説明

位相比較回路

【課題】D−FFの内部遅延が無視できない高速動作時において位相比較回路の低消費電力化を実現する。
【解決手段】マスタースレーブマスター型D−FF11は、第1のM−FF11−1,S−FF11−2および第2のM−FF11−3が縦続接続され、入力NRZデータ信号をクロック信号に応答して識別し、S−FFおよび第2のM−FFから出力する。遅延回路4は、入力NRZデータ信号をS−FFと同じ時間だけ遅延させる。第1のEXOR回路7は遅延回路の出力とS−FFの出力の排他的論理和演算を行ない、第2のEXOR8はS−FFの出力と第2のM−FFの出力の排他的論理和演算を行なう。加算器9は第1のEXOR回路の出力と第2のEXORの反転出力を加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相比較回路に関し、特に、PLL(位相同期ループ)方式のクロック・データ識別再生回路における位相比較回路に関する。この位相比較回路は、データ信号をクロック信号で識別する時に、クロック信号の位相を最適ポイント(データ信号のパルス幅の中央位置)に自動調整させるために用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の位相比較回路の例が、特許文献1において従来例として挙げられている、C.R.Hooge,JR.,”A Self Correcting Clock Recovery Circuit”Journal of Lihtwave Tech.,Vol.LT-3,No.6,1985,p1312に記載されている。この位相比較回路の動作について、回路図(図4)とタイムチャート(図5)を用いて説明する。ここで、D−FFの内部遅延が無視できない程の高速動作であるとする。
【0003】
先ず、D−FF5において、入力端子1から入力したNRZデータ信号をクロックアンプ10からのクロック入力信号の立ち上がりで識別して出力する。遅延回路4は、入力端子1から入力したNRZデータ信号をD−FF5の内部遅延時間と同一な遅延時間を持たせて出力する。D−FF5出力信号と遅延回路4出力信号をEXOR(排他的論理和回路)7に入力して、その位相差、即ちNRZデータ信号の立ち上がりおよび立ち下りとD−FF5クロック入力信号の立ち上がりの位相差に応じた比較パルス信号をEXOR7から出力する。
【0004】
ここで、遅延回路4を挿入した理由は、NRZデータ信号の中央位置にD−FF5クロック入力信号の立ち上がりが合った最適位相時(図5の1)に、EXOR7出力である比較パルス信号の幅をクロック半周期分とするためであり、これにより比較パルス信号幅の変化は最適位相ポイントを中心とすることができる。最適位相時には比較パルス信号のパルス幅は基準パルス信号のパルス幅と等しい。
【0005】
一方、NRZデータ信号に対してD−FF5クロック入力信号の位相が進んだ状態(図5の2)では、EXOR7出力に示すように比較パルス信号のパルス幅が狭くなり、NRZデータ信号に対してD−FF5クロック入力信号の位相が遅れた状態(図5の3)では、EXOR7出力に示すように比較パルス信号のパルス幅が広くなる。
【0006】
次に、D−FF5出力信号をD−FF6へ入力し、D−FF6クロック入力信号の立ち上がりで識別する。そして、EXOR8にD−FF6出力信号を出力する。D−FF5出力信号とD−FF6出力信号の位相差は、D−FF5クロック入力の位相状態に係わらず常にクロック半周期分であるため、EXOR8は最適位相ポイント時の比較パルス信号と同じ幅の基準パルス信号をEXOR8から常に出力する(図5の1〜3)。
【0007】
そして、比較パルス信号と反転した基準パルス信号を加算器9で加算し、加算器9出力を出力端子3に出力する。この加算器9出力の平均値を取ることによりデータとクロックの位相差を検出する。加算器9出力の平均値は、D−FF5クロック入力信号の位相が進んだ状態(図5の2)では最適位相時(図5の1)の平均値より低く、D−FF5クロック入力信号の位相が遅れた状態(図5の3)では最適位相時(図5の1)の平均値より高くなっていることが分かる。
【0008】
【特許文献2】特開2000−68991号公報 (第2頁−第3頁、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
D−FF回路は、図6にバイポーラトランジスタで構成したD−FF回路を示すように、通常、同構成のフリップフロップ回路を2個従属接続し、前段をマスター、後段をスレーブとして名付けたMS型D−FF(マスタースレーブ型データフリップフロップ)を使用する。マスターフリップフロップは、トランジスタ30〜36と抵抗20,21および抵抗24で構成されるギルバートセル回路と、トランジスタ37,38および抵抗25,26で構成される2段エミッタフォロワ回路で構成され、スレーブフリップフロップは、トランジスタ39〜47と抵抗22,23および抵抗27で構成されるギルバートセル回路と、トランジスタ46,47および抵抗28,29で構成される2段エミッタフォロワ回路で構成されている。
【0010】
トランジスタ30のベースに接続される入力端子12とトランジスタ31のベースに接続される入力端子13がデータ入力端子D、トランジスタ34,44の各ベースに接続される入力端子14とトランジスタ35,43の各ベースに接続される入力端子15がクロック入力端子C、トランジスタ42のベースに接続される出力端子17とトランジスタ41のベースに接続される出力端子17がデータ出力端子Qに相当する。
【0011】
このように、従来の位相比較回路はD−FF回路が2個必要となる構成を採用しているので、ギルバートセル回路4個とエミッタフォロワ回路8個が必要となり、更に、ギルバートセル回路4個を駆動するためのクロックアンプも必要となるため、低消費電力化が困難であるという問題点がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、D−FFの内部遅延が無視できない高速動作時において、従来回路と比較し低消費電力化を実現した位相比較回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の位相比較回路は、第1の入力端子がMSM型D−FF(マスタースレーブマスター型データフリップフロップ)のデータ入力と遅延回路の入力に接続され、遅延回路の出力は第1のEXORの第1の入力に接続される。第2の入力端子はクロックアンプの入力に接続され、クロックアンプの出力はMSM型D−FFのクロック入力に接続される。MSM型D−FFの第1の出力には第1のEXORの第2の入力と第2のEXORの第1の入力が接続され、第1のMSM型D−FFの第2の出力には、第2のEXORの第2の入力が接続される。加算器の入力には、第1および第2のEXORの出力がそれぞれ接続され、第1の加算器の出力に出力端子が接続されることを特徴とする。
【0014】
PLL方式のクロック・データ識別再生回路における位相比較回路において、
MSM型D−FFは、第1のマスターフリップフロップ,スレーブフリップフロップおよび第2のマスターフリップフロップが縦続接続され、入力NRZデータ信号をクロック信号に応答して識別し、スレーブフリップフロップおよび第2マスターフリップフロップから出力する。遅延回路は、入力NRZデータ信号をスレーブフリップフロップと同じ時間だけ遅延させる。
【0015】
第1のEXOR回路は遅延回路の出力とスレーブフリップフロップの出力の排他的論理和演算を行ない、第2のEXORはスレーブフリップフロップの出力と第2マスターフリップフロップの出力の排他的論理和演算を行なう。加算器は第1のEXOR回路の出力と第2のEXORの反転出力を加算する。
【0016】
より詳しくは、第1のマスターフリップフロップおよび第2のマスターフリップフロップに供給されるクロックと、スレーブフリップフロップに供給されるクロックは逆相関係にある。
【0017】
更に、クロックの立ち上がりが入力NRZデータ信号の最小パルス幅の中央位置にある時は、加算器の出力が零になるように構成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果は位相比較器の低消費電力化が可能になるということである。その理由は、従来の位相比較回路で2個使用していたMS型D−FFをMSM型D−FF1個とすることにより、ギルバートセル回路1個とエミッタフォロワ回路2個が削減され、また同時にクロックアンプの負荷となるギルバートセル回路が1個削減されるためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の位相比較回路の一実施例について図面を参照しながら説明する。
【0020】
[構成の説明]
図1は本発明の位相比較回路の一実施例を示した回路図である。図4と対比すれば分かるように、MS型D−FF5,6の代りにMSM型D−FF11を採用している。MSM型D−FF11は、第1マスターフリップフロップ(M−FF)11−1とスレーブフリップフロップ(S−FF)11−2と第2のマスターフリップフロップ(M−FF)11−3を縦続接続し、S−FF11−2から出力Q1、第2M−FF11−3から出力Q2を取り出している。
【0021】
図1において、入力端子1がMSM型D−FF11のデータ入力と遅延回路4の入力に接続され、遅延回路4の出力はEXOR7の第1入力に接続されている。入力端子2はクロックアンプ10の入力に接続され、クロックアンプ10の出力はMSM型D−FF11のクロック入力に接続されている。MSM型D−FF11の出力Q1にはEXOR7の第2入力とEXOR8の第1入力が接続され、MSM型D−FF11の出力Q2にはEXOR8の第2入力が接続される。加算器9の入力には、EXOR7の出力とEXOR8の反転出力が接続され、加算器9の出力に出力端子3が接続されている。なお、M−FF11−1とM−FF11−3のクロック入力にはクロックアンプ10の出力がそのまま接続されるが、S−FF11−2のクロック入力にはクロックアンプ10の反転出力が接続される。
【0022】
図2はMSM型D−FF11の詳細回路図である。図2と図6を対比すれば分かるように、MSM型D−FF11は、図6における出力端子17,16に第2M−FF11−3を接続し、第2M−FF11−3におけるトランジスタ55のベースが出力端子17、トランジスタ56のベースが出力端子16に接続されている。第2M−FF11−3は第1M−FF11−1と同構成であり、第1M−FF11−1およびS−FF11−2と同じクロックで駆動される。図2において、第1M−FF11−1および第2M−FF11−3は図6におけるマスターフリップフロップ、S−FF11−2は図6におけるスレーブフリップフロップに相当する。S−FF11−2のクロック駆動は、第1M−FF11−1および第2M−FF11−3のクロック駆動とは、入力端子14,15が入れ替わっているので逆相関係にあることが分かろう。
【0023】
従来の位相比較回路では、図6に示したMS型D−FFを2段縦続接続するのに対して、本発明の位相比較回路においては、図2に示したMSM型D−FF11だけである。従って、従来の位相比較回路ではギルバートセル回路4個とエミッタフォロワ回路8個が必要となるのに対して、本発明の位相比較回路においては、ギルバートセル回路3個とエミッタフォロワ回路6個で足りる。クロックアンプ10の負荷となるギルバートセル回路も1個削減される。
【0024】
[動作の説明]
次に、回路図(図1)とタイムチャート(図3)を参照して本位相比較回路の動作を説明する。先ず、MSM型D−FF11の第1M−FF11−1において、入力端子1から入力したNRZデータ信号をクロックアンプ10からのクロック入力信号の立ち上がりで識別してS−FF11−2へ出力する。S−FF11−2においては、この入力をクロックアンプ10からのクロック入力信号の反転出力の立ち上がりで識別してMSM型D−FF11Q1出力信号とする。MSM型D−FF11Q1出力信号はマスタースレーブマスター構成のうちスレーブ出力からの結果であるため、MS型D−FFと同一の結果を得ることになる。
【0025】
このMSM型D−FF11Q1出力信号と、入力端子1から入力したNRZデータ信号を遅延回路4でS−FF11−2の内部遅延時間と同一の遅延を持たせた遅延回路4出力信号をEXOR7に入力して、遅延回路4出力信号とMSM型D−FF11Q1出力信号の位相差、即ち、NRZデータ信号の立ち上がりおよび立ち下りとMSM型D−FF11クロック入力信号の立ち上がりの位相差に応じた比較パルス信号をEXOR7から出力する。
【0026】
ここで、遅延回路4の遅延量をS−FF11−2の内部遅延時間と同一とした理由は、第1M−FF11−1とは別個にS−FF11−2へクロックを供給しているので、MSM型D−FF11クロック入力信号の立ち上がりからMSM型D−FF11Q1出力までの遅延量はS−FF11−2のみで決定されるためである。これに対して、前述の従来技術では、D−FF5へクロックを供給しているので、遅延回路4の遅延量をD−FF5の内部遅延時間と同一としている。
【0027】
また、遅延回路4を挿入した理由は、NRZデータ信号の中央位置にD−FF5クロック入力信号の立ち上がりが合った最適位相時(図3の1)に、EXOR7出力である比較パルス信号の幅をクロック半周期分とするためであり、これにより比較パルス信号幅の変化は最適位相ポイントを中心とすることができる。最適位相時には比較パルス信号のパルス幅は基準パルス信号のパルス幅と等しい。
【0028】
一方、NRZデータ信号に対してD−FF5クロック入力信号の位相が進んだ状態(図3の2)では、EXOR7出力に示すように比較パルス信号が狭くなり、NRZデータ信号に対してD−FF5クロック入力信号の位相が遅れた状態(図3の3)では、EXOR7出力に示すように比較パルス信号が広くなる。
【0029】
次に、MSM型D−FF11Q1出力を第2M−FF11−3へ入力し、クロックアンプ10からのクロック入力信号の立ち上がりで識別する。そして、EXOR8にMSM型D−FF11Q2出力を出力する。EXOR8は、MSM型D−FF11Q1出力信号とMSM型D−FF11Q2出力を入力して、基準パルス出力であるEXOR8出力信号を生成する。MSM型D−FF11Q2出力信号(基準パルス信号)は、第2M−FF11−3においてクロックがLoレベルの時にデータを取り込み、Hiレベルの時に保持動作すると定義すると、MSM型D−FF11クロック入力信号の立ち下がりに同期してデータを出力する。このため、MSM型D−FF11Q2出力信号はMSM型D−FF11Q1出力信号に対してクロック半周期分の遅延を持った信号となる。
【0030】
これにより基準パルス出力であるEXOR8出力信号のパルス幅は、クロック半周期分となる。この基準パルスであるEXOR8出力は、入力データに対してクロックの位相が進んだ場合(図3の2)、あるいは遅れた場合(図3の3)でも最適位相ポイント時の比較パルス信号の幅に相当するクロック半周期分の幅を持つことになる(図3の1〜3)。
【0031】
そして、比較パルス信号と反転した基準パルス信号を加算器9で加算し、加算器9出力を出力端子3に出力する。この加算器9出力の平均値を取ることによりデータとクロックの位相差を検出する。加算器9出力の平均値は、MSM型D−FF11クロック入力信号の位相が進んだ状態(図3の2)では最適位相時(図3の1)の平均値より低く、MSM型D−FF11クロック入力信号の位相が遅れた状態(図3の3)では最適位相時(図3の1)の平均値より高くなっていることが分かる。この平均値を位相制御のフィードバック制御のために使用する。
【0032】
このように本発明の位相比較回路は、D−FFの内部遅延が無視できない高速動作時において、従来回路とまったく同様に位相比較を行うことが可能でありながら、従来回路と比較しフリップフロップ回路が1個削減されるために、ギルバートセル回路1個とエミッタフォロワ回路2個分の消費電力削減の効果が得られ、また同時にクロックアンプの負荷となるギルバートセル回路も1個削減されるためにさらに低消費電力化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の位相比較回路の一実施例を示した回路図
【図2】本発明で採用したMSM型D−FF11の詳細回路図
【図3】本発明の位相比較回路の動作を示すフローチャート
【図4】従来の位相比較回路の一例を示す回路図
【図5】従来の位相比較回路の動作を示すフローチャート
【図6】従来の位相比較回路におけるMS型D−FFの詳細回路図
【符号の説明】
【0034】
1,2 入力端子
3 出力端子
4 遅延回路
5,6 D−FF
7,8 EXOR
9 加算器
10 クロックアンプ
11 MSM型D−FF
12〜15 入力端子
16,17 出力端子
18,19 電圧源
20〜29 抵抗
30〜47 バイポーラトランジスタ
48〜52 抵抗
53〜61 バイポーラトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NRZデータ信号を入力する入力端子と、
前記NRZデータ信号を遅延させる遅延回路と、
前記入力端子および入力クロックに接続されて第1の出力および第2の出力を有する第2マスタースレーブマスター型データフリップフロップ(MSM型D−FF)と、
前記遅延回路の出力および前記MSM型D−FFの第1の出力を入力する第1の排他的論理和回路と、
前記MSM型D−FFの第1の出力および前記MSM型D−FFの第2の出力を入力する第2の排他的論理和回路と、
前記第1の排他的論理和回路の出力と前記第2の排他的論理和回路の反転出力を加算する加算器と、
前記加算器の出力が接続される出力端子を有することを特徴とする位相比較回路。
【請求項2】
PLL方式のクロック・データ識別再生回路における位相比較回路において、
第1のマスターフリップフロップ,スレーブフリップフロップおよび第2のマスターフリップフロップが縦続接続され、入力NRZデータ信号をクロック信号に応答して識別し、前記スレーブフリップフロップおよび前記第2マスターフリップフロップから出力するマスタースレーブマスター型データフリップフロップと、
前記入力NRZデータ信号を前記スレーブフリップフロップと同じ時間だけ遅延させる遅延回路と、
前記遅延回路の出力と前記スレーブフリップフロップの出力の排他的論理和演算を行なう第1のEXOR回路と、
前記スレーブフリップフロップの出力と前記第2マスターフリップフロップの出力の排他的論理和演算を行なう第2のEXORと、
前記第1のEXOR回路の出力と前記第2のEXORの反転出力を加算する加算器を有することを特徴とする位相比較回路。
【請求項3】
前記第1のマスターフリップフロップおよび前記第2のマスターフリップフロップに供給されるクロックと、前記スレーブフリップフロップに供給されるクロックは逆相関係にあることを特徴とする請求項2記載の位相比較回路。
【請求項4】
前記クロックの立ち上がりが前記入力NRZデータ信号の最小パルス幅の中央位置にある時は、前記加算器の出力が零になるように構成することを特徴とする請求項1〜3記載の位相比較回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−50666(P2010−50666A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212364(P2008−212364)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】