説明

マイクロミラー素子およびマイクロミラーアレイ

【課題】2軸動作が可能なミラー素子をより小さな領域により多く配列できるようにする。
【解決手段】基板101の上に離間して配置されたミラー102と、ミラー102の一端を1つの連結部103を介して連結して基板101の上で支持する第1支持部104と、ミラー102を挟んで第1支持部104に対向する第2支持部105と、第2支持部105に一端が支持されて他端がミラー102の他端に各々1つの連結部106a,106bを介して連結する2つの第1可動梁107および第2可動梁108と、第1可動梁107のミラー102側の他端を基板101より離れる方向および基板101に近づく方向の選択された第1方向に変位させるための第1駆動電極109と、第2可動梁108のミラー102側の他端を上記第1方向に変位させるための第2駆動電極110とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信用の光スイッチング素子、計測機器、ディスプレイ、スキャナ、波長選択スイッチ等に使用されるマイクロミラー素子およびマイクロミラーアレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネット通信網などにおける基盤となる光ネットワークの分野では、多チャンネル化、波長分割多重(WDM)化および低コスト化を実現する技術として、光MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術が脚光を浴びており、光MEMS技術を用いた光スイッチが開発されている(特許文献1参照)。このMEMS型の光スイッチの構成部品として最も特徴的なものが、複数のマイクロミラー素子を配列したマイクロミラーアレイである。
【0003】
光スイッチは、光を電気信号に変換することなく、経路切り替えを可能にするものであり、また、光スイッチを用いれば、多重化された光であっても、これを波長ごとに分波することなく経路の切り替えが可能である。このような光スイッチは、例えば、使用している経路に障害が発生した際に別の経路に信号を振り分け、通信できる状態を維持するために用いられている。
【0004】
また、近年、多重化された光を波長毎に分波した後で分波した各々の波長の光の経路を個別に選択する波長選択スイッチが研究開発されているが、ここにもマイクロミラー素子が使用されている。
【0005】
以下、特許文献1に示されたマイクロミラー素子(マイクロミラーアレイ)について、図10を用いて説明する。ここでは、マイクロミラー素子を、ミラー基板とこれに対向配置された電極基板とから構成している。ミラー基板は、ミラーとして作用する複数の可動構造体と、この可動構造体をトーションばねなどのばね部材によって回動可能に支持する支持部材とを有する。また、電極基板には、ミラーとして作用する可動構造体に対応した複数の電極部が、土台となる基板の上に形成されている。
【0006】
図10は、ミラー基板および電極基板の構成を概略的に示す斜視図である。なお、図10は、主にマイクロミラーアレイの1構成単位であるマイクロミラー素子を部分的に示している。マイクロミラーアレイは、図10に示すマイクロミラー素子が、1次元的あるいは2次元的に配列されたものである。マイクロミラー素子は、ミラーが形成されたミラー基板1000と、電極が形成された電極基板1300とを備え、これらが平行に配設されている。
【0007】
ミラー基板1000は、板状の基部1010とリング状の可動枠1020と円板状のミラー1030とを備える。基部1010は、平面視略円形の開口を備える。可動枠1020は、基部1010の開口内に配置され、一対の連結部1011a,1011bにより基部1010に連結している。また、可動枠1020も、平面視略円形の開口を備えている。ミラー1030は、可動枠1020の開口内に配置され、一対のミラー連結部1021a,1021bにより可動枠1020に連結されている。また、基部1010の周辺部には、可動枠1020およびミラー1030を取り囲む枠部1040が形成されている。枠部1040は、絶縁層1050を介して基部1010に固定されている。
【0008】
連結部1011a,1011bは、可動枠1020の切り欠き内に設けられており、つづら折りの形状を有するトーションばねから構成され、基部1010と可動枠1020とを連結している。このように基部1010に連結された可動枠1020は、連結部1011a,1011bを通る回動軸(可動枠回動軸)を中心に、回動可能とされている。また、ミラー連結部1021a,1021bは、可動枠1020の切り欠き内に設けられており、つづら折りの形状を有するトーションばねから構成され、可動枠1020とミラー1030とを連結している。このように可動枠1020に連結されたミラー1030は、ミラー連結部1021a,1021bを通る回動軸(ミラー回動軸)を中心に回動可能とされている。なお、可動枠回動軸とミラー回動軸とは、互いに直交している。
【0009】
一方、電極基板1300は、板状の基部1310と基部1310の上面に突出する突出部1320と、突出部1320の周辺部に突出部1320を挟むように並設された一対の凸部1360aおよび凸部1360bを備えている。突出部1320は、角錐台の形状を有する第2テラス1322と、第2テラス1322の上面に形成された角錐台の形状を有する第1テラス1321と、第1テラス1321の上面に形成された角錐台の形状を有するピボット1330とから構成される。ピボット1330は、ミラー1030の中央部に対応して配置されている。
【0010】
また、突出部1320の外面を含む電極基板1300の上面には、対向するミラー基板1000のミラー1030と同心の円内に、扇形の電極1340a,電極1340b,電極1340c,電極1340dが形成されている。さらに、電極基板1300の突出部1320の周囲の凸部1360aおよび凸部1360bの内側には、配線1370が形成され、配線1370には、引き出し線1341a〜1341dを介して電極1340a〜1340dが接続されている。これら電極および配線は、電極基板1300の表面に形成された絶縁層1311の上に形成されている。
【0011】
上述した構成とされたミラー基板1000と電極基板1300とは、各々対応するミラー1030と電極1340a〜1340dとが対向配置され、基部1010の下面が、基部1310の凸部1360aおよび凸部1360bの上面に絶縁層1311を介して接合されマイクロミラー素子が形成される。
【0012】
このようなマイクロミラー素子においては、ミラー1030を接地し、電極1340a〜1340d間に正または負の電圧を与え、加えて電極1340a〜1340dの間に非対称な電位差を生じさせることで、ミラー1030を静電引力で吸引し、ミラー1030を任意の方向へ回動させることができる。
【0013】
また、上述したマイクロミラー素子から構成されるマイクロミラーアレイを用いることで、波長分割多重のための波長選択スイッチが構成できる。この波長選択スイッチの構成について、図11を用いて説明する。図11は、m波長多重WDM用の1入力n出力(m,nは2以上の整数)の分波型波長選択スイッチの構成例を示す斜視図である。
【0014】
この波長選択スイッチは、1本の入力側光ファイバ1101と、n本の出力側光ファイバ1102−1〜1102−nと、入力側光ファイバ1101の入力ポート1101aからの入力光を回折してm本の特定波長の光信号に分波する回折格子1103とを備える。また、回折格子1103により回折された最大m本の光信号を波長毎に、対応する出力側光ファイバ1102−1〜1102−nの出力ポート1102a−1〜1102a−nに反射するm個のマイクロミラー素子1104−1〜1104−mを配列したマイクロミラーアレイ1104を備える。
【0015】
この波長選択スイッチでは、図11の(a)に示すように、任意の波長の光信号に対応する例えばマイクロミラー素子のミラー1104−1をx軸回りに回動させ、回折されて当該ミラーに入射した光信号を反射して所定の出力ポートに結合させることにより、入力側光ファイバ1101から入力された最大m波長の光信号の所定の波長の光信号のみを、任意の出力側光ファイバ1102−1〜1102−nから出力させる。
【0016】
また、マイクロミラー素子のミラーをx軸と直交するy軸回りに回動させることにより、出力側光ファイバ1102−1〜1102−nの配列方向と直交する方向に回折した光信号を移動させ、いわゆる結合ずれが生じさせることにより、他の出力側光ファイバに光信号が漏れ込むことなくパワーを調節することができる。このように、波長選択スイッチは、単に特定の波長の光信号を任意の出力ポートから出力させるのみならず、その光信号のパワーも調節し、最大m波長の光信号全てのパワーを同等にするパワー等価機能も備えている。
【0017】
上述したような波長選択スイッチに用いられるマイクロミラーアレイの小型化を実現するには、マイクロミラー素子を高密度に配列する必要がある。このように、高集積するときには、光信号の透過帯域を十分確保するために、ミラーピッチに対するミラー幅の割合を80%以上とすることが望ましい。この割合は、フィルファクタと呼ばれている。フィルファクタを80%以上にするということは、例えば、ミラーピッチが100μmの場合、ミラーの間隔を20μm以下にしなければならないことを意味している。近年、光信号の信号速度が10Gbpsから40Gpsに上昇しており、将来的には信号速度のさらなる高速化が見込まれる現状では、ミラーの間隔は可能な限り小さいことが望ましい。
【0018】
しかしながら、上述した構成のマイクロミラー素子では、リング状の可動枠の開口内にミラーが配設されてるため、ミラーの間隔は、少なくとも可動枠の幅の2倍を必要とする。このため、ミラーの間隔をより小さくするためには、可動枠の幅を小さくすることになる。しかしながら、可動枠は、ミラーを支持する構造体でもあるので、強度を確保するためにある程度の幅が必要であり、細くすることが容易ではない。このため、可動枠を用いる上述したマイクロミラー素子では、高いフィルファクタを実現することが難しく、光信号の透過帯域を十分に確保することが困難である。
【0019】
上述した問題を解消する技術として、片持ち梁構造の可動電極を用い、ミラーの両端に連結部を介して上記可動電極を連結したマイクロミラー素子が提案されている(特許文献2参照)。このマイクロミラー素子では、支持部に一端が接続された少なくとも3つの可動電極(可動梁)を用い、このうち2つの可動電極をミラーの一端にばね部材(連結部)を介して接続し、残りの可動電極をミラーの他端にばね部材を介して接続している。また、各可動電極の可動する側に対向して配置された固定電極を備え、固定電極に対する電圧印加で発生する静電引力で、可動電極を変位させている。この可動電極の変位により、ミラーを回動させる。
【0020】
このマイクロミラー素子では、ミラーを挟んで対向配置される2組の可動電極の配置方向の第1回動軸と、これに直交する第2回動軸との2軸動作を可能としている。このマイクロミラー素子では、前述したマイクロミラー素子とは異なり、2軸動作をするために枠部を必要としないので、ミラーアレイとするときに、複数のマイクロミラー素子を前述したマイクロミラー素子に比較してより狭い間隔で配列させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2003−057575号公報
【特許文献2】特開2009−229916号公報
【特許文献3】特開2010−096996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上述したマイクロミラー素子は、ミラーを挟んで対向する2箇所に可動電極を配置するために、この方向に長くなる。このため、マイクロミラーアレイが占有する面積が大きくなり、マイクロミラーアレイの高集積化を阻害するものとなる。また、各可動電極の可動する側に対向して配置された固定電極の個数が少なくとも3つ必要となるが、マイクロミラーアレイのアレイ数が増大するに従い、これら固定電極への配線数が増大し、ワイヤーボンディング等による実装コストの増大や信頼性の低下が懸念される。
【0023】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、2軸動作が可能なマイクロミラー素子をより小さな領域により多く配列でき、かつ実装コストを低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係るマイクロミラー素子は、基板の上に離間して配置されたミラーと、ミラーの一端を1つの連結部を介して連結して基板の上で支持する第1支持部と、ミラーを挟んで第1支持部に対向する第2支持部と、第2支持部に一端が支持されて他端がミラーの他端に各々1つの連結部を介して連結する第1可動梁および第2可動梁と、第1可動梁のミラー側の他端を基板より離れる方向および基板に近づく方向の選択された第1方向に変位させるための第1駆動電極と、第2可動梁のミラー側の他端を第1方向に変位させるための第2駆動電極とを少なくとも備える。
【0025】
上記マイクロミラー素子において、第1駆動電極は、第1可動梁の平面に対向する平面部および第1可動梁の可動領域を挟む2つの側部から構成され、第2駆動電極は、第2可動梁の平面に対向する平面部および第2可動梁の可動領域を挟む2つの側部から構成されているようにしてもよい。
【0026】
上記マイクロミラー素子において、第1可動梁を挟んで第1駆動電極に対向配置された第1電界分離電極と、第2可動梁を挟んで第2駆動電極に対向配置された第2電界分離電極とを備えるようにしてもよい。また、第1電界分離電極は、第1可動梁の平面に対向する平面部および第1可動梁の可動領域を第1電界分離電極の側に延長した領域を挟む2つの側部から構成し、第2電界分離電極は、第2可動梁の平面に対向する平面部および第2可動梁の可動領域を第2電界分離電極の側に延長した領域を挟む2つの側部から構成してもよい。
【0027】
また、本発明に係るマイクロミラーアレイは、上述したマイクロミラー素子が複数配列されたマイクロミラーアレイであり、複数のマイクロミラー素子が、第1駆動電極および第2駆動電極の配列方向に配列され、配列方向に隣り合うマイクロミラー素子は、第1可動梁および第2可動梁が異なる側に配置されている。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、ミラーの他端に接続する2つの第1可動梁および第2可動梁によりミラーを動作させるようにしたので、2軸動作が可能なマイクロミラー素子をより小さな領域により多く配列でき、かつ実装コストを低減できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラー素子の構成を示す平面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラー素子の構成を示す断面図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラー素子の一部構成を示す斜視図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラーアレイの構成を示す平面図である。
【図2B】図2bは、本発明の実施の形態1における他のマイクロミラーアレイの構成を示す平面図である。
【図3】図3は、連結部103の構成を示す平面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2におけるマイクロミラー素子の構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2におけるマイクロミラー素子の一部構成を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2におけるマイクロミラー素子の一部構成を示す平面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2におけるマイクロミラー素子の動作を説明するための説明図である。
【図8】図8は、駆動電圧Vとミラーの回転(回動)角θとの関係を示す特性図である。
【図9】図9は、ミラーの回転角とdθ/dVとの関係を示す特性図である。
【図10】図10は、従来のマイクロミラー素子の構成を示す斜視図である。
【図11】図11は、ミラーを用いた分波型波長選択スイッチの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0031】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1Aは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラー素子の構成を示す平面図である。また、図1Bは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラー素子の構成を示す断面図である。また、図1Cは、本発明の実施の形態1におけるマイクロミラー素子の一部構成を示す斜視図である。
【0032】
このマイクロミラー素子は、基板101の上に離間して配置されたミラー102と、ミラー102の一端を1つの連結部103を介して連結して基板101の上で支持する第1支持部104と、ミラー102を挟んで第1支持部104に対向する第2支持部105と、第2支持部105に一端が支持されて他端がミラー102の他端に各々1つの連結部106a,106bを介して連結する2つの第1可動梁107および第2可動梁108とを備える。
【0033】
また、このマイクロミラー素子は、第1可動梁107のミラー102側の他端を基板101より離れる方向および基板101に近づく方向の選択された第1方向に変位させるための第1駆動電極109と、第2可動梁108のミラー102側の他端を上記第1方向に変位させるための第2駆動電極110とを備える。図1Aおよび図1Bでは、上記第1方向を、基板101に近づく方向としている。なお、例えば、第1支持部104,第2支持部105は、基板101の上に絶縁層121を介して形成されている。また、例えば、第1駆動電極109は、絶縁層121の下の基板101の上に形成された配線122に、絶縁層121を貫通するコンタクト配線123を介して接続している。また、基板101の図示しない領域には、上述した変位のための駆動信号を発生する駆動回路などが形成されている。
【0034】
上述した実施の形態1におけるマイクロミラー素子は、第1駆動電極109および第2駆動電極110を形成した電極基板と、連結部103,ミラー102,連結部106a,連結部106b,第1可動梁107,第2可動梁108などを形成したミラー基板とを、支持構造体を介して貼り合わせることで形成すればよい。
【0035】
ミラー基板は、例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板から形成すればよい。SOI基板は、シリコンからなる厚い基体部の上に埋め込み絶縁層を介して薄いシリコン層(SOI層)を備えたものであり、SOI層を加工することで、連結部103,ミラー102,連結部106a,連結部106b,第1可動梁107,第2可動梁108などの板状の構造体を形成すればよい。このとき、連結部103に接続する周辺部および第1可動梁107,第2可動梁108に接続する周辺部も同時に形成する。これら構造体を加工した後、基体部,埋め込み絶縁層などを除去すればよい。また、ミラー102に形成する反射膜は、所望とする金属を例えばスパッタ法や蒸着法などにより堆積することで形成すればよい。
【0036】
一方、電極基板は、よく知られたLSI集積回路など半導体装置の製造方法を用いることで形成可能である。また、主表面の結晶方位が(100)面の単結晶シリコン基板を、水酸化カリウムなどのアルカリ溶液でエッチング加工し、シリコン基板に所定の深さの凹部を形成することで、支持構造体を備える電極基板を形成するようにしても良い。よく知られているように、単結晶シリコンは、(111)面が、(100)面や(110)面に比べて著しくアルカリによるエッチング速度が小さい。この現象を利用することで支持構造体を形成することが可能である。このようにして形成した電極基板の各支持構造体に、連結部103に接続する周辺部および第1可動梁107,第2可動梁108に接続する周辺部を貼り合わせればよい。
【0037】
なお、個別に用意した支持構造体を用いるようにしても良い。例えば、半田バンプやめっきなどにより形成した支持構造体を用いるようにしても良い。また、ミラー部と電極部とを表面マイクロマシーニングにより、積層して一体的に形成する製造方法であっても良い。
【0038】
以下、本実施の形態におけるマイクロミラー素子におけるミラー102の回動動作について説明する。以下では、基板101の側とは反対の面のミラー102に反射面が形成されているものとする。このマイクロミラー素子では、まず、第1駆動電極109および第2駆動電極110の両方に駆動電圧を印加し、第1可動梁107および第2可動梁108を第1方向に変位させることで、ミラー102の反射面をy軸の−方向に向けることができる。これは、ミラー102を図中のx軸方向の回動軸を中心に回動させたことになる。
【0039】
また、例えば、第1駆動電極109のみに駆動電圧を印加し、第1可動梁107のみを第1方向に変位させることで、ミラー102の反射面を、x軸の+方向に向けることができる。なお、第1駆動電極109に、第2駆動電極110より大きな駆動電圧を印加しても同様である。また、駆動電圧の印加状態を第1駆動電極109と第2駆動電極110とで切り替えれば、ミラー102の反射面を、x軸の−方向に向けることができる。このように、本実施の形態1におけるマイクロミラー素子によれば、ミラー102の一端側に設けた2つの第1可動梁107および第2可動梁108で、ミラー102を2軸動作させることができる。
【0040】
上述した実施の形態1によれば、ミラー102の一方に2つの可動梁を備え、他方には可動梁を配置していないので、図1A,1B,1C中でy軸方向としているミラー102および可動梁の配列方向の長さを、両端に可動梁を設ける場合に比較して短くすることができる。この結果、本実施の形態によれば、2軸動作が可能なマイクロミラー素子が、より狭い領域により多く配列できるようになる。また、固定電極(駆動電極)の個数が2つと少ないため、マイクロミラーアレイのアレイ数を増大しても、それら固定電極への配線数が少なく済み、ワイヤーボンディング等による実装コストが低減でき、マイクロミラー素子の信頼性も維持される。
【0041】
なお、マイクロミラー素子は、図2Aの平面図に示すように配列してマイクロミラーアレイとすればよい。図2Aに示すように、一体に形成した枠部113の内側に、複数のマイクロミラー素子を配列する。枠部113の対向する2つの側部を、各々マイクロミラー素子の第1支持部104および第2支持部105とする。
【0042】
ここで、連結部103,連結部106a,106bについて説明する。なお、以下では、連結部103を代表として説明する。また、連結部103が連結する一方の接続点と他方の接続点とを結ぶ方向を「y軸方向」、連結部103の幅方向、すなわち連結部103を含む平面内においてy軸方向と直交する方向を「x軸方向」としている。
【0043】
連結部103は、x軸方向またはy軸方向と直交する断面が略矩形の形状を有し、図3に示すように、略四角形をy軸に対称に形成した略H字状の平面形状を有する。連結部103は、15個の部分131a,部分132a,部分133a,部分134a,部分135a,部分136a,部分137a,部分138,部分131b,部分132b,部分133b,部分134b,部分135b,部分136b,および部分137bから構成され、部分131aがミラー102に接続し、部分131bが第1支持部104に接続し、第1支持部104にミラー102を回動可能に連結している。
【0044】
なお、本願発明の連結部103は、図3に示す略H字状の形状に限定されない。y軸方向に直線状のトーションばねでも良く、x軸方向につづら折りの形状を有しても良い。
【0045】
図2Aの平面図では、マイクロミラー素子を一様に配列してマイクロミラーアレイとしたが、隣り合うミラー素子の可動梁が異なる側に配置されるように配列してもよい。例えば、図2Bに示すように、隣接するマイクロミラー素子の連結部103や第1可動梁107,第2可動梁108が接続する第1支持部104側と第2支持部105側とが、互いに異なるように配列する。ただし、マイクロミラー102の中心は同一直線上に配置されるように配列する。このように配列することにより、隣接したマイクロミラー素子の第1駆動電極109および第2駆動電極110からの静電気力により、第1可動梁107,第2可動梁108が影響を受けないため、マイクロミラーの回動角の制御性が向上する。すなわち、隣り合う素子間のクロストークの影響をさらに抑制することができる。
【0046】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図4は、本発明の実施の形態2におけるマイクロミラー素子の構成を示す斜視図である。このマイクロミラー素子は、基板(不図示)の上に離間して配置されたミラー402と、ミラー402の一端を1つの連結部403を介して連結して基板の上で支持する第1支持部(不図示)と、ミラー402を挟んで第1支持部に対向する第2支持部(不図示)とを備える。基板、第1支持部、および第2支持部は、図示していないが、前述した実施の形態1と同様である。
【0047】
また、このマイクロミラー素子は、第2支持部に一端が支持されて他端がミラー402の他端に各々1つの連結部406a,406bを介して連結する2つの第1可動梁407および第2可動梁408を備える。また、第1可動梁407のミラー402側の他端を基板より離れる方向および基板に近づく方向の選択された第1方向に変位させるための第1駆動電極409と、第2可動梁408のミラー402側の他端を上記第1方向に変位させるための第2駆動電極410とを備える。本実施の形態でも、基板に近づく方向を第1方向としている。なお、本実施の形態においても、前述した実施の形態1と同様に、複数のマイクロミラー素子を配列してマイクロミラーアレイとすることができる。
【0048】
また、本実施の形態では、図5の断面図に示すように、第1駆動電極409は、第1可動梁407の平面に対向する平面部409aおよび第1可動梁407の可動領域を挟む2つの側部409bから構成し、第2駆動電極410は、第2可動梁408の平面に対向する平面部410aおよび第2可動梁408の可動領域を挟む2つの側部410bから構成している。ここで、本実施の形態では、平面部および側部を一体に形成している。第1駆動電極や第2駆動電極の金属を、例えば、めっき法、スパッタ法、蒸着法などにより堆積することで形成すればよい。なお、図5は、図4の駆動電極形成領域におけるxz平面の断面を示す断面図である。
【0049】
このように、各駆動電極に側部を設けることで、複数のマイクロミラー素子を配列させたときに、マイクロミラー素子毎に可動梁を駆動するための電界を分離することができる。側部を備えることで、平面部からこれに隣接する可動梁へ向かう電気力線はほとんど遮蔽され、クロストークの影響を抑制することができる。このようなクロストークの抑制は、側部の高さが、初期状態での可動梁の高さ方向の位置と同じ程度である場合が最も効果的である。
【0050】
また、本実施の形態におけるマイクロミラー素子は、第1可動梁407を挟んで第1駆動電極409に対向配置された第1電界分離電極411と、第2可動梁408を挟んで第2駆動電極410に対向配置された第2電界分離電極412とを備える。各電界分離電極は接地してもよく、第1可動梁407,第2可動梁408およびミラー402と同電位としてもよい。電界分離電極を設けることで、複数のマイクロミラー素子を配列させたときに、マイクロミラー素子毎に可動梁方向への駆動電極からの漏れ電界を遮蔽することができる。これにより、隣り合う素子間のクロストークの影響をさらに抑制することができる。
【0051】
また、本実施の形態では、図5の断面図に示すように、第1電界分離電極411は、第1可動梁407の平面に対向する平面部411aおよび第1可動梁407の可動領域を第1電界分離電極411の側に延長した領域を挟む2つの側部411bから構成し、第2電界分離電極412は、第2可動梁408の平面に対向する平面部412aおよび第2可動梁408の可動領域を第2電界分離電極412の側に延長した領域を挟む2つの側部412bから構成している。本実施の形態では、本実施の形態では、平面部および側部を一体に形成している。第1電界分離電極411および第2電界分離電極412の金属を、例えば、めっき法,スパッタ法,蒸着法などにより堆積することで形成した基板をミラー基板に接合すればよい。このようにすることで、駆動電極から見て可動梁の側に漏れ出す電界をより効率よく遮蔽することができる。
【0052】
以下、本実施の形態におけるマイクロミラー素子におけるミラー402の回動動作について説明する。以下では、図6の平面図に示すように、第1可動梁407および第2可動梁408とミラー402とが配列されている方向に対して直交して基板(不図示)の平面に平行で、連結部403を通る軸を主軸601とし、基板の平面に平行で、連結部403で主軸601に直交する軸を副軸602とする。主軸601は、x軸に平行であり、副軸602は、y軸に平行である。また、基板の側とは反対の面のミラー402に反射面が形成されているものとする。また、第1駆動電極409に印加する駆動電圧をV1とし、第2駆動電極410に印加する駆動電圧をV2とする。
【0053】
まず、V1=V2とすることで、第1可動梁407および第2可動梁408を基板の側(第1方向)に変位させれば、ミラー402の反射面をy軸の−方向に向けることができる。これは、ミラー402を主軸601で回動させたことになる。
【0054】
また、V1<V2とすることで、第1可動梁407に対して第2可動梁408の方を
第1方向により変位させることで、図7の斜視図に示すように、ミラー402の反射面701を、x軸の−方向に向けることができる。これは、ミラー402を、副軸602で回動させたことになる。また、V1>V2とすれば、ミラー402の反射面701を、x軸の+方向に向けることができる。このように、本実施の形態2におけるマイクロミラー素子においても、ミラー402の一端側に設けた2つの第1可動梁407および第2可動梁408で、ミラー402を2軸動作させることができる。
【0055】
ここで、ミラー402のy軸方向の長さ(ミラー長)を600μmとし、ミラー402のx軸方向の長さ(ミラー幅)を200μmとし、第1可動梁407と第2可動梁408との配列間隔を108μmとしたときのミラー動作のシミュレーション結果について図8および図9を用いて説明する。図8は、駆動電圧Vとミラーの回転(回動)角θとの関係を示し、図9は、回転角とdθ/dVとの関係を示している。また、図8,図9において、(a)は、2つの駆動電極に同じ駆動電圧を印加してミラーを主軸で回転させた場合の変化を示している。また、(b)は、2つの駆動電圧に異なる駆動電圧を印加してミラーを副軸で回転させた場合の変化を示している。この副軸回転動作では、2つの駆動電極に印加する電圧の差を駆動電圧としている。
【0056】
図8,図9から明らかなように、副軸回転動作の方が主軸回転動作に対してより大きな回転角が得られている。例えば、図8に示すように、駆動電圧を180Vとしたとき、主軸回転動作では回転角が2.3deg.であるが、副軸回転動作では、6.3deg.の回転が得られる。
【0057】
上述した実施の形態2によれば、ミラー402の一方に2つの可動梁を備え、他方には可動梁を配置していないので、図4の中でy方向としているミラー402および可動梁の配列方向の長さを、両端に可動梁を設ける場合に比較して短くすることができる。この結果、本実施の形態によれば、2軸動作が可能なマイクロミラー素子が、より狭い領域により多く配列できるようになる。また、固定電極の個数が2つと少ないため、マイクロミラーアレイのアレイ数を増大しても、それら固定電極への配線数が少なく済み、ワイヤーボンディング等による実装コストが低減でき、マイクロミラー素子の信頼性も維持される。
【0058】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、ミラーと対向する固定電極を有しないため、ミラーの平面形状を長方形としたが、これに限るものではない。
【0059】
また、上述した実施の形態では、駆動電極を基板の側に配置するようにしたが、これに限るものではない。可動梁が基板より離れる方向に変位するように、基板から見て可動梁の上方に駆動電極を配置してもよい。また、連結部は、略H字状に限るものではなく、例えば、つづら折りの形状を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
101…基板、102…ミラー、103…連結部、104…第1支持部、105…第2支持部、106a,106b…連結部、107…第1可動梁、108…第2可動梁、109…第1駆動電極、110…第2駆動電極、121…絶縁層、122…配線、123…コンタクト配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に離間して配置されたミラーと、
前記ミラーの一端を1つの連結部を介して連結して前記基板の上で支持する第1支持部と、
前記ミラーを挟んで前記第1支持部に対向する第2支持部と、
前記第2支持部に一端が支持されて他端が前記ミラーの他端に各々1つの連結部を介して連結する第1可動梁および第2可動梁と、
前記第1可動梁の前記ミラー側の他端を前記基板より離れる方向および前記基板に近づく方向の選択された第1方向に変位させるための第1駆動電極と、
前記第2可動梁の前記ミラー側の他端を前記第1方向に変位させるための第2駆動電極と
を少なくとも備えることを特徴とするマイクロミラー素子。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロミラー素子において、
前記第1駆動電極は、前記第1可動梁の平面に対向する平面部および前記第1可動梁の可動領域を挟む2つの側部から構成され、
前記第2駆動電極は、前記第2可動梁の平面に対向する平面部および前記第2可動梁の可動領域を挟む2つの側部から構成され
ていることを特徴とするマイクロミラー素子。
【請求項3】
請求項1または2記載のマイクロミラー素子において、
前記第1可動梁を挟んで前記第1駆動電極に対向配置された第1電界分離電極と、
前記第2可動梁を挟んで前記第2駆動電極に対向配置された第2電界分離電極と
を備えることを特徴とするマイクロミラー素子。
【請求項4】
請求項3記載のマイクロミラー素子において、
前記第1電界分離電極は、前記第1可動梁の平面に対向する平面部および前記第1可動梁の可動領域を前記第1電界分離電極の側に延長した領域を挟む2つの側部から構成され、
前記第2電界分離電極は、前記第2可動梁の平面に対向する平面部および前記第2可動梁の可動領域を前記第2電界分離電極の側に延長した領域を挟む2つの側部から構成されていることを特徴とするマイクロミラー素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の前記マイクロミラー素子が複数配列されたマイクロミラーアレイであって、
複数の前記マイクロミラー素子が、前記第1駆動電極および前記第2駆動電極の配列方向に配列され、
配列方向に隣り合う前記マイクロミラー素子は、前記第1可動梁および前記第2可動梁が異なる側に配置されていることを特徴とするマイクロミラーアレイ。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−88492(P2013−88492A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226524(P2011−226524)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】