説明

レーザ干渉型測定装置及びレーザ干渉型測定方法

【課題】 円筒形状の被測定物の形状を素早く計測することができ、水平面内の最大主応力軸を高精度で求めることが可能な測定装置を実現する。
【解決手段】 本発明のレーザ干渉型測定装置は、測定試料としての円筒形状の岩石コア11を支持する、円周方向に回転可能なサンプルホルダ12と、岩石コア11の半径方向に移動可能なナイフ・エッジ13と、岩石コア11の側面とナイフ・エッジ13との間に形成されたスリット14にレーザ光を出射するレーザ光源15と、スリット14を通過したレーザ光の干渉縞を測定するCCD16とを備えているから、測定した干渉縞に基づいて、岩石コア11の側面の円周外形を高い精度で素早く求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状の被測定物の形状を測定するレーザ干渉型測定装置及びレーザ干渉型測定方法に関するものであり、例えば、地表のボーリング・サイトにおける測定への利用が可能であり、岩石コア等の測定対象物の残留応力による変形の測定に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
地震などの不安定現象が発生する場の状態、特に応力場の状態を把握することは、不安定現象が発生する機構を解明する鍵の一つである。例えば、鉱山での安全な採掘を行うためには、掘削を行う岩盤に作用している応力の状態を掘削に先がけて測定することが重要である。これは、岩盤内の応力場が、鉱山地震をはじめとする地震等の不安定現象の発生場に対する、もっとも重要な制御パラメータの一つであるという理由による。
【0003】
上述した応力場の状態を把握するには、ボーリング孔より回収された岩石コアの形状変化を正確に測定することが有効である。これは、当該回収された岩石コアにおける、岩石コアの残留応力の解放による非弾性変形が、地中において当該岩石コアに働いていた応力場の状態を反映したものであるという理由による。
【0004】
円筒形状をした被測定物の形状を測定する方法としては、AE法、ASR、DSCAなどがあるが、これらの方法には、下記のように水平面内の最大主応力軸の決定精度が不十分であるという問題がある。
【0005】
すなわち、岩石コアは、地下で作用していた応力値に達するまではAcoustic Emissionを発生させないという経験則に基づいて、載荷試験を実施し、応力値を測定する手法であるAE(Acoustic Emission)法では、ひとつのコアに対し、載荷軸は円筒軸方向に制限されるため、応力軸の決定精度に欠ける。
【0006】
ASR(Anelastic Strain Recovery)法は、岩石コア表面に箔状のひずみゲージを貼り付け、残留ひずみの解放を測定するものである。ここで、貼り付けられるひずみゲージの枚数は、通常の岩石コアの場合6枚程度で、ひずみゲージ貼り付け位置の局所的なひずみに依存しやすい上、ひずみの主軸の決定精度に欠ける。
【0007】
岩石コアには応力解放によって地下で作用していた応力の大きさに比例した微小亀裂が主応力軸に垂直に発生する。DSCA(Differential Strain Curve Analysis)法では、応力解放と逆のプロセスである等方圧試験を実施し、ひずみゲージによりひずみ測定をおこなう。そして、等方圧とひずみとの関係から亀裂閉塞時のひずみを計算し、主応力の比とその方向を求める。この手法においても、ASR法と同様にひずみゲージを貼り付けて測定をおこなうため、ひずみゲージ貼り付け位置の局所的なひずみに依存しやすい上、ひずみの主軸の決定精度に欠ける。
【0008】
また、円筒形状をした被測定物の形状を測定する従来の装置としては、円筒物を回転させながら被測定物の接線変位を3箇所で測定する装置(例えば、特許文献1参照)、被測定物表面の凹凸変位を光学干渉系で測定する装置(例えば、特許文献2参照)、被測定物である円筒体に対して所定距離だけ離間した位置に配された基準ポール部と円筒体との間隔をレーザ光線を照射して、両者の間隔を測定する装置(例えば、特許文献3参照)、被測定物にレーザを当てその断面外形を連続的に測定する装置(例えば、特許文献4参照)、被測定物の姿勢に関する精度などの制約を緩和すべく、被測定物の軸芯に対する外形測定器の角度を変えながら連続的な測定を行う装置(例えば、特許文献5参照)等が挙げられる。また、被測定物が筒形状体である場合に外径と内径とを測定する装置も提案されている(例えば、特許文献6〜7参照)。
【特許文献1】特開2000−249540(2000年9月14日公開)
【特許文献2】特開平5−71935(1993年3月23日公開)
【特許文献3】特開2002−323306(2002年11月8日公開)
【特許文献4】特開平7−19840(1995年1月20日公開)
【特許文献5】特開平6−229725(1994年8月19日公開)
【特許文献6】特開平6−174433(1994年6月24日公開)
【特許文献7】特開平7−190734(1995年7月28日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、AE法、ASR、DSCAなどの歪みゲージを用いて岩石コアから地殻応力を推定する従来の手法では、歪みゲージを貼り付けたり、所定の定められた方向から荷重をかけたりする必要があるため、測定における変形自由度や、変形の主軸、すなわち岩盤に加えられていた応力の主軸に対する方位精度が不十分であるという問題があった。
【0010】
また、ボーリング孔から取り出された円筒状の岩石コアのサンプルは、通常地上の常圧下に置かれると、瞬間的な膨張の後、時間のオーダーで膨張し続ける。このため、時系列的に膨張し続ける岩石コアの形状を測定するには、ボーリング現場にて使用可能であり、岩石コアの形状を簡単に測定できる装置であることが好ましい。しかしながら、上記特許文献に記載されている装置及び方法は、岩石コアの形状をボーリング現場において測定するための装置として適当ではなく、また、これらの装置及び方法によれば、地中における岩石コアの水平面内の最大主応力軸を精度良く求めることができないという問題点がある。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、円筒形状の被測定物の形状を素早く計測することが可能であり、例えば、被測定物として岩石コアを測定する場合には、水平面内の最大主応力軸を高い精度で求めることができるレーザ干渉型測定装置及びレーザ干渉型測定方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレーザ光干渉型測定方法は、上記の課題を解決するために、円筒形状の被測定物を支持し、被測定物を円周方向に回転可能な支持手段と、上記被測定物の表面からの距離が変化する方向に移動可能な遮光手段と、上記被測定物の表面と上記遮光手段との間に形成された隙間にレーザ光を出射するレーザ光出射手段と、上記隙間を通過したレーザ光の干渉縞を測定する受光素子とを備えている。
【0013】
上記の構成により、被測定物の円筒側面の周方向に沿った表面プロファイルを容易に測定することができる。このため、当該表面プロファイルを測定した円筒側面を含んだ二次元面内において、主応力の働く方向を非破壊的に、且つ精度よく求めることができる。例えば、ボーリングにより得られた岩石コアを被測定物とする場合には、本発明のレーザ干渉型測定装置によれば、もとの位置における最大主応力以外の力の影響から独立して、水平面内の最大主応力のみを評価することが可能である。このため、被測定物である岩石コアが、もとの位置(地中)にある状態における負荷状態の測定の正確性及び信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0014】
すなわち、岩石コアの測定において、本発明のレーザ干渉型測定装置を用いることによって、地中における応力の主軸の角度及び相対的な応力の値が得られる。このような、地殻における応力の蓄積過程および状況の調査は、地震発生場の様子を推定するために非常に有効である。これは、従来、地震予知研究の進展に関する一つの大きな課題であった点であり、応力場の正確な推定により、地震予知研究の可能性を大きく飛躍させることができる。さらに、災害予測に限らず、地殻における応力分布を測定することは、鉱山や油田等の資源採掘において、必要な情報を得る手段としても非常に有効である。
【0015】
なお、本発明において「円周方向」とは、円筒形状の被測定物の中心軸を、略中心とした回転の方向をいう。また、上記支持手段は、モータ等により構成される駆動手段により回転されるものであることが好ましいが、レーザ干渉型測定装置の操作者の力により回転されるものであってもよい。
【0016】
また、本発明によれは、被測定物を破壊せずに測定することができるから、同一物を測定試料として用いた他の物性試験を実施し、種々の情報を得ることが可能である。これにより、岩石コアが地中において受ける圧力をより精緻に評価することができる。
【0017】
また、本発明のレーザ干渉型測定装置は、真空空間やクリーンルームなどの特殊空間を必要としないから、測定場所に関する制約がない。このため、上述した岩石コアの形状をボーリング現場において測定して、地殻応力を評価する用途に好適である。なお、本発明のレーザ干渉型測定装置は、上記の用途以外にも、機械加工現場において加工品の形状を測定し、評価する用途などにも用いることができる。
【0018】
本発明のレーザ干渉型測定装置は、上記の支持手段の回転に応じて、上記隙間の大きさが所定の範囲内になるように、上記遮光手段の位置を制御する隙間制御手段をさらに備えていることが好ましい。この構成によれば、上記隙間が上記受光素子によりレーザ光の干渉縞を観測するために適した大きさとなるように自動的に制御することができる。
【0019】
また、本発明のレーザ干渉型測定装置は、上記遮光手段の位置及び上記干渉縞の測定結果を記録する記録手段と、当該記録手段の測定結果に基づいて被測定物の形状変化を求める計算手段とを備えていることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、複数回の測定で得られた測定結果を記録手段に記録し、当該測定結果を時系列に沿って比較することができるから、計算手段により被測定物の形状変化を求めることができる。このため、本発明のレーザ干渉型測定装置によれば、岩石コアが取り出された後の形状変化を用いて、地殻中における岩石コアに作用する応力の方向や大きさを推定することができる。
【0021】
本発明のレーザ光干渉型測定方法は、上記の課題を解決するために、円筒形状の被測定物の形状を測定する方法であって、光遮断手段と被測定物表面との間に所定の大きさの隙間を形成する隙間形成ステップと、隙間を通過するようにレーザ光を照射するレーザ光照射ステップと、隙間を通過したレーザ光の干渉縞を測定する干渉縞測定ステップとを含むことを特徴としている。
【0022】
上記の構成によれば、被測定物側面の円周に沿った複数の点において、干渉縞を測定することができるから、被測定物に接触することなく外周面に沿った多くの点の測定結果を得ることができる。このため、本発明のレーザ干渉型測定方法によれば、例えば、地殻中における岩石コアに作用する応力の方向を高い精度で推定することができる。
【0023】
また、ボーリングにより切り出された岩石コアを被測定物とする場合、岩石コアが地中に位置している状態において同一水平面に位置していた、被測定物表面上の複数の点において上記レーザ光の干渉縞を測定し、当該複数の点における測定結果に基づいて、地中において岩石コアに働く主応力を推定する主応力推定ステップをさらに含むことが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、地中における岩石コアの同一水平面に位置する複数の点から、岩石コアの情報を得ることができる。ボーリング孔等から取り出された円筒状の岩石コアは、地上の常圧下に置かれると、瞬間的な膨張の後、時間のオーダーで膨張しつづけるが、時系列の測定を行うことにより同一水平面の膨張を追跡できる。これによって、地中において岩石コアに働いていた(作用していた)主応力の方向や大きさを推定することが可能となる。なお、上記推定方法としては、測定された複数の点により形成される楕円を近似式によって求める方法を挙げることができる。これによれば、長軸の方向が主応力軸を示しており、長軸と短軸との比が偏差応力の程度を示しているものと推定することができる。
【0025】
また、本発明は、コンピュータに本発明のレーザ干渉型測定方法を実行させるためのプログラム、又は当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のレーザ干渉型測定装置は、以上のように、被測定物を円周方向に回転可能な支持手段と、上記被測定物の表面からの距離が変化する方向に移動可能な遮光手段と、上記被測定物の表面と上記遮光手段との間に形成された隙間にレーザ光を出射するレーザ光出射手段と、上記隙間を通過したレーザ光の干渉縞を測定する受光素子とを備えている。このため、被測定物の円筒側面の周方向に沿った表面プロファイルを容易に測定できるから、当該表面プロファイルを測定した二次元面内の主応力が働く方向を非破壊的に、且つ精度よく求めることが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
〔測定装置〕
本発明の実施の一形態としてのレーザ干渉型測定装置について、図面に基づいて以下に説明する。
【0028】
図1は、本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10の概略構成を示す図であり、同図に示すように、本発明のレーザ干渉型測定装置10は、円筒形状の岩石コア(被測定物)11を円周方向に回転可能に支持するサンプルホルダ(支持手段)12と、岩石コア11の半径方向に移動可能なナイフエッジ(遮光手段)13と、岩石コア11の側面とナイフエッジ12の端部と間のスリット(隙間)14にレーザ光を出射するレーザ光源(レーザ光出射手段)15と、スリット14を通過したレーザ光の干渉縞を測定するCCD(Charge-Coupled Device、受光素子)16と、サンプルホルダ12を回転駆動させるためのモータ17と、スリット14の幅(大きさ)が所定の範囲内になるようにナイフ・エッジ13の位置を岩石コア11の半径方向に移動させることにより制御すると共に、当該ナイフ・エッジ13の位置及びCCD16により測定された干渉縞の測定結果を、記録媒体18に記録するラップトップコンピュータ(隙間制御手段、計算手段、記録手段)19と、CCD16により検出された干渉縞の情報をラップトップコンピュータ(以下、適宜「ラップトップ」という)19に送信する信号経路に設けられた、信号増幅器及びA/D変換器を備えた信号変換手段20とを備えている。なお、本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10においては、スリット14の位置の制御とCCD16からの信号の記録とを、いずれもラップトップ19で行っているが、これらを別々の手段を用いて行う構成としてもよい。また、記録媒体18としては、例えば、PCMCIA型の記憶媒体等を用いることができるが、これ以外の汎用されている記録媒体(ハードディスク等)を用いても良い。
【0029】
以上のように、本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10は、本体に岩石コア11が取り付けられたサンプルホルダ12を装着しており、制御用ノートパソコン等のラップトップコンピュータ19を用いて制御及び測定を行うものである。また、本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10では、専用の冶具を用いて、被測定物である岩石コア11のサンプルホルダ12への取り付けを行う。
【0030】
本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10は、測定を容易にするために,乾電池とバイク用バッテリーといった汎用かつ比較的低容量の持ち運び可能な電源で作動するように構成することが好ましい。すなわち、レーザ干渉型測定装置10内部の駆動系およびセンサ類は、DC12Vバイク用バッテリーで低消費電力量にて作動し、レーザー光源15は単一乾電池2本(DC3V)にて作動するものであることが好ましい。
【0031】
バイク用バッテリーは世界中どこでも容易に調達することができるから、例えば外国においてボーリングされた岩石コア11をボーリング現場において測定する場合であっても、現地において調達することが可能であり非常に便利である。なお、レーザ干渉型測定装置10を輸送する際には、すべてのバッテリー類を取り外すこととする。これにより、不要な時にレーザ干渉型測定装置10が作動することを確実に防止できる。
【0032】
本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10は、岩石コア11の側面とナイフ・エッジ13とにより形成されるスリット14に対して、レーザ光源15によりレーザ光を照射し、スリット14を通過したレーザ光に生じた縞模様をCCD16で受光し、当該縞模様からスリット14の幅を求めるものである。すなわち、ナイフ・エッジ13の位置と、CCD16の受光に基づいて求めたスリット14の幅とから、岩石コア11の表面の位置を決定することができるから、サンプルホルダ12に固定された岩石コア11をモータ17で周方向に回転させることにより、岩石コア11の側面一周プロファイル(輪郭)を測定することができる。
【0033】
すなわち、スリット状の隙間を透過するレーザー光の干渉縞の谷幅は,光路長(L)、レーザー光波長(λ)、スリット幅(a)の函数(関数)として、谷幅=λ×L/a で与えられるから、谷幅を測定することによりスリット幅を求めることができる。本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10は、この原理を応用し、岩石コア11をナイフ・エッジ13で挟み込み、ラップトップ19により制御されたナイフ・エッジ13の位置の座標値と、干渉縞の谷幅から得られるナイフ・エッジ13と岩石コア11との間に生じる隙間であるスリット14の幅から、岩石コア11の表面位置を求めるものである。そして岩石コア11を回転させることにより、その側面の周状プロファイルを測定することができる。
【0034】
図2は、上述したレーザ光の干渉によって生じた縞模様からスリット14の幅を測定する原理について説明する図である。同図に示すように、岩石コア11の表面とナイフ・エッジ13の先端部との間の距離すなわちスリット幅14をa、レーザ光の光軸から岩石コア11の表面までの距離をx、CCD16における任意の点Pとレーザ光の光軸との距離をy、スリット中のレーザ光の光軸が位置する点QとCCD16上の点Pとを結ぶ直線と、レーザ光の光軸とがなす角をθとすると、点Pにおける合成波φpは下記の式(1)で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、a sinθ=mλ(mは任意の整数)の場合、φp=0となるから、下記の式(2)を用いて、CCD16上においてφp=0となる位置を示す各干渉縞の谷に基づいて、スリット14の幅aを求めることができる。
【0037】
【数2】

【0038】
なお、干渉縞を測定するには、例えばλ=635nmのレーザ光を出射するレーザ光源15を用いる場合、スリット14の幅aが800μm以下、好ましくは200μm〜300μm程度となるようにナイフ・エッジ13の位置を制御することが好ましい。すなわち、岩石コア11の表面からナイフ・エッジ13の端部までの距離が上記範囲内になるように、モータ17によるサンプルホルダ12に支持されている岩石コア11の回転に併せて、ナイフ・エッジ13の位置をラップトップ19によって制御する。なお、スリット14の幅aがCCD16による干渉縞の測定に適した範囲内となるようにすればよいから、このナイフ・エッジ13の位置の制御は、位置決め精度が十分に高ければ比較的粗いものであっても良い。
【0039】
図3は、上記のようにして測定された干渉縞の例を示すグラフである。同図に示すような干渉縞の谷幅dに基づいて当該測定対象としたスリット14の幅を求めることができる。このため、ナイフ・エッジ13の位置と、測定により得られたスリット14の幅とに基づいて、測定対象とした岩石コア11の側面(表面)の正確な位置を求めることができる。
【0040】
上記のようにして、岩石コア11の側面を一周する側面一周のプロファイルが容易に得られるから、岩石コア11を地中から取り出してボーリングから外した後、時系列に沿った測定をすることにより、時間の経過に伴う岩石コア11の形状の変化を追跡することができる。また、測定を行なう上記側面一周が地中における岩石コア11の同一水平面となるよう、側面一周のプロファイルを測定することも容易である。このため、レーザ干渉型測定装置10によれば、地中において岩石コア11に働いていた、水平面内主応力軸の方法を精度良く求めることが可能である。
【0041】
また、レーザ光の干渉縞は、光が伝播する空間の不均質性(主に塵・埃などの散乱体の存在や、温度揺らぎによって生じる)に依存するが、依存の激しいレーザ光の強度値を測定に使用していないから、光の伝播する空間の環境変化に対する依存性はそれほど大きくない。このため、レーザ光の干渉縞を用いて得られたスリット14の幅に基づいて岩石コア11の側面一周プロファイルを測定する方法は、繰り返して行う測定に適しているといえる。
【0042】
本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10の測定対象である岩石コア11は、取り出された後時間が経過することに伴って変形するものである。このため、岩石コア11の表面プロファイルの測定期間を通じて、岩石コア11の芯を固定することはできない。そこで、本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10では、その直径が40mm〜85mm程度の岩石コア11について測定する場合には、1mm以下の芯出し精度を要求しないこととし、側面一周を360度測定することにより、芯を固定できないことを補償している。
【0043】
また、測定試料である岩石コア11の上下端面は、ボーリング中に何らかの原因で自然に切断された状態もしくは岩石カッターを用いて切断された状態であり、きれいに成形されていないから、その端面を利用して岩石コア11をサンプルホルダ12に取り付けることができない。これに対して、本実施の形態のレーザ干渉型測定装置10は、専用の冶具とクランプ帯またはエポキシ樹脂を用いて、岩石コア11をサンプルホルダ12に取り付けることができる。
【0044】
なお、本発明は、略円筒形状のコアサンプルを任意に支持するサンプルホルダとそれを回転させる駆動装置と、サンプルホルダの回転に併せて、外周の変化に数10ミクロン程度に粗く追従する光スリット駆動手段と、上記装置とコアサンプルとの隙間を光の干渉縞を利用して精密に非接触にて計測するレーザ光学系とを備え、これらがコンピュータにより制御されたレーザ干渉型測定装置として構成することも可能である。
【0045】
続いて、本発明のレーザ干渉型測定装置を備えた測定システムの具体的な構成について、図4(a)(b)に基づいて以下に説明する。図4(a)は、本発明のレーザ干渉型測定装置を備えて構成される測定システムの概略を示す上面図であり、図4(b)は、図4(a)のシステムを同図中にA−A’で示す矢印の方向からの矢視断面図である。本実施の形態の測定システムの説明においては、上記レーザ干渉型測定装置10に関して説明した部材と同じ機能の部材には同じ番号を付し説明を省略する。
【0046】
図4(a)に示すように、本実施の形態の測定システムの本体30は、岩石コア11、サンプルホルダ12、ナイフ・エッジ13、CCD16、反射ミラー31a〜e及び自動ステージ32を備えている。同図には示されていないが、レーザ光源15は、図4(b)に示すとおり、反射ミラー31aにスリット14を通過したレーザ光が到達する位置に設けられている。
【0047】
本実施の形態の測定システムでは、反射ミラー31a〜eを本体30内部に配することにより、スリット14を通過したレーザ光がCCD16に到達するまでの光路長を維持しながら、本体30の軽量化、コンパクト化を実現している。円筒形状の岩石コア11について、横型(軸が水平方向となるよう)に取り付けを行うことにより、岩石コア11を縦に取り付けを行うものに比して測定精度を向上させることができる。冶具を使用しての取り付け時において、岩石コア11が横向きであることで、岩石コア11の傾斜を防ぐことができる。また、自動ステージ32によって、岩石コア11の側面一周プロファイルの測定におけるナイフ・エッジ13の位置を自動制御することにより、岩石コア11の自動測定の測定間隔を、例えば1度程度にすることができる。これにより、岩石コア11の側面のローカル(局所的)な凹凸による誤差の影響を軽減すること、岩石コア11の芯ぶれ及び設置の傾斜を抑えて、より安定した測定を実現することができる。
【0048】
なお、岩石コア11のサンプルホルダ12への固定は、接着剤を用いて行っても良い。また、説明の便宜上、図4(a)(b)では、本体30を外部から遮断するカバーが外された状態のものを示したが、測定時には外部の光が本体30の内部に入らないようカバーで覆われる。また、本体30及び当該カバーを断熱性が高く密閉度の高い構成とすれば、本体内部にヒータを設けることにより、測定時の温度を制御することが可能となる。
【0049】
〔測定方法〕
上述したレーザ干渉型測定装置又は測定システムを用いれば、ナイフ・エッジ13と岩石コア11との間に所定の大きさのスリット14を形成し(隙間形成ステップ)、当該スリット14を通過するように、レーザ光源15によりレーザ光を照射し(レーザ光照射ステップ)、スリット14を通過したレーザ光の干渉縞をCCD16により受光し(干渉縞測定ステップ)、当該受光した干渉縞に基づいて円筒形状の被測定物である岩石コア11の形状を求めることができる。
【0050】
また、上述したレーザ干渉型測定装置又は測定システムを用いれば、ボーリングにより切り出された岩石コア11が地中に位置している状態において同一水平面に位置していた、岩石コア11の側面上の複数の点において、レーザ光の干渉縞を測定すれば、当該複数の点における測定結果に基づいて、地中において岩石コア11に働く主応力軸を精度良く推定すること(主応力推定ステップ)ができる。
【0051】
以下に、上記説明したレーザ干渉型測定装置を用いて岩石コアの形状を測定する、測定手順の例を具体的に説明する。
【0052】
〔測定手順〕
(1)ボーリング地点の走向と傾斜をクリノメーターにて測定し、基準方向を記録する。記録された地点から塊状の試料をハンマー等でたたいて取得し、現場の方位を記録する。なお、ここでハンマーを用いて取り出す試料は、測定に用いるボーリング孔からの岩石コアとは別のものである。
(2)岩石コアをサンプルホルダに取り付け(固定し)、必要であれば岩石コアの端部を切り落とす。岩石コアのサンプルホルダへ取り付けは、例えば、クランプ帯と冶具とを用いて行う。乾燥を防ぐために、岩石コアの測定に供しない部分を耐水性のテープを用いて覆っても良い。
(3)サンプルホルダをターンテーブルに載置し、約300μmのスリットを岩石コアの表面とナイフ・エッジとの間に形成する。ここで、ターンテーブルは、サンプルホルダを円周方向に回転可能に支持するものである。また、この測定手順においては、図4(a)(b)に示した岩石コアの軸が水平方向とした状態での測定ではなく、軸が垂直方向となるようにして測定する場合について説明する。ノート型コンピュータによりターンテーブルを回転させるモータをコントロールし、当該ノート型コンピュータに導入されたソフトウェアにより、CCDが受光した干渉縞を追跡測定(モニタ)し、記録する。
(4)測定される岩石コアの傾きに応じて、スリットを岩石コアの表面とナイフ・エッジとの間のスリット幅を決定する(すなわち、ナイフ・エッジの位置を決定する。)。ナイフエッジの自動ステージ上の位置を決定すると同時に、当該測定の岩石コアの回転開始位置をも特定し、これらをノートパソコンの記録媒体などに記録する。外部からの光の影響及び空気の透過率変化を防止するためにカバーを用いてサンプルホルダを覆う。
(5)岩石コアをその円周方向に所定角度回転させる毎に、スリット幅(スリット幅とナイフエッジの位置)を測定する。これらの測定は、特別なソフトウエアを用いて制御される。CCDセンサを移動させる際には、測定環境を変化させないように、小窓を開けておこなう。
(6)所定のスリット幅に設定し、数回の回転の後に、必要に応じてナイフ・エッジの位置を変化させる。ナイフ・エッジの位置の変化については、記録媒体などに確実に記録しておくこととする。また、ナイフ・エッジの位置を手動で変化させる場合、測定環境を変化させないように、小窓を開けておこなう。なお、移動時においては、必要に応じて補助灯を用いても良い。
(7)岩石コアを360度回転させて、その側面一周の測定を行なった後に、岩石コアをサンプルホルダから外し、岩石コアが乾燥したり、水を吸収したりすることを防ぐために、耐水性のシートで包む。
(8)上記した手順に沿って、上記した手順に沿って、ボーリング現場などで、岩石コアの形状の変化を、例えば、2〜8時間の間隔で2日間程度実施する。
【0053】
以上説明した測定手順によって、掘り出された岩石コア側面を取り巻く円周の輪郭に関する情報を数時間毎に得ることができる。そして、当該得られた円周の輪郭は楕円近似して取扱うことができ、楕円近似により得られた楕円の長軸方向は、地中に存在していた状態における岩石コアの水平面内最大主応力の方向を示している。そして、楕円近似された輪郭の長軸と短軸との比は、偏差応力の程度を示している。
【0054】
また、近似により得られた楕円の長軸と、被測定物である岩石コアの直径(すなわち地中に存在しているときの直径)との比は、地中において岩石コアに加えられている絶対的な圧力の程度を示している。上記の結果と他の圧力測定の結果とを組み合わせることにより、岩石コアが地中において受けている圧力に関し、信頼性の高い情報を得ることができる。
【0055】
〔本測定方法において、被測定物であるコア試料に要求される条件)
被測定物とした岩石コアは測定に用いられる装置の仕様に応じた長さにすればよいが、適当なサイズの岩石コアがない場合には、適当な長さに切断する必要がある。なお、このように切断する必要がある場合には、岩石コアの上端又は下端は、研磨・成形されていなくても良い。また、本測定方法によれば、被測定物の側面の一部分にエポキシ樹脂を塗布して、サンプルホルダに固定することはあるが、本測定方法と同様の原理に基づく応力測定手法であるASR法等の従来の方法とは異なり、コア表面にはセンサを接着する必要がない。
【0056】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0057】
〔ピンホール直径の測定〕
本発明のレーザ干渉型測定装置を用いて、加工精度±5μmの直径100μmのピンホールにレーザー光を照射して直径を測定した。その結果、測定結果として、94μm及び96μmという値が得られた。このように、本発明のレーザ干渉型測定装置を用いた測定により得られた値は、ピンホールの加工精度以内のものであった。したがって、本発明のレーザ干渉型測定装置による測定の精度は非常に高いものであることを確認することができた。なお、本実施例においては、レーザ光源としてλ=635nmのものを用いた。
【0058】
〔南アフリカの金鉱山での測定結果〕
本発明のレーザ干渉型測定装置を用いて、南アフリカの金鉱山において岩石コアの形状を測定した。ボーリング・サイトが地下2.9kmという厳しい環境であったため、地表の屋内での測定のみを行った。当該測定により得られた岩石コアの表面プロファイルを図5に示す。岩石コアは、直径約42mmであり、破砕された部分のすぐ近くから取得された。そのため、残留ひずみの解放は期待できず、ほぼ無変形の結果が得られることが期待された。同図に実線で示した円周が無変形の状態を示したものであり、点で示したものが、岩石コア回収後3時間後から21時間後までの変形量を示したものである。すなわち、実線の円周よりも点が内側にあればその方向にコアが収縮したことを、外側にあればその方向にコアが膨張したことを意味する。同図に示されるように、コアの直径42mmに対し40μm以内の変形しか得られず、コアが変形しなかったとすると、サイト条件の悪い中、ひずみにして10−3程度の精度があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のレーザ干渉型測定装置及びレーザ干渉型測定方法は、地殻に働いている応力測定に好適に用いることができ、当該応力を測定することは、地震予知、火山噴火予知などの防災のみならず、鉱脈や油田開発における地質調査においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の一形態であるレーザ干渉型測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1のレーザ干渉型測定装置による、岩石コアの表面プロファイル(表面状態)の測定原理について説明する図である。
【図3】図1のレーザ干渉型測定装置により測定された干渉縞の例を示すグラフである。
【図4】本発明のレーザ干渉型測定装置を備えて構成される測定システムの概略構成を示す図であり、(a)は上面図を示し、(b)は(a)中にA−A’で示す矢印の方向からの矢視断面図を示している。
【図5】南アフリカ金鉱山での測定された岩石コアの側面一周プロファイルについて、回収3時間後から21時間後までの変化をプロットした図である。
【符号の説明】
【0061】
10 レーザ干渉型測定装置
11 岩石コア(被測定物)
12 サンプルホルダ(支持手段)
13 ナイフ・エッジ(遮光手段)
14 スリット(隙間)
15 レーザ光源(レーザ光出射手段)
16 CCD(受光素子)
17 モータ
18 記録媒体(記録手段)
19 ラップトップコンピュータ(隙間制御手段、計算手段、記録手段)
20 信号変換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の被測定物を支持し、被測定物を円周方向に回転可能な支持手段と、
上記被測定物の表面からの距離が変化する方向に移動可能な遮光手段と
上記被測定物の表面と上記遮光手段との間に形成された隙間にレーザ光を出射するレーザ光出射手段と、
上記隙間を通過したレーザ光の干渉縞を測定する受光素子とを備えていることを特徴とするレーザ干渉型測定装置。
【請求項2】
上記の支持手段の回転に応じて、上記隙間の大きさが所定の範囲内になるように、上記遮光手段の位置を制御する隙間制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ干渉型測定装置。
【請求項3】
上記遮光手段の位置及び上記干渉縞の測定結果を記録する記録手段と、
当該記録手段の測定結果に基づいて被測定物の形状変化を求める計算手段とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ干渉型測定装置。
【請求項4】
円筒形状の被測定物の形状を測定する方法であって、
光遮断手段と被測定物表面との間に所定の大きさの隙間を形成する隙間形成ステップと、
隙間を通過するようにレーザ光を照射するレーザ光照射ステップと、
隙間を通過したレーザ光の干渉縞を測定する干渉縞測定ステップとを含むことを特徴するレーザ光干渉型測定方法。
【請求項5】
ボーリングにより切り出された岩石コアを上記被測定物とし、
岩石コアが地中に位置している状態において同一水平面に位置していた、被測定物表面上の複数の点において上記レーザ光の干渉縞を測定し、
当該複数の点における測定結果に基づいて、地中において岩石コアに働く主応力を推定する主応力推定ステップをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のレーザ光干渉型測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−58121(P2006−58121A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239700(P2004−239700)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月20日 京都大学主催の「京都大学防災研究所研究発表講演会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月9日、13日 地球惑星科学合同大会運営機構主催の「地球惑星科学関連学会2004年合同大会」において文書をもって発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】