説明

位置推定装置

【課題】GPS測位精度を向上させるためのリファレンスとなる基地局の設置をせずに、三角測量による位置決めに用いる距離計測が不安定な場所での測位精度を向上させることが課題である。
【解決手段】GPSやその他の三角測量を用いて移動体の位置を推定する装置において、他の移動体やセンタ等と通信手段により、自信からはまだ得られていない距離計測情報を取得する。また、他の移動体までの相対位置を距離計測手段により計測する。相対位置が計測された移動体間の相対距離を、まだ得られていない距離計測情報に適切な変換をかけて付与することにより、測位計算に最低限必要な3点からの距離情報が得られたと同等の連立方程式を解くことで距離計測が不安定な場所でも測位可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内外にて移動体の位置を推定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでにも、複数の移動体の位置を精度良く求めるために、複数の移動体の情報を用いる方法は提案されている。例えば、特開2003−337029号公報では、他移動体のGPS(Global Positioning System)と自移動体のGPS信号を比較して、共通のGPS衛星信号を用いることで相対位置を正確に算出し、地図上にマッピングする装置が提案されている。また、特開2002−340589号公報では、正確な位置が既知の基地局を設置し、GPS端末が観測した擬似距離から、基地局で計測した擬似距離を元に計算した誤差を引いて、補正情報をネットワークに流すことで、位置を補正する方法を示している。また、特開2009−150722号公報では、移動体の絶対位置の確率分布を計算し、3体以上の移動体の絶対位置を特定する方法を示している。また、特開2008−312054号公報では、信号の周期をある閾値を用いて判別する方法を示しており、これを用いればGPS信号の誤検出を少なくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−337029号公報
【特許文献2】特開2002−340589号公報
【特許文献3】特開2009−150722号公報
【特許文献4】特開2008−312054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、GPS測位精度を向上させるためのリファレンスとなる基地局の設置は、その設置条件を考えなくてはならないことやコストが高くなることが課題となる。そして基地局設置のためのコストを低減させるために、特許文献2に記載の発明のように、補正情報をネットワークに流して位置を補正する場合や、特許文献3に記載の発明のように複数の移動体で得た情報を基に位置を補正する場合でも、実観測場所にて、各端末がGPS衛星を4つ以上観測できなくては位置推定ができないなど、三角測量の方式にて位置を推定する方法を採る場合は、距離計測が不安定な場所での測位精度が課題となる。
【0005】
本発明では、GPS測位精度を向上させるためのリファレンスとなる基地局の設置をせずに、三角測量による位置決めができたりできなかったりするような、距離計測が不安定な場所での測位精度を向上させることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
GPSやその他の三角測量を用いて移動体の位置を推定する装置において、他の移動体やセンタ等と通信手段により、自装置ではまだ得られていない距離計測情報を取得する。そして、距離計測情報を取得した移動体までの相対距離を距離計測手段により計測する。この計測した移動体間の相対距離を、取得した距離計測情報に適切な変換をかけて付与することで、3点からの距離情報が得られたと同等の連立方程式を立式し、この方程式を解いて測位結果を得る。
【発明の効果】
【0007】
従来の、三角測量の原理を用いた位置推定方法では、一つの移動体に対して必ず3点以上の場所からの距離が計測できることが条件となっていたが、複数の移動体の情報を用いて、かつ複数の移動体との関係性を反映することで、複数の移動体を含めて観測できる点数の合計を3点以上とすることで、それぞれの位置を計測できるようになり、測位精度を保つことができるようになる。また、3点以上の場所から自身の位置までの距離を計測できる場合でも、距離の差分を取り、その誤差を最小とするように最尤推定することで、3点からの距離を計測する際に生じる誤差を減らすことができるため、単一の移動体による位置推定精度よりも高精度に位置を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】位置推定システムの構成図。
【図2】移動体における処理フロー図。
【図3】センタにおける処理フロー図。
【図4】関係性判定手段の構成図。
【図5】関係性判定手段の処理フロー図。
【図6】基線ベクトル算出手段の処理フロー図。
【図7】連鎖判定手段の処理フロー図。
【図8】信号独立性判定手段の処理フロー図。
【図9】関係性判定手段を移動体に持った位置推定システムの構成図。
【図10】移動体における処理フロー図。
【図11】本発明による位置推定システムの適用例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を用いて、本発明を用いた位置推定システムの実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に、本発明を用いた位置推定システムの第一の実施例の構成図を示す。第一の実施例は、鉱山などのように、決まった移動体が決まった走行路を移動する場合で、移動体とセンタあるいは移動体同士の間で通信を頻繁に行うことが可能な環境の下で測位位置の精度を向上させるものである。
【0011】
この位置推定システムは、移動体の専用装置もしくは移動体に組み込まれることにより実現され、複数の移動体101,111と、センタ121とから構成される。また、移動体101,111およびセンタ121の管理する時刻は共通の時刻で同期が取られているものとする。図1では、簡単な例として移動体101と移動体111およびセンタ121から構成されている場合を示すが、移動体の数はより多くてもかまわない。移動体101は、測位信号などのセンサ情報を取得する信号受信手段102と、受信した測位信号などのセンサ情報を基に位置を算出する位置姿勢算出手段103と、他の移動体と相対距離を計測する距離計測手段104と、移動体に搭載されているセンサの情報や位置姿勢算出手段103で算出した位置の情報を外部と通信する通信手段105と、センタ121から配信される位置補正情報を格納しておく位置補正情報記憶手段106と、距離計測手段104で相対距離を計測する相手の移動体の特徴を認識する特徴認識手段107と、受信した測位信号などのセンサ情報や相対距離の計測結果および、その時の時刻を記憶する計測情報記憶領域および、送信途中の値を記憶する中断情報記憶領域を有する内部記憶手段108と、を備えて構成される。距離計測手段104と特徴認識手段107には、ステレオカメラのように一つのデバイスで対象物までの距離と特徴を取得する二つの効果を持つような機器を用いてもよい。また、移動体111も移動体101と同様の構成である。
【0012】
センタ121は、移動体101や移動体111などの複数の移動体から得られる距離の計測の可否を含む移動体相互の相対距離の計測結果から、他の移動体との相対位置などの繋がりを判定する関係性判定手段122と、関係性判定手段122で判定した情報を記憶する移動体分類記憶手段123と、位置補正情報を計算して現在位置を把握している各移動体からの現在位置を補正する位置補正手段124と、移動体へ位置補正情報を通信する通信手段125と、位置補正手段124で算出した位置補正情報を記憶する移動体位置補正情報記憶手段126と、複数の移動体から得られた情報を記憶する移動体情報記憶手段127と、で構成されている。
【0013】
次に図2に位置推定システムの移動体における処理フローを、また図3に位置推定システムのセンタにおける処理フローを示す。この位置推定システムは端末における処理とセンタにおける処理に大別され、双方の情報を用いて処理することで全体の処理が行われる。
【0014】
まず、移動体における処理から説明する。この説明では移動体101における動作として説明する。移動体101では、所定の周期でセンサ等から得られる測位信号などのセンサ情報を信号受信手段102により取得する。また、特徴認識手段107は、移動体101の周囲を捜査して、事前に認識する対象について内部記憶手段108に記憶されている他の移動体の特徴を検索する。ここで移動体の特徴とは、それぞれの移動体が持つレーザー反射板や特徴的な模様/マークや、移動体の形状などであり、予め各移動体に対応付けて格納されているものとする。第一の実施例では、他の移動体として移動体111の特徴が格納されている。それぞれの特徴を、事前にルール付けられた変換方式で値に変換し、特徴が認識された方向と合わせて特徴量とする。そして、認識した特徴までの相対距離を距離計測手段104にて計測する(ステップ201)。
【0015】
次に、ステップ202にて、ステップ201で取得したセンサ情報とその取得時刻および計測した相対距離や認識した特徴量を計測情報として内部記憶手段108の計測情報記憶領域に記憶する。このとき、計測情報記憶領域に前回に記憶した情報が残っていても上書きされる。
【0016】
次にステップ203にて、位置補正情報が位置補正情報記憶手段106にあるかどうかを確認し、もしあれば、ステップ204に移行してこの位置補正情報を用いて現在の位置を補正する。もし位置補正情報が無ければ、ステップ205に移行する。ステップ205では、ステップ202で記憶した計測情報を用いて位置・姿勢の算出が可能かどうかを判断する。もし可能であればステップ206にて位置・姿勢を算出する。不可能であればステップ207に移行する。
【0017】
ステップ207では、センタ121との通信が可能かどうかを判断する。センタ121との通信が不可能であった場合、ステップ213に移行して、次の計測情報取得まで待機する。センタ121との通信が可能であれば、ステップ208にて、後述する内部記憶手段108の中断情報記憶領域に前回のステップ209からステップ211までの処理の間で途中で保留した処理の情報があるかどうかを判断する。無い場合、ステップ209にて、ステップ202で記憶したセンサ等の情報およびセンサ情報の取得時刻,自移動体の移動体ID,認識した他移動体との相対距離と特徴量と共に、位置補正情報の受信要求をセンタへ送信する。ステップ210では、ステップ209でセンタへ送った位置補正情報の要求に対するセンタ121からの応答として送られてくる、受信要求を送った移動体のIDに対応した位置補正情報を受信する。ステップ211ではステップ210にて受信した情報を位置補正情報記憶手段106に記憶し、ステップ213で計測情報取得まで待機する。
【0018】
ただし、ステップ207以降は、その処理中に次の計測情報取得の機会が来ると、いつでも処理を保留してステップ201の計測情報取得の処理とステップ202の計測情報の記憶処理を行うため、処理が保留されて残った情報を内部記憶手段108の中断情報記憶領域に記憶し、ステップ201に戻る。そして、後の処理でステップ208における処理で内部記憶手段108の中断情報記憶領域に保留情報が有ると判断すると、内部記憶手段108の中断情報記憶領域に記憶された保留した所から処理を再開する。同様の処理は移動体111の位置推定システムでも行われる。
【0019】
図3にセンタ121の処理フローを示す。まず、移動体からの図2に示した処理フローにおけるステップ209で送信された情報を取得すると(ステップ301)。次にステップ302にて、移動体から受信したセンサ情報およびその取得時刻、他移動体の相対距離とその特徴量の情報を移動体情報記憶手段127へ記憶する。またこの時点で、移動体情報記憶手段127に記憶されている移動体からの情報の内、ある一定時間以上経過した情報は削除する。また、同一の移動体IDを持つ情報が存在する場合は、その情報を上書きする。
【0020】
次にステップ303にて、複数の移動体からの情報が移動体情報記憶手段127に記憶されているかどうかを判断する。単体の移動体の情報しかない場合は、ステップ308へ移り、移動体位置補正情報記憶手段126の予め管理対象として登録されている全ての移動体IDについて“補正情報無し”と記憶する。もし、複数の移動体からの情報がある場合はステップ304に移り、関係性判定手段122にて複数の移動体の関係性を判定し、関係性のある移動体を一まとめの集団として判断し、次のステップ305にて、ステップ304からの出力を各移動体IDと共に移動体分類記憶手段123に記憶する。
【0021】
そしてステップ306にて、移動体分類記憶手段123に記憶された情報に基づいて、位置補正情報が算出可能かどうかを判断する。この時、受信したセンサ情報におくる測位信号の内、独立な測位信号の数と各移動体の求めるべき位置の未知変数の数を求める。ここで求めた独立な測位信号の数と各移動体の求めるべき位置の未知変数の数を比べ、独立な測位信号の数が各移動体の求めるべき位置の未知変数の数よりも少ない場合、位置補正情報の算出は不可能と判断してステップ308へ移り、移動体位置補正情報記憶手段126の全ての移動体IDについて“補正情報無し”と記憶する。
【0022】
また、求めた独立な測位信号の数と各移動体の求めるべき位置の未知変数の数を比べて、独立な測位信号の数が各移動体の求めるべき位置の未知変数の数より多いかもしくは同じ数の場合、位置補正情報の算出は可能と判断すれば、ステップ307へ移行し、位置補正情報を算出する。ステップ307にて位置補正情報が算出されれば、ステップ308にて移動体位置補正情報記憶手段126において移動体ID毎に位置補正情報を記憶する。
【0023】
次にステップ309にて移動体から位置補正情報の要求があるかどうかを判断し、要求がある場合はその受信要求を上げている移動体の移動体IDに対応する位置補正情報を、ステップ310にて送信する。もし、移動体からの受信要求を受信していない場合には、ステップ311にて、次の情報が受信されるまで待機状態に移る。なお、各移動体における処理フローとセンタ121における処理フローは並列で動作する。
【0024】
このように、移動体の位置推定結果をセンタが機会ある毎に補正していくため、GPSなどの三角測量による位置決めに用いる距離計測が不安定な場所でも位置精度を向上させることができる。
【0025】
次に移動体における各装置構成について説明する。移動体における信号受信手段102では、それぞれの移動体の位置を算出するための信号が受信される。すなわち、三角測量により位置を算出するための信号や移動体の姿勢および速度を検出するためのセンサの信号である。三角測量により位置を算出するための信号は、GPS衛星からの航法電波や、ランドマークからの距離情報などである。移動体の姿勢を検出するためのセンサとは、ジャイロセンサや加速度センサなどの相対センサ、および地磁気センサなどの絶対的な方位を示すセンサである。また、速度を検出するためのセンサは、タイヤのエンコーダや、速度情報を含むGPSや、ドップラー速度計などである。
【0026】
位置姿勢算出手段103では、信号受信手段102で受信したセンサ等からの情報を基に移動体の位置を算出する。例えば、GPS信号に基づく三角測量では、N基の衛星からの信号を受信し、第i番目の衛星の位置(Xi,Yi,Zi)と、算出したい移動体の位置(x,y,z)と、第i番目の衛星からの距離ri、およびその誤差sから、次の(式1)で表される方程式を連立して解くことで移動体の位置(x,y,z)を算出することができる。
【0027】
【数1】


そして、(式1)で算出した位置と共にその測位誤差を考慮して、位置姿勢算出にカルマンフィルタなどの確率モデルフィルタを使用し、受信した信号から最尤な位置推定を行うと共に、その誤差を確率的に見積もる。
【0028】
移動体の距離計測手段104では、センサ等を用いて自移動体から他の移動体まで間の相対距離を計測する。相対距離を計測するためのセンサとしては、ステレオカメラや、レーザーレンジファインダ、ミリ波レーダ等である。
【0029】
移動体の特徴認識手段107では、自移動体の周囲を捜査し、事前に認識する対象として記憶されている他の移動体の特徴を検索し、自移動体に対する方向と共にする。特徴認識を行うためのセンサとしては、カメラや3次元レーザーレンジファインダ等が挙げられる。
【0030】
移動体の通信手段105では、信号受信手段102や位置姿勢算出手段103,距離計測手段104で得られた情報をセンタ121に送信する。また、センタ121から送られてくる情報を受信する。
【0031】
位置補正情報記憶手段106では、通信手段105で受信したセンタ121からの位置補正情報を記憶する。ここで記憶された情報は、位置の補正が行われた後に消去される。
【0032】
次にセンタ121における各装置構成について説明する。関係性判定手段122では、複数の移動体の関係性を判定することで、関連する移動体を一まとめの集団として分類すると共に、各自の位置座標や各移動体間の相対距離などからそれぞれの移動体の位置を算出する。関係性判定手段122の詳細構成を図4に、またそこでの処理の流れを図5に示す。関係性判定手段122は、移動体から送信されてきた距離計測手段104で得た情報から移動体間の相対距離が判っている移動体同士を繋がっている、相対距離が判っていない移動体同士は繋がっていないと判定する連鎖判定手段402と、信号受信手段にて得られたセンサ情報の内、それぞれの測位信号が独立した発信源からの情報であるか、他の測位信号の発信源と同じであるかどうかを判定する信号独立性判定手段403と、各移動体同士の相対的な高さを、移動体における信号受信手段と距離計測手段の少なくともどちらか一方の計算結果を用いて算出する基線ベクトル算出手段404とにより構成される。
【0033】
関係性判定手段122は、ステップ303で複数の移動体を個別に識別する移動体IDおよびそれぞれの移動体から得られるセンサ情報および相対距離・特徴量のデータを受信していることを確認していることが処理開始の前提となる。まず、ステップ502にて、移動体情報記憶手段127からセンサ情報および相対距離を計測した移動体の移動体IDを取得する。ここでは、既に移動体に対して移動体IDが振られているものとする。次にステップ503にて、取得した相対距離および特徴量の方向から、相対距離を計測した移動体の位置を基準地点とし、計測された移動体を未知地点とした場合のこの未知地点までの基線ベクトルを算出する。
【0034】
この基線ベクトル算出の詳細な処理フローを図6に示す。ステップ502にて取得した移動体情報記憶手段127に移動体からの情報が記憶されている全ての移動体についてのループ処理(ステップ600)では、ステップ601にて、まだ基線ベクトル算出を行っていない移動体を1つ選び、選んだ移動体IDに対応する特徴量を移動体情報記憶手段127から取得する。ステップ602では、移動体からの情報に含まれる計測情報の内、認識した特徴の方向についての情報が、移動体の進行方向に対する高さ方向および水平方向の傾きまでを含む情報を持ち、3次元基線ベクトルとして算出可能かを判断する。3次元基線ベクトルの算出は、ステレオカメラや3次元レーザーレンジファインダなどによる計測であれば可能である。3次元基線ベクトルが算出可能であれば、ステップ603にて移動体からの情報に含まれる計測情報の内、移動体の姿勢の情報を取得し、その結果と合わせてステップ604にて3次元基線ベクトルを算出する。算出した基線ベクトルはステップ609にて相対距離情報として、基準とした移動体の移動体IDと共に連鎖判定手段402に送出する。
【0035】
また、ステップ602にて、3次元基線ベクトルが算出不可能と判断された場合、ステップ605にて、認識した特徴の方向についての情報が移動体の進行方向に対する水平方向の傾きまでの情報を持ち、2次元基線ベクトルでの算出が可能かを判断する。2次元基線ベクトルの算出は、レーザーレンジファインダなどによる計測であれば可能である。2次元基線ベクトルを算出可能であれば、ステップ606にて移動体からの情報に含まれる計測情報の内、移動体の姿勢の情報を取得すると共にステップ607にて2次元基線ベクトルを算出し、ステップ609にて相対距離情報として、基準とした移動体の移動体IDと共に連鎖判定手段402に送出する。
【0036】
また、ステップ605にて、2次元基線ベクトルが算出不可能と判断された場合、ステップ608にて、基線ベクトルにおける2点間の方向を算出することはあきらめて相対距離のみを算出する。相対距離が既に算出されている場合は、その相対距離を用いる。そしてステップ609にて相対距離を基準とした移動体の移動体IDと共に連鎖判定手段402に送出する。
【0037】
以上の処理を、ステップ502にて取得した移動体情報記憶手段127に移動体からの情報が記憶されている全ての移動体について、未処理の移動体がなくなるまでステップ600からのループ処理を続ける。
【0038】
図5の説明に戻り、次にステップ504にて、関係性判定手段122における連鎖判定手段402により、移動体から送信されてきた距離計測手段104で得た情報から移動体間の相対距離が判っている移動体同士を繋がっている、相対距離が判っていない移動体同士は繋がっていないと判定する。この連鎖判定手段402による連鎖判定の処理フローを図7に示す。
【0039】
ステップ701にて、ステップ503で求められた3次元または2次元の基線ベクトルあるいは相対距離と基準となった移動体の移動体IDを受け取ると、関係性判定手段122のステップ502にて取得されている全ての移動体IDに対応した各移動体の位置・姿勢および各移動体が計測した相対距離や対象移動体の特徴量を移動体情報記憶手段127から取得し(ステップ702)、この内、位置・姿勢の算出が行われた移動体を三次元空間上にマッピングする(ステップ703)。
【0040】
次に、3次元または2次元の基線ベクトルあるいは相対距離などの他移動体の相対位置を計測した各移動体について、計測した対象の移動体を関連付けてゆく処理を繰り返す(ステップ704)。そこで、移動体情報記憶手段127に登録されている移動体の内、未処理の移動体の中から1つを処理対象として選択する(ステップ705)。
【0041】
次に、ステップ706にて、相対位置計測の対象となった移動体の特徴が抽出可能かを判断する。ここで、移動体の特徴が抽出可能な場合としては、レーザー反射板などを被計測移動体が持っており、その反射をレーザーレンジファインダで計測した場合や、それぞれの移動体が特徴的な模様のあるマークを持っており、それをステレオカメラで認識できた場合などがある。もし、特徴が抽出可能であったなら、ステップ707に移行し、事前に決められた各移動体の特徴と比較して相対位置を計測した移動体を特定し、処理対象として選択した移動体とこの特定された移動体は繋がっていると判定する。
【0042】
また、特徴が抽出不可能(相対位置の計測対象となった移動体が無い場合、即ち他の移動体が計測されなかった場合も含む)であるなら、ステップ708に移行し、計測された相対位置の誤差範囲内に存在している移動体を移動体情報記憶手段127の中から抽出する。この時、処理対象として選択した移動体で位置が算出されていない場合には、誤差範囲内に存在している移動体は無かったものとする。次にステップ709に移り、相対距離の誤差範囲内の移動体が複数あるかを判断する。もし抽出された移動体が一つの場合あるいは一つも無い場合は、ステップ710に移り、抽出された移動体が一つの場合にはその相対位置を計測された移動体を特定し、処理対象として選択した移動体とこの特定された移動体は繋がっていると判定する。なお、抽出された移動体が一つも無い場合には処理対象として選択した移動体についての処理を終了する。
【0043】
抽出された移動体が複数ある場合は、ステップ711に移行し、計測した相対位置の情報が2次元以上の基線ベクトルの情報であるかを判断する。2次元以上の基線ベクトルを持つ場合は、ステップ712にて相対距離情報の水平方向の傾きに最も近い位置にある移動体を相対位置が計測された移動体として特定し、処理対象として選択した移動体とこの特定された移動体は繋がっていると判定する。もし、相対位置の情報が1次元、つまり相対距離のみの情報であるならば、基準となる移動体からの方向が特定されないため、ステップ713に移り、特定できなかった相対距離情報を持つ移動体の移動体IDを記憶する。そして、ステップ714にて、全ての移動体に対して上記判定を行ったことを確認し、行っていない場合はステップ705からの処理を繰り返す。
【0044】
全ての移動体に対してステップ705〜714のループ処理が行われたと判断された場合、ステップ715に移り、繋がっていると判定された移動体の組を抽出する。次に、ステップ716に移行し、ステップ715にて抽出された組の一方にでも共通する移動体の組を一つの集団としてまとめ、全ての移動体をグルーピングする。次にステップ717にて、ステップ716でグルーピングされた結果を移動体分類記憶手段123へ格納する。
【0045】
この移動体をグルーピングする処理の概念を説明する。移動体Aから、移動体Bの相対距離が計測できたとする。また同様に、移動体Bからは移動体Cと移動体D804の相対距離が計測できたとし、移動体Eからは移動体Fとの相対距離が計測できたとする。この時、移動体A,移動体B,移動体C,移動体Dの間では直接的もしくは間接的にそれぞれの相対距離が計測されており、繋がっていると判断して、一つの集団と判定する。また、同様に移動体Eと移動体Fは直接相対距離が計測されているので繋がっていると判断し、一つの集団と判定する。しかし、移動体Aを含む集団と移動体Eを含む集団の移動体間では、直接的にも間接的にも相対距離が計測されていないため、別の集団として判定されることになる。
【0046】
再び図5のフローに戻り、ステップ505にて、信号独立性判定手段403では、同じ集団に属する各移動体の信号受信手段102にて得られたセンサ等の信号の内の測位信号が独立した発信源からの情報であるかどうかを判定する。ただし、発信源である測位衛星から発信される信号は唯一無二であるとする。信号独立性判定手段403の処理フローを図8に示す。
【0047】
この処理では、連鎖判定手段402によりグルーピングされた各集団毎に、全ての集団について処理を行う(ステップ900)。各集団において、まずステップ901にて、三角測量をするために必要な測位信号を受信した全ての移動体について、その移動体IDとその移動体IDを持つ各移動体から受信したセンサ情報の内、測位信号を読み出す。次にステップ902にて、読み出したそれらの測位信号に独立性判定ができるような符号が載っているかどうかを判断する。この独立性判定ができるような符号とは、GPSではPNコードのような識別符号を示す。PNコードの分別には特許文献4に記載の手法などを用いる。このような発信源を特定する符号が測位信号にあった場合、直接発信源の独立性が判断できるため、ステップ903に移り、受信した測位信号に載っている符号が重複しないように、即ち発信源が重複し内容に測位信号を選ぶ。
【0048】
独立性判定ができるような符号が受信した測位信号に載っていない場合、ステップ904に移行し、各移動体から受信したセンサ情報について観測行列を求める。例えば、求めたい位置の変数(x,y,z)を未知変数として、(式1)で表されるような各測位信号を受信した場合の観測行列は、(式1)をある点(x0,y0,z0)周りで1次の項までテーラー展開することで、以下の(式2)のように表すことができる。
【0049】
【数2】


(式2)のGを観測行列と呼ぶ。取得したセンサ信号の数が行数であり、求めたい未知変数の数が列数となる。Gの要素は事前に取得し得る全ての行数分用意されているとする。Gは取得したセンサ信号に対応する要素を残し、その他の要素に0を代入することでGを作成することができる。次にステップ905に移り、観測行列の階数(ランク)を求める。観測行列の階数は、ステップ904にて求めた観測行列Gを特異値分解もしくはQR分解することで求めることができる。ここで求めた階数が独立な信号の数となる。
【0050】
そして、ステップ906にて、重複している信号を消去する。同一の発信源をもつ測位信号が存在している場合、つまり、未知変数の数が観測行列Gの階数より大きかった場合、同一の発信源による測位信号を割り出し、それぞれが互いに独立した発信源による測位信号のみを残す。例えば、観測行列Gの要素において、1番目の測位信号による発信源までの距離r1からn番目の測位信号による発信源までの距離信号rnまで一つずつ、その測位信号に関わる要素を全て消去して、行列の階数を計算し、階数がnと変わらない測位信号が重複する発信源による測位信号であると判断できることから、観測行列Gからその重複する発信源による測位信号に対応する行を全て消去することで重複する発信源による測位信号が無い観測行列Gができる。
【0051】
また、ステップ907にて未知変数の数、つまり求めたい位置の要素数が独立な発信源の数より小さければ、位置補正が可能であるとして、ステップ908にて独立な発信源による測位信号を持つ移動体のIDとその測位信号を出力する。ここで、未知変数の数は上記の求めたい位置の変数の数となり、独立な発信源による測位信号の数はステップ906を経て、最終的に求めたGの列数である。またもし未知変数の数が独立な発信源による測位信号の数より大きければ位置補正算出は不可能であるとして、ステップ909にてこの結果を出力する。
【0052】
これらの処理を全てのグルーピングされた集団について繰り返す(ステップ910)ことで、各集団に属する移動体について位置補正情報を算出可能か否か、測位信号の独立性が判定される。
【0053】
このようにして図5に示した処理フローにより判定された移動体間の関係性の結果として、図3に示した処理フローのステップ305により、これまでに求めた各移動体が属する集団や独立な測位信号および基線ベクトルを、移動体IDと共に移動体分類記憶手段123に記憶する。
【0054】
このようにしてセンタ121における移動体分類記憶手段123には、関係性判定手段122で判定された集団毎に、移動体から送信されてきた各移動体の位置・姿勢、他の移動体との相対位置情報、センサ情報のうち、独立した発信源による測位信号であると判定された測位信号分とその測位信号に対応した変数を記憶する。
【0055】
センタ121の位置補正手段124は、移動体分類記憶手段123に記憶された情報から、各移動体の位置を算出し、もともと記憶されていた移動体の位置との差分を補正値とし、その誤差見積もりと共に補正情報として算出し、移動体位置補正情報記憶手段126に記憶する。ここで位置算出と誤差見積もりに用いる変数は、全て移動体分類記憶手段123にて記憶されていた変数とする。この算出の例として、移動体−1および移動体−2の2つの移動体の位置算出時の例を説明する。移動体−1および移動体−2の位置をそれぞれ、(x1,y1,z1),(x2,y2,z2)とする。移動体−1が、第一の信号発信源から第一の信号発信源と移動体−1間の距離情報r1と、第二の信号発信源から第二の信号発信源と移動体−1間の距離情報r2を受信したとする。また、同時に移動体−2が、第三の信号発信源から第三の信号発信源と移動体−2間の距離情報r3と、第四の信号発信源から第四の信号発信源と移動体−2間の距離情報r4を受信したとする。また、移動体−2では移動体−1までの相対位置を計測できたとして、移動体−2と移動体−1の間の相対距離の値がLであったとして、移動体−1と移動体−2の基線ベクトルが(dx,dy,dz)であったとする。この時、移動体−1の位置(x1,y1,z1)および移動体−2の位置(x2,y2,z2)を求めるには、次の(式3)で表される連立方程式を解けばよい。
【0056】
【数3】


また、(式3)から算出された位置の誤差の見積もりは、ある点(x0,y0,z0)を中心として、(式3)を1次の項までテーラー展開することで、(式4)のように表すことができる。
【0057】
【数4】


(式4)のGを観測行列と呼び、この観測行列Gを用いることで観測値の誤差の分散σは、σ=(GGT)-1のように観測された距離等の誤差の分散として算出される。
【0058】
この(式4)で表された観測行列Gや上記の誤差の分散σをカルマンフィルタなどの確率モデルフィルタに適用することで、(式3)から算出された位置の誤差の見積もりが求められる。
【0059】
センタ121の通信手段125は位置補正手段124で計算され移動体位置補正情報記憶手段に記憶された補正情報を移動体へ配信する。センタ121が通信手段125から送信する補正情報は、全ての求められた移動体の位置の補正情報に対してその補正をする対象の移動体の移動体IDが割り振られており、配信を受信できた各移動体では、センタ121から配信された補正情報に割り振られた移動体IDから、位置補正に使用する補正情報を特定し、その補正情報を基に、各移動体で位置を算出しなおす。
【0060】
誤差分散情報は、移動体が位置補正情報として補正値と共にセンタから受け取り、移動体内部での位置推定時に用いることができる。これは例えば特許文献3に記載されているように、移動体の存在確率の計算に必要となる。
【実施例2】
【0061】
第一の実施例における位置推定システムでは、関係性判定手段をセンタ121に設けていたが、関係性判定手段を各移動体が持っている位置推定システムを第二の実施例として説明する。第二の実施例では、各移動体で関係性判定手段を備えていることから、位置補正を移動体でローカルに行うことができるため、大都市部など様々な車両が行き来し、かつ、センタとの通信も途切れる可能性がある場合に位置精度を向上させることができる。
【0062】
第二の実施例の位置推定システムは、第一の実施例と同様、移動体の専用装置もしくは移動体に組み込まれることにより実現される。第一の実施例との違いは、複数の移動体で構成され、センタを必要としないことである。図9に、移動体1101における位置推定システムの構成を示す。移動体1101では、測位信号などのセンサ情報を取得する信号受信手段1102と、このセンサ情報を基に位置を算出する位置姿勢算出手段1103と、他の移動体と相対距離を計測する距離計測手段1104と、移動体のセンサ情報や算出した位置の情報を通信する通信手段1105と、位置補正情報を算出する位置補正手段1106と、移動体1101自身で得た、または他の移動体から得られた相対距離の計測の可否から他の移動体との繋がり等を判定する関係性判定手段1107と、位置補正手段1106にて算出した位置補正情報を記憶する位置補正情報記憶領域および、取得したセンサ情報や計測結果を記憶する計測情報記憶領域および、送信途中の値を記憶する中断情報記憶領域および、移動体の集団を記憶する移動体分類記憶領域および、他の移動体の情報を記憶する移動体情報記憶領域を設けた内部記憶手段1108と、距離計測手段1104にて計測した移動体の特徴を認識する特徴認識手段1109から構成される。
【0063】
この内、信号受信手段1102と位置姿勢算出手段1103と距離計測手段1104と特徴認識手段1109は、それぞれ第一の実施例における信号受信手段102,位置姿勢算出手段103,距離計測手段104,特徴認識手段107と同様であるため説明を省略する。
【0064】
また各移動体の信号受信手段1102は共にGPSの測位信号を受信する機能を備えており、それぞれの移動体で管理する時刻はGPS時刻により同期されているものとする。
【0065】
次に図10に移動体における位置推定システムの処理フローを示す。以下の説明では移動体1101における動作として処理の説明を行う。まず、移動体1101では、所定の周期でセンサ等から得られる測位信号などのセンサ情報を信号受信手段1102にて取得する。また、特徴認識手段1109は、移動体1101の周囲を捜査し、第一の実施例の場合と同様にして他の移動体の特徴を検索し、移動体1101に対する方向と共に認識し、特徴量を求める。そして、認識した特徴までの相対距離を距離計測手段1104にて計測する(ステップ1201)。
【0066】
次に、ステップ1202にて、ステップ1201で取得したセンサ情報および計測した相対距離や認識した特徴量を計測情報として内部記憶手段1108の計測情報記憶領域に記憶する。このとき、計測情報記憶領域に前回に記憶した情報が残っていても上書きされる。
【0067】
次にステップ1203にて、位置補正情報が内部記憶手段1108の位置補正情報記憶領域にあるかどうかを確認し、もしあれば、ステップ1204に移行し、この位置補正情報を用いて現在の位置を補正する。もし位置補正情報が無ければ、ステップ1205に移行する。ステップ1205では、ステップ1202で記憶した計測情報を用いて位置・姿勢の算出が可能かどうかを判断する。もし可能であればステップ1206にて位置・姿勢を算出する。不可能であればステップ1207に移行する。
【0068】
ステップ1207では他の移動体との通信が可能かどうかを判断する。他の移動体との通信可否の判断は、通信手段1105より応答要求のみの信号を出力し、ある一定時間内に他の移動体から応答が有った場合に通信可能と判断し、応答が無い場合には通信不可能と判断する。また、他の移動体から応答要求の通信があった場合には、このステップで要求元への応答を返す。他の移動体との通信が不可能であった場合、ステップ1218へ移行して、次の計測情報取得まで待機する。
【0069】
他の移動体との通信が可能であれば、ステップ1208にて、内部記憶手段1108の中断情報記憶領域に前回の処理の途中で保留した情報があるかどうかを判断する。無い場合、ステップ1209にて、ステップ1202で記憶したセンサ等の情報および自移動体の移動体ID、他移動体を認識していれば認識した他移動体との相対距離や特徴量およびそれらを取得した時刻を他の移動体へ送信する。時刻は、前述のようにGPS時刻を用いる。
【0070】
ステップ1210では、他の移動体がステップ1209で送った、センサ等の情報および移動体ID、認識した他の移動体との相対距離や特徴量およびそれらを取得した時刻を受信する。次に、ステップ1211にて、他の移動体から受信したセンサ情報およびその時刻、周囲で認識された移動体との相対距離とその特徴量などの情報を内部記憶手段1108における移動体情報記憶領域に記憶する。また、この時点である一定時間以上経った他の移動体の情報は削除する。また、同一の移動体IDを持つ情報が存在する場合は、その情報を上書きする。
【0071】
次にステップ1212にて、他の移動体からの情報が内部記憶手段1108の移動体情報記憶領域に記憶されているかどうかを判断する。他の移動体からの情報が記憶されていない場合、つまり他の移動体からの情報が一定時間の間に受信ができていないか、または受信した情報に他移動体の位置情報および特徴量の両方が揃っていない場合は、ステップ1216へ移り、内部記憶手段1108における位置補正情報記憶領域に、“位置補正情報無し”と記憶する。
【0072】
もし、他の移動体からの情報が記憶されている場合はステップ1213に移り、関係性判定手段1107により情報を受信した移動体との関係性を判定し、関連があると判断した移動体について、受信した情報に含まれる測位信号の内、独立な発信源による測位信号の数と位置の補正に必要な未知変数の数を求める。そして求めた独立な発信源による測位信号の数と位置の補正に必要な未知変数の数を比べ、独立な発信源による測位信号の数が移動体の位置補正のために必要な未知変数の数よりも少ない場合、位置補正情報の算出が不可能と判定し、また、求めた独立な発信源による測位信号の数が移動体の位置補正のために必要な未知変数の数より多いかもしくは同じ数の場合、位置補正情報の算出は可能と判定する。
【0073】
次にステップ1214にて、ステップ1213における判定結果から位置補正情報が算出可能かどうかを判断し、不可能であればステップ1216へ移り、内部記憶手段1108の位置補正情報記憶領域に、“位置補正情報無し”と記憶する。もし、位置補正情報が算出可能であれば、ステップ1215へ移行し、位置補正情報を算出する。ステップ1215にて位置補正情報が算出されれば、ステップ1216にて内部記憶手段1108の位置補正情報記憶領域に位置補正情報を記憶する。そして、ステップ1218で次の計測情報取得まで待機し、ステップ1201からの処理を繰り返すことになる。
【0074】
このようにして保存された位置補正情報を元に、次の処理の際にステップ1204の処理で位置を補正するため、測位精度が向上する。ただし、ステップ1207以降は、次の計測情報取得の機会が来ると、割り込みがかかっていつでもその時点の処理を保留し、残った処理の情報を内部記憶手段1108の中断情報記憶領域に記憶してステップ1201に戻る。そして、再度ステップ1208に処理が移ってきた時に、内部記憶手段1108の中断情報記憶領域に保留情報が有ると、ステップ1217にて最後に処理を保留した所から処理を再開し、内部記憶手段1108の中断情報記憶領域に記憶された情報の処理に戻る。他の移動体の位置推定システムも上記の処理と同様に動作する。
【0075】
次に各手段について説明する。移動体1101における信号受信手段1102,位置姿勢算出手段1103,距離計測手段1104,特徴認識手段1109は前述のように、第一の実施例における信号受信手段102,位置姿勢算出手段103,距離計測手段104,特徴認識手段107と同様である。
【0076】
また、内部記憶手段1108は第一の実施例の内部記憶手段108に対応し、更に、第一の実施例におけるセンタに設けられていた移動体分類記憶手段123と移動体位置補正情報記憶手段126,移動体情報記憶手段127に対応して、それぞれ内部記憶手段1108に移動体分類記憶領域、位置補正情報記憶領域、移動体情報記憶領域が設けられており、以下の関係性判定手段1107の説明は、第一の実施例における関係性判定手段122及びこれに関連した連鎖判定手段402,信号独立性判定手段403,基線ベクトル算出手段404の動作の説明において、移動体分類記憶手段123,移動体位置補正情報記憶手段126,移動体情報記憶手段127がそれぞれ移動体分類記憶領域,位置補正情報記憶領域,移動体情報記憶領域に置き換えられたものと同様になる。
【0077】
移動体1101における通信手段1105では、信号受信手段1102や位置姿勢算出手段1103や距離計測手段1104で得られた情報を他の移動体に送信する。また、他の移動体から送られてくる情報も受け取ることができる。
【0078】
移動体1101における位置補正情報記憶領域では、前述のステップ1215で求めた位置補正情報を記憶する。ここで記憶された情報は、ステップ1204で位置の補正が行われた後に消去される。
【0079】
移動体1101における関係性判定手段1107では、複数の移動体の関係性を判定することで、関連のある移動体を一まとめの集団として分類する。
【0080】
関係性判定手段1107の構成は第一の実施例における関係性判定手段122と同様であり、その処理の流れも図5に示した処理と同様である。ただし、連鎖判定手段における処理では、ステップ717において、ステップ716でグルーピングされた結果を内部記憶手段1108における移動体分類記憶領域へ格納する点が第一の実施例と異なる。
【0081】
また、ステップ1213における関係性判定手段1107の処理の際に算出された各移動体のグループや独立な信号および基線ベクトルは、内部記憶手段1108における移動体分類記憶領域に記憶される。そして、内部記憶手段1108における移動体分類記憶領域は、関係性判定手段1107にて判定された集団毎に、移動体より送信された位置姿勢、距離情報、センサ情報のうち、独立した信号であると判定された信号分とその信号を表す未知変数を記憶する。
【0082】
位置補正手段1106は内部記憶手段1108における移動体分類記憶領域に記憶された情報から、各移動体の位置を算出し、もともと記憶されていた位置との差分を補正値として、その誤差見積もりと共に算出する。この時の算出方法は第一の実施例と同様である。
【0083】
次に具体的な例を、図11を使って説明する。この例では、移動体として車両を想定し、信号受信手段1102にGPSの受信時刻が判るGPS受信機を搭載し、発信源をGPS衛星、測位信号をGPS信号としている。今、第一の車両1301において、第一のGPS衛星1302および第二のGPS衛星1303からのGPS信号がある時刻h1で捕捉されたとする。また,同様にGPSの受信時刻が判るGPS受信機を搭載した第二の車両1311では、第三のGPS衛星1312および第四のGPS衛星1313からのGPS信号がある時刻h2で捕捉されたとする。また、第二の車両1311ではステレオカメラによりその光軸1314とある相対角度がずれた線1315上の距離Lの場所に、第一の車両1301を観測し、そのナンバープレートの車体番号を認識したとする。第一のGPS衛星1303から第一の車両1301までの距離情報r1と第二のGPS衛星1303から第一の車両1301までの距離情報r2を受信したとする。また、第二の車両1311が、第三のGPS衛星1312から第二の車両1311までの距離情報r3と第四のGPS衛星1313から第二の車両1311までの距離情報r4を受信したとする。
【0084】
この状態のままでは、第一の車両1301と第二の車両1311はそれぞれ単独で位置を推定することができない。そこで、通信手段1105による車車間通信により第一の車両1301と第二の車両1311がそれぞれのGPS受信時刻を含むGPS受信情報および認識した車体番号を互いに通信する。そして、第一の車両1301および第二の車両の1311の関係性判定手段1107が起動され、まず、それぞれの基線ベクトル算出手段によって、第二の車両1311がステレオカメラにより計測した相対距離から基線ベクトルを算出される。
【0085】
次に、第一の車両1301の関係性判定手段では第二の車両1311から特徴量として受信した認識対象車両の車体番号と第一の車両1301がデータとして持つ車体番号が一致することを確認し、第二の車両1311は同じグループに属していると認識する。同様に、第二の車両1311の関係性判定手段はステレオカメラで計測した車両の車体番号と、第一の車両1301の車体番号が一致していることを確認し、第一の車両1301が同じグループに属する車両であると認識する。次にそれぞれの車両で受信したGPS信号のPNコードから、第一のGPS衛星1302から第四のGPS衛星1313までは全て独立した衛星であると判断できる。これらの結果から、以下の(式5)の連立方程式を解くことでそれぞれの車両の位置が求まり、この値を位置補正情報として記憶する。
【0086】
【数5】


ここで、θはステレオカメラの光軸との水平方向のずれ角、ψはステレオカメラの光軸との垂直方向のずれ角、cは光速を表すものとする。
【0087】
このように、単体ではGPS衛星が足りずに測位ができない場合でも、本装置を用いることで位置を算出できるようになり、測位精度が増すことができるようになる。
【符号の説明】
【0088】
101,111,1101 移動体
102,1102 信号受信手段
103,1103 位置姿勢算出手段
104,1104 距離計測手段
105,125,1105 通信手段
106 位置補正情報記憶手段
107,1109 特徴認識手段
108,1108 内部記憶手段
121 センタ
122,1107 関係性判定手段
123 移動体分類記憶手段
124,1106 位置補正手段
126 移動体位置補正情報記憶手段
127 移動体情報記憶手段
402 連鎖判定手段
403 信号独立性判定手段
404 基線ベクトル算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動体からなり、前記移動体は複数の発信源からの測位信号を受信して、位置をその誤差見積もりと共に算出する測位手段と、
他の移動体との距離を計測する距離計測手段
を備えた位置推定システムにおいて、
前記移動体は
前記距離計測手段により距離を計測した他の移動体の特徴を認識する特徴認識手段と、
他の移動体もしくはセンタへ受信した測位信号および算出した位置情報を送信し、位置補正情報を受信する通信手段と、
受信した位置補正情報を記憶する位置補正情報記憶手段と
を有し、
相対位置が計測された移動体間の関係性を判断し、関連する他の移動体で受信された測位信号の内、当該移動体で受信した測位信号の発信源とは異なる発信源からの測位信号を選択する関係性判定手段と、
当該移動体で受信した測位信号と前記関係性判定手段において選択した他の移動体で受信された測位信号に基づき現在位置を算出して位置補正情報を計算し、該位置補正情報を元に推定位置を補正する位置補正手段と、
を複数の移動体の内の少なくとも1台もしくは前記センタに備えた
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、
前記関係性判定手段は、
前記距離計測手段により他の移動体を直接計測しているか、もしくは他の移動体から計測されていることを判定する連鎖判定手段と、
受信した測位信号および前記通信手段により得られた他の移動体が受信した測位信号との発信源の独立性を判定する信号独立性判定手段と、
移動体の位置情報を用いて、前記距離計測手段により計測した他の移動体との相対位置情報から基線ベクトルを算出する基線ベクトル算出手段と
を有することを特徴とする位置推定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の位置推定システムにおいて、
前記連鎖判定手段は、前記距離計測手段により複数の移動体について直接距離を計測された複数の移動体を一つの集団として分類をすることを特徴とする位置推定システム。
【請求項4】
請求項2に記載の位置推定システムにおいて、
前記信号独立性判定手段は、前記信号受信手段により受信した測位信号と、前記連鎖判定手段において同じ集団に分類された各移動体で受信された測位信号から、測位信号の発信源が独立な測位信号を判別して選択することを特徴とする位置推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の位置推定システムにおいて、
前記基線ベクトル算出手段は、前記信号独立性判定手段により選択した独立な測位信号の数が、測位に必要な数以上の場合に、前記基線ベクトルを算出して移動体の位置を計算することを特徴とする位置推定システム。
【請求項6】
請求項4に記載の位置推定システムにおいて、
前記信号独立性判定手段は、請求項3の連鎖判定手段にて一つの集団と判断された移動体の集団において、集団全体での未知変数が、集団全体で未知変数以上の独立な発信源による測位信号の観測があることを判定することを特徴とする位置推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−174829(P2011−174829A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39533(P2010−39533)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】