説明

三次元形状測定装置

【課題】光パルスの検出タイミングにかかわらず、奥行き方向の空間分解能及び測定精度を向上可能である三次元形状測定装置を提供する。
【解決手段】色が規則的に経時変化する光パルスを生成するチャープ導入装置と、前記光パルスをワークに照射し切り出すことで該光パルスの反射光像を取得する反射光像取得部と、反射光像を分光し複数のカラーチャンネルでの各色情報を二次元位置毎に取得する色情報取得部とを備える。前記各色情報に対応する分光特性は、前記光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の三次元形状を測定する三次元形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の三次元形状、例えばワークの塗装面等の表面欠陥やその平滑さを測定する方法の一つとして、パルス光を用いたTOF(Time of Flight)法が挙げられる。
【0003】
パルス光を用いたTOF法とは、パルス光源から照射されたパルス光が、被測定物の表面の照射領域で反射され、検出器により検出されるまでの飛行時間(TOF)と光速度とから、奥行き方向の距離差として換算し、被測定物の三次元形状を測定するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、色が規則的に経時変化する光パルス(いわゆるチャープ光パルス)を用い、三次元情報を二次元画像である色付き等高線マップに変換して検出する技術が開示されている。このように構成すれば、被測定物の三次元形状を高精度且つ高速で測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2500379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者の研究によれば、普及品である撮像ユニットを搭載した装置を用いて上記測定を行ったところ、ワークの奥行き方向の測定範囲に応じて空間分解能が著しく変動することを見出した。特に、光パルスの色分解能が低い波長範囲(例えば、RGB3原色のうち、B原色のピーク周辺である420〜470nmの範囲)で検出されると、奥行き方向の空間分解能及び測定精度が著しく低下するという問題が顕在化した。
【0007】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、光パルスの検出タイミングにかかわらず、奥行き方向の空間分解能及び測定精度を向上可能である三次元形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る三次元形状測定装置は、色が規則的に経時変化する光パルスを生成する光パルス生成手段と、前記光パルス生成手段により生成された前記光パルスを被測定物に照射し、前記被測定物で反射された前記光パルスを切り出すことで、前記光パルスの反射光像を取得する反射光像取得手段と、前記反射光像取得手段により取得された前記反射光像を分光し、複数のカラーチャンネルでの各色情報を二次元位置毎に取得する色情報取得手段と、前記色情報取得手段により取得された二次元位置毎の前記各色情報に基づいて前記被測定物の三次元情報を取得する三次元情報取得手段と、を備え、前記各色情報に対応する分光特性は、前記光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差することを特徴とする。
【0009】
複数のカラーチャンネルでの各色情報に対応する分光特性が、光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差するようにしたので、検出された前記光パルスを複数の原色の組合せに変換して色情報を取得可能であり、前記光パルスの波長範囲にわたって色分解能を確保できる。これにより、光パルスの検出タイミングにかかわらず、奥行き方向の空間分解能及び測定精度を向上できる。
【0010】
また、前記色情報取得手段は、着脱自在に配置された光学補正フィルタを備えることが好ましい。これにより、他の装置構成を変更することなく、光パルスを用いた撮像以外の撮像モード(例えば、自然光を用いた通常の撮像モード)へ容易に変更できる。
【0011】
さらに、前記三次元情報取得手段により取得された前記被測定物の三次元情報を可視化して表示するとともに、前記三次元情報の表示色と奥行き位置との関係を表すカラーバーを併せて表示する表示手段をさらに備えることが好ましい。これにより、ユーザは、前記三次元情報及び前記カラーバーを併せて視認することで、三次元形状を感覚的且つ容易に把握できる。
【0012】
さらに、前記各色情報に対応する各分光特性に基づいて、該各色情報を、前記反射光像の光波長に応じた各色情報に変換する色情報変換手段をさらに備えることが好ましい。これにより、ユーザは、光パルスが有する実際の色と対応させて視認できる。
【0013】
さらに、前記各色情報に対応する各分光特性は、少なくとも1つのピークをそれぞれ有しており、各前記ピークに対応する光波長がそれぞれ異なることが好ましい。これにより、各カラーチャンネルでの色情報の分離性能が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る三次元形状測定装置によれば、複数のカラーチャンネルでの各色情報に対応する分光特性が、光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差するようにしたので、検出された前記光パルスを複数の原色の組合せに変換して色情報を取得可能であり、前記光パルスの波長範囲にわたって色分解能を確保できる。これにより、光パルスの検出タイミングにかかわらず、奥行き方向の空間分解能及び測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係る三次元形状測定装置が組み込まれた三次元形状測定システムの概略説明図である。
【図2】図1に示す三次元形状測定装置の電気的・光学的な機能ブロック図である。
【図3】図2に示す色情報取得部の具体的構成を表す概略説明図である。
【図4】典型的なカメラユニットの分光感度特性を表すグラフである。
【図5】光学補正フィルタを取り外した状態下でワークの形状を測定した場合における、実際値と測定値との相関関係を示すグラフである。
【図6】本発明に係る色情報取得部の分光感度特性の一例を示すグラフである。
【図7】光学補正フィルタを装着した状態下でワークの形状を測定した場合における、実際値と測定値との相関関係を示すグラフである。
【図8】ワークの三次元形状の表示例を示す画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る三次元形状測定装置について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本実施の形態に係る三次元形状測定装置12が組み込まれた三次元形状測定システムについて図1を参照しながら説明する。三次元形状測定システム10は、三次元形状測定装置12と、上位制御装置14と、ロボット制御装置16とを基本的に備えている。
【0018】
三次元形状測定装置12は、装置本体18と、撮像部20と、表示部22とから構成されている。撮像部20のレンズ面24は、被測定物としてのワーク26の表面28側を指向する。また、撮像部20は、図示しないロボットのアームに装着されているので、ロボット制御装置16による制御下に前記ロボットのアームの駆動に従って上下・左右方向に移動が自在である。なお、撮像部20は、装置本体18にケーブル30を介して電気的に接続されている。
【0019】
表示部22は、装置本体18に接続されており、装置本体18から供給された画像情報、撮像部20の設定条件等の各種情報を可視化して表示する。表示部22は、複数のカラー素子(例えば、RGB)で構成された表示画素を多数備えている。
【0020】
装置本体18は、撮像部20から供給される撮像信号に対して種々の画像処理を行う。装置本体18は、表示制御信号を表示部22側に送信する。
【0021】
上位制御装置14は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)で構成され、図示しないロボットの駆動制御を行うロボット制御装置16、及び装置本体18に対して各種の指令信号を送信する。
【0022】
図2は、本実施の形態に係る三次元形状測定装置12の電気的・光学的な構成ブロック図である。
【0023】
撮像部20は、パルス光を射出するパルス光源32と、該パルス光源32により射出されたパルス光をチャープすることでチャープ光パルスを生成するチャープ導入装置34(光パルス生成手段)と、該チャープ導入装置34により生成されたチャープ光パルスのビーム径を拡大する拡大光学系36とを備えている。拡大光学系36から供給されたチャープ光パルスをワーク26側に向けて照射することで、表面28上に焦点像(以下、照射領域44という。)が形成される。
【0024】
さらに、撮像部20は、チャープ光パルスを集光する集光光学系46と、該集光光学系46により集光されたチャープ光パルスを所定の角度方向に反射する反射ミラー48と、図示しない遮光性のシャッタ幕の開閉が自在であって前記反射ミラー48からの反射光を切り出し可能なシャッタ50と、該シャッタ50により切り出されたチャープ光パルス(以下、反射光像54という。)を適切に分光・結像する分光結像光学系52と、該分光結像光学系52により分光・結像された反射光像54をチャンネル毎の撮像信号(色情報)に変換する3つの撮像素子アレイ56R、56G、56B(複数の光検出器)と、該撮像素子アレイ56R、56G、56Bにより変換された撮像信号に対して適切な信号処理を行い、カラー撮像データ(以下、単に撮像データという。)を得る信号処理部58(三次元情報取得手段)と、を備えている。
【0025】
ここで、シャッタ50は、機械式、電子式又は光学式のいずれの方式をも採り得る。特に、非線形光学効果の一種である光カー効果を利用する光学的シャッタ(カーシャッタ)の場合、超高速のシャッタ速度を実現可能である。
【0026】
また、撮像素子アレイ56R、56G、56Bは、受光感度特性がそれぞれ同一又は異なる光検出器である。具体的には、撮像素子アレイ56Rは、R原色(赤色のカラーチャンネル)を取得するための光検出器であり、受光した赤色成分54rを二次元位置毎の電気信号(R信号値)に変換する。撮像素子アレイ56Gは、G原色(緑色のカラーチャンネル)を取得するための光検出器であり、受光した緑色成分54gを二次元位置毎の電気信号(G信号値)に変換する。撮像素子アレイ56Bは、B原色(青色のカラーチャンネル)を取得するための光検出器であり、受光した青色成分54bを二次元位置毎の電気信号(B信号値)に変換する。撮像素子アレイ56R、56G、56Bを構成する各撮像素子として、例えば、フォトダイオード、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等を用いてもよい。
【0027】
なお、ワーク26の表面28で反射された光路L上のチャープ光パルスを切り出すことで、該チャープ光パルスの反射光像54を取得する反射光像取得部60(反射光像取得手段)は、集光光学系46と、反射ミラー48と、シャッタ50とから構成される。反射光像54を分光し、複数のカラーチャンネルでの各色情報を二次元位置毎に取得する色情報取得部62(色情報取得手段)は、分光結像光学系52と、3つの撮像素子アレイ56R、56G、56Bとから構成される。
【0028】
また、撮像部20は、パルス光源32によるパルス光の射出動作を制御するパルス光射出制御部64と、シャッタ50による図示しないシャッタ幕の開閉動作を制御するシャッタ開閉制御部66と、パルス光源32の射出動作とシャッタ50の開閉動作とのタイミングを制御するタイミング制御部68とを備える。
【0029】
さらに、撮像部20は、取得した撮像データや測定条件等を記録するメモリ70と、装置本体18との電気通信を可能とするI/F72と、色情報取得部62、タイミング制御部68、メモリ70等の各部を相互に接続するバス74とを備えている。
【0030】
撮像部20の接続元である装置本体18は、撮像部20から受信した撮像データをチャープ光パルスの色に応じた撮像データに変換する色情報変換部76と、ワーク26の三次元形状を表す画像等を表示部22に表示させる表示制御部78と、取得した撮像データや測定条件等を記録するメモリ80とを備えている。
【0031】
図3は、図2に示す色情報取得部62の具体的構成を表す概略説明図である。分光結像光学系52は、入射された反射光像54(赤色成分54R、緑色成分54G及び青色成分54Bを含む。)を各色成分に分光する光学ユニット100と、該光学ユニット100により分光された各色成分を所望の分光特性となるように補正する光学補正フィルタ102R、102G、102Bとを備えている。
【0032】
光学ユニット100は、例えば、プロジェクタやビデオカメラ等に使用される普及品であってもよい。この場合、光学ユニット100は、外部から入射された反射光像54を分光し、撮像素子アレイ56R、56G、56B側にそれぞれ導光する合成プリズム104で構成される。なお、人間の視感度に近づけるため赤外線を遮断する図示しない赤外線遮断フィルタを、合成プリズム104の直前の位置に着脱自在に配置してもよい。
【0033】
合成プリズム104は、それぞれ多面体の第1プリズム106、第2プリズム108及び第3プリズム110を有する。各プリズムの所定の面(光路上の面)には、ダイクロイック膜が設けられている。ダイクロイック膜の光学特性を種々変更することで、各プリズムの界面での反射率・透過率を光波長に応じて変調できる。これにより、合成プリズム104は、入射光を赤色成分54r、緑色成分54g、及び青色成分54bにそれぞれ分光して出射するダイクロイックプリズムとして機能する。
【0034】
反射光像54の入射側から順に、第1プリズム106、第2プリズム108及び第3プリズム110の順番で配置されている。第1プリズム106の一面と第2プリズム108の一面とが接合されることで、第1界面112が形成されている。第2プリズム108の別の一面と第3プリズム110の一面とが接合されることで、第2界面113が形成されている。
【0035】
光学補正フィルタ102Rは、第1プリズム106と撮像素子アレイ56Rとの間に着脱自在に配置されている。光学補正フィルタ102Gは、第3プリズム110と撮像素子アレイ56Gとの間に着脱自在に配置されている。光学補正フィルタ102Bは、第2プリズム108と撮像素子アレイ56Bとの間に着脱自在に配置されている。
【0036】
本実施の形態に係る三次元形状測定装置12は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作について説明する。
【0037】
先ず、ユーザである作業者は、三次元形状測定システム10によるワーク26の表面28の三次元形状を測定する準備を行う。
【0038】
図1に示すように、作業者は、上位制御装置14の図示しない操作部を介して三次元形状測定装置12の各種測定条件を入力・設定する。測定条件には、レンズ面24とワーク26との離間距離、照射領域44(図2参照)の位置、大きさ等が含まれる。入力された前記設定条件は、装置本体18側に供給され、I/F72(同参照)を介して撮像部20に入力される。
【0039】
次いで、上位制御装置14からの指令信号を受けたロボット制御装置16は、撮像部20が装着されている図示しないロボットのアームを所定の位置・姿勢になるように駆動する。これにより、撮像部20のレンズ面24がワーク26の表面28側に指向し、表面28上の所定の測定箇所に照射領域44(同参照)が設定される。
【0040】
ここで、入力された測定条件に基づいて、図示しないレンズの位置をZ軸方向に沿って移動させ、焦点位置を補正してもよい。例えば、レンズ面24とワーク26との離間距離、及び/又は照射領域44の大きさに応じた前記レンズのZ軸位置を、LUT(Look Up Table)としてメモリ70に予め記憶させておいてもよい。
【0041】
このようにして、三次元形状測定システム10によるワーク26の表面28の三次元形状を測定する準備が完了する。
【0042】
続いて、上位制御装置14からの測定開始指示に応じて、表面28上の三次元形状の測定が開始される。
【0043】
図2に示すように、パルス光射出制御部64によるパルス射出指示を受信したパルス光源32からパルス光が射出されると、該パルス光は、チャープ導入装置34によりチャープされ、チャープ光パルスが生成される。該チャープ光パルスは、拡大光学系36によりビーム径が拡大された後、ワーク26の表面28上の照射領域44に照射される。
【0044】
そして、前記照射領域44で反射したチャープ光パルスは、集光光学系46により集光され、反射ミラー48により所定の角度方向に反射され、シャッタ50により所定のタイミングで所定の光量だけ切り出される。
【0045】
なお、シャッタ50(図示しない遮光性のシャッタ幕)の開閉動作は、シャッタ開閉制御部66により制御される。そして、タイミング制御部68は、パルス光射出制御部64とシャッタ開閉制御部66とを同期制御することで、チャープ光パルス(反射光像54)は、適切なタイミングで且つ適切な光量だけ切り出される。例えば、レンズ面24とワーク26との離間距離、及び/又は照射領域44の大きさに応じたシャッタ50の開放時間を、LUTとしてメモリ70に予め記憶させておいてもよい。
【0046】
図3に示すように、反射光像取得部60により取得された反射光像54は、合成プリズム104の面114に入射される。
【0047】
反射光像54のうちの赤色成分54Rは、第1プリズム106の面114を透過され、第1界面112上で所定の角度に反射され、前記面114上で所定の角度に反射され、撮像素子アレイ56R側に導光され、光学補正フィルタ102Rにより特定の波長のみが透過される。そして、赤色成分54Rに対して光強度が減衰された赤色成分54rは、撮像素子アレイ56Rに受光されることで、二次元位置毎の撮像信号(R信号値)に変換される。
【0048】
反射光像54のうちの緑色成分54Gは、第1プリズム106の面114を透過され、第2界面113を透過され、第3プリズム110の面116を透過され、撮像素子アレイ56G側に導光され、光学補正フィルタ102Gにより特定の波長のみが透過される。そして、緑色成分54Gに対して光強度が減衰された緑色成分54gは、撮像素子アレイ56Gに受光されることで、二次元位置毎の撮像信号(G信号値)に変換される。
【0049】
反射光像54のうちの青色成分54Bは、第1プリズム106の面114を透過され、第2界面113上で所定の角度に反射され、第2プリズム108の面118を透過され、撮像素子アレイ56B側に導光され、光学補正フィルタ102Bにより特定の波長のみが透過される。そして、青色成分54Bに対して光強度が減衰された青色成分54bは、撮像素子アレイ56Bに受光されることで、二次元位置毎の撮像信号(B信号値)に変換される。
【0050】
撮像素子アレイ56R、56G及び56Bから供給された撮像信号は、信号処理部58より、所望の信号処理が施され、所定のフォーマットに従った撮像データに変換され、バス74側に供給され、メモリ70に一旦記録される。
【0051】
そして、撮像データは、バス74、I/F72及びケーブル30を介して、装置本体18側に送信され、表示制御部78による制御下、ワーク26の形状を可視化したカラー画像として表示部22(図8の表示画面200)に表示される。
【0052】
以上のように、ワーク26の形状を可視化した撮像データを取得することができる。すなわち、X−Y軸平面上の各位置におけるチャープ光パルスの飛行時間の差(Z軸方向の奥行き)が、シャッタ50の開閉動作により同時に切り出された光色(波長)によって画像の階調が表現される。
【0053】
前縁である短波長側(紫色)から後縁である長波長側(赤色)まで色が連続的に変化するチャープ光パルスを用いた場合を例に、具体的に説明する。Z方向の奥行きが大きくなるほど、チャープ光パルスの飛行距離が長くなるので、それだけシャッタ50に到達する時間が遅延する。すなわち、Z方向の奥行きが大きい場合は、チャープ光パルスの前縁の方である長波長側の光色(赤色側)が検出される。一方、Z方向の奥行きが小さい場合は、チャープ光パルスの後縁の方である短波長側の光色(紫色側)が検出される。
【0054】
ところで、図3に示す光学補正フィルタ102R、102G、102Bによる作用効果について、図4〜図7を参照しながら詳細に説明する。
【0055】
入出力デバイス間での色再現性の互換性を確保するため、色空間に関する標準規格が種々規定されている。標準規格として、IEC(International Electrotechnical Commission)による国際標準規格であるsRGBや、事実上の標準規格であるAdobeRGB等が挙げられる。そのため、普及品であるカメラユニット(光学ユニット及び撮像素子アレイ)は、ほぼ同様の分光感度特性を有している。
【0056】
図4は、典型的なカメラユニットの分光感度特性を表すグラフである。グラフの横軸は光波長(単位はnm)であり、縦軸はRGB各原色での感度である。ここで感度とは、複数のカラーチャンネルの各撮像信号(色情報)に対応する分光感度特性を意味する。すなわち、感度は、分光された赤色成分54r(緑色成分54g、青色成分54b)の分光特性と、撮像素子アレイ56R(撮像素子アレイ56G、撮像素子アレイ56B)の受光感度特性との乗算値である。なお、本図では、撮像素子アレイ56B(約550nm)での感度が1になるように、各値を規格化している。
【0057】
B原色の分光感度特性は、波長400〜520nmの範囲に及ぶとともに、450nm付近に急峻なピークを1つ有している。G原色の分光感度特性は、波長470〜600nmの範囲に及ぶとともに、550nm付近に幅広なピークを1つ有している。B原色の分光感度特性は、波長570〜750nmの範囲に及ぶとともに、600nm付近に幅広なピークを1つ有している。
【0058】
図5は、光学補正フィルタ102R、102G、102Bを取り外した状態下でワーク26の形状を測定した場合における、実際値と測定値との相関関係を表すグラフである。グラフの横軸は、ワーク26のZ方向での実際値(単位はmm)である。グラフの縦軸は、撮像部20を用いてワーク26を撮像し得られた測定値(単位はmm)である。理想的には、実際値に対する測定値の各プロットが直線上(y=x)に存在することが望ましい。
【0059】
ところが、概ね2〜4mmの範囲(不変範囲R1)では、実際値の変化にかかわらず測定値が略一定となる。同様に、概ね4〜5mmの範囲(不変範囲R2)では、実際値の変化にかかわらず測定値が略一定となる。このような不変範囲R1及びR2では、実際値との対応が適切でないため、正確な測定精度が得られない。
【0060】
図4に戻って、不変範囲R1に相当する波長420〜470nmの範囲では、B原色の感度値のみが非0であり、R原色及びG原色の感度値はいずれも0である(単色範囲R1)。そして、単色範囲R1では、B原色が分布する他の範囲と比べて、光波長1nm当りの出力値の変化量(以下、勾配絶対値という。)が緩やかである。
【0061】
また、不変範囲R2に相当する波長520〜570nmの範囲では、G原色の感度値のみが非0であり、R原色及びB原色の感度値はいずれも0である(単色範囲R2)。そして、単色範囲R2では、G原色が分布する他の範囲と比べて、勾配絶対値が緩やかである。
【0062】
すなわち、単色範囲R1及びR2は、検出された反射光像54(チャープ光パルス)の色分解能が低い波長範囲に相当する。ここで、「色分解能が低い」とは、光波長1nm当りの色(明度及び彩度)の変化量が小さいことを意味する。これにより、反射光像54の切り出し位置の識別性能が低下するため、奥行き方向の空間分解能及び測定精度が低下する。
【0063】
図6は、これに対し、本発明に係る色情報取得部62の分光感度特性(分光特性)の一例を示すグラフであって、理想的な分光感度特性を表している。グラフの定義は、図4と同様であるので、説明を省略する。
【0064】
B原色の分光感度特性は、波長400nm付近を最大値(ピーク)とし、400〜600nmの範囲では光波長が長くなるにつれて線形的に減少する。G原色の分光感度特性は、波長550nm付近を最大値(ピーク)とし、400〜550nmの範囲では光波長が短くなるにつれて線形的に減少するとともに、550〜700nmの範囲では光波長が長くなるにつれて線形的に減少する。R原色の分光感度特性は、波長700nm付近を最大値(ピーク)とし、500〜700nmの範囲では波長が短くなるにつれて線形的に減少する。すなわち、RGB原色の分光感度特性は、チャープ光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差している。また、RGB原色の分光感度特性は、少なくとも1つのピークをそれぞれ有しており、各ピークに対応する光波長がそれぞれ異なっている。
【0065】
図7は、光学補正フィルタ102R、102G、102B(図3参照)を装着した状態下でワーク26の形状を測定した場合における、実際値と測定値との相関関係を示すグラフである。本グラフ上に、各測定値をプロットするとともに、許容される測定値の範囲の上限及び下限(破線で示した2本の直線)を表記した。図7例では、実際値に対して±0.1mm以内の誤差を許容している。本図に示すように、図5(特に不変範囲R2)と比べて、4〜6mmの範囲で直線性が大幅に向上し、且つ測定精度も向上した。
【0066】
色情報取得部62(図2参照)は、図6に示す分光感度特性を有することで、反射光像54を、原色R、G、Bのうち複数の原色の組合せに変換して撮像信号(色情報)を取得できる。そのため、チャープ光パルスの波長範囲にわたって色分解能を確保できる。これにより、チャープ光パルスの検出タイミングにかかわらず、Z軸方向(奥行き方向)の空間分解能及び測定精度を向上できる。
【0067】
また、原色R、G、Bの各分光感度特性は、チャープ光パルスの波長範囲において勾配絶対値の総和が所定の値以上であるので、前記波長範囲において単位長さ当りの色の変化(色差)が十分確保される。
【0068】
さらに、原色R、G、Bの各分光感度特性は、少なくとも1つのピークをそれぞれ有しており、各ピークに対応する光波長がそれぞれ異なるので、各カラーチャンネルでの色情報の分解性能が向上する。
【0069】
なお、色情報取得部62により取得される各分光感度特性は、図6例に限定されることなく、チャープ光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差する関係にあれば、他の特性であってもよい。
【0070】
図3に戻って、光学補正フィルタ102R、102G、102Bを着脱自在に設けることで、色情報取得部62の分光感度特性を自由に変更できる。これにより、他の装置構成を変更することなく、チャープ光パルスを用いた撮像以外の撮像モードへ容易に変更できる。例えば、普及品である光学ユニット100を用いている場合、光学補正フィルタ102R、102G、102Bを取り外すことで、自然光を利用した通常の撮像装置としても使用できる。
【0071】
また、光学ユニット100の構成を種々変更することで、図6に例示する分光感度特性を実現してもよい。例えば、光学補正フィルタ102R、102G、102Bの分光透過特性はいうまでもなく、他に、合成プリズム104のダイクロイック膜の物性、各プリズムのサイズ・角度・配置等をも変更してもよい。また、合成プリズム104に代替して、他の構成に変更してもよい。例えば、部分透過(反射)ミラー、ビームスプリッタ等を含む各種光学素子を適宜組み合わせて構成してもよい。さらに、撮像素子アレイ56R、56G、56Bの受光感度特性を種々変更してもよく、カラーチャンネル毎に異なる受光感度特性を有するようにしてもよい。
【0072】
さらに、撮像部20から取得した撮像データを、種々の方法を用いて表示部22に表示させてもよい。図8は、ワーク26の三次元形状の表示例を示す画面図である。
【0073】
表示画面200には、ワーク26(照射領域44の近傍)の三次元形状を表すカラー画像202と、カラー画像202の表示色と奥行き位置との関係を表すカラーバー204と、カラー画像202及びカラーバー204の表示色を切り替える切替操作部206とが表示されている。
【0074】
カラーバー204の上端部208(目盛0mm位置)は、反射光像54の後縁側(青色側)成分に相当する。つまり、ワーク26上では、Z方向の奥行きが小さい部位に対応する。カラーバー204の下端部210(目盛10mm位置)は、反射光像54の前縁側(赤色側)成分に相当する。つまり、ワーク26上では、Z方向の奥行きが大きい部位に対応する。なお、本図では、説明の便宜上、反射光像54の青色側から赤色側にかけて徐々に薄くなるような、モノクロ濃淡のグラデーションで表記している。
【0075】
カラー画像202の描画内容から諒解されるように、照射領域44内のワーク26は、平坦な表面28の一部が略半球状に凹んだ三次元形状を有する。このように、作業者は、カラー画像202の色の二次元分布に基づいて、ワーク26の微視的形状を把握できる。特に、カラーバー204を併せて表示することで、作業者は、ワーク26の三次元形状を感覚的且つ容易に把握できる。
【0076】
作業者による切替操作部206の操作に応じて、カラー画像202の階調特性を変更させてもよい。例えば、「チャープ色変換:なし」の入力指示がなされると、表示制御部78は、撮像部20で取得した撮像データをカラー画像202としてそのままの色で表示部22に表示させる。
【0077】
一方、「チャープ色変換:あり」の入力指示がなされると、装置本体18のメモリ80に記録された撮像データは、色情報変換部76により色変換され、表示制御部78の制御下で、カラー画像202として表示画面200に表示される。このとき、色情報変換部76は、色情報取得部62の分光特性に基づいて、反射光像54が有する実際の光波長に応じた撮像データに変換する。
【0078】
これにより、作業者は、チャープ光パルスが有する実際の色と対応させてカラー画像202を視認できる。また、シャッタ50の開閉タイミングや、拡大光学系36又は集光光学系46の位置等の調整作業の際に便宜である。
【0079】
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0080】
例えば、本実施の形態ではRGB原色について主に説明したが、これらの組み合わせに限られることなく、任意の原色の組合せに対して本発明を適用できることはいうまでもない。すなわち、図3では、RGBの3色のカラーチャンネルを形成しているが、これに限定されることなく、2色でも、4色以上であってもよい。また、撮像素子の数は、計測精度に応じて適宜変更してもよい。
【0081】
また、本実施の形態では、光源部(パルス光源32及びチャープ導入装置34)と、検出部としての色情報取得部62とが撮像部20に一体的に組み込まれている構成を採っているが、光源部及び検出部を別々のユニットとして構成してもよい。
【0082】
さらに、三次元形状の測定に用いられるチャープ光パルスは、可視領域の光波長に限定されることなく、紫外線や赤外線等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…三次元形状測定システム 12…三次元形状測定装置
18…装置本体 20…撮像部
22…表示部 26…ワーク
28…表面 34…チャープ導入装置
50…シャッタ 52…分光結像光学系
54…反射光像 56R(G、B)…撮像素子アレイ
58…信号処理部 60…反射光像取得部
62…色情報取得部 76…色情報変換部
78…表示制御部 100…光学ユニット
102R(G、B)…光学補正フィルタ 104…合成プリズム
200…表示画面 204…カラーバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色が規則的に経時変化する光パルスを生成する光パルス生成手段と、
前記光パルス生成手段により生成された前記光パルスを被測定物に照射し、前記被測定物で反射された前記光パルスを切り出すことで、前記光パルスの反射光像を取得する反射光像取得手段と、
前記反射光像取得手段により取得された前記反射光像を分光し、複数のカラーチャンネルでの各色情報を二次元位置毎に取得する色情報取得手段と、
前記色情報取得手段により取得された二次元位置毎の前記各色情報に基づいて前記被測定物の三次元情報を取得する三次元情報取得手段と、を備え、
前記各色情報に対応する分光特性は、前記光パルスの波長範囲において少なくとも2つが交差する
ことを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の三次元形状測定装置において、
前記色情報取得手段は、着脱自在に配置された光学補正フィルタを備えることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の三次元形状測定装置において、
前記三次元情報取得手段により取得された前記被測定物の三次元情報を可視化して表示するとともに、前記三次元情報の表示色と奥行き位置との関係を表すカラーバーを併せて表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の三次元形状測定装置において、
前記各色情報に対応する各分光特性に基づいて、該各色情報を、前記反射光像の光波長に応じた各色情報に変換する色情報変換手段をさらに備えることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の三次元形状測定装置において、
前記各色情報に対応する各分光特性は、少なくとも1つのピークをそれぞれ有しており、各前記ピークに対応する光波長がそれぞれ異なることを特徴とする三次元形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−137394(P2012−137394A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290287(P2010−290287)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】