説明

モータ電流検出装置、モータ制御装置、及び電動工具

【課題】バッテリからブラシレスモータに流れる平均電流及び瞬間電流をそれぞれ簡素な構成で適切に検出できるようにする
【解決手段】バッテリからブラシレスモータに流れる電流を検出する1つの電流検出抵抗R0と、この電流検出抵抗R0により検出された電流から、第1カットオフ周波数fc1以下の周波数帯域の電流成分(平均電流)を抽出する第1フィルタ手段42と、電流検出抵抗R0により検出された電流から、第1カットオフ周波数fc1よりも高い第2カットオフ周波数fc2以下の周波数帯域の電流成分(瞬間電流)を抽出する第2フィルタ手段43と、を備えている。このような簡素な構成ながら、高効率・高出力のブラシレスモータにおいて回路保護のために検出すべき平均電流及び瞬間電流を適切に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータに流れる電流を検出するモータ電流検出装置、このモータ電流検出装置により検出された電流を用いてブラシレスモータを制御するモータ制御装置、及び駆動源としてブラシレスモータを備えた電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを搭載してバッテリからの電力により動作するよう構成された電動工具として、モータを過電流から保護するための保護機能が備えられたものが知られている。
過電流からの保護機能の具体例として、特許文献1には、モータに流れる電流を積分回路を介して検出し、第1の過電流(例えば定格電流の1.8倍)が流れた場合、又は第1の過電流よりも低い第2の過電流(例えば定格電流の1.5倍)が所定時間(例えば3秒)継続して流れた場合に、モータへの通電を制限する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−103788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バッテリ及びモータを搭載した電動工具として、特に、モータとしてブラシレスモータを用い、バッテリからブラシレスモータへの通電をPWM制御するよう構成されたものが知られている。このような電動工具においても、ロック時や過負荷時等にバッテリからブラシレスモータへ過電流が流れるおそれがあるため、過電流に対する保護機能を備える必要がある。そして、その保護機能として、上記特許文献1と同様の機能を採用することも可能である。
【0005】
しかし、近年、ブラシレスモータの高出力化・高効率化が進んでおり、これにより新たな保護機能が求められている。即ち、ブラシレスモータを高出力化・高効率化させると、ブラシレスモータのインピーダンスが低下し、また、ブラシレスモータへの通電のPWM制御を行う通電制御回路を構成するスイッチング素子(例えばFET)のオン抵抗も低くなるため、ロック電流も大きくなる。
【0006】
そのため、高出力・高効率のブラシレスモータにおいては、ロック時や過負荷時等に流れる大電流からバッテリやスイッチング素子(FET)を保護する必要がある。しかも、バッテリ及びFETの保護は、共に同じ検出電流に基づいて行うのは適切ではなく、それぞれ適切な検出対象の電流に基づいて保護を行う必要がある。
【0007】
具体的には、FETについては、FETに実際に流れる電流(瞬間電流)がFETの定格を超えないように保護する必要がある。バッテリについては、バッテリからブラシレスモータへ流れる電流の平均値(平均電流)に基づいて保護を行う必要がある。
【0008】
このように、高出力・高効率のブラシレスモータを用いた電動工具においては、保護対象(バッテリ及びFET)毎にそれぞれ検出対象の電流も異なる。そのため、特許文献1に記載の技術を採用することはできず、あらたな電流検出方法及び保護方法が要求される。
【0009】
しかも、バッテリを用いた電動工具であるが故に、電流検出及び保護のために複雑な回路構成や消費電力が大きくなるような構成を採用するのは好ましくなく、簡素な構成でありながらも保護対象毎にそれぞれ検出すべき電流を適切に検出でき、それら検出値に基づいて各保護対象をそれぞれ適切に保護できるようにすることが望まれる。
【0010】
そこで本発明は、バッテリからブラシレスモータに流れる平均電流及び瞬間電流をそれぞれ簡素な構成で適切に検出できるようにすることを第1の目的とする。また、検出した平均電流及び瞬間電流に基づいて、バッテリ及びバッテリからブラシレスモータへの通電を制御する制御構成要素をそれぞれ過電流から適切に保護できるようにすることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決(第1の目的を達成)するためになされた本発明は、通電制御手段によりバッテリからの通電が制御されるよう構成されたブラシレスモータに流れる電流を検出する1つの電流検出手段と、この電流検出手段により検出された電流から、所定の第1カットオフ周波数以下の周波数帯域の電流成分である第1電流を抽出する第1のフィルタ手段と、電流検出手段により検出された電流から、第1カットオフ周波数よりも高い所定の第2カットオフ周波数以下の周波数帯域内における、第2カットオフ周波数を最大値とする所定の周波数帯域の電流成分である第2電流を抽出する第2のフィルタ手段と、を備えていることを特徴とするモータ電流検出装置である。
【0012】
上記構成のモータ電流検出装置では、ブラシレスモータに流れる電流を検出する電流検出手段を1つ設け、その1つの電流検出手段により検出された電流から、第1のフィルタ手段及び第2のフィルタ手段を用いてそれぞれ第1電流(検出された電流の平均値を示す平均電流)と第2電流(検出された電流の実際の値であり、換言すれば瞬間的な値;瞬間電流)を抽出(検出)する。各フィルタ手段の通過帯域はそれぞれ異なり、第1のフィルタ手段については、平均電流を適切に検出できるように第1カットオフ周波数が設定され、第2のフィルタ手段については、高周波ノイズ成分(本来抽出すべき帯域よりも高い周波数帯のノイズ成分)を除去して瞬間電流を適切に検出できるように、第2カットオフ周波数及びこれを最大値とする所定の周波数帯域が設定されている。
【0013】
このように、1つの電流検出手段と、通過帯域の異なる2つのフィルタ手段を用いて、それぞれ第1電流及び第2電流を検出するようにしているため、第1電流(平均電流)と第2電流(瞬間電流)の双方を、簡単な構成ながらも適切に検出することが可能となる。特に第2電流については、高周波ノイズ成分が除去されたことにより適切な検出値を得ることができる。
【0014】
各フィルタ手段を具体的にどのような種類のフィルタにて実現するかについては種々考えられ、例えば第2のフィルタ手段については上記所定の周波数帯域の電流成分を抽出可能なバンドパスフィルタにて実現することもできるが、各フィルタ手段をともにローパスフィルタ(以下「LPF」と言う)にて実現するとよい。即ち、第1のフィルタ手段は、電流検出手段により検出された電流から第1カットオフ周波数以下の周波数帯域の第1電流を抽出するローパスフィルタであり、第2のフィルタ手段は、電流検出手段により検出された電流から第2カットオフ周波数以下の周波数帯域の第2電流を抽出するローパスフィルタである。
【0015】
このように、各フィルタ手段をいずれもLPFにて構成することで、各フィルタ手段の設計を効率化でき、また各フィルタ手段の構成を簡素化することができる。
各フィルタ手段の各カットオフ周波数は、それぞれ、所望の周波数帯域の電流を抽出できる限り適宜設定することができるが、通電制御手段がバッテリからブラシレスモータへの通電を所定のPWM周波数にてPWM制御するよう構成されている場合は、第1カットオフ周波数についてはPWM周波数より低く0より大きい値に設定し、第2カットオフ周波数についてはPWM周波数以上の値に設定するとよい。
【0016】
第1カットオフ周波数をPWM周波数より低い値に設定すれば、PWM制御の影響を受けずに、第1電流を適切且つ高精度に検出することができる。また、第2カットオフ周波数をPWM周波数以上の値に設定すれば、PWM周波数の成分を含む第2電流を適切且つ高精度に検出することができる。
【0017】
そして、ブラシレスモータのPWM制御においては、例えばブラシレスモータが電動工具で用いられる場合、実際上、PWM周波数として例えば10kHz近傍から数十kHzの範囲内の周波数を用いる場合がある。そこで、そういった実例を考慮し、各カットオフ周波数は、例えば次のように設定するとよい。即ち、第1カットオフ周波数は、100Hz〜5kHzの範囲内の値に設定し、第2カットオフ周波数は、10kHz〜500kHzの範囲内の値に設定する。このように各カットオフ周波数を設定することで、実際に用いられるPWM周波数に好適に対応した各フィルタ手段を実現できる。
【0018】
ここで、本発明のモータ電流検出装置を構成する各フィルタをアナログフィルタで構成するかそれともデジタルフィルタで構成するかについては種々考えられ、例えば、第1のフィルタ手段及び第2のフィルタ手段をいずれもアナログフィルタにより構成し、それぞれ抽出対象の第1電流及び第2電流をアナログ値として出力するようにすることができる(以下この構成を「アナログ構成」とも言う)。
【0019】
また例えば、第1のフィルタ手段及び第2のフィルタ手段をいずれもデジタルフィルタにより構成し、それぞれ抽出対象の第1電流及び第2電流をデジタル値として出力するようにすることができる(以下この構成を「デジタル構成」とも言う)。
【0020】
また例えば、第2のフィルタ手段については、アナログフィルタにより構成して第2電流をアナログ値として出力するようにし、第1のフィルタ手段については、第2のフィルタ手段から出力された第2電流を入力として、その第2電流から第1電流をデジタル値として出力するデジタルフィルタにより構成することができる。(以下この構成を「アナデジ構成」とも言う)。
【0021】
上述した各構成のうち、アナログ構成については、各フィルタ手段が共にアナログフィルタにて構成されるため、デジタル構成と比べて、第1電流及び第2電流の抽出を迅速に行うことができる。
【0022】
一方、デジタル構成については、各フィルタ手段が共にデジタルフィルタにて構成されるため、アナログ構成と比べると、第1電流及び第2電流の抽出に時間がかかる可能性がある。但し、デジタル構成において、例えば各フィルタ手段をマイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現するようにすれば、アナログ構成に比べてハードウェア構成を簡素化することができる。
【0023】
そして、アナデジ構成については、第2電流(瞬間電流)を抽出する第2のフィルタ手段はアナログフィルタにて構成され、第1電流(平均電流)を抽出する第1のフィルタは、第2のフィルタ手段の出力(即ち第2電流)から第1電流を抽出するデジタルフィルタにて構成される。そのため、アナログ構成に比べてハードウェア構成を簡素化することができ、且つ、迅速に抽出することが要求される第2電流(瞬間電流)については、アナログフィルタにて迅速に抽出することができる。
【0024】
尚、アナログ構成又はアナデジ構成の場合において、アナログフィルタは、抵抗及びコンデンサ(いずれも受動素子)を用いたパッシブフィルタとして構成するようにするとよい。アナログフィルタをパッシブフィルタにて構成することで、アナログフィルタの構成をより簡素化することが可能となる。
【0025】
また、上記課題を解決(上記第2の目的を達成)するためになされた本発明は、上述した本発明のモータ電流検出装置と、バッテリからブラシレスモータへの通電を制御する通電制御手段と、第1のフィルタ手段により抽出された第1電流が予め設定された第1閾値を超えた場合に、第1電流が過電流であると判断する第1過電流判断手段と、第2のフィルタ手段により抽出された第2電流が、予め設定された、第1閾値よりも大きい第2閾値を超えた場合に、第2電流が過電流であると判断する第2過電流判断手段と、を備える。そして、通電制御手段は、第1過電流判断手段及び第2過電流判断手段の少なくとも一方にて過電流と判断された場合に、バッテリからブラシレスモータへの通電を遮断又は制限する。
【0026】
このように構成された本発明のモータ制御装置によれば、第1電流及び第2電流のそれぞれについて対応する閾値に基づく過電流の判断が行われ、いずれか一方でも過電流が判断された場合にはバッテリからブラシレスモータへの通電が遮断又は制限される。そのため、各電流(平均電流及び瞬間電流)の過電流を適切に判断でき、その判断結果に基づいてバッテリや通電制御手段を過電流から適切に保護することができる。
【0027】
ここで、第1過電流判断手段については、単に第1電流が第1閾値を超えたことをもってすぐに過電流と判断するのではなく、第1電流が第1閾値を超えた状態が所定の閾値超過継続時間以上継続した場合に、第1電流が過電流であると判断するようにするとよい。このようにすることで、平均電流に対する過電流の判定をより適切に行うことができる。
【0028】
ここで、モータ制御装置を構成するモータ電流検出装置が、上述したアナログ構成である場合には、第1過電流判断手段及び第2過電流判断手段は、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現するようにするとよい。つまり、第1電流及び第2電流の検出についてはそれぞれアナログフィルタにて行い、検出された第1電流及び第2電流に対する過電流の判断はソフトウェア処理により行うのである。
【0029】
このように構成されたモータ制御装置によれば、過電流の判断を、簡素な構成にて迅速且つ確実に行うことができる。
また、モータ制御装置を構成するモータ電流検出装置が、上述したアナログ構成である場合、各過電流判断手段は、例えば次のような構成をとることもできる。即ち、第1過電流判断手段は、第1電流と第1閾値とを比較し、第1電流が第1閾値を超えたか否かに応じてHレベル(ハイレベル)又はLレベル(ローレベル)の何れかの第1比較信号を出力する、アナログの第1比較回路を備え、その第1比較回路からの第1比較信号が、第1電流が第1閾値を超えたことを示すレベルである場合に、第1電流が過電流であると判断する。第2過電流判断手段は、第2電流と第2閾値とを比較し、第2電流が第2閾値を超えたか否かに応じてHレベル又はLレベルの何れかの第2比較信号を出力する、アナログの第2比較回路を備え、その第2比較回路からの第2比較信号が、第2電流が第2閾値を超えたことを示すレベルである場合に、第2電流が過電流であると判断する。
【0030】
このように構成されたモータ制御装置によれば、過電流か否かの判断を行うにあたり、アナログの各比較回路が必要になるものの、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理は実質的には不要となる。そのため、過電流の判断を簡素な構成にて迅速且つ確実に行うことができる。
【0031】
尚、上記のように各比較回路を備えた構成においても、第1過電流判断手段については、第1比較回路から、第1電流が第1閾値を超えていることを示すレベルの第1比較信号が出力されたことをもってすぐに過電流と判断するのではなく、第1電流が第1閾値を超えた状態が所定時間継続した場合に過電流と判断するようにするとよい。即ち、第1電流が第1閾値を超えていることを示すレベルの第1比較信号の出力が継続する時間を計時する計時手段を備え、その計時手段による計時時間が所定の閾値超過継続時間を経過した場合に第1電流が過電流であると判断する。このようにすることで、平均電流に対する過電流の判定をより適切に行うことができる。
【0032】
また、モータ制御装置を構成するモータ電流検出装置が、上述したデジタル構成である場合は、第1のフィルタ手段、第2のフィルタ手段、第1過電流判断手段、及び第2過電流判断手段は、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現するようにするとよい。更に、モータ制御装置を構成するモータ電流検出装置が、上述したアナデジ構成である場合も、第1のフィルタ手段、第1過電流判断手段、及び第2過電流判断手段については、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現するようにするとよい。いずれにおいても、ハードウェア(アナログ回路)の使用を抑制でき、簡素な構成にて各フィルタ手段及び各過電流判断手段を実現できる。
【0033】
そして、本発明の他の局面における電動工具は、バッテリと、このバッテリからの電力により回転する、駆動源としてのブラシレスモータと、上述した本発明のモータ電流検出装置とを備えたものである。
【0034】
このような電動工具によれば、上述したモータ電流検出装置と同様の効果を発揮できる。
また、本発明の他の局面における電動工具は、バッテリと、このバッテリからの電力により回転する、駆動源としてのブラシレスモータと、上述した本発明のモータ制御装置とを備えたものである。
【0035】
このような電動工具によれば、上述したモータ制御装置と同様の効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態の充電式マルノコの外観を表す斜視図である。
【図2】実施形態のモータ制御装置の概略構成を表す構成図である。
【図3】充電式マルノコの動作時にバッテリから流れる電流及び駆動スイッチを流れる電流の波形の一例を表す説明図である。
【図4】第1実施形態の、電流検出回路及び過電流検出部の具体的構成を表す構成図である。
【図5】各LPFの通過帯域を説明するための説明図である。
【図6】第1実施形態の第1過電流判断処理を表すフローチャートである。
【図7】第1実施形態の第2過電流判断処理を表すフローチャートである。
【図8】第2実施形態の、電流検出回路及び過電流検出部の具体的構成を表す構成図である。
【図9】第2実施形態の第1過電流判断処理を表すフローチャートである。
【図10】第2実施形態の第2過電流判断処理を表すフローチャートである。
【図11】第3実施形態の、電流検出回路及び過電流検出部の具体的構成を表す構成図である。
【図12】第4実施形態の、電流検出回路及び過電流検出部の具体的構成を表す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用された実施形態の充電式マルノコ1の外観を表す斜視図である。
【0038】
本実施形態の充電式マルノコ1は、切断対象の被加工部材(図示略)の上面に当接させる略矩形のベース2と、このベース2の上面側に配置された本体部3とを備えている。
本体部3は、円形のノコ刃4と、このノコ刃4の上側ほぼ半周の範囲の周縁を内部に収容して覆うノコ刃ケース5を備えている。ノコ刃4の下側ほぼ半周の範囲の周縁は、開閉式のカバー6により覆われている。このカバー6は、被加工部材の切断時に本充電式マルノコ1を切断進行方向に移動させることにより、ノコ刃4の回転中心を中心に図中時計回り方向に回動して徐々に開かれていく。これにより、ノコ刃4が露出され、その露出部分が被加工部材に切り込まれて行く。
【0039】
本体部3の左側には、略円筒状のモータケース7が設けられている。このモータケース7の内部に、当該充電式マルノコ1の駆動源としてのブラシレスモータ(以下「モータ」と略す)30が収容されている。このモータケース7とノコ刃4の間には、図示しないギヤ機構が収容されており、モータ30の回転がそのギヤ機構を介してノコ刃4へ伝達される。
【0040】
本体部3の上側には、当該充電式マルノコ1の使用者により把持されるハンドル8が設けられている。このハンドル8は、本体部3の上側においてアーチ状に取り付けられている。即ち、ハンドル8は、一端が本体部3の後端近傍に固定されて他端が本体部3における後端よりも切断進行方向側に固定されている。
【0041】
本体部3の後端には、繰り返し充電可能なバッテリ(2次電池)19を収容したバッテリパック10が、着脱自在に装着されている。また、ハンドル8の内周側(本体部3の上面側)には、トリガ形式の操作スイッチ9が設けられている。そして、本体部3内には、バッテリパック10内のバッテリ19から電力供給を受けて動作し、操作スイッチ9が操作されているときにモータ30を回転させる(延いてはノコ刃4を回転させる)モータ制御装置20(図1では図示略。図2参照。)が収納されている。
【0042】
次に、本体部3内に収容されているモータ制御装置20について、図2を用いて説明する。図2には、モータ制御装置20の概略構成が、バッテリ19及びモータ30と共に図示されている。
【0043】
図2に示すように、本実施形態のモータ30は、3相ブラシレスモータにて構成されており、モータ30の各相の端子は、モータ制御装置20を介して、バッテリパック10(詳しくはバッテリ19)に接続されている。
【0044】
モータ制御装置20は、モータ30の各相の端子とバッテリ19の正極側とを接続する、いわゆるハイサイドスイッチ(上アーム)としての3つのスイッチング素子(U相ハイサイドスイッチQ1,V相ハイサイドスイッチQ2,W相ハイサイドスイッチQ3)と、同じくモータ30の各相の端子とバッテリ19の負極側とを接続する、いわゆるローサイドスイッチ(下アーム)としての3つのスイッチング素子(U相ローサイドスイッチQ4,V相ローサイドスイッチQ5,W相ローサイドスイッチQ6)とからなる、フルブリッジ回路を備えている。
【0045】
このフルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6は、本実施形態では、nチャネルのMOSFETにて構成されている。そして、各スイッチング素子Q1〜Q6のゲートは、ゲート−ソース間に所定値以上の電圧であるゲート駆動信号を印加することで各スイッチング素子Q1〜Q6をオンさせるゲート駆動信号生成回路12に接続されている。
【0046】
ローサイドスイッチとしての3つのスイッチング素子Q4〜Q6のソースは、本実施形態では、バッテリ19の負極側の電位であるグランド電位に直接接続されておらず、通電遮断用のスイッチング素子(通電遮断スイッチ)Q7及び電流検出抵抗R0を介してグランド電位に接続されている。通電遮断スイッチQ7も、本実施形態では、nチャネルのMOSFETにて構成されている。
【0047】
即ち、各相ローサイドスイッチQ4,Q5,Q6のソースは、通電遮断スイッチQ7のドレインに接続されている。通電遮断スイッチQ7のソースは、電流検出抵抗R0の一端に接続されており、電流検出抵抗R0の他端はグランド電位に接続されている。通電遮断スイッチQ7のゲートも、ゲート駆動信号生成回路12に接続され、このゲート駆動信号生成回路12からのゲート駆動信号によって通電遮断スイッチQ7がオン・オフされる。
【0048】
そして、ゲート駆動信号生成回路12は、マイクロコンピュータ(以下「マイコン」と略す)11により制御される。
電流検出抵抗R0は、バッテリ19からモータ30への通電時にその通電電流を検出するためのものであって、本例では1つだけ設けられており、この電流検出抵抗R0の両端の電圧が、バッテリ19からモータ30へ流れる電流を示す信号として電流検出回路13に入力される。電流検出回路13は、電流検出抵抗R0により検出された電流をもとに、バッテリ19からモータ30へ流れる電流の平均値(平均電流)と、バッテリ19からモータ30へ流れる電流の実際の値(瞬間電流)とをそれぞれ個別に検出(抽出)して、マイコン11へ出力する。
【0049】
また、モータ制御装置20は、モータ30の回転位置(即ちモータ30を構成するロータの回転位置)を検出するロータ位置検出回路14と、このロータ位置検出回路14により検出された回転位置に基づいてモータ30の回転速度(即ちロータの回転速度)を演算するロータ回転速度演算回路15とを備えている。
【0050】
ロータ位置検出回路14は、モータ30に設けられた回転位置センサ31,32,33からの各回転検出信号に基づき、回転位置を検出する。各回転位置センサ31,32,33は、ホールICからなり、モータ30において電気角で120度の間隔で配置されている。そして、モータ30の回転位置に応じて(即ち、モータ30が所定量回転する毎に)ロータ位置検出回路14へパルス信号を出力する。ロータ位置検出回路14は、これら各回転位置センサ31,32,33からの各パルス信号に基づいてモータ30の回転位置を検出する。
【0051】
そして、マイコン11は、操作スイッチ9が操作されているとき、ロータ位置検出回路14により検出されたロータ位置に基づき、通電角及び進角を指示する通電指令を、ゲート駆動信号生成回路12へ出力する。
【0052】
マイコン11には、通電電流や回転位置に応じて進角及び通電角を設定するための進角・通電角マップ21が予め記憶されている。そして、進角・通電角生成部22が、電流検出回路13により検出された通電電流やロータ位置検出回路14により検出された回転位置を元に、進角・通電角マップ21を参照して、その通電電流や回転位置に対応した進角・通電角を示す通電指令を生成し、ゲート駆動信号生成回路12へ出力する。
【0053】
更に、マイコン11は、モータ30への通電をPWM制御するための駆動デューティを演算し、その駆動デューティを示すPWM指令を生成してゲート駆動信号生成回路12へ出力する、PWM生成部23を備えている。即ち、マイコン11は、バッテリ19からモータ30への通電を、所定のPWM周波数にてPWM制御するよう構成されている。
【0054】
PWM生成部23は、ロータ回転速度演算回路15により演算された回転速度が、操作スイッチ9の操作状態により定まる設定回転速度と一致するよう、フィードバック制御を行って駆動デューティを演算する。
【0055】
ゲート駆動信号生成回路12は、操作スイッチ9が操作されたことによりモータ30への通電を行う際、通電遮断スイッチQ7をオンさせると共に、進角・通電角生成部22からの通電指令に従って、フルブリッジ回路を構成する各ハイサイドスイッチQ1〜Q3のいずれか1つ及び各ローサイドスイッチQ4〜Q6のいずれか1つをオンさせて、モータ30への通電を行う。
【0056】
更にその通電の際、オンされるハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチのうちいずれか一方については、通電指令が示すオン期間中に常時オンさせるのではなく、PWM生成部23からのPWM指令が示す駆動デューティにて、所定の周波数(PWM周波数)でオン・オフ(デューティ駆動)させる。本実施形態では、各ハイサイドスイッチQ1〜Q3がデューティ駆動される。尚、以下の説明では、デューティ駆動される各ハイサイドスイッチQ1〜Q3を、駆動スイッチとも称す。
【0057】
例えば、U相ハイサイドスイッチQ1とV相ローサイドスイッチQ5が共にオンされる通電期間においては、その通電期間中、V相ローサイドスイッチQ5はオン状態に保持され、駆動スイッチとしてのU相ハイサイドスイッチQ1がデューティ駆動されることとなる。但し勿論、ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチのうちどちらをデューティ駆動させるかについては特に限定されるものではなく、制御方法等に応じて適宜決めればよい。
【0058】
図3に、モータ30への通電時における、バッテリ19からモータ30へ流れる電流、及び駆動スイッチを流れる電流の波形の一例を示す。図3の電流波形中、実線で示すバス電流は、駆動スイッチのオン・オフに応じてバッテリ19からモータ30を介して電流検出抵抗R0に実際に流れる電流(瞬間電流)である。
【0059】
例えば、上記例のようにU相ハイサイドスイッチQ1とV相ローサイドスイッチQ5が共にオンされる通電期間の場合、駆動スイッチ(本例ではU相ハイサイドスイッチQ1)がオンされるとバッテリ19から各スイッチQ1,Q5、モータ30、通電遮断スイッチQ7、及び電流検出抵抗R0を介して電流が流れる。そして、駆動スイッチがオフされると、バッテリ19からの通電は停止される。このように、駆動スイッチのオン・オフに応じて変化するバッテリ19からの通電電流(バス電流)が、電流検出抵抗R0により検出される。
【0060】
但し、実際に電流検出抵抗R0にて検出される電流には、PWM周波数よりも高い周波数成分のノイズ等も含まれている。そのため、本実施形態では、後述するように、電流検出回路13にて、電流検出抵抗R0で検出された電流から上記ノイズ等を除去することで、ノイズ等を含まない、PWM制御により変化する実際の電流(瞬間電流)を検出するようにしている。
【0061】
一方、上記例において、駆動スイッチがオフされると、バッテリ19からモータ30への通電は停止されるが、モータ30への通電は、モータ30を構成する相コイルの磁気エネルギーにより、環流経路を通じて継続される。即ち、U相ハイサイドスイッチQ1とV相ローサイドスイッチQ5が共にオンされている状態から、駆動スイッチであるU相ハイサイドスイッチQ1がオフされると、オンされているV相ローサイドスイッチQ5と、U相ローサイドスイッチQ4のソース・ドレイン間に並列接続されているダイオードとにより、環流経路が形成され、この環流経路を、モータ30の残留磁気エネルギーによる電流(徐々に減衰していく電流)が流れる。つまり、上記例では、通電期間中、V相ローサイドスイッチQ5には、図3に破線で示すような電流(相電流)が常に流れていることになる。
【0062】
そして、図3に一点鎖線で示す電流は、駆動スイッチがオンされている間に流れるバッテリ19からモータ30へ流れるバス電流の平均値(バス平均電流。以下単に「平均電流」という。)である。この平均電流は、後述するように、電流検出回路13にて、電流検出抵抗R0で検出された電流を元に検出されるものである。
【0063】
また、モータ制御装置20内には、図示は省略したものの、バッテリ19の電圧(バッテリ電圧)を所定の定電圧Vc(例えば5V)に降圧した定電圧電源を生成する定電圧電源装置が備えられている。この定電圧電源(Vc)は、マイコン11を含む、当該モータ制御装置20内の各部の回路等を動作させるための電源として用いられる。
【0064】
また、操作スイッチ9は、より詳しくは、図示しない駆動開始スイッチと、図2に示す可変抵抗器R1とからなるものである。可変抵抗器R1は、いわゆるポテンショメータとして構成されており、定電圧Vcを電源として、操作スイッチ9の操作量(引き量)に応じた電圧(トリガ操作量信号)をマイコン11に入力する。
【0065】
このような構成により、使用者が操作スイッチ9を引き始めると(例えば少量引くと)、駆動開始スイッチがオンし、その旨を示す駆動開始信号がマイコン11に入力される。マイコン11は、この駆動開始信号が入力されると、可変抵抗器R1からのトリガ操作量信号に従い、そのトリガ操作量信号が示す操作スイッチ9の操作量に応じた目標回転速度にてモータ30を回転させるべく、モータ30のPWM制御を開始する。具体的には、操作スイッチ9の引き量が大きいほど回転速度が大きくなるよう(つまり駆動デューティが大きくなるよう)、PWM生成部23が駆動デューティを演算する。
【0066】
また、モータ制御装置20は、通電遮断スイッチQ7の近傍に設けられてこの通電遮断スイッチQ7の温度に応じた信号を出力する温度センサ16と、この温度センサ16からの信号に基づいて通電遮断スイッチQ7の温度を検出する温度検出回路17とを備えている。
【0067】
マイコン11は、温度検出回路17により検出された温度を監視し、所定の温度閾値よりも高い温度となった場合には、ゲート駆動信号生成回路12を介して通電遮断スイッチQ7を強制的にオフさせることにより、モータ30への通電を強制遮断させる。また、マイコン11は、自身が各種プログラムを実行中にハングアップ等の異常が生じた場合にも、ゲート駆動信号生成回路12を介して通電遮断スイッチQ7を強制的にオフさせることにより、モータ30への通電を強制遮断させる。
【0068】
また、モータ制御装置20は、バッテリ電圧を検出するための電圧検出回路18を備えている。マイコン11は、この電圧検出回路18からの検出信号を監視し、例えばバッテリ電圧が所定レベルより低下したらモータ30の動作を停止させるなどの、バッテリ電圧に基づく各種の制御も行う。
【0069】
更に、マイコン11は、過電流検出部24を備えている。この過電流検出部24は、電流検出回路13により個別に検出された平均電流及び瞬間電流に基づき、それぞれ過電流となっているか否か判断する。そして、何れか一方又は双方について過電流と判断した場合には、その旨を示す過電流検出信号をゲート駆動信号生成回路12へ出力する。具体的には、平均電流について過電流と判断した場合には、平均電流が過電流である旨を示す第1過電流検出信号を出力し、瞬間電流について過電流と判断した場合には、瞬間電流が過電流である旨を示す第2過電流検出信号を出力する。
【0070】
尚、マイコン11を構成する上記各部のうち、進角・通電角生成部22及びPWM生成部23は、本実施形態ではいずれもソフトウェア処理により(即ち図示しないCPUがプログラムを実行することにより)実現されるものである。過電流検出部24についても、その機能の一部はソフトウェア処理により実現されるものであるが、その詳細は後述する。
【0071】
このように構成された本実施形態のモータ制御装置20において、最も特徴的な構成は、電流検出回路13及び過電流検出部24の構成である。
本実施形態の充電式マルノコ1は、モータ30として、高出力・高効率のブラシレスモータを用いている。また、出力及び効率向上のために、各スイッチング素子Q1〜Q7についても、オン抵抗の小さいものを用いている。そのため、モータ30のロック時或いは過負荷時等に、バッテリ19からモータ30へ、定格を超える大電流(過電流)が流れるおそれがある。そのため、そういった過電流から、バッテリ19や各スイッチング素子Q1〜Q7を適切に保護する必要がある。
【0072】
具体的には、バッテリ19を過電流から保護するためには、バッテリ19からモータ30へ通電される平均電流を適切に検出してこれを監視し、その平均電流が過電流状態となった場合に通電を制限してバッテリ19を保護する必要がある。
【0073】
また、各スイッチング素子Q1〜Q7を過電流から保護するためには、バッテリ19から各スイッチング素子を介してモータ30へ通電されている瞬間電流、即ちPWM制御に同期して変化する、高周波ノイズ等を含まない実際の電流を適切に検出してこれを監視し、その瞬間電流が過電流状態となった場合に通電を制限して各スイッチング素子を保護する必要がある。つまり、瞬間電流については、各スイッチング素子の定格を超えないように電流制御を行う必要がある。
【0074】
そこで本実施形態では、まず電流検出回路13が、1つの電流検出抵抗R0にて検出された電流から、通過帯域の異なる(即ち時定数の異なる)2つのアナログのLPFを用いて、それぞれ平均電流及び瞬間電流を抽出(検出)するようにしている。そして、電流検出回路13の各LPFにより検出された平均電流及び瞬間電流に基づき、マイコン11の過電流検出部24が、個別に過電流か否かを判断するようにしている。
【0075】
図4に、本実施形態の電流検出回路13及び過電流検出部24の具体的構成を示す。図4に示すように、電流検出回路13は、電流検出抵抗R0により検出された電流を増幅するアンプ41と、このアンプ41による増幅後の電流からそれぞれ所望の周波数帯域の電流成分を抽出する2つのLPF(第1LPF42,第2LPF43)と、を備えている。第1LPF42は、電流検出抵抗R0により検出されてアンプ41により増幅された電流から平均電流J1を抽出するためのものであり、第2LPF43は、その増幅された電流から瞬間電流J2を抽出するためのものである。
【0076】
第1LPF42は、抵抗R11及びコンデンサC11からなる周知のアナログのパッシブフィルタとして構成され、平均電流J1をアナログ値として出力する。この第1LPF42は、バッテリ19の保護のために平均電流J1を抽出するものであるため、PWM制御の影響を受けないよう、時定数の大きいもの、即ち、カットオフ周波数(第1カットオフ周波数)fc1がPWM周波数よりも低いものとして構成されている。
【0077】
本実施形態では、PWM制御におけるPWM周波数が、8kHz〜20kHzの範囲内に設定されている。そのため、第1LPF42の第1カットオフ周波数fc1は、上記PWM周波数よりも低く且つ0よりは大きい、例えば100Hz〜5kHzの範囲内で設定すればよい。ここでは、一例として、図5に実線で示すように、第1カットオフ周波数fc1が1kHzであるものとして説明する。
【0078】
電流検出抵抗R0により検出された電流が、この第1LPF42に入力されることで、検出された電流における、上記第1カットオフ周波数fc1以下の周波数帯域の成分である平均電流J1が抽出される。
【0079】
第2LPF43は、抵抗R12及びコンデンサC12からなる周知のアナログのパッシブフィルタとして構成され、瞬間電流J2をアナログ値として出力する。この第2LPF43は、各スイッチング素子Q1〜Q7の保護のために、少なくともPWM制御に同期して変化する電流成分(瞬間電流J2)を抽出する必要がある。そこで、PWM周波数を含む周波数成分の電流を検出でき、且つPWM周波数よりも高い高周波ノイズ成分をカットできるような第2LPF43を用いる。そのために、第2LPF43のカットオフ周波数fc2は、少なくともPWM周波数以上の値に設定する必要がある。
【0080】
本実施形態では、上記の通りPWM周波数が8kHz〜20kHzの範囲内に設定されているため、第2LPF43の第2カットオフ周波数fc2は、上記PWM周波数よりも高く、且つ高周波ノイズ成分をカットできることが可能な、例えば10kHz〜500kHzの範囲内で設定する。そのため、第2LPF43の時定数は、第1LPF42の時定数よりも小さい値に設定される。ここでは、一例として、図5に破線で示すように、第2カットオフ周波数fc2が100kHzであるものとして説明する。
【0081】
電流検出抵抗R0により検出された電流が、この第2LPF43に入力されることで、検出された電流における、上記第2カットオフ周波数fc2以下の周波数帯域の成分である瞬間電流J2が抽出される。
【0082】
このようにして各LPF42,43にて抽出された平均電流J1及び瞬間電流J2に対し、マイコン11の過電流検出部24は、それぞれ個別に過電流か否かの判断を行う。過電流検出部24は、図4に示すように、平均電流J1をデジタル値(平均電流値D1)に変換する第1AD変換器45と、瞬間電流J2をデジタル値(瞬間電流値D2)に変換する第2AD変換器46と、第1AD変換器45から出力された平均電流値D1に基づき、平均電流J1が過電流であるか否かを判断して、過電流と判断した場合にゲート駆動信号生成回路12へ第1過電流検出信号を出力する第1過電流判断部47と、第2AD変換器46から出力された瞬間電流値D2に基づき、瞬間電流J2が過電流であるか否かを判断して、過電流と判断した場合にゲート駆動信号生成回路12へ第2過電流検出信号を出力する第2過電流判断部48と、を備えている。尚、各過電流判断部47,48は、本実施形態では、マイコン11によるソフトウェア処理により実現されるものである。
【0083】
図6に、マイコン11により実行される、第1過電流判断部47としての制御処理である第1過電流判断処理のフローチャートを示す。マイコン11は、少なくとも操作スイッチ9が操作されている間、図示しないメモリに記憶されている第1過電流判断処理プログラムに従い、この図6の第1過電流判断処理を周期的に繰り返し実行する。
【0084】
マイコン11は、この第1過電流判断処理を開始すると、まずS210にて、平均電流値D1が第1閾値を超えているか否か判断する。本例では、平均電流がバッテリ19を保護すべきレベルに達しているか否かを判断するための適切な判断基準値(例えば60A)が、デジタルの第1閾値として、図示しないメモリ等に予め設定されている。
【0085】
平均電流値D1が第1閾値以下ならば、そのままこの第1過電流判断処理を終了するが、平均電流値D1が第1閾値を超えていたならば、S220に進み、マイコン11が備える図示しないタイマによる計時をスタートさせる。
【0086】
そして、S230にて、S210と同様に平均電流値D1が第1閾値を超えているか否か判断する。このS230にて、平均電流値D1が第1閾値以下と判断された場合は、S260にてタイマをクリアして、この第1過電流判断処理を終了する。一方、S230にて、平均電流値D1が第1閾値を超えていると判断された場合は、S240にて、タイマの計時時間が3秒経過したか否か判断し、3秒経過するまではS230に戻る。
【0087】
そして、S240にてタイマの計時時間が3秒経過したと判断された場合は、S250に進み、ゲート駆動信号生成回路12へ第1過電流検出信号を出力する。つまり、第1閾値を超えた状態が3秒継続したら、平均電流が過電流である(つまりバッテリ19をその過電流から保護する必要がある)と判断して、その旨をゲート駆動信号生成回路12へ伝えるのである。
【0088】
ゲート駆動信号生成回路12は、第1過電流判断部47から第1過電流検出信号が入力された場合は、例えばPWM制御の駆動デューティを所定量下げるなどして、平均電流値D1が第1閾値以下となるように、バッテリ19からモータ30への通電電流を制限する。
【0089】
次に、図7に、マイコン11により実行される、第2過電流判断部48としての制御処理である第2過電流判断処理のフローチャートを示す。マイコン11は、少なくとも操作スイッチ9が操作されている間、図示しないメモリに記憶されている第2過電流判断処理プログラムに従い、この図7の第2過電流判断処理を周期的に繰り返し実行する。
【0090】
マイコン11は、この第2過電流判断処理を開始すると、まずS110にて、瞬間電流値D2が第2閾値を超えているか否か判断する。本例では、瞬間電流が各スイッチング素子Q1〜Q7を保護すべきレベルに達しているか否かを判断するための、上記第1閾値よりも大きい適切な判断基準値(例えば100A)が、デジタルの第2閾値として、図示しないメモリ等に予め設定されている。
【0091】
瞬間電流値D2が第2閾値以下ならば、S120に進み、駆動スイッチがオフされたか否か判断する。そして、駆動スイッチがオンされている間はS110に戻って第2閾値との比較判断を継続し、駆動スイッチがオフされた後にこの第2過電流判断処理を終了する。
【0092】
一方、S110にて、瞬間電流値D2が第2閾値を超えていたならば、S130に進み、ゲート駆動信号生成回路12へ第2過電流検出信号を出力する。つまり、瞬間電流については第2閾値を超えたならば過電流である(つまり、少なくとも現在オン中のスイッチング素子に対してその過電流から保護する必要がある)と判断して、その旨をゲート駆動信号生成回路12へ伝えるのである。
【0093】
ゲート駆動信号生成回路12は、第2過電流判断部48から第2過電流検出信号が入力された場合は、例えば、現在オンされている駆動スイッチについて、少なくともそのオン期間を含む現在のPWM周期中については駆動スイッチを強制的にオフさせて通電を遮断するなどして、瞬間電流値D2が第2閾値以下に制限されるようにする。尚、次のPWM周期では、通常通り駆動スイッチはオンされるが、その際に再び瞬間電流が過電流と判断された場合は、そのPWM周期中についても駆動スイッチが強制的にオフされることとなる。
【0094】
以上説明したように、本実施形態の充電式マルノコ1は、図2に示すモータ制御装置20を備えている。このモータ制御装置20は、1つの電流検出抵抗R0と、通過帯域(時定数)の異なる2つのLPF42,43を備え、第1LPF42にて平均電流を、第2LPF43にて瞬間電流を、それぞれ検出する。
【0095】
そのため、平均電流と瞬間電流の双方を、簡単な構成ながらも適切に検出することが可能となる。特に瞬間電流については、高周波ノイズ成分が除去されたより適切な値を得ることができる。
【0096】
しかも、第1LPF42の第1カットオフ周波数fc1は、PWM周波数より低い値に設定されているため、PWM制御の影響を受けずに、平均電流を適切且つ高精度に検出することができる。また、第2LPF43の第2カットオフ周波数fc2は、PWM周波数以上の値に設定されているため、PWM周波数の成分を含む瞬間電流を適切且つ高精度に検出することができる。
【0097】
また、各LPF42,43にて抽出された平均電流J1、瞬間電流J2に基づき、マイコン11が(詳しくは過電流検出部24が)、ソフトウェア処理により、それぞれ対応する閾値等に基づいて過電流か否かの判断を行う。そして、何れか一方でも過電流が判断された場合には、その過電流と判断された電流に対応した保護動作(駆動デューティの制限又は通電の一時停止)が行われる。そのため、平均電流及び瞬間電流の過電流を適切に判断でき、その判断結果に基づいてバッテリ19や各スイッチング素子Q1〜Q7を過電流から適切に保護することができる。
【0098】
しかも、第1過電流判断部47については、単に平均電流値D1が第1閾値を超えたことをもってすぐに過電流と判断するのではなく、平均電流値D1が第1閾値を超えた状態が所定の閾値超過継続時間(本例では3秒)以上継続した場合に、平均電流が過電流であると判断するようにしている。そのため、平均電流に対する過電流の判定をより適切に行うことができる。
【0099】
更に、各LPF42,43により検出された平均電流及び瞬間電流に対する過電流の判断は、マイコン11によるソフトウェア処理により行われる。そのため、簡素な構成にて過電流の判断を行うことができる。
【0100】
また、各LPF42,43は、いずれも、アナログのパッシブフィルタとして構成されている。そのため、各LPF42,43を後述する第3実施形態のようにデジタルフィルタにて構成する場合に比べ、簡素な構成でありながら、平均電流J1及び瞬間電流J2の検出を迅速に行うことができる。
【0101】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のモータ制御装置について説明する。本実施形態のモータ制御装置は、第1実施形態のモータ制御装置20と比較して、電流検出回路13及びマイコン11内の過電流検出部24の構成が異なるだけで、その他の構成は第1実施形態のモータ制御装置20と同じである。そこで、本第2実施形態のモータ制御装置については、第1実施形態のモータ制御装置20と異なる回路構成等に絞って説明する。
【0102】
図8に、本実施形態の電流検出回路50及び過電流検出部56の具体的構成を示す。図8に示すように、電流検出回路50は、第1実施形態の電流検出回路13(図4参照)と同様、アンプ41、第1LPF42、及び第2LPF43を備えている。これに加え、本実施形態の電流検出回路50は、更に、2つのコンパレータ51,52を備えている。
【0103】
このうち第1コンパレータ51は、その非反転入力端子に第1LPF42からの平均電流J1が入力され、反転入力端子に第1閾値が入力される。この第1閾値は、既述の定電圧Vcを、2つの分圧抵抗R21,R22にて分圧することにより得られるものであり、上記第1実施形態の第1閾値(デジタル値)をアナログ値で表現した場合の値と同値である。
【0104】
第1コンパレータ51は、平均電流J1と第1閾値とを比較し、平均電流J1が第1閾値以下の場合には、出力信号である平均電流比較信号P1として、Lレベル(例えば0V近傍の電圧)の電圧信号を出力する。一方、平均電流J1が第1閾値を超えている場合は、平均電流比較信号P1として、Hレベル(例えば5V近傍の電圧)の電圧信号を出力する。
【0105】
第2コンパレータ52は、その非反転入力端子に第2LPF43からの瞬間電流J2が入力され、反転入力端子に第2閾値が入力される。この第2閾値は、既述の定電圧Vcを、2つの分圧抵抗R23,R24にて分圧することにより得られるものであり、上記第1実施形態の第2閾値(デジタル値)をアナログ値で表現した場合の値と同値である。
【0106】
第2コンパレータ52は、瞬間電流J2と第2閾値とを比較し、瞬間電流J2が第2閾値以下の場合には、出力信号である瞬間電流比較信号P2として、Lレベル(例えば0V近傍の電圧)の電圧信号を出力する。一方、瞬間電流J2が第2閾値を超えている場合は、第2比較信号P2として、Hレベル(例えば5V近傍の電圧)の電圧信号を出力する。
【0107】
このようにして各コンパレータ51,52から出力された各比較信号P1,P2に基づき、マイコン55の過電流検出部56は、平均電流及び瞬間電流についてそれぞれ個別に過電流か否かの判断を行う。本実施形態の過電流検出部56は、図8に示すように、第1コンパレータ51からの平均電流比較信号P1に基づいて平均電流J1が過電流であるか否かを判断する第1過電流判断部57と、第2コンパレータ52からの瞬間電流比較信号P2に基づいて瞬間電流J2が過電流であるか否かを判断する第2過電流判断部58とを備えている。そして、これら各過電流判断部57,58も、第1実施形態の各過電流判断部47,48と同様、本実施形態ではマイコン55によるソフトウェア処理により実現される。
【0108】
図9に、マイコン55により実行される、第1過電流判断部57としての制御処理である第1過電流判断処理のフローチャートを示す。マイコン55は、この第1過電流判断処理を開始すると、まずS410にて、平均電流比較信号P1がHレベルであるか否か判断する。平均電流比較信号P1がLレベルならば、そのままこの第1過電流判断処理を終了するが、平均電流比較信号P1がHレベルならば、S420に進み、マイコン55が備える図示しないタイマによる計時をスタートさせる。
【0109】
そして、S430にて、S410と同様に平均電流比較信号P1がHレベルであるか否か判断する。このS430にて、平均電流比較信号P1がLレベルと判断された場合は、S460にてタイマをクリアして、この第1過電流判断処理を終了する。一方、S430にて、平均電流比較信号P1がHレベルと判断された場合は、S440にて、タイマの計時時間が3秒経過したか否か判断し、3秒経過するまではS430に戻る。
【0110】
そして、S440にて、タイマの計時時間が3秒経過したと判断された場合は、S450に進み、ゲート駆動信号生成回路12へ第1過電流検出信号を出力する。つまり、平均電流比較信号P1がHレベルの状態が3秒継続したら、平均電流が過電流であると判断して、その旨をゲート駆動信号生成回路12へ伝えるのである。第1過電流検出信号に対するゲート駆動信号生成回路12の動作(保護動作)は、第1実施形態と同様である。
【0111】
次に、図10に、マイコン55により実行される、第2過電流判断部58としての制御処理である第2過電流判断処理のフローチャートを示す。マイコン55は、この第2過電流判断処理を開始すると、まずS310にて、瞬間電流比較信号P2がHレベルであるか否か判断する。瞬間電流比較信号P2がLレベルならば、S320に進み、駆動スイッチがオフされたか否か判断する。そして、駆動スイッチがオンされている間はS310に戻って、瞬間電流比較信号P2がHレベルか否かの判断を継続し、駆動スイッチがオフされた後にこの第2過電流判断処理を終了する。
【0112】
一方、S310にて、瞬間電流比較信号P2がHレベルと判断されたならば、S330に進み、ゲート駆動信号生成回路12へ第2過電流検出信号を出力する。つまり、瞬間電流については瞬間電流比較信号P2がHレベルとなったら過電流である(つまり、少なくとも現在オン中のスイッチング素子に対してその過電流から保護する必要がある)と判断して、その旨をゲート駆動信号生成回路12へ伝えるのである。第2過電流検出信号に対するゲート駆動信号生成回路12の動作(保護動作)も、第1実施形態と同様である。
【0113】
以上説明したように、本実施形態では、各LPF42,43からの平均電流J1及び瞬間電流J2をそのままマイコン55に入力せず、それぞれコンパレータ51,52にて対応する閾値との比較を行った上で、その比較結果を示す各比較信号P1,P2をマイコン55へ入力するようにしている。
【0114】
そのため、第1実施形態と比較して、過電流か否かの判断を行うにあたり、アナログ回路としての各コンパレータ51,52が別途必要になるものの、マイコン55による、過電流か否かの最終判断処理は非常に簡素なものとなる。しかも、マイコン55において、第1実施形態で設けていた各AD変換器45,46は本実施形態では不要となる。そのため、マイコン55による、過電流か否かの最終判断を、迅速に行うことができる。
【0115】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態のモータ制御装置について説明する。本実施形態のモータ制御装置も、第1実施形態のモータ制御装置20と比較して、電流検出回路13及びマイコン11内の過電流検出部24の構成が異なるだけで、その他の構成は第1実施形態のモータ制御装置20と同じである。そこで、本第3実施形態のモータ制御装置についても、第1実施形態のモータ制御装置20と異なる回路構成等に絞って説明する。
【0116】
図11に、本実施形態の電流検出回路60及び過電流検出部71の具体的構成を示す。図11に示すように、電流検出回路60は、第1実施形態の電流検出回路13(図4参照)が備えるアンプ41により構成されている。つまり、電流検出回路60は、単に、アンプ41により増幅された電流Jを、マイコン70に入力する。
【0117】
マイコン70の過電流検出部71は、電流検出回路60から入力された電流JをAD変換するAD変換器72と、このAD変換器72によりデジタル化された電流から第1カットオフ周波数fc1以下の周波数帯域の成分に相当する平均電流値D1を抽出する第1デジタルフィルタ73と、AD変換器72によりデジタル化された電流から第2カットオフ周波数fc2以下の周波数帯域の成分に相当する瞬間電流値D2を抽出する第2デジタルフィルタ74と、第1デジタルフィルタ73からの平均電流値D1に基づいて、平均電流について過電流か否かの判断を行う第1過電流判断部47と、第2デジタルフィルタ74からの瞬間電流値D2に基づいて、瞬間電流について過電流か否かの判断を行う第2過電流判断部48とを備えている。
【0118】
つまり、第1実施形態では、アナログの各LPF42,43にて平均電流J1及び瞬間電流J2をそれぞれアナログ値として検出し、それらをそれぞれマイコンにてAD変換することで、デジタル値としての平均電流値D1及び瞬間電流値D2を得るようにしていたのに対し、本実施形態では、上記各LPF42,43に代えてそれぞれデジタルのLPF(カットオフ周波数はいずれも第1実施形態と同じ)である第1デジタルフィルタ73及び第2デジタルフィルタ74を設けている。
【0119】
過電流検出部71において、各デジタルフィルタ73,74及び各過電流判断部47,48は、いずれも、マイコン70によるソフトウェア処理により実現されるものである。尚、デジタルフィルタをマイコンのソフトウェア処理により実現する技術自体は既によく知られているため、ここではその具体的処理内容については説明を省略する。また、各過電流判断部47,48は、第1実施形態の各過電流判断部47,48と同じである。
【0120】
以上説明したように、本実施形態では、電流検出回路60からの電流Jに対し、ハードウェアではフィルタをかけずに、その電流Jをアナログ値のままマイコン70に入力している。そして、マイコン70によるソフトウェア処理にて、デジタルフィルタによる平均電流値D1及び瞬間電流値D2の抽出及び過電流判断を行っている。
【0121】
そのため、第1実施形態のようにアナログフィルタを用いた構成と比べると、平均電流及び瞬間電流の抽出に時間がかかる可能性があるものの、各フィルタがソフトウェア処理により実現されているため、アナログ回路の構成を簡素化することができる。
【0122】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態のモータ制御装置について説明する。本実施形態のモータ制御装置も、第1実施形態のモータ制御装置20と比較して、電流検出回路13及びマイコン11内の過電流検出部24の構成が異なるだけで、その他の構成は第1実施形態のモータ制御装置20と同じである。そこで、本第4実施形態のモータ制御装置についても、第1実施形態のモータ制御装置20と異なる回路構成等に絞って説明する。
【0123】
図12に、本実施形態の電流検出回路80及び過電流検出部91の具体的構成を示す。図12に示すように、電流検出回路80は、第1実施形態の電流検出回路13(図4参照)が備えるアンプ41及び第2LPF43により構成されている。つまり、電流検出回路80は、電流検出抵抗R0により検出された電流のうち、第2カットオフ周波数fc2以下の周波数成分(即ち瞬間電流J2であり、平均電流J1の成分も含まれている)を抽出して、マイコン90の過電流検出部91へ入力する。
【0124】
マイコン90の過電流検出部91は、電流検出回路80から入力された瞬間電流J2をAD変換するAD変換器72と、このAD変換器72によりデジタル化された瞬間電流値D2から、第1カットオフ周波数fc1以下の周波数帯域の成分に相当する平均電流値D1を抽出するデジタルフィルタ92と、このデジタルフィルタ92からの平均電流値D1に基づいて、平均電流について過電流か否かの判断を行う第1過電流判断部47と、AD変換器72からの瞬間電流値D2に基づいて、瞬間電流について過電流か否かの判断を行う第2過電流判断部48とを備えている。
【0125】
つまり、本実施形態では、電流検出回路80にて、第2カットオフ周波数fc2以下の帯域の成分の抽出についてはアナログフィルタにて行っておく。そして、そこから第1カットオフ周波数fc1以下の成分の抽出については、マイコン90のデジタルフィルタ92にて行う。
【0126】
過電流検出部91において、デジタルフィルタ92及び各過電流判断部47,48は、いずれも、マイコン90によるソフトウェア処理により実現されるものである。また、各過電流判断部47,48は、第1実施形態の各過電流判断部47,48と同じである。
【0127】
以上説明した本実施形態のモータ制御装置によれば、アナログフィルタを2つ備える上記第1実施形態に比べて、ハードウェア構成を簡素化することができる。また、迅速に抽出することが要求される瞬間電流については、アナログの第2LPF43にて迅速に抽出することができる。
【0128】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0129】
例えば、上記実施形態では、瞬間電流を抽出するフィルタ(第2LPF43或いは第2デジタルフィルタ74)として、いずれもLPFを用いたが、例えばバンドパスフィルタを用いて、PWM周波数を含む所定の周波数帯域のみを抽出するようにしてもよい。つまり、第2カットオフ周波数fc2を通過帯域の最大値とし、この第2カットオフ周波数fc2よりも低く且つPWM周波数よりも低い所定の周波数(但し0より大きい周波数。例えば第1カットオフ周波数以上の周波数。)を通過帯域の最小値とするようなバンドパスフィルタを用いるようにしてもよい。
【0130】
また、各フィルタの通過帯域についても、上記実施形態の数値例はあくまでも一例である。平均電流を抽出するLPFについては、PWM制御の影響を受けない(つまりPWM周波数よりも低い)帯域であって、且つ平均電流を適切に抽出することが可能である限り、その第1カットオフ周波数fc1は適宜設定できる。瞬間電流を抽出するフィルタについては、所望の瞬間電流、即ちPWM制御により変化する(PWM周波数に同期して変化する)電流成分を適切に抽出でき、且つ、PWM周波数よりも大きい(例えばPWM周波数の数倍〜十数倍以上の)所定の周波数以上の高周波ノイズを適切に除去できる限り、その通過帯域は適宜設定できる。
【0131】
また、図4等に示した各LPF42,43の回路構成はあくまでも一例であり、パッシブフィルタに代えて能動素子を用いたアクティブフィルタを構成することも含め、他の種々の構成をとることができる。
【0132】
また、上記実施形態では、平均電流について、第1閾値を超えた状態が3秒継続した場合に過電流と判断するようにしたが、この継続時間3秒はあくまでも一例である。また、第1閾値を超えた状態が所定時間継続したことをもって過電流と判断することも必須ではなく、単に第1閾値を超えたことをもって過電流と判断するようにしてもよい。
【0133】
また、第1過電流判断部によって平均電流の過電流が判断された場合(つまり第1過電流検出信号が出力された場合)、上記実施形態では駆動デューティを下げることにより電流を制限するようにしたが、このように駆動デューティを下げることはあくまでも一例であり、結果として平均電流を下げてバッテリ19を適切に保護できる限り種々の保護方法を採り得る。
【0134】
瞬間電流の過電流に対する保護方法についても同様であり、上記実施形態のようにオンされている駆動スイッチをそのオン周期に限り強制的にオフさせるのはあくまでも一例であり、結果として瞬間電流を第2閾値以下に制御できる限り種々の保護方法を採り得る。
【0135】
また、上記実施形態では、デジタルフィルタを、マイコンによるソフトウェア処理により実現するようにしたが、例えばDSPなどのハードウェアによってデジタルフィルタを実現するようにしてもよい。また、マイコン自体を、同等の機能を有する他の手段(例えばDSPやASICなど)に代えてもよい。
【0136】
また、上記実施形態では、本発明の適用対象の電動工具として、充電式マルノコ1を例に挙げて説明したが、本発明の適用が充電式マルノコ1に限定されるものでないことは言うまでもない。本発明は、駆動源としてブラシレスモータを備え、バッテリを電力として動作するよう構成されたあらゆる電動工具に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0137】
1…充電式マルノコ、2…ベース、3…本体部、4…ノコ刃、5…ノコ刃ケース、6…カバー、7…モータケース、8…ハンドル、9…操作スイッチ、10…バッテリパック、11,55,70,90…マイコン、12…ゲート駆動信号生成回路、13,50,60,80…電流検出回路、14…ロータ位置検出回路、15…ロータ回転速度演算回路、16…温度センサ、17…温度検出回路、18…電圧検出回路、19…バッテリ、20…モータ制御装置、21…進角・通電角マップ、22…進角・通電角生成部、23…PWM生成部、24,56,71,91…過電流検出部、30…モータ、31,32,33…回転位置センサ、41…アンプ、42…第1LPF、43…第2LPF、45…第1AD変換器、46…第2AD変換器、47,57…第1過電流判断部、48,58…第2過電流判断部、51…第1コンパレータ、52…第2コンパレータ、72…AD変換器、73…第1デジタルフィルタ、74…第2デジタルフィルタ、92…デジタルフィルタ、C1,C11,C12…コンデンサ、Q1…U相ハイサイドスイッチ、Q2…V相ハイサイドスイッチ、Q3…W相ハイサイドスイッチ、Q4…U相ローサイドスイッチ、Q5…V相ローサイドスイッチ、Q6…W相ローサイドスイッチ、Q7…通電遮断スイッチ、R0…電流検出抵抗、R1…可変抵抗器、R11,R12…抵抗、R21,R22,R23,R24…分圧抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電制御手段によりバッテリからの通電が制御されるよう構成されたブラシレスモータに流れる電流を検出する1つの電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流から、所定の第1カットオフ周波数以下の周波数帯域の電流成分である第1電流を抽出する第1のフィルタ手段と、
前記電流検出手段により検出された電流から、前記第1カットオフ周波数よりも高い所定の第2カットオフ周波数以下の周波数帯域内における、前記第2カットオフ周波数を最大値とする所定の周波数帯域の電流成分である第2電流を抽出する第2のフィルタ手段と、
を備えていることを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ電流検出装置であって、
前記第1のフィルタ手段は、前記電流検出手段により検出された電流から前記第1カットオフ周波数以下の周波数帯域の前記第1電流を抽出するローパスフィルタであり、
前記第2のフィルタ手段は、前記電流検出手段により検出された電流から前記第2カットオフ周波数以下の周波数帯域の前記第2電流を抽出するローパスフィルタである
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモータ電流検出装置であって、
前記通電制御手段は、バッテリからブラシレスモータへの通電を、所定のPWM周波数にてPWM制御するよう構成されており、
前記第1カットオフ周波数は、前記PWM周波数より低く0より大きい値に設定され、
前記第2カットオフ周波数は、前記PWM周波数以上の値に設定されている
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ電流検出装置であって、
前記第1カットオフ周波数は、100Hz〜5kHzの範囲内の値に設定され、
前記第2カットオフ周波数は、10kHz〜500kHzの範囲内の値に設定されている
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のモータ電流検出装置であって、
前記第1のフィルタ手段及び前記第2のフィルタ手段は、いずれもアナログフィルタにより構成され、それぞれ抽出対象の前記第1電流及び前記第2電流をアナログ値として出力する
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のモータ電流検出装置であって、
前記第1のフィルタ手段及び前記第2のフィルタ手段は、いずれもデジタルフィルタにより構成され、それぞれ抽出対象の前記第1電流及び前記第2電流をデジタル値として出力する
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のモータ電流検出装置であって、
前記第2のフィルタ手段は、アナログフィルタにより構成されて前記第2電流をアナログ値として出力し、
前記第1のフィルタ手段は、前記第2のフィルタ手段から出力された前記第2電流を入力として、その第2電流から前記第1電流をデジタル値として出力するデジタルフィルタにより構成されている
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項8】
請求項5又は請求項7に記載のモータ電流検出装置であって、
前記アナログフィルタは、抵抗及びコンデンサを用いたパッシブフィルタとして構成されている
ことを特徴とするモータ電流検出装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載のモータ電流検出装置と、
前記バッテリから前記ブラシレスモータへの通電を制御する前記通電制御手段と、
前記第1のフィルタ手段により抽出された前記第1電流が予め設定された第1閾値を超えた場合に、前記第1電流が過電流であると判断する第1過電流判断手段と、
前記第2のフィルタ手段により抽出された前記第2電流が、予め設定された、前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超えた場合に、前記第2電流が過電流であると判断する第2過電流判断手段と、
を備え、
前記通電制御手段は、前記第1過電流判断手段及び前記第2過電流判断手段の少なくとも一方にて前記過電流と判断された場合に、前記バッテリから前記ブラシレスモータへの通電を遮断又は制限する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載のモータ制御装置であって、
前記第1過電流判断手段は、前記第1のフィルタ手段により抽出された前記第1電流が前記第1閾値を超えた状態が所定の閾値超過継続時間以上継続した場合に、前記第1電流が過電流であると判断する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のモータ制御装置であって、
前記モータ電流検出装置として、請求項5に記載のモータ電流検出装置を備え、
前記第1過電流判断手段及び前記第2過電流判断手段は、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現される
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項12】
請求項9に記載のモータ制御装置であって、
前記モータ電流検出装置として、請求項5に記載のモータ電流検出装置を備え、
前記第1過電流判断手段は、前記第1電流と前記第1閾値とを比較し、前記第1電流が前記第1閾値を超えたか否かに応じてHレベル又はLレベルの何れかの第1比較信号を出力する、アナログの第1比較回路を備え、その第1比較回路からの前記第1比較信号が、前記第1電流が前記第1閾値を超えたことを示すレベルである場合に、前記第1電流が過電流であると判断し、
前記第2過電流判断手段は、前記第2電流と前記第2閾値とを比較し、前記第2電流が前記第2閾値を超えたか否かに応じてHレベル又はLレベルの何れかの第2比較信号を出力する、アナログの第2比較回路を備え、その第2比較回路からの前記第2比較信号が、前記第2電流が前記第2閾値を超えたことを示すレベルである場合に、前記第2電流が過電流であると判断する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載のモータ制御装置であって、
前記第1過電流判断手段は、前記第1比較回路から、前記第1電流が前記第1閾値を超えていることを示すレベルの前記第1比較信号が出力されている場合に、その出力が継続する時間を計時する計時手段を備え、その計時手段による計時時間が所定の閾値超過継続時間を経過した場合に前記第1電流が過電流であると判断する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項14】
請求項9又は請求項10に記載のモータ制御装置であって、
前記モータ電流検出装置として、請求項6に記載のモータ電流検出装置を備え、
前記第1のフィルタ手段、前記第2のフィルタ手段、前記第1過電流判断手段、及び前記第2過電流判断手段は、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現される
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項15】
請求項9又は請求項10記載のモータ制御装置であって、
前記モータ電流検出装置として、請求項7記載のモータ電流検出装置を備え、
前記第1のフィルタ手段、前記第1過電流判断手段、及び前記第2過電流判断手段は、マイクロコンピュータによるソフトウェア処理により実現される
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項16】
バッテリと、
前記バッテリからの電力により回転する、駆動源としてのブラシレスモータと、
請求項1〜請求項8の何れか1項に記載のモータ電流検出装置と、
を備えていることを特徴とする電動工具。
【請求項17】
バッテリと、
前記バッテリからの電力により回転する、駆動源としてのブラシレスモータと、
請求項9〜請求項15の何れか1項に記載のモータ制御装置と、
を備えていることを特徴とする電動工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−81285(P2013−81285A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219304(P2011−219304)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】