説明

レーザ樹脂溶着機

【課題】レーザダイオードの経年劣化により光出力値が低下して来ても、校正開始の1操作だけで自動校正が行われ、出力値を指示するだけでその出力値が得られるレーザ樹脂溶着機の実現。
【解決手段】レーザダイオード11の電流対出力特性曲線のうち、直線近似が可能な範囲内で2つの電流値点IとIを選んで校正用電流値指示手段2から駆動電流設定部5へ設定指示し、その電流をレーザダイオード11に流したときの出力値PとPを光パワーメータ9で測定し、このI、PとI、Pの2組の値から係数算出器8で近似直線式の1次係数および定数を求め、Pを変数とするIの直線式をレーザ出力設定関数器4に設定し、レーザ出力値指示手段3から出力値を指示すると、その出力に必要な電流値が駆動電流設定部5へ設定されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザを用いたレーザ樹脂溶着機におけるレーザダイオードの経年劣化等による駆動電流対レーザ出力特性の変化に応じて、レーザダイオード出力対駆動電流の近似関数の係数を補正し、経年劣化があっても、指定した通りのレーザダイオード出力が得られるようにする技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
レーザ樹脂溶着は、樹脂材料にレーザ光を照射して発熱させ、その熱により樹脂を溶融させて接着するものであり、その接着の品質を保つにはレーザの出力が規定値であることが必要である。然るに半導体レーザは経年劣化があり、期間が経過すると同じ駆動電流を流してもレーザ出力が低下し溶着の品質を同一に保てないことになる。
また、温度によって出力が変動する性質もある。
【0003】
そこで従来は、レーザ出力を一定にするために次のような方法が採られて来た。
その1は、レーザ出力の一部を分岐して光センサで受光し、光センサの出力する光電流を電圧に変換して、この電圧を基準値と比較し、その差が小さくなるように半導体レーザの駆動回路へ負帰還をかけて、レーザの光出力が一定になるようにするという方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
その2は、一定期間毎にレーザ出力を光パワーメータで実際に測定し、出力設定値が複数点(P、P…P)ある場合に、各設定値を指定したときの実際の光パワーメータによる測定値がP′、P′…P′であった場合に、その変動率P′/P、P′/P…P′/Pを算出し、それを拠り所にして実際に必要な出力値を得るように設定するという方法である(出願人、発明者の実地経験および見聞による)。
【特許文献1】特公平7−95608号公報(3頁6行〜下から2行、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、その1の方法では、レーザ出力が光センサの方へ分岐させた分だけ弱くなるうえ、分岐比率がビームモードの影響を受け易く、また、光センサは応答性の速いフォトダイオード等の半導体センサを用いる必要があるが、そのため温度ドリフトの影響を受け易いという問題がある。
【0006】
その2の方法は、分岐はせず、全レーザ出力を光パワーメータで測定するから分岐上の問題はなく、また光パワーメータは温度ドリフトの影響を受けないという利点はあるが、手間がかかるうえ、はや装置の出力設定パネルに表示されている数値とは異なる出力値となるため操作者が設定ミスを犯し易いという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、ユーザ或いは操作者は、校正開始の単純操作(例えば、釦を押すとかタッチキーをタッチするとか、スイッチを入れるとか)を行いさえすれば、装置内に持っているレーザダイオード出力対駆動電流の近似関数の係数が自動校正され、レーザダイオードに経年劣化があったとしてもなおレーザ出力値を指定すれば、その通りの出力値が得られるレーザ樹脂溶着機を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために下記の手段構成を有する。
本発明の構成は、下記(イ)〜(リ)の各手段を具備することを特徴とする校正手段付レーザ樹脂溶着機である。
(イ)校正動作を開始するための校正開始手段
(ロ)レーザダイオードに流す駆動電流値を設定する駆動電流設定部
(ハ)校正開始手段に対する校正開始操作により、前記駆動電流設定部に対し、校正用の2つの電流値IとI(I>I)を時を異ならせて設定指示する校正用電流値指示手段
(ニ)レーザダイオードに、前記駆動電流設定部に設定された値の電流を流すレーザ駆動部
(ホ)レーザダイオードに実際に流れている電流値を検出測定する駆動電流検出器
(へ)レーザダイオードに前記電流値IおよびIを流したときのレーザダイオードのIおよびIに対する出力パワーPおよびPを測定する光パワーメータ
(ト)前記駆動電流検出器からの検出電流値IおよびIと前記光パワーメータからの出力パワー値PおよびPを受けて、次の数式
P=aI+b
のIおよびPに(I、P)および(I、P)を代入して係数aおよび定数bを算出する係数算出器
(チ)所望のレーザ出力値を指示するレーザ出力値指示手段
(リ)前記係数算出器で算出された係数aと定数bとを受け、前記数式の変換式である次の数式
I=(P−b)/a
により、前記レーザ出力値指示手段で指示されたレーザダイオード出力Pを出力させるために必要な電流値Iを算出し、前記電流値I、Iの設定が終了した後の前記駆動電流設定部へ電流値Iを設定するレーザ出力設定関数器
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザ樹脂溶着機は、使用しているレーザダイオードの駆動電流対レーザダイオード出力特性が図1の曲線Aのような特性である場合、直線近似が可能な範囲において、これを数式1のような1次関数に置き換える。
【0010】
【数1】

【0011】
そして、係数a、定数bを定めるべく直線近似可能な範囲内で、2点の駆動電流値IとIを設定し、Iを流したときのレーザダイオード出力がP11、Iを流したときのレーザダイオード出力がP12とした場合、これを数式1に代入して
11=aI+b
12=aI+b
この2式より
a=(P12−P11)/(I−I
b=(P11−P12)/(I−I
を求め、これを数式1に代入した数式2からIを変数Pの関数とする数式3を求め、これにより所望のレーザダイオード出力Pを指定すれば、そのために流すべき電流値が得られるようになっている。
【0012】
【数2】

【0013】
【数3】

【0014】
このことは、レーザダイオードが経年劣化により出力が低下して図1の曲線Bのようになったとしても、この曲線Bについて、校正を行えば、曲線Aについて述べたことと全く同じことが行われ、数式3のP11をP21に置き換え、P12をP22に置き換えた数式4が得られる。
【0015】
【数4】

【0016】
今、レーザダイオードの出力をPとしたいとき、経年劣化前であれば図1の曲線Aに対応する数式3の直線によって駆動電流がIとなり、経年劣化を校正した後は、曲線Bに対応する数式4の直線によって同じPに対する駆動電流はIとなり劣化を補うべくIより大きな値となる。
【0017】
以上のように、本発明のレーザ樹脂溶着機によれば、校正開始手段に対する開始操作のみで、経年劣化が自動校正されるので、操作者は、所望のレーザダイオード出力値を指定するだけで指定した通りの出力が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
校正開始操作手段はワンタッチ操作が可能なものとし、ワンタッチ後一定時間内に自動校正され、使用可能状態に自動復帰するようにしておくのが最良の形態である。
これに伴って、レーザダイオードから出力されるレーザ光は、校正時には校正開始操作と連動して光パワーメータに向くようにし、校正完了後は樹脂溶着機としての使用方向に復帰するようにしておくのが最良の実施形態である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明のレーザ樹脂溶着機の実施例を図面を参照して説明する。
図2は、本発明レーザ樹脂溶着機におけるレーザダイオードの経年劣化に対する校正手段の機能ブロック図である。
校正開始ボタン1を押すと、校正用電流値指示手段2は、駆動電流設定部5へまず電流値Iを指示設定する。
この電流値Iは、図1の駆動電流対レーザダイオード出力特性において、特性曲線のうち直線近似が可能な範囲における直線との交点のうち下の交点の電流値である。
【0020】
この電流値が設定されるとレーザ駆動部6は、レーザ駆動用直流電源ユニット7からレーザダイオード11へ電流Iを流すようにする。レーザ駆動部6とレーザダイオード11の間には、実際にレーザダイオード11に流れる電流を検出し測定する駆動電流検出器10が設けられている。
レーザダイオード11に駆動電流が流れるとレーザ光を発し、このレーザ光は、通常使用時には溶着しようとする樹脂に向けて照射されるが、校正動作中は光パワーメータ9へ向けて照射される。光パワーメータは測定したレーザダイオード出力値Pを係数算出器8へ送出する。駆動電流検出器10もこのときの測定電流値Iを係数算出器8へ送出する。
【0021】
係数算出器8ではこのIとPを一時記憶する。
それが終ると、校正用電流値指示手段2は、電流値Iを指示設定する。この電流値Iは図1において、直線近似が可能な範囲における直線との交点のうち、上の交点の電流値である。
以下、Iのときと同様にして、駆動電流検出器10からは測定電流値Iが、また、光パワーメータ9からはレーザダイオード出力値Pがそれぞれ係数算出器8へ送られ、一時記憶される。
【0022】
係数算出器8では、一時記憶している(I、P)と(I、P)を数式1に代入して、連立1次方程式を立て、これより未知数である係数aと定数bを算出する。
既知数となった係数aと定数bはレーザ出力設定関数器4へ送出される。
これで校正動作が完了する。それ以後、駆動電流設定部5はレーザ出力設定関数器4からの電流値により駆動電流を設定することになる。
レーザ出力設定関数器4は、数式1をIに関して解いた、Pを変数とする下記の数式5の演算機能を有している。
【0023】
【数5】

【0024】
これは、レーザダイオードの出力値Pを入力すると出力値Pを得るためにレーザダイオードに流すべき電流Iが直線近似式で算出されるということである。
経年劣化により、レーザダイオードの特性曲線が図1の曲線Aから曲線Bへのように変化してくると、校正を再度行うことにより、係数aと定数bの値が変って来て、常に出力値Pを指示しさえすれば、流すべき必要な電流値Iが算出されることとなる。
所望のレーザダイオード出力値は、レーザ出力値指示手段3からレーザ出力設定関数器4へ入力され、数式5のPに入ることになる。
【0025】
以上のように、レーザダイオードに経年劣化があっても校正を行うことによって、レーザ出力値指示手段3から所望の出力値を入力しさえすれば、そのレーザ出力値を得るための駆動電流値が算出されて、その電流がレーザダイオードに流れ、所望のレーザダイオード出力が得られるということになる。
【0026】
以上の機能ブロックのうち、校正開始ボタン1を押した後、決まった時間の間に電流値Iと同Iの設定指示を出す校正用電流値指示手段2や、駆動電流検出器10からI、Iの電流値データを受け、光パワーメータからP、Pのデータを受けて、係数aと定数bを算出する係数算出器8や、係数aと定数bを含む1次関数によって、レーザ出力値を指示されるとその出力値に対応する駆動電流を算出して、駆動電流設定部5へ設定指示するレーザ出力設定関数器4等の動作は、ROM、RAMを含むCPUによって行われる。
【0027】
図3は、そのような実際の機器構成例を示したブロック図である。
校正開始ボタン1が押されると、その信号はバス20を経由してCPU17へ送られる。そうするとCPU17はRAM19に格納されている電流値Iをバス20を通じて、駆動電流設定部5へ送り設定させる。この情報がレーザ出力制御部14を経て、レーザ駆動部6に達するとレーザ駆動部6はレーザ駆動用直流電源ユニット7からの電流Iをレーザダイオード11へ流すようにする。
【0028】
駆動電流検出器10は、レーザ駆動部6からレーザダイオード11への途中で実際に流れている電流を検出し、その電流値をレーザ出力制御部14と、バス20を経由してCPU17とへ送る。レーザ出力制御部14は、駆動電流設定部5から設定電流値Iの情報を受けており、駆動電流検出器10からの電流値をIと比較し、Iより小さければ大きくするように、逆にIより大きければ小さくするようにレーザ駆動部6を制御する。要するに、レーザダイオード11に実際に流れる電流値が駆動電流設定部5に設定されたIに維持されるように負帰還制御をかけているということであり、本発明に必須の手段ではない。
【0029】
こうして、レーザダイオード11にIの駆動電流が流れるとレーザ光を発し、このレーザ光は、光ファイバーケーブル16を経てレーザ射出ユニット15へ送られ、ここから光パワーメータ9に入射される。
なお、光パワーメータ9へ入射させるのは校正のときだけであって、樹脂溶着のときは溶着対象である樹脂に向けられる。光パワーメータ9はレーザダイオード11の出力パワーを測定し、その値をPとしてバス20を通じてCPU17へ送る。
【0030】
この一連の動作が終るとCPU17は、次に電流値Iを駆動電流設定部5へ設定させるようにする。そして、Iを設定したときと同様にして駆動電流検出器10で検出した電流値をIとしてCPU17へ送るとともに、光パワーメータ9で駆動電流Iにおけるレーザダイオード11の出力パワーを測定し、その値をPとしてCPU17へ送る。
CPU17では、送られて来た電流値Iとレーザ出力値P、および電流値Iとレーザ出力値Pの2組の数値を、レーザ出力値Pを変数とする駆動電流値Iの一次関数の数式1へ代入し、得られる連立1次方程式から未知数a、bを算出する。
これにより校正動作は終了する。この校正動作は校正開始ボタンを押してから一定の時間内に行われる。
CPU17には、数式1を電流Iについて解いた数式5が用意されており、前記算出されたa、bは数式5のa、bに入れられる。
【0031】
以上の結果、出力値指示部21から、レーザダイオード11に出力させたい出力値を入力すると、CPU17は数式5によって算出した電流値を、バス20を通じて駆動電流設定部5へ送り設定する。その結果、レーザダイオード11にはこの電流値の駆動電流が流れ、出力値指示部21で指定した値のレーザダイオード出力が得られることになる。
【0032】
このように、本発明のレーザ樹脂溶着機では、レーザダイオードの経年劣化により、当初と同じ値の駆動電流を流しても当初と同じレーザ出力が得られなくなって来ても、校正開始ボタン1を押すという1操作を行うと、出力低下率の算出や、その低下率を用いた電流値の換算など行わなくとも、所望の出力値を出力値指示部21から入力するだけで、所望の出力が得られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の原理を説明するための駆動電流対レーザダイオード出力特性図である。
【図2】本発明のレーザ樹脂溶着機における校正手段の機能ブロック図である。
【図3】本発明のレーザ樹脂溶着機の実際の機器構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
1 校正開始ボタン
2 校正用電流値指示手段
3 レーザ出力値指示手段
4 レーザ出力設定関数器
5 駆動電流設定部
6 レーザ駆動部
7 レーザ駆動用直流電源ユニット
8 係数算出器
9 光パワーメータ
10 駆動電流検出器
11 レーザダイオード
12 レーザ駆動制御部
13 制御部
14 レーザ出力制御部
15 レーザ射出ユニット
16 光ファイバーケーブル
17 CPU
18 ROM
19 RAM
20 バス
21 出力値指示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(イ)〜(リ)の各手段を具備することを特徴とする校正手段付レーザ樹脂溶着機。
(イ)校正動作を開始するための校正開始手段
(ロ)レーザダイオードに流す駆動電流値を設定する駆動電流設定部
(ハ)校正開始手段に対する校正開始操作により、前記駆動電流設定部に対し、校正用の2つの電流値IとI(I>I)を時を異ならせて設定指示する校正用電流値指示手段
(ニ)レーザダイオードに、前記駆動電流設定部に設定された値の電流を流すレーザ駆動部
(ホ)レーザダイオードに実際に流れている電流値を検出測定する駆動電流検出器
(へ)レーザダイオードに前記電流値IおよびIを流したときのレーザダイオードのIおよびIに対する出力パワーPおよびPを測定する光パワーメータ
(ト)前記駆動電流検出器からの検出電流値IおよびIと前記光パワーメータからの出力パワー値PおよびPを受けて、次の数式
P=aI+b
のIおよびPに(I、P)および(I、P)を代入して係数aおよび定数bを算出する係数算出器
(チ)所望のレーザ出力値を指示するレーザ出力値指示手段
(リ)前記係数算出器で算出された係数aと定数bとを受け、前記数式の変換式である次の数式
I=(P−b)/a
により、前記レーザ出力値指示手段で指示されたレーザダイオード出力Pを出力させるために必要な電流値Iを算出し、前記電流値I、Iの設定が終了した後の前記駆動電流設定部へ電流値Iを設定するレーザ出力設定関数器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−262427(P2009−262427A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115269(P2008−115269)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】