説明

レジスト塗布装置およびレジスト塗布方法

【課題】試料の複数の表面に対してレジスト溶液を均一な膜厚でもって塗布することができるレジスト塗布装置およびレジスト塗布方法を提供する。
【解決手段】レジスト塗布装置1を、密閉型の装置本体2と気体導入部3とで構成する。装置本体2は、内部がシリコン製の試料4を収納する試料室5と、レジスト溶液6を収納するレジスト溶液室7と、レジスト溶液6を霧化させ霧状の粒子を発生させる超音波発生装置8を収納する超音波発生部9および試料室5とレジスト溶液室7とを接続する搬送部10とに仕切られている。試料室5は、搬送部10を挟んでレジスト溶液室7の上部に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造や微細構造の製造に用いるリソグラフィ技術に関連したレジスト塗布装置およびレジスト塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体製造技術は、基板の上に薄膜を形成する薄膜形成技術、薄膜上に予め設計されたレジストパターンを形成するリソグラフィ技術、レジストパターンを薄膜に転写するエッチング技術、イオン注入や熱処理などにより薄膜の電気的性質を変える変性技術などにより、電気的に異なる性質の材料を複雑な構造に組み合わせて予定された電気的性質を有する電子素子を作製する技術であり、その詳細は例えば非特許文献1に詳しく記載されている。
【0003】
また、従来の微細構造製造技術は、上記の半導体製造技術やそれに類似の技術を用いて、複雑な立体構造を作製したりその立体構造と電気回路を組み合わせた素子を作製したりすることにより、微細な機械やセンサ等を作製する技術であり、その詳細は例えば非特許文献2に詳しく記載されている。
【0004】
近年、半導体装置を様々な目的に使用するためにその全体の寸法を小さくしたり、様々な目的のためにきわめて微細で複雑な立体構造を作製するために、100ナノメートル以下の微細な構造を有する立体素子の作製技術が注目されている。このような目的のために、3次元ナノ構造形成技術の研究開発が進められており、例えば非特許文献3,4などに記載されている電子ビームリソグラフィを用いた3次元ナノ加工技術や、非特許文献5などに記載されている荷電粒子ビームの誘起による材料堆積を用いた技術がある。これらの技術のうち、電子ビームリソグラフィを用いた3次元ナノ加工技術は、微細構造形成の速度が速くかつ様々な材料に適用し得るなど多くの面で優れている技術である。
【0005】
しかしながら、電子ビームリソグラフィを用いた3次元ナノ加工技術を様々な材料に適用するためには、立体構造の試料の複数の面に均一な厚さでレジスト膜を形成(塗布)する必要がある。何故なら、レジストの膜厚に大きなばらつきがあると、リソグラフィによって形成されたレジストの形状(寸法)が予め設計したものから大きくずれてしまったり、レジストの膜厚が場所によってエッチングのために必要な厚さに達していなかったりしてしまうためである。
【0006】
従来のレジスト塗布技術としては、半導体ウエハなどの平面試料に最も多く用いられているスピンコートによる方法、スパッタや蒸着などの薄膜形成技術による方法、レジスト溶液を試料にスプレーする方法、レジスト溶液に試料を浸漬する方法、レジスト溶液を霧化させる方法などがある。しかし、これらの従来方法ではいずれも立体的な試料の場合、試料のそれぞれの面に対して膜厚が均一なレジト膜を形成することは困難であった。
【0007】
スピンコートによる方法は、試料を回転させながらレジスト溶液を滴下し遠心力によって均一に塗布する方法であり、平面試料に適した方法ではあるが、立体試料の場合、試料のそれぞれの面によって重力や遠心力の大きさが異なるために、均一な膜厚をもったレジストの塗布は困難である。
【0008】
薄膜形成技術による方法は、真空中でレジスト材料の微粒子を試料に向かって吹き付け、試料表面にレジスト材料の薄膜を形成する方法であり、具体的にはスパッタ蒸着の方法や加熱蒸着の方法などがある。
【0009】
スプレーによる方法は、レジスト材料を溶媒に溶解させたレジスト溶液を気体と混合させて試料に吹き付け、その後溶媒を乾燥させて試料の表面上にレジスト薄膜を形成する方法である。
【0010】
浸漬による方法については、非特許文献6に詳細に記載されている。この浸漬方法を図4を用いて簡単に説明すると、101は円柱形状をした試料、102はレジスト溶液、103は試料101を昇降させる昇降機構、104は試料101をその軸線周りに回転させる回転機構である。
【0011】
上記装置において、レジストの塗布に際しては、先ず昇降機構103を下降させて試料101全体をレジスト溶液102に浸漬する。次に、回転機構104を動作させて試料101を回転させながら上下動機構103を上昇させることで、試料101を引き上げる。これにより試料101の周面全体にレジスト溶液102が均一に塗布される。そして、これを乾燥させることで、試料101の周面に膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。このように浸漬による方法では、円柱形状からなる立体構造の試料101であってもその周面全体に膜厚が均一なレジストを塗布することが可能である。
【0012】
しかしながら、このような浸漬による塗布方法では円柱試料の底面やその他の殆どの立体形状の試料について、それぞれの表面に対して膜厚が均一になるようにレジストを塗布することは困難である。何故なら、試料の角部や周辺などの異方性の大きい部分ではレジスト溶液が均一に塗布されず、また重力によりレジスト溶液が試料表面を伝って落下することにより不均一に塗布される部分ができてしまうからである。
【0013】
霧化による方法は、非特許文献7などに詳細に記載されている。この霧化方法を図5を用いて簡単に説明と、111は平板な試料、112はレジスト溶液、113はレジスト溶液112を配置するレジスト溶液室、114はレジスト溶液112を霧化させる超音波を発生する超音波発生装置、115は試料111を配置する試料室、116はレジスト溶液室113と試料室115を接続する搬送部である。117はレジスト溶液112の霧化によって発生した霧状の粒子をレジスト溶液室113から搬送部116を経由して試料室115に搬送するための気体(不活性ガス)をレジスト溶液室113に導入する気体導入部、118は試料111に印加する高い電圧を発生する電圧発生装置、119は電圧発生装置118で発生した高電圧を試料111に印加するケーブルである。
【0014】
上記装置において、レジストの塗布に際しては、先ず電圧発生装置118で発生させた高電圧をケーブル119を用いて試料111に印加する。次に、超音波発生装置114で発生した超音波によりレジスト溶液室113内のレジスト溶液112を霧化させる。そして、この霧化によって発生した霧状の粒子を気体導入部117から導入された気体によって、搬送部116を経由して試料室115内に導入すると、予め試料111に印加させていた高電圧によって霧状の粒子を加速し、試料111の表面に衝突させ付着させる。この霧状の粒子の衝突と付着を一定時間行うことで、試料111の表面にレジスト溶液112が塗布される。次に、この試料111を大気中に引き出すなどしてレジスト溶液112を乾燥させることで、試料111の表面に所定の膜厚のレジスト膜が形成される。
【0015】
このように、レジスト溶液を霧化させる方法では、平板な試料の表面にレジスト溶液を均一な膜厚で塗布することが可能である。しかし、この方法が立体試料に適用された例は未だ報告されておらず、またそのままでは立体試料に適用した際に、それぞれの表面に対してレジスト溶液を均一な膜厚で塗布することは困難である。何故なら、レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を試料付近に搬送することにより試料に対して一定の方向をもって霧状の粒子が試料に近づくこと、および試料に高電圧を印加することにより試料付近に電位分布ができ、この分布によって霧状の粒子の各々にそれぞれの力が働き、ある程度の速度をもって試料に衝突することとの二つの理由により、霧状の粒子の動きの陰になる面にはレジスト溶液が塗布されにくくなるからである。よって、この霧化による方法では立体試料のそれぞれの表面にレジストを均一な膜厚をもって塗布することは難しい。
【0016】
【非特許文献1】LSIハンドブック(電子通信学会編、オーム社発行)
【非特許文献2】マイクロマシン(江刺正喜監修、産業技術サービスセンター発行)
【非特許文献3】Microelectronic Engineering Vol.73-74 p.85(2004)
【非特許文献4】Proceedings of 17th IEEE International Conference on Microelectromechanical Systems,p.609(2004)
【非特許文献5】Journal of Vacuum Science and Technology B Vol.p.3181(2000)
【非特許文献6】Japanese Journal of Applied Physics Vol.43 p.4031(2004)
【非特許文献7】Proceedings of SPIE Vo1.5376 p.861
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上の説明で明らかなように、従来の塗布方法ではいずれも立体形状の試料のそれぞれの表面に対してレジストを均一に塗布することは困難であった。つまり、試料をレジスト溶液に浸漬する方法では、円柱以外の殆どの立体形状の試料に適用できない。また、従来のレジスト溶液を霧化して試料に塗布する方法などレジスト溶液の粒子等をある程度の速度で試料に衝突させる方法では、試料付近での粒子等の動きの陰になる面に対してはレジスト溶液が塗布されにくくなってしまう。
【0018】
そこで、本発明者らは試料の表面に対してレジスト溶液を塗布する方法のうち、特に霧化による方法について鋭意検討し種々の実験を行った結果、(a)塗布時の条件によっては、具体的には試料室とレジスト溶液室の高さを変えたり、(b)気体導入部にレジスト溶液の溶媒の蒸気を発生させる蒸気発生部を設け、この蒸気発生部で発生した溶媒の蒸気と気体(不活性ガス)とをレジスト溶液室に導入したり、(c)レジスト溶液を霧化させ、その霧状の粒子を気体によって試料室に搬送する際、霧状の粒子中に含まれているレジスト溶液の溶媒を部分的あるいは全部乾燥させたり、あるいは(d)試料室に導入される気体をレジスト溶液の溶媒の蒸気で飽和させたりするれば、試料のそれぞれの面に対してレジストを均一な膜厚で塗布することができることを見出した。
【0019】
本発明は上記したような従来の問題と実験結果による知見に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、立体構造の試料であってもそのそれぞれの表面に対してレジストを均一に塗布することができるレジスト塗布装置およびレジスト塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために第1の発明は、レジスト溶液を配置するレジスト溶液室と、前記レジスト溶液を霧化させる超音波発生装置と、試料を配置する試料室と、前記レジスト溶液室と前記試料室を接続する搬送部と、前記レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を前記レジスト溶液室から前記搬送部を経由して前記試料室に搬送するための気体を前記レジスト溶液室に導入する気体導入部とを備え、前記試料室を前記レジスト溶液室より上部に設けたものである。
【0021】
第2の発明は、レジスト溶液を配置するレジスト溶液室と、前記レジスト溶液を霧化させる超音波発生部と、試料を配置する試料室と、前記レジスト溶液室と前記試料室を接続する搬送部と、前記レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を前記レジスト溶液室から前記搬送部を経由して前記試料室に搬送するための気体を前記レジスト溶液室に導入する気体導入部とを備え、
前記気体導入部に前記レジスト溶液の溶媒の蒸気を発生させる蒸気発生部を設け、この蒸気発生部で発生した前記溶媒の蒸気と前記気体を前記レジスト溶液室に導入するようにしたものである。
【0022】
第3の発明は、前記第1の発明において、前記気体導入部に前記レジスト溶液の溶媒の蒸気を発生させる蒸気発生部を設け、この蒸気発生部で発生した前記溶媒の蒸気と前記気体を前記レジスト溶液室に導入するようにしたものである。
【0023】
第4の発明は、超音波を用いてレジスト溶液を霧化させ、この霧状の粒子を気体の流れに乗せて搬送し試料の表面に付着させるレジスト塗布方法において、前記霧状の粒子中に含まれているレジスト溶液の溶媒を前記搬送中に部分的または全部乾燥させるものである。
【0024】
第5の発明は、超音波を用いてレジスト溶液を霧化させ、この霧状の粒子を気体の流れに乗せて搬送し試料の表面に付着させるレジスト塗布方法において、前記気体を予め前記レジスト溶液の溶媒の蒸気で飽和させておくことと、前記試料の材質に対応して試料の表面とレジスト溶液の接触角が5度未満となるような濃度をもった溶媒を用いることと、エステル類に属する溶媒を用いることの少なくともいずれか1つを用いるものである。
【0025】
第6の発明は、エステル類に属する溶媒として酢酸2−エトキシエチルを用いるものである。
【発明の効果】
【0026】
第1の発明においては、試料室をレジスト溶液室より上部に設けているので、レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を搬送する気体の流量を少なくすると、小さくて軽い霧状の粒子のみを試料付近に導くことができる。このため、試料付近で霧状の粒子の流れがほとんどない準静的な霧の雰囲気が実現される。つまり、わずかな量の霧状の粒子が導入、排出されており、また試料室内で1つ1つの霧状の粒子はほぼランダムに動いてはいるが、全体として変化がなくほぼ静止した状態となる。これによりランダムに動作するレジスト溶液の霧状の粒子が試料のそれぞれの表面に対して均一に付着し、膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【0027】
第2、第3の発明においては、気体導入部に設けた蒸気発生部によってレジスト溶液の溶媒の蒸気を発生させ、この蒸気を気体によって試料室に導入するようにしているので、試料表面に対する霧状の粒子の濡れ性をよくすることができる。その結果、1つの霧状の粒子が付着した時点で、その付近でのレジスト溶液の厚さが均一になる。これにより試料のそれぞれの面に対して膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【0028】
第4の発明においては、霧状の粒子中に含まれているレジスト溶液の溶媒を搬送中に部分的または全部乾燥させるようにしているので、小さいレジスト分子が試料付近に到達して準静的なレジスト分子の雰囲気が実現される。これにより第1の発明と同様にレジスト分子が試料のそれぞれの表面に対して均一に付着し、膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【0029】
第5の発明においては、気体導入部からの気体を予めレジスト溶液の溶媒の蒸気で飽和させてことと、試料の材質に対応して試料の表面とレジスト溶液の接触角が5度未満となるような濃度をもった溶媒を用いることと、エステル類に属する溶媒を用いることの少なくともいずれか1つを用いるようにしているので、第2、第3の発明と同様に試料表面に対する霧状の粒子濡れ性をよくすることができる。その結果、1つの霧状の粒子が付着した時点で、その付近でのレジスト溶液の厚さが均一になる。これにより試料のそれぞれの面に対して膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【0030】
第6の発明においては、エステル類に属する溶媒として酢酸2−エトキシエチルを用いるようにしているので、その濃度を低くするとシリコンや酸化シリコン等の半導体プロセス材料に対して接触角が小さくなり、試料表面に対する霧状の粒子の濡れ性をよくする。これにより試料の複数の面に対して均一に付着し、膜厚が均一なレジスト膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は第1の発明に係るレジスト塗布装置の一実施の形態を示す概略構成図、図2は第1の発明の実施の形態を説明するための図であり、(a)図はポリメチルメタクリレート(PMMA)を酢酸2−エトキシエチルに溶解させたレジスト溶液とシリコンの接触角がレジスト溶液の濃度に依存する関係の実験結果を示す図、(b)図は接触角の定義を示す図である。
【0032】
図1において、全体を参照番号1で示すレジスト塗布装置は、装置本体2と、気体導入部3とを備えている。装置本体2の内部は、試料4を収納する試料室5と、レジスト溶液6を収納するレジスト溶液室7と、超音波によってレジスト溶液6を霧化させ霧状の粒子を発生させる超音波発生装置8を収納する超音波発生部9および前記試料室5とレジスト溶液室7とを接続する搬送部10とに仕切られている。超音波発生部9は、装置本体2内の最下部に位置して設けられ、その上方にレジスト溶液室7が設けられ、さらにその上部に搬送部10を介して試料室5が設けられている。搬送部10の内壁には、レジスト溶液6の霧化によって発生した霧状の粒子の搬送経路を長くするためにフィン11が設けられている。試料4はシリコン製のものを用い、レジスト溶液6が塗布される表面が複数の立体表面を形成している。レジスト溶液6としては、PMMAを酢酸2−エトキシエチルからなる溶媒に溶解させたものが用いられる。
【0033】
前記気体導入部3は、レジスト溶液室7内で発生したレジスト溶液6の霧状の粒子をレジスト溶液室7から搬送部10を経由して試料室5に搬送するための気体(不活性ガス)をレジスト溶液室7に導入するためのもので、前記気体をレジスト溶液6の溶媒である酢酸2−エトキシエチル11の蒸気で飽和させるための蒸気発生部12と、前記気体の流量を調整する流量調整バルブ13とを備えている。レジスト溶液6の霧状の粒子をレジスト溶液室7から試料室5に搬送する気体としては窒素ガスを用いた。蒸気発生部12は、酢酸2−エトキシエチル14を収納する溶媒室15と、酢酸2−エトキシエチル14を加熱するヒータ16を備えている。17は窒素ガスを溶媒室15に供給する窒素ガス導入管、18は溶媒室15内で発生した蒸気を窒素ガスとともにレジスト溶液室7に導く気体導入管である。
【0034】
次に、このようなレジスト塗布装置1による試料4へのレジスト溶液6の塗布動作について説明する。
先ず試料4を試料室5内に配置し、レジスト材料であるPMMAを酢酸2−エトキシエチル11に溶解させたレジスト溶液6をレジスト溶液室7内に収納し、レジスト溶液6の溶剤である酢酸2−エトキシエチル11を溶媒室15に収納する。
【0035】
次に、ヒータ16に通電して溶媒室15内の酢酸2−エトキシエチル14を所定の温度に加熱するとともに、酢酸2−エトキシエチル14内に窒素ガスを導く。この際、流量調整バルブ13を調整し、窒素ガスの流量を少なくする。例えば、毎分1リットル以下にする。この状態で、超音波発生装置8を動作させてレジスト溶液室7内のレジスト溶液6を霧化させる。
【0036】
超音波によりレジスト溶液室7内で発生したレジスト溶液6の霧状の粒子の大きさは、数μmから数分の1μmの範囲でばらつきがあるが、窒素ガスの流量が毎分1リットル以下の少ない流量では、大きめの粒子は重力によってレジスト溶液室7の中および搬送部10の下方に留まり、小さい粒子のみが搬送部10を経由して上部の試料室5内に導かれる。
【0037】
また、レジスト溶液室7に導入された窒素ガスは、気体導入部3の蒸気発生部12で発生した酢酸2−エトキシエチル14の蒸気で飽和している。このため、小さい霧状の粒子は、レジスト溶液室7から搬送部10を経由して試料室5内に導入され、試料4の表面に付着するまで乾燥することはない。また、窒素ガスの流量は毎分1リットル以下の少ない量に抑えられているので、窒素ガスを導入した後しばらく経つと、試料室5内での霧状の粒子は準静的(通常の見方で変化がない状態)となる。つまり、わずかな量の霧状の粒子が導入、排出されており、また試料室5内で1つ1つの粒子はほぼランダムに動いているが、全体としては変化がなくほぼ静止した状態となる。
【0038】
図2は霧状の粒子の性質と濡れ性との関係を説明するための図である。図2(a)は、PMMAを酢酸2−エトキシエチルに溶解させたレジスト溶液とシリコンの接触角が、レジスト溶液の濃度に依存する関係を測定した実験結果である。接触角とは、図2(b)に示すように、扁平な固体試料A(この場合はシリコン)の表面上に液体B(この場合はレジスト溶液)を滴下した際に液体bの外周縁が固体試料Aの表面に接する角度であり、この接触角が小さい程濡れ性がよい。
【0039】
図2(a)から明らかなように、レジスト溶液6の濃度が高い場合には、シリコン表面との接触角が大きくなって濡れ性が低下するが、レジスト溶液6の濃度を低下させると、接触角が小さくなり濡れ性が向上することがわかる。
【0040】
一方、別の実験結果から、接触角が3〜5度以上になる濡れ性の低いレジスト溶液を用いた場合、レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を試料の表面に付着させ濃度の低いレジスト溶液の膜を形成しようとする際に、試料上の溶液表面の局所的な凹凸が大きくなり、均一なレジスト溶液の塗布が困難になることが分かっている。よって、試料4の材質に応じて接触角が5度未満となる濡れ性の良いレジスト溶液を用い、かつ各々の霧状の粒子の濡れ性が良いことが求められる。
【0041】
超音波発生装置8によってレジスト溶液6を霧化し、その霧状の粒子を試料4の表面に塗布する場合、霧の濃度が低ければ、試料4の表面をよく濡らすことができる。このために、霧状の粒子を搬送する窒素ガスを、予めレジスト溶液6の溶媒である酢酸2−エトキシエチル14の蒸気で飽和させておく。これにより、搬送中に霧状の粒子が乾燥することなく、低い濃度のままレジスト溶液6の霧状の粒子が試料室5内に導入され、試料4の付近に到達すると、試料表面にそのまま付着して広がる。そして、レジスト溶液6の霧状の粒子が試料4の表面に順次付着することにより、レジスト溶液6の薄膜が試料4の広い表面上に均一な膜厚で形成される。また、試料4は表面が立体的であり、そのそれぞれの表面が様々な方向を向いているが、上述したようなランダムに動く霧状の粒子の雰囲気中では、表面の向きに関わらずほぼ均一に各表面に霧状の粒子が到達して付着するため、試料4のそれぞれの表面に対してレジスト溶液6の膜がほぼ均一な膜厚で形成される。そして、レジスト溶液6の膜厚が所定の厚さになると、乾燥した大気中に試料4を取り出すなどして乾燥させ、レジスト溶液6の溶媒を蒸発させることにより、ほぼ均一な膜厚のレジスト膜が試料4の各表面に形成される。
【0042】
図3は、第2の発明の一実施の形態を示すレジスト塗布装置の概略構成図である。
第2の発明においては、気体導入部20の構成が図1に示した気体導入部3と、蒸気発生部15を備えていない点で異なり、窒素ガスのみをレジスト溶液室7に窒素ガス供給管17を介して導入するようにしたものである。その他の構成は図1に示した第1の発明の実施の形態と同一であるため、同一構成部品については同一符号をもって示しその説明を省略する。
【0043】
このようなレジスト塗布装置21による試料4へのレジスト溶液6の塗布に際しては、予め立体構造を呈する試料4を試料室5内に配置し、レジスト材料であるPMMAを酢酸2−エトキシエチルに溶解させたレジスト溶液6をレジスト溶液室7内に収納しておく。
【0044】
次に、超音波発生装置8を動作させてレジスト溶液6を霧化させる。また、気体導入部20に乾燥した窒素ガスを導入する。この際、流量調整バルブ13によって窒素ガスの流量を毎分1リットル以下の少ない流量に設定する。
【0045】
上記した第1の発明の実施の形態の説明で述べたように、レジスト溶液6の霧化によってレジスト溶液室7内で発生した霧状の粒子は、その小さい粒子のみが窒素ガスにより搬送部10を経由して上部の試料室5内に導入される。また、この小さい霧状の粒子は搬送部10内の長い経路を通過する際に、乾燥した窒素ガスにより完全に乾燥される。つまり、溶媒である酢酸2−エトキシエチルが蒸発し、レジスト材料であるPMMAの高分子が細かな粒子として浮遊している状態となる。また、窒素ガスの流量は毎分1リットル以下の少量に抑えられているので、上記した第1の発明の実施の形態の説明で述べたように前記窒素ガスの導入した後しばらく経つと、試料室5内でのPMMAの粒子は準静的となる。そして、試料4に到達したPMMAの粒子の一部はそのまま試料4の表面に付着し、多数のPMMAの粒子が付着した時点で、広い表面上で均一にPMMAの膜が形成される。また、試料4は立体的であるが、第1の発明の実施の形態で述べたように、準静的な雰囲気中では試料4の表面の向きに関わらずほぼ均一にPMMAの粒子がそれぞれの表面に到達して付着するため、立体構造からなる試料4であってもそのそれぞれの表面に対してほぼ均一な膜厚をもってPMMAの膜が形成される。
【0046】
また、上記した実施の形態では、いずれもレジストとしてPMMAを、その溶媒として酢酸2−エトキシエチルを用いる例を示したが、その他のレジスト材料やレジスト材料に適した溶媒、例えばケトン類、アルコール類等を用いてもよい。また、試料4としてはシリコン以外の種々の材料を用いてもよいことはいうまでもない。
【0047】
また、レジスト溶液6の溶媒の霧状の粒子の搬送用気体として窒素ガスを用いた例を示したが、レジスト溶液6と反応しない他の気体を用いてもよい。
【0048】
さらに、試料4の駆動については省略したが、レジスト膜の膜厚の均一性をより向上させるために任意の方向にゆっくり回転させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
なお、上記した実施の形態は、本発明により考え得る実施例の極一部であり、レジスト材料やレジスト塗布に関する、既存の前処理、後処理を施す方法や、多層構造のレジスト膜を形成する方法、気体に溶媒の蒸気を導入する既存の方法を組み合わせることにより本発明は多数の実施様態を採ることができる。具体的な組み合わせとしては、使用するレジスト材料および試料の種類や形状、求められる処理時間やレジスト膜の膜厚の均一性、および目的に応じて最適なものを選択するべきであるが、適切な組み合わせにより同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1の発明に係るレジスト塗布装置の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】第1の発明を説明するための図であり、(a)図はポリメチルメタクリレート(PMMA)を酢酸2−エトキシエチルに溶解させたレジスト溶液とシリコンの接触角がレジスト溶液の濃度に依存する関係の実験結果を示す図、(b)図は接触角の定義を示す模式図である。
【図3】第2の発明に係るレジスト塗布装置の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図4】従来の浸漬によるレジスト塗布装置の例を示す概略構成図である。
【図5】従来の霧化によるレジスト塗布装置の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1…レジスト塗布装置、2…装置本体、3…気体導入部、4…試料、5…試料室、6…レジスト溶液、7…レジスト溶液室、8…超音波発生装置、10…搬送部、12…蒸気発生部、20…気体導入部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト溶液を配置するレジスト溶液室と、前記レジスト溶液を霧化させる超音波発生装置と、試料を配置する試料室と、前記レジスト溶液室と前記試料室を接続する搬送部と、前記レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を前記レジスト溶液室から前記搬送部を経由して前記試料室に搬送するための気体を前記レジスト溶液室に導入する気体導入部とを備え、
前記試料室を前記レジスト溶液室より上部に設けたことを特徴とするレジスト塗布装置。
【請求項2】
レジスト溶液を配置するレジスト溶液室と、前記レジスト溶液を霧化させる超音波発生部と、試料を配置する試料室と、前記レジスト溶液室と前記試料室を接続する搬送部と、前記レジスト溶液の霧化によって発生した霧状の粒子を前記レジスト溶液室から前記搬送部を経由して前記試料室に搬送するための気体を前記レジスト溶液室に導入する気体導入部とを備え、
前記気体導入部に前記レジスト溶液の溶媒の蒸気を発生させる蒸気発生部を設け、この蒸気発生部で発生した前記溶媒の蒸気と前記気体を前記レジスト溶液室に導入するようにしたことを特徴とするレジスト塗布装置。
【請求項3】
請求項1記載のレジスト塗布装置において、
前記気体導入部に前記レジスト溶液の溶媒の蒸気を発生させる蒸気発生部を設け、この蒸気発生部で発生した前記溶媒の蒸気と前記気体を前記レジスト溶液室に導入するようにしたことを特徴とするレジスト塗布装置。
【請求項4】
超音波を用いてレジスト溶液を霧化させ、この霧状の粒子を気体の流れに乗せて搬送し試料の表面に付着させるレジスト塗布方法において、
前記霧状の粒子中に含まれているレジスト溶液の溶媒を前記搬送中に部分的または全部乾燥させることを特徴とするレジスト塗布方法。
【請求項5】
超音波を用いてレジスト溶液を霧化させ、この霧状の粒子を気体の流れに乗せて搬送し試料の表面に付着させるレジスト塗布方法において、
前記気体を予め前記レジスト溶液の溶媒の蒸気で飽和させておくことと、
前記試料の材質に対応して試料の表面とレジスト溶液の接触角が5度未満となるような濃度をもった溶媒を用いることと、
エステル類に属する溶媒を用いることの少なくともいずれか1つを用いることを特徴とするレジスト塗布方法。
【請求項6】
請求項5記載のレジスト塗布方法において、
エステル類に属する溶媒が酢酸2−エトキシエチルであることを特徴とするレジスト塗布方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−269482(P2006−269482A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81294(P2005−81294)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】