説明

位置標定に用いられる携帯端末及び位置標定システム

【課題】直接波以外の位置標定信号により位置標定が行われるのを防ぎ、位置標定の精度を確保する。
【解決手段】位置標定信号を受信して自身の現在位置を標定する携帯端末300において、位置標定信号の受信信号強度履歴1200を記録し、加速度センサ318等の検知値から求めた移動履歴を記録し、受信した位置標定信号の受信信号強度から第1自由空間損失を求め、受信信号強度履歴1200から位置標定信号の受信信号強度が最大となった位置である起点位置を求め、起点位置と移動距離/方向履歴とに基づいて、起点位置から現在位置までの距離を求め、求めた距離から位置標定信号の第2自由空間損失を求め、第1自由空間損失と第2自由空間損失とを比較することにより受信した位置標定信号が直接波であるか否かを判定し、直接波でないと判定した場合に受信した位置標定信号による位置標定を行わないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置標定に用いられる携帯端末及び位置標定システムに関し、とくに標定精度を確保する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、自律移動支援システム(歩行者ITS)等に適用される技術として、基地局に設置した複数のアンテナから歩行者が携帯する携帯端末に無線信号を送信し、各アンテナから送信されてくる無線信号の位相差によって携帯端末とアンテナとの相対位置を求め、求めた相対位置(方向、距離)と基地局の絶対位置とから歩行者の現在位置を取得するようにした位置標定システムが開示されている。
【非特許文献1】武内 保憲,河野 公則,河野 実則、” 2.4GHz帯を用いた場所検知システムの開発”、平成17年度 電気・情報関連学会中国支部第56回連合大会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記位置標定システムでは、基地局のアンテナから携帯端末に到達する直接波によって上記相対位置を標定することを前提としているため、マルチパスなどによって基地局から携帯端末に到達する直接波以外の無線信号により位置標定が行われてしまうと、標定精度が著しく低下することがある。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、標定精度を確保することが可能な位置標定システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、位置標定に用いられる携帯端末であって、自身の現在位置を標定するための無線信号である位置標定信号を受信する位置標定信号受信部と、前記位置標定信号に基づいて自身の現在位置を標定する位置標定部と、前記位置標定信号の受信信号強度を取得する回路と、加速度センサと、地磁気センサと、前記位置標定信号の前記受信信号強度の履歴を前記位置標定信号の受信時刻に対応づけて記録した受信信号強度履歴を生成する受信信号強度履歴記録部と、前記加速度センサ及び前記地磁気センサの検知値に基づいて、所定の時間間隔ごとの移動履歴を前記検知値の取得時刻に対応づけて記録した移動距離/方向履歴を生成する移動距離/方向履歴記録部と、受信した前記位置標定信号の前記受信信号強度から、受信した前記位置標定信号の自由空間損失である第1自由空間損失を求める第1自由空間損失算出部と、前記受信信号強度履歴から、受信した前記位置標定信号の受信信号強度が最大となった現在時刻から直近の時刻である起点時刻を特定する起点設定部と、前記起点時刻と前記移動距離/方向履歴とに基づいて、前記起点時刻における自身の位置から自身の現在位置までの距離を求める移動距離算出部と、前記移動距離に基づいて、前記位置標定信号の自由空間損失である第2自由空間損失を求める第2自由空間損失算出部と、前記第1自由空間損失と前記第2自由空間損失とを比較して、受信した前記位置標定信号が直接波であるか否かを判定する自由空間損失比較部と、を有し、前記位置標定部は、前記自由空間損失比較部が、前記位置標定信号が直接波でないと判定した場合に、受信した前記位置標定信号による位置標定を行わないようにすることとする。
【0006】
本発明では携帯端末に到達する位置標定信号が直接波である場合に最も自由空間損失が少なくなくなることを利用して位置標定信号が直接波であるか否かを判定するようにしている。すなわち、本発明の携帯端末にあっては、自身の現在位置の標定に際し、受信した位置標定信号の受信信号強度から求めた自由空間損失である第1自由空間損失と、加速度センサ及び地磁気センサから求めた移動距離から求まる位置標定信号の自由空間損失である第2自由空間損失とを比較することにより、受信した位置標定信号が直接波かどうかを判定し、直接波でない場合には受信した位置標定信号による位置標定を行わないようにする。このため、マルチパスなどによって基地局から携帯端末に到達する直接波以外の無線信号によって位置標定が行われてしまうのを防ぐことができ、位置標定システムの標定精度を確保することができる。
【0007】
なお、自由空間損失比較部は、例えば第1自由空間損失と第2自由空間損失との差が所定の値以上である場合に、受信した位置標定信号が直接波でないと判定する。従って上記所定の値を適切な値とすることでより高い精度で受信した位置標定信号が直接波であるか否かを判定することが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、位置標定システムの標定精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態につき詳細に説明する。図1に本発明の一実施形態として説明する自律移動支援システム1の概略的な構成を示している。自律移動支援システム1は、歩行者等の支援対象者(移動者)に対する道案内や目的地までの誘導、支援対象者への地域情報の提供、支援対象者の現在位置や移動方向等の地理的情報の第三者による監視、支援対象者の安全確保等の各種サービスを提供する。
【0010】
自律移動支援システム1は、データセンタ2などに設置されるサーバ装置100、自律移動支援システム1が展開される地域各所(電柱3等)に設置される複数の基地局200、及び支援対象者3によって携帯される携帯端末300を含んで構成される。基地局200は、専用線やインターネットなどの有線又は無線による通信網50を介してサーバ装置100に通信可能に接続している。通信網50を介して行われる通信のプロトコルは、例えばTCP/IPであり、サーバ装置100及び基地局200には、通信網50を介して通信を行うためのネットワークアドレス(例えばIPアドレス)が付与されている。
【0011】
図2Aはサーバ装置100のハードウエア構成である。サーバ装置100は、CPU111、メモリ112、ハードディスク113、キーボードやマウス等の入力装置114、液晶ディスプレイ等の表示装置115、通信網50に接続して基地局200と通信するための通信インタフェース116を有している。CPU111は、メモリ112に記憶されているプログラムを実行することによりサーバ装置100の各種の機能を実現する。入力装置114は、ユーザの操作入力を受け付ける。表示装置115には支援対象者3の現在位置や移動方向などの情報が地図画面に重ねてリアルタイムに表示される。通信インタフェース116は、サーバ装置100や他の基地局200との間で通信網50介して各種情報の送受信を行う。
【0012】
図2Bにサーバ装置100の機能を示している。サーバ装置100は、基地局200から携帯端末300の現在位置等の情報を収集する。またサーバ装置100は、支援対象者3への道案内情報の提供や目的地までの誘導、現在位置周辺についての地理情報の提供、支援対象者を監視している第三者に提供される支援対象者の現在位置や移動方向、支援対象者の安全確保に関する情報等を適宜基地局200に提供する。
【0013】
図2Bにおいて、情報提供収集部121は、基地局200への情報提供(ダウンロード)や基地局200からの情報収集(アップロード)を行う。設定情報記憶部123は、後述する位置標定機能等の基地局200が機能を提供する際に利用する情報(以下、設定情報と称する)。なお、設定情報には基地局200の緯度・経度・設置高さ等がある。
【0014】
図3Aに基地局200のハードウエア構成を示している。基地局200は、CPU211、メモリ212、通信インタフェース213、及びアンテナ群215等を有している。CPU211は、メモリ212に記憶されているプログラムを実行し、基地局200が備える各種の機能を実現する。通信インタフェース213は、サーバ装置100との間で通信網50を介した通信を行う。無線通信インタフェース214は、後述する位置標定のための無線信号を送信する。アンテナ群215には複数の円偏波指向性アンテナ2151が含まれる(図8を参照)。またアンテナ群215には切替スイッチ2152が付帯する。切替スイッチ2152はいずれかのアンテナ2151を選択して無線通信インタフェース214に接続する。なお、CPU211、メモリ212、通信インタフェース213、及びアンテナ群215は、バス220を介して互いに通信可能に接続されている。
【0015】
図3Bに基地局200の概略的な機能を示している。通信部261は、通信インタフェース213によってサーバ装置100との間で各種情報の送受信を行う。位置標定信号送信部263は、携帯端末300の現在位置を標定するのに用いられる無線信号(以下、位置標定信号と称する)を送信する。設定情報記憶部264は、前述した設定情報を記憶する。
【0016】
図4Aに携帯端末300のハードウエア構成を示している。同図に示すように、携帯端末300は、CPU311、メモリ312、無線通信インタフェース313、アンテナ314、タッチパネルや操作ボタン等の入力装置315、液晶ディスプレイ等の表示装置316、タイマ回路317、加速度センサ318、地磁気の方向を検知する地磁気センサ319、RSSI回路216(RSSI : Radio Signal Strength Indicator)を有している。
【0017】
CPU311は、メモリ312に記憶されているプログラムを実行することにより携帯端末300の各種の機能を実現する。タイマ回路317は、CPU311等からの要求に応じて現在時刻を生成/出力する。加速度センサ318は、当該携帯端末300に作用する加速度を検知し、検知した加速度の大きさを示す信号を出力する。地磁気センサ319は、地磁気の方向を検知し、検知した方向を示す信号を出力する。RSSI回路320は、無線通信インタフェース313によって受信される位置標定信号等の電波の受信信号強度を示す信号を生成/出力する。
【0018】
図4Bに携帯端末300の機能を示している。同図において、位置標定信号受信部331は、無線通信インタフェース313により基地局200から送信される位置標定信号を受信する。情報送受信部332は、通信網50を介してサーバ装置100と通信し、支援対象者3に提示するための情報の受信(ダウンロード)や、サーバ装置100において用いられる各種情報の送信(アップロード)を行う。情報表示部333は、支援対象者3に提示する情報を表示装置316に出力する。位置標定部334は、位置標定信号受信部331によって受信された位置標定信号に基づき携帯端末300の現在位置の標定を行う。位置標定により標定された携帯端末300の現在位置は、無線通信により携帯端末300から基地局200に送信され、基地局200から通信網50を介してサーバ装置100に送信される。位置標定に関する処理の詳細は後述する。直接波判定部335は、位置標定信号受信部331が受信した位置標定信号が直接波であるのか、マルチパス等によって携帯端末300に到達した反射波であるのかを判定する。
【0019】
図5に上記直接波判定部335の機能の詳細を示している。同図において、受信信号強度履歴記録部3351は、RSSI回路320から位置標定信号の受信信号強度をリアルタイムに取得し、取得した受信信号強度をタイマ回路317から取得される現在時刻(各受信信号強度の取得時刻)に対応づけてメモリ312に記録する。以下、この際にメモリ312に記録される情報のことを受信信号強度履歴と称する。
【0020】
移動距離/方向履歴記録部3352は、加速度センサ318の検知値を所定の間隔で取得し、取得した検知値を2回積分することにより携帯端末300の移動距離を求める。また地磁気センサ319の検知値を所定の間隔で取得し、取得した検知値に基づいて携帯端末300の移動方向を求める。そして移動距離/方向履歴記録部3352は、求めた所定間隔ごとの移動距離及び移動方向を、タイマ回路317から取得される現在時刻(各加速度及び移動方向の取得時刻)に対応づけてメモリに記憶する。以下、この際にメモリ312に記録される情報のことを移動距離/方向履歴と称する。
【0021】
第1自由空間損失算出部3353は、受信信号強度履歴における受信信号強度から、位置標定信号の自由空間損失(以下、第1自由空間損失と称する。)を求める。第1自由空間損失は、基地局200のアンテナ2151から送信される位置標定信号の信号強度Sと、携帯端末300が受信する位置標定信号の強度(受信信号強度)をSとした場合、SとSの比(S/S)から求める。なお、信号強度Sは、携帯端末300のメモリ312に予め記憶されている。
【0022】
起点設定部3354は、受信信号強度が最大となった、現在時刻から直近の時刻を受信信号強度履歴から特定し、その時刻を後述する移動距離算出部3355が参照する起点時刻として設定する。
【0023】
移動距離算出部3355は、起点設定部3354により設定された上記起点時刻と移動距離/方向履歴とに基づいて、上記起点時刻における携帯端末300の位置(以下、起点と称する。)から携帯端末300の現在位置までの距離(移動距離)を求める。
【0024】
第2自由空間損失算出部3356は、移動距離算出部3355が求めた上記移動距離に基づいて、受信した位置標定信号の自由空間損失(以下、第2自由空間損失と称する。)を求める。なお、起点からの絶対的な移動距離をd、位置標定信号の波長をλとした場合の第2自由空間損失は20log(4πd/λ)して求められる。
【0025】
自由空間損失比較部3357は、第1自由空間損失と第2自由空間損失とを比較して、受信した位置標定信号が直接波又は反射波のいずれであるのかを判定する。
【0026】
<位置標定システム>
自律移動支援システム1における携帯端末300の位置標定の仕組みは、基地局200と当該基地局200の周辺に存在する携帯端末300とを含んで構成される位置標定システム10によって実現される。以下、この位置標定システム10について詳細に説明する。
【0027】
基地局200の無線通信インタフェース214は、アンテナ群215を構成している複数のアンテナ2151を周期的に切り換えながら、スペクトル拡散された無線信号を送信する。一方、携帯端末300の位置標定信号受信部331は、アンテナ314によって基地局200の各アンテナ2151から送信される信号を受信する。なお、隣接基地局間の電波干渉を防ぐため、各基地局200は基地局200間で同期信号を共有することにより、隣接する基地局200から同時期に位置標定信号が送信されないように制御を行っている。
【0028】
図6に基地局200から送信される位置標定信号のデータフォーマットを示している。同図に示すように、位置標定信号は、上述した同期信号611、場所コード612(UCODE)、アンテナ情報613、及び測定信号614を含んで構成されている。なお、同期信号611は、32bitのプリアンブル信号と16bitの同期信号の合計48bitのデータで構成される。
【0029】
場所コード612(UCODE)は、基地局200の設置場所を特定する情報である。場所コード612は統一基準に従って位置毎に割り当てられる128bitのコードからなる。アンテナ情報613は、アンテナ2151の高さやアンテナ2151の識別子、アンテナ2151の指向方向を示す16bitのデータ等で構成される。測定信号614は、携帯端末300の存在する方向と携帯端末300までの相対距離を検出するための信号を含み、基点となる4つのアンテナ2151を順次切り替えながら送信される2048チップの拡散符号を含む。
【0030】
図7に歩道等の現場における基地局200と携帯端末300の位置関係を示している。同図において、携帯端末300は地上高1(m)の位置に存在し、基地局200は地上高H(m)の位置に設置されている。また基地局200の直下から携帯端末300までの距離はL(m)である。
【0031】
図8にアンテナ群215を構成している各アンテナ2151と携帯端末300との位置関係を示している。基地局200のアンテナ群215を構成している各アンテナ2151は、現場では指向方向を斜め下方向に向けて設置される。同図に示すように、アンテナ群215は、3cm間隔(この間隔は位置標定信号として2.4GHz帯の電波を用いた場合における1/4波長に相当)で略正方形状に隣接させて配置された4つの円偏波指向性アンテナを有する。
【0032】
図8に示すように、アンテナ群215の高さ位置における水平方向とアンテナ群215に対する携帯端末300の方向とのなす角をαとすると、
α=arcTan(D(m)/L(m))=arcSin(ΔL(cm)/3(cm))
となる。なお、ΔL(cm)は、アンテナ群215を構成しているアンテナ2151のうちの特定の2基と携帯端末300との間の伝搬路長差である。
【0033】
ここでアンテナ群215を構成している特定の2基のアンテナ2151から送信される位置標定信号の位相差をΔθとすれば、上記ΔLは、
ΔL(cm)=Δθ/2π/λ(cm)
となる。位置標定信号として、例えば2.4GHz帯の電波を用いた場合、λ≒12(cm)であるので、
α=arcSin(2Δθ/π)
となる。また測定可能範囲(−π/2<Δθ<π/2)ではα=Δθ(ラジアン)であるので、上式から基地局200が存在する方向を特定することができる。
【0034】
次に上記結果を利用して携帯端末300の位置を標定する方法について説明する。
図9に現場における基地局200と携帯端末300の位置関係を示している。同図に示すように、基地局200のアンテナ群215の地上高をH(m)、携帯端末300の地上高をh(m)、基地局200の直下の地表面の位置を原点として直交座標軸(X軸、Y軸)を設定した場合における、基地局200から携帯端末300の方向とX軸とがなす角をΔΦ(x)、基地局200から携帯端末300の方向とY軸とがなす角をΔΦ(y)とすると、原点に対する携帯端末300の位置は次式から求められる。
Δd(x)=(H−h)×Tan(ΔΦ(x))
Δd(y)=(H−h)×Tan(ΔΦ(y))
原点の位置を(X1,Y1)とすれば、携帯端末300の現在位置(Xx,Yy)は、
Xx=X1+Δd(x)
Yy=Y1+Δd(y)
として求められる。なお、以上に説明した位置標定の原理については、例えば特開2004−184078号公報、特開2005−351877号公報、特開2005−351878号公報、及び特開2006−23261号公報等に詳述されている。
【0035】
<位置標定処理>
次に携帯端末300の位置標定部334によって行われる、携帯端末300の現在位置標定処理について説明する。なお、現在位置の標定処理は、サーバ装置100に携帯端末300の位置を報告するタイミング、携帯端末300のユーザが入力装置315に対して行った操作等に応じて適宜実行される。
【0036】
図10は位置標定処理(S1000)を説明するフローチャートである。同図に示すように、位置標定処理(S1000)では、まず位置標定部334が、RSSI回路320から位置標定信号受信部331によって受信される位置標定信号の受信信号強度を取得する(S1011)。次に位置標定部334は、受信した位置標定信号が直接波であるか反射波であるかを判定する処理(以下、直接波判定処理と称する。)を実行する(S1012)。なお、直接波判定処理(S1012)の詳細については後述する。
【0037】
続くS1013では、直接波判定処理(S1012)の結果に応じて処理を分岐させており、位置標定信号が直接波である場合には(S1013:直接波)、S1014の処理に進み、反射波である場合には(S1013:反射波)、S1015の処理に進む。
【0038】
S1014では、位置標定部334は、前述した方法により位置標定信号により現在位置の標定を行う。一方、S1015では、位置標定部334は、移動距離/方向履歴記録部3352によりメモリ312に記録されている移動距離/方向履歴に基づいて、後述する直接波判定部335の移動距離算出部3355によって行われる、加速度センサ318及び地磁気センサ319により検知された値に基づく処理により位置標定を行う。S1014又はS1015の処理が終了した後、位置標定処理(S1000)は終了する。
【0039】
以上のように、位置標定部334は、受信した位置標定信号が直接波であった場合は位置標定信号により現在位置の標定を行い、反射波であった場合は加速度センサ318及び地磁気センサ319により検知された値に基づいて位置標定を行う。このため、マルチパスなどによって基地局200から携帯端末300に到達する直接波以外の無線信号によって位置標定が行われてしまうのを防ぐことができ、位置標定システム10の標定精度を確保することができる。
【0040】
次に前述した位置標定処理(S1000)における直接波判定処理(S1012)の詳細について図11に示すフローチャートとともに説明する。同図に示すように、直接波判定処理(S1012)では、まず第1自由空間損失算出部3353が、受信中の受信信号強度に対応する第1自由空間損失を求める(S1121)。次に起点設定部3354が、受信信号強度履歴から、受信信号強度が最大となった直近の時刻を特定し、その時刻を後述する移動距離算出部3355が参照する起点時刻として設定する(S1122)。
【0041】
図12に受信信号強度履歴1200の一例を示す。同図に示す受信信号履歴では、受信信号強度が最大(61dBm)となった直近の時刻、すなわち起点時刻はt1である。
【0042】
次に移動距離算出部3355が、起点設定部3354により設定された上記起点時刻と移動距離/方向履歴とに基づいて、起点から現在位置までの当該携帯端末300の絶対的な移動距離を求める(S1123)。この場合に移動距離算出部3355によって行われる処理を具体的に説明する。
【0043】
図13Aは、携帯端末300が、起点から終点(現在位置)までに移動した際の移動経路の一例である。また図13Bに、携帯端末300が図13Aのように移動した場合に移動距離/方向履歴記録部3352によりメモリ312に記録される、移動距離/方向履歴1300、及び、移動距離/方向履歴1300から求めた携帯端末300の起点からの絶対的な移動距離及び移動方向(北に対する角度で示す。)を示している。なお、携帯端末300の起点からの絶対的な移動距離は、各時刻間を結ぶベクトルの合成ベクトルの長さとして求められる。
【0044】
再び図11に戻って、S1124では、第2自由空間損失算出部3356が、移動距離算出部3355によって求められた起点からの絶対的な移動距離に基づいて第2自由空間損失を求める。S1125では、自由空間損失比較部3357が、第1自由空間損失と第2自由空間損失を比較し、受信中の位置標定信号が直接波か反射波かを判定する。ここでこの判定は、次のようにして行われる。すなわち、第1自由空間損失が第2自由空間損失よりも所定の値(例えば3dB)以上小さい場合、すなわち、受信中の位置標定信号の受信信号強度から求められる第1自由空間損失が絶対的な移動距離から計算される第2自由空間損失よりも所定の値以上小さい場合には受信中の位置標定信号は反射波であると判定し、そうでなければ直接波であると判定する。なお、上記所定の値は、直接波と反射波を確実に識別できる大きさの値に設定される。
【0045】
自由空間損失比較部3357による判定の具体例を示す。図14は基地局200の設置現場付近の様子を示す図であり、基地局200から携帯端末300に対して直接波、及びマルチパスによる反射波が到達する様子を示している。基地局200は地上から5mの高さに設置されており、携帯端末300は地上から1mの高さに位置している。基地局200直下と携帯端末300との間の地表面における距離は12mである。
【0046】
同図において、反射波は、基地局200直下と携帯端末300を結ぶ線上の基地局200直下から10mの位置で反射して携帯端末300に到達している。基地局200のアンテナ2151から反射波の反射地点までの直線距離は13.417mである。また基地局200のアンテナ2151から携帯端末300までの直線距離は12.649mである。
【0047】
基地局200から送信される位置標定信号の周波数が2.4GHz(波長λ=0.125m)であるとした場合に計算により直接波の自由空間損失を求めてみると、
直接波の自由空間損失=20log10((4π×12.649)/0.125)
=62.087(dBm)
となる。
【0048】
一方、反射波の自由空間損失は、
反射波の自由空間損失=20log10((4π×13.417)/0.125)
=62.599(dBm)
となる。ここで地表面での反射による信号強度損失が3dBmであるとすれば、反射波の総合的な損失は、
62.599(dBm)+3(dBm)=65.599(dBm)
となる。従って、図14に示す例では、直接波の自由空間損失と反射波の自由空間損失の差が
65.599(dBm)−62.087(dBm)=3.512(dBm)
となる。つまり前述した所定の値を3(dBm)程度に設定すれば直接波と反射波を区別することができることになる。
【0049】
ところで、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0050】
例えば、携帯端末300の位置標定は、上記実施形態で説明したように基地局200から送信される位置標定信号を携帯端末300側で受信することにより携帯端末300側で行うようにしてもよいが、携帯端末300側にアンテナ群を設けて携帯端末300側から基地局200に向けて位置標定信号を送信し、この位置標定信号を基地局200側で受信して基地局200側で位置標定を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態として説明する自律移動支援システム1の概略的な構成を示す図である。
【図2A】本発明の一実施形態として説明するサーバ装置100のハードウエア構成を示す図である。
【図2B】本発明の一実施形態として説明するサーバ装置100の機能を示す図である。
【図3A】本発明の一実施形態として説明する基地局200のハードウエア構成を示す図である。
【図3B】本発明の一実施形態として説明する基地局200の機能を示す図である。
【図4A】本発明の一実施形態として説明する携帯端末300のハードウエア構成を示す図である。
【図4B】本発明の一実施形態として説明する携帯端末300の機能を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態として説明する携帯端末300の直接波判定部335の機能の詳細を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態として説明する位置標定信号のデータフォーマットを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態として説明する基地局200と携帯端末300との位置関係を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態として説明するアンテナ群215を構成しているアンテナ2151と携帯端末300との位置関係を説明する図である。
【図9】本発明の一実施形態として説明する現場における基地局200と携帯端末300の位置関係を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態による位置標定処理(S1000)を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態による直接波判定処理(S1012)を説明するフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態として説明する受信信号強度履歴1200の一例である。
【図13A】本発明の一実施形態として説明する携帯端末300が、起点から終点(現在位置)までに移動した際の移動経路の一例を示す図である。
【図13B】本発明の一実施形態として説明する移動距離/方向履歴1300の一例を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態として説明する基地局200の設置現場付近の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 位置標定システム
200 基地局
213 通信インタフェース
214 無線通信インタフェース
263 位置標定信号送信部
300 携帯端末
313 無線通信インタフェース
318 加速度センサ
319 地磁気センサ
320 RSSI回路
331 位置標定信号受信部
334 位置標定部
335 直接波判定部
1200 受信信号強度履歴
1300 移動距離/方向履歴
3351 受信信号強度履歴記録部
3352 移動距離/方向履歴記録部
3353 第1自由空間損失算出部
3354 起点設定部
3355 移動距離算出部
3356 第2自由空間損失算出部
3357 自由空間損失比較部
S1000 位置標定処理
S1012 直接波判定処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の現在位置を標定するための無線信号である位置標定信号を受信する位置標定信号受信部と、
前記位置標定信号に基づいて自身の現在位置を標定する位置標定部と、
前記位置標定信号の受信信号強度を取得する回路と、
加速度センサと、
地磁気センサと、
前記位置標定信号の前記受信信号強度の履歴を前記位置標定信号の受信時刻に対応づけて記録した受信信号強度履歴を生成する受信信号強度履歴記録部と、
前記加速度センサ及び前記地磁気センサの検知値に基づいて、所定の時間間隔ごとの移動履歴を前記検知値の取得時刻に対応づけて記録した移動距離/方向履歴を生成する移動距離/方向履歴記録部と、
受信した前記位置標定信号の前記受信信号強度から、受信した前記位置標定信号の自由空間損失である第1自由空間損失を求める第1自由空間損失算出部と、
前記受信信号強度履歴から、受信した前記位置標定信号の受信信号強度が最大となった現在時刻から直近の時刻である起点時刻を特定する起点設定部と、
前記起点時刻と前記移動距離/方向履歴とに基づいて、前記起点時刻における自身の位置から自身の現在位置までの距離を求める移動距離算出部と、
前記移動距離に基づいて、前記位置標定信号の自由空間損失である第2自由空間損失を求める第2自由空間損失算出部と、
前記第1自由空間損失と前記第2自由空間損失とを比較して、受信した前記位置標定信号が直接波であるか否かを判定する自由空間損失比較部と、
を有し、
前記位置標定部は、前記自由空間損失比較部が、前記位置標定信号が直接波でないと判定した場合に、受信した前記位置標定信号による位置標定を行わないようにすること
を特徴とする位置標定に用いられる携帯端末。
【請求項2】
請求項1に記載の携帯端末であって、
前記自由空間損失比較部は、前記第1自由空間損失と前記第2自由空間損失との差が所定の値以上である場合に、前記受信した位置標定信号が直接波でないと判定すること
を特徴とする位置標定に用いられる携帯端末。
【請求項3】
請求項1に記載の携帯端末であって、
前記位置標定部は、前記自由空間損失比較部が、前記位置標定信号が直接波でないと判定した場合に、前記加速度センサ及び前記地磁気センサの検知値に基づいて自身の現在位置を標定すること
を特徴とする位置標定に用いられる携帯端末。
【請求項4】
請求項1に記載の携帯端末であって、
前記位置標定部は、隣接配置された複数のアンテナのそれぞれから送信されてくる複数の前記位置標定信号を受信し、受信した前記各位置標定信号の位相差に基づいて自身の現在位置を標定すること
を特徴とする位置標定に用いられる携帯端末。
【請求項5】
位置標定システムであって、
地域各所に設置される複数の基地局と、
移動者によって携帯される携帯端末と、
を含み、
前記基地局は、隣接配置された複数のアンテナのそれぞれから位置標定のための無線信号である位相の異なる複数の位置標定信号を送信し、
前記携帯端末は、
前記位置標定信号を受信する位置標定信号受信部と、
前記位置標定信号に基づいて自身の現在位置を標定する位置標定部と、
前記位置標定信号の受信信号強度を取得する回路と、
加速度センサと、
地磁気センサと、
前記位置標定信号の前記受信信号強度の履歴を前記位置標定信号の受信時刻に対応づけて記録した受信信号強度履歴を生成する受信信号強度履歴記録部と、
前記加速度センサ及び前記地磁気センサの検知値に基づいて、所定の時間間隔ごとの移動履歴を前記検知値の取得時刻に対応づけて記録した移動距離/方向履歴を生成する移動距離/方向履歴記録部と、
受信した前記位置標定信号の前記受信信号強度から、受信した前記位置標定信号の自由空間損失である第1自由空間損失を求める第1自由空間損失算出部と、
前記受信信号強度履歴から、受信した前記位置標定信号の受信信号強度が最大となった現在時刻から直近の時刻である起点時刻を特定する起点設定部と、
前記起点時刻と前記移動距離/方向履歴とに基づいて、前記起点時刻における自身の位置から自身の現在位置までの距離を求める移動距離算出部と、
前記移動距離に基づいて、前記位置標定信号の自由空間損失である第2自由空間損失を求める第2自由空間損失算出部と、
前記第1自由空間損失と前記第2自由空間損失とを比較して、受信した前記位置標定信号が直接波であるか否かを判定する自由空間損失比較部と、
を有し、
前記位置標定部は、前記自由空間損失比較部が、前記位置標定信号が直接波でないと判定した場合に、受信した前記位置標定信号による位置標定を行わないようにすること
を特徴とする位置標定システム。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−256559(P2008−256559A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99762(P2007−99762)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】