説明

ロータリ射出成形機の制御方法

【課題】ロータリ射出成形機の連続成形を成形原料、時間及び労力の無駄なくして立上げ及び終了させることができる制御方法を提供する。
【解決手段】8次の成形工程を有するロータリ射出成形機1により連続成形を立上げるとき、1次成形のキャビティ18aのみ射出充填を実行し、2次成形から8次成形の各キャビティ18b〜18hへの射出充填を停止し、回転盤9を(360/8)度回転させて次の成形工程へ移行する度毎に、射出充填を実行するキャビティを2次成形から8次成形のものまで順次に追加し、8回以降の成形工程では、全てのキャビティを射出充填して連続成形を立上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリ射出成形機の連続成形を立上げ及び終了させる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロータリ射出成形機を用いて2層成形によってレンズを多層成形する技術が開示されている。また、特許文献2には、ロータリ射出成形機を用いて2色成形によって光学部品を多色成形する技術が開示されている。
【0003】
このような多層成形又は多色成形において、その連続成形を立上げるときには、複数のキャビティの全てに溶融樹脂が充填されていない状態である。そのため、2次成形以降のキャビティには、その成形工程より一次前の成形工程で成形した中間成形品をインサートするか又は、その成形工程の射出計量を中間成形品に相当する分だけ増量して射出充填していた。
【0004】
多層成形又は多色成形の連続成形を停止させるときには、最終次の一次前までの成形工程における中間成形品はそのままキャビティ内に残存させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−107490号公報
【特許文献2】特開2010−89398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、連続成形の立上げ時に中間成形品をインサートする場合は、中間成形品を予め準備しインサート操作をしなければならず、労力と時間を浪費するとともに、インサート操作の際に金型のキャビティ面等を損傷させる虞がある。また、連続成形の立上げ時に射出計量を増量する場合は、射出成形機のシーケンス・プロセス制御を特殊なものに変更する必要があるとともに、そのときの中間成形品がより厚肉となるので長い冷却時間を要し成形時間の延長を来す。さらに、上記の対策をせずに連続成形を立上げたときには、2次成形以降に相当するキャビティに射出充填された溶融樹脂は中間成形品にも完成した成形品にもならず全く無駄なものとなる。
【0007】
連続成形を停止させるときには、キャビティ内に残存した中間成形品は完成した成形品にはならず、廃棄しなければならず無駄である。
【0008】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、ロータリ射出成形機の連続成形を成形原料、時間及び労力の無駄なくして立上げ及び終了させることができる制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、N回の成形工程を有するロータリ射出成形機による連続成形を立上げるときの制御方法であって、立上げ信号が発信された後の最初の成形工程では、1次成形のキャビティのみ射出充填を実行し、2次成形からN次成形の各キャビティへの射出充填を停止し、回転盤を回転させて次回の成形工程へ移行する度毎に、射出充填を実行するキャビティを2次成形からN次成形まで順次に追加し、立上げ信号が発信された後のN回以降の成形工程では、全てのキャビティを射出充填して連続成形を立上げることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、中間成形品をキャビティへインサートしたり射出装置での溶融樹脂の計量を中間成形品の容積に相当する分増量したりする必要がないので、労力、時間及び原料樹脂を浪費せず極めて経済的且つ効率的にロータリ射出成形機を使用できるという優れた効果を奏する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、N回の成形工程を有するロータリ射出成形機による連続成形を終了するときの制御方法であって、終了信号が発信された成形工程に続く成形工程では、1次成形のキャビティのみ射出充填を停止し、2次成形からN次成形の各キャビティへの射出充填を実行し、回転盤を回転させて次回の成形工程へ移行する度毎に、射出充填を停止するキャビティを2次成形からN次成形まで順次に追加し、その後、全てのキャビティの射出充填を停止して連続成形を終了することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、連続成形を停止するときに最終次の一次前までの成形工程における中間成形品がキャビティ内に残存しないとともに、その中間成形品を取り除く作業が不要となるので、労力、時間及び原料樹脂を浪費せず極めて経済的且つ効率的にロータリ射出成形機を使用できるという優れた効果を奏する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記キャビティへの射出充填を前記実行又は前記停止する制御が、ホットランナを開閉させることにより行われることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、一の射出装置から複数のキャビティへの射出充填を可能にするので、経済性に優れたロータリ射出成形機とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するロータリ射出成形機の構成を示す部分断面の側面図である。
【図2】N=8のときの各キャビティの状態を示す断面図である。
【図3】連続成形を立上げるときの本発明の制御内容を示す流れ図である。
【図4】連続成形を停止するときの本発明の制御内容を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1には、本発明を実施するロータリ射出成形機の一例を示す。ロータリ射出成形機1は、型締装置2、回転装置5、雌雄金型4、射出装置3及び制御装置20からなる。
【0018】
型締装置2は、圧締・開閉機構(図示しない)と、可動盤10と、可動盤10に回動自在に取付けられた回転盤9と、回転盤9に対向配置された固定盤11と、固定盤11と圧締・開閉機構に固着されたタイバ12とからなる。型締装置2は、圧締・開閉機構の作用によって、雌雄金型4を取付ける固定盤11及び回転盤9並びにタイバ12を摺動する可動盤10を介して雌雄金型4を圧締するとともに、図1に示すような型開き状態にさせるものである。型締装置2の圧締・開閉機構は、油圧シリンダ装置やトグル装置等の公知の機構が採用される。なお、型締装置2は横型として例示したが、縦型であってもよい。
【0019】
回転装置5は、回転盤9、サーボモータ6、プーリ7及びベルト8からなり、回転盤9を任意の回転角度に回動させ位置決めするものである。回転装置5には、位置決めの回転角度を任意且つ精確に得るため、サーボモータ6が好ましく採用されるが、誘導電動機や直動シリンダの他カム等の機構によるものであってもよい。回転盤9及び回転装置5は、可動盤10に設けられるように例示したが、固定盤11に設けてもよい。
【0020】
雌雄金型4は、8個のキャビティ凹部14a〜14hを有する雌型板13と、8個のキャビティ凸部15a〜15hを有する雄型板16とからなる。キャビティ凹部14a〜14hは、図2に示すように、凹部の深さは同一に形成されて、回転盤9の回転円周上等間隔となるように配設されている。キャビティ凸部15a〜15hは、図2に示すように、15aから15hへ順次に突出部の高さが低くなるように形成され、キャビティ凹部14a〜14hと同様に円周上等間隔となるように配設されている。そのため、キャビティ凹部14a〜14hとキャビティ凸部15a〜15hとは、回転装置5と型締装置2の作動に基づき、それらのどの組み合わせにおいても型合わせ可能となるのである。そして、図2の(a)〜(h)に示すように、キャビティ容積が回転装置5の回転方向に向けて順次大きくなるようなキャビティ18a〜18hが形成される(すなわち、本実施形態において金型キャビティの数Nは8である)。さらに言えば、キャビティ18a〜18hは、キャビティ容積が最小のもの(1次成形に相当)から円周上一方向に順次大きくなり、キャビティ容積が最大のもの(N次成形に相当)からキャビティ容積が最小のものへと併設されるように設けられている。キャビティ18a〜18hには、雌雄金型4の型合わせ面に連通するゲート24が設けられている。ゲート24と射出装置3のノズル19との間の溶融樹脂通路には、ホットランナ17が介在する。ホットランナ17は、電気ヒータ等を有しており、制御装置20からの通電量を制御することにより溶融樹脂の通路を開閉することができる。なお、型締装置2や回転装置5の異なる形態に応じて、雌雄金型4の取付部材やホットランナ等の埋設位置が変化するのは当然なことである。
【0021】
このように、一の雌雄金型4に8個のキャビティ18a〜18hを設けた実施例を図1及び図2に基づいて説明した。これに対し、一の金型キャビティを有する複数の雌雄金型の雌金型をキャビティ凹部又はキャビティ凸部が円周上等間隔となるように回転盤上に配設してもよい。この構成は、比較的大型の多色成形品又は多層成形品を成形する場合に有効であり、型締装置は縦型となることが多い。
【0022】
射出装置3は、スクリュ式又はプランジャ式等の公知の機構を有し、樹脂原料を可塑化して生成した溶融樹脂を型合わせし圧締された雌雄金型4へノズル19を介して射出し、キャビティ18a〜18hを充填させるものである。射出装置3は、図1に示すように、複数のキャビティに対して一基設けることがコスト的に有利であるが、製品の付加価値向上や射出充填の制御性・成形性向上を図るためあるいは多色成形を行うときには複数設けることもある。
【0023】
制御装置20は、マイクロプロセッサに基づいて、ロータリ射出成形機1の型締装置2、回転装置5及び射出装置3におけるアクチュエータの操作やシーケンスを電気信号により制御し実行させるものである。さらに、制御装置20は、ホットランナ17及び射出装置3に備える加熱筒の温度制御も包含する。
【0024】
次に、このロータリ射出成形機1を用いた成形方法とその制御方法を多層成形に例をとり説明する。
【0025】
N=8であって、キャビティを8個、成形工程を8回有する図1に示すロータリ射出成形機1において、型締装置2で圧締された雌雄金型4に射出装置3から溶融樹脂が射出され、各キャビティ18a〜18hは、図2において黒の塗潰しで示すように、その全面にわたって流動する溶融樹脂でそれぞれが同時に充填される。その後、(a)の1次成形で成形された中間成形品は、図1に示すように、キャビティ凹部14aに附着したまま型開きされ、雌型板13が(360/8)度時計廻りに回転し再型閉じすることにより、キャビティ凹部14bに相当する位置に移動して(b)の2次成形に備える。同様にして、(b)の中間成形品は(c)へ、・・・、(g)の中間成形品は(h)へと順次移送される。8回移送されて(h)の8次成形で成形された成形品は完成品であり、図1に示すように、ホットランナ17に繋がっていたゲート24部分が切断されて型開きする。そして、成形品は図示しない突出手段でキャビティ凸部14hから離型され取り出される。すなわち、雌雄金型4が圧締されているときに射出装置3から全てのキャビティ18a〜18hへ溶融樹脂を射出し、雌型板13を雄型板16から離隔させ、回転装置5で回転盤9をキャビティの容積が順次大きくなるような方向へ(360/8)度回転させる一連の成形工程を8回繰り返すことにより一の多層成形品を成形するのである。そして、(h)で成形された完成品としての成形品が取出された後の回転装置5の回転は、次の一連の成形工程への移行となるものであり、中間成形品の移送と同時に実行されるのであるから、その回転方向は前の成形工程と同じく金型キャビティの容積が順次大きくなるような方向である。すなわち、回転装置5は連続成形中常に同一回転方向にのみ回転するのである。
【0026】
このような、多層成形を立上げて連続成形を行うときの成形・制御方法について、N個のキャビティとN回の成形工程を有するロータリ射出成形機における本発明の制御内容を示す図3、及び、N=8のときのキャビティの状態を示す図2に基づいて説明する。
【0027】
ロータリ射出成形機1を運転開始すると制御装置20から立上げ信号が発信される(S1)。立上げ信号に基づいて、制御装置20はキャビティ18aに連通するホットランナ17を開いて、1次成形としてのキャビティ18aへの射出充填を実行するとともに、キャビティ18b〜18hに連通する各ホットランナ17を閉じて、2次成形から8次成形としての各キャビティ18b〜18hへの射出充填を停止する(S2)。回転盤9が(360/N)度回転して次回の成形工程に移行したか否かを判断し(S3)、次回の成形工程に移行したときには、前回の成形工程で射出充填したキャビティに加えてその次のキャビティ(キャビティ18b)にも射出充填すべくホットランナ17を開いて1次及び2次成形を実行する(S4)。S3及びS4の制御を成形工程が8になるまで繰り返す(S5)。成形工程が8に到達したときには、各キャビティそれぞれに連通する各ホットランナ17を開いて全てのキャビティへ溶融樹脂を射出充填する(S6)。
【0028】
次に、多層成形の連続成形を終了するときの成形・制御方法について、N個のキャビティとN回の成形工程を有するロータリ射出成形機における本発明の制御内容を示す図4、及び、N=8のときのキャビティの状態を示す図2に基づいて説明する。
【0029】
ロータリ射出成形機1の連続成形を終了させるべく、制御装置20から終了信号が発信される(S11)。制御装置20は、成形実施中に終了信号が発せられた成形工程に続く成形工程において、キャビティ18aに連通するホットランナ17を閉じて、1次成形としてのキャビティ18aへの射出充填を停止するとともに、キャビティ18b〜18hに連通する各ホットランナ17を開いて、2次成形から8次成形としての各キャビティ18b〜18hへの射出充填を実行する(S12)。回転盤9が(360/N)度回転して次回の成形工程に移行したか否かを判断し(S13)、次回の成形工程に移行したときには、前回の成形工程で射出充填を停止したキャビティに加えてその次のキャビティ(キャビティ18b)に対しても射出充填を停止すべくホットランナ17を閉じて1次及び2次成形を停止する(S14)。S13及びS14の制御を成形工程が8になるまで繰り返す(S15)。成形工程が8に到達したときには、各キャビティそれぞれに連通する各ホットランナ17を閉じるか射出装置3の射出動作を停止させて、全てのキャビティへの溶融樹脂の射出充填を停止して連続成形が終了する(S16)。
【0030】
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態のロータリ射出成形機1による連続成形を立上げるときの制御方法によれば、立上げ信号が発信された後の最初の成形工程では、1次成形のキャビティ18aのみ射出充填を実行し、2次成形からN次成形の各キャビティ18b〜18hへの射出充填を停止し、回転盤9を(360/N)度回転させて次回の成形工程へ移行する度毎に、射出充填を実行するキャビティを2次成形からN次成形まで順次に追加し、立上げ信号が発信された後のN回以降の成形工程では、全てのキャビティを射出充填して連続成形を立上げる。そのため、中間成形品をキャビティへインサートしたり射出装置での溶融樹脂の計量を中間成形品の容積に相当する分増量したりする必要がないので、労力、時間及び原料樹脂を浪費せず極めて経済的且つ効率的にロータリ射出成形機を使用できるという優れた効果を奏する。
【0031】
また、本実施形態のロータリ射出成形機1による連続成形を終了させるときの制御方法によれば、終了信号が発信された成形工程に続く成形工程では、1次成形のキャビティ18aのみ射出充填を停止し、2次成形からN次成形の各キャビティ18b〜18hへの射出充填を実行し、回転盤9を(360/N)度回転させて次回の成形工程へ移行する度毎に、射出充填を実行するキャビティを2次成形からN次成形まで順次に追加し、その後、全てのキャビティの射出充填を停止して連続成形を終了する。そのため、連続成形を停止するときに最終次の一次前までの成形工程における中間成形品がキャビティ内に残存しないとともに、その中間成形品を取り除く作業が不要となるので、労力、時間及び原料樹脂を浪費せず極めて経済的且つ効率的にロータリ射出成形機を使用できるという優れた効果を奏する。
【0032】
尚、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変更を施すことが可能である。例えば、多層成形に例をとって説明した本発明は、多色成形にも適用可能であることは言うまでもない。また、一の射出装置から複数の各キャビティへホットランナを介して射出充填する態様を説明したが、一のキャビティに一の射出装置を対応させたものを複数備える態様であってもよい。この場合、キャビティへの射出充填を実行又は停止する制御は、射出装置の射出制御により行う。さらに、本実施形態では、回転盤を一方方向へのみ回転させるように説明したが、成形工程毎に回転盤を反転させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ロータリ射出成形機
9 回転盤
17 ホットランナ
18a〜18h キャビティ
20 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N回の成形工程を有するロータリ射出成形機による連続成形を立上げるときの制御方法であって、
立上げ信号が発信された後の最初の成形工程では、1次成形のキャビティのみ射出充填を実行し、2次成形からN次成形の各キャビティへの射出充填を停止し、
回転盤を回転させて次回の成形工程へ移行する度毎に、
射出充填を実行するキャビティを2次成形からN次成形まで順次に追加し、
立上げ信号が発信された後のN回以降の成形工程では、全てのキャビティを射出充填して連続成形を立上げることを特徴とするロータリ射出成形機の制御方法。
【請求項2】
N回の成形工程を有するロータリ射出成形機による連続成形を終了するときの制御方法であって、
終了信号が発信された成形工程に続く成形工程では、1次成形のキャビティのみ射出充填を停止し、2次成形からN次成形の各キャビティへの射出充填を実行し、
回転盤を回転させて次回の成形工程へ移行する度毎に、
射出充填を停止するキャビティを2次成形からN次成形まで順次に追加し、
その後、全てのキャビティの射出充填を停止して連続成形を終了することを特徴とするロータリ射出成形機の制御方法。
【請求項3】
前記キャビティへの射出充填を前記実行又は前記停止する制御は、ホットランナを開閉させることにより行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のロータリ射出成形機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49143(P2013−49143A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186883(P2011−186883)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000225740)南部化成株式会社 (41)
【Fターム(参考)】