説明

ミシン

【課題】既存のミシン備わる機構や装置を利用することにより、複数の窪みや穴からなる複雑な模様であっても、模様の形成が容易にできるパーチメントクラフトに適したミシンを提供する。
【解決手段】ミシン10は、押え足が装着される押え棒16に着脱可能な突状部材51と、縫針が装着される針棒15に着脱可能な針部材56とを備えている。押え棒16は、押え棒上下機構部によって上下に駆動される。突状部材51は、押え棒16と共に下方へ移動することにより、被加工物70を下方へ押圧し、被加工物70に窪みを形成する。針棒15は、針棒上下機構部によって上下に駆動される。針部材56は、針棒15と共に下方へ移動することにより、被加工物70を貫いて、被加工物70に穴を形成する。これにより、被加工物70は、窪み及び穴から構成される模様が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば厚手のトレーシングペーパなどに複数の窪みや穴などによって模様を形成することで、装飾物を製作するパーチメントクラフトにおいて、これらの窪み及び穴の形成に適用するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば紙や布などの被加工物に形成した窪み(エンボス)や穴を利用して種々の模様を表現することが広く利用されている。例えば特許文献1には、ドットインパクト装置を利用することにより、被加工物にエンボス加工を施すことが開示されている。また、特許文献2には、所定の模様の輪郭が予め形成されたエンボス加工用プレートを利用することにより、手作業によって厚紙などにエンボス加工を施すことが開示されている。
また近年では、例えばペーパアートとしてパーチメントクラフトが普及しつつある。パーチメントクラフトでは、厚手のトレーシングペーパなどを被加工物として使用して、これに複数の窪みや穴などを手作業にて形成することで、装飾物を製作している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−320195号公報
【特許文献2】実用新案登録第3105746号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているドットインパクト装置は、機器自体が大型であると共に、専用品であるため汎用性も低い。そのため、芸術や趣味として個人で利用するには不向きである。また、特許文献2に開示されているエンボス加工用プレートは、各種の模様に応じて専用のプレートを必要とする。そのため、模様の数が多くなる程、多くのプレートを必要とする。また、特許文献2の場合、模様の形成は手作業であり、加工が煩雑となって、製作に時間がかかるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、既存のミシンに備わる機構や装置を利用することにより、複数の窪みや穴からなる複雑な模様であっても、模様の形成が容易にできるパーチメントクラフトに適したミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1記載のミシンは、被加工物を押圧する着脱可能な押え足を下端部に装着する押え棒と、前記押え棒を上下動させる押え棒上下機構部と、前記押え棒上下機構部を駆動する押え棒駆動手段と、前記被加工物が載置される針板とを備えるミシンにおいて、前記押え棒に着脱可能に装着され、前記被加工物を下方へ押圧して、前記被加工物を窪ませる突状部材と、前記突状部材に対向する前記針板の上端部に設けられ、前記突状部材の先端を受ける受け部とを備え、前記押え棒駆動手段が前記押え棒上下機構部を介して前記押え棒を上下に駆動することにより、前記突状部材によって前記被加工物に窪みを形成することを特徴とする。
【0007】
上記の構成を備えるミシンは、押え棒に装着された突状部材で被加工物に窪みを形成する。つまり、押え棒上下機構部を利用することで、押え棒の上下動によって駆動される突状部材と対向する位置に被加工物を置くことにより、被加工物には窪みが形成される。そして、押え棒を上下へ駆動しつつ被加工物を移動させることにより、被加工物には任意の位置に窪みが形成される。従って、複数の窪みからなる複雑な模様であっても容易に形成することができる。
【0008】
請求項2記載のミシンは、請求項1記載のミシンであって、前記受け部は、柔軟な材料で形成されている緩衝部材であることを特徴とする。
請求項3記載のミシンは、請求項1又は2記載のミシンであって、前記押え棒の上下方向への移動量を設定する設定手段をさらに備え、前記押え棒駆動手段は、前記設定手段で設定された移動量に基づいて前記押え棒上下機構部を駆動することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載のミシンは、請求項1から3のいずれか一項記載のミシンであって、被加工物を貫く着脱可能な針部材を下端部に装着する針棒と、前記針棒を上下動させる針棒上下機構部と、前記針棒上下機構部を駆動する針棒駆動手段と、前記押え棒駆動手段による前記押え棒上下機構部の駆動と前記針棒駆動手段による前記針棒駆動機構部の駆動とを選択的に実行する制御手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載のミシンは、請求項4記載のミシンであって、保持された前記被加工物を、前後方向であるY方向と、このY方向と直交する左右方向であるX方向とへ移送する移送装置をさらに備え、前記制御手段は、前記移送装置による前記被加工物のX方向又はY方向の少なくと何れか一方への移送と、前記押え棒駆動手段による前記押え棒の上下動とを連動して実行することを特徴とする。
【0011】
請求項6記載のミシンは、請求項5記載のミシンであって、前記移送装置による前記被加工物の移送位置と前記押え棒駆動手段による前記押え棒の下降位置とを関連づけた窪み形成データ、及び前記移送装置による前記被加工物の移送位置と前記針棒駆動手段による前記針棒の下降位置とを関連づけた穴形成データを記憶する記憶手段をさらに備え、前記制御手段は、前記窪み形成データに基づいて前記突状部材による前記被加工物への窪みの形成を実行した後、前記穴形成データに基づいて前記針部材による前記被加工物への穴の形成を実行することを特徴とする。
【0012】
請求項7記載のミシンは、請求項6記載のミシンであって、前記制御手段は、前記被加工物の全体に前記窪み形成データに基づく前記被加工物への窪みの形成を実行した後、前記被加工物の全体に前記穴形成データに基づく前記被加工物への穴の形成を実行することを特徴とする。
請求項8記載のミシンは、請求項6記載のミシンであって、前記制御手段は、前記被加工物を複数の範囲に分割した設定範囲の内、一つの前記設定範囲ごとに、前記窪み形成データに基づく前記被加工物への窪みの形成及び前記穴形成データに基づく前記被加工物への穴の形成を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のミシンによれば、押え棒に装着された突状部材で被加工物に窪みを形成する。つまり、押え棒上下機構部を利用することで、押え棒の上下動によって駆動される突状部材と対向する位置に被加工物を置くことにより、被加工物には窪みが形成される。そして、押え棒を上下へ駆動しつつ被加工物を移動させることにより、被加工物には任意の位置に窪みが形成される。従って、複数の窪みからなる複雑な模様であっても容易に形成することができる。ところで、家庭用ミシンは元より小型であって、縫製を趣味とする多くの個人ユーザに使用されている。また、近年、押え棒上下動機構部及び押え棒駆動手段を搭載した家庭用ミシンも提供されており、このような家庭用ミシンを用いることで、模様の形成を容易に行うことができる。
【0014】
請求項2記載のミシンによれば、請求項1記載の効果に加え、受け部は緩衝部材であるため、押え棒の上下動に伴う突状部材と被加工物との衝突音は低減される。従って、加工の際に生じる騒音を低減することができる。
請求項3記載のミシンによれば、請求項1又は2記載の効果に加え、押え棒の移動量が変化すると、被加工物と突状部材との接触力が変化するので、窪みの深さ、及び窪みの深さに基づく被加工物の濃淡の具合などを適宜変更することができる。
【0015】
請求項4記載のミシンによれば、請求項1から3のいずれか一項記載の効果に加え、針部材が取り付けられた針棒を備えているので、被加工物に突状部材による窪み及び針部材による穴を形成することができる。
請求項5記載のミシンによれば、請求項4記載の効果に加え、被加工物を移送する移送装置を備えているので、被加工物の移送と窪みの形成とを連動して実行させることができる。
【0016】
請求項6記載のミシンによれば、請求項5記載の効果に加え、窪みを形成した後に穴を形成しているので、窪み及び穴を美しく繊細に形成することができる。即ち、穴を形成した後に窪みを形成すると、窪みの形成により、その近傍の穴が変形や破損するなどして美しい模様が形成できないからである。
請求項7記載のミシンによれば、請求項6記載の効果に加え、被加工物の全体に窪みを形成した後に穴を形成しているので、被加工物の全体に窪み及び穴を美しく繊細に形成することができる。即ち、穴を形成した後に窪みを形成すると、窪みの形成により、その近傍の穴が変形や破損するなどして美しい模様が形成できないからである。
請求項8記載のミシンによれば、請求項6記載の効果に加え、被加工物の設定範囲ごとに窪み及び穴を形成しているので、被加工物の移送量が低減し、窪み及び穴の加工に必要な時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態によるミシンを正面から見た概略斜視図
【図2】本実施形態のミシンを左方から見た概略斜視図
【図3】本実施形態のミシンの頭部に収容された針棒上下機構部及び押え棒上下機構部を示す概略斜視図
【図4】本実施形態のミシンの電気的構成を示すブロック図
【図5】形成模様を構成する窪みの位置及び穴の位置を示す模式図
【図6】模様データのデータ構造を示す模式図
【図7】形成模様を構成する窪み及び穴を示す模式図
【図8】窪み及び穴が形成された最終的な完成品を示す模式図
【図9】本実施形態によるミシンによるパーチメントクラフトの処理の流れを示す概略図
【図10】エンボス加工工程の処理の流れを示す概略図
【図11】穴開け加工工程の処理の流れを示す概略図
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明によるミシンの実施形態を図面に基づいて説明する。また、図1に示す前後、左右及び上下をミシンの前後、及び上下として説明する。この場合、左右方向がX方向であり、前後方向がY方向であり、上下方向がZ方向とする。本実施形態のミシンは、通常のミシンとして加工布に縫製を行うことが可能であると共に、被加工物にパーチメントクラフトを行うことも可能である。パーチメントクラフトを行う場合、被加工物としては例えばトレーシングペーパや厚紙などが使用される。なお、本実施形態におけるミシンは家庭用ミシンとするが、家庭用ミシンに限定するものではない。
【0019】
図1及び図2に示すように本実施形態によるミシン10は、ベッド部11、脚柱部12、アーム部13、頭部14、針棒15及び押え棒16等を備える。脚柱部12は、ベッド部11の右端側に上方へ延びて設けられている。アーム部13は、ベッド部11と対向して脚柱部12の上端側から左方へ延びている。頭部14は、アーム部13の左端側に設けられている。ベッド部11は、図3に示すように上端面と同一の平面上に針板17を有している。ベッド部11は、この針板17の下方に図示しない釜機構及び送り機構を収容している。釜機構には、下糸が巻かれた図示しないボビンが着脱可能に装着される。送り機構は、図示しない加工布を移送するための図示しない送り歯を駆動する機構である。図1及び図2に示すように脚柱部12は、前面に液晶ディスプレイ18を有している。また、アーム部13の前面下方には、縫製開始スイッチ21、縫製終了スイッチ22及び押え足昇降スイッチ23等の各種スイッチが設けられている。
【0020】
アーム部13の上部側には、開閉可能なカバー24が取り付けられている。このカバー24は、アーム部13の左右全長にわたって設けられ、アーム部13の上方後端側に設けられている図示しない回転軸を中心に回転することによりアーム部13の上方を開閉する。カバー24の内部のアーム部13には、上糸が巻かれた図示しない糸駒が収容される図示しない糸収容部を有している。針棒15は、図3に示すように頭部14に設けられ、頭部14を構成するミシン機枠29に上下へ往復移動可能に支持されている。この針棒15は、針棒上下機構部26により上下へ往復駆動される。針棒上下機構部26は、図4に示すミシンモータ30の駆動力によって図示しない主軸等を有するミシン駆動機構部を介して駆動される。ミシン駆動機構部は、周知の構成であるので説明を省略する。ミシンモータ30は、特許請求の範囲の針棒駆動手段に相当する。
【0021】
ミシン10は、図3に示すように押え棒16を上下に駆動する押え棒上下機構部27を備えている。押え棒上下機構部27は、針棒15の後方に配置され、押え棒16を上下に往復駆動する。押え棒上下機構部27は、ラック部31、止め輪32、パルスモータ33、駆動ギア34、中間ギア35、ピニオンギア36、押え棒抱き37、押え棒16、押えばね38、押え上げレバー39、及び図4に示すようにポテンショメータ41等を有している。図3に示すようにラック部31は、押え棒16の上端部分に上下へ昇降可能に取り付けられている。止め輪32は、押え棒16の上端に固定されている。パルスモータ33は、押え棒16を上下へ駆動する駆動力を発生する押え棒駆動手段であり、ラック部31のすぐ右側においてミシン機枠29に固定されている。駆動ギア34は、パルスモータ33の出力軸に取り付けられている。中間ギア35は、駆動ギア34と噛み合っている。ピニオンギア36は、中間ギア35と一体に形成され、ラック部31と噛み合っている。押え棒抱き37は、押え棒16の高さ方向の中段部に固定されている。押えばね38は、ラック部31と押え棒抱き37との間の押え棒16に取り付けられている。押え上げレバー39は、パルスモータ33による押え棒16の昇降動作とは独立して押え棒16を手動で昇降させるための操作が入力される。ポテンショメータ41は、押え棒16の左側に設けられ、押え棒抱き37の上下位置、即ち押え棒16の上下方向の位置を検出する。
【0022】
ポテンショメータ41は、回転式のポテンショメータであって、ポテンショメータ41の回転軸から右方へ延びる図示しないレバー部は、押え棒抱き37の左方へ突出する突出部の上面に常に接触するように設けられている。これにより、押え棒16の昇降に伴い押え棒抱き37が昇降すると、レバー部が揺動し、ポテンショメータ41の抵抗値が変化する。押え棒16の位置は、この抵抗値の変化に応じて出力される電圧に基づいて検出される。
【0023】
押え上げレバー39は、一方の端部がミシン機枠29に固定された図示しないピンを中心に揺動可能に支持されている。押え上げレバー39は、ピンとは反対側の端部に手動操作のための操作部391を有している。この操作部391を手動操作することにより、押え上げレバー39は下降位置から上昇位置まで揺動可能である。この押え上げレバー39の揺動によって、パルスモータ33の駆動力が加わらないときでも、押え棒16は上下へ昇降される。押え上げレバー39の近傍には、押え上げレバー39の操作に連動してオン又はオフされる図4に示すリミットスイッチ42が設けられている。このリミットスイッチ42により、押え上げレバー39の上下位置が検出される。
【0024】
押え棒16は、下端側に着脱可能な突状部材51又は図示しない押え足を選択的に装着可能である。ミシン10にて縫製を実行する場合、押え棒16の下端には図示しない押え足が装着される。一方、ミシン10にてパーチメントクラフトを実行する場合、押え棒16の下端には突状部材51が装着される。突状部材51は、装着部52を介して押え棒16に装着されている。装着部52は、ねじ部材53を締め付けることによって押え棒16の下端に取り付けられる。突状部材51は、棒状に形成され、一方の端部(上端部)が装着部52に挿入され、他方の端部(下端部)に凸頭部54を有している。装着部52に挿入された突状部材51は、ねじ部材55を締め付けることによって装着部52に保持される。凸頭部54は、例えば図3に示すような球状に形成されたものや、図示はしないが、角柱形状に形成されたものなどがあり、これら形状やその大きさについても複数種類が用意されている。ねじ部材55を操作して突状部材51を交換することにより、被加工物に接する凸頭部54の形状や大きさを適宜変更することができる。
【0025】
パルスモータ33が駆動されると、その駆動力は中間ギア35及びピニオンギア36に伝達されラック部31を駆動する。ラック部31が上昇するとき、ラック部31の上端面が押え棒16の上端に固定されている止め輪32を上昇させ、押え棒16に取り付けられた突状部材51も上昇する。パルスモータ33を駆動してラック部31が下降すると、ラック部31の下端面に接する押えばね38が下方へ押し付けられる。そのため、押え棒16に固定されている押え棒抱き37も下方へ押し付けられ、突状部材51は凸頭部54が針板17側へ移動する。このように、突状部材51が装着された押え棒16は、パルスモータ33によって上下へ駆動される。押え棒16は、上位置と下位置との間で上下に往復駆動される。ここで、上位置とは、押え棒16の上下への往復移動範囲において上端側を意味する。一方、下位置とは、押え棒16の上下への往復移動範囲において下端側を意味する。
【0026】
針棒15は、下端側に着脱可能な針部材56又は図示しない縫針を選択的に装着可能である。ミシン10にて縫製を実行する場合、針棒15の下端には図示しない縫針が装着される。一方、ミシン10にてパーチメントクラフトを実行するとき、針棒15の下端には針部材56が装着される。針部材56は、針抱き57を介して針棒15に装着されている。針抱き57のねじ部材58を締め付けることによって、針部材56は針棒15の下端に取り付けられる。針部材56は、棒状に形成され、一方の端部(上端部)が針抱き57を介して針棒15に装着され、他方の端部(下端部)が先鋭な針状に形成されている。針部材56は、縫針と異なり先端に針穴を有していない。針棒15は、針棒上下機構部26に伝達されたミシンモータ30の駆動力によって、上位置と下位置との間で上下に往復駆動される。ここで、上位置とは、針棒15の上下への往復移動範囲において上端側を意味する。一方、下位置とは、針棒15の上下への往復移動範囲において下端側を意味する。
【0027】
針板17は、ベッド部11の上面であって針棒15及び押え棒16の下端と対向する位置に設けられている。針板17は、針穴61及び受け部63を有している。針穴61は、針棒15に装着された針部材56の延長線上に位置している。これにより、針棒15の下降に伴って針部材56は針穴61に進入し、針棒15の上昇に伴って針部材56は針穴61から退出する。受け部63は、押え棒16に装着された突状部材51の延長線上に位置している。これにより、押え棒16の下降に伴って突状部材51は受け部63に接触し、押え棒16の上昇に伴って突状部材51は受け部63との接触が解除される。受け部63は、例えばゴムなどの柔軟な材料で形成されている緩衝部材を有している。これにより、押え棒16の上下に伴って進退する突状部材51が受け部63に接する際の衝撃及び騒音は緩和される。
【0028】
本実施形態の場合、突状部材51は、装着部52を介して押え棒16に取り付けられている。つまり、押え棒16が上下する軸線と突状部材51が上下する軸線とはオフセットされている。これによって、図3に示すように、針板17には図示しない送り歯が出没する角穴62が設けられているが、この角穴62から外れた位置に受け部63を配置することができる。従って、通常の縫製とパーチメントクラフトとのいずれかを選択して実行する際に、夫々専用の針板を用意して交換するというようなことが不要となる。なお、パーチメントクラフトを実行する際には、前記送り歯は、図示しない送り歯沈下機構により針板17の上面から突出しない位置に保持される。
【0029】
本実施形態のミシン10は、図1及び図2に示すように被加工物70をX方向及びY方向へ移送する移送装置71を備えている。移送装置71は、枠部材72、キャリッジ73、X方向移送機構部74及びY方向移送機構部75を有している。X方向移送機構部74はベッド部11に着脱可能に装着される移送装置71のケーシング78に収容されている。Y方向移送機構部75はケーシング78の直ぐ上方に配置され、カバー部材79に収容されている。枠部材72は、例えばトレーシングペーパなどの被加工物70を支持している。キャリッジ73は、枠部材72を支持している。Y方向移送機構部75は、キャリッジ73を前後方向であるY方向へ移送する。X方向移送機構部74は、Y方向移送機構部75の下側に設けられ、キャリッジ73をY方向移送機構部75と共に左右方向であるX方向へ移送する。図4に示すようにX方向移送機構部74は、Y方向移送機構部75をX方向へ駆動するXモータ76を有している。また、Y方向移送機構部75は、キャリッジ73をY方向へ駆動するYモータ77を有している。Xモータ76はケーシング78に収容され、Yモータ77はカバー部材79に収容されている。この移送装置71は、周知の構成であるので、X方向移送機構部74及びY方向移送機構部75の詳細な説明は省略する。
【0030】
次に、ミシン10の制御系について説明する。
ミシン10は、図4に示すように制御手段としての制御装置80を備えている。制御装置80は、CPU81、ROM82及びRAM83で構成されているマイクロコンピュータ、入力インターフェイス84、並びに出力インターフェイス85を有している。入力インターフェイス84は、外部記憶装置86、縫製開始スイッチ21等のスイッチ類、ポテンショメータ41及びリミットスイッチ42と電気的に接続している。出力インターフェイス85は、ミシンモータ30、パルスモータ33、液晶ディスプレイ18、並びに移送装置71のXモータ76及びYモータ77とそれぞれ駆動回路91〜95を経由して電気的に接続している。外部記憶装置86は、例えばEEPROMなどの不揮発性メモリやハードディスクドライブなどによって構成されている。
【0031】
ROM82は、ミシン10を制御する制御プログラムを記憶している。この制御プログラムは、縫製を実行するための縫製プログラム、パーチメントクラフトを実行するための実行プログラム及び液晶ディスプレイ18に各種情報を表示させるための表示制御プログラム等を含んでいる。なお、制御プログラムは、ROM82に限らず一部又は全部を外部記憶装置86に記憶してもよい。
【0032】
制御装置80は、例えば図5に示すような形成模様100に対応する模様データに基づき、実行プログラムに従ってミシンモータ30による針棒15の駆動、パルスモータ33による押え棒16の駆動、並びにXモータ76及びYモータ77による被加工物70を支持する枠部材72の駆動を制御する。また、制御装置80は、模様データに基づいて押え棒16の上下への移動量、すなわち受け部63側への移動距離を設定する。このように制御装置80は、特許請求の範囲の設定手段を構成している。
【0033】
図6に示すように模様データ110は、図5に示すような形成模様100に対応して設定され、窪み形成データ111及び穴形成データ112で構成されている。図5において、小さな丸印101はいずれも突状部材51による窪み形成位置の中心を示し、大きな丸印102はいずれも針部材56による穴形成位置を示す。図6に示すように、模様データ110を構成する窪み形成データ111及び穴形成データ112は、それぞれ窪み形成データ111であるか穴形成データ112であるかを示す「M値113」、窪み又は穴を形成する座標を示す「X座標値114」及び「Y座標値115」を含んでいる。この「M値113」は、「0」のとき窪みを形成するための窪み形成データ111であることを示し、「1」のとき穴を形成するための穴形成データ112であることを示す。図6に示す本実施形態の模様データ110の場合、「M値113」が「0」の窪み形成データ111と、「M値113」が「1」の穴形成データ112とは一連のデータとして設定されている。ROM82又は外部記憶装置86には、図5に示すような形成模様100に対応する模様データ110に限らず、複数の形成模様にそれぞれ対応する複数の模様データを記憶している。ユーザは、例えば液晶ディスプレイ18に表示された各模様データ110に基づく形成模様100の画像を参照して、任意の形成模様を選択することができる。
【0034】
窪み形成データ111は、さらに窪みの深さを設定する「深さ値116」を含んでいる。「深さ値116」は、各窪みごとに設定されている。「深さ値116」は、押え棒16に装着された突状部材51の移動量に相当する。被加工物70としてトレーシングペーパを用いる場合、トレーシングペーパに形成される窪みの深さに応じて、窪みの濃淡の度合が変化する。例えば被加工物70がトレーシングペーパの場合、突状部材51の移動量が大きく窪みが深いとき白濁は濃くなるのに対し、突状部材51の移動量が小さく窪みが浅いとき白濁は薄くなる。このように窪みごとに「深さ値116」を設定することにより、突状部材51の移動量が設定され、被加工物70に形成される窪みの深さは制御される。
【0035】
この場合、「深さ値116」は、例えば「0.5mm」や「1.2mm」のような実際の深さに限らず、図6の模様データ110に示すように深さの段階に応じて設定した値であってもよい。例えば最も浅い窪みを形成するとき「深さ値116」は「1」とし、深さに応じて段階的に「深さ値116」は「2」、「3」・・・とし、窪みを形成しないとき「深さ値116」は「0」のように設定してもよい。制御装置80は、これらの実際の深さを示す「深さ値116」、又は深さの段階を示す「深さ値116」に基づいて押え棒16に装着された突状部材51の移動量を制御する。
【0036】
窪み形成データ111及び穴形成データ112のX座標値114及びY座標値115は、窪み又は穴を形成する位置を示している。制御装置80は、模様データ110のX座標値114及びY座標値115に基づいて移送装置71のXモータ76及びYモータ77を駆動する。これにより、移送装置71の枠部材72に支持された被加工物70は、X座標値114及びY座標値115に基づいて突状部材51の鉛直方向の中心線の延長上又は針部材56の鉛直方向の中心線の延長上に移送される。その結果、被加工物70には、模様データ110に基づいて図7示すように窪み121及び穴122からなる形成模様120が形成される。図7における形成模様120において、網掛けされた比較的大きな円形状の部分は窪み121を示し、比較的小さな円形状の部分は穴122を示している。そして、例えばハサミなどを用いて窪み121及び穴122からなる形成模様120の最も外周の穴122に沿って被加工物70を切り出すことにより、図8に示すような完成品130が製作される。完成品130は、網掛けの部分が窪み131に対応し、比較的小さな円形状の内側が穴132に対応する。
【0037】
次に、上記の構成のミシン10によるパーチメントクラフトの処理を説明する。
(メインルーチン)
まず、図9に基づいてミシン10による処理のメインルーチンについて説明する。
ミシン10の制御装置80は、まずパーチメントクラフトを実行するパーチメントクラフトモードであるか否かを判断する(S101)。ミシン10は、パーチメントクラフトに限らず、通常の縫製も実行可能である。そのため、制御装置80は、パーチメントクラフトモード又は縫製モードのいずれが設定されているかを判断する。パーチメントクラフトモードのとき、押え棒16には装着部52を介して突状部材51が装着され、針棒15には針部材56が装着される。一方、縫製モードのとき、押え棒16には図示しない押え足が装着され、針棒15には図示しない縫針が装着される。また、縫製モードのとき、上糸が巻かれた図示しない糸駒及び下糸が巻かれた図示しないボビンもミシン10に取り付けられる。なお、パーチメントクラフトモードのとき、上糸及び下糸は使用しない。そのため、制御装置80は、上糸の有無を検出する図示しない上糸切れセンサー、及び下糸の残量を検出する図示しない下糸残量センサーからの出力を無視する。本実施形態の場合、パーチメントクラフトモードのとき、ミシン10は移送装置71を装着している。一方、縫製モードの場合、移送装置71は、通常縫製を実行するときにはミシン10から取り外され、刺繍縫製を実行するときにはミシン10に装着される。
【0038】
制御装置80は、パーチメントクラフトモードであると判断すると(S101:Yes)、窪み121を形成するエンボス加工工程を実行すると共に(S102)、穴122を形成する穴開け加工工程を実行する(S103)。本実施形態の場合、被加工物70の全体にエンボス加工工程を実行した後、引き続いて被加工物70の全体に穴開け加工工程を実行する。エンボス加工工程及び穴開け加工工程の詳細は、後述する。制御装置80は、縫製モードであると判断すると(S101:No)、通常の縫製又は刺繍縫製を実行する(S104)。
【0039】
(エンボス加工工程)
図10に基づいてエンボス加工工程について説明する。
メインルーチンのS102においてエンボス加工工程に移行すると、制御装置80は針棒15、押え棒16及び移送装置71を駆動する。具体的には、制御装置80は、針棒15を上位置で停止させると共に、押え棒16を上位置で停止させる(S201)。なお、針棒15及び押え棒16の上位置は、被加工物70に接しない範囲であれば、上端の上位置に限らず、上下への往復移動範囲の中間であってもよい。
【0040】
制御装置80は、針棒15及び押え棒16を上位置で停止させると共に、枠部材72に支持された被加工物70を移送装置71によりエンボス加工を実行する位置へ移送する(S202)。制御装置80は、模様データ110の窪み形成データ111に基づいて枠部材72を移送する。本実施形態の場合、突状部材51の中心位置は、装着部52によって押え棒16の中心から離れた位置で、且つ針棒15に装着された針部材56の中心からも所定距離だけ離れた位置にある。そのため、制御装置80は、窪み形成データ111に対して、この突状部材51と針部材56との距離を補正値として加算(又は減算)して移送装置71をX方向及びY方向へ駆動する。なお、X座標値114とY座標値115とに前記補正値を夫々組み込んだデータを、窪み形成データ111として設定してもよい。
【0041】
制御装置80は、針棒15、押え棒16及び移送装置71を駆動すると、押え棒16のみを上位置から下位置へ駆動すると共に、さらに押え棒16を下位置から上位置へ駆動する(S203)。つまり、制御装置80は、パルスモータ33へ通電することにより、押え棒16を駆動する。このとき、制御装置80は、模様データ110に含まれる深さ値116に基づいて押え棒16の下降量を制御する。このように、制御装置80は、押え棒16のみを上下へ往復駆動させつつ、押え棒16の下方向への移動量を制御する。その結果、被加工物70には、窪みすなわちエンボスが形成される。
【0042】
押え棒16を上下へ駆動すると、制御装置80は模様データ110に含まれる窪み形成データ111に基づいて窪み121の形成が全て完了したかを判断する(S204)。制御装置80は、窪み121の形成が全て完了したと判断すると(S204:Yes)、図9に示すメインルーチンへリターンする。一方、制御装置80は、窪み121の形成が完了していないと判断すると(S204:No)、ステップS201へ戻り、模様データ110に含まれる全ての窪み形成データ111に対応する全ての窪み121の形成が完了するまでS201以降の処理を繰り返す。
【0043】
(穴開け加工工程)
図11に基づいて穴開け加工工程について説明する。
メインルーチンのS103において穴開け加工工程に移行すると、制御装置80は針棒15、押え棒16及び移送装置71を駆動する。具体的には、制御装置80は、針棒15を上位置で停止させると共に、押え棒16を上位置で停止させる(S301)。
【0044】
制御装置80は、針棒15及び押え棒16を上位置で停止させると共に、枠部材72に支持された被加工物70を移送装置71により穴開け加工を実行する位置へ移送する(S302)。制御装置80は、模様データ110の穴形成データ112に基づいて枠部材72を移送する。本実施形態の場合、針部材56は針棒15の中心に支持されている。そのため、制御装置80は、穴形成データ112のX座標値114及びY座標値115に基づいて移送装置71をX方向及びY方向へ駆動する。
【0045】
制御装置80は、針棒15、押え棒16及び移送装置71を駆動すると、針棒15のみを上位置から下位置へ駆動すると共に、さらに針棒15を下位置から上位置へ駆動する(S303)。制御装置80は、ミシンモータ30へ通電することにより、針棒15を駆動する。ミシンモータ30によって駆動される針棒15は、上下方向の移動距離が通常の縫製と同様に一定である。針棒15と共に針部材56が上下へ移動することにより、被加工物70には穴122が形成される。
【0046】
針棒15を上下へ駆動すると、制御装置80は模様データ110に含まれる穴形成データ112に基づいて穴122の形成が全て完了したかを判断する(S304)。制御装置80は、穴122の形成が全て完了したと判断すると(S304:Yes)、図9に示すメインルーチンへリターンする。一方、制御装置80は、穴122の形成が完了していないと判断すると(S304:No)、ステップS301へ戻り、模様データ110に含まれる全ての穴形成データ112に対応する全ての穴122の形成が完了するまでS302以降の処理を繰り返す。
【0047】
以上の手順により、図7に示すように被加工物70には、押え棒16の上下への往復移動に伴う突状部材51による窪み121の形成と、針棒15の上下への往復移動に伴う針部材56による穴122の形成とが順に実行される。穴122が形成された被加工物70は、例えばハサミなどにより最も外周の穴122に沿って切り出すことにより、図8に示すような完成品130が製作される。
【0048】
以上説明したミシン10の実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
ミシン10は、押え棒16に装着された突状部材51で被加工物70に窪み121を形成している。この突状部材51は、ミシン10に備わる押え棒上下機構部27を利用して、押え棒16の上下動に伴って駆動される。この突状部材51と対向する位置に被加工物70を置くことにより、被加工物70には窪み121が形成される。これにより、突状部材51が装着された押え棒16を上下へ駆動しつつ被加工物70を移動させることにより、被加工物70には任意の位置に窪み121が形成される。従って、複数の窪み121からなる複雑な模様も容易に形成することができる。
【0049】
針板17の受け部63は、例えばゴムなどの柔軟な緩衝部材である。そのため、押え棒16の上下動に伴って突状部材51が針板17側へ移動するとき、突状部材51の先端は受け部63の緩衝部材に当たる。柔軟な緩衝部材は、突状部材51の先端と接することにより、その衝撃を緩和する。従って、突状部材51と被加工物70との衝突音を低減することができ、加工の際に生じる騒音を低減することができる。
【0050】
突状部材51が装着される押え棒16は、模様データ110に含まれる「深さ値116」に基づいて被加工物70側への移動量が制御される。「深さ値116」に基づいて押え棒16の移動量が変化すると、被加工物70が突状部材51によって押し込まれる深さ或は押し込まれる力が変化する。例えば被加工物70としてトレーシングペーパを利用する場合、トレーシングペーパは突状部材51が押し込まれる深さ或は押し込まれる力によって窪み121の濃淡の度合が変化する。従って、突状部材51が装着される押え棒16の移動量を変化させることにより、被加工物70に形成する窪み121の濃淡の具合などを容易に変更することができる。また、被加工物70が突状部材51によって押し込まれる深さ或は押し込まれる力が変化しても、緩衝部材である受け部63がそれを吸収することができる。
【0051】
ミシン10は、針部材56が取り付けられた針棒15を備えている。すなわち、ミシン10は、通常の縫製を実行する際に縫針が装着される針棒15に針部材56が装着される。この針部材56は、ミシン10に備わる針棒上下機構部26を利用して、針棒15の上下動に伴って駆動される。そのため、ミシン10の機能をそのまま利用することができる。針部材56と対向する位置に被加工物70を置くことにより、被加工物70には穴122が形成される。これにより、針部材56が装着された針棒15を上下へ駆動しつつ被加工物70を移動させることにより、被加工物70には任意の位置に穴122が形成される。従って、窪み121だけでなく穴122を含む複雑な模様も容易に形成することができる。
【0052】
ミシン10は、被加工物70を移送する移送装置71を備えている。そのため、制御装置80は、移送装置71による被加工物70の移送と突状部材51による窪み121の形成及び針部材56による穴122の形成とを連動して制御する。これにより、移送装置71の枠部材72に被加工物70に装着し、模様形成の処理を開始すると、被加工物70には自動的に模様データ110に基づく窪み121及び穴122が形成される。従って、複雑な模様でも高い精度かつ短時間で形成することができる。
【0053】
制御装置80は、模様データ110に含まれる窪み形成データ111に基づいて被加工物70に窪み121を形成した後、穴形成データ112に基づいて被加工物70に穴122を形成している。被加工物70に穴122を形成すると、形成された穴122に近い部分では被加工物70の強度が低下する。そのため、形成された穴122に近い位置に窪み121を形成するとき、強度の不足による被加工物70の変形や破損を招き、形成される模様の形状精度が低下するおそれがある。そこで、被加工物70に窪み121を形成した後に穴122を形成することにより、窪み121及び穴122はいずれも高い精度で形成される。従って、模様を構成する窪み121及び穴122を美しく繊細に形成することができる。
【0054】
制御装置80は、窪み121を形成した後に穴122を形成する場合、被加工物70の全体に窪み121を形成した後に穴122を形成している。従って、被加工物70の全体に形成模様120を構成する窪み121及び穴122を美しく繊細に形成することができる。
【0055】
(その他の実施形態)
上述したミシン10の実施形態では、被加工物70の全体に形成模様120を構成する窪み121を形成した後、被加工物70の全体に形成模様120を構成する穴122を形成する例について説明した。しかし、被加工物70を複数の設定範囲に分割(小分割)し、この設定範囲ごとに形成模様120を構成する窪み121の形成と穴122の形成とを続けて実行してもよい。そして、いずれかの設定範囲で窪み121及び穴122の形成が完了すると、他の設定範囲で窪み121及び穴122の形成を実行し、被加工物70の全体に窪み121及び穴122を形成する構成としてもよい。このように、被加工物70を分割した各設定範囲ごとに窪み121及び穴122の形成を実行することにより、移送装置71によって移送される被加工物70の移送量は低減される。そのため、特に大きな被加工物70に模様を形成する場合、設定範囲ごとに窪み121及び穴122を形成することにより、被加工物70の移送に要する時間が短縮される。従って、模様の形成に必要な時間を短縮することができる。
【0056】
また、上述のミシン10の実施形態では、被加工物70を移送装置71で移送する構成について説明した。しかし、ミシン10に移送装置71を装着しなくてもよい。この場合、ユーザは、手動で被加工物70を前後及び左右へ移送する。ユーザが手動で被加工物70を移送することにより、機械的ではない手作り感のある模様を形成することができる。
【0057】
さらに、上述のミシン10の実施形態では、針板17の受け部63を柔軟な緩衝部材で構成する例について説明した。しかし、受け部63は、緩衝部材に限らず、例えば針板17に形成した穴や凹部であってもよい。例えば針板17に突状部材51の凸頭部54の形状に対応した穴や凹部を設けることにより、突状部材51は被加工物70に対しより確実かつ強固に食い込む。そのため、先鋭な窪みが容易に形成される。このように、受け部63の構成を変更することにより、被加工物70に形成する窪みの質感を変更することができる。
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 ミシン
15 針棒
16 押え棒
17 針板
26 針棒上下機構部
27 押え棒上下機構部
30 ミシンモータ(針棒駆動手段)
33 パルスモータ(押え棒駆動手段)
51 突状部材
56 針部材
63 受け部
70 被加工物
71 移送装置
80 制御装置(設定手段、制御手段)
82 ROM(記憶手段)
86 外部記憶装置(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を押圧する着脱可能な押え足を下端部に装着する押え棒と、
前記押え棒を上下動させる押え棒上下機構部と、
前記押え棒上下機構部を駆動する押え棒駆動手段と、
前記被加工物が載置される針板とを備えるミシンにおいて、
前記押え棒に着脱可能に装着され、前記被加工物を下方へ押圧して、前記被加工物を窪ませる突状部材と、
前記突状部材に対向する前記針板の上端部に設けられ、前記突状部材の先端を受ける受け部とを備え、
前記押え棒駆動手段が前記押え棒上下機構部を介して前記押え棒を上下に駆動することにより、前記突状部材によって前記被加工物に窪みを形成することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記受け部は、柔軟な材料で形成されている緩衝部材であることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記押え棒の上下方向への移動量を設定する設定手段をさらに備え、
前記押え棒駆動手段は、前記設定手段で設定された移動量に基づいて前記押え棒上下機構部を駆動することを特徴とする請求項1又は2記載のミシン。
【請求項4】
被加工物を貫く着脱可能な針部材を下端部に装着する針棒と、
前記針棒を上下動させる針棒上下機構部と、
前記針棒上下機構部を駆動する針棒駆動手段と、
前記押え棒駆動手段による前記押え棒上下機構部の駆動と前記針棒駆動手段による前記針棒駆動機構部の駆動とを選択的に実行する制御手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のミシン。
【請求項5】
保持された前記被加工物を、前後方向であるY方向と、このY方向と直交する左右方向であるX方向とへ移送する移送装置をさらに備え、
前記制御手段は、前記移送装置による前記被加工物のX方向又はY方向の少なくと何れか一方への移送と、前記押え棒駆動手段による前記押え棒の上下動とを連動して実行することを特徴とする請求項4記載のミシン。
【請求項6】
前記移送装置による前記被加工物の移送位置と前記押え棒駆動手段による前記押え棒の下降位置とを関連づけた窪み形成データ、及び前記移送装置による前記被加工物の移送位置と前記針棒駆動手段による前記針棒の下降位置とを関連づけた穴形成データを記憶する記憶手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記窪み形成データに基づいて前記突状部材による前記被加工物への窪みの形成を実行した後、前記穴形成データに基づいて前記針部材による前記被加工物への穴の形成を実行することを特徴とする請求項5記載のミシン。
【請求項7】
前記制御手段は、前記被加工物の全体に前記窪み形成データに基づく前記被加工物への窪みの形成を実行した後、前記被加工物の全体に前記穴形成データに基づく前記被加工物への穴の形成を実行することを特徴とする請求項6記載のミシン。
【請求項8】
前記制御手段は、前記被加工物を複数の範囲に分割した設定範囲の内、一つの前記設定範囲ごとに、前記窪み形成データに基づく前記被加工物への窪みの形成及び前記穴形成データに基づく前記被加工物への穴の形成を実行することを特徴とする請求項6記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−193952(P2010−193952A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39309(P2009−39309)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】