説明

ミシン

【課題】中押えの高さ設定を容易に行うことができるミシンを実現する。
【解決手段】ミシン100は、ROM203に記憶される縫製データに従って、保持枠111に保持される生地を移動させつつ、その縫製データにおける各針落ち点に相当する生地の箇所に中押え2を突き当てるように中押えモータ4を駆動させる際に、その中押えモータ4を駆動させるために入力された基準パルス数と、各針落ち点毎にエンコーダ5によって検出された中押えモータ4の実際の回転量に対応する駆動パルス数との差分を算出することによって、その中押え2が生地に突き当たった高さであって、各針落ち点毎の生地の厚みや段部に応じた好適な中押え2の高さを設定することができ、その設定された各針落ち点毎の中押え高さを反映させた縫製データを作成することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに係り、特に中押え装置を備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刺繍ミシン等のように、送り歯を用いずに布をXY方向に搬送させながら縫製を行うミシンにあっては、布が針との摩擦により針と共に上昇してばたつくのを防止するため、針の上昇時に布の針貫通部周辺を下方に押さえ付ける中押え装置が設けられている。
この中押え装置は通常、針が布から上昇する際に中押えにより布を下方に押さえ付け、針が布から完全に上昇した後は中押えが針と共に上昇するようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
そして、中押え装置が布のばたつきを好適に防止することができるように、所定の縫製パターンに対応して縫製時に針が布に突き刺さる針落ち点毎に、布の厚みや重ねられた布の段部などに応じて、予め中押えの高さを調整して設定するようになっている。
【特許文献1】特開2006−102376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術の場合、例えば、ミシンに備えられているタッチパネル式の操作パネルにおける各種操作ボタンを押下するなど操作して、様々な表示画面に切り替えつつ針落ち点毎に中押えの高さの値を設定するとともに、その設定値に応じた中押えの高さが適正であるか目視して確認する煩雑な作業があり、その作業がユーザの負担になるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、中押えの高さ設定を容易に行うことができるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ミシンにおいて、
被縫製物を針板上に保持する保持枠と、
前記保持枠が保持する被縫製物に対して上下動する縫い針と、
縫製時に前記被縫製物を針板側に押さえつける中押えと、
前記中押えを前記縫い針の上下動と連動するように上下動させる中押えモータと、
前記中押えモータの回転量を検出するエンコーダと、
複数の針落ち点データからなる縫製データを予め記憶する縫製データ記憶手段と、
前記中押えを基準量移動させるための基準パルス数に基づき前記中押えモータを駆動させた際に、所定の被縫製物における前記縫製データに応じた針落ち点毎に、前記エンコーダにより検出した前記中押えモータの回転量に対応する駆動パルス数を検出するパルス数検出制御手段と、
前記パルス検出手段により検出された駆動パルス数と、前記中押えモータを駆動させた基準パルス数との差分を算出するパルス差分算出手段と、
前記パルス差分算出手段により算出されたパルス数の差分に基づき、各針落ち点毎の前記中押えの高さを設定する中押え高さ設定制御手段と、
前記中押え高さ設定手段により設定された中押え高さを、各針落ち点に対応させて記憶して前記縫製データに反映させる縫製データ設定制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、ミシンは、縫製データ記憶手段に記憶される縫製データに従って、保持枠に保持される被縫製物を移動させつつ、その縫製データにおける各針落ち点に相当する被縫製物の箇所に中押えを突き当てるように中押えモータを駆動させる際に、その中押えモータを駆動させるために入力された基準パルス数と、各針落ち点毎にエンコーダによって検出された中押えモータの実際の回転量に対応する駆動パルス数との差分を算出することによって、その中押えが被縫製物に突き当たった高さであって、各針落ち点毎の被縫製物の厚みや段部に応じた好適な中押えの高さを設定することができ、各針落ち点毎に設定された中押え高さを反映させた縫製データを作成することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記縫い針に供給されるミシン糸に糸張力を付与する糸調子機構と、
前記中押えの高さ毎の糸張力データを予め記憶する糸張力記憶手段と、
を備え、
前記縫製データ設定制御手段は、前記中押え高さ設定制御手段により設定された中押え高さに対応する糸張力を、前記糸張力記憶手段に記憶されている糸張力データに基づき各針落ち点に対応させて記憶して前記縫製データに反映させることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用を奏するとともに、ミシンは、中押え高さ設定制御手段により設定された中押え高さに対応する糸張力を、糸張力記憶手段に記憶されている糸張力データに基づき各針落ち点に対応させて記憶して縫製データに反映させることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、ミシンは、縫製データ記憶手段に記憶される縫製データに従って、保持枠に保持される被縫製物を移動させつつ、その縫製データにおける各針落ち点に相当する被縫製物の箇所に中押えを突き当てるように中押えモータを駆動させる際に、その中押えモータを駆動させるために入力された基準パルス数と、各針落ち点毎にエンコーダによって検出された中押えモータの実際の回転量に対応する駆動パルス数との差分を算出することによって、その算出されたパルス数の差分に基づき、その中押えが被縫製物に突き当たった高さであって、各針落ち点毎の被縫製物の厚みや段部に応じた好適な中押えの高さを設定することができ、その設定された各針落ち点毎の中押え高さを反映させた縫製データを作成することができる。
つまり、従来技術のように、操作パネルを操作して各針落ち点毎に中押え高さを設定入力することや、その設定した値に応じた実際の中押え高さが適正であるか目視して確認するといった煩雑な作業を行わずに、このミシンにおいては、ほぼ自動的に針落ち点毎の中押え高さの設定を行うことができ、ユーザの負担を大幅に低減することが可能になる。
従って、このミシンは、中押えの高さ設定を容易に行うことができるミシンであるといえる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、ミシンは、中押え高さ設定制御手段により設定された中押え高さに対応する糸張力を、糸張力記憶手段に記憶されている糸張力データに基づき各針落ち点に対応させて記憶して縫製データに反映させることができるので、中押えの高さを設定することに伴い、その中押え高さに応じた適正な糸張力が縫製データに反映されることとなり、より好適な縫製データを作成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布に所定の縫製データ(縫製パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0013】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という。)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられミシン本体101を操作するためのペダルRや、ミシンテーブルTの上部に備えられユーザによる入力操作を行うための操作パネル300等を備えている。
【0014】
(ミシン本体)
図1、図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在で前後方向に延びる図示しない主軸及び図示しない下軸を有している。主軸(図示省略)はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0015】
ミシン100の主軸は、主軸モータ20(図4参照)に接続され、その主軸モータ20により回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、図示しない連結機構を介して主軸と連結されており、主軸が回動すると、主軸の動力が連結機構を介して下軸側へ伝達され、下軸が回動するようになっている。
この主軸の前端には、主軸の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、縫い針108が交換可能に備えられている。つまり、主軸モータ20の駆動に伴う主軸の回動によって縫い針108はZ軸方向に上下動する。
【0016】
ミシンアーム102aには、縫い針108の上下動による布の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布を下方に押圧する中押え2を有する中押え装置1(図3参照)が設けられている。なお、中押え装置1の本体はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押え2の先端側に形成されている貫通孔に挿通されて備えられている。
また、ミシンアーム102aには、縫い針108に供給されるミシン糸に糸張力を付与する糸調子機構30(図4参照)が設けられている。なお、糸調子機構30の構成や動作は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0017】
また、図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド102b内に配置されたX軸モータ(図示省略)及びY軸モータ(図示省略)に連結されている。
保持枠111は、針板110上で被縫製物である布を保持し、X軸モータ及びY軸モータの駆動に伴い、保持した布を保持枠111ごと前後左右方向に移動するようになっている。保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することによって、布に所定の縫製パターンの縫製データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえ(図示省略)と下板(図示省略)とを備えており、取付部材113はミシンアーム102a内に配置された布押さえモータ(図示省略)の駆動により上下駆動が可能であり、布押さえの下降時に下板との間で布を挟持し保持するようになっている。
なお、前後左右に移動する保持枠111と、上下動する縫い針108の協働によって、複数の針落ち点データからなる縫製データに基づく縫い目を形成する技術は、従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0018】
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサが組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置200に出力され、制御装置200はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動して動作させるように構成されている。
【0019】
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル300が設けられており、操作パネル300に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置200に出力される。
なお、操作パネル300は、液晶表示パネルとその液晶表示パネルの表示画面上に設けられたタッチパネルとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置200に出力するようになっている。
【0020】
(中押え装置)
中押え装置1は、図3に示すように、縫製時に布を針板110側に押さえ付ける中押え2と、下端部に中押え2を備えて側面にラック3aが形成されている中押え棒3と、ピニオン4aを備える中押えモータ4と、中押えモータ4の回転量を検出するエンコーダ5等を備えている。また、中押え棒3は、上下一対の軸受6,6に上下動可能に支持されている。
【0021】
中押え2は、縫い針108の周囲の布を下方に押圧するように当接する中押え装置1における先端部分であり、縫い針108が挿通される貫通孔が形成されている。
中押え棒3は、軸受6,6に上下動可能に支持されており、側面に形成されたラック3aが中押えモータ4のピニオン4aと歯合している。
【0022】
中押えモータ4は、パルスモータであって、パルス信号の入力に伴いピニオン4aを正回転、逆回転させる。そして、中押えモータ4は、パルス信号におけるパルス数に応じた回転量でピニオン4aを正逆回転させて、そのピニオン4aに歯合しているラック3aを介して中押え棒3及び中押え2を上下動させる。つまり、中押えモータ4がピニオン4aを回転させる回転量に応じて、中押え2が上下動する移動量が調節される。
エンコーダ5は、中押えモータ4の回転量、特に、正方向へのプラスの回転量や、逆方向へのマイナスの回転量を検出し、後述する制御装置200に出力する。
【0023】
(制御装置)
次に、ミシンの制御装置200について説明する。
図4に示すように、制御装置200は、ミシン100の各部の動作を制御するプログラムや、縫製データの設定処理に関するプログラム等に従って、各種制御や処理を実行するCPU201と、各種プログラムを展開してCPU201の作業エリアとなるRAM202と、各種処理を実行するための処理プログラムや処理データ等が記憶されるROM203とEEPROM204等を備えている。
【0024】
ROM203には、複数の針落ち点データからなる縫製パターンを示す基本縫製データが記憶されており、縫製データ記憶手段として機能する。
また、ROM203には、中押え高さと糸張力とが対応つけられた、中押え高さ毎の糸張力データに関するテーブルが記憶されており、糸張力記憶手段として機能する。
【0025】
また、ROM203には、基本の縫製データに対する中押え高さの設定、つまり、基本縫製データにおける各針落ち点毎の中押え高さを設定するための中押え高さ設定プログラムが記憶されている。
そして、CPU201が中押え高さ設定プログラムを実行することにより、CPU201は、縫製データに応じた針落ち点毎に中押え2を基準量移動させるための基準パルス数に基づき中押えモータ4を駆動させるとともに、その中押え2が所定の被縫製物における各針落ち点に対して突き当たるなどした際に、各針落ち点毎にエンコーダ5により検出された中押えモータ4の回転量に対応する駆動パルス数を検出するパルス数検出制御手段として機能する。なお、中押え2が被縫製物に突き当たらずに基準量移動した際に検出される駆動パルス数は基準パルス数と同じ値となる。
また、CPU201が中押え高さ設定プログラムを実行することにより、CPU201は、パルス数検出制御手段としてのCPU201によって検出された駆動パルス数と、中押えモータ4を駆動させるために入力された基準パルス数との差分を算出するパルス差分算出手段として機能する。
また、CPU201が中押え高さ設定プログラムを実行することにより、CPU201は、パルス差分算出手段としてのCPU201によって算出されたパルス数の差分に基づき、各針落ち点毎の中押え2の高さを設定する中押え高さ設定制御手段として機能する。なお、中押え高さ設定制御手段としてのCPU201は、例えば、ROM203に予め記憶されているテーブルであって、パルス数の差分と中押え高さとが対応つけられた中押え高さテーブルにおけるデータに基づき、中押え高さを設定するようになっている。
【0026】
また、CPU201が中押え高さ設定プログラムを実行することにより、CPU201は、中押え高さ設定手段としてのCPU201によって設定された中押え高さを、各針落ち点に対応させて記憶して、縫製データに反映させる縫製データ設定制御手段として機能する。つまり、縫製データ設定制御手段としてのCPU201は、基本の縫製データにおける各針落ち点毎に中押え高さに関するデータを付与した新たな縫製データを設定して、その新たな設定縫製データをEEPROM204に記憶する制御を実行する。
また、縫製データ設定制御手段としてのCPU201は、中押え高さ設定手段としてのCPU201によって設定された中押え高さに対応する糸張力を、ROM203に記憶されている中押え高さ毎の糸張力データに基づき、各針落ち点に対応させて記憶して、縫製データに反映させる制御を実行する。つまり、縫製データ設定制御手段としてのCPU201は、基本の縫製データにおける各針落ち点毎に中押え高さと糸張力に関するデータを付与した新たな縫製データを設定して、その新たな設定縫製データをEEPROM204に記憶する制御を実行する。
【0027】
(中押え高さの設定処理)
次に、本発明に係るミシン100における中押え装置1の中押え2の高さを縫製データに応じて設定する処理について、図5に示すフローチャートに基づき説明する。
【0028】
まず、ユーザが、被縫製物である生地(布)をミシン100の保持枠111にセットする(ステップS101)。なお、この生地に施す縫製パターンに関する基本の縫製データは、所定の手順でユーザが選択している。
次いで、ユーザが、ミシン100の操作パネル300における所定の中押え高さ設定スタートスイッチ(スタートSW;図示省略)をオンすることによって、選択されている縫製データに応じた処理であって、保持枠111にセットされている生地に対する中押え高さ設定処理がスタートする(ステップS102)。
【0029】
そして、スタートSWがオンされたことに伴い、CPU201は、中押え装置1の中押えモータ4に基準パルス数のパルス信号を出力し、その中押えモータ4は入力された基準パルス数(パルス信号)に基づき中押え2を基準量移動させるように駆動して、その中押え2を針板110側の保持枠111に保持されている生地に向け、特にその生地における針落ち点(所定の縫製パターンを示す縫製データに応じた針落ち点)に向けて下降させる(ステップS103)。なお、本実施形態においては、基準パルス数「+10」のパルス信号が出力されるものとする。
次いで、CPU201は、中押え2がその生地における針落ち点に向けて下降した際の中押えモータ4の回転量をエンコーダ5に検出させ、各針落ち点毎にエンコーダ5により検出された中押えモータ4の回転量に対応する駆動パルス数を検出する(ステップS104)。
次いで、CPU201は、検出された駆動パルス数と、中押えモータ4を駆動させるために入力された基準パルス数との差分(差分=基準パルス数−駆動パルス数)を算出する(ステップS105)。
次いで、CPU201は、算出されたパルス数の差分に基づき、各針落ち点毎の中押え2の高さを設定する(ステップS106)。具体的には、CPU201は、算出されたパルス数の差分に基づき、ROM203に予め記憶されているテーブルであって、パルス数の差分と中押え高さとが対応つけられた中押え高さテーブルにおけるデータに基づき、中押え高さを設定する。
【0030】
ここで、中押え2が生地に向かい下降したことに伴い中押え高さが設定される処理を、図6、図7に基づいて具体的に説明する。
保持枠111にセットされた生地が、図6に示すような2枚の布が重ねられた生地であって、その生地を最初の針落ち点Aから、針落ち点Bや針落ち点Cを通り、最後の針落ち点Dまで縫製する縫製パターンに関する設定処理である場合、第1針目の針落ち点Aから第10針目の針落ち点Bまでの各針落ち点において、CPU201が検出した駆動パルス数が「+10」であると、図7に示す中押え高さテーブルに基づき、パルス数差分が「0」であると算出されて、中押え高さは「0mm」と設定される。つまり、第1針目の針落ち点Aから第10針目の針落ち点Bまでは、基準パルス数「+10」のパルス信号に基づき中押えモータ4が駆動したことで下降された中押え2が生地に突き当たらずに、最下点まで下降するエリアであるといえる。
また、第11針目の針落ち点から第20針目の針落ち点Cまでの各針落ち点において、CPU201が検出した駆動パルス数が「+8」であると、図7に示すような中押え高さテーブルに基づき、パルス数差分が「2」であると算出されて、中押え高さは「2mm」と設定される。つまり、第11針目の針落ち点から第20針目の針落ち点Cまでは、基準パルス数「+10」のパルス信号に基づき中押えモータ4が駆動したことで下降された中押え2が、駆動パルス数「+8」に相当する位置で生地に突き当たるエリアであるといえる。そして、第11針目に布の段部があるものと検知されるようになっている。
また、第21針目の針落ち点から第30針目の針落ち点Dまでの各針落ち点において、CPU201が検出した駆動パルス数が「+10」であると、図7に示す中押え高さテーブルに基づき、パルス数差分が「0」であると算出されて、中押え高さは「0mm」と設定される。つまり、第21針目の針落ち点から第30針目の針落ち点Dまでは、基準パルス数「+10」のパルス信号に基づき中押えモータ4が駆動したことで下降された中押え2が生地に突き当たらずに、最下点まで下降するエリアであるといえる。そして、第21針目に布の段部があるものと検知されるようになっている。
【0031】
そして、CPU201は、ステップS104において検出した駆動パルス数と同じ大きさであって、正負の値が異なる駆動パルス数のパルス信号を中押えモータ4に出力して、中押え2を上昇させて、原点検出を行う(ステップS107)。具体的には、第1針目の針落ち点Aから第10針目の針落ち点Bまでの各針落ち点と、第21針目の針落ち点から第30針目の針落ち点Dまでの各針落ち点では、駆動パルス数「−10」のパルス信号に基づき中押えモータ4が駆動し、中押え2が原点まで上昇する。また、第11針目の針落ち点から第20針目の針落ち点Cまでの各針落ち点では、駆動パルス数「−8」のパルス信号に基づき中押えモータ4が駆動し、中押え2が原点まで上昇する。
【0032】
次いで、CPU201は、最終の針落ち点(第30針目の針落ち点D)に達したか否かを判断する(ステップS108)。
CPU201が、最終の針落ち点に達していないと判断すると(ステップS108;No)、保持枠111が移動されることで、次の針落ち点に相当する配置に切り替えられて(ステップS109)、ステップS103に戻る。
【0033】
一方、CPU201が、最終の針落ち点に達したと判断すると(ステップS108;Yes)、CPU201は、これまでに設定した各針落ち点毎の中押え高さを、基本の縫製データにおける各針落ち点に対応させて、その基本縫製データにおける各針落ち点毎に中押え高さに関するデータを付与した新たな縫製データを設定して、その新たな設定縫製データをEEPROM204に記憶する。特に、CPU201は、設定された中押え高さに対応する糸張力をROM203に記憶されている中押え高さ毎の糸張力データ(例えば、図7のテーブル)に基づいて縫製データの各針落ち点に対応させて、その基本縫製データにおける各針落ち点毎に中押え高さと糸張力に関するデータを付与した新たな縫製データをEEPROM204に記憶する(ステップS110)。
そして、中押え高さ設定処理を終了する。
【0034】
そして、EEPROM204に記憶された新たな縫製データであって、各針落ち点毎に中押え高さと糸張力に関するデータが付与された縫製データを用いることによって、同じ生地に同じ縫製パターンの縫製を行う際に、中押え2が適正な高さに配されて、適正な糸張力に調整された縫製を好適に行うことが可能になる。
【0035】
このように、ミシン100は、所望する縫製パターンを有する縫製データに従って、保持枠111に保持する生地を移動させつつ、その縫製データにおける各針落ち点に相当する生地の箇所に中押え2を突き当てるように中押え装置1の中押えモータ4を駆動させることによって、各針落ち点毎にその生地の厚みや段部に応じた好適な中押え2の高さを設定することができ、各針落ち点毎に設定された中押え高さや、その中押え高さに対応する糸張力を反映させた縫製データを作成して、その新たな縫製データをEEPROM204に記憶することができる。
つまり、従来技術のように、操作パネルを操作して各針落ち点毎に中押え高さを設定入力することや、その設定した値に応じた実際の中押え高さが適正であるか目視して確認するといった煩雑な作業を行わずに、このミシン100においては、ほぼ自動的に針落ち点毎の中押え高さの設定を行うことができ、ユーザの負担を大幅に低減することが可能になる。
従って、このミシン100は、中押え2の高さ設定を容易に行うことができるミシンであるといえる。
そして、EEPROM204に記憶された新たな縫製データであって、各針落ち点毎に中押え高さと糸張力に関するデータが付与された縫製データを用いることによって、同じ生地に同じ縫製パターンの縫製を行う際に、中押え2が適正な高さに配されて、適正な糸張力に調整された縫製を好適に行うことができる。
【0036】
なお、以上の実施の形態においては、2枚の布が重ねられた生地に、直線状の縫製パターンの縫製に関する中押え高さの設定処理を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の生地、任意の縫製パターンに関する設定処理であってもよい。
【0037】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
【図2】ミシンの保持枠や中押えの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】中押え装置を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図5】本発明に係るミシンにおける中押え高さ設定処理を示すフローチャートである。
【図6】生地とその生地に施す縫製パターンを示す説明図である。
【図7】中押え高さに関するデータのテープルを示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 中押え装置
2 中押え
3 中押え棒
3a ラック
4 中押えモータ
4a ピニオン
5 エンコーダ
20 主軸モータ
30 糸調子機構
100 ミシン
108 縫い針
110 針板
111 保持枠
200 制御装置
201 CPU(パルス数検出制御手段、パルス差分算出手段、中押え高さ設定制御手段、縫製データ設定制御手段)
202 RAM
203 ROM(縫製データ記憶手段、糸張力記憶手段)
204 EEPROM
300 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被縫製物を針板上に保持する保持枠と、
前記保持枠が保持する被縫製物に対して上下動する縫い針と、
縫製時に前記被縫製物を針板側に押さえつける中押えと、
前記中押えを前記縫い針の上下動と連動するように上下動させる中押えモータと、
前記中押えモータの回転量を検出するエンコーダと、
複数の針落ち点データからなる縫製データを予め記憶する縫製データ記憶手段と、
前記中押えを基準量移動させるための基準パルス数に基づき前記中押えモータを駆動させた際に、所定の被縫製物における前記縫製データに応じた針落ち点毎に、前記エンコーダにより検出した前記中押えモータの回転量に対応する駆動パルス数を検出するパルス数検出制御手段と、
前記パルス検出手段により検出された駆動パルス数と、前記中押えモータを駆動させた基準パルス数との差分を算出するパルス差分算出手段と、
前記パルス差分算出手段により算出されたパルス数の差分に基づき、各針落ち点毎の前記中押えの高さを設定する中押え高さ設定制御手段と、
前記中押え高さ設定手段により設定された中押え高さを、各針落ち点に対応させて記憶して前記縫製データに反映させる縫製データ設定制御手段と、
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫い針に供給されるミシン糸に糸張力を付与する糸調子機構と、
前記中押えの高さ毎の糸張力データを予め記憶する糸張力記憶手段と、
を備え、
前記縫製データ設定制御手段は、前記中押え高さ設定制御手段により設定された中押え高さに対応する糸張力を、各針落ち点に対応させて記憶して前記縫製データに反映させることを特徴とする請求項1に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−11544(P2009−11544A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176166(P2007−176166)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】