説明

レーザ加工機

【課題】真円状の加工穴を形成することができるレーザ加工機を得る。
【解決手段】レーザ発振器11と、第1スキャンミラー12aを有しその第1スキャンミ
ラーを軸の周りに揺動させ、第2スキャンミラー12bを有しその第2スキャンミラーを
、前記第1スキャナミラーが揺動する軸とほぼ直交する軸の周りに揺動させるガルバノス
キャナ13とを備え、前記レーザ発振器11から出射されたレーザ光が前記第1スキャン
ミラー12aから前記第2スキャンミラー12bを経て走査されるレーザ加工機にあって
、前記スキャンミラーには偏光制御膜が施されており、一方はS波の位相をP波に対して
遅らせるミラーであり、他方はP波の位相をS波に対して遅らせるミラーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はプリント基板等の被加工物に対し、穴あけ加工等を行うレーザ加工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機に用いられる光学部品として、円偏光ミラーがある(例えば、特許文献1,2参照)。円偏光ミラーは、入射角45°に固定して使用されるミラーであり、反射によりレーザ光のP波とS波の位相差を0→90°とする。これにより、レーザ光は、直線偏光から円偏光へと変換され、真円状の加工穴を形成することができる。加工穴形状は、製品の品質を評価する上で重要な要素となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4312570
【特許文献2】特許第2850683号公報
【特許文献3】特許第3825036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工穴形状は真円に近いほど高品質として評価されており、一般的に、品質検査時に真円状の加工穴であると判断されるためには、真円度は略90%以上であることが好ましいとされる。図2は、ワークへの加工実験で調べた、穴の真円度(=穴の最小径/最大径)とレーザ光の円偏光度の関係を示す図である。円偏光度は、レーザ光の偏光状態を表す指標であり、0%が直線偏光、100%が円偏光であることを示している。図より、穴の真円度は、円偏光度が高くなるにつれて向上し、略90%以上の真円度を達成するには、レーザ光の円偏光度は75%以上必要である。
【0005】
レーザ加工機にはガルバノスキャナが搭載されており、そのスキャンミラーを揺動させることにより、レーザ光を走査している。円偏光ミラーをこのスキャンミラーへ適用してレーザ光を円偏光化しようとしても、円偏光ミラーは入射角の変化を考慮して設計されていないために、スキャンミラーへ適用した場合にレーザ光の位相差が90°から大きくずれて円偏光度が大幅に低下し、真円状の加工穴を実現できないという問題があった。
図3は、特許文献1,2に記載された従来の円偏光ミラーをスキャンミラーに適用した場合に得られる位相差と揺動角の関係をシミュレーションした結果である(円偏光ミラーであるスキャンミラーを、基準角(=0°と表記)を中心に±8°揺動させる)。縦軸は位相差を表しており、横軸はスキャンミラーの揺動角を表す。
【0006】
特許文献1に記載された円偏光ミラーは、基板側からAg層、1.543μmのThF4層、1.790μmのZnS層、1.796μmのThF4層、1.427μmのZnS層、1.036μmのThF4層、1.102μmのZnS層、1.566μmのThF4層、0.947μmのZnS層が形成された構造をしている。スキャンミラーが最も大きく揺動した場合、特許文献1の円偏光ミラーにおける位相差は、揺動角−8°においては139.1°、+8°においては47.1°である。図4は、レーザ光の円偏光度と位相差の関係を示す図である。これから円偏光度を求めると、揺動角−8°の場合は13.9%、揺動角+8°の場合には19・0%であり、到底75%に及ばない。円偏光度が75%以上となるのは、揺動角が+0.2°〜+2.6°という極狭い範囲内においてのみである。
【0007】
特許文献2に記載された円偏光ミラーは、基板側からAg層、0.15μmのZnS層、1.54μmのThF4層、1.37μmのZnS層、1.15μmのThF4層、1.26μmのZnS層、0.96μmのThF4層、1.05μmのZnS層が形成された構造をしている。同様にガルバノミラーが最も大きく揺動した場合における位相差を考えると、揺動角−8°においては122.3°、揺動角+8°においては70.3°である。円偏光度に変換すると、揺動角−8°で30.3%、揺動角+8°では49.6%であり、到底75%には及ばない。円偏光度が75%以上となるのは、揺動角が−2.3°〜+1.8°という狭い範囲内においてのみである。
【0008】
このように、従来の円偏光ミラーは、入射角の変化を考慮して設計されていないため、これを±8°揺動するスキャンミラーに適用しても、常に円偏光度75%以上のレーザ光を実現することは不可能である。
この発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、真円状の加工穴を形成することができるレーザ加工機を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係わるレーザ加工機は、レーザ発振器と、第1スキャンミラーを有しその第1スキャンミラーを軸の周りに揺動させ、第2スキャンミラーを有しその第2スキャンミラーを、前記第1スキャナミラーが揺動する軸とほぼ直交する軸の周りに揺動させるガルバノスキャナとを備え、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光が前記第1スキャンミラーから前記第2スキャンミラーを経て走査されるレーザ加工機にあって、前記第1と第2スキャンミラーには、偏光制御膜が施されており、一方はS波の位相をP波に対して遅らせるスキャンミラーであり、他方はP波の位相をS波に対して遅らせるスキャンミラーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明のレーザ加工機によれば、レーザ光走査のためにスキャンミラーが±8°の範囲で揺動した場合にも、常に円偏光度75%以上のレーザ光を実現することができ、加工位置によらず真円状の加工穴を形成可能とする顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1におけるレーザ加工機を示す構成図である。
【図2】実験による加工穴の真円度とレーザ光の円偏光度の関係を示す図である。
【図3】従来の円偏光ミラーをガルバノスキャナ用スキャンミラーに適用した場合における位相差と揺動角の関係を示す図である。
【図4】レーザ光の円偏光度と位相差の関係を示す図である。
【図5】実施の形態1におけるスキャンミラーを示す断面図である。
【図6】その(a)が多層膜系とその(b)が基板へレーザ光が入射する様子を示す図である。
【図7】ZnSとYFによる4層構造のP波遅延ミラーの位相差と揺動角との関係を示す図である。
【0012】
【図8】ZnSとYFによる6層構造のS波遅延ミラーの位相差と揺動角との関係を示す図である。
【図9】レーザ加工機にZnSとYFにより構成されたスキャンミラーを取り付けた場合における円偏光度とS波遅延ミラーの揺動角との関係を示す図である。
【図10】ZnSeとThFによる4層構造のP波遅延ミラーの位相差と揺動角との関係を示す図である。
【図11】ZnSeとThFによる6層構造のS波遅延ミラーの位相差と揺動角との関係を示す図である。
【図12】レーザ加工機にZnSeとThFにより構成されたスキャンミラーを取り付けた場合における円偏光度とS波遅延ミラーの揺動角との関係を示す図である。
【図13】実施の形態2におけるスキャンミラーを示す断面図である。
【図14】実施の形態3におけるスキャンミラーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるレーザ加工機を示す構成図である。図において、レーザ発振器11から出射されたレーザ光は、まず第1スキャンミラー12aへ入射し、反射により偏向されて第2スキャンミラー12bへ入射する。そして、第2スキャンミラー12bによる反射で再び偏向され、ワークへ照射される。このレーザ光14は、二枚の第1,第2スキャンミラー12a,12bがそれぞれガルバノスキャナ13a,13bにより駆動されることで、ある一定の範囲内において走査される。第1スキャンミラー12aはガルバノスキャナ13aの軸(例えばX軸)周りに揺動され、第2スキャンミラー12bはガルバノスキャナ13bの軸(例えばX軸とほぼ直交するY軸)周りに揺動される。
【0014】
レーザ光は、P波とS波の位相をずらすことによって円偏光化される。図4は、レーザ光14の円偏光度とP波とS波の位相差の関係を示す図であるが、円偏光度75%以上のレーザ光を得るためには、レーザ光の位相差が90±8°の範囲以内であればよい。
【0015】
この発明におけるレーザ加工機は、偏光制御膜の施されたスキャンミラーを二枚有しており、レーザ光走査のためにスキャンミラーが±8°の範囲で揺動した場合にも、レーザ光の位相差を90±8°の範囲以内とする。これによって、常に円偏光度75%以上のレーザ光を実現でき、加工位置によらず真円状の加工穴を形成することができる。
ここで、光学薄膜による反射により、レーザ光に位相差が生じる原理について説明する。光学薄膜の各層(j = 1,・・・,m)は、特性マトリクスという行列により特徴付けられ、それは以下のように表される。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
【数3】

【0019】
【数4】

【0020】
【数5】

【0021】
【数6】

【0022】
【数7】

【0023】
【数8】

【0024】
【数9】

【0025】
これからP波の位相φとS波の位相φを求め、差を取ることで位相差を計算することができる。
【0026】
図5は、実施の形態1におけるスキャンミラー12a,12bを説明する断面図である。スキャンミラー12a,12bは、大きく分けて基板51、反射層52、及び偏光層(偏光制御膜)53により構成される。偏光制御膜は反射層52と偏光層53で構成される。偏光層53には、高屈折率層54と低屈折率層55があり、これらが交互に4層以上積層された構造をしている。スキャンミラー12a,12bの基板51には、軽量性かつ高剛性が要求されるため、BCまたはBeを構成材料として用いる。反射層52は、レーザ光を高反射率で反射する物質でなければならない。この目的に合う物質は金属であり、Au,Ag,Al,及びRhを用いる。高価であるため、反射膜として機能する必要最低限の膜厚(0.1μm以上)があればよい。
【0027】
偏光層53は、レーザ光のP波とS波に位相差を生じさせる層である。反射層52による高反射率を妨げないために、赤外領域での使用に適した材料を用いる必要がある。高屈折率層54には、屈折率2.2のZnS、または屈折率2.403のZnSeを構成材料として用い、低屈折率層55には、屈折率1.35のYF、YbF、ThFのうち少なくとも一種を構成材料として用いる。低屈折率材料はほぼ同じ屈折率を持つため、いずれの材料を使用してもよい。これらが連続して積層された場合には、別の層ではなく一層と見なす。
【0028】
反射層52と偏光層53は、既存の方法で形成することができ、例えば、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学蒸着法(CVD)が挙げられる。
【0029】
スキャンミラー12a,12bを設計するに当たり、現行レーザ加工機におけるガルバノスキャナの構成を確認する。現行レーザ加工機のガルバノスキャナは、二枚のスキャンミラー12a,12bの入射面が直交した構成をしている(例えば、特許文献3)。P波であるかS波であるかは、レーザ光の電場振動面が入射面に平行(Parallel)か、垂直(Senkrecht)かで決まるため、前記ガルバノスキャナでは、第1スキャンミラー12aと第2スキャンミラー12bでP波とS波が入れ替わるという事態が発生する。
【0030】
つまり、二枚のスキャンミラー12a,12bとしてS波の位相をP波に対して遅らせるミラー(以下、S波遅延ミラーと呼ぶ)を用いた場合、第1スキャンミラー12aによる位相差と第2スキャンミラー12bによる位相差が相殺し合い、レーザ光がもとの直線偏光へ戻ってしまうという現象が起きる。そこで実施の形態1では、S波遅延ミラーに加え、P波遅延ミラー(P波の位相をS波に対して遅らせるミラー)を採用し、この問題を解決する。円偏光ミラーを含めた従来からのレーザ光の偏光制御に用いられているミラーは、S波遅延ミラーである。
【0031】
以下、P波遅延ミラーとS波遅延ミラーの具体的な構成について説明する。P波遅延ミラーとS波遅延ミラーは、それぞれ45°の位相差を生み出すことを目標とする。膜層数は以下の例に限定されない。まず、高屈折率材料にZnSを採用した場合について述べる。低屈折率材料については、先に述べたようにYF3、YbF3、ThF4の屈折率がほぼ等しいため、少なくとも一種を用いればよい。表1は、4層構造のP波遅延ミラーの構成を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
このミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、その反射層の上に形成された厚み2.65〜2.89μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み1.29〜1.41μmのZnS高屈折率層と、その高屈折率層の上に形成された厚み2.34〜2.54μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み1.17〜1.27μmのZnS高屈折率層からなる。膜厚の許容幅は、実際には製造誤差が存在することを想定している。
【0034】
実際に成膜する際には蒸着装置を用い、Auは2.0±0.2Å/secの速度、YF,YbFは7.0±0.5Å/secの速度、ThFは5.0±0.5Å/secの速度、ZnSは10.0±0.5Å/secの速度で蒸着した。異物の混入を防ぐために、真空度は1.0×10−4以下を維持して行った。偏光層の膜厚制御には、光学式膜厚計を用いた。このようにして作製したミラーの位相差は、分光エリプソメータにより評価した。
【0035】
図7は、4層構造のP波遅延ミラーの設計値とZnSとYFを使って実際に作製したミラーの測定値を比較した図である。設計では、このミラーに反射されたレーザ光の位相差は45±0.1°の範囲以内におさまる。この設計に対して、実際に作製したミラーの位相差は45+0.3°〜45―0.2°であった。P波遅延ミラーに関しては、揺動角によらずほぼ45°の位相差を実現できることが分かる。
【0036】
次に、高屈折率材料にZnSを使用した6層構造のS波遅延ミラーの構成を示す。表2は、6層構造のS波遅延ミラーの構成を示す。このミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、その反射層の上に形成された厚み1.60〜1.86μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.94〜1.10μmのZnS高屈折率層と、その高屈折率層の上に形成された厚み1.51〜1.75μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.76〜0.88μmのZnS高屈折率層と、その高屈折率層の上に形成された厚み1.05〜1.21μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からな低屈折率る層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.51〜0.59mのZnS高屈折率層からなる。6層構造にすると4層構造よりも位相差に対する膜厚変化の影響が小さいため、許容される膜厚範囲も広くなる。
【0037】
【表2】

【0038】
成膜条件は先と同じである。図8は、ZnSとYFによる6層構造のS波遅延ミラーの設計値と実際に作製したミラーの測定値を比較した図である。設計した位相差は、45±4°の範囲以内であったが、実際に作製するとミラーの位相差は、45+3°〜45−5°であった。S波遅延ミラーの位相差は、揺動角に大きく影響を受ける。
【0039】
図9は、これら二枚のスキャンミラーをレーザ加工機に取り付け、その円偏光度を測定した結果である。その際、位相差の揺動角依存性が小さいP波遅延ミラーを基準角に固定し、S波遅延ミラーを揺動させて測定した。これを見て分かるように、スキャンミラーが揺動した場合にも、円偏光度は常に75%以上となっている。製造時に、設計値に対して±2°以内の位相差の誤差が生じると想定しているが、この場合にもP波遅延ミラーにより生じる位相差は45±2°、S波遅延ミラーにより生じる位相差は45±6°であるので、レーザ光の位相差は90±8°の範囲以内となる。
【0040】
次に、高屈折率材料にZnSeを採用した場合について述べる。低屈折率材料については、先に述べたようにYF3,YbF3,ThF4の屈折率がほぼ等しいため、少なくとも一種を用いればよい。表3は、4層構造のP波遅延ミラーの構成を示す。このミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、その反射層の上に形成された厚み2.24〜2.44μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み1.30〜1.42μmのZnSe高屈折率層と、その高屈折率層の上に形成された厚み2.65〜2.87μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.99〜1.09μmのZnSe高屈折率層からなる。各層の膜厚の幅は、設計値±2°の
範囲を許容することに対応している。
【0041】
【表3】

【0042】
成膜には蒸着装置を用い、ZnSeは9.0±0.5Å/secの速度で蒸着した。異物の混入を防ぐために、真空度は1.0×10−4以下を維持し、偏光層の膜厚制御には光学式膜厚計を用いている。図10は、4層構造のP波遅延ミラーの設計値とZnSeとThFを使って実際に作製したミラーの測定値を比較した図である。位相差の設計値は45±0.1°の範囲以内におさまっていたが、実際に作製すると、ミラーの位相差は45±0.3°であった。高屈折率材料としてZnSを採用した場合と同様に、P波遅延ミラーに関しては、揺動角によらずほぼ45°の位相差を実現できる。
【0043】
次に、高屈折率材料にZnSeを使用した6層構造のS波遅延ミラーの構成を示す。表4は、6層構造のS波遅延ミラーの構成を示す。このミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、その反射層の上に形成された厚み1.55〜1.79μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.78〜0.90μmのZnSe高屈折率層と、その高屈折率層の上に形成された厚み1.41〜1.63μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.63〜0.73μmのZnSe高屈折率層と、その高屈折率層の上に形成された厚み1.13〜1.31μmのYF3、YbF3、ThF4のうち一種からなる低屈折率層と、その低屈折率層の上に形成された厚み0.39〜0.45mのZnSe高屈折率層からなる。
【0044】
【表4】

【0045】
成膜条件は先と同じである。図11は、6層構造のS波遅延ミラーの設計値とZnSeとThFを使って実際に作製したミラーの測定値を比較した図である。設計における位相差は45±2.2°の範囲以内であったが、実際に作製したミラーの位相差は、45+1.3°〜45−3.0°であった。ZnSを使ったS波遅延ミラーに比べて、ZnSeを使ったS波遅延ミラーは、揺動角への依存性が小さく、目標とする45°からの誤差も小さい。
【0046】
図12は、これら二枚のスキャンミラーを実際にレーザ加工機に取り付け、その円偏光度を測定した結果である。この場合にも、スキャンミラーの揺動角への依存性が小さいP波遅延ミラーを基準角に固定し、S波遅延ミラーを揺動させて測定している。前記と同様に、スキャンミラーが揺動した場合にも、円偏光度は常に75%以上となっていることは明らかである。位相差に±2°の製造誤差を想定した場合にも、P波遅延ミラーにより生じる位相差は45±2°、S波遅延ミラーにより生じる位相差は45±4°程度であるので、レーザ光の位相差は90±6°の範囲以内となる。
【0047】
以上のように、実施の形態1のレーザ加工機は、レーザ発振器と、第1スキャンミラーを有しその第1スキャンミラーを軸の周りに揺動させ、第2スキャンミラーを有しその第2スキャンミラーを、前記第1スキャナミラーが揺動する軸と直交する軸の周りに揺動させるガルバノスキャナとを備え、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光が前記第1スキャンミラーから前記第2スキャンミラーを経て走査されるレーザ加工機にあって、前記スキャンミラーには偏光制御膜が施されており、一方はS波の位相をP波に対して遅らせるスキャンミラーであり、他方はP波の位相をS波に対して遅らせるスキャンミラーであって、レーザ光走査のためにスキャンミラーが±8°の範囲で揺動した場合にも、レーザ光の位相差を90±8°の範囲以内とする機能を有することで、常に円偏光度75%以上のレーザ光を実現することができ、加工位置によらず真円状の加工穴を形成することを可能とする。
【0048】
また、実施の形態1のおける第1,第2スキャンミラー12a、12bは、一方がS波の位相をP波に対して遅らせるミラーであり、他方がP波の位相をS波に対して遅らせるミラーである。そのため、第1スキャンミラー12aによる位相差と第2スキャンミラー12bによる位相差が相殺し合い、レーザ光がもとの直線偏光へ戻ってしまうことを防ぐことができる。
【0049】
実施の形態2.
図13は、実施の形態2のレーザ加工機におけるスキャンミラーを示す断面図である。スキャンミラー12a,12bは、基板51、反射層52、偏光層(偏光制御膜)53、及び基板51と反射層52の間に形成されたバッファ層56により構成される。バッファ層56の主な役割は、基板51と反射層52の密着性を高めることである。構成材料として例えばCrが挙げられるが、自らが応力を生じないために、膜厚は0.01〜0.3μm程度であることが好ましい。それと逆に、故意にバッファ層56に応力を生じさせ、応力緩和層としての機能を持たせてもよい。
【0050】
バッファ層56は反射層52の下にあり、ミラー性能に影響を及ぼさないため、金属や半導体、誘電体が使用可能である。実施の形態2のその他は、実施の形態1と同じ構成を用いる。実施の形態2のような構成にすることにより、実施の形態1にて示した効果に加え、基板51と反射層52の密着性に優れ、さらに応力よる変形が抑制されたスキャンミラーを具備したレーザ加工機を実現することができる。
【0051】
実施の形態3.
図14は、実施の形態3のレーザ加工機におけるスキャンミラーを示す断面図である。最表層に偏光層53が露出している場合、キズや汚れ、変質等により光学特性(反射率、位相差)が変化してしまうことがある。そこで、そのようなことを防ぐために、最表面には保護層57を設けるとよい。保護層57を構成する材料としては、光学特性に影響を及ぼさないように、透過材料が好ましい。しかしながら、過酷な環境で使用される場合には、例えば優れた機械特性を発揮するMgFのように一般的には赤外領域で用いられない材料を赤外領域で使用してもよい。このような場合、保護層57の膜厚を0.2μm以下
にすることで、光学特性への影響を防ぐことができる。実施の形態3のその他は、実施の形態1と同じ構成を用いる。実施の形態3のような構成とすることにより、実施の形態1にて示した効果に加え、耐損傷性や耐環境特性に優れたスキャンミラーを具備したレーザ加工機を実現することができる。
【符号の説明】
【0052】
11 レーザ発振器 12a 第1スキャンミラー
12b 第2スキャンミラー 13a 第1ガルバノスキャナ
13b 第2ガルバノスキャナ
51 基板 52 反射層
53 偏光層 54 高屈折率層
55 低屈折率層 56 バッファ層
57 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器と、第1スキャンミラーを有しその第1スキャンミラーを軸の周りに揺動させ、第2スキャンミラーを有しその第2スキャンミラーを、前記第1スキャナミラーが揺動する軸とほぼ直交する軸の周りに揺動させるガルバノスキャナとを備え、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光が前記第1スキャンミラーから前記第2スキャンミラーを経て走査されるレーザ加工機にあって、前記第1と第2スキャンミラーには、偏光制御膜が施されており、一方はS波の位相をP波に対して遅らせるスキャンミラーであり、他方はP波の位相をS波に対して遅らせるスキャンミラーであることを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】
P波の位相をS波に対して遅らせる前記スキャンミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、その反射層の上に形成された厚み2.65〜2.89μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる第1低屈折率層と、前記第1低屈折率層の上に形成された厚み1.29〜1.41μmのZnS第1高屈折率層と、前記第1高屈折率層の上に形成された厚み2.34〜2.54μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる第2低屈折率層と、前記第2低屈折率層の上に形成された厚み1.17〜1.27μmのZnS第2高屈折率層で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】
S波の位相をP波に対して遅らせる前記スキャンミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、その反射層の上に形成された厚み1.60〜1.86μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる第1低屈折率層と、前記第1低屈折率層の上に形成された厚み0.94〜1.10μmのZnS第1高屈折率層と、前記第1高屈折率層の上に形成された厚み1.51〜1.75μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる第2低屈折率層と、前記第2低屈折率層の上に形成された厚み0.76〜0.88μmのZnS第2高屈折率層と、前記第2高屈折率層の上に形成された厚み1.05〜1.21μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる第3低屈折率層と、前記第3低屈折率層の上に形成された厚み0.51〜0.59mのZnS第3高屈折率層で形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
P波の位相をS波に対して遅らせる前記スキャンミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、前記反射層の上に形成された厚み2.24〜2.44μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる第1低屈折率層と、前記第1低屈折率層の上に形成された厚み1.30〜1.42μmのZnSe第1高屈折率層と、前記第1高屈折率層の上に形成された厚み2.65〜2.87μmのYF3,YbF3,ThF4のうち少なくとも一種からなる第2低屈折率層と、前記第2低屈折率層の上に形成された厚み0.99〜1.09μmのZnSe第2高屈折率層で形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項3記載のレーザ加工機。
【請求項5】
S波の位相をP波に対して遅らせる前記スキャンミラーは、鏡面加工された厚み0.1〜10mmのB4C又はBe基板の上に、厚み0.01〜0.3μmのAu,Ag,Al,Rhのうち一種からなる反射層と、前記反射層の上に形成された厚み1.55〜1.79μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる第1低屈折率層と、前記第1低屈折率層の上に形成された厚み0.78〜0.90μmのZnSe第1高屈折率層と、前記第1高屈折率層の上に形成された厚み1.41〜1.63μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる第2低屈折率層と、前記第2低屈折率層の上に形成された厚み0.63〜0.73μmのZnSe第2高屈折率層と、前記第2高屈折率層の上に形成された厚み1.13〜1.31μmのYF3,YbF3,ThF4のうち一種からなる第3低屈折率層と、前記第3低屈折率層の上に形成された厚み0.39〜0.45mのZnSe第3高屈折率層で形成されていることを特徴とする請求項1,請求項2及び請求項4のいずれか1項に記載のレーザ加工機。
【請求項6】
前記スキャンミラーの基板と反射層の間にバッファ層を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のレーザ加工機。
【請求項7】
前記スキャンミラーの最表層に保護層を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のレーザ加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−28250(P2011−28250A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143665(P2010−143665)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】