説明

モータの制御装置

【課題】低電圧回路と高電圧回路との絶縁を確保し、且つ小型化が可能な交流モータの制御装置を提供する。
【解決手段】モータの制御装置は、交流モータへ電流を供給するインバータ回路の各アームに対してそれぞれ設けられ、各アームが有するスイッチング素子を駆動する駆動回路20と、駆動回路20に、電力を供給するための電力供給回路の制御を行う電源制御回路27とを有する。低電圧回路領域7は、電源制御回路27を有して備えられる。高電圧回路領域5は、1つの駆動回路20を含み、低電圧回路領域7を挟んで両側に並べて配置されると共に、低電圧回路領域7との間に所定の絶縁距離d1を設けて配置される。電力供給回路として、低電圧回路領域7と各高電圧回路領域20とをそれぞれ接続するトランスLが備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流モータを制御するモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車などの動力に用いられる大出力のモータは、高い電圧で駆動される。また、このような自動車に搭載される電源は直流のバッテリであるので、IGBT(insulated gate bipolar transistor)などのスイッチング素子を用いたインバータ回路によって三相交流に変換される。インバータ回路を駆動する信号、例えばIGBTのゲートを駆動する駆動信号は、モータを駆動する高電圧回路とは絶縁され、高電圧回路の電圧よりも遥かに低電圧で動作する低電圧回路の制御回路において生成される。従って、モータを駆動するモータの制御装置には、駆動信号に基づいてインバータ回路のIGBTを駆動するためのIGBT駆動回路が備えられる。即ち、モータの制御装置は、図6に示すように、低電圧回路内で動作するモータ制御回路300と、高電圧回路内で動作し、モータ制御回路300が生成した駆動信号に基づいてIGBTを駆動するIGBT駆動回路200と、複数のIGBTにより構成されたインバータ回路100とを有して構成される。
【0003】
三相交流を生成するインバータ回路100は6つのIGBTにより構成される。それぞれのIGBTは独立して動作するため、各IGBTのゲートを駆動するためのゲート駆動回路は、IGBT駆動回路200において互いに独立して設けられる。また、各IGBTは高電圧となるため、IGBTを駆動する各ゲート駆動回路は適切な絶縁距離を有して配置される必要がある。
【0004】
下記に示す特許文献1には、複数のIGBTを駆動する複数のゲート駆動回路を備える電圧制御装置の技術が開示されている。特許文献1によれば、制御回路とゲート駆動回路とは、少なくともトランスの入力ピンと出力ピンとの距離に相当する絶縁距離を隔てて配置される。また、各ゲート駆動回路も所定の絶縁距離を隔てて配置される。
【0005】
【特許文献1】特開2006−280184号公報(図13、15段落、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された電圧制御装置は、3つのゲート駆動回路を有したものであるが、三相交流を生成するインバータ回路では6つのゲート駆動回路を設ける必要がある。単純に特許文献1の電圧制御装置を2つ並べると、部品を実装することができない絶縁領域が大きくなり、いたずらに基板面積を増大させることになる。
【0007】
本願発明は、上記課題に鑑みて創案されたもので、低電圧回路と高電圧回路との絶縁を確保し、且つ小型化が可能な交流モータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るモータの制御装置の特徴構成は、
交流モータへ電流を供給するインバータ回路の各アームに対してそれぞれ設けられ、各アームが有するスイッチング素子を駆動する駆動回路と、
前記駆動回路に、電力を供給するための電力供給回路の制御を行う電源制御回路とを有するモータの制御装置であって、
前記電源制御回路を有する低電圧回路領域と、
1つの前記駆動回路を含み、前記低電圧回路領域を挟んで両側に並べて配置されると共に、前記低電圧回路領域との間に所定の絶縁距離を設けて配置される高電圧回路領域と、
前記電力供給回路として、前記低電圧回路領域と各高電圧回路領域とをそれぞれ絶縁状態で結合するトランスと、を有する点にある。
【0009】
この特徴構成によれば、電源制御回路を有する低電圧回路領域を挟んで、低電圧回路領域の両側に駆動回路が並べて配置される。駆動回路へは、低電圧回路領域と各高電圧回路領域とをそれぞれ絶縁状態で結合するトランスを介して電力が供給される。駆動回路に供給される電力は高電圧であるが、この高電圧は、各トランスの高電圧回路領域側に現れるので、基板内において高電圧の配線が長い距離を引き回されることがない。従って、絶縁距離を確保するために部品を実装することのできない絶縁領域の面積を狭くすることができ、基板を有効に利用することができる。各駆動回路に接続される各トランスは、低電圧回路領域に構成された共通の電源制御回路によって制御することができる。各トランスに対して個別に電源制御回路を設ける必要がなく、電源制御回路を簡素化することができる。従って、基板面積を抑制することが可能となり、モータの制御装置を小型化することができる。また、発熱する部品であるトランスを各駆動回路に対して分散して設けることにより、発熱の集中が発生しにくくなり、放熱対策が容易となる。
【0010】
本発明係るモータの制御装置は、さらに、前記駆動回路が、隣合う前記駆動回路との間に所定の絶縁距離を設けて配置されることを特徴とする。
【0011】
インバータ回路の各アームが有するスイッチング素子は、各アームごとに異なるタイミングでスイッチングするように駆動される。駆動回路は、スイッチング素子のゲート端子やベース端子と、ソース端子やエミッタ端子との2端子間の電位差を制御することによって、スイッチング素子を駆動する。インバータ回路の直流電源電圧は非常に高圧であるので、スイッチング素子を駆動するための2端子間の電位差も、低電圧回路領域の電源電圧より高い電圧である。また、スイッチング素子がオン状態となると、スイッチング素子に接続された直流電源電圧に応じて、駆動信号の電圧も変化する。上述したように隣接する駆動回路から出力される駆動信号のタイミングは異なるため、駆動信号の電圧の変化も異なり、隣接する駆動回路から出力される駆動信号の間には大きな電位差が生じる。従って、隣合う駆動回路との間において絶縁を確保する必要があり、本構成のように隣合う駆動回路が所定の絶縁距離を設けて配置されると好適である。
【0012】
また、本発明に係るモータの制御装置の前記駆動回路は、前記インバータ回路の直流電源のプラス側に接続される上段側アームの前記スイッチング素子を駆動する上段側駆動回路が前記低電圧回路領域の一方の側に並べて配置され、前記インバータ回路の直流電源のマイナス側に接続される下段側アームの前記スイッチング素子を駆動する下段側駆動回路が前記低電圧回路領域の他方の側に並べて配置されることを特徴とする。
【0013】
インバータ回路において、上段側アームのスイッチング素子は直流電源のプラス側に接続され、下段側アームのスイッチング素子は直流電源のマイナス側に接続される。このため、上段側アームのスイッチング素子、及び下段側アームのスイッチング素子はそれぞれ並べて配置した方がプラス側電源及びマイナス側電源との接続が容易である。従って、スイッチング素子を駆動する駆動回路も、上段側駆動回路及び下段側駆動回路のそれぞれを並べて配置した方が効率的な配線を行うことができる。その結果、モータの制御装置を小型化することができる。
【0014】
また、本発明に係るモータの制御装置は、隣合う前記上段側駆動回路の間に設けられる絶縁距離が、隣合う前記下段側駆動回路の間に設けられる絶縁距離よりも長く設定されることを特徴とする。
【0015】
インバータ回路の直流電源電圧のプラス側と接続される上段側アームのスイッチング素子は、オン状態となった時にエミッタ端子やソース端子の電位が略プラス側電位まで上昇する。下段側アームのスイッチング素子は、電圧が低いマイナス側(一般にグラウンド)と接続されるため、オン状態となった時にもエミッタ端子やソース端子はマイナス側電位である。一般に駆動回路は、スイッチング素子のゲート端子やベース端子と、ソース端子やエミッタ端子との2端子間の電位差を制御することによって、スイッチング素子を駆動する。従って、上段側アームのスイッチング素子と接続される上段側駆動回路の電位は、スイッチング素子がオン状態となった時にインバータ回路のプラス側の電源電圧近くまで上昇する。本構成によれば、隣合う下段側駆動回路の間に設けられる絶縁距離よりも、隣合う上段側駆動回路の間に設けられる絶縁距離を長くとることによって、上段側駆動回路の間に充分な絶縁距離が確保される。一方、下段側駆動回路は、インバータ回路に流れる大電流が流入しない程度の最小限度の絶縁に留めることができ、基板面積を小さく抑えることができる。
【0016】
また、本発明に係るモータの制御装置は、さらに、少なくとも1つの前記スイッチング素子の温度を検出する温度センサの検出結果に基づいて、当該スイッチング素子の温度を検出する温度検出回路が、前記下段側駆動回路と共に前記高電圧回路領域に設けられると好適である。
【0017】
絶縁距離の短い下段側駆動回路の高圧回路領域は、上段側駆動回路の高電圧回路領域に比べて多くの部品を実装することができる。従って、下段側駆動回路の高電圧回路領域に温度検出回路が設けられると、高い実装効率で基板を構成することができる。その結果、モータの制御装置を小型化することができる。
【0018】
本発明に係るモータの制御装置は、さらに、前記温度検出回路の検出結果を、前記高電圧回路領域から前記低電圧回路領域にワイヤレス伝送する信号伝送用絶縁部品を備え、
当該信号伝送用絶縁部品は、前記低電圧回路領域と前記高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って、前記温度検出回路が備えられる前記高電圧回路領域の前記トランスと並べて配置されることを特徴とする。
【0019】
上述したように、低電圧回路領域の両側に高電圧回路領域が並べて配置され、低電圧回路領域の両側に絶縁領域が形成される。つまり、絶縁領域は、低電圧回路領域と高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って形成され、この境界線に沿ってトランスと信号伝送用絶縁部品とが配置される。高電圧回路領域と低電圧回路領域とを接続する絶縁部品は、既に設けられている絶縁領域にトランスと共に一列に並んで配置される。従って、温度検出回路の検出結果を低電圧回路領域へ伝送するために基板の面積を広げる必要がなく、小型化が可能な交流モータの制御装置を提供することができる。
【0020】
ここで、本発明に係るモータの制御装置は、さらに、基板を固定するための固定部材が貫通する貫通孔を備え、前記貫通孔が、前記低電圧回路領域内において、前記上段用駆動回路の側に寄せて設けられると好適である。
【0021】
低電圧回路領域の両側に高電圧回路領域が並べられるので、低電圧回路領域は基板の中央部に配置される。一般に基板は略長方形の形状をしており、その四隅に基板を固定するためのボルトなどの固定部材が貫通する貫通孔が設けられる。本特徴構成によれば、さらに基板の中央部に配置される低電圧回路領域にも貫通孔が設けられる。高電圧回路領域やトランスなどには大きな電流が流れるので基板が熱せられ易く、過熱により基板に反りなどの変形が生じる可能性がある。しかし、本特徴構成のように、基板の中央部にも貫通孔を設けることによって、反りを抑制して基板を確実に固定することができる。また、固定部材には金属製のボルトが用いられることが多いが、低電圧回路領域に固定部材が貫通する貫通孔が設けられることにより、短い絶縁距離で絶縁性を確保することができ、かつ車載用途に要求される高い対振動性を確保することができる。従って、貫通孔を設けることによる基板面積の増大を抑制することができる。さらに、貫通孔は、低電圧回路領域を挟んで両側に並べて配置される高電圧回路領域の内、上段用駆動回路の側に寄せて設けられるので、低電圧回路領域への部品実装を妨げることがなく、電源制御回路などが好適な位置に配置される。
また、上述したように、絶縁距離が短くてもよい下段側駆動回路の高電圧回路領域は、上段側駆動回路の高電圧回路領域に比べて多くの部品を実装することができる。例えば、温度検出回路などの付加回路を下段側駆動回路と共に高電圧回路領域に設けることができる。高電圧回路領域の付加回路の出力が低電圧回路領域へ伝送されると、制御回路において付加回路の処理結果を利用した制御が可能となる。このため、下段側駆動回路と低電圧回路領域との間に伝送部品が実装される場合がある。貫通孔が、上段側駆動回路の側に寄せて設けられると、このような伝送部品を設ける際のスペースを下段側駆動回路と低電圧回路領域との間に確保することができる。その結果、付加回路を設けることによって基板の面積が増大することがなく好適である。
【0022】
また、本発明に係るモータの制御装置は、
前記インバータ回路の電源電圧よりも低い電源電圧で生成され、前記各アームが有する前記スイッチング素子を駆動する各駆動信号を、前記低電圧回路領域から前記高電圧回路領域にそれぞれワイヤレス伝送する信号伝送用絶縁部品を備え、
各信号伝送用絶縁部品は、前記低電圧回路領域と前記高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って前記各トランスと並べて配置されることを特徴とする。
【0023】
低電圧回路領域と高電圧回路領域とは、所定の絶縁距離を介して離間され、その間には絶縁領域が形成される。上述したように、高電圧回路領域は、低電圧回路領域を挟んで、低電圧回路領域の両側に並べて配置される。従って、絶縁領域は、低電圧回路領域を挟んで低電圧回路領域の両側に形成される。つまり、絶縁領域は、低電圧回路領域と高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って形成され、この境界線に沿ってトランスと信号伝送用絶縁部品とが配置される。低電圧回路領域と高電圧回路領域とを絶縁状態で結合する絶縁部品が一列に並んで配置されるので、必要最低限の絶縁領域を設けることで足りる。その結果、低電圧回路領域と高電圧回路領域との絶縁を確保し、且つ小型化が可能な交流モータの制御装置を提供することができる。
また、上述したように温度検出回路の検出結果を伝送する信号伝送用絶縁部品が備えられる場合には、駆動信号を伝送する信号伝送用絶縁部品と、温度検出回路の検出結果を伝送する信号伝送用絶縁部品と、トランスとを、既に設けられている絶縁領域上の上記境界線に沿って一列に並べることができる。その結果、基板の面積を増大させることなく、モータの制御装置を小型化することができる。
【0024】
また、本発明に係るモータの制御装置は、
前記インバータ回路から各駆動回路へのフィードバック信号を、前記高電圧回路領域から前記低電圧回路領域にワイヤレス伝送する信号伝送用絶縁部品を備え、
当該信号伝送用絶縁部品は、前記低電圧回路領域と前記高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って、前記各トランスと並べて配置されることを特徴とする。
【0025】
上述したように、高電圧回路領域は、低電圧回路領域の両側に並べて配置され、絶縁領域は、低電圧回路領域の両側に形成される。つまり、絶縁領域は、低電圧回路領域と高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って形成され、この境界線に沿ってトランスと信号伝送用絶縁部品とが配置される。高電圧回路領域と低電圧回路領域とを接続する絶縁部品は、既に設けられている絶縁領域においてトランスと共に一列に並んで配置される。従って、フィードバック信号を低電圧回路領域へ伝送するために基板の面積を広げる必要がなく、小型化が可能な交流モータの制御装置を提供することができる。
また、上述したような駆動信号を伝送する信号伝送用絶縁部品や、温度検出回路の検出結果を伝送する信号伝送用絶縁部品が備えられる場合には、これらの信号伝送用絶縁部品と、当該フィードバック信号を伝送する信号伝送用絶縁部品と、トランスとを、既に設けられている絶縁領域上の上記境界線に沿って一列に並べることができる。その結果、基板の面積を増大させることなく、モータの制御装置を小型化することができる。
【0026】
また、本発明に係るモータの制御装置は、さらに、前記電源制御回路が、複数の前記トランス間の略中心部に配置されることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、電源制御回路と各トランスとを接続する配線の内の最大配線長を短くすることができ、また、総配線長も抑制することができる。配線が長くなると、ノイズが発生しやすくなるが、最大配線長を短く抑えることができるのでノイズの発生を抑制できる。また、配線の量が多くなるとノイズを発生しやすくなるが、総配線長を抑制することにより、ノイズの発生を抑制することができる。さらに、電源制御回路から各トランスへの配線長が均一化されるため、各トランスの二次側電圧の電源特性を均一化することができ、駆動回路及びインバータ回路の動作を安定化することができる。
【0028】
また、本発明に係るモータの制御装置は、基板を固定するための固定部材が貫通する貫通孔を備え、当該貫通孔は、前記低電圧回路領域内において、前記低電圧回路領域を挟んで両側に並べて配置される前記高電圧回路領域の何れか一方の側に寄せて設けられることを特徴とする。
【0029】
低電圧回路領域の両側に高電圧回路領域が並べられるので、低電圧回路領域は基板の中央部に配置される。一般に基板は略長方形の形状をしており、その四隅に基板を固定するためのボルトなどの固定部材が貫通する貫通孔が設けられる。本特徴構成によれば、さらに基板の中央部に配置される低電圧回路領域にも貫通孔が設けられる。高電圧回路領域やトランスなどには大きな電流が流れるので基板が熱せられ易く、過熱により基板に反りなどの変形が生じる可能性がある。しかし、本特徴構成のように、基板の中央部にも貫通孔を設けることによって、反りを抑制して基板を確実に固定することができる。また、固定部材には金属製のボルトが用いられることが多いが、低電圧回路領域に固定部材が貫通する貫通孔が設けられることにより、短い絶縁距離で絶縁性を確保することができ、かつ車載用途に要求される高い対振動性を確保することができる。従って、貫通孔を設けることによる基板面積の増大を抑制することができる。さらに、貫通孔は、低電圧回路領域を挟んで両側に並べて配置される高電圧回路領域の何れか一方の側に寄せて設けられるので、低電圧回路領域への部品実装を妨げることがなく、電源制御回路などが好適な位置に配置される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、電気自動車やハイブリッド自動車の動力用モータを制御するモータの制御装置を例として、本発明の実施形態を説明する。はじめに、図1〜図3を参照して、モータの制御装置の回路構成について説明する。図1は、本発明のモータの制御回路の回路構成を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、三相交流モータ9(以下、適宜「モータ」と称する。)を制御するモータ制御装置は、IGBTモジュール1、IGBT制御基板2、モータ制御基板3を有して構成される。
【0031】
IGBTモジュール1には、スイッチング素子としてIGBTを用い、直流を3相交流に変換するインバータ回路が構成されている。インバータ回路は、図1に示すように、6つのIGBT10(11〜16)、各IGBT10に並列接続されるフライホイールダイオード10aを備えて構成される。尚、スイッチング素子はIGBTに限らず、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いてインバータ回路を構成することも可能である。インバータ回路は、本実施形態では、例えば、金属ベース上にセラミックス系の絶縁基板を介してIGBT10やフライホイールダイオード10aが載置されて一体化されたモジュール構造を有している。インバータ回路には、IGBT10の過電流や過熱を検出するためのセンサ回路10b(図2参照)も構成されており、一体化されてIGBTモジュール1を構成している。尚、インバータ回路は、通常の基板上にIGBT10やフライホイールダイオード10aを実装することによって構成されてもよい。
【0032】
図1において、インバータ回路の各アームは、1つのIGBT10によって構成されている。しかし、IGBTの電流容量などの制限により、複数のIGBTを並列させて1つのアームが構成される場合もある。特にモジュール構造のインバータ回路の場合には、ベアチップをセラミックス系の絶縁基板を介して金属ベース上に載置することによって回路が構成される場合もあり、しばしば、複数のIGBTのベアチップを並列させて、1つのアームが構成される。従って、1つのアームのIGBT(スイッチング素子)とは、必ずしも図1に示すような単一のIGBTを示すのではなく、1つのアームにおいて並列接続されているIGBTの全てを示す場合もある。また、1つのアームが並列接続された2つのIGBTで構成されている場合、1つの駆動信号で2つのIGBTを制御しても良いし、2つの駆動信号でそれぞれのIGBTを制御してもよい。
【0033】
IGBTモジュール1には、高圧電源としての高圧バッテリ55から、プラス側電圧PV、マイナス側電圧NV(一般にグラウンド)の直流電圧が印加され、三相交流U、V、Wに変換される。モータ9が電気自動車やハイブリッド自動車の動力用モータである場合、IGBTモジュール1には数百ボルトの直流電圧が入力される。図1に示すように、IGBTモジュール1からは、U相、V相、W相の3相のモータ駆動電流が出力される。これらのモータ駆動電流は、ケーブルを介してモータ9へと出力され、モータ9のU相、V相、W相のステータコイルと接続される。
【0034】
モータ制御基板3には、インバータ回路の電源電圧よりも遥かに低電圧で動作するモータ制御回路が構成されている。モータ制御基板3へは、低圧電源としての低圧バッテリ75から、例えば12ボルト程度の直流電圧が供給される。尚、低圧電源は、低圧バッテリ75に限らず、高圧バッテリ55の電圧を降圧するDC−DCコンバータなどによって構成されてもよい。
【0035】
モータ制御基板3には、車両の運行を制御する不図示のECU(electronic control unit)などからCAN(controller area network)などの通信によって取得する指令(外部指令)に従って、モータ9を制御するモータ制御回路30が構成されている。モータ制御回路30は、モータ9を制御するためにインバータ回路の各アームのIGBT10を駆動する駆動信号を生成する。本実施形態では、スイッチング素子がIGBTであり、IGBTの制御端子はゲート端子であるので、駆動信号をゲート駆動信号と称する。また、モータ制御回路30は、モータ9の挙動を検出する電流センサ91や回転センサ92からの検出信号を受け取り、モータ9の動作状態に応じたフィードバック制御を実行する。
【0036】
図1では電流センサ91は、IGBTモジュール1とモータ9との間に備えられているが、IGBTモジュール1に内蔵されていてもよい。また、図1では、U相、V相の2相のみの電流を測定している。U相、V相、W相の三相電流は平衡状態にあり、瞬時の総和は零であるので、2相の電流を測定して残りの1相の電流は演算により求められる。回転センサ92は、例えばレゾルバが用いられる。
【0037】
モータ制御回路30は、マイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などを中核部品として構成される。また、マイクロコンピュータやDSPなどの動作電圧は、一般的に3.3ボルトや5ボルトであるから、モータ制御回路30には、低圧バッテリ75から供給される12ボルトの電源電圧から動作電圧を生成するレギュレータ回路も構成されている。
【0038】
IGBT制御基板2には、モータ制御回路30において生成されたゲート駆動信号に基づいてインバータ回路の各アームが有するIGBT10を駆動するゲート駆動回路20が構成されている。また、IGBT制御基板2には、モータ制御回路30において生成された低電圧の直流電源の電力をゲート駆動回路に供給する電力供給回路が備えられている。電力供給回路は、絶縁部品ISとしてのトランスLにより構成される(図2参照)。詳細は後述するが、絶縁部品ISとして、モータ制御回路30が生成したゲート駆動信号をゲート駆動回路に伝送するフォトカプラPもIGBT制御基板2に実装されている(図2参照)。また、IGBT制御基板2には、電力供給回路としてのトランスを制御するための電源制御回路27も構成されている。
【0039】
図1を参照して上述したように、IGBTモジュール1に構成されたインバータ回路は高電圧で動作する高電圧回路50であり、モータ制御基板3に構成されたモータ制御回路30は低電圧で動作する低電圧回路70である。そして、IGBT制御基板2は、IGBTモジュール1に接続される高電圧回路50と、モータ制御基板3に接続される低電圧回路70との双方を有している。詳細は後述するが、高電圧回路50と低電圧回路70とは、IGBT制御基板2において所定の絶縁距離を有して離間して配置される。高電圧回路50と低電圧回路70とは、上述したような絶縁部品ISによってワイヤレスで結合される。
【0040】
図2は、IGBT制御基板2におけるワイヤレス結合の形態を模式的に示すブロック図である。ここでは、インバータ回路の1つのアームの回路群10Aに対応させたワイヤレス結合の形態を示している。尚、図2では、1つのアームが1つの回路群10Aを有して構成される場合を例示しているが、上述したように、1つのアームが複数のIGBT10を含み、複数の回路群10Aを有して構成されている場合もある。
【0041】
低電圧回路70に属するモータ制御回路30において生成されたゲート駆動信号は、IGBT制御基板2に実装された絶縁部品ISであるフォトカプラPの入力端子に接続される。フォトカプラPの出力端子は、高電圧回路50に属するIGBT制御基板2の高電圧回路領域5に実装されたゲート駆動回路20のドライバ20aに接続される。IGBT制御基板2の高電圧回路領域5については、後述する。フォトカプラPは、入力側に発光ダイオード、出力側にフォトダイオード又はフォトトランジスタを備え、入力側から出力側へ光によってワイヤレス伝送する公知の絶縁部品である。フォトカプラPによって、低電圧回路70と高電圧回路50との絶縁が保たれた状態で、モータ制御回路30からゲート駆動回路20へゲート駆動信号が伝送される。そして、ゲート駆動回路20のドライバ20aにより、高電圧回路50に属するIGBTモジュール1のIGBT10が駆動制御される。
【0042】
上述したようにIGBT10に付随して、過電流や過熱を検出するためのセンサ回路10bが設けられている。図2に示すように、本例ではセンサ回路10bは温度センサ10cと過電流検出器10dとを有して構成されている。温度センサ10cは、サーミスタやダイオードであり、温度によって変化する端子間電圧がゲート駆動回路20の診断回路20bによって検出される。過電流検出器10dは、例えばIGBT10に流れる大電流に比例し、かつその比が100万分の1〜10万分の1程度となる微小電流を検出することでIGBT10に流れる大電流が所定値を超えたことを検出するものであり、その検出結果を診断回路20bが受け取る。
【0043】
診断回路20bは、温度センサ10cの端子間電圧が所定の値を下回った場合には過熱状態であると判定する。また、過電流検出器10dから異常との検出結果を受け取った場合には短絡などにより過電流発生状態であると判定する。そして、診断回路20bは、過熱状態及び過電流発生状態の少なくとも一方であることを判定すると、診断信号を出力する。診断信号により、ドライバ20aは、モータ制御回路30からフォトカプラPを介して受け取るゲート駆動信号に拘らず、IGBT10をオフ状態に制御する。
【0044】
診断信号は、モータ制御回路30にも伝達される。診断回路20bは、IGBT制御基板2の高電圧回路領域5に構成される高電圧回路50である。従って、診断信号は、絶縁部品ISとしてのフォトカプラPを介してワイヤレスでモータ制御回路30へ伝送される。モータ制御回路30へは、過熱、過電流など、異常の原因は伝達されないが、少なくとも異常状態が発生していることは知ることができる。そして、モータ制御回路30は、モータ9の停止処理など、異常対応処理を実行する。
【0045】
上述したように温度センサ10cの端子間電圧は診断回路20bで測定可能であるので、診断回路20bにおいて、又は診断回路20bの近傍において温度を検出する温度検出回路20cを設けることが可能である。図2には、診断回路20bの近傍に温度検出回路20cが設けられる場合を例示している。温度検出回路20cは、インバータ回路の全てのアームに対応するゲート駆動回路20に付随して設けられる必要はないので、図2では破線で示している。温度検出回路20cは、IGBT制御基板2の高電圧回路領域5に設けられるので、診断信号と同様に絶縁部品ISとしてのフォトカプラPを介してワイヤレスでモータ制御回路30へ伝送される。
【0046】
上述したように、IGBT制御基板2には、モータ制御回路30において生成された低電圧の直流電源の電力をゲート駆動回路に供給する電力供給回路が備えられている。図3は、電力供給回路の構成を模式的に示すブロック図である。以下、図1〜図3を参照して、電力供給回路について説明する。
【0047】
電力供給回路は、絶縁部品ISとしてのトランスLにより構成される。トランスLへの一次電圧V1は、低電圧回路70であるモータ制御回路30(モータ制御基板3)の定電圧回路において一定の電圧に安定化されて供給される。上述したようにモータ制御基板30には、例えば12ボルトの電源電圧が供給されるが、バッテリ75の電圧は負荷によって変動する。そこで、定電圧回路としての昇圧レギュレータや降圧レギュレータなどにより、例えば15〜18ボルト程度に昇圧されたり、8〜10ボルト程度に降圧されたりして、定電圧の一次電圧V1がトランスLへ供給される。
【0048】
トランスLは、本実施形態においては、インバータ回路の6つのアームのそれぞれに対応して、トランスL1〜L6の6つが備えられている。各トランスL1〜L6からは、それぞれ二次電圧V21〜V26が出力される。各トランスL1〜L6は同じ構成であり、ほぼ同電圧の二次電圧V2が出力される。図3中のダイオードD1〜D12は整流用ダイオードであり、コンデンサC1〜C6は平滑用コンデンサ、コンデンサC7は一次電圧安定化用のコンデンサである。
【0049】
IGBT制御基板2には、低電圧回路70に属する電源制御回路27が構成されており、電力供給回路としてのトランスLを制御する。電源制御回路27は、一次側コイルに印加される電圧を制御するトランジスタ27b及び27cと、トランジスタ27b及び27cを制御する制御回路27aとを有して構成されている。本実施形態の電源制御回路27は、プッシュ−プル型の構成を採用している。トランスLは、インバータ回路の6つのアームに対応して6つ設けられているが、電源制御回路27は全てのトランスL1〜L6を一括して制御する。また、上述したように、トランスLへの一次電圧V1は、安定化されているので、二次電圧V2を一次側にフィードバックすることなく、トランスLの変圧比によって二次電圧V2が決定される。
【0050】
トランスLは、一次側コイルと二次側コイルとの間を電磁結合して信号やエネルギーを伝送する公知の絶縁部品である。従って、低電圧回路70と高電圧回路50との絶縁を保って、ゲート駆動回路20などへ電源電圧を供給することができる。
【0051】
上述したように、IGBT制御基板2は、高電圧回路50と低電圧回路70との両回路を有し、両回路を絶縁部品ISでワイヤレスに結合することによって、絶縁を保っている。以下、図4及び図5を参照して、IGBT制御基板2の具体的なレイアウトについて説明する。図4は、IGBT制御基板2の回路配置例を示す配置図であり、図5は、IGBT制御基板2への具体的な部品配置例を示す配置図である。
【0052】
図4及び図5に示すように、IGBT制御基板2には、頭部を図示左側にして略T字形状に低電圧回路領域7が形成されている。T字形状の頭部、図示左上の低電圧回路領域7には、コネクタ48が備えられている。このコネクタ48は、上述したモータ制御基板3と不図示のハーネスによって接続されている。IGBT制御基板2の低電圧回路領域70には、コネクタ48を介して、モータ制御回路30からインバータ回路の各アームに対応したゲート駆動信号が伝達される。また、電源制御回路27を動作させる電源電圧や、トランスLの一次側電圧V1も、コネクタ48を介してモータ制御基板3から伝達される。図5に示すように、コネクタ48の図示下方には、低電圧回路28が構成されており、コネクタ48を介して入出力される信号のドライバ回路やレシーバ回路が構成される。また、この低電圧回路28において、トランスLの一次電圧を生成してもよい。
【0053】
IGBT制御基板2には、高電圧回路領域5も形成されている。高電圧回路領域5は、インバータ回路の各アームに対応して、6つ形成されている。上述したように各高電圧回路領域5は、各アームが有するIGBT10を駆動するゲート駆動回路20を、少なくとも1つ有している。図2に示したように、本例では、ゲート駆動回路20と1つのアームの1つの回路群10Aとは5本の信号線で接続される。IGBTモジュール1は、これらの信号線に相当する端子接続用のピンを有している。図4及び図5に示すIGBT制御基板2のスルーホール4に当該ピンを半田溶接することによって、ゲート駆動回路20と回路群10Aとが接続される。尚、本実施形態では、インバータ回路の1つのアームは、2つのIGBT10を並列接続して構成されている。つまり、1つのアームには2つの回路群10Aが備えられ、1つのゲート駆動回路20は2つの回路群10Aと接続される。このため、1つのゲート駆動回路20には、10個のスルーホール4が設けられている。
【0054】
高電圧回路領域5は、T字形状の胴体部に相当する低電圧回路領域7を挟んで、その両側に複数(本例では3つずつ)並べて配置される。この際、ゲート駆動回路20は、低電圧回路領域7との間に所定の絶縁距離d1を設けて配置される。また、ゲート駆動回路20は、隣合うゲート駆動回路20との間に所定の絶縁距離d2又はd3を設けて配置される。ゲート駆動回路20と低電圧回路領域7との間に所定の絶縁距離d1を設けることにより、低電圧回路領域7に沿って絶縁領域6が形成される。また、さらに、隣合うゲート駆動回路20の間に所定の絶縁距離d2、d3を設けることにより、T字形状の低電圧回路領域7の胴体部側を基部として、低電圧回路領域7の両側に櫛状の絶縁領域6が形成される。
【0055】
T字形状の低電圧回路領域7の胴体部に沿って形成された絶縁領域6を架け越して、電力供給回路としてのトランスL1〜L6が備えられ、低電圧回路領域7と各高電圧回路領域5とがそれぞれ絶縁状態で結合される。即ち、各トランスL1〜L6の低電圧回路領域7には一次側電圧V1が印加され、各トランスL1〜L6の高電圧回路領域5には二次側電圧V2が出力される。高電圧の二次側電圧V2は、各トランスL1〜L6に対応する高電圧回路領域5のゲート駆動回路21〜26の側にのみ現れるので、IGBT制御基板2内において高電圧の配線が長い距離を引き回されることがない。従って、絶縁距離を確保するために部品を実装することのできない絶縁領域6の面積を広げる必要がなく、基板を有効に利用することができる。
【0056】
各トランスL1〜L6は、低電圧回路領域7に構成された共通の電源制御回路27によって制御される。従って、IGBT制御基板2の面積を抑制することが可能となり、モータの制御装置を小型化することができる。さらに、図4及び図5に示すように、電源制御回路27は、複数のトランスL1〜L6の間の略中心部に配置される。従って、電源制御回路27と各トランスL1〜L6とを接続する配線の内の最大配線長、例えばトランスL4やL3への配線長を短くすることができる。配線が長くなると、ノイズが発生しやすくなるが、最大配線長を短く抑えることができるのでノイズの発生を抑制できる。また、当然ながら、トランスL1〜L6への配線長を積算した総配線長も抑制することができる。配線の量が多くなるとノイズを発生しやすくなるが、総配線長を抑制することにより、ノイズの発生を抑制することができる。さらに、電源制御回路27から各トランスL1〜L6への配線長が均一化されるため、各トランスL1〜L6の二次側電圧V2(V21〜V26)の電源特性を均一化することができ、ゲート駆動回路20及びインバータ回路の動作を安定化することができる。
【0057】
また、T字形状の低電圧回路領域7の胴体部に沿って形成された絶縁領域6を架け越して、信号伝送用絶縁部品としてのフォトカプラP(P11、P21、P31、P41、P51、P61)が備えられる。これらのフォトカプラPは、低電圧回路領域7と高電圧回路領域5とが対向する境界線に沿って各トランスL1〜L6と並べて配置される。低電圧回路領域7と高電圧回路領域5とを接続する絶縁部品ISが一列に並んで配置されるので、IGBT制御基板2には必要最低限の絶縁領域6を設けることで足りる。
【0058】
これらのフォトカプラPにより、モータ制御回路30が生成した各アームに対応するゲート駆動信号が、低電圧回路領域7と各高電圧回路領域5(ゲート駆動回路21〜26)との間において絶縁状態で結合される。つまり、インバータ回路の電源電圧よりも低い電源電圧で生成された各ゲート駆動信号が低電圧回路領域7から高電圧回路領域5の各ゲート駆動回路21〜26にそれぞれワイヤレス伝送される。そして、各ゲート駆動信号は、各ゲート駆動回路21〜26から各IGBT10に伝送されて、各IGBT10を制御する。
【0059】
さらに、T字形状の低電圧回路領域7の胴体部に沿って形成された絶縁領域6を架け越して、別のフォトカプラP(P12、P22、P32、P42、P52、P62)が信号伝送用絶縁部品として備えられる。これらのフォトカプラPにより、インバータ回路から各駆動回路21〜26へ伝達されたフィードバック信号が、高電圧回路領域5から低電圧回路領域7にワイヤレス伝送される。
【0060】
これらのフォトカプラPは、低電圧回路領域7と高電圧回路領域5とが対向する境界線に沿って各トランスL1〜L6、及びゲート駆動信号を伝送するフォトカプラP(P11、P21、P31、P41、P51、P61)と並べて配置される。低電圧回路領域7と高電圧回路領域5とを接続する絶縁部品ISが一列に並んで配置されるので、IGBT制御基板2には必要最低限の絶縁領域6を設けることで足りる。また、IGBT制御基板2の絶縁領域6にスリットを設けることによって絶縁性能を向上させる際に、トランスL及びフォトカプラPの下面、即ち上記境界線に沿った絶縁領域6を直線的に加工してスリットを形成することが可能となる。
【0061】
上述したように、ゲート駆動回路20は、インバータ回路の各アームに対応して設けられている。図1に示すインバータ回路の直流電源のプラス側電圧PVに接続されるアームを上段側アーム、マイナス側電圧NVに接続されるアームを下段側アームと称して、以下、各アームとゲート駆動回路20との対応を説明する。
【0062】
U相上段側アームのIGBT11は、ゲート駆動回路21によって、
V相上段側アームのIGBT12は、ゲート駆動回路22によって、
W相上段側アームのIGBT13は、ゲート駆動回路23によって、
U相下段側アームのIGBT14は、ゲート駆動回路24によって、
V相下段側アームのIGBT15は、ゲート駆動回路25によって、
W相下段側アームのIGBT16は、ゲート駆動回路26によって、
駆動される。以下、適宜、ゲート駆動回路21〜23を上段側ゲート駆動回路(上段側駆動回路)と称し、ゲート駆動回路24〜26を下段側ゲート駆動回路(下段側駆動回路)と称する。
【0063】
そして、図4及び図5に示すように、ゲート駆動回路21〜26の内、上段側アームのIGBT11〜13を駆動する上段側ゲート駆動回路21〜23は、低電圧回路領域7の一方の側、図示上側に並べて配置される。また、下段側アームのIGBT14〜16を駆動する下段側ゲート駆動回路24〜26は、低電圧回路領域7の他方の側、図示下側に並べて配置される
【0064】
図1に示したように、インバータ回路において、上段側アームのIGBT11〜13は直流電源のプラス側電圧PVに接続され、下段側アームのIGBT14〜16は直流電源のマイナス側電圧NVに接続される。このため、上段側アームのIGBT11〜13、及び下段側アームのIGBT14〜16は、それぞれ一列に並べて配置した方がプラス側電圧PV及びマイナス側電圧NVとの接続が容易である。従って、IGBT10を駆動する駆動回路20も、上段側ゲート駆動回路21〜23及び下段側ゲート駆動回路24〜26のそれぞれを一列に並べて配置した方が効率的な配線を行うことができる。
【0065】
上述したように、ゲート駆動回路20は、隣合うゲート駆動回路20との間に所定の絶縁距離d2又はd3を設けて配置される。具体的には、上段側ゲート駆動回路21〜23は、隣合うゲート駆動回路との間に所定の絶縁距離d2を設けて配置され、下段側ゲート駆動回路24〜26は、隣合うゲート駆動回路との間に所定の絶縁距離d3を設けて配置される。ここで、絶縁距離d2は、絶縁距離d3に比べて長い距離である(図4参照)。つまり、隣合う上段側ゲート駆動回路21〜23の間に設けられる絶縁距離d2は、隣合う下段側ゲート駆動回路24〜26の間に設けられる絶縁距離d3よりも長く設定される。
【0066】
インバータ回路の直流電源電圧の内、電圧が高いプラス側電圧PVと接続される上段側アームのIGBT11〜13は、オン状態となった時にエミッタ端子の電位が電圧PVの近くまで上昇する。下段側アームのIGBT14〜16は、電圧が低いマイナス側電圧NV(一般にグラウンド)と接続されるため、オン状態となった時にもエミッタ端子はマイナス側電圧NVである。図1及び図2に示したように、ゲート駆動回路20は、IGBT10のゲート端子と、エミッタ端子との2端子間の電位差を制御することによって、IGBT10を駆動する。従って、上段側アームのIGBT11〜13と接続される上段側ゲート駆動回路21〜23の電位は、IGBT11〜13がオン状態となった時に電圧PV近くまで上昇する。そこで、絶縁距離d3に比べて絶縁距離d2を長い距離に設定することにより、上段側ゲート駆動回路21と22との間、22と23の間に充分な絶縁距離を確保する。尚、下段側ゲート駆動回路24〜26は、IGBTモジュール1の電位NVの配線に流れる大電流がスルーホール4経由で流入しない程度の最小限度の絶縁距離を確保すればよい。
【0067】
図4及び図5に示す符号8は、IGBT制御基板2を固定するための固定部材が貫通する貫通孔である。固定部材には、例えば金属性のボルトが用いられる。一般的な構成として、IGBT制御基板2の四隅には、当該基板を固定するための貫通孔81〜84が設けられる。本実施形態においては、さらに、4つの貫通孔85〜88が設けられる。これら4つの貫通孔85〜88は、長方形状の当該基板の中心線の近傍に設けられる。高電圧回路領域5やトランスLなどには大きな電流が流れるので、IGBT制御基板2は熱せられ易く、過熱により基板に反りなどの変形が生じる可能性がある。しかし、基板の四隅の貫通孔81〜84に加えて、基板の中央部にも貫通孔85〜88を設けることによって、反りを抑制してIGBT制御基板2が確実に固定され、かつ車載用途に要求される高い耐振動性を確保することができる。
【0068】
貫通孔85〜87は、定電圧回路領域7の中において所定の絶縁距離を確保して設けられる。固定部材に金属製のボルトが用いられる場合、ボルトが貫通する貫通孔8を高電圧回路領域5内に設けるよりも、低電圧回路領域7内に設ける方が短い絶縁距離で絶縁性を確保することができる。つまり、貫通孔8を通常よりも多く設けても、基板面積の増大を抑制することができる。さらに、貫通孔86及び87は、低電圧回路領域7の中において、低電圧回路領域7を挟んで両側に並べて配置される高電圧回路領域5の何れか一方の側に寄せて設けられる。図5に示すように、低電圧回路領域7への部品実装を妨げることがなく、電源制御回路27などを好適な位置に配置することが可能となる。
【0069】
図4及び図5に示すように、本実施形態においては、貫通孔86及び87が、低電圧回路領域7内において、上段用ゲート駆動回路21〜23の側に寄せて設けられている。以下、その理由について説明する。
【0070】
上述したように、下段側ゲート駆動回路24〜26が備えられる高電圧回路領域5は、上段側ゲート駆動回路21〜23よりも絶縁距離が短くてもよい。従って、当該高電圧回路領域5は、絶縁領域が小さくなる分、上段側ゲート駆動回路21〜23が備えられる高電圧回路領域5に比べて多くの部品を実装することができる。例えば、温度検出回路20cなどの付加回路を下段側のゲート駆動回路24〜26と共に高電圧回路領域5に設けることができる。
【0071】
高電圧回路領域5の付加回路の出力が、低電圧回路領域7へ伝送され、コネクタ48を介してモータ制御回路30に伝達されると、モータ制御回路30において付加回路の処理結果を利用した制御が可能となる。下段側ゲート駆動回路24〜26から低電圧回路領域7へ付加回路の出力を伝送するには、絶縁領域6を架け越してフォトカプラなどの信号伝送用絶縁部品が実装される必要がある。貫通孔86や87が、下段側ゲート駆動回路24〜26の側に寄せて備えられると、このような追加的な信号伝送用絶縁部品を実装するスペースが奪われる。しかし、貫通孔86及び87が、上段側のゲート駆動回路21〜23の側に寄せて設けられると、追加的な信号伝送用絶縁部品を実装するスペースが確保される。
【0072】
さらに、図4及び図5に示すように、貫通孔86及び87が、低電圧回路領域7内の上段側ゲート駆動回路21〜23の側に寄せて配置されると共に、ゲート駆動回路21と22との間の絶縁領域6、及びゲート駆動回路22と23との間の絶縁領域6に沿った位置に配置されると好適である。貫通孔86及び87が上段側ゲート駆動回路21〜23の側に寄せて配置されても、上段側ゲート駆動回路21〜23との間に充分な絶縁距離が確保される。
【0073】
本実施形態では、少なくとも1つのIGBT15の温度を検出する温度センサ10cの検出結果に基づいて、IGBT15の温度を検出する温度検出回路20cが、下段側ゲート駆動回路25と共に高電圧回路領域5に設けられる例を示している。異常な過熱状態が発生しない状態においては、全てのIGBT10が同様の温度上昇傾向を示すので、何れか1つのIGBT10の温度を測定しておけば充分である。また、IGBT10の配置により差異は、予め配置による誤差修正マップ等を作成しておくことによって、モータ制御回路30において補正することも可能である。
【0074】
温度検出回路20cの検出結果は、高電圧回路領域5のゲート駆動回路25から低電圧回路領域7へ伝送される。図4に示すように、低電圧回路領域7に沿って形成された絶縁領域6を架け越して、信号伝送用絶縁部品としてのフォトカプラP(P53)が備えられる。このフォトカプラP53は、低電圧回路領域7と高電圧回路領域5とが対向する境界線に沿って、温度検出回路20cが備えられるゲート駆動回路25のトランスL5及びフォトカプラP51、P52と並べて配置される。図4及び図5に示すように、本実施形態においては、貫通孔86及び87が、低電圧回路領域7内において、上段用のゲート駆動回路21〜23の側に寄せて設けられている。このため、追加的な信号伝送用絶縁部品であるフォトカプラP53を実装するスペースが良好に確保される。
【0075】
このように、低電圧回路領域7と高電圧回路領域5とを接続する4つの絶縁部品ISが一列に並んで配置される。従って、フォトカプラP53を搭載することによって、IGBT制御基板2の絶縁領域6の面積を増大させることはない。また、上述したように、IGBT制御基板2の絶縁領域6にスリットを設けることによって絶縁性能を向上させる際に、トランスL及びフォトカプラPの下面、即ち上記境界線に沿った絶縁領域6を直線的に加工してスリットを形成することも可能となる。
【0076】
以上、具体的なレイアウトも示して説明したように、高電圧回路50と低電圧回路70との両回路を有したIGBT制御基板2は、両回路を絶縁部品ISでワイヤレスに結合することによって、少ない絶縁領域6で絶縁が確保され、小型化が実現されている。従って、低電圧回路と高電圧回路との絶縁を確保し、且つ小型化が可能な交流モータの制御装置を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車などの動力に用いられる交流モータを制御するモータの制御装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明のモータの制御回路の回路構成を模式的に示すブロック図
【図2】IGBT制御基板におけるワイヤレス結合の形態を模式的に示すブロック図
【図3】電力供給回路の構成を模式的に示すブロック図
【図4】IGBT制御基板の回路配置例を示す配置図
【図5】IGBT制御基板への部品配置例を示す配置図
【図6】一般的なモータの制御装置の構成を模式的に示すブロック図
【符号の説明】
【0079】
5:高電圧回路領域
6:絶縁領域
7:低電圧回路領域
8、81〜88:貫通孔
9:交流モータ
10、11〜16:IGBT(スイッチング素子)
20、21〜26:ゲート駆動回路(駆動回路)
20c:温度検出回路
27:電源制御回路
d1、d2、d3:絶縁距離
L、L1〜L6:トランス
P、P11、P12、P21、P22 :フォトカプラ(信号伝送用絶縁部品)
P31、P32、P41、P42 :フォトカプラ(信号伝送用絶縁部品)
P51、P52、P53、P61、P62:フォトカプラ(信号伝送用絶縁部品)
PV:インバータ回路の直流電源のプラス側
NV:インバータ回路の直流電源のマイナス側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流モータへ電流を供給するインバータ回路の各アームに対してそれぞれ設けられ、各アームが有するスイッチング素子を駆動する駆動回路と、
前記駆動回路に、電力を供給するための電力供給回路の制御を行う電源制御回路とを有するモータの制御装置であって、
前記電源制御回路を有する低電圧回路領域と、
1つの前記駆動回路を含み、前記低電圧回路領域を挟んで両側に並べて配置されると共に、前記低電圧回路領域との間に所定の絶縁距離を設けて配置される高電圧回路領域と、
前記電力供給回路として、前記低電圧回路領域と各高電圧回路領域とをそれぞれ絶縁状態で結合するトランスと、を有するモータの制御装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、隣合う前記駆動回路との間に所定の絶縁距離を設けて配置される請求項1に記載のモータの制御装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、前記インバータ回路の直流電源のプラス側に接続される上段側アームの前記スイッチング素子を駆動する上段側駆動回路が前記低電圧回路領域の一方の側に並べて配置され、前記インバータ回路の直流電源のマイナス側に接続される下段側アームの前記スイッチング素子を駆動する下段側駆動回路が前記低電圧回路領域の他方の側に並べて配置される請求項1又は2に記載のモータの制御装置。
【請求項4】
隣合う前記上段側駆動回路の間に設けられる絶縁距離は、隣合う前記下段側駆動回路の間に設けられる絶縁距離よりも長く設定される請求項3に記載のモータの制御装置。
【請求項5】
少なくとも1つの前記スイッチング素子の温度を検出する温度センサの検出結果に基づいて、当該スイッチング素子の温度を検出する温度検出回路が、前記下段側駆動回路と共に前記高電圧回路領域に設けられる請求項4に記載のモータの制御装置。
【請求項6】
前記温度検出回路の検出結果を、前記高電圧回路領域から前記低電圧回路領域にワイヤレス伝送する信号伝送用絶縁部品を備え、
当該信号伝送用絶縁部品は、前記低電圧回路領域と前記高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って、前記温度検出回路が備えられる前記高電圧回路領域の前記トランスと並べて配置される請求項5に記載のモータの制御装置。
【請求項7】
基板を固定するための固定部材が貫通する貫通孔を備え、前記貫通孔は、前記低電圧回路領域内において、前記上段用駆動回路の側に寄せて設けられる請求項3〜6の何れか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項8】
前記インバータ回路の電源電圧よりも低い電源電圧で生成され、前記各アームが有する前記スイッチング素子を駆動する各駆動信号を、前記低電圧回路領域から前記高電圧回路領域にそれぞれワイヤレス伝送する信号伝送用絶縁部品を備え、
各信号伝送用絶縁部品は、前記低電圧回路領域と前記高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って前記各トランスと並べて配置される請求項1〜7の何れか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項9】
前記インバータ回路から各駆動回路へのフィードバック信号を、前記高電圧回路領域から前記低電圧回路領域にワイヤレス伝送する信号伝送用絶縁部品を備え、
当該信号伝送用絶縁部品は、前記低電圧回路領域と前記高電圧回路領域とが対向する境界線に沿って、前記各トランスと並べて配置される請求項1〜8の何れか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項10】
前記電源制御回路は、複数の前記トランス間の略中心部に配置される請求項1〜9の何れか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項11】
基板を固定するための固定部材が貫通する貫通孔を備え、当該貫通孔は、前記低電圧回路領域内において、前記低電圧回路領域を挟んで両側に並べて配置される前記高電圧回路領域の何れか一方の側に寄せて設けられる請求項1〜4の何れか一項に記載のモータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−130967(P2009−130967A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300611(P2007−300611)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】