説明

マニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置

【課題】変速レバーが斜めシフト操作で、伝動ギヤ列の切り替えが実行されることのない変速段の操作位置判定領域を通過した時、これに対応するクラッチ回転同期が行われて違和感のあるエンジン回転変化が起きることのないようにする。
【解決手段】マニュアルトランスミッションは4→3変速され、変速機入力回転数Niは図示のごとくに上昇する。Niが4速対応変速機入力回転数Ni(4速)よりもΔNだけ上昇するt4に、クラッチの回転同期制御を許可する。この許可によりエンジン回転数Neが図示のごとくに制御され、クラッチの前後回転数を同期させる。変速レバーが4速位置から5速位置への斜めシフト操作で3速操作位置判定領域を通過する時は、Niの上昇ΔNも起こり得ないため、クラッチ回転同期制御が許可されない。よって、エンジン回転が低下する筈の4→5変速操作なのに、エンジンが同期制御で回転上昇される違和感を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速化したものを含むマニュアルトランスミッションに関し、特に、エンジン等の原動機およびマニュアルトランスミッション間におけるクラッチが変速に際し解放されている状態で、該クラッチの前後回転を原動機の回転制御により同期させるための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マニュアルトランスミッションは、クラッチの解放状態で変速レバーを変速操作することにより変速段の選択(切り替え)を行い、その後クラッチを締結させることにより変速段の選択(変速)を完了する。
【0003】
ところで、変速段の選択後クラッチを締結させるに際しては、クラッチの前後回転が同期した状態で当該締結を行わないと、クラッチの大きな締結ショックが発生する。
かといって、クラッチの前後回転が同期するのを待っていたのでは、クラッチを締結させ得る同期状態になるまでに相当時間を要し、変速が完了するまでに長い時間が必要になる。
【0004】
そこで従来、例えば特許文献1に記載のごとく、クラッチが変速に際し解放されている状態で、切り替え後における変速段のギヤ比と車速(変速機出力回転数)とで決まる変速機入力回転数(クラッチの後側回転数)に対し、クラッチの前側回転数を原動機の回転制御により同期させて、クラッチの前後回転を同期させるようにしたマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置が提案されている。
【0005】
このクラッチ回転同期制御装置は、変速レバーの変速操作から切り替え後変速段を判定し、
当該変速段のギヤ比および変速機出力回転数から変速段切り替え後変速機入力回転数を求め、
クラッチの前側回転数である原動機回転数が変速段切り替え後変速機入力回転数に一致するよう原動機を回転制御するものである。
【特許文献1】特開2007−046674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでマニュアルトランスミッションは、変速レバーを、車幅方向へセレクト操作して、目標変速段に対応したセレクト位置となし、このセレクト位置で目標変速段に対応した車両前後方向前方または後方へシフト操作することにより目標変速段の選択が可能なよう構成するのが常套である。
【0007】
よって、現在選択中の選択変速段から別の目標変速段への切り替え(変速)に際し運転者は、変速レバーを、
選択変速段に対応したシフト位置からの戻しシフト操作によりセレクト操作可能な中立位置となし、
このセレクト操作可能な中立位置で変速レバーを、セレクト操作して目標変速段に対応したセレクト位置となし、
このセレクト位置で目標変速段に対応した方向へシフト操作することにより目標変速段への切り替え(変速)を行うこととなる。
【0008】
しかし、選択変速段から目標変速段への切り替え(変速)に際し、運転者が上記の順次操作を明確に行わずに変速レバーを、セレクト操作力付与状態のまま選択変速段対応シフト位置から斜め方向へ一気に目標変速段対応シフト位置へ斜めシフト操作した場合、以下に説明するような問題を生ずる。
【0009】
つまり、例えば選択変速段が第4速であり、目標変速段が第5速である場合について述べると、
選択変速段(第4速)から目標変速段(第5速)への切り替え(変速)に際し、変速レバーが上記の斜めシフト操作中、選択変速段(第4速)と同じセレクト位置にある第3速の変速操作位置判定領域を通過して目標変速段(第5速)の変速操作位置判定領域に入る。
【0010】
このため前記したクラッチの回転同期制御は、先ず変速レバーが3速変速操作位置判定領域を通過したのに呼応して原動機回転数を選択変速段(第4速)対応の変速機入力回転数から第3速対応の変速機入力回転数へと上昇させ、その後変速レバーが目標変速段(第5速)の変速操作位置判定領域に入ったのに呼応して原動機回転数を目標変速段(第5速)対応の変速機入力回転数へと低下させることになる。
【0011】
かように原動機回転数を上下に変動させるクラッチの回転同期制御は、選択変速段(第4速)から目標変速段(第5速)への切り替えが変速機入力側回転数の低下を伴うアップシフト変速であるにもかかわらず、原動機を一時的に回転上昇させることとなり、運転者に違和感を与えるという問題を生ずる。
【0012】
本発明は、原動機の回転制御によるクラッチの回転同期制御に所定の許可条件を付加することにより、上記の問題を解消し得るようにしたマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため、本発明によるマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず、本発明の前提となるマニュアルトランスミッションを説明するに、これは、
クラッチを介して原動機からの回転を入力され、入力回転を選択変速段に応じ変速して出力し、前記クラッチの解放状態で変速レバーを変速操作することにより前記変速段の選択を行い、前記クラッチを原動機の回転制御による前後回転同期制御下で締結させることにより前記変速段の選択を完了するようにしたものである。
【0014】
本発明は、かかるマニュアルトランスミッションに対し、
前記変速レバーの変速操作方向を検知する変速操作方向検知手段と、
変速機入力回転数が、該手段により検知した変速操作方向に対応する方向への変化を開始したとき、前記原動機の回転制御によるクラッチの前後回転同期制御を許可する回転同期制御許可手段とを設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明によるマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置によれば、
変速機入力回転数が、変速レバーの変速操作方向に対応する方向への変化を開始したとき、原動機の回転制御によるクラッチの前後回転同期制御を許可するため、
変速レバーの変速操作でマニュアルトランスミッションの対応する伝動ギヤ列が選択され、これに伴う変速機入力回転数の変化があった時しか原動機の回転制御によるクラッチの前後回転同期制御が行われないことになる。
【0016】
従って、変速レバーがシフト操作途中にセレクト操作力で選択変速段の変速操作位置判定領域および目標変速段の変速操作位置判定領域以外の変速操作位置判定領域を通過することがあっても、当該領域の通過に呼応した無用なクラッチの回転同期制御が行われることがなく、
かかる無用な回転同期制御で、選択変速段から目標変速段への切り替えに伴う変速機入力回転数の変化方向とは逆方向の原動機回転変化が生ずるという問題を回避することができ、かかる逆方向の原動機回転変化による違和感を生じなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例になるクラッチ回転同期制御装置を具えたマニュアルトランスミッションを搭載する車両のパワートレーンを示す概略システム図である。
図1において、1は、原動機としてのエンジン、2は、マニュアルトランスミッションを示し、エンジン1およびマニュアルトランスミッション2間をクラッチ3により断接可能とする。
【0018】
クラッチ3は、常態で内蔵バネにより係合状態を保って、エンジン1およびマニュアルトランスミッション2間を駆動結合させるが、クラッチペダル4の踏み込みにより解放状態となって、エンジン1およびマニュアルトランスミッション2間を遮断するものとする。
マニュアルトランスミッション2は変速レバー5を具え、運転者がこの変速レバー5を操作することで、マニュアルトランスミッション2は同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)を介して任意の変速段が選択された状態にされるものとする。
【0019】
変速レバー5は、車両上方から見て図2,3に示すようなシフトゲート6に沿って操作されるものである。
シフトゲート6は、変速レバー5を図2,3の左右後方(車幅方向)へセレクト操作可能にガイドすると共に、図2,3の上下方向(車両前後方向)へシフト操作可能にガイドする。
このためシフトゲート6は、セレクト操作方向に沿って延設されるニュートラル(中立)ゲート部6aと、
ニュートラル(中立)ゲート部6aの左端に連なって、ここから図の上下方向(シフト操作方向)に延設される1(第1速選択位置)‐2(第2速選択位置)ゲート部6bと、
ニュートラル(中立)ゲート部6aの中央部左側に連なって、ここから図の上下方向(シフト操作方向)に延設される3(第3速選択位置)‐4(第4速選択位置)ゲート部6cと、
ニュートラル(中立)ゲート部6aの中央部右側に連なって、ここから図の上下方向(シフト操作方向)に延設される5(第5速選択位置)‐6(第6速選択位置)ゲート部6dと、
ニュートラル(中立)ゲート部6aの右端に連なって、ここから図の下方向(車両後方へのシフト操作方向)に延設されるRev(後退選択位置)ゲート部6eとを有する。
【0020】
変速レバー5をニュートラル(中立)ゲート部6a内に位置させるとき、変速レバー5は二点鎖線で示すごとく、ニュートラル(中立)ゲート部6aと3‐4ゲート部6cとが交差する位置に弾支されるものとする。
この変速レバー5を、ニュートラル(中立)ゲート部6aに沿って1‐2ゲート部6bへセレクト操作し、1速位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は第1速へ投入され、同じセレクト位置で、2速位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は第2速へ投入される。
【0021】
変速レバー5を、ニュートラル(中立)ゲート部6aに沿って3‐4ゲート部6cへセレクト操作し、3速位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は第3速へ投入され、同じセレクト位置で、4速位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は第4速へ投入される。
変速レバー5を、ニュートラル(中立)ゲート部6aに沿って5‐6ゲート部6dへセレクト操作し、5速位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は第5速へ投入され、同じセレクト位置で、6速位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は第6速へ投入される。
【0022】
変速レバー5を、ニュートラル(中立)ゲート部6aに沿ってRevゲート部6eへセレクト操作し、Rev位置へシフト操作することによりマニュアルトランスミッション2は後退変速段へ投入される。
勿論、上記した変速段への投入は、クラッチペダル4の踏み込みによりクラッチ3を解放し、マニュアルトランスミッション2をエンジン1から遮断した状態で行うのは言うまでもない。
【0023】
現在選択中の選択変速段から別の目標変速段への切り替え(変速)に際しては、クラッチペダル4の踏み込みによりクラッチ3を解放し、マニュアルトランスミッション2をエンジン1から遮断した状態で、変速レバー5を、選択変速段に対応したシフト位置から戻しシフト操作によりセレクト操作可能なニュートラル(中立)ゲート部6aとなす。
次いで変速レバー5をこのニュートラル(中立)ゲート部6aに沿いセレクト操作して目標変速段に対応したセレクト位置となし、
このセレクト位置で目標変速段に対応した方向へシフト操作することにより目標変速段への切り替え(変速)を行う。
その後、クラッチペダル4の釈放によりクラッチ3を締結してマニュアルトランスミッション2をエンジン1に結合することで、上記目標変速段への切り替え(変速)を完了することができる。
【0024】
ところで当該クラッチ3の締結は、クラッチ3の前後回転が同期した状態で行わないと、大きなクラッチの締結ショックを生ずる。
そのため本実施例においては、エンジン1の回転制御によりクラッチ3の前後回転を同期させるようにするため、図1に示すごとく当該回転同期のためのエンジンコントローラ11を設ける。
【0025】
そして当該エンジンコントローラ11には、クラッチペダル4の踏み込みを検知してクラッチ3が解放状態である時にONとなるクラッチペダルスイッチ12からの信号と、
エンジン1の回転数Ne(クラッチ3の前側回転数)を検出するエンジン回転センサ13から信号と、
変速機入力回転数Ni(クラッチ3の後側回転数)を検出する変速機入力回転センサ14からの信号と、
変速機出力回転数Noを検出する変速機出力回転センサ15からの信号と、
変速レバー5のセレクト操作位置を検出するセレクト操作位置センサ16からの信号と、
変速レバー5のシフト操作位置を検出するシフト操作位置センサ17からの信号とを入力する。
【0026】
セレクト操作位置センサ16は、変速レバー5が図2に示すように設定した1,2速セレクト位置判定領域、3,4速セレクト位置判定領域、5,6速セレクト位置判定領域の何れの領域にあるのかを検知し、対応する信号をエンジンコントローラ11に送給するものとする。
シフト操作位置センサ17は、変速レバー5が図3に示すように設定した1,3,5速シフト位置判定領域、2,4,6速シフト位置判定領域、ニュートラルシフト位置判定領域の何れの領域にあるのかを検知し、対応する信号をエンジンコントローラ11に送給するものとする。
エンジンコントローラ11は、これらセレクト操作位置センサ16からの信号と、シフト操作位置センサ17からの信号との組み合わせに基づき変速レバー5の変速操作位置を判定すると共に、かかる変速操作位置の移動から変速レバー5の変速操作方向を判定する。
【0027】
エンジンコントローラ11は、上記した各種センサからの情報をもとに、上記した変速時におけるクラッチ3の回転同期を図るべく、エンジン1を回転速度制御する。
なおエンジン1の回転速度制御は、一般的な手法を用いて、図示せざる電子制御式スロットルバルブの開度(スロットル開度)を操作したり、点火時期を遅角操作して実現することができる。
【0028】
ここで、エンジンコントローラ11が行う一般的なクラッチ3の回転同期制御を概略説明する。
クラッチ3が変速に際し解放されている状態で、エンジンコントローラ11は、変速レバー5が、図2に示したセレクト位置判定領域および図3に示したシフト位置判定領域との組み合わせから判る変速操作位置を基に、どの変速操作位置から何れの変速操作位置へ操作されたのかを判定し、現在の選択変速段および変速先の目標変速段をチェックする。
かかる変速レバー5の変速操作によりマニュアルトランスミッションは、同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)を介し、選択変速段から目標変速段へ伝動ギヤ列を切り替えられる。
【0029】
この間にエンジンコントローラ11は、目標変速段のギヤ比と変速機出力回転数Noとから求め得る変速後の変速機入力回転数(解放しているクラッチ3の後側回転数)に対し、クラッチの前側回転数をエンジン1の回転制御により一致させて、クラッチの前後回転を同期させるべく、エンジン1を電子制御式スロットルバルブの開度操作や、点火時期の遅角操作により回転速度制御する。
かかるエンジン1の回転制御を介したクラッチ3の回転同期の後、クラッチペダル4の釈放によりクラッチ3を締結してマニュアルトランスミッション2をエンジン1に結合することで、上記目標変速段への切り替え(変速)を完了することができ、クラッチ3の回転同期はクラッチ3の締結をショックなしに行わせることができる。
【0030】
しかし、選択変速段から目標変速段への切り替え(変速)に際し、運転者がセレクト操作およびシフト操作の順次操作を行わずに変速レバー5を、セレクト操作力付与状態のまま選択変速段対応シフト位置から斜め方向へ一気に目標変速段対応シフト位置へ斜めシフト操作した場合、以下に説明するような問題を生ずる。
【0031】
例えば選択変速段が第4速であり、目標変速段が第5速である場合につき、図4を参照しつつ以下に説明する。
なお図4は、図2に示すセレクト位置判定領域と、図3に示すシフト位置判定領域との組み合わせで決まる、各変速段(1速〜6速)の変速操作位置判定領域を示すものである。
選択変速段(第4速)から目標変速段(第5速)への切り替え(変速)に際し、運転者が変速レバー5を斜めシフト操作した場合、変速レバー5が図4にαで示す軌跡をたどって移動するため、変速レバー5が選択変速段(第4速)の変速操作位置判定領域から、選択変速段(第4速)と同じセレクト位置にある第3速の変速操作位置判定領域を通過して、目標変速段(第5速)の変速操作位置判定領域に至ることになる。
【0032】
このため前記したクラッチ3の回転同期制御に際し、エンジンコントローラ11は回転同期制御のための目標エンジン回転数tNeを図5に示すごとく、
先ず変速レバー5が3速操作位置判定領域を通過したのを検知して瞬時t1に選択変速段(第4速)対応の変速機入力回転数から第3速対応の変速機入力回転数へと上昇させ、
その後変速レバー5が5速操作位置判定領域に入ったのを検知して瞬時t2に目標変速段(第5速)対応の変速機入力回転数へと低下させることになる。
エンジン回転数Neは図5に一点鎖線で示すごとく、かかる目標エンジン回転数tNeに追従するよう制御され、上下に変動する。
【0033】
かようにエンジン回転数Neを上下に変動させるクラッチ3の回転同期制御は、選択変速段(第4速)から目標変速段(第5速)への切り替えが変速機入力側回転数の低下を伴うアップシフト変速であるにもかかわらず、エンジン回転数Neを一時的に上昇させることとなり、運転者に違和感を与えるという問題を生ずる。
【0034】
本実施例では、このような問題を解消するためエンジンコントローラ11が、図6に示すクラッチ回転同期制御許可判定プログラムを実行して、上記エンジン1の回転制御によるクラッチ3の回転同期制御に対し所定の許可条件を付加するようになす。
先ずステップS11においては、クラッチペダルスイッチ12がONか否かをチェックして、クラッチ3が変速用に解放されているか否かを判定する。
クラッチペダルスイッチ12がOFF(クラッチ3が締結状態)であれば、クラッチ3の回転同期制御が不要であるから、制御をそのまま終了する。
【0035】
ステップS11でクラッチペダルスイッチ12がONである(クラッチ3が変速用に解放されている)と判定するときは、クラッチ3の回転同期制御が必要であるから、以下のように当該同期制御を許可するか否かの判定を行う。
先ずステップS12において、変速レバー5が変速操作前に図4の4速変速操作位置判定領域にいたか否かをチェックし、
変速レバー5が変速操作前に4速変速操作位置判定領域にいた場合、
ステップS13において、変速レバー5が変速操作により図4の3速変速操作位置判定領域に入ったか否かをチェックする。
つまりステップS12およびステップS13においては、前記違和感の問題を生ずる可能性がある変速レバー5の4→3変速操作が検知されたか否かを判定する。
従ってステップS12およびステップS13は、本発明における変速操作方向検知手段に相当する。
【0036】
ステップS12およびステップS13で、前記違和感の問題を生ずる可能性がある変速レバー5の4→3変速操作があったと判定する場合、
ステップS14において、変速機入力回転数Niが、変速操作前選択変速段(第4速)での変速機入力回転数Ni(4速)よりも、変速操作後変速操作位置(第3速)に対応した変速段(第3速)への切り替え開始を判定するために設定した入力回転設定変化量ΔNだけ上昇したか否かをチェックする。
【0037】
ステップS14で、変速操作前選択変速段(第4速)から変速操作後変速操作位置(第3速)に対応した変速段(第3速)への切り替え開始を示す変速機入力回転数Niの上昇ΔNがないと判定する場合、制御をステップS15でのクラッチ回転同期制御許可処理に進めず、ステップS11に戻すことによりクラッチ回転同期制御を許可せず、禁止しておく。
【0038】
変速レバー5の4速変速操作位置から3速変速操作位置への上記操作が本当に4→3変速を意図したものであり、この変速操作によりマニュアルトランスミッションが変速操作前選択変速段(第4速)から変速操作後変速操作位置(第3速)に対応した変速段(第3速)へ伝動ギヤ列を切り替えられる場合、これに呼応して変速機入力回転数Niが上昇される。
ステップS14でこの回転上昇を、Ni≧Ni(4速)+ΔNにより判定するとき、制御をステップS15に進め、ここでクラッチ3の前記した回転同期制御を許可する。
従ってステップS14およびステップS15は、本発明における回転同期制御許可手段に相当する。
【0039】
これに対し、ステップS12およびステップS13で変速レバー5の4→3変速操作があったと判定する場合以外は、ステップS14をバイパスして制御をステップS12またはステップS13からステップS15へ進めることにより、クラッチ3の回転同期制御を許可してこの回転同期制御を、ステップS14の条件の付加なしに通常通りに行わせる。
【0040】
図6につき上記したクラッチ3の回転同期制御許可判定によれば、図8につき以下に説明するようなクラッチ3の回転同期制御が行われる。
図8は、瞬時t1にクラッチ3を解放し、この状態で瞬時t2〜t3間に、第4速操作位置であった変速レバー5を第3速操作位置へ変速操作して、マニュアルトランスミッションを第4速から第3速へダウンシフトさせ、
この変速により変速機入力回転数Niが、4→3変速操作対応の目標変速機入力回転数tNiに対し変速応答遅れをもって図示のごとくに上昇すると共に、エンジントルクTeが図示のごとくに変化し、
その後の瞬時t5にクラッチ3を締結させて当該変速を完了する場合の動作タイムチャートである。
【0041】
従来は、図6のステップS14による回転同期制御許可条件がなかったため、図8に許可判定結果を二点鎖線で示すように、クラッチ3の解放瞬時t1にクラッチ3の回転同期制御が開始されていたが、
本実施例においては図8に許可判定結果を実線で示すように、変速レバー5の4→3変速操作(瞬時t2〜t3)によりマニュアルトランスミッションが第4速から第3速へ伝動ギヤ列を切り替えられたのに呼応して上昇する変速機入力回転数Niが、第4速での変速機入力回転数Ni(4速)よりも、第4速から第3速へのギヤ列切り替え開始を判定するための設定変化量ΔNだけ上昇した瞬時t4にクラッチ3の回転同期制御を開始させる。
【0042】
このため、運転者が選択変速段(第4速)から目標変速段(第5速)への切り替え(変速)に際し、変速レバー5を図4に矢αで示すように斜めシフト操作したことで、変速レバー5が選択変速段(第4速)の変速操作位置判定領域から、選択変速段(第4速)と同じセレクト位置にある第3速の変速操作位置判定領域を通過して、目標変速段(第5速)の変速操作位置判定領域に至ることになった結果、変速レバー5の4→3変速操作が検知されたとしても、
図5につき前述した目標エンジン回転数tNeおよびエンジン回転数Neの上下変動による違和感を以下のごとくに回避することができる。
【0043】
つまりこの場合、変速レバー5の4→3変速操作が検知されたとしても(図6のステップS12およびステップS13)、変速レバー5が第3速へのギヤ列切り替えを行う訳ではないため、図8に二点鎖線で示すような変速機入力回転数Niの上昇を生じさせ得ない。
従って、図6のステップS14におけるクラッチ回転同期制御の許可条件{Ni≧Ni(4速)+ΔN}が満足されることはなく、エンジン1の回転制御によるクラッチ3の回転同期制御は実行されない。
このエンジン1の回転制御によるクラッチ回転同期制御が開始されるのは、変速レバー5が図4の3速変速操作位置判定領域を通過した後、目標変速段である第5速の変速操作位置判定領域に至った時(ステップS12、ステップS13が図6の右へ分岐した時)からである。
【0044】
このため、図5と同じ条件でのタイムチャートを示す図9の瞬時t2から、エンジン1の回転制御によるクラッチ回転同期制御が開始されることになり、
このクラッチ回転同期制御に際し、エンジンコントローラ11は回転同期制御のための目標エンジン回転数tNeを図9に示すごとく、変速レバー5が3速操作位置判定領域を通過する瞬時t1から、変速レバー5が5速操作位置判定領域に入った瞬時t2までの間において、3速対応変速機入力回転数へ上昇させることがなく、この瞬時t2に目標エンジン回転数tNeを目標変速段(第5速)対応の変速機入力回転数へと低下させる。
エンジン回転数Neは図9に一点鎖線で示すごとく、かように低下するのみの目標エンジン回転数tNeに追従するよう制御される。
【0045】
かようにエンジン回転数Neを上下変動させることなく低下させるのみのクラッチ3の回転同期制御は、選択変速段(第4速)から目標変速段(第5速)への切り替えが変速機入力側回転数の低下を伴うアップシフト変速であることに良く符合して、エンジン回転数Neを一時的な上昇による違和感を回避することができる。
【0046】
ところで、上記した本実施例のように、変速レバー5の4→3変速操作が検知されたとき(図6のステップS12およびステップS13)、無条件にステップS14の回転同期制御許可判定を行うのでは、図4,5につき前述した違和感の問題を生じない図8の場合もステップS14のクラッチ回転同期制御許可判定を行うことになり、
かかる不要なクラッチ回転同期制御許可判定により、図8の瞬時t1から瞬時t4までの間においてクラッチ回転同期制御の許可に大きな遅れを生じさせる。
【0047】
図7は、このクラッチ回転同期制御の応答遅れに関する問題を解消するようにした本発明の他の実施例を示す。
図7は、図6のクラッチ回転同期制御許可判定プログラムにおけるステップS13およびステップS14間に、斜めシフト操作検知手段としてのステップS21を追加したものである。
【0048】
ステップS12およびステップS13で変速レバー5の4→3変速操作を検知した時に選択されるステップS21においては、前記変速レバー5がセレクト操作力を付与された状態で、図4に矢αにより示すように斜めシフト操作されたか否かをチェックする。
このため、図示しなかったが、変速レバー5へのセレクト操作力を検出するセレクト操作力センサを設け、
変速レバー5の上記4→3変速操作中、変速レバー5への対応する方向へのセレクト操作力が設定値以上であり続けた時をもって、変速レバー5が斜めシフトにより4→3変速操作されたと判定する。
【0049】
ステップS21で変速レバー5が斜めシフトにより4→3変速操作されたと判定する場合は、制御をステップS14に進めて、図6の実施例におけると同じく、ステップS14での回転同期制御許可条件が満たされた時にクラッチ3の回転同期制御を許可する。
しかし、ステップS21で変速レバー5の4→3変速操作が、図4に矢αで示す斜めシフトによるものでなく、運転者が4→3変速を希望して変速レバー5を4→3変速操作したものであると判定する場合は、
制御を直ちにステップS15に進め、ステップS14での回転同期制御許可条件が満たされているか否かにかかわらず、クラッチ3の回転同期制御を許可する。
【0050】
かかる本実施例のクラッチ回転同期制御によれば、変速レバー5の4→3変速操作が検知されたとき(図7のステップS12およびステップS13)、これが斜めシフトによるものである場合に限ってステップS14の回転同期制御許可判定を行うこととなり、
図4,5につき前述した違和感の問題を生じない図8の場合は、ステップS14の回転同期制御許可判定瞬時t4よりも前の4→3変速操作時t2〜t3にクラッチ3の回転同期制御を許可することができ、かかるクラッチ回転同期制御の許可が遅れるという図6の実施例が抱える問題を解消することができる。
【0051】
なお上記した何れの実施例も、変速レバー5を図4に矢αで示すように斜めシフト操作により4→5変速操作したことで、変速レバー5が3速変速操作位置判定領域を通過する場合の問題や、当該問題を解決する手段についてのみ説明したが、
変速レバー5を第2速から第3速へ斜めシフト操作により2→3変速操作したことで、変速レバー5が図4の1速変速操作位置判定領域を通過する場合や、
変速レバー5を第3速から第2速へ斜めシフト操作により3→2変速操作したことで、変速レバー5が図4の4速変速操作位置判定領域を通過する場合や、
変速レバー5を第5速から第4速へ斜めシフト操作により5→4変速操作したことで、変速レバー5が図4の6速変速操作位置判定領域を通過する場合も、同様な違和感に関する問題を生ずる。
しかし本発明においては、これら何れの場合においても、前記した実施例と同様な手法により問題を解決することができるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例になるクラッチ回転同期制御装置を具えたマニュアルトランスミッションを搭載する車両のパワートレーンを示す概略システム図である。
【図2】図1におけるマニュアルトランスミッションの変速レバー係わるシフトゲートを、変速レバーのセレクト位置判定領域と共に示す平面図である。
【図3】図1におけるマニュアルトランスミッションの変速レバー係わるシフトゲートを、変速レバーのシフト位置判定領域と共に示す平面図である。
【図4】図2に示すシフト位置判定領域および図3に示すシフト位置判定領域の組み合わせで決まる、変速レバーの変速操作位置判定領域を示す平面図である。
【図5】図4の矢αで示すような斜めシフト操作を行った場合の不具合を示す動作タイムチャートである。
【図6】図5に示す不具合を解消するよう、図1のエンジンコントローラが実行するクラッチ回転同期制御許可判定のプログラムを示すフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施例を示す、図6と同様なクラッチ回転同期制御許可判定プログラムのフローチャートである。
【図8】図6のクラッチ回転同期制御許可判定に基づいて行われるクラッチ回転同期制御の動作タイムチャートである。
【図9】図6のクラッチ回転同期制御許可判定に基づいてクラッチ回転同期制御を行った場合の動作を示す、図5と同様な動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン(原動機)
2 マニュアルトランスミッション
3 クラッチ
4 クラッチペダル
5 変速レバー
6 シフトゲート
6a ニュートラル(中立)ゲート部
6b 1速‐2速ゲート部
6c 3速‐4速ゲート部
6d 5速‐6速ゲート部
6e Rev(後退)ゲート部
11 エンジンコントローラ
12 クラッチペダルセンサ
13 エンジン回転センサ
14 変速機入力回転センサ
15 変速機出力回転センサ
16 セレクト操作位置センサ
17 シフト操作位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチを介して原動機からの回転を入力され、入力回転を選択変速段に応じ変速して出力し、前記クラッチの解放状態で変速レバーを変速操作することにより前記変速段の選択を行い、前記クラッチを原動機の回転制御による前後回転同期制御下で締結させることにより前記変速段の選択を完了するようにしたマニュアルトランスミッションにおいて、
前記変速レバーの変速操作方向を検知する変速操作方向検知手段と、
変速機入力回転数が、該手段により検知した変速操作方向に対応する方向への変化を開始したとき、前記原動機の回転制御によるクラッチの前後回転同期制御を許可する回転同期制御許可手段とを具備してなることを特徴とするマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置。
【請求項2】
マニュアルトランスミッションは、前記変速レバーを、所定位置へセレクト操作し、このセレクト位置でシフト操作する順次操作により前記変速段の選択が可能なものである、請求項1に記載のマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置において、
前記変速レバーがセレクト操作力を付与された状態で斜めシフト操作されたのを検知する斜めシフト操作検知手段を設け、
前記回転同期制御許可手段は、該手段により斜めシフト操作が検知されたときのみ、前記クラッチの前後回転同期制御許可判定を行うものであることを特徴とするマニュアルトランスミッションのクラッチ回転同期制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−7711(P2010−7711A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165224(P2008−165224)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】