説明

モールド成形体

【課題】コロナ発生電圧が高く、金属板間の間隔が狭小で、組立作業が容易なモールド成形体を提供するものである。
【解決手段】本発明に係るモールド成形体は、絶縁ポリマフィルム2の両面に接着材料の層1を設け、各接着材料の層1に板状金属体3をそれぞれ接着すると共に、これらの両面を外層絶縁ポリマ6でモールド成形したものであり、絶縁ポリマフィルム2に板状金属体3を接着する際に、その板状金属体3の端部5を接着材料で覆うように接着し、しかるのち、これら接着したものの周囲を外層絶縁ポリマ6でモールド成形したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の板状金属体間を絶縁ポリマフィルムを用いて所定間隔に保つモールド成形体であり、特に、板状金属体端部のボイドの抑制を目的としたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の板状金属体(金属板)の間を絶縁するには、図4に示すように、フィルム状の絶縁ポリマ(以下、絶縁ポリマフィルムという)2にエポキシ系の熱硬化性接着剤を数μm〜数十μmの厚みで事前に塗布し、その接着剤付き絶縁ポリマ15の接着剤面で金属板両面を接着(ラミネート)した形をとっている。
【0003】
これらの金属板を絶縁する方法には2つの形式がある。その1つは、図5(a)に示すように、絶縁ポリマ15でラミネートした金属板3同士を接着剤16を用いて接着させ、絶縁層を形成するものであり、「絶縁フィルム積層一体型」と呼ばれる。もう1つは、より高電圧で使用する場合に用いられる形式で、図5(b)に示すように、十分な絶縁距離を確保するために、絶縁ポリマ15でラミネートした金属板3間に絶縁スペーサ4を挿入するものであり、「絶縁スペーサ分離型」と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−32465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では金属板を絶縁フィルムでラミネートした形状、構造であるために、次のような二つの問題があった。
【0006】
(1) 図5(a)に示した絶縁フィルム積層一体型の場合には、金属板3の端部にボイド17が発生してしまう(形成される)ため、コロナ発生電圧が低いという問題があった。
【0007】
(2) 図5(b)に示した高電圧で使用する場合(絶縁スペーサ分離型の場合)には、金属板3間の距離を広く取らなければならないため、大きなスペースが必要であるという問題があった。そのため、金属板3間の距離を低減し、配線の低インダクタンス化を図ることが難しかった。
【0008】
また、金属板3同士が分離しているため、組立作業に手間がかかるという問題があった。
【0009】
そこで本発明の目的は、コロナ発生電圧が高く、金属板間の間隔が狭小で、組立作業が容易なモールド成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、絶縁ポリマフィルムの両面に接着材料の層を設け、各接着材料の層に板状金属体をそれぞれ接着すると共に、これらの両面を絶縁ポリマでモールド成形したモールド成形体において、上記絶縁ポリマフィルムに上記板状金属体を接着する際に、その板状金属体の端部を接着材料で覆うように接着し、しかるのち、これら接着したものの周囲を外層絶縁ポリマでモールド成形したものである。
【0011】
請求項2の発明は、上記板状金属体端部を、上記接着材料で、板状金属体の厚さの1/10以上の厚さで覆うことが好ましい。
【0012】
請求項3の発明は、上記絶縁ポリマフィルムを、芳香環を有するエンジニアリングプラスチックスで構成してもよい。
【0013】
請求項4の発明は、上記絶縁ポリマフィルムと上記板状金属体を接着したものを外層絶縁ポリマシートで挟み、各外層絶縁ポリマシートを加熱プレスで溶融させて接着物の周囲を外層絶縁ポリマでモールド成形することが好ましい。
【0014】
請求項5の発明は、上記各外層絶縁ポリマシートの片面に接着層を設け、各外層絶縁ポリマシートと上記接着物を接着層を用いて接着することが好ましい。
【0015】
本発明は、絶縁ポリマフィルムの両面に接着材料の層を設け、各接着材料の層に板状金属体をそれぞれ接着すると共に、これらの両面を外層絶縁ポリマでモールド成形したモールド成形体の製造方法において、上記絶縁ポリマフィルムの両面に接着材料の層を設け、その絶縁ポリマフィルムの両面に上記板状金属体を配置し、その後、加熱、加圧して接着層を溶融させると共に、溶融した接着材料の一部を板状金属体の厚さの1/10以上の厚さで盛り上がらせ、板状金属体端部の少なくとも一部を接着材料で覆うように接着し、しかるのち、これら接着物を外層絶縁ポリマシートで挟み、外層絶縁ポリマシートを加熱プレスで溶融させて接着物の周囲を外層絶縁ポリマでモールド成形するものである。
【0016】
本発明は、絶縁ポリマフィルムの両面に接着材料の層を設け、各接着材料の層に板状金属体をそれぞれ接着すると共に、これらの両面を外層絶縁ポリマでモールド成形したモールド成形体の製造方法において、上記絶縁ポリマフィルムの両面に熱硬化性接着剤を塗布し、その絶縁ポリマフィルムの両面に上記板状金属体を配置し、その後、加熱プレスして、塗布した熱硬化性接着剤の一部を板状金属体の厚さの1/10以上の厚さで盛り上がらせて板状金属体端部の少なくとも一部を熱硬化性接着剤で覆うと共に、熱硬化性接着剤を熱硬化させて接着し、しかるのち、これら接着物を外層絶縁ポリマシートで挟み、外層絶縁ポリマシートを加熱プレスで溶融させて接着物の周囲を外層絶縁ポリマでモールド成形するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属板端部を接着材料で覆ってモールドすることにより、外層絶縁ポリマと金属板端部の間にボイドが形成されるのを抑制することができ、電界の集中を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0019】
本実施の形態に係るモールド成形体は、図2に示すように、積層された絶縁ポリマフィルム2(以下、積層フィルムという)の両面に、所定層厚の接着材料の層(接着フィルム)1を設け、各接着フィルム1に金属板(板状金属体)3をそれぞれ接着すると共に、これらの両面(周囲)を外層絶縁ポリマ6でモールド成形したものである。
【0020】
積層フィルムは、複数枚、図2中では2枚の絶縁ポリマフィルム2を接着して形成され、金属板3,3が積層フィルムにより所定間隔に保たれる。積層フィルムにおける絶縁ポリマフィルム2の積層枚数は、金属板3,3の間隔(離間距離)に応じて適宜決定される。
【0021】
積層フィルムと金属板3は、接着フィルム1を介して、かつ、金属板3の端部の少なくとも一部が接着材料で覆われるように接着される。より詳しくは、接着時の加圧圧力により、図1に示すように、接着材料の一部を、金属板3の厚さtのt/10以上の厚さ、幅で盛り上がらせて盛り上がり部5を形成し、金属板3の端部が盛り上がり部5で覆われる。つまり、金属板3の端部と積層フィルムの境界部が、接着材料による盛り上がり部5で覆われる。
【0022】
金属板3、接着フィルム1、積層フィルムの接着物(以下、内部部品という)と外層絶縁ポリマ6は、接着層7を介して接着することが好ましい。
【0023】
盛り上がり部5の厚さ、幅を金属板3の厚さtのt/10以上としたのは、t/10未満だと、金属板3の端部と積層フィルムの境界部を、外気から遮断する効果が不十分となり、後述する電界の集中を緩和することができず、コロナ発生電圧が低くなってしまうためである。
【0024】
また、接着フィルム1の層厚は、その接着、溶融時、金属板3の端部に盛り上がり部5を形成することが可能な厚さであり、例えば金属板3の厚さtのt/10前後とされる。しかし、接着フィルム1の層厚は、後述するプレス成形条件(温度、圧力、時間)や金属板3の厚さにより変化するため、特にこれに限定するものではない。接着層7の層厚も、接着フィルム1の層厚と同様にすることが好ましい。
【0025】
次に、本実施の形態に係るモールド成形体の製造方法を説明する。
【0026】
金属板3、接着フィルム1、絶縁ポリマフィルム2が所定段数で積層配置される。例えば、図2に示すように、上から金属板3、接着フィルム1、積層フィルム、接着フィルム1、金属板3の順に、各層が積層配置される。接着材料の層1を構成する接着材料として、融点(あるいは軟化点)T1が絶縁ポリマフィルム2の融点(あるいは軟化点)T2よりも低い材料が用いられる。
【0027】
次に、融点T1よりも高く、融点T2よりも低い温度でプレス成形、すなわち加熱プレスすることにより、接着フィルム1が溶融されると共に、溶融した接着材料の一部が金属板3の厚さの1/10以上の厚さで盛り上がり、盛り上がり部5が形成される。これによって、金属板3と絶縁ポリマフィルム2が接着され、かつ、金属板3の端部が接着材料で覆われるように接着され、内部部品が成形される。
【0028】
次に、片面に接着層7を設けた外層絶縁ポリマシート(図示せず)を用い、内部部品が挟み込まれる。外層絶縁ポリマシートを加熱プレスで溶融させることで、内部部品の周囲が外層絶縁ポリマ6でモールド成形され、モールド成形体が得られる。
【0029】
金属板3、接着フィルム1、積層フィルム(絶縁ポリマフィルム2)のプレス成形を行う場合、絶縁ポリマフィルム2が熱や圧力により変形しないことが必要であるため、融点T1と融点T2の差が大きいことが望ましい。そのため、絶縁ポリマフィルム2としてはエンジニアリングプラスチックス(以下、エンプラという)などの耐熱性に優れたポリマ、接着材料としては変性されたポリオレフィン系のものが好ましい。
【0030】
金属板3、接着フィルム1、積層フィルムで構成される内部部品をモールドする外層絶縁ポリマ6としては、その融点(あるいは軟化点)T3が、前述した融点T2よりも低い材料が用いられる。たとえば、ポリエチレンや、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系のポリマが好ましい。
【0031】
芳香環を有する剛直な材料であるエンプラの代表例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマ(LCP)、ポリエーテルサルホン(PES)などがあるが、これに限るものではない。
【0032】
接着材料の代表的な例としては、無水マレイン酸で変性されたポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。
【0033】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0034】
本実施の形態に係るモールド成形体においては、金属板3の端部の一方側(積層フィルム側)が、接着材料によって金属板3の厚さの1/10以上の厚さで覆われている。このため、たとえ外層絶縁ポリマ6の流動性が不十分で、金属板3の端部と積層フィルムの境界部に外層絶縁ポリマ6が充填されず、この境界部にボイド(図5(a)参照)が形成されたとしても、金属板3の端部の一方側は外気から完全に遮断される。よって、金属板3の端部の一方側において、電界が集中するのを緩和することができ、高電界での使用が可能となる。
【0035】
また、モールド成形体においては、外層絶縁ポリマ6を構成する外層絶縁ポリマシートの片面に接着層7を設けていることから、外層絶縁ポリマ6のモールド成形時に、金属板3の端部の他方側も、接着層7によって金属板3の厚さの1/10以上の厚さで覆われる。このため、金属板3の端部の他方側も外気から完全に遮断される。よって、金属板3の端部の他方側においても、電界が集中するのを緩和することができ、高電界での使用が可能となる。
【0036】
本実施の形態に係るモールド成形体のコロナ発生電圧を測定したところ、例えば、5kV以上の値が得られ、コロナ発生電圧は高かった。これと比較すると、金属板3の端部の一方側が接着材料によって覆われていないモールド成形体のコロナ発生電圧は低かった。このモールド成形体の断面を観察すると、金属板の端部の一方側周辺には外層絶縁ポリマ6が充填されておらず、ボイドが形成されていた。これらから、本実施の形態に係るモールド成形体のように、金属板3の端部を、接着材料によって金属板3の厚さの1/10以上の厚さで覆うことで、金属板3の端部におけるボイド形成を抑制できることがわかる。
【0037】
また、絶縁スペーサ分離型のように、金属板3,3間に絶縁スペーサを挿入する必要がないため、金属板3,3間の間隔を狭小にすることができ、配線の低インダクタンス化を図ることができる。
【0038】
また、金属板3,3同士は積層フィルムを介して一体に接着しているため、モールド成形体における内部部品の取り扱いは簡単であり、組立作業も容易となる。
【0039】
本実施の形態に係るモールド成形体は、インバータ電源用ラミネートブスバー、例えば、HEV(ハイブリッド車)、電車、エレベータ・エスカレータなどのインバータ電源用ラミネートブスバーに適用することができる。
【0040】
次に、本発明の他の実施の形態を、図1、図2に基いて説明する。
【0041】
前実施の形態に係るモールド成形体の製造方法は、積層フィルムの両面に接着フィルム1を設け、各接着フィルム1に金属板3をそれぞれ接着するものであった。これに対して、本実施の形態に係るモールド成形体の製造方法は、積層フィルムの両面に熱硬化性接着剤を塗布し、各熱硬化性接着剤の層に金属板3をそれぞれ接着するものである。
【0042】
先ず、積層フィルムの両面に所定層厚の熱硬化性接着剤を塗布する。熱硬化性接着剤として、その硬化温度T4が絶縁ポリマフィルム2の融点(あるいは軟化点)T2よりも低い材料が用いられる。熱硬化性接着剤としては硬化温度の低いものが好ましく、代表的な例として、エポキシ系のものやアクリル系のものなどが挙げられる。
【0043】
次に、上から金属板3、両面に接着剤を塗布した積層フィルム、金属板3の順に、各層が積層配置される。その後、硬化温度T4よりも高く、融点T2よりも低い温度で加熱プレスすることにより、先ず、金属板3が積層フィルム側に押し付けられて、未硬化の熱硬化性接着剤の一部が金属板3の厚さの1/10以上の厚さに盛り上がり、盛り上がり部5が形成される。これによって、金属板3の端部の一方側が未硬化の熱硬化性接着剤で覆われる。続いて、熱硬化性接着剤が熱硬化される。これによって、金属板3と絶縁ポリマフィルム2が接着され、かつ、金属板3の端部の一方側が熱硬化性接着剤で覆われるように接着され、内部部品が成形される。
【0044】
次に、片面に接着層7を設けた外層絶縁ポリマシートを用い、内部部品が挟み込まれる。外層絶縁ポリマシートを加熱プレスで溶融させることで、内部部品の周囲が外層絶縁ポリマ6でモールド成形され、モールド成形体が得られる。
【0045】
本実施の形態に係る製造方法で得られたモールド成形体においても、前実施の形態に係る製造方法で得られたモールド成形体と同様の作用効果が得られる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
本発明の実施の一例を図3に示す。金属板として銅電極(大11:55mm×55mm、t=1mm(図3(a))、小12:55mm×35mm、t=1mm(図3(b))、絶縁フィルム(内層フィルム)としてLCP(ジャパンゴアテックス(株)製、ST225N−BT1、40mm×40mm、t=0.225mm)、絶縁ポリマ(外層材料)として難燃ポリオレフィン(直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)/ポリプロピレン(PP)=1/1ブレンド、粒径1μmの水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)をブレンドポリマ100重量部当り200重量部充填)、接着材料(接着フィルム)として酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、モディックP594、t=0.1mm)を用いた。図3(a)、図3(b)中における14は、端子を通すための穴である。
【0047】
絶縁フィルム2枚を接着フィルムを用いて、180℃で熱融着させ、2枚の絶縁フィルムからなる積層フィルム13(図3(c)参照)を作製した。この積層フィルム13の両面に、0.1mm厚の接着フィルムを同様に接着させた。
【0048】
次に、図3(c)に示すように、銅電極小12の端部を5mmはみだした状態で積層フィルム13をセットし、その上から銅電極大11を載せ、180℃の加熱プレス成形により、加熱、加圧、冷却することで、積層フィルム13の接着フィルムを溶融、圧着、固化させ、銅電極小12、積層フィルム13、及び銅電極大11を接着し、内部部品を形成した。接着フィルムは、プレス成形時に加熱されて溶融し、銅電極端部に0.1mm以上の高さで盛り上がり部が形成された。
【0049】
次に、外層材料のシート(厚さ2mm)に接着フィルムを180℃で接着させ、内部部品の両面に、接着フィルムを接着させた外層材料シートをそれぞれ配置し、180℃でプレスした。プレスにより、図2に示すように、内部部品が外層材料でモールドされたモールド絶縁電極(モールド成形体)が得られた。
【0050】
このモールド絶縁電極は、その製造時、たとえ外層材料の流動性が悪くても、銅電極端部が接着材料(盛り上がり部)で覆われているため、ボイドは発生せず、完全に内部部品をモールドすることができた。
【0051】
このような手法で得られたモールド絶縁電極で、コロナ発生電圧(コロナ放電開始電圧)を感度10pCで測定したところ、5kV以上の値が得られた。また、このモールド品の断面を観察したところ、銅電極端部周辺に、電気的絶縁に悪影響を与える大きさのボイドが発生していないことが確認された。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様に金属板として銅電極(大11:55mm×55mm、t=1mm、小12:55mm×35mm、t=1mm)、絶縁フィルム(内層フィルム)としてPPS(東レ(株)製、トレリナ、40mm×40mm、t=0.3mm)、絶縁ポリマ(外層材料)として難燃ポリオレフィン(リケンテクノス(株)製、トリニティANA9954N)、内層フィルムに用いる接着材料として、2液混合型シリコーン系接着剤(コニシ(株)製、ボンドMOS7、t=0.1mm)、外層材料に用いる接着材料として酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、モディックP594、t=0.1mm)を用いた。
【0053】
絶縁フィルム2枚を、接着剤を用い、180℃で熱硬化させて接着し、2枚の絶縁フィルムからなる積層フィルム13を作製した。この積層フィルム13の両面に接着剤を0.1mm厚で塗布した。
【0054】
次に、銅電極小12の端部を5mmはみ出した状態で積層フィルム13をセットし、その上から銅電極大11を載せた。その後、180℃の加熱プレスにより、加熱することで、先ず、未硬化の接着剤が銅電極端部に0.1mm以上の高さで盛り上がり部を形成し、その後、接着剤が熱硬化され、銅電極小12、積層フィルム13、及び銅電極大11を接着し、内部部品を形成した。
【0055】
次に、外層材料のシート(厚さ2mm)に接着剤を180℃で接着させ、内部部品の両面に、接着剤を接着させた外層材料シートをそれぞれ配置し、180℃でプレスした。プレスにより、図2に示すように、内部部品が外層材料でモールドされたモールド絶縁電極(モールド成形体)が得られた。
【0056】
実施例2のモールド絶縁電極においても、実施例1と同様にボイドは発生せず、完全に内部部品をモールドすることができた。
【0057】
このような手法で得られたモールド絶縁電極で、コロナ発生電圧を測定したところ、5kV以上の値が得られた。また、このモールド品の断面を観察したところ、銅電極端部周辺に、電気的絶縁に悪影響を与える大きさのボイドが発生していないことが確認された。
【0058】
(実施例3)
実施例1、2と同じ電極を用い、絶縁フィルム(内層フィルム)として変性PPE(旭化成(株)製、ザイロン540Z、t=0.3mm)、絶縁ポリマ(外層材料)として難燃ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン(株)製、UBEポリエチレンC790N)、接着材料としてホットメルト式接着剤(旭化成(株)製、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体、t=0.3mm)と酸変性ポリエチレン(三菱化学(株)製、モディックM545、t=0.2mm)の積層フィルム)を用いた。
【0059】
プレス温度を120℃とし、実施例1と同様な手順で内部部品を作製した。接着フィルム(積層フィルム13)は、プレス成形時に加熱されて溶融し、銅電極端部に0.1mm以上の高さで盛り上がり部が形成された。
【0060】
次に、外層材料シートをプレス温度120℃でプレスし、実施例1と同様な手順でモールドし、モールド絶縁電極を作製した。
【0061】
このような手法で得られたモールド絶縁電極のコロナ発生電圧を測定したところ、5kV以上の値が得られた。また、このモールド品の断面を観察したところ、銅電極端部周辺に、電気的絶縁に悪影響を与える大きさのボイドが発生していないことが確認された。
【0062】
(比較例1)
金属板として銅電極(大11:55mm×55mm、t=1mm、小12:55mm×35mm、t=1mm)、絶縁フィルム(内層フィルム)としてPPS(東レ(株)製、トレリナ、40mm×40mm、t=0.3mm)、絶縁ポリマ(外層材料)として難燃ポリオレフィン(リケンテクノス(株)製、トリニティANA9954N)、内層フィルムに用いる接着材料として、2液混合型シリコーン系接着剤(コニシ(株)製、ボンドMOS7、t=0.02mm)、外層材料に用いる接着材料として酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、モディックP594、t=0.1mm)を用いた。
【0063】
絶縁フィルム2枚を接着剤を用いて、180℃で熱硬化させ、2枚の絶縁フィルムからなる積層フィルム13を作製した。この積層フィルム13の両面に接着材料を薄く(0.02mm厚で)塗布した。
【0064】
次に、銅電極小12の端部を5mmはみ出した状態で積層フィルム13をセットし、その上から銅電極大11を載せた。その後、180℃の加熱プレスにより、加熱することで、接着剤が熱硬化され、銅電極小12、積層フィルム13、及び銅電極大11を接着し、内部部品を形成した。この加熱プレス時、接着剤の塗布厚さが薄いため、銅電極端部に0.1mm以上の高さで盛り上がり部を形成することができなかった。
【0065】
次に、外層材料のシート(厚さ2mm)に接着剤を180℃で接着させ、内部部品の両面に、接着剤を接着させた外層材料シートをそれぞれ配置し、180℃でプレスした。プレスにより、内部部品が外層材料でモールドされたモールド絶縁電極(モールド成形体)が得られた。
【0066】
このような手法で得られたモールド絶縁電極のコロナ発生電圧を測定したところ、2kV程度でコロナ放電が発生した。モールド絶縁電極を切断し、その断面を観察したところ、銅電極端部周辺に、ボイドが確認された。
【0067】
以上より、実施例1〜3の場合、銅電極端部が接着材料で覆われていることから、銅電極端部周辺においてボイドが形成されるのが抑制され、高いコロナ発生電圧(5kV以上)が得られた。
【0068】
これに対して、接着材料で銅電極端部が覆われていない比較例1の場合、コロナ発生電圧は5kV未満(2kV程度)と低く、その断面を観察すると銅電極の端部周辺に外層材料が充填されておらず、銅電極端部周辺に、ボイドが形成されていた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】金属板の端部を接着材料で覆った状態を示す断面図である。
【図2】本発明の好適一実施の形態に係るモールド成形体の断面図である。
【図3】[実施例]に用いた銅電極の平面図である。図3(a)は銅電極大、図3(b)は銅電極小、図3(c)は内部部品の平面図である。
【図4】フィルム状絶縁ポリマの断面図である。
【図5】従来の金属板の絶縁方法を説明するための図である。図5(a)は絶縁フィルム積層一体型の断面図、図5(b)は絶縁スペーサ分離型の断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 接着フィルム(接着材料の層)
2 絶縁ポリマフィルム
3 金属板(板状金属体)
5 盛り上がり部(板状金属体の端部)
6 外層絶縁ポリマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ポリマフィルムの両面に接着材料の層を設け、各接着材料の層に板状金属体をそれぞれ接着すると共に、これらの両面を外層絶縁ポリマでモールド成形したモールド成形体において、上記絶縁ポリマフィルムに上記板状金属体を接着する際に、その板状金属体の端部を接着材料で覆うように接着し、しかるのち、これら接着したものの周囲を外層絶縁ポリマでモールド成形したことを特徴とするモールド成形体。
【請求項2】
上記板状金属体端部を、上記接着材料で、板状金属体の厚さの1/10以上の厚さで覆った請求項1記載のモールド成形体。
【請求項3】
上記絶縁ポリマフィルムを、芳香環を有するエンジニアリングプラスチックスで構成した請求項1又は2記載のモールド成形体。
【請求項4】
上記絶縁ポリマフィルムと上記板状金属体を接着したものを外層絶縁ポリマシートで挟み、各外層絶縁ポリマシートを加熱プレスで溶融させて接着物の周囲を外層絶縁ポリマでモールド成形した請求項1から3いずれかに記載のモールド成形体。
【請求項5】
上記各外層絶縁ポリマシートの片面に接着層を設け、各外層絶縁ポリマシートと上記接着物を接着層を用いて接着した請求項1から4いずれかに記載のモールド成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46196(P2011−46196A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195253(P2010−195253)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【分割の表示】特願2006−208359(P2006−208359)の分割
【原出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】