説明

位置検出方法及び撮像装置

【課題】 MR素子から出力される正弦波信号の計測誤差を等しくし、正確な位置検出を行うことができる位置検出方法及びその位置検出方法を適用した撮像装置を提供する。
【解決手段】 MR素子から出力される、位相角が90度異なる正弦波信号を正弦波信号周期の2のべき乗分の1の所定のサンプリング周期でサンプリングし、そのサンプル値の最大値MAXDSA,MAXDSBと最小値MINDSA,MINDSBを用いて、2つの正弦波信号のオフセット値を示す初期化パラメータC,Dを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子(以下「MR素子」という)の出力信号を使った位置検出方法及びその位置検出方法を適用した撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラの光学系のレンズ位置を検出する位置検出器などに用いられるMR素子の出力信号は、直流成分に正弦波信号が重畳されたものであるため、レンズ位置の検出を行うためには、交流成分の振幅値と直流成分の大きさを示すオフセット値を求める必要がある。
【0003】
特許文献1には、MR素子から出力される正弦波信号の1周期に対応する距離以上、位置検出の対象物を移動させて、MR素子から出力される正弦波信号の最大値と最小値を計測し、その最大値と最小値の平均値としてオフセット値を求め、また、最大値と最小値の差として交流成分の振幅値を求める手法が示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3173531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この正弦波信号の計測には特定の周期でサンプリングされた値が使用される。しかしながら、このサンプリング周期とMR素子が出力する正弦波信号の周期との関係は1:2(nは十分に大きい整数)といった2のべき乗比の関係になるようには設定されていなかった。このため、サンプリングされた信号の最大値と正弦波信号の真の最大値との計測誤差と、計測された信号の最小値と正弦波信号の真の最小値との計測誤差とが異なる値になり、オフセット値の算出精度を低下させる原因となっていた。
【0006】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、MR素子から出力される正弦波信号のサンプリングをより適切に行い、正確な位置検出を行うことができる位置検出方法及びその位置検出方法を適用した撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、2つの磁気抵抗素子から出力される、位相角が90度ずれた2つの正弦波信号に基づいて、磁性体が固定され、直線的に移動する移動部材の位置を検出する位置検出方法において、前記移動部材を前記正弦波信号の1周期に対応する距離以上移動させ、前記周期より短く、前記周期の2のべき乗分の1の所定のサンプリング周期で前記2つの正弦波信号のレベルをサンプリングし、該サンプリングしたサンプル値の最大値と最小値に基づいて、前記2つの正弦波信号のオフセット値を示す初期化パラメータを算出し、該初期化パラメータ及び前記2つの正弦波信号に基づいて、前記移動部材の位置を検出することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、レンズの位置をリニアモータにより移動可能な光学系と、前記レンズの位置を検出する位置検出手段と、検出されたレンズ位置に応じて前記リニアモータの駆動制御を行う制御手段とを備える撮像装置において、前記光学系は、磁性体が固定された、前記レンズの支持部材と、位相角が90度ずれた2つの正弦波信号を出力するように配置された2つの磁気抵抗素子とを備え、前記制御手段は、前記移動部材を前記正弦波信号の1周期に対応する距離以上移動させる初期化移動手段を備え、前記位置検出手段は、前記周期より短く、前記周期の2のべき乗分の1の所定のサンプリング周期で前記2つの正弦波信号のレベルをサンプリングするサンプリング手段と、該サンプリングしたサンプル値の最大値と最小値に基づいて、前記2つの正弦波信号のオフセット値を示す初期化パラメータを算出する初期化パラメータ算出手段とを備え、該初期化パラメータ及び前記2つの正弦波信号に基づいて、前記レンズ位置を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1または2に記載の発明によれば、移動部材を正弦波信号の1周期に対応する距離以上移動させ、その周期より短く、その周期の2のべき乗分の1の所定のサンプリング周期で2つの正弦波信号のレベルがサンプリングされ、サンプリングされたサンプル値の最大値と最小値に基づいて、2つの正弦波信号のオフセット値を示す初期化パラメータが算出される。初期化パラメータ及び2つの正弦波信号に基づいて、移動部材の位置が検出される。正弦波信号の周期とサンプリング周期との比を2のべき乗比にすることによって、サンプリング値の最大値と正弦波信号の最大値との計測誤差と、サンプリング値の最小値と正弦波信号の最小値との計測誤差とが等しくなる。したがって、初期化パラメータの計算過程において、この計測誤差が相殺され、正確な初期化パラメータを得ることができる。その結果、正確な位置検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる位置検出方法を適用した、ビデオカメラ(撮像装置)の要部の構成を示すブロック図である。このビデオカメラは、レンズ鏡筒(光学系)1と、制御用メインマイコン8と、増幅器6、7、13とを備えている。レンズ鏡筒1はレンズ(図示せず)と、該レンズを支持する支持部材(図示せず)と、支持部材を駆動するリニアモータ部2を備えている。リニアモータ部2は、可動コイル3と、該可動コイル3とともに移動する位置検出マグネット(磁性体)4と該位置検出マグネット4と常に一定の距離を隔てて対峙するように固定された2つのMR素子からなる位置センサ5とを備えている。前記支持部材は、可動コイル3に固定されており、前記支持部材(移動部材)は、可動コイル3とともに移動する。
【0011】
位置センサ5の2つのMR素子は、位置検出マグネット4からの磁界を受けることにより、この磁界の変化に応じて変化する信号を出力する。位置検出マグネット4は、一定距離間隔で磁極のNとSが交互に並ぶように着磁されている。そのため、リニアモータ部2が動作したとき、2つのMR素子はそれぞれ正弦波信号を出力し、同時刻における2つのMR素子の出力信号SA及びSBはAsinθ+C及びBcosθ+Dとなるように、2つのMR素子の間隔が調整されている。ここでA及びBは正弦波信号の振幅値パラメータであり、C及びDは正弦波に重畳されている直流成分を示すオフセット値である。出力信号SA、SBはそれぞれ増幅器6、7により増幅されて、制御用メインマイコン8に供給される。
【0012】
制御用メインマイコン8は、2チャンネルのA/D変換器9と、波形補正部10と、位置計算部11と、位置制御部12とを備えている。波形補正部10、位置計算部11、位置制御部12は、実際にはCPUで実行されるソフトウェア処理で実現される。増幅器6、7で増幅された出力信号SA及びSBは2チャンネルのA/D変換器9に入力され、それぞれデジタル値DSA及びDSBに変換され、波形補正部10に入力される。波形補正部10では、あらかじめビデオカメラの起動時及びリセット時に行う初期化動作において検出し、記憶されている振幅値パラメータA、B及びオフセット値C、Dを使い出力信号DSA及びDSBの補正を行う。位置計算部11は、補正出力信号DSA及びDSBからレンズの位置を算出し、算出結果を位置制御部12に出力する。位置制御部12は、レンズの位置情報と、レンズの位置目標とに応じて可動コイル3の駆動信号を出力する。位置制御部12から出力された駆動信号は増幅器13にて増幅され、可動コイル3に入力される。このようにして、フィードバック制御によるレンズの位置制御が行われる。
【0013】
次に、波形補正部10で使われる正弦波の振幅値パラメータA、B及びオフセット値C、D(以下これらを「初期化パラメータ」という)の算出について説明する。この初期化パラメータの算出はビデオカメラの電源投入時またはリセット時に行われる。まず、モータを一方方向に一定速度で動作させ、2つのMR素子の出力信号SA、SBを1周期以上観測する。この時の観測データから初期化パラメータA、B、C、Dを算出する。出力信号SAの最大値と最小値をそれぞれMAXSA、MINSAとし、出力信号SBの最大値と最小値をそれぞれMAXSB、MINSBとすると、初期化パラメータA、B、C、Dは次の式(1)〜(4)により求められる。
A=(MAXSA−MINSA)/2 (1)
B=(MAXSB−MINSB)/2 (2)
C=(MAXSA+MINSA)/2 (3)
D=(MAXSB+MINSB)/2 (4)
【0014】
図2は出力信号SAの最大値MAXSA、最小値MINSA、振幅値パラメータA、及びオフセット値Cの関係を説明するための波形図である。なお、図示しない出力信号SBについても同様の関係が成り立つ。図2に示す出力信号SAの波形は理想的な状態を示したものである。しかし、実際の出力信号SAの計測値はA/D変換器9によってデジタル変換された離散化データとなるため、図3に示すように計測値の最大値MAXDSAと出力信号SAの最大値MAXSAとには計測誤差が生じている。同様に計測値の最小値MINDSAと出力信号SAの最小値MINSAとにも計測誤差が生じている。そして、最大値における計測誤差と最小値における計測誤差の大きさは異なるものとなっている。
【0015】
次にこの最大値における計測誤差と最小値における計測誤差の大きさの違いとサンプリング周期との関係について説明する。図4は計測値の最大値と出力信号の最大値との計測誤差と計測値の最小値と出力信号の最小値との計測誤差のそれぞれの大きさが、サンプリング周期の決め方の違いにより異なるものになることを説明するための波形図である。図4(a)には、出力信号SAの周期とサンプリング周期の関係が1:2(nは十分に大きい整数)で表される2のべき乗比になっているときの出力信号SA及び計測値の最大値と最小値が描かれている。図4(b)には出力信号SAの周期とサンプリング周期の関係が1:2(nは十分に大きい整数)で表される2のべき乗比とはなっていないときの出力信号SA及び計測値の最大値と最小値が描かれている。
【0016】
図4(a)に示すように、最大値MAXDSAを計測した時刻は出力信号SAが最大値MAXSAとなる時刻からずれており、その偏差はDMX1となっている。また、最小値MINDSAを計測した時刻も出力信号SAが最小値MINSAとなる時刻からずれており、その偏差はDNX1となっている。出力信号SAの周期とサンプリング周期とが1:2(nは十分に大きい整数)で表せる2のべき乗比の関係のとき、偏差DMX1とDNX1は等しい値となり、計測値の最大値MAXDSAと出力信号SAの最大値MAXSAとの計測誤差DMY1と、計測値の最小値MINDSAと出力信号SAの最小値MINSAとの計測誤差DNY1とは等しい値となる。この関係を式で表すと次式(5)〜(7)となる。
MAXSA=MAXDSA+DMY1 (5)
MINSA=MINDSA−DNY1 (6)
DMY1=DNY1 (7)
式(5)〜(7)を前記式(3)に適用すると
C=(MAXSA+MINSA)/2
=(MAXDSA+DMY1+MINDSA−DNY1)/2
=(MAXDSA+MINDSA)/2 (8)
となり、計測値を使ったオフセット値算出において計測誤差が相殺され真のオフセット値を得ることができる。
【0017】
一方、図4(b)に示すように出力信号SAの周期とサンプリング周期との関係が1:2(nは十分に大きい整数)で表される2のべき乗比とはなっていない場合は、最大値MAXDSAを計測したときの時刻と出力信号SAが最大値MAXSAとなる時刻との偏差DMX2と最小値MINDSAを計測したときの時刻と出力信号SAが最小値MINSAとなる時刻との偏差DNX2は異なる値になり、計測値の最大値MAXDSAと出力信号SAの最大値MAXSAとの計測誤差DMY2と計測値の最小値MINDSAと出力信号SAの最小値MINSAとの計測誤差DNY2は異なる値となる。このため、計測値を使用したオフセット値算出において計測誤差は相殺されることがなく、真のオフセット値を得ることはできない。
【0018】
このように出力信号SAの周期とサンプリング周期とが1:2(nは十分に大きい整数)で表せる2のべき乗比の関係である場合、オフセット値Cの算出において計測誤差が相殺され、正確なオフセット値を得ることができる。
【0019】
これまで出力信号SAを例にとって説明をしてきたが、同時に計測される出力信号SBについても同様に、出力信号SBの周期とサンプリング周期とが1:2(nは十分に大きい整数)の2のべき乗比となるため正確なオフセット値を得ることができる。
【0020】
次に、MR素子の出力信号周期とサンプル周期との関係を定義する整数nをどの程度の値に設定する必要があるかを検討する。移動部材位置のスペック上の最小分解能をΔ[m]、移動部材のスペック上の最高速度をV[m/s]、移動部材の位置検出マグネットの着磁間隔をλ[m]、移動部材がVで移動する場合のMR素子の出力信号の周期をT[sec]、及びサンプリング周期の最大値をT[sec]としたとき、MR素子の出力信号の周期Tと位置検出マグネットの着磁間隔λ、移動部材のスペック上の最高速度Vとの関係は、次式(9)となる。
=λ/V (9)
ゆえに、サンプリング周期の最大値Tは次式(10)で表せる。
=T/(λ/Δ) (10)
ゆえに、出力信号の周期Tとサンプリング周期Tの比である2(nは十分に大きい整数)は次式(11)で与えられる。
=(λ/Δ) (11)
したがって、整数nは次式(12)を満たす十分に大きい整数とする必要がある。
n≧log(λ/Δ) (12)
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかる位置検出方法を適用した、ビデオカメラのレンズ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【図2】MR素子から出力される信号の波形図である。
【図3】計測誤差を説明するための波形図である。
【図4】サンプリング周期と計測誤差について説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0022】
1 レンズ鏡筒
2 リニアモータ部
3 可動コイル
4 位置検出マグネット
5 位置センサ
6,7,13 増幅器
8 制御用メインマイコン(初期化手段)
9 A/D変換器(サンプリング手段)
10 波形補正回路
11 位置計算回路(位置検出手段、初期化パラメータ算出手段)
12 位置制御回路(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの磁気抵抗素子から出力される、位相角が90度ずれた2つの正弦波信号に基づいて、磁性体が固定され、直線的に移動する移動部材の位置を検出する位置検出方法において、
前記移動部材を前記正弦波信号の1周期に対応する距離以上移動させ、
前記周期より短く、前記周期の2のべき乗分の1の所定のサンプリング周期で前記2つの正弦波信号のレベルをサンプリングし、
該サンプリングしたサンプル値の最大値と最小値に基づいて、前記2つの正弦波信号のオフセット値を示す初期化パラメータを算出し、
該初期化パラメータ及び前記2つの正弦波信号に基づいて、前記移動部材の位置を検出することを特徴とする位置検出方法。
【請求項2】
レンズの位置をリニアモータにより移動可能な光学系と、前記レンズの位置を検出する位置検出手段と、検出されたレンズ位置に応じて前記リニアモータの駆動制御を行う制御手段とを備える撮像装置において、
前記光学系は、磁性体が固定された、前記レンズの支持部材と、位相角が90度ずれた2つの正弦波信号を出力するように配置された2つの磁気抵抗素子とを備え、
前記制御手段は、前記移動部材を前記正弦波信号の1周期に対応する距離以上移動させる初期化移動手段を備え、
前記位置検出手段は、
前記周期より短く、前記周期の2のべき乗分の1の所定のサンプリング周期で前記2つの正弦波信号のレベルをサンプリングするサンプリング手段と、
該サンプリングしたサンプル値の最大値と最小値に基づいて、前記2つの正弦波信号のオフセット値を示す初期化パラメータを算出する初期化パラメータ算出手段とを備え、
該初期化パラメータ及び前記2つの正弦波信号に基づいて、前記レンズ位置を検出することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−3041(P2008−3041A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175242(P2006−175242)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】