説明

レーザ加工装置及びその出力制御方法

【課題】 レーザ光の強度を所定の出力レベルに制御可能なレーザ加工装置及びその出力制御方法を提供する。
【解決手段】 制御部22は、加工対象物Wの加工前(レーザ光Lの非出射時)にサーモパイル20からの出力に応じて測定される周囲温度QAに応じて補正係数をメモリに記憶させるとともに、制御部22は、加工対象物Wの加工時(レーザ光Lの出射時)にサーモパイル20からの出力に応じて測定される温度QKに、加工対象物Wの加工前に測定された補正係数を与えて補正し、当該補正して得られる温度QK’に応じてレーザ発振器10からのレーザ光Lを所定の出力レベルに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びその出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ光源から出射されたレーザ光を収束レンズで収束させ、この収束した光を樹脂、木、金属等の加工対象物の表面を加熱し、表面を局部的に変色又は変形、溶融させることにより文字等のマーキングを行うレーザ加工装置が知られている。
【0003】
この種のレーザ加工装置として、レーザ光源から出力されるレーザ光の強さ(出力レベル)を適切な範囲内に制御する自動パワー制御(APC制御)を行うものがある。
【0004】
この自動パワー制御の方法としては、レーザ光源と収束レンズとの間の光路上に配されるビームスプリッタ等の光分岐手段によりレーザ光を加工対象物に向かう光路中から分岐させ、この分岐したレーザ光の受光量をフォトダイオードにより受光し、レーザ光の受光量に応じてレーザ光源から出射させるレーザ光の出力レベルを一定に維持するようにフィードバック制御を行うものがある(下記特許文献1参照)。
【0005】
ところで、ガラス等のマーキングには、レーザ光源として、炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)が用いられているが、炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)の波長(10.6μm)はYAGレーザの波長(1.06μm)に比べて長く、フォトダイオードを用いたパワー検出が困難である。一般的なフォトダイオードの使用可能帯域に対して、炭酸ガスレーザの波長は長すぎるからである。
【0006】
そこで、フォトダイオードとは異なるサーモパイル等の温度センサを有する温度測定手段を用い、レーザ光の強度をフォトダイオードにより光で検出(測定)するのではなく、レーザ光の強度を温度測定手段により温度(熱量)で検出(測定)することにより、レーザ光源から出射されるレーザ光の出力(強度)を温度に基づき所定の出力レベルに制御する構成が考えられる。これにより、例えば、レーザ光源の劣化等により、レーザ光の出力レベルが低下した場合であっても、レーザ光源から出射させるレーザ光の出力レベルをフィードバック制御することができうる。
【特許文献1】特開2003−53564公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、レーザ光源から出射されるレーザ光の温度を測定し、測定された温度に基づきレーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御する構成とした場合、温度測定手段が周囲温度の影響を受けて実際のレーザ光の温度とは異なる温度として測定してしまい、測定された異なる温度(誤測定された温度)に基づいてレーザ光源の出力を所定値とは異なる出力レベルに制御するおそれがある。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、レーザ光の強度を所定の出力レベルに制御可能なレーザ加工装置及びその出力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明に係るレーザ加工装置は、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を加工対象物に収束させる収束レンズと、
前記レーザ光源からのレーザ光の温度を直接的又は間接的に測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度に基づいて前記レーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御する制御手段と、を備えるレーザ加工装置において、
前記レーザ光の出射時に前記温度測定手段により測定される温度を、前記レーザ光の非出射時に前記温度測定手段により測定される温度に基づき補正する補正手段を備え、
前記制御手段は、前記補正手段により補正された温度に基づき前記レーザ光源の出力を前記所定の出力レベルに制御する構成としたところに特徴を有する。
【0010】
なお、レーザ光の温度を「直接的」に測定するものには、例えば、熱電対の2種類の金属の接点部をレーザ光の光路中に配することによりレーザ光の温度を測定する構成や、レーザ光源と収束レンズとの間の光路中に配されレーザ光源から収束レンズに向かうレーザ光を分岐させる光分岐手段を備える構成とし、前記光分岐手段により前記レーザ光源と前記収束レンズとの間の光路中から分岐されたレーザ光をの温度を温度測定手段により測定する構成が含まれる。一方、レーザ光の温度を「間接的」に測定するものには、例えば、ガルバノミラーを備える構成では、ガルバノミラーに照射されたレーザ光により、ガルバノミラーから放射状に広がる熱を、ガルバノミラーとは非接触で測定する構成が含まれる。つまり、光学部品等(例えば、実施例で言うと、折り返しミラー13,収束レンズ(対物レンズ)16等も含まれる)のレーザ光が通過・照射される部分(特定部位)の温度を非接触で測定する構成が含まれるということである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記レーザ光源と前記収束レンズとの間の光路中に配され前記レーザ光源から前記収束レンズに向かうレーザ光を分岐させる光分岐手段を備え、
前記温度測定手段は、前記光分岐手段により前記光路中から分岐されたレーザ光の温度を測定するところに特徴を有する。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記レーザ光源からのレーザ光を反射させて方向を変えるガルバノミラーと、
前記ガルバノミラーを回動させるガルバノ駆動手段と、を備え、
前記ガルバノミラーで反射したレーザ光が収束レンズを介して加工対象物上に照射されるレーザ加工装置であって、
前記温度測定手段は、前記ガルバノミラーから放射される放射温度を測定するところに特徴を有する。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記レーザ光源と前記収束レンズとの間の光路中には、前記加工対象物からの反射光を分岐させる反射光分岐手段と、
前記反射光分岐手段により前記光路中から分岐された反射光の温度を測定する反射光温度測定手段と、を備えるところに特徴を有する。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記温度測定手段は、サーモパイルを備えて構成され、前記サーモパイルの受光面に前記レーザ光が照射されることにより変化する温度を測定するところに特徴を有する。
【0015】
請求項6の発明に係るレーザ加工装置の出力制御方法は、レーザ光源からのレーザ光を光分岐手段により分岐させ、当該分岐されたレーザ光の温度を温度測定手段により測定し、当該測定された温度に基づいて前記レーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御するレーザ加工装置の出力制御方法であって、
前記レーザ光の非出射時に前記温度測定手段により温度を測定するとともに、前記レーザ光の出射時に前記温度測定手段により温度を測定し、前記レーザ光の出射時に測定された温度を、前記レーザ光の非出射時に測定された温度に基づき補正し、当該補正された温度に基づき前記レーザ光源の出力を前記所定の出力レベルに制御する構成としたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
<請求項1及び請求項6の発明>
レーザ光源から出射されるレーザ光の温度を温度測定手段により測定し、測定された温度に基づきレーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御する構成とした場合、温度測定手段が周囲温度の影響を受けて実際のレーザ光の温度とは異なる温度を測定し、測定された異なる温度に基づいてレーザ光源の出力を所定値とは異なる出力レベルに制御してしまうおそれがある。
【0017】
そこで、本構成によれば、レーザ光による温度の影響を温度測定手段が受けないレーザ光の非出射時に、レーザ光の温度を温度測定手段により測定する。そして、補正手段により、レーザ光の出射時に温度測定手段により測定される温度を、レーザ光の非出射時に温度測定手段により測定される温度に基づき補正する。これにより、より周囲温度の影響を加味した値に補正された温度に基づきレーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御することができる。
【0018】
<請求項2の発明>
本構成によれば、レーザ光源からのレーザ光の一部を温度測定手段が直接受光することにより温度を測定することができるから、例えば、レーザ光の受光部と温度測定手段とを非接触に配し、間接的に温度を測定する構成と比較して、測定時の応答時間を短くすることができる。
【0019】
<請求項3の発明>
本構成によれば、例えば、光分岐手段により分岐させたレーザ光の温度を測定する構成と比較して、光分岐手段を設けなくても温度を測定できるから、部品点数の削減が可能になる。
【0020】
<請求項4の発明>
本構成によれば、反射光分岐手段により分岐された反射光が反射光温度測定手段により測定されるかどうかで加工対象物にレーザ光が照射されているかどうかを検出できる。また、レーザ光源から収束レンズに向かうレーザ光の温度を測定するだけでなく、加工対象物からの反射光の温度も測定し、この測定した温度により、そのときの加工対象物の表面温度(加工対象物表面の溶融度)を知ることができるから、最も加工に適した強度(加工するのに(最低限)必要な強度)のレーザ光が照射されるように、レーザ光源の出力を制御することができる。
【0021】
<請求項5の発明>
本構成によれば、サーモパイルの受光面にレーザ光が照射されるから、比較的出力レベルの大きなレーザ光の温度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<実施形態1>
以下、本発明に係るレーザ加工装置の実施形態1を図1〜図4を参照しつつ説明する。
1.レーザ加工装置の構成
レーザ加工装置は、図1に示すように、レーザ光Lを出射するレーザ発振器10と、レーザ発振器10からのレーザ光Lを所定の光路から加工対象物Wに導く光学系11と、与えられた温度に応じた信号を出力するサーモパイル20と、サーモパイル20からの出力をデジタル信号に変換するA/D変換器21と、制御部22(制御手段)とを備えて構成されている。そして、レーザ光が加工対象物Wに照射されることにより文字・図形・記号等)が加工対象物W上に加工(マーキング)されるものである。
【0023】
レーザ発振器10(本発明の「レーザ光源」に相当)は、制御部22からパルス信号を受けるとレーザ発振器10内の炭酸ガスを励起し、レーザ光L(CO2レーザ)を出射するようになっている。
【0024】
光学系11は、レーザ発振器10からのレーザ光Lのビーム径を拡大するビームエキスパンダ12と、ビームエキスパンダ12からのレーザ光Lを直交する方向に反射する折り返しミラー(ベントミラー)13と、折り返しミラー13からの光を透過する光と反射する光とに分岐する分光ミラー(部分透過ミラー)14と、ガルバノスキャナ15と、対物レンズである収束レンズ16とを備えて構成されている。なお、折り返しミラー(ベントミラー)13については、特に設けられている必要はなく、例えば、ビームエキスパンダ12からのレーザ光Lを直接分光ミラー(部分透過ミラー)14に導く(ビームエキスパンダ12から出射される光の進行方向に分光ミラー14が配される)構成でもよい。
【0025】
分光ミラー14(本発明の「光分岐手段」に相当)は、例えば、ビームスプリッタ(部分透過ミラー)から構成され、折り返しミラー13からのレーザ光Lを、透過するレーザ光L1と反射するレーザ光L2とに分岐するようになっており、このうち透過した(レーザ光Lの一部の光量の)レーザ光L1は、サーモパイル(温度検出素子)20の受光面(図示しない)に照射されるようになっている。一方、反射したレーザ光L2は、ガルバノスキャナ15側に向かうようになっている。
【0026】
ガルバノスキャナ15は、一対のガルバノミラー15X,15Yを備えており、ガルバノ駆動手段(図示しない)が制御部22からの信号に応じて駆動すると、両ガルバノミラー15X,15Yが回動し、直交する2方向(XY方向)におけるレーザ光Lの向きが調整される。その結果、収束レンズ16を透過したレーザ光Lのレーザスポットが加工対象物W上のいずれの位置にも移動可能となっている。なお、収束レンズ16は例えばfθレンズから構成されており、ガルバノミラー15X,15Yで反射されたレーザ光Lを収束して加工対象物W上にレーザ光Lのレーザスポットを形成する。
【0027】
サーモパイル20は、与えられる温度(熱量:ここで言う「温度」とは、サーモパイル20に与えられる熱量、つまり、エネルギー量を含む意味である)に応じた起電力を出力する素子であり、その平坦な受光面(図示しない)に分光ミラー14を透過したレーザ光L1が受光可能になっている。これにより、加工対象物Wの非加工時(レーザ光の非出射(非投光)時)には、周囲温度QAに応じた起電力がサーモパイル20から出力されるとともに、加工対象物Wの加工時には、周囲温度QA及び受光面に受光されたレーザ光Lの熱の両方(加算した両方)の温度(熱量)による起電力がサーモパイル20から出力されるようになっている。そして、サーモパイル20から出力される起電力はA/D変換器21によりデジタル信号に変換されて制御部22に出力される。
【0028】
制御部22は、コンソール等の入力手段23と接続されており、入力手段23により設定されたレーザ光Lの強度(出力レベル)に応じた信号が受信されるようになっている。そして、レーザ光Lの強度に応じた信号を制御部22が受けると、設定された強度のレーザ光Lが出射されるために必要なパルス信号のデューティ比を算出し、このパルス信号をレーザ発振器10に送信する。これにより、入力手段23での設定値に応じて、レーザ発振器10から出射されるレーザ光Lの出力レベルが変更可能になっている。
【0029】
制御部22は、加工対象物Wの加工前(レーザ光の非投光時)に、A/D変換器21から出力される周囲温度に応じた情報(デジタル信号)を取り込むようになっている。ここで、図2に示すように、多数の異なる周囲温度℃(熱量cal)のそれぞれと対応付けられた補正係数が予め記憶部24に記憶されており、制御部22は、加工対象物Wの加工前に測定した周囲温度QAに応じた補正係数(例えば、周囲温度20℃を測定したときには補正係数N)を記憶部24から読み出し、この補正係数をメモリ(図示しない)に記憶する。
【0030】
また、制御部22は、加工対象物Wの加工時(レーザ光Lの出射(投光)時)に、A/D変換器21から出力される温度QK(Kは測定された順番を示す)の情報を所定のタイミングごとに取り込むようになっている。そして、この加工対象物Wの加工時に取り込んだ温度QK(Q1,Q2,Q3・・・)に、加工対象物Wの加工前(レーザ光Lの非投光時)にメモリに記憶した補正係数を与え(乗算する)、周囲温度QKの影響を受けない(影響を加味した)場合の温度QK’を求める。したがって、ここで求めた温度QK’が実際のレーザ光Lの強度に正確に対応する温度となる。
【0031】
そして、制御部22は、加工対象物Wの加工時(レーザ光Lの投光時)に前後に連続して測定される温度に差QX(=QK’−Q(K’−1))が生じたときには、この差QXがレーザ発振器10の劣化等により生じるレーザ光Lの出力レベルの変動であるから、かかるレーザ光の出力レベルの変動分だけレーザ発振器10から出力されるレーザ光Lの強度(出力レベル)の制御(フィードバック制御)を行う。
【0032】
2.レーザマーキング装置の出力制御
次に、レーザマーキング装置の出力制御について図3,図4を参照しつつ説明する。なお、ここでは、図4に示すように、加工対象物W上に文字Aを印字する場合を例に挙げて説明する。
作業者により、マーキング開始の操作がコンソール等の入力手段23にされると、マーキング開始のトリガ信号が制御部22に送出される。
【0033】
制御部22は、マーキング開始のトリガ信号を受けると(図3のS1)、温度の測定回数のカウントを初期化する(S2)。また、温度QA(周囲温度)に応じてサーモパイル20からの信号がA/D変換器21によりデジタル信号として出力されており、制御部22は、A/D変換器21から出力されるデジタル信号を所定のタイミングで取り込み、この取り込んだデジタル信号によりレーザ加工前(レーザ光の非出射(非投光)時)の周囲温度QAを測定する(S3。このとき図4のPAの位置が非投光のスポット位置)。
そして、記憶部24に記憶されている温度と補正係数の対応表(テーブル)を読み出し、周囲温度QAと対応する補正係数をメモリに記憶する(S4)。
【0034】
次に、制御部22は、ガルバノ駆動手段に信号を送出し、マーキング開始位置にスポットが形成されるようにガルバノミラー15X,15Yを回動させ(スポット位置が図4のP1となる位置)、マーキング開始位置にて予め設定した強度(出力レベル)に応じたデューティ比のパルス信号をレーザ発振器10に送出し、レーザ発振器10からレーザ光Lをパルス発振させるとともに(S5)、ガルバノミラー15X,15Yを回動させてマーキングすべき所定の経路(図4の点線方向の経路)を走査させる(マーキングさせる)。次に、温度の測定回数のカウントを1加算するとともに(S6)、レーザ投光時の温度に応じてサーモパイル20から出力される信号がA/D変換器21を介してデジタル信号として制御部22に出力されているから、制御部22は、かかるデジタル信号を取り込み、このデジタル信号によりレーザ加工時(レーザ光の出射(投光)時)の温度QKを測定する(S7)。
【0035】
そして、制御部22は、レーザ加工前(非投光時)に記憶部24に記憶した補正係数を読み出し、読み出した補正係数をレーザ加工時(投光時)の温度QKに与えて(乗算して)、周囲温度QAに応じてより正確にレーザ光Lの出力レベルに対応するように補正した温度QK’を求め(S8)、温度QK’をメモリに記憶する。
【0036】
次に、制御部22は、レーザ加工時に温度QKを測定した回数が2回目以降かどうかを判定し、1回目(QK=Q1)であるときには(S9で「N」)、温度の測定回数のカウントを1加算し(S6)、再びレーザ加工時(投光時)の温度QK(=Q2)を測定するとともに(S7)、補正した温度QK’(Q2’)を求め(S8)、温度QK’(Q2’)をメモリに記憶する。
【0037】
一方、制御部22は、温度QKを測定した回数が2回目以降であるときには(S9で「Y」)、制御部22は、前回補正(測定)した温度Q(K’−1)と、今回補正(測定)した温度QK’とが異なるかどうか(又は所定値以上異なるかどうか)を判定する(S10)。
【0038】
温度Q(K’−1)と温度QK’とが等しいときには(S10で「N」)、レーザ発振器10から出射されるレーザ光の強度(出力レベル)に変化が生じていないということであるから、線要素単位(A1及びA2)の加工が終了(終了位置P2に到達)しなければ(S13で「N」)、温度の測定回数のカウントを1加算し(S6)、所定タイミング後に、再びレーザ加工時(投光時)の温度QKを測定するとともに、補正した温度QK’を求め、温度QK’をメモリに記憶する(S7〜S9で「Y」)。
【0039】
一方、温度Q(K’−1)と温度QK’とが異なるときには(S10で「Y」)、今回補正(測定)した温度QK’と前回補正(測定)した温度Q(K’−1)との差QX(QK’−Q(K’−1))を求める(S11)。この差QXが前回のレーザ光Lの出力レベルと今回のレーザ光Lの出力レベルとの差(レーザ強度の変動量)に対応するから、制御部22は、差QXに応じてレーザ発振器10に送出するパルス信号のデューティ比を変更する(S12)。これにより、レーザ光の強度が変動したときには、変動した分だけレーザ発振器10から出力されるレーザ光Lの強度(出力レベル)が変更(フィードバック制御)され、加工対象物Wに照射されるレーザ光の強度が一定に保たれる。なお、ここでは、パルスデューティ比を変えることによりレーザ光の強度(出力レベル・レーザパワー)を変える構成であったが、これに限らず、レーザ発振器10に送出するパルス信号(レーザ光源を制御するパルス)の波高値(ピークレベル)を変更することで、レーザ光の強度(出力レベル・レーザパワー)を変える構成であってもよい。
【0040】
そして、線要素単位(A1及びA2)の加工が終了するまで(P3の位置に達するまで,S13で「N」)、レーザ加工時の測定が所定タイミングごとに繰り返し行われ、レーザ光の出力レベルが変動すると、その都度レーザ光Lの強度(出力レベル)を変更(フィードバック制御)することにより(S6〜S12)、加工対象物Wに照射されるレーザ光の強度が一定に保たれる。
そして、線要素単位(A1及びA2)の加工が終了すると(S13で「Y」)、次の線要素(A3)についても同様にレーザ加工時における上記した温度測定及び温度補正の処理を行い(S14で「N」,S3〜S13)、
【0041】
そして、マーキングする全ての線要素(A1〜A3)の加工(文字単位の加工)が終了すると(S14で「Y」)、制御部22は、パルス信号の出力を停止し、レーザ発振器10からレーザ光Lが出射されなくなる。
【0042】
3.本実施形態の効果
レーザ発振器10(レーザ光源)から出射されるレーザ光Lの温度を温度測定手段により測定し、測定された温度に基づきレーザ発振器10(レーザ光源)の出力を所定の出力レベルに制御する構成とした場合、温度測定手段が周囲温度の影響を受けて実際のレーザ光Lの温度とは異なる温度を測定し、この異なる温度に基づいてレーザ発振器10(レーザ光源)の出力を所定値とは異なる出力レベルに制御してしまうおそれがある。
【0043】
そこで、本実施形態によれば、レーザ光Lによる温度の影響をサーモパイル20(温度測定手段)が受けないレーザ光Lの非出射時に、レーザ光Lの温度を測定する。そして、制御部22(補正手段)により、レーザ光Lの出射時に測定される温度を、レーザ光Lの非出射時に測定される温度に基づき補正する。これにより、より周囲温度の影響を加味した値に補正された温度に基づきレーザ発振器10(レーザ光源)の出力が所定の出力レベルに制御されるから、レーザ光Lの強度を一定に保つことができる。
【0044】
また、レーザ発振器10からのレーザ光の一部を直接サーモパイル20が受光することにより温度を測定することができるから、例えば、レーザ光の受光部と温度測定手段とを非接触に配し、レーザ光の受光部から放射される温度を間接的に測定する構成と比較して、測定時の応答時間を短くすることができる。
【0045】
さらに、本実施形態によれば、サーモパイル20の受光面にレーザ光L1が照射されるから、比較的出力レベルの大きなレーザ光の温度を測定することができる。
【0046】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図5を参照して説明する。なお、実施形態1と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態1では、レーザ発振器10から加工対象物Wに向かう光路中から分岐したレーザ光Lの温度を測定する構成とした。実施形態2は、実施形態1の構成に加え、加工対象物Wで反射した光についても、反射光路中から反射レーザ光Lを分岐させ、分岐した反射レーザ光Lの温度を測定する構成としたものである。
【0047】
具体的には、実施形態1の分光ミラー14とガルバノミラーとの間の光路中に例えば、ダイクロイックミラーからなる分光ミラー31(反射光分岐手段)を配する。そして、加工対象物Wで反射した光が加工対象物Wへの照射時に通った光路を戻るときに、分光ミラー31を透過して光路を戻る反射レーザ光と、分光ミラー31で反射して照射時に通った光路中から外れる反射レーザ光L3とに分岐させる。
【0048】
このうち、分光ミラー31で反射した反射レーザ光L3は、サーモパイル32の受光面に受光され、このとき生じる温度に応じた信号がA/D変換器33でデジタル信号に変換されて制御部22に出力され、制御部22はかかるデジタル信号により反射レーザ光L3の温度を所定のタイミングで測定する。したがって、サーモパイル32とA/D変換器33と制御部22とが本発明の反射光温度測定手段に相当する。
【0049】
このように、分光ミラー31(反射光分岐手段)により分岐された反射光がサーモパイル32等(反射光温度測定手段)により測定されるかどうかで加工対象物Wにレーザ光Lが照射されているかどうかを検出できる。また、レーザ発振器10(レーザ光源)から収束レンズ16に向かうレーザ光Lの温度を測定するだけでなく、加工対象物Wからの反射光の温度も測定し、この測定した温度により、そのときの加工対象物Wの表面温度(加工対象物W表面の溶融度)を知ることができるから、最も加工に適した強度(加工するのに(最低限)必要な強度)のレーザ光Lが照射されるように、レーザ発振器10(レーザ光源)の出力を制御することができる。
【0050】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0051】
(1)上記実施形態では、レーザ光L1をサーモパイル20により受光し、そのときの温度を測定する構成としたが、レーザ光を受光する素子としてはサーモパイルに限られない。例えば、熱電対の2種類の金属の接点部をレーザ光の光路中に配し、温度変化に応じて熱電対から出力される信号に基づき、レーザ発振器10の出力を制御する構成としてもよい。
【0052】
(2)上記実施形態では、レーザ光を分光ミラー14,31により分岐させ、分岐した光をサーモパイル20,32により受光し、サーモパイル20,32により直接的に得られるレーザ光の温度を測定する構成としたがこれに限られない。
例えば、ガルバノミラー15X,15Yの近傍(例えば、鏡面の裏方)に温度検出素子41を配し(図1参照)、この温度検出素子41によりガルバノミラー15X,15Yから放射される放射温度(間接的に得られる温度)を測定する構成としてもよい。
このようにすれば、分光ミラー14(光分岐手段)により分岐させたレーザ光Lの温度を測定する構成と比較して、分光ミラー14を設けなくてもレーザ光Lの温度を測定できるから、部品点数の削減が可能になる。
【0053】
(3)上記実施形態では、周囲温度と補正係数とが対応付けられて(周囲温度と補正係数との対応関係を示すテーブルが)記憶部24に記憶されることとしたが、これに限られない。例えば、周囲温度と補正係数との対応関係を示す演算式(例えば、1次関数)が記憶部24に記憶されるようにし、測定した周囲温度を演算式に当てはめて補正係数を得るようにしてもよい。
【0054】
(4)上記実施形態では、加工対象物Wの加工前(最初にマーキングする線要素の加工前PA)に周囲温度QAを測定する構成としたが、これ以外のレーザ光Lの非投光時に周囲温度を測定するようにしてもよい。例えば、複数の文字等をマーキングするときに、文字単位ごとにそれぞれの文字の加工前(レーザ光Lの非投光時)に周囲温度を測定してもよく、また、マーキングする文字等の線要素単位ごとに(例えば、図4のレーザ光Lが非投光となる間隔D(P3〜P4))周囲温度を測定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態1のレーザ加工装置の概略的構成を示す図
【図2】周囲温度と補正係数との関係を示す図
【図3】レーザ加工装置の出力制御時における制御部の処理を示すフローチャート
【図4】加工対象物にマーキングされる状態を示す図
【図5】実施形態2のレーザ加工装置の概略的構成を示す図
【符号の説明】
【0056】
10…レーザ発振器(レーザ光源)
11…光学系
12…ビームエキスパンダ
13…折り返しミラー
14…分光ミラー(光分岐手段)
15…ガルバノスキャナ
15X,15Y…ガルバノミラー
16…収束レンズ
20,32…サーモパイル
21,33…A/D変換器
22…制御部(制御手段,補正手段)
23…入力手段
31…分光ミラー(反射光分岐手段)
W…加工対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を加工対象物に収束させる収束レンズと、
前記レーザ光源からのレーザ光の温度を直接的又は間接的に測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度に基づいて前記レーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御する制御手段と、を備えるレーザ加工装置において、
前記レーザ光の出射時に前記温度測定手段により測定される温度を、前記レーザ光の非出射時に前記温度測定手段により測定される温度に基づき補正する補正手段を備え、
前記制御手段は、前記補正手段により補正された温度に基づき前記レーザ光源の出力を前記所定の出力レベルに制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ光源と前記収束レンズとの間の光路中に配され前記レーザ光源から前記収束レンズに向かうレーザ光を分岐させる光分岐手段を備え、
前記温度測定手段は、前記光分岐手段により前記光路中から分岐されたレーザ光の温度を測定することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光源からのレーザ光を反射させて方向を変えるガルバノミラーと、
前記ガルバノミラーを回動させるガルバノ駆動手段と、を備え、
前記ガルバノミラーで反射したレーザ光が収束レンズを介して加工対象物上に照射されるレーザ加工装置であって、
前記温度測定手段は、前記ガルバノミラーから放射される放射温度を測定することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ光源と前記収束レンズとの間の光路中には、前記加工対象物からの反射光を分岐させる反射光分岐手段と、
前記反射光分岐手段により前記光路中から分岐された反射光の温度を測定する反射光温度測定手段と、を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記温度測定手段は、サーモパイルを備えて構成され、前記サーモパイルの受光面に前記レーザ光が照射されることにより変化する温度を測定することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
レーザ光源からのレーザ光を光分岐手段により分岐させ、当該分岐されたレーザ光の温度を温度測定手段により測定し、当該測定された温度に基づいて前記レーザ光源の出力を所定の出力レベルに制御するレーザ加工装置の出力制御方法であって、
前記レーザ光の非出射時に前記温度測定手段により温度を測定するとともに、前記レーザ光の出射時に前記温度測定手段により温度を測定し、前記レーザ光の出射時に測定された温度を、前記レーザ光の非出射時に測定された温度に基づき補正し、当該補正された温度に基づき前記レーザ光源の出力を前記所定の出力レベルに制御することを特徴とするレーザ加工装置の出力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281250(P2006−281250A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102410(P2005−102410)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000106221)サンクス株式会社 (578)
【Fターム(参考)】