説明

ロータリエンジンの制御装置

【課題】掃気性が要請される運転状態では可能な限り交番点火を実行しつつ、振動を来すことなく掃気を効率よく行うこと。
【解決手段】エキセントリックシャフト20の負荷状態を判定する負荷状態判定部102と、ロータリエンジン10の運転状態に基づいて当該点火プラグ180〜182の掃気の要否を判定する運転状態判定部101と、掃気が必要な場合には、エキセントリックシャフト20の負荷状態が所定の低負荷にあるときを除き、Tプラグ180を含めた全ての点火プラグ180〜182を燃焼サイクル毎に一つずつ順番に休止させる全交番点火制御を実行する一方、掃気が必要な場合であって、エキセントリックシャフト20の負荷状態が所定の低負荷にあるときには、Tプラグ180を常時点火とし、且つLプラグ181、182を燃焼サイクル毎に交互に点火するリーディング交番点火制御を実行する燃焼制御部103とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータリエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、特許文献1に開示されているように、ロータハウジングの短軸よりリーディング側に複数個、トレーリング側に一個設けられた点火プラグを有するロータリエンジンに、当該ロータリエンジンの低回転時には少なくともリーディング側の点火プラグを全て点火させ、高回転時にはリーディング側の点火プラグを交番点火させるとともに、トレーリング側の点火プラグを点火させる制御手段を設けた点火装置を先に提案している。ここで、交番点火とは、ロータリエンジンの一サイクルに一つの点火プラグの点火を休止し、点火が休止されるプラグを順番に変更する運転態様をいう。
【特許文献1】特開昭60−35125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のようなロータリエンジンにおいては、ロータハウジングの内壁をロータが摺動することによってトルクを出力するものであるから、点火プラグの電極は、燃焼室から窪んだ位置に留まり、連通孔を通して燃焼室に臨むように構成されている。そのため、連通孔に既燃ガスが籠もりやすくなる。
【0004】
点火プラグの連通孔に既燃ガスが籠もると、最悪の場合、全ての点火プラグが失火し、エミッションを低下させるおそれがある。特に、トレーリング側の点火プラグは、燃焼サイクルの過程で負圧の状態から吸気口と連通するタイミングがあるので、負圧で新気を吸引し、既燃ガスを比較的排出しやすい構造にあるが、リーディング側の点火プラグについては、ロータによって吸気口が閉じ、吸気側の圧力と排気側の圧力がバランスした後で新気が導入されるので、負圧による掃気効果が少なく、失火が生じやすくなる傾向がある。そのような問題を解決するためには、掃気のために交番点火を実行することが好ましい。
【0005】
この点、特許文献1に係る装置では、交番点火制御をロータリエンジンのエンジン回転速度と要求トルクとに応じて行っているに過ぎず、掃気性の向上を目的としたものではなかった。そのため、各点火プラグの掃気を実行するためという観点からは、必ずしも好適な交番点火制御を実現できなかった。特に、掃気を目的とする交番点火は、トレーリング側の点火プラグを含めたローテーションで実行することが好ましいが、リーディング側の点火プラグのみが点火された時のロータリエンジンの燃焼特性は、トレーリング側の点火プラグを含めたときの燃焼特性と大きく異なるため、リーディング側の点火プラグのみが点火されるローテーションの際に、いわゆる燃焼対称性が大きく崩れてしまい、大きなトルク変動によって振動が生じる場合もあった。このため、エンジンの回転速度のみによって交番点火を制御することは困難であった。
【0006】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、掃気性が要請される運転状態では可能な限り交番点火を実行しつつ、振動を来すことなく掃気を効率よく行うことのできるロータリエンジンの制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、ロータハウジングの短軸よりリーディング側に2個、トレーリング側に1個設けられた点火プラグを有するロータリエンジンに設けられ、前記点火プラグの点火タイミングを制御するロータリエンジンの制御装置であって、前記ロータリエンジンの出力軸の負荷状態を判定する負荷状態判定部と、前記ロータリエンジンの運転状態に基づいて当該点火プラグの掃気の要否を判定する運転状態判定部と、掃気が必要な場合には、前記出力軸の負荷状態が所定の低負荷にあるときを除き、トレーリング側の点火プラグを含めた全ての点火プラグを燃焼サイクル毎に一つずつ順番に休止させる全交番点火制御を実行する一方、掃気が必要な場合であって前記出力軸の負荷状態が前記所定の低負荷にあるときには、トレーリング側の点火プラグを常時点火とし、且つリーディング側の点火プラグを燃焼サイクル毎に交互に点火するリーディング交番点火制御を実行する燃焼制御部とを備えていることを特徴とするロータリエンジンの制御装置である。この態様では、掃気が必要な場合には、原則として全ての点火プラグをローテーションに含めて燃焼サイクル毎に一つずつ休止するので、個々の点火プラグについて、積極的に掃気を促進することができる。しかも、掃気が必要な場合にロータリエンジンの出力軸が所定の低負荷にあるときは、トレーリング側の点火プラグを常時点火とした状態でリーディング側の点火プラグのみを交番点火させるので、リーディング側の点火プラグのみが点火されることによるトルク変動やそれに伴う振動を回避し、安定した走行状態を維持しつつリーディング側の点火プラグの掃気性を確保することができる。
【0008】
好ましい態様において、前記燃焼制御部は、前記全交番点火制御を実行する場合において、トレーリング側の点火プラグの点火を休止させるときには、リーディング側の2個の点火プラグの点火タイミングを互いにずらすものである。この態様では、特に燃焼対称性が崩れやすいリーディング側の点火プラグのみによる交番点火時において、リーディング側の2個の点火プラグの点火タイミングを互いにずらすことにより、角速度の変動を抑制することができ、ロータリエンジンの振動を抑制することができる。
【0009】
好ましい態様において、前記負荷状態判定部は、当該ロータリエンジンに接続された変速機がニュートラルレンジである場合に前記出力軸の負荷状態が前記所定の低負荷にあると判定するものである。この態様では、ロータリエンジンの振動が伝わりやすい運転状態を確実に検出し、リーディング交番点火制御によって掃気性と振動の抑制とを両立することができる。
【0010】
好ましい態様において、前記負荷状態判定部は、当該ロータリエンジンに接続された変速機のクラッチが遮断された場合に前記出力軸の負荷状態が前記所定の低負荷にあると判定するものである。この態様では、ロータリエンジンの振動が伝わりやすい運転状態を確実に検出し、リーディング交番点火制御によって掃気性と振動の抑制とを両立することができる。
【0011】
好ましい態様において、前記運転状態判定部は、当該ロータリエンジンの回転速度が所定速度以下の運転状態のときに掃気が必要であると判定するものである。この態様では、特に点火プラグの掃気性悪化が問題となる運転状態において交番点火制御を実行し、それ以外の運転状態では、異なる点火制御を実行することができるので、運転状態に応じて最適な点火制御を実現しつつ、点火プラグの掃気性を確保することができる。
【0012】
好ましい態様において、前記トレーリング側の点火プラグは、当該ロータハウジングの幅方向中央部に配置されているとともに、前記リーディング側の点火プラグは、当該ロータハウジングの側部から見て、前記トレーリング側の点火プラグを通るロータ回転方向沿いの中心線を軸に線対称に配置されている。この態様では、トレーリング側の点火プラグを点火させた際の火炎が、両リーディング側の点火プラグ間に延びるので、トレーリング側の点火プラグによる火炎面を確保することができる。また、冷却損失の少ないリーディング側に2つの点火プラグを配置していることと相俟って、高い熱効率に寄与することができる。このような点火プラグの配置を採用して交番点火制御を実行することにより、可及的に燃焼対称性を損なうことなく、掃気性を確保することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明は、掃気が必要な運転状態では、原則として全ての点火プラグをローテーションに含めて交番点火させる一方、エンジンの振動が伝達しやすい運転状態で掃気が必要と判定された場合には、トレーリング側の点火プラグを常時点火とした状態でリーディング側の点火プラグを交番点火させるので、掃気性が要請される運転状態では可能な限り交番点火を実行しつつ、振動を来すことなく掃気を効率よく行うことという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の一形態に係るロータリエンジンを模式的に示したブロック図であり、図2は同エンジンの側部を示す概略図である。
【0016】
まず図1を参照して、2つのロータハウジング(図1では、展開された状態で模式的に示している)15を3つのサイドハウジング(図示せず)の間に重ね合わせて一体化し、その間に形成される2つのロータ収容室16を形成した2ロータタイプのものである。
【0017】
ロータ収容室16は、トロコイド内周面を有する繭状を呈しており、その内部には、ロータ17が収容されている。
【0018】
ロータ17は、特殊鋳鉄製品であり、各頂部に固定されたアペックスシールをロータ収容室16の内周面に常時摺接させた状態で偏心周回するものである。このロータ17は、ロータ収容室16内に3つの燃焼室を区画している。ロータハウジング15には、これら3つの燃焼室に対応して、それぞれに一組の点火プラグ180〜182と、気体燃料噴射弁19とが接続されている。
【0019】
図2を参照して、点火プラグ180〜182は、ロータハウジング15の短軸15aよりもトレーリング側の点火プラグ(以下、「Tプラグ」ともいう)180と、第1、第2のリーディング側の点火プラグ(以下、「Lプラグ」ともいう)181、182の3本の組である。Tプラグ180は、ロータハウジング15の幅方向中央部に配置されている。他方、第1、第2のLプラグ181、182は、ロータハウジング15の側部から見て(すなわち、図2において)、Tプラグ180を通るロータ回転方向沿いの中心線Lを軸に線対称に配置されている。この結果、Tプラグ180と第1のLプラグ181との距離は、Tプラグ180と第2のLプラグ182との距離と等しくなっている。図2のレイアウトを採用した場合、Tプラグ180が点火されることによって生じる火炎FTは、両Lプラグ181、182間に延びるので、この火炎FTがLプラグ181、182の火炎FLと重複し、火炎面が低減することによる燃焼速度の低下を防止できる。また、両Lプラグ181、182が中心線Lを軸として対称形に配置されることにより、各Lプラグ181、182からの火炎FLも、互いに干渉することなく、広い火炎面を確保し、速い燃焼速度を得ることができるようになる。尤も、各点火プラグ180〜182は、上述のように3本一組であればよく、例えば、一方のLプラグ181と他方のLプラグ182とは、中心線Lの両側に配置されていれば、中心線Lに対して非対称であってもよい。
【0020】
各点火プラグ180〜182は、図略の連通孔を介してロータハウジング15に区画されるロータ収容室16に臨んでいる。
【0021】
気体燃料噴射弁19は、図略の気体燃料システムから供給された気体燃料(本実施形態では水素)を燃焼室に直接噴射する直噴式のものである。
【0022】
ロータ17の中央部には、インターナルギアが形成されており、サイドハウジングに形成された固定ギアと噛合することにより、正確な周回軌道が維持されている。さらにロータ17の中央部には、出力軸としてのエキセントリックシャフト20が嵌合している。
【0023】
各ロータ収容室16には、吸気管21と図略の排気管とが接続されている。この吸気管21を介して、新気が燃焼室内に導入されるとともに、排気管を通して既燃ガスが排出されるように構成されている。
【0024】
各吸気管21には、ガソリン燃料を噴射するためのポート燃料噴射弁22が取り付けられている。各吸気管21は、吸気上流管23の下流端からロータ収容室16毎に分岐している。この吸気上流管23には、スロットル弁24が設けられており、アクチュエータ25で開閉駆動されるようになっている。
【0025】
点火プラグ180〜182、燃料噴射弁19および22、並びにアクチュエータ25は、詳しくは後述する制御ユニット(PCM:Powertrain Control Module)100によって運転制御されるように構成されている。
【0026】
本実施形態において、ロータリエンジン10は、図略の手動式変速機と接続されて、パワートレインを構成しており、エキセントリックシャフト20の動力がクラッチを介して接続遮断されるようになっている。このクラッチの接続遮断動作や手動変速機のギア段を検出するために、本実施形態では、シフトセンサSW10やクラッチペダルセンサSW11が設けられている。
【0027】
図1を参照して、制御ユニット100は、マイクロプロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置、および入出力装置を主要素とするユニットである。制御ユニット100に接続される入力要素としては、アクセル開度センサSW4と、エンジン回転速度センサSW5と、シフトセンサSW10と、クラッチペダルセンサSW11とが含まれている。また、制御ユニット100に接続される出力要素としては、上述した点火プラグ180〜182、燃料噴射弁19および22、並びにアクチュエータ25が含まれている。
【0028】
そして、制御ユニット100は、上述した入力要素やプログラムによって、ロータリエンジン10の運転状態を判定する運転状態判定部101と、エキセントリックシャフト20の負荷状態を判定する負荷状態判定部102と、ロータリエンジン10の燃焼(特に点火)を制御する燃焼制御部103とを論理的に構成している。
【0029】
運転状態判定部101は、アクセル開度センサSW4やエンジン回転速度センサSW5の検出信号に基づきロータリエンジン10の負荷状態や回転速度Ne等、種々の運転状態を判定するものである。この運転状態判定部101は、掃気の要否をも判定する機能を有する。この実施形態において掃気が必要な条件は、アクセルの踏み込み量が0であり、エンジン回転速度Neが所定速度Nst(例えば2000rpm)以下である場合である。そのような運転状況では、各点火プラグ180〜182をロータ収容室16に連通する連通孔に既燃ガスが籠もりやすい状態にあるので、本実施形態では、掃気の要否判定を運転状態判定部101によって行ない、掃気が必要な場合には、交番点火制御を実行することによって、各点火プラグ180〜182の掃気性を高めるようにしているのである。
【0030】
負荷状態判定部102は、シフトセンサSW10と、クラッチペダルセンサSW11との検出信号に基づき、エキセントリックシャフト20の負荷状態を判定するものである。本実施形態では、ロータリエンジン10に接続された変速機がニュートラルレンジにある場合、またはクラッチが遮断された場合には、エキセントリックシャフト20の負荷が小さいと判定する。変速機がニュートラルレンジにシフトしている場合、或いはアイドリング運転時等でクラッチが遮断されているような場合、エキセントリックシャフト20は、専らロータリエンジン10の燃焼のみによって駆動されている状態にある。そのようにエキセントリックシャフト20の負荷が小さい運転状態では、燃焼対称性が崩れてトルク変動が生じた際に大きな振動の原因となってしまうことになる。そこで、本実施形態では、掃気性を確保するために交番点火制御を実行するに際し、ロータリエンジン10の振動が極力小さくなるように制御するため、負荷状態判定部102によってエキセントリックシャフト20の負荷状態を判定するようにしているのである。
【0031】
燃焼制御部103は、ロータリエンジン10のスロットル制御や、点火タイミングの制御を司る要素である。ここで、本実施形態においては、掃気が必要な場合には、エキセントリックシャフト20の負荷状態が低負荷にあるときを除き、Tプラグ180を含めた全ての点火プラグ180〜182を燃焼サイクル毎に一つずつ順番に休止させる制御(以下、「全交番点火制御」という)を実行する一方、掃気が必要な場合であって、エキセントリックシャフト20の負荷状態が低負荷にあるときには、Tプラグ180を常時点火とし、且つLプラグ181、182を燃焼サイクル毎に交互に点火する制御(以下、「リーディング交番点火制御」)を実行するように構成されている。
【0032】
図3および図4は、点火プラグの点火制御例を示す説明図である。
【0033】
図3を参照して、レンジポジションがドライブレンジである場合や、クラッチが接続されている場合には、エキセントリックシャフト20に対して変速機や変速機を伝わる車両のタイヤからの負荷が作用するので、多少のトルク変動があっても、振動が生じにくくなっている。そこで本実施形態では、掃気が必要な場合であって振動が問題とならない運転状態では、全交番点火制御を実行することによって、Tプラグ180を含めた全ての点火プラグ180〜182を燃焼サイクル毎に一つずつ順番に休止させ、各点火プラグ180〜182の掃気性を確保するようにしている。
【0034】
他方、図4を参照して、振動が伝わりやすい運転状態で掃気の必要が生じた場合には、リーディング交番点火制御を実行することによって、Tプラグ180を常時点火とし、且つLプラグ181、182を燃焼サイクル毎に交互に点火し、掃気性に配慮しつつ燃焼時のトルク変動による振動の発生を極力抑制するようにしているのである。
【0035】
次に、本実施形態に係るロータリエンジン10の制御例について説明する。
【0036】
図5は本発明の実施形態に係る制御例を示すフローチャートである。
【0037】
図5を参照して、同図に示す制御例において、制御ユニット100は、アクセル開度センサSW4とエンジン回転速度センサSW5の信号を読み取り(ステップS1)、アクセルが踏み込まれているか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2において、アクセルが踏み込まれていない場合には、さらにエンジン回転速度Neが、所定速度Nst(例えば、2000rpm)以下であるか否かを判定する(ステップS3)。アクセルが踏み込まれておらず、エンジン回転速度Neが所定速度Nst以下である場合には、運転状態判定部101は、掃気が必要であると判定し、燃焼制御部103は、この判定に基づいて、交番点火制御を実行することになる。ここで本実施形態では、交番点火制御の実行に先立ち、シフトセンサSW10とクラッチペダルセンサSW11の出力した信号を読み取り(ステップS4)、エキセントリックシャフト20の負荷状態を判定する(ステップS5)。仮にシフトポジションがニュートラルレンジになっていた場合またはクラッチが遮断されている場合には、エキセントリックシャフト20の負荷状態が低負荷であると判定され、燃焼制御部103は、リーディング交番点火制御を実行する(ステップS6)。このリーディング交番点火制御では、図4に示すようにTプラグ180は、各燃焼サイクルで必ず点火され、第1のLプラグ181と第2のLプラグ182とが燃焼サイクル毎にローテーションで休止するように制御される。この結果、大きなトルク変動を抑制しつつ、比較的既燃ガスが籠もりやすいLプラグ181、182については、高い掃気性を確保し、失火を防止することができる。
【0038】
点火制御が終了した後、燃焼制御部103は、未点火の燃焼プラグを記憶し(ステップS7)、次の交番点火時に休止する点火プラグを特定するようにしている。その後、エンジンの運転が終了したか否かを運転状態判定部101が判定し(ステップS8)、運転停止でない場合にはステップS1に戻って上述した制御を繰り返し、運転停止の場合には制御を終了する。
【0039】
ステップS2において、アクセルが踏み込まれている場合、或いは、ステップS3において、エンジン回転速度Neが所定速度Nstを越えている場合、燃焼制御部103は、通常運転サブルーチンを実行する(ステップS9)。この通常運転サブルーチンでは、ロータリエンジン10の運転状態に応じて、例えば特許文献1に示したような点火制御を実行することにより、運転領域に応じて好適な燃焼特性を得ることができる。
【0040】
また、ステップS5において、エキセントリックシャフト20の負荷状態が高いと判定された場合には、全交番点火制御が実行される(ステップS10)。この全交番点火制御では、図3に示すようにTプラグ180を含む全ての点火プラグ180〜182がローテーションに含められ、燃焼サイクル毎に一つずつ休止するように制御される。この結果、各点火プラグ180〜182について、高い掃気性を確保し、失火を防止することができる。
【0041】
ここで、本実施形態においては、ステップS7の情報に基づいて、Tプラグ180が休止するローテーションであるか否かが判定され(ステップS11)、Tプラグ180が休止するローテーションでは、第1のLプラグ181と第2のLプラグ182の点火タイミングをずらす制御が実行される(ステップS12)。具体的には、第1のLプラグ181を先に点火し、次いで第2のLプラグ182を点火するように、第1のLプラグ181の点火タイミングをアドバンスさせる、或いは第2のLプラグ182の点火タイミングをリタードさせるといった制御が実行される。これにより、両Lプラグ181、182を同時に点火させる場合に比べてトルク変動が大きくなるのを抑制し、振動の少ない運転特性を得るようにしている。
【0042】
以上説明したように本実施形態によれば、掃気が必要な場合には、原則として全ての点火プラグ180〜182をローテーションに含めて燃焼サイクル毎に一つずつ休止させるので、個々の点火プラグ180〜182について、積極的に掃気を促進することができる。しかも、エキセントリックシャフト20が所定の低負荷時においては、Tプラグ180を常時点火とした状態でLプラグ181、182のみを交番点火させるので、Lプラグ181、182のみが点火されることによるトルク変動やそれに伴う振動を回避し、安定した走行状態を維持しつつ各Lプラグ181、182の掃気性を確保することができる。
【0043】
また本実施形態では、燃焼制御部103は、全交番点火制御を実行する場合において、Tプラグ180の点火を休止させるときには、2個のLプラグ181、182の点火タイミングを互いにずらすものである。このため本実施形態では、特に燃焼対称性が崩れやすいLプラグ181、182のみによる交番点火時において、Lプラグ181、182の点火タイミングをずらすことにより、Lプラグ181、182の何れか一方とTプラグ180による点火の場合に近い点火タイミングとなることにより、ロータ17の角速度の変動を抑制することができ、ロータリエンジン10の振動を抑制することができる。
【0044】
また本実施形態では、負荷状態判定部102は、当該ロータリエンジン10に接続された変速機がニュートラルレンジである場合、または、当該ロータリエンジン10に接続された変速機のクラッチが遮断された場合に、エキセントリックシャフト20の負荷状態が所定の低負荷にあると判定するものである。このため本実施形態では、ロータリエンジン10の振動が伝わりやすい運転状態を確実に検出し、リーディング交番点火制御によって掃気性と振動の抑制とを両立することができる。
【0045】
また本実施形態では、運転状態判定部101は、当該ロータリエンジン10の回転速度Neが所定速度Nst以下の運転状態のときに掃気が必要であると判定するものである。このため本実施形態では、特に点火プラグ180〜182の掃気性悪化が問題となる運転状態において交番点火制御を実行し、それ以外の運転状態では、異なる点火制御を実行することができるので、運転状態に応じて最適な点火制御を実現しつつ、点火プラグ180〜182の掃気性を確保することができる。
【0046】
また本実施形態では、Tプラグ180は、当該ロータハウジング15の幅方向中央部に配置されているとともに、Lプラグ181、182は、当該ロータハウジング15の側部から見て、Tプラグ180を通るロータ回転方向沿いの中心線Lを軸に線対称に配置されている。このため本実施形態では、Tプラグ180を点火させた際の火炎FTが、両Lプラグ181、182間に延びるので、Tプラグ180による火炎面を確保することができる。また、冷却損失の少ないリーディング側に2つの点火プラグ180〜182を配置していることと相俟って、高い熱効率に寄与することができる。このような点火プラグ180〜182の配置を採用して交番点火制御を実行することにより、可及的に燃焼対称性を損なうことなく、掃気性を確保することができる。
【0047】
上述した実施形態は、本発明の好ましい具体例に過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。
【0048】
例えば、負荷状態判定部102を具体化するに当たり、本実施形態では、シフトセンサSW10とクラッチペダルセンサSW11の双方から信号を検出しているが、何れか一方を省略し、レンジポジションとクラッチの接続遮断状態の何れか一方のみによって、エキセントリックシャフト20の負荷状態を判定するようにしてもよい。
【0049】
また、Lプラグ181、182は、中心線Lの両側に配置されていれば非対称であってもよい。
【0050】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の一形態に係るロータリエンジンを模式的に示したブロック図である。
【図2】図2は同エンジンの側部を示す概略図である。
【図3】点火プラグの点火制御例(全交番点火制御)を示す説明図である。
【図4】点火プラグの点火制御例(リーディング交番点火制御)を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
10 ロータリエンジン
15 ロータハウジング
15a 短軸
20 エキセントリックシャフト(出力軸)
100 制御ユニット
101 運転状態判定部
102 負荷状態判定部
103 燃焼制御部
180 Tプラグ(トレーリング側の点火プラグの一例)
181 第1のLプラグ(リーディング側の点火プラグの一例)
182 第2のLプラグ(リーディング側の点火プラグの一例)
L 中心線
Ne エンジン回転速度
Nst 所定速度
SW4 アクセル開度センサ
SW5 エンジン回転速度センサ
SW10 シフトセンサ
SW11 クラッチペダルセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータハウジングの短軸よりリーディング側に2個、トレーリング側に1個設けられた点火プラグを有するロータリエンジンに設けられ、前記点火プラグの点火タイミングを制御するロータリエンジンの制御装置であって、
前記ロータリエンジンの出力軸の負荷状態を判定する負荷状態判定部と、
前記ロータリエンジンの運転状態に基づいて当該点火プラグの掃気の要否を判定する運転状態判定部と、
掃気が必要な場合には、前記出力軸の負荷状態が所定の低負荷にあるときを除き、トレーリング側の点火プラグを含めた全ての点火プラグを燃焼サイクル毎に一つずつ順番に休止させる全交番点火制御を実行する一方、掃気が必要な場合であって前記出力軸の負荷状態が前記所定の低負荷にあるときには、トレーリング側の点火プラグを常時点火とし、且つリーディング側の点火プラグを燃焼サイクル毎に交互に点火するリーディング交番点火制御を実行する燃焼制御部と
を備えていることを特徴とするロータリエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記全交番点火制御を実行する場合において、トレーリング側の点火プラグの点火を休止させるときには、リーディング側の2個の点火プラグの点火タイミングを互いにずらすものである
ことを特徴とするロータリエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記負荷状態判定部は、当該ロータリエンジンに接続された変速機がニュートラルレンジである場合に前記出力軸の負荷状態が前記所定の低負荷にあると判定するものである
ことを特徴とするロータリエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記負荷状態判定部は、当該ロータリエンジンに接続された変速機のクラッチが遮断された場合に前記出力軸の負荷状態が前記所定の低負荷にあると判定するものである
ことを特徴とするロータリエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記運転状態判定部は、当該ロータリエンジンの回転速度が所定速度以下の運転状態のときに掃気が必要であると判定するものである
ことを特徴とするロータリエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記トレーリング側の点火プラグは、当該ロータハウジングの幅方向中央部に配置されているとともに、前記リーディング側の点火プラグは、当該ロータハウジングの側部から見て、前記トレーリング側の点火プラグを通るロータ回転方向沿いの中心線を軸に線対称に配置されている
ことを特徴とするロータリエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−309073(P2008−309073A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157863(P2007−157863)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】