説明

位相変調子、位相変調子組体及び光センサ

【課題】高精度な測定が可能な位相変調法を光検波手段として使用した光センサを提供する。
【解決手段】本発明は、引っ張り応力に対する偏波面保持ファイバ内を伝播する光の位相変化の違いを利用し、位相変調子10、送光用偏波面保持ファイバ23、コイル状偏波面保持ファイバ光学素子30に適切な偏波面保持ファイバを使用することにより、高精度な測定が可能な光センサを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに機械的応力を付与して光学的位相変調を印加する位相変調子、それを用いた光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバに機械的応力を付与して光学的位相変調を印加する位相変調子を用いた光センサには様々な種類の光センサが提案されている。この種の光センサとして、例えば、特開2006−208080号公報「光ファイバ振動センサ」(特許文献1)の図1(a),(b)に記載のもの、特開平6−265361号公報「位相変調器及びそれを用いた光回転検出装置」(特許文献2)の図1に記載のもの、特表2002−510795号公報「サニャック干渉計に基づく光ファイバ音響センサアレイ」(特許文献3)の図2に記載のもの、特開2007−40884号公報「反射型光ファイバ電流センサ」(特許文献4)の図1に記載のものが知られている。これらの光センサで使用する位相変調子としては、実公平2−6425号公報「光ファイバ型位相変調器」(特許文献5)の図1に記載のものや特開平5−297292号公報「光ファイバ位相変調器」(特許文献6)の図1〜図6、図8〜図10に記載のものが使用されている。
【0003】
しかしながら、従来技術には次のような技術的課題があった。特許文献5の図1に記載の位相変調子を用いた光センサは、圧電素子の周りに偏波面保持ファイバを巻いて位相変調子を構成している。この光センサの位相変調子の場合、圧電素子の伸縮によってそれに巻き付けられている偏波面保持ファイバが長さ方向に伸縮し、その際の偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸の伝播定数差の変化によって位相変調を光に印加する。しかしながら、無作為に圧電素子に偏波面保持ファイバを巻き付けたのでは、2つの光伝播軸を伝播する光の伝播光量の差異が大きくなり、巻き付け方によっては1つの光伝播軸のみを伝播させる位相変調子となってしまうこともあり得る。これは、特許第3006205号公報「光ファイバ偏光子」(特許文献7)の図6に記載されたような光ファイバ偏光子や下記の非特許文献1〜非特許文献5に記載されている光ファイバ偏光子のように、円筒状の巻枠に偏波面保持ファイバの光伝播軸の一方を円筒状巻枠の径方向に揃えて巻き付けることでファイバ偏光子が構成され、結果として一方の光伝播軸の光が消光されてしまうからである。そのため、偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸の制御なしに円筒状もしくは円柱状の圧電素子に巻き付けられて構成される位相変調子を通過した光は、その有効な光信号光量成分が低減し、位相変調の他に強度変調が生じるなど本来の位相変調機能が低減してしまうといった問題点があり、位相変調子の製作歩留まりの悪化や光センサの測定精度の低下といった問題点があった。
【0004】
特許文献6の図1〜図6、図8〜図10に開示されているような位相変調子を用いた光センサは、特許文献5の図1に開示された光センサの発展型であり、光ファイバに外部より機械応力を印加することで位相変調を与える位相変調子を用いている。これらの光センサは、特許文献5の光センサと同様に偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸の制御に関しては考慮されていなくて、2つの光伝播軸に光信号成分を伝播させ、その一方に相対的な位相変調を与える場合、偏波面保持ファイバの光伝播軸の向きによって伝播光量が損失し、さらには、偏波面保持ファイバに印加される側圧によっても光量損失が起こり、光強度変調が生じてしまうなどの問題点があり、結果として光センサの測定精度が低下する問題点があった。
【0005】
光センサでは、上述した位相変調子の他にも、偏波面保持ファイバをコイル状に巻いて構成される部位が数多く存在する。特許文献7の図6に記載されている光ファイバ偏光子はその一例であるが、他にも、特許文献4の図1に開示されている反射型光ファイバ電流センサにおける遅延用ファイバコイル、特許文献1の図1の光ファイバ振動センサにおける振動センサコイル部分12、特許文献2の図1に記載されている位相変調器及びそれを用いた光回転検出装置におけるセンシングループ6などが該当する。これらのコイル状の偏波面保持ファイバ部に外部より振動や熱衝撃が加わると偏波面保持ファイバのコイル形状や巻枠の形状に依存した共振振動や共振収縮が発生する。振動源としては、既に記載した位相変調子の伸縮振動が本来意図していない部位に伝搬することによっても生じ得る。共振振動や共振収縮が発生するとそれらの共振現象によって偏波面保持ファイバの伸縮が発生し、前述の位相変調子と同様の原理で偏波面保持ファイバに位相差が発生してしまう。これらは、本来意図している制御された位相差とは異なる誤差位相差であり、結果として光センサの特性を悪化させ、測定精度を低減してしまう問題点があった。
【0006】
さらに位相変調子を用いた光センサであって、光信号より被測定物理量を演算する信号処理ユニットと光センサとの間を光学的に接続する非コイル状の光信号の伝送を目的とした送光用偏波面保持ファイバに同様な共振現象が外部より印加される場合も、偏波面保持ファイバを伝播する光に誤差位相差が発生してしまい、結果として光センサの特性を悪化させ、測定精度を低下させてしまう問題点がある。例えば、保護管としての鉄管に前述の送光用偏波面保持ファイバを挿入して構成される光センサの場合、鉄管にわずかな振動や音響を与えるだけで、鉄管内部に音の定在波や振動の定在波が発生し、すなわち共振現象が起こり、結果として共振現象による偏波面保持ファイバの伸縮が発生し、偏波面保持ファイバの伸縮により誤差となる位相差が偏波面保持ファイバを伝播する光に発生し、光センサの特性を悪化させ、測定精度を低下させる問題点がある。特許文献3の図2に記載されている光センサの場合、センサコイル部以外の送光用偏波面保持ファイバで音響の影響を受けて位相差を発生することは誤差原因そのものであり、そのため、送光用偏波面保持ファイバに対して音響の影響を低減することが課題となっていた。
【特許文献1】特開2006−208080号公報
【特許文献2】特開平6−265361号公報
【特許文献3】特表2002−510795号公報
【特許文献4】特開2007−40884号公報
【特許文献5】実公平2−6425号公報
【特許文献6】特開平5−297292号公報
【特許文献7】特許第3006205号公報
【非特許文献1】F. Defornel, M. P. Varnham and D. N. Payne : "Finite cladding effects in highly birefringent fibre taper-polarisers", Electron. Lett., 20, 10, p398-p399(May 1984)
【非特許文献2】M. P. Varnham, D. N. Payne, A. J. Barlow and E. J. Tarbox : "Coiled-birefringent-fiber polarizers", Opt. Lett., 9, 7, p306-p308(July 1984)
【非特許文献3】K. Okamoto : "Single-polarization operation in highly birefringent optical fibers", Appl. Opt., 23, 15, p2638-p2642(Aug. 1984)
【非特許文献4】K. Okamoto, T. Hosaka and J. Noda : "High-birefringence polarizing fiber with flat cladding", IEEE J. Lightwave Technol., LT-3, 4, p758-p762(Aug. 1985)
【非特許文献5】M. J. Messerly, J. R. Onstott and R. C. Mikkelson : "A broad-band single polarization optical fiber", IEEE J. Lightwave Technol., 9, 7, p817-p820(July 1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の従来の技術的課題に鑑みてなされたもので、位相変調特性に優れた位相変調子を使用した光センサであって、外部振動や熱衝撃に強く、かつ、高精度な測定が可能な光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの特徴は、ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに、互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバをそれらの2つの光伝播軸に対して共に約45°の方向に前記機械的振動による機械的応力を受ける態様にて巻装して成る位相変調子である。
【0009】
本発明の別の特徴は、ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに、互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバをそれらの2つの光伝播軸に対してほぼ等方的な機械的応力を与える態様にて巻装した位相変調子である。
【0010】
本発明のまた別の特徴は、ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバを所定の捻り率で巻き付けて構成した位相変調子である。
【0011】
本発明のまた別の特徴は、ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに、互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバをそれらの2つの光伝播軸に対して共に約45°の方向に前記機械的振動による機械的応力を受ける態様にて巻装した構成の位相変調子を、防振材に組み付けて成る位相変調子組体である。
【0012】
本発明の別の特徴は、被測定物理量を測定する光センシング部と、前記光センシング部からの光信号より所定の物理量を演算する信号処理ユニットと、前記光センシング部と信号処理ユニットとの間を光学的に接続する光ファイバとを備え、前記光ファイバは、2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバであり、前記偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸それぞれに光を伝播させる光センサにおいて、前記偏波面保持ファイバとして、引っ張り応力に対して前記2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバを用いた光センサである。
【0013】
本発明のさらに別の特徴は、被測定物理量を測定する光センシング部と、前記光センシング部からの光信号より所定の物理量を演算する信号処理ユニットと、前記光センシング部と信号処理ユニットとの間を光学的に接続する光ファイバとを備えた光センサにおいて、位相変調子を除くコイル状の偏波面保持ファイバで構成される光学素子には、前記偏波面保持ファイバとして、引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバを用いた光センサである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引っ張り応力に対する偏波面保持ファイバ内を伝播する光の位相変化の違いを利用し、位相変調子、送光用偏波面保持ファイバ、コイル状偏波面保持ファイバ光学素子に適切な偏波面保持ファイバを使用することにより、高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0016】
(位相変調子の動作原理)まず、位相変調子の動作原理について説明する。図1の位相変調子101は、圧電素子であるPZT(ピエゾ管)101の周りに偏波面保持ファイバ102を巻いて構成される。偏波面保持ファイバ102を使用するのは、偏波面保持ファイバの2つの光学軸それぞれに互いに相関のない光を伝播させるためである。PZT101には、所定の波形形状の電圧を印加して、PZT101の周りに巻かれた偏波面保持ファイバ102を伸縮させる。この際の電圧波形は正弦波でも鋸歯状波でも三角波でも矩形波でもかまわない。偏波面保持ファイバ102はPZT101の伸縮に伴い、位相変化を生じる。
【0017】
図2は、PZT101に所定の電圧波形として正弦波を印加し、偏波面保持ファイバ102内を伝播する光に正弦波の位相変調を与えた場合のイメージ図である。同図(a)は偏波面保持ファイバ102の伸縮長さの変化、同図(b)は伸縮に伴うx軸の位相変化、同図(c)は伸縮に伴うy軸の位相変化を示し、同図(d)は伸縮に伴うx軸、y軸間の相対位相変化を示している。偏波面保持ファイバ102の2つの光学軸(x軸、y軸)に生じる位相変化は一般的に等しくならない。そのため、どちらか一方の光学軸を伝播する光が相対的に位相変化を受けることになり(図2の場合、x軸を伝播する光が相対的に位相変化を受ける)、結果として片方の光学軸を伝播する光のみに有効な位相変調を加えることができることになる。ここで、偏波面保持ファイバ102の伸縮により、十分な位相変化を光に印加できるか否かが重要なポイントとなる。
【0018】
偏波面保持ファイバ102を伝播する光が位相変化を受けるのは、物理的には光ファイバの伸縮に伴う複屈折の変化に起因する。光ファイバの伸縮により、光ファイバには応力が印加され、かつ、伸縮にともなう断面形状の変化が生じる。以上の点から、光ファイバの伸縮に伴う複屈折の変化Δβは、
【数1】

【0019】
で表すことができる。ここでΔβは伸縮応力に伴う複屈折変化、Δβは断面形状変化に伴う複屈折変化である。
【0020】
さらに、伸縮応力に伴う複屈折変化Δβは、PZT101の径方向伸縮に伴う光伝播方向への引っ張り応力(縦荷重応力)による複屈折変化ΔβSzと、PZT101の径方向伸縮に伴うファイバ径方向への横荷重応力による複屈折変化ΔβSrに分解することができる。
【数2】

【0021】
ファイバ伸縮に伴う断面形状は、相対的に変化すると仮定すると、断面形状変化に伴う複屈折変化ΔβGはΔβG≒0となり、無視することができる。よって、ΔβSzとΔβSrのどちらがより顕著に現れるか評価する必要がある。以下では、横荷重と縦荷重を光ファイバに印加したそれぞれの場合について位相変化を理論的に評価する。
【0022】
(1)光ファイバに横荷重が印加する場合
円柱に対して外部より横荷重ベクトルFが印加された場合の円柱中心軸(z軸)上の作用応力は、非特許文献6のMuskhelishviliにより数学的に解析されている。すなわち、図3に示すように、円柱105の直径をdとすると、円柱中心軸上で外力Fの方向には、
【数3】

【0023】
の圧縮応力が、外力Fと垂直の方向には、
【数4】

【0024】
の引っ張り応力が働く。
【0025】
これらの作用応力は、z軸の近傍に集中して作用する。非特許文献7に記載されているように、光ファイバを円柱105と見立てた場合、これらの作用応力は、コア部分の微小領域に作用することになり、これらの作用応力の総和が、本質的に一様に作用することが分かっている。
【0026】
よって、z軸近傍(コア領域)で外力Fの方向(//方向)に作用する応力は、
【数5】

【0027】
となる。
【0028】
ここで、マイナスの符号がついているのは、外力Fによりz軸上では外力Fの方向に圧縮応力が作用するためである。
【0029】
以上から、⊥軸方向、z軸方向それぞれの作用応力は、
【数6】

【0030】
となる。ここで、νは円柱105、すなわち、光ファイバのポアソン比である。
【0031】
光ファイバのヤング率をEとすると、それぞれの方向の歪は以下のように表される。
【数7】

【0032】
次に、光弾性理論から、//方向、⊥方向それぞれの屈折率変化Δnを計算する。
【数8】

【0033】
ここで、nは無荷重状態におけるファイバコアの屈折率、p1iは光ファイバの光弾性定数である。光ファイバは等方性媒体であると仮定し、p13=p12とした。また、
【数9】

【0034】
と置いた。
【数10】

【0035】
ここで、
【数11】

【0036】
と置いた。//方向と異なり、⊥方向ではεとεとが入れ違いになっているのは、光弾性定数に対して作用応力の方向が90°異なるためである。
【0037】
以上から、横荷重ベクトルFにより生じる光ファイバのコアの屈折率変化Δnは、
【数12】

【0038】
となる。
【0039】
次に横荷重Fにより生じた光ファイバのコアの屈折率変化Δnによる位相変化率Δφ/φを計算する。ここで、位相差φは、以下のように定義される。
【数13】

【0040】
ここで、Lは光ファイバの長さ、λは光の波長である。
【0041】
よって、位相変化率Δφ/φは、以下のように展開できる。
【数14】

【0042】
ここで、ΔL/Lは光ファイバの長さの変化率であり、z方向の歪に等しい。
【数15】

【0043】
よって、
【数16】

【0044】
となる。
【0045】
(2)光ファイバに縦荷重が印加する場合
次に、図4に示すように、光ファイバの光伝播方向に力が働く場合(縦荷重の場合)について考える。まず、z軸、r軸方向のそれぞれの応力は、
【数17】

【0046】
となる。よって、z軸、r軸方向のそれぞれの歪は、
【数18】

【0047】
となる。ここで、Eは光ファイバのヤング率である。
【0048】
よって、光弾性理論より屈折率変化Δnを計算すると、
【数19】

【0049】
となる。
【0050】
ここで、光ファイバは等方性媒体と仮定し、p13=p12とした。また、
【数20】

【0051】
と置いた。
【0052】
以上の結果から、縦荷重Fにより生じた光ファイバのコアの屈折率変化Δnによる位相変化率Δφ/φを計算すると、
【数21】

【0053】
となる。
【0054】
(3)光ファイバに印加される荷重により生じる位相変化の評価
上記の横荷重、縦荷重に対する光ファイバの位相変化率S,Sから実際にどちらの荷重の影響が大きいのか評価を行う。以下、光ファイバは一般的な石英シングルモードファイバとして評価する。尚、石英シングルモードファイバの物性値は、図5の表1にまとめた通りである。
【0055】
まず、横荷重に対する位相変化率Sは、
【数22】

【0056】
と評価される。ここで、FはN(ニュートン)単位である。
【0057】
次に、縦荷重に対する位相変化率Sは、
【数23】

【0058】
と評価される。ここでも、FはN(ニュートン)単位である。
【0059】
よって、S≫Sであり、縦荷重に対する位相変化が支配的であり、横荷重に対する位相変化は無視できる。
【0060】
以上は、一般的な石英シングルモードファイバに関する考察であるが、PZT101の周りに偏波面保持ファイバ102が巻かれるため、偏波面保持ファイバ102に対する横荷重と縦荷重の影響を評価する必要がある。偏波面保持ファイバ102は、ファイバコアに外部より応力を印加することで複屈折を誘起し、又は、ファイバコアの形状により複屈折を誘起し、複屈折に沿った方向の直線偏光を伝播させた場合、その偏波状態を保持したまま直線偏光を伝播できるファイバを構成している(図6参照)。すなわち、常時、一定の横荷重を光ファイバに印加した状態と考えることができる(図7参照)。尚、図6(a)はパンダ型ファイバ111であり、同図(b)はボウタイファイバ112である。これらは応力付与により複屈折を形成する。そして同図(c)は楕円コアファイバ113であり、コア形状により複屈折を形成する。図7はシングルモードファイバ114に一定の横荷重を印加したとき、その外力により誘起される複屈折軸の様子を示している。
【0061】
よって、偏波面保持ファイバ102に対して、さらに外部より横荷重変化ベクトルΔFを印加したとしても、位相変化分はΔFに起因した変化分であり、縦荷重による変化よりも十分小さいと結論付けることができる。よって、偏波面保持ファイバ102に対しても縦荷重が位相変化の主要因であると評価される。
【0062】
(4)偏波面保持ファイバの縦荷重の影響(ファイバの種類による位相変化の違い)
図1に示したPZT101の周りに偏波面保持ファイバ102を巻きつけて構成される位相変調子100は、PZT101の径方向伸縮変位により生じる偏波面保持ファイバ102の伸縮(縦荷重)により位相変化が生じる。この際、偏波面保持ファイバ102の2つの光学軸それぞれに対して位相変化が生じ、それぞれの軸の位相変化の相対的な差が有効な位相変化分となる。そこで、どのようなタイプの偏波面保持ファイバが縦加重に対してどれだけ位相変化を及ぼすかが重要となる。以上の点から、図6(a)に示したパンダ型ファイバ111、同図(b)に示したボウタイファイバ112、同図(c)に示した楕円コアファイバ113の3種類の偏波面保持ファイバに対して縦荷重を与えた場合の位相変化の評価を以下で行う。
【0063】
偏波面保持ファイバの2つの光学軸を伝播する光の電界成分Eは、下記の式に従う。尚、簡単のため各伝播光の電界強度はEで同じとする。
【数24】

【0064】
ここで、ωは光の角周波数、β,βは偏波面保持ファイバ102の各光学軸の光の伝播定数である。
【0065】
簡単のため位相をシフトすると、
【数25】

【0066】
ここでδβ=β−βは偏波面保持ファイバ102の各光学軸間の伝播定数差である。
【0067】
よって、偏波面保持ファイバ102の光伝播軸に対して入射角45°で入射した直線偏光は、δβ・z=2nπ周期で、図8のように偏波状態がビートすることになる。以上から、ビート長Lは、以下の式で定義される。
【数26】

【0068】
さて、偏波面保持ファイバに縦荷重が印加されると、屈折率が変化し、結果的に各光学軸の伝播定数が変化する。これを数式で表すと、
【数27】

【0069】
となる。よって、縦荷重を偏波面保持ファイバに印加した場合、偏波面保持ファイバを伝播した光の位相が変化し、結果として光量変化から伸びΔzと位相変化Δφを評価することができる。
【0070】
以上の理論考察を元に、各種偏波面保持ファイバに対して縦荷重を印加した場合のファイバの伸びに対する位相変化を図9〜図14に、その結果を図15の表2にまとめて示す。
【0071】
以上の結果より、パンダ型ファイバは、縦荷重に対する位相変化が、ボウタイファイバや楕円コアファイバと比較し、約20倍程度大きい。
【非特許文献6】Muskhelishvili, N. I., “Some basic problems of the mathematical theory of elasticity” (P. Noordhoff, Groningen, Holland, 1953), p324-328
【非特許文献7】Smith, A. M., Electronics Letters, vol.16, No.20, p773-774, 1980 以上の評価を元に、以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0072】
(第1の実施の形態)本発明の第1の実施の形態の光センサについて、図16を用いて説明する。図16に示す位相変調子10は、円筒状のピエゾ管(PZT)の圧電素子11の周りに偏波面保持ファイバ12をその光伝播軸の方向12a,12bと円筒状圧電素子11の機械的応力の方向11a〜11dとが約45°となるように巻き付けて構成している。このような構成の位相変調子10を用いた光センサは、例えば、特許文献1の図1に示されている従来例のように構成でき、また、特許文献2の図1に示されている従来例において位相変調器7の部分に当該位相変調子10を採用することにより、さらには特許文献3の図2に示されている従来例において光ファイバ音響センサ212として当該位相変調子10を採用することにより構成される。その他にも本実施の形態の位相変調子10を用いた光センサは、従来例として示した各種の構成が可能である。
【0073】
本実施の形態における位相変調子10の動作について説明する。偏波面保持ファイバ12にその光伝播軸の方向12a,12bに対して約45°の方向11a〜11dに機械的応力を与えることにより、偏波面保持ファイバ12の2つの光伝播軸に加わる機械的応力をほぼ均等化でき、機械的応力による偏波面保持ファイバ12の光の伝送損失が一方の光伝播軸に偏らないようにすることが可能となり、結果的に、光強度変調を小さくすることができる。
【0074】
位相変調子10に正弦波の電圧信号を与え、偏波面保持ファイバ12に位相変調を与える場合について考える。正弦波電圧信号の周波数(変調周波数)をωとすると、偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸(x軸、y軸とする)を伝播する光の強度(P、P)は、簡略化した式で、
【数28】

【0075】
と表すことができる。ここで、Px,t,Py,tは偏波面保持ファイバ12を伝播する光量の大きさで、ΔPx,l,ΔPy,lは偏波面保持ファイバ12に機械的応力が印加されることにより損失する光量である。偏波面保持ファイバ12の2つの光伝播軸の片方に機械的応力が偏っている場合、例えば、x軸に偏っている場合、ΔPx,l・sin(ω・t)の項の影響が大きくなり、結果としてx軸では強度変調を受けることになる。位相変調子を用いた干渉型の光センサの場合、干渉光量の強弱より、測定物理量を求めるが、強度変調が存在する場合、強度変調による光の強弱信号がノイズとなり、測定システムの精度を低下させる。よって、強度変調を生じにくい図16の構成の位相変調子10を用いることで、高精度な測定が可能な光センサを実現できる。また、有効光量は、x軸を伝播する光とy軸を伝播する光との干渉成分となるため、P、Pの値のいずれか低い方の値によって決まる。よって、偏波面保持ファイバ12の2つの光伝播軸の片方に機械的応力が偏っている場合、例えば、x軸に偏っている場合、伝播損失が大きな時間領域において有効光量が低減することになり、測定システムの有効信号成分が低減し、結果として光センサの測定精度を低下させる。これに対して、図16の構成の位相変調子10を用いることで有効光量の低減を小さくすることができるため、高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0076】
尚、図16に示した第1の実施の形態の位相変調子10では、PZTの圧電素子11を用いているが、これに代えて、PLZTセラミック素子(チタン酸鉛とジルコン酸鉛の固溶体に酸化ランタンを添加したチタン酸ジルコン酸ランタン鉛のセラミック素子)を用いたアクチュエータ(光によってセラミックに機械振動を誘起)など各種セラミック素子を用いることで、容易に偏波面保持ファイバ12へ機械振動を与えることができ、しかも任意の波形の位相変化を偏波面保持ファイバ12へ印加できる位相変調子が構成できるため、それを用いて構成した光センサの信号処理(セロダイン検波やヘテロダイン検波などの検波手段)に裕度を持たせることができ、結果として光センサの測定精度を向上させることができる。
【0077】
(第2の実施の形態)本発明の第2の実施の形態の位相変調子10Aについて、図17を用いて説明する。本実施の形態の位相変調子10Aは、直方体型圧電素子11Aに穴を開け、その穴に偏波面保持ファイバ12Aを挿入して圧電素子11Aと接着剤などで固定した構成である。
【0078】
この位相変調子10Aでは、圧電素子11Aにあけられた穴の周りでは、偏波面保持ファイバ12Aの側面に対して、等方的な機械的応力11eが印加される。また、偏波面保持ファイバ12Aの光伝播方向11fに対しても直方体型圧電素子11Aは機械的応力が発生し、偏波面保持ファイバ12Aに引っ張り応力を印加することで有効な位相変調を、偏波面保持ファイバ12Aを伝播する光に印加する。
【0079】
尚、本実施の形態の位相変調子10Aを用いて光センサを構成する場合、第1の実施の形態と同様に、従来例として示した各種構成が可能である。
【0080】
本実施の形態の位相変調子10Aでは、偏波面保持ファイバ12Aの2つの光伝播軸に対してほぼ等方的な機械的応力11aを与えることにより、機械的応力11aによる偏波面保持ファイバ12Aの光の伝送損失が一方の光伝播軸に偏らないようにすることが可能となるため光強度変調を小さくすることができる。また、機械的応力11aによる偏波面保持ファイバ12Aの光伝播軸間の伝送損失差が小さくなるため、有効な光信号光量成分を大きくでき、高精度な測定が可能な光センサを実現できる。
【0081】
(第3の実施の形態)本発明の第3の実施の形態の位相変調子について、図18を用いて説明する。本実施の形態の位相変調子10Bは、第1の実施の形態と同様に円筒状の圧電素子10Bの周りに偏波面保持ファイバ12Bを巻装した構成である。
【0082】
そして本実施の形態の特徴は、この偏波保持ファイバ12Bを、圧電素子11Bの周りに所定の捻り率で巻き付けて構成した点にある。例えば、偏波面保持ファイバ12Bを圧電素子11Bに1巻き当たり1捻りするように巻くことで、1巻きごとに偏波面保持ファイバ12Bの2つの光伝播軸に加わる機械的応力を均等化することができる。この位相変調子10Bを用いた光センサとしては、従来技術で示した各種のものが構成できる。
【0083】
本実施の形態の位相変調子10Bでは、偏波面保持ファイバ12Bを円筒状の圧電素子11Bの周りに所定の捻り率で巻き付けることにより、偏波面保持ファイバ12Bの2つの光伝播軸12a,12bに加わる機械的応力11a〜11dを均等化することができ、2つの光伝播軸12a,12b間の曲げ応力による光伝送損失差を小さくすることができるため有効な光信号光量成分を大きくでき、高精度な測定が可能な光センサが実現できる。また、圧電素子11Bにより印加される機械的応力11a〜11dも偏波面保持ファイバ12Bの2つの光伝播軸12a,12bに対してほぼ均等化でき、機械的応力11a〜11dによる偏波面保持ファイバ12Bの光の伝送損失が一方の光伝播軸に偏らないようにすることが可能となり、光強度変調を小さくすることができる。また、圧電素子11Bの機械的応力11a〜11dによる偏波面保持ファイバ12Bの光伝播軸12a,12b間の伝送損失差が小さくなるため有効な光信号光量成分を大きくでき、高精度な測定が可能な光センサが実現できる。加えて、従来のように無作為に円柱状又は円筒状の圧電素子の周りに偏波面保持ファイバを巻き付けて構成される位相変調子と比較して変調特性が安定し、位相変調子の歩留まりが向上する。
【0084】
尚、上記の第1の実施の形態、第3の実施の形態では円筒状圧電素子11A,11Bを用いた場合を示したが、円柱状の圧電素子を用いても同様な効果を有する位相変調子を構成することができる。
【0085】
また、上記の第1の実施の形態、第3の実施の形態では、偏波面保持ファイバ12,12Bにパンダ型光ファイバを用いることで、ボウタイファイバや楕円コアファイバと比較して引っ張り応力に対して約20倍の位相変調を得ることができる。そのため、効率的に位相変調を印加できる位相変調子10,10Bを構成でき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0086】
一般に量産されている偏波面保持ファイバには、そのクラッド径が約125μmのものと約80μmのものとがある。クラッド径が小さな光ファイバほど、光ファイバ自体に印加される曲げに起因したファイバ側圧方向の機械的応力が小さなため、偏波面保持ファイバ12,12Bにクラッド径80μmのパンダ型ファイバを使用することで、パンダファイバの2つの光伝播軸12a,12bに加わる光ファイバ側圧方向の機械的応力を低減でき、2つの光伝播軸12a,12b間の曲げ応力による光伝送損失差を小さくすることができるために有効な光信号光量成分を大きくでき、高精度な測定が可能な光センサが実現できる。また、クラッド径約80μmのパンダ型ファイバは、機械的な引っ張り力に対して2つの光伝播軸12a,12bの伝播定数差の変化が大きいため、クラッド径約80μmのパンダ型ファイバを用いることで効率的に位相変調が印加できる位相変調子を構成でき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0087】
さらに、前述の(3)の「光ファイバに印加される荷重により生じる位相変化の評価」で評価したように、光ファイバの側圧(横荷重)は、縦荷重(引っ張り応力)よりも光ファイバ内を伝播する光へ誘起される位相は小さいが、光に位相変化を生じさせる。偏波面保持ファイバの被覆に光ファイバの側圧方向に対して硬質な被覆材を使用することで、光ファイバの側圧方向の機械的応力が光ファイバに直接印加されない構成とすることができ、光ファイバ側圧方向からの機械的応力に起因した偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸間の光伝送損失差を小さくすることができて有効な光信号光量成分を大きくでき、この結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。また、偏波面保持ファイバの光伝播方向の機械的応力は、被覆によって著しくは低減されないため、効率的に位相変調を印加できる位相変調子を構成でき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。そして偏波面保持ファイバを紫外線(UV)硬化樹脂で被覆したり金属コート被膜を形成したりすることにより、同様な効果を容易に得ることができる。
【0088】
(第4の実施の形態)本発明の第4の実施の形態の光センサについて、図19を用いて説明する。本実施の形態の光センサは、位相変調法を光検波手段として使用する光センサであって、被測定物理量を測定する光センシング部21からの光信号より所定の物理量を演算する信号処理ユニット22と光センシング部21の間を偏波面保持ファイバ23にて光学的に接続した構成である。そしてこの偏波面保持ファイバ23として、ボウタイファイバを使用したことを特徴としている。尚、位相変調法を光検波手段として使用する光センサとして、従来例の各種構成が採用される。
【0089】
本実施の形態の光センサでは、信号処理ユニット22と光センシング部21を光学的に接続する偏波面保持ファイバ23としてボウタイファイバを採用することで次のような作用、効果を奏する。ボウタイファイバは、引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバである。そのため、このようなボウタイファイバを使用することで、偏波面保持ファイバ23に振動や熱衝撃や音響などに起因した機械的応力が印加されても、機械的応力により偏波面保持ファイバ内に発生する誤差位相差が小さいため、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0090】
従来技術でも説明したが、位相変調子を用いた光センサであって、光ファイバにより光センシング部と被測定物理量を演算する信号処理ユニットとの間を光学的に接続し、光信号を伝送する送光用偏波面保持ファイバに振動、熱衝撃、音響などにより共振現象が外部より印加される場合も、偏波面保持ファイバを伝播する光に誤差位相差が発生してしまい、結果として光センサの特性を悪化させ、測定精度を低下させてしまう問題点があった。しかしながら、本実施の形態の光センサのように、引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバ23を使用することで、上記の誤差位相差を小さくすることができる。
【0091】
上の「(3)光ファイバに印加される荷重により生じる位相変化の評価」で示したように、ボウタイファイバや楕円コアファイバは、パンダ型ファイバと比較して約20倍引っ張り応力に対する位相変化が小さい。そのため、送光用偏波面保持ファイバにボウタイファイバや楕円コアファイバを使用することで、偏波面保持ファイバに振動や熱衝撃や音響などに起因した機械的応力が印加されても、機械的応力により偏波面保持ファイバ内に発生する誤差位相差が小さく、この結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0092】
一般に量産されているボウタイファイバや楕円コアファイバには、そのクラッド径が約125μmのものと約80μmのものとがある。クラッド径が小さい光ファイバほど、光ファイバ自体に印加される曲げに起因したファイバ側圧方向の機械的応力が小さい。そこで、偏波面保持ファイバにクラッド径80μmの光ファイバを使用することで、偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸に加わる光ファイバ側圧方向の機械的応力を低減することができ、2つの光伝播軸間の曲げ応力による光伝送損失差を小さくすることができ、かつ、前述の機械的応力に起因してファイバ内に発生する誤差位相差を小さくでき、この結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。尚、曲げ応力には振動や熱衝撃、音響による局所的な偏波面保持ファイバの曲げを含む。さらに、クラッド径約80μmのボウタイファイバや楕円コアファイバは、パンダ型ファイバと比較して引っ張り応力に対するファイバの2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい。そのため、振動や熱衝撃や音響などに起因した機械的応力がクラッド径約80μmのボウタイファイバや楕円コアファイバに印加されても、その機械的応力によりクラッド径約80μmのボウタイファイバやボウタイファイバ内に発生する誤差位相差が小さく、この結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0093】
(第5の実施の形態)本発明の第5の実施の形態の光センサについて、図20を用いて説明する。本実施の形態の光センサは第4の実施の形態と同様、図19に示す構成であり、光センシング部21、信号処理ユニット22、両者間を光学的に接続する偏波面保持ファイバ23Aから構成されている。そして本実施の形態の特徴は、偏波面保持ファイバ23Aとして、図20に示す構造のものを採用した点にある。この偏波面保持ファイバ23Aはパンダ型ファイバであり、クラッド231の周りを弾性体232が取り囲み、さらに弾性体232の周りを樹脂外被233にて被覆した構造である。この弾性体232には、シリコーンゴムを採用することができる。
【0094】
このような構造の偏波面保持ファイバ23Aを採用することで、振動や熱衝撃や音響などに起因した機械的応力が直接にファイバコア234に印加されることがなく、機械的応力に起因してファイバコア234内に発生する誤差位相差が小さくなり、この結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0095】
「(3)光ファイバに印加される荷重により生じる位相変化の評価」で示したように、光ファイバに縦荷重(引っ張り応力)が印加される場合、もっとも顕著に光ファイバを伝播する光に位相差が生じる。そのため、送光用偏波面保持ファイバ23Aとしてその外殻が引っ張られても直接に内部のファイバクラッド231やファイバコア234の部分に引っ張り応力が印加されない構造とすることで、引っ張り応力に起因にした偏波面保持ファイバ内に発生する誤差位相差が小さくでき、この結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0096】
(第6の実施の形態)本発明の第6の実施の形態の光センサについて、図21A、図21Bを用いて説明する。本実施の形態の光センサは第4の実施の形態と同様、図19に示す構成であり、光センシング部21、信号処理ユニット22、両者間を光学的に接続する偏波面保持ファイバ23Bから構成されている。そして本実施の形態の特徴は、図21Aに示したように偏波面保持ファイバ23Bに対して保護管235を被せ、かつ、保護管235とその内部に挿入された偏波面保持ファイバ23Bとの間に例えばクッションの様な弾性体で成る防音・防振材236を詰めたことを特徴としている。尚、この防音・防振材236に代えて、図21Bに示すように、保護管235の内部に不連続に設置された弾性体で構成された防音壁237を設けることもできる。
【0097】
本実施の形態の光センサでは、光センシング部231と信号処理ユニット232を光学的に接続する偏波面保持ファイバ23Bには、外部から引っ張り応力が印加されないように保護管235を被せ、かつ、保護管235の内部に振動や音響による共振が発生しないように防音・防振材236を詰め、あるいは防音壁237を設けた構造とすることで、振動や音響による共振に起因した機械的応力が直接偏波面保持ファイバ23Bに印加されることがなく、機械的応力に起因して偏波面保持ファイバ23B内に発生する誤差位相差を小さくでき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0098】
(第7の実施の形態)本発明の第7の実施の形態の光センサについて、図22A、図22Bを用いて説明する。本実施の形態の光センサは第4の実施の形態と同様、図19に示す構成であり、光センシング部21、信号処理ユニット22、両者間を光学的に接続する偏波面保持ファイバ23Cから構成されている。そして本実施の形態の特徴は、図22Aに示したように偏波面保持ファイバ23Cに対して、不連続に複数の穴238を開けた穴開き保護管239を被せたことを特徴としている。尚、この穴開き保護管239に代えて、図22Bに示すように、不連続な網目構造の保護管239を用いることもできる。
【0099】
本実施の形態の光センサでは、穴開き保護管238、若しくは網目構造の保護管239を偏波面保持ファイバ23Cに被せたことで、保護管238,239の内部に音や振動の定在波がせず、保護管238,239の内部での振動や音響による共振現象を抑制することができ、光ファイバに印加される共振現象による機械的応力を小さくすることができ、機械的応力に起因して偏波面保持ファイバ23C内に発生する誤差位相差が小さくでき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【0100】
(第8の実施の形態)本発明の第8の実施の形態の位相変調子組体について、図23を用いて説明する。本実施の形態の位相変調子組体は、図16に示した第1の実施の形態の位相変調子10、図18に示した第3の実施の形態の位相変調子10Bと同様の構成の位相変調子10Cに対して、さらにゲルの振動吸収材10Dを設けて防振構造にしたことを特徴とする。尚、この位相変調子組体10を用いた光センサとしては、従来技術で示した各種のものが構成できる。
【0101】
本実施の形態の位相変調子組体では、機械的振動が位相変調子10Cの周辺の偏波面保持ファイバ12,12Bに伝達しないような防振構造を施すことで、位相変調子10Cの周辺の偏波面保持ファイバ12,12Bに対する機械的応力を小さくすることができ、機械的応力に起因してファイバ内に発生する誤差位相差を小さくでき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。尚、さらに音響の影響は、位相変調子10Cの全体をクッション材などの弾性体で覆うことによって低減できる。
【0102】
(第9の実施の形態)本発明の第9の実施の形態の光学素子を、図24を用いて説明する。本実施の形態の光学素子30は、位相変調子としての圧電素子を含まず、巻き枠31の周りにコイル状の偏波面保持ファイバ32を巻装した構成を特徴とする。そして偏波面保持ファイバ32には、引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さいボウタイファイバを用いている。尚、ボウタイファイバに代えて楕円コアファイバを用いることもできる。
【0103】
本実施の形態の光学素子30では、偏波面保持ファイバ32として引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さいボウタイファイバ若しくは楕円コアファイバを使用したことで、偏波面保持ファイバ32に振動や熱衝撃や音響などに起因した機械的応力が印加されても、機械的応力により偏波面保持ファイバ32内に発生する誤差位相差が小さくでき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。すなわち、「(3)光ファイバに印加される荷重により生じる位相変化の評価」で示したように、ボウタイファイバや楕円コアファイバは、パンダ型ファイバと比較して約20倍引っ張り応力に対する位相変化が小さい。そのため、コイル状の偏波面保持ファイバ32で構成される光学素子30にボウタイファイバや楕円コアファイバを使用することで、偏波面保持ファイバ32に振動や熱衝撃や音響などに起因した機械的応力が印加されても機械的応力により偏波面保持ファイバ32内に発生する誤差位相差を小さくでき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できるのである。
【0104】
従来技術で説明したが、光センサでは、偏波面保持ファイバをコイル状に巻いて構成される部位が数多く存在する。先に説明した特許文献7の図6に示されている従来例の光ファイバ偏光子もその一例であるが、他に、特許文献4の図1に示されている反射型光ファイバ電流センサにおける遅延用ファイバコイル、特許文献1の図1に示されている光ファイバ振動センサにおける振動センサコイル部分、特許文献2の図1に示されている位相変調器7及びそれを用いた光回転検出装置におけるセンシングループ6などがそれに該当する。これらのコイル状の偏波面保持ファイバの部位に外部より振動や熱衝撃が加わると偏波面保持ファイバのコイル形状や巻枠の形状に依存した共振振動や共振収縮が発生する。振動源としては、既に記載した位相変調子の伸縮振動が本来意図していない部位に伝搬することによっても生じ得る。共振振動や共振収縮が発生するとそれらの共振現象によって偏波面保持ファイバの伸縮が発生し、前述した位相変調子と同様の原理で偏波面保持ファイバに位相差が発生してしまう。これらは、本来意図している制御された位相差とは異なる誤差位相差であり、結果として光センサの特性を悪化させ、測定精度を低減してしまう。しかしながら、本実施の形態の光学素子の場合、共振現象によって偏波面保持ファイバ12Dに伸縮が発生しても、引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバを使用しているので、偏波面保持ファイバ12D内に発生する誤差位相差を小さくでき、結果として高精度な測定が可能な光センサが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】一般的な位相変調子の動作説明図。
【図2】一般的な偏波面保持ファイバの伸縮に伴う伝播光の位相変化を説明するグラフ。
【図3】光ファイバに横荷重が印加される場合の応力の説明図。
【図4】光ファイバに縦荷重が印加される場合の応力の説明図。
【図5】表1の表。
【図6】偏波面保持ファイバとしてのパンダ型ファイバ、ボウタイファイバ、楕円コアファイバそれぞれの断面図。
【図7】偏波面保持ファイバに対する応力印加時の挙動の説明図。
【図8】偏波面保持ファイバにその光学軸に対して45°の角度で直線偏光を入射させた場合の伝播偏光状態の説明図。
【図9】サンプル1のパンダ型ファイバ(クラッド径125μm)のファイバの伸びと位相変化の関係を示すグラフ。
【図10】サンプル2のパンダ型ファイバ(クラッド径125μm)のファイバの伸びと位相変化の関係を示すグラフ。
【図11】サンプル3のパンダ型ファイバ(クラッド径80μm)のファイバの伸びと位相変化の関係を示すグラフ。
【図12】サンプル4のボウタイファイバ(クラッド径125μm)のファイバの伸びと位相変化の関係を示すグラフ。
【図13】サンプル5のボウタイファイバ(クラッド径80μm)のファイバの伸びと位相変化の関係を示すグラフ。
【図14】サンプル6の楕円コアファイバ(クラッド径80μm)のファイバの伸びと位相変化の関係を示すグラフ。
【図15】表2の表。
【図16】本発明の第1の実施の形態の位相変調子の説明図。
【図17】本発明の第2の実施の形態の位相変調子の説明図。
【図18】本発明の第3の実施の形態の位相変調子の説明図。
【図19】本発明の第4の実施の形態の光センサの説明図。
【図20】本発明の第5の実施の形態の光センサに使用する偏波面保持ファイバの説明図。
【図21A】本発明の第6の実施の形態の光センサに使用する偏波面保持ファイバの斜視図及び断面図。
【図21B】本発明の第6の実施の形態の光センサに使用する別の偏波面保持ファイバの断面図。
【図22A】本発明の第7の実施の形態の光センサに使用する偏波面保持ファイバの斜視図。
【図22B】本発明の第7の実施の形態の光センサに使用する別の偏波面保持ファイバの断面図。
【図23】本発明の第8の実施の形態の位相変調子組体の斜視図。
【図24】本発明の第9の実施の形態の光学素子の斜視図。
【符号の説明】
【0106】
10,10A,10B,10C 位相変調子
10D 振動吸収材
11,11A,11B 圧電素子
12,12A,12B,12D 偏波面保持ファイバ
12a,12b 光伝播軸
21 光センシング部
22 信号処理ユニット
23,23A,23B,23C 偏波面保持ファイバ
232 弾性材
233 硬質被覆層
234 ファイバコア
235 保護管
236 防音・防振材
237 防音壁
238 穴開き保護管
239 網目状保護管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに、互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバをそれらの2つの光伝播軸に対して共に約45°の方向に前記機械的振動による機械的応力を受ける態様にて巻装して成る位相変調子。
【請求項2】
前記アクチュエータは圧電素子であり、
前記圧電素子の周りに、前記偏波面保持ファイバの光伝播軸と圧電素子の径方向とのなす角度が約45°になるように巻き付けたことを特徴とする請求項1に記載の位相変調子。
【請求項3】
ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに、互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバをそれらの2つの光伝播軸に対してほぼ等方的な機械的応力を与える態様にて巻装したことを特徴とする位相変調子。
【請求項4】
ボディに機械的振動を誘起する特性を備えた円筒状若しくは円柱状のアクチュエータの周りに互いに直交する2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバを所定の捻り率で巻き付けて構成したことを特徴とする位相変調子。
【請求項5】
前記偏波面保持ファイバにパンダ型ファイバを用いたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の位相変調子。
【請求項6】
前記偏波面保持ファイバにクラッド径約80μmのパンダ型ファイバを用いたことを特徴とする請求項5に記載の位相変調子。
【請求項7】
前記偏波面保持ファイバを、その側圧方向に対して硬質な被覆材にて被覆したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の位相変調子。
【請求項8】
前記偏波面保持ファイバの被覆材に紫外線硬化樹脂を使用したことを特徴とする請求項7に記載の位相変調子。
【請求項9】
前記偏波面保持ファイバの被覆に金属コート皮膜を使用したことを特徴とする請求項7に記載の位相変調子。
【請求項10】
前記アクチュエータとしてセラミック素子を使用したことを特徴とする請求項1、3、5〜9のいずれかに記載の位相変調子。
【請求項11】
請求項1に記載の位相変調子を防振材に組み付けて成る位相変調子組体。
【請求項12】
被測定物理量を測定する光センシング部と、前記光センシング部からの光信号より所定の物理量を演算する信号処理ユニットと、前記光センシング部と信号処理ユニットとの間を光学的に接続する光ファイバとを備え、前記光ファイバは、2つの光伝播軸を有する偏波面保持ファイバであり、前記偏波面保持ファイバの2つの光伝播軸それぞれに光を伝播させる光センサにおいて、
前記偏波面保持ファイバとして、引っ張り応力に対して前記2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバを用いたことを特徴とする光センサ。
【請求項13】
前記光センシング部と信号処理ユニットを光学的に接続する偏波面保持ファイバとして、ボウタイファイバを使用したことを特徴とする請求項12に記載の光センサ。
【請求項14】
前記光センシング部と信号処理ユニットとを光学的に接続する偏波面保持ファイバとして、クラッド径約80μmのボウタイファイバを使用したことを特徴とする請求項13に記載の光センサ。
【請求項15】
前記光センシング部と信号処理ユニットとを光学的に接続する偏波面保持ファイバとして、楕円コアファイバを使用したことを特徴とする請求項12に記載の光センサ。
【請求項16】
前記光センシング部と信号処理ユニットとを光学的に接続する偏波面保持ファイバとして、クラッド径約80μmの楕円コアファイバを使用したことを特徴とする請求項15に記載の光センサ。
【請求項17】
前記光センシング部と信号処理ユニットとを光学的に接続する偏波面保持ファイバの被覆は、クラッドの周りに弾性体が取り囲むように構成したものであることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載の光センサ。
【請求項18】
前記光センシング部と信号処理ユニットとを光学的に接続する偏波面保持ファイバは、外部から引っ張り応力が印加されないように保護管に挿入され、かつ、前記保護管の内部は振動や音響による共振が発生しない構造をしていることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載の光センサ。
【請求項19】
前記偏波面保持ファイバと保護管との間に音吸収材を充填したことを特徴とする請求項18に記載の光センサ。
【請求項20】
前記保護管には、側面に所定の間隔で穴が設けられていることを特徴とする請求項17又は19に記載の光センサ。
【請求項21】
被測定物理量を測定する光センシング部と、前記光センシング部からの光信号より所定の物理量を演算する信号処理ユニットと、前記光センシング部と信号処理ユニットとの間を光学的に接続する光ファイバとを備えた光センサにおいて、
位相変調子を除くコイル状の偏波面保持ファイバで構成される光学素子には、前記偏波面保持ファイバとして、引っ張り応力に対して2つの光伝播軸の伝播定数差の変化が小さい偏波面保持ファイバを用いたことを特徴とする光センサ。
【請求項22】
前記偏波面保持ファイバにボウタイファイバを使用したことを特徴とする請求項21に記載の光センサ。
【請求項23】
前記偏波面保持ファイバに楕円コアファイバを使用したことを特徴とする請求項21に記載の光センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−168465(P2009−168465A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3540(P2008−3540)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】