と言う。)の液膜をベルト上に流延し、その後加熱・乾燥する方法が一般的に用いられる。
【0008】
また、二層FPCに用いる絶縁性フィルムの生産方法としては、例えば、多層共押出ダイを用いた流延製膜法により、高耐熱性ポリイミド系化合物ワニスの液膜と、熱可塑性ポリイミド系化合物、及び/又はその前駆体の溶液(以下、「熱可塑性ポリイミド系化合物ワニス」と言う。)の液膜とを、それぞれベルト上に流延、積層し、その後加熱・乾燥して、接着性ポリイミドフィルムとする方法が一般的に用いられており、かかる方法は、生産性が高く、産業上の利用価値が高い。
【0009】
ところで、かかる三層FPCや二層FPCを製造するためには、絶縁性フィルムを構成するポリイミドフィルムや接着性ポリイミドフィルムの厚み分布の精度を高めることが必要となる。これは、厚み分布の精度が悪いと、ポリイミドフィルムや接着性ポリイミドフィルムと銅箔をラミネートする際に、部分的に密着しない部分が発生したり、寸法変化が大きくなるからである。特に、フィルムの幅方向の厚み分布は、ラミネートロールの調整により吸収することが困難であり、致命的な欠陥となる。
【0010】
これまでに、樹脂フィルムの幅方向の厚み分布の精度を高める為に、ヒートボルトやリップヒーターと呼ばれる装置を用いて、共押出ダイの出口であるリップからの樹脂材料の流量を調整する方法が開示されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0011】
具体的には、ヒートボルトを用いた方法は、リップの幅方向に並べたヒートボルト(通常は、7〜25mm間隔)で部分的にリップを押さえてリップ間隔を狭め、樹脂材料の膜厚を調整する方法である。また、リップヒーターを用いた方法は、リップの幅方向に複数のリップヒーターを並べ(通常は、7〜25mm間隔)、膜厚が薄い部分についてはリップヒーターでリップを部分的に加熱して樹脂材料の粘度を低下させて、その流出量を増大させて膜厚を厚くする方法である。
【0012】
しかしながら、かかる方法は、直接的に液膜の厚み分布を制御することができるものの、これに用いられる装置や制御プログラムが非常に複雑になるという欠点があった。また、接着性ポリイミドフィルムを、多層共押出ダイを用いて製造する場合には、上述のヒートボルトやリップヒーターを用いると、膜厚全体の厚みは制御することができても、基体フィルムを構成する高耐熱性ポリイミド系化合物ワニスと、接着層を構成する熱可塑性ポリイミド系化合物ワニスの線膨張係数はそれぞれ大きく異なるため、各層の厚み分布を制御することが出来ないと言う問題があった。その結果、得られる接着性ポリイミドフィルムの寸法安定性が著しく低下することとなった。
【0013】
また、樹脂フィルムの幅方向の厚み分布の精度を高める為に、フィードブロック式の多層ダイにおいて、フィードブロックの内部の流路で溶融樹脂を加熱することにより、各溶融樹脂層の流速を均一化して、フィルムの幅方向の膜厚分布を均一にする方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0014】
しかしながら、この方法では、フィードブロックと言う狭い空間で個々の流路の樹脂温度を調整しなければならないことや、ダイが発熱体のみを備えていることから、樹脂の温度とその粘度を自由に制御することが困難であった。また、かかる方法は、室温以下の低温領域で製膜することが望まれるポリイミド系化合物に適用することは不可能であった。更に、かかる方法では、測定した樹脂粘度をフィードバックしながら個々の流路の樹脂粘度を制御することが不可能であり、正確な粘度設定の成否が不明であった。
【特許文献1】実開平5−41755号公報
【特許文献2】特開平7−80913号公報
【特許文献3】特開平5−138718号公報
【特許文献4】特開平11−309770号公報
【0015】
ところで、一般的に、マニホールドやランドやリップ等、ダイにおける樹脂材料の流路の形状は、均一な厚み分布を有する樹脂フィルムを得るために、ダイに流れる樹脂材料の粘度特性に合わせて設計される。しかし、現実にポリイミド系化合物フィルムを生産する場合には、原料であるポリイミド系化合物及び/又はその前駆体の溶液(以下、「ポリイミド系化合物ワニス」と言う。)の粘度特性は常に一定ではなく、重合度、組成、流速のみならず、図10に示すように、固形分濃度や温度等の僅かな変化により、大きく変化する。従って、ダイにおける樹脂材料の流路の形状を正確に設計したとしても、均一な膜厚分布を有するフィルムを得ることは困難であった。
【0016】
本発明者は、鋭意検討した結果、ダイの設計にあたり想定されるポリイミド系化合物ワニスの粘度特性と、実際のポリイミド系化合物ワニスの粘度特性の不一致が、得られるポリイミド系化合物フィルムの膜厚分布の不均一性に最も大きな影響を与える因子であることに着目し、従来の様にリップヒーターやヒートボルト等を使用して、リップの出口近傍で膜厚を調整しようとするのではなく、ダイに流入する前のポリイミド系化合物ワニスの粘度を調整することによって、得られるポリイミド系化合物フィルムの膜厚分布を均一にすることができることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明の技術思想は、ポリイミド系化合物ワニスの粘度を想定し、その粘度において均一な厚み分布を有するように設計された押出ダイに、かかる想定した粘度に出来得る限り近いポリイミド系化合物ワニスを流通させることにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、ポリイミド系化合物ワニスをダイに供給して流延製膜する際に、予めポリイミド系化合物ワニスの粘度を、ポリイミド系化合物ワニスを供給する供給路において調整することによって、得られるポリイミド系化合物フィルムの幅方向の膜厚分布を制御することができるポリイミド系化合物フィルムの製造方法を提供することにある。特に、二種以上のポリイミド系化合物ワニスをそれぞれ積層してなる多層フィルムの製造においても、各層の幅方向の膜厚分布を制御することができるポリイミド系化合物フィルムの製造方法を提供することにある。さらに、かかる製造方法に好適に用い得る製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造方法の要旨とするところは、ポリイミド系化合物と該ポリイミド系化合物の前駆体との群から選択される樹脂の溶液をダイに供給して拡幅、流延し、製膜するポリイミド系化合物フィルムの製造方法であって、前記溶液の粘度を、前記ダイに前記溶液を供給する供給路において調整するポリイミド系化合物フィルムの製造方法であることにある。
【0020】
かかる構成により、溶液の粘度調整が、絶えず少量の溶液に対してなされることとなるため、溶液の粘度を精度よく調整することが可能となる。
【0021】
また、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造方法の要旨とするところは、前記ダイが複数の被拡幅液をそれぞれ拡幅する複数の流路を備える多層ダイであり、前記供給路が各前記流路に対応して各該拡幅液を該流路に導入する液供給路から選択される前記ポリイミド系化合物フィルムの製造方法であることにある。
【0022】
かかる構成により、溶液の粘度調整が、絶えず少量の溶液に対して、それぞれ別個独立になされることとなるため、各溶液の粘度を精度よく調整することが可能となる。
【0023】
ポリイミド系化合物フィルムの製造方法においては、前記粘度の調整を、前記供給路中の前記溶液に溶剤を添加して行い得る。
【0024】
前記溶剤は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンから選択され得る。
【0025】
一般的に、ポリイミド系化合物ワニスは、僅かな固形分濃度の変化により、粘度が大幅に変動する性質を持っている。このため、かかる構成により、実質的に固形分濃度を大きく変化させることなく、粘度の調整をすることが可能となる。
【0026】
前記ポリイミド系化合物フィルムの製造方法においては、前記粘度の調整を、前記供給路中の前記溶液の温度を変化させて行い得る。
【0027】
前記溶液の温度は、−20℃〜10℃に調整され得る。
【0028】
かかる構成により、ポリイミド系化合物ワニスが低温で保持されることとなる。
【0029】
前記ポリイミド系化合物フィルムの製造方法においては、前記供給路中の前記溶液の粘度を測定し、得られた値を基に前記溶液の粘度を制御し得る。
【0030】
かかる構成により、樹脂の溶液の粘度が、用いられるダイが想定する樹脂粘度に近似するか否か確認されることとなる。
【0031】
更に、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の要旨とするところは、ポリイミド系化合物と該ポリイミド系化合物の前駆体との群から選択される樹脂の溶液を蓄える容器と、
前記溶液を、拡幅、流延するダイと、
前記容器から前記ダイに、前記溶液を供給する供給路と、
前記供給路中の前記溶液の粘度を調整する粘度調整手段と
を備えたポリイミド系化合物フィルムの製造装置であることにある。
【0032】
前記粘度調整手段は、前記供給路中の前記溶液に溶剤を混合する混合器、及び/又は、前記供給路中の前記溶液の温度を変化させる温度調節装置であり得る。
【0033】
前記ポリイミド系化合物フィルムの製造装置には、前記供給路中の前記樹脂の溶液の粘度を測定する粘度計が備えられ得る。粘度調整手段により粘度調整された前記樹脂の溶液の粘度を測定し、そのデータをフィードバックする必要から、粘度計は粘度調整手段とダイとの間に設置することが望ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造方法は、粘度が精度よく調整された樹脂の溶液をダイに供給して、流延、製膜して行うため、得られるポリイミド系化合物フィルムの幅方向の膜厚分布を制御することができる。
【0035】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造方法は、別個独立に粘度が精度よく調整された少なくとも二種以上の樹脂の溶液を各々ダイに供給して、拡幅、流延、積層し、製膜して行うため、得られるポリイミド系化合物の多層フィルム全体の幅方向の膜厚を均一にすることができるのみならず、各層の幅方向の膜厚分布をも均一にすることができる。
【0036】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造方法は、ポリイミド系化合物ワニスを低温に保持した後ダイによって流延し、製膜して行うことにより、反応硬化速度を低下させ、ポリイミド系化合物ワニスがダイ中で硬化することを防ぐことができる。
【0037】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造方法は、ポリイミド系化合物ワニスの粘度を測定しながらポリイミド系化合物ワニスをダイに供給して行うため、測定した樹脂粘度をフィードバックしながら、正確な粘度設定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
図1は、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の第1実施態様である。図2は、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置に用いられるダイの縦断面である。図3は、図2に示すダイの横断面である。図4は、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の他の実施態様の要部拡大図である。図5は、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の更に他の実施態様の要部拡大図である。
【0039】
図1に従えば、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10は、ポリイミド系化合物ワニスを蓄えるタンク12と、かかるワニスから成る被拡幅液を拡幅、流延し製膜するダイ14と、タンク12からダイ14にワニスを供給する液供給路である供給管16と、供給管16に備えられて、供給管16中のワニスに溶剤タンク20中の溶剤を添加・混合する混合器18とを含んで構成される。
【0040】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10にかかるダイ14の種類は、特に限定されるものではなく、押出ダイや塗工ダイであってもよいが、図2に示すマニホールド型の押出ダイ22であることが好ましい。かかる構成により、得られるポリイミド系化合物フィルムの膜厚寸法の調整が、より精度よくなされることとなる。
【0041】
かかるマニホールド型の押出ダイ22の構造は、特に限定されるものではなく、図3(a)に示すように、押出ダイ22の長手方向に略直線状に形成され、樹脂材料を受け入れて拡幅するマニホールド24と、一端が供給管16に、他端がマニホールド24に接続されて、樹脂材料をマニホールド24に導入する導入路26と、マニホールド24に接続されて、拡幅された樹脂材料を流通させる層状の空間を有するランド28と、樹脂材料を流延するリップ30とを含んで構成される態様や、図3(b)に示すように、マニホールド24を押出ダイ22の長手方向に傾斜を持たせて形成し、それと伴に、ランド28の上縁に幅方向の傾斜を設ける態様であってもよい。マニホールド24、導入路26、ランド28被拡幅液を拡幅する流路31を構成する。
【0042】
一般的に、ポリイミド系化合物ワニスは高粘性の液体であるので、マニホールド24の入口25から遠い位置ほど圧損が高くなって、ランド28からリップ30へ流れるワニスの流量は少なくなる。そこで、図3(b)に示すような態様とすることによって、マニホールド24の入口25から遠い位置の流体抵抗が低くなり、リップ30の幅方向の各位置に流れるワニスの量を一定にすることができる。その結果、膜厚が均一なポリイミド系化合物フィルムとすることが容易となる。
【0043】
なお、リップ30の各位置に流れるワニスの量を一定にする方法としては、上記の態様に限定されるものではなく、ランド28の厚みを幅方向に変化させる方法や、厚みの違うランド28を流れ方向に二段組み合わせ、その配分により、ランド28部分の流体抵抗を幅方向に変化させる方法であってもよい。
【0044】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10が備える混合器18は、供給管16中のポリイミド系化合物ワニスと溶剤とを連続的に混合できる装置であれば、特に限定されるものではなく、例えば、スタティックミキサーや一軸撹拌式混合装置、あるいは二軸撹拌式混合装置等を挙げることができる。
【0045】
ここで、ポリイミド系化合物ワニスに添加する溶剤の量については、得られるフィルムの膜厚分布が均一になる量であれば、特に制限されるものではない。ただし、ポリイミド系化合物ワニスに溶剤を添加し混合した後の固形分濃度が低すぎると粘度が低すぎて製膜することが困難であるし、固形分濃度が高すぎても粘度が高くなりすぎて製膜することが困難になる。このため、ポリイミド系化合物ワニスへの溶剤の添加は、溶剤を添加し混合した後のポリイミド系化合物ワニスの固形分濃度が5〜20重量%になる範囲とすることが好ましく、8〜15重量%になる範囲とすることがより好ましい。
【0046】
本発明において、ポリイミド系化合物ワニスに添加・混合する溶剤としては、ポリイミド系化合物やその前駆体を溶解し得る溶剤であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン等の有機溶媒を挙げることができる。更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素も使用できる。なお、これらの有機溶媒は、単独で使用しても、あるいは混合して用いてもよい。中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒や、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒が特に好ましく用い得る。なお、溶剤中に水が含まれると、前駆体の分解が促進されるため、水は可能な限り溶剤内から除去されることが好ましい。
【0047】
本発明に使用するポリイミド系化合物、及びその前駆体は、ポリイミド骨格またはポリアミド酸骨格を有する物質であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、無水ピロメリット酸とジアミノフェニルエーテルをN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と言う。)やN,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と言う。)等の溶媒に溶解して重合し、得られる前駆体(ポリアミド酸)を化学的にもしくは熱的に脱水することにより得られるポリイミド系化合物であってよい。また、上記の無水ピロメリット酸とジアミノフェニルエーテルに、他の酸二無水物系化合物や他のジアミン系化合物やその他の化合物を共重合することにより得られるポリイミド系化合物であってもよい。
【0048】
ポリイミド系化合物は、一般的には各種の溶剤への溶解度が低い場合が多い。そこで、目的とするポリイミド系化合物の溶剤への溶解度が十分に高い場合には、そのポリイミド系化合物を溶剤に溶解して使用すれば良いし、溶解度が不十分な場合には、対応するポリイミド系化合物の前駆体であるポリアミド酸を溶剤に溶解して使用すれば良い。
【0049】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10は、供給管16に、供給管16中の溶液の粘度を測定する粘度計32を備えて構成されることが好ましい。かかる構成により、ダイ14に供給するワニスの粘度が、ダイ14が想定するワニスの粘度に近似するか否か正確に知ることができる。
【0050】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10が備える粘度計32の測定位置は、供給管16において混合器18が設けられる位置よりも下流であることを必須とするが、可能な限りダイ14の近傍であることが好ましい。ポリイミド系化合物ワニスは、上述の通り、僅かな環境の変化によってその粘度が著しく変化するものであり、ダイ14に好適な粘度のポリイミド系化合物ワニスを供給するには、ダイ14にポリイミド系化合物ワニスを供給する直前の粘度を測定する必要があるからである。
【0051】
本発明で用いる粘度計32は、供給管16に設置でき、連続的に若しくは断続的に、供給管16中のポリイミド系化合物ワニスの粘度を測定することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、回転型粘度計、振動型粘度計、超音波式粘度計、キャピラリー式粘度計、スリット式粘度計等を使用することができる。更に、本発明にかかる粘度計32は、直接的にポリイミド系化合物ワニスの粘度を測定するのではなく、粘度に相当する数値を導き出すことによってポリイミド系化合物ワニスの粘度を測定する装置であってもよく、例えば、供給管16の二箇所に圧力計を配置し、圧損を測定する装置を挙げることができる。圧損とフィルムの膜厚分布の関係を実験的に調べておけば、圧損を測定するだけで、均一な膜厚分布を有するフィルムを得るための制御が可能となる。又、測定位置から液をサンプリングして採取する手段を備えて、採取された液の粘度を測定するものであってもよい。
【0052】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10は、ポリイミド系化合物ワニスに硬化剤を添加する硬化剤添加ライン34を供給管16に備えて構成されることが好ましい。かかる構成により、製膜後のポリイミド系化合物ワニスの硬化が促進されるため、ポリイミド系化合物フィルムの高速製膜を行うことが可能となる。
【0053】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10において、硬化剤添加ライン34が設けられる位置は特に限定されるものではないが、ダイ14内部でのポリイミド系化合物ワニスの硬化を防ぐため、供給管16において混合器18が設けられる位置と同じか、あるいはそれよりも下流であることが好ましい。
【0054】
本発明で用いる硬化剤としては、ポリイミド系化合物、及びその前駆体の硬化を促進できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、化学脱水剤や触媒等を挙げることができる。
【0055】
本発明で使用する化学脱水剤とは、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤であり、その主成分として、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N′−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物から選択される1又は複数の化学脱水剤を好ましく用いることができる。中でも、脂肪族酸無水物及び芳香族酸無水物が、具体例としては無水酢酸が良好に作用する。
【0056】
化学脱水剤の好ましい添加量は、化学脱水剤及び触媒を含有せしめる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.5〜5モル、好ましくは0.7〜2モルである。化学脱水剤が多すぎると、液膜が急激に硬化してしまうため、液膜を適切な形状に制御することが困難になってしまう。一方、化学脱水剤が少なすぎると、加熱乾燥時にポリイミドの前駆体のポリイミド化が十分進行せず、所望のフィルムを得ることが出来ない。
【0057】
本発明に用いる触媒とは、ポリアミド酸に対する化学脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分である。例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミンを挙げることができる。中でも、イミダゾ−ル、ベンズイミダゾ−ル、イソキノリン、キノリン、またはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が特に好ましい。
【0058】
触媒の好ましい添加量は、化学脱水剤及び触媒を含有せしめる溶液に含まれるポリアミド酸中のアミド酸ユニット1モルに対して、0.05〜3モル、好ましくは0.2〜2モルである。触媒が多すぎると、液膜が急激に硬化してしまうため、液膜を適切な形状に制御することが困難になってしまう。一方、触媒が少なすぎると、加熱乾燥時にポリイミドの前駆体のポリイミド化が十分進行せず、所望のフィルムを得ることが出来ない。
【0059】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10は、ポリイミド系化合物ワニスを押出す押出ポンプ36と、ダイ14で製膜されたワニスが流延される流延装置38と、製膜されたワニスを加熱・乾燥する乾燥炉40と、乾燥後のポリイミド系化合物フィルムをフィルムの幅方向及び/又は流れ方向に加熱・延伸するための焼成炉42と、得られるポリイミド系化合物フィルムを巻き取る巻取装置44とを備えて構成されことが好ましい。
【0060】
本発明で用いられる流延装置38としては、特に限定されるものではなく、既知の装置を用いることができ、例えば、回転ローラー、回転ベルト、移動板等を挙げることができるが、その後の乾燥工程への導入の容易さから、回転ベルトを使用することが好ましい。回転ローラー、回転ベルト、移動板の材質としては、金属製、布製、樹脂製、ガラス製等のものを使用することが、フィルムの構造が安定することから金属製のものが好ましく、フィルムの剥離のし易さや耐腐食性の観点からステンレス製のものがより好ましい。更に、フィルムの剥離性や耐腐食性金属製をより向上させるために、金属製の回転ローラー、回転ベルト、移動板の表面にはクロム系やニッケル系等のメッキがされることが好ましい。
【0061】
本発明で用いられる乾燥炉40としては、流延装置38上に流延された液膜を乾燥して、ゲル状フィルムに成型し得るものであれば、既知の乾燥炉を用いることができ、例えば、熱風乾燥炉、赤外線乾燥炉等を挙げることができるが、溶剤を効率よく乾燥させる観点から熱風乾燥炉がより好ましい。乾燥の温度は低すぎると乾燥が十分なされず、高すぎると含有される溶剤が沸騰して平滑なフィルムの形成を阻害することとなるため、100℃以上150℃以下が好ましい。
【0062】
本発明で用いられる焼成炉42としては、ゲル状フィルムに成型されたポリイミド系化合物ワニスから、残留する溶剤を取り除いて乾燥することができ、イミド化反応も十分に進行させ得るものであれば、既知の焼成炉を用いることができ、例えば、熱風焼成炉、赤外線焼成炉等を挙げることができる。なお、焼成の度合いにあわせてこれらを組み合わせて使うことが好ましい。例えば、ゲル状フィルムに成型されたポリイミド系化合物ワニスを、100〜500℃の熱風焼成炉で加熱した後に、300〜600℃の赤外線焼成炉で加熱して焼成する。
【0063】
以上、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10の実施態様を詳述したが、本発明は上述の実施態様に限定されるものではなく、その他の態様でも実施し得るものである。
【0064】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10は、1層構造のポリイミド系化合物フィルムを製造する態様にその用途が限定されるものではなく、ポリイミド系化合物の多層フィルムの製造に用いられてもよい。
【0065】
かかるポリイミド系化合物の多層フィルムの製造は、図4(a)に示すように、複数のダイ14を、フィルムの流れ方向に直列に設け、各々のダイ14からポリイミド系化合物ワニスを流延し積層して行ってもよい。なお、本発明におけるポリイミド系化合物フィルムの製造は、ダイ14にポリイミド系化合物ワニスを供給するより前に、その粘度調整を実施する態様であるため、フィードブロック式多層共押出ダイ47(図4(b))や、各層の膜厚の厚み精度の高いマルチマニホールド型多層共押出ダイ46(図4(c))を用いて行うこともできるが、各層の膜厚の厚み精度の高いマルチマニホールド型多層共押出ダイ46を用いることがより好ましい。フィードブロック式多層共押出ダイ47(図4(b))においては流路31a、31b、31cは各被拡幅液の合流位置までの経路からそれぞれ構成される。
【0066】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造を、かかる多層共押出ダイを用いて行う場合には、供給管16の全てに対して混合器18を取り付けても良いし、任意に選択される供給管16にのみ取り付けても良い。例えば、多層フィルムの各層の厚みが同じではなく、薄い層と厚い層から形成される場合、一般的には薄い層の方が膜厚分布の均一性が悪くなる。このような場合には、薄い層に対応する供給管16にのみ混合器18を取り付けても良い。
【0067】
本発明において、ポリイミド系化合物多層フィルムを製造する場合には、少なくとも一つの供給管16には、高耐熱性ポリイミド系化合物ワニスが流通することが好ましい。これは、ポリイミド系化合物最大の特徴である耐熱性を有するフィルムを作製することができるからである。また、他の少なくとも一つの供給管16には、熱可塑性のポリイミド系化合物ワニスが流通することが好ましい。これは、熱可塑性のポリイミド系化合物は高温下において接着剤の役割を担うことができるためである。従って、例えば、共押出法を用いて、高耐熱性ポリイミド系化合物から構成されるフィルムと熱可塑性ポリイミド系化合物から構成されるフィルムとを積層してなる多層フィルムを作製すれば、高耐熱性ポリイミド系化合物フィルムを銅箔等に熱圧着法で貼り付けることが可能になるため、高性能なプリント基板用ポリイミドフィルムを作製することができる。特に、三層共押出法により高耐熱性ポリイミド系化合物を中心の流路に流通させ、熱可塑性ポリイミド系化合物を両端の流路に流通させる態様が最も好ましい。
【0068】
本発明に用いられる高耐熱性ポリイミド系化合物、及びその前駆体であるポリアミド酸系化合物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとを実質的等モル量有機溶媒中に溶解させて得られた、ポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで撹拌して行う。得られるポリアミド酸溶液の濃度は、5〜35wt%であることが好ましく、10〜30wt%であることがより好ましい。かかる範囲内である場合に、ポリアミド酸溶液は適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0069】
重合方法としては、あらゆる公知の方法及びそれらを組み合わせた方法を用いることができる。一般的に、ポリアミド酸の特性は、そのモノマーの添加順序によって決まる。従って、このモノマーの添加順序を制御することにより、得られる高耐熱性ポリイミド系化合物の諸特性を制御することができる。本発明において、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合には、いかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として以下の四つの方法が挙げられる。
【0070】
すなわち、第1の方法は、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族酸二無水物を反応させて重合する方法である。
【0071】
また、第2の方法は、芳香族酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、芳香族ジアミンの両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンが実質的に等モルとなるように芳香族ジアミンを用いて重合させる方法である。
【0072】
また、第3の方法は、芳香族酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、芳香族酸二無水物の両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミンを追加添加後、全工程において芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンが実質的に等モルとなるように芳香族酸二無水物を用いて重合する方法である。
【0073】
また、第4の方法は、芳香族酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/又は分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミンを用いて重合させる方法である。
【0074】
なお、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合には、これらの方法を単独で用いて行っても良いし、部分的に組み合わせて用いて行ってもよい。また、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造は、上記のいかなる重合方法を用いて得られたポリアミド酸系化合物を用いて行っても良く、重合方法は特に限定されるのものではない。
【0075】
本発明にかかる接着性ポリイミドフィルムに使用するのに適した物性を有する高耐熱性ポリイミド系化合物のフィルムを得るためには、パラフェニレンジアミンや置換ベンジジンに代表される剛直構造を有するジアミン成分を用いてプレポリマーを得る重合方法を用いることが好ましい。かかる方法を用いることにより、弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得やすくなる傾向がある。
【0076】
かかる方法において、プレポリマー調製時に用いる剛直構造を有するジアミンと酸二無水物のモル比は100:70〜100:99若しくは70:100〜99:100であることが好ましく、100:75〜100:90若しくは75:100〜90:100であることがより好ましい。この比が上記範囲を下回ると弾性率および吸湿膨張係数の改善効果が得られにくく、上記範囲を上回ると熱膨張係数が小さ過ぎたり、引張伸びが小さ過ぎたりする等の弊害が生じることがある。
【0077】
ここで、本発明にかかる高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸組成物に用いられる材料について説明する。本発明において用い得る適当な酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物等から選択される1又は複数の酸無水物を挙げることができる。
【0078】
本発明にかかる接着性ポリイミドフィルムに使用するのに適した物性を有する高耐熱性ポリイミド系化合物層を得るためには、これら酸無水物の中でも、特にピロメリット酸二無水物及び/又は3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び/又は4,4’−オキシフタル酸二無水物及び/又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を選択することが好ましい。
【0079】
これら酸無水物の中で3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び/又は4,4’−オキシフタル酸二無水物の好ましい使用量は、全酸無水物に対して、60mol%以下、より好ましくは55mol%以下、更に好ましくは50mol%以下である。3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び/又は4,4’−オキシフタル酸二無水物の使用量がこの範囲を上回ると高耐熱性ポリイミド系化合物フィルムのガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜そのものが困難になる場合がある。
【0080】
また、ピロメリット酸二無水物を用いる場合、好ましい使用量は、全酸無水物に対して、40〜100mol%、さらに好ましくは45〜100mol%、特に好ましくは50〜100mol%である。ピロメリット酸二無水物をこの範囲で用いることによりガラス転移温度および熱時の貯蔵弾性率を使用または製膜に好適な範囲に保ちやすくなる。
【0081】
本発明にかかる高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸組成物において使用し得る適当なジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3‘−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物等から選択される1又は複数のジアミンを挙げることができる。
【0082】
これらジアミン類をジアミノベンゼン類、ベンジジン類等に代表されるいわゆる剛直構造のジアミンと、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等柔構造を有するジアミンとに分類して考えると、剛構造と柔構造のジアミンの使用比率はモル比で80/20〜20/80、好ましくは70/30〜30/70、特に好ましくは60/40〜30/70である。剛構造のジアミンの使用比率が上記範囲を上回ると、得られる層の引張伸びが小さくなる傾向にあり、またこの範囲を下回ると、ガラス転移温度が低くなり過ぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜が困難になる等の弊害を伴うことがある。
【0083】
本発明において用いられる高耐熱性ポリイミド系化合物及び/又はその前駆体は、上記の範囲の中で所望の特性を有する層となるように適宜芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの種類、配合比を決定して用いることにより得ることができる。尚、これらの高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体には、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。
【0084】
本発明で用いられる熱可塑性ポリイミド系化合物としては、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を挙げることができる。中でも、低吸湿特性の点から、熱可塑性ポリエステルイミドが特に好適に用いられる。また、既存の装置でラミネートが可能であり、かつ得られるフレキシブル積層板の耐熱性を損なわないという点から考えると、本発明における熱可塑性ポリイミド系化合物は、150〜300℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有していることが好ましい。なお、本発明では、Tgとは、動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値から求めた値を言う。
【0085】
熱可塑性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸についても、特に限定されるわけではなく、公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。その製造に関しても、公知の原料や反応条件等を用いることができる(例えば、後述する実施例参照)。尚、これらの熱可塑性ポリイミド系化合物の前駆体には、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。
【0086】
本発明において、高耐熱性ポリイミド系化合物及びその前駆体であるポリアミド酸系化合物並びに熱可塑性ポリイミド系化合物及びその前駆体であるポリアミド酸系化合物の重合に用いる溶媒は、ポリイミド系化合物又はポリアミド酸系化合物を溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン等から選択される1又は複数の溶媒を挙げることができるが、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素も使用可能である。中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒が特に好ましく用い得る。なお、溶媒中の水の含有は、ポリアミド酸の分解を促進するため、可能な限り溶媒内から除去されることが好ましい。
【0087】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10が備える粘度調整手段は、ポリイミド系化合物ワニスの粘度を任意に調整し得るものであれば、供給管16中のポリイミド系化合物ワニスに溶剤を添加・混合する混合器18に限定されるものではなく、図5(a)に示すように、供給管16中のポリイミド系化合物ワニスの温度を変化させる温度調節装置48であってもよい。ポリイミド系化合物ワニスは、温度変化に対して粘度が大きく変化する性質を有するため、かかる構成により、ダイ14が想定するポリイミド系化合物ワニスの粘度に近似したポリイミド系化合物ワニスを、ダイ14に供給することが容易になる。
【0088】
本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10が備える温度調節装置48は、供給管16中のポリイミド系化合物ワニスの温度を任意に連続的に変化させるものであれば、従来から使用されるものを使用することができ、例えば、熱交換用パイプ49と温調槽50から構成して、かかる温調槽50に供給管16を浸漬させることによりポリイミド系化合物ワニスの温度を調節しても良い。
【0089】
一般的に、ポリイミド系化合物ワニスを押出ダイ22を用いて流延製膜法で製膜する際の、ポリイミド系化合物ワニスの温度は、室温以下程度である。このため、本発明にかかる温度調節装置48は、冷却手段と加熱手段の両方が備えられていることが好ましい。
【0090】
なお、本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10は、混合器18に代えて温度調節装置48を備える態様に限定されるものではなく、図5(b)に示すように、混合器18とともに供給管16に備えられてよい。かかる態様は、例えば、スタティックミキサー等の混合器18の周囲に温度調節装置48を取り付けたり、供給管16における混合器18の上流や下流に温度調節装置48を設けることにより行い得る。
【0091】
供給管16におけるポリイミド系化合物ワニスの温度の設定範囲は、得られるフィルムの膜厚分布が均一になる温度であれば、特に制限は無い。ただし、ポリイミド系化合物ワニスは高温では分解反応が進行し、また、低温では粘度が高くなって製膜することが困難になる。従って、このポリイミド系化合物ワニスの温度の設定範囲は、−20℃〜30℃であることが好ましい。なお、上述のように、ポリイミド系化合物ワニスの製膜後の液膜の硬化反応を促進するために化学脱水剤や触媒を添加することがあるが、この場合にはダイ14内部でのポリイミド系化合物ワニスの硬化反応の進行を防止する為にあまり高温とせずに、このポリイミド系化合物ワニスの温度の設定範囲は、−20℃〜10℃であることが好ましい。
【0092】
なお、本発明は、上記態様に加えて、さらに、従来の様にリップヒーターやヒートボルト等を使用して、リップ30の出口近傍で膜厚を調整してもよい。
【0093】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施しうるものである。
【0094】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
(合成例1;高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と言う。)239kgに4,4’−オキシジアニリン(以下、「ODA」と言う。)6.9kg、p−フェニレンジアミン(以下、「p−PDA」と言う。)6.2kg、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(以下、「BAPP」と言う。)9.4kgを溶解した後、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と言う。)10.4kgを添加し1時間撹拌して溶解させた。ここに、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、「BTDA」と言う。)20.3kgを添加し1時間撹拌させて溶解させた。
【0096】
別途調製しておいたPMDAのDMF溶液(PMDA:DMF=0.9kg:7.0kg)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拌を行い、固形分濃度18重量%、23℃での回転粘度が3500ポイズの、高耐熱性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸溶液を得た(以下、高耐熱性ポリイミド系化合物ワニス1と言う。)。
【0097】
(合成例2;熱可塑性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸の合成)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、BAPPを115.6g加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「BPDA」と言う。)を78.7g徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下、「TMEG」と言う。)を3.8g添加し、氷浴下で30分間撹拌した。2.0gのTMEGを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。1時間撹拌を行い、固形分濃度20重量%、23℃での回転粘度が3000ポイズに達したところで添加、撹拌をやめ、熱可塑性ポリイミド系化合物の前駆体のポリアミド酸溶液(以下、熱可塑性ポリイミド系化合物ワニス2と言う。)を得た。
【0098】
(実施例1)
図1に示す製造装置を用い、合成例1で得られた高耐熱性ポリイミド系化合物ワニス1の製膜実験を実施した。ここで、用いられるダイ14は、リップ幅650mm、リップ間距離1mmの単層の押出ダイである。なお、図1に示した装置は全て、0℃になるように調温した。
【0099】
高耐熱性ポリイミド系化合物ワニス1を原料タンク12に充填し、原料タンク12から高耐熱性ポリイミド系化合物ワニス1を8kg/hrの速度で混合器18に導入した。硬化剤添加ライン34から、DMF1kg、無水酢酸0.33kg、イソキノリン0.20kgの割合で溶解させて調製した硬化剤を4kg/hrの割合で導入した。このときの、高耐熱性ポリイミド系化合物ワニス1の固形分濃度は12%となった。更に、混合器18の混入口21からは、表1に示す割合でDMFを導入し、ワニス1を希釈した。
【0100】
【表1】

【0101】
混合器18で溶剤と硬化剤とが混合された溶液を、押出ダイに導入し、押出ダイのリップから押出される液膜をステンレス製のエンドレスベルトに流延した。得られた液膜を130℃×100秒の条件で加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、300℃×10秒、450℃×30秒で乾燥・イミド化させ、高耐熱性ポリイミドフィルムを得た。
【0102】
混合器18へ導入するDMFの量を変化させて、それぞれの条件で得られたフィルムの幅方向(650mm)の厚さの分布を接触型膜厚系を用いて測定した。その結果を図6に示す。
【0103】
図6から、本発明の製造方法によって、製造されるフィルムの膜厚の分布を制御することが可能であり、最も膜厚分布幅を小さくする条件が得られることがわかった。
【0104】
(実施例2)
図5(b)に示す本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10を用いて、合成例1で得られた高耐熱性ポリイミドワニス1の製膜実験を実施した。ここで、用いられるダイ14は、リップ幅650mm、リップ間距離1mmの単層の押出ダイである。なお、ワニス温度調節装置48以外の装置については、0℃に保温できるように調温した。
【0105】
高耐熱性ポリイミドワニス1を原料タンク12に充填し、DMFを添加して固形分濃度を15.8%にした。原料タンク12からワニス1を8.1kg/hrの速度で混合器18に導入した。硬化剤添加ライン34から、DMF1kg、無水酢酸0.33kg、イソキノリン0.20kgの割合で溶解させて調製した硬化剤を4kg/hrの割合で導入した。得られる混合液の固形分濃度は11%となった。混合液を混合器18の後段に設けられた温度調節装置48に導入し、表2で示す温度に調製した。
【0106】
【表2】

【0107】
混合器18で混合された溶液を、押出ダイに導入し、押出ダイのリップから押出される液膜をステンレス製のエンドレスベルトに流延した。得られた液膜を130℃×100秒の条件で加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、300℃×10秒、450℃×30秒で乾燥・イミド化させ、高耐熱性ポリイミドフィルムを得た。
【0108】
温度調節装置48の温度を変化させ、それぞれの条件で得られたフィルムの幅方向(650mm)の厚さの分布を接触型膜厚系を用いて測定した。その結果を図7に示す。
【0109】
図7より、本発明の製造方法によって、フィルムの膜厚の分布を制御することが可能であり、最も膜厚分布幅を小さくする条件が得られることがわかった。
【0110】
(実施例3)
図4(c)に示す本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置10を用い、合成例1で得られた高耐熱性ポリイミドワニス1と合成例2で得られた熱可塑性ポリイミド系化合物ワニス2の共押出製膜実験を実施した。ここでダイは、リップ幅650mm、リップ間距離1mmの三層共押出押出ダイ46を用いた。なお、図4(c)に示した装置は全て、0℃になるように温調した。
【0111】
ワニス1を原料タンク12bに充填し、原料タンク12bからワニス1を8kg/hrの速度で混合器18bに導入した。硬化物添加ライン34bから、DMF1kg、無水酢酸0.33kg、イソキノリン0.20kgの割合で溶解させて調製した硬化剤を4kg/hrの割合で導入した。更に、導入口21bからは、DMFを1.09kg/hrの割合で導入した。混合液中の固形分濃度は11%として、実験中は一定とした。
【0112】
別の原料タンク12a、cにワニス2を充填し、原料タンク12a、cから二つの混合器18a、c(混合器a、混合器c)に、ワニス2を1.5kg/hrの速度で導入した。それぞれの硬化物添加ライン34a、cから、DMF1kgに対して無水酢酸0.03kg、イソキノリン0.02kgの割合で溶解させて調製した硬化剤を、0.6kg/hrの割合で導入した。更に、導入口21a、cからは、表3に示した割合でDMFを混合した。
【表3】

【0113】
三層共押出ダイの中心層に相当する導入路26bに、混合器18bで得られたワニス1の希釈液を導入し、外層に相当する二つの流路26a、cに、二つの混合器18aおよびcで得られたワニス2の希釈液を導入した。三層共押出ダイ46のリップから押出される液膜をステンレス製のエンドレスベルトに流延した。得られた液膜を130℃×100秒の条件で加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、300℃×10秒、450℃×30秒で乾燥・イミド化させ、三層構造のポリイミドフィルムを得た。
【0114】
混合器18a〜cへ導入するDMFの量を変化させ、それぞれの条件で得られたフィルムの幅方向(650mm)の厚さの分布を接触型膜厚系を用いて測定した。その結果を図8に示す。
【0115】
実施例3では、中心層の導入路26bに供給するワニス1の流量は一定であるので、外層の流量を変化させても、中心層の幅方向の厚み分布の形状は一定であると推定される。したがって、図8から、本発明の製造方法により、外層の膜厚の分布を制御することが可能であり、最も膜厚分布幅を小さくする条件が得られることがわかった。
【0116】
実施例4
図4(c)に示す構造の設備を用い、合成例1で得られたワニス1と合成例2で得られたワニス2の共押出製膜実験を実施した。ここで、図4(c)に示した装置は、すべて0℃になるように調整した。ワニス1を原料タンク12bに充填し、この原料タンクからワニス1を8kg/hrの速度で混合器18bに導入した。この混合器の別の入り口から、DMF1kgを無水酢酸0.33kg、イソキノリン0.20kgの割合で溶解させて調整した硬化剤を4kg/hrの割合で導入した。上記条件にて、ワニス1の希釈液中の固形分濃度を11%として、実験中は一定とした。
【0117】
原料タンク12a、12cにそれぞれワニス2を充填し、それぞれの原料タンクから対応する混合器18a、18cにワニス2を1.5kg/hrの速度で導入した。混合器18a、18cのそれぞれの別の入り口からは、それぞれに可変ポンプを用い、任意の割合のDMFを導入できるようにした。混合器18a、18cの各出口からダイの間には、振動式の粘度計(ソフレーザー社製:MIV18000)をそれぞれ設置し、粘度を測定しながら、可変ポンプでDMFの添加量を変動させることにより、任意の粘度のワニス2の希釈液をダイの各最外層の流路に供給できるようにした。
【0118】
リップ幅650mm、リップ間距離1mmの三層共押出押出ダイの中心層に相当する流路に、混合器18bで得られたワニス1の希釈液を導入し、外層に相当する二つの流路に、混合器18a、18cでそれぞれ得られたワニス2の希釈液をそれぞれ導入した。
【0119】
三層共押出ダイのリップから押出される液膜をステンレス製のエンドレスベルトに流延した。得られた液膜を130℃×100秒の条件で加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がしてテンタークリップに固定し、300℃×10秒、450℃×30秒で乾燥・イミド化させ、三層構造のポリイミドフィルムを得た。
【0120】
ワニス2の希釈液の粘度を粘度計で測定しながら、ワニス2を導入した混合器18a、18cへそれぞれ添加するDMFの量をそれぞれ変化させ、それぞれの条件で得られたフィルムの幅方向(650mm)に関する外層の厚みを反射分光膜厚計(大塚電子社製:FE−3000)を用いて測定した。外層の膜厚を測定しながら、ワニス2の希釈率を変化させ、最外層の膜厚分布が均一になるようなワニス2の希釈液の粘度を設定したところ、その値は560ポイズであった。次に、表4に示すように、混合器18c(混合器c)のワニス2の希釈液の粘度を560ポイズとし、混合器18a(混合器a)のワニス2の希釈液の粘度を300ポイズおよび700ポイズに変化させそれぞれの条件での膜厚分布を測定した。それぞれの結果を図9に示す。
【0121】
【表4】

【0122】
実施例4により、外層に供給するワニスの粘度を調整することにより、膜厚の分布を制御することが可能であり、最も膜厚分布幅を小さくする条件が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の第1実施態様である。
【図2】本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置に用いられるダイの縦断面である。
【図3】図2に示すダイの横断面である。
【図4(a)】本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の他の実施態様の要部拡大図である。
【図4(b)】本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の更に他の実施態様の要部拡大図である。
【図4(c)】本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の又更に他の実施態様の要部拡大図である。
【図5】本発明のポリイミド系化合物フィルムの製造装置の更に他の実施態様の要部拡大図である。
【図6】溶剤の添加によってワニスの粘度調整を行った場合のフィルムの膜厚分布を示すグラフである。
【図7】温度調整によってワニスの粘度調整を行った場合のフィルムの膜厚分布を示すグラフである。
【図8】溶剤の添加によってワニスの粘度調整を行った場合の多層フィルムの膜厚分布を示すグラフである。
【図9】溶剤の添加によってワニスの粘度調整を行った他の態様の場合の多層フィルムの膜厚分布を示すグラフである。
【図10】ポリイミド系化合物ワニスの固形分濃度と粘度の関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0124】
10:ポリイミド系化合物フィルムの製造装置
12:タンク
14:ダイ
16:供給管
18:混合器
20:溶剤タンク
21:導入口
22:押出ダイ
24:マニホールド
26:導入路
28:ランド
30:リップ
31:流路
32:粘度計
34:硬化剤添加ライン
36:押出ポンプ
38:流延装置
40:乾燥炉
42:焼成炉
44:巻取装置
46:マニホールド型多層共押出ダイ
47:フィードブロック式多層共押出ダイ
48:温度調節装置
49:熱交換用パイプ
50:温調槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系化合物と該ポリイミド系化合物の前駆体との群から選択される樹脂の溶液をダイに供給して拡幅、流延し、製膜するポリイミド系化合物フィルムの製造方法であって、前記溶液の粘度を、前記ダイに前記溶液を供給する供給路において調整するポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ダイが複数の被拡幅液をそれぞれ拡幅する複数の流路を備える多層ダイであり、前記供給路が各前記流路に対応して各該拡幅液を該流路に導入する液供給路から選択される請求項1に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記粘度の調整を、前記供給路中の前記溶液に溶剤を添加して行う請求項1又は2に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記溶剤が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンから選択される1又は複数の有機溶媒からなる請求項3に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記粘度の調整を、前記供給路中の前記溶液の温度を変化させて行う請求項1乃至4に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記供給路中の前記溶液の温度が、−20℃〜10℃に調整される請求項5に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記供給路中の前記溶液の粘度を測定し、得られた値を基に前記溶液の粘度を制御する請求項1乃至5に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造方法。
【請求項8】
ポリイミド系化合物と該ポリイミド系化合物の前駆体との群から選択される樹脂の溶液を蓄える容器と、
前記溶液を、拡幅、流延するダイと、
前記容器から前記ダイに、前記溶液を供給する供給路と、
前記供給路中の前記溶液の粘度を調整する粘度調整手段と
を備えたポリイミド系化合物フィルムの製造装置。
【請求項9】
前記粘度調整手段が、前記供給路中の前記溶液に溶剤を混合する混合器、及び/又は、前記供給路中の前記溶液の温度を変化させる温度調節装置である請求項8に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造装置。
【請求項10】
前記供給路中の前記樹脂の溶液の粘度を測定する粘度計が備えられた請求項8又は9に記載のポリイミド系化合物フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−103289(P2006−103289A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296900(P2004−296900)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】