説明

低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法

【課題】X120グレードの高強度溶接鋼管の製造方法。
【解決手段】C:0.03〜0.12%、Si:≦0.5%、Mn:2.0〜3.0%、Al:0.01〜0.08%、Cu:≦0.8%、Ni:0.1〜1.0%、Cr:≦0.8%、Mo:≦0.8%、Nb:0.01〜0.08%、V:≦0.10%、Ti:0.005〜0.025%、B:0.001〜0.003%、Ca:≦0.01%、REM:≦0.02%、N:0.001〜0.006%を含有し、0.21≦Pcm≦0.30、残部Feおよび不可避的不純物の鋼を、950℃以下の温度域での累積圧下量≧70%の熱間圧延を行い、圧延終了後700℃以上で、20〜80℃/sの加速冷却を開始し、450〜650℃の温度域で冷却停止後直ちに600〜700℃に再加熱し、ベイナイト主体組織で、第2相として島状マルテンサイトが5〜20%の面積率の鋼板を管状に成形し、SAW溶接後、拡管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法に関し、特に素材の引張強度が900MPaを超え、降伏比80%以下且つ縦シーム溶接部の継手引張強度が950MPa以上を満足する高強度溶接鋼管の製造方法として好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,天然ガスや原油の輸送用として使用されるラインパイプは、高圧化による輸送効率の向上や薄肉化による現地溶接施工能率の向上のため、年々高強度化されている。
【0003】
これまでに、API規格でX100グレードのラインパイプが実用化されているが、さらに、引張強度900MPaを超えるX120グレードに対する要望が具体化されつつある。
【0004】
このような高強度ラインパイプ用溶接鋼管およびその素材となる高強度厚鋼板の製造方法に関し、例えば特許文献1においては、高価な合金元素添加量を削減しつつ、高強度・高靱性を得るための加速冷却および焼戻し条件に関する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、母材については特許文献1と同様に合金元素添加量を削減し、縦シーム溶接部の溶接金属では高強度・高靱性が得られる成分設計技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002―173710号公報
【特許文献2】特開2000―355729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、母材の合金元素量を低く抑えたまま加速冷却等の手段によって高強度化を進めた場合、溶接条件によっては縦シーム溶接の熱影響部(Heat Affected Zone、以降HAZ)の強度との乖離により、水圧試験のための実管試験で強度の低いHAZ部において破壊が生じる等溶接部における安全性が懸念され、高強度な母材に応じた適切な溶接条件の選定が新たに必要とされる。
【0007】
また、ラインパイプにおいては大地震や凍土地帯における地盤変動により大きく変形した際、亀裂発生を防止する高変形性能が要求され、低強度グレードの場合、ミクロ組織をフェライト(硬質相)+ベイナイト(軟質相)の複相組織とし、鋼の降伏比(降伏強度/引張強度×100%)を低くすることで対応できたが、X120グレードではミクロ組織中にフェライト(軟質相)を含有することは困難である。
【0008】
本発明は、低グレードのラインパイプ製造に用いた縦シーム溶接方法を大きく変えることなく,母材以上の継手強度を達成し、且つ母材の降伏比が十分低く変形性能に優れ、且つ溶接部靭性に優れたX120グレードの高強度溶接鋼管の製造方法を提供することを目的とする.
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を行い、以下の基本技術が有効なことを見出した。
【0010】
1)継手強度≧950MPaを達成するHAZ強度に必要な母材Pcm値の確保と、溶接性や靱性等への悪影響を除くための個々の合金元素添加量規制。
【0011】
図1に、母材のPcm=0.22である管厚14mmの鋼を内外面1層サブマージアーク溶接(内面側1層溶接後、外面側を1層溶接)を行った溶接鋼管の外面側の表層下約1mm位置におけるビッカース硬さの分布を示す。
【0012】
HAZにおいて、硬さの低下が認められ、最軟化となる位置は、母材部との境界に近い領域である。最軟化部のミクロ組織観察の結果、外面溶接によってオーステナイト化温度(Ac3点)直上に加熱された領域が最も軟化している。
【0013】
最軟化部の硬さを上昇させる成分設計を行うことにより、溶接時の加熱温度がより高い領域のHAZ硬さも上昇し、継手軟化が大幅に軽減される。
【0014】
また、溶接鋼管におけるHAZ最軟化部の硬さを母材部の約9割以上とするとHAZ軟化による継手強度の低下が生じないことも見いだした。
2)上記母材成分制約で高強度かつ低降伏比、高靱性に必要な島状マルテンサイトを含むベイナイト主体組織にするための熱間圧延・加速冷却・オンライン加熱条件の選定。
3)母材と溶接部の強度マッチングを適正なものにする高Mn-Cu-Ni-Cr-Mo添加系溶接金属の選定。
【0015】
本発明は上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち本発明は、
1 質量%で、
C:0.03〜0.12%
Si:≦0.5%
Mn:2.0〜3.0%
P≦0.010%、S≦0.002%
Al:0.01〜0.08%
Cu:≦0.8%
Ni:0.1〜1.0%
Cr:≦0.8%
Mo:≦0.8%
Nb:0.01〜0.08%
V:≦0.10%
Ti:0.005〜0.025%
B:0.001〜0.003%
Ca:≦0.01%
REM:≦0.02%
N:0.001〜0.006%
を含有し、
下記式(1)で計算されるPcm値が0.21≦Pcm≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、
1000〜1200℃に再加熱し、950℃以下の温度域での累積圧下量≧70%の熱間圧延を行い、圧延終了後700℃以上で、冷却速度20〜80℃/sの加速冷却を開始し、450〜650℃の温度域で冷却停止後直ちに600〜700℃に再加熱し、室温まで空冷して製造した鋼板を管状に成形し、その突合わせ部をサブマージアーク溶接して鋼管とした後、更に拡管を行う、その縦シームのサブマージアーク溶接金属の化学組成が、
質量%で、
C:0.05〜0.09%
Si:0.1〜0.4%
Mn:2.2〜3.5%
P:≦0.020%
S:≦0.010%
Al:≦0.015%
Cu:≦0.5%
Ni:≦2.0%
Cr:≦1.0%
Mo:≦1.0%
V:≦0.1%
Ti:0.003〜0.03%
B:≦0.0010%
O:≦0.03%
N:≦0.008%
残部Feおよび不可避的不純物であることを特徴とする低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。

Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5*B (1)

2 鋼板のミクロ組織がベイナイト主体組織であって、更に第2相として島状マルテンサイトが5〜20%の面積率で存在することを特徴とする、1記載の低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。
3 突合わせ部を、仮付溶接後、内外面1層でサブマージアーク溶接することを特徴とする1または2記載の低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低強度グレードの溶接鋼管の製造に用いられてきた溶接方法により、低降伏比で、溶接部の継手引張り強度に優れたX120グレード(引張強度900MPa以上)の高強度溶接鋼管の製造が可能で産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
1 素材鋼板
[成分組成]
C:0.03〜0.12%
Cは低温変態組織においては過飽和固溶することで強度上昇に寄与する。その効果を得るため、0.03%以上の添加が必要であるが、0.12%を超えて添加すると、パイプの円周溶接部の硬度上昇が著しく、耐低温割れ性が低下るため、上限を0.12%とする。
【0018】
Si:≦0.5%
Siは変態組織によらず固溶することにより強化するため、母材、HAZの強度上昇に有効である。しかし、0.5%を超えて添加すると靱性が著しく低下するため上限を0.5%とする。
【0019】
Mn:2.0〜3.0%
Mnは焼入性向上元素として作用する。更に、多量に添加することで、α相に固溶させるC量を低減させ、鋼をオーステナイト域から加速冷却でベイナイト変態させる際、未変態オーステナイト領域へのC濃化を大きくし、島状マルテンサイトの生成量を増加させることができる。
【0020】
後述のように、島状マルテンサイトの面積率を5%以上とするため、少なくとも2.0%を超える添加が必要である。一方、連続鋳造プロセスでは中心偏析部の濃度上昇が著しく、3.0%を超えて添加すると、偏析部で遅れ破壊を生じるため、上限を3.0%とする。
【0021】
Al:0.01〜0.08%
Alは脱酸元素として作用する。0.01%以上の添加で十分な脱酸効果が得られるが、0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靱性を劣化させるため、上限を0.08%とする。
【0022】
Cu:≦0.8%、Cr:≦0.8%、Mo:≦0.8%
Cu、Cr、Moはいずれも焼入性向上元素として作用する。これらはMnと同じように低温変態組織を得て母材・HAZの高強度化に寄与し、Mnを多量に添加することの代替として使用する。高価な元素であり、且つそれぞれ0.8%以上添加しても高強度化の効果は飽和するため、上限を0.8%とする。
【0023】
Ni:0.1〜1.0%
Niは焼入性向上元素として作用し、添加しても靱性劣化を起こさないため、有用な元素である。この効果を得るため、0.1%以上添加するが、高価な元素であり、上限を1.0%とする。
【0024】
Nb:0.01〜0.08%、V:≦0.10%
Nb、Vは炭化物を形成して2回以上の溶接熱サイクルを受けるHAZの焼戻し軟化防止に有効で、必要なHAZ強度を得るために添加する。
【0025】
またNbは、熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果もあり、特に950℃まで未再結晶領域とするためには0.01%以上の添加が必要である。一方、0.08%を超えて添加するとHAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.08%とする。
【0026】
Vは炭化物を形成し、特に2回以上の熱サイクルを受けるHAZにおける焼戻し軟化を防止するので添加する。0.10%を超えて添加すると,HAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.10%とする。
【0027】
Ti:0.005〜0.025%
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量を低減させ、析出したTiNがピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化を抑制し、母材、HAZの靱性向上に寄与する。必要なピンニング効果を得るためには0.005%以上を添加するが、0.025%を超えて添加すると炭化物を形成す、その析出硬化により靱性が著しく劣化するため、上限を0.025%とする。
【0028】
B:0.001〜0.003%
Bはオーステナイト粒界に偏析し、フェライト変態を抑制することで,特にHAZの強度低下防止に寄与する。この効果を得るために、0.001%以上の添加を必要とするが、0.003%を超えて添加してもその効果は飽和するため、上限を0.003%とする。
【0029】
Ca:≦0.01%
Caは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、靱性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、0.01%を超えて添加すると、CaO-CaSのクラスターを形成し、靱性を劣化させるので、上限を0.01%とする。
【0030】
REM:≦0.02%
REMは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、靱性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、高価な元素で、且つ0.02%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限を0.02%とする。
【0031】
N:0.001〜0.006%
Nは通常鋼中の不可避不純物として存在し、Ti添加により、オーステナイト粗大化を抑制するTiNを形成する。必要とするピンニング効果を得るためには0.001%以上鋼中に存在することが必要であるが、0.006%を超えると、溶接部、特に溶融線近傍で1450℃以上に加熱されたHAZでTiNが分解し、固溶Nが靭性を低下させるので上限を0.006%とする。
【0032】
0.21≦Pcm≦0.30
Pcm(=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5*B)は溶接割れ感受性組成であるが、本発明では継手強度≧950MPaを達成するため下限値を0.21とする。
【0033】
図2に、種々の実験鋼塊に最軟化HAZ硬さを再現するため、最高加熱温度をAc3点直上とした再現熱サイクルを付与し、ビッカース硬さを求め、Pcm値で整理した結果を示す。
【0034】
最軟化HAZ硬さは鋼のPcm値と相関し、継手引張強度950MPaを確保するビッカース硬さ270以上(950MPaのビッカース硬さ換算値300の9割)とするため、Pcmの下限値を0.21とする。
【0035】
一方、鋼のPcm値の増大は鋼管の円周溶接時に問題となる低温割れを助長させる.円周溶接を模擬したy形溶接割れ試験結果より、100℃予熱での低温割れ阻止に必要なPcmの上限は0.30であり、円周溶接部の低温割れを阻止するため、Pcmの上限は0.30とした。
【0036】
P:≦0.010%、S:≦0.002%
P、Sはいずれも鋼中に不可避的不純物として存在する.特に中心偏析部での偏析が著しい元素であり、母材の偏析部起因の靱性低下を抑制するためにそれぞれ上限を0.010%、0.002%とする。
【0037】
[製造方法]
加熱温度:1000〜1200℃
熱間圧延開始時に、鋼組織を完全にオーステナイト化するため、下限温度を1000℃とする。一方、1200℃を超える温度まで鋼片を加熱すると、TiNピンニングによってもオーステナイト粒成長が著しく、母材靱性が劣化するため上限温度を1200℃とする。
950℃以下での累積圧下量≧70%
熱間圧延では、オーステナイト未再結晶域である950℃以下において累積で圧下量を70%以上の大圧下を行う。
【0038】
オーステナイト粒を伸展させ、その後の加速冷却で変態生成するベイナイトの母相を微細化し、低降伏比を達成するために、第2相として島状マルテンサイトを分散させた場合に生じる靭性劣化を防止する。
【0039】
加速冷却の冷却開始温度≧700℃
熱間圧延後、加速冷却を開始する温度が低いと、空冷過程においてオーステナイト粒界から初析フェライトが生成し、母材強度を低下させるので、初析フェライト生成を抑制するための冷却開始の下限温度を700℃とする。
【0040】
加速冷却の冷却速度:20〜80℃/s
引張強度900MPa以上の高強度を達成するため、熱間圧延後の加速冷却によりミクロ組織をベイナイト主体の組織にする。冷却速度が20℃/s未満の場合、変態組織が比較的高温で変態するので、十分な強度を得ることができない。一方、80℃/sを超えた冷却速度の場合、冷却停止温度の制御が難しく、特に表面近傍でマルテンサイト変態が生じ、母材靱性が著しく低下するため、上限を80℃/sとする。
【0041】
加速冷却の冷却停止温度:450〜650℃
本発明では再加熱後に存在するCの濃縮した未変態オーステナイトをその後の空冷時に島状マルテンサイトに変態させるため、ベイナイト変態途中の未変態オーステナイトが存在する温度域で冷却を停止する。
【0042】
冷却停止温度が450℃未満では、ベイナイト変態が完了するため空冷時に島状マルテンサイトが生成せず低降伏比化が達成できない。一方、650℃を超えると冷却中に析出するパーライトにCが消費され島状マルテンサイトが生成しないため、上限を650℃とする。
【0043】
冷却停止後の再加熱温度:600〜700℃
加速冷却後ただちに再加熱し、未変態オーステナイトにCを濃縮させその後の空冷過程で島状マルテンサイトを生成させる。再加熱開始までの時間が長い場合、その間の温度低下によって未変態点オーステナイトが少なくなり、加熱後の空冷過程で生成する島状マルテンサイト量が少なくなるため、300秒以内で再加熱を行うことが望ましい(好ましくは100秒以内。)。
【0044】
再加熱温度が600℃未満では、十分にオーステナイトへのC濃化が起こらず、必要とする島状マルテンサイト面積率を確保することができない。
【0045】
一方、再加熱温度が750℃を超えると、加速冷却で変態させたベイナイトが再びオーステナイト化し十分な強度が得られないため、再加熱温度は700℃以下とする。再加熱温度において、温度保持時間を設定する必要はない。また、再加熱後の冷却過程では、冷却速度によらず島状マルテンサイトが生成するため特に規定しないが、空冷とすることが好ましい。
【0046】
尚、鋼の製鋼方法については特に限定しないが,経済性の観点から、転炉法による製鋼プロセスと,連続鋳造プロセスによる鋼片の鋳造を行うことが望ましい。
【0047】
上記方法で製造された鋼板の鋼管への成形方法は特に限定はなく、従来から用いられているUOE成形、プレスベンド成形、ロール成形のいずれも使用可能である。
【0048】
[鋼板のミクロ組織]
ミクロ組織はベイナイト主体組織とする.フェライト組織が混入すると、目標とする引張強度≧900MPaの達成は困難で、一方、マルテンサイト組織化すると強度は確保できるものの、靱性が低下する。
【0049】
更に、ベイナイト中第2相として、ベイナイトより硬い相として島状マルテンサイトを面積率5〜20%分散させ、低降伏比化する。低降伏比化のため、島状マルテンサイト面積率の下限を5%とし、一方、面積率が20%を超えた場合、母材靱性が著しく劣化するため、上限を20%とする。
【0050】
2 溶接金属
C:0.05〜0.09%
溶接金属においてもCは鋼の強化元素として重要な元素である。特に、継手部のオーバーマッチングを達成するため、溶接金属部において引張強度≧950MPaとする必要で、0.05%以上とする。
【0051】
一方、0.09%を超えると溶接金属の高温割れが発生しやすくなるため、上限を0.09%とする。
【0052】
Si:0.1〜0.4%
Siは溶接金属の脱酸ならびに良好な作業性を確保するために必要で、0.1%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、0.4%を超えると溶接作業性の劣化を引き起こすため、上限を0.4%とする。
Mn:2.2〜3.5%
Mnは溶接金属の高強度化に重要な元素である。特に、引張強度≧950MPaといった超高強度は、従来のアシキュラフェライト組織では達成できず、多量のMnを含有させベイナイト組織とすることで可能となる。
【0053】
この効果を得るためには2.2%以上含有させる必要があるが、3.5%を超えると溶接性が劣化するため、上限を3.5%とする。
【0054】
P:≦0.020%、S:≦0.010%
P、Sは溶接金属中では粒界に偏析しその靱性を劣化させるため、上限をそれぞれ0.020%、0.010%とする。
【0055】
Al:≦0.015%
Alは脱酸元素として作用するが、溶接金属においてはTiによる脱酸が靱性改善効果が大きい。また、Al酸化物系の介在物が多くなると溶接金属のシャルピー吸収エネルギーが低下するため積極的には添加せず、その上限を0.015%とする。
【0056】
Cu:≦0.5%、Ni:≦2.0%、Cr:≦1.0%、Mo:≦1.0%
母材と同様にCu、Ni、Cr、Moは溶接金属においても焼入性を向上させるので、ベイナイト組織とするために含有させる。
【0057】
但し、溶接ワイヤへの添加量が多くなるとワイヤ強度が著しく上昇し、サブマージアーク溶接時のワイヤ送給性に障害が生じるため、含有量の上限をCuは0.5%、Niは2.0%、Crは1.0%、Moは1.0%とする。
【0058】
V:≦0.1%
適量のV添加は靱性・溶接性を劣化させずに強度を高めることから有効な元素である。0.1%を超えると溶接金属の再熱部の靱性が著しく劣化するため、上限を0.1%とする。
【0059】
Ti:0.003〜0.03%
Tiは溶接金属中では脱酸元素として働き、溶接金属中の酸素の低減に有効である。この効果を得るためには0.003%以上の含有が必要であるが、0.03%を超えた場合、余剰となったTiが炭化物を形成し溶接金属の靱性を劣化させるため、上限を0.03%とする。
【0060】
B:≦0.0010%
Bは溶接金属をベイナイト組織とするため含有する。但し、溶接金属中のB量が0.0010%を超えると靱性の低いマルテンサイト組織が生成するため,上限を0.0010%とする。
【0061】
O:≦0.03%
溶接金属中の酸素量を低減すると靱性が改善する。特に0.03%以下とすることで著しく改善されるため、上限を0.03%とする。
【0062】
N:≦0.008%
溶接金属中の固溶N量を低減すると靱性が改善する。特に0.008%以下とすることで著しく改善されるため、上限を0.008%とする。
【0063】
本発明に係る継手強度向上技術は特に仮付溶接後、内面と外面を1層ずつサブマージアーク溶接する比較的入熱の高い溶接法において特に有効である。
【0064】
本発明ではサブマージアーク溶接に用いられるフラックスは特に制限はなく溶融型であっても焼成型であってもかまわない。また、溶接部の低温割れ防止の目的で、溶接前に予熱あるいは溶接後熱処理を行っても本願の効果は損なわれない。
【実施例】
【0065】
表1に示す化学組成の鋼を用い,表2に示す熱間圧延・加速冷却・焼戻し条件で鋼板1〜16を製造した.
【0066】
【表1】

【0067】

【0068】
【表2】

【0069】

得られた鋼板より、API-5Lに準拠した全厚引張試験片と、DWTT試験片、および板厚中央位置からJIS Z2202のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、鋼板の引張試験、DWTT試験およびシャルピー衝撃試験を実施して、強度と靱性を評価した。
【0070】
また、表3に示す溶接方法で、主として溶接ワイヤを種々変更して鋼板の突合わせ溶接を行い、溶接継手を作製した。得られた継手の溶接金属部より、分析試料を採取し化学分析を行った。分析結果を併せて表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】

また、API-5Lに準拠した継手引張試験片(余盛付)と、JIS Z2202のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、溶接継手の引張試験およびシャルピー衝撃試験(切欠き位置:溶接金属、HAZ)を実施して、溶接部の強度と靱性を評価した。
【0073】
更に、JIS Z 3158に準拠し、y形溶接割れ試験を実施した。試験環境は、気温30℃で湿度80%にコントロールした。この環境下に1時間放置した100kgf級高張力鋼用の手溶接棒を用い、予熱温度100℃とした試験体に試験ビードを溶接した。溶接割れ感受性は、試験ビードと直交する断面の観察結果で得られた断面割れ率で評価した。
【0074】
母材の強度・靱性調査結果、溶接継手部の強度・靱性調査結果、および溶接割れ感受性の評価結果をまとめて表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】

本発明の鋼板化学組成,、圧延条件および溶接金属組成範囲を満足するNo.1-1〜8は、 900MPaを超える母材強度、 950MPaを超える継手引張強度を満足し、且つ-30℃でのシャルピー衝撃試験において、母材部では150J以上、 溶接金属およびHAZでも100Jを超える高い靭性を示した。 また、 y型溶接割れ試験においても、 割れは観察されず優れた溶接性が得られている。
【0077】
一方、 溶接金属におけるMn値が本発明の下限を下回った比較例No.1-2は、 溶接金属部でアンダーマッチングとなった結果、 母材強度に満たない継手強度となった。 また、 溶接金属におけるB値が本発明の上限を上回った比較例No.5-2は、 母材強度、 継手強度とも高い値を示したが、 溶接金属のシャルピー吸収エネルギーが低下した。
【0078】
熱間圧延時の950℃以下での累積圧下量が本発明の下限を下回った比較例No.9は、 母材のシャルピー吸収エネルギーが低下した.。一方、 加速冷却の開始温度が本発明の下限を下回った比較例No.10では 鋼板ミクロ組織がフェライト主体で、 母材強度が900MPaを下回った。
【0079】
加速冷却の停止温度が本発明の下限を下回った比較例No.11は、 鋼板ミクロ組織において、 必要な島状マルテンサイト量が得られず、高YRとなったため、 母材のシャルピー吸収エネルギーが低下した.。
【0080】
また、 再加熱温度が本発明の下限を下回った比較例No.12は、 鋼板ミクロ組織に必要な島状マルテンサイト量が不足したため,、高YRとなり, -20℃のDWTT試験における延性破面率が75%を下回った。
【0081】
Mn添加量が本発明の下限を下回った比較例No.13は、 HAZ軟化が著しく、 継手強度が母材強度を下回った.。同じく、 B添加量が本発明の下限を下回った比較例No.14や鋼板のPcm値が本発明の下限を下回った比較例No.15においても、 HAZ軟化が生じた結果、 継手強度が母材強度を下回った.。
【0082】
また、 B添加量が本発明の下限を下回った比較例No.14は、 HAZのシャルピー吸収エネルギーも低下した.。一方、 鋼板のPcm値が本発明の上限を上回った比較例No.16は 高い母材強度、 継手強度を示したものの、HAZ硬さが硬く、 HAZシャルピー吸収エネルギーの低下、 およびy型溶接割れ試験での断面割れ率35%と、 溶接性が著しく劣る結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】内外面1層サブマージアーク溶接を行った溶接鋼管の外面側硬度分布を示す図。
【図2】再現熱サイクル試験で得られた最軟化HAZ硬さとPcm値の相関図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.12%
Si:≦0.5%
Mn:2.0〜3.0%
P≦0.010%、S≦0.002%
Al:0.01〜0.08%
Cu:≦0.8%
Ni:0.1〜1.0%
Cr:≦0.8%
Mo:≦0.8%
Nb:0.01〜0.08%
V:≦0.10%
Ti:0.005〜0.025%
B:0.001〜0.003%
Ca:≦0.01%
REM:≦0.02%
N:0.001〜0.006%
を含有し、
下記式(1)で計算されるPcm値が0.21≦Pcm≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、
1000〜1200℃に再加熱し、950℃以下の温度域での累積圧下量≧70%の熱間圧延を行い、圧延終了後700℃以上で、冷却速度20〜80℃/sの加速冷却を開始し、450〜650℃の温度域で冷却停止後直ちに600〜700℃に再加熱し、室温まで空冷して製造した鋼板を管状に成形し、その突合わせ部をサブマージアーク溶接して鋼管とした後、更に拡管を行う、その縦シームのサブマージアーク溶接金属の化学組成が、
質量%で、
C:0.05〜0.09%
Si:0.1〜0.4%
Mn:2.2〜3.5%
P:≦0.020%
S:≦0.010%
Al:≦0.015%
Cu:≦0.5%
Ni:≦2.0%
Cr:≦1.0%
Mo:≦1.0%
V:≦0.1%
Ti:0.003〜0.03%
B:≦0.0010%
O:≦0.03%
N:≦0.008%
残部Feおよび不可避的不純物であることを特徴とする低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法.

Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5*B (1)
【請求項2】
鋼板のミクロ組織がベイナイト主体組織であって、更に第2相として島状マルテンサイトが5〜20%の面積率で存在することを特徴とする、請求項1記載の低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。
【請求項3】
突合わせ部を、仮付溶接後、内外面1層でサブマージアーク溶接することを特徴とする請求項1または2記載の低降伏比且つ溶接部靭性に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−233263(P2006−233263A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48482(P2005−48482)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】