説明

モデルパラメータ決定装置、モデルパラメータ決定方法及びプログラム

【課題】半導体集積回路を製造するプロセスを変更した場合において、デバイスモデルによって変更後のプロセスにより製造された半導体素子を表すためにデバイスモデルに含まれるモデルパラメータを容易に決定できるようにする。
【解決手段】モデルパラメータ決定装置は、第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを入力し、第2の製法により製造された半導体素子の特性を当該デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を、第1の物理パラメータ群及び第1のモデルパラメータ群並びに第2の物理パラメータ群に基づいて決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデルパラメータ決定装置、モデルパラメータ決定方法及びプログラムに関し、特に、回路シミュレーション用のデバイスモデルに対するモデルパラメータを決定するモデルパラメータ決定装置、モデルパラメータ決定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の設計においては、半導体素子(デバイス)の特性をコンパクトモデル化したデバイスモデルを用いて回路シミュレーションを行う。BSIM4などのデバイスモデルは、業界標準のデバイスモデルとして仕様が標準化されている。仕様が標準化されたデバイスモデルを用いることにより、異なる設計者又は異なるシミュレーションツールの間でも、デバイス特性シミュレーションの互換性を確保することができる。
【0003】
デバイスモデルは、値を調整することができる複数のパラメータを含んでいる。これらのパラメータの値を適切に設定することにより、実際のデバイスの電気特性をデバイスモデルによって精度よく再現することができる。ここでは、デバイスモデルに含まれるこれらのパラメータをモデルパラメータと呼ぶ。
【0004】
デバイスモデルは、一般に、物理モデル(すなわち、物理現象を数式として表したもの)に立脚しており、多くのモデルパラメータはデバイスを特徴付ける物理量と対応している。デバイスがMOSFETである場合、物理量には、ゲート絶縁膜の厚さ、誘電率、不純物濃度及び不純物分布の深さ等が含まれる。ここでは、デバイスを特徴づける物理量を物理パラメータと呼ぶ。
【0005】
しかし、モデルパラメータには、数値精度を向上させる目的で導入されたフィッティングパラメータなど、物理的意味の曖昧なものも含まれる。また、元来は物理量と対応していたモデルパラメータであっても、フィッティングによってその値を抽出した際に、本来の物理量とはかけ離れた値となることもある。
【0006】
半導体素子を製造するプロセスを既存のプロセスから変更することによって、既存のデバイスとは特性の異なる新たなデバイスを開発した場合には、変更後のプロセスによって製造されたデバイスに対応するモデルパラメータの値を新たに設定する必要がある。かかる場合におけるモデルパラメータ設定方法として、例えば、以下の方法が知られている。
【0007】
特許文献1に記載されたモデルパラメータ抽出方法においては、測定されたI−V(電流対電圧)特性データに直接フィッティングするのではなく、I−V特性データをもとに、Vth−Lg(しきい値電圧対ゲート長)特性又はVth−Wg(しきい値電圧対ゲート幅)特性等の中間データを生成し、これら中間データに対して対応するモデルパラメータのフィッティングを行い、モデルパラメータの値を抽出する。
【0008】
また、特許文献2に記載された特性シミュレーション方法によると、新規に開発されたデバイスの特性シミュレーションにおいて、デバイスの電流の測定データに基づいて多項式フィッティングにより作成した電流モデルによりデバイスモデル中の電流モデルを置き換えることによって、高精度な特性シミュレーションが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−322456号公報
【特許文献2】特開2007−328688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1又は特許文献2に記載されたモデルパラメータ抽出方法又は特性シミュレーション方法においては、いずれもフィッティングに基づいてモデルパラメータが設定される。しかし、測定データとシミュレーションデータとの間の誤差を小さくするフィッティング工程によりモデルパラメータが抽出されることから、モデルパラメータの物理的意味が曖昧となる。製造プロセス条件の変更点とモデルパラメータ変化量との対応関係や複数のモデルパラメータの相互の関係が明確であれば、製造プロセス条件変更後のトランジスタを実際に作成する以前の段階であっても、デバイス特性を高い精度で予測することができる。しかし、フィッティングに基づくモデルパラメータは、上記の対応関係が不明確であるため、デバイス特性を予測することは困難となる。さらに、多数のモデルパラメータをフィッティングによって抽出する作業は手間を要する上、フィッティングの途中で局所解に陥るおそれもある。
【0011】
かかる問題に対応する方法として、デバイスモデル自体に変更を施すことが考えられる。しかし、標準化されたデバイスモデルに手を加えた場合には、互換性が失われてしまう。したがって、デバイスモデル自体はそのままとし、モデルパラメータを変更することによって対処することが望ましい。
【0012】
そこで、半導体集積回路を製造するプロセスを変更した場合において、デバイスモデルによって変更後のプロセスにより製造された半導体素子を表すために、デバイスモデルに含まれるモデルパラメータを容易に決定できるようにすることが課題となる。本発明の目的は、かかる課題を解決するモデルパラメータ決定装置、モデルパラメータ決定方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の視点に係るモデルパラメータ決定装置は、
第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを入力し、第2の製法により製造された半導体素子の特性を当該デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を、第1の物理パラメータ群及び第1のモデルパラメータ群並びに第2の物理パラメータ群に基づいて決定するとともに第2のモデルパラメータ群として出力する。
【0014】
本発明の第2の視点に係るモデルパラメータ決定方法は、
CPUが、第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを記憶装置から読み出す工程と、
CPUが、第2の製法により製造された半導体素子の特性を当該デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を、第1の物理パラメータ群及び第1のモデルパラメータ群並びに第2の物理パラメータ群に基づいて決定するとともに第2のモデルパラメータ群として出力するパラメータ決定工程と、を含む。
【0015】
本発明の第3の視点に係るプログラムは、
第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを記憶装置から読み出す処理と、
第2の製法により製造された半導体素子の特性を当該デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を、第1の物理パラメータ群及び第1のモデルパラメータ群並びに第2の物理パラメータ群に基づいて決定するとともに第2のモデルパラメータ群として出力するパラメータ決定処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るモデルパラメータ決定装置、モデルパラメータ決定方法及びプログラムによると、半導体集積回路を製造するプロセスを変更した場合において、デバイスモデルによって変更後のプロセスにより製造された半導体素子を表すために、デバイスモデルに含まれるモデルパラメータを容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置において、複数のモデルパラメータが連動する様子を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】Nチャネルトランジスタのソース・ドレイン近傍の領域におけるP型の高濃度領域を示す図である。
【図7】トランジスタ内部の不純物分布を単純化した図である。
【図8】トランジスタ内部の不純物分布を単純化した図である。
【図9】本発明の実施例2におけるVthのゲート長依存性を示す図である。
【図10】本発明の実施例2におけるDIBLのゲート長依存性を示す図である。
【図11】本発明の実施例3に係るモデルパラメータ決定装置の構成を示すブロック図である。
【図12】従来のモデルパラメータ決定装置の構成を示すブロック図である。
【図13】従来のモデルパラメータ決定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、上記第1の視点に係るモデルパラメータ決定装置であることが好ましい。
【0019】
第2の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、第2のモデルパラメータ郡に含まれるモデルパラメータを、第1の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ及び第2の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ並びに第1のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを引数に含む物理モデルに基づく関数によって決定することが好ましい。
【0020】
第3の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、上記関数が、デバイスモデルを規定する関数に基づいて導出されたものであることが好ましい。
【0021】
第4の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、第2の製法により製造された半導体素子について測定された特性に対して第2のモデルパラメータ群をフィッティングするフィッティング部をさらに有していることが好ましい。
【0022】
第5の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、上記関数が、第2のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータであって上記関数によって決定されるモデルパラメータ以外のモデルパラメータを、さらに引数に含んでいてもよい。
【0023】
第6の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、逆短チャネル効果の強さを決定するモデルパラメータ、短チャネル効果の強さを決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータ、及び、DIBLのゲート長依存性を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータのそれぞれを決定する関数は、ゲート長の短い領域における平均不純物濃度の増加分が実効チャネル長の逆数に比例する物理モデルに基づいて表され、
逆短チャネル効果の強さを決定するモデルパラメータは、逆短チャネル効果の強さがチャネル不純物濃度の逆数に比例するように、チャネル不純物濃度に相当するパラメータを引数に含む関数によって決定され、
短チャネル効果の強さを決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータ、及び、DIBLのゲート長依存性を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータのうちの少なくともいずれかは、特性長が平均不純物濃度の−1/4乗に比例するように、逆短チャネル効果の強さを決定するモデルパラメータを引数に含む関数によって決定されるようにしてもよい。
【0024】
第7の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、上記の短チャネル効果を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータ、及び、上記のDIBLのゲート長依存性を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータのうちの少なくともいずれかを決定する関数が、基板表面近傍の領域及びさらに深い領域における不純物分布の影響を考慮したモデルに基づいて表されていてもよい。
【0025】
第8の展開形態のモデルパラメータ決定装置は、ユーザによって指定された関数を上記の関数とする関数入力部をさらに有していることが好ましい。
【0026】
第9の展開形態のモデルパラメータ決定方法は、上記第2の視点に係るモデルパラメータ決定方法であることが好ましい。
【0027】
第10の展開形態のモデルパラメータ決定方法は、上記パラメータ決定工程において、第2のモデルパラメータ郡に含まれるモデルパラメータを、第1の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ及び第2の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ並びに第1のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを引数に含む物理モデルに基づく関数によって決定することが好ましい。
【0028】
第11の展開形態のモデルパラメータ決定方法は、上記関数が、デバイスモデルを定義する関数に基づいて導出されたものであることが好ましい。
【0029】
第12の展開形態のモデルパラメータ決定方法は、第2の製法により製造された半導体素子について測定された特性に対して第2のモデルパラメータ群をフィッティングする工程をさらに含むことが好ましい。
【0030】
第13の展開形態のプログラムは、上記第3の視点に係るプログラムであることが好ましい。
【0031】
第14の展開形態のプログラムは、上記パラメータ決定処理において、第2のモデルパラメータ郡に含まれるモデルパラメータを、第1の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ及び第2の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ並びに第1のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを引数に含む物理モデルに基づく関数によって決定する処理をコンピュータに実行させることが好ましい。
【0032】
第15の展開形態のプログラムは、上記関数が、デバイスモデルを定義する関数に基づいて導出されたものであることが好ましい。
【0033】
第16の展開形態のプログラムは、第2の製法により製造された半導体素子について測定された特性に対して第2のモデルパラメータ群をフィッティングする処理をさらにコンピュータに実行させることが好ましい。
【0034】
(実施形態1)
本発明の第1の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置について、図面を参照して説明する。
【0035】
はじめに、従来のモデルパラメータ決定装置の構成について説明する。図12は、従来のモデルパラメータ決定装置501の構成を示すブロック図である。
【0036】
図12を参照すると、モデルパラメータ決定装置501は、デバイスモデル502、初期モデルパラメータ群503及びデバイス測定データ504を入力値として読み込み、モデルパラメータ群505を出力する。
【0037】
デバイスモデル502は、例えば、BSIM4などのデバイスモデルである。初期モデルパラメータ群503は、デバイスモデル502に対応したモデルパラメータの一式である。デバイス測定データ504は、一例として、ゲート電圧、ドレイン電圧及び基板電圧に対するバイアス条件を振りつつ、ドレイン電流を測定したデータである。
【0038】
図12を参照すると、モデルパラメータ決定装置501は、パラメータ記憶部511、特性計算部512、誤差判定部513及びパラメータ変更部514を有している。
【0039】
図13は、モデルパラメータ決定装置501の動作を示すフローチャートである。
【0040】
図13を参照すると、モデルパラメータ決定装置501は、デバイスモデル502、初期モデルパラメータ群503及びデバイス測定データ504を読み込み、初期モデルパラメータ群503をパラメータ記憶部511に格納する(ステップS500〜S502)。
【0041】
特性計算部512は、デバイスモデル502及びパラメータ記憶部511に記憶されたモデルパラメータに基づいて、特性計算を行う(ステップS503)。
【0042】
誤差判定部513は、デバイス測定データと計算された特性データとを比較する(ステップS504)。
【0043】
誤差判定部513によって誤差が所定の閾値ε以上であると判定された場合には(ステップS504のNo)、パラメータ変更部514は、モデルパラメータを変更し(ステップS505)、変更したモデルパラメータをパラメータ記憶部511に記録する。以下、同様にステップS503〜S505のループを繰り返す。このループにおいて、多くのモデルパラメータの値が変更される。
【0044】
一方、誤差判定部513によって誤差が所定の閾値εよりも小さいと判定された場合には(ステップS504のYes)、モデルパラメータ決定装置501は、パラメータ記憶部511に記憶されているモデルパラメータをモデルパラメータ群505として出力し(ステップS506)、モデルパラメータの決定動作を終了する。
【0045】
このように、モデルパラメータ決定装置501は、測定データへの数値フィッティングにより、モデルパラメータを決定する。
【0046】
本実施形態のモデルパラメータ決定装置は、製造プロセスを既存のものから変更して製造されたデバイスの特性をデバイスモデルによって再現するためのモデルパラメータ群を決定する。ここでは、既存の製造プロセスにより製造されたデバイスに対するモデルパラメータ群は予め決定されているか、又は、既存の製造プロセスに対応するモデルパラメータ群は何らかの方法で決定することができるものとする。
【0047】
図1は、本実施形態に係るモデルパラメータ決定装置1の構成を示すブロック図である。図1を参照すると、モデルパラメータ決定装置1は、変更前の製造プロセスで製造されたデバイスに対するモデルパラメータ群2、変更前の製造プロセスで製造されるデバイスの物理パラメータ群3、及び、変更後の製造プロセスで製造されるデバイスの物理パラメータ群4を入力値として読み込み、変更後の製造プロセスで製造されたデバイスに対応するモデルパラメータ群5を出力する。なお、デバイスモデル6は、BSIM4などのデバイスモデルである。
【0048】
モデルパラメータ決定装置1は、モデルパラメータ群2に含まれるモデルパラメータのうち少なくともひとつのモデルパラメータを、変更前の製造プロセスのモデルパラメータ群2、変更前の製造プロセスの物理パラメータ群3、及び、変更後の製造プロセスの物理パラメータ群4との関数として算出するとともに、算出した値によって当該モデルパラメータの値を置き換え、変更後の製造プロセスで製造されたデバイスに対応するモデルパラメータ群5として出力する。
【0049】
上記の関数は、物理モデルに基づいた数式によって記述される。モデルパラメータ群2及び5はデバイスモデル6に対応するモデルパラメータ群であり、モデルパラメータ決定装置1が有する上記の数式は、デバイスモデル6を前提としている。しかし、デバイスモデル6自身は、モデルパラメータを決定する際に変更されない。
【0050】
物理パラメータは、変更前及び変更後の製造プロセスにより製造されるデバイスをそれぞれ特徴付けるパラメータである。物理パラメータは、一例として、ゲート絶縁膜の厚さ及び誘電率、並びに、不純物濃度及び不純物分布の深さなどのデバイス構造に関するパラメータを含む。これらのデバイス構造に関するパラメータは、不純物注入ドーズ量や注入エネルギー、熱処理時間などの製造プロセス条件に基づいたプロセスシミュレーションによって推定されたものであってもよいし、閾値電圧や移動度などの電気特性に基づいて推定されたものであってもよい。また、物理パラメータとして、プロセス条件(温度、時間、注入ドーズ量など)及び電気特性を用いてもよい。
【0051】
図2は、本実施形態に係るモデルパラメータ決定装置1の動作を示すフローチャートである。図2を参照すると、モデルパラメータ決定装置1は、変更前の製造プロセスで製造されたデバイスに対応するモデルパラメータ群2、変更前の製造プロセスの物理パラメータ群3、変更後の製造プロセスの物理パラメータ群4を順次読み込む(ステップS1〜S3)。なお、ステップS1〜S3におけるパラメータ群の読み込みの順序は任意である。
【0052】
次に、モデルパラメータ決定装置1は、変更後の製造プロセスで製造されたデバイスに対応するモデルパラメータの値を関数によって計算する(ステップS4)。モデルパラメータ決定装置1は、変更前のプロセスのモデルパラメータ、変更前のプロセスの物理パラメータ、及び変更後のプロセスの物理パラメータを含んだ物理モデルに基づいた関数を用いて、モデルパラメータを算出し、変更前の製造プロセスで製造されたモデルパラメータ群5に含まれる当該モデルパラメータの値を、算出した値によって置き換える。
【0053】
モデルパラメータ決定装置1は、置換後のモデルパラメータを、変更後の製造プロセスに対応するモデルパラメータ群4として出力する(ステップS5)。なお、既存および変更後のモデルパラメータ群は、BSIM4など何らかのデバイスモデルに対応したパラメータ群であり、ステップS4において用いられる関数は、当該デバイスモデルを前提とした関数である。
【0054】
従来のモデルパラメータ決定装置501においても、変更前の製造プロセスに対応するモデルパラメータを初期モデルパラメータとして採用することができる。しかし、設定されるモデルパラメータと変更前の製造プロセスのモデルパラメータとの関連性は数値フィッティングの過程において失われるおそれがある。
【0055】
本実施形態のモデルパラメータ決定装置1によると、モデルパラメータが数式によって一意に決定されることから、変更後の製造プロセスに対応するモデルパラメータは、変更前の製造プロセスに対応するモデルパラメータ、及び、製造プロセス条件の変更点と関連している。したがって、デバイスを製造する以前の段階、又は、デバイス測定データを取得する以前の段階においても、デバイスの特性を予測することができる。また、試行錯誤によるフィッティングではなく、関数によって自動的にパラメータが決定されることから、パラメータを決定する作業を省力化できる。
【0056】
なお、製造プロセス条件を変更した場合に、値を変更すべきモデルパラメータは複数存在し、かつ、これらの複数のモデルパラメータが連動して変化する場合がある。図3は、複数のモデルパラメータが連動する様子を模式的に示す図である。
【0057】
図3において、物理パラメータXの値が製造プロセス変更によってX’へ変化するものとする。モデルパラメータ群は、モデルパラメータP1及びP2を含み、モデルパラメータP1及びP2は、いずれも物理パラメータXの変化に応じて値を変更する必要のあるモデルパラメータとする。このとき、モデルパラメータP2の変更後のモデルパラメータP2’を算出する関数f2は、モデルパラメータP2並びに物理パラメータX及びX’のみならず、モデルパラメータP1又はモデルパラメータP1の変更後のモデルパラメータP1’の少なくともいずれかを含む。このとき、モデルパラメータP2は、モデルパラメータP1と連動して変化する。
【0058】
デバイスモデルでは、本来電気特性上の関連を有しているモデルパラメータであっても、関連がモデル化されておらず、それぞれのモデルパラメータが独立のモデルパラメータとして表現されている場合がある。これらのモデルパラメータの値をフィッティングなどで個別に設定した場合には、モデルパラメータが本来有している関連性が失われるおそれがある。しかし、モデルパラメータ決定装置1において、一方のモデルパラメータの変動を他方のモデルパラメータを含む関数によって記述しておくことにより、モデルパラメータ間の関連性を保つことができる。
【0059】
物理パラメータで表現した場合には、例えば、不純物分布のピーク位置、濃度及び広がり等の複数の物理パラメータによって表現されるような効果が、デバイスモデル上においては、電気特性への影響という観点から単一のモデルパラメータによって表現されている場合がある。かかる場合には、モデルパラメータを関数の入力変数とすることにより、関数の引数に含まれる物理パラメータの個数を減らすことができる。一例として、製造プロセスの変更によって変更された物理パラメータのみを、関数の引数とすることができる。
【0060】
一例として、モデルパラメータP1は、局所的領域の不純物分布のピーク位置、ピーク濃度及び広がり等の複合的要因による電気特性への影響を表すモデルパラメータとする。一方、モデルパラメータP2は、デバイス全体の不純物分布から決まる電気特性を表すモデルパラメータとする。さらに、物理パラメータXは、局所的領域の不純物のピーク濃度とする。本来、モデルパラメータP2は、モデルパラメータP1と関連している。したがって、モデルパラメータP1を引数とする関数によってモデルパラメータP2’を記述することにより、この関連性を保つことができる。また、モデルパラメータP1を関数の引数とすることによって、ピーク位置や広がりなどの物理パラメータを関数の引数において省略することができる。
【0061】
上記のモデルパラメータP2を決定する関数においては、連動するモデルパラメータはモデルパラメータP1のみである。しかし、モデルパラメータは、2種類以上のモデルパラメータと連動していてもよい。すなわち、モデルパラメータを決定する関数の引数において、自身以外のモデルパラメータを2種類以上含んでいてもよい。
【0062】
また、他のモデルパラメータと連動するモデルパラメータに対して、さらに連動するモデルパラメータがあってもよい。一例として、モデルパラメータP1及びP2以外に、さらにモデルパラメータP3が存在し、モデルパラメータP2の値はモデルパラメータP1を含む関数によって算出され、モデルパラメータP3の値はモデルパラメータP2を含む関数によって算出されるようにしてもよい。
【0063】
また、モデルパラメータを決定する関数を、ユーザが適宜設定できるようにすることが好ましい。これにより、モデルパラメータ決定装置の利便性が向上し、当初考慮していなかった物理モデルを取り込んでより適切な関数を導出した場合においても、モデルパラメータの決定が可能となるからである。
【0064】
本実施形態のモデルパラメータ決定装置1は、物理モデルに基づく数式によりモデルパラメータを設定することから、プロセス条件の変化とモデルパラメータの変化との関係が明確であり、デバイス特性を予測することも可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態のモデルパラメータ決定装置1によると、デバイスモデルそのものは変更されず、モデルパラメータの値のみが変更されることから、業界標準化されているデバイスモデルの互換性は失われない。
【0066】
(実施形態2)
本発明の第2の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置ついて、図面を参照して説明する。図4は、本実施形態に係るモデルパラメータ決定装置101の構成を示すブロック図である。
【0067】
モデルパラメータ決定装置101は、中間モデルパラメータ設定部111、フィッティング部121を有している。モデルパラメータ決定装置101は、変更前の製造プロセスで製造されたデバイスに対応するモデルパラメータ群112、変更前の製造プロセスの物理パラメータ群である物理パラメータ群113、変更後の製造プロセスの物理パラメータ群である物理パラメータ群114、デバイスモデル122、及び、変更後の製造プロセスのデバイス測定データ124を入力値として読み込み、変更後の製造プロセスで製造されたデバイスに対応するモデルパラメータ群105を出力する。
【0068】
中間モデルパラメータ設定部111は、第1の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置1(図1)と同様である。中間モデルパラメータ設定部111は、変更前の製造プロセスのモデルパラメータ群112、変更前の製造プロセスの物理パラメータ群113、及び、変更後の製造プロセスの物理パラメータ群114を入力値として読み込み、関数によって中間モデルパラメータ群123を生成して出力する。
【0069】
モデルパラメータ群112は、デバイスモデル122に対応したパラメータ群である。関数は、デバイスモデル122を前提とした数式である。
【0070】
中間モデルパラメータ設定部111から出力された中間モデルパラメータ群123は、フィッティング部121の入力とされる。フィッティング部121は、従来のモデルパラメータ決定装置501(図12)において、入力の初期モデルパラメータ群503を中間モデルパラメータ群123によって置き換え、デバイス測定データ504を変更後の製造プロセスのデバイス測定データ124によって置き換え、デバイスモデル502をデバイスモデル122によって置き換えたものに相当する。
【0071】
フィッティング部121は、測定データに対する数値フィッティングによって、中間モデルパラメータ群123を好適化し、変更後のプロセスに対応するモデルパラメータ群を算出し、変更後の製造プロセスのモデルパラメータ群105として出力する。
【0072】
図5は、本実施形態に係るモデルパラメータ決定装置の動作を示すフローチャートである。図5を参照すると、ステップS101〜S105の各ステップは、第1の実施形態におけるステップS1〜S4(図2)に相当する。ただし、本実施形態においては、ステップS104において計算されたモデルパラメータ群を最終的なモデルパラメータとせず、中間モデルパラメータ群123として扱い、中間モデルパラメータ群123を一旦記憶する(ステップS105)点において、第1の実施形態と相違する。
【0073】
ステップS106〜S111の各ステップは、従来のモデルパラメータ決定装置501の動作におけるステップS500及びステップS502〜S506(図13)に相当する。すなわち、フィッティング部121は、関数によって計算された中間モデルパラメータ群123を、フィッティングの初期モデルパラメータ群とし、デバイス測定データに対するフィッティングを行う。フィッティング部121は、変更後の最終モデルパラメータ群を出力し(ステップS111)、処理を終了する。
【0074】
本実施形態のモデルパラメータ決定装置1は、第1の実施形態に係るモデルパラメータ決定装置(図1の1)を前段とし、従来のモデルパラメータ決定装置(図12の501)を後段とし、これらの装置を順次稼動することによって、変更後の製造プロセスのモデルパラメータを決定する。
【0075】
変更前の製造プロセスに対応するモデルパラメータは、本来意味している物理量から乖離している可能性がある。また、モデルパラメータを設定する関数において関連するあらゆる物理現象が考慮されているとは限らない。したがって、第1の実施形態のモデルパラメータ決定装置1のように、関数のみに基づいてモデルパラメータを決定した場合には、デバイス測定データに対して十分な精度が得られないおそれがある。本実施形態のモデルパラメータ決定装置1によると、数値フィッティングの工程を追加することにより、モデルの精度を向上させることができる。
【0076】
また、本実施形態においては、中間モデルパラメータの値は、最終的なモデルパラメータの値の近似値となる。このとき、フィッティング工程におけるモデルパラメータの変化量は微小となり、従来のモデルパラメータの決定と比較して、フィッティングに要する計算時間を削減することができ、モデルパラメータが局所解に収束する可能性を削減することができる。
【0077】
さらに、従来技術においてフィッティングの必要があったモデルパラメータのうち一部のモデルパラメータについては、値を中間モデルパラメータのまま固定してフィッティングの対象から外すこともできる。フィッティングを要するモデルパラメータの個数を絞り込むことによって、フィッティングにおける作業量をさらに削減することができる。
【実施例1】
【0078】
一例として、MIS型電界効果トランジスタのゲート絶縁膜厚を変更した場合における上記のモデルパラメータ決定装置の動作について説明する。
【0079】
モデルパラメータとして電気的ゲート絶縁膜厚に相当するモデルパラメータが存在するものとし、変更前の製造プロセスに対応するモデルパラメータをTeとする。変更前の製造プロセスにおいて光学的に測定されたゲート絶縁膜厚をTpとし、変更後のプロセスにおいて光学的に測定されたゲート絶縁膜厚をTp’とする。
【0080】
モデルパラメータ決定装置1は、変更前の製造プロセスに対応するモデルパラメータとしてTeを含むモデルパラメータ群、変更前の製造プロセスの物理パラメータとしてTpを含むパラメータ群、及び、変更後の製造プロセスの物理パラメータとしてTp’を含むパラメータ群を入力する。
【0081】
モデルパラメータ決定装置1は、モデルパラメータ群に含まれるTeを、以下の関数に従って計算されるモデルパラメータTe’によって置き換え、変更後の製造プロセスに対応するモデルパラメータ群として出力する。

【0082】
ここで、Δは、ゲート空乏化と反転層量子化の効果を表す定数であり、モデルパラメータ決定装置1はΔの値を記憶している。本発明に係るモデルパラメータ決定装置1によると、パラメータの変更を自動的に容易に行うことができる。
【実施例2】
【0083】
MIS型電界効果トランジスタにおいてチャネル不純物注入ドーズ量を変更した場合に、BSIM4モデルのVth(しきい値電圧)モデルに含まれる逆短チャネル効果モデル、DIBL(Drain Induced Barrier Lowering)モデル及び短チャネル効果モデルのパラメータを設定する方法について説明する。以下では、チャネル領域がP型にドープされ、ソース・ドレイン領域が高濃度のN型にドープされているNチャネルトランジスタを用いて説明する。Pチャネルトランジスタについても、パラメータの設定方法は同様である。
【0084】
BSIM4モデルのVthモデル式を表1の式(1−1)に示す。逆短チャネル効果、短チャネル効果、及びDIBLモデルパラメータが寄与する項を抜き出したものを表1の式(1−2)から式(1−5)に示す。これらのモデル式の内部で用いられているltなどを計算するモデル式を表2に示す。これらのモデル式はすべて”BSIM4.6.2 MOSFET Model −User’s Manual”のChapter 2に記載されている。Leffは、実効チャネル長であり、ゲート長Lgに対し一定のオフセット量を減算(ないし加算)した値を取る。
【0085】
チャネル不純物濃度Nchは、チャネル不純物注入ドーズ量を変更することによって変化する物理パラメータのひとつである。変更前の製造プロセスおよび変更後の製造プロセスに対するNchの値は、例えば、プロセスシミュレータでそれぞれの製造プロセス条件を模擬してシミュレーションを行い、長チャネルトランジスタ(たとえばLgが1μm以上)の基板中の不純物濃度を調べることによって求めることができる。
【0086】
なお、長チャネルトランジスタのVthの測定値からNchを推定する方法、又は、長チャネルトランジスタのVthのVbs(基板電圧)依存性の測定結果からNchを推定する方法によって、Nchを決定することもできる。
【0087】
モデルパラメータNDEPは、チャネル不純物濃度をあらわすモデルパラメータであり、物理パラメータNchと直結するパラメータである。不純物ドーズ量を変更し、物理パラメータNchが物理パラメータNch’に変化した場合には、変更後のモデルパラメータNDEP’は、以下の式

によって求めることができる。
【0088】
BSIM4における逆短チャネル効果モデルパラメータは、2つのモデルパラメータLPE0及びLPEBである。モデルパラメータLPE0は、表1の式(1−3)に用いられ、Lgが短いトランジスタでVthを上昇させる効果の大きさを表す。一方、モデルパレメータLPEBは、表1の式(1−2)に用いられ、Lgが短いトランジスタでVthのVbs(基板電圧)依存性を強める効果の大きさを表す。モデルパラメータLPE0及びLPEBに対する数式は、以下の平均不純物濃度を用いた物理モデルに基づいて表すことができる。
【0089】
図6は、Nチャネルトランジスタのソース・ドレイン近傍の領域におけるP型の高濃度領域を示す図である。図6を参照すると、Nチャネルトランジスタのソース・ドレイン近傍の領域には、チャネル中央部よりもP型不純物濃度の高い領域が存在する。この領域は、短チャネル効果を抑制するために意図的に注入されたハロー不純物、及び、結晶欠陥に起因する意図しない異常拡散によって生じる。逆短チャネル効果は、ゲート長が短くなるにつれて、このような高濃度P型領域がチャネル領域に占める割合が上昇することによって生じる。
【0090】
図7は、トランジスタ内部の不純物分布を単純化した図である。図7に示すように、横方向(ソース・ドレイン方向)のP型不純物の分布を、全域が均一なチャネル濃度NchでP型ドープされており、ソース端及びドレイン端からそれぞれ距離Lhaloの位置まで濃度がNhaloだけ濃くなっていると仮定する。なお、図7においては、N型不純物の分布を省略している。このとき、チャネル領域の平均不純物濃度Navは、以下の式によって表される。

すなわち、ゲート長が短くなるにつれNavが増大し、Navの増加分はLeffの逆数に比例する。
【0091】
一方、均一不純物分布のチャネルではVthは不純物濃度の1/2乗に従って増減する。チャネル領域を濃度Navの均一不純物分布とみなすと、ソース・ドレイン近傍の高濃度P型領域に起因するVthの上昇量は以下の式に比例する。

【0092】
式(5)と、表1の式(1−3)における逆短チャネル効果によるVth上昇の項とを参照すると、モデルパラメータLPE0は、(Nhalo・Lhalo)/Nchに相当する。すなわち、モデルパラメータLPE0はNchの逆数に比例する。
【0093】
以上より、チャネル不純物注入ドーズ量を変更することによりチャネル不純物濃度NchがNch’に変化した場合には、変更後のプロセスに対応するモデルパラメータLPE0’は、以下の式

によって表すことができる。
【0094】
同様に、モデルパラメータLPEBは、以下の式

によって表すことができる。
【0095】
なお、Vthは、基板空乏層内の不純物分布によって決まり、VthのVbs依存性は基板空乏層の伸縮によって決まる。したがって、Vthそのものに影響するパラメータであるLPE0は基板表面近傍の不純物分布と関連を有するパラメータとみなすことができる。一方、VthのVbs依存性に影響するパラメータであるLPEBは、基板空乏層端付近のやや深い部分の不純物分布と関連を有するパラメータとみなすことができる。
【0096】
図8は、トランジスタ内部の不純物分布を単純化して示す図である。図7の単純化した不純物分布モデルは、図8のように深さ方向分布を持たせたモデルに拡張することができる。図8においては、基板表面近傍では不純物濃度がNhalo1だけ濃く、やや深い部分ではNhalo2だけ濃くなっているものとみなされる。モデルパラメータLPE0は(Nhalo1・Lhalo)/Nchに対応し、モデルパラメータLPEBは(Nhalo2・Lhalo)/Nchに対応する。
【0097】
短チャネル効果及びDIBLは、ドレイン電界がチャネル領域に入り込み、チャネルの電位を低下させることによって生じる。これらの効果は、特性長と呼ばれるパラメータを用い、実効チャネル長と特性長の比率が小さくなる従って指数関数的に影響が強くなるものとしてモデル化される。特性長は、ゲート絶縁膜厚や基板空乏層幅によって決まる。BSIM4も同様の考え方に基づいており、DIBLモデル式(表1の式(1−5))の分母のcosh関数の項に含まれているlt0が特性長である。
【0098】
lt0は、表2の式(2−3)に示すように空乏層幅Xdep0の1/2乗に比例する式で表される。また、Xdep0は、表2の式(2−4)に示すようにチャネル濃度パラメータNDEPの−1/2乗に比例する式で表される。このとき、lt0は、NDEPの−1/4乗に比例する。しかし、lt0の式には、Lgの短い領域における平均不純物濃度上昇の影響が取り込まれていない。式(2−3)及び(2−4)において、NDEPをNavで置き換えたものをlt0とすると、lt0よりもlt0の方が、本来の特性長に近いと考えられる。そこで、特性長は、NDEPではなく、Navの−1/4乗に比例するものとしてモデル化する。
【0099】
cosh関数の項cosh(DSUB・Leff/lt0)は、モデルパラメータDSUBを含んでいる。したがって、lt0で考慮されていない不純物濃度上昇の影響をDSUBによって補正できる。すなわち、

である。NchがNch’に変化したときのDSUBの値をDSUB’とすると、DSUB’は、次の式

によって表される。
【0100】
ここで、基板表面近傍の平均不純物濃度のみを考慮した場合のDSUB’をDSUB1’とし、やや深い部分の平均不純物濃度のみを考慮した場合のDSUB’をDSUB2’とすると、逆短チャネル効果パラメータとの対応から、DSUB1’及びDSUB2’は、それぞれ以下のように表すことができる。

【0101】
実際のDIBLは、基板表面近傍だけでなく基板の深い部分を経由した電界の回りこみが影響する。そのため、適切なDSUB’の値は、DSUB1’とDSUB2’の中間の値になると考えられる。すなわち、


である。最も簡単なパラメータの推定としては、η=1/2とすればよい。さらに、Leffの値は、テクノロジの最小寸法付近のゲート長における値(Leff_min)で代表させる。すなわち、

とすればよい。式(13)は、DSUB以外に2種類のパラメータLPE0(LPE0’)及びLPEB(LPEB’)含み、DSUBはLPE0及びLPEBと連動して変化する。短チャネル効果モデルパラメータであるDVT1についても、同様の議論から

となる。
【0102】
変更前の製造プロセス条件よりもチャネル不純物注入ドーズ量を下げた条件で製造したトランジスタに対し、本発明のモデルパラメータ決定装置によって、モデルパラメータを決定した。変更前の製造プロセスのモデルパラメータ群によると、変更前の製造プロセスで製造されたデバイスにおけるVthのゲート長依存性が正確に再現されている。
【0103】
まず、それぞれの製造プロセス条件を模擬してゲート長10μmのトランジスタのプロセスシミュレーションを行い、さらにプロセスシミュレーション結果に基づいて、デバイスシミュレーションを実施して基板空乏層幅を求めた。基板空乏層幅の理論式である(2−4)式におけるXdep0を、シミュレーションから求めた基板空乏層幅とし、NDEP=Nchとして、Nch及びNch’を算出した。さらに、NDEP’=Nch’と設定した。
【0104】
図9は、本実施例におけるVthのゲート長依存性を示す図である。図9は、各LgにおけるVthとLgの長いトランジスタに対するVthとの差を、ゲート長に対しプロットした図である。ドーズ量を下げることにより、逆短チャネル効果が相対的に強まる。
【0105】
「パラメータ変更なし」は、NDEPの値のみを変更し、LPE0、LPEB、DVT1及びDSUBについては変更前の製造プロセスのモデルパラメータの値のままとした場合におけるVthをモデルから計算した結果を示す。このとき、VthのLg依存性は、測定データから大きく外れている。従来のパラメータ決定方法では、この状態からフィッティング作業を開始する必要があった。
【0106】
「数式によりパラメータ変更」は、LPE0、LPEB、DVT1及びDSUBの値を本発明のモデルパラメータ決定装置1の数式に基づいて変更して計算した場合を示す。図9を参照すると、実際のトランジスタの測定データに近いVthのLg依存性が、モデルによって予測されている。このモデルパラメータは、変更後のプロセスのLgの短いトランジスタの測定データを全く用いることなく決定されたものであり、本発明のモデルパラメータ決定装置1によると、特性の変化を高い精度で予測することができる。
【0107】
測定値と比較すると数十mVの誤差が存在するものの、さらにフィッティングを行うことによって、誤差を低減することもできる。本発明のモデルパラメータ決定装置1によると、測定値と十分近い状況からフィッティングを開始することができる。したがって、フィッティング工程におけるパラメータ変動量を従来と比較して削減することができ、フィッティングに要する作業量も削減することができる。
【0108】
図10は、本実施例におけるDIBLのゲート長Lg依存性を示す図である。ここでは、ドレイン電圧が0.05VのときのVthとドレイン電圧が1.2VのときのVthとの差をDIBLの値として定義した。デバイス測定の結果はドーズ量を下げることによりDIBLが強まっている。
【0109】
図10(a)の「パラメータDSUB変更なし」は、NDEPの値のみを変更し、LPE0、LPEB、DVT1及びDSUBについては変更前の製造プロセスのモデルパラメータの値のままとした場合を示す。平均不純物濃度が濃くなることによる補正が行われていないため、DIBLは過剰となっている。DSUBの値を関数により変更した場合、不純物濃度ついての補正がなされたため、実測に近いDIBLの大きさが得られている。
【0110】
図10(b)は、DSUB’=DSUB’1、DSUB’=DSUB’2、又は、DSUB’=(DSUB’1+DSUB’2)/2とした場合(すなわち、パラメータを設定する関数として式(10)〜(12)を用いたもの)における、DIBLのゲート長Lg依存性を示す。
【0111】
図10(b)を参照すると、基板表面近傍およびやや深い部分の両方の影響を考慮したモデルである式(13)に基づいてモデルパラメータDSUBの値の変更を行った場合が、DIBLの大きさをもっともよく予測できている。DIBLにおいても少々の誤差が存在するが、このあとにフィッティングを施すことで誤差をさらに低減することができる。
【0112】
モデルパラメータLPE0、LPEB、DVT1及びDSUBは、いずれもBSIM4モデルにおいて、もともとフィッティングパラメータとして導入されたモデルパラメータである。したがって、これらのモデルパラメータのチャネル不純物濃度の変化に応じた変化は、BSIM4モデルにおいて明示的に考慮はされていない。本発明のモデルパラメータ決定装置によると、もとのデバイスモデルで考慮されていない効果も関数化することによって、モデルパラメータを容易に決定することができる。
【0113】
【表1】

表1 BSIM4モデルにおけるVthモデル式
【0114】
【表2】

表2 BSIM4 Vthモデルに含まれるltなどの値の計算式
【実施例3】
【0115】
図11は、本実施例に係るモデルパラメータ決定装置1の構成を示すブロック図である。本実施例のモデルパラメータ決定装置1は、図1のモデルパラメータ決定装置1に、ユーザによる関数入力部7を追加したものである。ユーザは必要に応じてモデルパラメータ決定装置1の関数入力部7へ関数を入力することによって、変更後の製造プロセスに対応するモデルパラメータの決定に用いる関数の形式を適宜設定することができる。
【0116】
一例として、上記の実施例2における式(12)に含まれるηの値をユーザが変更できるようにしておく。物理モデルの詳細化又は経験的手段によって、最適なηの値が判明した場合には、ユーザはその値を入力して関数を修正することができる。
【0117】
また、モデルパラメータ決定装置1において、予め複数の関数を用意しておいて、デバイスモデルやデバイス構造(バルク基板、SOI基板、FinFETなど)によって使用する関数を変更できるようにしてもよい。このとき、モデルパラメータの推定精度を向上することができ、モデルパラメータ決定装置の利便性も向上する。
【0118】
さらに、ユーザが任意の関数の組み合わせから成る関数を自由に入力することができるようにしてもよい。デバイスモデルの仕様が変更されて新たなモデルパラメータが追加された場合、又は、当初想定していなかった物理モデルを考慮して関数を修正することによってモデルパラメータの予測精度が改善することが判明した場合に、ユーザが関数を自由に記述して機能を拡張したり、モデルパラメータの推定精度を改善したりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のモデルパラメータ決定装置は、半導体集積回路の設計における回路シミュレーションに適用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1、101、501 モデルパラメータ決定装置
2、112 変更前の製造プロセスのモデルパラメータ群
3、113 変更前の製造プロセスの物理パラメータ群
4、114 変更後の製造プロセスの物理パラメータ群
5、105 変更後の製造プロセスのモデルパラメータ群
6、122、502 デバイスモデル
7 関数入力部
111 中間モデルパラメータ設定部
121 フィッティング部
123 中間モデルパラメータ群
124 変更後の製造プロセスのデバイス測定データ
503 初期モデルパラメータ群
504 デバイス測定データ
505 モデルパラメータ群
511 パラメータ記憶部
512 特性計算部
513 誤差判定部
514 パラメータ変更部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって該第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを入力し、該第2の製法により製造された半導体素子の特性を該デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を、該第1の物理パラメータ群及び該第1のモデルパラメータ群並びに該第2の物理パラメータ群に基づいて決定するとともに第2のモデルパラメータ群として出力するモデルパラメータ決定装置。
【請求項2】
前記第2のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを、前記第1の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ及び前記第2の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ並びに前記第1のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを引数に含む物理モデルに基づく関数によって決定する、請求項1に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項3】
前記関数は、前記デバイスモデルを規定する関数に基づいて導出されたものである、請求項2に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項4】
前記第2の製法により製造された半導体素子について測定された特性に対して前記第2のモデルパラメータ群をフィッティングするフィッティング部をさらに備えている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項5】
前記関数は、前記第2のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータであって前記関数によって決定されるモデルパラメータ以外のモデルパラメータを、さらに引数に含む、請求項2乃至4のいずれか1項に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項6】
逆短チャネル効果の強さを決定するモデルパラメータ、短チャネル効果の強さを決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータ、及び、DIBLのゲート長依存性を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータのそれぞれを決定する関数は、ゲート長の短い領域における平均不純物濃度の増加分が実効チャネル長の逆数に比例する物理モデルに基づいて表され、
逆短チャネル効果の強さを決定するモデルパラメータは、逆短チャネル効果の強さがチャネル不純物濃度の逆数に比例するように、チャネル不純物濃度に相当するパラメータを引数に含む関数によって決定され、
短チャネル効果の強さを決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータ、及び、DIBLのゲート長依存性を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータのうちの少なくともいずれかは、特性長が前記平均不純物濃度の−1/4乗に比例するように、逆短チャネル効果の強さを決定するモデルパラメータを引数に含む関数によって決定される、請求項5に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項7】
前記短チャネル効果を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータ、及び、前記DIBLのゲート長依存性を決定する特性長又はその特性長を補正するモデルパラメータのうちの少なくともいずれかを決定する関数は、基板表面近傍の領域及びさらに深い領域における不純物分布の影響を考慮したモデルに基づいて表されている、請求項6に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項8】
ユーザによって指定された関数を前記関数とする関数入力部をさらに備えている、請求項2乃至7のいずれか1項に記載のモデルパラメータ決定装置。
【請求項9】
CPUが、第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって該第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを記憶装置から読み出す工程と、
CPUが、前記第2の製法により製造された半導体素子の特性を前記デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を前記第1の物理パラメータ群及び前記第1のモデルパラメータ群並びに前記第2の物理パラメータ群に基づいて決定するとともに第2のモデルパラメータ群として出力するパラメータ決定工程と、を含むモデルパラメータ決定方法。
【請求項10】
前記パラメータ決定工程において、前記第2のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを、前記第1の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ及び前記第2の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ並びに前記第1のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを引数に含む物理モデルに基づく関数によって決定する、請求項9に記載のモデルパラメータ決定方法。
【請求項11】
前記関数は、前記デバイスモデルを定義する関数に基づいて導出されたものである、請求項10に記載のモデルパラメータ決定方法。
【請求項12】
前記第2の製法により製造された半導体素子について測定された特性に対して前記第2のモデルパラメータ群をフィッティングする工程をさらに含む、請求項9乃至11のいずれか1項に記載のモデルパラメータ決定方法。
【請求項13】
第1の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第1の物理パラメータ群と、半導体素子の特性を表すためのデバイスモデルに含まれるモデルパラメータ群であって該第1の製法により製造された半導体素子を表すための第1のモデルパラメータ群と、第2の製法により製造された半導体素子を特徴付ける第2の物理パラメータ群とを記憶装置から読み出す処理と、
前記第2の製法により製造された半導体素子の特性を前記デバイスモデルによって表すためのモデルパラメータ群を、前記第1の物理パラメータ群及び前記第1のモデルパラメータ群並びに前記第2の物理パラメータ群に基づいて決定するとともに第2のモデルパラメータ群として出力するパラメータ決定処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項14】
前記パラメータ決定処理において、前記第2のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを、前記第1の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ及び前記第2の物理パラメータ群に含まれる物理パラメータ並びに前記第1のモデルパラメータ群に含まれるモデルパラメータを引数に含む物理モデルに基づく関数によって決定する処理をコンピュータに実行させる、請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記関数は、前記デバイスモデルを定義する関数に基づいて導出されたものである、請求項14に記載のプログラム。
【請求項16】
前記第2の製法により製造された半導体素子について測定された特性に対して前記第2のモデルパラメータ群をフィッティングする処理をさらにコンピュータに実行させる、請求項13乃至15のいずれか1項に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−278149(P2010−278149A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128037(P2009−128037)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】