説明

二段過給システム

【課題】エンジンの運転域の全領域で良好な性能を得ると共にEGRを適用し得る二段過給システムを提供する。
【解決手段】エンジン1から直に送出される排気Gによって高圧段タービン17を作動させ且つ高圧段コンプレッサ18で吸気を圧縮する第1のターボチャージャ19と、前記高圧段タービン17から送出される排気Gによって低圧段タービン20を作動させ且つ低圧段コンプレッサ21で圧縮した吸気を高圧段コンプレッサ18へ送給する第2のターボチャージャ22と、エンジン排気経路の高圧段タービン17よりも上流側からエンジン吸気経路の高圧段コンプレッサ18よりも下流側へ至るEGR配管23とを備え、第1のターボチャージャ19を可変容量ターボチャージャとし、高速域で第1のターボチャージャ19の容量を大きくすると共に、低速域で第1のターボチャージャ19の容量を小さくするように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段過給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン排気経路から分流した排気を水冷式の管形熱交換器であるEGRクーラ(EGR:Exhaust Gas Recirculation)より冷却したうえエンジン吸気経路へ戻し、燃焼温度を下げてNOxの発生を低減させる排気再循環が一般的に行なわれている。
【0003】
排気容量を変えずにエンジンの出力を高めるためには、1サイクルあたりの燃料噴射量を多くすると共に、ターボチャージャにより過給圧を上げてシリンダへの吸気の送給量を増やす必要がある。
【0004】
また、吸気の送給量を減らさずに高EGR率を達成するためにも、ターボチャージャを用いて過給圧を上げる必要がある。
【0005】
そこで、高圧力比が得られる二段過給システムをエンジンに採用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図2は従来の二段過給システムの一例であり、車載のエンジン1の排気マニホールド2から直に送出される排気Gによって高圧段タービン3を作動させ且つ高圧段コンプレッサ4で圧縮した吸気Aをエンジン1の吸気マニホールド5へ送給するターボチャージャ6と、高圧段タービン3から送出される排気G、あるいは当該高圧段タービン3の排気流入口の上流側から排気送出口の下流側へ至るウエストゲート配管7を経た排気Gによって低圧段タービン8を作動させ且つ低圧段コンプレッサ9で圧縮した吸気Aを前記高圧段コンプレッサ4へ送給するターボチャージャ10とを備え、前記ウエストゲート配管7には、高圧段タービン3に対応するウエストゲートバルブ11が組み込んである。
【0007】
更に、低圧段コンプレッサ9の空気吐出口と高圧段コンプレッサ4の空気吸入口の間には、インタクーラ12が介装してあり、高圧段コンプレッサ4の空気吐出口とエンジン1の吸気マニホールド5の間には、アフタクーラ13が介装してある。
【0008】
この他に、エンジン排気経路の高圧段タービン3よりも上流側(具体的には排気マニホールド2)からエンジン吸気経路のアフタクーラ13よりも下流側(具体的には吸気マニホールド5)へ至るEGR配管14を設け、当該EGR配管14に、エンジン排気経路から分流した排気Gを冷却するEGRクーラ15と、エンジン吸気経路へ還流すべき排気Gの流量を調整するEGRバルブ16を組み込んでいる。
【0009】
エンジン1が稼働状態であるとき、排気マニホールド2から送出される排気Gの大部分は高圧段タービン3へ流入して高圧段コンプレッサ4を駆動した後、低圧段タービン8へ流入して低圧段コンプレッサ9を駆動する。
【0010】
低圧段コンプレッサ9に流入し且つ圧縮された吸気Aは、インタクーラ12を経て高圧段コンプレッサ4に送給され、当該高圧段コンプレッサ4で再び圧縮されたうえ、アフタクーラ13を経て吸気マニホールド5へ送給される。
【0011】
よって、シリンダへの吸気Aの送給量が増加し、1サイクルあたりの燃料噴射量を多くすれば、エンジン1の出力を高めることができる。
【0012】
排気Gの一部は、排気マニホールド2からEGR配管14へ流入し、EGRクーラ15で冷却され且つEGRバルブ16で流量調整が行なわれた排気Gが、吸気Aと共に吸気マニホールド5へ送給される。
【0013】
よって、シリンダ内の燃焼温度の低下が図られ、NOxの発生が低減する。
【0014】
更に、エンジン1の運転域が高速域(高回転数域)に達した際には、高圧段タービン3の能力を上回るような大流量で高圧力の排気Gが当該高圧段タービン3に流れ込むことがないように(タービン内の圧力過上昇抑制と過回転防止のため)ウエストゲートバルブ11を開き、排気Gの一部をウエストゲート配管7から低圧段タービン8に導くようにしている。
【0015】
また二段過給システムの他の例には、低圧段側のターボチャージャ10に、タービンスクロール流路のスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーンを配設した、いわゆる可変容量(VG:Variable Geometry)ターボチャージャを用いたものが考えられており、大流量で高圧力の排気Gがウエストゲート配管を介して低圧段タービン8に流れ込んだ際には、ノズルベーンの角度を変更して容量を増やして低圧段タービン8の過回転を防止するようにしている。
【特許文献1】特願2005−262158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような二段過給システムでは、エンジン1の運転域によって高圧段側のターボチャージャ6の設定条件が変化するため、エンジン1の運転域の全領域で良好な性能を得ることが困難であるという問題があった。
【0017】
そこで更に具体的に説明すると、エンジン1の運転域を低速域を基準として高圧段側のターボチャージャ6を設定した場合には、エンジン1の運転域が高速域である際に、高エネルギ(大流量で高圧力)の排気Gの一部をウエストゲート配管7から低圧段タービン8に導くため、高圧段タービン3のタービン効率が急速に低下し、燃費の改善を図ることができないという問題があった。またエンジン1の運転域を高速域を基準として高圧段側のターボチャージャ6を設定した場合には、エンジン1の運転域が低速域である際に、低流量の排気Gにより高圧段タービン3を適切に作動させることができないため、高圧段コンプレッサ4から送給される空気量が減り、エンジン側に燃焼不良を招かない適切なEGR率(筒内に流入する排気ガス量を筒内に流入する空気量+排気ガス量で割った値)を確保することができないという問題があった。
【0018】
また二段過給システムでは、EGR配管のEGRバルブのみならず、他の手法も用いてEGR制御を一層適切に行うことが求められていた。
【0019】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、エンジンの運転域の全領域で良好な性能を得ると共にEGRを適切に制御し得る二段過給システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、エンジンから直に送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで吸気を圧縮する第1のターボチャージャと、前記高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を高圧段コンプレッサへ送給する第2のターボチャージャと、エンジン排気経路の高圧段タービンよりも上流側からエンジン吸気経路の高圧段コンプレッサよりも下流側へ至るEGR配管とを備え、第1のターボチャージャを可変容量ターボチャージャとし、高速域で第1のターボチャージャの容量を大きくして排気エネルギの回収効率を高めると共に、低速域で第1のターボチャージャの容量を小さくして空気量及びEGR率を確保するように構成したことを特徴とするものである。
【0021】
本発明において、第1のターボチャージャの容量を可変してEGR制御を行うように構成することが好ましい。
【0022】
而して、エンジンの運転域が低速域である場合には、第1のターボチャージャによる高圧段タービンの容量を小さくし、小流量及び低圧力の排気に対応するように第1のターボチャージャを作動させ、第1のターボチャージャの高圧段コンプレッサから送給される空気量を確保すると同時にEGR率を確保することができる。またエンジンの運転域が高速域である場合には、第1のターボチャージャによる高圧段タービンの容量を大きくし、ウエストゲートを用いることなく、高エネルギ(大流量で高圧力)の排気を全て高圧段タービンに通過させ、ウエストゲートでの通過により得ることができなかった排気エネルギの回収し、排気エネルギの回収効率を上げてポンピングロスを低減し、燃費を改善することができる。
【発明の効果】
【0023】
上記した本発明の二段過給システムによれば、第1のターボチャージャによる高圧段タービンの容量を可変するので、低速域から高速域まで全てのエンジンの運転域の全領域で良好な性能を得ることができると共にEGR制御を行うことができるという種々の優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1は本発明を実施する形態例を示すものであり、図中、図2と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
【0026】
実施の形態例の二段過給システムは、車載のエンジン1の排気マニホールド2から直に送出される排気Gによって高圧段タービン17を作動させ且つ高圧段コンプレッサ18で吸気Aを圧縮する第1のターボチャージャ19と、高圧段タービン17から送出される排気Gによって低圧段タービン20を作動させ且つ低圧段コンプレッサ21で圧縮した吸気を高圧段コンプレッサ18へ送給する第2のターボチャージャ22とを備えている。
【0027】
また高圧段コンプレッサ18の空気吐出口と低圧段コンプレッサ21の空気吸入口の間には、インタクーラ12が介装してあり、低圧段コンプレッサ21の空気吐出口とエンジン1の吸気マニホールド5の間には、アフタクーラ13が介装してある。
【0028】
更に、エンジン排気経路の高圧段タービン17よりも上流側(具体的には排気マニホールド2)からエンジン吸気経路のアフタクーラ13よりも下流側(具体的には吸気マニホールド5)へ至るEGR配管23を設け、当該EGR配管23に、分流した排気Gを冷却するEGRクーラ24と、エンジン吸気経路へ還流すべき排気Gの流量を調整するEGRバルブ25を組み込んでいる。
【0029】
また第1のターボチャージャ19は、高圧段タービン17に、タービンスクロール流路のスロート部に角度調整可能な多数のノズルベーンを配設した、いわゆる可変容量(VG:Variable Geometry)ターボチャージャで構成されている。
【0030】
ここで、図示しない運転席のアクセルには、アクセル開度をエンジン1の負荷として検出するアクセルセンサ(負荷センサ)26が備えられていると共に、エンジン1の適宜位置には、その回転数を検出する回転センサ27が装備されており、これらアクセルセンサ26及び回転センサ27からのアクセル開度信号26a及び回転数信号27aが、エンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置28に対し入力されるようになっている。
【0031】
一方、制御装置28においては、EGRバルブ25のアクチュエータ(図示せず)と、第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17のアクチュエータ(図示せず)とに対し夫々の開度を指令する開度指令信号25a,17aが出力されるようになっている。また各気筒に燃料を噴射する燃料噴射装置(図示せず)に向け燃料の噴射タイミング及び噴射量を指令する燃料噴射信号が出力されるようになっている。
【0032】
エンジン1が稼働状態であるとき、排気マニホールド2から送出される排気Gは高圧段タービン17へ流入して高圧段コンプレッサ18を駆動した後、低圧段タービン20へ流入して低圧段コンプレッサ21を駆動する。また同時に低圧段コンプレッサ21に流入し且つ圧縮された吸気Aは、インタクーラ12を経て高圧段コンプレッサ18に送給され、当該高圧段コンプレッサ18で再び圧縮されたうえ、アフタクーラ13を経て吸気マニホールド5へ送給される。
【0033】
ここでエンジン1の運転域が低速域(低速回転域)である場合には、アクセル開度信号26a及び回転数信号27a等に基づいて制御装置28が高圧段タービン17のアクチュエータに開度指令信号17aを出し、ノズルベーンの角度を変更して第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17の容量を小さくし、低速域による小流量及び低圧力の排気Gに対応するように第1のターボチャージャ19を作動させる。
【0034】
また、エンジン1の運転域が高速域(高速回転域)である場合には、アクセル開度信号26a及び回転数信号27a等に基づいて制御装置28が高圧段タービン17のアクチュエータに開度指令信号17aを出し、ノズルベーンの角度を変更して高圧段タービン17の容量を大きくし、高エネルギ(大流量で高圧力)の排気Gを全て高圧段タービン17に通過させる。
【0035】
更にNOxの発生を低減する際には、エンジン1の運転域におけるアクセル開度信号26a及び回転数信号27a等に基づいて制御装置28がEGRバルブ25のアクチュエータに開度指令信号25aを出し、EGR配管23の開度を調整して排気Gの一部を排気マニホールド2からEGR配管23を介して吸気マニホールド5へ流入させ、気筒内の燃焼温度の低下を図ってNOxの発生を低減する。また同時に、アクセル開度信号26a及び回転数信号27a等に基づき、制御装置28が高圧段タービン17のアクチュエータに開度指令信号17aを出してノズルベーンの角度を変更し、高圧段コンプレッサ18によるエンジン1の吸気マニホールド5への空気量、及び高圧段タービン17による排気マニホールド2からの排気量を調整し、EGR配管23からの排気量を制御してNOxの発生を一層低減する。ここで第1のターボチャージャ19によるEGR配管23の排気量の制御は、EGRバルブ25による制御と別々に適用しても良いし、EGRバルブ25による制御と組み合わせて適用しても良いし、EGRバルブ25による制御を補助しても良く、特に制限されるものではない。
【0036】
而して、エンジン1の運転域が低速域である場合には、第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17の容量を小さくし得るので、第1のターボチャージャ19の高圧段コンプレッサ18から送給される空気量を確保すると同時に、エンジン1の吸気マニホールド5からの空気量及び排気マニホールド2の排気量を最適化してEGR率を確保することができる。
【0037】
またエンジン1の運転域が高速域である場合には、第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17の容量を大きくし得るので、ウエストゲートを用いることなく、高エネルギ(大流量で高圧力)の排気Gを全て高圧段タービン17に通過させ、ウエストゲートでの通過により得ることができなかった排気エネルギの回収し、排気エネルギの回収効率を上げてポンピングロスを低減し、燃費を改善することができる。
【0038】
更に第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17の容量を可変し得るので、エンジン1の吸気マニホールド5からの空気量及び排気マニホールド2の排気量を調整し、EGR制御を行うことができる。ここで、第1のターボチャージャ19を可変容量ターボチャージャにすることなく、低圧段側の第2のターボチャージャ22のみを可変容量ターボチャージャにした場合には、EGR配管23から排気Gを導く際に高圧段側の第1のターボチャージャ19の影響を受け、EGR制御を適切に行うことができないと共に、燃費の改善が不十分になるという問題がある。
【0039】
これにより本発明の実施の形態例では、第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17の容量を可変するので、低速域から高速域まで全てのエンジン1の運転域の全領域で良好な性能を得ることができると共に、第1のターボチャージャ19による高圧段タービン17の容量を可変してEGR制御を行うことができる。
【0040】
尚、本発明の二段過給システムは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する形態例を示す全体概略図である。
【図2】従来の二段過給システムを示す全体概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジン
17 高圧段タービン
18 高圧段コンプレッサ
19 第1のターボチャージャ
20 低圧段タービン
21 低圧段コンプレッサ
22 第2のターボチャージャ
23 EGR配管
A 吸気
G 排気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから直に送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで吸気を圧縮する第1のターボチャージャと、前記高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を高圧段コンプレッサへ送給する第2のターボチャージャと、エンジン排気経路の高圧段タービンよりも上流側からエンジン吸気経路の高圧段コンプレッサよりも下流側へ至るEGR配管とを備え、第1のターボチャージャを可変容量ターボチャージャとし、高速域で第1のターボチャージャの容量を大きくして排気エネルギの回収効率を高めると共に、低速域で第1のターボチャージャの容量を小さくして空気量及びEGR率を確保するように構成したことを特徴とする二段過給システム。
【請求項2】
第1のターボチャージャの容量を可変してEGR制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1に記載の二段過給システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138710(P2010−138710A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313140(P2008−313140)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】