説明

レーザ加工装置及びレーザ加工方法

【課題】 加工対象物の温度に応じて、適切な長さの被加工領域を加工することができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】 レーザ加工装置は、表面に基準点及び参照点が画定され、加工対象物を保持し、外部から入力される制御信号に基づいて、加工対象物を移動させるステージと、ステージに保持された加工対象物にレーザビームを照射するためのレーザ光源と、基準点及び参照点の位置情報を取得するための位置検出器と、位置検出器により取得した基準点及び参照点の位置情報に基づいて、ステージが移動する移動距離を算出し、移動距離に基づいて、ステージを制御する制御装置とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象物を保持し、所定の平面に平行な2次元方向に移動させることができるステージを有するレーザ加工装置が広く用いられている。このようなレーザ加工装置は、例えば特許文献1に記載されている。このようなステージは、例えば、一方向(X方向)に移動するXステージと、前記一方向に直交する方向(Y方向)に移動するYステージとから構成される。Xステージ及びYステージをそれぞれ移動させることにより、加工対象物を2次元方向に移動できる。ステージを動作させて、加工対象物を移動させることにより、被加工面上のレーザビーム入射位置を移動させることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−260579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステージ(Xステージ及びYステージ)は、制御装置により、目標位置に移動するように制御される。しかし、ステージを移動させるとき、目標位置に対する位置ずれが発生する。ステージに位置ずれが発生すると、加工対象物にも目標位置からの位置ずれが生じる。これにより、被加工面上のレーザを入射させるべき位置と、実際にレーザが入射する位置とにずれが生じる。
【0005】
レーザを照射しながら、加工対象物を保持したXステージをX方向に移動させて、被加工面上のX方向に長い直線状の領域を加工することを考える。しかし、XステージをX方向に移動させようとするとき、その軌道がY方向にうねる動き(ヨーイング)が生じる。ヨーイングにより、XステージにY方向の位置ずれが発生する。これにより、ステージに保持された加工対象物にもY方向の位置ずれが生じる。被加工面上のレーザが照射された領域が、X方向に長い直線状にならず、Y方向にうねる形状になってしまう。
【0006】
ところで、ステージを運転することにより、ステージを駆動するリニアモータ等から熱が発生する。この熱がステージに伝搬することにより、ステージの温度が上昇する。温度上昇したステージに加工対象物が保持されると、加工対象物の温度が上昇する。
【0007】
レーザ加工技術において、一般に、ステージに保持する基板を交換しながら、同一の型の複数の基板を、順次加工することが行われる。このとき、ステージの温度が徐々に上昇する。よって、後に加工される基板ほど、温度が高い状態で加工が行われる。このようにして、基板ごとに異なる温度で加工が行われるとき、どの基板に対しても被加工領域の長さを一定として加工を行うと、以下のような問題が生じる。基板は、温度が上昇すると熱膨張する。このため、異なる温度の基板に対して被加工領域の長さを一定としたまま加工を行うと、室温、または、ある基準温度まで戻した状態での被加工領域の長さが、基板ごとに異なる。
【0008】
本発明の一目的は、加工対象物の温度に応じて、適切な長さの被加工領域を加工することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、表面に基準点及び参照点が画定され、加工対象物を保持し、外部から入力される制御信号に基づいて、該加工対象物を移動させるステージと、前記ステージに保持された加工対象物にレーザビームを照射するためのレーザ光源と、前記基準点及び参照点の位置情報を取得するための位置検出器と、前記位置検出器により取得した前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記ステージが移動する移動距離を算出し、該移動距離に基づいて、該ステージを制御する制御装置とを有するレーザ加工装置が提供される。
【0010】
本発明の他の観点によれば、(a)表面に基準点と参照点とが画定されたステージに、加工対象物を保持する工程と、(b)前記基準点及び参照点の位置を検出して、該基準点及び参照点の位置情報を取得する工程と、(c)前記工程(b)で取得された前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記ステージを移動させる移動距離を算出する工程と、(d)前記加工対象物の表面にレーザビームを照射しながら、前記ステージを、前記工程(c)で算出された移動距離だけ移動させる工程とを含むレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
ステージに画定された基準点及び参照点の位置情報に基づき、ステージを移動させる距離(すなわち、ステージに保持された加工対象物上のレーザが照射される被加工領域の長さ)が求められる。基準点と参照点との相対的位置関係は、加工対象物の温度を反映するので、加工対象物の温度に応じて、適切な長さの被加工領域を加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1(A)は、本発明の実施例によるレーザ加工装置の概略図を示す。レーザ光源1が、連続波レーザビームを出射する。レーザ光源1として、例えば、半導体レーザ発振器やYAGレーザ発振器を用いることができる。レーザ光源1を出射したレーザビームは、折り返しミラー2で反射され、ビーム入射位置変位手段3に入射する。ビーム入射位置変位手段3は、入射したレーザビームの一部が、透過領域を通過するようにして、レーザビームの断面形状を整形するマスク3Aと、マスク3Aを保持し、レーザビームの進行方向と垂直な方向に変位させるマスク移動機構3Bとを含んで構成されている。ビーム入射位置変位手段3について、後に図1(B)を参照して説明する。
【0013】
ビーム入射位置変位手段3で断面を整形されたレーザビームが、レンズ4で収束されて、加工対象物である基板5の表面に入射する。基板5は、例えば、表面にITO膜が形成されたガラス基板や、プリント配線基板等である。マスク3Aの透過領域からレンズ4までの光路長と、レンズ4から基板5の表面までの光路長とは、マスク3Aの透過領域が、基板5の表面に、例えば1/2から1/3程度に縮小されて結像するように調節されている。
【0014】
基板5が、ステージ6に保持されており、ステージ6が、基台7に保持されている。基台7に固定されたXY直交座標系を考えたとき、ステージ6は、XY面に平行な2次元方向に移動して、基板5を移動させることができる。これにより、基板表面の被加工位置を移動させることができる。ステージ6が1次元方向に移動可能な距離は、例えば1000mm程度である。ステージ6の駆動機構として、例えばリニアモータが用いられる。なお、一般に、リニアモータを用いた駆動機構は、ピエゾ素子を用いた駆動機構より応答速度が遅い。ステージ6の可動部の重量は、例えば1000kg程度である。ステージ6の保持面及び基板5の表面は、XY面に平行である。制御装置9が、ステージ6に目標位置を与える制御信号を送出する。
【0015】
図1(B)を参照して、ビーム入射位置変位手段3について説明する。ここで、レーザビームは、図1(A)の基台7に固定されたXY面の法線方向に沿って、ビーム入射位置変位手段3に入射するとする。図1(B)の上側の図が、ビーム入射位置変位手段3をXY面の法線方向に平行な視線で見た平面図であり、図1(B)の下側の図が、ビーム入射位置変位手段3をY軸に平行な視線で見た正面図である。
【0016】
マスク3Aは、入射したレーザビームを遮光する遮光領域3Aaと、遮光領域3Aa内に形成され、レーザビームを透過させる透過領域3Abを有する。透過領域3Abは、例えば矩形形状を有し、マスク3Aに入射するレーザビームのビーム断面よりも小さい。透過領域3Abを通過したレーザビームの断面形状が、透過領域3Abの形状に対応するように整形される。マスク移動機構3Bは、弾性ヒンジ3Ba及び3Bdと、駆動機構3Bb及び3Beと、内枠3Bcと、外枠3Bfと、マスクチャック3Bgとを含んで構成される。図1(B)の下側の図に示すように、マスク3Aが、マスクチャック3Bgに保持される。
【0017】
マスクチャック3Bgが、4個の弾性ヒンジ3Ba及びピエゾ素子を含む駆動機構3Bbを介して内枠3Bcに取り付けられている。弾性ヒンジ3Baは、内枠3Bcに対するマスクチャック3BgのY軸方向の位置を拘束し、X軸方向に移動可能に、マスクチャック3Bgを保持する。駆動機構3Bbを動作させることにより、マスクチャック3Bgを、内枠3Bcに対して、X方向に変位させることができる。
【0018】
内枠3Bcが、4個の弾性ヒンジ3Bd及びピエゾ素子を含む駆動機構3Beを介して外枠3Bfに取り付けられている。弾性ヒンジ3Bdは、外枠3Bfに対する内枠3BcのX軸方向の位置を拘束し、Y軸方向に移動可能に、内枠3Bcを保持する。図1(A)の基台7に対して外枠3Bfの相対位置が固定されている。駆動機構3Beを動作させることにより、内枠3Bcを、外枠3Bfに対して、Y方向に変位させることができる。
【0019】
駆動機構3Bb及び3Beを適宜動作させることにより、マスク3Aの透過領域3Abを、XY面に平行な2次元方向(ビーム入射位置変位手段3に入射するレーザビームの進行方向と垂直な2次元方向)に変位させることができる。透過領域3Abを変位させることにより、基板5に入射するレーザビームの入射位置を変位させることができる。制御装置9が、マスク移動機構3B(の駆動機構3Bb及び3Be)を制御する。
【0020】
駆動機構3Bb及び3Beにピエゾ素子を用いることにより、1ms程度の応答速度で、マスク3Aを数十μm移動させることができる。マスク3Aを変位させる際に移動するマスク移動機構3Bの可動部は、例えば50kg程度と軽いため、駆動が容易である。
【0021】
なお、透過領域3Abを、ビーム入射位置変位手段3に入射するレーザビームの進行方向と垂直な方向に変位させなくとも、ビーム入射位置変位手段3に入射するレーザビームの進行方向と交差する方向に変位させれば、被加工面上のビーム入射位置を変位させることができる。
【0022】
図1(A)に戻って説明を続ける。位置検出器8が、ステージ6の位置を検出し、検出結果を制御装置9に送出する。位置検出器8が検出したステージ6の位置と、制御装置9がステージ6に与えた目標位置とを比較することにより、ステージ6の位置ずれ量が求められる。位置検出器8として、例えば、レーザ干渉計を用いることができる。位置検出器8を、ステージ6のY方向の位置を検出できるように配置することにより、ステージ6のY方向の位置ずれ量が求められる。さらに、他の位置検出器8を、ステージ6のX方向の位置を検出できるように配置すれば、ステージ6のX方向の位置ずれ量も求められる。
【0023】
基板5は、ステージ6に保持されているので、位置検出器8が、ステージ6の位置を検出することにより、基板5の位置及び目標位置からの位置ずれ量を求めることができる。なお、位置検出器8を、基板5の位置を直接検出できるように設置することにより、基板5の位置及び位置ずれ量を求めてもよい。
【0024】
ステージ6に、目標位置からの位置ずれが生じると、被加工面上のレーザビームが入射すべき位置(つまり、ステージ6の、目標位置からの位置ずれ量が、ゼロであると仮定したときに、レーザビームが入射すると想定される被加工面上の位置)と、レーザビームが実際に入射する位置とに、ずれが生じる。後に説明するような方法で、ビーム入射位置を補正することにより、このずれを小さくすることができる。
【0025】
ステージ6の表面には、後に図3を参照して説明するように、基準点と参照点とが画定されている。位置検出器10が、ステージ6の表面を観測し、基準点及び参照点の位置を検出することにより、両点の位置情報が取得される。位置検出器10として、例えば、固体撮像素子を有するカメラを用いることができる。位置検出器10により取得された基準点及び参照点の位置情報は、制御装置9に送出される。
【0026】
次に、図1(A)を参照して説明したレーザ加工装置を用いて、ビーム入射位置を補正する方法について説明する。制御装置9が、ステージ6に、X方向へ移動するよう指令を与える。このとき、制御装置9からステージ6に与えられるY方向の目標位置は、移動の始点から終点まで一定である。しかし、ステージ6を移動させると、ステージ6を移動させようとする方向(X方向)とXY面内で直交する方向(Y方向)に、ステージ6の軌道がうねる動き(ヨーイング)が生じる。そのため、ステージ6のY方向の位置ずれが発生する。このY方向の位置ずれは、Y方向の目標位置を中心にして、例えば±6μm程度である。
【0027】
ステージ6を移動させながら、レーザ照射を行うことにより、被加工面上のX方向に長い線状領域にレーザが照射される。なお、以下に説明するようなビーム入射位置の補正を行わない場合、この線状領域は、幅方向(Y方向)に例えば全幅12μm程度のうねりを有する形状となる。
【0028】
ステージ6のY方向の位置が、位置検出器8により検出される。検出された位置と、制御装置9が与えるY方向のステージ目標位置とに基づいて、ステージ6の位置ずれ量が求められる。ステージ6の位置ずれ量に基づいて、制御装置9が、図1(B)のマスク移動機構3Bを制御することにより、マスク3Aが変位して、被加工面上のビームスポットがY方向に移動する。ステージ6の目標位置からの位置ずれに起因するレーザビーム入射位置のずれを補償する向きに(位置ずれ量がゼロであると仮定したときに、レーザビームが入射すると想定される被加工面上の位置に近づく向きに)、被加工面上のビームスポットが移動するように、マスク3Aの変位の方向及び距離が決定される。このようにして、ビーム入射位置が補正される。被加工面上で、ビームスポットを例えば6μm程度移動させるためには、縮小率を例えば1/3とすると、マスク3Aの移動距離は18μm程度とすればよい。
【0029】
ステージ6が始点から終点まで移動する間に、上記で説明したようなビーム入射位置の補正を、繰り返し行いながら、レーザ照射を行う。このようにして、被加工面上の、レーザビームの照射された領域のうねりを小さくすることができる。
【0030】
なお、ステージ6を移動しようとする方向であるX方向についても、位置ずれが発生し得るが、この位置ずれは例えば、目標位置を中心にして±1μm程度と小さい。以下に説明するようにして、X方向の位置ずれに起因するビーム入射位置のずれを補正してもよい。
【0031】
位置検出器8で、ステージ6のX方向の位置を検出する。検出された位置と制御装置9が与えるX方向の目標位置とに基づいて、ステージ6のX方向の位置ずれが求められる。ステージ6の目標位置からのX方向の位置ずれに起因するレーザビーム入射位置のずれが補償される向きに、被加工面上のビームスポットが移動するように、マスク3Aを変位させる。このようにして、X方向のビーム入射位置のずれも補正できる。なお、X方向のビーム入射位置のずれの補正と、上記で説明したY方向のビーム入射位置のずれの補正とは、同時に行うことができる。
【0032】
上記では、ステージ6の位置を検出し、ステージ6の目標位置からの位置ずれを求めて、ビーム入射位置のずれの補正を行ったが、基板5の位置を直接検出し、基板5の目標位置からの位置ずれを求めて、ビーム入射位置のずれを補正してもよい。
【0033】
なお、マスク移動機構3Bを駆動させなくとも(マスク3Aの位置が固定されていても)、ステージ6の位置ずれを補正することにより、ビーム入射位置を補正することは可能である。上記の背景技術で説明したように、ステージ6がXステージとYステージとから構成されており、レーザを照射しながら、基板5を保持したXステージをX方向に移動させて、被加工面上のX方向に長い領域を加工する場合を考える。
【0034】
位置検出器8により、XステージのY方向の位置を検出し、検出されたY方向の位置と制御装置の与えるY方向の目標位置とに基づいて、XステージのY方向の位置ずれ量を算出する。算出されたY方向の位置ずれ量に基づき、制御装置9が、Yステージを、XステージのY方向の位置ずれが低減するように移動させる。このようにして、ステージ6の位置ずれ(及び基板5の位置ずれ)が低減されることにより、被加工面上のレーザビーム入射位置を補正できる。
【0035】
しかし、ステージ6は重く、また、駆動機構にリニアモータを用いているので、応答速度が遅く、XステージをY方向に例えば6μm程度移動させるのに、数10ms程度かかる。一方、マスク移動機構3Bを用いて、被加工面上のビームスポットを6μm程度移動させることは、マスク3Aを18μm程度移動させることが必要だとしても、1ms程度で行うことができる。マスク移動機構3Bを用いることにより、ビーム入射位置の補正を高速に行うことができる。
【0036】
次に、図2及び図3を参照し、基板の温度に応じて被加工領域の長さを補正することができるレーザ加工方法について説明する。図2に示すステップST1で、ステージ6に基板5を保持する。
【0037】
図3に示すように、ステージ6の表面に基準点20と参照点21とが画定されている。参照点21は、基準点20からX方向に所定距離だけ離れている。基準点20を通りX方向に平行な直線に沿って、2つの位置決めピン22が配置されており、基準点20を通りY方向に平行な直線に沿って、2つの位置決めピン22が配置されている。矩形状の基板5が、位置決めピン22で位置合わせされ、基板5の一対の辺及び他の一対の辺が、それぞれ、X軸及びY軸に平行となり、基板5のある辺とそれに直交する他の一辺とが交わる点(基板5の1つの角)が、基準点20に一致するように、配置されている。
【0038】
図2に示すステップST2で、図1(A)に示した位置検出器10を用いて、基準点20及び参照点21の位置座標を検出する。制御装置9が、両位置座標に基づき、基準点20と参照点21との距離Dを算出する。距離Dは、ステージ6の温度に対応して変化する。制御装置9が、基準温度において予め測定された基準点20と参照点21との距離と、ステージ6を構成する材料の線膨張係数と、距離Dとに基づいて、ステージ6の現在の温度Tを求める。
【0039】
次のステップST3で、基板5上の加工すべき領域の長さLが求められる。以下、長さLを求める方法について説明する。上記のステップST2で得られたステージ6の温度Tに基づき、制御装置9により、基板5の温度Twが推定される。基板5が基準温度のときに加工すべき被加工領域の長さを基準長さとする。基板5の温度がTwになると、加工すべき長さLが、基準長さから変化する。制御装置9が、基準長さと、基板5を構成する材料の線膨張係数と、基板5の温度Twとに基づいて、加工すべき長さLを求める。
【0040】
ステップST4で、以下のようにして、基板5へのレーザ照射を行う。まず、図3に示す始点P0にレーザビームが照射されるように、ステージ6を動作させて、基板5の位置合わせを行う。次に、レーザビームの照射を開始し、ステージ6をX方向に移動させながら、始点P0と始点P0からX方向に距離Lだけ離れた終点P1とを結ぶ直線状領域に、レーザ照射を行う(ステージの移動距離はLである)。このようにして、基板5上の長さLの直線状領域23が加工される。このようなレーザ照射の工程を、Y方向に始点を移動させて、繰り返し行うことにより、複数の直線状領域(図3に示す線状領域23a等)を加工することができる。
【0041】
以上説明した方法を用いることにより、基板5の温度に応じて、適切な長さの被加工領域を加工することができる。複数の基板を加工するとき、基板ごとに、上記のステップST1〜ST4を実行することにより、各基板について、適切な長さの被加工領域の加工ができる。
【0042】
なお、一枚の基板5に対して、複数の被加工領域を加工する場合、被加工領域ごとに、上記のステップST2及びST3を実行して、長さの補正を行っても構わない。また、被加工領域同士の間隔(ピッチ)を、基板温度に応じて補正しても構わない。上記で、被加工領域の長さを求めたときと同様にして、基板温度が基準温度のときのピッチと、基板5の線膨張係数とに基づいて、基板温度がTwに変化したときのピッチが求められる。
【0043】
なお、基準点20と参照点21との距離Dと、被加工領域の長さLとの対応関係を、様々な距離Dについて予め求め、距離Dと長さLとの対応関係のテーブルを作成しておいてもよい。制御装置9が、このようなテーブルに基づいて、基準点20と参照点21との距離Dから被加工領域の長さLを求めるようにすれば、基板5の加工時に制御装置9が実行する計算量を減らすことができる。
【0044】
なお、基準点20及び参照点21の位置座標から、両点を結ぶ方向を求めることができる。基準点20と参照点21とを結ぶ方向が、X軸に対して傾くような位置ずれが生じた場合、ステージ6が、基準点20と参照点21とを結ぶ方向と平行な方向に移動するように、ステージ制御を行ってもよい。
【0045】
なお、基板5に位置合わせのための基準マークが形成されている場合は、それを用いて被加工領域の長さを補正することもできる。図3に示したように、基板5の1つの角が、基準点20と一致するような配置とすることで、基準点20を、基板5の位置合わせの基準点とすることができる。基準点20で交わる基板5の2つの辺は、位置決めピン22と接していることにより、基板5が熱膨張しても移動しない。これにより、基準点20に配置された基板5の1つの角が、基板5が熱膨張しても移動しない。
【0046】
基準温度において予め、ステージ6の基準点20からステージ6に保持された基板5の基準マークまでの距離Daを測定しておく。基板5の加工時に、ステージ6の基準点20及び基板5の基準マークの位置座標を検出し、両点間の距離Dbを算出する。距離Dbが距離Daの何倍であるか算出する。この倍率を、基準長さに乗算すれば、加工時の温度において加工すべき被加工領域の長さLが求まる。基板5の基準マークの位置座標は、位置検出器10で検出される。なお、基準温度における距離Daの測定は、基板5と同様に基準マークが形成された他の基板に対して行って構わない。
【0047】
次に、図4を参照して、上記実施例の変形例によるレーザ加工装置について説明する。図4に示すレーザ加工装置は、図1(A)に示したレーザ加工装置から、マスク移動機構3Bを取り除き、基板5とステージ6との間に、微動ステージ11を追加した構成である。
【0048】
レーザ光源1を出射した連続波レーザビームが、折り返しミラー2で反射され、マスク3Aに入射して、断面を整形される。マスク3Aを出射したレーザビームは、レンズ4で収束されて、基板5の表面に入射する。マスク3A、レンズ4及び基板5は、マスク3Aの透過領域が基板5の表面に結像するように配置されている。
【0049】
基板5が、微動ステージ11に保持されており、微動ステージ11が、ステージ6に保持されており、ステージ6が、基台7に保持されている。基板5の表面は、XY面に平行である。ステージ6は、基台7に固定されたXY面に平行な2次元方向に移動して、微動ステージ11及び微動ステージ11に保持された基板5を移動させることができる。
【0050】
微動ステージ11は、基板5を、基準位置から、XY面に平行な2次元方向に微小変位させることができる。微動ステージ11は、ピエゾ素子を用いた駆動機構を有し、基板5を、数十μm程度移動させる。制御装置9が、基準位置からの変位量を与えることにより、微動ステージ11を制御する。
【0051】
図4に示すレーザ加工装置を用い、以下に説明するようにして、ステージ6の位置ずれに起因するビーム入射位置のずれを補正することができる。位置検出器8が検出したステージ6の位置と、制御装置9がステージ6に与えた目標位置とから、ステージ6の位置ずれ量が求められる。
【0052】
制御装置9が、ステージ6の位置ずれ量に基づいて、微動ステージ11を制御し、基板5が目標位置に近づくように、基板5を変位させる。これにより、被加工面上のビーム入射位置のずれが補正される。例えば、ステージ6をX方向に移動させるときに、ヨーイングに伴いステージ6のY方向の位置ずれが発生する。微動ステージ11を用いて、基板5をY方向に変位させることにより、この位置ずれに起因する被加工面上のビーム入射位置のずれを補正することができる。
【0053】
なお、位置検出器8で基板5の位置を検出し、基板5の目標位置からの位置ずれ量を求め、この位置ずれ量に基づいて、基板5を目標位置に近づけるようにしてもよい。この場合、それ以前のビーム入射位置補正に伴い、微動ステージ11が基板5を基準位置から変位させていたときは、この変位量にも基づいて、微動ステージ11が制御される。
【0054】
上記で説明したように、ステージ6の位置ずれを補正することによっても、基板5を目標位置に近づけることができるが、リニアモータ等で駆動されるステージ6の応答速度は遅い。ステージ6が移動可能な距離として、1000mm程度であることが要求されるので、ステージ6の駆動機構に、高速に応答するピエゾ素子を用いることができない。一方、微動ステージ11は、ステージ6の位置ずれの大きさ程度の距離だけ基板5を変位させればよいので、ピエゾ素子で駆動させることができる。よって、微動ステージ11を用いることにより、基板5の位置ずれを補償する移動が高速化され、ビーム入射位置の補正を高速に行うことができる。
【0055】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1(A)】本発明の実施例によるレーザ加工装置の概略図である。
【図1(B)】ビーム入射位置変位手段の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】実施例によるレーザ加工方法を示したフローチャートである。
【図3】基板が保持されたステージの平面図である。
【図4】変形例によるレーザ加工装置の概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1 レーザ光源
2 折り返しミラー
3 ビーム入射位置変位手段
3A マスク
3B マスク移動機構
4 レンズ
5 基板
6 ステージ
7 基台
8、10 位置検出器
9 制御装置
11 微動ステージ
20 基準点
21 参照点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に基準点及び参照点が画定され、加工対象物を保持し、外部から入力される制御信号に基づいて、該加工対象物を移動させるステージと、
前記ステージに保持された加工対象物にレーザビームを照射するためのレーザ光源と、
前記基準点及び参照点の位置情報を取得するための位置検出器と、
前記位置検出器により取得した前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記ステージが移動する移動距離を算出し、該移動距離に基づいて、該ステージを制御する制御装置と
を有するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御装置が、前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記ステージが移動する移動距離とともに移動方向を求め、該移動方向に該移動距離だけ移動するように、該ステージを制御する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
(a)表面に基準点と参照点とが画定されたステージに、加工対象物を保持する工程と、
(b)前記基準点及び参照点の位置を検出して、該基準点及び参照点の位置情報を取得する工程と、
(c)前記工程(b)で取得された前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記ステージを移動させる移動距離を算出する工程と、
(d)前記加工対象物の表面にレーザビームを照射しながら、前記ステージを、前記工程(c)で算出された移動距離だけ移動させる工程と
を含むレーザ加工方法。
【請求項4】
基準温度と、前記加工対象物が該基準温度であるときの、被加工面上のレーザビームを照射すべき領域の長さである基準長さとが、予め与えられており、
前記工程(c)において、前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記基準点から参照点までの距離を算出し、該基準点から参照点までの距離に基づいて、前記ステージの第1の温度を算出し、該第1の温度に基づいて、前記加工対象物の第2の温度を推定し、該第2の温度と該加工対象物の線膨張係数と該基準温度と該基準長さとに基づいて、該加工対象物が該第2の温度であるときの被加工面上のレーザビームを照射すべき領域の長さに対応した該ステージの移動距離を求める請求項3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記工程(c)において、前記基準点及び参照点の位置情報に基づいて、前記ステージを移動させる移動距離とともに移動方向を求める請求項3または4に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記加工対象物の形状が矩形であって、該加工対象物の互いに直交するある2辺が交わる点が、前記基準点に一致するように、前記ステージの表面上に該加工対象物を配置する請求項3〜5のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。

【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−315086(P2006−315086A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196067(P2006−196067)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【分割の表示】特願2004−62786(P2004−62786)の分割
【原出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】