説明

乗り物

【課題】運転状況を考慮してエンジン停止が必要か否かを精度良く判定できるようにする。
【解決手段】車体が所定角度以上に傾斜した状態を検出する傾倒センサ25と、自動二輪車1のスロットルバルブの回転角度を検出するスロットル開度センサ16と、傾倒センサ25及びスロットル開度センサ16からの出力に基づいて自動二輪車1の転倒状態を判定する判定部26とを備え、判定部26は、スロットル開度センサ16からの出力の変化量が所定値より小さい状態が所定時間以上にわたって継続した場合に、エンジンEの停止が必要であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車や不整地走行車(三輪又は四輪)や小型滑走艇(Personal Water Craft:PWC)等のようなエンジンを搭載した乗り物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフューエルインジェクションシステム(FIシステム)を用いた乗り物では、ECUにより制御されたインジェクタによりエンジンへの吸気通路に燃料を計量・噴射している。一般的なFI仕様の乗り物では、そのボディの傾斜を検知する傾倒センサにより、ボディが所定角度以上に傾いたことが検知されると、ECUは燃料噴射を止めてエンジンを停止させる制御を実施している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−176734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、モトクロスタイプの自動二輪車等では、山岳路やオフロードコースでジャンプしたり、そのジャンプ中の姿勢をコントロールするために車体を傾けて調節する場合等がある。そうすると、車体の傾きを検知する傾倒センサからの情報だけでは、エンジン停止が不要と考えられる場合と、エンジン停止が必要と考えられる場合とを区別することが難しくなる。
【0004】
また、オフロード競技中には、たとえ転倒してしまっても、車体が軽く倒れただけでライダーが立ってグリップを把持したままでいる場合等には、ライダーはエンジンを停止せずに直ぐに車体を起こして発進させたいものである。しかし、傾倒センサからの情報だけでは、そのようなエンジン停止が不要な場合とエンジン停止が必要な場合とを区別することはやはり難しい。
【0005】
そこで、本発明は、運転状況を考慮してエンジン停止が不要な場合とエンジン停止が必要な場合とを精度良く判定できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る乗り物は、エンジンと、乗り物が所定角度以上に傾斜した状態を検出する傾倒センサと、前記傾倒センサ以外で前記乗り物の運転状態を検出する運転状態センサと、前記傾倒センサ及び前記運転状態センサからの出力に基づいて前記エンジンの停止が必要か否かを判定する判定部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によれば、傾倒センサからの出力だけではなく、運転状態センサからの出力も併せてエンジン停止が必要か否かの判定に用いられているので、乗り物が所定角度以上傾斜しながらもエンジン停止が不要な運転状態である場合を、エンジン停止が必要な場合と区別するように判定することが可能となる。したがって、乗り物の傾斜角度以外の運転状況を考慮して、エンジン停止が不要な場合とエンジン停止が必要な場合とを精度良く判定することができる。
【0008】
前記運転状態センサは、前記エンジンへの吸気通路内に設けられたスロットルバルブの回転角度を検出するスロットル開度センサとし、前記判定部は、前記傾倒センサで乗り物が所定角度以上に傾斜したことが検出され、かつ、前記スロットル開度センサからの出力の変化量が所定値より小さい状態が所定時間以上にわたって継続した場合に、前記エンジンの停止が必要であると判定する構成であってもよい。
【0009】
前記構成によれば、運転者がスロットル操作をする意思がないと推定することができるので、運転者が意図的に乗り物を傾斜させる場合や、転倒後に直ちに発進させる場合に該当せず、エンジン停止が必要な場合であると判定することができる。
【0010】
前記運転状態センサは、前記エンジンへの吸気通路内に設けられたスロットルバルブの回転角度を検出するスロットル開度センサと、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサと、前記乗り物のクラッチのON/OFFを検出するクラッチスイッチと、前記乗り物のブレーキのON/OFFを検出するブレーキスイッチと、前記乗り物の変速ギヤの位置を検出するギヤポジションセンサと、前記乗り物の加速度を検出する加速度センサと、前記乗り物の移動速度を検出する速度センサと、前記乗り物の存在位置を検出するGPSセンサと、ステアリングハンドルを運転者が把持する圧力を検出するグリップ感圧センサと、前記乗り物のサスペンションの伸縮状態を検出するサスペンションストロークセンサ、のうちから選ばれる少なくとも1つのものであってもよい。
【0011】
前記構成によれば、乗り物が所定角度以上に傾斜したことが傾倒センサにより検出された際に、乗り物の様々な運転状態も併せて考慮することで、エンジン停止が必要か否かを精度良く判定することができる。
【0012】
具体的には、運転状態センサとしてエンジン回転数センサを選んだ際には、エンジン回転数センサからの出力の減少状態が所定時間以上にわたって継続した場合と、エンジン回転数センサからの出力がアイドリング状態であることが所定時間以上にわたって継続した場合とに、判定部は、運転者が走行を継続する意思がなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0013】
運転状態センサとしてクラッチスイッチを選んだ際には、クラッチスイッチからの出力として運転者によりクラッチが所定時間以上にわたって操作されていない場合に、判定部は、乗り物が走行中ではなくエンジン停止が必要な場合あると判定する構成であってもよい。
【0014】
運転状態センサとしてブレーキスイッチを選んだ際には、ブレーキスイッチからの出力として運転者によりブレーキが所定時間以上にわたって操作されていない場合に、判定部は、乗り物が走行中ではなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0015】
運転状態センサとしてギヤポジションセンサを選んだ際には、ギヤポジションセンサからの出力としてギヤポジションが所定時間以上にわたって変化しない場合に、判定部は、乗り物が走行中ではなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0016】
運転状態センサとして加速度センサを選んだ際には、加速度センサからの出力として乗り物の加速度が所定時間以上にわたって所定値以上変化しない場合に、判定部は、乗り物が走行中ではなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0017】
運転状態センサとして速度センサを選んだ際には、速度センサからの出力として乗り物の走行方向の速度が所定値未満である状態が所定時間以上にわたって継続した場合に、判定部は、運転者が走行を継続する意思がなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0018】
運転状態センサとしてGPSセンサを選んだ際には、GPSセンサからの出力として乗り物が所定時間以上にわたって移動しない場合に、判定部は、乗り物が走行中ではなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0019】
運転状態センサとしてグリップ感圧センサを選んだ際には、グリップ感圧センサからの出力としてステアリングハンドルが運転者により所定時間以上にわたって把持されていない場合に、判定部は、乗り物が走行中ではなくエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。
【0020】
運転状態センサとしてサスペンションストロークセンサを選んだ際には、サスペンションストロークセンサからの出力としてサスペンションストロークが最大値となる前の所定時間内にサスペンションストロークが所定値未満となっていない場合に、判定部はエンジン停止が必要な場合であると判定する構成であってもよい。即ち、レース等において、ジャンプ中に車体が大きく傾いた状態で運転する場合等には、ジャンプ前にサスペンションストロークが一旦短くなり、ジャンプ中に地面からの負荷がなくなるためにサスペンションストロークが最大となる。よって、サスペンションストロークがこの現象に合致しない場合にエンジン停止が必要な場合であると判定することで、ジャンプ中における意図的な乗り物の傾斜をエンジン停止が必要な場合であると検知することがない。
【0021】
前記エンジンへの吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記燃料噴射装置の動作を制御する燃料制御部とをさらに備え、前記燃料制御部は、前記判定部で前記エンジンの停止が必要であると判定されると、前記燃料噴射装置から前記吸気通路内への燃料の噴射を停止させる構成であってもよい。なお、前記燃料噴射装置はエンジンシリンダに燃料を直噴することを含むものである。
【0022】
前記構成によれば、判定部によりエンジン停止が必要な場合であると判定された場合に、燃料制御部から電子的に燃料噴射装置に燃料カットを指令することで、即座にエンジンを停止させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、乗り物の傾斜角度だけでなく乗り物の運転状態も考慮しているので、エンジン停止が必要であるか否かを精度良く判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、自動二輪車に搭乗した運転者(図示せず)から見た方向を基準とする。
【0025】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る自動二輪車1の側面図である。図1に示すように、自動二輪車1は、オフロードタイプであり、所定のキャスター角をもって略上下方向に設けられたフロントフォーク2を備え、該フロントフォーク2の下端部には操舵輪である前輪3が回転自在に軸支されている。フロントフォーク2の上部は図示しないロアブラケットやアッパーブラケットに支持されており、アッパーブラケットの上部のハンドル支持部4にはバー型のステアリングハンドル5が取り付けられている。図示しないステアリングシャフトは、フレーム6を構成するヘッドパイプ7によって回動自在に軸支されており、ライダーがステアリングハンドル5を左右に傾動させることで前輪3が操舵される。
【0026】
フレーム6は、ヘッドパイプ7と、該ヘッドパイプ7の上部から若干下方に傾斜しながら後方へ延びる左右一対のメインパイプ8とを備えている。ヘッドパイプ7の下部からは若干後方に向きながら下方へ延びるダウンチューブ9の上部が接続されている。ダウンチューブ9の下部からはロアパイプ10が側面視で略L字状に湾曲して後方に延びている。また、メインパイプ8の後部は、左右一対のスイングアームブラケット11によりロアパイプ10の後部に接続されている。スイングアームブラケット11には、略前後方向に延びるスイングアーム12の前部が枢支されており、スイングアーム12の後部に駆動輪である後輪13が回転自在に軸支されている。スイングアームブラケット11の上部とスイングアーム12との間には、左右のスイングアームブラケット11の間を略上下方向に通過するリヤサスペンション14が介設されている。(なお、フレーム6は、ヘッドパイプ7以外はパイプ状に限られず、所要の強度を有するフレームであればよい。)
【0027】
フレーム6を構成するヘッドパイプ7、メインパイプ8、ダウンチューブ9、ロアパイプ10及びスイングアームブラケット11によって囲まれた空間内にはエンジンEが搭載され、フレーム6の各部に固定されている。エンジンEのシリンダ部の吸気ポートには公知のスロットル装置15が接続されている。スロットル装置15は、スロットルシャフト(図示せず)に固定されたバタフライ式のスロットルバルブ(図示せず)を開閉することでエンジンEへの吸気量を調節する構成である。そのスロットルシャフト(図示せず)の左端部には、スロットルシャフトの回転角度を検出することでスロットルバルブの開度が検出可能なスロットル開度センサ16が設けられている。また、エンジンEの吸気ポート近傍にはスロットルバルブの下流の吸気通路に燃料を計量・噴射する燃料噴射装置17が設けられている。
【0028】
スロットル装置15の後部にはスイングアームブラケット11とリヤサスペンション14との間で後方に延びる吸気ダクト18が接続され、吸気ダクト18の後部にはエアクリーナ19が接続されている。エンジンEの出力軸(図示せず)は、チェーン20を介して後輪13に動力を伝達している。メインパイプ8の上方には燃料タンク21が設けられ、燃料タンク21の後方には運転者が跨るシート22が配置されている。シート22の下方には各種機器の制御を行うECU23(電子制御ユニット)が配置されており、スロットル装置15の近傍のスイングアームブラケット11の内側面には傾倒センサ25が固定されている。
【0029】
図2は図1に示す自動二輪車1のエンジン停止装置24を表したブロック図である。図2に示すように、エンジン停止装置24は、傾倒センサ25、スロットル開度センサ16、ECU23及び燃料噴射装置17を備えている。傾倒センサ25は、後で詳述するように自動二輪車1の車体が所定角度以上に傾斜した状態を検出する機能を有する。スロットル開度センサ16は、スロットルバルブ(図示せず)の開度を検出し、運転状態センサの役目を果たしている。燃料噴射装置17は、エンジンEへの吸気通路あるいはシリンダー内に燃料を計量・噴射する機能を有する。ECU23は、傾倒センサ25及びスロットル開度センサ16からの出力に基づいて燃料噴射装置17を制御する。具体的には、ECU23は、傾倒センサ25及びスロットル開度センサ16からの出力に基づいて自動二輪車1のエンジンEの停止が必要か否かを判定する判定部26と、この判定部26によりエンジンEの停止が必要であると判定された場合に、吸気通路内への燃料の噴射を停止させるように燃料噴射装置17の動作を制御する燃料制御部27とを備えている。
【0030】
図3は図2に示すエンジン停止装置24の傾倒センサ25の正面図である。図4は図3に示す傾倒センサ25の側断面図である。図3及び図4に示すように、傾倒センサ25は、そのケース30内に、振子式の着磁されたムーブメント31が回転軸32に回動自在に支持されている。ケース30は、下ケース33と上ケース34とからなり、下ケース33にはフレーム6(図1参照)に固定するための取付座33aが設けられている。上ケース34の内部には回路基板36が設けられており、回路基板36にはムーブメント31の所定角度以上の回動状態を検知するホールIC35が設けられている。回路基板36は、ホールIC35が検知状態となったときに検知信号を出力する検知回路を有している。
【0031】
上ケース34には、回路基板36に接続される電源、アースおよび検知信号出力のための各端子を収容するコネクタ部34aが形成されている。ムーブメント31は、その上部に基凖位置に対して左右対称となるように所定の開き角度をもった切欠部31aを有し、その下部には切欠部31aに対して回転軸32を基準に点対称となる位置に配置された錘部31bを有している。ホールIC35は、ユニポーラ感応タイプであり、ムーブメント31が回動し、そのムーブメント31の所定位置に着磁されたS極が対向したときに検知状態となる構成である。
【0032】
次に、エンジン停止装置24の処理手順について主に図5の流れに沿って説明する。図5は図2に示すエンジン停止装置24の処理を説明するフローチャートである。図5に示すように、自動二輪車1のエンジンEが始動すると、ECU23の判定部26(図2参照)は、傾倒センサ25及びスロットル開度センサ16からの出力を受信して運転状態のモニタリングを開始する(ステップS1)。ECU23の判定部26(図2参照)は、傾倒センサ25からの出力に基づいて車体の傾斜角度を演算し、その車体傾斜角度が所定値以上(例えば、70°以上)となる状態が所定時間以上続いているか否かを判断する(ステップS2)。
【0033】
車体傾斜角度が所定値以上となる状態が所定時間以上続いていない場合には、ECU23は、その運転状態(車体傾斜角度の時刻歴)を自身の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS5)、ステップS2に戻る。一方、車体傾斜角度が所定値以上となる状態が所定時間以上続いた場合には、ECU23の判定部26(図2参照)は、スロットル開度センサ16からの出力に基づいてスロットル開度を演算し、そのスロットル開度が所定値未満となる状態(例えば、アイドリング状態)が所定時間以上続いているか否かを判断する(ステップS3)。
【0034】
スロットル開度が所定値未満となる状態が所定時間以上続いていない場合には、ECU23は、エンジンEの停止が必要な場合でないと判定し、その運転状態(スロットル開度の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS5)、ステップS2に戻る。一方、スロットル開度が所定値未満となる状態が所定時間以上続いた場合には、ECU23の判定部26(図2参照)は、運転者がスロットル操作をする意思がないと推定し、エンジンEの停止が必要な場合であると判定し、燃料噴射装置17(図2参照)による燃料噴射を停止させる(ステップS4)。
【0035】
以上に説明した構成によれば、傾倒センサ25からの出力だけではなく、スロットル開度センサ16からの出力も自動二輪車1の車体の傾倒状態の判断に用いられているので、自動二輪車1が所定角度以上傾斜しながらも、エンジンEの停止が不要な運転状態である場合を、エンジンEの停止が必要な場合と区別するように判定することが可能となる。したがって、自動二輪車1の傾斜角度以外の運転状況を考慮して、エンジンEの停止が不要な場合とエンジンEの停止が必要な場合とを精度良く判定することができる。
【0036】
(第2実施形態)
図6は本発明の第2実施形態に係る自動二輪車のエンジン停止装置40を表したブロック図である。なお、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付して説明を省略している。図6に示すように、エンジン停止装置40は、傾倒センサ25、エンジン回転数センサ41、クラッチスイッチ42、ブレーキスイッチ43、ギヤポジションセンサ44、加速度センサ45、速度センサ46、GPSセンサ47、グリップ感圧センサ48、ECU50及び燃料噴射装置17を備えている。
【0037】
エンジン回転数センサ41は、エンジンE(図1参照)のクランク軸に接続されるクランク角センサからなり、単位時間あたりのクランク角の変化量をECU50で算出することでエンジン回転数を検出可能とする機能を有する。クラッチスイッチ42は、自動二輪車のクラッチ(図示せず)のON/OFF動作を検出する機能を有する。ブレーキスイッチ43は、自動二輪車のブレーキ(図示せず)のON/OFF動作を検出する機能を有する。ギヤポジションセンサ44は、自動二輪車の変速ギヤの位置を検出する機能を有する。加速度センサ45は、自動二輪車の加速度を検出する機能を有する。速度センサ46は、自動二輪車の移動速度を検出する機能を有する。GPSセンサ47は、GPS(Global Positioning System)システムを利用して自動二輪車の存在位置あるいは自動二輪車の移動状況等を検出する機能を有する。グリップ感圧センサ48は、運転者がステアリングハンドル5(図1参照)を握る圧力を検出する機能を有する。
【0038】
ECU50は、傾倒センサ25、及び、運転状態センサとなるセンサ・スイッチ類41〜48からの出力に基づいて燃料噴射装置17を制御する。具体的には、ECU50は、傾倒センサ25及びその他のセンサ・スイッチ類41〜48からの出力に基づいてエンジン停止が必要か否かを判定する判定部51と、この判定部51によりエンジン停止が必要であると判定された場合に、吸気通路内への燃料の噴射を停止させるように燃料噴射装置17の動作を制御する燃料制御部52とを備えている。
【0039】
次に、エンジン停止装置40の処理手順について主に図7の流れに沿って説明する。図7は図6に示すエンジン停止装置40の処理を説明するフローチャートである。図7に示すように、自動二輪車のエンジンが始動すると、ECU50の判定部51(図6参照)は、傾倒センサ25及びその他のセンサ・スイッチ類41〜48からの出力を受信して運転状態のモニタリングを開始する(ステップS10)。ECU50の判定部51(図6参照)は、傾倒センサ25からの出力に基づいて車体の傾斜角度を演算し、その車体傾斜角度が所定値以上(例えば、70°以上)となる状態が所定時間以上続いているか否かを判断する(ステップS11)。
【0040】
車体傾斜角度が所定値以上となる状態が所定時間以上続いていない場合には、ECU50は、その運転状態(車体傾斜角度の時刻歴)を自身の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、車体傾斜角度が所定値以上となる状態が所定時間以上続いた場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、エンジン回転数センサ41からの出力に基づいてエンジン回転数を演算し、エンジン回転数が減少傾向である状態、又は、エンジン回転数がアイドリング回転数である状態が所定時間以上にわたって継続しているか否かを判断する(ステップS12)。
【0041】
エンジン回転数が減少傾向である状態、又は、エンジン回転数がアイドリング回転数である状態が所定時間以上にわたって継続していない場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(エンジン回転数の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、エンジン回転数が減少傾向である状態、又は、エンジン回転数がアイドリング回転数である状態が所定時間以上にわたって継続した場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、クラッチスイッチ42が所定時間以上にわたってOFF(未操作状態)であるか否かを判断する(ステップS13)。
【0042】
クラッチスイッチ42が所定時間以上にわたってOFF(未操作状態)でない場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(クラッチ操作状態の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、クラッチスイッチ42が所定時間以上にわたってOFF(未操作状態)である場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、ブレーキスイッチ43が所定時間以上にわたってOFF(未操作状態)であるか否かを判断する(ステップS14)。
【0043】
ブレーキスイッチ43が所定時間以上にわたってOFF(未操作状態)でない場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(ブレーキ操作状態の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、ブレーキスイッチ43が所定時間以上にわたってOFF(未操作状態)である場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、ギヤポジションセンサ44からの出力に基づいて変速ギヤの位置を判別し、変速ギヤの位置が所定時間以上にわたって変化していないかどうかを判断する(ステップS15)。
【0044】
変速ギヤの位置が所定時間内に変化している場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(ギヤポジションの時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、変速ギヤの位置が所定時間以上にわたって変化していない場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、加速度センサ45からの出力に基づいて自動二輪車の加速度を演算し、加速度が所定時間以上にわたって所定値以上変化していないかどうかを判断する(ステップS16)。
【0045】
加速度が所定時間以上にわたって所定値以上変化している場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(加速度の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、加速度が所定時間以上にわたって所定値以上変化していない場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、速度センサ46からの出力に基づいて自動二輪車の速度を演算し、速度が所定値未満である状態が所定時間以上にわたって継続しているか否かを判断する(ステップS17)。
【0046】
速度が所定値未満である状態が所定時間以上にわたって継続していない場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(速度の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、速度が所定値未満である状態が所定時間以上にわたって継続した場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、GPSセンサ47からの出力に基づいて自動二輪車の位置情報を演算し、自動二輪車が所定時間以上にわたって移動していないかどうかを判断する(ステップS18)。
【0047】
自動二輪車が所定時間内に移動している場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(位置情報の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、自動二輪車が所定時間以上にわたって移動していない場合には、ECU50の判定部51(図6参照)は、グリップ感圧センサ48からの出力に基づいてステアリングハンドル5(図1参照)が運転者により所定時間以上にわたって握られていないかどうかを判断する(ステップS19)。
【0048】
ステアリングハンドル5(図1参照)が運転者により所定時間内に握られている場合には、ECU50は、エンジン停止が必要でないと判定し、その運転状態(グリップ状態の時刻歴)を自己の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS21)、ステップS11に戻る。一方、ステアリングハンドル5(図1参照)が運転者により所定時間以上にわたって握られていない場合には、エンジン停止が必要であると判定し、燃料噴射装置17(図6参照)による燃料噴射を停止させる(ステップS20)。
【0049】
以上に説明した構成によれば、傾倒センサ25の他にも、種々の運転状態を検出可能な多数のセンサ・スイッチ類41〜48を利用してエンジン停止の必要性を判断しているので、運転者の意図を考慮した精度の良い判定を行うことが可能となる。
【0050】
(第3実施形態)
図8は本発明の第3実施形態に係る自動二輪車の主にエンジン停止装置60を表したブロック図である。なお、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付して説明を省略している。図8に示すように、エンジン停止装置60は、傾倒センサ25、サスペンションストロークセンサ61、ECU62及び燃料噴射装置17を備えている。サスペンションストロークセンサ61は、自動二輪車の衝撃吸収を行うリヤサスペンション14の伸縮状態を検出する機能を有する。例えば、サスペンションストロークセンサ61は、サスペンション14の上端部と下端部との間の距離を検出可能な変位センサであるとよい。
【0051】
ECU62は、傾倒センサ25、及び、運転状態センサとなるサスペンションストロークセンサ61からの出力に基づいて燃料噴射装置17を制御する。具体的には、ECU62は、傾倒センサ25及びサスペンションストロークセンサ61からの出力に基づいてエンジン停止が必要か否かを判定する判定部63と、この判定部63によりエンジン停止が必要であると判定された場合に、吸気通路内への燃料の噴射を停止させるように燃料噴射装置17の動作を制御する燃料制御部64とを備えている。
【0052】
次に、エンジン停止装置60の処理手順について主に図9の流れに沿って説明する。図9は図8に示すエンジン停止装置の処理を説明するフローチャートである。図9に示すように、自動二輪車のエンジンが始動すると、ECU62の判定部63(図8参照)は、傾倒センサ25及びサスペンションストロークセンサ61からの出力を受信して運転状態のモニタリングを開始する(ステップS30)。ECU62の判定部63(図8参照)は、傾倒センサ25からの出力に基づいて車体の傾斜角度を演算し、その車体傾斜角度が所定値以上(例えば、70°以上)となる状態が所定時間以上続いているか否かを判断する(ステップS31)。
【0053】
車体傾斜角度が所定値以上となる状態が所定時間以上続いていない場合には、ECU62は、その運転状態(車体傾斜角度の時刻歴)を自身の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS35)、ステップS31に戻る。一方、車体傾斜角度が所定値以上となる状態が所定時間以上続いた場合には、ECU62の判定部63(図8参照)は、サスペンションストロークセンサ61からの出力に基づいてサスペンションストローク量(伸長量)を演算し、そのサスペンションストローク量が最大値となったか否かを判断する(ステップS32)。
【0054】
サスペンションストローク量が最大値となっていない場合には、ECU62は、その運転状態(サスペンションストローク量の時刻歴)を自身の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS35)、ステップS31に戻る。一方、サスペンションストローク量が最大値となった場合には、その前の所定時間内にサスペンションストローク量が所定値未満となっていないかどうかを判断する(ステップS33)。
【0055】
サスペンションストローク量が最大値となる前の所定時間内に所定値未満となっていた場合には、ECU62は、ジャンプ中であってエンジン停止が必要でないと判断して、その運転状態(サスペンションストローク量の時刻歴)を自身の記憶部(図示せず)に記録したうえで(ステップS35)、ステップS31に戻る。一方、サスペンションストローク量が最大値となる前の所定時間内に所定値未満となっていない場合には、ECU62の判定部63(図8参照)は、エンジン停止が必要であると判定し、燃料噴射装置17(図8参照)による燃料噴射を停止させる(ステップS34)。
【0056】
以上に説明した構成によれば、運転者が自動二輪車をジャンプさせた場合の車体の傾斜をエンジン停止が必要な場合であると判断することがない。即ち、ジャンプの前にはサスペンションストローク量が一旦短くなり、ジャンプ中に地面からの負荷がなくなるためにサスペンションストローク量が最大となる。よって、サスペンションストローク量がこの現象に合致しない場合に限ってエンジン停止が必要な場合であると判定することで、ジャンプ中における意図的な車体傾斜をエンジン停止が必要な場合であると判断することがない。
【0057】
なお、運転状態センサとしては、前述したスロットル開度センサ、エンジン回転数センサ、クラッチスイッチ、ブレーキスイッチ、ギヤポジションセンサ、加速度センサ、速度センサ、GPSセンサ、グリップ感圧センサ及びサスペンションストロークセンサのうちいずれを組み合わせて用いてもよいし、いずれか1つのみを用いてもよい。また、前述した実施形態では傾倒センサとして振子式のものが用いられているが、これに限られず、車体の傾斜状態を検出可能なものであればよい。さらに、前述した実施形態では自動二輪車を例に説明しているが、本発明は小型滑走艇(Personal WaterCraft:PWC)や三輪又は四輪の不整地走行車などに適用してもよい。その際、小型滑走艇に適用する場合には、速度センサ、クラッチスイッチ、ブレーキスイッチ、ギヤポジションセンサ及びサスペンションストロークセンサ以外のセンサ類を用いると好適である。また、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、又は削除することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明に係る乗り物は、エンジン停止が必要か否かを精度良く判定できる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる自動二輪車等の乗り物に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
【図2】図1に示す自動二輪車の主にエンジン停止装置を表したブロック図である。
【図3】図2に示すエンジン停止装置の傾倒センサの正面図である。
【図4】図3に示す傾倒センサの側断面図である。
【図5】図2に示すエンジン停止装置の処理を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る自動二輪車の主にエンジン停止装置を表したブロック図である。
【図7】図6に示すエンジン停止装置の処理を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態に係る自動二輪車の主にエンジン停止装置を表したブロック図である。
【図9】図8に示すエンジン停止装置の処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 自動二輪車(乗り物)
5 ステアリングハンドル
14 リヤサスペンション
15 スロットル装置
16 スロットル開度センサ
17 燃料噴射装置
25 傾倒センサ
26,51,63 判定部
27,52,64 燃料制御部
41 エンジン回転数センサ
42 クラッチスイッチ
43 ブレーキスイッチ
44 ギヤポジションセンサ
45 加速度センサ
46 速度センサ
48 グリップ感圧センサ
61 サスペンションストロークセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
乗り物が所定角度以上に傾斜した状態を検出する傾倒センサと、
前記傾倒センサ以外で前記乗り物の運転状態を検出する運転状態センサと、
前記傾倒センサ及び前記運転状態センサからの出力に基づいて前記エンジンの停止が必要か否かを判定する判定部と
を備えていることを特徴とする乗り物。
【請求項2】
前記運転状態センサは、前記エンジンへの吸気通路内に設けられたスロットルバルブの回転角度を検出するスロットル開度センサとし、
前記判定部は、前記傾倒センサで乗り物が所定角度以上に傾斜したことが検出され、かつ、前記スロットル開度センサからの出力の変化量が所定値より小さい状態が所定時間以上にわたって継続した場合に、前記エンジンの停止が必要であると判定する構成である請求項1に記載の乗り物。
【請求項3】
前記運転状態センサは、
前記エンジンへの吸気通路内に設けられたスロットルバルブの回転角度を検出するスロットル開度センサと、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサと、前記乗り物のクラッチのON/OFFを検出するクラッチスイッチと、前記乗り物のブレーキのON/OFFを検出するブレーキスイッチと、前記乗り物の変速ギヤの位置を検出するギヤポジションセンサと、前記乗り物の加速度を検出する加速度センサと、前記乗り物の移動速度を検出する速度センサと、前記乗り物の存在位置を検出するGPSセンサと、ステアリングハンドルを運転者が把持する圧力を検出するグリップ感圧センサと、前記乗り物のサスペンションの伸縮状態を検出するサスペンションストロークセンサ、のうちから選ばれる少なくとも1つのものである請求項1に記載の乗り物。
【請求項4】
前記エンジンへの吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記燃料噴射装置の動作を制御する燃料制御部とをさらに備え、
前記燃料制御部は、前記判定部で前記エンジンの停止が必要であると判定されると、前記燃料噴射装置から前記吸気通路内への燃料の噴射を停止させる構成である請求項1乃至3のいずれかに記載の乗り物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−274847(P2008−274847A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119161(P2007−119161)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】