説明

モータ制御装置及び画像形成装置

【課題】高速且つ高精度に、駆動対象を目標停止位置に停止可能とする。
【解決手段】モータ制御ユニットは、モータに入力可能な電流上限値を推定し、この上限値に対応する駆動電流でモータを駆動する第一制御処理を、駆動初期において実行する。一方、駆動対象の現動作状態に基づき、第二制御処理に対応するパターンで駆動対象を減速・停止させるのに必要な搬送量である停止必要量Pn=Pc+Pdを算出する。そして、目標停止位置までの残り搬送量Psが停止必要量Pn以下となった時点で、第一制御処理に代えて第二制御処理を実行する。この動作により、第一制御処理を長めに実行して駆動対象を高速に搬送し、第二制御処理では、上記パターンに対応する目標軌跡に追従するように駆動対象の位置P及び速度Vを制御して、駆動対象を精度よく目標停止位置で停止させる。目標軌跡は、減速時の加速度ピークが、モータで実現可能な限界値−Apに設定されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動対象を目標とする位置に高速搬送可能な技術としては、バンバン制御が知られている(例えば、特許文献1参照)。バンバン制御は、モータへの制御入力(操作量)を最大又は最小に切り替えて、モータの最大能力で駆動対象を駆動するものであり、駆動対象を目標とする位置に高速に搬送して停止させることができる。
【0003】
この他、従来知られるモータ制御装置としては、逆起電力による電流低下等を原因として、想定されているモータ駆動電流と実際のモータ駆動電流との間にずれが生じ、これによって制御精度が劣化する問題を解消するために、速度に応じて変化する飽和電流に基づいた制御デューティの最大制限値を設定するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−086904号公報
【特許文献2】特開2007−221940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バンバン制御については、駆動対象を高速に駆動するのには優れているが、単純な制御手法であるため、駆動対象を高精度に目標とする位置に停止させることはできない。一方、高精度に駆動対象を目標とする位置に停止させるための制御技術としては、目標プロファイルに基づいたフィードバック制御が知られている。しかしながら、フィードバック制御に、飽和電流に基づく操作量の制限値を設定する手法を採用しても、高速且つ高精度に駆動対象を制御するには限界がある。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、従来よりも高速且つ高精度に、被駆動体(駆動対象)を目標停止位置に停止させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明(請求項1)は、モータの回転に応じた信号を出力する信号出力手段の出力信号に基づき、モータを制御することによって、モータにより駆動される被駆動体を目標停止位置まで変位させるモータ制御装置であって、このモータを制御するモータ制御手段が、第一制御手段と、第二制御手段と、切替手段と、第一算出手段と、第二算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
第一制御手段は、信号出力手段の出力信号に基づき、モータに入力可能な電流の上限値であって逆起電力による電流低下を加味した電流上限値を推定し、推定した電流上限値に対応する操作量を、モータに作用させる操作量に決定して、モータを制御する。
【0009】
一方、第二制御手段は、信号出力手段の出力信号から特定されるモータ又は被駆動体の動作量としての変位量若しくは速度と、この動作量の目標値とに基づき、モータに作用させる操作量を決定して、モータを制御する。この制御によって、被駆動体を目標停止位置で停止させる。
【0010】
そして、切替手段は、第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足される時点までは、第一制御手段にモータを制御させ、第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足された時点以降では、第一制御手段に代えて、第二制御手段にモータを制御させる。この切替手段は、モータ制御の開始条件が満足されたか否かを、第一算出手段及び第二算出手段の算出結果に基づいて判断する。
【0011】
第一算出手段は、信号出力手段の出力信号から特定される速度に基づき、現時点から第二制御手段によるモータ制御を開始して、特定の制御パターンで被駆動体を停止させた場合の第二制御手段によるモータ制御の開始時点から被駆動体の停止時点までの被駆動体の変位量を、停止必要量として算出するものである。一方、第二算出手段は、信号出力手段の出力信号から特定される変位量に基づき、現時点から被駆動体が目標停止位置に到達するまでの被駆動体の残り変位量を算出する。
【0012】
切替手段は、このようにして算出される停止必要量及び残り変位量に基づいて、第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足されたか否かを判断する。
このように構成されたモータ制御装置によれば、信号出力手段の出力信号から特定されるモータ又は被駆動体の速度に基づき上記停止必要量を算出し、この停止必要量及び残り変位量に基づいて、モータ制御を、第一制御手段による制御から第二制御手段による制御に切り替えるので、停止精度に悪影響が生じない範囲でなるべく長く第一制御手段によるモータ制御を継続して、モータの最大能力相当で被駆動体を高速に変位させることができる。更に、上記速度に応じた適切なタイミングで第二制御手段によるモータ制御に切り替えることができ、高精度に被駆動体を目標停止位置に停止させることができる。
【0013】
よって、このモータ制御装置によれば、従来よりも高速且つ高精度に、被駆動体を目標停止位置まで変位させて、この位置で停止させることができる。
ところで、切替手段は、残り変位量が停止必要量に対応した値となった時点で、第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足されたと判断する構成にすることができる(請求項2)。このようにモータ制御を、第一制御手段による制御から第二制御手段による制御に切り替えれば、長い時間、第一制御手段によるモータ制御で被駆動体を高速に変位させることができて、高速に被駆動体を目標停止位置まで変位させることができる。
【0014】
また、第二制御手段が、各時点での上記動作量の目標値を表す目標軌跡に従って操作量を決定する構成にされている場合、第一算出手段は、初期速度が信号出力手段の出力信号から特定される速度に対応する目標軌跡であって、減速時の加速度ピークが、この初期速度に依らず規定値を採る特定の目標軌跡に従うモータ制御を第二制御手段が行う場合の停止必要量を算出する構成にすることができる(請求項3)。具体的に、上記規定値としては、第二制御手段のモータ制御によって実現可能な加速度の限界値に対応した値(限界値に近似する値等を含む)を採用することができる(請求項4)。
【0015】
第二制御手段で上述のような目標軌跡を用いてモータ制御を行えば、第二制御手段によるモータ制御開始時のモータ又は被駆動体の速度に依らず、モータの能力をおよそ最大限利用して、被駆動体を減速・停止させることができる。従って、このような目標軌跡に従うモータ制御を第二制御手段が行う場合の停止必要量を算出して、この停止必要量に基づき、第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足されたか否かを判断すれば、モータの能力に対応した適切なタイミングで、モータ制御を第一制御手段による制御から第二制御手段による制御に切り替えることができる。即ち、第一制御手段によるモータ制御を長く実行して高速に被駆動体を変位させつつも、第二制御手段によるモータ制御によって高精度に被駆動体を目標停止位置に停止させることができる。
【0016】
また、第二制御手段には、上記目標軌跡として、被駆動体を定速制御するための区間である定速区間及び被駆動体を減速及び停止制御するための区間である減速区間を備えた目標軌跡を採用することができる(請求項5)。
【0017】
目標軌跡としては、定速区間のない目標軌跡を採用されてもよいが、このような目標軌跡を採用した場合には、第一制御手段によって被駆動体を加速させていた状態から、第二制御手段によるモータ制御によって、急速に被駆動体の減速・停止制御が行われることになり、モータ制御を、第一制御手段による制御から第二制御手段による制御に切り替えた直後において、目標軌跡に沿って被駆動体を変位させる際の制御誤差が大きくなる。一方、定速区間及び減速区間を含む目標軌跡を採用すれば、モータ制御を、第一制御手段による制御から第二制御手段による制御に切り替えて、モータや被駆動体の速度が安定した後に、目標軌跡に従う減速制御を行うことができることから、制御誤差を抑えて、高精度に被駆動体を目標停止位置に停止させることができる。
【0018】
また、第二制御手段は、自己によるモータ制御開始時点での残り変位量に基づき、上記特定の制御パターンに対応する目標軌跡を補正することによって、このモータ制御に用いる目標軌跡を設定する構成にすることができる。具体的には、特定の制御パターンに対応する目標軌跡における減速区間の目標軌跡を補正せずに、定速区間の時間長さを補正することによって、このモータ制御に用いる目標軌跡を、目標停止位置で被駆動体が停止するような目標軌跡に設定する構成にすることができる(請求項6)。
【0019】
上記特定の制御パターンに対応するモータ制御を行うつもりで第二制御手段によるモータ制御に切り替えても、第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足されたと判断してから、第二制御手段によるモータ制御を開始するまでの時間的な遅れによって、上記特定の制御パターンに従うモータ制御では、僅かに被駆動体の停止位置が目標停止位置からずれてしまう可能性がある。一方、このように定速区間の時間長さを調整して、第二制御手段によるモータ制御で用いる目標軌跡を補正すると、高精度に被駆動体を目標停止位置に停止させることができる。
【0020】
また、本発明のモータ制御装置としての機能は、画像形成装置に組み込むことができる。即ち、モータにより駆動されるローラの回転により被記録媒体を搬送する搬送手段と、搬送手段により搬送される被記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、を備える画像形成装置には、ローラを駆動するモータを制御するモータ制御装置として、上述した構成のモータ制御装置を設けることができる(請求項7)。具体的に、本発明のモータ制御装置は、被記録媒体を所定量搬送しては、被記録媒体に画像を形成する動作の繰返しにより、被記録媒体に一連の画像を形成する画像形成装置(インクジェットプリンタ等)に適用することができる。
【0021】
このような画像形成装置における被記録媒体の搬送に、本発明のモータ制御装置を用いれば、高速且つ高精度な被記録媒体の搬送を実現することができる。従って、被記録媒体に形成される画像の品質が劣化しないようにして、被記録媒体に対して一連の画像を高速に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】制御システム1の構成を表すブロック図である。
【図2】インクジェットプリンタ100の構成を表す図である。
【図3】制御システム1で実現される駆動対象の位置・速度・加速度の軌跡を表すグラフである。
【図4】電流上限値Umaxを算出する関数Um(ω)の導出方法に関する説明図である。
【図5】モータ制御ユニット60が実行する処理を表すフローチャートである。
【図6】モータ制御ユニット60が実行する第二制御処理を表すフローチャートである。
【図7】制御システム1で実現される駆動対象の位置・速度・加速度の軌跡を表すグラフであって、負荷レベル毎の軌跡を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
本実施例の制御システム1は、図1に示すように、駆動対象10を駆動するモータ(直流モータ)20と、モータドライバ30と、モータ20の回転軸に接続されたロータリエンコーダ40と、ロータリエンコーダ40の出力信号に基づき、モータ20の回転位置Xを検出する位置検出器50及びモータ20の回転速度ωを検出する速度検出器55と、モータ20に対する操作量である電流指令値Uを算出するモータ制御ユニット60と、を備えるものである。
【0024】
この制御システム1は、画像形成装置等の電気的装置に組み込まれ、電気的装置の主制御ユニット(メインマイコン等)から入力される指令に従うモータ制御を行う。具体的に、駆動対象10としては、画像形成装置が備える用紙搬送機構を挙げることができる。
【0025】
図2には、画像形成装置としてのインクジェットプリンタ100の構成を示す。図2に示すインクジェットプリンタ100は、プラテン101の上流側に、搬送ローラ111及びピンチローラ112を備え、プラテン101の下流側に、排紙ローラ113及びピンチローラ114を備える。また、プラテン101上に、用紙160に対して画像形成可能な記録ヘッド(所謂インクジェットヘッド)131及び記録ヘッド131を搬送するためのキャリッジ135を備える。この他、インクジェットプリンタ100は、搬送ローラ111及び排紙ローラ113を駆動するためのモータ120、このモータ120を制御するモータ制御装置140並びに、モータ制御装置140を含む装置内各部に対して指令入力して、インクジェットプリンタ100全体を統括制御する主制御ユニット150を備える。
【0026】
このインクジェットプリンタ100において、用紙搬送機構は、主にローラ111〜114によって構成される。搬送ローラ111及び排紙ローラ113は、モータ120からの動力を受けて、互いに連動するように回転する。この用紙搬送機構には、図示しない給紙トレイから用紙160が供給され、給紙された用紙160は、搬送ローラ111とピンチローラ112との間で挟持されて、搬送ローラ111の回転により下流側(図中太矢印方向)に搬送される。また、搬送ローラ111の回転により搬送されて排紙ローラ113に到達した用紙160は、排紙ローラ113とピンチローラ114との間で挟持されて、排紙ローラ113の回転により下流に搬送される。このような搬送ローラ111及び排紙ローラ113の同期動作により、用紙160は、図示しない排紙トレイに排出される。
【0027】
また、このように搬送される用紙160に対しては、プラテン101上で、記録ヘッド131によるインク液滴の吐出動作が行われる。
インクジェットプリンタ100では、外部から印刷指令を受信すると、主制御ユニット150が、この印刷指令にて指定された印刷対象の画像データに基づく画像を用紙160に形成するために、モータ制御装置140に対して、搬送ローラ111及び排紙ローラ113を所定量回転させるように駆動指令を入力する。これによって、モータ制御装置140は、搬送ローラ111及び排紙ローラ113が所定量回転するように、モータ120を制御する。
【0028】
主制御ユニット150は、このような駆動指令の入力を繰返し実行することにより、モータ制御装置140を通じて、用紙160を所定量ずつ記録ヘッド131による画像形成位置に送り出す。そして、用紙160を所定量ずつ送り出しては、用紙160の搬送方向とは直交する主走査方向(図2紙面法線方向)に、記録ヘッド131を搬送し、この搬送過程では記録ヘッド131に印刷対象の画像データに基づくインク液滴の吐出動作を実行させることにより、プラテン10上の用紙160に印刷対象の画像データに基づく画像を形成する。
【0029】
図2に示すインクジェットプリンタ100は、このように用紙160を所定量ずつ送り出しては、用紙160に画像を形成する動作を繰り返すことによって、印刷対象の画像データに基づく一連の画像を用紙160に形成する。
【0030】
そして、本実施例の制御システム1は、例えば、上述したインクジェットプリンタ100のモータ120を制御するモータ制御装置140に適用される。即ち、インクジェットプリンタ100には、制御システム1の駆動対象10及びモータ20を除く構成要素(図1点線内の構成要素)を、モータ制御装置140として組み込むことができる。この場合、インクジェットプリンタ100が備えるモータ120は、制御システム1が備えるモータ20に対応する。そして、搬送ローラ111及び排紙ローラ113が駆動対象10に対応する。
【0031】
インクジェットプリンタ100では、用紙160を所定量ずつ送り出しては、用紙160に画像を形成するため、高精度に用紙160を所定量ずつ搬送しないと、用紙160に形成される画像の品質が劣化する。一方で、ユーザからは、高速な印字が求められている。本実施例の制御システム1は、このような高速性と精度とが求められる駆動対象の制御システムに適用されると、その効果が発揮される。
【0032】
即ち、本実施例の制御システム1の構成をインクジェットプリンタ100に採用すると、後述する理由により、高精度且つ高速に用紙160を所定量ずつ送り出すことができる。このため、インクジェットプリンタ100の用紙搬送機構に、本実施例の制御システム1の構成を適用すると、画質が劣化するのを抑えつつ、一連の画像形成に関する処理のスループットを向上させることができる。
【0033】
続いて、本実施例の制御システム1の詳細構成について説明する。この制御システム1が備えるモータドライバ30(図1参照)は、モータ制御ユニット60から入力される電流指令値Uに従って、電流指令値Uに対応する駆動電流をモータ20に入力し、モータ20を駆動するものである。
【0034】
一方、ロータリエンコーダ40は、モータ20の回転軸に接続されて、モータ20が所定量回転する度にパルス信号を出力する周知のロータリエンコーダである。このロータリエンコーダ40は、パルス信号として、位相がπ/2異なるA相信号及びB相信号を出力する。位置検出器50は、このロータリエンコーダ40から出力されるA相信号及びB相信号に基づき、モータ20の回転位置Xを検出する。そして、検出した回転位置Xの情報をモータ制御ユニット60に入力する。また、速度検出器55は、ロータリエンコーダ40から出力されるA相信号及びB相信号に基づき、モータ20の回転速度ωを検出し、この情報をモータ制御ユニット60に入力する。
【0035】
そして、モータ制御ユニット60は、外部(主制御ユニット150等)から駆動指令が入力されると、その駆動指令と共に指定された目標搬送量Ptに従って、駆動対象10を目標搬送量Pt分搬送し、目標搬送量Ptに対応した目標停止位置に駆動対象10を配置する。
【0036】
具体的に、モータ制御ユニット60は、駆動指令が入力されると、駆動対象10を目標搬送量Ptに対応した位置まで搬送するために、後述する制御手法の異なる第一制御処理及び第二制御処理を所定条件で切り替えて実行する。即ち、図3に示すように、駆動対象10の駆動制御開始初期では、第一制御処理を実行し、所定条件が満足された時点で、第一制御処理に代えて第二制御処理を実行する。
【0037】
第一制御処理では、速度検出器55から入力されるモータ20の回転速度ωの情報に基づき、現回転速度ωでの逆起電力による電流低下を加味した電流量であってモータ20に入力可能な電流上限値Umaxを、所定の演算式Um(ω)により算出し、算出した電流上限値Umaxに対応する電流指令値U=Umaxを、モータドライバ30に入力する。このような制御によって、モータ20の最大能力相当で駆動対象10を搬送する。
【0038】
尚、電流上限値Umaxを算出可能な演算式Um(ω)は、予め設計段階で理論又は実験により求めることができる。具体的に、設計者は、理論により演算式Um(ω)を定める場合、演算式Um(ω)を、モータ20の定格電圧Vmax、モータ20の起電力係数Ke、電機子抵抗Raに基づき、次式により定めることができる。
【0039】
【数1】

【0040】
一方、実験結果に基づいて定める場合には、図4に示すように、逆起電力による影響がない状態においてモータ20に入力可能な最大電流量Imax、即ち、モータ20の回転速度がゼロであるときに入力可能な最大電流量Imaxで、モータ20を駆動して得られるモータ20の最大回転速度ωmaxと、その時点でモータ20に流れる駆動電流の上記最大電流量Imaxからの電流低下分Idと、に基づき、演算式Um(ω)を次式により定めることができる。
【0041】
【数2】

【0042】
演算式Um(ω)を理論及び実験のいずれに基づいて定めるかは、設計者の自由である。しかしながら、理論により演算式Um(ω)を求める場合には、カタログ値の誤差による影響を受けて、電流上限値Umaxを演算式Um(ω)に基づき正確に算出することができない可能性があるので、実験により演算式Um(ω)を定めるのが好ましい。
【0043】
また、モータ制御ユニット60は、第一制御処理に代えて第二制御処理を実行すると、位置検出器50により検出されたモータ20の回転位置Xから特定される駆動対象10の搬送開始地点を基準とした位置(搬送量)Pと、速度検出器55により検出されたモータ20の回転速度ωから特定される駆動対象10の速度Vと、駆動対象10の位置P及び速度Vについての目標プロファイル(即ち目標軌跡)と、に基づき、駆動対象10の位置P及び速度Vが目標プロファイルに追従するような電流指令値Uを算出する。そして、この電流指令値Uを、モータドライバ30に入力する。この動作により、モータ制御ユニット60は、駆動対象10の位置P及び速度Vを目標値に制御する。
【0044】
具体的に、モータ制御ユニット60は、第二制御処理では、フィードバック制御系、又は、フィードバック制御系及びフォードフォワード制御系からなる二自由度制御系を用いて、電流指令値Uを算出する構成にすることができる。尚、電流指令値Uを算出するための関数については、設計者が駆動対象10の特性に基づいて周知の手法により任意に定めることができる。
【0045】
本実施例では、このような内容の第一制御処理及び第二制御処理を切り替えて実行することにより、高速且つ高精度に、駆動対象10を目標搬送量Ptに対応する位置まで搬送する。
【0046】
但し、本実施例では、図3に示すように、第二制御処理の開始後、直ちに駆動対象10を減速させずに、駆動対象10を定速移動させた後に減速・停止させることで、目標搬送量Ptに対応する位置で駆動対象10が高精度に停止するように、モータ20を制御する。即ち、本実施例の第二制御処理では、定速区間及び減速区間を含む目標プロファイルを用いて、駆動対象10を減速・停止させる。
【0047】
第一制御処理では、電流上限値Umaxに対応する電流指令値Uをモータドライバ30に入力して、モータ20の最大能力相当で駆動対象10を駆動するため、第二制御処理で直ちに駆動対象10を減速させようとしても精度よく駆動対象10を減速・停止させることが難しい。そこで、本実施例では、減速前に、定速区間を設けることで、高精度に、駆動対象10を目標プロファイルに従って減速できるようにし、駆動対象10を目標搬送量Ptに対応する位置に精度良く停止させるのである。
【0048】
また、本実施例では、モータ20の最大能力相当で駆動対象10を減速・停止させることができるように、減速区間での目標加速度Arのピークが、減速開始時の駆動対象10の速度Vに依らず、モータ20の最大能力に対応した一律の値−Apとなるように減速区間の目標プロファイルを設定する。即ち、本実施例では、減速区間の時間長さ(減速時間)Tdが、減速開始時の駆動対象10の速度Vに対応した値となるように、減速区間の目標プロファイルを設定することにより、モータ20の最大能力相当で駆動対象10を減速・停止させることができるようにする。本実施例では、このような駆動対象10の減速・停止手法を採用することにより、第一制御処理によって駆動対象10を加速させることのできる時間を長くし、結果として、駆動対象10を高速に目標とする位置に停止させることができるようにする。
【0049】
具体的に、本実施例では、標準の目標プロファイル(以下「標準プロファイル」という)を用いて第二制御処理を実行し駆動対象10を減速・停止させる場合に、第二制御処理開始時点から停止するまでに駆動対象10が移動する量(距離)である停止必要量Pnを算出する。一方で、目標搬送量Ptから現時点での搬送量Pを減算した残り搬送量Psを算出する。そして、残り搬送量Psが停止必要量Pn以下となった時点で、駆動対象10の制御を、第一制御処理から第二制御処理に切り替える。このような動作により、駆動対象10を電流上限値Umaxで長く駆動して、高速に駆動対象10を目標搬送量Pt分搬送できるようにする。
【0050】
尚、「標準プロファイル」は、定速区間の時間長さ(定速時間)が標準の時間Tcに定められた目標プロファイルである。この標準プロファイルは、定速区間における各時刻での駆動対象10の目標加速度Ar、目標速度Vr及び目標位置Pr、並びに、減速区間における各時刻での駆動対象10の目標加速度Ar、目標速度Vr及び目標位置Prが次のように定められてなる。
【0051】
但し、ここでは、駆動対象10の駆動制御開始時点からの時刻(経過時間)を、記号tで表し、定速区間の開始時刻を記号Taで表し、減速区間の開始時刻を記号Tbで表し、減速区間の時間長さ(減速時間)を記号Tdで表す。また、第一制御処理終了時の駆動対象10の位置Pを記号Pmで表し、第一制御処理終了時の駆動対象10の速度Vを記号Vpで表す。
【0052】
具体的に、「標準プロファイル」は、時刻Taから時刻Tb=Ta+Tcまでの時間領域(定速区間)、及び、時刻Tbから時刻Tb+Tdまでの時間領域(減速区間)における目標加速度Ar、目標速度Vr及び目標位置Prが次のように定められてなる。
<定速区間>
・目標加速度Ar=0
・目標速度Vr=Vp
・目標位置Pr=Vp・(t−Ta)+Pm
<減速区間>
・目標加速度
【0053】
【数3】

【0054】
・目標速度
【0055】
【数4】

【0056】
・目標位置
【0057】
【数5】

【0058】
但し、減速時間Tdは、減速区間での加速度ピークが一律の値−Apとなる値Td=2・Vp/Apである。
このような標準プロファイルに従って第二制御処理を実行した場合、停止必要量Pnは、第一制御処理終了時の駆動対象10の速度Vpを用いて、次式により算出される。
Pn=Pc+Pd …(6)
Pc=Vp・Tc …(7)
Pd=Vp2/Ap …(8)
ここで、Pcは、定速区間での駆動対象10の移動量(定速時移動量)を表し、Pdは、減速区間での駆動対象10の移動量(減速時移動量)を表す。
【0059】
従って、モータ制御ユニット60は、駆動対象10の制御を第一制御処理から第二制御処理に切り替えるか否かの判断については、その時点での駆動対象10の速度Vを用いて、この速度Vで駆動対象10の制御を第一制御処理から第二制御処理に切り替えた場合の停止必要量Pn=V・Tc+V2/Apと、この時点での駆動対象10の位置(搬送量)Pから特定される残り搬送量Ps=Pt−Pとを、比較することにより行う。
【0060】
そして、残り搬送量Psが停止必要量Pn以下となった場合には、第二制御処理を開始し、第二制御処理では、標準プロファイルにおける定速時間Tcを補正し、その補正後の目標プロファイル(目標軌跡)に基づいて駆動対象10を制御する。このような動作により、本実施例では、駆動対象10を精度よく目標とする位置に停止させる。尚、標準プロファイルと、実際に第二制御処理が使用する補正後の目標プロファイルとは、定速時間が標準時間Tcか、それ以外の値Tcrかといった点で異なる程度ものである。
【0061】
続いて、駆動指令が入力されるとモータ制御ユニット60が駆動対象10の駆動制御のために周期的に実行する処理の詳細を、図5を用いて説明する。
図5に示す処理を開始すると、モータ制御ユニット60は、まずフラグFが値1にセットされているか否かを判断する(S110)。尚、フラグFは、駆動指令が入力されると値0にリセットされ、S190の処理が実行されると、値1にセットされるものである。
【0062】
そして、フラグFが値0であると判断すると(S110でNo)、モータ制御ユニット60は、位置検出器50により検出されたモータ20の回転位置Xに基づき、現時点での駆動対象10の位置(搬送量)Pを特定し、速度検出器55により検出されたモータ20の回転速度ωに基づき、現時点での駆動対象10の速度Vを特定する(S120)。モータ20と駆動対象10とは連結されているので、当然の如く、モータ20の回転位置X及び回転速度ωから、駆動対象10の位置P及び速度Vは特定可能である。
【0063】
その後、モータ制御ユニット60は、現在の駆動対象10の速度Vに基づき、現時点から標準プロファイルに従う駆動対象10の駆動制御を行った場合の定速時移動量Pc=V・Tc及び減速時移動量Pd=V2/Apを算出する(S130)。そして、これらの値に基づき、現時点から標準プロファイルに従う駆動対象10の駆動制御を行った場合の停止必要量Pn=Pc+Pdを算出する(S135)。
【0064】
更には、現在の駆動対象の位置Pと、目標搬送量Ptとに基づき、目標搬送量Ptに対応する位置までの残り搬送量Ps=Pt−Pを算出し(S140)、残り搬送量Psが停止必要量Pn以下であるか否かを判断する(S150)。
【0065】
そして、残り搬送量Psが停止必要量Pnよりも多いと判断すると(S150でNo)、S160に移行し、上述した第一制御処理を実行して、電流上限値Umaxに対応する電流指令値U=Umaxを、モータドライバ30に入力する。このような制御によって、残り搬送量Psが停止必要量Pnよりも多い場合には、モータ20の最大能力相当で駆動対象10を搬送する。その後、図5に示す処理を一旦終了し、周期的に到来する次の実行タイミングで、再度、図5に示す処理を実行する。
【0066】
このような図5に示す処理を繰り返す過程では、残り搬送量Psが停止必要量Pn以下となるタイミングが到来する。モータ制御ユニット60は、このようなタイミングが到来するとS150で肯定判断して(S150でYes)、S170に移行する。そして、S170では、現在時刻tを、定速区間の開始時刻Taとして記憶し、この時点での駆動対象10の位置Pを、第一制御処理終了時の駆動対象10の位置Pmとして記憶し、この時点での駆動対象10の速度Vを、第一制御処理終了時の駆動対象10の速度Vpとして記憶する。
【0067】
更に、モータ制御ユニット60は、第二制御処理で現状に即した駆動対象10の駆動制御を行うために、定速時間の補正値(以下「補正後定速時間」という)Tcrを、次式に従って算出する(S175)。
Tcr=(Pt−Pm−Pd)/Vp …(9)
本実施例の第二制御処理では、上述したように、標準プロファイルの内、減速区間の目標プロファイルの形状を基本的に変えず、定速区間の時間長さ(定速時間)を、標準時間Tcから補正することによって、現状に即した目標プロファイルを設定する。
【0068】
S175では、この補正後の定速区間の時間長さ(補正後定速時間)Tcrを、式(9)に従って算出するのである。減速区間の目標プロファイルの形状を標準プロファイルから変えない場合、補正後の目標プロファイルにおける減速時移動量Pdは、標準プロファイルに基づきS130で算出した値に一致する。よって、値Pt−Pm−Pdによって、現地点から減速区間の開始までの適切な駆動対象10の移動量は求められ、結果として、式(9)によって、現時点の駆動対象10の位置Pmに適切な補正後定速時間Tcrは求められる。
【0069】
このようにして補正後定速時間Tcrを算出すると、モータ制御ユニット60は、減速区間での加速度ピークが規定値−Apとなるように、現在の駆動対象の速度Vpに対応した減速時間Td=2・Vp/Apを設定する(S180)。
【0070】
このような減速時間Tdの設定によって、図7に示すように、減速区間での加速度ピークは、第二制御処理開始時の駆動対象10の速度Vpに依らず、値−Apに揃えられる。尚、図7には、モータ制御ユニット60により実行される第一制御処理及び第二制御処理で実現される駆動対象の位置・速度・加速度の軌跡を表すグラフであって、負荷レベル毎の軌跡を示したグラフである。第二制御処理開始時の駆動対象10の速度Vpは、駆動対象10に作用する負荷レベルに応じて変化するが、本実施例では、負荷レベルに依らず、一律に、減速区間での加速度のピークがモータ20にて実現可能な加速度の限界値−Apとなるように、減速時間Tdを設定する。
【0071】
また、減速時間Tdの設定後には、減速区間の開始時刻Tbを、定速区間の開始時刻Taに補正後定速時間Tcrを加算した値Ta=Ta+Tcrに設定し(S185)、フラグFを値1にセットする(S190)。その後、S200に移行して、図6に示す第二制御処理を開始する。
【0072】
図6に示す第二制御処理を開始すると、モータ制御ユニット60は、現在時刻tに基づき、減速区間の開始時刻Tbが到来したか否かを判断し(S210)、減速区間の開始時刻Tbが到来していない(t<Tbである)と判断すると(S210でNo)、上述の目標プロファイルに従って、駆動対象10の加速度Aの目標値である目標加速度ArをAr=0に設定し、駆動対象10の速度Vの目標値である目標速度VrをVr=Vpに設定し、駆動対象10の位置Pの目標値である目標位置PrをPr=Vp・(t−Ta)+Pmに設定する(S220)。その後、S260に移行し、上記設定した目標値(目標加速度Ar、目標速度Vr及び目標位置Pr)と、現時点での駆動対象10の位置P及び速度Vとに基づき、所定関数に従って駆動対象10の位置P及び速度Vと目標値との誤差を縮めるようなモータ20に対する電流指令値Uを算出し、算出した電流指令値Uを、モータドライバ30に入力する。その後、第二制御処理を終了する。
【0073】
このような制御によって、モータ制御ユニット60は、時刻t=Taから時刻t=Tbの時間領域では、駆動対象10が速度Vpで定速移動するように、駆動対象10の駆動制御(換言すればモータ20の駆動制御)を行う。
【0074】
一方、モータ制御ユニット60は、減速区間の開始時刻Tbが到来した(t≧Tbである)と判断すると(S210でYes)、現在時刻tに基づき減速区間の終了時刻Tb+Tdが到来したか否かを判断し(S230)、減速区間の終了時刻Tb+Tdが到来していない(t<Tb+Tdである)と判断すると(S230でNo)、目標加速度Arを式(3)に従って設定し、目標速度Vrを式(4)に従って設定し、目標位置Prを式(5)に従って設定する(S240)。
【0075】
その後、S260に移行し、上記設定した目標値(目標加速度Ar、目標速度Vr及び目標位置Pr)と、現時点での駆動対象10の位置P及び速度Vとを所定関数に代入して、駆動対象10の位置P及び速度Vと目標値との誤差を縮めるようなモータ20に対する電流指令値Uを算出し、算出した電流指令値Uを、モータドライバ30に入力する。その後、第二制御処理を終了する。
【0076】
このような制御によって、モータ制御ユニット60は、時刻t=Tbから時刻t=Tb+Tdの時間領域では、減速時の加速度ピークが値−Apとなり(図3及び図7参照)、時刻t=Tb+Tdでの加速度A及び速度Vがゼロとなり、時刻t=Tb+Tdでの位置Pが目標搬送量Ptと一致するように、モータ20を通じて駆動対象10を減速・停止させる。
【0077】
また、モータ制御ユニット60は、減速区間の終了時刻t=Tb+Tdが到来したと判断すると(S230でYes)、目標加速度ArをAr=0に設定し、目標速度VrをVr=0に設定し、目標位置PrをPr=Ptに設定し(S250)、その後、S260に移行して、駆動対象10の位置P及び速度Vがこの目標値(目標加速度Ar、目標速度Vr及び目標位置Pr)に一致するような電流指令値Uを算出して、この電流指令値Uを、モータドライバ30に入力する。その後、第二制御処理を終了する。
【0078】
モータ制御ユニット60は、このような内容の第二制御処理を含む図5に示す処理を周期的に繰返し実行し、制御終了条件が満足されると、この周期処理を終了する。この動作によって、駆動対象10を目標搬送量Ptに対応する位置で精度よく停止させる。例えば、モータ制御ユニット60は、位置検出器50から得られる駆動対象10の位置Pが一定時間変化しなくなると、駆動対象10が停止したとみなして周期処理を終了する。
【0079】
以上、本実施例の制御システム1の構成について説明したが、本実施例によれば、駆動対象10を搬送して目標停止位置に配置する駆動制御の開始初期において、モータ20に入力可能な電流上限値Umaxを推定して、モータ20を電流上限値Umaxに対応する駆動電流で駆動するので、高速に駆動対象10を搬送することができる。
【0080】
そして、本実施例によれば、停止必要量Pnと残り搬送量Psとの比較によって、第二制御処理への切替タイミングを調整するので、電流上限値Umaxでのモータ駆動を、停止精度が劣化しないことが予想される範囲で長く実行することができる。また、本実施例では、電流上限値Umaxでのモータ駆動を長い時間実行できるようにするために、減速時の加速度ピークを、モータ20により実現可能な加速度の限界値−Apに一律に調整するので、モータ20の能力を限界まで利用して駆動対象10を減速・停止させることができ、駆動対象10を高速且つ高精度に目標停止位置に停止させることができる。
【0081】
例えば、本実施例によれば、図7に示すように、駆動対象10に対する負荷レベルが小さく、駆動対象10が第一制御処理により良く加速したときには、モータ20の能力に合わせて減速時間Tdが長く設定される。一方、駆動対象10に対する負荷レベルが高く、駆動対象10が第一制御処理によりあまり加速しなかったときには、減速時間Tdが短く設定されて、第一制御処理の実行時間が長く設定される。従って、本実施例によれば、駆動対象10に及ぶ負荷変動に応じて、適切に第一制御処理及び第二制御処理を切り替えることができ、モータ20の能力を有効に活用にして、駆動対象10の目標停止位置までの搬送を、高速且つ高精度に実現することができる。
【0082】
よって、インクジェットプリンタ100のような画像形成装置に、制御システム1の構成を組み込めば、高速且つ高精度な用紙搬送を実現することができ、その結果として、画像形成に係るスループットを向上させながら高精度な画像形成を実現することができる。特に、画像形成装置においては、用紙の材質によって上述の負荷変動が生じやすいので、制御システム1の構成を採用すると、その効果が有効に発揮される。
【0083】
尚、用語間の対応関係は、次の通りである。即ち、モータ制御ユニット60は、モータ制御手段の一例に対応し、エンコーダ40は、信号出力手段の一例に対応する。また、モータ制御ユニット60が実行する第一制御処理は、第一制御手段によって実現される処理の一例に対応し、モータ制御ユニット60が実行する第二制御処理及びS170〜S185等の処理は、第二制御手段によって実現される処理の一例に対応する。この他、モータ制御ユニット60が実行するS110,S150,S190の処理は、切替手段によって実現される処理の一例に対応し、モータ制御ユニット60が実行するS130,S135の処理は、第一算出手段によって実現される処理の一例に対応し、S140の処理は、第二算出手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0084】
また、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施例では、位置検出器50により検出されるモータ20の回転位置X及び速度検出器55により検出されるモータ20の回転速度ωから、駆動対象10の位置P及び速度Vを特定して、この位置P及び速度Vを目標値に合わせるように駆動対象10の駆動制御を行うようにしたが、モータ20の回転位置X及び回転速度ωと、駆動対象10の位置P及び速度Vとは、その尺度が異なる程度のものであるので、当然のことながら、位置検出器50により検出されるモータ20の回転位置X及び速度検出器55により検出されるモータ20の回転速度ωを直接用いて、これを目標値に合わせるようにモータ制御を行うことにより、間接的に、駆動対象10の駆動制御を行うようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施例では、ロータリエンコーダ40はモータ20の回転軸に接続されており、駆動対象10の位置Pと速度Vとは、モータ20の回転位置Xと回転速度ωとから特定されていた。しかしながら、ロータリエンコーダ40は、駆動対象10に接続され、駆動対象10の位置Pと速度Vは、直接ロータリエンコーダ40から検出されても良い。例えば、ロータリエンコーダ40は、搬送ローラ111の回転軸に接続される。その場合、モータ20の回転位置Xと回転速度ωとは、駆動対象10の位置Pと速度Vとから特定される。
【0086】
この他、本実施例の制御システム1が、インクジェットプリンタ100への適用に限定されるものではないことは言うまでもない。また、上記実施例では、駆動対象10の位置P及び速度Vの両方を用いて、目標プロファイルに基づく制御を行うようにしたが、駆動対象10の位置P及び速度Vの一方のみを用いて、目標プロファイルに基づく制御を行うようにしてもよい。また、上記実施例では、減速時の加速度ピークを、モータ20により実現可能な加速度の限界値−Apに一律に調整したが、停止必要量が算出できれば、限界値以外に設定しても良いし、定速後減速するという動作パターン以外で動作させても良い。
【符号の説明】
【0087】
1…制御システム、10…駆動対象、20,120…モータ、30…モータドライバ、40…ロータリエンコーダ、50…位置検出器、55…速度検出器、60…モータ制御ユニット、100…インクジェットプリンタ、101…プラテン、111…搬送ローラ、112,114…ピンチローラ、113…排紙ローラ、131…記録ヘッド、135…キャリッジ、140…モータ制御装置、150…主制御ユニット、160…用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御手段と、
前記モータの回転に応じた信号を出力する信号出力手段と、
を備え、前記信号出力手段の出力信号に基づき前記モータを制御することによって、前記モータにより駆動される被駆動体を目標停止位置まで変位させるモータ制御装置であって、
前記モータ制御手段は、
前記信号出力手段の出力信号に基づき、前記モータに入力可能な電流の上限値であって逆起電力による電流低下を加味した電流上限値を推定し、前記推定した電流上限値に対応する操作量を、前記モータに作用させる操作量に決定して、前記モータを制御する第一制御手段と、
前記信号出力手段の出力信号から特定される前記モータ又は前記被駆動体の動作量としての変位量若しくは速度と、前記動作量の目標値とに基づき、前記モータに作用させる操作量を決定し、前記モータを制御することにより、前記被駆動体を前記目標停止位置で停止させる第二制御手段と、
前記第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足される時点までは、前記第一制御手段に前記モータを制御させ、前記第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足された時点以降では、前記第一制御手段に代えて、前記第二制御手段に前記モータを制御させる切替手段と、
前記信号出力手段の出力信号から特定される前記速度に基づき、現時点から前記第二制御手段によるモータ制御を開始して、特定の制御パターンで前記被駆動体を停止させた場合の前記第二制御手段によるモータ制御の開始時点から前記被駆動体の停止時点までの前記被駆動体の変位量を、停止必要量として算出する第一算出手段と、
前記信号出力手段の出力信号から特定される前記変位量に基づき、現時点から前記被駆動体が前記目標停止位置に到達するまでの前記被駆動体の残り変位量を算出する第二算出手段と、
を備え、
前記切替手段は、前記第一算出手段により算出された前記停止必要量と、前記第二算出手段により算出された前記残り変位量とに基づいて、前記第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足されたか否かを判断すること
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記切替手段は、前記残り変位量が前記停止必要量に対応した値となった時点で、前記第二制御手段によるモータ制御の開始条件が満足されたと判断すること
を特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記第二制御手段は、各時点での前記動作量の目標値を表す目標軌跡に従って、前記操作量を決定する構成にされ、
前記第一算出手段は、前記特定の制御パターンに従うモータ制御として、初期速度が前記信号出力手段の出力信号から特定される前記速度に対応する目標軌跡であって、減速時の加速度ピークが前記初期速度に依らず規定値を採る特定の目標軌跡に従うモータ制御を前記第二制御手段が行う場合の前記停止必要量を算出すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記特定の目標軌跡は、前記減速時の加速度ピークが前記第二制御手段のモータ制御によって実現可能な加速度の限界値に対応した値に設定された目標軌跡であること
を特徴とする請求項3記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記第二制御手段は、各時点での前記動作量の目標値を表す目標軌跡に従って、前記操作量を決定する構成にされ、
前記目標軌跡は、初期速度が前記第二制御手段によるモータ制御開始時点での前記信号出力手段の出力信号から特定される前記速度に対応する目標軌跡であって、前記被駆動体を定速制御するための区間である定速区間及び前記被駆動体を減速及び停止制御するための区間である減速区間を有する目標軌跡であること
を特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記第二制御手段は、自己によるモータ制御開始時点での前記残り変位量に基づき、このモータ制御に用いる前記目標軌跡を、前記特定の制御パターンに対応する目標軌跡を補正することによって設定する構成にされ、前記減速区間の目標軌跡を補正せずに、前記定速区間の時間長さを補正することによって、このモータ制御に用いる前記目標軌跡を、前記目標停止位置で前記被駆動体が停止するような目標軌跡に設定すること
を特徴とする請求項5記載のモータ制御装置。
【請求項7】
モータと、
前記モータにより駆動されるローラを備え、前記ローラの回転により被記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送される前記被記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、
前記モータを制御する請求項1〜請求項6のいずれか一項記載のモータ制御装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−215947(P2012−215947A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79083(P2011−79083)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】