説明

メイラード反応生成物であるタンパク質−還元糖架橋物質を分解する製剤

【課題】本発明の課題はタンパク質−還元糖架橋物質の架橋部分を切断する作用がN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドよりも優れた有効成分を新たに提供することである。
【解決手段】ロズマリン酸又はその塩、ミリセチン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、バイカリン及びバイカレインがタンパク質−還元糖架橋物質の架橋部分を切断する作用を有しており、かつその作用がN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドと同等あるいはより優れていることを見いだし、新たなメイラード反応生成物であるタンパク質−還元糖架橋物質を分解する製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メイラード反応生成物であるタンパク質−還元糖架橋物質を分解する製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グルコース又は他の還元糖と、アミン基を有するアミノ酸又はそのアミノ酸残基を有するタンパク質の非酵素的反応としてメイラード反応が知られている。メイラード反応は初期段階でグルコース又はその他の還元糖がタンパク質の遊離アミノ基に結合して(初期グリコシル化)シッフ塩基を形成し、それが徐々にアマドリ転位してアミロケトンであるアマドリ生成物(初期グリコシル化産物)を形成する。そしてそのアマドリ生成物が更に進行し、脱水、転位反応を繰り返して架橋重合した化合物(後期グルコシル化産物)が生成される(後期段階)。この架橋重合した化合物は終末糖化物質(Advanced Glycation End Products,AGEs)と称され、物性としては溶解度が低下し、プロテアーゼの作用を受けにくくなり、螢光が発色し褐色に変化してくる。このメイラード反応は最初食品中における褐色色素の出現より見いだされたものであるが、後の研究により生体内でも行われていることが明らかとなった。例えば血中ヘモグロビンやアルブミンとの反応生成物が構成されることや、レンズタンパク質、コラーゲン、神経タンパク質とも同様の反応が生じていることが、特公平06-67827号において総括して報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特公平6-67827号公報
【0003】
前記AGEsは図1で示されるとおり、タンパク質の側鎖アミン基にグルコースや他の還元糖が結合し、水分子が離脱してグルコース部分がジケトンに変遷した後、他のタンパク質が結合して生成されるものである(非特許文献1)。このAGEsが蓄積していくことで、腎症、神経障害、網膜症、白内障、微小血管障害、動脈硬化症等の糖尿病合併症や、糸球体腎炎、循環不全、老人性白内障、骨関節症、関節周囲硬直症、関節硬化症、強皮症、老人斑、老人性痴呆症等の加齢に伴う疾患が発生する。従来までは前記各種疾患を予防あるいは改善する為に、AGEsの発生を阻害する作用を有する成分を人体に経口又は非経口的に投与する方法が研究されてきており、その成分としては例えばフェノキシイソ酪酸誘導体(特許文献2)や柑橘類の揮発性油状物(特許文献3)やアミノグアニジン、α-ヒドラジノヒスチジン(特許文献4)が挙げられる。
【非特許文献1】Sara V.,Xin Z.,et.al.,Nature,vol.382,18,275-278(1996)
【特許文献2】特表2002-541139号公報
【特許文献3】特開2004-35424号公報
【特許文献4】特公平06-67827号公報
【0004】
しかしながら、前記成分はあくまでAGEsの発生を阻害するものであり、既に発生したAGEsを代謝もしくは消失させる性質を有するものではなく、糖尿病合併症や加齢に伴う疾患を予防することは可能であっても、それらを治療することは不可能である。そこで各種疾患を治療する為には、発生・蓄積したAGEsを分解する作用を有する成分を見いだす必要がある。AGEsは前記に記載したとおり、タンパク質同士が還元糖を介して架橋した物質であり、AGEsを分解する作用とは、すなわちタンパク質−還元糖架橋物質の架橋部分を切断する作用であり、そのような作用を有する成分としては、これまでにN-フェナンシルチアゾリウムブロマイド(非特許文献1)やアメリカマンサク、アンズ、イチヤクソウ等の植物の抽出物(特許文献5)が挙げられる。しかしながら、これまでにN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドの有効性を上回る作用を有する有効成分は見いだされておらず、前記各植物抽出物においてもN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドの有効性を上回るものは一つもなかった。
【特許文献5】特開2002-241299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題はタンパク質−還元糖架橋物質の架橋部分を切断する作用がN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドよりも優れた有効成分を新たに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ロズマリン酸又はその塩、ミリセチン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、バイカリン及びバイカレインがタンパク質−還元糖架橋物質の架橋部分を切断する作用を有しており、かつその作用がN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドと同等あるいは優れていることを見いだし、新たなメイラード反応生成物であるタンパク質−還元糖架橋物質を分解する製剤を提供することで、前記課題を解決するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製剤は、メイラード反応生成物であるタンパク質−還元糖架橋物質を分解することが可能であり、この作用はこれまでに知られていた同作用を示す成分と同等あるいはより高い有効性を示した。この製剤を人体に適用することで糖尿病合併症や加齢に伴う疾患等を治療することが可能である。特に経口投与用の形態の製剤は糖尿病合併症の治療に、経皮投与用の形態は皮膚に関する加齢に伴う疾患の治療に関して非常に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いるロズマリン酸は下記の式1で示される化合物である。その塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩から選択される。
【0009】
【化1】

:式1
【0010】
本発明で用いるミリセチンは下記の式2で示される化合物である。
【0011】
【化2】

:式2
【0012】
本発明で用いるエピガロカテキンは下記の式3で示される化合物である。
【0013】
【化3】

:式3
【0014】
本発明で用いるエピガロカテキンガレートは下記の式4で示される化合物である。
【0015】
【化4】

:式4
【0016】
本発明で用いるバイカリンは下記の式5で示される化合物である。
【0017】
【化5】

:式5
【0018】
本発明で用いるバイカレインは下記の式6で示される化合物である。
【0019】
【化6】

:式6
【0020】
前記の各化合物は、マンネンロウ、アオジソ、チリメンジソ、カワミドリ、延命草等のシソ科植物やヤマモモ、コガネバナ、チャ(リョクチャ、コウチャ、ウーロンチャ等)等から個々に抽出及び精製することで得られる。抽出方法は主に水又は有機溶媒を用いた溶媒抽出法、あるいは超臨界流体抽出法が挙げられる。精製方法は、合成吸着剤や樹脂を用いたクロマトグラムが主に用いられ、他には液−液分配や固−液分配による分離精製方法等が用いられる。溶媒抽出によって得られた各植物の抽出液を合成吸着剤を充填したクロマトカラムに吸着させ、特定の溶出用有機溶媒を用いて対象とする画分より目的とする化合物を流出させ、溶媒を除去することより取得する。前記の各化合物は既知の有機化学合成法を用いて得ることもできるが、収率や製造工程の複雑さ等から考慮するに、植物からの抽出で得ることが好ましい。また前記の各化合物を植物から抽出及び精製する工程において更に濃縮行程や特定成分のみを高濃度化する行程を加え、精製する工程を省略することで得られる前記化合物を主要成分とする植物抽出物の形態も、前記化合物と同様に本発明に用いることができる。
【0021】
前記の各化合物の製剤における含有量としては、0.001〜50質量%の範囲であるが、期待される架橋物の分解能の点から0.01〜10質量%の範囲が特に好ましい。含有量が0.001質量%未満の場合は分解能が不十分であり、また含有量が50質量%を超える場合は過剰な分解能が付与されることになり、製造コストのみが増大する他、製剤を構成する組成成分の種類によっては、製剤自体の安定性が低下する場合がある。
【0022】
本発明の製剤の剤型は、経口的又は非経口的に投与可能であれば特に制限はなく、カプセル状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状、気泡状、乳液状、クリーム状、軟膏状、シート状、ムース状、粉末分散状、多層状、エアゾール状等から任意の剤型を成す。特に好ましい形態の1種として、経口投与の形態が挙げられ、その剤形として具体的には、液剤(噴霧して用いる形態も含む)、顆粒剤、粉末剤、錠剤、ペレット剤、経口用フィルム剤並びにカプセル剤等が挙げられる。また特に好ましい形態のもう1種として経皮投与の形態が挙げられ、その剤形として具体的には化粧品類や医薬部外品類に代表される化粧水(美白用や抗老化用も含む)、乳液(美白用や抗老化用も含む)、クリーム(美白用や抗老化用も含む)、ローション(美白用や抗老化用も含む)、パック(美白用や抗老化用も含む)、石鹸やボディーシャンプー、洗顔料、口紅、ファンデーション等の他、医薬品類並びに医薬部外品類に代表される軟膏や貼付剤、ローション剤、パップ剤、リニメント剤等が挙げられる。
【0023】
本発明の製剤には、必須な有効成分である前記の各化合物に加え、更にメイラード反応阻害成分、美白成分、タンニング成分、保湿成分、細胞賦活成分、酸化防止成分、紫外線防御成分、紫外線吸収促進成分、収斂成分、抗炎症成分、防腐成分、MMP活性阻害成分、ピーリング成分、育毛・養毛成分、植物系原料・動物系原料・微生物系原料・その他天然物原料等を由来とするエキス、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、起泡剤、噴射剤、界面活性剤、香料、脱臭・消臭成分、その他医薬・医薬部外品、化粧品等を製造する上で許容されうる基剤を配合することができる。特にメイラード反応阻害成分を同時に配合することで、メイラード反応が関与して発生する疾患全般の予防並びに治療を統括して行うことが可能である。製剤中における含有量は、特に限定されないが、通常0.0001〜50重量%の濃度範囲が一般的である。
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらになんら制約されるものではない。
【実施例】
【0025】
各化合物のタンパク質−還元糖架橋物質分解試験
ロズマリン酸(フナコシ株式会社製)、ミリセチン(フナコシ株式会社製)、エピガロカテキン(栗田工業株式会社製)、エピガロカテキンガレート(栗田工業株式会社製)、バイカリン(東洋紡績株式会社製)又はバイカレイン(和光株式会社製)を1mM含むDMSO溶液を製造並びに調整し、試験に供した。試験方法はSara V.,Xin Z.,et.al.,Nature,vol.382,18,275-278(1996)に記載の方法で行った。タンパク質−還元糖架橋物質のモデルである1-phenyl-1,2-propanedioneを100mM含むDMSO溶液100μLと前記の各化合物の溶液100μL、並びに500mMリン酸二ナトリウム水溶液(pH7.4)800μLを1.5mLプラスチックチューブ内で混合し、37℃,3時間振盪機でインキュベートして反応させた。次いでその反応液中に含まれる安息香酸の生成量をHPLCを用いて分析並びに定量した。その定量結果と1-phenyl-1,2-propanedioneが1分子分解されることで安息香酸が1分子生成することを基に、各化合物の分解能を算出した。陽性対照としてN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドを用い、HPLC分析は使用カラム:RP-18(関東化学社製),移動相:40%メタノール−0.1%TFA,流速:1.0mL/min,カラム温度:40℃,検出:UV210nmの条件で行った。N-フェナンシルチアゾリウムブロマイドを添加した場合の分解能を100%としたときの、各化合物の分解能を表1に示した。
【0026】
各化合物のタンパク質−還元糖架橋物質分解試験の結果
[表1]
ロズマリン酸 200%
ミリセチン 200%
エピガロカテキン 168%
エピガロカテキンガレート 175%
バイカリン 108%
バイカレイン 98%
※N-フェナンシルチアゾリウムブロマイドの分解能を100%とした場合。
表1に示したとおり、本発明で用いるロズマリン酸、ミリセチン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、バイカリン及びバイカレインは、陽性対照であるN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドの分解能に比べて、バイカリン並びにバイカレイン以外の化合物は顕著に高い1-phenyl-1,2-propanedioneの分解能を示した。またバイカリン並びにバイカレインはN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドと同等の分解能を示した。従って、ロズマリン酸、ミリセチン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、バイカリン及びバイカレインはN-フェナンシルチアゾリウムブロマイドと比較して、同等又は優れたタンパク質−還元糖架橋物質の分解作用を有することが判明した。
【0027】
(各種製剤の製造例)
本発明による様々な剤形の製剤を製造した。以下にその処方例を示すが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0028】
(処方例1)カプセル剤
ロズマリン酸 8.0g
アスコルビン酸マグネシウム 0.5g
酢酸DL-α-トコフェロール 0.5g
シリコーン油 30.0g
ツイーン80 0.05g
コーンスターチ 48.95g
上記の成分を均一に混合し、200mgをゼラチンカプセルに充填して、カプセル剤を製造した。
【0029】
(処方例2)錠剤
ミリセチン 100.0mg
コーンスターチ 50.0mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 150.0mg
カルボキシメチルキチン 30.0mg
上記の成分を均一に混合し打錠して、錠剤を製造した。
【0030】
(処方例3)顆粒剤
エピガロカテキンガレート 50.0mg
カルボキシメチルセルロース 180.0mg
プロピレングリコール 20.0mg
アルギン酸ナトリウム 30.0mg
スクロース 10.0mg
上記の成分を均一に混合し造粒して、顆粒剤を製造した。
【0031】
(処方例4)乳液 質量%
エピガロカテキン 3.5
スクワラン 5.0
オリーブ油 5.0
ホホバ油 5.0
セチルアルコール 1.5
グリセリンモノステアレート 2.0
ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル 3.0
ポリオキシエチレン(20)ソオルビタンモノオレート 2.0
1,3-ブチレングリコール 1.0
グリセリン 2.0
パラオキシ安息香酸エステル 適量
香料 適量
精製水 100とする残余
【0032】
(処方例5)ローション 質量%
バイカリン 2.0
バイカレイン 2.0
グリセリン 3.0
1,3-ブチレングリコール 5.0
エタノール 15.0
酸化鉄 0.2
酸化亜鉛 0.5
カオリン 2.0
トレハロース 2.0
デキストリン 0.5
感光素201号 適量
感光素401号 適量
香料 適量
精製水 100とする残余
【0033】
(処方例6)化粧水 重量%
ソルビトール 2.0
1,3-ブチレングリコール 4.0
ロズマリン酸 0.5
ポリオキシエチレン(25)オレイルエーテル 2.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
エタノール 15.0
精製水 残量
【0034】
(処方例7)軟膏 質量%
ミリセチン 2.0
l-メントール 3.0
DL-カンフル 0.5
プロピレングリコール 15.0
カルボキシビニルポリマー 1.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.1
トリエタノールアミン 0.7
精製水 25.0
エタノール 100とする残余
【0035】
(処方例8)貼付剤 重量%
l-メントール 3.0
DL-カンフル 1.5
ポリアクリル酸 4.5
ポリアクリル酸ナトリウム 1.5
カルボキシメチルセルロースナトリウム 4.0
エピガロカテキンガレート 1.2
グリセリン 20.0
ソルビトール 5.0
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 0.5
カオリン 5.0
ヒマシ油 1.0
精製水 残量
上記成分を溶解、分散及び練合したものを、ポリエステル不織布に1m2当たり、1000gとなるよう展延し、貼付剤を製造した。
【0036】
(処方例9)身体用洗浄剤 質量%
エピガロカテキン 1.5
クエン酸酸ナトリウム 2.0
ラウリン酸カリウム 15.0
ミリスチン酸カリウム 5.0
プロピレングリコール 5.0
ソルビトール 3.0
ポリエチレン末 0.5
ヒドロキシプロピルキトサン溶液 0.5
防腐剤 適量
pH調整剤 適量
香料 適量
精製水 100とする残余
【0037】
(処方例10)洗顔料 質量%
ロズマリン酸 2.8
グリオキシル酸 0.5
モノパルミチン酸グリセリル 3.0
ポリオキシエチレンベヘニルエーテル 2.0
ラウリル酸オクチルドデシル 5.0
ラウリルヒドロキシスルホベタイン 1.0
ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン 4.0
グリセリン 8.0
トレハロース 2.0
2-フェノキシエタノール 0.5
香料 適量
精製水 100とする残余
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】終末糖化物質(AGEs)の生成経路を示す図である。尚、図中のHN-Lysはリジンの側鎖アミノ残基を示す。また図中のH-X-Proteinはタンパク質の構成アミノ酸の任意の側鎖を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイラード反応生成物であるタンパク質−還元糖架橋物質を分解する製剤であって、ロズマリン酸又はその塩、ミリセチン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、バイカリン及びバイカレインから選択される少なくとも1種以上を有効成分とすることを特徴とする製剤。
【請求項2】
経口投与用の形態であることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項3】
経皮投与用の形態であることを特徴とする請求項1記載の製剤。




【図1】
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【公開番号】特開2007−210956(P2007−210956A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33416(P2006−33416)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000119472)一丸ファルコス株式会社 (78)
【Fターム(参考)】