説明

マイクロリアクタ及び反応生成物の製造方法

【課題】スラグを乱すことなく気液界面の面積を拡大するマイクロリアクタを提供する。
【解決手段】互いに気液界面又は液液界面を形成する流体試料3,4が交互に供給される供給流路10と、供給流路10を介して供給された試料3,4が交互に連続するスラグを形成するスラグ形成流路11と、スラグ形成流路11よりも幅広に形成され、光を照射することにより、試料の界面において化学反応を進行させる反応流路12と、スラグ形成流路11と反応流路12との間に介在し、一端をスラグ形成流路11と連続され、他端を反応流路12と連続され、漸次拡幅された拡幅部20と、反応流路12から連続し、反応した試料を排出する排出流路13とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液界面や液液界面において反応生成物を製造するマイクロリアクタ及び、マイクロリアクタを用いた反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気相と液相、液相と液相の界面において化学反応を起こし、反応生成物を得る装置が用いられている。気液反応によって所定の化合物を生成する装置としては、例えば図6に示すように、液体試料100がポンプ101によって供給されるとともに、反応気体102が供給される供給部103と、供給部103と連続し、液体試料と反応気体とが交互に連続するスラグが形成され、液体試料と反応気体との気液界面で化学反応が進行する反応管104と、反応管104を流れるスラグに対して紫外線を照射する高圧水銀ランプ105等の照射手段とを備える。
【0003】
供給部103は、ポンプ101とバルブ106とが制御されることにより、液体試料と反応気体とが交互に供給され、スラグが形成される。反応管104は、ガラス管などを用いて形成され、ランプの外周を巻回するように配設されることで、管内を流れるスラグに対して紫外線を照射し、これによる化学反応を進行させる流路を構成する。
【0004】
また、図6に示す装置では大掛かりとなることから、図7に示すように、超微細加工技術を用いることにより、気液界面や液液界面において化学反応を行う流路を1チップ上に構成したマイクロリアクタが開発されている。図7に示すマイクロリアクタ109は、例えば、シリンジ110に接続され、液体試料が供給される液体流路111と、シリンジ112に接続され、反応気体が供給される気体流路113と、これら液体流路111及び気体流路113とが合流することにより液体試料と反応気体とが交互に供給される供給流路114と、供給流路114と連続し、液体試料と反応気体とが交互に連続するスラグが形成されるとともに紫外線照射装置116から光線が照射されることにより、液体試料と反応気体との気液界面で化学反応が進行する反応流路115とが、基板に形成されている。
【0005】
このようなマイクロリアクタにおいては、反応流路において液体試料と反応気体とが反応することから、できるだけ長く反応流路を確保することが求められる。そのため、図8に示すように、2つのマイクロリアクタ117,118を連結管119によって連結し、反応流路を長くする構成も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−142242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、2つの反応流路を連結管119によって連結すると、スラグが不安定となってしまう。マイクロリアクタは、液体試料と反応気体との気液界面で化学反応が進行することから、長く確保された反応流路においてスラグを安定して搬送することが求められる。すなわち、図9に示すように、反応流路内においてスラグが乱れ、液体試料が前後の液体試料と一体化すると、気液界面の面積が減少し、反応が促進されなくなる。このため、マイクロリアクタは、反応流路を長く設けると共に、スラグを乱すことなく安定して流すことが求められる。
【0008】
ここで、スラグを安定して流すためには、反応流路内における圧力のバラツキをできるだけ無くし、また、供給流路における圧力変動が反応流路に伝搬した場合にも当該圧力変動に対する耐性を上げる必要がある。このため、反応流路は、できるだけ細く形成することが望ましい。流路を細くすることにより、スラグが細長く形成されるため、圧力変動が生じた場合にも長手方向に伸縮することで圧力のバラツキを吸収でき、また幅方向へ乱れがなく、反応気体を介して前後する液体試料同士が一体化することもない。
【0009】
しかし、反応流路を細くすると、液体試料と反応気体との気液界面の面積が減少し、反応を効率よく促進させることができない。また、細い流路においては流速が早いため、十分に反応することなく排出されるおそれもある。さらに、連結管119を介して2つのマイクロリアクタを連結すると反応経路が分断されスラグが不安定となることから、一枚の基板内に反応流路を構成する必要があるが、限られた基板面積内において反応流路を細長く取るにも限界があった。
【0010】
そこで、本発明は、限られた基板面積内において、気液界面や液液界面における化学反応を効率よく行うことができ、かつスラグを安定して流すことができるマイクロリアクタ及び、このマイクロリアクタを用いた反応生成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明に係るマイクロリアクタは、互いに気液界面又は液液界面を形成する流体試料が交互に供給される供給流路と、上記供給流路を介して供給された上記試料が交互に連続するスラグを形成するスラグ形成流路と、上記スラグ形成流路よりも幅広に形成され、光を照射することにより、上記試料の界面において化学反応を進行させる反応流路と、上記スラグ形成流路と上記反応流路との間に介在し、一端を上記スラグ形成流路と連続され、他端を上記反応流路と連続され、漸次拡幅された拡幅部と、上記反応流路から連続し、反応した試料を排出する排出流路とを有する。
【0012】
また、本発明に係る反応生成物の製造方法は、互いに気液界面又は液液界面を形成する流体試料が交互に供給される供給工程と、供給された上記試料が交互に連続するスラグを形成するスラグ形成工程と、光を照射することにより、上記試料の界面において反応を進行させる反応工程と、上記反応した試料を排出する排出工程とを有し、上記スラグは、上記スラグ形成工程と上記反応工程との間に、流路が漸次拡幅された拡幅部を流れることにより、上記反応工程において上記スラグ形成工程よりも上記流体試料の界面が拡大されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応流路とスラグ形成流路との間に介在する拡幅部20が、スラグ形成流路から反応流路にかけて漸次、流路幅が広がっていく。したがって、本発明によれば、スラグ形成流路から反応流路にかけて圧力の急激な変動を防止し、スラグを壊すことなく細く長い流体試料のスラグ形状を太く短い形状に変形させることができる。これにより、本発明によれば、スラグを安定した状態で流体試料の界面の断面積を広げ、かつ、スラグの流速を遅くすることで、反応効率、及び収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るマイクロリアクタを示す斜視図である。
【図2】拡幅部を介して連続するスラグ形成流路及び反応流路を示す平面図である。
【図3】反応流路及び排出流路を示す平面図である。
【図4】2層構造のマイクロリアクタを示す斜視図である。
【図5】拡幅部によって反応流路の直進部が連続されている構成を示す平面図である。
【図6】従来の気液反応又は液液反応を行う装置構成を示す図である。
【図7】従来のマイクロリアクタの構成を示す図である。
【図8】従来の他のマイクロリアクタの構成を示す図である。
【図9】従来のマイクロリアクタにおいて、スラグが乱れている状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が適用されたマイクロリアクタ及び、このマイクロリアクタを用いた反応生成物の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
本発明が適用されたマイクロリアクタ1は、図1、図2に示すように、矩形状の基板2の内部に、液体試料3と反応気体4とによるスラグ、又は性状の異なる液体試料3同士によるスラグが流される小径流路が設けられるとともに、一面側から紫外線等の光線が照射されることにより、スラグの気液界面又は液液界面において化学反応を進行させるものである。以下では、気液界面又は液液界面を形成する流体試料として、液体試料3及び反応気体4を化学反応させる場合を例に説明するが、マイクロリアクタ1は、性状が異なり混合することなくスラグを形成する液体試料3同士を反応させる場合にも用いることができる。
【0017】
基板2は、例えば後述する各流路が形成された2枚のガラスが貼り合わされることにより形成される。あるいは、基板2は、表面に各流路が形成されたガラスと、天板となるガラスが貼り合わされることにより形成される。流路は、エッチングや研削等の微細加工技術を用いて形成される。
【0018】
基板2には、互いに気液界面を形成する液体試料3及び反応気体4が交互に供給される供給流路10と、供給流路10を介して供給された液体試料3及び反応気体4が交互に連続するスラグを形成するスラグ形成流路11と、スラグ形成流路11と連続し、光線が照射されることにより、気液界面において反応を進行させる反応流路12と、反応流路12と連続し、反応生成物を排出する排出流路13とを有する。
【0019】
[供給流路10]
供給流路10は、液体試料3が供給される第1の供給路10aと、反応気体4が供給される第2の供給路10bと、これら第1,第2の供給路10a,10bが合流する合流路10cとを備え、略Y字状に形成されている。第1,第2の供給路10a,10bは、それぞれ基板2の上面に形成された開口15,16を介して外方に臨まされている。また、合流路10cは、スラグ形成流路11と連続されている。
【0020】
第1の供給路10aは、開口15を介して反応気体4を注入するシリンジ17が連結され、シリンジ17の操作に応じて所定の圧力で反応気体4が合流路10cに注入される。第2の供給路10bは、開口16を介して液体試料3を注入するシリンジ18が連結され、シリンジ18の操作に応じて所定の圧力で液体試料3が合流路10cに間欠的に注入される。供給流路10は、合流路10cに流れる反応気体4中に、間欠的に液体試料3が注入されることにより、液体試料3と反応気体4とが交互に連続して供給される。
【0021】
ここで、第1の供給路10a、第2の供給路10b及び合流路10cは、いずれも同一深さ、同一幅で形成され、例えば深さ0.3mm、幅0.3mmに形成されている。これにより、供給流路10は、第1の供給路10aにおいて反応気体4が受ける圧力や第2の供給路10bにおいて液体試料3が受ける圧力と、合流路10cにおいて液体試料3及び反応気体4が受ける圧力との差が少なくなり、安定して液体試料3と反応気体4とが交互に連続して供給される。
【0022】
[スラグ形成流路11]
スラグ形成流路11は、合流路10cより基板2の幅方向の一側縁に向かい、さらに当該一側縁を長手方向に亘って形成されている。スラグ形成流路11は、液体試料3と反応気体4とが交互に連続するスラグを安定して形成、搬送するものであり、後述する反応流路12よりも幅が細く形成されている。
【0023】
スラグ形成流路11は、幅が細く形成されることにより、スラグが細長く形成される。したがって、スラグ形成流路11は、供給流路10において圧力変動が生じた場合にも、スラグが長手方向に伸縮することで圧力のバラツキを吸収でき、また幅方向への乱れがなく、反応気体4を介して前後する液体試料3同士が一体化することもない。
【0024】
これにより、マイクロリアクタ1は、供給流路10と反応流路12との間に、幅狭でかつ長さを有するスラグ形成流路11を設けることにより、細長く安定したスラグを反応流路12に送り出すことができる。なお、スラグ形成流路11は、供給流路10と同一の深さ及び同一の幅を有し、例えば深さ0.3mm、幅0.3mmに形成されている。
【0025】
[反応流路12]
反応流路12は、スラグの気液界面に紫外線等の光線を照射させることにより、当該界面において化学反応を進行させる流路である。反応流路12は、反応に供する長さをできるだけ長く確保するために、基板2の長手方向に亘って直進する直進部12aが幅方向に亘って平行に複数形成され、隣接する直進部12aの端部同士が湾曲部12bによって連続され、これにより、基板2の全面に亘って蛇行するように形成されている。
【0026】
また、反応流路12は、直進部12a及び湾曲部12bがともに同一深さ、同一幅で形成され、これにより圧力の変動を抑え、スラグが乱れることなく、安定した搬送を可能としている。すなわち、反応流路12は、直進部12aを基板2の長手方向に亘って設けることで、圧力の変動が生じない直進部分を長く設けることができ、かつ湾曲部12bを直進部12aと同一幅に形成することで、圧力の変動を抑えながらスラグを湾曲させ、方向転換させることができる。
【0027】
この反応流路12は、スラグ形成流路11よりも幅広に形成されている。これにより、マイクロリアクタ1は、スラグの気液界面の断面積を広げ、かつ、スラグの流速を遅くすることで気液の接触時間及び紫外線の照射時間を増加させ、気液反応を効率よく進めることができる。したがって、マイクロリアクタ1は、高い収率で気液反応生成物を得ることができる。
【0028】
[拡幅部20]
反応流路12とスラグ形成流路11とは拡幅部20を介して連続されている。拡幅部20は、スラグ形成流路11から反応流路12にかけて漸次、流路幅を広げていくことで、スラグを壊すことなく液体試料3及び反応気体4の形状を太く短く変形させる流路である。拡幅部20は、一端側をスラグ形成流路11と同じ幅に形成され、他端側を反応流路12と同じ幅に形成され、漸次拡幅する。これにより、拡幅部20は、スラグ形成流路11から反応流路12にかけて圧力の急激な変動を防止し、スラグを安定した状態で気液界面の断面積を広げ、かつ、スラグの流速を遅くすることができる。
【0029】
このような拡幅部20は、例えば一端側がスラグ形成流路11と同じ深さ0.3mm、幅0.3mmに形成され、他端側が、反応流路12と同じ深さ0.3mm、幅0.5mmに形成される。このように、マイクロリアクタ1は、供給流路10、スラグ形成流路11、拡幅部20、反応流路12にかけて同じ深さ(0.3mm)とすることで、幅の制御のみで、各流路をエッチング等を用いてにより容易に形成できる。
【0030】
拡幅部20は、それぞれ基板20の幅方向に亘って平行に隣接して形成されているスラグ形成流路11と反応流路12の各端部を連続させる湾曲形状に形成されている。すなわち、スラグを構成する液体試料3及び反応気体4は、拡幅部20を湾曲しながら漸次、太く短く変形していく。
【0031】
ここで、拡幅部20は、スラグ形成流路11から反応流路12にかけて湾曲することにより、スラグの流速を減速させる。そして、拡幅部20は、スラグを減速させた状態で漸次拡幅させていくため、圧力の変動によるスラグの乱れを抑え、スラグを安定した状態で気液界面の断面積を広げ、かつ、スラグの流速を遅くすることができる。
【0032】
また、拡幅部20は、互いに平行に形成されているスラグ形成流路11と反応流路12の各端部を連続させるために180°に湾曲する。これにより、スラグを最大限減速させることができる。スラグは、漸次拡幅する拡幅部20を通過することで減圧されるが、その際に、湾曲形状によって減速されるため、圧力の急激な変動が防止され、前後の液体試料3同士が連結することもなく、安定して細く長い形状から太く短い形状へ変形される。
【0033】
[排出流路]
反応流路12と連続し、反応生成物を排出する排出流路13は、図3に示すように、基板2の幅方向の他端側に設けられた反応流路12の先端から略90°に折れ曲がる折り曲げ部24を介して、基板2の幅方向の一端側に向かって形成されている。また、排出流路13は、反応流路12と連続する一端と反対側の他端が、基板2の下面に形成された開口25より外方に臨まされている。さらに、排出流路13は、反応流路12と同じ深さで、かつ反応流路12よりも細く形成され、例えば、反応流路12が深さ0.3mm、幅0.5mmであるのに対し、排出流路13は深さ0.3mm、幅0.3mmに形成されている。
【0034】
排出流路13は、反応流路12よりも細く形成されることにより、スラグを安定した状態で搬送し、開口25より気液反応生成物を排出することができる。すなわち、排出流路13は、開口25より外方に臨まされているため、内部の圧力が開口25より開放されることから、圧力変動が生じやすくスラグが不安定となる。そして、この排出流路13の圧力変動が反応流路12に伝搬すると、反応流路12においても圧力バランスが崩れ、液体試料3同士が一体化するおそれがある。
【0035】
そこで、排出流路13は、反応流路12よりも細く形成することで、圧力変動を極力抑え、反応流路12への伝搬を防止することができる。これにより、マイクロリアクタ1は、反応流路12の最後まで、気液界面の断面積の広いスラグを安定して搬送することができ、かつ、スラグの流速を遅くすることで気液の接触時間及び紫外線の照射時間を増加させることができる。
【0036】
また、排出流路13は、反応流路12と折り曲げ部24を介して連続されているため、開口25からの圧力バランスの変動によるスラグの変形が反応流路12に伝搬することをさらによく防止することができる。折り曲げ部24は、一端を反応流路と連続され、他端を排出流路13と連続され、漸次幅狭となるように湾曲される。したがって、反応流路12から折り曲げ部24へ流れるスラグは、圧力の急激な変動もなく、安定した状態で排出流路13へ流出する。
【0037】
したがって、マイクロリアクタ1は、反応流路12よりも細い排出流路13を、折り曲げ部24を介して設けることにより、反応流路12におけるスラグ流を安定させ、気液反応の効率を向上させるとともに、高い収率を実現することができる。
【0038】
[反応生成物の製造工程]
次いで、マイクロリアクタ1を用いた反応生成物の製造工程について説明する。先ず、反応気体4が収納されたシリンジ17を、基板2の開口15を介して第1の供給路10aに接続し、液体試料3が収納されたシリンジ18を開口16を介して第2の供給路10bに接続する。そして、シリンジ17を操作することにより、第1の供給路10aより合流路10cに反応気体4を注入するとともに、シリンジ18を操作することにより、第2の供給路10bより合流路10cに間欠的に液体試料3を注入する。
【0039】
供給流路10は、合流路10cに流れる反応気体4中に、間欠的に液体試料3が注入されることにより、液体試料3と反応気体4とが交互に連続して供給され、これにより、合流路10cと連続するスラグ形成流路11には、液体試料3と反応気体4とが交互に連続するスラグ流が形成されていく。
【0040】
ここで、供給流路10の第1、第2の供給路10a,10b、合流路10c及びスラグ形成流路11は、いずれも、同一深さ(例えば0.3mm)、同一幅(例えば0.3mm)で形成することにより、流路内の圧力変動が抑えられ、スラグを安定して形成、搬送することができる。また、同一深さとすることで、基板2のエッチング等により流路を形成する際にも、幅の制御のみで形成することができる。
【0041】
スラグ形成流路11を流れるスラグ流は、拡幅部20を経てスラグ形成流路11よりも幅広の反応流路12に流入し、これにより、スラグを構成する液体試料3及び反応気体4の形状が太く短く変形される。また、反応流路12には、基板2の上面側から紫外線等の光線が照射され、気液界面において化学反応が進行する。
【0042】
このとき、マイクロリアクタ1は、流路幅が漸次拡幅する拡幅部20を経ることにより、圧力の急激な変動が防止され、スラグ流を安定した状態で反応流路12における液体試料3及び反応気体4の気液界面の面積を拡大することができる。また、マイクロリアクタ1は、拡幅部20が湾曲形状に形成されることにより、スラグの流速が減速された状態で流路幅が漸次拡幅されていく。したがって、圧力の急激な変動によるスラグの乱れを抑え、スラグを安定した状態で気液界面の断面積を広げ、かつ、スラグの流速を遅くすることができる。
【0043】
このように、反応流路12は、スラグを乱すことなく、気液界面における接触面積を拡大するとともに、スラグの流速を減速することで、気液の接触時間及び紫外線の照射時間を増加させ、気液反応を効率よく進めることができる。したがって、マイクロリアクタ1は、高い収率で気液反応生成物を得ることができる。
【0044】
反応流路12において生成された反応生成物は、排出流路13に流れ、開口25より排出される。排出流路13は、開口25が開放されることで圧力がゼロとなるが、反応流路12よりも細く形成されているため、圧力変動によるスラグの乱れを抑え、反応流路12へ圧力変動が伝搬することを防止することができる。また、排出流路13は折り曲げ部24を介して反応流路12と連続されているため、これによっても圧力変動の伝搬を防止することができる。
【0045】
[気液反応の具体例]
次いで、マイクロリアクタ1を用いた反応例について説明する。
【0046】
マイクロリアクタ1を用いた気液反応としては、例えば、芳香環上メチル基の光酸化反応が挙げられる。この光酸化反応は、4-tert-ブチルトルエンと酸素とを、触媒量のLiBr存在下において紫外線照射することにより反応させ、芳香環上メチル基が酸化した4-tert-ブチル安息香酸を生成させる気液反応である。
【0047】
より具体的に、この気液反応では、先ず、第1の供給路10aから酢酸エチルに溶解した4-tert-ブチルトルエンを、第2の供給路10bから酸素を、それぞれ所定の圧力で交互に供給する。供給された4-tert-ブチルトルエンと酸素とは、合流路10cを介して合流し、スラグ形成流路11において4-tert-ブチルトルエンと酸素とが交互に連続するスラグを形成し、搬送される。
【0048】
4-tert-ブチルトルエンと酸素とからなるスラグ流は、拡幅部20を経て反応流路12に流れることにより、細く長い形状から太く短い形状へ安定的に変形される。これにより、4-tert-ブチルトルエンと酸素とからなるスラグ流は、気液界面の断面積が広がり、かつ、流速が遅くなることで4-tert-ブチルトルエンと酸素との接触時間及び紫外線の照射時間を増加させ、反応を効率よく進めることができる。したがって、マイクロリアクタ1は、高い収率で芳香環上メチル基が酸化した4-tert-ブチル安息香酸を得ることができる。
【0049】
[液液反応の具体例]
また、マリクロリアクタ1は、水系と油系等の性状が異なり互いに混ざり合わず、スラグ流を形成する液体試料同士の液液反応に用いることもできる。
【0050】
マイクロリアクタ1を用いた液液反応としては、例えば、酸素水と有機エステル類等の液体試料とによる光酸化反応を挙げることができる。具体的には、酸素水と有機エステル類等の液体試料とを、それぞれ第1,第2の供給路10a,10bから所定の圧力で供給し、スラグ形成流路11にて酸素水と液体試料とが交互に連続するスラグを形成させ搬送する。
【0051】
酸素水と液体試料とからなるスラグ流は、拡幅部20を経て反応流路12に流れることにより、細く長い形状から太く短い形状へ安定的に変形される。これにより、酸素水と液体試料とからなるスラグ流は、液液界面の断面積が広がり、かつ、流速が遅くなることで、反応流路12にて光線を照射することにより、スラグの液液界面にて酸化反応を進行させる。このようにして酸素水と液体試料とを液液界面にて反応させることにより、酸素水中に含まれる酸素が有機エステル類を含有する液体試料の表面で反応するようになる。
【0052】
また、液液反応の他の例として、各種のアクリルモノマーと、水系の液体試料に含有させた光重合開始剤とによる光重合反応が挙げられる。この場合においても、アクリル酸エステル等のアクリルモノマーと、水系の液体試料に含有させた光重合剤とを、それぞれ第1,第2の供給路10a,10bから所定の圧力で供給し、スラグ形成流路11にてアクリルモノマーと光重合開始剤とが交互に連続するスラグを形成させ搬送する。
【0053】
アクリルモノマーと光重合開始剤とからなるスラグ流は、拡幅部20を経て反応流路12に流れることにより、同様に液液界面の断面積が広がり、かつ、流速が遅くなることで、反応流路12にて紫外線等の光線を照射することにより、スラグの液液界面にて光重合開始剤によるラジカルを生成させ、アクリルモノマーのラジカル重合反応を進行させる。このようにしてスラグの液液界面にて反応を進行させ、アクリルモノマーの表面を重合させた後に分取することにより、分取した粒子同士の凝集を抑制することができ、その後本重合させることができる。
【0054】
また、同様の機構により、例えば、重合開始剤を含有させた水系の溶液と、この媒体に難溶なモノマーと界面活性剤とを含有させた液体試料との光重合によるエマルション化反応にも適用することができる。
【0055】
[その他]
なお、気液反応では、反応が進むにつれて反応気体4が減少するため、反応流路12の下流では反応生成物の溶液と少量の反応気体4とからなるスラグ流において、反応生成物の溶液が前後の溶液と連結してしまうなど、不安定となるおそれがある。
【0056】
そこで、マイクロリアクタ1は、液体試料3、反応気体4及び反応生成物と反応しない不活性ガスを反応気体4とともに供給してもよい。これにより、液体試料3と反応気体4との反応が進行した場合にも、反応生成物の溶液と不活性ガスとからなるスラグが形成される。したがって、反応流路12の下流においても圧力変動を極力抑えることができ、反応流路内におけるスラグ流の乱れによる液体試料3同士の連結、これによる気液界面の面積減少、反応効率の低下等を防止することができる。
【0057】
また、本発明が適用されたマイクロリアクタは、上述した構成に限らず、例えば図4に示すように、反応流路12が基板2の厚さ方向に亘って多層化されていてもよい。2層構造とした場合、基板2には、上層の反応流路30と、下層の反応流路31と、上層及び下層の反応流路30,31を連続させる連結流路32が形成される。上層及び下層の反応流路30,31は、上記反応流路12と同様に、基板2の長手方向に亘って直進する直進部30a,31aが幅方向に亘って平行に複数形成され、隣接する直進部30a,31aの端部同士が湾曲部30b,31bによって連続され、これにより、基板2の全面に亘って蛇行するように形成されている。
【0058】
上層の反応流路12は、上記反応流路12と同様に、一端を拡幅部20と連続され、基板2の上層面内を蛇行し、基板2の幅方向の他端側の終端にて連結流路32を介して下層の反応流路31と連続されている。下層の反応流路31は、一端を連結流路と連続し、基板2の下層面内を蛇行し、基板2の幅方向一端側の終端にて排出流路13と連続されている。
【0059】
上層及び下層の反応流路30,31は、直進部30a,31aが互いに重畳しないように形成され、基板2の上面側から照射される紫外線等の光線を上層の反応流路30が遮ることなく下層の反応流路31にも照射可能とされている。
【0060】
このように、反応流路を多層化することにより、気液反応や液液反応が進行する流路を長くすることができ、限られた基板スペース内において、反応効率及び収率を向上させることができる。
【0061】
また、本発明が適用されたマイクロリアクタは、図5に示すように、スラグ形成流路11と反応流路12との間のみならず、反応流路12の直進部12a間を拡幅部20を介して漸次拡幅していってもよい。すなわち、マイクロリアクタ1は、スラグ形成流路11から反応流路12にかけて拡幅部20を介することにより流路幅が拡幅されるとともに、反応流路12の複数の直進部12aの間を拡幅部20を介して連続させることにより、反応流路12を漸次拡幅していってもよい。
【0062】
反応流路12の複数の直進部12aの間を連結する拡幅部20も、湾曲形状とすることにより、スラグを減速させた状態で漸次拡幅させていくため、圧力の変動によるスラグの乱れを抑え、スラグを安定した状態で気液界面の断面積を広げ、かつ、スラグの流速を遅くすることができる。
【0063】
また、マイクロリアクタ1は、反応流路において紫外線等の光線を照射し、気液反応や液液反応を進行させるが、スラグ形成流路11、拡幅部20又は排出流路13においても光線を照射することで、反応を促進させてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 マイクロリアクタ、2 基板、3 液体試料、4 反応気体、10 供給流路、10a 第1の供給路、10b 第2の供給路、10c 合流路、11 スラグ形成流路、12 反応流路、12a 直進部、12b 湾曲部、13 排出流路、15,16 開口、17,18 シリンジ、20 拡幅部、24 折り曲げ部、25 開口、30,31 反応流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに気液界面又は液液界面を形成する流体試料が交互に供給される供給流路と、
上記供給流路を介して供給された上記試料が交互に連続するスラグを形成するスラグ形成流路と、
上記スラグ形成流路よりも幅広に形成され、光を照射することにより、上記試料の界面において化学反応を進行させる反応流路と、
上記スラグ形成流路と上記反応流路との間に介在し、一端を上記スラグ形成流路と連続され、他端を上記反応流路と連続され、漸次拡幅された拡幅部と、
上記反応流路から連続し、反応した試料を排出する排出流路とを有するマイクロリアクタ。
【請求項2】
上記拡幅部は、湾曲している請求項1記載のマイクロリアクタ。
【請求項3】
上記供給流路は、気液界面又は液液界面を形成する一方の上記流体試料が供給される第1の供給路と、気液界面又は液液界面を形成する他方の上記流体試料が供給される第2の供給路と、上記一方の流体試料及び他方の流体試料とが合流する合流路とを有し、
上記第1、第2の供給路及び上記合流路は、いずれも同一径である請求項2記載のマイクロリアクタ。
【請求項4】
上記スラグ形成流路においても光を照射する請求項2又は請求項3記載のマイクロリアクタ。
【請求項5】
上記反応流路は、基板の同一面内に形成され、互いに平行に形成された複数の直進部と、上記直進部間に設けられ、隣接する上記直進部を連続させる湾曲部とを有する請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
上記反応流路は、基板の厚さ方向に亘って多層化されている請求項5記載のマイクロリアクタ。
【請求項7】
上記反応流路は、上記拡幅部を介して漸次拡幅されていく請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項8】
上記排出流路は、上記反応流路よりも幅狭に形成され、漸次幅狭に形成された折り曲げ部を介して上記反応流路と連続されている請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載のマイクロリアクタ。
【請求項9】
互いに気液界面又は液液界面を形成する流体試料が交互に供給される供給工程と、
供給された上記試料が交互に連続するスラグを形成するスラグ形成工程と、
光を照射することにより、上記試料の界面において反応を進行させる反応工程と、
上記反応した試料を排出する排出工程とを有し、
上記スラグは、上記スラグ形成工程と上記反応工程との間に、流路が漸次拡幅された拡幅部を流れることにより、上記反応工程において上記スラグ形成工程よりも上記流体試料の界面が拡大されている反応生成物の製造方法。
【請求項10】
上記拡幅部は、湾曲している請求項9記載の反応生成物の製造方法。
【請求項11】
上記供給工程で、流体試料及び反応生成物と反応しない不活性の気体を供給する請求項10記載の反応生成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−75247(P2013−75247A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215092(P2011−215092)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】