レーダ画像処理装置
【課題】観測対象の範囲に対するその範囲中で時間的変化を生じる範囲の面積比が小さい場合であっても、観測対象の時間的変化の検出精度が高いレーダ画像処理装置を得ることを目的とする
【解決手段】異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出し、所定範囲の中で異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、所定範囲の面積及び予測された変化面積に応じて相関値を補正し、この補正された相関値をもとに所定範囲における異なる時刻の間に生じた観測対象の時間的変化を検出するようにしたものである。
【解決手段】異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出し、所定範囲の中で異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、所定範囲の面積及び予測された変化面積に応じて相関値を補正し、この補正された相関値をもとに所定範囲における異なる時刻の間に生じた観測対象の時間的変化を検出するようにしたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はレーダ画像から観測対象の時間的変化を検出するレーダ画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ画像処理装置は、レーダ装置により異なる時刻に取得された2枚のレーダ画像間の相関を示すコヒーレンス値を算出し、このコヒーレンス値が2枚のレーダ画像が完全に一致する場合には1となり、2枚のレーダ画像間の差異が大きくなるとともに0に近づくことを利用して、コヒーレンス値の大小に基づく閾値処理によって、2枚のレーダ画像間の差異、つまり2枚のレーダ画像が取得された異なる時刻の間(以下、レーダ画像取得間経過時間、と記す。)に生じた観測対象の時間的変化の検出を行っていた(例えば、非特許文献1参照。)。例えば、観測対象が地表面であれば、地表面を通過した車両の轍や、火災や爆発の跡などの、地表面変化が検出できる。
【0003】
異なる時刻に取得された2枚のレーダ画像から算出したコヒーレンス値は、レーダ画像取得間経過時間に生じた観測対象の時間的変化に依存して定まるが、各レーダ画像を取得する際のレーダ装置のアンテナと観測対象の位置関係(以下、幾何、と記す。)の違いや、レーダ装置の信号対雑音比の変動による影響も受ける(例えば、非特許文献2参照。)。このため、非特許文献2に記載された地表面の測高を目的としたレーダ画像処理装置においては、例えばレーダ画像を取得する際の幾何の違いやレーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を評価し、その結果を利用してコヒーレンス値を補正するようにしている。
【0004】
【非特許文献1】Charles V. Jakowatz, Jr., Daniel E. Wahl, Paul H. Eichel, Dennis C. Ghiglia, Paul A. Thompson著、「Spotlight-mode: synthetic aperture radar: a signal processing approach」、Kluwer academic出版、1996年、p.330-340
【0005】
【非特許文献2】H. A.Zebker, J. Villasenor,"Decorrelation in interferometric radar echoes", IEEE Trans. Geoscience and Remote Sensing, 1992, vol.30, no.5, p.950-959
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のレーダ画像処理装置は、コヒーレンス値を算出する観測対象の範囲(以下、算出範囲、と記す。)の一部で時間的変化を生じる場合(以下、この時間的変化を生じる範囲を、変化範囲、と記す。)、つまり変化範囲が算出範囲よりも小さい場合には、算出範囲における変化範囲以外の範囲、つまり時間的変化を生じていない範囲(以下、不変範囲、と記す。)については、コヒーレンス値は1となり、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は、算出範囲全体が変化範囲である場合の当該低下量に比べて小さくなることを考慮していない。このため、算出範囲全体に占める変化範囲の比率が小さくなるにつれて、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は小さくなり、観測対象の時間的変化の検出が困難になるという問題点があった。
【0007】
また、従来のレーダ画像処理装置は、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を、2枚のレーダ画像取得時のそれぞれにおけるレーダ装置のアンテナの位置を結ぶベクトル(以下、このベクトルを基線ベクトル、基線ベクトルの長さを基線長、とそれぞれ記す。)が水平方向成分のみを有する、つまり鉛直方向に傾斜していないという仮定のもとに評価している。しかし、実際に2枚のレーダ画像を取得する際のそのぞれにおけるレーダ装置のアンテナの鉛直方向の位置が互いに同一となることは少なく、従って、基線ベクトルは鉛直方向に傾きを持つことが一般的である。このため、基線ベクトルが鉛直方向に傾斜していないという仮定のもとでは、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響の評価に大きな誤差が生じるという問題点があった。
【0008】
さらに、従来のレーダ画像処理装置は、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を、信号対雑音比がレーダ画像全面において一定の値であるという仮定のもとに評価している。しかし、実際のレーダ装置における信号対雑音比はレーダ画像内で局所的に変化するため、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響の評価に大きな誤差が生じるという問題点があった。
【0009】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、算出範囲と変化範囲の面積比、2つのレーダ画像を取得する際の幾何の違い、及びレーダ装置の信号対雑音比の変動がそれぞれコヒーレンス値に及ぼす影響を評価し、コヒーレンス値、あるいは観測対象の時間的変化を閾値処理によって検出するためのコヒーレンス値の閾値(以下、この閾値を、基準閾値、と記す。)を補正することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るレーダ画像処理装置は、異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出する相関値算出部、所定範囲の中で異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、所定範囲の面積及び予測された変化面積に応じて相関値を補正する変化面積補正部、及び変化面積補正部により補正された相関値をもとに所定範囲における異なる時刻の間に生じた観測対象の時間的変化を検出する変化検出部を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、コヒーレンス値を算出する範囲と観測対象の時間的変化を生ずる範囲の面積比がコヒーレンス値に及ぼす影響を評価して、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度が高いレーダ画像処理装置を得ることができる。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。図1において、レーダ画像格納部10は、レーダ装置(図示せず)により異なる時刻に取得された観測対象(図示せず)の複数のレーダ画像を格納する。レーダ画像位置合わせ部12は、レーダ画像格納部10から2枚のレーダ画像を入力し、これらの位置合わせを行なう。
【0013】
コヒーレンス値算出部14は、レーダ画像位置合わせ部12で位置合わせが行なわれた2枚のレーダ画像を入力し、これらの間の相関を示す相関値であるコヒーレンス値を算出する。レーダ画像位置合わせ部12及びコヒーレンス値算出部14が相関値算出部15を構成する。コヒーレンス値補正部16は、局所的信号対雑音比算出部18と信号対雑音比補正量算出部20から成る信号対雑音比補正部22と、基線長補正量算出部24と基線長補正較正部26から成る基線長補正部28と、方位角補正量算出部30と方位角補正較正部32から成る方位角補正部34と、変化面積比補正量算出部36と変化面積比較正部38から成る変化面積補正部40で構成され、コヒーレンス値算出部14の出力であるコヒーレンス値に対して補正を加える。変化検出部42は、基準閾値を格納する閾値格納部44から閾値を入力し、この閾値とコヒーレンス値補正部16から入力された補正後のコヒーレンス値とを比較して、観測対象の時間的変化を検出し、その結果を出力結果格納部46に格納する。
【0014】
次に動作について説明する。図2は、この実施の形態1によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。まずステップST10において、レーダ画像位置合わせ部12が、レーダ画像格納部10から入力された2枚のレーダ画像間の位置合わせを行なう。位置合わせは、例えば2枚のレーダ画像から複数の特徴点をそれぞれ抽出して、これらの特徴点を対応付けすることによって行なう。この位置合わせの結果、それぞれのレーダ画像中の位置P(m,n)の画素は、観測対象の同一位置を指すようになる。
【0015】
ステップST11において、ステップST10で位置合わせが行なわれた2枚のレーダ画像を、コヒーレンス値算出部14に入力する。コヒーレンス値算出部14は、レーダ画像中の各画素の位置P(m,n)において、2枚のレーダ画像からコヒーレンス値を算出する。この位置P(m,n)におけるコヒーレンス値ρ(m,n)は式(1)で表されるものである。
【0016】
【数1】
【0017】
ここで、s1,kは2枚のレーダ画像のうち一方のレーダ画像において位置P(m,n)を中心としたN個の画素が持つ複素データ値、s2,kは他方のレーダ画像おいて位置P(m,n)を中心としたN個の画素が持つ複素データ値、*はこれらの複素データ値の複素共役を示す。個数Nによって、位置P(m,n)を中心としたコヒーレンス値ρ(m,n)を算出する範囲(以下、N画素範囲、と記す。)が特定され、さらにこれに対応する観測対象の範囲である前記算出範囲が特定される。このN画素範囲に対応する算出範囲が、観測対象の所定範囲に相当する。
【0018】
2枚のレーダ画像が完全に一致する場合には、式(1)によりコヒーレンス値ρ(m,n)は1となる。観測対象が地表面のようにその位置が変化しない場合には、2枚のレーダ画像を取得する際のそれぞれにおけるレーダ装置のアンテナの位置及び電波伝搬条件等のレーダ画像取得条件がほぼ同一であり、観測対象に時間的変化がない場合には、コヒーレンス値ρ(m,n)は1に近い値をとる。N画素範囲に対応する算出範囲を含むより広い範囲において観測対象に時間的変化が生じる場合、つまりN画素範囲に対応する算出範囲の全面で観測対象に時間的変化が生じる場合には、コヒーレンス値ρ(m,n)は0に近い値をとる。
【0019】
ステップST12において、ステップST11で算出したコヒーレンス値ρ(m,n)を、コヒーレンス値補正部16に入力する。
【0020】
ステップST13において、局所的信号対雑音比算出部18が、レーダ画像中の各画素の位置P(m,n)において、N画素範囲内のレーダ信号の受信パワーの平均値を求めて、この平均値を信号と雑音の和のパワーSNP(m,n)とする。そして、この値と受信機雑音パワーPnから、式(2)により局所的な信号対雑音比SNR(m,n)を算出する。
【0021】
SNR(m,n)=10log(SNP(m,n)/Pn)−1 (2)
ここで、logは常用対数を表す。受信機雑音パワーPnは、例えば、地球観測データ利用ハンドブック-JERS-1編-、リモートセンシング技術センタ、平成6年、p.129-130に記載されているように、レーダ信号の主要帯域外のデータから算出することができる。
【0022】
ステップST14において、信号対雑音比補正量算出部20が、2枚のレーダ画像を取得する際のそれぞれの信号対雑音比に応じて補正量ρthermal(m,n)を、例えば式(3)で算出する。
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、SNR1(m,n)は、2枚のレーダ画像のうち一方のレーダ画像における位置P(m,n)での信号対雑音比を示し、SNR2(m,n)は他方のレーダ画像における位置P(m,n)での信号対雑音比を示す。ここでは、信号対雑音比に対する補正量を式(3)によって求めたが、信号対雑音比によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0025】
ステップST15において、信号対雑音比補正部22が、式(4)を用いて、コヒーレンス値ρ(m,n)を補正する。
【0026】
ρcorrect(m,n)=ρ(m,n)/ρthermal(m,n) (4)
ここでは、式(4)を用いて補正を行なったが、信号対雑音比によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0027】
ステップST16において、基線長補正量算出部24が、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響を評価する。この幾何の違いを、図3を用いて説明する。図3において、レーダ搭載機50は、ある時刻において観測対象の一定の範囲であるレーダ画像取得範囲52のレーダ画像を取得するレーダ装置(図示せず)を搭載している。このレーダ搭載機50は、航空機、人工衛星、車両等であって、レーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影するレーダ装置を搭載したものであればよい。また、地上設置型レーダ装置のように、位置が固定されたレーダ装置であってもよい。
【0028】
レーダ搭載機54は、レーダ搭載機50と同様、ある時刻においてレーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影するレーダ装置を搭載しており、レーダ搭載機50とは別時刻にレーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影する。レーダ搭載機54は、レーダ搭載機50とは別のレーダ搭載機であっても、同じレーダ搭載機であっても良い。このレーダ搭載機54は、航空機、人工衛星、車両等であって、レーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影するレーダ装置を搭載したものであればよい。また、地上設置型レーダ装置のように、位置が固定されたレーダ装置であってもよい。
【0029】
A地点56は、レーダ画像取得範囲52内にある任意の地点を示す。ここで、入射角θ21はレーダ搭載機50に搭載されたレーダ装置のアンテナ(図示せず)からA地点56への視線方向と鉛直下方向がなす角度、距離rはレーダ搭載機50に搭載されたレーダ装置のアンテナからA地点56までの距離、入射角θ22はレーダ搭載機54に搭載されたレーダ装置のアンテナ(図示せず)からA地点56への視線方向と鉛直下方向がなす角度、距離r+drはレーダ搭載機54に搭載されたレーダ装置のアンテナからA地点56までの距離とする。レーダ搭載機50に搭載されたレーダ装置でレーダ画像を取得した際のアンテナの位置と、レーダ搭載機54に搭載されたレーダ装置でレーダ画像を取得した際のアンテナの位置とを結ぶベクトルBは、前述の基線ベクトルに相当し、このベクトルの長さが基線長となる。角度αはベクトルBが水平面となす角度であり、ベクトルBの鉛直方向における傾斜を表す。
【0030】
基線長補正量算出部24は、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響に関する補正量を、例えば式(5)で算出する。
【0031】
【数3】
ここで、Ryはレンジ方向の分解能、λはレーダ装置の使用電波の波長、|B|はベクトルBの長さ、θ=(θ21+θ22)/2である。ここでは、幾何の違いに対する補正量を式(5)で算出したが、幾何の違いによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0032】
次に、ステップST17において、基線長補正較正部26が、2枚のレーダ画像取得の際の後述する方位角差が十分に小さい場合であって、N画素範囲に対応する算出範囲の全てが不変範囲であることが既知であり、かつ、局所的信号対雑音比算出部18で算出したSNR(m,n)が十分に大きい範囲(以下、この範囲を、基線長較正基準範囲、と記す。)が存在するときには、当該基線長較正基準範囲のステップST15において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρspatialとを比較する。この2つの値の差が所定の値以下である場合には、ρspatialを補正量として確定し、この2つの値の差が所定の値より大きい場合には、ρspatialを当該基線長較正基準範囲のステップST15において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)と置き換えることによって、ρspatialを較正する。なお、基線長較正基準範囲が複数存在する場合には、そのうちの1の基線長較正基準範囲を選択して、この選択された基線長較正基準範囲のステップST15において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρspatialとを比較して、ρspatialを較正すればよい。また、基線長較正基準範囲が存在しない場合には、ρspatialを補正量として確定する。
【0033】
次に、ステップST18において、基線長補正部28が、式(6)を用いて、ステップST15において補正されたコヒーレンス値をさらに補正する。
【0034】
ρcorrect(m,n)=ρcorrect(m,n)/ρspatial (6)
ここでは、式(6)を用いて補正を行なったが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0035】
次に、ステップST19において、方位角補正量算出部30が、2枚のレーダ画像を取得する際の方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を算出する。図4を用いて、この方位角の差異について説明する。図4において、図3と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。ここでは、方位角差dφ58は、レーダ画像取得範囲52内にあるA地点56に対するレーダ搭載機50とレーダ搭載機54の視線方向の方位角差を示す。方位角補正量算出部30は、補正量を、例えば式(7)で算出する。
【0036】
【数4】
【0037】
ここでRxはグランドレンジにおけるレーダ装置の分解能を示す。ここでは、方位角差dφ58に対する補正量を式(7)で算出したが、方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0038】
次に、ステップST20において、方位角補正較正部32が、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響が十分に小さく、あるいは、十分に高い精度で補正されている場合であって、N画素範囲に対応する算出範囲の全てが不変範囲であることが既知であり、かつ、局所的信号対雑音比算出部18で算出したSNR(m,n)が十分に大きい範囲(以下、この範囲を、方位角較正基準範囲、と記す。)が存在するときには、当該方位角較正基準範囲のステップST18において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρrotationとを比較する。この2つの値の差が所定の値以下である場合には、ρrotationを補正量として確定し、この2つの値の差が所定の値より大きい場合には、ρrotationを当該方位角較正基準範囲のステップST18において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)と置き換えることによって、ρrotationを較正する。なお、方位角較正基準範囲が複数存在する場合には、そのうちの1の方位角較正基準範囲を選択して、この選択された方位角較正基準範囲のステップST18において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρrotationとを比較して、ρrotationを較正すればよい。また、方位角較正基準範囲が存在しない場合には、ρrotationを補正量として確定する。
【0039】
次に、ステップST21において、方位角補正部34が、式(8)を用いて、ステップST18において補正されたコヒーレンス値をさらに補正する。
【0040】
ρcorrect(m,n)=ρ(m,n)/ρrotation (8)
ここでは、式(8)を用いて補正を行なったが、方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0041】
次に、ステップST22において、変化面積比補正量算出部36が、算出範囲の面積と変化範囲の面積との比から、コヒーレンス値の補正量を算出する。変化範囲の面積は、あらかじめ算出範囲における時間的変化の内容、範囲を見積もった上で予測し、適当な値に設定すればよい。例えば、観測対象が地表面であり、その地表面を通過した車両の轍による地表面の時間的変化を検出する場合には、轍の幅と算出範囲を代表する長さ(算出範囲が正方形であればその一辺の長さ、円形であればその直径等)の積とすればよい。図5を用いて、このコヒーレンス値の補正量の算出方法について説明する。
【0042】
図5において、横軸は、算出範囲の面積S1と変化範囲の面積S2の比x(=S2/S1)を示す。縦軸は、コヒーレンス値を示し、func(x)は、面積比がxである場合のコヒーレンス値を示す関数である。この関数は、x=0の場合には1に近い値maxをとり、x=1の場合には0に近い値minをとる。このmaxの値は、算出範囲が全て不変範囲の場合のコヒーレンス値に相当し、minは算出範囲が全て変化範囲の場合のコヒーレンス値に相当する。これらの値は、信号対雑音比補正部22、基線長補正部28、及び方位角補正部34におけるコヒーレンス値の補正が、十分に高い精度で行なわれている場合にはそれぞれ1と0とおいて良い。このような場合において面積比x=x0とすると、コヒーレンス値の補正量はρarea=(1-func(x0))とすればよい。なお、図5では、func(x)をxについて線形関数としたが、面積比xの違いによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、xについて非線形関数にするなど、他の式を用いてもよい。
【0043】
次に、ステップST23において、変化面積比較正部38が、N画素範囲に対応する算出範囲に含まれる変化範囲の面積が既知であり、かつ、局所的信号対雑音比算出部18で算出したSNR(m,n)が十分に大きい範囲(以下、この範囲を、面積比較正基準範囲、と記す。)が存在するときには、当該面積比較正基準範囲のステップST21において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρareaとを比較する。この2つの値の差が所定の値以下である場合には、ρareaを補正量として確定し、この2つの値の差が所定の値より大きい場合には、ρareaを当該面積比較正基準範囲のステップST21において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)と置き換えることによって、ρareaを較正する。なお、面積比較正基準範囲が複数存在する場合には、そのうちの1の面積比較正基準範囲を選択して、この選択された面積比較正基準範囲のステップST21において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρareaとを比較して、ρareaを較正すればよい。また、面積比較正基準範囲が存在しない場合には、ρareaを補正量として確定する。
【0044】
次に、ステップST24において、変化面積補正部40が、式(9)を用いてコヒーレンス値を補正する。
【0045】
ρcorrect(m,n)=ρ(m,n)/ρarea (9)
ここでは、式(9)を用いて補正を行なったが、面積比xの違いによるによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0046】
次に、ステップST25において、補正後のコヒーレンス値を変化検出部42に入力する。そして、変化検出部42が、閾値格納部44から入力された基準閾値と、補正後のコヒーレンス値ρcorrect(m,n)を比較する。この基準閾値をTで表すと、ρcorrect(m,n)>Tである場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化は生じていないと判定し、ρcorrect(m,n)≦Tの場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化が生じたと判定する。この判定をレーダ画像の位置P(m,n)の全てに対して行なうことにより、2つのレーダ画像間における変化の有無、つまり観測対象の時間的変化の有無を示す情報が得られる。
【0047】
そして、ステップST26において、変化検出部42で算出されたレーダ画像取得間経過時間における観測対象の時間的変化の有無を示す情報を、出力結果格納部46へ出力する。この情報を位置P(m,n)に対応してプロットすれば、観測対象の時間的変化を示す画像が得られる。
【0048】
以上のように、変化範囲の面積が、算出範囲よりも小さい場合に、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は、算出範囲全体が変化範囲である場合に比べて小さくなることを考慮してコヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0049】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、基線ベクトルの鉛直方向における傾きを考慮して算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0050】
また、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、算出範囲内で局所的に変化する信号対雑音比を考慮して算出し、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0051】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を理論的に算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0052】
なお、実施の形態1においては、変化面積補正部、信号対雑音比補正部、方位角補正部及び基線長補正部を全て備えたものを説明したが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて、これらを適宜選択して組み合わせてもよく、コヒーレンス値を補正する順番も適宜設定すればよい。また、基線長補正部、方位角補正部及び変化面積補正部が、それぞれ基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部を備えたものを説明したが、基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部は観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて適宜選択して備えるようにしてもよい。また、信号対雑音比補正部が、局所的信号対雑音比算出部を備え、N画素範囲ごとに局所的な信号対雑音比を算出するようにしたが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化の状態等に応じて、局所的な信号対雑音比を算出する範囲を適宜設定すればよく、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化が十分に小さい場合には、レーダ画像全面で1の信号対雑音比としてもよい。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態1では、観測対象の時間的変化以外の要因によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を算出し、これらの補正量を用いて当該影響を除去、軽減することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させるようにしたが、この発明の実施の形態2では、基準閾値を補正することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる。図6は、この実施の形態2によるレーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【0054】
図6において、図1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。閾値補正部70は、信号対雑音比補正部B72、基線長補正部B74、方位角補正部B76、変化面積補正部B78から構成され、閾値格納部44から入力された閾値に対して補正を加える。閾値格納部44及び閾値補正部70が閾値設定部79を構成する。変化検出部80は、閾値補正部70から出力された補正後の閾値と、コヒーレンス値算出部14で算出されたコヒーレンス値とを比較して、観測対象の時間的変化を検出し、その結果を出力結果格納部46に格納する。
【0055】
次に動作について説明する。図7は、この実施の形態2によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。図7において、図2と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
【0056】
ステップST10及びステップST11は実施の形態1と同様である。ステップST30において、閾値格納部44に格納されている基準閾値と、コヒーレンス値算出部14で算出されたコヒーレンス値を、閾値補正部70に入力する。ステップST13及びステップST14は実施の形態1と同様である。
【0057】
ステップST32において、信号対雑音比補正部B72が、式(10)を用いて、基準閾値Tを補正する。
【0058】
Tcorrect(m,n)=T・ρthermal(m,n) (10)
ここでは、式(10)を用いて補正を行なったが、信号対雑音比による基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0059】
ステップST16及びステップST17は実施の形態1と同様である。ステップST34において、基線長補正部B74が、式(11)を用いて、ステップST32において補正された基準閾値をさらに補正する。
【0060】
Tcorrect(m,n)=Tcorrect(m,n)・ρspatial (11)
ここでは、式(11)を用いて補正を行なったが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによる基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0061】
ステップST19及びステップST20は実施の形態1と同様である。ステップST36において、方位角補正部B76が、式(12)を用いて、ステップST34において補正された基準閾値をさらに補正する。
【0062】
Tcorrect(m,n)=Tcorrect(m,n)・ρrotation (12)
ここでは、式(12)を用いて補正を行なったが、方位角の差異による基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0063】
ステップST22及びステップST23は実施の形態1と同様である。ステップST38において、変化面積補正部B78が、式(13)を用いて、ステップST36において補正された基準閾値をさらに補正する。
【0064】
Tcorrect(m,n)=Tcorrect(m,n)・ρarea (13)
ここでは、式(13)を用いて補正を行なったが、面積比xの違いによる基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0065】
ステップST40において、ステップST38において補正された基準閾値Tcorrectと、コヒーレンス値算出部14で算出されたコヒーレンス値ρ(m,n)を変化検出部80に入力する。そして、変化検出部80が、補正された基準閾値Tcorrect(m,n)と、コヒーレンス値ρ(m,n)を比較する。ここでは、ρ(m,n)>Tcorrect(m,n)である場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化は生じていないと判定し、ρ(m,n)≦Tcorrect(m,n)の場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化が生じたと判定する。この判定をレーダ画像の位置P(m,n)の全てに対して行なうことにより、2つのレーダ画像間における変化の有無、つまり観測対象の時間的変化の有無を示す情報が得られる。ステップST26において、変化検出部80で算出されたレーダ画像取得間経過時間における観測対象の時間的変化の有無を示す情報を、出力結果格納部46へ出力する。この情報を位置P(m,n)に対応してプロットすれば、観測対象の時間的変化を示す画像が得られる。
【0066】
以上のように、検出したい変化範囲の面積が、算出範囲よりも小さい場合に、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は、算出範囲全体が変化範囲である場合に比べて小さくなることを考慮して基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、基線ベクトルの鉛直方向における傾きを考慮して算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0068】
また、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、算出範囲内で局所的に変化する信号対雑音比を考慮して算出し、基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を理論的に算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0070】
なお、実施の形態2においては、変化面積補正部B、信号対雑音比補正部B、方位角補正部B及び基線長補正部Bを全て備えたものを説明したが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて、これらを適宜選択して組み合わせてもよく、基準閾値を補正する順番も適宜設定すればよい。また、基線長補正部B、方位角補正部B及び変化面積補正部Bが、それぞれ基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部を備えたものを説明したが、基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部は観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて適宜選択して備えるようにしてもよい。また、信号対雑音比補正部Bが、局所的信号対雑音比算出部を備え、N画素範囲ごとに局所的な信号対雑音比を算出するようにしたが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化の状態等に応じて、局所的な信号対雑音比を算出する範囲を適宜設定すればよく、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化が十分に小さい場合には、レーダ画像全面で1の信号対雑音比としてもよい。
【0071】
実施の形態3.
実施の形態1では、観測対象の時間的変化以外の要因によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を算出し、これらの補正量を用いて当該影響を除去、軽減することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させるようにしたが、この発明の実施の形態3では、コヒーレンス値を算出する前に、レーダ画像の画素が持つ複素データ値を補正することで、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を除去、軽減して、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる。図8は、この実施の形態3によるレーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【0072】
図8において、図1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。距離差補正部82は入力された2枚のレーダ画像の画素が持つ複素データ値を、それぞれのレーダ画像を取得する際の幾何の違いに応じて補正する。レーダ画像位置合わせ部12、距離差補正部82及びコヒーレンス値算出部14が相関値算出部83を構成する。コヒーレンス値補正部90は、図1に示すコヒーレンス値補正部16から基線長補正量算出部24と基線長補正較正部26から成る基線長補正部28を除いたものであり、信号対雑音比補正部22、方位角補正部34及び変化面積補正部40は図1に示すコヒーレンス値補正部16と同様である。
【0073】
次に動作について説明する。図9は、この実施の形態3によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。図9において、図2と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
【0074】
ステップST10は実施の形態1と同様である。ステップST50において、距離差補正部82が、入力された2枚のレーダ画像の画素にそれぞれ対応する観測対象の位置Q(m,n)とアンテナまでの距離であるスラントレンジ距離を算出する。ここでは、位置Q(m,n)におけるスラントレンジ距離が一方のレーダ画像においてr(m,n)、他方のレーダ画像においてr(m,n)+dr(m,n)であるとする。
【0075】
ステップST52において、位置Q(m,n)における位相補正量phase(m,n)を、式(14)を用いて算出する。
【0076】
phase(m,n)=exp(j2dr(m,n)/λ) (14)
なお、式(14)において、jは虚数、λはレーダ装置の使用電波の波長である。
【0077】
ステップST54において、2枚のレーダ画像のうちの一方の画素が持つ複素データs2(m,n)を、式(15)を用いて補正する。
【0078】
s2,correct(m,n)=s2(m,n)・phase(m,n) (15)
ここでは、レーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を式(15)を用いて補正したが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。ステップST54以降、ステップST11〜ステップST26は実施の形態1と同様である。
【0079】
以上のように、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を補正した後に、コヒーレンス値を算出するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0080】
実施の形態4.
実施の形態3では、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を補正した後に、コヒーレンス値を算出し、この算出したコヒーレンス値に、観測対象の時間的変化及び2枚のレーダ画像の幾何の違い以外の要因によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量の逆数を順次乗じてコヒーレンス値を補正することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させるようにしたが、この発明の実施の形態4では、コヒーレンス値を補正する代わりに基準閾値を補正することで観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる。図10は、この実施の形態4による、レーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【0081】
図10において、図6と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。閾値補正部92は、図6に示す閾値補正部70から基線長補正量算出部24と基線長補正較正部26から成る基線長補正部B74を除いたものであり、信号対雑音比補正部B72、方位角補正部B76及び変化面積補正部B78は図6に示す閾値補正部70と同様である。閾値格納部44及び閾値補正部92が閾値設定部93を構成する。また、距離差補正部82は図8と同様でり、レーダ画像位置合わせ部12、距離差補正部82及びコヒーレンス値算出部14が相関値算出部83を構成する。
【0082】
次に動作について説明する。図11は、この実施の形態4によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。図11において、図7または図10と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。図11は、図7からステップST16、ステップST17及びステップST34を削除し、ステップST10とステップST11の間に、図10と同様のステップST50、ステップST52及びステップST54を追加したものである。
【0083】
ステップST50、ステップST52及びステップST54において、実施の形態3と同様に、2枚のレーダ画像のうちの一方の画素が持つ複素データs2(m,n)を補正する。ステップST54において、レーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を式(15)を用いて補正したが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。ステップST54以降、ステップST11〜ステップST32まで、ステップST19〜ステップST26までは実施の形態2と同様である。
【0084】
以上のように、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を補正した後に、コヒーレンス値を算出するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置で処理する2つのレーダ画像の関係を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置で処理する2つのレーダ画像の関係を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置の動作を説明するグラフである。
【図6】この発明の実施の形態2によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態3によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態3によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態4によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態4によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
15 相関値算出部、83 相関値算出部、40 変化面積補正部、78 変化面積補正部、42 変化検出部、80 変化検出部、22 信号対雑音比補正部、72 信号対雑音比補正部、34 方位角補正部、76 方位角補正部、28 基線長補正部、74 基線長補正部、79 閾値設定部、93 閾値設定部。
【技術分野】
【0001】
この発明はレーダ画像から観測対象の時間的変化を検出するレーダ画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ画像処理装置は、レーダ装置により異なる時刻に取得された2枚のレーダ画像間の相関を示すコヒーレンス値を算出し、このコヒーレンス値が2枚のレーダ画像が完全に一致する場合には1となり、2枚のレーダ画像間の差異が大きくなるとともに0に近づくことを利用して、コヒーレンス値の大小に基づく閾値処理によって、2枚のレーダ画像間の差異、つまり2枚のレーダ画像が取得された異なる時刻の間(以下、レーダ画像取得間経過時間、と記す。)に生じた観測対象の時間的変化の検出を行っていた(例えば、非特許文献1参照。)。例えば、観測対象が地表面であれば、地表面を通過した車両の轍や、火災や爆発の跡などの、地表面変化が検出できる。
【0003】
異なる時刻に取得された2枚のレーダ画像から算出したコヒーレンス値は、レーダ画像取得間経過時間に生じた観測対象の時間的変化に依存して定まるが、各レーダ画像を取得する際のレーダ装置のアンテナと観測対象の位置関係(以下、幾何、と記す。)の違いや、レーダ装置の信号対雑音比の変動による影響も受ける(例えば、非特許文献2参照。)。このため、非特許文献2に記載された地表面の測高を目的としたレーダ画像処理装置においては、例えばレーダ画像を取得する際の幾何の違いやレーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を評価し、その結果を利用してコヒーレンス値を補正するようにしている。
【0004】
【非特許文献1】Charles V. Jakowatz, Jr., Daniel E. Wahl, Paul H. Eichel, Dennis C. Ghiglia, Paul A. Thompson著、「Spotlight-mode: synthetic aperture radar: a signal processing approach」、Kluwer academic出版、1996年、p.330-340
【0005】
【非特許文献2】H. A.Zebker, J. Villasenor,"Decorrelation in interferometric radar echoes", IEEE Trans. Geoscience and Remote Sensing, 1992, vol.30, no.5, p.950-959
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のレーダ画像処理装置は、コヒーレンス値を算出する観測対象の範囲(以下、算出範囲、と記す。)の一部で時間的変化を生じる場合(以下、この時間的変化を生じる範囲を、変化範囲、と記す。)、つまり変化範囲が算出範囲よりも小さい場合には、算出範囲における変化範囲以外の範囲、つまり時間的変化を生じていない範囲(以下、不変範囲、と記す。)については、コヒーレンス値は1となり、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は、算出範囲全体が変化範囲である場合の当該低下量に比べて小さくなることを考慮していない。このため、算出範囲全体に占める変化範囲の比率が小さくなるにつれて、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は小さくなり、観測対象の時間的変化の検出が困難になるという問題点があった。
【0007】
また、従来のレーダ画像処理装置は、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を、2枚のレーダ画像取得時のそれぞれにおけるレーダ装置のアンテナの位置を結ぶベクトル(以下、このベクトルを基線ベクトル、基線ベクトルの長さを基線長、とそれぞれ記す。)が水平方向成分のみを有する、つまり鉛直方向に傾斜していないという仮定のもとに評価している。しかし、実際に2枚のレーダ画像を取得する際のそのぞれにおけるレーダ装置のアンテナの鉛直方向の位置が互いに同一となることは少なく、従って、基線ベクトルは鉛直方向に傾きを持つことが一般的である。このため、基線ベクトルが鉛直方向に傾斜していないという仮定のもとでは、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響の評価に大きな誤差が生じるという問題点があった。
【0008】
さらに、従来のレーダ画像処理装置は、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を、信号対雑音比がレーダ画像全面において一定の値であるという仮定のもとに評価している。しかし、実際のレーダ装置における信号対雑音比はレーダ画像内で局所的に変化するため、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響の評価に大きな誤差が生じるという問題点があった。
【0009】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、算出範囲と変化範囲の面積比、2つのレーダ画像を取得する際の幾何の違い、及びレーダ装置の信号対雑音比の変動がそれぞれコヒーレンス値に及ぼす影響を評価し、コヒーレンス値、あるいは観測対象の時間的変化を閾値処理によって検出するためのコヒーレンス値の閾値(以下、この閾値を、基準閾値、と記す。)を補正することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るレーダ画像処理装置は、異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出する相関値算出部、所定範囲の中で異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、所定範囲の面積及び予測された変化面積に応じて相関値を補正する変化面積補正部、及び変化面積補正部により補正された相関値をもとに所定範囲における異なる時刻の間に生じた観測対象の時間的変化を検出する変化検出部を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、コヒーレンス値を算出する範囲と観測対象の時間的変化を生ずる範囲の面積比がコヒーレンス値に及ぼす影響を評価して、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度が高いレーダ画像処理装置を得ることができる。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。図1において、レーダ画像格納部10は、レーダ装置(図示せず)により異なる時刻に取得された観測対象(図示せず)の複数のレーダ画像を格納する。レーダ画像位置合わせ部12は、レーダ画像格納部10から2枚のレーダ画像を入力し、これらの位置合わせを行なう。
【0013】
コヒーレンス値算出部14は、レーダ画像位置合わせ部12で位置合わせが行なわれた2枚のレーダ画像を入力し、これらの間の相関を示す相関値であるコヒーレンス値を算出する。レーダ画像位置合わせ部12及びコヒーレンス値算出部14が相関値算出部15を構成する。コヒーレンス値補正部16は、局所的信号対雑音比算出部18と信号対雑音比補正量算出部20から成る信号対雑音比補正部22と、基線長補正量算出部24と基線長補正較正部26から成る基線長補正部28と、方位角補正量算出部30と方位角補正較正部32から成る方位角補正部34と、変化面積比補正量算出部36と変化面積比較正部38から成る変化面積補正部40で構成され、コヒーレンス値算出部14の出力であるコヒーレンス値に対して補正を加える。変化検出部42は、基準閾値を格納する閾値格納部44から閾値を入力し、この閾値とコヒーレンス値補正部16から入力された補正後のコヒーレンス値とを比較して、観測対象の時間的変化を検出し、その結果を出力結果格納部46に格納する。
【0014】
次に動作について説明する。図2は、この実施の形態1によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。まずステップST10において、レーダ画像位置合わせ部12が、レーダ画像格納部10から入力された2枚のレーダ画像間の位置合わせを行なう。位置合わせは、例えば2枚のレーダ画像から複数の特徴点をそれぞれ抽出して、これらの特徴点を対応付けすることによって行なう。この位置合わせの結果、それぞれのレーダ画像中の位置P(m,n)の画素は、観測対象の同一位置を指すようになる。
【0015】
ステップST11において、ステップST10で位置合わせが行なわれた2枚のレーダ画像を、コヒーレンス値算出部14に入力する。コヒーレンス値算出部14は、レーダ画像中の各画素の位置P(m,n)において、2枚のレーダ画像からコヒーレンス値を算出する。この位置P(m,n)におけるコヒーレンス値ρ(m,n)は式(1)で表されるものである。
【0016】
【数1】
【0017】
ここで、s1,kは2枚のレーダ画像のうち一方のレーダ画像において位置P(m,n)を中心としたN個の画素が持つ複素データ値、s2,kは他方のレーダ画像おいて位置P(m,n)を中心としたN個の画素が持つ複素データ値、*はこれらの複素データ値の複素共役を示す。個数Nによって、位置P(m,n)を中心としたコヒーレンス値ρ(m,n)を算出する範囲(以下、N画素範囲、と記す。)が特定され、さらにこれに対応する観測対象の範囲である前記算出範囲が特定される。このN画素範囲に対応する算出範囲が、観測対象の所定範囲に相当する。
【0018】
2枚のレーダ画像が完全に一致する場合には、式(1)によりコヒーレンス値ρ(m,n)は1となる。観測対象が地表面のようにその位置が変化しない場合には、2枚のレーダ画像を取得する際のそれぞれにおけるレーダ装置のアンテナの位置及び電波伝搬条件等のレーダ画像取得条件がほぼ同一であり、観測対象に時間的変化がない場合には、コヒーレンス値ρ(m,n)は1に近い値をとる。N画素範囲に対応する算出範囲を含むより広い範囲において観測対象に時間的変化が生じる場合、つまりN画素範囲に対応する算出範囲の全面で観測対象に時間的変化が生じる場合には、コヒーレンス値ρ(m,n)は0に近い値をとる。
【0019】
ステップST12において、ステップST11で算出したコヒーレンス値ρ(m,n)を、コヒーレンス値補正部16に入力する。
【0020】
ステップST13において、局所的信号対雑音比算出部18が、レーダ画像中の各画素の位置P(m,n)において、N画素範囲内のレーダ信号の受信パワーの平均値を求めて、この平均値を信号と雑音の和のパワーSNP(m,n)とする。そして、この値と受信機雑音パワーPnから、式(2)により局所的な信号対雑音比SNR(m,n)を算出する。
【0021】
SNR(m,n)=10log(SNP(m,n)/Pn)−1 (2)
ここで、logは常用対数を表す。受信機雑音パワーPnは、例えば、地球観測データ利用ハンドブック-JERS-1編-、リモートセンシング技術センタ、平成6年、p.129-130に記載されているように、レーダ信号の主要帯域外のデータから算出することができる。
【0022】
ステップST14において、信号対雑音比補正量算出部20が、2枚のレーダ画像を取得する際のそれぞれの信号対雑音比に応じて補正量ρthermal(m,n)を、例えば式(3)で算出する。
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、SNR1(m,n)は、2枚のレーダ画像のうち一方のレーダ画像における位置P(m,n)での信号対雑音比を示し、SNR2(m,n)は他方のレーダ画像における位置P(m,n)での信号対雑音比を示す。ここでは、信号対雑音比に対する補正量を式(3)によって求めたが、信号対雑音比によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0025】
ステップST15において、信号対雑音比補正部22が、式(4)を用いて、コヒーレンス値ρ(m,n)を補正する。
【0026】
ρcorrect(m,n)=ρ(m,n)/ρthermal(m,n) (4)
ここでは、式(4)を用いて補正を行なったが、信号対雑音比によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0027】
ステップST16において、基線長補正量算出部24が、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響を評価する。この幾何の違いを、図3を用いて説明する。図3において、レーダ搭載機50は、ある時刻において観測対象の一定の範囲であるレーダ画像取得範囲52のレーダ画像を取得するレーダ装置(図示せず)を搭載している。このレーダ搭載機50は、航空機、人工衛星、車両等であって、レーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影するレーダ装置を搭載したものであればよい。また、地上設置型レーダ装置のように、位置が固定されたレーダ装置であってもよい。
【0028】
レーダ搭載機54は、レーダ搭載機50と同様、ある時刻においてレーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影するレーダ装置を搭載しており、レーダ搭載機50とは別時刻にレーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影する。レーダ搭載機54は、レーダ搭載機50とは別のレーダ搭載機であっても、同じレーダ搭載機であっても良い。このレーダ搭載機54は、航空機、人工衛星、車両等であって、レーダ画像取得範囲52のレーダ画像を撮影するレーダ装置を搭載したものであればよい。また、地上設置型レーダ装置のように、位置が固定されたレーダ装置であってもよい。
【0029】
A地点56は、レーダ画像取得範囲52内にある任意の地点を示す。ここで、入射角θ21はレーダ搭載機50に搭載されたレーダ装置のアンテナ(図示せず)からA地点56への視線方向と鉛直下方向がなす角度、距離rはレーダ搭載機50に搭載されたレーダ装置のアンテナからA地点56までの距離、入射角θ22はレーダ搭載機54に搭載されたレーダ装置のアンテナ(図示せず)からA地点56への視線方向と鉛直下方向がなす角度、距離r+drはレーダ搭載機54に搭載されたレーダ装置のアンテナからA地点56までの距離とする。レーダ搭載機50に搭載されたレーダ装置でレーダ画像を取得した際のアンテナの位置と、レーダ搭載機54に搭載されたレーダ装置でレーダ画像を取得した際のアンテナの位置とを結ぶベクトルBは、前述の基線ベクトルに相当し、このベクトルの長さが基線長となる。角度αはベクトルBが水平面となす角度であり、ベクトルBの鉛直方向における傾斜を表す。
【0030】
基線長補正量算出部24は、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響に関する補正量を、例えば式(5)で算出する。
【0031】
【数3】
ここで、Ryはレンジ方向の分解能、λはレーダ装置の使用電波の波長、|B|はベクトルBの長さ、θ=(θ21+θ22)/2である。ここでは、幾何の違いに対する補正量を式(5)で算出したが、幾何の違いによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0032】
次に、ステップST17において、基線長補正較正部26が、2枚のレーダ画像取得の際の後述する方位角差が十分に小さい場合であって、N画素範囲に対応する算出範囲の全てが不変範囲であることが既知であり、かつ、局所的信号対雑音比算出部18で算出したSNR(m,n)が十分に大きい範囲(以下、この範囲を、基線長較正基準範囲、と記す。)が存在するときには、当該基線長較正基準範囲のステップST15において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρspatialとを比較する。この2つの値の差が所定の値以下である場合には、ρspatialを補正量として確定し、この2つの値の差が所定の値より大きい場合には、ρspatialを当該基線長較正基準範囲のステップST15において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)と置き換えることによって、ρspatialを較正する。なお、基線長較正基準範囲が複数存在する場合には、そのうちの1の基線長較正基準範囲を選択して、この選択された基線長較正基準範囲のステップST15において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρspatialとを比較して、ρspatialを較正すればよい。また、基線長較正基準範囲が存在しない場合には、ρspatialを補正量として確定する。
【0033】
次に、ステップST18において、基線長補正部28が、式(6)を用いて、ステップST15において補正されたコヒーレンス値をさらに補正する。
【0034】
ρcorrect(m,n)=ρcorrect(m,n)/ρspatial (6)
ここでは、式(6)を用いて補正を行なったが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0035】
次に、ステップST19において、方位角補正量算出部30が、2枚のレーダ画像を取得する際の方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を算出する。図4を用いて、この方位角の差異について説明する。図4において、図3と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。ここでは、方位角差dφ58は、レーダ画像取得範囲52内にあるA地点56に対するレーダ搭載機50とレーダ搭載機54の視線方向の方位角差を示す。方位角補正量算出部30は、補正量を、例えば式(7)で算出する。
【0036】
【数4】
【0037】
ここでRxはグランドレンジにおけるレーダ装置の分解能を示す。ここでは、方位角差dφ58に対する補正量を式(7)で算出したが、方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0038】
次に、ステップST20において、方位角補正較正部32が、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるコヒーレンス値への影響が十分に小さく、あるいは、十分に高い精度で補正されている場合であって、N画素範囲に対応する算出範囲の全てが不変範囲であることが既知であり、かつ、局所的信号対雑音比算出部18で算出したSNR(m,n)が十分に大きい範囲(以下、この範囲を、方位角較正基準範囲、と記す。)が存在するときには、当該方位角較正基準範囲のステップST18において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρrotationとを比較する。この2つの値の差が所定の値以下である場合には、ρrotationを補正量として確定し、この2つの値の差が所定の値より大きい場合には、ρrotationを当該方位角較正基準範囲のステップST18において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)と置き換えることによって、ρrotationを較正する。なお、方位角較正基準範囲が複数存在する場合には、そのうちの1の方位角較正基準範囲を選択して、この選択された方位角較正基準範囲のステップST18において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρrotationとを比較して、ρrotationを較正すればよい。また、方位角較正基準範囲が存在しない場合には、ρrotationを補正量として確定する。
【0039】
次に、ステップST21において、方位角補正部34が、式(8)を用いて、ステップST18において補正されたコヒーレンス値をさらに補正する。
【0040】
ρcorrect(m,n)=ρ(m,n)/ρrotation (8)
ここでは、式(8)を用いて補正を行なったが、方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0041】
次に、ステップST22において、変化面積比補正量算出部36が、算出範囲の面積と変化範囲の面積との比から、コヒーレンス値の補正量を算出する。変化範囲の面積は、あらかじめ算出範囲における時間的変化の内容、範囲を見積もった上で予測し、適当な値に設定すればよい。例えば、観測対象が地表面であり、その地表面を通過した車両の轍による地表面の時間的変化を検出する場合には、轍の幅と算出範囲を代表する長さ(算出範囲が正方形であればその一辺の長さ、円形であればその直径等)の積とすればよい。図5を用いて、このコヒーレンス値の補正量の算出方法について説明する。
【0042】
図5において、横軸は、算出範囲の面積S1と変化範囲の面積S2の比x(=S2/S1)を示す。縦軸は、コヒーレンス値を示し、func(x)は、面積比がxである場合のコヒーレンス値を示す関数である。この関数は、x=0の場合には1に近い値maxをとり、x=1の場合には0に近い値minをとる。このmaxの値は、算出範囲が全て不変範囲の場合のコヒーレンス値に相当し、minは算出範囲が全て変化範囲の場合のコヒーレンス値に相当する。これらの値は、信号対雑音比補正部22、基線長補正部28、及び方位角補正部34におけるコヒーレンス値の補正が、十分に高い精度で行なわれている場合にはそれぞれ1と0とおいて良い。このような場合において面積比x=x0とすると、コヒーレンス値の補正量はρarea=(1-func(x0))とすればよい。なお、図5では、func(x)をxについて線形関数としたが、面積比xの違いによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、xについて非線形関数にするなど、他の式を用いてもよい。
【0043】
次に、ステップST23において、変化面積比較正部38が、N画素範囲に対応する算出範囲に含まれる変化範囲の面積が既知であり、かつ、局所的信号対雑音比算出部18で算出したSNR(m,n)が十分に大きい範囲(以下、この範囲を、面積比較正基準範囲、と記す。)が存在するときには、当該面積比較正基準範囲のステップST21において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρareaとを比較する。この2つの値の差が所定の値以下である場合には、ρareaを補正量として確定し、この2つの値の差が所定の値より大きい場合には、ρareaを当該面積比較正基準範囲のステップST21において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)と置き換えることによって、ρareaを較正する。なお、面積比較正基準範囲が複数存在する場合には、そのうちの1の面積比較正基準範囲を選択して、この選択された面積比較正基準範囲のステップST21において補正されたコヒーレンス値ρcorrect(m,n)とρareaとを比較して、ρareaを較正すればよい。また、面積比較正基準範囲が存在しない場合には、ρareaを補正量として確定する。
【0044】
次に、ステップST24において、変化面積補正部40が、式(9)を用いてコヒーレンス値を補正する。
【0045】
ρcorrect(m,n)=ρ(m,n)/ρarea (9)
ここでは、式(9)を用いて補正を行なったが、面積比xの違いによるによるコヒーレンス値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0046】
次に、ステップST25において、補正後のコヒーレンス値を変化検出部42に入力する。そして、変化検出部42が、閾値格納部44から入力された基準閾値と、補正後のコヒーレンス値ρcorrect(m,n)を比較する。この基準閾値をTで表すと、ρcorrect(m,n)>Tである場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化は生じていないと判定し、ρcorrect(m,n)≦Tの場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化が生じたと判定する。この判定をレーダ画像の位置P(m,n)の全てに対して行なうことにより、2つのレーダ画像間における変化の有無、つまり観測対象の時間的変化の有無を示す情報が得られる。
【0047】
そして、ステップST26において、変化検出部42で算出されたレーダ画像取得間経過時間における観測対象の時間的変化の有無を示す情報を、出力結果格納部46へ出力する。この情報を位置P(m,n)に対応してプロットすれば、観測対象の時間的変化を示す画像が得られる。
【0048】
以上のように、変化範囲の面積が、算出範囲よりも小さい場合に、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は、算出範囲全体が変化範囲である場合に比べて小さくなることを考慮してコヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0049】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、基線ベクトルの鉛直方向における傾きを考慮して算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0050】
また、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、算出範囲内で局所的に変化する信号対雑音比を考慮して算出し、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0051】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を理論的に算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、コヒーレンス値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させることができる。
【0052】
なお、実施の形態1においては、変化面積補正部、信号対雑音比補正部、方位角補正部及び基線長補正部を全て備えたものを説明したが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて、これらを適宜選択して組み合わせてもよく、コヒーレンス値を補正する順番も適宜設定すればよい。また、基線長補正部、方位角補正部及び変化面積補正部が、それぞれ基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部を備えたものを説明したが、基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部は観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて適宜選択して備えるようにしてもよい。また、信号対雑音比補正部が、局所的信号対雑音比算出部を備え、N画素範囲ごとに局所的な信号対雑音比を算出するようにしたが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化の状態等に応じて、局所的な信号対雑音比を算出する範囲を適宜設定すればよく、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化が十分に小さい場合には、レーダ画像全面で1の信号対雑音比としてもよい。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態1では、観測対象の時間的変化以外の要因によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を算出し、これらの補正量を用いて当該影響を除去、軽減することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させるようにしたが、この発明の実施の形態2では、基準閾値を補正することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる。図6は、この実施の形態2によるレーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【0054】
図6において、図1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。閾値補正部70は、信号対雑音比補正部B72、基線長補正部B74、方位角補正部B76、変化面積補正部B78から構成され、閾値格納部44から入力された閾値に対して補正を加える。閾値格納部44及び閾値補正部70が閾値設定部79を構成する。変化検出部80は、閾値補正部70から出力された補正後の閾値と、コヒーレンス値算出部14で算出されたコヒーレンス値とを比較して、観測対象の時間的変化を検出し、その結果を出力結果格納部46に格納する。
【0055】
次に動作について説明する。図7は、この実施の形態2によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。図7において、図2と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
【0056】
ステップST10及びステップST11は実施の形態1と同様である。ステップST30において、閾値格納部44に格納されている基準閾値と、コヒーレンス値算出部14で算出されたコヒーレンス値を、閾値補正部70に入力する。ステップST13及びステップST14は実施の形態1と同様である。
【0057】
ステップST32において、信号対雑音比補正部B72が、式(10)を用いて、基準閾値Tを補正する。
【0058】
Tcorrect(m,n)=T・ρthermal(m,n) (10)
ここでは、式(10)を用いて補正を行なったが、信号対雑音比による基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0059】
ステップST16及びステップST17は実施の形態1と同様である。ステップST34において、基線長補正部B74が、式(11)を用いて、ステップST32において補正された基準閾値をさらに補正する。
【0060】
Tcorrect(m,n)=Tcorrect(m,n)・ρspatial (11)
ここでは、式(11)を用いて補正を行なったが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによる基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0061】
ステップST19及びステップST20は実施の形態1と同様である。ステップST36において、方位角補正部B76が、式(12)を用いて、ステップST34において補正された基準閾値をさらに補正する。
【0062】
Tcorrect(m,n)=Tcorrect(m,n)・ρrotation (12)
ここでは、式(12)を用いて補正を行なったが、方位角の差異による基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0063】
ステップST22及びステップST23は実施の形態1と同様である。ステップST38において、変化面積補正部B78が、式(13)を用いて、ステップST36において補正された基準閾値をさらに補正する。
【0064】
Tcorrect(m,n)=Tcorrect(m,n)・ρarea (13)
ここでは、式(13)を用いて補正を行なったが、面積比xの違いによる基準閾値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。
【0065】
ステップST40において、ステップST38において補正された基準閾値Tcorrectと、コヒーレンス値算出部14で算出されたコヒーレンス値ρ(m,n)を変化検出部80に入力する。そして、変化検出部80が、補正された基準閾値Tcorrect(m,n)と、コヒーレンス値ρ(m,n)を比較する。ここでは、ρ(m,n)>Tcorrect(m,n)である場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化は生じていないと判定し、ρ(m,n)≦Tcorrect(m,n)の場合にはレーダ画像取得間経過時間に算出範囲において時間的変化が生じたと判定する。この判定をレーダ画像の位置P(m,n)の全てに対して行なうことにより、2つのレーダ画像間における変化の有無、つまり観測対象の時間的変化の有無を示す情報が得られる。ステップST26において、変化検出部80で算出されたレーダ画像取得間経過時間における観測対象の時間的変化の有無を示す情報を、出力結果格納部46へ出力する。この情報を位置P(m,n)に対応してプロットすれば、観測対象の時間的変化を示す画像が得られる。
【0066】
以上のように、検出したい変化範囲の面積が、算出範囲よりも小さい場合に、算出範囲全体から算出されるコヒーレンス値の1からの低下量は、算出範囲全体が変化範囲である場合に比べて小さくなることを考慮して基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、基線ベクトルの鉛直方向における傾きを考慮して算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0068】
また、レーダ装置の信号対雑音比の変動がコヒーレンス値に及ぼす影響を補正するための補正量を、算出範囲内で局所的に変化する信号対雑音比を考慮して算出し、基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、2枚のレーダ画像を取得する際の方位角の差異によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を理論的に算出し、さらにこの補正量をレーダ画像のデータを利用して較正した上で、基準閾値を補正するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0070】
なお、実施の形態2においては、変化面積補正部B、信号対雑音比補正部B、方位角補正部B及び基線長補正部Bを全て備えたものを説明したが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて、これらを適宜選択して組み合わせてもよく、基準閾値を補正する順番も適宜設定すればよい。また、基線長補正部B、方位角補正部B及び変化面積補正部Bが、それぞれ基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部を備えたものを説明したが、基線長補正較正部、方位角補正較正部及び変化面積比較正部は観測対象の時間的変化の検出精度の要求値等に応じて適宜選択して備えるようにしてもよい。また、信号対雑音比補正部Bが、局所的信号対雑音比算出部を備え、N画素範囲ごとに局所的な信号対雑音比を算出するようにしたが、観測対象の時間的変化の検出精度の要求値、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化の状態等に応じて、局所的な信号対雑音比を算出する範囲を適宜設定すればよく、レーダ装置における信号対雑音比の局所的変化が十分に小さい場合には、レーダ画像全面で1の信号対雑音比としてもよい。
【0071】
実施の形態3.
実施の形態1では、観測対象の時間的変化以外の要因によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量を算出し、これらの補正量を用いて当該影響を除去、軽減することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させるようにしたが、この発明の実施の形態3では、コヒーレンス値を算出する前に、レーダ画像の画素が持つ複素データ値を補正することで、2枚のレーダ画像を取得する際の幾何の違いがコヒーレンス値に及ぼす影響を除去、軽減して、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる。図8は、この実施の形態3によるレーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【0072】
図8において、図1と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。距離差補正部82は入力された2枚のレーダ画像の画素が持つ複素データ値を、それぞれのレーダ画像を取得する際の幾何の違いに応じて補正する。レーダ画像位置合わせ部12、距離差補正部82及びコヒーレンス値算出部14が相関値算出部83を構成する。コヒーレンス値補正部90は、図1に示すコヒーレンス値補正部16から基線長補正量算出部24と基線長補正較正部26から成る基線長補正部28を除いたものであり、信号対雑音比補正部22、方位角補正部34及び変化面積補正部40は図1に示すコヒーレンス値補正部16と同様である。
【0073】
次に動作について説明する。図9は、この実施の形態3によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。図9において、図2と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。
【0074】
ステップST10は実施の形態1と同様である。ステップST50において、距離差補正部82が、入力された2枚のレーダ画像の画素にそれぞれ対応する観測対象の位置Q(m,n)とアンテナまでの距離であるスラントレンジ距離を算出する。ここでは、位置Q(m,n)におけるスラントレンジ距離が一方のレーダ画像においてr(m,n)、他方のレーダ画像においてr(m,n)+dr(m,n)であるとする。
【0075】
ステップST52において、位置Q(m,n)における位相補正量phase(m,n)を、式(14)を用いて算出する。
【0076】
phase(m,n)=exp(j2dr(m,n)/λ) (14)
なお、式(14)において、jは虚数、λはレーダ装置の使用電波の波長である。
【0077】
ステップST54において、2枚のレーダ画像のうちの一方の画素が持つ複素データs2(m,n)を、式(15)を用いて補正する。
【0078】
s2,correct(m,n)=s2(m,n)・phase(m,n) (15)
ここでは、レーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を式(15)を用いて補正したが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。ステップST54以降、ステップST11〜ステップST26は実施の形態1と同様である。
【0079】
以上のように、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を補正した後に、コヒーレンス値を算出するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0080】
実施の形態4.
実施の形態3では、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を補正した後に、コヒーレンス値を算出し、この算出したコヒーレンス値に、観測対象の時間的変化及び2枚のレーダ画像の幾何の違い以外の要因によるコヒーレンス値への影響を補正するための補正量の逆数を順次乗じてコヒーレンス値を補正することで、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させるようにしたが、この発明の実施の形態4では、コヒーレンス値を補正する代わりに基準閾値を補正することで観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる。図10は、この実施の形態4による、レーダ画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【0081】
図10において、図6と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。閾値補正部92は、図6に示す閾値補正部70から基線長補正量算出部24と基線長補正較正部26から成る基線長補正部B74を除いたものであり、信号対雑音比補正部B72、方位角補正部B76及び変化面積補正部B78は図6に示す閾値補正部70と同様である。閾値格納部44及び閾値補正部92が閾値設定部93を構成する。また、距離差補正部82は図8と同様でり、レーダ画像位置合わせ部12、距離差補正部82及びコヒーレンス値算出部14が相関値算出部83を構成する。
【0082】
次に動作について説明する。図11は、この実施の形態4によるレーダ画像処理装置の処理を示すフローチャートである。図11において、図7または図10と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。図11は、図7からステップST16、ステップST17及びステップST34を削除し、ステップST10とステップST11の間に、図10と同様のステップST50、ステップST52及びステップST54を追加したものである。
【0083】
ステップST50、ステップST52及びステップST54において、実施の形態3と同様に、2枚のレーダ画像のうちの一方の画素が持つ複素データs2(m,n)を補正する。ステップST54において、レーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を式(15)を用いて補正したが、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を適切に補正できるものであれば、他の式を用いてもよい。ステップST54以降、ステップST11〜ステップST32まで、ステップST19〜ステップST26までは実施の形態2と同様である。
【0084】
以上のように、2枚のレーダ画像の幾何の違いによるレーダ画像の画素が持つ複素データ値への影響を補正した後に、コヒーレンス値を算出するようにしたので、観測対象の時間的変化の検出精度を向上させる実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置で処理する2つのレーダ画像の関係を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置で処理する2つのレーダ画像の関係を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1によるレーダ画像処理装置の動作を説明するグラフである。
【図6】この発明の実施の形態2によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態3によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態3によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態4によるレーダ画像処理装置のブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態4によるレーダ画像処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
15 相関値算出部、83 相関値算出部、40 変化面積補正部、78 変化面積補正部、42 変化検出部、80 変化検出部、22 信号対雑音比補正部、72 信号対雑音比補正部、34 方位角補正部、76 方位角補正部、28 基線長補正部、74 基線長補正部、79 閾値設定部、93 閾値設定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の上記観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出する相関値算出部、上記所定範囲の中で上記異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、上記所定範囲の面積及び上記予測された変化面積に応じて上記相関値を補正する変化面積補正部、及び上記変化面積補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出する変化検出部を備えたレーダ画像処理装置。
【請求項2】
上記レーダ装置の上記所定範囲に対応する信号対雑音比をもとに上記相関値を補正する信号対雑音比補正部を備え、上記変化検出部は上記変化面積補正部及び上記信号対雑音比補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項3】
上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの向きの差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値をもとに上記相関値を補正する方位角補正部を備え、上記変化検出部は上記変化面積補正部及び上記方位角補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項4】
上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの位置の差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値をもとに上記相関値を補正する基線長補正部を備え、上記変化検出部は上記変化面積補正部及び上記基線長補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項5】
異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の上記観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出する相関値算出部、上記所定範囲の中で上記異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、上記所定範囲の面積及び上記予測された変化面積に応じて所定の閾値を設定する閾値設定部、上記相関値と上記所定の閾値とを比較して上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出する変化検出部を備えたレーダ画像処理装置。
【請求項6】
上記閾値設定部は、上記レーダ装置の上記所定範囲に対応する信号対雑音比に応じて上記所定の閾値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項7】
上記閾値設定部は、上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの向きの差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値に応じて上記所定の閾値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項8】
上記閾値設定部は、上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの位置の差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値に応じて上記所定の閾値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項9】
上記相関値算出部は、上記2つのレーダ画像のうち一方のレーダ画像の画素データを上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの位置の差異をもとに補正し、補正された上記一方のレーダ画像の画素データと他方のレーダ画像の画素データから上記相関値を算出することを特徴とする請求項1〜3、5〜7のいずれかに記載のレーダ画像処理装置。
【請求項1】
異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の上記観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出する相関値算出部、上記所定範囲の中で上記異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、上記所定範囲の面積及び上記予測された変化面積に応じて上記相関値を補正する変化面積補正部、及び上記変化面積補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出する変化検出部を備えたレーダ画像処理装置。
【請求項2】
上記レーダ装置の上記所定範囲に対応する信号対雑音比をもとに上記相関値を補正する信号対雑音比補正部を備え、上記変化検出部は上記変化面積補正部及び上記信号対雑音比補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項3】
上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの向きの差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値をもとに上記相関値を補正する方位角補正部を備え、上記変化検出部は上記変化面積補正部及び上記方位角補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項4】
上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの位置の差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値をもとに上記相関値を補正する基線長補正部を備え、上記変化検出部は上記変化面積補正部及び上記基線長補正部により補正された相関値をもとに上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項5】
異なる時刻にレーダ装置により取得された観測対象の2つのレーダ画像の上記観測対象の所定範囲に対応するそれぞれの部分画像間の相関値を算出する相関値算出部、上記所定範囲の中で上記異なる時刻の間に時間的変化を生ずる範囲の面積である変化面積を予測して、上記所定範囲の面積及び上記予測された変化面積に応じて所定の閾値を設定する閾値設定部、上記相関値と上記所定の閾値とを比較して上記所定範囲における上記異なる時刻の間に生じた上記観測対象の時間的変化を検出する変化検出部を備えたレーダ画像処理装置。
【請求項6】
上記閾値設定部は、上記レーダ装置の上記所定範囲に対応する信号対雑音比に応じて上記所定の閾値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項7】
上記閾値設定部は、上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの向きの差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値に応じて上記所定の閾値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項8】
上記閾値設定部は、上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの位置の差異及び上記所定範囲において上記異なる時刻の間に上記観測対象の時間的変化が生じていないときの上記相関値に応じて上記所定の閾値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレーダ画像処理装置。
【請求項9】
上記相関値算出部は、上記2つのレーダ画像のうち一方のレーダ画像の画素データを上記2つのレーダ画像を取得するときの上記レーダ装置のアンテナの位置の差異をもとに補正し、補正された上記一方のレーダ画像の画素データと他方のレーダ画像の画素データから上記相関値を算出することを特徴とする請求項1〜3、5〜7のいずれかに記載のレーダ画像処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−3302(P2006−3302A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182499(P2004−182499)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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