説明

中空糸膜モジュール及びその製造方法

【課題】優れた生体適合性を有する中空糸膜モジュールを提供すること。
【解決手段】ケーシング内に中空糸膜を備える中空糸膜モジュールであって、前記中空糸膜は、疎水性ポリマーとポリビニルピロリドンを含む中空糸膜であり、抗凝固剤を添加したヒト血液を通液させたときに、前記中空糸膜に付着する成分の抽出液における乳酸脱水素酵素の酵素活性が、0.6IU/mL/cm未満である、中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分離操作において選択透過性を有する中空糸膜を用いた技術の進展はめざましく、各種の用途で実用化されている。このような中空糸膜の素材には、例えば、ポリスルホン系、セルロース系、ポリイミド系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリロニトリル系の樹脂等が使用されているが、特にポリスルホン系樹脂は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、耐酸化剤等の物理的および化学的性質に優れ、また、製膜も容易であるといわれている。
【0003】
しかし、例えば、ポリスルホン系樹脂のような疎水性高分子からなる中空糸膜では膜を乾燥させると透過性能が著しく減少して、再度使用するためには湿潤化処理をしなければならない。また、タンパク質等の吸着がおこりやすく膜の汚染や目詰まりをおこしやすい。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、中空糸膜中に親水性高分子を残存させて親水性効果を付与する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1や特許文献2には、中空糸膜中に親水性のポリビニルピロリドンを含有させた親水化ポリスルホン膜が記載されている。
【0006】
一方、特許文献3及び特許文献4には、残留モノマーを減少させるポリビニルピロリドンの製造方法が開示されている。また、特許文献5、特許文献6及び特許文献7には副生物の生成を抑えるポリビニルピロリドンの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−104940号公報
【特許文献2】特開昭61−93801号公報
【特許文献3】特公昭58−50604号公報
【特許文献4】特開2002−155108号公報
【特許文献5】特開昭62−62804号公報
【特許文献6】特公平8−19174号公報
【特許文献7】特開2001−354723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリビニルピロリドンを用いた中空糸膜モジュールは、中空糸膜モジュールに血液中の血球が付着する原因によるロイコペニア等の疾病が数百万本に1本の頻度で発生することがある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、白血球や血小板などの血球の付着を減少させることが可能になるなど優れた生体適合性を有する中空糸膜モジュール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を備えるモジュールへの血球の付着はポリビニルピロリドン自体に原因があり、ポリビニルピロリドンの酸化劣化が血球付着の原因であるとの新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[24]に関するものである。
[1] ケーシング内に中空糸膜を備える中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜は、疎水性ポリマーとポリビニルピロリドンを含む中空糸膜であり、
抗凝固剤を添加したヒト血液を通液させたときに、前記中空糸膜に付着する成分の抽出液における乳酸脱水素酵素の酵素活性が、0.6IU/mL/cm未満である、中空糸膜モジュール。
[2] 前記ポリビニルピロリドンは、以下の式で定義されるK値が75以上であり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値が2.95以下である、[1]記載の中空糸膜モジュール。
【数1】


[式中、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。]
[3] 前記中空糸膜は、クリンプ形状を有する[1]又は[2]に記載の中空糸膜モジュール
[4] 前記中空糸膜の膜厚は、25μm以上40μm以下である[1]〜[3]の何れかに記載の中空糸膜モジュール。
[5]前記中空糸膜は、膜厚が30μm以下の場合には、破断強度が7.5MPa以上、破断伸度が70%以上であり、膜厚が30μmを超え35μm以下の場合には、破断強度が7MPa以上、破断伸度が65%以上であり、膜厚が35μmを超える場合には、破断強度が6MPa以上、破断伸度が60%以上である、[1]〜[4]の何れかに記載の中空糸膜モジュール。
[6] 前記中空糸膜は、孔径が外表面から内表面に向かって連続的に減少した中空糸膜であり、且つスポンジ構造を有する、[1]〜[5]の何れかに記載の中空糸膜モジュール。
[7] 血液浄化用である、[1]〜[6]の何れかに記載の中空糸膜モジュール。
[8] アルブミンの透過率が0.35%以下である、[1]〜[7]の何れか記載の中空糸膜モジュール。
[9] 前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、[1]〜[8]の何れかに記載の中空糸膜モジュール。
[10] 前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンは、架橋度調整剤を中空糸膜内に注入し、前記中空糸膜に放射線照射することにより、架橋度を80%以上100%未満にされたものである、[9]の中空糸膜モジュール。
【0012】
[11] ケーシング内に、疎水性ポリマーとポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を備える中空糸膜モジュールの製造方法であって、
製造が、実質的に前記ポリビニルピロリドンが酸化しない状態で行われる、製造方法。
[12] 前記中空糸膜の製膜原液作成から中空糸膜モジュールの梱包までの全工程を、無酸素状態で行う、[11]記載の製造方法。
[13] 前記無酸素状態が、不活性ガスにより達成されたもの(不活性ガス雰囲気下の状態、又は不活性ガスで置換した状態)である、[12]に記載の製造方法。
[14] 前記不活性ガスが窒素である、[13]記載の製造方法。
[15] 前記ポリビニルピロリドンは、40℃の窒素雰囲気下で40日間保存後の、以下の式で定義されるK値の低下量が1未満である、[11]〜[14]の何れかに記載の製造方法。
【数2】


[式中、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。]
[16] 前記ポリビニルピロリドンは、酸化防止剤を含有するポリビニルピロリドンである、[11]〜[15]の何れか記載の製造方法。
[17] 前記酸化防止剤は、サリチル酸ナトリウムである、[16]記載の製造方法。
[18] 前記ポリビニルピロリドンは、第2級アミン又はその塩を含有するポリビニルピロリドンである、[11]〜[17]の何れかに記載の製造方法。
[19] 前記第2級アミンは、ジエタノールアミンである、[18]記載の製造方法。
[20] 前記ポリビニルピロリドンは、以下の式で定義されるK値が75以上であり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値が2.95以下である、[11]〜[19]の何れかに記載の製造方法。
【数3】



[式中、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。]
[21] 前記ポリビニルピロリドンは、γ−ブチロラクトンとモノエタノールアミンから得たN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンを気相脱水反応させて製造したN−ビニル−2−ピロリドンを重合したポリビニルピロリドンである、[11]〜[20]の何れかに記載の製造方法。
[22] 前記N−ビニル−2−ピロリドンは、N−ビニル−2−ピロリドンの純度が99.98%以上、有機不純物量が80ppm以下である、[21]記載の製造方法。
[23] 前記中空糸膜は、前記ポリビニルピロリドンを含む溶液を孔径3μm以下の焼結フィルターで超音波振動を加えながら濾過し、これに前記疎水性ポリマーを添加した原液から製造される、[11]〜[22]の何れかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、白血球や血小板などの血球の付着を減少させることが可能になるなど優れた生体適合性を有する中空糸膜モジュール及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ポリビニルピロリドン溶液を動的光散乱法にて測定した粒径分布の図である。
【図2】中空糸膜のクリンプ形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0016】
先ず、中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜について説明する。
【0017】
実施形態に係る中空糸膜は、ポリビニルピロリドン(以下、単に「PVP」ともいう。)とポリビニルピロリドンと疎水性ポリマーを主成分とする。ここで、「ポリビニルピロリドンと疎水性ポリマーを主成分とする」とは、ポリビニルピロリドンと疎水性ポリマーの合計が中空糸膜を構成する材料の80質量%以上を占めることをいい、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0018】
疎水性ポリマーとしては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、これらの中でも芳香族ポリスルホン系ポリマーが好ましい。本発明で用いられる芳香族ポリスルホン系ポリマーとしては、下記の一般式(1)、又は一般式(2)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。なお、式中のArは、パラ位での2置換のフェニル基を示す。そして、疎水性ポリマーの重合度や分子量は特に限定されない。
−O−Ar−C(CH−Ar−O−Ar−SO−Ar− (1)
−O−Ar−SO−Ar− (2)
【0019】
中空糸膜に用いられるポリビニルピロリドンについては、中空糸膜から抽出した可溶性ポリビニルピロリドンを動的光散乱法にて測定される粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径(以下、単に「粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径」ともいう)が300nm(ナノメーター)以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは60nm以下である。本発明者の研究によれば、可溶性ポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径を上記数値範囲とすることにより、ピンホールや膜破れ等の欠陥部が少なく、かつ膜厚が薄い中空糸膜とすることが可能となる。なお、上記粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nmを超えるポリビニルピロリドンを使用すると、ポリビニルピロリドン濃度が局所的に高い部位が膜中に多く存在することから、ピンホール又は膜破れ等が生じやすくなる。
【0020】
また、粒度分布において最も大粒径側のモード径が上記範囲にあるポリビニルピロリドンを用いると、不純物の除去性能が高くなる。とりわけ、透析等の血液浄化用として中空糸膜を用いる場合のビタミンB12の除去性能に優れている。その理由は以下のように推測される(ただし、これに限定されない。)。
【0021】
すなわち、従来の中空糸膜に使用されている通常のポリビニルピロリドンにはその製造過程で生じる複数の分子が絡み合った凝集成分が含まれ、これが、塊状で中空糸膜中に存在している。この塊状のポリビニルピロリドンは、膜の濾過抵抗を上げ、膜の透過性能を低下させると考えられる。ポリビニルピロリドンとして、凝集成分の少ないもの、具体的には、その動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下のものを使用すると、ポリビニルピロリドンが塊状で存在することが少なく、中空糸膜の骨格(例えば、ポリスルホン系ポリマー等の疎水性ポリマーで構成される骨格)の周りを均一に覆うようになるため、膜の濾過抵抗が下がり、膜の透過性能が向上すると推測される。
【0022】
一般に、ポリビニルピロリドン溶液中に存在するポリビニルピロリドンの粒度分布を動的光散乱装置にて測定すると、粒径値が1〜5,000nmの範囲では2つのピークが観察される(図1参照)。ここで、粒度分布において大粒径側から順に、二次ピーク(B)、一次ピーク(A)とする。即ち、図1において、粒度分布において最も大粒径側のピークが二次ピーク(A)である。
【0023】
一次ピークは、協同拡散モードであり、通常の高分子濃厚溶液で観察されるピークである(例えば、「ドジャン 高分子の物理学」、久保亮五監修、高野宏、中西秀共訳、吉岡書店出版、1997、p208−p210参照。)。協同拡散モードのピークはポリビニルピロリドン溶液をフィルター濾過しても濾過の前後で出現するピーク位置は変化しない。
【0024】
これに対して、二次ピークはポリビニルピロリドン溶液で見られる特有のピークである。本発明者の研究によれば、二次ピーク(図1において、粒度分布において最も大粒径側のピークに相当する。)の粒径分布の最大値が小さいほどピンホール又は膜破れ等を少なくすることが可能となり、ピンホールや膜破れ等を発生させないためには、二次ピークのモード径を300nm以下とすればよく、二次ピークが存在しないポリビニルピロリドンを使用することが好ましい。
【0025】
なお、図1では、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布においてピークの数が2つである場合(典型的な例)を例にとって説明したが、本発明において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンは、動的光散乱法により測定される粒径分布においてピークの数が2つであるものには限定されず、例えば、3つ以上のピークが存在していてもよく、この場合、最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であればよい。
【0026】
ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、ポリビニルピロリドンが5.0質量%の濃度になるように調整したジメチルアセトアミドの溶液(ポリビニルピロリドン溶液)を動的光散乱装置(大塚電子(株)社製 FPAR−1000又は同等機)を用いて、25℃の温度で測定することにより求められる。解析条件は、NNLS(非負拘束最少自乗法)を用い、ヒストグラム範囲の設定は自動設定で行なう。但し、粒径値が1〜5,000nmの範囲で得られたピークのみを解析する。また、ポリビニルピロリドン溶液の粘度、屈折率の値としては、25℃のジメチルアセトアミドの物性値を用いる。
【0027】
なお、上述の方法でジメチルアセトアミドに溶解させるポリビニルピロリドンとしては、中空糸膜からエタノールを用いて抽出したエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを用いることができる。すなわち、エタノールを用いて中空糸膜からエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを抽出し、このエタノール可溶性ポリビニルピロリドン溶液(エタノール溶液)について、例えばエバポレーターを用いて脱エタノールした後に、上記の手法に従ってジメチルアセトアミド溶液とする。
【0028】
なお、エタノールを用いて中空糸膜からエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを抽出する方法は、以下のようにして行うことができる。
【0029】
中空糸膜モジュール(血液浄化器等)を純水で洗浄し、中空糸膜モジュール中の水分量が中空糸膜に対して0.3質量%以下になるまで乾燥させる。なお、純水での洗浄は、血液浄化器から架橋度調整剤等が抽出されなくなるまで行う。具体的には、中空糸膜モジュールの開口端から純水を注入して中空糸膜モジュールの内部を純水で充填し、3分間振とうした後、純水を排出する、という操作を10回繰り返す。次に、50℃のエタノール中に中空糸膜モジュールに浸漬して中空糸膜の外表面側から内表面側に該エタノールを3時間濾過循環させる。エタノールの循環には、循環回路にコンタミネーションの無いチューブとジョイント並びにエアポンプを使用する。濾過循環量は30mL/分とする。この時、中空糸膜モジュール全体がエタノールに浸漬していることを確認する。3時間後、中空糸膜を循環したエタノールを5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD−5、有効濾過面積40cm)で濾過した後、エバポレーターを用いてエタノールのみを蒸発させてエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを得る。エバポレーターでの加熱は50℃以下で行う。動的光散乱装置にて測定できる量の可溶性ポリビニルピロリドンが得られるまで、同じ種類(製造ロット)の中空糸膜を有する異なる中空糸膜モジュールを用いて上記の操作を繰り返す。
【0030】
中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、好ましくは80%以上100%未満であり、より好ましくは80%以上99%以下であり、さらに好ましくは85%以上95%以下である。
【0031】
中空糸膜中のPVPの架橋度が80%未満であると、中空糸膜の内表面に存在して実質的に親水化に寄与しているポリビニルピロリドンが膜から溶出する可能性がある。一方、架橋度を100%にしてしまうと、溶出量を低減できる一方で、本発明に係る中空糸膜を透析用とした際に透析時にロイコペニア症状が観察されることがある。
【0032】
中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、下記の式(3)で定義される。
PVPの架橋度(%)=水に不溶であるPVP量(質量)/膜中の全PVP量(質量)×100・・・(3)
【0033】
ここで、水に不溶であるPVP量とは、全ポリビニルピロリドンの量(膜中の全PVP量)から水に可溶であるPVP量を差し引いたものである。
【0034】
なお、単位質量の中空糸膜中の全PVP量は、乾燥した中空糸膜0.2〜0.5mgを横型反応炉(800〜950℃)で気化又は酸化させ生産した一酸化窒素の濃度を化学発光法で測定し(装置は三菱化学製、TN−10を用いることができる。)、得られた濃度から単位質量の中空糸膜中に含まれるPVP量に換算して求めることができる。定量に際しては、予め、含窒素ポリマーの標準物で作成した検量線を用意し、これを用いて濃度を決定する。
【0035】
水に可溶であるPVP量は、以下の方法により求めることができる。
【0036】
すなわち、単位質量の中空糸膜を水分量が0.3質量%以下になるように乾燥し、これをN−メチル−2−ピロリドンに、2.5質量%の濃度になるように溶解し、溶液を作成する。その溶液に、その体積の1.7倍の量の水を添加して10分間攪拌することにより、中空糸膜中の疎水性ポリマー(ポリスルホン系ポリマー等)を十分に析出させる。水に可溶であるPVPは、析出した疎水性ポリマー微粒子とともに溶液中に含まれる。次いで、溶液中の疎水性ポリマー微粒子をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)用の非水系フィルター(東ソー製、孔径:2.5μm)で濾過して除去し、ろ液中に含まれるポリビニルピロリドンをHPLCにて定量する(装置:Waters、GPC−244、カラム:TSKgelGMPWXL2本、溶媒:0.1M塩化アンモニウム(0.1Nアンモニア)、pH9.5の塩化アンモニウム水溶液、流速:1.0mL/分、温度:23℃)。以上のようにして定量したろ液中に含まれるポリビニルピロリドンの量が、中空糸膜の単位質量当たりに含まれる水に可溶であるPVP量である。尚、PVPの架橋度を算出する際の水に可溶であるPVP量としては、上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いる。
【0037】
本発明で用いられるPVPは、以下の式で求められるK値が75以上であることが好ましい。PVPは製膜時(相分離時)並びに後処理である洗浄時に、その大半が膜の外に流れ出てしまう傾向にあるが、K値が75以上であるとPVPの膜への残存量が多いので好ましい。本発明では、次式で定義されるK値が75以上100以下のPVPでることが好ましい。K値が100を超えると溶剤に溶解し難い傾向にある。
【数4】


ここで、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。
【0038】
さらに、PVPの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)は、2.00以上2.95以下であることが好ましい。このような分子量分布がシャープであるPVPを用いることにより、得られる膜の孔径分布をシャープにすることが可能である。本分子量分布のPVPを用いることによりアルブミンの透過率を0.15%以下にすることが可能である。なお、Mw/Mnが2.00未満のPVPは得ることが困難である。
【0039】
PVPのMw及びMnは、例えば、PVPを1.0mg/mLの濃度でDMFに溶かした試料液を作製し、以下の条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行うことにより求められる(以下に述べるようにPMMA換算である)。同測定の結果からMw/Mnが求められる。
装置:HLC−8220GPC(東ソー株式会社)
カラム:Shodex KF−606M、KF−601
オーブン:40℃
移動相:0.6mL/min DMF
検出器:示差屈折率検出器
【0040】
ここで、Mw及びMnが既知であるGPC標準物質であるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて検量線(3次式)を作成し、その検量線に基づいてポリビニルピロリドンの流出時間からPMMA換算のMw及びMnが求められる。
【0041】
PVPとしては、酸化防止剤が含まれているPVPを用いることが好ましい。K値が75以上のPVPは空気中の酸素により常に酸化分解が起こる。したがって、K値は経時的に低下する傾向にある。酸化防止剤を有することにより同一ロットのPVPを長期に用いることができるので、性能が安定した製品(膜)を長期間供給できるメリットがある。
【0042】
酸化防止剤としては、例えば、サリチル酸ナトリウム、メチルベンゾトリアゾールカリウム塩、2−メルカプトベンズイミダゾール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸プロピルエステル、ヒドロキノン、カテコールなどのフェノール系酸化防止剤;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−(2,3−ジメチルテトラメチレン)ジピロカテコールなどのビスフェノール系酸化防止剤;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロール類などの高分子型フェノール系酸化防止剤;ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール、テトラキスメチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネートメタン、ステアリルチオプロピルアミドなどの硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノおよび/またはジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレンホスファイトなどのリン系酸化防止剤;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸イソプロピルなどのアルコール系酸化防止剤;メチル化ジフェニルアミン、エチル化ジフェニルアミン、ブチル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、ラウリル化ジフェニルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤;4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンおよびその縮合物、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオンなどのヒンダードアミン系酸化防止剤;などが挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの酸化防止剤のうち、フェノール系酸化防止剤が好適であり、サリチル酸ナトリウムが特に好適である。
【0043】
酸化防止剤の使用量は、PVPに対して、好ましくは0.0001質量%以上、10質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上、5質量%以下である。酸化防止剤の量が0.0001質量%未満であると、PVPのK値を安定化させることが困難になることがある。逆に、酸化防止剤の使用量が10質量%を超えると、性状や外観などのPVP本来の特性が損なわれることがある。
【0044】
PVPはまた、第2級アミンまたはその塩を含有するPVPであることが好ましい。第2級アミンまたはその塩を含有するPVPは溶剤への溶解性が早いので、膜を効率良く製造することが可能である。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルイソブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−メチルビニルアミン、N−メチルアリルアミンなどの脂肪族第2級アミン;N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−メチルトリメチレンジアミン、N−エチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェニチルアミン、N−エチルフェネチルアミンなどの芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−イソブチルエタノールアミンなどのモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミンなどのジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリンなどの環状アミン;などが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、ジエタノールアミンが特に好ましい。
【0045】
第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体水溶液のpHが好ましくは7以上、10以下、より好ましくは7以上、9以下になるようにすればよい。具体的には、第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは10ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは50ppm以上、5,000ppm以下である。
【0046】
PVPは、γ−ブチロラクトンとモノエタノールアミンから合成してN−(2−ヒドロキシエル)ピロリドンを気相脱水反応させて製造したN−ビニル−2−ピロリドンを重合したPVPであることが好ましい。本方法により製造されたPVPは、副生成物等の不純物が少ないことが特徴であることから、好ましい。本方法を用いて得られたN−ビニル−2−ピロリドンの純度は、99.98%以上100%未満、有機不純物量は1ppm以上80ppm以下である。不純物の少ない原材料(N−ビニル−2−ピロリドン)から重合されたPVPであることから、分子量分布がシャープである。さらに、得られる膜の孔径分布をシャープにすることが可能である。本分子量分布のPVPを用いることによりアルブミンの透過率を0.15%以下にすることが可能である。
【0047】
なお、N−ビニル−2−ピロリドンの純度並びに有機不純物量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:SPELCO製;DB−1,キャリアガス:He,流量:17.2mL/min、温度:60−250℃)を用いて測定できる。
【0048】
中空糸膜の形態は特に限定する必要はなく、いわゆるストレート糸であっても良いが、血液透析に用いる際の拡散効率の観点から、クリンプが付与されている方が好ましい。図2は、中空糸膜のクリンプ形状を説明するための図である。図2に示すように、クリンプ形状とは、中空糸膜の外表面形状であって、外表面形状が断面方向から見たときに所定の波長(1)と振幅(2)で表されるものをいう。波長は2mm以上20mmが好ましく、より好ましくは4mm以上8mm以下である。一方、振幅は0.1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以上1mm以下である。波長が短い程、血液浄化器等の中空糸膜モジュールへの充填率が高くなるので良いが、2mm未満の波長にするのが難しい傾向にある。波長が20mmを超えるとクリンプの効果が出にくい傾向にある。振幅が0.1mm未満でもクリンプの効果が出にくい傾向にあり、5mmを超えると接着時の血液浄化器化が難しい傾向にある。
【0049】
中空糸膜の膜厚は25μm以上40μm以下が好ましい。より好ましくは、25.5μm以上35μm以下である。本発明者の研究によれば、膜厚が薄い中空糸膜の不純物除去性能が高くなる傾向にあることが判明した。尤も、膜厚が25μm未満では接着時に中空糸膜の糸潰れが多発し、糸潰れにより性能不良を起こしやすいため、結果として透析用血液浄化器等の中空糸膜モジュールの不純物除去性能が低下する傾向にある。膜厚が40μmを超えると透析用血液浄化器等の中空糸膜モジュールの不純物除去性能を高性能化でき難い傾向にある。なお、本発明でいう膜厚とは、中空糸膜100本の平均値である。
【0050】
中空糸膜の膜厚は好ましい態様では25μm以上40μm以下と薄いので、糸の長手方向の破断強度が6MPa以上であり、かつ破断伸度が60%以上であることが好ましい。膜厚が薄い程、膜の絶対強度が低くなるので、接着時に中空糸膜が接着剤の圧力で潰れる可能性がある。従って、膜厚が薄くなるにつれて破断強度を高くすることが好ましい。具体的には、中空糸膜の膜厚が35μm以下であれば破断伸度は7MPa以上が好ましく、膜厚が30μm以下であれば破断伸度は7.5MPa以上が好ましい。また、中空糸膜の膜厚が薄いと接着剤界面で膜が切れる可能性がある。従って、中空糸膜の膜厚が35μm以下であれば破断伸度は65%以上が好ましく、膜厚が30μm以下であれば破断伸度は70%以上が好ましい。
【0051】
中空糸膜は、その外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造を有することが好ましい。例えば、透析用途では血液を中空糸膜の中空部(膜内表面側)に流すことが主流である。膜内表面に血液中のタンパク質等が中空糸膜の孔を塞ぎ難いように、膜内表面に高濃度のポリビニルピロリドンを保持させると同時に、透析による濾過における物質移動をスムースにするために、中空糸膜の構造を膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなる構造であることが好ましい。さらに、中空糸膜の構造がスポンジ構造であることが好ましい。ここで、「スポンジ構造」とは膜断面に孔径(二軸平均径、すなわち、短径と長径の平均値をいう。)が5μm以上のボイドを有さない構造をいう。なお、「短径」、「長径」とは、それぞれボイドに外接する面積が最小となる外接長方形の短辺、長辺をいう。
【0052】
中空糸膜が、外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造である場合、膜厚部の大部分に網目状に存在する「フィブリル」という骨格部分を有する。中空糸膜に存在する全フィブリルの平均太さは100nm以上200nm以下であることが好ましい。全フィブリルの平均太さが100nm未満では、破断強度と破断伸度が低下する傾向にある。
【0053】
全フィブリルの平均太さが200nmを超えると、中空糸膜を透析用とする場合、アルブミンの透過率が0.35%を超えてしまう場合がある。透析用等とする場合、人体に有用であるアルブミン(分子量:67,000)をほとんど透過させない分画性を有する膜が求められており、牛血漿アルブミンの透過率が0.35%以下を実現できる。アルブミンの透過率が0.35%を超えることは体内に有効なアルブミンを大きく損失することを意味することから透析用の膜としては好ましくない。
【0054】
アルブミンの生体内貯蔵量は成人男子で約300g(4.6g/kg)で、全体の約40%は血管内に、残りの60%は血管外に分布し、相互に交換しながら平衡状態を保っている。アルブミンの分解は筋肉、皮膚、肝、腎などで行われ、1日のアルブミンの分解率は生体内貯蔵量のほぼ4%(0.18g/kg/日)である。また生体内でのアルブミンの半減期は約17日である。一方、アルブミンの生成は主に肝臓(0.20g/kg/日)で行われている。したがって、生体内でのアルブミンの収支は±0に近い状態である。一般に透析患者は週に3回の人工透析により血液浄化を受けている。したがって、アルブミン透過率が0.35%の膜で人工透析を受けると約0.02g/kg/週のアルブミン損失となる。故に、アルブミン透過率が0.35%を超えると生体内でのアルブミンの平衡状態が崩れ他の疾病を引き起こす原因ともなる。
【0055】
さらに本発明では、膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さYと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さXの比(Y/X)が大きいと不純物除去性能が向上することも分かった。具体的にはY/Xが1.2以上2.0以下であることが好ましい。膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比は1.2未満では、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなる傾斜度が小さいためにアルブミンの透過率が0.35%を超える傾向にある。
【0056】
膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比が大きい程、濾過速度(例えば、透析でいう不純物除去性能)を向上させるのみではなく、アルブミンの透過率も低く抑えることが可能であるので好ましい。尤も、2.0を超える膜は後述する(紡速とエアギャップ)並びに(紡口吐出断面積と膜面積)との関係である(Ga/Vs´×Am/As)において製造しにくい条件にある。
【0057】
フィブリル(網目状の骨格)の太さは、以下の方法により測定する。対象となる中空糸膜を水で膨潤させた後、−30℃で凍結させた状態で長手方向に垂直に割断することにより、横断面割断試料を得る。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて得られた試料の断面を撮影する。撮影は、加速電圧10kV、撮影倍率10,000倍で行う。この条件により、膜厚方向の断面の部の幅15μm相当の構造を観察できる。
【0058】
膜厚が30μm以下の中空糸膜では、膜厚部の最内側(膜内表面側)を視野の端に合わせてSEM写真を撮影し、これを用いて膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さを測定する。
【0059】
全フィブリルの平均太さは、膜厚が30μm以下の中空糸膜の場合には、上記の2枚の写真を用いて測定する。一方、膜厚が30μmを超える中空糸膜では、上記2枚の写真ではカバーされない(撮影できていない)部分があるので、膜厚方向において膜内表面と膜外表面からの距離が等しい点である中心点を決めた後、視野の中央をその中心点に合わせてSEM写真を撮影することによって上記2枚の写真で撮影ができない部分を撮影し、これを用いて膜厚方向の中心部にあるフィブリルの平均太さを測定する。
【0060】
但し、膜厚方向の中心部にあるフィブリルの太さを求めるときは、膜内表面と膜外表面側の写真に含まれない部分を用いる。
【0061】
本発明で定義するフィブリル(網目状の骨格)の太さとは、上記写真で観察される各フィブリルの中央部付近の最も細くなっている部分の太さ、すなわちフィブリル同士の接合部と接合部の間で最も幅が狭い部分の太さを、フィブリルの長手方向に対して垂直の角度で読み取ったものである。
【0062】
フィブリルの太さを測定する部位は、幅15μm相当を撮影した各部位の断面SEM写真において、膜厚方向の中央部幅5μm相当の領域帯とし、その領域帯にあるフィブリルを任意に100本選択して太さを測定する。これを各部位の断面SEM写真それぞれについて実施する。それぞれの100本の値の平均値を、各部位(膜厚方向の外側、内側及び中心部(膜厚が30μmを超えるときのみ))のフィブリルの平均太さとする。また各平均値を相加平均した値を全フィブリルの平均太さとする。
【0063】
中空糸膜は、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液を濾過する工程と、前記濾過した溶液に疎水性ポリマーを添加して吐出することによって、ポリビニルピロリドンと疎水性ポリマーを含む中空糸膜を得る工程と、ポリビニルピロリドンを実質的に含まない溶液により前記中空糸膜の膜内表面をコーティングする工程と、前記中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンを架橋する工程と、を少なくとも実施する製造方法で得ることができる。この製造方法により、中空糸膜から抽出した可溶性ポリビニルピロリドンを動的光散乱法にて測定される粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下である中空糸膜を製造できる。
【0064】
中空糸膜の製造工程で用いられるポリビニルピロリドン及び疎水性ポリマー等の固形物の原材料は、減圧、窒素、二酸化炭素等の不活性ガス置換、減圧等を数回繰り返して、無酸素状態にすることが好ましい。また、ポリビニルピロリドンは製造から使用時までを不活性ガス雰囲気下又は減圧状態で、決して酸素が入らないように管理することが好ましく、製造並びに製造工程に使用する溶剤、水等の溶液全てを脱酸素状態にすることが好ましい。脱気又は不活性ガスによりバブリングすることで脱酸素状態にすることが可能である。中でも、窒素、二酸化炭素等の不活性ガス置換は製造コストを安価にできるので好ましい。ガス分離膜や吸着剤等を利用して酸素を除去しながら窒素、二酸化炭素を循環すればより安価に利用することができるので好ましい。
【0065】
本発明において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径を300nm以下にする方法としては、中空糸膜を製造する際に原料として用いるポリビニルピロリドン溶解液を、予めフィルターを用いて濾過しておくことが挙げられる。その際、ポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を加えながら濾過することも可能である。より具体的には、ポリスルホン系ポリマー、ポリビニルピロリドン及び溶剤を混合・溶解して得られた製膜原液を所定の形状に形成する製膜方法において、予めポリビニルピロリドンと溶剤を溶解したポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を加えながら孔径3μm以下のフィルターで濾過した後、該溶解液にその他の材料(例えば、ポリスルホン系ポリマー(又は溶剤とポリスルホン系ポリマー)等の疎水性ポリマー)を添加して溶解した製膜原液を用いることにより製造することができる。
【0066】
予めポリビニルピロリドンと溶剤を溶解した溶解液(以下、単に「ポリビニルピロリドン溶解液」ともいう。)に超音波振動を加えながら孔径3μm以下のフィルターを用いて所定の濃度、温度、及び濾過流量の範囲で濾過することにより、図1に示した二次ピーク成分等を除去することができる。
【0067】
ポリビニルピロリドン溶解液中のポリビニルピロリドン濃度は、用いるポリビニルピロリドンの分子量により異なるが、重量平均分子量1,200,000のポリビニルピロリドンであれば0.1〜15質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では実用的でなく、15質量%を超えるとフィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えるため好ましくない。
【0068】
ポリビニルピロリドン溶解液の温度は、用いる溶剤及びフィルターの材質により異なるが、35〜120℃が好ましい。35℃未満では、フィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超え、120℃以上で長時間保温すると脱酸素状態であってもポリビニルピロリドンが架橋または変性する恐れがある。
【0069】
ポリビニルピロリドン溶解液の濾過流量は、0.01〜3mL(ミリリットル)/(分(単位時間)・cm(フィルター単位有効濾過面積あたり))であることが好ましい。0.01mL/(分・cm)未満では濾過流量が遅いため実用的でなく、3mL/(分・cm)を超えるとフィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えるため好ましくない。
【0070】
本発明で用いることができるフィルターは、その最小孔径(以下、単に「孔径」という)が0.01〜3μm、好ましくは0.1〜2μmである。フィルターの孔径が3μmより大きくなると、動的光散乱法により測定される粒径分布において最も題粒径側にあるピークのモード径を300nm以下とすることが難しく、孔径が0.01μm未満では濾過速度が低くて実用的でない。
【0071】
フィルター濾過時にポリビニルピロリドン溶解液に加える超音波振動はフィルター濾過後のポリビニルピロリドンの粒径を300nm以下にするのに必要である。超音波振動の周波数は20kHz以上1000kHz以下であることが好ましく、より好ましくは40kHz以上100kHz以下である。20kHz未満では効果が低い傾向にあるので好ましくない。1000kHzを超えると繰返し長時間超音波振動を与えたときにフィルター並びにフィルターハウジングが破損する怖れがあるので好ましくない。
【0072】
製膜原液は、温調可能な容器に超音波振動を加えながらフィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液と疎水性ポリマー(例えば、ポリスルホン系ポリマー(又はポリスルホン系ポリマーと溶剤))を入れ、攪拌機またはヘンシルミキサー等の混合機を用いて溶解することにより製造される。これは脱酸素状態雰囲気下で行うことが好ましい。
【0073】
ポリスルホン系ポリマー等の疎水性ポリマーにも不純物等が混入している可能性があることから、上記の方法で製膜原液を調製後、不純物又は未溶解物等を取り除くために再度孔径40μm以下程度のフィルターで濾過することが好ましい。
【0074】
本発明で用いることのできるポリスルホン系ポリマーとしては、下記の式(4)、または式(5)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。なお、式中のArはパラ位での2置換のフェニル基を示し、重合度や分子量については特に限定しない。
−O−Ar−C(CH32−Ar−O−Ar−SO2−Ar− (4)
−O−Ar−SO2−Ar− (5)
【0075】
ポリビニルピロリドン溶解液や製膜原液の溶剤としては、ポリスルホン系ポリマーとポリビニルピロリドンの両方を溶解するものであれば良く、例えば、ポリスルホン系ポリマーがポリスルホン系ポリマーであれば、溶剤はN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド等が用いられる。なお、溶剤は全て脱酸素したものを用いることが好ましい。
【0076】
本発明で用いられるポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、10,000〜1,300,000の範囲であることがより好ましい。本発明は、特に重量平均分子量800,000以上の高分子量のポリビニルピロリドンを用いた中空糸膜とする場合に有効であり、重量平均分子量800,000以上の高分子量のポリビニルピロリドンを用いてもピンホールや膜破れ等の欠陥部がない中空糸膜を得ることができる。
【0077】
製膜原液中の疎水性ポリマー(ポリスルホン系ポリマー等)の濃度は、該原液からの製膜が可能で、かつ得られた膜が膜としての性能を有するような濃度の範囲であれば特に制限されず、1〜50質量%、好ましくは10〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%である。高い透水性能又は大きな分画分子量を達成するためには、ポリマー濃度は低い方が良く、10〜25質量%が好ましい。また、製膜原液には、原液粘度、溶解状態を制御する目的で、水、塩類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、グリコール類等の非溶剤を複数添加することも可能であり、その種類、添加量は組み合わせにより随時決定すればよい。
【0078】
製膜原液中のポリビニルピロリドンの量は、1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%であるが、用いるポリビニルピロリドンの分子量により最適濃度が決定される。
【0079】
中空糸膜は、例えば、上記の製膜原液を、内部液とともに2重環状ノズルから凝固浴中に同時に吐出させ、凝固させることにより製造することができる。
【0080】
中空糸膜の製造に用いられる内部液は、中空糸膜の中空部を形成させるために用いるものである。外表面に緻密層を形成させる場合は、内部液としてジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等からなる郡より選ばれる溶剤の高濃度水溶液を用いることができる。内表面に緻密層を形成させる場合は、内部液には後述する凝固浴に記載したものを採用することができる。また、内部液の粘性を制御する目的でテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類及びグリセリン等の非溶剤を加えることも可能である。
【0081】
中空糸膜は、公知のチューブインオリフィス型の2重環状ノズルを用いて製膜することができる。より具体的には、前述の製膜原液と内部液とをこの2重環状ノズルから同時に吐出させ、エアギャップを通過させた後、凝固浴で凝固させることにより中空糸膜を得ることができる。
【0082】
ここで、「エアギャップ」とは、ノズルと凝固浴との間の距離(隙間)を意味する。膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造を有する膜を得るためには、紡速(m/分)に対するエアギャップ(m)の比率が極めて重要である。何故ならば膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造は、内部液中の非溶剤が製膜原液と接触することによって該製膜原液の内表面部位から外表面部位側へと経時的に相分離が誘発され、さらに該製膜原液が凝固浴に入るまでに膜内表面部位から外表面部位までの相分離が完了しなければ、得られないからである。
【0083】
紡速(Vs)に対するエアギャップ(Ga)の比率(Ga/Vs)は、中空糸膜の膜厚が34μm以上である場合には、0.01〜0.1m/(m/分)であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.05m/(m/分)である。紡速に対するエアギャップの比率が0.01m/(m/分)未満では、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造の膜を得ることが難しく、0.1m/(m/分)を超える比率では、膜へのテンションが高いことからエアギャップ部で膜切れを多発し製造しにくい傾向にあり好ましくない。
【0084】
一方、中空糸膜の膜厚が34μm未満である場合には、製膜原液中の良溶剤量が少ないのでGa/Vsが低くても膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造を得ることが可能である。膜厚が34μm未満ではGa/Vsが0.001〜0.01m/(m/分)であることが好ましい。
【0085】
ここで、紡速(Vs、単位:m/分)とはノズルから内部液とともに吐出した製膜原液がエアギャップを通過して凝固浴にて凝固した膜が巻き取られる中空糸膜の一連の製造工程における膜の移動速度をいい、延伸操作がある場合には延伸操作をする前までの中空糸膜の移動速度を意味する。また、エアギャップを円筒状の筒などで囲み、一定の温度と湿度を有する不活性ガスを一定の流量でこのエアギャップに流すと、より安定した状態で中空糸膜を製造することができる。なお、延伸を加える場合は、延伸操作を行う前までの中空糸膜の移動速度を意味する。
【0086】
さらに、製膜原液が吐出する紡口の断面積(As)と得られた膜の断面積(Am)の関係がフィブリルの太さに影響することが分かった。Am/Asは単位時間当たりの製膜原液の吐出量に対する膜形成ポリマーの残存率を意味する。従って、Am/Asが大きい程フィブリルの太い膜が得られる。Ga/Vs´(ここで、Vs´(m/秒)は前述の紡速Vs(分速)を、秒速に換算した値である。)とAm/Asの積(単位:m/(m/秒))が0.15以上0.75以下であれば、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造であって、膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比が1.2以上2.0以下であるの膜構造にすることが可能である。Ga/Vs´とAm/Asの積が0.15未満では膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比は1.2未満となりGa/Vs´とAm/Asの積が0.75を超えると膜厚方向の外側にあるフィブリルの平均太さと膜厚方向の内側にあるフィブリルの平均太さの比は2.0未満を超える傾向にある。
【0087】
さらに、Ga/Vs´とAm/Asの積の関係と他の製膜条件を調整することにより全フィブリルの平均太さを100nm以上200nm以下に調整することが可能である。
【0088】
凝固浴としては、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;エーテル類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類など重合体を溶解しない、製膜原液に対して相分離を誘発させる液体(非溶剤)が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、凝固浴に前記重合体の良溶剤を添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。
【0089】
凝固浴の温度は、−30〜100℃、好ましくは0〜98℃、さらに好ましくは10〜95℃である。凝固浴の温度が100℃を超えたり、又は、−30℃未満であると、凝固浴中の膜の表面の状態が安定しにくい。
【0090】
中空糸膜に電子線及びガンマー線等の放射線を照射することにより、膜中のPVPを架橋することが可能である。放射線の照射は、中空糸膜を用いて中空糸膜モジュールを製造する前、又は製造の後のどちらでもよい。
【0091】
中空糸膜に架橋度調整剤を付着した状態で放射線照射することにより、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度を適宜調整することが好ましい。
【0092】
中空糸膜に架橋度を付着した状態で放射線照射する方法としては、例えば、中空糸膜を、架橋度調整剤を含む溶液に浸漬させ、架橋度調整剤を含む溶液中で中空糸膜に放射線を照射する方法が挙げられる。
【0093】
架橋度調整剤としては、放射線照射に対してポリビニルピロリドンの架橋反応を阻害するものであれば特に限定されるものではない。しかしながら、血液浄化用途に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、生理的水溶液で洗浄しやすく、且つ毒性の低いものが好適に用いられる。なかでも水溶性ビタミン、グリセリン、マンニトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テロラエチレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリグリコール類、エタノール等のアルコール類、ポリエチレンイミン、ポリフェノール、トレハロース、グルコースなどの糖類、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩、二酸化炭素などが挙げられ、好適に使用される。これらの架橋度調整剤は単独で用いても良いし、2種類以上混合して用いてもよい。上記架橋度調整剤を溶解さえる溶媒としては、血液浄化用途に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、例えば、水溶液であることが好ましい。
【0094】
ポリビニルピロリドンに対して架橋処理を行う前に、上記架橋度調整剤を含む溶液で中空糸膜の膜内表面をコーティングすることで、ポリビニルピロリドンを必要以上に架橋されることを抑制できる。架橋度調整剤の溶液におけるポリビニルピロリドンの含有量が少ないことが好ましく、実質的にポリビニルピロリドンを含まないことがより好ましい。通常、ポリスルホン系ポリマー等の親水性樹脂からなる中空糸膜に対してポリビニルピロリドンを用いてコーティングすることが行われているが、意外にも、ポリビニルピロリドンを含まない溶液を用いてコーティングすることで、中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンの架橋度を効果的に制御することができる。
【0095】
特に、本発明の中空糸膜を医療用として用いる場合、衛生上の観点から放射線照射等により滅菌処理を行うが、この放射線処理によって必要以上にゲル化が進んでしまうことを防止できる。
【0096】
中空糸膜に付与させる架橋度調整剤の量や種類並びに中空糸膜の周りに存在させる架橋度調整剤の溶液中の濃度については、放射線照射線量並びに照射時間、目的とする架橋度により適宜調整することが可能である。
【0097】
水溶液などの溶液中で中空糸膜中のポリビニルピロリドンを架橋させるには、架橋度調整剤を含む上記溶液中の酸素を除くことが目的の架橋度を再現良く制御するのに有効である。
【0098】
ここで、「放射線照射」とは、電子線、ガンマー線等を用いた放射線照射をいい、その線量は5kGy以上50kGy以下であることが好ましく、15kGy以上30kGy以下であることがより好ましく、25kGy付近であることがさらに好ましい。
【0099】
次に、中空糸膜モジュールについて説明する。
【0100】
本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュールは、ケーシング内に中空糸膜を備える中空糸膜モジュールであり、通常、中空糸膜としては、複数のものからなる中空糸膜束を用いる。ここで
【0101】
中空糸膜モジュールは、血液浄化用に用いることができる。血液浄化とは、ヒトや動物等の血液中の尿素、水分等の不要物の除去並びに血液、血漿からの病気原因物質の除去をいう。例えば、高脂血病患者であれば、血液から血漿のみを取り出して、該血漿から脂質を除去することも可能である。中空糸膜モジュールは、特に透析用途として用いることが好ましい。
【0102】
中空糸膜モジュールを、血液浄化器として適用する場合には、中空糸膜モジュールは、血液の入口と出口および処理液の入口と出口を備えた容器に中空糸膜束を内蔵した構成を有しているものが好ましい。
【0103】
このような中空糸膜モジュールとしては、例えば、筒型ケーシング内に中空糸膜束を収容し、該中空糸膜束両端を封止部により固定すると共に前記封止部により前記ケーシング両端開口部を封止して、前記ケーシング内に中空糸膜内表面側の第一室と中空糸膜外表面側の第二室とを形成し、前記ケーシング両端部付近の外周面に前記第二室に通じる浄化処理液の供給ポート及び排出ポートを備え、前記筒型ケーシングの両端に前記第一室に通じる被処理液(血液等)の供給ポート及び排出ポートを備える閉塞蓋を取り付けた中空糸膜型モジュールが適用できる。
【0104】
中空糸膜モジュールは、抗凝固剤を添加したヒト血液を通液させたときに、前記中空糸膜に付着する成分の抽出液における乳酸脱水素酵素の酵素活性(以下、単に「酵素活性」と呼ぶ場合がある)が、0.6IU/mL/cm未満である。酵素活性は、0.3IU/mL/cm未満であることが好ましく、0.1IU/mL/cm以下であることがより好ましい。
【0105】
上記酵素活性は、中空糸膜モジュールを血液浄化器として適用したときの血液適合性の指標となる数値であり、この血液適合性は、中空糸膜のミニモジュールに血液を流した時に、中空糸膜に付着する白血球や血小板などに含まれる乳酸脱水素酵素(LactateDehydrogenase:以下「LDH」とも記す。)の酵素活性で評価することができる。
【0106】
本発明における「酵素活性」は、以下の手法で測定する。すなわち、有効長7cm、112本の中空糸膜を容器に充填した血液濾過器のミニモジュールを作製して、抗凝固剤としてヘパリン(HeparinSodium Injection、吉富製薬株式会社)を1,000IU/Lで添加したヒト血液30mlを1.8ml/minの流速で、ミニモジュールに37℃で18時間通液する。その後、ミニモジュールを生理的食塩水でよく洗浄して、中空糸膜に緩く付着している赤血球などの血球を洗浄除去する。洗浄後、ミニモジュールにおける前記ポリスルホン系中空糸膜を取り出し、0.5重量%Triton溶液(TritonX−100、Polysciences,Inc.)1mlに浸漬し、室温で60分間750rpmにて振盪することにより、中空糸膜に強く付着している白血球や血小板を溶解させて抽出液を得る。
【0107】
この抽出液中に含まれる血球由来のLDHの酵素活性を、次のようにして測定する。
【0108】
まず、0.6mMピルビン酸ナトリウム(和光純薬株式会社)/リン酸緩衝液(和光純薬株式会社):0.18mM還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(SIGMA)/リン酸緩衝液(和光純薬株式会社)=9:1で反応液を調製し、この反応液3mlに対して50μlの割合で上記抽出液を添加し、37℃で60分間加温する。その後、速やかに340nmで吸光度を測定し、未処理膜と比較しLDHの酵素活性値を算出する。単位膜面積当たりのLDHの酵素活性は、酵素活性を示す国際単位であるIUで表す。1IUは、37℃で1分間当たりに1マイクロモルの基質に作用する酵素量を意味する。
【0109】
このようにして測定された単位膜面積当たりのLDHの酵素活性が低い程、中空糸膜に付着している血球は少なく、中空糸膜を充填した血液濾過器は生体適合性に優れている、と判断される。
【0110】
中空糸膜モジュールの製造は、(1)中空糸膜製造用の製膜原液の作成工程、(2)製膜原液を凝固液中で凝固させる製膜工程、(3)架橋度の調整等を行なう後処理工程、(4)中空糸膜を複数束ねて中空糸膜束にする製束工程、(5)ケーシングに中空糸膜束を接着するモジュール化工程、(6)中空糸膜モジュールを梱包する梱包工程の工程を含み得る。更にこの後、(7)ユーザによる中空糸膜モジュールの使用が行なわれる。
【0111】
(1)工程から(6)工程(又は(7)の直前の工程)までは、脱酸素状態で行なわれることが好ましい。脱酸素状態にすることによりポリビニルピロリドンの酸化を究極に低減することが可能である。
【0112】
ポリビニルピロリドン及び疎水性ポリマー等の固形物の原材料は、減圧、不活性ガス置換、減圧等を数回繰り返して、無酸素状態にすることが好ましい。また、ポリビニルピロリドンは製造から使用時までを不活性ガス雰囲気下又は減圧状態で、決して酸素が入らないように管理することが好ましく、製造並びに製造工程に使用する溶剤、水等の溶液全てを脱酸素状態にすることが好ましい。脱気又は不活性ガスによりバブリングすることで脱酸素状態にすることが可能である。中でも、窒素、二酸化炭素等の不活性ガス置換は製造コストを安価にできるので好ましい。ガス分離膜や吸着剤等を利用して酸素を除去しながら窒素、二酸化炭素を循環すればより安価に利用することができるので好ましい。
【0113】
また、製造工程等の膜が接触する雰囲気を不活性ガスにすることで、酸素との接触を行わないことが可能である。上記(3)工程から(6)工程までも不活性ガス雰囲気内で行なうのが好適である。さらに、モジュール内に酸素が決して入らないようにキャップ等で気密又は液密にする。稀にモジュール内に空気が混入する対策として脱酸素剤を用いることも可能である。
【0114】
中空糸膜モジュールは、上述したように脱酸素状態で製造することができ、これにより、測定されたLDHの酵素活性を0.3IU/mL/cm未満にすることが可能となる。
【0115】
なお、中空糸膜をモジュール化するときのケーシング(ハウジング)の素材は、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、及びスチレン・ブタジエンブロックコポリマーの様な混合樹脂が用いられる。素材のコストの観点からポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマーが好ましく用いられる。ポリウレタン系の接着剤と相性と容器の強度から特にポリプロピレン系ポリマーが好ましい。ポリプロピレン系ポリマーを容器の素材に用いる場合、ポリウレタン系の接着剤との接着性を向上させるために本発明では容器をコロナ放電処理することが好ましい。さらに接着性を向上させるには、容器のみならず糸束にもコロナ放電処理することがより好ましい。糸束へのコロナ放電は、接着部位のみにおこなう。
【実施例】
【0116】
以下に実施例を示すが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0117】
実施例で行った各測定方法は、下記のとおりである。なお、測定サンプルとして使用した中空糸膜は、すべて十分に水を含浸させた状態のものを用いた。
【0118】
中空糸膜の破断強度は、(株)島津製作所製のオートグラフAGS−5Dを使用し、サンプル長さ30mm、25℃、引っ張りスピード50mm/分で測定した。
【0119】
破断強度は、中空糸膜1本当たりの破断時荷重を、引っ張る前の膜断面積当たりの算出(kgf/cm)で表し、破断伸度(伸び)は、元の長さに対する破断までに伸びた長さ(%)で表した。
【0120】
[ピンホールの検査方法]
中空糸膜を血液浄化器化して検査を行った。血液浄化器を水中に浸漬し、中空糸膜の内側から窒素ガスを差圧1.5kgf/cm2で30秒間かけて中空糸膜のピンホール検査を行った。
【0121】
[アルブミンの測定方法]
アルブミン(以下単に「Alb.」ともいう)の透過率は、以下のような方法で測定した。まず、中空糸膜を100本束ねて有効長18cmのミニ血液浄化器を作製した。
生理食塩水を加えて総タンパク濃度を6.5g/dLに調整した牛血清を元液とし、これを線速0.4cm/秒でミニモジュールに通液し、膜間圧力差25mmHgの圧力をかけて濾液を採取した。元液と測定環境の温度は25℃とした。また、ミニモジュールを構成する中空糸膜は湿潤状態でも乾燥状態でも構わない。続いて、アルブミンの濃度をBCG法によって求め、次の式(4)で求められる値をアルブミンの透過率と定義する。
Alb.の透過率(%)=濾液のAlb.濃度/元液のAlb.濃度×100・・・(4)
ここで、透過率は60分間通液後の値を使用する。
【0122】
[生体適合性試験]
有効長7cm、112本の前記ポリスルホン系中空糸膜を容器に充填した血液濾過器のミニモジュールを用いて、以下の生体適合性試験を行った。
【0123】
予め生理的食塩水で洗浄し抗凝固剤としてヘパリン(HeparinSodium Injection、吉富製薬株式会社)を1,000IU/Lで添加したヒト血液30mlを、1.8ml/minの流速で上記作製したミニモジュールに37℃で18時間循環させた。その後、該ミニモジュールを生理的食塩水で洗浄し、該ミニモジュールにおけるポリスルホン系中空糸膜を取り出し0.5%Triton溶液(TritonX−100、Polysciences、Inc.)1mlに浸漬し、室温で60分間750rpmにて振盪することにより、該ミニモジュールにおけるポリスルホン系中空糸膜に強く付着している白血球や血小板を溶解させて抽出液を得た。この抽出液中に含まれるLDHの酵素活性を測定した。尚、測定は3回行い、平均値として記載した。
【0124】
<実施例1>
1)N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンの製造
反応容器内にγ−ブチロラクトン、2−アミノエタノール及び水を仕込み、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンの製造を行った。2−アミノエタノール/γ−ブチロラクトンのモル比は1.0、γ−ブチロラクトン/水のモル比は1.1、反応温度は250℃及び反応時間は2時間、であった。得られた反応生成物は、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン73.0重量%、低沸点成分21.1重量%(2−アミノエタノール0.1重量%、γ−ブチロラクトン1.0重量%及び水20.0重量%)及び高沸点成分5.9重量%を含有するものであった。蒸留により、この反応生成物から精製N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンを回収した。このものの不純物測定によれば、γ−ブチロラクトン並びに2−アミノエタノール(低沸点成分)及び高沸点成分は検出されなかった。
【0125】
2)N−ビニル−2−ピロリドンの製造並びに精製
硝酸リチウム3.45gを水50gに溶解させ、90℃で加熱、攪拌しながら酸化珪素30gを加えて加熱濃縮後、空気中120℃で20時間乾燥した。得られた固体を9〜16メッシュに破砕し、空気中500℃で2時間焼成することによって、酸素を除く原子比でLi1Si10(Li:Si=1:10)なる組成の触媒を調製した。この触媒5mLを内径10mmのステンレス製反応管に充填し、該反応管を400℃の溶融塩浴に浸漬した。該反応管にN−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンの分圧が1.01×104Pa(76mmHg)になるように窒素で希釈した原料ガスを、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンの空間速度200h−1で供給して反応させ、得られた窒素を除く反応ガス(N−ビニル−2−ピロリドン)を冷却捕集した。得られたN−ビニル−2−ピロリドンを蒸留装置により蒸留することにより純度が99.99%、有機不純物が65ppmのN−ビニル−2−ピロリドンを得た。
【0126】
3)ポリビニルピロリドンの製造並びに精製
<重合工程>
攪拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、イオン交換水640部およびN−ビニル−2−ピロリドン160部を仕込み、この単量体水溶液を攪拌しながら、窒素ガスを導入して溶存酸素を除去した後、攪拌しながら、反応器の内温が75℃になるように加熱した。この反応器に、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.44部をイソプロパノール4.5部に溶解した重合開始剤溶液を添加して重合を開始した。重合開始剤溶液を添加した後、重合反応による内温の上昇が認められた時点から、ジャケット温水温度を内温に合わせて昇温して反応を行った。
<酸処理工程>
重合開始剤溶液を添加してから約3時間反応を継続した後、マロン酸0.14部をイオン交換水1.8部に溶解した酸水溶液を添加して、反応液をpH3.5に調整し、90℃で90分間内温を維持した。
<アルカリ処理工程>
次いで、炭酸グアニジン0.4部をイオン交換水4.2部に溶解したアルカリ水溶液を添加して、反応液をpH6.7に調整し、90℃で30分間内温を維持して、20wt%のポリビニルピロリドンを含有するポリマー水溶液を得た。
<酸化防止剤添加工程>
得られたポリマー水溶液に、酸化防止剤としてサリチル酸ナトリウム0.8部を添加して、攪拌しながら溶解させた。
<濾過工程>
得られたポリマー水溶液(サリチル酸ナトリウム含有)をイオン交換水で濃度5wt%に希釈した。孔径8μmのポリカーボネート製フィルター(Advantec社製、直径47mm)を濾過器にセットし、イソプロパノール50gを濾過し、さらにイオン交換水50gを濾過して、フィルターを親水化した。次いで、この濾過器を用いて、濃度5wt%に希釈したポリマー水溶液を吸引濾過した。
<乾燥・粉砕工程>
濾過したポリマー水溶液をドラムドライヤーに投入し、ドラム表面温度140℃で20秒間(ドラム回転数1.5rpm)乾燥した後、ヴィクトリーミルVP−1(ホソカワミクロン(株)製)を用いて粉砕して、固形分が97.2wt%、平均粒子径が260μm、K値が90であるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。また、重量平均分子量は1,200,000であり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値は2.90であった。
<評価>
得られたポリビニルピロリドン中の不溶物の含有量は40ppmであった。また、得られたポリビニルピロリドンを40℃の乾燥空気中で3ヶ月間保存した。K値は90であり、K値の低下は見られなかった。
【0127】
(ポリビニルピロリドン溶解液の作製及び該溶解液の濾過)
本工程は全て脱酸素状態で又は不活性ガス雰囲気下で行った。100℃以下の温度での不活性ガス雰囲気下での乾燥により含水率を0.3質量%以下とした上記のポリビニルピロリドン84gをジメチルアセトアミド1576gに溶解して均一な溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)とした(ポリビニルピロリドン濃度5.06質量%)。なお、ジメチルアセトアミドは充分に脱気を行って酸素が含まれていないものを使用した。
【0128】
この溶液を70℃に保温して孔径2μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS−02S2、有効濾過面積20cm)を用いて濾過流量2mL/(分・cm)にて濾過した。濾過中は焼結フィルターを超音波洗浄機中に浸漬して、ポリビニルピロリドン溶解液に常時59kHz(出力3kW)の超音波振動を付与した。フィルター濾過後のポリビニルピロリドン溶解液を5.0質量%の濃度になるように調整して、動的光散乱装置にて測定したときのポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、130nmであった。動的光散乱装置によるポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、10回測定した平均値を用いた。尚、平均値の算出時には、最大値と最小値を除いた8点の値を用いた。
【0129】
(製膜原液の作製及び製膜)
本工程は全て脱酸素状態で又は不活性ガス雰囲気下で行った。また、使用する溶剤、水等の液体類は全て脱酸素したものを使用した。上記のフィルター濾過後の溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)830gに芳香族ポリスルホン(Amoco Engineering Polymers社製 P−1700)170gを添加して溶解することにより均一な溶液(製膜原液)を作製した。ポリスルホンの未溶解物等を除去するために、この製膜原液を孔径5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD−5、有効濾過面積40cm)を用いて濾過した。
【0130】
この溶液(製膜原液)を脱泡後60℃に保ち、ジメチルアセトアミド55質量%と水45質量%との混合溶液からなる内部液とともに、紡口(2重環状ノズル 0.1mm−0.2mm−0.3mm)から吐出(内部液は内壁直径0.1mmの環状ノズルから吐出、製膜原液は外壁直径0.2mmと内壁直径0.3mmの間から吐出)させ、380mmのエアギャップを通過させて70℃の水からなる凝固浴に浸漬させた。この時、紡口から凝固浴までを円筒状の筒で囲み、筒の中のエアギャップの湿度を100%、温度を45℃に制御した。紡速は27m/分に固定した。得られた中空糸膜を巻取る前にクリンパー(中空糸膜へのクリンプ付与装置)で波長6mm、振幅0.6mmのクリンプを付与した。クリンパーでの乾燥温度を155℃、乾燥時間を120秒に設定した。
【0131】
(血液浄化器の製造)
本工程は全て脱酸素状態で又は不活性ガス雰囲気下で行った。また、使用する溶剤、水等の液体類は全て脱酸素したものを使用した。巻き取った9600本の中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積が1.5mとなるように設計したポリプロピレン製筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。さらに、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。
【0132】
グリセリン(和光純薬社製、特級)15gとグルコース(和光純薬社製、特級)5gを0.1質量%のチオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製、特級)水溶液80gに溶解した溶液を作成した(これを濃度20質量%の(グリセリン+グルコース)溶液と呼ぶ)。この溶液を0.1質量%のチオ硫酸ナトリウム水溶液で40倍に希釈した溶液((グリセリン+グルコース)濃度0.5質量%)を該血液浄化器内に注入して中空糸膜の内/外に該溶液が十分に浸かるようにした。該溶液は窒素で充分バブリングした。このとき、該溶液中には酸素が無いことを確認した。その後、該血液浄化器に電子線を20kGy照射した。
【0133】
(動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径の測定)
放射線照射後の血液浄化器から抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、130nmであった。血液浄化器のピンホール検査を行ったが欠損糸は見つからなかった。この膜の性能を表1に示す。
【0134】
本中空糸膜を1.5mの血液浄化器に作成して放射線照射後にビタミンB12のクリアランス値並びにリンのクリアランス値を測定した値は、それぞれ156mL/分、190mL/分であった。アルブミンの透過率は、0.25%であった。また、LDHの酵素活性は0.1IU/mL/cm2であった。
本発明は、白血球や血小板などの血球の付着が少ない等の優れた生体適合性を有する中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0135】
<比較例1>
100℃以下の温度での乾燥により含水率を0.3質量%以下としたポリビニルピロリドン(BASF社製、K値90、重量平均分子量1,200,000)を用いた以外は実施例1と同様な操作を行った。
【0136】
<比較例2>
溶剤並びに製造工程を脱酸素状態にしない以外は、実施例1と同様な操作を行った。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に中空糸膜を備える中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜は、疎水性ポリマーとポリビニルピロリドンを含む中空糸膜であり、
抗凝固剤を添加したヒト血液を通液させたときに、前記中空糸膜に付着する成分の抽出液における乳酸脱水素酵素の酵素活性が、0.6IU/mL/cm未満である、中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記ポリビニルピロリドンは、以下の式で定義されるK値が75以上であり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値が2.95以下である、請求項1記載の中空糸膜モジュール。
【数1】


[式中、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。]
【請求項3】
前記中空糸膜は、クリンプ形状を有する請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール
【請求項4】
前記中空糸膜の膜厚は、25μm以上40μm以下である請求項1〜3の何れか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜は、
膜厚が30μm以下の場合には、破断強度が7.5MPa以上、破断伸度が70%以上であり、
膜厚が30μmを超え35μm以下の場合には、破断強度が7MPa以上、破断伸度が65%以上であり、
膜厚が35μmを超える場合には、破断強度が6MPa以上、破断伸度が60%以上である、請求項1〜4の何れか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記中空糸膜は、孔径が外表面から内表面に向かって連続的に減少した中空糸膜であり、且つスポンジ構造を有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
血液浄化用である、請求項1〜6の何れか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
アルブミンの透過率が0.35%以下である、請求項1〜7の何れか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、請求項1〜8の何れか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項10】
前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンは、
架橋度調整剤を中空糸膜内に注入し、前記中空糸膜に放射線照射することにより、架橋度を80%以上100%未満にされたものである、請求項9記載の中空糸膜モジュール。
【請求項11】
ケーシング内に、疎水性ポリマーとポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を備える中空糸膜モジュールの製造方法であって、
製造が、実質的に前記ポリビニルピロリドンが酸化しない状態で行われる、製造方法。
【請求項12】
前記中空糸膜の製膜原液作成から中空糸膜モジュールの梱包までの全工程を、無酸素状態で行う、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
前記無酸素状態が、不活性ガスにより達成されたものである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記不活性ガスが窒素である、請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
前記ポリビニルピロリドンは、40℃の窒素雰囲気下で40日間保存後の、以下の式で定義されるK値の低下量が1未満である、請求項11〜14の何れか一項に記載の製造方法。
【数2】


[式中、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。]
【請求項16】
前記ポリビニルピロリドンは、酸化防止剤を含有するポリビニルピロリドンである、請求項11〜15の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記酸化防止剤は、サリチル酸ナトリウムである、請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記ポリビニルピロリドンは、第2級アミン又はその塩を含有するポリビニルピロリドンである、請求項11〜17の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記第2級アミンは、ジエタノールアミンである、請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
前記ポリビニルピロリドンは、以下の式で定義されるK値が75以上であり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値が2.95以下である、請求項11〜19の何れか一項に記載の製造方法。
【数3】


[式中、Cは前記ポリビニルピロリドンの水溶液におけるポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは、23℃にて毛細管粘度計にて測定された、濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である。]
【請求項21】
前記ポリビニルピロリドンは、γ−ブチロラクトンとモノエタノールアミンから得たN−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンを気相脱水反応させて製造したN−ビニル−2−ピロリドンを重合したポリビニルピロリドンである、請求項11〜20の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記N−ビニル−2−ピロリドンは、N−ビニル−2−ピロリドンの純度が99.98%以上、有機不純物量が80ppm以下である、請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
前記中空糸膜は、前記ポリビニルピロリドンを含む溶液を孔径3μm以下の焼結フィルターで超音波振動を加えながら濾過し、これに前記疎水性ポリマーを添加した原液から製造される、請求項11〜22の何れか一項に記載の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−212233(P2011−212233A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83438(P2010−83438)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】