説明

中空糸口金検査装置および検査・判定方法

【課題】光学系を用いて中空糸口金の紡糸孔および注入液孔の画像を取得し、定量的な管理基準により検査・判定を自動で行うことで、正確且つ短時間に行える中空糸口金検査方法を提供すること。
【解決手段】
下記(A)〜(C)の検査用照明手段およびその撮像手段を有し、支持固定された中空糸口金の中空糸吐出側に対する位置に(A)の手段が設置され、前記中空糸口金の中空糸吐出側からの照射光の透過が可能となる位置に(B)および(C)の手段が設置され、(A)の手段より照射された光の前記中空糸吐出側の紡糸孔表面からの反射光並びに(B)および(C)の手段より照射された透過光を前記撮像手段が撮像可能であることを特徴とする中空糸口金検査装置。
(A)紡糸孔および注入液ノズルの同心度検査・判定用の照明
(B)紡糸孔表面および内部検査・判定用の照明
(C)注入液孔検査・判定用の照明

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸製造工程における工程・品質管理に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空糸の異常品発見は、紡糸された糸をサンプリングして断面形状を観察する方法や、中空糸モジュールに組込まれた状態での検査(例えば特許文献1参照)、あるいは工程継続(インライン)状態にて糸幅・系を測定・監視する(例えば特許文献2参照)方法で行われている。しかし異常糸発見時にはその原因特定に長時間を要するため、稼働率低下、膨大な製品ロスの発生といった損失が減少できないという問題があった。
【0003】
そこで紡糸前段階での口金検査を行おうとすると、照明と顕微鏡を用いてその紡糸孔からの微小な通光を確認するか、あるいは孔への通水によりその状態を確認することになる。しかしながら、いずれの場合も官能的検査で、定量的な判定基準値など明確なものがない。このため特定の検査員でなければ実施できず、技術継承が困難で将来的な生産維持ができないという問題がある。また微小サイズの孔の目視検査は検査員の健康状態によるばらつきも生じやすく、精度の面で問題を発生しやすい。更にこれらは長時間を要する作業であり、増産の場合に大量の口金を使用して生産を行う場合は作業時間の短縮を図る上で大きな支障となる。
【特許文献1】特開平6−281591号公報
【特許文献2】特開平9−152323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、紡糸前段階で中空糸口金を検査し、口金起因による異常糸発生を未然に防止するための管理方法を提供するとともに、撮像手段と検査用照明を用いて中空糸口金の紡糸孔および注入液孔の画像を取得し、定量的な管理基準により検査・判定を自動で行うことで、正確且つ短時間に行える中空糸口金検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
1. 下記(A)〜(C)の検査用照明手段およびその撮像手段を有し、支持固定された中空糸口金の中空糸吐出側に対する位置に(A)の手段が設置され、前記中空糸口金の中空糸吐出側からの照射光の透過が可能となる位置に(B)および(C)の手段が設置され、(A)の手段より照射された光の前記中空糸吐出側の紡糸孔表面からの反射光並びに(B)および(C)の手段より照射された透過光を前記撮像手段が撮像可能であることを特徴とする中空糸口金検査装置。
(A)紡糸孔および注入液ノズルの同心度検査・判定用の照明
(B)紡糸孔表面および内部検査・判定用の照明
(C)注入液孔検査・判定用の照明
2. さらに下記(D)の照明手段およびその撮像手段を有し、前記中空糸口金における管理IDが付与された部分に対する位置に(D)の手段が設置され、(D)の手段より照射された光の前記管理IDが付与された部分からの反射光を前記撮像手段が撮像可能であることを特徴とする前記1に記載の中空糸口金検査装置。
(D)管理ID読取用の照明
3. 複数の中空糸口金を前記照明手段およびその撮像手段による検査・判定に供するための自動搬送可能な軸および中空糸口金を前記軸に固定可能なホルダを有することを特徴とする前記1または2に記載の中空糸口金検査装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、以下に説明するとおり、定量的な中空糸口金管理基準を設けることができる。また、検査時間の短縮が可能となる。更には、口金異常起因の異常糸発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、上記(A)〜(C)を行うために設置される図1に示す検査用照明は、中空糸口金の各検査を行う目的から、上記(A)〜(C)のそれぞれを構成するために少なくとも各1つずつ必要である。図2に示すように、中空糸口金は紡糸孔に注入液孔を有するノズルが挿入組み合わされた構造である。すなわち、各1つずつの検査照明とは、「(A)紡糸孔および注入液ノズルの同心度検査・判定」用である紡糸孔とノズルの芯ずれの有無、すなわち同心度を観察することを目的とする反射照明,「(B)紡糸孔表面および内部検査・判定」用である紡糸孔内部の詰まりや異物付着の有無を観察することを目的とする透過照明、「(C)注入液孔検査・判定」用である内部の詰まりや異物付着の有無を観察することを目的とする別の透過照明である。上記(A)の反射照明は、検査対象に光を照射し、その反射光を撮像手段に入光させる目的で使用されるものであり、中空糸口金の中空糸吐出側に対する位置に設置される。すなわち、中空糸口金の検査の際、吐出側が上向きとなるよう支持固定すると、(A)の反射照明は口金より上方の位置に、照射光が下向きに照射される向きに設置される。次に、上記(B)および(C)の透過照明は、その照射光が中空糸口金の中空糸吐出側から透過することが可能となるような位置に設置される。(B)と(C)の照明の方向は同一であってもよいが、照射光が中空糸口金の中空糸吐出側から透過すれば、異なる方向であってもよい。いずれの照明も市販の高輝度LEDを用いることができるが、(C)注入液孔検査・判定用の照明については、波長領域460nm〜490nmにピーク値を持つ単色の青色光を使用することが、明瞭な画像を取得するために望ましい。
【0008】
また、本発明における撮像手段は、上記(A)から照射された光の紡糸孔からの反射光、並びに(B)および(C)から照射された光の口金の透過光の撮像を可能とする位置に設置される必要がある。この場合、撮像手段は単数でも複数でもよいが、撮像手段を(A)の手段と同じ中空糸吐出側に対する位置に設置することで、ひとつの撮像手段で上記反射光および透過光の撮像が可能である。かかる撮像手段としては、一般的なCCDカメラを用いることができる。
【0009】
さらに、上記に加えて、上記(D)の管理ID読取用の照明手段を有することが好ましい。ここで、管理IDとは、中空糸口金の固有の番号であり、後述するデータベースにてその中空糸口金の情報と関連付けられている。(D)の照明の設置位置は特に限定されるものではないが、中空糸口金における管理IDが付与された部分に対する位置に設置され、ID読取用の撮像手段とともに用いることで、口金に印字・刻印された管理番号(ID)を読み取ることが可能である必要がある。また、その撮像手段は、(D)の手段より照射された光の、管理IDが付与された部分からの反射光を撮像可能となる位置に設置される必要がある。ただし、中空糸口金の搬送途中において上記ID読取を行うことが可能となる位置に設置されてもよく、また、中空糸口金の向きを変更することで上記ID読取が可能となる位置に設置されていてもよい。なお、後述するように、読み取ったIDからその口金の情報を得て、その情報に基づいて適正な検査・判定を行うことが可能となるように、(A)〜(C)の手段からの照射光による検査が行われる前段階にてID読取が行われることが好ましい。
【0010】
本発明の中空糸口金検査装置の一実施態様を以下、図に沿って説明する。図1は本発明に係る装置構成図であり、中空糸口金を複数個自動搬送し、複数の撮像手段と検査用照明で検査・判定を行う装置の構成の一例を示している。図1において、1は中空糸口金、2は口金ホルダ、3は口金搬送軸、4は口金ID読取カメラ、5はID読取照明、6は検査用カメラ(撮像手段)、7は検査用カメラ駆動軸、8は芯ずれ検査用照明((A)の手段)、9は注入液孔検査用照明((C)の手段)、10は紡糸孔検査用照明((B)の手段)を示しており、同一フレーム内に収納されている。11は画像処理・判定パソコン(PC)を示す。
【0011】
口金ホルダ2は複数個の中空糸口金1を口金搬送軸3に固定し、口金を自動搬送するために使用される。ここで、口金は紡糸孔吐出側が上向きとなるよう搬送軸3にセットされている。口金搬送軸3は一般的なサーボモータとボールネジ等により構成されるものであり、口金を搬送して、上記照明手段およびその撮像手段からなる光学系による検査・判定が可能となる位置に供するものである。また、ID読取カメラ4と照明5で1つの上記(D)の管理ID読取用の光学系を成し、口金に印字・刻印された管理番号を読取ることで、判定基準画像を呼出すとともに検査・判定結果を保存する。
【0012】
検査用カメラ6は一般的なCCDカメラであるが、高倍率レンズと組合せて使用し、焦点調整用に駆動軸7を有する。カメラの解像度やレンズの倍率は検査対象孔のサイズから決定すればよい。駆動軸7は一般的なサーボモータとボールネジ等により構成されるものであるが、微小な焦点調整を行うために位置決め精度としてばらつきが5μm以下の精度良いものを選択することが好ましい。
【0013】
紡糸孔12の観察は、検査カメラ6を紡糸孔吐出側に設置し、原液注入側から照明を照射して行うが、吐出側表面付近における観察画像だけでは紡糸孔内部の異物付着の有無は判定できない。中空糸の口金は一般的に図3に示すように原料注入側15から吐出側16に向かって直管部18、19とテーパー部20を持った構造である。直管部18、19とテーパー部20のどの部分に異物が付着しても、原液の流路を妨げ、異常糸が発生し得るものであり、吐出側16表面付近だけで光の透過状態がよくとも異常糸が発生しないとは言えない。そこで、紡糸孔内部に対してカメラの焦点深度を変化させていくと観察画像が変化し特徴ある形状を得られる位置を見つけることができる。例えば図4の21〜24に示すように紡糸孔を観察深度で輪切りにすると、それぞれ特徴ある形状画像を得られることになり、これら全てを検査・判定用として使用する。ここで深度は使用する口金の内部構造や運用から決定すれば良いが、好ましくは4以上、より好ましくは5以上とする。
検査・判定を行うための処理・管理PC11には、口金ID番号と、それに関連づけられた検査基準画像、照明照射量、カメラでの観察焦点高さのような、該当する口金の各種情報がデータベースとして保存されている。検査基準画像、照明照射量、観察焦点高さは口金共通で保有し運用することが望ましいが、口金個別での保有、また逐次更新も可能である。これらのパラメータは事前に管理対象口金を本装置に搬送して、検査員が撮像画像を確認し最適に設定できるものである。
【0014】
本発明においては、上記検査装置を用いて中空糸口金1の合否判定を行うことができる。上記検査装置において得られた反射光量、透過光量を合否判定用のパラメータにおける所定の閾値で2値化し、画像処理することで測定値を得る。合否判定用のパラメータには、輝度値、寸法、面積値、形状等がある。これらにより、2値化面積判定、取得画像と基準画像のパターンマッチング、あるいは特徴抽出といった公知の方法により検査・判定が行える。また検査結果は、判定結果に加えて取得画像、輝度、寸法、面積などを自動保存でき、後から閲覧できるものである。また、検査方法による上記判定により合格とした口金を使用して中空糸を製造することで、口金異常起因の異常糸発生を防止することができる。
【0015】
図5は自動搬送・検査のフローを示している。検査員は先ず25で口金ホルダに複数の中空糸口金をセットして26で口金搬送軸にホルダをセットする。27で自動起動をかけると、口金ホルダは28で先ず3,4から構成されるID読取り部に位置決めされる。ここでは口金表面に印字・刻印されたIDの自動文字判別を行い、認識データを処理・管理PC11に送信し、データベースより該当する各種情報、すなわち検査基準画像、使用照明、照明照射量、観察焦点高さを引き当てる。次に29で口金は5,7から構成される検査部に搬送位置決めされる。ここでは、先ず反射照明8を用いて30の口金表面への自動焦点調整が行われた後、31で芯ずれ、32で紡糸孔表面、33〜36で紡糸孔内部、37で注入液孔、の検査が順次自動実行される。各検査は処理・管理PC11で引き当てられた使用照明、照明照射量と観察焦点高さを切替えて用い、該当する判定パラメータを用いた判定が38で行われ、PC11画面上に表示される。ここで検査・判定の順序はどれが先でも良い。39に示すとおり口金ホルダ1にセットした口金の数だけ繰返し実行され、逐次判定結果がPC画面上に出力される。全ての口金の全検査・判定が終了すると口金ホルダ1は40で投入口に戻り一連の動作を終了するとともに、41で全ての検査判定結果を保存する。
【実施例】
【0016】
透析器モジュールに用いられる中空糸口金を対象とし、16個の口金を直線上に1列だけ固定する口金ホルダを1軸搬送する構成とした。
ID読取カメラは受光素子40万画素のCCDを約40μmの分解能が得られるように設置して、ID読取用照明としては、シーシーエス社の高輝度赤色LEDを使用して反射光学系を形成した。検査用カメラは受光素子40万画素のCCDをレンズ倍率5倍のものと組合せて約1.5μmの分解能が得られるように設置し、検査用照明は、紡糸孔内部観察用としてシーシーエス社の高輝度青色LEDを紡糸孔注入側から照射して透過光学系を形成し、注入液孔観察用としてシーシーエス社の高輝度赤色LEDを使用して注入液孔注入側から照射して透過光学系を形成し、芯ずれ検査用としてシーシーエス社の赤色LEDを使用し紡糸孔側垂直に照射して同軸落射光学系を形成した。検査用カメラ駆動軸は位置決め精度2μmと高精なのものを使用した。
【0017】
また、検査PCは2000品種分のマスタ画像、判定結果を保存可能なものとした。
【0018】
この結果、紡糸孔の異物付着のサイズは約5μm以上、芯ずれは約4μm以上から検出・判定可能であることが確認できた。
【0019】
検査時間については、熟練検査員が目視検査で紡糸孔と芯ずれだけを確認する場合に1個当たり約2分を要するのに対し、本検査装置を使用した場合は全7項目を1個当たり約20秒検査可能であり、1/6の作業時間に短縮できた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施態様に係る中空糸口金検査装置の概略構成図である。
【図2】中空糸口金の紡糸孔と注入液孔の構成を説明する図である。
【図3】中空糸口金の軸方向の断面を示し内部構造を説明する図である。
【図4】図3の拡大図で紡糸孔内部の観察焦点の例を説明する図である。
【図5】本発明による中空糸口金検査・判定の一連動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
1:中空糸口金
2:口金ホルダ
3:口金搬送軸
4:口金ID読取カメラ
5:口金ID読取照明
6:検査用カメラ
7:検査カメラ駆動軸
8:芯ずれ検査用照明(反射照明)
9:注入液孔検査用照明(透過照明)
10:紡糸孔検査用照明(透過照明)
11:画像処理・判定PC
12:紡糸孔
13:注入液ノズル
14:注入液孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)の検査用照明手段およびその撮像手段を有し、支持固定された中空糸口金の中空糸吐出側に対する位置に(A)の手段が設置され、前記中空糸口金の中空糸吐出側からの照射光の透過が可能となる位置に(B)および(C)の手段が設置され、(A)の手段より照射された光の前記中空糸吐出側の紡糸孔表面からの反射光並びに(B)および(C)の手段より照射された透過光を前記撮像手段が撮像可能であることを特徴とする中空糸口金検査装置。
(A)紡糸孔および注入液ノズルの同心度検査・判定用の照明
(B)紡糸孔表面および内部検査・判定用の照明
(C)注入液孔検査・判定用の照明
【請求項2】
さらに下記(D)の照明手段およびその撮像手段を有し、前記中空糸口金における管理IDが付与された部分に対する位置に(D)の手段が設置され、(D)の手段より照射された光の前記管理IDが付与された部分からの反射光を前記撮像手段が撮像可能であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸口金検査装置。
(D)管理ID読取用の照明
【請求項3】
複数の中空糸口金を前記照明手段およびその撮像手段による検査・判定に供するための自動搬送可能な軸および中空糸口金を前記軸に固定可能なホルダを有することを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸口金検査装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の検査装置を用いて、前記(A)の手段から紡糸孔表面に光照射して得られる反射光量と、前記(B)および(C)の各手段から紡糸孔と注入液孔内部にそれぞれ光を透過して得られる透過光量とを、それぞれ所定の閾値で2値化し、画像処理することで得られた測定値により、中空糸口金の合否判定を行うことを特徴とする、中空糸口金の検査・判定方法。
【請求項5】
前記(B)紡糸孔内部の検査・判定において、検査用カメラの焦点深度を複数変化させて、それぞれの焦点深度における画像を観察・取得することを特徴とする請求項4に記載の中空糸口金の検査・判定方法。
【請求項6】
前記(C)注入液孔検査・判定用の照明として、波長領域460nm〜490nmにピーク値を持つ単色青色光光源を使用することを特徴とする請求項4および5に記載の中空糸口金の検査・判定方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の検査・判定方法により管理を行い、合格と判定した口金を使用することを特徴とする中空糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−298569(P2008−298569A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144610(P2007−144610)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】