説明

ロボット制御装置、ロボットシステム、及びロボット制御方法

【課題】ロボットに取り付けられたエンドエフェクターとコンベヤー上のワークとの衝突を抑制することのできるロボット制御装置、該装置を備えるロボットシステム、及びロボット制御方法を提供する。
【解決手段】ロボットコントローラー10は、エンドエフェクターがワークの上方に移動する際に、該ワークの位置の上方にエンドエフェクターが到達するために必要な水平動作時間を算出する水平動作時間算出部15aと、エンドエフェクターの速度とワークの速度とが同調するために必要な追従動作時間とを算出する追従動作時間算出部14と、エンドエフェクターがワークの上方に到達する前に、水平動作時間と追従動作時間とを比較してエンドエフェクターの下降の終了時を設定する下降設定部16とを有する。下降設定部16は、水平動作時間が追従動作時間よりも短い場合、エンドエフェクターの移動の開始時から追従動作時間の経過時以降を下降の終了時とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロボット制御装置、該装置を備えるロボットシステム、及びロボットを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1,2に記載のように、ロボットに取り付けられたエンドエフェクターがコンベヤー上のワークを追従するいわゆるトラッキング動作を行うロボットシステムが知られている。このようなロボットシステムの概略構成をエンドエフェクターの軌道とともに図4を参照して説明する。
【0003】
図4に示されるように、ロボット50が有する基台51の先端には、基台51に対して水平方向に回動する第1アーム52が連結され、また、第1アーム52の先端には、第1アーム52に対して水平方向に回動する第2アーム53が連結されている。第2アーム53の先端には、鉛直方向に直動するスプライン54が連結され、さらに、スプライン54の下端には、ワークWを把持するエンドエフェクター55が連結されている。なお、基台51には、第1アーム52を回動させる第1モーター51aが内蔵されているとともに、第2アーム53には、第2アーム53を回動させる第2モーター53aと、スプライン54を直動させるスプラインモーター53bとが内蔵されている。
【0004】
上記ロボット50がワークWに対してトラッキング動作を行うとき、トラッキング動作が開始されるときの位置である移動開始位置P1のエンドエフェクター55に対し、下記上昇動作、合成動作、及び下降動作をロボット50は順に行う。すなわち、上昇動作では、スプライン54を上昇させて、移動開始位置P1のエンドエフェクター55をその直上の上昇位置P1aにまで上昇させる。次いで、合成動作では、下記(a)(b)の合成動作を行い、エンドエフェクター55を下降開始位置P3aまで移動させる。
(a)トラッキング動作が開始されるときのワークの位置であるワーク初期位置P2に対して、その直上位置である目標位置P2aに向けて上昇位置P1aのエンドエフェクター55を移動させる水平動作。
(b)コンベヤー40上のワークWの進行方向にエンドエフェクター55を加速させて、該進行方向におけるエンドエフェクター55の速度とコンベヤー速度Cvとが等しくなるようにこれらを同調させる追従動作。
【0005】
そして、下降動作では、スプライン54を下降させて、合成動作の終了位置である下降開始位置P3aのエンドエフェクター55を下降終了位置P3まで下降させる。
次に、上記合成動作と下降動作とをロボット50に行わせるときに、ロボットコントローラー60が行う処理について、該ロボットコントローラー60の構成を機能に基づいて示した図5を参照して説明する。
【0006】
図5に示されるように、ロボットコントローラー60のトラッキング判断部61には、トラッキング動作の可能な領域にワークWが進入したことを示すワーク検出信号がワーク検出部71から送信される。そして、トラッキング判断部61がワーク検出信号を受信すると、ワーク初期位置P2の算出を指令する算出指令信号がトラッキング判断部61からワーク位置算出部62に出力される。さらにまた、移動開始位置P1の算出を指令する算出指令信号がトラッキング判断部61からエフェクター位置算出部63に出力される。
【0007】
ワーク位置算出部62では、ワーク検出部71がワークWを検出する位置とコンベヤーエンコーダー72から取得されるコンベヤー40の移動量とに基づいて上記ワーク初期位
置P2が算出されて、該ワーク初期位置P2は軌道生成部64に出力される。また、エフェクター位置算出部63では、各モーター51a,53aのアームエンコーダー73から入力されるモーターの回転数に基づいて上記移動開始位置P1が算出されて、該移動開始位置P1もまた軌道生成部64に出力される。
【0008】
軌道生成部64では、上述したワーク初期位置P2と移動開始位置P1とに基づいて、上記合成動作におけるエンドエフェクター55の軌道が生成されて、該軌道に沿ってエンドエフェクター55を移動させる各モーター51a,53aの駆動量が算出される。各モーター51a,53aの駆動量は、アームモータードライバー81に出力される。
【0009】
軌道生成部64の水平動作時間算出部64aでは、水平動作における加速期間や減速期間を示す速度パターンに基づいて上記水平動作に要する時間が算出される。水平動作時間算出部64aでは、合成動作の開始からの経過時間が上記算出時間に等しくなると、下降動作を開始するための下降指令信号がスプラインモータードライバー82に出力される。
【0010】
アームモータードライバー81では、軌道生成部64から入力された駆動量に応じた駆動信号が生成されて該駆動信号が各モーター51a,53aに出力される。スプラインモータードライバー82では、スプライン54が下降するための駆動信号が上記下降指令信号に応じてスプラインモーター53bに出力される。これによって、上記合成動作の軌道に沿ってエンドエフェクター55が移動するとともに、合成動作のうち水平動作分に要する時間が経過した後には、エンドエフェクター55が下降終了位置P3まで下降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−15055号公報
【特許文献2】特開2009−297881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述したトラッキング動作では、上記上昇動作、水平動作、及び下降動作を連続して実行する動作であるJUMP動作と同様に、合成動作のうちの水平動作分が終了すると、エンドエフェクター55は直ちに下降動作を開始することになる。それゆえに、例えば、移動開始位置P1とワーク初期位置P2との距離が過度に短くなると、水平動作分に要する時間が追従動作分に要する時間よりも短くなる結果、上記追従動作分が終了する前に水平動作分が終了することになる。このときのエンドエフェクター55の速度のうち、水平動作方向、追従動作方向、及び下降動作方向の速度の各々の変更態様を図6に示す。なお、図6では、上昇位置P1aから目標位置P2aに向かうエンドエフェクター55の速度を水平速度Va、エンドエフェクター55の下降する速度を下降速度Vb、そしてワークWの搬送方向と平行な方向のエンドエフェクター55の速度を追従速度Vcとする。
【0013】
図6(a)に示されるように、タイミングt0で合成動作が開始されると、所定の加速期間にて水平速度Vaは定速度V1まで加速されて、移動開始位置P1とワーク初期位置P2との距離に応じた期間だけ定速度V1で推移した後、所定の減速期間にて減速される。次いで、図6(b)に示されるように、合成動作のうち水平動作分が終了するタイミングt1からは、所定の加速期間にて下降速度Vbが定速度V2まで加速される。そして、下降開始位置P3aと下降終了位置P3との距離に応じた期間だけ下降速度Vbは定速度V2で推移した後、タイミングt2までの所定の減速期間にて減速される。一方、図6(c)に示されるように、タイミングt0で合成動作が開始されると、追従速度Vcは、コンベヤー速度Cvを超える最高速度V3まで加速された後に減速されて、タイミングt3
以降ではコンベヤー速度Cvで推移する。
【0014】
このとき、合成動作のうち水平動作分に要する時間が過度に短くなり、上記タイミングt2が上記タイミングt3よりも先行することとなると、エンドエフェクター55がワークWに追いつくタイミングでは、既にスプライン54の下降が終了していることになる。その結果、下降終了位置P3のエンドエフェクター55がトラッキング動作の対象となるワークWやコンベヤー40上における他のワークWに衝突してしまい、エンドエフェクター55によるワークWの把持を行うことができなくなってしまう。なお、こうした問題は、コンベヤー40上の対象物としてのワークWをエンドエフェクター55によって把持する場合に限らず、エンドエフェクター55の把持しているワークWをコンベヤー40上のトレイ等の対象物上に載置する場合にも概ね共通して生じるものである。
【0015】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロボットに取り付けられたエンドエフェクターとコンベヤー上のワークとの衝突を抑制することのできるロボット制御装置、該装置を備えるロボットシステム、及びロボット制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明におけるロボット制御装置は、コンベヤーによって搬送されている対象物の上方に向けてエンドエフェクターを移動させながら、搬送方向における前記対象物の速度と前記エンドエフェクターの速度とを同調させて、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させるロボット制御装置であって、前記エンドエフェクターがトラッキング開始時の位置から前記対象物のトラッキング開示時の位置の上方に到達するために必要な第1の時間と、前記エンドエフェクターの前記搬送方向における速度がトラッキング開始時から前記対象物の速度に同調するために必要な第2の時間と、を算出する算出部と、前記第1の時間と前記第2の時間とを比較し、前記エンドエフェクターの下降動作を設定する下降設定部とを備え、前記下降設定部は、前記第1の時間が前記第2の時間よりも短い場合に、前記エンドエフェクターの下降の終了時を前記第2の時間の経過時以降に設定することを要旨とする。
【0017】
本発明におけるロボット制御装置によれば、対象物のトラッキング開示時の位置の上方にエンドエフェクターが到達するために必要な第1の時間と、エンドエフェクターの搬送方向における速度がトラッキング開始時から対象物の速度に同調するために必要な第2の時間とが算出される。そして、第1の時間が第2の時間よりも短い場合には、トラッキング開始時から第2の時間の経過時以降が下降の終了時として設定される。そのため、対象物に向けてエンドエフェクターが下降するときには、エンドエフェクターが対象物の上方から該対象物に接近するようになる。それゆえに、下降後のエンドエフェクターがコンベヤー上の対象物に接近して該エンドエフェクターとコンベヤー上の対象物とが衝突することを抑制することができる。
【0018】
この発明では、前記下降設定部は、前記第1の時間が前記第2の時間よりも短い場合に、前記エンドエフェクターの下降の開始時を前記第2の時間の経過時に設定することが好ましい。
【0019】
この発明によれば、トラッキング開始時から第2の時間が経過したときが、エンドエフェクターの下降開始時となる。それゆえに、対象物の位置の上方へエンドエフェクターが移動し、且つ、搬送方向におけるエンドエフェクターの速度が対象物の速度と同調したときに、エンドエフェクターの下降が開始される。そのため、下降開始時のエンドエフェクターが対象物の直上に位置する確率はさらに高くなる。また、エンドエフェクターの下降中にわたり、エンドエフェクターと対象物とのこうした位置関係が維持されるようになる
。そのため、エンドエフェクターと対象物との衝突が、より抑制されるようになる。
【0020】
この発明では、前記下降設定部は、前記第1の時間が前記第2の時間以上である場合に、前記エンドエフェクターの下降の開始時を前記第1の時間の経過時以降に設定すことが好ましい。
【0021】
この発明によれば、第1の時間が第2の時間以上である場合には、トラッキング開始時から第1の時間の経過時以降に、エンドエフェクターの下降が開始される。それゆえに、対象物の搬送方向へのエンドエフェクターの速度が対象物の速度と同調した後、且つ対象物の位置の上方へエンドエフェクターが移動したときに、エンドエフェクターの下降が開始される。そのため、対象物とエンドエフェクターとの距離に関わらず、エンドエフェクターと対象物との衝突が抑制されるようになる。
【0022】
この発明では、前記算出部は、前記エンドエフェクターが停止した状態で前記第1の時間と前記第2の時間とを算出することが好ましい。
対象物の位置の上方にエンドエフェクターが到達するのに必要な第1の時間と、搬送方向におけるエンドエフェクターの速度と対象物の速度とが同調するのに必要な第2の時間とは、エンドエフェクターが移動している途中にて算出することが可能である。このような構成であれば、トラッキング動作以外の他の動作とトラッキング動作とを連続的に行うことが可能となる。しかし、エンドエフェクターが移動している途中にて該エンドエフェクターの位置を把握するとなれば、エンドエフェクターの速度を検出する構成や該検出結果の加味された第1の時間と第2の時間とを算出する構成など、これら第1の時間と第2の時間とを得るための構成が自ずと複雑なものとなる。また、エンドエフェクターが移動している途中にて該エンドエフェクターの位置を把握するため、エンドエフェクターの速度に起因する誤差が第1の時間と第2の時間とにおいて大きくなることも少なくない。この点、この発明によれば、エンドエフェクターが停止した状態で第1の時間と第2の時間とが算出されるため、上述した構成と比較して、簡単な構成によって第1の時間と第2の時間とを算出することが可能となる。また、第1の時間と第2の時間との精度も上述した構成と比較して高いものとなる。
【0023】
この発明では、前記対象物の上方に水平移動によって前記エンドエフェクターを移動させながら、前記対象物の速度と前記搬送方向における前記エンドエフェクターの速度とを同調させ、前記第1の時間は、前記水平移動に必要な時間であることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、第1の時間の算出に考慮されるべきエンドエフェクターの移動が水平面に沿う二次元的な移動になるため、エンドエフェクターが三次元的に移動する場合と比較して、第1の時間を簡単、且つ高い精度で算出することが可能となる。
【0025】
この発明では、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させて前記エンドエフェクターに前記対象物を保持させることが好ましい。
この発明によれば、コンベヤー上の対象物をエンドエフェクターに保持させるときに、エンドエフェクターの下降の終了時が第1の時間と第2の時間との比較に基づき設定される。そのため、下降したエンドエフェクターが搬送方向に沿って対象物に近づくこと、ひいてはエンドエフェクターと対象物とが衝突することを抑制することができる。それゆえに、エンドエフェクターが対象物を保持することの可能な確率を高めることができる。
【0026】
本発明におけるロボットシステムは、対象物を搬送するコンベヤーと、前記コンベヤーによって搬送されている対象物の上方に向けてエンドエフェクターを移動させながら、搬送方向における前記対象物の速度と前記エンドエフェクターの速度とを同調させて、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させるロボットと、前記ロボットの動作を
制御するロボット制御装置とを備えるロボットシステムであって、前記ロボット制御装置が、上述したロボット制御装置であることを要旨とする。
【0027】
本発明におけるロボットシステムによれば、ロボットに取り付けられたエンドエフェクターとコンベヤー上のワークとの衝突を抑制することのできるロボットシステムを提供することができる。
【0028】
本発明におけるロボット制御方法は、コンベヤーによって搬送されている対象物の上方に向けてエンドエフェクターを移動させながら、搬送方向における前記対象物の速度と前記エンドエフェクターの速度とを同調させて、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させるロボット制御方法であって、前記エンドエフェクターがトラッキング開示時の位置から前記対象物のトラッキング開示時の位置の上方に到達するために必要な第1の時間と、前記エンドエフェクターの前記搬送方向における速度がトラッキング開始時から前記対象物の速度に同調するために必要な第2の時間と、を算出する工程と、前記第1の時間と前記第2の時間とを比較し、前記エンドエフェクターの下降動作を設定する工程とを備え、前記下降の終了時を設定する工程では、前記第1の時間が前記第2の時間よりも短い場合に、前記エンドエフェクターの下降の終了時を前記第2の時間の経過時以降に設定することを要旨とする。
【0029】
本発明におけるロボット制御方法によれば、対象物のトラッキング開示時の位置の上方にエンドエフェクターが到達するために必要な第1の時間と、エンドエフェクターの搬送方向における速度がトラッキング開始時から対象物の速度に同調するために必要な第2の時間とが算出される。そして、第1の時間が第2の時間よりも短い場合には、トラッキング開始時から第2の時間の経過時以降が下降の終了時として設定される。そのため、対象物に向けてエンドエフェクターが下降するときには、エンドエフェクターが対象物の上方から該対象物に接近するようになる。それゆえに、下降後のエンドエフェクターがコンベヤー上の対象物に接近して該エンドエフェクターとコンベヤー上の対象物とが衝突することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のロボット制御装置の一実施形態であるロボットコントローラーを機能に基づいて示す機能ブロック図。
【図2】同ロボットコントローラーが実施する処理の手順を示すフローチャート。
【図3】(a)(b)(c)同処理によるエンドエフェクターの速度のうち水平動作方向、下降動作方向、及び追従動作方向の速度の変更態様を示すタイミングチャート。
【図4】ロボットシステムの概略構成を示す図。
【図5】従来のロボットコントローラーを機能に基づいて示す機能ブロック図。
【図6】(a)(b)(c)従来のロボットコントローラーが実施する処理によるエンドエフェクターの速度のうち水平動作方向、下降動作方向、及び追従動作方向の速度の変更態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のロボット制御装置、該制御装置を備えるロボットシステム、及びロボット制御方法の一実施形態について図1〜図3を参照して説明する。なお、本実施形態におけるロボットシステムは、図4を参照して先に説明した従来のロボットシステムと比較して、第1の時間としての水平動作時間と、第2の時間としての追従動作時間とに基づいて下降動作のタイミングを変更可能とすることに特徴を有するものである。そのため、以下では、その特徴を説明する便宜上、先に説明したロボットシステムと重複する構成、例えばロボットの構成の説明を割愛するとともに、図4を参照して説明した構成と同じ構成については同一の符号を付して説明する。
【0032】
[ロボットシステム]
図1に示されるように、ロボットシステムを構成するロボットコントローラー10のトラッキング判断部11には、コンベヤー40上のワークWを検出するワーク検出部21が接続されている。ワーク検出部21は、トラッキング動作の対象となるワークWが所定の位置に到達したか否かを光学式のセンサーやカメラなどによって検出することで、ロボット50によるトラッキング動作が可能な領域に該ワークWが進入したか否かを検出する。そして、ワーク検出部21は、トラッキング動作の対象となるワークWがトラッキング動作の可能な領域に進入したことを検出すると、トラッキング判断部11とワーク位置算出部12とに対してワーク検出信号を出力する。
【0033】
トラッキング判断部11は、ワーク検出部21からのワーク検出信号の入力を受けて該ワークWをトラッキング動作の対象として登録するとともに、他のワークWに対するトラッキング動作の進捗を把握する。こうした進捗の把握は、例えば、トラッキング動作を行うためのプログラムの処理状況をプログラムカウンターから取得することによって行われる。
【0034】
そして、他のワークWに対するトラッキング動作の処理工程と当該ワークWに対するトラッキング動作の処理工程とが重なることがない場合には、トラッキング判断部11は、当該ワークWのワーク初期位置P2の算出を指令する算出指令信号と、エンドエフェクター55の移動開始位置P1の算出を指令する算出指令信号とを出力する。他方、他のワークWに対するトラッキング動作の処理工程と当該ワークWに対するトラッキング動作の処理工程とが重なる場合には、トラッキング判断部11は、先行する他のワークWに対するトラッキング動作の処理工程を優先させるとともに、該処理工程が終了したときに、当該ワークWに対する上記各算出指令信号を出力する。
【0035】
このように、コンベヤー40上を搬送される各々のワークWが、上記ワーク検出部21によって略同一の位置にて検出されたとしても、他のワークWに対するトラッキング動作が行われているか否かによって、上記算出指令信号が出力されたときの移動開始位置P1が互いに異なることとなる。同様に、上記算出指令信号が出力されたときのワーク初期位置P2も互いに異なることになる。すなわち、トラッキング動作の開始時には、移動開始位置P1やワーク初期位置P2がトラッキング動作ごとに互いに異なることもある。その結果、これら移動開始位置P1とワーク初期位置P2との距離がトラッキング動作ごとに互いに異なることもある。
【0036】
ワーク位置算出部12には、ワーク検出部21からワーク検出信号が入力されるとともに、上述したトラッキング判断部11からは算出指令信号が入力される。ワーク位置算出部12は、コンベヤー40を駆動するモーターの回転数をコンベヤーエンコーダー22から所定の演算周期で取得する。そして、ワーク位置算出部12は、上記所定の演算周期ごとに、コンベヤーエンコーダー22から取得したデータを用いて、上記ワーク検出指令を受けたときからのワークWの移動量を算出し、さらにワーク検出部21が検出したワークWの位置に当該移動量を加えることによって、当該ワークWの現在の位置を算出する。そして、ワーク位置算出部12は、このようにして算出したワークWの位置を上記所定の演算周期で軌道生成部15に出力する。なお、この際、ワーク位置算出部12は、軌道生成部15に出力するワークWの位置のうち、上記算出指令を受けたときから最新となるワークWの位置をワーク初期位置P2として取り扱う。
【0037】
エフェクター位置算出部13には、上述したトラッキング判断部11から算出指令信号が入力される。エフェクター位置算出部13は、ロボット50が有する各モーターの回転数を示すデータをアームエンコーダー23から所定の演算周期で取得する。そして、エフ
ェクター位置算出部13は、アームエンコーダー23から上記所定の演算周期ごとに取得したデータを用いてエンドエフェクター55の位置を算出するとともに、このようにして算出したエンドエフェクター55の位置を上記所定の演算周期で軌道生成部15に出力する。なお、この際、エフェクター位置算出部13は、軌道生成部15に出力するエンドエフェクター55の位置のうち、上記算出指令を受けたときから最新となるエンドエフェクター55の位置を移動開始位置P1として取り扱う。
【0038】
追従動作時間算出部14には、上述したトラッキング判断部11から算出指令信号が入力される。この追従動作時間算出部14には、上記(b)追従動作時におけるエンドエフェクター55の速度を制御するためのデータ、例えば加速期間、減速期間、さらにはコンベヤー速度Cvが速度パターンとして格納されている。そして、追従動作時間算出部14は、上記算出指令信号を受けると、上記速度パターンを参照して、ワークWの搬送方向へのエンドエフェクター55の速度が、上昇動作における速度「0」の状態からコンベヤー速度Cvに等しくなるまでの時間を追従動作時間T2として算出する。そして、追従動作時間算出部14は、算出した追従動作時間T2を下降設定部16に出力する。
【0039】
なお、追従動作時間算出部14に格納された速度パターンとは、先の図6(c)に示されるように、搬送方向へのエンドエフェクター55の速度である追従速度Vcが、合成動作の開始時からコンベヤー速度Cvを超える最高速度V3にまで加速された後に減速されて、その後、コンベヤー速度Cvで推移するパターンである。また、この速度パターンでは、加速期間と減速期間とにおける追従速度Vcの平均値がコンベヤー速度Cvとなるように、これら加速期間と減速期間とが設定されている。上記追従動作によってエンドエフェクター55の移動する距離は、こうした追従速度Vcとエンドエフェクター55の移動した時間とを乗算した値である。それゆえに、加速期間と減速期間とにおける追従速度Vcの平均値がコンベヤー速度Cvとなる速度パターンであれば、追従速度Vcがコンベヤー速度Cvで推移するまでに、ワークWが搬送方向に移動した距離とエンドエフェクター55が搬送方向に移動した距離とが自ずと等しくなる。ちなみに、上述した速度パターンに基づいて算出される追従動作時間T2は、コンベヤー速度をCv、追従動作における加速度(減速度)を加速度A(−A)とすると、下式によって算出される。
【0040】
追従動作時間T2=(2+√2)Cv/2A
軌道生成部15には、ワーク位置算出部12からその算出結果であるワークWの位置が所定の周期ごとに入力されるとともに、エフェクター位置算出部13からその算出結果であるエンドエフェクター55の位置が同じく所定の周期ごとに入力される。軌道生成部15は、上記所定の周期ごとに、これらワークの位置の直上位置とエンドエフェクター55の位置とを結ぶ軌道をエンドエフェクター55の軌道として生成するとともに、該軌道上の位置にエンドエフェクター55を移動させるためのアームの関節角度を算出する。そして、軌道生成部15は、その算出結果であるロボットの姿勢を再現するための各アームモーター32の回転角度を算出するとともに、該算出結果に基づく各アームモーター32の駆動量をアームモータードライバー31に出力する。
【0041】
なお、軌道生成部15は、上記ワーク初期位置P2の直上である目標位置P2aと上記移動開始位置P1の直上である上昇位置P1aとを結ぶ軌道を用いて各アームモーター32の回転角度を算出し、該算出結果をアームモータードライバー31に出力することによって、ロボット50に合成動作を開始させる。この際、軌道生成部15は、合成動作の経過時間である合成動作時間Tの計時を指令する計時指令信号を下降設定部16に出力する。
【0042】
また、軌道生成部15の水平動作時間算出部15aには、上記水平動作時におけるエンドエフェクター55の速度を制御するためのデータ、例えば加速期間、減速期間、さらに
は定速度V1が速度パターンとして格納されている。そして、軌道生成部15は、上記ワーク初期位置P2の直上である目標位置P2aと上記移動開始位置P1の直上である上昇位置P1aとを結ぶ軌道を用い、上記速度パターンを参照して、該軌道に沿って水平動作することに要する時間を水平動作時間T1として算出する。そして、水平動作時間算出部15aは、算出した水平動作時間T1を下降設定部16に出力する。
【0043】
下降設定部16には、合成動作時間Tの計時を指令する計時指令信号が軌道生成部15から入力され、また追従動作時間算出部14から追従動作時間T2が入力されるとともに、水平動作時間算出部15aからは水平動作時間T1が入力される。そして、下降設定部16は、軌道生成部15からの計時指令信号を受けて、エンドエフェクター55の上昇を指令する上昇指令信号をスプラインモータードライバー33に出力する。また、下降設定部16は、該下降設定部16が有するタイマーを用いて、上記計時指令信号を受けてからの経過時間を合成動作時間Tとして計時する。
【0044】
また、下降設定部16は、追従動作時間T2の長さと水平動作時間T1の長さとを比較する。そして、水平動作時間T1が追従動作時間T2以上の長さである場合には、下降設定部16は、上記合成動作の開始から下降動作を開始するまでの時間である下降待機時間T3を水平動作時間T1に設定する。他方、水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合には、下降設定部16は、下降待機時間T3を追従動作時間T2に設定する。そして、下降設定部16は、合成動作時間Tが下降待機時間T3になるときに、スプライン54の下降を指令する下降指令信号をスプラインモータードライバー33に出力する。
【0045】
上記軌道生成部15には、アームモーター32を回転させるアームモータードライバー31が接続されている。なお、上述のように、アームモーター32には、第1モーター51aと第2モーター53aとが含まれる。また、アームモータードライバー31も各モーター51a,53aに対して一つずつ搭載されている。第1モーター51aと接続されたアームモータードライバー31は、軌道生成部15から入力された第1モーター51aの駆動量に基づき、該駆動量に応じた駆動信号を生成して該駆動信号を第1モーター51aに出力する。他方、第2モーター53aに接続されたアームモータードライバー31は、軌道生成部15から入力された第2モーター53aの駆動量に基づき、該駆動量に応じた駆動信号を生成して該駆動信号を第2モーター53aに出力する。
【0046】
アームモーター32としての第1モーター51a及び第2モーター53aは、それぞれに入力された駆動信号に応じて回転することで、各アーム52,53を回動させる。これにより、上記エンドエフェクター55が、上記上昇位置P1aから下降開始位置P3aにまで移動する。
【0047】
上記軌道生成部15及び下降設定部16には、スプラインモータードライバー33が接続されている。スプラインモータードライバー33には、エンドエフェクター55の上昇を指令する上昇指令信号が下降設定部16から入力され、またエンドエフェクター55の下降を指令する下降指令信号が下降設定部16から入力される。スプラインモータードライバー33は、上記上昇指令信号を受けて、スプライン54を上昇させるための駆動信号を生成し、該駆動信号をスプラインモーター34に出力する。また、スプラインモータードライバー33は、上記下降指令信号を受けて、スプライン54を下降させるための駆動信号を生成し、該駆動信号をスプラインモーター34に出力する。
【0048】
スプラインモーター34は、入力された駆動信号に応じて回転することで、エンドエフェクター55を移動開始位置P1から上昇位置P1aに移動させる、若しくは下降開始位置P3aから下降終了位置P3に移動させる。
【0049】
上述のように、本実施形態のロボットコントローラー10は、上記追従動作に要する時間を算出する追従動作時間算出部14と、上記水平動作に要する時間を算出する水平動作時間算出部15aと、算出された追従動作時間T2と水平動作時間T1とを比較する下降設定部16を備えるようにしている。そして、水平動作時間T1が追従動作時間T2以上の長さである場合には、下降設定部16は、上記合成動作の開始から下降動作を開始するまでの下降待機時間T3を水平動作時間T1とする一方、水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合には、下降待機時間T3を追従動作時間T2とするようにしている。それゆえに、ワークWに対してスプライン54を下降させるときには、スプライン54の先端が対象物の直上に位置するようになる。また、スプライン54の下降中にわたり、スプライン54の先端であるエンドエフェクター55とワークWとのこうした位置関係が維持されるようになる。そのため、コンベヤー40上を搬送されるワークWとスプライン54との衝突が抑制されるようになる。
【0050】
[トラッキング動作]
上述したロボットシステムが上記トラッキング動作時に行う処理の手順について図2を参照して説明する。なお、図2には、トラッキング動作のうち、ロボット50のエンドエフェクター55によってコンベヤー40上のワークWを把持させる際の処理のみが示されている。
【0051】
ロボットコントローラー10は、まず、コンベヤー40上にトラッキングの可能なワークWが存在するとき、つまり、上記ワーク検出部21からのワーク検出信号が入力されたとき(ステップS1:YES)、ロボット50が、直近に検出されたワークWでない他のワークWに対するトラッキング動作を行っているか否かを判断する(ステップS2)。そして、他のワークWに対するトラッキング動作の最初の処理工程が行われていないと判断されると(ステップS2:NO)、上記移動開始位置P1及びワーク初期位置P2の算出を指令する算出指令信号を生成し(ステップS3)、該信号に基づいて算出された移動開始位置P1及びワーク初期位置P2とによってトラッキング動作の軌道を算出する。
【0052】
次いで、上記軌道に基づいて水平動作に要する水平動作時間T1と(ステップS4)、追従動作に要する追従動作時間T2とを算出する(ステップS5)。そして、これら時間T1,T2の長さを比較し(ステップS6)、水平動作時間T1が追従動作時間T2以上の長さである場合には(ステップS6:YES)、上記下降待機時間T3を水平動作時間T1とする。他方、水平動作時間T1が追従動作時間T2より短い場合には(ステップS6:NO)、下降待機時間T3を追従動作時間T2とする(ステップS8)。
【0053】
下降待機時間T3の設定が終了すると(ステップS7、ステップS8)、スプライン54の上昇を開始する(ステップS9)。エンドエフェクター55の位置が、移動開始位置P1の直上である上昇位置P1aに到達すると、上記水平動作と追従動作との合成動作と、該合成動作の開始時からの時間である合成動作時間Tの計時とを開始する(ステップS10)。
【0054】
そして、上記計測している合成動作時間Tが下降待機時間T3に等しくなると(ステップS11:YES)、つまり、エンドエフェクター55が上記下降開始位置P3aに到達すると、スプライン54を下降させることでエンドエフェクター55を下降終了位置P3に到達させる(ステップS12)。次いで、下降終了位置P3のエンドエフェクター55にコンベヤー40上のワークWを把持させる(ステップS13)。なお、エンドエフェクター55によって把持されたワークWは、静止した載置台上や他のコンベヤー上等に搬送される。
【0055】
次に、上記水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合に、上記ロボットコン
トローラー10がロボット50に行わせる動作の態様について図3を参照して説明する。なお、図3(a)(b)(c)は、それぞれ水平動作の方向、下降動作の方向、及び追従動作の方向におけるエンドエフェクターの速度の変更態様を示すタイミングチャートであって、先の図6に対応する図である。そのため、図6と同じく、上昇位置P1aから目標位置P2aに向かうエンドエフェクター55の速度を水平速度Vaとし、また、エンドエフェクター55の下降する速度を下降速度Vbとし、さらに、ワークWの搬送方向と平行な方向のエンドエフェクター55の速度を追従速度Vcとする。
【0056】
図3(a)及び図3(c)に示されるように、上記合成動作が開始されるタイミングt0にて、水平速度Vaの加速と追従速度Vcの加速とが開始される。そして、図3(a)に示されるように、水平速度Vaは、タイミングt1まで加速された後、タイミングt1からタイミングt2の期間では一定の定速度V1で推移する。そして、タイミングt4までにかけて、水平速度Vaの減速が行われる。これに対し、図3(c)に示されるように、追従速度Vcは、上記タイミングt2とタイミングt4との間の時刻であるタイミングt3までの期間で、コンベヤー速度Cvよりも高い最高速度V3にまで加速される。その後、タイミングt4からタイミングt5までの期間で、最高速度V3からコンベヤー速度Cvにまで減速される。
【0057】
そして、図3(b)に示されるように、タイミングt5にて下降動作による下降方向への下降速度Vbの加速が開始される。下降速度Vbは、タイミングt5からタイミングt6にかけて加速された後、タイミングt6からタイミングt7の期間は所定の定速度V2で推移する。次いで、タイミングt7からタイミングt8にかけて速度「0」にまで減速されることで、スプライン54の先端に接続されたエンドエフェクター55が、ワークWを把持可能な位置にまで下降する。
【0058】
これに対し、従来のロボットコントローラー60では、上述のように、また図3(b)に示されるように、スプライン54の下降は、タイミングt4にて開始された後、二点差線で示されるような下降速度Vbの変更態様で下降することで、タイミングt5よりも前のタイミングt4aにて終了する。
【0059】
このように、本実施形態によれば、追従方向への追従速度Vcが、コンベヤー速度Cvに一致して以降にスプライン54の下降動作を開始するようにしている。そのため、ワークWが搬送される方向の後方からエンドエフェクター55がワークWに衝突することを抑制するとともに、該スプライン54の下降方向からエンドエフェクター55をワークWに接近させることができる。それゆえに、上記エンドエフェクター55によるワークWの把持の確率を高めることができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)エンドエフェクター55がワークWの上方に移動することに先立って、ワークWの位置の上方である目標位置P2aにエンドエフェクター55が到達するのに要する水平動作時間T1と、エンドエフェクター55の追従速度Vcとコンベヤー速度Cvとが等しくなるのに要する追従動作時間T2とが算出される。そして、水平動作時間T1の長さと追従動作時間T2の長さを比較して、水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合には、エンドエフェクター55に対する合成動作の開始時から追従動作時間T2の経過時以降がエンドエフェクター55の下降の終了時として設定される。
【0061】
それゆえに、合成動作のうち水平動作分が終了し、且つ、エンドエフェクター55の追従速度がコンベヤー速度Cvに等しくなった後に、エンドエフェクター55が下降終了位置P3に到達する。そのため、ワークWに向けてエンドエフェクター55が下降するときには、下降終了位置P3に到達したエンドエフェクター55がワークWに対して搬送方向
から近づくのではなく、ワークWの上方からエンドエフェクター55がワークWに接近するようになる。それゆえに、エンドエフェクター55とコンベヤー40上のワークWとの衝突を抑制することができる。
【0062】
(2)水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合には、エンドエフェクター55に対する合成動作の開始時から追従動作時間T2が経過したときが、エンドエフェクター55の下降開始時となる。それゆえに、合成動作のうち水平動作分が終了した後であって、且つ、引き続き行われる追従動作分が終了したときに、エンドエフェクター55の下降が開始される。そのため、下降開始時のエンドエフェクター55は、ワークWの直上に位置する確率がさらに高くなる。また、エンドエフェクター55の下降中にわたり、エンドエフェクター55とワークWとのこうした位置関係が維持されるようになる。そのため、エンドエフェクター55とワークWとの衝突が、さらに抑制されるようになる。
【0063】
(3)水平動作時間T1が追従動作時間T2以上である場合には、合成動作の開始時から水平動作時間T1が経過したときに、エンドエフェクター55の下降が開始される。それゆえに、合成動作のうち追従動作分が終了した後であって、且つ引き続き行われる水平動作分が終了したときに、エンドエフェクター55の下降が開始される。そのため、上昇位置P1aと目標位置P2aとの距離に関わらず、エンドエフェクター55とワークWとの衝突が抑制されるようになる。
【0064】
(4)水平動作に必要な水平動作時間T1と、追従動作に必要な追従動作時間T2とは、合成動作の途中であっても算出することは可能である。このような構成であれば、エンドエフェクター55に対する下降動作と該エンドエフェクター55に対する他の動作とを連続的に行うことが可能となる。しかし、合成動作の途中でエンドエフェクター55の位置を把握するためには、エンドエフェクター55の速度を検出する構成や該検出結果を加味して水平動作時間T1と追従動作時間T2とを算出する構成など、これら水平動作時間T1と追従動作時間T2とを得るための構成が複雑なものとなる。また、合成動作の途中でエンドエフェクター55の位置を把握するため、エンドエフェクター55の速度に起因する誤差が、水平動作時間T1と追従動作時間T2とにおいて大きくなる場合も少なくない。この点、上記実施形態によれば、エンドエフェクター55が移動開始位置P1に停止した状態で水平動作時間T1と追従動作時間T2とが算出されるため、上述した構成と比較して、簡単な構成によって水平動作時間T1と追従動作時間T2とを算出することが可能となる。また、水平動作時間T1と追従動作時間T2との精度も上述した構成と比較して高いものとなる。
【0065】
(5)エンドエフェクター55は、ワークWの上方に水平移動によって到達してコンベヤー速度Cvと同調しながらワークWに向けて下降する。そのため、水平動作時間T1の算出に考慮されるべきエンドエフェクター55の軌道が水平面に沿う二次元的なものになるため、エンドエフェクター55が三次元的に移動する場合と比較して、水平動作時間T1を簡単、且つ高い精度で算出することが可能となる。
【0066】
(6)エンドエフェクター55の追従速度Vcとコンベヤー速度Cvとを同調させながらワークWに向けてエンドエフェクター55を下降させる動作によって、ワークWがエンドエフェクター55に把持される。そのため、エンドエフェクター55がワークWを把持することのできる確率を高めることができる。
【0067】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記エンドエフェクター55は、ワークWを把持することによって該ワークWの保持を行うものに限らず、ワークWを吸引したり、磁気によって吸着したりすること等によって、該ワークWの保持を行うものであってもよい。あるいは、上記エンドエフェクター5
5は、コンベヤー40上で搬送されるワークWに対して該ワークWの上方から所定の加工を施すものであってもよい。要は、上記エンドエフェクター55は、コンベヤー上で搬送される対象物に対して下降するものであればよい。
【0068】
・上記合成動作は、移動開始位置P1から目標位置P2aに向けてエンドエフェクター55を三次元的に移動させる動作と、上述した追従動作との合成動作であってもよい。要は、上記合成動作は、対象物の位置の上方にエンドエフェクター55を到達させる動作と、エンドエフェクター55の追従速度をコンベヤー速度Cvに同調させる動作とが合成された動作であればよい。
【0069】
・上記合成動作の過程では、エンドエフェクター55の位置とワークWの位置とが所定の周期で算出されるとともに、これらエンドエフェクター55の位置とワークWの位置とを用いて、エンドエフェクター55の軌道が更新される。この際、エンドエフェクター55の軌道が更新されるごとに、あるいはエンドエフェクター55の位置が検出されるごとに、上述した水平動作時間T1と追従動作時間T2とが算出されるとともに、これら水平動作時間T1と追従動作時間T2との比較に基づき、下降動作の開始時が更新される構成であってもよい。
【0070】
すなわち、エンドエフェクター55が停止している状態から水平動作時間T1と追従動作時間T2とが算出されるのではなく、エンドエフェクター55が移動しているときに、ワークWの直上位置である目標位置P2aを上述した所定の演算周期で更新する。そして、更新された目標位置P2aを用いて、上記水平動作時間T1と追従動作時間T2とが更新される構成であってもよい。また、水平動作時間T1と追従動作時間T2との比較に基づく下降動作の開始時の設定が、1つのワークWに対する1回のトラッキング動作にて複数回行われる構成であってもよい。要は、上述したトラッキング開始時とは、合成動作の開始時から水平動作あるいは追従動作のいずれか一方が終了する終了時までのうち、エンドエフェクター55の位置とワークWの位置とが算出可能な算出時であればよい。
【0071】
・上記水平動作時間T1が追従動作時間T2以上である場合には、合成動作のうち水平動作分の終了時以降に上記下降動作が終了する構成であればよい。例えば、下動動作に要する時間である下降時間が予め設定されるとともに、上記水平動作時間T1が追従動作時間T2以上であるときには、合成動作のうち水平動作が終了する時間を推定し、該推定した時間から下降時間だけ前に下降動作を開始する構成であってもよい。なお、水平動作が終了する時間の推定値は、合成動作が行われる軌道と該軌道上における水平動作の速度パターンとを用いて算出することが可能である。
【0072】
・上記水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合には、上記下降動作の開始時を追従動作の終了時とするようにした。これに限らず、水平動作時間T1が追従動作時間T2よりも短い場合には、追従動作の終了時に、下降動作によるスプライン54の下降が行われている途中となるように、つまり、エンドエフェクター55の下降終了位置P3までの下降が終了していないようにすればよい。この場合、スプライン54の下降動作に要する時間をロボットコントローラー10にて算出する、若しくは同下降動作に要する時間をロボットコントローラー10に予め記憶させておくようにする。そして、下降動作の終了時が、追従動作の終了時以降となるように下降動作に要する時間に応じて該下降動作の開始時を設定するようにすればよい。これによれば、ワークWの直上からスプライン54が下降することになるため、ワークWとスプライン54との衝突を抑制することができる。
【0073】
・上記トラッキング動作は、エンドエフェクター55が移動開始位置P1にある状態から開始されることに限らず、エンドエフェクター55が上昇位置P1aにある状態から開
始されてもよい。
【0074】
・上記トラッキング動作は、ワークWを把持していない状態のエンドエフェクター55の追従速度Vcをコンベヤー速度Cvに同調させた後に、該エンドエフェクター55によってワークWを把持し、その後、該ワークWを所定位置に搬送する。これに限らず、トラッキング動作は、予めワークWを把持した状態のエンドエフェクター55の追従速度Vcをコンベヤー速度Cvに同調させた後に、コンベヤー40上で搬送されるトレイに該ワークWを載置するようにしてもよい。
【0075】
・上記トラッキング動作は、互いに異なる並設されたコンベヤーに対して行われる動作であって、一方のコンベヤー上で搬送されるワークWを他方のコンベヤー上に搬送する動作であってもよい。要は、上記トラッキング動作は、対象物の速度とエンドエフェクター55の速度とを同調させながら対象物に向けてエンドエフェクター55を下降させる動作を行うものであればよい。
【0076】
・一つのワークに対する複数回のトラッキング動作が一つのコンベヤー上で連続して行われる場合、二回目以降のトラッキング動作では、追従速度Vcとコンベヤー速度Cvとが既に同調しているため、追従動作時間T2が算出されることなく、水平動作時間T1の経過時以降が下降の終了時として設定される構成であってもよい。
【0077】
・水平速度Vaの変更の態様は、上述した速度パターンに限らず、例えば、定速度V1で推移する期間が割愛された態様であってもよい。また、追従速度Vcの変更の態様は、上述した速度パターンに限らず、例えば、コンベヤー速度Cvを超えることなく、加速期間のみによって追従速度Vcがコンベヤー速度Cvに達する態様であってもよい。また、例えば、最高速度V3に到達した後に最高速度V3で推移する期間が追加される態様であってもよい。要は、水平速度Vaの変更の態様は、水平動作時間T1を算出することの可能な態様であればよく、また、追従速度Vcの変更の態様も、追従動作時間T2を算出することの可能な態様であればよい。
【0078】
・上記ロボット50は、水平多関節ロボットに限らず、垂直多関節ロボット、例えば六軸ロボットとして具現化してもよい。
【符号の説明】
【0079】
A…加速度、T…合成時間、W…ワーク、Cv…コンベヤー速度、P1…移動開始位置、P2…ワーク初期位置、P3…下降終了位置、T1…水平動作時間、T2…追従時間、T3…下降待機時間、P1a…上昇位置、P2a…目標位置、P3a…下降開始位置、10,60…ロボットコントローラー、11,61…トラッキング判断部、12,62…ワーク位置検出部、13,63…エフェクター位置算出部、14…追従動作時間算出部、15,64…軌道生成部、15a,64a…水平動作時間算出部、16…下降設定部、21,71…ワーク検出部、22,72…コンベヤーエンコーダー、23,73…アームエンコーダー、31,81…アームモータードライバー、32…アームモーター、33,82…スプラインモータードライバー、34…スプラインモーター、40…コンベヤー、50…水平多関節ロボット(ロボット)、51…基台、51a…第1モーター、52…第1アーム、53…第2アーム、53a…第2モーター、53b…スプラインモーター、54…スプライン、55…エンドエフェクター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤーによって搬送されている対象物の上方に向けてエンドエフェクターを移動させながら、搬送方向における前記対象物の速度と前記エンドエフェクターの速度とを同調させて、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させるロボット制御装置であって、
前記エンドエフェクターがトラッキング開始時の位置から前記対象物のトラッキング開示時の位置の上方に到達するために必要な第1の時間と、前記エンドエフェクターの前記搬送方向における速度がトラッキング開始時から前記対象物の速度に同調するために必要な第2の時間と、を算出する算出部と、
前記第1の時間と前記第2の時間とを比較し、前記エンドエフェクターの下降動作を設定する下降設定部と
を備え、
前記下降設定部は、
前記第1の時間が前記第2の時間よりも短い場合に、前記エンドエフェクターの下降の終了時を前記第2の時間の経過時以降に設定する
ことを特徴とするロボット制御装置。
【請求項2】
前記下降設定部は、
前記第1の時間が前記第2の時間よりも短い場合に、前記エンドエフェクターの下降の開始時を前記第2の時間の経過時に設定する
請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記下降設定部は、
前記第1の時間が前記第2の時間以上である場合に、前記エンドエフェクターの下降の開始時を前記第1の時間の経過時以降に設定する
請求項1又は2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記エンドエフェクターが停止した状態で前記第1の時間と前記第2の時間とを算出する
請求項1〜3のいずれか一項に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記対象物の上方に水平移動によって前記エンドエフェクターを移動させながら、前記対象物の速度と前記搬送方向における前記エンドエフェクターの速度とを同調させ、
前記第1の時間は、
前記水平移動に必要な時間である
請求項4に記載のロボット制御装置。
【請求項6】
前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させて前記エンドエフェクターに前記対象物を保持させる
請求項1〜5のいずれか一項に記載のロボット制御装置。
【請求項7】
対象物を搬送するコンベヤーと、
前記コンベヤーによって搬送されている対象物の上方に向けてエンドエフェクターを移動させながら、搬送方向における前記対象物の速度と前記エンドエフェクターの速度とを同調させて、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させるロボットと、
前記ロボットの動作を制御するロボット制御装置と
を備えるロボットシステムであって、
前記ロボット制御装置が、請求項1〜6のいずれか一項に記載のロボット制御装置であ

ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項8】
コンベヤーによって搬送されている対象物の上方に向けてエンドエフェクターを移動させながら、搬送方向における前記対象物の速度と前記エンドエフェクターの速度とを同調させて、前記対象物に向けて前記エンドエフェクターを下降させるロボット制御方法であって、
前記エンドエフェクターがトラッキング開示時の位置から前記対象物のトラッキング開示時の位置の上方に到達するために必要な第1の時間と、前記エンドエフェクターの前記搬送方向における速度がトラッキング開始時から前記対象物の速度に同調するために必要な第2の時間と、を算出する工程と、
前記第1の時間と前記第2の時間とを比較し、前記エンドエフェクターの下降動作を設定する工程と
を備え、
前記下降の終了時を設定する工程では、
前記第1の時間が前記第2の時間よりも短い場合に、前記エンドエフェクターの下降の終了時を前記第2の時間の経過時以降に設定する
ことを特徴とするロボット制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171067(P2012−171067A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37359(P2011−37359)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】