説明

マイクロ流体装置およびその作製方法ならびに利用方法

マイクロ流体装置は、その内部で注入チャンバー、任意の反応チャンバー、および少なくとも1つの検出チャンバーが流体連通するフォトレジスト層と、フォトレジスト層の下に配置される支持体と、フォトレジスト層の上に配置されるカバーを装備する。装置は、さらに、最後尾の検出チャンバーの下流に一連の吸収チャンバーを備える。生体または免疫活性物質を反応チャンバーおよび検出チャンバーに内蔵させる。液体試料を注入チャンバーに入れると、試料液が毛管作用によって装置内に引き込まれる。検出方法としては、電気化学検出、比色検出、蛍光検出が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2005年7月14日に出願された、米国仮特許出願第60/699,580号の優先権の利益を主張するものであり、その内容を、引用することにより本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、マイクロ流体装置、マイクロ流体装置の作製方法、およびバイオアッセイにおけるマイクロ流体装置の利用に関する。
【背景技術】
【0003】
ポイント・オブ・ケア(POC)検査、すなわち、現場診断用の検査は、病院、医局、職場、潜在的不良環境で用いられる一般的な診断用手段となっている。薬物の乱用を検査する職場、汚染物質を検査する環境、戦場における生物兵器剤の検査などの任務は、ポイント・オブ・ケア検査を用いて容易に行なうことができる。検査は、多くの場合、ほとんど臨床検査薬の訓練を受けたことがないか、あったとしてもほんの少しである個人が行うものであるから、ポイント・オブ・ケア検査は単純、迅速、簡便であることが必要とされる。ポイント・オブ・ケア検査は、理想的には、必要最低限の装置であることが要求される。
【0004】
最新のポイント・オブ・ケア検査は、微多孔膜の毛管作用を利用した、膜系の免疫クロマトグラフィー測定法に依存している。免疫クロマトグラフィー測定法では、移動層の検査液中の検体は、固定化された固相上に固定化される捕捉分子との結合の親和性によって他の成分から分離される。ニトロセルロースまたはナイロン製の膜は、アフィニティークロマトグラフィーの固体の固定相、および、免疫複合体分子を移動させ、毛管作用によって他の液体溶質から分離させる、分配クロマトグラフィー用の液相の担体(マトリックス)を提供する。
ナイロンまたはニトロセルロース製の微多孔膜は、膜を通じてタンパク質を輸送できることが最初に実証された1979年頃から、抗原/抗体検査に利用されている。ニトロセルロースは、ウエスタンブロット法、ラテラルフロー型免疫診断などの研究技術において、タンパク質を固定化する表面として、広く利用されている。ミクロ孔率およびニトロセルロースは、例えば、高い結合能力、タンパク質の非共有的付加、安定な長期間の固定化環境、一貫した結合を助長する環境など、迅速な免疫クロマトグラフィー測定法に多くの利益を与えている。
【0005】
典型的な迅速免疫測定キットには、蛍光標識、金標識、または他の標識など、標識が付加された第1捕捉抗体を有する試薬パッドが含まれている。第2捕捉抗体は、ニトロセルロースまたはナイロンの膜ストリップに付加されている。ニトロセルロースまたはナイロンの膜ストリップの一端を、試薬パッドに直接接触させて置くと、第2捕捉抗体の大部分は、膜と結合し、線図のような特定の幾何学模様を形成する。検査すべき検体を含む試料を試薬パッドに塗付する場合、検体は第1の標識された抗体と結合し、結合複合体を形成し、次に、結合複合体を含む溶液は、膜ストリップ内に引き込まれる。膜ストリップ内では、複合体が第2の膜結合性捕捉抗体と結合する。第2の結合は、膜結合性捕捉抗体を含む幾何学模様に沿った標識濃度によって、視覚化されるであろう。あるいは、結合を、蛍光検出または電気化学検出などの他の装置を通じて検出しても良い。
【0006】
免疫クロマトグラフィー測定法における信号強度を調節するキーとなる変数は、毛細管の流速と膜のタンパク結合能である。毛細管の流速と結合能は、膜の細孔の大きさ、孔隙率、厚さによって決まる。膜のタンパク結合能は、細孔の大きさと表面特性によって決まる。ニトロセルロース膜は、表面の湿潤性を補助するため、しばしば界面活性剤で処理される。界面活性剤の利用についてひとつ気がかりなのは、界面活性剤が膜の毛細管流動の性質を変えてしまうことと、変化の程度を予測するのが困難なことである。
【0007】
膜のタンパク結合能と膜内の粒子の移動速度は、膜の細孔の大きさによって決まる。残念なことに、製造工程が複雑でデリケートな性質であることから、製造業者は、膜の製造の間に一貫した細孔の大きさと孔隙率を維持できない。細孔の大きさと孔隙率における高度のばらつきは、製造ロット間、さらには、同一製造ロット内にさえもみられる。同一条件下で生産した異なる試供品キット間の信号強度に約20%を超えるばらつきが見られることも珍しくない。このばらつきが、膜を用いた免疫測定が大方の定量的分析に不向きである主原因である。高度のばらつきが、定量的分析へのポイント・オブ・ケア検査の利用を妨げている。微多孔膜の性質の改善のため、多くの試みがなされているが、一貫した品質を維持するには課題が残されている。
【0008】
信号強度のばらつきを解決するため、多くの解決法が提案され、検出器の改良、粒子の代替標識、試薬の剤形の最適化などの研究がされている。残念ながら性能の点では僅かな改善しか得られていない。POC検査とその製造における上記欠点を考慮して、さらに精密なPOC検査、検査の精度を向上させるPOC検査薬の製造方法の提供、およびPOC検査が定性検査のみならず定量的検査にも使用できることが望まれるであろう。
【0009】
一部のPOC検査には、マイクロ流体分析装置が使用される。シリコン、ガラス、プラスティックなど、様々な材料がマイクロ流体装置のチャネルの提供に利用されている。それらの各材料には欠点がある。シリコンとガラスは費用効率が悪い。シリコンは、マイクロ・チャネルの製造の間に生体材料を不活性化する、大規模な化学エッチング処理を必要とし、多くの場合、生体材料には適さない。プラスティックは通常は疎水性であるため、受動的な毛管作用を利用する多孔質膜とは異なり、検体を移動させてチャネル内に流すための能動輸送システムが必要とされる。フィルムタイプのマイクロ流体装置が設計されているが、流体チャネルの作製に、打ち抜き型の粘着テープを使用する(例えば、O'Conerらの特許文献1、Chowらの特許文献2を参照)。あるいは、Madouらの特許文献3には、フォトリソグラフィを利用するマイクロ流体装置の作製方法について記載されているが、この発明は、生化学的な材料を分析するために設計された、実質的に機能するマイクロ流体装置を提供していない。
【0010】
免疫クロマトグラフィー測定法の大部分は、迅速で、1段階で、分離の必要がなく、試料の前処理を必要としない、同質の測定法のように見える。しかしながら、レセプターに結合しているリガンドからの非結合リガンドの分離は、擬似同質的検査(pseudohomogeneous assay)と名づけられる、検査方法にある。分離は、検体溶液が固定化された検査ラインを通過する際に起こる。電気化学的検査法は、ブドウ糖、乳糖、無機物などの小分子の定量に幅広く利用されており、方法が簡単で費用対効果があることから、巨大分子にも適用されている。
【0011】
この技術は、膜系の免疫クロマトグラフィー測定法などの1段階の検査法による、さらに大きい分子の検出に適用する場合には、課題を有する。電気化学反応では、信号を生じさせるために、酵素反応用の基質を必要とする。結合物質と複合した酵素と基質は、検体と結合する前に酵素と基質が自己反応を起こすのを避けるために、別々に付着され、順次供給されるべきである。この方法を行なうには、結合レベルを測定する前に、非結合リガンドを、受容体と結合しているリガンドから分離する洗浄工程が必要とされる。1995年に、Ivnitskiらが、以前の酵素チャネリング免疫測定法を修正した、1段階で、分離を必要としない、電流変化を測定する(アンペロメトリック)免疫センサーを発明した。修正にもかかわらず、多孔性の膜系免疫クロマトグラフィー測定法の流速と溶出時間は一貫性がなく、したがって、ほとんど定量的検査には使用できない。
【特許文献1】米国特許第6,919,046号明細書
【特許文献2】米国特許第6,857,449号明細書
【特許文献3】米国特許第6,790,599号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
新しい改良されたマイクロ流体装置およびそれを含む検査用キットの提供が本発明の目的である。
【0013】
現在の検査技術の欠点に対処する、素早く安価で簡便な、さらには定量的検出を可能にする、改良されたマイクロ流体装置の提供が本発明のもう1つの目的である。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、試験の精度を上げ、定性分析のみならず定量的試験にも利用されうる、新しい、改良された、使い捨てPOC試験の作製または製造方法の提供である。
【0015】
本発明の別の目的は、上記従来の製造技術の不利な点を回避する新しい、改良された使い捨てPOC試験の製造方法の提供である。
【0016】
一貫した流速と溶出時間を提供できるマイクロ流体装置の提供が本発明の別の目的である。
【0017】
本発明の別の目的は、現在の検査技術に付随する問題点に対処する、マイクロ流体装置を用いた、新しい改良法の提供と、迅速で安価で簡便な定量的検査方式の提供である。
【0018】
本発明の別の目的は、新しい改良された電気化学センサー装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの目的ならびに他の目的の少なくとも1つを達成することを目的として、本発明に従って迅速な免疫検査を行う能力のあるマイクロ流体装置の1つの実施の形態は、例えば、3層、すなわち、底部支持層、中間フォトレジスト層、カバー層を有する、多層ラミネートである。支持体、基盤、基材、材料層、またはこれらの組み合わせのいずれの形態も、支持層として利用して差し支えないが、1つの実施の形態では、支持層は、結合剤が結合するであろう高分子フィルムから構成される。この場合は、裏打ち用の基材が支持層に取り付けられ、さらなる強度を提供する。高分子フィルムは、随意的に、一方の面または一方の面の一部を、結合物質が結合して構わない、金属膜または他の塗膜でコーティングして差し支えない。金属膜は、電極の一部となっていてもよい。生体(biogenic)または免疫活性のある抗体または抗原などの1種類以上の結合物質を、高分子フィルム、その他の塗膜または金属膜上に、直接吸収することによって、または、例えばポリピロール、スルホン化されたテトラフルオロエチレン共重合体(ナフィオン(NAFION)(登録商標))アルコキシシランまたはそれらの混合物といった薄膜単層への結合を通じて、固定することができる。金属膜または他の塗膜と同じ側にある高分子フィルムに直接結合する中間層として、マイクロ流体チャネルとチャンバーがエッチングされたフォトレジストフィルムが挙げられる。フォトレジストフィルムとして、デュポン社から市販されるリストン(RISTON)(登録商標)などのポリイミド・フォトレジストフィルムが挙げられる。エッチングは、例えばフォトリソグラフィなどの当技術分野で周知の様々な方法で行われて差し支えない。カバー層に、フォトレジスト層に直接結合して差し支えない高分子フィルムを含めて、本発明に従った薄板を形成してもよい。
【0020】
1つの実施の形態では、フォトレジスト層として、少なくとも3つのマイクロ流体領域、すなわち、試料注入用、試薬または反応用、および少なくとも1つの検出用のチャンバーまたは領域を含む。1つ以上の混合領域を、例えば注入用チャンバーと反応チャンバーの間などに備えてもよく、1つ以上の吸収領域を、例えば最終検出チャンバーの後方に備えてもよい。また、換気口領域も備えることが可能である。チャンバーと領域が存在する場合、それらは互いにマイクロ流体の流路によって連結されており、試料流体の流路を形成する。
【0021】
基本的な利用では、試料注入チャンバーが分析すべき検体を含む液体試料を受け取ると、その液体試料は毛管作用によって試料注入チャンバーに引き込まれ、試料が、標識された抗体などの結合剤と混合される反応チャンバーへと流れる。標識として、蛍光標識、電気化学標識、または当技術分野で周知の他の標識が挙げられる。試料は反応チャンバーの外へと流れ、検出チャンバーへと流れ込む。随意的に、反応チャンバーと第1検出チャンバーの間に混合チャネルを設置してもよい。混合チャネル内で試料と試薬が完全に混合することで、試料検体と試薬が反応する。典型的には、検体と標識された抗体から免疫複合体が形成される。検出チャンバーでは、検体−抗体複合体が第2抗体と結合、すなわち、検出チャンバーと直接結合する。それによって、検体−抗体複合体は検出チャンバーで捕捉され、固定化される。
【0022】
捕捉される複合体の量を、蛍光検出器、光学検波器または電気的検出器で測定して差し支えない。液体試料は随意的に検出チャンバーを通り、1つ以上の吸収チャネルの形態を取りうる吸収領域へと流れて構わない。検出チャンバーの導電面、または吸収領域に連結した1つ以上の換気口を通じて、マイクロ流体装置内の空気を逃がすことができる。
【0023】
本発明にかかるマイクロ流体装置は、インライン式のロール・ツー・ロール法で製造されて差し支えない。典型的な製造法では、原材料は3つのロールであり、下層のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムロール、中間層のフォトレジストロール、上層の例えばPETフィルムまたは粘着テープ・ロールなどである。ロールは、ラミネーション、紫外線照射、アルカリ洗浄、乾燥、金属膜または他の層の添加、および結合剤の添加など、一連の単位工程を受ける。次に3種のフィルムを合わせて薄板状にし、最後に薄板を切断し、迅速な免疫測定法または測定キットに利用するため、個別の薄板片を形成する。
【0024】
本発明に従ったマイクロ流体装置は、多くの利点を有している。装置の作製に用いる材料は容易に入手可能で柔軟性があり、現在ポイント・オブ・ケア免疫測定法に利用されているニトロセルロース膜と同様に薄い。本発明にかかるマイクロ流体装置では、ロット間の流速の一貫性を保証する流路もまた正確に決定され、定性検査のみならず、定量検査にも本装置を利用可能である。
【0025】
さらには、本発明にかかるマイクロ流体装置は、1組の結合物質、特に生体または免疫活性成分の間の結合反応、および/または基質と活性酵素間の酵素反応を分析することにより、容易かつ迅速に試料溶液中の特定の検体の定性的および定量的特性を決定することができる。これらの成分(ハプテン、生体特異的レポーター、生体特異的リガンド、高原、抗体、核酸)は、互いに特異的に結合する、または他の分子(酵素、基質、電子伝達体または核酸)と試験する水溶液中で反応する能力を有し、電気化学的検出、蛍光的検出または光学的検出によって結合または反応成分の定量値を決定することができる。
【0026】
したがって、本発明の重要な特性は、一連のマイクロ流体の流路とチャンバーが協力して、結合する物質間の結合反応または酵素と基質間の酵素反応を可能にし、測定する、それらの独特な形成にある。
【0027】
結合測定の系では、反応チャンバーまたは領域内に、乾燥タイプの緩衝剤、生化学的薬剤、金粒子で標識された抗原または抗体、酵素、または蛍光染料を含んでいる。検出チャンバーの導電面、または領域にはコーティングされた固定化抗体または抗原が含まれており、抗原−抗体複合体を捕捉する。
【0028】
あるいは、電気化学的測定系には、試料注入チャンバー、反応チャンバー、少なくとも1つの検出チャンバー、吸収領域またはチャンバーが備わっていてよい。各検出チャンバーは、試料溶液中の検体と特異的に反応する、コーティングされた特異的酵素または基質を内蔵していてもよい。
【0029】
本発明の1つの態様では、分析すべき検体を含む液体試料を、吸収領域またはチャンバー内が満たされるまで、その系内に流して差し支えない。流れは、吸収領域またはチャンバーが満杯になると停止する。したがって、過剰の充填はできない。この流体流動現象は、毛細管流動に特有であり、非常に有用な特性である、所定の試験溶液の正確なサンプリングを提供する。膜系の測定法における吸収パッドの予測不可能な作用とは対照的に、マイクロ流体装置は定量測定に利用することができる。
【0030】
本発明の別の有利な点は、分析すべき検体を含む液体試料を試料注入チャンバー内に入れると、液体は毛管作用によって注入チャンバー内へ流れ、等しく一定の流速を維持することである。試料が反応チャンバーに達すると、その中の乾燥した試薬が湿り気を帯びる。混合物は一緒に混合チャンバー内を流れ、設計された流路によって激しく混合される。乾燥試薬の主成分として、標識された抗原または抗体または他の検体と結合する成分が含まれていて構わない。混合チャンバー内を通過する際、検体と試薬は強力な複合体を形成する。
【0031】
検出チャンバー、または複数の検出チャンバーが存在する場合の各チャンバーでは、検体複合体を含む液体試料が、層流プロファイルで流れる。各検出チャンバーには、固定化された抗体または抗原、もしくは先に形成した複合体と結合する能力のある他の検体結合剤が内蔵されている。複合体と接触すると、第2の結合が起こり、結果的に検出チャンバーの表面上に複合体を捕捉する。結合していない複合体および他の遊離物質は吸収チャンバーへと洗い流される。吸収領域またはチャンバーが満たされると、流れは停止し、定量的測定に必要とされる正確なサンプリングが可能になる。
【0032】
酵素標識された抗原または抗体、もしくは他の結合複合体の電気化学検出については、確立されている。金電極または炭素電極と同様に銀−塩化銀参照電極も用いて差し支えない。あるいは、別の選択肢として、蛍光染料または粒子(ユーロピウムまたは量子粒子)で標識された抗原または抗体または他の結合剤からの蛍光発光を光学的に検出してもよい。
【0033】
したがって、本発明にかかるマイクロ流体装置は、検体と、例えば生体または免疫活性物質などの1つ以上の結合物質との結合特性を分析することを通して、試料溶液中の検体を定性的・定量的の両方法で測定することが可能である。ハプテン、生体特異的レポーター、生体特異的リガンド、抗原、抗体など、これら結合物質は、試料水溶液中の検体に特異的な結合能を有する。一部の実施の形態では、検体は1つ以上の結合エピトープを有し、第1結合エピトープでの結合は、第2結合エピトープでの結合を妨げない。結合物質と検体が結合すると、光学的検出、蛍光検出または電気化学検出によって検出されうる複合体を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、さらなる目的及びそれらの有利点と共に、添付の図面および以下の説明を参照することにより理解されよう。その際、同様の参照番号は、同様の要素を表す。
【0035】
同様の参照番号が同じまたは同様の要素を示す添付の図面を参照すると、本発明にかかるマイクロ流体装置の実施形態が図1に示され、一般的に参照番号10と指定されている。マイクロ流体装置10は、支持層22、支持層22上に配置されるフォトレジスト層14、フォトレジスト層14の上に配置されるカバー層16、支持層22に連結して配置される電気相互接続ユニット18を備えている。
【0036】
支持体22は、いずれの形態も取りうるマイクロ流体装置10の支持構造、またはその一部を形成しており、フォトレジスト層14に剛性の裏打ち用基板を提供することが好ましい。支持構造には、基盤、基板、材料層を単独で、またはそれらを様々に組み合わせて含めることができる。図で示した実施例では、支持構造は、マイクロ流体装置10に強度と剛性を提供する剛性の裏打ち用基板20と、底面が裏打ち用基板20の上面と直接結合しているか、あるいは装着されている、第1PETフィルム22である支持体22とを含む。本発明の1つの好ましい態様では、支持体22は非導電高分子フィルムである。支持体の一覧として、限定はしないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネートからなる群より選択される。支持体として、PETが好ましい。裏打ち用基板20は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレンのプラスチックカードから作製されて構わない。当業者は、強度と剛性を提供する他の利用可能な裏打ち用基板に関しては、認識できるであろう。
【0037】
フォトレジスト層14はポリイミドポリマーから作製されて差し支えなく、その底面は直接第1PETフィルム22に結合されているか、さもなければ取り付けられている。フォトレジスト層14の上面は、直接カバー層16に結合されているか、さもなければ取り付けられている。好ましい実施の形態では、フォトレジスト層14は、例えばデュポン社製のリストン、パイララックス(Pyralux)(登録商標) PC1025、ピラリン(Pylalin) PI2721、またはSU−8コーティングフィルムなどの乾燥フォトレジストフィルムである。デュポン社製のリストンなどの乾燥ポリイミド・フォトレジストフィルムは、エレクトロニクス産業においてプリント基板製造に広く使用されている。乾燥フォトレジストフィルムは、弱アルカリ性の溶液に容易に溶解すが、紫外線照射されると、フォトレジストフィルムは重合し、アルカリ溶液への溶解に耐性となる。さらには、フォトレジストフィルムは一旦重合されると水溶液中で安定し、良好な湿性の性質を有する。したがって、こういった乾燥タイプのフォトレジスト材料は、チャネル、チャンバー、および以下に論じる他の構造の形成に、比類がないほど適している。
【0038】
カバー層16は、第2PETフィルムであって差し支えなく、高分子フィルムまたは接着フィルムであって構わない。カバー層16は、透明または半透明であって差し支えない。蛍光または光学的検出法を用いる際に、カバー層16にとって透明であることは好都合である。カバー層16の限定されない例は、PET、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート、湿潤性のポリイミドフィルムまたは接着フィルムからなる群より選択される。本明細書で開示されるマイクロ流体装置の他のカバー層と同様に、カバー層16もまた、本明細書では簡単に「カバー」と称される。
【0039】
本発明の一部の好ましい態様では、電気相互接続ユニット18は、フォトレジスト層14(具体的な領域は以下に論ずる)を、マイクロ流体装置10が格納されるハウジング50と係合する読取ユニット24と電気的に接続されるように設計されている(図7参照)。電気相互接続ユニット18は、電極30と33を備えており、さらには、例を挙げれば、導電性材料で作製された、実質的にL字型の一対の接続ピン28などを備えている。電極30と33は、フォトリソグラフィ、スクリーンプリンティングまたはスパッタリング法などの既知の製造工程によって第1PETフィルム22の上に、または第1PETフィルム22と接続して作製される。例えば、電極30と33の部分には、フォトレジスト層14の指定された部分の周辺にフォトリソグラフィによってパターン形成される金属膜の形態も含まれ、この金属膜からピン28への拡張を誘導する。電極30と33は、第1PETフィルム22の上面に直接接続されることが好ましい。
【0040】
電気相互接続ユニットに用いる導電体または金属材料としては、それぞれ単独で、またはそれらを混合して用いて構わない、金、インジウムスズ酸化物(ITO)、銀、プラチナ、パラジウムが挙げられる。マイクロ流体装置10が蛍光または光学的検出を利用する場合は、電気相互接続ユニット18は必要ではない。
【0041】
本発明の構造設計の例では、電極30と33は、実質的にU字型をしており、別の接続ピン28と直接接続する一方の端に電極パッド32を有する。パッド32と反対側の領域では、電極30と33の作用部位34および35が、フォトレジスト層14の指定された部分の下に配置される。当然のことではあるが、パッド32の形状および作用部位34と35は、一例に過ぎず、図2Aの特定の形状に限定されない。カバー層16は、パッド32の延長上に開口部を有する。フォトレジスト層14とカバー層16の各開口部は、電極30と33の部分が露出して、図2Aに示すように接続ピン28と接触できることが好ましい。電極30と33は、一方が作用電極、もう一方が参照電極として作用するものであり、その用途は当業者によく理解されている。
【0042】
電極は、導電性材料のいずれかで作製されて差し支えなく、限定はしないが、例えば金、インジウムスズ酸化物、パラジウム、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0043】
接続ピン28の一例では、接続ピン28は、反対側の支持PETフィルム22および裏打ち用基板20と係合しているフランジを有し、パッド32を基板20に押し付け、それによって、接続ピン28とパッド32の間に安全な電気的接続を提供する。パッド32からピンへの電気経路を作り出す別の電気的係合機構は、本発明の範囲および精神から離れることなく利用することができる。
【0044】
マイクロ流体装置の構造の一例では、カバー16および支持体PETフィルム22の厚さは、約100μmである。フォトレジスト層14の厚さは約25〜約100μmであり、約50μmの厚さが好ましい。そのような、1つの好ましいマイクロ流体装置10は、基板20上に約250μmの厚さを有する。電極30と33の厚さは、30μm以下が好ましく、マイクロ流体装置10のフォトレジスト層14よりも薄くなるべきである。電極30と33の厚さは、約2〜20μmがさらに好ましい。電極の材料がITOの場合、電極の厚さは2μmになりうる。
【0045】
図2Bと2Cは、マイクロ流体装置の別の構造の例である。
【0046】
図2Bを参照すると、マイクロ流体装置210は、支持体222、支持体222の上に配置されるフォトレジスト層214、フォトレジスト層214の上に配置されるカバー層216、支持体222に接続して配置される電気相互接続ユニット218を備えている。
【0047】
あるいは、カバー216は、2枚のシートの間に接合間隙201を有する2枚の薄板で構成される。接合間隙201は、図2Aの遅延チャネル38と同様に、試験される検体に遅延または時間のずれを取り入れる働きをし、流速の安定化に有用である。しかしながら、接合間隙は、試料流体を漏出しないよう、広すぎないようにする。反応領域240は試料注入236と混合領域242とを接続するチャネル内に設置される。
【0048】
電気相互接続ユニット218は、電極230と233を備えている。電極230と233のそれぞれの端では、電極の作用部位234と235が、検出チャンバー244を画成するフォトレジスト層214の指定領域の下に位置している。
【0049】
カバー層216の長さは、フォトレジスト層214よりも短く、よって、電極部分が接続ピンと接続できるようにむき出しになっている(この実施形態は示されていないが、上記と同様であろう)。一連の吸収チャネルの開放端は換気口を形成する。電極パッドでのカバー層216の長さは、フォトレジスト層214よりもわずかに短く、換気口を有することが好ましい。
【0050】
図2Cを参照すると、マイクロ流体装置310は、支持体322、支持体322上に配置されるフォトレジスト層314、フォトレジスト層314上に配置されるカバー層316を備えている。マイクロ流体装置310は、カバー層316の2枚の薄板の間に接合間隙310を備えている。本発明の一部の好ましい態様では、マイクロ流体装置は、多数の検体を同時に試験することが可能である。こういったマイクロ流体装置は、2つ以上の検出チャンバーの導電面、または領域を含んでいて差し支えない。1つの好ましい構造例では、マイクロ流体装置310は、3つの検出チャンバーの導電面、または領域344を備えている(図2C参照)。3つの検出チャンバーのひとつは、対照用であり、その他は分析すべき検体用であって構わない。各検出チャンバー344は、金属膜または高分子フィルムに結合する別の物質を内蔵している。物質と金属膜または高分子フィルムの間の疎水性および静電気的相互作用は、洗浄され、吸収チャネルに流されるのを防ぐのに十分である。あるいは、物質は、ポリピロール、スルホン酸化されたテトラフルオロエチレン共重合体(NAFION)、アルコキシシラン、またはそれらの混合物といった自己組織化単分子膜でコーティングされた金属膜または高分子フィルムと結合してもよい。これらの自己組織化単分子膜(SAM)は、結合効率と強度を高める。物質は、金属電極、ITOまたは高分子フィルムをコーティングする自己組織化単分子膜に結合することが好ましい。検出チャンバー内の金属電極または高分子フィルム上に抗体または捕捉分子を固定化するため、金属電極または高分子フィルムの表面は自己組織化単分子膜(SAM)で、または疎水性ポリマー・プリンティングによって修飾されて差し支えない。SAMは、SAM形成分子の自発的凝集によって起こる表面上に形成される単一方向性の層である。
【0051】
チオール含有SAM形成分子は、確立された金に対する結合分子の1つである。カルボキシアルカンチオール化合物とスクシンイミジル・アルカンジスルフィド化合物(スクシンイミジルエステル末端のアルキルジスルフィド)は、金の表面にSAMを形成し、カルボキシル基またはアミンの反応部位を導入するのに広く利用されている。スクシンイミジルエステル末端のアルキルスルフィドは、カルボキシアルキルジスルフィドのアミン−反応性の類似体である。カルボキシアルカンチオールのカルボキシル基は、活性化N−ヒドロキシスクシニミドエステルに転換され、抗体または捕捉分子のアミンと結合する。SAMでコーティングされた表面は、抗体または捕捉分子を固定化するのに他のいかなるカップリング剤をも必要としない。SAM形成分子は、スポッティング法および乾燥法によって、金電極または高分子フィルムの表面上に塗布される。
【0052】
図2Bと2Cに示された実施形態におけるカバー層216、316は、それぞれ、反応チャンバー240,340と混合チャネル242,342の間に流れ時間の遅延を提供する、接合間隙201、301を形成する。
【0053】
では、図2Aを参照すると、フォトレジスト層14は、単純かつ効率的な検体試験を提供する独特の構造を有する。具体的には、下記の方法で形成される場合、フォトレジスト層14に、協力することにより迅速な検体試験を可能にさせる、特有なパターンのチャンバーとチャネルを提供する。図2Aは、フォトレジスト層14が、一方の端に注入チャンバー36、注入チャンバー36と連結する遅延チャネル38、遅延チャネル38と連結する、第1検体結合物質を含む試薬混合物が内蔵された反応チャンバー40、反応チャンバー40と連結する、同様に第1検体結合物質を内蔵していることが好ましい混合チャネル42、混合チャネル42と連結する検出チャンバー44、検出チャンバー44と連結する吸収チャネル46を備えている。直線的に示されているが、様々なチャンバーとチャネルが、非線形の配置を含む他の配置で設置することが可能である。一連の吸収チャネル46は、単一チャネルのみ、または複数のチャネルを備えていて差し支えなく、例として以下に論じ、図2Bと2Cにも示す。
【0054】
注入チャンバー36は、検査すべき流体を注入するフォトレジスト層14の一部である。カバー層16には、流体チャンバーへ流体の流れが抑制されるのを防ぐため、注入口36の位置に合わせて開口部48が提供される(図1参照)。
【0055】
遅延チャネル38は、検体の試験に遅延または時間のずれを取り入れる働きをし、流速の安定化、すなわち、試料流体の流れの安定化にも有用である。遅延チャネル38は、一続きの横断部分と横断部分に近接して接続される縦断部分で形成され、それによって蛇行経路を形成する。
【0056】
混合チャネル42は、一続きのフォトレジスト層14の幅の大部分にわたる横断部分と横断部分に近接して接続される縦断部分で形成され、それによって蛇行経路を形成する。
【0057】
電極の作用部位34と35は、少なくとも検出チャンバー44の1部分に配置され、または形成される。
【0058】
一連の吸収チャネル46は、細長い縦断部分と、縦断部分の上端を横切って伸びる横断する分配部分を含む。検出チャンバー44からの流入部分は横断する分配チャネル上の中間的な位置に通じている。
【0059】
一続きの吸収チャネル46のバリエーションを図3A、3B、3Cに示す。例えば行なわれる特定の試験に応じて、チャネルの幅と長さ、チャンバーの容量を変化させて差し支えない。洗浄工程が必要な試験では、吸収チャネルの容量は、他の部分のチャネルおよびチャンバーの全容量よりも大きいことが好ましく、他の部分のチャネルの容量よりも3倍ほど大きいことが好ましい。
【0060】
マイクロ流体チャネル38、42、46の幅は、約50μm〜約1000μmの範囲で変化して差し支えなく、約50μm〜500μmが好ましく、約300μmがさらに好ましい。チャネルの高さは約25μm〜約300μmまで変化して差し支えなく、約50μmが好ましい。
【0061】
チャネル38、42、46およびチャンバー36、40、44は、支持体22(チャネルおよびチャンバーの底部)の一部、フォトレジスト層14の一部(チャネルおよびチャンバーの壁)、カバー層の一部(チャネルおよびチャンバーの上部)によって画成される。支持体22を薄板化すると、フォトレジスト層14とカバー層16は、例えば下記のように、マイクロ流体装置10を通過する、しっかりと画成された流路を提供する。
【0062】
中間層14は、正確に画成されたマイクロ流体チャネル構造を提供する、乾燥タイプのフォトレジストフィルムである。中間フィルムとして、標準的な50μmの厚さのネガティブ型フォトレジスト材料が挙げられる。マスクで覆われていないフィルムを強いUV光の下で重合化し、不溶性の高分子フィルムを得る。フィルムのマスクされた領域はアルカリ溶液の噴霧によって容易にエッチング除去される。重合化し、硬化したフィルムの表面は疎水性であり、この装置にとって有益である。
【0063】
図3A、3B、3Cでは、一連の吸収チャネル46、246、346は、細長い縦断部分と、縦断部分の上端を横切って伸びる横断する分配部分を含む。流入部分は、検出チャンバー44から横断する分配チャネルへと通じている。
【0064】
図3Dと3Eでは、一連の反応チャネルは、一続きの細長い縦断部分と短い接続部分を含み、それによって蛇行経路を形成する。
【0065】
図3Gでは、一連のチャネルは、試料溶液の流速を調節する一続きの楕円形部分を含む。図3Gでは、一続きの縦断部分を有し、横断部分と接続する一連のチャネルは、それにより、チャネルの中央に形成される拡張型のチャンバーと共に、蛇行経路を形成する。
【0066】
図2Aに示すように、反応チャンバー40と検出チャンバー44は、実質的に長方形の形態をしている。あるいは、これらのチャンバーは、図3Gに示すように、円部分の直径を大きくすることによって形成することもできる。空気は、フォトレジスト層14内のチャンバーおよびチャネルから、検出チャンバー44および/または一連の吸収チャネル46に接続する換気口部分を通じて、排気される。吸収チャネル46の1つ以上の開口端に換気口を形成または内蔵してもよい。
【0067】
マイクロ流体装置10は、典型的には、例えばプラスティックで作製されたハウジング内に設置され、それによって、頑丈かつ迅速な検査キットを完成させて差し支えない。少なくとも、ハウジングは試験すべき流体を注入チャンバー36に挿入できなくてはならず、検出チャンバー44を視認できることが好ましい(少なくとも試験される流体が検出チャンバー44に達したことを確認するため)。こういったハウジングは多様な形態をとることができる。
【0068】
こういったハウジングの一例を、図4〜6に示す。ここで、マイクロ流体装置10は、ハウジング上部52とハウジング下部54を備えたハウジング50内に設置されている。ハウジング下部54は、平面基盤56と、基盤56から上に伸び、陥凹部60を画成し、隆起部(ridge)62を位置づける周壁58とを備え、ここで隆起部62は、基盤56の内表面上に形成され、それらの間に裏打ち用基板20を収容するためのスペースを空けるため、互いに相隔てられている。ハウジング下部54は、嵌合構造64も備えており、例えばハウジング上部52内の開口部など、ハウジング上部52上の相補的な嵌合構造と係合することができる。
【0069】
ハウジング下部54は、接続ピン28がハウジング50の外側へと伸び、読取ユニット24(図7に示す)上の電気接点への電気相互接続を可能にする、基盤56内の1対の開口部(図示せず)も有している。L字型のピン28の代わりに、ピン28は垂直の折り曲げのない構造であってもよく、マイクロ流体装置10からまっすぐに伸びる。その場合、ハウジング下部54および/または上部52の一方または両方に、ハウジング50の外側へこれらのピンを通す開口部を提供して差し支えない。キット24では、当業者は、本発明の範囲および精神から離れることなく、読取ユニット24上に取りうる別の電気接点も、本発明に利用可能であることを認識するであろう。
【0070】
ハウジング上部52とハウジング下部54を係合してハウジング50を組み立てる前に、フィルタ66を注入チャンバー36上に設置し、試験すべき流体をろ過する(図5参照)。フィルタ66(およびフィルタ266、366)は、結合信号の生成を干渉し、フォトレジスト層14内のマイクロ流体チャネルを閉塞させる可能性のある分子を排除する目的で設置される。
【0071】
ハウジング上部52は、カバー層16内の開口部48に合わせた位置に試料ウェル70を有する実質的に平面な基盤68、および注入チャンバー36を備えている。基盤68は、検出チャンバー44の位置と合わせて設置される検出チャンバー・ウィンドウ74を備えてもよい。基盤68は、さらに、反応チャンバー40の位置と合わせて設置される反応チャンバー・ウィンドウ72を備えても差し支えない。反応チャンバー40と検出チャンバー44を、ウィンドウ72,74を通して視認できるように、カバー層16は透明素材で作製することも可能である。本発明の一部の好ましい態様において、蛍光または光学的検出法が用いられる場合に、透明カバー16と検出チャンバー・ウィンドウ74は都合が良い。乾燥試薬の湿潤は、反応チャンバー・ウィンドウ72でモニタしても差し支えなく、検出チャンバー44での外観検査を、検出チャンバー・ウィンドウ74を通して行なってもよい。例えば、3つの検出チャンバー344が提供されている図2Cなどの2つ以上の検出チャンバーが存在する実施形態では、基盤68は、図2Cに示すように各検出チャンバー344に検出チャンバー・ウィンドウが備えられることが好ましい。
【0072】
第1エピトープと結合する物質が第2エピトープと結合する物質を抑制せず、結合物質が結合してもよい1種類以上のエピトープを有する検体の試験へのキット26の使用について、次に説明する。試験されるべき液体試料を入手し、フィルタ66上の試料ウェル70内に置き、フィルタ66を通して注入チャンバー36内へ流す。液体試料は注入チャンバー36から遅延チャネル38を通って反応チャンバー40へと引き込まれ、反応チャンバー内の第1検体結合物質と相互作用を起こす。第1結合物質は反応チャンバー内またはチャンバー上に設置される。液体試料が反応チャンバー内で試薬混合物を湿らせると、検体は第1検体結合物質と反応し、第1検体結合物質が検体の第1エピトープと結合した、第1検体−結合物質複合体を形成する。反応チャンバー40から液体試料が混合チャネル42へと流れ、ここで未反応の検体は第1検体結合物質と接触する。混合チャネル42から排出される液体試料は、検出チャンバー44に入る。検出チャンバー44内にある作用電極の作用部位上の第2検体結合物質は、検体の第2エピトープと結合し、それによって第1検体結合物質と検体の複合体を捕捉する。
【0073】
液体試料は流れ続け、検出チャンバー44を出て一連の吸収チャネル46に入る。非結合タンパク、複合体、試薬、および液体試料中の他の成分は、検出チャンバー44を通って一連の吸収チャネル46内へと流れる。一連の吸収チャネル46内が満たされると、液体試料の流れが停止する。
【0074】
第1検体結合物質−検体複合体と第2検体結合物質の結合により、複合体が捕捉される。第2検体結合物質への複合体の結合は、電極30の静電容量、インピーダンス、電気抵抗、または電流を変化させる(電気状態変化)。電極における電気状態の変化の大きさは、結合の程度と関連し、したがって、液体試料中に存在する検体の量と関連する。電極30と33は、パッド32と電気的に接触し、同様に、接触ピン28とも電気的に接触していることから、作用電極と参照電極間の電気状態変化の大きさの差は、静電容量、インピーダンス、またはアンペロメトリーを接続ピン28に接続することによって測定できる。こういった電気的検出読取機は、接続ピン28に電気的に接続する一対の電気接点と、これらの接点を検出読取機に接続する電気相互接続構造を備えた、読取ユニット24内に存在する。当業者は、キット26が較正された電極を備えてもよいことを認識するであろう。キット26のさらに特殊な用途は、免疫電気化学分析装置として、急性心筋梗塞の検査用のワンステップ免疫測定装置としての性能メカニズムを示す案であろう。
【0075】
胸痛は、例えば心筋の異常など、様々な要因から起こる可能性がある。小さな血栓が心臓血管内で形成されると、胸痛が起こるであろう。血栓が溶解すると痛みは消える。血栓が持続すると、血管は詰まり始め、心筋の一部に酸素と栄養が与えられなくなるであろう。瀕死の心筋細胞はトロポニンIを放出し、したがってトロポニンI濃度の上昇がしばしば心筋の異常を示唆する。したがって、胸痛を訴える患者のトロポニンI濃度の検査は、異常についての診断を助けることができる。本発明にかかるマイクロ流体装置は、トロポニンI検査キットの構築に利用することができる。
【0076】
トロポニンIを検体として選択するこういった検査キットでは、反応チャンバー40内で、指標分子で標識された、乾燥タイプの抗トロポニンI抗体が、界面活性剤0.01%のtween 20、緩衝試薬10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、安定剤0.5%トレハロース、0.5%BSA、0.5%PEGと混合され、沈殿する。検出チャンバー44では、第2抗トロポニンI抗体が電極の表面に共役または非共役結合によって固定化されており、トロポニンIの別のエピトープと結合する。第2抗トロポニンI抗体は、0.5%BSAを含んでいる10mMリン酸緩衝液中の30μg/ml濃度に希釈される。第2抗トロポニンI抗体溶液を50μl〜100μl/cmの量で電極の表面にスポットし、25℃、湿度40%で1時間乾燥させる。
【0077】
使用中、トロポニンIを含んでいる約5〜10μlの全血試料流体を試料ウェル70上に置くと、血漿試料流体は血液分離フィルタ66を通過し、注入チャンバー36へと流れ、遅延チャネル38を通って反応チャンバー40へと流れる。血漿が反応チャンバー内の乾燥試薬を湿らせ、トロポニンI抗体とトロポニンIが抗原−抗体複合体を形成し、混合チャンバー42内へと流れる。非結合抗体は、混合チャネル42の混合効果の助けによりトロポニンI分子と結合する。検出チャンバー44では、第2トロポニンI抗体が電極の表面に固定化されており、トロポニンIの別のエピトープと結合するであろう。流体が検出チャンバー44内を通過する場合、抗原−抗体複合体は、チャンバー内の第2抗体と結合する。結合されない複合体とその他の物質は試料流体の連続する流れによって洗い流される。試料流体は、一連の吸収チャネル46が血漿で満たされるまで、一連の吸収チャネル46内に流入する。その後、試料流体の流れが停止し、免疫化学反応を検出チャンバー44内で一定に保つ。
【0078】
電極表面に捕捉された抗原−抗体複合体は、作用電極30の静電容量または電圧の変化と関連している。抗原−抗体複合体が捕捉される場合、電極30の静電容量にわずかな変化が起こる。静電容量の変化は、迅速測定キット26が読取ユニット24内に挿入されている場合は、容量計で測定して構わない。読取ユニット24は、電気状態変化を、トロポニンI抗原の量の存在を示すデータに変換するように設計される。
【0079】
前述のものは、本発明に従ったマイクロ流体装置10を備えるキット26の用途の1つの実例に過ぎない。マイクロ流体装置10を備えたキット26を使用して行ないうる他の検出方法として、蛍光、光学的着色(optical coloring)、電流計(アンペロメトリー)、インピーダンス電位差計(impedance/potentiometer)、粒子測定法などが挙げられる。
【0080】
蛍光検出では、反応チャンバー40内の沈殿した試薬は、結合した物質、すなわち、蛍光染料または量子またはユウロピウムなどの粒子と結合した抗体または抗原である。検出チャンバー44内に固定化された結合物質は、捕捉抗体または捕捉抗原である。光学的着色では、反応チャンバー40内の沈殿した試薬は、酸化酵素または還元酵素と結合した抗体または抗原である。アンペロメトリック検出では、反応チャンバー40内の沈殿した試薬は、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)酵素および基質としてのグルコースと結合した抗体または抗原である。検出チャンバー44内に固定化された材料は、電極30上の捕捉抗体または捕捉抗原、およびグルコース酸化酵素である。アルカリ・ホスファターゼ(APase)酵素と結合する抗体または抗原は、反応チャンバー40内に沈殿させることができる。上記の他のバリエーションについては、当業者にとって、予測の範囲内であり、明らかであろう。
【0081】
インピーダンス電位差計の利用では、反応チャンバー40内に試薬の沈殿は見られない。電極30上に固定化される結合材料は、捕捉抗体または捕捉抗原である。この場合は、遅延チャネル38と反応チャンバー40は削除することができる。当業者は、反応チャンバー40と検出チャンバー44内の結合物質が、抗体/抗原、抗体/ハプテン、酵素/基質、レポーター/ホルモン、ヌクレオチド/ヌクレオチドなど、複合体を形成する能力のある1種類以上の生体または免疫活性物質であって差し支えないことを認識するであろう。
【0082】
本発明に従ったマイクロ流体装置10を光学的着色またはアンペロメトリック検出法に使用する場合は、HRP酵素の活性基質である過酸化水素が、捕捉抗体を伴った電極30の導電面上でグルコース酸化酵素を共固定化することによって生成する。グルコースとHRPが複合した抗体は、結合反応が起こる反応チャンバー40の正面の位置に乾燥状態で内蔵される。試料溶液は、乾燥状態の試薬を溶解し、反応チャンバー40へと移動させる。結合感度を高めるため、捕捉抗体の代わりにストレプトアビジンまたはアビジンを電極に固定化してもよい。この場合、HRP−複合抗体と、ビオチンと結合する第2捕捉抗体が反応チャンバー40に内蔵される。
【0083】
上述の検出方法は、検出方法の一例に過ぎず、これらの言及は本発明の範囲を制限するものではなく、本発明の今のところ好ましい実施形態の例を単に提供するものである。
【0084】
図7に示すように、読み取りユニット24は、検査キット26がそのスロットに挿入されると、電気信号を読み取るように設計されている。読み取りユニット24は、スロットを画成するハウジング76、ディスプレイ78、ボタン80、ハウジング76内に配置される処理装置またはマイクロコントローラを備えている。読み取りユニット24は、ピン28と係合するように設計される電気接点も備えており、マイクロコントローラと接続して電極30と33を備える回路を形成可能にする。ハウジング76によって画成されるスロットに検査キットを挿入すると、ボタン80がマイクロコントローラの方へ押され、電極30と33を備えた回路が形成され、電気状態の変化が検出される。さらに詳細には、読み取りユニット24のマイクロコントローラは、キット26が読み取りユニット24の接点と接触して設置され、ボタン80が利用者によって押されると、デジタル信号を生み出す。読み取りユニット24は、この系の利用者に有意義な表示結果を与えるように、較正されてもよい。
【0085】
反応チャンバー40が存在する場合はその反応チャンバーと、検出チャンバー44内に配置される物質があればその物質、および、読取ユニット24の構造に応じて、本発明に従ったキット26内のマイクロ流体装置10を、以下の種類の検査に利用して差し支えない。
【0086】
1.ヘロイン、モルヒネ、コカイン、LSD、アンフェタミン、PCP、THC、バルビツール酸系催眠薬、およびその他の鎮静剤、麻薬、幻覚剤などの検体の薬物乱用検査。
【0087】
2.連鎖球菌A、HFV、A、B、C型肝炎ウイルス、ピロリ菌(H. pylori)、単核症、クラミジア、淋病その他の性感染症などの感染症検査。
【0088】
3.薬物治療管理
4.hCG、FSH、LHを含む検査に関連する複製品
5.血中のグルコース、HbIAc濃度のモニタなどの糖尿病検査
6.CK、MB、トロポニン、ミオグロビン、BNP、プロBNP、hCRP、D−二量体、ホモシステインなどの心疾患マーカー
7.HDL、LDL、アポLPなどのコレステロールのモニタリング
8.血液凝固検査
9.CEA、AFP、PSA5膀胱癌(BladderCa)(BTag)などの癌マーカー
10.骨吸収試験などの骨粗しょう症のモニタリング
11.イソプラスタンおよび神経繊維タンパク(NTP)を検出するアルツハイマー病試験などの精神障害
12.マイクロアレイとPCR装置を利用する遺伝子検査用DNA診断
13.アレルギー検査
14.尿検査
15.血液ガス/電解液
16.動物の健康診断
マイクロ流体装置10は様々な方法で製造できる。1つの限定されない製造方法では、まず、PETフィルムなどの支持体22を選択し、次にPETフィルム上に電極30、33をプリンティングし、PET上にプリンティングされた電極30、33をデュポン社製のリストンなどのポリイミド・フォトレジストフィルムでカバーしてフォトレジスト層14の形成に利用されるようにし、その保護被覆されたフォトレジストフィルムをチャネルとチャンバーのパターンの外郭を有するフォトマスクでカバーし、フォトレジスト材に紫外線照射して重合化し、保護被覆を除去し、紫外線照射されていないマスクされたフィルムをアルカリ溶液で洗い流し、必要な薬剤を塗布し、フォトレジスト層14をカバー層16でカバーする。カバー層16は、非導電性の高分子フィルムである。接着膜を、フォトレジスト層14を保護するカバー層16として利用することもできる。
【0089】
カバー層16は、保護カバーが除去された、第1フォトレジスト層に直接接触して設置される第2フォトレジストフィルムであって差し支えない。第2フォトレジスト層は、例えば加熱によって、第1フォトレジスト層に結合する。積層工程の間、約45℃〜約110℃の温度を利用して差し支えなく、約90℃が好ましい。熱への曝露時間は、加熱・加圧ローラーの大きさに応じて、約5秒〜約500秒の範囲で変化させて差し支えなく、約30秒未満が好ましく、約7秒が最も好ましい。フォトレジスト層の結合の後、組立品をさらに紫外線照射し、ポリイミド・フォトレジストポリマーの重合化を完結させる。マイクロ流体装置10の製造での積層工程は、当技術分野で周知である。その後、マイクロ流体装置10の残りの部品を支持体22に装着する。次にマイクロ流体装置10を、ハウジング50内に入れ、迅速検査キット26を形成する。
【0090】
図8〜14を参照すると、図8と9は、電流(アンペロメトリック)または電位差を用いた電気化学検出を可能にする、本発明に従った電気化学センサー装置100の別の設計例を示している。電気化学センサー100は、検体の化学反応または酵素反応から得られる生成物を検出するように設計されている。電気化学センサー装置100は、検査される検体を洗浄によって他の非結合リガンドから分離する必要がない。装置は、化学反応検査または酵素反応検査を、分離処理なしで行なう。
【0091】
電気化学センサー装置100は、底部支持層102、その上に配置される参照電極104および作用電極106、注入チャネル110および参照電極104と作用電極106に合わせて配置される検出チャンバーを画成する中間フォトレジスト層108、および換気口114を画成するカバー層112を備えている。
【0092】
注入チャネル110は、参照・作用電極104、106の上に位置を合わせた検出チャンバーと接続しており、検体の化学反応または酵素反応によって生じる生成物が、検出チャンバー内に存在する場合は、電極104、106の変流器に影響を及ぼす。参照電極104と作用電極106は、導電性の金属および/または炭素で作製され、読取ユニット24(図示せず)の接続ピンと係合している、あらかじめプリンティングされたITO、炭素、または導電性金属の回路116と118に接続される。通常、参照電極104としては、Ag/AgClが挙げられ、作用電極としては金、ITOまたは炭素が挙げられる。金属回路116、118の一部は、読取ユニット24の接続ピンと接触するためにむき出しになるように、中間フォトレジスト層108とカバー層112の長さは底部支持層102よりも少しだけ短くなっている。
【0093】
図10〜13は、マイクロ流体装置10の製造にも利用して差し支えない、上記電気化学センサー装置100を製造する1つの方式を示している。製造工程の様々な段階として、スクリーン印刷、電気センサーを積層するためのスパッタリング、フォトリソグラフィ、マイクロ流体製造のための加熱・加圧法による化学エッチングおよび積層が挙げられる。最初の段階は、支持層102上の参照電極104および/または作用電極106のプリンティングまたはスパッタリングである。
【0094】
図10は、電極マスクを有する網目スクリーンを用いた電極−プリンティング法の例である。金、銀、炭素などのペーストまたは液状の導電体120を網目スクリーン122上に配置する。網目スクリーン122は、フォトレジストフィルム108よりも薄い。網目スクリーン122の厚さは、約50μm未満であり、約5μm〜約20μmが好ましく、約8μm〜約20μmがさらに好ましい。
【0095】
電極をプリンティングした後、金電極−プリンティングされたPETフィルムプレートを、修正ピラニア溶液(Piranha solution)に10〜15分浸し、純水で洗浄する。元々のピラニア溶液は強酸化剤であり、高分子フィルムを腐食する可能性があるため、修正ピラニア溶液を用いる。修正ピラニア溶液は、1N硫酸と20%過酸化水素水を1:1の比で含む。自己組織化単分子層(SAM)−形成分子溶液を、エタノール中約1mM〜20mMの濃度で調製する。その溶液に、金電極−プリンティングされたPETフィルムプレートを浸す。浸漬時間は、SAM−形成分子溶液の濃度に応じて変化する。2mMのN−スクシンイミジルヘキサンジスルフィド溶液を用いる場合、浸漬時間は約45分〜2時間である。処理後、SAMでコーティングされたプレートをエタノール、続いて水で洗浄し、必要であれば窒素雰囲気下で乾燥する。
【0096】
図10と11では、底部支持層102上の電極および回路104、106、116、118のプリンティング後、乾燥タイプのフォトレジストフィルム108を用いて、電極および回路104、106、116、118を有する支持層102をカバーし、加熱・加圧ローラー126で積層する(図11参照)。電極と回路のプリンティング法は、例えばスクリーンプリンティングなど、当技術分野で周知である。積層温度は、例えばフィルム材の特徴など様々な要因によって決まり、約45℃〜約110℃の範囲である。図12に見られるように、フォトレジストフィルム108を重合化する前に、マイクロ流体チャネルの設計を含むフォトマスク128フィルムをフォトレジストフィルム108と底部支持層102の積層された組立体と接触して配置される。フォトマスク128は、電極および回路104、106、116、118の真上に位置し、その部分をカバーしなくてはならない。
【0097】
支持層102上に積層される乾燥タイプのフォトレジストフィルム108をUV照明によって重合化する。フォトレジストフィルム108の重合化は、例えば1KWの紫外光源などによる、約5秒〜約120秒の紫外線照射によって引き起こされる。照射時間と強度は基板の厚さ、フォトレジストフィルム108内に形成されるべきチャネルの幾何学および紫外光源など、様々な要因によって決まる。1KWの紫外光源を用いる場合、暴露期間は約20秒〜約80秒が好ましい。紫外線に曝露された重合化領域は、フォトレジストフィルム108内に、チャネル壁、チャネルおよびチャンバーを形成する。紫外線で曝露されていないフォトマスク128によってカバーされた領域では、柔らかく、変化しやすいままである。
【0098】
図13に示すように、次の工程は、フォトレジストフィルム108をアルカリ溶液(例えば0.1M炭酸ナトリウム緩衝液 pH9.2)と接触させ、フォトレジストフィルム108の不安定で曝露されていない領域130を洗い流し、それによって積層された組立体内に窩洞またはセル132を形成する。得られた組立体を、次に、カバー層112で覆う。接合部131、すなわち、被覆され曝露された電極および回路104、106、116、118の間にチャネル壁が、電気化学センサー装置100の製造の間に形成される。次に、得られた組立体をカバー層112で覆う。重合化された湿ったフォトレジスト層は、接合部分をしっかりと密封し、注入チャンバー110と検出チャンバーが存在する場合に、試料液が接合領域のすき間から浸透するのを防ぐ、カバー層112として利用することができる。電気化学センサー装置100が完成すると、図9に示すような構造を得られる。フォトレジスト層108、カバー層112の長さは、底部支持層102よりも短く、各電極104、106がむき出しになり、接続ピンと接触可能になっている。
【0099】
電気化学センサー装置100を作製するには、上部カバー層112で注入チャネル110を覆う前に、検出チャンバーと合わせた位置にある電極104、106の表面に酵素および/または結合物質を積層しなければならない。共有結合、非共有結合のいずれも、電極上に酵素または結合物質の積層に適用することができる。非共有結合としては、電極上に抗体または酵素を積層することが挙げられる。この工程はナノリットル〜マイクロリットル単位の容量で分子溶液を電極104,106上に直接スポットする。疎水的相互作用および静電的相互作用がタンパク分子と電極104、106の間に生じる。相互作用の強度は、検出チャンバー内で分子が洗浄によって流されないように保持するのに十分な強さである。結合効率と強度を向上させるため、電極104、106を、ポリピロール、ナフィオンまたはアルコキシシランなどの自己組織化単分子層材料でコーティングすることが好ましい。タンパク分子は化学的活性化または光活性化によって、官能基を介して電極と共役結合して差し支えない。
【0100】
図14は、幅約500μm、奥行き約50μmのチャネルの作製に用いた紫外線照射時間を示すグラフである。具体的には、このデータは50μmの厚さのフォトレジストフィルムを100μmのPETフィルム上に積層したマイクロ流体装置の製造から得られたものである。これを、次に幅約500μmのチャネルを含むフォトマスクで覆い、約20=約55秒間紫外線照射した。試料を指定された時間に除去し、炭酸緩衝液で洗浄した。チャネル形成の結果を測定した。重合化度は分光光度計を用いて、約600nmでフィルムの青色光吸収度を測定し、チャネルの幅は測径器を用いて測定した。曝露時間が長くなると約600nmでの重合化フィルムの光吸収は増加したが、チャネル幅は緩やかに小さくなった。重合化されたフォトレジストフィルムの色は、重合化度にしたがって、明るい青色から紺青色へと変化する。
【0101】
流速は、クロマトグラフィー分析での検体分離の分解能を左右する最も重要な変数の1つである。膜系の分析とは異なり、流速と毛管力をマイクロ流体チャネル系で調節して差し支えない。図3A〜3Fに示すように、チャンバーとチャネルの様々な幅と長さの組合せにより、多くの種類の装置の製作を可能にする。より大きい断面積を有するチャネルを使用する場合は、小さい断面積のチャネルよりも、そこを流れる流速が大きくなる。よって、フォトレジスト層14内のチャネル、すなわち、遅延チャネル38と混合チャネル42の幅と奥行きを調節して、反応チャンバー40と検出チャンバー44へと、それぞれのチャネル内を適切に流れるようにすることができる。免疫クロマトグラフィー分析用のマイクロ流体装置を作製するには、試料の流速を一定にし、かつ結合物質が十分反応できるようにしなければならない。
【0102】
図15と16では、15種類のマイクロ流体装置を試験した。10μlのカラーインクを試料注入に装填し、各指定箇所P1〜P3で到達時間を測定した。測定時間を放射線グラフで表した。到達時間は、チャネルの長さに比例した。図16は、マイクロ流体装置が試験した15種類の装置において、一貫した流速と移動距離を与えたことを示している。
【0103】
それゆえ、フォトレジスト層のチャネルの奥行きと幅を正確に画成する能力によって、本発明にしたがうマイクロ流体装置が、定性分析のみならず定量分析にも利用可能になる。それは、それらマイクロ流体装置を一貫した流速と移動時間を提供するように設計できるからである。
【0104】
本発明にしたがった電気化学センサー装置100を酸素、尿素、薬物、グルコースなどの小分子の検出に利用する場合、電気化学センサー装置100には(マイクロ流体装置10では必要とされたようには)、分離工程は必要ないであろう。したがって検出センサーは非常に簡単かつ扱いやすい。酸化酵素または還元酵素を電気化学センサー装置100に利用しても構わない。電気化学センサー100の1つの好ましい例は、血糖測定器である。分析すべきグルコースを含む試料流体を試料注入口110に装填し、試料流体中のグルコースが検出チャンバーに固定されているグルコース酸化酵素(GOD)と接触する検出領域へと流す。グルコース酸化酵素は試料流体中のグルコース濃度に比例して過酸化水素を生成する。得られた過酸化水素が電流に影響を与え、電流の変化が電極104、106を通じて読取ユニット24に伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、本発明に従ったマイクロ流体装置の第1の実施形態の分解図である。
【図2A】図2Aは、図1に示すマイクロ流体装置のカバー層を取り除き、フォトレジスト層の概観を提供した上面図である。
【図2B】図2Bは、本発明に従ったマイクロ流体装置の別の例の上面図である。2B−1は、マイクロ流体チャネル装置を入れるハウジングの上面図である。2B−2は、作製されたマイクロ流体チャネル装置である。
【図2C】図2Cは、本発明に従ったハウジングの上部と下部を含むマイクロ流体装置のハウジング部分の別の例である。
【図3A】図3Aは、フォトレジスト層の吸収領域の様々な選択的パターンを示す。
【図3B】図3Bは、フォトレジスト層の吸収領域の様々な選択的パターンを示す。
【図3C】図3Cは、フォトレジスト層の吸収領域の様々な選択的パターンを示す。
【図3D】図3Dは、フォトレジスト層の反応チャネルまたは検出チャンバーの選択的パターンを示す。
【図3E】図3Eは、フォトレジスト層の反応チャネルまたは検出チャンバーの選択的パターンを示す。
【図3F】図3Fは、フォトレジスト層の反応チャネルまたは検出チャンバーの選択的パターンを示す。
【図4】図4は、図1に示すマイクロ流体装置を含む迅速検査キットの斜視図である。
【図5】図5は、上部のハウジング部分を取り除いた図4に示す迅速検査キットの斜視図である。
【図6】図6は、図4に示す迅速検査キットの6−6の線に沿った断面図である。
【図7】図7は、図4に示す迅速検査キットに使用する読取ユニットの例である。
【図8】図8は、本発明に従った電気化学センサー装置の概観である。
【図9】図9は、図8に示す電気化学センサー装置の分解図である。
【図10】図10は、図8に示す電気化学センサー装置の製造段階を示す。
【図11】図11は、図8に示す電気化学センサー装置の製造段階を示す。
【図12】図12は、図8に示す電気化学センサー装置の製造段階を示す。
【図13】図13は、図8に示す電気化学センサー装置の製造段階を示す。
【図14】図14は、フォトレジスト層の剛性と、紫外線照射の曝露時間の変数である、フォトレジスト層に形成されたチャネルの相関を示すグラフである。
【図15】図15は、異なるマイクロ流体チャネルにおける試料流体の流速の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験すべき試料流体を受け取るように適合された注入チャンバー、前記注入チャンバーと流体連通する反応チャンバー、および前記反応チャンバーと流体連通する少なくとも1つの検出チャンバーを画成するフォトレジスト層と、
前記フォトレジスト層に剛性の支持体を提供するために前記フォトレジスト層の下に配置される支持構造と、
前記反応チャンバーと前記少なくとも1つの検出チャンバーを覆うために前記フォトレジスト層の上に配置されるカバーと、
を備えたマイクロ流体装置。
【請求項2】
前記フォトレジスト層がさらに、試料流体の流れの方向に沿って、前記少なくとも1つの検出チャンバーの下流に、一連の吸収チャネルを備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記一連の吸収チャネルが単一の蛇行流路を画成することを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記一連の吸収チャネルが、前記少なくとも1つの検出チャンバーの最後の1つと注入端で連通している複数の並列チャンネルを画成することを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項5】
前記フォトレジスト層がさらに、前記注入チャンバーと前記反応チャンバーとの間に遅延チャネルを備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記フォトレジスト層がさらに、前記反応チャンバーと前記少なくとも1つの検出チャンバーとの間に混合チャネルを備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの検出チャンバーが、単検出チャンバーからなることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの検出チャンバーが、互いに分離されている複数の検出チャンバーからなることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記支持構造がフィルム層を備えていることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項10】
前記支持構造がさらに、前記フィルム層の下に配置される剛性の裏打ち用基材を備えていることを特徴とする請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記カバーが透明であることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記カバーが、前記反応チャンバーと前記混合チャネルの間に接合間隙を備えていることを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項13】
前記反応チャンバーに配される1種類以上の第1の生体または免疫活性物質と、前記少なくとも1つの検出チャンバーのそれぞれに配される1種類以上の第2の生体または免疫活性物質とをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つの検出チャンバーの導電面、または少なくともその一部を画成する導電面をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項15】
前記導電面が電極であることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記反応チャンバーに配される1種類以上の第1の生体または免疫活性物質と、前記少なくとも1つの検出チャンバーの、または少なくともその一部を画成する、前記導電面と接続して配される1種類以上の第2の生体または免疫活性物質とをさらに備えることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの検出チャンバーの、または少なくともその一部を画成する、前記導電面と、前記導電面の反対側にある接続ピンとを有する電気相互接続ユニットであって、それによって試料流体中の粒子が前記導電面と反応し、前記接続ピンと回路を形成することによって検出可能な、前記導電面を通じて電流に変化を生じさせる、電気相互接続ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項18】
前記1種類以上の第2の生体または免疫活性物質が前記導電面と結合することを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項19】
試験すべき試料流体を受け取るように適合された注入チャンバー、前記注入チャンバーと流体連通する反応チャンバー、前記反応チャンバーと流体連通する混合チャネル、前記反応チャンバーと流体連通する少なくとも1つの検出チャンバー、および試料流体の流れの方向に沿って、前記少なくとも1つの検出チャンバーの下流に位置する一連の吸収チャネルを画成するフォトレジスト層と、
前記フォトレジスト層に剛性の支持体を提供するために前記フォトレジスト層の下に配置される支持構造と、
前記反応チャンバーと前記少なくとも1つの検出チャンバーを覆うために前記フォトレジスト層の上に配置されるカバーと、
を備えたマイクロ流体装置。
【請求項20】
前記反応チャンバーに配される1種類以上の第1の生体または免疫活性物質と、前記少なくとも1つの検出チャンバーのそれぞれに配される1種類以上の第2の生体または免疫活性物質とをさらに備えることを特徴とする請求項19記載の装置。
【請求項21】
試験すべき試料流体を受け取るように適合された注入チャンバー、前記注入チャンバーと流体連通する反応チャンバー、前記反応チャンバーと流体連通する混合チャネル、
前記反応チャンバーと流体連通する少なくとも1つの検出チャンバー、および試料流体の流れの方向に沿って、前記少なくとも1つの検出チャンバーの下流に位置する一連の吸収チャネルを画成し、ここで前記少なくとも1つの検出チャンバーが前記少なくとも1つの検出チャンバーの、または少なくともその一部を画成する、導電面を備えている、フォトレジスト層と、
前記フォトレジスト層に剛性の支持体を提供するために前記フォトレジスト層の下に配置される支持構造と、
前記反応チャンバーと前記少なくとも1つの検出チャンバーを覆うために前記フォトレジスト層の上に配置されるカバーと、
を備えたマイクロ流体装置。
【請求項22】
前記反応チャンバーに配される1種類以上の第1の生体または免疫活性物質と、前記少なくとも1つの検出チャンバーのそれぞれの、または少なくともその一部を画成する、前記導電面と接続して配される1種類以上の第2の生体または免疫活性物質とをさらに備えることを特徴とする請求項21記載の装置。
【請求項23】
試料ウェルを画成するハウジングと、
前記注入チャンバーが前記試料ウェルと位置合わせされている請求項1記載の装置と、
前記試料ウェルと前記注入チャンバーの間に配置されるフィルタと、
を備える迅速検査キット。
【請求項24】
前記ハウジングがさらに、前記反応チャンバーと位置合わせした第1ウィンドウを備えることにより、前記反応チャンバー内の試料流体の存在の確認を可能にすることを特徴とする請求項23記載のキット。
【請求項25】
前記ハウジングがさらに、前記少なくとも1つの検出チャンバーのそれぞれ1つとそれぞれ位置合わせした、少なくとも1つのウィンドウを備えることを特徴とする請求項23記載のキット。
【請求項26】
試料ウェルを画成し、開口部を備えたハウジングと、
前記注入チャンバーが前記試料ウェルと位置合わせされており、前記電気相互接続ユニットが前記開口部を通じて伸びて読取ユニットへの接続が可能になっている請求項17記載の装置と、
を備える迅速検査キット。
【請求項27】
1種類以上の特定の材料の存在について試料流体を試験する方法であって、
試料ウェルを画成し、開口部を備え、それによって前記注入チャンバーが前記試料ウェルと位置を合わせ、前記電気相互接続ユニットが前記開口部を通じて伸びるようにしたハウジング内に請求項17記載の装置を配置し、
前記試料ウェルに試料流体を置き、該試料流体を、前記フォトレジスト層を通じて流し、
前記ハウジングを、読取ユニット内に、前記読取ユニット内で前記電気相互接続ユニットと接触するまで挿入し、
前記読取ユニット内のマイクロコントローラを作動させ、前記電気相互接続ユニットと共に電気回路を完成し、前記電気相互接続ユニットを通じて静電容量または電圧の変化を測定し、
前記測定した静電容量または電圧変化を材料の有無と相関させる、
各工程を有してなる方法。
【請求項28】
1種類以上の特定の材料の存在について試料流体を試験する方法であって、
試料ウェルと少なくとも1つのウィンドウを、前記注入口を前記試料ウェル位置合わせし、前記少なくとも1つのウィンドウのそれぞれを、前記少なくとも1つの検出チャンバーのそれぞれ1つと位置合わせするように画成するハウジング内に請求項1記載の装置を配置し、
試料ウェル内に試料流体を置き、前記フォトレジスト層を通じて前記試料流体を流し、
前記試料流体が前記少なくとも1つの検出チャンバーの最後の1つに到達したことを確認するための少なくとも1つのウィンドウのうちの最後の1つをモニタし、
前記少なくとも1つの検出チャンバーの蛍光強度または光強度の変化を測定し、
前記測定した蛍光強度または光強度の変化を材料の有無と相関させる、
各工程を有してなる方法。
【請求項29】
試験すべき試料流体を受け入れるように適合された注入チャンバー、および前記注入チャンバーと流体連通する少なくとも1つの検出チャンバーを画成するフォトレジスト層と、
前記フォトレジスト層に剛性の支持体を提供するために前記フォトレジスト層の下に配置される支持構造と、
前記少なくとも1つの検出チャンバーを覆うために前記フォトレジスト層の上に配置されるカバーと、
前記少なくとも1つの検出チャンバーの導電面、または少なくともその一部を画成する導電面と、
を備える電気化学センサー装置。
【請求項30】
前記少なくとも1つの検出チャンバーの、または少なくともその一部を画成する、前記導電面を有する電気相互接続ユニットと、前記導電面の反対側に位置する接続ピンとをさらに備え、それによって試料流体中の粒子を前記導電面と反応させ、前記導電面を通じて電流に変化を生じさせ、それを前記接続ピンと共に回路を形成することによって検出する、請求項29記載の電気化学センサーユニット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−501908(P2009−501908A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521717(P2008−521717)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027806
【国際公開番号】WO2007/009125
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(508013700)ナノ−ディテック コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】NANO−DITECH CORPORATION
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】