説明

ヨーレート制御装置

【課題】車両がバンクのあるカーブ路を走行する場合に、運転者の違和感を低減できるヨーレート制御装置を提供する。
【解決手段】規範ヨーレートYrefと実ヨーレートの偏差に応じた駆動力配分制御量Imを算出し、バンク走行検出部10が推定するバンク角度βの絶対値が所定値より大きくなった場合は、バンク角度βの絶対値の大きさに対応したバンク角補正ゲインBgを算出して駆動力配分制御量Imに乗算し、駆動力配分制御量Imを低減するECU30を備えるヨーレート制御装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のヨーレート制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両に発生するヨーレート(実ヨーレート)と、操向ハンドルの操舵角や車速から算出されるヨーレート(規範ヨーレート)に差が生じると、運転者が違和感を覚えるため、例えば特許文献1には、左右の駆動輪の駆動力の配分を変更して、実ヨーレートと規範ヨーレートの偏差(以下、ヨーレート偏差と称する)を吸収するヨーレート制御装置の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2008−044555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば車両が旋回内側に傾斜するバンクのあるカーブ路(以下、バンクカーブと称する)を走行するとき、バンクのない同じ曲率半径のカーブ路を走行する場合より操向ハンドルの操舵角が小さくなることから規範ヨーレートが小さくなる。一方、車両に発生するヨーモーメントは、バンクのない同じ曲率半径のカーブ路を走行する場合と同じ大きさであることから、車両の実ヨーレートが規範ヨーレートに対して相対的に大きくなり、ヨーレート偏差が大きくなる。
そして、ヨーレート制御装置は、ヨーレート偏差を吸収するように動作することから車両の挙動が不安定になり、運転者が違和感を覚えるという問題がある。
【0004】
具体的に、車両がバンクカーブを走行する場合は、運転者が操舵する操向ハンドルの操舵角が小さく、規範ヨーレートより大きな実ヨーレートが発生することになる。したがって、実ヨーレートを低減する方向、すなわち車両を旋回外側に回転させるようにヨーレート制御装置が動作する。その結果、車両はバンクカーブを駆け上がるように挙動し、運転者が違和感を覚えることになる。
【0005】
そこで本発明は、車両がバンクのあるカーブ路を走行する場合に、運転者の違和感を低減できるヨーレート制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、操向ハンドルの操舵角及び車速に応じて設定される規範ヨーレートとヨーレート検出手段が検出する実ヨーレートの偏差に応じた制御量で車両のヨーレート制御を行うヨーレート制御装置とする。そして、前記車両に備わるバンク角推定部が推定するバンク角度が所定値よりも大きくなったときには、前記制御量を低減することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、規範ヨーレートと実ヨーレートの偏差に応じて、車両のヨーレート制御ができる。そして、バンク角推定部が推定するバンク角度が所定値より大きい場合は、ヨーレート制御の制御量を低減することで、バンク角度に対応したヨーレート制御ができ、運転者の違和感を低減できる。
【0008】
また、本発明は、前記バンク角推定部が推定するバンク角度が前記所定値よりも大きくなった場合に前記ヨーレート制御を休止するとともに、前記バンク角推定部が推定するバンク角度が前記所定値以下になった場合は、前記車両が直進状態になったときに前記ヨーレート制御の休止を解除することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、バンク角推定部が推定するバンク角度が所定値より大きい場合はヨーレート制御を休止することで、ヨーレート制御の制御量を低減するのと同等の効果を得ることができる。さらに、バンク角推定部が推定するバンク角度が所定値以下になった場合は、車両が直進状態になったときに、ヨーレート制御の休止を解除できる。したがって、車両が直進状態でない旋回中のときには、ヨーレート制御の休止が解除されず、旋回中の車両のヨーレートが大きく変動することによる運転者の違和感を低減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両がバンクのあるカーブ路を走行する場合に、運転者の違和感を低減できるヨーレート制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
《第1の実施形態》
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1は、ヨーレート制御装置を備える車両の一構成例を示す構成図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る車両Vは、転舵輪である左右の前輪2L,2Rと左右の後輪1L,1Rとを備えており、車両Vが前輪駆動の場合、エンジンEの駆動力は、トランスミッション5及び駆動力配分装置3を介して駆動輪である左右の前輪2L,2Rに任意の比率で配分されて伝達される。
この構成によって車両Vは、駆動力配分装置3で左右の前輪2L,2Rに伝達される駆動力に差を持たせることでヨーモーメントを発生させることができ、ヨーレートを制御できる。
【0012】
そして、第1の実施形態に係る車両Vは、駆動力配分装置3を制御する駆動力配分制御装置(以下、ECU)30を備えている。
さらに、第1の実施形態に係る車両Vには、車両Vがバンクカーブを走行していることを検出するバンク走行検出部10が備わる。バンク走行検出部10の詳細は後記する。
【0013】
また、車両Vにはヨーレートセンサ(ヨーレート検出手段)Sy、操舵角センサSs、及び横加速度センサSgが備わり、各車輪1L,1R,2L,2Rには、車輪速センサSwが備わる。
ヨーレートセンサSyは、車両Vに発生する実ヨーレートを検出してヨーレート信号YをECU30に入力する。ECU30は、ヨーレート信号Yに基づいて、車両Vに発生しているヨーレート(実ヨーレート)を算出できる。
操舵角センサSsは、操向ハンドル6の操舵角を検出して、操舵角信号δをECU30に入力する。ECU30は、操舵角信号δsに基づいて操向ハンドル6の操舵角を算出できる。
【0014】
横加速度センサSgは車両Vに発生している横加速度(横G)を検出して横加速度信号GをECU30に入力する。ECU30は、横加速度信号Gに基づいて、車両Vに発生している横Gを算出できる。
また、車輪速センサSwは、各車輪1L,1R,2L,2Rの回転速度を検出して、各車輪の車輪速信号ωをECU30に入力する。ECU30は、車輪速信号ωに基づいて各車輪1L,1R,2L,2Rの回転速度を算出し、さらに、各車輪1L,1R,2L,2Rの回転速度に基づいて車両Vの車速を算出できる。
【0015】
図2は、ECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。図2に示すように、第1の実施形態に係るECU30には、規範ヨーレート演算部31、駆動力配分演算部32、及びバンク角補正部33が備わる。
規範ヨーレート演算部31、駆動力配分演算部32、及びバンク角補正部33は、例えばそれぞれが図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路などから構成され、それぞれがROMに格納されるプログラムを実行する構成とすればよい。
そして、駆動力配分演算部32には規範ヨーレート演算部31が接続され、駆動力配分演算部32とバンク角補正部33は乗算器34を介して接続するように構成される。
【0016】
規範ヨーレート演算部31には、操舵角センサSsと車輪速センサSwが接続され、規範ヨーレート演算部31は、操舵角センサSsから入力される操舵角信号δに基づいて操向ハンドル6(図1参照)の操舵角を算出するとともに、車輪速センサSwから入力される車輪速信号ωに基づいて車両Vの車速を算出する。そして、操向ハンドル6の操舵角と車速に基づいて規範ヨーレートYrefを算出し、駆動力配分演算部32に入力する。
【0017】
駆動力配分演算部32には、ヨーレートセンサSyが接続される。駆動力配分演算部32は、ヨーレートセンサSyから入力されるヨーレート信号Yに基づいて、車両Vに発生している実ヨーレートYawを算出する。そして、実ヨーレートYawと規範ヨーレートYrefにヨーレート偏差がある場合、実ヨーレートYawを規範ヨーレートYrefに近づけ、ヨーレート偏差を吸収するように駆動力配分装置3を制御するための駆動力配分制御量Imを算出する。
【0018】
具体的に、実ヨーレートYawが規範ヨーレートYrefより大きい場合、すなわち車両V(図1参照)にオーバーステアが発生している場合、駆動力配分演算部32は、エンジンE(図1参照)の駆動力の配分を、旋回内側で高くするとともに旋回外側で低くするように駆動力配分装置3を制御する駆動力配分制御量Imを算出する。
一方、実ヨーレートYawが規範ヨーレートYrefより小さい場合、すなわち車両Vにアンダーステアが発生している場合、駆動力配分演算部32は、エンジンEの駆動力の配分を、旋回内側で低くするとともに旋回外側で高くするように駆動力配分装置3を制御する駆動力配分制御量Imを算出する。
【0019】
駆動力配分制御量Imの特性は限定するものではないが、例えばエンジンE(図1参照)の駆動力の、左右の前輪2L,2R(図1参照)への配分を示す値とする。そして、駆動力配分制御量Imが「0」のとき、エンジンEの駆動力が左右の前輪2L,2Rに均等に配分され、正の値のときにエンジンEの駆動力が右側の前輪2Rに高く配分され、負の値のときにエンジンEの駆動力が左側の前輪2Lに高く配分される特性とすればよい。
さらに、駆動力配分制御量Imの絶対値が大きいほど、左右の前輪2L,2Rに対するエンジンEの駆動力の配分の差が大きくなる特性とすればよい。
以下、特に記載のない限り、駆動力配分制御量Imの大小や、増大、低減は、駆動力配分制御量Imの絶対値の大小や、増大、低減を示すものとする。
【0020】
このような特性の駆動力配分制御量Imとすることで、後記するバンク角補正ゲインBgを乗算して、左右の前輪2L,2R(図1参照)に対するエンジンE(図1参照)の駆動力の配分を自在に設定することができる。
【0021】
このように図2に示すECU30は、車両V(図1参照)に発生している実ヨーレートYawと、操向ハンドル6(図1参照)の操舵角と車両Vの車速から算出する規範ヨーレートYrefにヨーレート偏差がある場合、駆動力配分装置3(図1参照)を制御して、実ヨーレートYawを規範ヨーレートYrefに近づけ、ヨーレート偏差を吸収するようなヨーモーメントを車両Vに発生させて運転者の違和感を低減している。
【0022】
なお、ECU30が駆動力配分装置3を制御して、車両Vにヨーモーメントを発生し、車両Vのヨーレートを制御することから、第1の実施形態において、ECU30と駆動力配分装置3は、請求項に記載のヨーレート制御装置に相当する。そして、ヨーレート制御装置が車両Vのヨーレートを制御する制御を、「ヨーレート制御」と称する。
また、駆動力配分制御量Imは請求項に記載の制御量に相当する。
【0023】
このようなヨーレート制御装置が備わる車両Vがバンクカーブを走行するとき、バンクのない同じ曲率半径のカーブ路を走行する場合に比べて、運転者が操舵する操向ハンドル6(図1参照)の操舵角が小さくなる。一方、車両Vに発生するヨーモーメントは、バンクカーブを走行するときとバンクのないカーブ路を走行するときで等しくなる。したがって、車両Vがバンクカーブを走行する場合、実ヨーレートYawが、ECU30が算出する規範ヨーレートYrefより大きくなる。
【0024】
前記したように、図2に示すECU30は、車両V(図1参照)の実ヨーレートYawが規範ヨーレートYrefより大きいとき、車両Vにオーバーステアが発生していると判定し、エンジンE(図1参照)の駆動力の配分を、旋回内側で高くするとともに旋回外側で低くするように駆動力配分装置3を制御する駆動力配分制御量Imを算出する。
そして、駆動力配分装置3は駆動力配分制御量Imに基づいて動作し、車両Vは、旋回内側、すなわちバンクの低い側の駆動力が高くなるとともに、旋回外側、すなわちバンクの高い側の駆動力が低くなる。その結果、車両Vを旋回外側に回転させるヨーモーメントが車両Vに発生し、車両Vはバンクを駆け上がるように挙動する。
【0025】
このような車両V(図1参照)の挙動によって、運転者は違和感を覚えることから、第1の実施形態におけるECU30(図2参照)は、車両Vがバンクカーブを走行するときには、車両Vを旋回外側に回転させるヨーモーメントの発生を抑制するように駆動力配分装置3(図2参照)を制御する構成とし、運転者の違和感を低減する。
【0026】
このため、図1に示すように、車両Vにはバンク走行検出部10が備わり、バンクカーブのバンク角度βを推定する構成とする。
バンク走行検出部10がバンク角度βを推定する方法は限定するものではないが、例えば、車両Vの車速、車両Vに発生する横G、及び車両Vの実ヨーレートからバンク角度βを推定する方法が知られている。
そのため、バンク走行検出部10には、車輪速センサSw、ヨーレートセンサSy、及び横加速度センサSgが接続され、それぞれ、車輪速信号ω、ヨーレート信号Y、及び横加速度信号Gをバンク走行検出部10に入力するように構成される。
【0027】
バンク走行検出部10がバンク角度βを推定する方法は、例えば特開平10−103935号公報に記載されているので詳細な説明は省略するが、バンク走行検出部10は、車両Vに発生する横G、旋回によって発生する遠心力、車両Vに作用する重力加速度等から、バンク角度βを推定できる。
そして、推定したバンク角度βをECU30に入力する。
このようにバンク走行検出部10はバンク角度βを推定する機能を有することから、請求項に記載のバンク角推定部に相当する。
【0028】
なお、バンク走行検出部10は、例えば車両Vが右方向に傾斜するときを正、左方向に傾斜するときを負とするような、符号付きのバンク角度βを出力する構成であってもよい。この場合、例えばECU30は、バンク角度βの符号によってバンクの方向を取得することができ、バンク角度βの絶対値によって大きさを取得できる。
以下、バンク角度βの大小は、バンク角度βの絶対値の大小を示すものとする。
【0029】
また、図2に示すように、第1の実施形態に係るECU30にはバンク角補正部33が備わる。バンク角補正部33は、バンク走行検出部10が推定するバンク角度βの大きさに対応したバンク角補正ゲインBgを算出し、乗算器34に入力する。そして、ECU30は、駆動力配分演算部32が算出する駆動力配分制御量Imを乗算器34に入力するとともに、乗算器34で駆動力配分制御量Imにバンク角補正ゲインBgを乗算し、補正した駆動力配分制御量Im’を算出する。
【0030】
バンク角補正ゲインBgは、バンク角度βの大きさに対応した値であることが好適である。そして、バンク角度βが小さい領域では「1」であり、バンク角度βの増大に伴って減少し、バンク角度βが大きい領域で「0」になる特性を有することがさらに好適である。
このようなバンク角補正ゲインBgを駆動力配分制御量Imに乗算することで、車両V(図1参照)がバンク角度βの大きいバンクカーブを走行するとき、ECU30は、駆動力配分演算部32が算出する駆動力配分制御量Imを低減することができる。すなわち、ヨーレート制御装置を構成するECU30、及び駆動力配分装置3の制御量を低減できる。
【0031】
なお、バンク角度βに対応したバンク角補正ゲインBgは、実験等で予め設定しておくことができる。すなわち、バンク角度βごとに、好適なバンク角補正ゲインBgを実験等によって決定し、バンク角度βの大きさに対応したマップデータとして図示しない記憶部に記憶しておけばよい。ECU30のバンク角補正部33は、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βの絶対値を算出するとともに、バンク角度βの絶対値に基づいてマップデータを参照し、バンク角補正ゲインBgを算出できる。
【0032】
又は、バンク角度βに基づいてバンク角補正ゲインBgを算出する計算式を、バンク角補正部33が実行するプログラムに組み込んでおいてもよい。この場合、バンク角補正部33は、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βに基づいて計算式を利用し、バンク角補正ゲインBgを算出できる。
【0033】
前記したように、図1に示す車両Vがバンクカーブを走行する場合、実ヨーレートYawが規範ヨーレートYrefより大きくなることから、ECU30の駆動力配分演算部32(図2参照)は、エンジンEの駆動力の配分を、旋回内側で高くするとともに旋回外側で低くするように駆動力配分装置3を制御する駆動力配分制御量Imを算出し、駆動力配分装置3に入力する。
【0034】
しかしながら、バンク角度βの絶対値の増大にともなって減少するようなバンク角補正ゲインBgを駆動力配分制御量Imに乗算することで、車両Vがバンクカーブを走行するときの駆動力配分制御量Imを低減することができる。すなわち、バンク角度βが大きい場合、駆動力配分制御量Imが「0」に近づく方向に補正され、エンジンE(図1参照)の駆動力が、旋回内側と旋回外側に均等に配分される状態に近づく。
したがって、車両Vを旋回外側に回転させるヨーモーメントの発生を抑制でき、車両Vがバンクを駆け上がる挙動を抑制できる。
このことによって、バンクカーブを走行する車両Vの挙動が安定し、運転者の違和感を低減できる。
【0035】
このように、第1の実施形態に係る車両Vは、バンクカーブを走行するときにはエンジンEの駆動力を配分する駆動力配分制御量Imを低減することで、車両Vを旋回外側に回転させるヨーモーメントの発生を抑制して、車両Vがバンクを駆け上がる挙動を抑制し、運転者の違和感を低減できるという優れた効果を奏する。
【0036】
《第2の実施形態》
図2に示すように、第1の実施形態におけるECU30は、バンク角補正部33を備え、バンク走行検出部10が推定するバンク角度βの大きさに対応して、駆動力配分制御量Imを低減する構成とした。
これに対し、図1に示す車両Vがバンクカーブを走行する場合は、ECU30がヨーレート制御を休止し、左右の前輪2L,2Rに、エンジンEの駆動力を均等に配分する構成としてもよい。
図3は第2の実施形態に係るECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。なお、図3に示すECU30aにおいて、図2に示すECU30と同じ構成要素には同じ符号を付し、説明は適宜省略する。
【0037】
図3に示すように、第2の実施形態に係るECU30aは、図2に示すECU30に備わるバンク角補正部33の代わりに出力判定部35が備わり、乗算器34の代わりに出力制御スイッチ36が備わる。
【0038】
出力判定部35は、例えば図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路などから構成され、例えばROMに格納されるプログラムを実行する構成とすればよい。
そして、出力判定部35は、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βに基づいてバンク角度βの絶対値を算出するとともに、バンク角度βの絶対値が所定値より小さいときは、駆動力配分演算部32が算出する駆動力配分制御量Imを駆動力配分装置3に入力するように出力制御スイッチ36を切り換え、バンク角度βの絶対値が所定値以上のときは、駆動力配分制御量Imとして「0」を駆動力配分装置3に入力するように出力制御スイッチ36を切り換えるように動作する。
【0039】
このように、第2の実施形態においては、車両V(図1参照)が走行するバンクカーブのバンク角度βの絶対値が所定値以上のときは、駆動力配分制御量Imとして「0」を駆動力配分装置3に入力することで、ECU30a、及び駆動力配分装置3からなるヨーレート制御装置によるヨーレート制御を休止する構成とする。
このとき、ECU30aがヨーレート制御の休止を決定するバンク角度βの所定値は、車両Vに求められる運動性能等に基づいて、実験等で適宜設定すればよい。
【0040】
第2の実施形態に係るECU30aの出力判定部35は、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βに基づいてバンク角補正ゲインBgを算出する必要がないことから、演算負荷を軽減できる。
したがって、第2の実施形態に係るECU30aを備える車両V(図1参照)がバンクカーブを走行するとき、ECU30aは速やかにヨーレート制御を休止でき、運転者の違和感を速やかに低減できるという優れた効果を奏する。
【0041】
なお、第2の実施形態に係るECU30aの場合、バンク角度βの絶対値が所定値以下になることに伴って駆動力配分制御量Imが駆動力配分装置3に出力される、すなわち、ECU30aがヨーレート制御の休止を解除することから、バンク角度βの絶対値が所定値以下になると、左右の前輪2L,2R(図1参照)に対するエンジンE(図1参照)の駆動力の配分が急に変化し、車両Vに急にヨーモーメントが発生する場合がある。
【0042】
例えば車両V(図1参照)が走行しているカーブ路のバンクが急になくなると、車両Vに急にヨーモーメントが発生することになり、運転者が違和感を覚える。特に、運転者が操向ハンドル6(図1参照)を転舵した状態のときに、車両Vに急にヨーモーメントが発生するときの違和感が大きい。
【0043】
そこで、第2の実施形態に係るECU30aは、ヨーレート制御を休止しているとき、バンク角度βの絶対値が所定値以下になっても車両V(図1参照)が直進していない場合はヨーレート制御の休止を解除せず、車両V(図1参照)が直進しているときに、ヨーレート制御の休止を解除する構成が好適である。
【0044】
図4は、ECUがヨーレート制御の休止を解除する手順を示すフローチャートである。図4を参照して、第2の実施形態に係るECU30aがヨーレート制御の休止を解除する手順を説明する(適宜、図1、図3参照)。
なお、図4に示す手順は、車両Vがバンクカーブを走行し、ECU30aがヨーレート制御を休止しているときに、例えば所定の間隔でECU30aの出力判定部35が実行する構成とすればよい。
そして、このときの所定の間隔は、車両Vに要求される運動性能等に基づいて適宜設定すればよい。
【0045】
ECU30aの出力判定部35は、ヨーレート制御を休止しているとき、車両Vの直進判定をする(ステップS1)。すなわち、出力判定部35は、操舵角センサSsから入力される操舵角信号δに基づいて、操向ハンドル6の操舵角を算出する。そして、操向ハンドル6の操舵角が所定値以下のとき、車両Vが直進していると判定する。
このため、図3に示すように、出力判定部35には操舵角センサSsが接続され、操舵角信号δが入力される構成が好適である。
【0046】
出力判定部35は、車両Vが直進していないときは(ステップS2→No)、ヨーレート制御の休止を解除する処理を終了するが、車両Vが直進しているときは(ステップS2→Yes)、バンク角度βを取得する(ステップS3)。すなわち、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βを取得する。
【0047】
出力判定部35は、取得したバンク角度βの絶対値を算出するとともに、バンク角度βの絶対値と所定値βLIMを比較する(ステップS4)。そして、バンク角度βの絶対値が所定値βLIMより小さいときは(ステップS4→Yes)、ヨーレート制御の休止を解除する(ステップS5)。すなわち、駆動力配分演算部32が算出する駆動力配分制御量Imを駆動力配分装置3に入力するように出力制御スイッチ36を切り換え、駆動力配分演算部32が算出する駆動力配分制御量Imを駆動力配分装置3に入力する。
【0048】
一方、バンク角度βの絶対値が所定値βLIM以上のとき(ステップS4→No)、出力判定部35は、ヨーレート制御の休止を解除することなく処理を終了する。すなわち、駆動力配分制御量Imとして「0」を駆動力配分装置3に入力するように出力制御スイッチ36を切り換えた状態を維持し、駆動力配分制御量Imとして「0」を駆動力配分装置3に入力する。
なお、出力判定部35がヨーレート制御の休止の解除を判定するバンク角度βの所定値βLIMは、車両Vに求められる運動性能等に基づいて、実験等で適宜設定すればよい。
【0049】
このように、図1に示す車両Vが直進状態であり、バンク角度βの絶対値が所定値βLIMより小さくなったときに、ECU30aがヨーレート制御の休止を解除する構成によって、運転者が操向ハンドル6を転舵した状態のときには、左右の前輪2L,2Rに対するエンジンEの駆動力の配分が急に変化しない。したがって、運転者が操向ハンドル6を転舵した状態のときに、車両Vに急にヨーモーメントが発生することがなく、運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0050】
このように第2の実施形態に係る車両V(図1参照)は、例えば走行するカーブ路のバンクが急になくなった場合であっても、運転者が違和感を覚えることなく車両Vを運転できるという優れた効果を奏する。
【0051】
以上のように、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る車両V(図1参照)は、駆動輪である左右の前輪2L,2R(図1参照)の駆動力の配分を好適に変更して、バンクカーブを走行するときの運転者の違和感を低減することができる。
【0052】
《変形例1》
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
第1の実施形態では、図1に示すECU30と駆動力配分装置3をヨーレート制御装置としたが、ヨーレート制御装置はこれに限定されるものではない。
【0053】
図5は、変形例1に係る車両の一構成を示す図である。なお、図5に示す車両Vaにおいて、図1に示す車両Vと同じ構成要素については同じ符号を付し、説明は適宜省略する。
図5に示すように、変形例1に係る車両Vaには、ECU30(図1参照)の代わりにECU30’が備わり、さらに、制動力配分装置4と制動力配分装置4を制御する制動力配分制御装置(以下、VSAECU)40が備わる。
【0054】
ECU30’は、図2に示すバンク角補正部33及び乗算器34を含まない以外は、ECU30と同じ構成とし、駆動力配分装置3を制御するための駆動力配分制御量Imを算出してヨーレート制御を実行する。さらに、ECU30’はVSAECU40と接続され、VSAECU40に駆動力配分制御量Imと規範ヨーレート演算部31(図2参照)で算出する規範ヨーレートYrefを入力する機能を有する。
【0055】
制動力配分装置4は、左右の前輪2L,2R及び左右の後輪1L,1Rのブレーキ油圧系に供給されるブレーキ油圧を任意の比率で制御できる。
そして車両Vaは、制動力配分装置4で、左車輪2L(前輪)及び1L(後輪)が発生する制動力と、右車輪2R(前輪)及び1R(後輪)が発生する制動力に差を持たせて車両Vにヨーモーメントを発生させ、車両Vaのヨーレートを制御することができる。
そして、変形例1に係る車両Vaにおいては、駆動力配分装置3、ECU30’、制動力配分装置4、及びVSAECU40を含んでヨーレート制御装置を構成する。
【0056】
VSAECU40は、制動力配分装置4の制御量であるブレーキ制御量Bmを算出して制動力配分装置4に入力し、制動力配分装置4を制御する機能を有する。
制動力配分装置4は、VSAECU40から入力されるブレーキ制御量Bmに基づいて、各車輪1L,1R,2L,2Rのブレーキ油圧系に供給するブレーキ油圧の比率を設定し、設定した比率に基づいて、各車輪1L,1R,2L,2Rのブレーキ油圧系にブレーキ油圧を供給することで、任意の制動力を各車輪1L,1R,2L,2Rに発生することができる。
【0057】
例えば、車両Vaがバンクカーブを走行する場合など、実ヨーレートYawが規範ヨーレートYrefより大きいとき、前記したように、左右の前輪2L,2Rに配分されるエンジンEの駆動力が、旋回内側で高くなるとともに旋回外側で低くなる。そして車両Vaには、車両Vaを旋回外側へ回転させるヨーモーメントが発生し、バンクカーブを走行する車両Vaはバンクを駆け上がるように挙動する。
【0058】
そこで、変形例1に係る車両VaのVSAECU40は、車両Vaがバンクカーブを走行していると判定した場合、旋回内側になる車輪に、旋回外側になる車輪より大きな制動力を発生させる。
この構成によって、バンクカーブを走行する車両Vaを旋回外側へ回転させるヨーモーメントの発生を抑制でき、車両Vaがバンクを駆け上がる挙動を抑制できる。
【0059】
図6は、VSAECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。図6に示すように、VSAECU40は、制動力配分演算部41を含んで構成される。制動力配分演算部41は、図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路などから構成され、例えばROMに格納されるプログラムを実行する構成とすればよい。
制動力配分演算部41には、ヨーレートセンサSy、及び車輪速センサSwが接続され、それぞれ、ヨーレート信号Y、車輪速信号ωを制動力配分演算部41に入力する。
【0060】
また、制動力配分演算部41には、ECU30’とバンク走行検出部10が接続される。そして、ECU30’は算出した駆動力配分制御量Imと規範ヨーレートYrefを制動力配分演算部41に入力し、バンク走行検出部10は、推定したバンク角度βを制動力配分演算部41に入力する構成とする。
【0061】
制動力配分演算部41は、ヨーレートセンサSyから入力されるヨーレート信号Yに基づいて車両Va(図5参照)の実ヨーレートYawを算出する。さらに、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βの絶対値を算出する。そして、ECU30’から入力される規範ヨーレートYrefより実ヨーレートYawが大きく、且つバンク角度βの絶対値が所定値より大きいとき、制動力配分演算部41は、車両Vaがバンクカーブを走行していると判定する。
【0062】
そして、制動力配分演算部41は、旋回内側の車輪に、旋回外側の車輪より大きな制動力を発生させるためのブレーキ制御量Bmを算出し、制動力配分装置4に入力する。
このとき、制動力配分演算部41は、規範ヨーレートYrefと実ヨーレートYawの偏差(ヨーレート偏差)、バンク角度β、車両Va(図5参照)の車速、及び左右の前輪2L,2R(図5参照)への駆動力の配分に対応して、ブレーキ制御量Bmを算出する構成が好適である。
この構成によって、制動力配分装置4は、ヨーレート偏差、バンク角度β、車両Vaの車速、及び左右の前輪2L,2Rへの駆動力の配分に対応した好適な制動力を、旋回内側の車輪に発生させることができる。
【0063】
そこで、制動力配分演算部41は、ヨーレートセンサSyから入力されるヨーレート信号Yに基づいて実ヨーレートYawを算出するとともに、ECU30’から入力される規範ヨーレートYrefと実ヨーレートYawの偏差であるヨーレート偏差を算出し、車輪速センサSwから入力される各車輪1L,1R,2L,2Rの車輪速信号ωに基づいて車両Vaの車速を算出する。
そして、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及びECU30’から入力される駆動力配分制御量Imに対応したブレーキ制御量Bmを算出し、制動力配分装置4に入力する。
【0064】
すなわち、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応した、各車輪1L,1R,2L,2Rの好適な制動力を予め設定し、その制動力を各車輪1L,1R,2L,2Rに発生させるためのブレーキ制御量Bmを、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応して算出する構成とすればよい。
【0065】
具体的に、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したブレーキ制御量Bmを実験等で設定してマップデータを作成し、図示しない記憶部に記憶しておけばよい。
VSAECU40の制動力配分演算部41は、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに基づいてマップデータを参照することで、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したブレーキ制御量Bmを算出できる。
【0066】
そして、このように算出したブレーキ制御量Bmを制動力配分装置4に入力することで、車両Vaの車速、及び左右の前輪2L,2Rへの駆動力の配分に対応した好適な制動力を各車輪1L,1R,2L,2Rに発生させることができ、旋回内側の車輪に、旋回外側の車輪より大きな制動力を発生させることができる。
【0067】
なお、前記したように、バンク走行検出部10が推定するバンク角度βに、車両Vaの傾斜方向に対応した符号がついている構成とすれば、VSAECU40の制動力配分演算部41は車両Vaが傾斜している方向を取得できる。
そして、制動力配分演算部41は、車両Vaが低い側を旋回内側と判定する構成にできる。
【0068】
このように、変形例1に係る車両Vaにおいては、駆動力配分装置3、ECU30’、制動力配分装置4、及びVSAECU40をヨーレート制御装置とし、車両Vaがバンクカーブを走行する場合、旋回内側の車輪に、旋回外側の車輪より大きな制動力を発生させることでヨーレートを制御する。この構成によって、バンクカーブを走行中の車両Vaを旋回外側へ回転させるヨーモーメントの発生を好適に抑制して車両Vaがバンクを駆け上がる挙動を抑制し、運転者の違和感を低減できるという優れた効果を奏する。
【0069】
なお、図6に示す制動力配分演算部41は、車両Va(図5参照)がバンクカーブを走行していると判定した場合、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したブレーキ制御量Bmを算出することなく、固定値として予め設定されているブレーキ制御量Bmを制動力配分装置4に入力する構成としてもよい。
【0070】
このような構成によって、制動力配分演算部41は、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したブレーキ制御量Bmを算出する必要がなくなり、ECU30’の演算負荷を軽減できる。したがって、車両Va(図5参照)がバンクカーブを走行するとき、旋回内側の車輪に、旋回外側の車輪より大きな制動力を速やかに発生させることができ、運転者の違和感を速やかに低減できるという優れた効果を奏する。
この場合、ブレーキ制御量Bmの固定値は、実験等で予め設定しておけばよい。
【0071】
変形例1においては、図5に示す駆動力配分装置3、ECU30’、制動力配分装置4、及びVSAECU40からなるヨーレート制御装置の制御量である駆動力配分制御量Imによって車両Vaに発生するヨーモーメントを、VSAECU40が算出するブレーキ制御量Bmによって各車輪1L,1R,2L,2Rに発生する制動力で抑制することから、ヨーレート制御装置の制御量である駆動力配分制御量Imを低減するのと同等の効果を得ることができる。
【0072】
《変形例2》
図7は、変形例2に係る車両の一構成を示す図である。なお、図7に示す車両Vbにおいて、図5に示す車両Vaと同じ構成要素については同じ符号を付し、説明は適宜省略する。
図7に示すように、変形例2に係る車両Vbには、図5に示す制動力配分装置4とVSAECU40の代わりに、左右の後輪1L,1Rのトー角(リアトー角)を独立に設定可能なリアトー角制御装置20(20L,20R)と、リアトー角制御装置20を制御するリアトーECU21が備わる。
【0073】
リアトー角制御装置20は、左右の後輪1L,1Rのトー角を任意に設定して車両Vbにヨーモーメントを発生させ、車両Vbのヨーレートを制御できることから、変形例2に係る車両Vbにおいては、駆動力配分装置3、ECU30’、リアトー角制御装置20、及びリアトーECU21をヨーレート制御装置とする。
なお、後輪1L,1Rのトー角を任意に設定するリアトー角制御装置20の技術は公知であり、その詳細な説明は省略する。
【0074】
また、ECU30’はリアトーECU21と接続され、リアトーECU21に駆動力配分制御量Imと、規範ヨーレート演算部31(図2参照)で算出する規範ヨーレートYrefを入力する機能を有する。
【0075】
前記したように、車両Vbがバンクカーブを走行する場合など、実ヨーレートYawが規範ヨーレートYrefより大きいとき、左右の前輪2L,2Rに配分されるエンジンEの駆動力が、旋回内側で高くなるとともに旋回外側で低くなる。そして車両Vbには、車両Vbを旋回外側へ回転させるヨーモーメントが発生し、バンクカーブを走行する車両Vbはバンクを駆け上がるように挙動する。
【0076】
そこで、変形例2に係る車両Vbがバンクカーブを走行している場合、リアトー角制御装置20は、車両Vbを旋回内側に回転させるヨーモーメントが発生するように、後輪1L,1Rのトー角を設定する。
【0077】
具体的に、リアトーECU21は、車両Vbがバンクカーブを走行していると判定した場合、車両Vbを旋回内側に回転させるヨーモーメントが発生するようなリアトー角を算出する。そして、後輪1L,1Rのトー角を、算出したリアトー角に設定するようにリアトー角制御装置20を制御するリアトー角制御量RTmを算出し、リアトー角制御装置20に入力する。
【0078】
この構成によって、バンクカーブを走行中の車両Vbを旋回外側へ回転させるヨーモーメントの発生を好適に抑制して車両Vbがバンクを駆け上がる挙動を抑制し、バンクカーブにおける車両Vbの走行を安定させることができる。
【0079】
図8は、リアトーECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。図8に示すように、リアトーECU21は、リアトー角演算部22を含んで構成される。リアトー角演算部22は、図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えるマイクロコンピュータおよび周辺回路などから構成され、例えばROMに格納されるプログラムを実行する構成とすればよい。
リアトー角演算部22には、ヨーレートセンサSy、及び車輪速センサSwが接続され、それぞれ、ヨーレート信号Y、車輪速信号ωをリアトー角演算部22に入力する。
【0080】
また、リアトー角演算部22には、ECU30’とバンク走行検出部10が接続される。そして、ECU30’は算出した駆動力配分制御量Imと規範ヨーレートYrefをリアトー角演算部22に入力し、バンク走行検出部10は、推定したバンク角度βをリアトー角演算部22に入力する構成とする。
【0081】
リアトー角演算部22は、ヨーレートセンサSyから入力されるヨーレート信号Yに基づいて車両Vb(図7参照)の実ヨーレートYawを算出する。さらに、バンク走行検出部10から入力されるバンク角度βの絶対値を算出する。そして、ECU30’から入力される規範ヨーレートYrefより実ヨーレートYawが大きく、且つバンク角度βの絶対値が所定値より大きいとき、リアトー角演算部22は、車両Vbがバンクカーブを走行していると判定する。
【0082】
そして、リアトー角演算部22は、旋回外側に車両Vb(図7参照)を回転させるヨーモーメントを好適に打ち消すように車両Vbを旋回内側に回転させるヨーモーメントを算出する。さらに、リアトー角演算部22は、算出したヨーモーメントが発生するようなリアトー角を算出する。そして、後輪1L,1R(図7参照)のトー角を、算出したリアトー角に設定するようにリアトー角制御装置20を制御するリアトー角制御量RTmを算出し、リアトー角制御装置20に入力する。
【0083】
このとき、リアトー角演算部22は、規範ヨーレートYrefと実ヨーレートYawの差(ヨーレート偏差)、バンク角度β、車両Vb(図7参照)の車速、及び左右の前輪2L,2R(図7参照)への駆動力の配分に対応して、リアトー角制御量RTmを算出する構成が好適である。
この構成によって、リアトー角演算部22は、ヨーレート偏差、バンク角度β、車両Vbの車速、及び左右の前輪2L,2Rへの駆動力の配分に対応した好適なヨーモーメントを車両Vbに発生させることができる。
【0084】
そこで、リアトー角演算部22は、ヨーレートセンサSyから入力されるヨーレート信号Yに基づいて実ヨーレートYawを算出するとともに、ECU30’から入力される規範ヨーレートYrefと実ヨーレートYawの偏差であるヨーレート偏差を算出し、車輪速センサSwから入力される各車輪1L,1R,2L,2Rの車輪速信号ωに基づいて車両Vb(図7参照)の車速を算出する。
そして、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及びECU30’から入力される駆動力配分制御量Imに対応したリアトー角制御量RTmを算出し、リアトー角制御装置20に入力する。
【0085】
すなわち、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応した、車両Vb(図7参照)のヨーモーメントを予め設定し、そのヨーモーメントを車両Vbに発生させるためのリアトー角制御量RTmを、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応して算出する構成とすればよい。
具体的に、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したリアトー角制御量RTmを実験等で設定してマップデータを作成し、図示しない記憶部に記憶しておけばよい。
リアトーECU21のリアトー角演算部22は、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに基づいてマップデータを参照することで、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したリアトー角制御量RTmを算出できる。
【0086】
そして、このように算出したリアトー角制御量RTmをリアトー角制御装置20(20L,20R)に入力することで左右の後輪1L,1Rのトー角を好適に設定することができ、ヨーレート偏差、バンク角度β、車両Vbの車速、及び左右の前輪2L,2Rへの駆動力の配分に対応した好適なヨーモーメントを車両Vb(図7参照)に発生させることができる。
【0087】
このように、図7に示す、変形例2に係る車両Vbにおいては、駆動力配分装置3、ECU30’、リアトー角制御装置20、及びリアトーECU21をヨーレート制御装置とし、車両Vbがバンクカーブを走行する場合、リアトー角制御装置20で車両Vbを旋回内側に回転させるヨーモーメントを発生させるようにヨーレート制御する。そして、車両Vbを旋回内側に回転させるヨーモーメントで、車両Vbを旋回外側へ回転させるヨーモーメントを好適に打ち消して車両Vbがバンクを駆け上がる挙動を抑制し、運転者の違和感を低減することができるという優れた効果を奏する。
【0088】
なお、図8に示すリアトー角演算部22は、車両Vb(図7参照)がバンクカーブを走行していると判定した場合、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したリアトー角制御量RTmを算出することなく、固定値として予め設定されているリアトー角制御量RTmをリアトー角制御装置20に入力する構成としてもよい。
【0089】
この構成によって、リアトー角演算部22は、ヨーレート偏差、バンク角度β、車速、及び駆動力配分制御量Imに対応したリアトー角制御量RTmを算出する必要がなくなり、ECU30’の演算負荷を軽減できる。したがって、車両Vb(図7参照)が、バンクカーブを走行するとき、車両Vbを旋回内側に回転させるヨーモーメントを速やかに発生させることができ、運転者の違和感を速やかに低減できるという優れた効果を奏する。
なお、このようなリアトー角制御量RTmの固定値は、実験等で予め設定しておけばよい。
【0090】
変形例2においては、図7に示す駆動力配分装置3、ECU30’、リアトー角制御装置20、及びリアトーECU21からなるヨーレート制御装置の制御量である駆動力配分制御量Imによって車両Vbに発生するヨーモーメントを、リアトーECU21が算出するリアトー角制御量RTmに基づいて設定される左右の後輪1L,1Rのトー角によって車両Vbに発生するヨーモーメントで打ち消すことから、ヨーレート制御装置の制御量である駆動力配分制御量Imを低減するのと同等の効果を得ることができる。
【0091】
以上のように、図1に示す駆動力配分装置3及びECU30、図5に示す制動力配分装置4及びVSAECU40、図7に示すリアトー角制御装置20及びリアトーECU21を含んで構成されるヨーレート制御装置を備える車両がバンクカーブを走行する場合、車両がバンクを駆け上がる挙動を好適に抑制することができ、運転者の違和感を好適に低減できるという優れた効果を奏する。
【0092】
なお、ヨーレート制御装置は、図1に示す駆動力配分装置3及びECU30、図5に示す制動力配分装置4及びVSAECU40、図7に示すリアトー角制御装置20及びリアトーECU21に限定されず、車両のヨーレートを制御できる装置であればよく、例えば、転舵輪を直接転舵する構成のヨーレート制御装置であっても同様の効果を得ることができる。
また、前記した第1の実施形態、第2の実施形態、変形例1、及び変形例2を適宜組み合わせた構成のヨーレート制御装置であっても同様の効果を得ることができる。
さらに、前輪駆動に限らず、後輪駆動の車両をベースにして構成したヨーレート制御装置であっても同様の効果を得ることができる。
さらに、電動パワーステアリング装置の代わりに、例えば油圧を用いたパワーステアリング装置を有する車両をベースにして構成したヨーレート制御装置であっても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】ヨーレート制御装置を備える車両の一構成例を示す構成図である。
【図2】ECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。
【図3】第2の実施形態に係るECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。
【図4】ECUがヨーレート制御の休止を解除する手順を示すフローチャートである。
【図5】変形例1に係る車両の一構成を示す図である。
【図6】VSAECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。
【図7】変形例2に係る車両の一構成を示す図である。
【図8】リアトーECUの機能ブロックの一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1L,1R 後輪
2L,2R 前輪
3 駆動力配分装置(ヨーレート制御装置)
4 制動力配分装置(ヨーレート制御装置)
6 操向ハンドル
10 バンク走行検出部(バンク角推定部)
20(20L,20R) リアトー角制御装置(ヨーレート制御装置)
21 リアトーECU(ヨーレート制御装置)
30,30’,30a ECU(ヨーレート制御装置)
40 VSAECU(ヨーレート制御装置)
V,Va,Vb 車両
Sy ヨーレートセンサ(ヨーレート検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操向ハンドルの操舵角及び車速に応じて設定される規範ヨーレートとヨーレート検出手段が検出する実ヨーレートの偏差に応じた制御量で車両のヨーレート制御を行うヨーレート制御装置であって、
前記車両に備わるバンク角推定部が推定するバンク角度が所定値よりも大きくなったときには、前記制御量を低減することを特徴とするヨーレート制御装置。
【請求項2】
前記バンク角推定部が推定するバンク角度が前記所定値よりも大きくなった場合に前記ヨーレート制御を休止するとともに、
前記バンク角推定部が推定するバンク角度が前記所定値以下になった場合は、前記車両が直進状態になったときに前記ヨーレート制御の休止を解除することを特徴とする請求項1に記載のヨーレート制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−126093(P2010−126093A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305258(P2008−305258)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】