説明

中空無機粒子とその製造方法、着色剤および塗料

【課題】シェルが無機酸化物などを含有する多孔質体であり、かつコアが中空であり、たとえば塗料用着色剤などとして有用な中空無機粒子を提供する。
【解決手段】無機酸化物と、粒径1nm〜100nmの金属および金属イオンから選ばれる少なくとも1つの特性付与成分とを含有するスラリーを好ましくは200℃未満の加熱下で噴霧造粒し、シェルが無機酸化物と特性付与成分とを含有する多孔質体であり、かつコアが中空である中空無機粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空無機粒子とその製造方法、着色剤および塗料に関する。さらに詳しくは、本発明は主に、中空無機粒子におけるシェル構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機器、電子機器、電気製品、包装用缶などの工業分野では、製品の多機能化とともに、製品の外観品質の向上が求められ、たとえば、製品の表面を塗装する塗料に関する研究が盛んに行われている。塗料には、たとえば、顔料、マトリックス樹脂(塗膜形成樹脂)、充填剤、各種添加剤などの成分が含まれ、これらの成分を適宜選択することにより、塗装膜の機械的強度、耐久性、塗装面の意匠性などの向上が図られている。また、新しい成分の開発も進められている。
【0003】
現在注目を集めている顔料成分の1つとして、貴金属微粒子が挙げられる。貴金属微粒子に光を照射すると、プラズモン発色と呼ばれる共鳴吸収現象が起こり、特有の発色を生じることが知られている。この共鳴吸収現象は、金属の種類と形状に応じて吸収波長ひいては発色が異なる。たとえば、金の微粒子を利用するプラズモン発色では、青、青紫、赤紫の3色が得られる。また、銀の微粒子を利用するプラズモン発色では、黄色が得られる。また、貴金属微粒子の粒径が均一であるほど、彩度および明度が高く、鮮やかなプラズモン発色を起こすことも知られている。
【0004】
しかしながら、貴金属微粒子を塗料に添加すると、塗料を硬化させる際などの加熱により貴金属微粒子が凝集し、貴金属の粗大粒子が生成し易いという問題がある。貴金属の粗大粒子はプラズモン発色を起こさず、当該貴金属固有の色を呈する。また、貴金属微粒子のみでプラズモン発色を起こさせるには、多量の貴金属微粒子が必要になる。非常に高価な貴金属微粒子を多量に用いることは、現実的ではない。このため、貴金属微粒子を無機酸化物などの担体に担持させ、プラズモン発色を効率良く発揮させようとする試みがなされている。
【0005】
たとえば、コアが中空であり、シェルが酸化チタン、シリカなどの無機酸化物と貴金属微粒子とを含有するコアシェル構造を有し、プラズモン発色を起こす中空無機粒子が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この中空無機粒子は、テンプレートになる樹脂粒子の表面に、無機酸化物および貴金属イオンを含む被膜を形成し、さらに200〜1000℃に加熱することにより製造される。この加熱により、樹脂粒子が焼失するとともに、貴金属イオンが還元されて貴金属微粒子が生成するが、個々の貴金属微粒子の粒子径が不均一になり、プラズモン発色における彩度が不十分になる場合がある。
【0006】
したがって、特許文献1の中空無機粒子は、良好なプラズモン発色を示すものの、彩度の点でさらなる改良の余地が残されている。また、特許文献1の中空無機粒子は、溶媒に対してもある程度の分散性を示すが、塗料用顔料として使用する上で、この点にも更なる改良の余地が残されている。
【0007】
また、シェルがアルミナおよび貴金属を含有し、コアが中空であり、排ガス浄化触媒として用いられる中空アルミナ粒子が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2の中空アルミナ粒子は、アルミニウムおよび貴金属イオンを含有するW/O型エマルジョンを700〜900℃の温度下に噴霧燃焼させて中空粒子を製造し、この中空粒子を非酸化性雰囲気中にて950〜1200℃の温度下に熱処理することにより製造されている。非酸化性雰囲気中での熱処理により、貴金属イオンが還元されて貴金属粒子が生成する。
【0008】
しかしながら、加熱温度が高すぎるので、貴金属粒子は粒径が不均一になり、かつプラズモン発色を起こさない程度に粗大化する。したがって、特許文献2の中空アルミナ粒子は、貴金属粒子を含有しているものの、プラズモン発色を起こさない。元々、特許文献2の技術では、排ガス浄化触媒としての用途のみが記載されているので、貴金属粒子がプラズモン発色を起こすか否かについての考慮は一切なされていない。
【0009】
また、プラズモン発色能を有する金属微粒子を多孔質材料に担持させた着色剤が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。プラズモン発色能を有する金属微粒子としては、たとえば、金、銀などの貴金属からなるナノオーダーの金属微粒子が挙げられている。また、多孔質材料としては、酸化チタン、ゼオライト、シリカなどの無機酸化物からなる多孔質体が挙げられている。しかしながら、特許文献3には、シェルが多孔質体であり、かつコアが中空である中空無機粒子に金属微粒子を担持させることについて記載がない。
【0010】
さらに、特許文献3では、予め作製された多孔質体に対して金属微粒子を担持させているので、金属微粒子のプラズモン発色能が低下するおそれがある。金属微粒子のプラズモン発色能は、一般に耐熱性および耐候性に乏しいので、たとえば、高温に晒されるかまたは長期間にわたって自然環境に晒されると、そのプラズモン発色能が損なわれるという解決すべき課題がある。なお、高温に晒される場合は、金属微粒子が凝集または凝結して粗大化することにより、プラズモン発色能が損なわれる。
【特許文献1】特開2007−169347号公報
【特許文献2】特開2002−066335号公報
【特許文献3】特開2006−349768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、シェルが無機酸化物などを含有する多孔質体であり、かつコアが中空であり、たとえば塗料用着色剤などとして有用な中空無機粒子とその製造方法、およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、噴霧造粒により中空粒子を得る技術に着目して鋭意研究を行った。その結果、無機酸化物粒子の水性スラリーに、粒径1nm〜100nmの金属粒子および金属イオンといった特定の特性付与成分を添加して噴霧造粒する構成を見出した。そして、この構成によれば、得られるコアシェル構造の中空無機粒子において、無機酸化物粒子からなるシェル中に、前記の特性付与成分が均一に分散するとともに、前記特性付与成分を含有する粒子の粗大化が起こらないことを見出した。
【0013】
また、本発明者らは、得られる中空無機粒子は、合成樹脂や溶媒への分散性、取り扱い性などに優れるとともに、該中空無機粒子中では前記特性付与成分の耐候性、耐熱性などが予想外にも顕著に向上することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、コア部分が中空であり、かつシェル部分が(a)無機酸化物と、(b)粒径1nm〜100nmの金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つとを含有する多孔質体である中空無機粒子に係る。
中空無機粒子全量の5〜99.5重量%が無機酸化物であり、残部が金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
無機酸化物は、元素周期律表の第3周期〜第5周期に属する元素から選ばれる金属元素または半金属元素の酸化物であることが好ましい。
【0015】
無機酸化物は、チタニア、シリカ、ジルコニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、酸化ゲルマニウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルおよび酸化銅よりなる群から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
シェル部分は無機酸化物と金属粒子とを含有し、金属が貴金属粒子であることがさらに好ましい。
【0016】
また本発明は、(a)無機酸化物と、(b)金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つとを含有するスラリーを噴霧造粒し、本発明の中空無機粒子を得る中空無機粒子の製造方法に係る。
噴霧造粒は120℃以上、200℃未満の加熱下に行われることが好ましい。
また本発明は、本発明の中空無機粒子を含有する着色剤に係る。
さらに本発明は、本発明の着色剤を含有する塗料に係る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空無機粒子は、たとえば、合成樹脂や各種溶媒への分散性、断熱性、化学的安定性、取り扱い性などに優れ、比較的高い機械的強度を有するので、たとえば、塗料用着色剤、触媒などとして有用である。ここで、取り扱い性とは、拭き取り性、発塵性などである。本発明の中空無機粒子は、床に飛散しても容易に拭き取ることができ、また、皮膚などに付着しても容易に除去できる。
【0018】
また、本発明の中空無機粒子では、シェル部分に含有される特性付与成分の耐熱性、耐候性などが向上する。たとえば、プラズモン発色能を有する貴金属微粒子は、高温に晒されるかまたは長期間の日光照射を受けると、凝集などを起こして、そのプラズモン発色能が低下する。ところが、本発明の中空無機粒子のシェル部分に該貴金属微粒子を含有させると、高温に晒されても、また長期間の日光照射を受けても、該貴金属微粒子の凝集が非常に起り難くなり、プラズモン発色能が低下しない。
【0019】
したがって、シェル部分に貴金属微粒子を含有する本発明の中空無機粒子は、たとえば、着色剤として有用である。該着色剤を含有する塗料から形成される塗膜は、長期間にわたって、安定的に、高い彩度および明度を有するプラズモン発色を呈する。
【0020】
また、本発明の製造方法によれば、粗大化および粒径の不均一化を起こすことなく、本発明の中空無機粒子を、効率良くかつ工業的に有利に製造できる。たとえば、200℃未満での加熱下での製造が可能になるので、大量生産への適応、製造工程および製造設備の簡略化、製造作業の危険性の低減化、製造コストの低減化などを容易に実現できる。また、本発明の製造方法によれば、シェル部分に貴金属微粒子を含有させる場合に、貴金属微粒子の粗大化および粒径の不均一化が起こらないので、高い彩度および明度を有するプラズモン発色が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[中空無機粒子]
本発明の中空無機粒子は、シェルが無機酸化物と無機酸化物以外の特性付与成分とを含有する多孔質体であり、かつコアが中空(または空洞)であるコアシェル構造を有する。なお、特性付与成分については、後述する。
本発明の中空無機粒子の形状は、球状またはほぼ球状であることが好ましい。また、本発明の中空無機粒子の粒径は、その用途などに応じて、5nm〜10mm、好ましくは1μm〜100μm、さらに好ましくは3μm〜15μmの範囲から適宜選択すればよい。
【0022】
また、本発明の中空無機粒子では、シェル部分は主として無機酸化物からなり、無機酸化物中に特性付与成分がほぼ均一に分散している。無機酸化物は、粒子の形態でシェル部分に含有されているのが好ましい。すなわち、無機酸化物微粒子の集合体がシェル部分の多孔質体を形成するとともに、特性付与成分の周囲に無機酸化物微粒子がほぼ均一に存在する状態が好ましい。これにより、たとえば、特性付与成分の耐候性、耐熱性などを顕著に向上させ得る。
【0023】
無機酸化物は、好ましくは、元素周期律表の第3周期〜第5周期に属する元素から選ばれる金属元素または半金属元素の酸化物である。無機酸化物は、前記金属元素および半金属元素から選ばれる少なくとも2つの元素を含有する複合酸化物でもよい。これらの中でも、チタニア、シリカ、ジルコニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、酸化ゲルマニウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅などが好ましい。無機酸化物には、該無機酸化物に含有されていない元素をドープしてもよい。
【0024】
さらに、これらの無機酸化物の中でも、得られる中空無機粒子の溶媒への分散性、取り扱い性、化学的安定性、特性付与成分として貴金属微粒子を用いた場合のプラズモン発色の発現性などを考慮すると、チタニア、シリカ、アルミナなどがより好ましく、シリカが特に好ましい。無機酸化物は1種を単独でまたは必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
中空無機粒子における無機酸化物の含有量は、好ましくは中空無機粒子全量の5〜99.9重量%、さらに好ましくは中空無機粒子全量の10〜99重量%であり、残部が後記する特定付与成分である。無機酸化物の含有量が5重量%未満では、得られる中空無機粒子の機械的強度、化学的安定性などが低下するとともに、特性付与成分を十分に保持できなくなるおそれがある。また、特性付与成分の1つである貴金属微粒子の耐候性、耐熱性などを向上させる効果が不十分になるおそれがある。一方、無機酸化物の含有量が99.9重量%を超えると、相対的に特性付与成分の含有量が減少し、特性付与成分に由来する特性が十分に発現しないおそれがある。なお、無機酸化物の含有量は中空無機粒子の用途に応じて、前記範囲から適宜選択すればよい。
【0026】
特性付与成分としては、粒径1nm〜100nmの金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つを使用する。特性付与成分をシェル中に含有させることにより、予想外の副次的な効果が得られる。
【0027】
たとえば、特性付与成分として貴金属微粒子をシェル中に含有させると、彩度および明度の高いプラズモン発色が起こり、鮮明な発色が得られる。このプラズモン発色能は、たとえば、500℃程度の高温に晒されても劣化することがない。また、このプラズモン発色能は、長期間にわたって直射日光に晒されても劣化することがない。
【0028】
金属粒子としては各種金属を使用できるが、その中でも、貴金属が好ましい。貴金属としては、たとえば、Au、Ag、Cu、Pt、Ru、Rh、Pd、Os、Irなどが挙げられる。これらの中でも、プラズモン発色の鮮明性、彩度、明度、コントラストなどを考慮すると、Au、Ag、Cu、Ptなどが好ましく、Au、Agが特に好ましい。金属は、粒子の形態でシェル中に存在する。金属粒子の粒径は、1nm〜100nmである。これにより、良好なプラズモン発色が得られる。金属は1種を単独でまたは2種以上を併用できる。
【0029】
金属イオンは、シェル中において、シェルを構成する無機酸化物の表面基に結合するかまたは金属イオンを含有する塩の形態で存在している。金属イオンとしては、たとえば、Pt、Au、Ag、Cu、Co、Ni、Feなどの金属のイオンが挙げられる。金属イオンは、中空無機粒子の製造に際し、後記する無機酸化物のスラリーに水溶性塩の形態で添加して使用するのが好ましい。金属イオンは1種を単独でまたは2種以上を併用できる。
【0030】
[中空無機粒子の製造方法]
本発明の中空無機粒子は、たとえば、無機酸化物および特性付与成分の少なくとも1つを含有するスラリーを噴霧造粒することにより製造できる。本発明の製造方法によれば、たとえば、200℃未満の加熱下での製造が可能になるので、シェル部分において特性付与成分を含有する粒子の粗大化および粒径の不均一化を防止しつつ、中空無機粒子を効率良くかつ工業的に有利に製造できる。また、特性付与成分として貴金属微粒子を用いると、貴金属微粒子の粗大化が防止されるので、貴金属微粒子のほぼ全量がプラズモン発色に寄与し、彩度および明度の高いプラズモン発色が得られる。
【0031】
本発明の製造方法は、たとえば、スラリー調製工程および噴霧造粒工程を含む。
[スラリー調製工程]
本工程では、無機酸化物および特性付与成分から選ばれる少なくとも1つを含有する原料スラリーを調製する。原料スラリーは、たとえば、無機酸化物のスラリーと特性付与成分とを混合することにより調製できる。
【0032】
無機酸化物のスラリーは、たとえば、有機塩を加水分解することにより調製できる。有機塩とは、金属元素または半金属元素を含有し、かつ加水分解により無機酸化物を生成する有機塩である。有機塩の具体例としては、たとえば、アルキルシリケート、アルキルチタネート、アルキルアルミネート、アルキルジルコネート、アルキル錫化合物などのアルキル塩が挙げられる。
【0033】
アルキルシリケートの具体例としては、たとえば、メチルシリケート(テトラメトキシシラン)、エチルシリケート(テトラエトキシシラン)、プロピルシリケート(テトラプロポキシシラン)、ブチルシリケート(テトラブトキシシラン)、メチルエチルシリケート(ジメトキシジエトキシシラン)などが挙げられる。このようなアルキルシリケートは市販されており、市販品の具体例としては、たとえば、コルコート(株)製のエチルシリケートなどが挙げられる。
【0034】
アルキルチタネートの具体例としては、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、アセチル−トリイソプロピルチタネートなどのテトラアルキルチタネートが挙げられる。
【0035】
アルキルアルミネートの具体例としては、たとえば、メチルアルミネート、エチルアルミネート、プロピルアルミネート、ブチルアルミネートなどのテトラアルキルアルミネートが挙げられる。アルキルジルコネートの具体例としては、たとえば、メチルジルコネート、エチルジルコネート、プロピルジルコネート、ブチルジルコネートなどのテトラアルキルジルコネートが挙げられる。
【0036】
アルキル錫化合物の具体例としては、たとえば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジエチルヘキサノエート、ジブチル錫ジオクテートなどのジアルキル錫ジカルボキシレート、ビス(ジブチル錫ラウレート)オキサイド、ビス(ジブチル錫ステアレート)オキサイドなどのビス(ジアルキル錫カルボキシレート)オキサイド、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシドなどのジアルキル錫ジアルコキシドなどが挙げられる。
【0037】
前記した有機塩は、ダイマー、オリゴマーなどの縮合物であってもよい。
また、有機塩は、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどの低級アルコールに溶解させた溶液の形態で用いられる。この溶液における有機塩の濃度は特に制限されないが、たとえば、無機酸化物の重量換算で30〜60重量%である。
【0038】
有機塩の加水分解は、たとえば、触媒の存在下または非存在下で、有機塩の低級アルコール溶液に水を接触させることにより行われる。触媒としては公知の加水分解触媒を使用でき、たとえば、酸、アルカリなどが挙げられる。酸としては、たとえば、塩酸、硫酸などの鉱酸、ギ酸、酢酸、しゅう酸などの有機酸などが挙げられる。塩基としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニア、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。ただし、高純度の無機酸化物を得るためには、塩基の中ではアンモニアおよび水酸化アンモニウムが好ましい。触媒の使用量は、有機塩の種類に応じて適宜選択できる。
【0039】
加水分解は、攪拌下および/または加温下に行ってもよい。攪拌速度または加熱温度を適宜変更することにより、得られる無機酸化物粒子の粒径および形状を調整できる。また、加水分解反応の反応速度を遅くすることにより、得られる無機酸化物粒子の粒径および形状をほぼ一定に揃えることができる。たとえば、有機塩のエタノール溶液を用い、これに水、前記溶液の溶媒とは異なる種類の溶媒(たとえばイソプロパノール)、酸およびアルカリを添加することにより、加水分解反応の反応速度を遅くすることができる。
【0040】
加水分解により、無機酸化物の粒子が分散したスラリーが得られる。このスラリーは、そのまま、無機酸化物のスラリーとして使用できる。上記方法により得られる無機酸化物粒子には、製造原料(有機塩)に由来するアルコキシドが結合していることがある。このアルコキシドは、本発明の中空無機粒子の効果を損なうものではない。
【0041】
本発明では、無機酸化物粒子が分散した前記スラリーから無機酸化物粒子を単離し、これを適当な溶媒に分散させて、無機酸化物のスラリーを調製してもよい。ここで、無機酸化物粒子を分散させる溶媒としては、たとえば、水、水と低級アルコールとの混合溶媒などが挙げられる。
なお、無機酸化物粒子が球状シリカである場合は、前記した加水分解法以外に、水ガラスを原料として、イオン交換、加熱、整粒および濃縮する方法、ゾルゲル法、ストーバー法などによっても合成できる。
【0042】
次に、この無機酸化物スラリーと、特性付与成分の1種または2種以上とを混合する。特性付与成分としては、本発明の中空無機粒子の項で例示したものと同じものを使用できる。特性付与成分が、金属粒子である場合は、微粒子の分散液の形態で用いるのが好ましい。
【0043】
金属微粒子の分散液は、公知の方法に従って調製できる。たとえば、金属微粒子の分散液は、適当に溶媒中にてアミン化合物の存在下に、有機酸金属塩または金属の錯体に還元剤を作用させることにより調製できる。有機酸金属塩としては、たとえば、金属のカルボン酸塩などが挙げられる。金属としては、たとえば、白金、金、パラジウム、ルテニウム、銀、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、インジウム、イリジウム、チタン、アルミニウムなどが挙げられる。
【0044】
カルボン酸としては、たとえば、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ステアリン酸、シュウ酸、酒石酸、フタル酸、メタクリル酸、クエン酸、アクリル酸、安息香酸などが挙げられる。
金属の錯体としては、たとえば、金属のハロゲン化物錯体、金属と有機性錯化剤との錯体などが挙げられる。
【0045】
アミン化合物としては、たとえば、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミンおよびトリオクチルアミン、特に炭素数8〜12のモノアミンである、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンなどが挙げられる。
還元剤としては、たとえば、ジメチルアミンボラン、tert−ブチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、シュウ酸、アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ヒドラジンなどが挙げられる。
【0046】
溶媒としては、たとえば、水、アセトン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、これらの2種以上の混合溶媒などが挙げられる。
この反応は、好ましくは0〜80℃、より好ましくは10〜55℃の温度下に行われる。これにより、金属微粒子の分散液が得られる。
【0047】
金属微粒子の分散液は、一般には、金属コロイドとも呼ばれている。本発明では、金属コロイドの市販品を使用できる。市販品の具体例としては、ファインスフェア(商品名、日本ペイント(株)製)、田中貴金属工業(株)製の金系コロイド、白金系コロイド、日本板硝子(株)製の貴金属コロイドなどが挙げられる。
金属イオンは、好ましくは、水溶性塩の形態で用いられる。すなわち、金属イオンを含有する水溶性塩の水溶液を無機酸化物スラリーと混合すればよい。
【0048】
無機酸化物および特許付与成分の使用割合は、各種条件に応じて適宜選択できる。各種条件とは、たとえば、無機酸化物および特許付与成分の種類、後述する噴霧造粒工程における噴霧条件、得ようとする中空無機粒子の用途などである。いずれにせよ、最終的に得られる中空無機粒子において、無機酸化物の含有量が中空無機粒子全量の5〜99重量%であり、残部が特性付与成分になるように、調整すればよい。
無機酸化物スラリーと特性付与成分との混合は、通常室温下に行われるが、無機酸化物および特許付与成分の種類に応じて、加熱下または加温下に行ってもよい。
【0049】
このようにして、無機酸化物および特性付与成分を含有するスラリーが得られる。このスラリーは、後述する噴霧造粒工程に供される。なお、このスラリーは25℃における粘度が10〜20cpsであることが好ましい。粘度が前記範囲に合致しない場合は、粘度調整を行うのが良い。粘度が前記範囲にあることにより、シェルが多孔質体であり、かつコアが中空である本発明の中空無機粒子が一層選択的に製造できる。
【0050】
[噴霧造粒工程]
本工程では、スラリー調製工程で得られる、無機酸化物および特性付与成分を含有するスラリーを噴霧造粒し、本発明の中空無機粒子を製造する。
この噴霧造粒は、120℃以上、200℃未満、好ましくは120〜180℃の加熱下に行われる。このように、200℃を下回る温度下で噴霧造粒を行うことが、本発明の中空無機粒子が得られる一因と推測される。噴霧造粒の温度が120℃未満では、中空無機粒子の収量が減少するとともに、所望の効果を有する中空無機粒子が得られないおそれがある。所望の効果とは、たとえば、貴金属微粒子の耐熱性、耐候性などを向上させる効果、樹脂などに対する分散性を向上させる効果などである。また、噴霧造粒の温度が200℃を超えると、シェル部分において特性付与成分を含有する粒子の粗大化、粒子径の不均一化などが起こるおそれがある。
【0051】
噴霧造粒は、具体的には、スプレードライヤを用いて行われる。スプレードライヤとしては、回転ディスク型、ロータリー型、加圧式高圧ノズル型、2流体ノズル型、4流体ノズル型などが挙げられる。噴霧造粒の条件は特に制限されないが、2流体ノズル型のスプレードライヤを用いる場合を例にとれば、入口温度:140〜180℃、出口温度:60〜90℃、熱風量:1〜10m3/分、噴霧圧力:100〜200kPa、流量:50〜200ml/時である。キャリアガスとしては、たとえば、空気が用いられる。このような条件で噴霧造粒を行うことにより、本発明の中空無機粒子を製造できる。
【0052】
こうして得られる本発明の中空無機粒子は、たとえば、塗料用着色剤、化粧料、触媒、有彩光発色膜、紫外線反射性膜、赤外線反射性膜、熱線反射性膜、高隠蔽性/無反射膜、低誘電率絶縁膜、フォトニクス結晶などの様々な用途に使用可能である。
【0053】
本発明の塗料は、塗膜形成樹脂および着色剤を含有する。本発明の塗料は、必要に応じて、架橋剤、添加剤などを含有しても良い。ここで、塗膜形成樹脂、着色剤および架橋剤を塗料固形分とする。
【0054】
着色剤は、本発明の中空無機粒子である。さらに、中空無機粒子の効果を損なわない範囲で、光輝性顔料、着色顔料などを併用してもよい。
光輝性顔料の具体例としては、たとえば、アルミニウムフレーク顔料、着色アルミニウムフレーク顔料、マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、シリカフレーク顔料、二酸化チタン被覆ガラスフレーク顔料、グラファイト顔料、ステンレスフレーク顔料、ホログラム顔料、板状酸化鉄顔料などが挙げられる。
【0055】
着色顔料の具体例としては、たとえば、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機着色顔料、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラックなどの無機着色顔料、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカなどの体質顔料などが挙げられる。
【0056】
顔料の粒径は特に制限されないが、好ましくは10〜350nm程度である。これらの顔料は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。着色剤の含有量は、好ましくは塗料固形分全量の0.1〜60重量%、さらに好ましくは塗料固形分全量の5〜50重量%である。
【0057】
樹脂成分は、塗膜のマトリックスになる。樹脂成分としては、塗料分野で常用されるものを使用でき、たとえば、アクリル樹脂、ポリエステル、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエーテルなどが挙げられる。樹脂成分は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0058】
架橋剤は、たとえば、樹脂成分を部分的に架橋することにより、樹脂成分からなる塗膜マトリックスの機械的強度を向上させる。架橋剤としては公知のものを使用でき、塗料が硬化型であれば、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアナート化合物、アミン系、ポリアミド系、イミダゾール類、イミダゾリン類、多価カルボン酸などを使用できる。また、塗料がラッカー型であれば、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物などを使用できる。架橋剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0059】
樹脂成分および架橋剤の合計含有量は、好ましくは塗料固形分全量の40〜99.9重量%、さらに好ましくは塗料固形分全量の50〜95重量%である。また、樹脂成分および架橋剤の合計量を100重量部とする場合、樹脂成分の割合は好ましくは50〜90重量部であり、残部が架橋剤である。
【0060】
添加剤としては、塗料分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリアミドワックス、ポリエチレンワックスなどのワックス類、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーン、有機高分子化合物などの表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)などの粘性調整剤などが挙げられる。添加剤は1種を単独でまたは2種以上を併用できる。添加剤は、好ましくは、塗料固形分100重量部に対して、15重量部以下の割合で使用される。
【0061】
本発明の塗料は、たとえば、着色剤、樹脂成分、架橋剤、添加剤などを溶媒に溶解または分散させることにより調製できる。溶媒としては、たとえば、水、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、メタノール、エタノール、n−ブタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトールなどのエーテル類、これらの2種以上の混合溶媒などが挙げられる。本発明の塗料は、水性塗料、溶剤型塗料、粉体塗料、ハイソリッド型塗料などの各種形態に調製できる。また、一液型、二液型のいずれに調製してもよい。
【0062】
本発明の塗料を被塗体に塗装し、加熱下または非加熱下に乾燥させることにより、塗膜を形成できる。被塗体としては、たとえば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、これらの合金などの金属類、ガラス、石膏ボード、コンクリート壁、コンクリートブロック、モルタル壁、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、木材、石材等の無機質基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、FRPなどのプラスチック材料、紙、布などの繊維材料などが挙げられる。本発明塗料は、特に、自動車などの輸送機器、携帯電話、パーソナルコンピュータなどの電子機器、各種電化製品、包装缶などの塗装用塗料として好適に使用でき、意匠性ひいては外観品質を向上させ得る。
【0063】
本発明塗料の被塗体への塗装には、塗料分野で常用される塗装方法を利用でき、たとえば、スプレー塗装、ロールコーター塗装、カーテンフローコーター塗装、バーコーター塗装エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、静電塗装、カーテンコート塗装、バーコート塗装などが挙げられる。塗料の塗布量は特に制限されないが、好ましくは硬化後の塗膜の膜厚が5〜100μm程度になるように塗布を行えばよい。塗布した塗膜の乾燥は、塗料の組成などに応じて、加熱乾燥、常温乾燥、光照射下での乾燥などから選択すればよい。より具体的な例を挙げると、自動車用の塗膜の膜厚は数μm〜数十μmであり、建築用塗膜の膜厚は数μm〜数百μmである。
【0064】
また、本発明の中空無機粒子を化粧料に配合する場合は、発色の鮮やかな化粧料を得ることもできる。化粧料の具体例としては、たとえば、ファンデーション、アイシャドー、口紅、グロス、マスカラ、アイライナー、ネールエナメル、クリーム、乳液などが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下に参考例、実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(参考例1)
[シリカ加水分解液の調整]
エチルシリケートのエタノール溶液(商品名:エチルシリケート40、コルコート(株)製、濃度:シリカ換算で40重量%)15重量部、イソプロパノール5重量部、1.7重量%塩酸水溶液40重量部および1.0重量%水酸化アンモニウム水溶液40重量部を攪拌下(200rpm)に30分間混合し、シリカ粒子加水分解液を調整した。シリカ粒子の粒径範囲は6〜12nmであった。このシリカ粒子加水分解液の固形分含有量は10.0重量%であった。
【0066】
(参考例2)
[シリカ加水分解液の調整]
メチルシリケートのメタノール溶液(商品名:メチルシリケート51、コルコート(株)製、濃度:シリカ換算で51重量%)15重量部、イソプロパノール5重量部、1.7重量%塩酸水溶液40重量部および1.0重量%水酸化ナトリウム水溶液40重量部を攪拌下(200rpm)に30分間混合し、シリカ粒子加水分解液を調整した。シリカ粒子の粒径範囲は6〜12nmであった。また、このシリカ加水分解液の固形分含有量は12.2重量%であった。
【0067】
(参考例3)
[チタン加水分解液の調整]
チタンイソプロポキシド(1級、キシダ化学(株)製)10重量部、n−プロピルアルコール30重量部、アセチルアセトン10重量部およびイオン交換水50重量部を攪拌下(200rpm)に30分間混合し、チタン加水分解液を調整した。このチタン加水分解液の固形分含有量は3.0重量%であった。
【0068】
(参考例4)
[ジルコニウム加水分解液の調整]
ジルコニウムブトキシド(85重量%溶液、キシダ化学(株)製)10重量部、メタノール30重量部、ジエタノールアミン10重量部およびイオン交換水50重量部を攪拌下(200rpm)に30分間混合し、ジルコニア加水分解液を調整した。このジルコニウム加水分解液の固形分含有量は3.0重量%であった。
【0069】
(実施例1)
[中空シリカ粒子の製造]
参考例1のシリカ加水分解液に水を添加して固形分含量を6重量%に調整した。このシリカ加水分解液200g、金コロイド(商品名:ファインスフェアゴールドW101、金微粒子分散液、金微粒子の粒子径10〜25nm、金含有量10重量%、日本ペイント(株)製)6gおよびイオン交換水4gを混合し、シリカ粒子および金微粒子を含有するスラリーを調整した。
【0070】
このスラリーを、噴霧乾燥機(商品名:SPRAY DRYER SD−1000、東京理科機械(株)製)を用い、入口温度:160℃、出口温度:80℃、熱風量、4.5m3/分、噴霧圧力:150kPa、流量:100ml/時の噴霧条件で噴霧造粒し、シリカ粒子および金微粒子を含有し、鮮明な赤色を呈する中空シリカ粒子を製造した。
【0071】
上記で得られた中空シリカ粒子を、電子顕微鏡により観察した。図1は、実施例1の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。図2は、実施例1の中空シリカ粒子の外観を示す透過型電子顕微鏡写真(20000倍)である。図2における目盛りは1μmである。図1および図2から、実施例1で得られた粒子が球状であり、コア部分が中空であることが確認された。また、図2から、実施例1で得られた粒子のシェル部分に金微粒子が分散していることが確認された。以上の結果から、上記で得られた粒子は、シェル部分がシリカと金微粒子とからなり、かつコアが中空である中空シリカ粒子であることが確認された。
【0072】
上記で得られた中空シリカ粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、50視野について最大径および最小径を測定したところ、中空シリカ粒子の粒径範囲は1〜5μmであった。この結果から、本発明で得られる中空シリカ粒子は粒子径のばらつきが非常に少なく、均一な大きさを有していることが明らかである。なお、走査型電子顕微鏡としては、商品名:JSM−6301F、日本電子(株)製を用いた。また、透過型電子顕微鏡としては、商品名:JEM−2100(HR)、日本電子(株)製を用いた。
【0073】
(実施例2)
金コロイド(ファインスフェアゴールドW101)に代えて、銀コロイド(商品名:ファインスフェアシルバーW001、銀微粒子分散液、銀微粒子の粒子径10〜30nm、銀含有量10重量%、日本ペイント(株)製)を同量使用する以外は、実施例1と同様にして、彩度および明度が高く、鮮明な黄色を呈するシリカ粒子を製造した。このシリカ粒子の粒径範囲は1〜5μmであり、実施例1と同様にして、シリカおよび銀微粒子を含有するシェルと、中空であるコアとを有する中空シリカ粒子であることが確認された。
【0074】
(実施例3〜5)
参考例1のシリカ加水分解液に代えて、参考例2のシリカ加水分解液、参考例3のチタン加水分解液または参考例4のジルコニウム加水分解液を使用する以外は、実施例1と同様にして、中空無機粒子を製造した。これらの中空無機粒子も、実施例1の中空シリカ粒子と同様に、形状がほぼ球状であり、中空であるコア部分と、金微粒子が分散したシェル部分とからなることが、電子顕微鏡による観察によって確認された。
【0075】
(実施例6)
金コロイド6gに代えて塩化金酸(HAuCl4・4H2O)の6重量%水溶液10gを使用する以外は、実施例1と同様にして、シリカ粒子および金イオンを含有するスラリーを調整した。このスラリーを実施例1と同様にして噴霧造粒し、白色の中空シリカ粒子を得た。この中空シリカ粒子も、実施例1の中空シリカ粒子と同様に、形状がほぼ球状であり、中空であるコア部分と、シェル部分とからなることが電子顕微鏡による観察によって確認された。
【0076】
この中空シリカ粒子を500℃で1時間焼成すると、赤紫色に着色した。着色後の粒子を透過型電子顕微鏡で観察し、写真を撮影した。図3は、実施例6の中空シリカ粒子の外観の一部を示す透過型電子顕微鏡写真である。図3から、金属イオン由来の粒子が中空シリカ粒子の表面および内部に分散していることが判る。なお、図3における目盛りは100nmである。
【0077】
(試験例1)
実施例1および2の中空シリカ粒子、ならびに実施例1および2で用いられた金コロイド(ファインスフェアゴールドW101)および銀コロイド(ファインスフェアシルバーW001)を、表1に示す温度で1時間加熱し、加熱後の状態を走査型電池顕微鏡により観察した。観察結果を表1に示す。なお、表1において、「凝集固化」とは、貴金属微粒子が凝集して粗大化し、プラズモン発色能が大幅に低減した状態を示す。「凝結固化」とは、貴金属微粒子が凝集して固結し、プラズモン発色能が大幅に低減した状態を示す。「変化なし」とは、貴金属微粒子の凝集による粗大化および固結が起こらず、該貴金属微粒子が初期のプラズモン発色能を保持している。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から、実施例1および2の中空シリカ粒子を500℃の高温で加熱しても、該粒子内にて金粒子または銀粒子の凝集は起こらず、プラズモン発色能が低下していないことが明らかである。また、貴金属微粒子を直接加熱すると、100〜300℃程度の加熱でも凝集または凝結が起こり、そのプラズモン発色能が低減化することが明らかである。
【0080】
また、実施例1および2の中空シリカ粒子について、500℃で加熱する前後の表面状態を走査型電子顕微鏡で観察した。図4は、実施例1の中空シリカ粒子の表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図4(a)は加熱前の表面状態、図4(b)は500℃で1時間加熱後の表面状態を示す。図5は、実施例2の中空シリカ粒子の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。図5(a)は加熱前の表面状態、図5(b)は500℃で1時間加熱後の表面状態を示す。図4および図5から、本発明の中空シリカ粒子は、加熱前後でほぼ同じ粒径を有し、加熱により凝集していないことが明らかである。なお、図4および図5における目盛りは100nmである。
【0081】
(実施例7)
アクリル樹脂塗料(商品名:LH−677、東レファインケミカル(株)製)100重量部(固形分換算)と、実施例1の中空シリカ粒子10重量部とを、ガラスビーズをメディアとするペイントシェーカーで2時間混合分散し、本発明のアクリル樹脂塗料を作成した。得られたアクリル樹脂塗料をアプリケーターによりアルミニウム板に塗布し、150℃で10分間乾燥し、膜厚20μmの塗膜を作成した。
【0082】
(比較例1)
実施例1の中空シリカ粒子10重量部に代えて、金コロイド(ファインスフェアゴールドW101)5重量部を使用する以外は、実施例6と同様にして、アクリル樹脂塗料を作成した。得られたアクリル樹脂塗料をアプリケーターによりアルミニウム板に塗布し、150℃で10分間乾燥し、膜厚20μmの塗膜を作成した。
【0083】
(試験例2)
実施例7および比較例1で得られた塗膜に対し、耐候性試験機(商品名:ダイプラ・メタルウェザーKU−R5型、ダイプラウィンテス社製)を用い、光源:メタルハライドランプ、フィルタ:295〜780nm、KF−1フィルタ(可視光含む)、照射:810W/m2、BPT:63℃、50%RHの条件下に、紫外光を24時間照射し比較した。各塗膜の24時間照射後の色相の測定を行い、変色の程度を評価した。色相の測定方法として、比色計(商品名:SE2000、日本電色工業(株)製)を用い、Lab値を測定してΔEを算出した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例6と比較例1の金含有量はそれぞれ塗膜中約0.5重量%である。実施例6では、金微粒子をその中に分散させたシリカ中空粒子を塗料成分に添加している。一方、比較例1では、塗料成分に金微粒子を直接添加している。実施例6のような間接的な金微粒子の添加でも、金微粒子を直接添加した比較例1と同等に着色した塗膜が得られている。
【0086】
また、単位時間当たり810Wという比較的強い紫外光の照射を受けると、比較例1の塗膜では、色相変化量を示すΔEが3.51であり、色相変化が起きていることが判る。
一方、実施例6の塗膜ではΔEは1.67であり、色相変化が少ないことが判る。このこ
とから、紫外光のエネルギーにより、金微粒子が振動し凝集して退色するのに対し、実施例1では金微粒子がシリカで保護されているため、凝集および退色が起こり難くなり、振動プラズモン吸収能が維持されているものと考えられる。
【0087】
(実施例8)
塩化ビニル樹脂ペレット(日本ゼオン(株)製、 重合度:1200)100重量部、ステアリン酸亜鉛(安定剤)2.9重量部、フタル酸ジ2−エチルヘキシル(DOP、可塑剤)50重量部および実施例1の中空シリカ粒子10重量部を混合機で粉体混合した。得られた混合物を用いて、射出成形を行い、膜厚100μmの試験片を作製した。射出成形は、射出成形機(商品名:IS75E、東芝機械(株)製)を用い、成形温度160〜190℃、金型温度40℃の条件で実施した。得られた試験片は実施例1の中空シリカ粒子がほぼ均一に分散し、金コロイド特有のピンク色に着色していた。
【0088】
本発明の中空シリカ粒子は、微粒子の含有量が少ないので、取り扱いの際に粉塵が発生し難い。また、本発明の中空シリカ粒子は、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂へのなじみが良く、粉末の状態で添加しても、合成樹脂中にほぼ均一に分散し、高分散混練物を得ることができる。したがって、マトリックス樹脂に分散させる際に、従来の着色剤の粉末のように、該粉末および該粉末の分散を助ける樹脂を有機溶媒などに分散させたペーストを調製する必要がなく、工程の大幅な簡略化が可能である。また、ペースト中の前記樹脂はマトリックス樹脂の耐候性、耐水性などを損なうおそれがあるので、その点でも有利である。さらに、本発明の中空シリカ粒子は、金型のコーナーなどに付着しても、容易に除去できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の中空無機粒子は、たとえば、塗料用着色剤、化粧料、触媒、有彩光発色膜、紫外線反射性膜、赤外線反射性膜、熱線反射性膜、高隠蔽性/無反射膜、低誘電率絶縁膜、フォトニクス結晶などの様々な用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1の中空シリカ粒子の外観を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の中空シリカ粒子の外観を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例6の中空シリカ粒子の外観の一部を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図4A】実施例1の中空シリカ粒子の加熱前の表面状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図4B】実施例1の中空シリカ粒子を500℃で1時間加熱した後の表面状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図5A】実施例2の中空シリカ粒子の加熱前の表面状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図5B】実施例2の中空シリカ粒子を500℃で1時間加熱した後の表面状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部分が中空であり、かつシェル部分が(a)無機酸化物と、(b)粒径1nm〜100nmの金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つとを含有する多孔質体である中空無機粒子。
【請求項2】
中空無機粒子全量の5〜99.9重量%が無機酸化物であり、残部が金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の中空無機粒子。
【請求項3】
無機酸化物が、元素周期律表の第3周期〜第5周期に属する元素から選ばれる金属元素または半金属元素の酸化物である請求項1または2に記載の中空無機粒子。
【請求項4】
無機酸化物が、チタニア、シリカ、ジルコニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、酸化ゲルマニウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルおよび酸化銅よりなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項3に記載の中空無機粒子。
【請求項5】
シェル部分が無機酸化物と金属粒子とを含有し、金属が貴金属粒子である請求項1〜4のいずれか1つに記載の中空無機粒子。
【請求項6】
(a)無機酸化物と、(b)金属粒子および金属イオンから選ばれる少なくとも1つとを含有するスラリーを噴霧造粒し、請求項1〜5のいずれか1つの中空無機粒子を得る中空無機粒子の製造方法。
【請求項7】
噴霧造粒が120℃以上、200℃未満の加熱下に行われる請求項6に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1つの中空無機粒子を含有する着色剤。
【請求項9】
請求項8の着色剤を含有する塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−24121(P2010−24121A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190922(P2008−190922)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【出願人】(000150246)株式会社中戸研究所 (9)
【Fターム(参考)】