説明

低分子抗酸化剤及び高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物を含む組成物

【課題】高分子化した2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)の機能をが高められると同時に、TEMPO以外の低分子抗酸化剤のうち、特に、水難溶解性であるが故に、利用分野が限定され、また、効果が制限される抗酸化剤の機能が高められた組成物の提供。
【解決手段】低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物を含んでなる組成物。高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が高分子ミセルの形態をしており、かつ、低分子抗酸化剤が該高分子ミセル内に内包されている組成物。この組成物は活性酸素もしくはラジカル種の媒介または関与する疾患または障害を治療または予防するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素やフリーラジカル消去能及び抗酸化能を有する組成物に関する。より具体的には、高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物及び抗酸化剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素やラジカル種(ROS)による酸化的ストレスが、血管を障害し、老化や癌化を促進するだけでなく、様々な疾病の原因となることが明らかになりつつある。実際に、アルツハイマー病もしくはパーキンソン病(非特許文献1)等の脳疾患のみならず、様々な虚血再灌流障害もしくはミトコンドリア障害(非特許文献2)または癌もしくは加齢等の広範な疾患に関与していることが明らかになるかまたは明らかになりつつある。また、インドメタシンのような非ステロイド性鎮痛解熱剤による細胞の機能低下は、活性酸素やフリーラジカル種による細胞障害によりもたらされることが知られている。そこで、ROSを効率よく消去するため、天然物もしくは合成物質等様々な抗酸化剤が検討されている。その中で、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)などのようなさまざまな低分子抗酸化物質の開発がおこなわれているものの、腎臓からの急速な排泄などの問題点を有していた。このような背景を考慮し、本発明者らは最近、ROSに対する反応性を制御する材料設計に際し、生体適合性高分子にTEMPO様ニトロキシラジカルを結合し、その自己組織化を利用したナノ粒子を形成すると、これまでに提案されてきた低分子化合物に比較して極めて長時間生体内で安定に存在することを見出した(非特許文献3))。例えば、低分子のTEMPOは血中投与後最短測定時間の2分後での検出は不可能であるのに対し、本発明者らの提供したナノ粒子封入TEMPO等は半減期が数時間以上と圧倒的な安定性を示した(非特許文献4)。このラジカルナノ粒子(RNP)を脳虚血再灌流によるダメージに適用したところ、大きな酸化ストレス障害抑制効果が見られ、効果的なROS抑制効果を示した。本発明者らは以上の成果をまとめて特許出願も行った(特許文献1)。
【0003】
他方、TEMPO等以外の多種多様な低分子抗酸化剤も医療をはじめとする種々の分野で実用されているが、抗酸化能が一定の目的上十分でないか、中には、水難溶解性であるために利用分野が限定され、また、効果が制限されるものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2009/133647
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.Riazanskaia et al.,Molecular Pychiatry (2002), 7(8), 891
【非特許文献2】R.Scherz−Shouval et al.,Trends in Cell Biology (2007),17(9),422
【非特許文献3】Yoshitomi,et al.Biomacromolecules:10(3)596(2009)
【非特許文献4】Yoshitomi,et al.,Bioconju. Chem.,20 1792(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TEMPO等では、それらを特定の高分子化合物を用いて高分子化することにより所期の目的を達成することに成功した。しかし、このような高分子化したTEMPOであっても、さらにその機能を高めることができれば当該技術分野により一層貢献できるであろう。また、TEMPO以外の低分子抗酸化剤のうち、特に、水難溶解性であるが故に、利用分野が限定され、また、効果が制限される抗酸化剤の機能を高めることに対するニーズは低分子TEMPOに対するのと同様に存在するであろう。
【0007】
本発明では、今ここに、低分子抗酸化剤を短に高分子化するのでなく、上記の高分子化TEMPO等と組み合わせて使用することにより、低分子化抗酸化剤の利用分野を拡張できるとともに、高分子化TEMPO等の抗酸化活性を有意に向上できることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、低分子抗酸化剤と高分子化TEMPOをはじめとする高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物を含んでなる組成物、およびこのような組成物の活性酸素もしくはラジカル種が媒介(もしくは関与)する疾患もしくは障害の予防もしくは治療分野での使用が提供される。
【0009】
該組成物によると、高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物の抗酸化能をさらに向上させることができることのみならず、また、低分子抗酸化剤が水難溶解性である場合には、その抗酸化能を保持したまま、それらを水可溶性にすることができる。
【0010】
したがって、本願明細書は下記の態様の発明を提供することにより上記課題を解決することができる。
【0011】
態様1:低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物を含んでなる組成物。
【0012】
態様2:低分子抗酸化剤が、ビタミンE、β−カロテン、ユビキノン(コエンザイムQ)、ビリルビン、カテキン、レスベラトール、タンニン、エブセレン、アミノステロイド、プロブコール、ビタミンE類縁化合物、エイコサノイド代謝阻害薬、カテノロイド、レチノイド、レバミピド及びピペリンよりなる群から選ばれ、高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が、一般式(II)
【0013】
【化1】

【0014】
式中、Aは、非置換または置換C−C12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基または式RCH−の基を表し、ここで、R及びRは独立して、C−CアルコキシまたはRとRは一緒になって−OCHCHO−、−
O(CHO−もしくは−O(CHO−を表し、
は、原子化結合、−(CHS−、−CO(CHS−、からなる群より選ばれる連結基を表し、ここでcは1ないし5、好ましくは2の整数であり、
は、メチルイミノ、メチルイミノメチル、メチルオキシ、メチルオキシメチル、メチルエステル及びメチルエステルメチルからなる群より選ばれる連結基を表し、
Rは、Rの総数nの少なくとも50%が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、
mは、20〜5,000の整数を表し、そして
nは、3〜1,000の整数を表す、
で表される、
化合物である、上記組成物。
【0015】
態様3:低分子抗酸化剤が、ビタミンE、レバミピド及びピペリンよりなる群から選ばれる、上記組成物。
【0016】
態様4:高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が高分子ミセルの形態をしており、かつ、低分子抗酸化剤が該高分子ミセルに内包されている、上記態様1〜3のいずれかの組成物。
【0017】
態様5:上記態様1〜4のいずれかを有効成分として含んでなる、活性酸素もしくはラジカル種の媒介または関与する疾患または障害を治療または予防するための製薬学的製剤。
【発明の詳細な記述】
【0018】
以下、本発明で使用できる低分子抗酸化剤及び高分子化環状ニトキシドラジカル化合物についてより具体的に記述する。
【0019】
低分子抗酸化剤にいう、低分子とは、高分子化環状ニトキシドラジカル化合物にいう高分子と対比しうる概念を表すものとして用いている。したがって、重合体は排除される。この様な低分子抗酸化剤としては、抗酸化作用を示し、本発明の目的に沿うものであれば限定されるものでないが、ムコスタ(レバミピド)及びその類延体(Masateru Miyake et al.,Jornal of Controlled Release 111(2006)27−34、参照)、ビタミンE、β−カロテン、ユビキノン(コエンザイムQ)、ビリルビン、カテキン、レスベラトール、タンニン、エブセレン、アミノステロイド、プロブコール、ビタミンE類縁化合物、エイコサノイド代謝阻害薬、カテノロイド、レチノイド、ピペリン、等の水難溶解性の抗酸化剤、ならびに
ビタミンC(アスコルビン酸)、グルタチオン、フラボノイド、尿酸、等の水溶性抗酸化剤、ならびに
スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、セルロプラスミン、メタロチオネイン、チオレドキシン、等のタンパク質性抗酸化剤、ならびに
白金コロイド、フラーレン、等の粒子状抗酸化剤
を挙げることができる。
【0020】
一方、高分子化環状ニトキシドラジカル化合物としては、上記特許文献1に記載された環状ニトロキシドラジカル化合物を安定化するために高分子化したものであって、本発明の目的に沿うものであれば限定されることなく種々の高分子化合物により高分子化されたものも挙げることができる(特許文献1の全内容は、ここに引用することにより本明細書に取り込まれる)。このような安定化の典型的な方法について採録すれば、環状ニトロキシドラジカル化合物をポリ(エチレングリコール)鎖セグメントと反応性基を担持する疎水性鎖セグメントを含むブロック共重合体に、該化合物のラジカル以外の官能基と該共重合体の反応性基を介して共有結合せしめる工程を含んでなる方法である。該方法において、具体的には、該官能基がアミノ基、アミノメチル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシル基またはカルボメチル基であり、該反応性基がハロゲン原子、カルボキシル基、イソシアナート残基、イソチオシアナート残基、エステル残基、酸無水物残基、ボロン酸残基、マレイミド残基またはエポキシ基であり、そして前記ブロック共重合体は該環状ニトロキシドラジカル化合物が共有結合された形態において水性溶媒中で高分子ミセルを形成できるものである。
【0021】
このような安定化方法により得ることのできる高分子化ニトロキシドラジカル化合物としては、エチレングリコールの反復単位が15〜10,000のポリ(エチレングリコール)鎖セグメントとスチレンの反復単位が3〜3,000のポリ(スチレン)鎖セグメントを含んでなり、かつ、該ポリ(スチレン)鎖セグメントにおけるスチレンの反復単位の少なくとも10%、好ましくは30%、より好ましくは50%、さらにより好ましくは80%、特に好ましくは100%がフェニル基の4位において−CHNH−、−CHNHCH−、−CHO−、−CHOCH−、−CHOCO−及び−CHOCOCH−からなる群より選ばれる連結基を介して環状ニトロキシドラジカル化合物の残基が共有結合しており、存在するばあいには、該4位の残りがハロゲン原子、水素原子またはヒドロキシル基であり、そして該環状ニトロキシドラジカル化合物の残基が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる、上記高分子化ニトロキシドラジカル化合物を挙げることができる。
【0022】
より具体的には、特許文献1に記載の一般式(II)
【0023】
【化2】

【0024】
式中、Aは、非置換または置換C−C12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基または式RCH−の基を表し、ここで、R及びRは独立して、C−CアルコキシまたはRとRは一緒になって−OCHCHO−、−O(CHO−もしくは−O(CHO−を表し、
は、原子価結合、−(CHS−及び−CO(CHS−からなる群より選ばれる連結基を表し、ここでcは1ないし5、好ましくは2の整数であり、
は、メチルイミノ、メチルイミノメチル、メチルオキシ、メチルオキシメチル、メチルエステル及びメチルエステルメチルからなる群より選ばれる連結基を表し、
Rは、Rの総数nの少なくとも50%が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、
mは、20〜5,000の整数を表し、そして
nは、3〜1,000の整数を表す、
で表される、
化合物であることができる。さらに、一般式(II)において、Lが原子価結合または−CHCHS−であり、Lがメチルイミノまたはメチルイミノメチルであり、そして
Rの全てが、次式
【0025】
【化3】

【0026】
式中、R’はメチル基である、
のいずれかで表される環状ニトロキシドラジカル化合物の残基である、高分子化ニトロキシドラジカル化合物は、これらの化合物から形成できる高分子ミセルの安定化にpH応答性を付与する点でも特に好ましいものとして提供される。
【0027】
上記の各基または部分の定義において、C−C12アルコキシのアルキル部分は、直鎖または分岐のアルキルであることができ、例えば、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、ブチル、iso−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、ドデカニル等を挙がることができる。また、Aが、式RCH−で置換されたアルコキシ基を表し、かつ、R及びRは独立して、C−CアルコキシまたはRとRは一緒になって−OCHCHO−、−O(CHO−もしくは−O(CHO−を表す場合には、このような置換基は酸性条件下で容易に開裂してホルミル基に転化できるので、タンパク質もしくはペプチド(例えば、抗体その他のリガンド)等をそのアミノ基を介して容易に共有結合できる。かような置換基は、存在する場合には、アルコキシ基の未結合末端に存在するのが好ましい。これらの置換基は、例えば、上記特許文献2及び3に記載のポリ(エチレングリコール)鎖セグメントの生成方法を参照して導入できる。
【0028】
また、上記ブロック共重合体における、連結基Lは、ポリ(エチレングリコール)鎖セグメントとポリ(スチレン)をどのように結合させるかにより代わり得るので限定され
るものでない。例えば、ポリ(エチレングリコール)鎖セグメントをアニオンリビング重合で生成し、次いで、ハロメチルスチレンのリビング重合を継続する場合には、Lは原子価結合となる。ポリ(エチレングリコール)鎖セグメントのω−末端に硫黄原子を持つポリ(エチレングリコール)誘導体を用意した場合は、該誘導体の存在下にハロメチルスチレンのラジカル重合を行うことで連結基が、−CHCHS−または−COCHCHS−となり得る。
【0029】
本発明に従う組成物は、上記低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトキシドラジカル化合物を、必要により、希釈剤または他の製薬学的に常用されている賦形剤の存在下で混合することにより調製できる。低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトキシドラジカル化合物の混合比率は、限定されるものでないが、重量基準で、1:99〜99:1、好ましくは、3:97〜60:40である。
【0030】
上記のような高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物は、緩衝化水溶液または水混和性有機溶媒、例えばエタノール、アセトン、アセトニトリル等を含有していてもよい水性媒体中で自己組織化することによってコア領域にニトロキシドラジカル部分が担持されるかもしくは存在し、シェル領域にポリ(エチレングリコール)鎖が存在するとみなせる数十ないし数百ナノメーター(nm)範囲内の粒子径を有する高分子ミセルを形成する。このような高分子ミセル形成の際に、または形成後に、低分子抗酸化剤、特に、水難溶解性抗酸化剤を水性媒体中で共存させておけば、該抗酸化剤を高分子ミセル中に内包させることができる。本発明の組成物の好ましいものとしては、低分子抗酸化剤を該高分子ミセルに内包したものを挙げることができる。このような形態をした本発明の組成物は、環状ニトロキシドラジカル化合物と低分子抗酸化剤が一体となって働き易く、また、低分子抗酸化剤が水難溶解性である場合はそれを水性媒体中で可溶化した状態にすることができる。
【0031】
こうして形成する高分子ミセルは、ミセル形成水性液中で、例えば遠心または透析により分離、精製でき、また、凍結乾燥品としても提供できる。このような高分子ミセル内の低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトキシドラジカル化合物の含有比率は、抗酸化剤対高分子化環状ニトキシドラジカル化合物に担持される環状ニトキシドラジカル化合物のモル比で、1:1〜1:10000、好ましくは、1:4〜1:100、より好ましくは1:5であることができる。
【0032】
こうして水難溶解性抗酸化剤の少なくとも一部が内包された高分子ミセルまたは組成物は、水性媒体中で可溶化でき、従来、水難溶解性のため利用分野が限定されていた抗酸化剤の用途を大きく拡張できる。また、該高分子ミセルに内包された抗酸化剤は、仮に、それら自体が生体に対して強力な毒性を有している場合であってもその毒性を有意に軽減できる。一方、抗酸化剤が水溶性抗酸化剤であっても、高分子化ニトロキシドラジカル化合物と抗酸化剤を共存させるかまたは組み合わせることにより調製した組成物は、該高分子ミセルと同様に、高分子化ニトロキシドラジカル化合物が本来有している活性酸素もしくはラジカル種の作用の抑制効果を初めとする抗酸化作用を相乗的にまたは質的に増強することができる。質的に増強とは、例えば、ニトロキシドラジカルによる抗酸化作用等とそれと組み合わされる抗酸化剤による抗酸化作用、抗炎症作用、胃粘膜保護作用等のそれぞれの異なる作用が、相互に悪影響を受けることなく両作用を発揮し、例えば、酸化過程より複雑な機序による場合には、かような酸化過程全体を効果的に抑制できる等の作用を意味する。
【0033】
該高分子ミセルまたは組成物は、限定されるものでないが、全体として低毒性であり、また、水可溶性である等の性質を有することから、経口投与用及び非経口投与用の医薬製剤中の有効成分として都合よく利用できる。また、該高分子ミセルまたは組成物は、後述する実施例で明らかにされるとおりに全く異なる抗酸化等について試験するモデル実験で
高い効果を奏し、また、上述したとおり、高分子化ニトロキシドラジカル化合物が本来有している活性酸素もしくはラジカル種の作用の抑制効果を初めとする抗酸化作用を相乗的にまたは質的に増強することができるので、活性酸素もしくはラジカル種が媒介(もしくは関与)する広範な疾患もしくは障害の予防もしくは治療用の有効成分として利用できる。
【0034】
活性酸素もしくはラジカル種が媒介(もしくは関与)する疾患もしくは障害としては、限定されるものでないが、アルツハイマー病もしくはパーキンソン病等の脳疾患、心筋梗塞などの虚血再灌流障害もしくはミトコンドリア障害(例えば、潰瘍性大腸炎)、癌もしくは加齢(紫外線照射による皮膚の老化、シワの形成)、動脈硬化、糖尿病、肺気腫や炎症性皮膚疾患等の医学的または皮膚科学的な疾患または障害を挙げることができる。また、インドメタシンのような非ステロイド性鎮痛解熱剤による細胞の機能低下等に起因する、NSAIDsによる消化管障害や腎機能不全も挙げることができる。
【0035】
このよう該高分子ミセルまたは組成物は、多岐にわたる疾患もしくは障害の治療または予防に効果を発揮する有効成分として利用できるので、使用対象に応じて適切な剤形(dosage form)で、それぞれの治療有効量を製薬学的に許容されるキャリヤー、希釈剤もしくは賦形剤とともに含む製剤として提供できる。このような剤形としては、経口的、直腸的、局所的、経皮的、体内埋植的または非経口的注射による投与に適する単位剤形を挙げることができる。これらの製剤は、有効成分としての該高分子ミセルまたは組成物を、キャリヤー、希釈剤もしくは賦形剤とともに、それ自体既知の調剤方法により調製できる。例えば、経口剤形を調製するには、経口剤を調製すのに常用されている製剤媒質、例えば、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤及び液剤等の経口液状製剤の場合には、水、グリコール、油脂、アルコール等、あるいは散剤、丸薬、カプセル剤及び錠剤の場合には、固形キャリヤー、例えば、澱粉、糖、カオリン、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等を使用できる。非経口剤形、特に、注射用液剤もしくは懸濁剤を調製するには、キャリヤーもしくは希釈剤は、主として滅菌水または生理食塩水であることができ、必要により、懸濁化剤を含めることができ、また生理食塩水とともにもしくは独立して、グルコース等の糖溶液を用いることができる。経皮投与剤形にあっては、キャリヤーは、経皮投与に適するキャリヤー及び、必要に応じ、皮膚浸透促進剤もしくは湿潤剤を含めることができる。また、局所的投与剤形は、クリーム剤、ゼリー剤、ローション剤、軟膏剤であることができる。
【0036】
このような剤形は、該有効成分の投与を必要とする患者に対し、それぞれの剤形に適する投与経路で対象とする疾患もしくは障害の治療有効量を投与することにより、活性酸素もしくはラジカル種が媒介(もしくは関与)する疾患もしくは障害の治療または予防をすることができる。有効量は、対象とする疾患もしくは障害、それらの重篤度、年齢、体重等により最適量が変動するので限定できないが、専門家が臨床試験等の試験の結果に基づいて判断できるであろう。
【0037】
該有効成分は、他の有効成分、すなわち、対象とする疾患もしくは障害の治療もしくは予防に既に使用されているか、または使用することが提案されている医薬と、同時に、または前後して投与できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1におけるRNPと低分子抗酸化剤ムコスタを水性媒体中で撹拌することにより変化するムコスタの溶解度のグラフ表示である。
【図2】実施例2におけるムコスタ内包RNPの粒子内径分布グラフ表示である。
【図3】実施例3における、ムコスタ内包RNPをPD10カラムに流したときの流出パターンのグラフ表示である。
【図4】実施例4における、ムコスタ内包RNPのインドメタシンの細胞毒性に対する影響のグラフ表示である。
【図5】実施例5の5−1)における、RNPまたはビタミンE内包RNPの粒径分布のグラフ表示である。■はRNP+ビタミンE10の系、●はRNP+ビタミンE5の系、▲はRNP+ビタミンE1の系、▼はRNP+ビタミンE0.1の系、◆はRNPのみの系の結果を表す。
【図6】実施例5の5−2)における、RNPとビタミンE内包RNPによる細胞毒性抑制効果を示すグラフ表示である。●はRNP+ビタミンE0の系、■はRNP+ビタミンE0.1の系、▲はRNP+ビタミンE1の系、▼はRNP+ビタミンE5の系、◆はRNP+ビタミンE10の系の結果を表す。
【図7】実施例6の6−1)におけるヒト神経芽細胞(SH−SY5Y)に対するAβアミロイド(1−42)の障害活性のグラフ表示である。
【図8】実施例6の6−2)における、RNPによるAβ1−42障害神経芽細胞への作用のグラフ表示である。
【図9】実施例6の6−4)における、Aβ1−42障害神経芽細胞に対するピペリン単独の効果のグラフ表示である。網模様の棒はAβ1-42のみを添加したときの細胞生存率を表す。
【図10】実施例6の6−4)における、Aβ1−42障害神経芽細胞に対するRNP+ピペリン(PI)の効果のグラフ表示である。それぞれ、黒塗り棒はPIのみに関し、斜線の棒はPI+Aβ+RNP−N(1mM)に関するデータである。
【図11】NBT法を用いて測定したスーパーオキシド産生量のグラフ表示である。
【図12】デオキシリボース分解法を用いて測定したヒドロキシラジカル産生量のグラフ表示である。
【図13】Aβアミロイドを添加した後のアポトーシス量のグラフ表示である。
【図14】脂質過酸化量のグラフ表示である。
【図15】カルボニル化蛋白のグラフ表示である。
【図16】DNAの断片化量のグラフ表示である。
【図17】グルタチオンペルオキシダーゼ活性のグラフ表示である。
【図18】カタラーゼ活性のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明をより具体的に説明するために、特定の高分子化ニトロキシドラジカル化合物として特許文献1の製造例1〜3(下記に採録する)に従って製造したメトキシ−PEG−b−PCMS−o−TEMPO(以下、RNPという)と低分子抗酸化剤としてムコスタを用いて本発明に従う組成物を調製した例について説明する。
【0040】
製造例1:α―末端にアセタール基を有するポリエチレングリコール−b−ポリクロロメチルスチレン(アセタール−PEG−b−PCMS)の合成
アセタール−PEG−b−PCMSは、次の合成スキーム1に従い合成した:
【0041】
【化4】

【0042】
α―末端にアセタール基、ω―末端にチオール基を有しているヘテロ二官能性ポリエチレングリコール(アセタール−PEG−SH)(Mn:4,600;0.02mmol,92mg)を反応容器に加えた。次に、反応容器中を真空にした後、窒素ガスを吹き込む操作を3回繰り返すことにより、反応容器内を窒素雰囲気にした。反応容器に1mLのアゾビスイソブチロニトリル/ベンゼン(0.01mmol/mL)溶液とクロロメチルスチレン(1mmol,0.138mL)を加え、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。反応混合物をヘキサン中に流し込んだところ、白い沈殿が生じた。ポリクロロメチルスチレンホモポリマーを除去するために、得られた沈殿物をポリクロロエチルスチレンホモポリマーに対しての良溶媒であるジエチルエーテルを用いて3回洗浄操作を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行い、白い粉体を得た。収量は、134mgであり、収率は55.1%であった。得られたアセタール−PEG−b−PCMSブロック共重合体のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定の結果から、二峰性の分布が確認された。生成物の情報を得るために、SECを用いてこの2つの分布を分別し、それぞれのフラクションのH NMRスペクトルを測定した。
【0043】
その結果、二つのフラクションのPEGとPCMSの成分比率がほぼ同じであることが明らかとなった。また、得られたブロック共重合体中のPCMSセグメントの分子量を算出するために、SECより決定したアセタール−PEG−SHの分子量に基づきH NMRスペクトルを解析ところ、PCMSセグメントの分子量は、それぞれ3,300、6,600であることが明らかとなった)。これらの結果により、二峰性の分布は、一方がジブロック共重合体の生成物であり、他方がトリブロック共重合体の生成物であることが明らかとなった。これは、テロメリゼーション中のジブロック共重合体同士の再結合により、トリブロック共重合体が生成したということが示唆される。また、ピークフィッティングにより、ジブロック共重合体とトリブロック共重合体の成分比は、23%と77%であることが確認された。
【0044】
製造例2:イミノ結合を介して結合したTEMPOを有するブロックポリマー(アセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPO)の合成
反応容器に、アセタール−PEG−b−PCMS(Mn:7,900;40mg,5.2μmol)を加えた。次に、4−アミノ−TEMPO(88mg,520mmol)を2mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、反応容器に加え、室温で5時間攪拌を行った。反応終了後、−15℃に冷却した2−プロパノール中に反応混合物を注ぎ、次に2−プロパノールを用いて3回、再沈殿を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行った。収率は、76.3%であった。
【0045】
H NMR測定の結果より、クロロメチル基が100%反応し、TEMPOが導入されていることが認められた。またサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分取し、各フラクションにおけるESRシグナルを測定した。その結果、再沈殿の回数が増すごとに20
分〜27分に見られる未反応アミノ−TEMPOのESRシグナルが消失したことから、未反応のアミノ−TEMPOが精製によって完全除去されていることが確認された。
【0046】
製造例3:エーテル結合を介して結合したTEMPOを有するブロックポリマー(メトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPO)の合成
反応容器に、メトキシ−PEG−b−PCMS(Mn:7,900;200mg,30.6μmol)を加え、ジメチルホルムアミド(DMF)1mLに溶解した。次に、4−ヒドロキシ−TEMPO(260mg,1.53mmol)とNaH(70.3mg,3mmol)を2mLのDMFに溶解し、反応容器に加え、室温で5時間攪拌を行った。反応終了後、−15℃に冷却した2−プロパノール中に反応混合物を注ぎ、次に2−プロパノールを用いて3回、再沈殿を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行い、目的のメトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPOを得た。収率は、70.0%であった。
【0047】
製造例4:メトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPOのナノ粒子の調製方法
非特許文献3に記載された透析方法により製造例3で得られたメトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPO(以下、ニトロキシラジカル含有ポリマーともいう)からラジカルナノ粒子(radical nanoparticle;以下、RNPと略記する)を調製した。概述すると、400mgのメトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPOを100mLのDMFに溶解した。こうして得られたポリマー溶液を膜チューブ(Spectra/Por, molecular−weight cutoff size:
3,500, Spectrum, USA)中に移し、次いで、2Lの水に対して24時間透析した(水は2時間、5時間、8時間及び20時間後に交換した。)。こうして得られたRNP含有液の動的光散乱(DLS)測定を実施し、RNPの直径を決定した。RNP溶液の濃度を調節するために、得られたRNP溶液を遠心エバポレーターによりほぼ60mg/mlまで濃縮した後、濃縮したRNPのDLS測定を行い、濃縮後のRNPのサイズを確認した。
【実施例1】
【0048】
RNPを用いたムコスタの溶解性向上
スクリュー管に1.2mgから8.4mgまで0.6mg間隔でムコスタを量りとり、PBS3mlを加え、マグネティクスターラーを用いて24時間撹拌した。同様の量をスクリュー管に量りとったものにPBS中の製造例4に従い製造されたRNPの溶液6mg/mlを3ml加え、24時間撹拌した。撹拌後、0.2μmのフィルターを通し、溶解していないムコスタを除去した後、二倍に希釈して、ムコスタ由来のUV吸収を確認した。結果を図1に示す。図1から理解できるように、RNPを用いることでムコスタの溶解度がおよそ2倍程度に上昇したことが確認された。さらにムコスタ濃度2.0mg/ml時の粒径を下記に示す。
【実施例2】
【0049】
ムコスタ内包後の粒子径分布と内包確認
動的光散乱法で測定したところ、図2示されるとおり、単分散な粒径分布が得られたことが確認できた。粒子径は内包前、後ともに約40nmで変化は見られなかった。
【実施例3】
【0050】
PD10カラムに流しフラクションごとにムコスタ由来である、350nmのUV吸収を確認したところミセルと同じフラクションにピークを確認することができた(図3参照)。このことより、ムコスタがRNP粒子に内包されていることが示唆される。
【実施例4】
【0051】
RNPとムコスタ内包RNPによる細胞毒性抑制効果
インドメタシンのような非ステロイド性鎮痛解熱剤は、ミトコンドリアに障害を与え、ミトコンドリア外へ活性酸素を漏出し、細胞及び/または組織障害を惹起することが知られている。そこで、ここでは、ROS産生による細胞障害モデルとして用い、RNPもしくは、ムコスタ内包RNPの細胞毒性抑制効果を調べた。
【0052】
96wellプレートにRGM1細胞を5×10個播種し、24時間培養した。培養後、RNPを培地にTEMPOの終濃度が、1mM,0.5mM,0.25mM,0.1mM,0.05mM,0.025mM,0.01mMとなるように培地に添加した。同様に、ムコスタ内包RNPもTEMPO終濃度が、1mM,0.5mM,0.25mM,0.1mM,0.05mM,0.025mM,0.01mMとなるように培地に添加した。直後、さらにインドメタシンを終濃度が500μMとなるよう細胞に添加し、24時間インキューベーターで培養後、WST−8 assayを行い、細胞生存率を求めた。結果を図4に示す。図4からRNPのTEMPO濃度依存的にインドメタシンの毒性を抑制することが確認された。さらに、ムコスタを内包することで、RNPを単独で用いる(空のRNPともいう)より、毒性を抑制することが確認された。
【実施例5】
【0053】
抗酸化剤ビタミンEの内包と内包薬物の効果
5−1) ビタミンEの内包
ニトロキシルラジカル含有ポリマー36mgとビタミンE(10、5、1、0.1mg)をDMFに対して透析を行った。結果を、図5に示す。図5から、ニトロキシルラジカル含有ポリマーとビタミンEを一緒に透析処理することにより単分散な粒径分布のビタミンE内包RNPが得られ、粒子径は内包前、後ともに約40nmで変化は見られなかった。
【0054】
5−2) RNPとビタミンE内包RNPによる細胞毒性抑制効果
実施例4に記載のROS産生による細胞障害モデル実験に準じて、ムコスタの代わりにビタミンEを用い、RNPもしくは、ビタミンE内包RNPの細胞毒性抑制効果を調べた。結果を図6に示す。図6から、RNPのTEMPO濃度依存的にインドメタシンの毒性を抑制することが確認された。さらに、ビタミンEを内包することで、RNPを単独で用いるより、ビタミンEの濃度依存的に上記毒性を抑制することが確認された。
【実施例6】
【0055】
アルツハイマー治療薬 ピペリンの内包と内包薬物の効果
【0056】
【化5】

【0057】
6−1) Aβアミロイド(1−42)によるヒト神経芽細胞種株(SH−SY5Y)
アルツハイマー型障害の構築
ヒトSH−SY5Y神経芽細胞種株は、国立大学法人筑波大学の礒田博子(本願発明の発明者の一人)研究室より入手した。該細胞を、ダルベッコ最少必須培地(DMEM; Sigma, USA)の混合物と15%ウシ胎仔血清(FBS;Sigma, USA)、1%非必須MEMアミノ酸及び1%ペニシリン(5000μg/mL)−ストレプトマイシン(5000IU/mL)溶液を補足したハムのF−12栄養混合物(Ham’sF−12 nutrient mixture)1:1(V/V)を用い、種々の目的に応じ、フラスコ中または6well、24well、48wellもしくは96well上で、95%加湿空気及び5%COインキュベーター内で37℃にて培養した。なお、上記細胞は研究の目的で用いることを条件に、上記研究室に第三者の請求があれば自由に分譲される。細胞毒性アッセイには、イーグルの最少必須培地の血清不含改変培地(OPTI−MEM Gibco BRL)を用いた。この実験では、細胞の付着のために、ヒト血漿から精製されたフィフロネクチン(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.)50μg/mLで一昼夜プレートを前処理した。細胞集合を得る目的で、Aβ1−42を培地に溶解し、使用前に72時間37℃でインキュベートした。培養の24−48時間後、細胞(ほぼ80%コンフルエントに達した)を培地で3度洗浄し、その後、異なる濃度のAβ1−42の存在下で血清を含まないダルベッコのMEM培地で48時間インキュベートした。結果を図7に示す。TEMPOLの保護効果を試験するために設計した実験では、48時間Aβ1−42に曝す前に細胞を異なる濃度のTEMPOLとともに一昼夜処理した。図7より、本実験系ではAβ1−42の添加量を増すごとに神経芽細胞障害がみられた。
【0058】
6−2) RNPによるアルツハイマーモデルの低減効果
96wellプレートにRGM1細胞を1×10個播種し、24時間培養した。培養後、RNPを培地にTEMPOの終濃度が、5mM、3mM、2mM、1mM、0.5mM、0.1mM、0.01mMとなるように培地に添加した。同時に、Aβ1-42(10%(v/v),10μL)となるように培地に添加した。24時間インキューベーターで培養後、WST−8 assayを行い、細胞生存率を求めた。結果を図8に示す。図8より、RNPのTEMPO濃度依存的にAβ1-42の毒性を抑制することが確認された。また、図8に示されるようにRNPの0.01mMから1mMまでの濃度で細胞生存率が向上している。3mM以上では毒性が出て効果があまり変わらない。
【0059】
6−3) RNP+ピペリンのAβ1−42障害細胞に対する効果
6−2)と同様にRNP単独の代わりにRNPにピペリンを加えて評価を行った。結果を図9及び図10に示す。
【0060】
図9では0.1−10μMまで抗酸化効果がみられるが、20μM以上では毒性がみられる。一方、図10では、RNP+ピペリンを併用した場合、特にRNP1mMではピペリン100μMでも全く毒性が見られず、Ab1−42障害をほぼ完全に消去していることが理解できる。
【0061】
6−4)
図11には、NBT法を用いて測定したスーパーオキシド産生量を示した。RNP+ピペリンを併用した場合、有意にヒドロキシルラジカル産生を抑制し、RNP単独よりもスーパーオキシド産生量を抑制することが理解できる。また図12には、ヒドロキシラジカル産生量を示す。ヒドロキシラジカル産生量は、デオキシリボース分解法により測定を行った。図12からもわかるように、RNP+ピペリンを併用した場合、有意にヒドロキシルラジカル産生を抑制し、RNP単独よりもスーパーオキシド産生量を抑制することが理解できる。
【0062】
6−5)
通常、Aβアミロイドを添加したヒト神経芽細胞はアポトーシスを惹起し、図13に示すように、DNAの断片化(Enrichment factor)を引き起こす。Camptothecinは、アポトーシスを誘発する化合物として知られており、図13からもわかるとおり、DNAの断片化が生じている。一方、RNP単独やRNP+ピペリンを併用した場合、DNAの断片化がほとんど生じていないことが分かり、このことからアポトーシスを抑制していることが理解できる。
【0063】
6−6)
図14には、チオバルビツール酸法を用いて測定した脂質過酸化の定量結果を示した。通常、Aβアミロイドを添加したヒト神経芽細胞は、図14に示すように、脂質過酸化(MDA+HAE)の量が増加する。一方、RNP+ピペリンを併用した場合、有意に脂質過酸化の量を抑制し、RNP単独よりも脂質過酸化の量を抑制することが理解できる。また図15には、タンパク質が酸化された指標となるカルボニル化蛋白(プロテインカルボニル)の定量結果を示す。通常、Aβアミロイドを添加したヒト神経芽細胞は、図15に示すように、カルボニル化蛋白の量が増加する。カルボニル化蛋白の量は、ELISA法により測定を行った。図15からもわかるように、RNP+ピペリンを併用した場合、有意にカルボニル化蛋白の量を抑制し、RNP単独よりもカルボニル化蛋白の量を抑制することが理解できる。また同様に、図16には、核酸が酸化された指標となる8−OHdGの定量結果を示す。Aβアミロイドを添加したヒト神経芽細胞は、図16に示すように、8−OHdGの量が増加する。図16からもわかるように、RNP+ピペリンを併用した場合、有意に8−OHdGの量を抑制し、RNP単独よりも8−OHdGの量を抑制することが理解できる。
【0064】
6−7)
図17に、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の活性を示す。また図18には、細胞内のカタラーゼ(CAT)の活性を示す。グルタチオンペルオキシダーゼやカタラーゼは、Aβアミロイドを神経芽細胞に添加しても活性が増加することはない。またRNP単独でもGPx活性及びCAT活性ともにないのに対し、ピペリンを加えると高い活性が生じる。これらの結果は、RNPがスーパーオキシド及びヒドロキシラジカルの還元に極めて有効なのに対し、ピペリンは過酸化水素の還元を効果的に行う。このため、RNP+ピペリンはアルツハイマー疾患に対して高い活性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により提供される高分子ミセルまたは組成物は、水溶液に対して難溶解性の薬剤の溶解性を向上させることができるだけでなく、RNPと組み合わせることにより極めて高い抗酸化能を有する薬剤として機能するため、活性酸素もしくはラジカル種(ROS)が媒介(または関与)疾患または障害の治療または予防に有効である。したがって、限定されるものでないが、医薬、化粧品または食品の製造業で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物を含んでなる組成物。
【請求項2】
低分子抗酸化剤が、ビタミンE、β−カロテン、ユビキノン(コエンザイムQ)、ビリルビン、カテキン、レスベラトール、タンニン、エブセレン、アミノステロイド、プロブコール、ビタミンE類縁化合物、エイコサノイド代謝阻害薬、カテノロイド、レチノイド、レバミピド及びピペリンよりなる群から選ばれ、高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が、一般式(II)
【化1】

式中、Aは、非置換または置換C−C12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基または式RCH−の基を表し、ここで、R及びRは独立して、C−CアルコキシまたはRとRは一緒になって−OCHCHO−、−O(CHO−もしくは−O(CHO−を表し、
は、原子化結合、−(CHS−、−CO(CHS−、からなる群より選ばれる連結基を表し、ここでcは1ないし5、好ましくは2の整数であり、
は、メチルイミノ、メチルイミノメチル、メチルオキシ、メチルオキシメチル、メチルエステル及びメチルエステルメチルからなる群より選ばれる連結基を表し、
Rは、Rの総数nの少なくとも50%が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、
mは、20〜5,000の整数を表し、そして
nは、3〜1,000の整数を表す、
で表される、
化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
低分子抗酸化剤が、ビタミンE、レバミピド及びピペリンよりなる群から選ばれる請求項2記載の組成物。
【請求項4】
高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が高分子ミセルの形態をしており、かつ、低分子抗酸化剤が該高分子ミセル内に内包されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
有効成分としての低分子抗酸化剤と高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物、並びに製薬学的に許容されるキャリヤーもしくは希釈剤を含んでなる活性酸素もしくはラジカル
種の媒介または関与する疾患または障害を治療または予防するための製薬学的製剤。
【請求項6】
低分子抗酸化剤が、ビタミンE、β−カロテン、ユビキノン(コエンザイムQ)、ビリルビン、カテキン、レスベラトール、タンニン、エブセレン、アミノステロイド、プロブコール、ビタミンE類縁化合物、エイコサノイド代謝阻害薬、カテノロイド、レチノイド、レバミピド及びピペリンよりなる群から選ばれ、高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が、一般式(II)
【化2】

式中、Aは、非置換または置換C−C12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基または式RCH−の基を表し、ここで、R及びRは独立して、C−CアルコキシまたはRとRは一緒になって−OCHCHO−、−O(CHO−もしくは−O(CHO−を表し、
は、原子化結合、−(CHS−、−CO(CHS−、からなる群より選ばれる連結基を表し、ここでcは1ないし5、好ましくは2の整数であり、
は、メチルイミノ、メチルイミノメチル、メチルオキシ、メチルオキシメチル、メチルエステル及びメチルエステルメチルからなる群より選ばれる連結基を表し、
Rは、Rの総数nの少なくとも50%が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、
mは、20〜5,000の整数を表し、そして
nは、3〜1,000の整数を表す、
で表される、
化合物である、請求項4記載の製薬学的製剤。
【請求項7】
低分子抗酸化剤が、ビタミンE、レバミピド及びピペリンよりなる群から選ばれる請求項5記載の製薬学的製剤。
【請求項8】
高分子化環状ニトロキシドラジカル化合物が高分子ミセルの形態をしており、かつ、低分子抗酸化剤が該高分子ミセル内に内包されている、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製薬学的製剤。
【請求項9】
疾患または障害が、アルツハイマー病もしくはパーキンソン病、脳梗塞等の脳疾患、心筋梗塞などの虚血再灌流障害もしくはミトコンドリア障害(例えば、潰瘍性大腸炎)、癌もしくは加齢(紫外線照射による皮膚の老化、シワの形成)、インドメタシンのような非ステロイド性鎮痛解熱剤による細胞の機能低下等に起因する消化管障害や腎機能不全、ま
た炎症、高血圧、高脂血症、肥満動脈硬化等の医学的または皮膚科学的な疾患または障害からなる群から選ばれる請求項5〜8のいずれか一項に記載の製薬学的製剤。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−184429(P2011−184429A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133296(P2010−133296)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】