説明

マスク部材の洗浄装置

【課題】レーザ光を用いたドライ洗浄による洗浄効率を向上させ、洗浄むらの発生を抑制する。
【解決手段】マスク部材1を位置調整手段21により位置調整可能な昇降部材11に装着して、マスク板2に対してレーザ光照射手段15におけるレーザ発振器13からのレーザ光をスキャニング光学系15によって、マスク板2の主走査方向に微小移動させながらレーザ光のパルスを照射し、1ライン分の走査が終了すると、副走査方向に1ピッチ分ずらせて走査を継続するようになし、マスク板2の全面にレーザ光のスポットを照射することによりドライ洗浄を行うに当って、ドライ洗浄開始前に撮像手段20によりマスク部材1のアラインメントマークMを基準として、レーザ光の微小スポットSがマスク板2の格子部4bに照射されるように位置調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に真空蒸着を行った後の金属製のマスク部材を洗浄するためのマスク部材の洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機ELディスプレイの製造に当っては、パネル基板の表面にR,G,Bに発光する発光素子のパターンを形成する。各色の発光素子は有機材料から形成され、そのパターン形成は真空蒸着法によるのが一般的である。この真空蒸着に用いられるのがマスク部材である。マスク部材はマスク板とマスクフレームとから構成される。マスク板はニッケル―コバルト合金等からなり、数十μm程度の厚みからなる金属薄板で構成され、マスクパターンとして、多数の微小な透孔を微小ピッチ間隔で有するものである。マスク板は四角形の部材からなり、その保形性を図り、取り扱い時にマスク板の変形や損傷を防止するために、マスクフレームが取り付けられている。
【0003】
このマスク部材はパネル基板に対する真空蒸着を行う際には、真空チャンバ内でパネル基板の表面にマスク部材をアラインメントさせた状態にして対向配設し、蒸発源から蒸着物質を気化させて、マスク部材を介してパネル基板に付着させることによって、パネル基板の表面に所定の薄膜発光素子のパターンを形成する。従って、有機ELディスプレイを構成する場合には、パネル基板の表面にR,G,Bの3色の薄膜発光素子のパターンが形成される。
【0004】
真空蒸着時には、パネル基板だけでなく、マスク部材にも蒸着物質が付着する。同じマスク部材を用いて複数回蒸着を行うと、マスク部材の表面に付着した蒸着物質が積層状態で成長する結果、厚みが増大する。このように、蒸着物質の厚みが大きくなると、透孔によるパターン形状が変化する等、製品の品質が低下してしまう。そこで、マスク部材を使用して所定の回数だけ真空蒸着を行うと、このマスク部材をクリーニング乃至洗浄して、表面に付着している蒸着物質を除去して再生を行うようにする。
【0005】
マスク部材の洗浄方式としては、溶剤を貯留した洗浄槽にマスク部材を浸漬させて行うウエット式超音波洗浄がある。しかしながら、マスク部材を長い時間洗浄液に浸漬させると、超音波による熱の影響から、マスク板にダメージが発生することがあり、また洗浄槽の汚損が発生し、その排液処理の負担が大きくなる等の問題点がある。
【0006】
マスク部材の他の洗浄方式としてドライ洗浄方式が、例えば特許文献1の記載から明らかなように、従来から知られている。即ち、マスク部材を構成するマスク板にレーザ光のパルスを照射することによって、膜状となってマスク板の表面に付着している蒸着物質を剥離して回収するものである。このマスク板からの剥離は、マスク板に作用するレーザ光の振動等に起因するものであり、マスク板に照射されるレーザ光のパルスを微小スポットとするために、集光レンズでスポット径を絞るようになし、マスク板の表面に沿ってX,Y方向に移動させることによって、このマスク板の全面をドライ洗浄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−192426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マスク板は多数の微小透孔が穿設されており、この微小透孔は所定のピッチ間隔をもって縦横に配置している。従って、マスク板にレーザ光を照射したときに、その照射位置が微小透孔の部位と、微小透孔が存在しない部位と、微小透孔と透孔のない部位との境界部とでは、マスク板に作用するレーザ光のエネルギが変化する。従って、照射されるレーザ光のパワーに変化がなくても、照射位置によっては、マスク板からの蒸着物質の剥離効率が変化する。特に、微小透孔にレーザ光が照射されると、剥離効率が低下することになる。つまり、レーザ光の照射スポットとマスク板の微小透孔の位置との関係から、剥離むらが発生する可能性がある。
【0009】
ところで、マスク部材を洗浄する場合、マスク板とマスクフレームとの境界部及びマスクフレームの表面にも蒸着物質が付着しており、このためにドライ洗浄だけでなく、ドライ洗浄の後に洗浄液を用いたウエット洗浄が行われることになる。従って、ドライ洗浄時に剥離効率の低下や剥離むらが多少あったとしても、マスク部材の清浄化という観点からは格別問題はない。しかしながら、マスク板に蒸着物質の剥離残りがあると、ウエット洗浄工程に持ち越されることになり、蒸着物質の回収率の低下を来し、また洗浄液の汚損度合いが高くなる等といった問題点がある。後段でウエット洗浄を行うにしても、ドライ洗浄を行う以上、洗浄効率を最大限に発揮することが望まれる。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、レーザ光を用いたドライ洗浄による洗浄効率を向上させ、洗浄むらの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明は、所定のパターンをもって微小透孔を穿設したマスク板からなる蒸着マスク部材に付着している蒸着物質を除去するために、レーザ光照射手段からのレーザ光を照射して、このレーザ光を前記マスク板の表面を走査することによって、前記蒸着物質を剥離してマスク部材を洗浄する装置であって、前記マスク部材の所定の位置に設けられているアラインメントマークを認識するアラインメントマーク認識手段と、前記アラインメントマーク認識手段により検出した前記マスク部材の位置に応じて、前記レーザ光照射手段による前記マスク部材へのレーザ光の照射位置を制御する制御手段とを備える構成としたことをその特徴とするものである。
【0012】
レーザ光をマスク板に照射するに当って、その照射位置はマスク板から蒸着物質をできるだけ効率的に剥離できる位置とする。マスク板には多数の微小透孔が形成されているが、これら微小透孔は規則的に配列されている。従って、最も剥離効率が高い位置にレーザ光を照射するためには、レーザ光の照射開始位置と、照射パルスの間隔とを適正に設定しなければならない。このために、ドライ洗浄を行う前に、マスク部材とレーザ光照射手段との間でアラインメントを行う。一般に、有機ELディスプレイを製造する際には、パネル基板にR,G,Bの各色の薄膜発光素子が所定のパターンとなるように形成される。マスク部材はパネル基板に積層されるが、パネル基板とマスク部材との間でアラインメントするために、各色のマスク部材にはそれぞれ所定の位置にアラインメントマークが設けられている。本発明においては、マスク部材の位置を認識するために、このアラインメントマークを手懸りとする。
【0013】
アラインメントマークを検出して、レーザ光照射手段とマスク部材との間を位置合わせする。このためにアラインメントマーク認識手段が設けられ、このアラインメントマーク認識手段はマスク部材のアラインメントマークを画像認識する。そして、レーザ光照射手段とマスク部材との位置合わせはレーザ光照射手段により光学的に行うことができ、マスク部材乃至またはレーザ光照射手段の少なくとも一方を位置調整可能な構成とすることもできる。例えば、マスク部材を支持部材に支持させ、この支持部材に直交2軸からなる位置調整機構を持たせるようになし、アラインメントマークが基準位置からずれていると、位置調整機構を作動させて、位置調整を行うようにすることができる。この場合おいて、洗浄対象となるマスク部材を予め設定した基準位置に配置することができる。支持部材はマスク部材を水平状態に支持するように構成することができ、また垂直状態のように立てた状態にして支持するように構成しても良い。
【0014】
レーザ光照射手段によるマスク部材へのレーザ光の照射位置はマスク板に付着している蒸着物質を効率的に剥離し、かつ剥離むらが最小限となる位置とする。マスク板にはマスクパターンをパネル基板に転写するための微小透孔が所定のピッチ間隔をもって配設されており、このために一般にマスク板は格子状となっている。格子の部分にレーザ光を照射すると、レーザ光のエネルギは透孔から抜けることなく、そのほぼ全体がマスク板に作用することになる。できるだけ格子の部分に照射することによって、剥離効率が高くなり、迅速なドライ洗浄が可能になる。レーザ光のスポット径と微小透孔のサイズとの関係で、格子の交差部毎にレーザ光を照射するようになし、微小透孔のサイズが大きい場合には、格子の交差部間の位置の1乃至複数箇所にレーザ光を照射するのがより望ましい。
【0015】
パネル基板に対しては、R,G,Bの各色用として、3種類のマスク部材により蒸着が行われる。これら3種類のマスク部材についは、各マスク板における微小透孔の位置が異なってくる。従って、各マスク部材のドライ洗浄を行う際には、それぞれレーザ光の照射位置を調整しなければならない。そこで、制御装置では、これら各種のマスク部材について、レーザ光の照射位置及び間隔に関するデータを保持しておき、マスク部材の種類に応じて、このデータを読み出して、レーザ光照射手段によるレーザ光の照射位置の制御を行うようにする。
【0016】
また、同一のドライ洗浄装置において、R,G,Bの3種類のマスク部材をドライ洗浄するだけでなく、種類やサイズの異なるマスク部材も洗浄処理が行われることがある。微小透孔の大きさやピッチ間隔が異なるものである場合には、レーザ光の照射位置の間隔を変化させる必要がある。照射パルスの周波数そのものを制御することもできるが、パルス周波数を一定にして走査速度を変化させることもできる。即ち、レーザ光の照射間隔を広げる場合には、レーザ光の走査速度を速くし、照射間隔を狭める場合には、レーザ光の走査速度を遅くするように制御すれば良い。
【発明の効果】
【0017】
マスク部材に対して、レーザ光照射手段によりマスク板にレーザ光を照射してドライ洗浄を行うに当って、マスク板におけるレーザ光の照射位置を制御することによって、剥離効率が高く、しかも剥離むらの発生を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明において、クリーニングの対象となるマスク部材の平面図である。
【図2】マスク部材を装着して基板表面に真空蒸着を行っている状態を示す要部拡大断面図である。
【図3】ドライ洗浄装置の概略構成図である。
【図4】マスク板と、このマスク板へのレーザ光のスポットとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1において、1はマスク部材であり、マスク部材1は、四角形状のマスク板2と、このマスク板2の周囲に設けた枠体からなるマスクフレーム3とから構成されている。マスク板2には、微小透孔4aを所定のピッチ間隔をもって縦横に多数配列したマスクパターン領域4を有するものであり、従ってマスク板2は微小透孔4aを区画形成する縦横の格子4b部を有している。
【0020】
マスク部材1は、図2に示したように、透明な薄板ガラスからなるパネル基板5の表面に所定のパターンを形成するために用いられるものであって、有機ELディスプレイを構成する場合には、R,G,Bに発光する発光素子のパターンを形成するために用いられる。各色の発光素子は有機材料から形成され、そのパターン形成は真空蒸着法により行われる。パネル基板5は真空蒸着チャンバの内部において、加熱されている蒸発源と対向配設することによって、蒸発源からの蒸着物質を気化させて、パネル基板5の表面に蒸着膜6が成膜される。このパネル基板5への成膜パターンを形成するためにマスク部材1が用いられる。
【0021】
マスク部材1は、そのマスク板2がパネル基板5に重ね合わされる。真空蒸着が行われると、マスク板2だけでなくマスクフレーム3を含めたマスク部材1全体に蒸着物質からなる蒸着膜6が膜状に付着することになる。この蒸着物質の付着は、蒸着回数を重ねる毎に堆積して、ある程度まで蒸着物質が堆積すると、微小透孔4aによるパターン形状を変化させることになり、パターンの転写精度が低下することになる。そこで、この微小透孔4aによるパターン形状が変化する前にクリーニングを行って、マスク部材1の表面に付着している蒸着物質膜7を除去するようにしなければならない。蒸着物質が付着するのは、マスク板2における微小透孔4aの壁面を含めて、真空蒸着時に蒸発源に対向する表面1aの全面であって、マスクフレーム3にも蒸着物質膜7が付着する。また、マスク部材1の裏面側1bにも多少の蒸着物質が付着することもある。
【0022】
ここで、マスク板2の表面に付着している蒸着物質膜7を除去するために、レーザ光の照射によるドライ洗浄が行われる。このドライ洗浄装置の全体概略構成を図3に示す。このドライ洗浄装置では、マスク部材2を鉛直方向に立てた状態で、このマスク部材2を構成するマスク板2のマスクパターン領域4へのレーザ光の照射によるドライ洗浄が行われる。
【0023】
ドライ洗浄ステージSには、一対のポスト10,10が設けられており、ポスト10,10間には昇降部材11が設けられている。昇降部材11は側部ガイド部11a,11aと、ボトム受け部11bとから構成されている。両側部ガイド部11aには、スライドガイド12が設けられており、マスク部材1は、そのマスクフレーム3の左右両側部がスライドガイド12に挿通可能となっており、マスク部材1はボトム受け部11bに当接する位置まで落し込まれて、この昇降部材11に支持される。従って、昇降部材11がマスク部材1を昇降可能に支持する支持部材となる。そして、昇降部材11の側部ガイド部11aはポスト10のガイド溝10aに係合しており、このガイド溝10aに沿って上下移動することになる。従って、マスク部材1は鉛直状態にして支持されることになる。
【0024】
ドライ洗浄は、昇降部材11に支持されているマスク部材1をスポット的に急速加熱することにより行われる。このために、レーザ光のパルスを出射するレーザ発振器13が設けられている。このレーザ発振器13からのパルス状のレーザ光の光路はスキャニング光学系14により曲折されて、マスク部材1に照射されるようになっている。ここで、スキャニング光学系14は、例えば集光レンズとガルバノミラー及びその駆動用アクチュエータとから構成され、これらレーザ発振器13とスキャニング光学系14とでレーザ光照射手段15が構成される。
【0025】
ここで、マスク部材1に対しては、そのマスク板2における少なくともマスクパターン領域4の全体がドライ洗浄される。マスク部材1は鉛直状態に装着されているので、スキャニング光学系14はマスク板1に対してレーザパルスの照射位置を水平方向(主走査方向)と、垂直方向、つまり主走査方向と直交する副走査方向に走査させるが、これら主走査方向及び副走査方向へのレーザスポットの移動はスキャニング光学系14により行われることになる。
【0026】
レーザ光の走査はマスク部材1の表面1aに対して行われるものであって、マスク板2の表面の付着物は破砕されて、マスク板2から遊離することになるが、このように遊離した付着蒸着物質の砕片及び薄片を回収する回収手段を備えている。この回収手段は、マスク部材1の幅方向の全長に及ぶように負圧吸引力を作用させる負圧吸引手段としての長尺ノズル17を有するものである。長尺ノズル17は、昇降部材11に保持されているマスク部材1の幅方向の全長に及ぶ長さを有するスリット状のノズル口を有する吸引ノズルである。
【0027】
なお、長尺ノズル17は、ポスト10のレーザ照射の障害にならない位置に固定しておいても良い。若しくは、図示しない移動機構によって、レーザ照射位置に合わせて、照射位置の下側付近、即ち剥離物質を回収する効率が概ね最大となる位置に移動させるようにしても良い。
【0028】
ところで、マスク部材1のマスク板2は、既に説明したように、そのマスクパターン領域4において、微小透孔4aが形成されており、この微小透孔4aの周囲は格子部4bとなっている。そして、このマスク板2に照射されるレーザ光はエネルギを集中させるために、微小スポットとなるものであり、この微小スポットSの全体または一部が、図4(a)に示したように、微小透孔4aの領域内に照射されると、その分のエネルギがマスク板2に作用しないことになる。その結果、マスク板2の表面からの付着蒸着物質を効率的に剥離・除去することはできない。一方、図4(b)に示したように、微小スポットSがマスク板2の格子部4bに照射されると、特に縦横の格子の交点位置に照射されると、レーザ光のほぼ全パワーがマスク板2に作用する結果、図4(a)で示した場合より付着蒸着物質の剥離効率は高くなる。
【0029】
以上のように、レーザ光照射手段15を構成するレーザ発振器13からスキャニング光学系14を介してマスク板2に照射されるレーザ光の照射位置によっては、付着蒸着物質の剥離効率に差が生じることになる。また、レーザ光の照射位置によっては剥離むらが生じることもある。ここで、剥離効率及びマスク板2のダメージ防止等の観点から、できるだけマスク板2の縦横の格子の交点位置にレーザ光を照射するようにする。
【0030】
ここで、マスク板2を一定の位置に固定し、レーザ光の照射開始位置がマスク板2の基準となる位置とし、レーザ光の走査方向を設定し、さらにレーザ光の照射間隔を制御することによって、レーザ発振器13からのレーザ光をマスク板2の所望位置に照射することができるようになる。このためには、まずレーザ光照射手段15とスライドガイド12により昇降部材11に支持されているマスク部材1との間でアラインメントを行う必要がある。
【0031】
マスク部材1には、図1に示したように、マスクフレーム3の4つの角隅部にアラインメントマークMが設けられている。そこで、これらのアラインメントマークMを撮像手段20により撮影して、画像処理を行うことによって、各アラインメントマークMの基準位置からのずれを検出して、位置調整手段21によりにより微小位置調整を行うことができるようになっている。なお、位置調整手段21によるマスク部材1の位置調整機構の具体的な構成は、従来から周知であるので、その図示及び説明は省略する。
【0032】
従って、位置調整手段21によるマスク部材1の位置調整は、撮像手段20によるアライメントマークMの位置に関する信号に基づいて位置調整手段21を駆動することによって、マスク部材1を所定の位置に配置することができる。その結果、ドライ洗浄時におけるマスク板2の姿勢状態が一定になり、またレーザ光の走査方向が設定される。
【0033】
一方、マスク部材1は、R,G,B用によっては微小透孔4aの位置が異なっているものの、同じパネル基板に使用される3種類のマスク部材1は、縦横における各微小透孔4aのピッチ間隔は一般に一定である。従って、同じパネル基板5に形成されるR,G,B各色のマスク部材は、レーザ光の照射パルス間隔は一定であるものの、レーザ光の照射開始位置が異なってくる。また、サイズまたは種類の異なるパネル基板に使用されるマスク部材の場合には、レーザ光の照射開始位置及びレーザ光の照射パルス間隔が異なるものである。
【0034】
ここで、スキャニング光学系14としては、ガルバノミラーから構成されており、主走査方向へのレーザ光を走査させるが、ガルバノミラーの初期位置と、回転速度とを変化させれば、任意の位置に、任意の間隔でレーザ光を照射することができる。従って、ドライ洗浄されるマスク部材の種類に応じて、スキャニング光学系14によるレーザ光の走査開始位置及び照射パルス間隔を自在に調整することができる。
【0035】
以上の構成を有するドライ洗浄装置を用いてマスク部材1のドライ洗浄を行うには、マスク部材1のマスクフレーム3を昇降部材11の側部ガイド部11aに差し込むようにして支持させて、マスク部材1を所定の高さ位置に保持する。この状態で、撮像手段20によりマスク部材1のアライメントマークMを撮像する。ここで、撮像手段20はマスク部材1に4箇所設けられているアラインメントマークMの全てを撮影すると、最も正確に検出できるが、少なくとも2箇所のアラインメントマークMを検出することによって、マスク部材1の位置検出を行うことができる。アラインメントマークMの位置が基準位置からずれていた場合には、位置調整手段21を駆動することによって、マスク部材1が所定の位置の位置となるように調整される。その結果、マスク板2の姿勢状態が一定になり、またレーザ光の走査方向が設定されることになる。
【0036】
レーザ光の照射開始位置は、マスク部材1の種類により異なっている。同じパネル基板5に用いられるマスク部材であっても、R,G,B用のものでは、微小透孔4aの位置が違ってくる。従って、同じパネル基板に使用される3種類のマスク部材1の場合には、レーザ光の照射開始位置のみが異なってくる。また、サイズまたは種類の異なるパネル基板に使用されるマスク部材に対しては、照射開始位置だけでなく、レーザ光の照射パルス間隔も調整する。このために、ガルバノミラーの初期位置だけでなく、回転速度も変化させる。レーザ光の照射間隔を短くする場合には、ガルバノミラーの回転速度を遅くするようになし、またレーザ光の照射間隔を長くするには、ガルバノミラーの回転速度を増速する。
【0037】
マスク部材1の位置検出が行われ、スキャニング光学系14を制御して、レーザ光の走査開始位置とガルバノミラーの回転速度とが設定されると、レーザ発振器13からレーザ光のパルスを出射させる。このレーザ光により、マスク部材1の微小領域が瞬間的に加熱される。その結果、マスク板2の表面から付着蒸着物質を剥離させることができ、長尺ノズル17の作用により剥離して浮遊する蒸着物質を吸引して回収する。また、この吸引力によって、マスク板2から浮いた状態で、なおかつ部分的に付着している蒸着物質をマスク板2から引き離すこともできる。そして、スキャニング光学系14によりレーザ光のスポットを所定の速度で主走査方向に移動させることによって、マスク板2における格子部4bに対して、特に格子の交差部位を含む部位に対してレーザ光のスポットが照射され、マスク板2から高い効率で、蒸着物質をむらなく剥離し、かつ回収することができる。
【0038】
主走査ラインの1ライン分のレーザ光の走査が行われると、スキャニング光学系14を副走査方向に1ライン分移動させる。そして、このときに、主走査ラインにおける走査は、前回の走査とは反対方向に向けて行う。これによって、動作の迅速性が確保され、効率的な洗浄が可能になる。
【0039】
マスク板2の全領域の走査が終了して、このマスク板2に対するドライ洗浄が終了すると、昇降部材11からマスク部材1を取り出し、新たなマスク部材1を昇降部材11に装着する。ドライ洗浄が終了したマスク部材2は、なおマスクフレーム3に蒸着物質が付着しており、またマスク板2に対しても、完全には蒸着物質が除去されないこともある。そこで、ドライ洗浄が終了した後には、洗浄液に浸漬する等によって、ウエット洗浄を行うのが望ましい。予めドライ洗浄によって、マスク板2から大半の蒸着物質が除去されているので、ウエット洗浄は短時間で良く、しかも洗浄液が蒸着物質で汚損される度合いが小さくなる。
【0040】
なお、マスク板2のサイズがスキャニング光学系14で走査できる範囲より大きい場合には、マスク部材1のマスク板2を複数領域に分割して前述したと同様の照射を行うことができる。この場合は、マスク板2とスキャニング光学系14の位置を相対的に移動できるようにすれば良い。即ち、昇降部材11や、図示しない駆動機構によってマスク部材1を図3のZまたはY方向に移動させても良く、図示しない駆動機構によりスキャニング光学系14をX,Z方向に移動させても良く、或いは両者を移動させても良い。
【0041】
以上によりマスク部材1におけるマスク板2へのレーザ光を効率的に作用させることができて、効率的にしかも迅速にドライ洗浄することができるようになり、しかもマスク板2に与えるダメージを最小限のものとなし、剥離むらを起こさないようにしてドライ洗浄を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 マスク部材 2 マスク板
3 マスクフレーム 4 マスクパターン領域
4a 微小透孔 4b 格子部
10 ポスト 11 昇降部材
13 レーザ発振器 14 スキャニング光学系
15 レーザ光照射手段 17 長尺ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパターンをもって微小透孔を穿設したマスク板からなる蒸着マスク部材に付着している蒸着物質を除去するために、レーザ光照射手段からのレーザ光を照射して、このレーザ光を前記マスク板の表面を走査することによって、前記蒸着物質を剥離してマスク部材を洗浄する装置において、
前記マスク部材の所定の位置に設けられているアラインメントマークを認識するアラインメントマーク認識手段と、
前記アラインメントマーク認識手段により検出した前記マスク部材の位置に応じて、前記レーザ光照射手段による前記マスク部材へのレーザ光の照射位置を制御する制御手段と
を備える構成としたことを特徴とするマスク部材の洗浄装置。
【請求項2】
前記マスク部材または前記レーザ光照射手段の少なくともいずれかの位置を調整する位置調整手を有し、前記制御手段は前記アラインメントマークの画像認識に基づいて、前記位置調整手段により前記マスク部材と前記レーザ光照射手段の位置を相対的に修正する構成としたことを特徴とする請求項1記載のマスク部材のドライ洗浄装置。
【請求項3】
前記制御手段により制御されるレーザ光の照射位置は、前記微小透孔を避けた位置とすることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のマスク部材のドライ洗浄装置。
【請求項4】
前記レーザ光照射手段による前記マスク部材へのレーザ光の照射位置は前記マスク板の格子の部位とする構成としたことを特徴とする請求項3記載のマスク部材のドライ洗浄装置。
【請求項5】
前記マスク部材は昇降部材に垂直状態にして支持されるものであり、前記スキャニング光学系はガルバノミラーを用いたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のマスク部材のドライ洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−177664(P2011−177664A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45226(P2010−45226)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】