説明

マグネシアカーボンれんがの補修方法

【課題】低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがと溶射施工体との接着性を向上させるができる補修方法を提供すること。
【解決手段】固定炭素量が13質量%以下(0を含まず)のマグネシアカーボンれんがに対して溶射を行う。溶射対象のマグネシアカーボンれんがとしては、粒径1mm超〜5mmのマグネシアクリンカーが10〜50質量%、粒径75μm超〜1000μmのマグネシアクリンカーが10〜70質量%、粒径75μm以下のマグネシアクリンカーが10質量%以下(0を含む)、粒径45〜1000μmの鱗状黒鉛が1〜10質量%、粒径45μm未満の鱗状黒鉛が3質量%以下(0を含む)、およびAlまたはAl合金がAl含有量として3質量%以下である耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し、成形後熱処理して得られたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉、電気炉、取鍋、脱ガス炉、または溶融炉等の溶融金属容器の内張り耐火物として使用されるマグネシアカーボンれんがの補修方法に関する
【背景技術】
【0002】
マグネシアカーボンれんがは、マグネシア原料と黒鉛とを主成分としカーボンボンドで結合された耐火れんがであり、通常、黒鉛を20〜30質量%含有し、主として転炉、電気炉等または取鍋等の溶融金属容器の内張りれんがとして使用されている。
【0003】
近年、製鋼工程においてより一層の鋼製品の高品質化と、より厳しい組成コントロールが求められるようになってきている。そのため、マグネシアカーボンれんがに含有されるカーボンが溶鋼中へ溶解する現象(以下「カーボンピックアップ」という。)による溶鋼の汚染の問題が顕在化してきている。さらには、カーボンが高熱伝導率であるため溶鋼温度低下などの熱ロス、転炉の鉄皮変形、さらには、カーボンの燃焼にともなうCOガスの放出などの諸問題から、最近はマグネシアカーボンれんがの低カーボン化が望まれている。
【0004】
そこで近年、マグネシアカーボンれんがの低カーボン化が種々検討されている。例えば特許文献1には、耐火性原料と炭素を含有する炭素質原料とを含む原料配合物において、該原料配合物の熱間残留分100重量%に対して前記炭素質原料の固定炭素分が0.2〜5重量%あって、前記炭素質原料の少なくとも一部に、固定炭素が25重量%以上でかつ粘性が200ポイズ以下の有機バインダーとβ−レジン含有量が10質量%以下のピッチとを使用した低カーボン質炭素含有耐火物が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、メソフェーズ含有ピッチ粉末を含有するマグネシアカーボンれんがが開示されており、このマグネシアカーボンれんがにおいては、液晶状のメソフェーズが粘性に富みしかも強力なカーボンボンドを作るため、熱応力を緩和し耐熱衝撃性を向上するために、耐用性が向上するとされている。そして実施例として黒鉛量が10質量%以下の低カーボン質マグネシアカーボンれんがが開示されている。
【0006】
ところで、転炉にライニングされるマグネシアカーボンれんがは、カーボンの酸化、あるいはスラグによる侵食等により損耗が著しい。また、その損耗の程度は転炉の部位により様々であり、転炉の寿命延長のためには先行して損耗している部位を早期に補修する必要がある。このため、一般的には、不定形耐火物等で補修を繰り返して使用しており、これによって数千回の使用に耐用している。補修方法として乾式吹き付け、焼付け、スラグコーティング、あるいは溶射等が挙げられる。
【0007】
これらの補修方法の中でも溶射は、火炎で耐火材料の一部を溶融させて吹き付ける方法であり、乾式吹き付けや焼付けのように水や溶剤のような蒸発成分を含まないこと、またスラグコーティングと比較して施工体の融点が高いことから、耐用性に優れる施工体が得られる。しかしながら、実際には溶射装置が高価であること、溶射作業が煩雑で人手を要すること、そしてこれらの溶射施工費用に見合うほどの施工体の耐用性が得られ難いことから、一部の製鉄所でしか使用されていないのが現状である。
【0008】
これに対して、溶射材料の耐用性を向上させるための技術が検討されている。例えば特許文献3には、マグネシア系溶射材料において、焼結カルシア−マグネシアクリンカーを5〜40wt%と、焼結マグネシアクリンカーおよび/または電融マグネシアを30〜70wt%と、スラグ10〜50wt%とを配合した溶射材料が開示されている。これによって、従来材質に比べて接着性および耐食性に優れた溶射材料が得られるとされている。
【0009】
また、溶射時には、マグネシアカーボンれんがの表面がスラグで覆われており、このために溶射材料の接着性が低下すると考えられており、この改善策が特許文献4に開示されている。すなわち、溶射対象の耐火物表面の温度を1000℃以上に昇温し、耐火物表面の温度が1000℃以上の状態でその耐火物表面に向けて耐火物微粉末を溶射する火炎溶射方法が開示されている。この方法では、飛来した溶融状態または半溶融状態の耐火物微粉末が徐々に冷却されて、溶射材料と付着スラグとの接触面積が増加し、溶射層と内張り耐火物との接着力が高まり耐用性が増加するとされている。また、内張り耐火物を損傷せず、内張り耐火物が黒鉛含有耐火物であっても耐火物中の黒鉛を酸化させることなく、溶射層と内張り耐火物とを強固に接着させ、耐用性の高い溶射層を得ることができるとされている。
【特許文献1】特開平11−322405号公報
【特許文献2】特開平5−4861号公報
【特許文献3】特開平11−71183号公報
【特許文献4】特開2002−107065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および特許文献2の低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがを実際に転炉で使用した際には、製鋼時のスラグ組成等の使用環境によっては、従来の黒鉛の多い(20〜30質量%含有)マグネシアカーボンれんがと比較して十分な耐用が得られないケースが見受けられる。
【0011】
転炉で使用されるマグネシアカーボンれんがの耐用性は製鋼スラグ中の(FeO)量に影響を受ける。すなわち、製鋼工程における吹き止めカーボンレベル低減時あるいは吹錬時の酸素量増加等に伴うスラグの一時的・局部的な高(FeO)化に対しては、(FeO)による耐火物中カーボンの液相酸化が損耗を支配しており、黒鉛含有量の低減は耐用性の改善に有効である。しかしながら、スラグ中の(FeO)量あるいは塩基度によってはれんが中のマグネシアの溶損が損耗に大きく影響するため、れんがの黒鉛含有量低減での耐用改善効果が期待しづらく、転炉における先行損耗部位が現れ、依然として転炉寿命のネックとなりうる。さらに、黒鉛含有量を低減すると耐スポーリングが低下するので、結果として、低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがでは十分な耐用性が得られず、とくに転炉ではまだ本格的な実用化段階に至っていない。
【0012】
これに対して、低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがの補修方法を改善してその耐用性を向上させることが考えられる。しかし、前記特許文献3のような溶射材料の改善では、従来材料と比較すると接着性および耐食性に優れた材料が得られるものの、前述の溶射施工費用に見合った溶射施工体の耐用性と言う点ではまだ不十分である。
【0013】
一般的に、溶射施工体の耐用性は補修される被施工面との接着性に大きく影響を受けるため、この接着界面をいかに密着かつ強固に結合させるかが重要な因子となる。つまり溶射施工体自体の耐用性をいかに向上させても高接着性を有しないのであれば、溶射施工体は剥落してしまい、耐用性が不十分となる。
【0014】
そこで、上記特許文献4の方法では溶射粉末とスラグの接着性を改善するようにしているが、この方法によれば、接着界面が最も加熱されるのは溶射前の加熱よりも吹き付けられた溶融粉末が付着した後の蓄熱によってであり、結果として長時間、接着界面が2000℃以上の高温に晒されることになるため、後述のようにガス発生により溶射施工体の接着強度が低下するため、十分な耐用性は得られない。
【0015】
とくに被施工耐火物の中でもマグネシアカーボンれんがの表面は、溶射時、溶射のフレームによって酸素ガスに曝され、また2000℃近い溶射材料の付着によって高温になる。その結果、れんがの表面付近からガスが発生し、このガスが溶射時にれんがと溶射施工体との界面中あるいはれんがと溶射施工体間に介在するスラグ中に滞留するため、接着界面が多孔質になり溶射施工体の剥落が発生すると推定される。その結果、マグネシアカーボンれんがに対する溶射は、その施工体自体が他の補修による施工体と比べて耐用性に優れているにもかかわらず、期待されるほどの高耐用性が得られないと考えられる。なお、れんが中から発生するガスとしては、れんが中の炭素成分の酸化によるCOやCO、さらにはマグネシアクリンカーがれんが中の炭素成分あるいは酸化防止材として添加されるAlによって還元されて発生するMgガスあるいはCOが考えられる。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがをライニングした溶融金属容器の寿命を向上させるために、低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがと溶射施工体との接着性を向上させるができる補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、マグネシアカーボンれんがと溶射施工体との接着力は、れんが中の炭素成分量に関係が強いと考えた。そこで、れんが中の炭素成分量(固定炭素量)と溶射施工体との接着力との関係について種々実験を行った。その結果、固定炭素量が少ないほど接着力が高いこと、しかも固定炭素量を13質量%以下とすることで、その接着力が格段に高くなることを知見した。そして、この固定炭素量を13質量%以下とすることで、接着力が固定炭素量20質量%の場合と比較すると2倍以上となり、溶射による補修を行うことで溶融金属容器の寿命を大幅に伸ばすことが可能となることがわかった。
【0018】
すなわち、本発明は、溶融金属容器にライニングされたマグネシアカーボンれんがの補修方法であって、固定炭素量が13質量%以下(0を含まず)のマグネシアカーボンれんがに対して溶射を行うことを特徴とするものである。ここで、固定炭素量はJIS−M8812に準拠して測定される。
【0019】
マグネシアカーボンれんが中の固定炭素量は、少ないほど溶射施工体との接着強度が高くなり、13質量%以下とすることで溶射の効果が実用レベルになるが、さらに耐用性を高めるには1〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
固定炭素量が13質量%を超えると、溶射材料と接するマグネシアクリンカーの総面積が減少すること、ガスの発生量が増加することによる接着界面のガス滞留による接着不足、さらにはそのガス滞留により吹き付けられた溶射材料が瞬時に温度低下するため半溶融状態の粒子が付着せずリバウンドすること等により、接着力が大幅に低下すると考えられる。
【0021】
本発明では、固定炭素量が13質量%以下のマグネシアカーボンをライニングした溶融金属容器において、溶射補修を行う。溶射には、公知の装置および公知の材料を使用することができる。溶射は溶融金属容器が15回使用される間に最低1回行うと良い。15回を超えると耐火物の損傷が大きくなり、溶射してもその寿命延長効果が得られにくい。より好ましくは、溶融金属容器が15回使用される間に1〜3回溶射することである。ここで1回の使用とは、溶融金属を受けてから排出され次に溶融金属を受けるまでをいう。
【0022】
溶射は、他の補修材の効果が少ない部位あるいは他の補修材が適用できない部位にライニングされているれんがに対し行うと効果的である。これらの部位以外は、主として乾式吹き付け施工や焼付け補修等を使用することができ、溶射補修のみを行う場合よりもより低コストである。具体的には、溶射と他の補修方法との使用頻度については、消費する材料の量比で、溶射材料:乾式吹き付け材料および焼付け補修材が1:3〜1:10とすることができる。これにより、低コストな補修で高寿命化を達成することができる。
【0023】
溶射材料としては、MgOとCaOとを主成分とする溶射材料を使用することができる。より具体的には、MgOとCaOの合量が70質量%以上である溶射材料を使用することで、接着強度の高い施工体を得ることできる。
【0024】
本発明で使用するマグネシアカーボンれんがは、固定炭素量が13質量%以下のものである。具体的にはマグネシアクリンカーを60〜99質量%、鱗状黒鉛を1〜10質量%および必要に応じて金属等の酸化防止材等を含有する耐火原料配合物に適量の有機バインダーを添加して混練し、成形後熱処理して得られる。ただし、使用する炭素含有原料は、それぞれの炭素含有原料中の固定炭素量の合量が製造されるれんが中で13質量%以下になるように配合しておく。また、耐火原料配合物には公知のマグネシアカーボンれんがに使用されている一般的な耐火原料、例えばドロマイト、スピネル、カーボンブラック、および/またはコークス等を適量使用することもできる。
【0025】
また、マグネシアカーボンれんがには黒鉛等の炭素質材料の酸化を防止するためにAl、Mg、Ca、Siまたはそれらを組み合わせた合金、SiC、BCなどの炭化物、さらには硼化金属化合物の適用が可能である。このうち、AlまたはAl合金については、Al含有量の合計が耐火原料配合物に占める割合として3質量%以下(0を含む)とすると、より溶射施工時のガス発生を抑制する効果が得られる。したがって、耐火原料配合物中のAlまたはAl合金の含有量は、Al含有量として3質量%以下(0を含む)であることが好ましい。3質量%を超えると溶射中にれんがの表面近くでマグネシアクリンカーがAlによって還元されガスを発生しやすくなる。また、れんがの表面近くにおいては多すぎるAl粉がマグネシアの還元反応よりも早く酸化反応を起こすため、逆に表面の組織劣化を引き起こしてしまうと考えられる。
【0026】
耐火原料配合物中のマグネシアクリンカーは、炭素や金属Alによる還元反応を抑制するためには微粉の含有率を少なくすると良く、粒径75μm以下が耐火原料配合物中に占める割合として10質量%以下(0を含む)とすることが好ましい。粒径75μm以下が10質量%を超えると溶射時にガスが発生しやすくなるため溶射施工体との接着力が低下する傾向にある。
【0027】
また、粒径75μm超〜1000μmのマグネシアクリンカーは、溶射施工体との接着力の面から、耐火原料配合物に占める割合で10〜70質量%含有させることが好ましく、より好ましくは20〜60質量%含有させる。10質量%未満ではれんが組織が粗になり強度が不足することにより溶射施工体の接着力が低下する。70質量%を超えるとれんが中のマグネシア同士あるいは溶射施工体との焼結が過剰となることから、原れんが部との組織差が大きくなり、温度サイクルの過程において境界部に亀裂が発生し、溶射施工体が安定して接着しづらくなる。
【0028】
さらに、粒径1mm超〜5mmのマグネシアクリンカーは、耐火原料配合物に占める割合で10〜50質量%使用することが好ましい。10質量%未満では溶射時の熱衝撃によりれんが中に亀裂が発生しやすくなり、50質量%を超えると高気孔率となり溶射中に炭素成分が酸化されガスが発生しやすくなる。
【0029】
一方、マグネシアカーボンれんがに使用する鱗状黒鉛としては、溶射中に発生するガスを低減する目的からその粒径が45〜1000μmの範囲のものを1〜10質量%使用することが好ましい。また、粒径が45μm未満ではガスが発生しやすくなるが、耐火原料配合物中で3質量%以下(0を含む)とすればガス発生を低減する効果が得られる。
【0030】
以上のことから、本発明の補修方法で溶射の対象とするマグネシアカーボンれんがは、粒径1mm超〜5mmのマグネシアクリンカーが10〜50質量%、粒径75μm超〜1000μmのマグネシアクリンカーが10〜70質量%、粒径75μm以下のマグネシアクリンカーが10質量%以下(0を含む)、粒径45〜1000μmの鱗状黒鉛が1〜10質量%、粒径45μm未満の鱗状黒鉛が3質量%以下(0を含む)、およびAlまたはAl合金がAl含有量として3質量%以下である耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し、成形後熱処理して得られたものであることが最も好ましい。
【0031】
なお、マグネシアカーボンれんがの製造時に使用する有機バインダーについては、通常、カーボン含有耐火物の有機バインダーとして使用されるものであれば、とくに限定されることなく使用することができる。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ類、フェノール類、フルフリルアルコール類、フルフリルアルデヒド類、およびタール等からなる群のうち1種以上である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、溶射によって低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがの寿命を大幅に向上させることができるので、溶射によるコストアップに十分見合った溶融金属容器の耐用性向上を得ることができる。その結果、低カーボンタイプのマグネシアカーボンれんがを使用した溶融金属容器を安定した寿命で使用することができるので、適用する溶融金属容器を拡大することで、低カーボンれんがの特徴である、カーボンピックアップの低減による鋼の品質向上あるいは低熱伝導率化による省エネ等の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、実施例によって本発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0034】
表1〜3に耐火原料配合物の組成とその耐火原料配合物から得られた耐火物の試験結果を示す。表1〜3に示す耐火原料配合物に有機バインダーとしてフェノール樹脂を添加して混練し、フリクションプレスにて並形に加圧成形後、250℃で24時間加熱した。フェノール樹脂は、エチレングリコールを主成分とする溶媒で希釈し粘性を調整したものを使用した。表1〜3中の耐火原料配合物は、最大粒径を5mmとした。得られた供試耐火物について、耐食性および接着強度を測定した。耐食性は回転侵食法により、転炉スラグを用いて1700℃で5時間侵食させたのちに、溶損寸法を測定し、実施例5の溶損寸法を100として指数で示した。なお、実施例3の耐火物は、かさ比重3.2、見掛け気孔率3%、1400℃での熱間曲げ強さ15MPaであった。固定炭素量はJIS−M8812に準拠して測定した。
【0035】
図1は、溶射施工体と被施工体である供試耐火物との接着強度の測定方法を示す概略図である。一様な切欠部1aを設けた炭素質プレート1を、10mm厚みにスラグを溶融付着させた供試耐火物(マグネシアカーボンれんが)2に密着するようにセットした後、溶射バーナー3で切欠部1aへ溶射施工体4の厚みが50mmに達するまで吹き付けた。そして、溶射施工体4の表面温度が1100℃になるまで放冷した後、ジャッキ5で溶射施工体4を炭素質プレート1とともに垂直上向きに押し上げ、剪断した時の数値を接着面積で除した値を接着強度とした。溶射材料としては、焼結カルシア−マグネシアクリンカー20質量%と、マグネシアクリンカー60質量%(MgO純度97質量%)と、スラグ20質量%とを配合したものを使用した。焼結カルシアーマグネシアクリンカーはMgOが41質量%、CaOが58質量%であった。スラグはCaOを44質量%、FeOを27質量%、SiOを13%質量%、及びMgOを5質量%含有する転炉スラグを使用した。
【0036】
表1は、鱗状黒鉛の添加量を変化させてマグネシアカーボンれんが中の固定炭素量が溶射施工体との接着強度に与える影響を調査した結果である。実施例1〜5は固定炭素量が13質量%以下であり接着強度が3Mpa以上である。とくに実施例3および実施例4は耐食性と接着強度とのバランスに優れており総合評価として非常に良いレベルである。実施例1および実施例2は鱗状黒鉛が少ないため、実施例3および実施例4と比較して耐食性がやや劣っている。一方、比較例1〜3は固定炭素量が本発明の範囲外であり接着強度が実施例5と比較すると大幅に低くなっている。
【0037】
実施例1〜5の接着強度は、従来一般的な固定炭素量が20質量%の比較例3の接着強度が1.7MPaに対して、2倍以上と大幅に向上している。さらに接着試験において、実施例1〜5ではれんが内部から破断していたが、比較例1〜3では接着界面あるいは溶射施工体中の界面近傍からの破断していた。つまり実施例1〜5では界面接着力および溶射施工体強度がれんが強度よりも明らかに高くなったと考えられる。また、実施例1〜5の破断面は溶射施工体自体にもガスによる気孔がほとんど無く健全層を保持している状態であり、逆に比較例1〜3の接着界面および溶射施工体破断面では多数の気孔が連なる、あるいは気孔間が密接していることにより亀裂が伝播した状態となっていた。これらの試験結果から、固定炭素量が13質量%以下のマグネシアカーボンれんがは、溶射補修することで実炉における耐用性が格段に向上すると言える。
【0038】
表2において、実施例6〜10は耐火原料配合物中における粒径45μm未満の鱗状黒鉛の占める割合が溶射施工体との接着性に与える影響を調査したものである。粒径45μm未満の鱗状黒鉛の占める割合が少ないほど溶射施工体との接着強度が高い傾向になっており、実施例6〜8は接着力、耐食性ともに実施例9および実施例10よりも優れる結果になっている。
【0039】
実施例11〜14は耐火原料配合物中における粒径75μm以下のマグネシアクリンカーの占める割合が溶射施工体との接着性に与える影響を調査したものである。粒径75μm以下のマグネシアクリンカーの占める割合が少ないほど溶射施工体との接着強度が高い傾向になっており、実施例11および実施例12は接着力、耐食性ともに実施例13および実施例14よりも優れる結果になっている。
【0040】
実施例15〜18は耐火原料配合物中における粒径75μm超〜1000μmのマグネシアクリンカーの占める割合が溶射施工体との接着性に与える影響を調査したものである。粒径75μm超〜1000μmのマグネシアクリンカーの占める割合が5質量%と少ない実施例15および75質量%と多い実施例18は溶射施工体との接着強度がやや低くなっている。
【0041】
表3は、AlまたはAl合金粉の添加割合が溶射施工体との接着性に与える影響を調査したものである。AlまたはAl合金粉の添加量は少ないほど接着強度は高くなる傾向にあることがわかる。
【表1】

【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】溶射施工体と被施工体である供試耐火物との接着強度の測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 炭素質プレート
1a 切欠部
2 供試耐火物(マグネシアカーボンれんが)
3 溶射バーナー
4 溶射施工体
5 ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属容器にライニングされたマグネシアカーボンれんがの補修方法であって、固定炭素量が13質量%以下(0を含まず)のマグネシアカーボンれんがに対して溶射を行うマグネシアカーボンれんがの補修方法。
【請求項2】
マグネシアカーボンれんがが、AlまたはAl合金がAl含有量として3質量%以下(0を含む)、および粒径75μm以下のマグネシアクリンカーが10質量%以下(0を含む)である耐火原料配合物を使用して得られたものである請求項1に記載のマグネシアカーボンれんがの補修方法。
【請求項3】
マグネシアカーボンれんがが、粒径1mm超〜5mmのマグネシアクリンカーが10〜50質量%、粒径75μm超〜1000μmのマグネシアクリンカーが10〜70質量%、粒径75μm以下のマグネシアクリンカーが10質量%以下(0を含む)、粒径45〜1000μmの鱗状黒鉛が1〜10質量%、粒径45μm未満の鱗状黒鉛が3質量%以下(0を含む)、およびAlまたはAl合金がAl含有量として3質量%以下である耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し、成形後熱処理して得られたものである請求項1に記載のマグネシアカーボンれんがの補修方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−151425(P2008−151425A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340457(P2006−340457)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】