作業車両におけるエンジンの支持構造
【課題】エンジン9の振動量を規制するストッパー片79、80を、エンジンマウント作業より後に装着でき、且つその構成も簡単となるようにした。
【解決手段】走行機体1の前部に搭載されたエンジン9の後部にラジエータフアン51を、その後位置にシュラウド52付きのラジエータ50を搭載する。エンジン9の左右両側壁に、エンジンのクランク軸に沿って長手に形成されたエンジン側ブラケット60、61を予め固定する。左右の前部機体側ブラケット68a,68bに第2防振ゴム64a,64bを固定し、後部機体側ブラケット75、76に第1防振ゴム63a,63bを固定する。各エンジン側ブラケット60、61の長手両端部に、第1防振ゴム63a,63b及び第2防振ゴム64a,64bを取付けた後、後部機体側ブラケット75、76にストッパー片79、80をボルト止めする。
【解決手段】走行機体1の前部に搭載されたエンジン9の後部にラジエータフアン51を、その後位置にシュラウド52付きのラジエータ50を搭載する。エンジン9の左右両側壁に、エンジンのクランク軸に沿って長手に形成されたエンジン側ブラケット60、61を予め固定する。左右の前部機体側ブラケット68a,68bに第2防振ゴム64a,64bを固定し、後部機体側ブラケット75、76に第1防振ゴム63a,63bを固定する。各エンジン側ブラケット60、61の長手両端部に、第1防振ゴム63a,63b及び第2防振ゴム64a,64bを取付けた後、後部機体側ブラケット75、76にストッパー片79、80をボルト止めする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面に植立した芝草を刈取るためのモア装置を備えた芝刈機等の作業車両に係り、より詳しくは、走行機体の前部に搭載したエンジンの振動にて、当該エンジンに取付けられて回転駆動するラジエータフアンがラジエータのシュラウドに干渉しないようにするためのエンジンの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、作業車両の走行機体にはエンジン、ラジエータなどが搭載され、エンジンは防振ゴムを介して走行機体に支持されることにより、エンジンの振動が走行機体に伝わるのを少なくしようとしている。
【0003】
エンジンの振動振幅を一定以下に抑えるため、エンジンマウントにストッパー金具が組み付けられたもの(特許文献1)や、別途のストッパー機構をエンジンと走行機体との間に装着すること(特許文献2)が知られている。
【0004】
特許文献1では、防振ゴム装置におけるゴム弾性部材の上部取付金具の上側に上部取付ボルトを突設すると共に、断面下向きコ字状のストッパー金具の中央部の孔に上記上部取付ボルトを貫通させて上部取付金具の上面にストッパー金具を被嵌させる一方、ゴム弾性部材の下部取付金具の両端をゴム弾性部材の外周側で上向きに屈曲させて、ストッパー金具の両端の受け止め部に対向させた構成である。
【0005】
特許文献2では、エンジンの前端側に冷却フアンが取付けされ、その前側にラジエータが配置され、エンジンの後端側にフライホイールケースが固定され、エンジンの下部前側寄りの左右両側を支持する一対の前部防振ゴム装置と、エンジンの後部の左右中央下部を1つの後部防振ゴム装置の合計3つでエンジンを支持している。そして、エンジンの後部のローリングストッパー機構の1実施形態は、エンジンのフライホイールケースの側方に固定された上下長手の回動プレートと、この回動プレートの上端を外向き水平状に屈曲させた屈曲部の上面及び下面と適宜隙間を隔てて対向するように配置する緩衝ゴムとからなり、この上下一対の緩衝ゴムが車体フレームから立設した規制プレートに取付けられた構成であり、他の実施形態では、フライホイールケースの側方に固定された上下長手の回動プレートの下端を外向き水平状に屈曲させた屈曲部に形成し、車体フレーム側には、断面逆L字状の規制プレートを固定し、規制プレートにおける水平屈曲部を前記回動プレートの屈曲部の上側に臨ませた構成である。
【0006】
さらに、特許文献2では、上記前部防振ゴム装置をエンジンの左右側壁に支持するためのエンジン支持フレームに支持された各前部防振ゴム装置の上端面と適宜隙間を隔てて水平突出させた上ストッパー部材と、上記エンジン支持フレームの前端にて上下長手の背面板の下端縁に対して適宜隙間を隔てるように配置された下ストッパー部材とが、車体フレームから立設されているものである。
【特許文献1】特開平8−14328号公報
【特許文献2】特開2000−313238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、ストッパー金具の構成が簡単であるけれども、防振ゴム装置の車体側取付部とエンジン側取付部とを結ぶ線に対する防振ゴムの伸縮方向にはストッパー機能が働かないという問題があった。
【0008】
他方、上記特許文献2の構成では、上記規制プレートや上下ストッパー部材は、エンジンを搭載する前の車体フレーム側に予め溶接などにて固定しておかなければならず、上記防振ゴムを装着した車体フレームにエンジンを搭載する際にこのエンジンの側面の回動プレートやエンジン支持フレームと上記規制プレートや上下ストッパー部材とのわずかの隙間をぬうように配置する必要から、エンジンマウント作業に手間取るという問題があった。また、エンジンのローリング方向及びピッチング方向の振動を規制するために多数の箇所で規制しなければならず、部品点数も多くなるという問題もあった。
【0009】
本発明は、エンジンのローリング振動及びピッチング振動による振動量を規制するストッパー手段を、エンジンマウント作業より後に装着でき、且つその構成も簡単となるようにした、エンジンの支持構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明の作業車両におけるエンジンの支持構造は、エンジンと、前記エンジンによって駆動されるラジエータフアンと、このラジエータフアンによって冷却されるラジエータとが、走行機体に搭載された作業車両において、前記走行機体に、前記ラジエータとシュラウドとが固定される一方、前記エンジンに装備されたラジエータフアンを前記シュラウドにおける開口部に位置させ、エンジンにおける前記ラジエータフアンに近い側に位置する左右一対の第1防振ゴムと遠い側に位置する左右一対の第2防振ゴムとを介して前記エンジンを前記走行機体に弾性的に支持させ、前記走行機体の機体フレーム側に取付される機体側ブラケットと、前記エンジン側に取付されるエンジン側ブラケットとの間に前記各第1防振ゴムが介挿され、前記各第1防振ゴムにおける前記機体側ブラケットまたは前記エンジン側ブラケットのうちいずれか一方には、他方に対峙して、前記エンジンの振動量を規制するためのストッパー片を固着したものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造において、前記ストッパー片は第1防振ゴムにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造において、前記左右いずれか一方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制する位置に配置され、前記他方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制する位置に配置されているものである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の作業車両におけるエンジンの支持構造において、前記エンジンの左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケットはエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、前記各エンジン側ブラケットの長手両端部に、前記第1防振ゴム及び第2防振ゴムを取付けるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、2つのストッパー手段であるストッパー片により、エンジン後部の左右両側に配置された第1防振ゴムの振動量、ひいては、駆動時のエンジン後部の振動量が所定値に規制されるので、エンジン後部のラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を必要以上に大きく設定することを要しないから、ラジエータフアンによるラジエータへの送風効率を向上させることができる。
【0015】
請求項1及び2に係る発明によれば、前記ストッパー片は第1防振ゴムにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたものであるから、前記ストッパー片を後付けすることができ、前記走行機体に対するエンジンの組み付け作業性を簡単に向上できるものである。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、ストッパー片により、駆動時のエンジン後部のローリング方向の振動量及びピッチング方向の振動量が所定値に規制されるので、エンジン後部のラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を必要以上に大きく設定することを要しない、換言すると、ラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を小さく設定していても、エンジンの駆動により、ラジエータフアンがシュラウドの開口部と干渉しないのである。そして、ストッパー片をエンジンの後部とラジエータとの近接した位置に設ければ、上記の請求項1〜2の作用効果が著しくなる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、前記エンジンの左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケットはエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、前記各エンジン側ブラケットの長手両端部に、前記第1防振ゴム及び第2防振ゴムを取付けるものであるから、エンジン側ブラケットの取付作業、及び前記第1及び第2防振ゴムに対する取付位置の誤差が少なくなり、前記エンジンの組立作業性を一層簡単にできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1は芝刈機の全体の側面図、図2は同平面図、図3は走行機体の前部を示す側面図、図4は同平面図、図5は走行機体の前部から見たエンジン搭載部の正面図、図6はエンジンの後部に位置するラジエータ側から見た背面図、図7はエンジンの支持手段の平面図、図8はエンジン後部の右側の第1防振ゴムの支持部及びストッパー片を示す拡大平面図、図9は図7のIX−IX線矢視拡大断面図、図10は図8のX−X線矢視拡大断面図、図11は図7のXI−XI線矢視図である。
【0019】
はじめに図1及び図2を参照しながら、芝刈機の概要について説明する。この実施形態の芝刈機においては、走行機体1は、複数の横桟フレーム2を介して一体的に連結された左右の機体フレーム3,4を備えている。当該機体フレーム3,4は、その左右両側の前後に配置した左右の前車輪5及び左右の後車輪6によって支持されている。
【0020】
走行機体1の上面前部を覆うフロントカウル7の上側のボンネット8には、動力源としてのエンジン9が内蔵されている。ボンネット8の後部の上方側には、丸形の操向ハンドル10を有する操縦コラム部11が搭載されている。操縦コラム部11の進行方向に向かって右側の下方には、車速を適宜調節するための変速ペダル12と、走行機体1を制動操作するためのブレーキペダル13とが配置されている。
【0021】
走行機体1の上面後部を覆うリヤカウル14上には運転座席15が設けられている。この運転座席15に座ったオペレータが操向ハンドル10を回動操作することにより、その操作量(回動量)に応じて左右の前車輪5の舵取り角(操向角度)が変わるように構成されている。運転座席15の左側には、後述するモア装置16を昇降操作するためのモア昇降レバー17が前後回動可能に設けられている。運転座席10の右側には、モア装置16を駆動または停止操作するためのPTOクラッチレバー18が前後回動可能に設けられている。
【0022】
リヤカウル12内には、静油圧式無段変速機(HST式)等を有するミッションケース19が配置されている。機体フレーム3,4の後部に前低後高形の傾斜部を形成し、機体フレーム3,4の傾斜部の前後幅の中間部にミッションケース19を支持している。ミッションケース19は、エンジン9からの動力をミッションケース19によって適宜変速して左右の後車輪6に伝達するように構成されている。機体フレーム3,4の傾斜部の後端部に、エンジン9に燃料を供給する燃料タンク20を搭載している。右機体フレーム4の傾斜部の外側に、ミッションケース19の静油圧式無段変速機100等に作動油を供給するオイルタンク21を搭載している。オイルタンク21と反対側で、燃料タンク20を挟むように、左機体フレーム3の傾斜部の外側に、エンジン9の始動等に用いるバッテリ22を搭載している。
【0023】
機体フレーム2の下面のうち左右両前車輪5と左右両後車輪6との間には、芝刈り用のモア装置16が前後のリンク杆23,24を介して昇降動可能に装着されている。モア装置15は、下向き開口椀状のモアケース25内に、水平回転可能な左右一対のロータリ刈刃(図示省略)を備えている。また、モアケース25の左右両側の前後には、下降時にモア装置16の高さを調節する4つの前後のゲージ車輪26,27が取付けられている。モアケース25の上面には、後向きに開口したダクト部28が設けられている。
【0024】
ダクト部28は、機体フレーム3,4の下面のうち左右両後車輪6の間に配置した排出ダクト29を介して走行機体1の後部に配置した集草ボックス30に連通している。集草ボックス30は、網状シートを四角箱形に張設して形成し、集草ボックス30の上面を防塵カバー31によって覆っている。モアケース25内のロータリ刈刃によって刈取られた芝草は、そのロータリ刈刃の起風によってダクト部28から排出ダクト29を介して集草ボックス30の内部に搬送され、モア装置16で刈取られた芝草が集草ボックス30に収集されるように構成している。
【0025】
次に、図1及び図2を参照しながら、芝刈機の動力伝達系統について説明する。この実施形態の芝刈機では、エンジン9の回転動力の一部を左右両後車輪6に配分する二輪駆動方式が採用されている。
【0026】
すなわち、エンジン9の回転動力の一部は、当該エンジン9から前後外向きに突出する出力軸32の後端部から、前後両端に自在継手を備えた推進軸33と、ミッションケース19よりも前方の部位に配置した走行用伝動中継ケース34と、後述する無端入力ベルト35とを介して、ミッションケース19に伝達される。そして、このミッションケース9に左右外向きに突設した水平な後輪駆動軸36から、無端後輪駆動チェン37及びスプロケット38(一方のスプロケットの符号省略)を介して走行機体1の後ろ寄り部位に設けた左右長手の車軸に伝達される。その結果、車軸の左右両端に取付けた後車輪6が回転駆動されることになる。
【0027】
他方、エンジン9の他の回転動力は、出力軸32の前端部から、PTO動力伝達用の無端PTO伝動ベルト41を介して、機体フレーム4の前部に軸支したPTO軸42に伝達される。次いで、このPTO軸42から、前後両端に自在継手を備えた中間軸43を介して、モアケース25の上面のうち機体フレーム4よりも右側の部位に配置したモア用ギヤボックス44に動力伝達される。その結果、モアケース25内の左ロータリ刈刃(図示省略)は平面視で時計方向に回転駆動し、右ロータリ刈刃(図示省略)は平面視で反時計方向に回転駆動し、左右ロータリ刈刃によって芝草を刈取りながら、刈取った芝草をモアケース25の左右幅の中央に集めてダクト部28から排出ダクト29に放出することになる。
【0028】
次に、図3〜図10を参照しながら、エンジン9の支持構造等について説明する。ボンネット8内には、エンジン9と操向ハンドル10のステアリングポスト10aとの前後の空間内に、シュラウド52が前面に取り付けられたラジエータ50と、エンジン9の後面に取付けられたラジエータフアン51とが配置されている。
【0029】
ラジエータ50の下端は、左右の機体フレーム3、4の中途の上面に突設したブラケットフレーム53、53にグロメット状防振ゴム54及びボルト・ナット等にて弾性的に支持されている(図3、図4及び図6参照)。ラジエータ50の上端は、左右の機体フレーム3、4の前端部から立設してボッネット8内で後向きに延びる補強ステー55の後端部と、ステアリングポスト10aのブラケット10bとに連結されている(図3参照)。
【0030】
エンジン9の後面に軸受を介して回転可能に装備されたラジエータフアン51は、補助出力軸9aとの間でプーリ56a,56b及びVベルト57を介して回転駆動される。ラジエータフアン51の軸方向の略半分はシュラウド52の円形開口部52aから内部に位置している(図4参照)。
【0031】
エンジン9に装備されたラジエータフアン51をシュラウド52における開口部52a内に位置させる。エンジン9におけるラジエータフアン51に近い側に位置する左右一対の第1防振ゴム63a,63bと遠い側に位置する左右一対の第2防振ゴム64a,64bとを介してエンジン9を走行機体1に弾性的に支持させる。
【0032】
上記の構成をさらに詳述すると、エンジン9の下部側の左右両側壁には、走行機体1の前後方向に長手(クランク軸(図示せず)に沿って長手)のエンジン側ブラケット60、61を複数のボルト62にて固定する。そして、走行機体1の前進方向を向いて左側のエンジン側ブラケット60は、前後に直線的に長い平板状の縦板部60aと、この縦板部60aの前端下部にて外上向きに屈曲させた前取付け板65と、縦板部60aと前取付け板65の後端部とを溶接して固定する補強リブ板65aと、縦板部60aの後端上部にて外上向きに屈曲させた後取付け板66と、この後取付け板66の下面側と縦板部60aの前後中途部とに溶接して固定連結する平面視コ字状の補強リブ67とを備える(図7〜図11参照)。
【0033】
走行機体1の前進方向を向いて右側のエンジン側ブラケット61は、前後に長い平板状の縦板部61aと、この縦板部60aの前端下部にて外上向きに屈曲させた前取付け板71と、縦板部61aと前取付け板71の後端部とを溶接して固定する補強リブ板71aと、縦板部60aの後端の上下中途部にて溶接して外上向きに突設させた後取付け板72と、この後取付け板72の上面側と縦板部61aの前後中途部とに溶接して固定連結する平面視コ字状の補強リブ73とを備える(図5〜図8参照)。
【0034】
他方、上記第2防止ゴム64a,64bを弾性的に支持するため、左右機体フレーム3、4側に取付される前機体側ブラケット68は、図5に示すように、左右機体フレーム3、4に溶接等にて固定された横梁状であって、その傾斜部68a,68bには、紡錘型の第2防止ゴム64a,64bに挿通された取付けボルト69の下端部を挿通させてナット70にて締着している。
【0035】
なお、第2防止ゴム64a,64bは図示しない内筒の外周に截頭円錐形状のゴム弾性体が加硫接着され、その大径部の外周を外筒に加硫接着したもので、2つのゴム弾性体の外筒側を上下に隣接させて紡錘型にし、上記外筒が前取付け板65、71に穿設された挿通孔(図示せず)の箇所に位置し、上下両外筒を挟持金具74を介して前取付け板65、71にボルト・ナットなどにて固定するものである。
【0036】
上記第1防振ゴム63a,63bを弾性的に支持するための、断面逆L字状の後機体側ブラケット75、76はそれぞれ左右機体フレーム3、4側に溶接などにて取付される。なお、左機体フレーム3側では、その上面より高い位置に配置するため、左機体フレーム3から立設する複数のパイプ77にて補強されている。
【0037】
従って、エンジン9の左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケット60、61はエンジン9のクランク軸に沿って長手に形成され、各エンジン側ブラケット60、61の長手両端部の取付け板(66、72、65、71)と、機体側ブラケット75,76,68a,68bとの間に第1防振ゴム63a,63b及び第2防振ゴム64a,64bがそれぞれ取付けられる(介挿される)ことになる。そして、エンジン9の前部及び後部の左右両側を支持するための第2防振ゴム64a,64b及び第1防振ゴム63a,63bの取付けボルト69、78の軸線が上に行くにしたがって走行機体1の左右中央に近づくように傾斜している(図5、図6 及び図9参照)。
【0038】
さらに、第1防振ゴム63a,63bにより弾性的に支持されるエンジン9の後部側の振動量を規制するためのストッパー手段としてのストッパー片79、80が、エンジン側ブラケット60、61に固定された場合には、この各ストッパー片79、80の屈曲した規制部79a,80aが機体側ブラケット75、76の下面側と適宜の隙間H1,H2だけ隔てて配置されることにより、もしくは、逆にストッパー片79、80が機体側ブラケット75、76に固定された場合には、図示しないが各ストッパー片79、80の上端の屈曲した規制部がエンジン側ブラケット60、61の上面側と適宜の隙間だけ隔てて配置されることにより、エンジン9の主としてクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制したり、エンジン9の主としてクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制することができる。
【0039】
図9に示す実施形態では、第1防振ゴム63a,63bはそれぞれ、締着用のボルトが突設された上下のフランジ82、82に弾性ゴム体81が加硫接着されたものである。そして、走行機体1の前進方向を向いて左側の第1防振ゴム63aの弾性ゴム体81の外周の近傍であって、エンジン側ブラケット60を挟んでエンジン9と反対側(外側)にてストッパー片79をエンジン側ブラケット60に固着された補強リブ67の外面にボルト83にて固定する。そして、ストッパー片79の下端の規制部79aを後機体側ブラケット75の外向き自由端片75aと対向し、且つその下面側で隙間H1を有するように配置したので、主としてエンジン9のクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制することができる(図9参照)。
【0040】
他方、走行機体1の前進方向を向いて右側の第1防振ゴム63bの弾性ゴム体81の外周の近傍であって、エンジン側ブラケット60の後端を覆う補強リブ73の後板73a(平面視でラジエータ50の前面との間、図8参照)にスペーサ84を介してストッパー片80をボルト85にて固定する。そして、ストッパー片80の下端の屈曲した規制部80aを右後機体側ブラケット76の縦板部の下端縁の下方に隙間H2を有するように配置したので(図9及び図10参照)、このストッパー片80は、主としてエンジン9のクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制する機能を有する。
【0041】
上記実施形態では、エンジン側ブラケット60、61に各ストッパー片79、80をボルト・ナットで固定したが、逆に機体側ブラケット75、76に各ストッパー片79、80をボルト・ナットで固定しても良い。
【0042】
上記の2つのストッパー手段であるストッパー片79、80により、駆動時のエンジン9後部のローリング方向の振動量及びピッチング方向の振動量が所定値に規制されるので、エンジン9後部のラジエータフアン51の外周とシュラウド52の開口部52aとの隙間を必要以上に大きく設定することを要しないから、ラジエータフアン51によるラジエータへの送風効率を向上させることができる。換言すると、ラジエータフアン51の外周とシュラウド52の開口部52aとの隙間を小さく設定していても、エンジン9の駆動により、ラジエータフアン51がシュラウド52の開口部52aと干渉しないのである。また、上記の2つのストッパー手段であるストッパー片79、80はエンジン9の後部とラジエータ50との近接した位置に設けられているので、上記の作用効果が著しい。
【0043】
しかも、各ストッパー片79、80は小型部品であり、且つ、機体フレーム3、4側に予め装着した第1防振ゴム63a,63bに、エンジンマウントとしてのエンジン側ブラケット60、61を予め固定したエンジン9を搭載して固定した後に、各ストッパー片79、80を外側から装着固定すれば良いから、エンジン9の組み付け作業が至極簡単にできるという顕著な効果を奏する。
【0044】
ストッパー片79、80は第1防振ゴム63a,63bにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたものであるから、各ストッパー片79、80をエンジン側ブラケット60、61または機体側ブラケット75、76に対して後付けすることができ、走行機体に対するエンジン9の組み付け作業性を簡単に向上できるものである。
【0045】
ストッパー片により、駆動時のエンジン後部のローリング方向の振動量及びピッチング方向の振動量が所定値に規制されるので、エンジン後部のラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を必要以上に大きく設定することを要しない、換言すると、ラジエータフアン51の外周とシュラウド52の開口部52aとの隙間を小さく設定していても、エンジン9の駆動により、ラジエータフアン51がシュラウド52の開口部と干渉しないのである。そして、ストッパー片79、80をエンジンの後部とラジエータ50との近接した位置に設ければ、上記の作用効果が著しくなる。
【0046】
エンジン9の左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケット60、61はエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、各エンジン側ブラケット60、61の長手両端部に、前記第1防振ゴム63a,63b及び第2防振ゴム64a,64bを取付けるものであるから、エンジン側ブラケットの取付作業、及び前記第1及び第2防振ゴムに対する取付位置の誤差が少なくなり、エンジン9の組立作業性を一層簡単にできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】芝刈機の全体側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】走行機体の前部を示す側面図である。
【図4】同平面図である。
【図5】走行機体の前部から見たエンジン搭載部の正面図である。
【図6】エンジンの後部に位置するラジエータ側から見た背面図である。
【図7】エンジンの支持手段の平面図である。
【図8】エンジン後部の右側の第1防振ゴムの支持部及びストッパー片を示す拡大平面図である。
【図9】図7のIX−IX線矢視拡大断面図である。
【図10】図8のX−X線矢視拡大断面図である。
【図11】図7のXI−XI線矢視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 走行機体
2a 横桟フレーム(支持フレーム)
3,4 機体フレーム
5 前車輪(走行部)
6 後車輪(走行部)
9 エンジン
16 モア装置(草刈部)
50 ラジエータ
51 ラジエータフアン
52 シュラウド
60 左エンジン側ブラケット
61 右エンジン側ブラケット
63a,63b 第1防振ゴム
64a,64b 第2防振ゴム
75、76 機体側ブラケット
79、80 ストッパー片
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面に植立した芝草を刈取るためのモア装置を備えた芝刈機等の作業車両に係り、より詳しくは、走行機体の前部に搭載したエンジンの振動にて、当該エンジンに取付けられて回転駆動するラジエータフアンがラジエータのシュラウドに干渉しないようにするためのエンジンの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、作業車両の走行機体にはエンジン、ラジエータなどが搭載され、エンジンは防振ゴムを介して走行機体に支持されることにより、エンジンの振動が走行機体に伝わるのを少なくしようとしている。
【0003】
エンジンの振動振幅を一定以下に抑えるため、エンジンマウントにストッパー金具が組み付けられたもの(特許文献1)や、別途のストッパー機構をエンジンと走行機体との間に装着すること(特許文献2)が知られている。
【0004】
特許文献1では、防振ゴム装置におけるゴム弾性部材の上部取付金具の上側に上部取付ボルトを突設すると共に、断面下向きコ字状のストッパー金具の中央部の孔に上記上部取付ボルトを貫通させて上部取付金具の上面にストッパー金具を被嵌させる一方、ゴム弾性部材の下部取付金具の両端をゴム弾性部材の外周側で上向きに屈曲させて、ストッパー金具の両端の受け止め部に対向させた構成である。
【0005】
特許文献2では、エンジンの前端側に冷却フアンが取付けされ、その前側にラジエータが配置され、エンジンの後端側にフライホイールケースが固定され、エンジンの下部前側寄りの左右両側を支持する一対の前部防振ゴム装置と、エンジンの後部の左右中央下部を1つの後部防振ゴム装置の合計3つでエンジンを支持している。そして、エンジンの後部のローリングストッパー機構の1実施形態は、エンジンのフライホイールケースの側方に固定された上下長手の回動プレートと、この回動プレートの上端を外向き水平状に屈曲させた屈曲部の上面及び下面と適宜隙間を隔てて対向するように配置する緩衝ゴムとからなり、この上下一対の緩衝ゴムが車体フレームから立設した規制プレートに取付けられた構成であり、他の実施形態では、フライホイールケースの側方に固定された上下長手の回動プレートの下端を外向き水平状に屈曲させた屈曲部に形成し、車体フレーム側には、断面逆L字状の規制プレートを固定し、規制プレートにおける水平屈曲部を前記回動プレートの屈曲部の上側に臨ませた構成である。
【0006】
さらに、特許文献2では、上記前部防振ゴム装置をエンジンの左右側壁に支持するためのエンジン支持フレームに支持された各前部防振ゴム装置の上端面と適宜隙間を隔てて水平突出させた上ストッパー部材と、上記エンジン支持フレームの前端にて上下長手の背面板の下端縁に対して適宜隙間を隔てるように配置された下ストッパー部材とが、車体フレームから立設されているものである。
【特許文献1】特開平8−14328号公報
【特許文献2】特開2000−313238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、ストッパー金具の構成が簡単であるけれども、防振ゴム装置の車体側取付部とエンジン側取付部とを結ぶ線に対する防振ゴムの伸縮方向にはストッパー機能が働かないという問題があった。
【0008】
他方、上記特許文献2の構成では、上記規制プレートや上下ストッパー部材は、エンジンを搭載する前の車体フレーム側に予め溶接などにて固定しておかなければならず、上記防振ゴムを装着した車体フレームにエンジンを搭載する際にこのエンジンの側面の回動プレートやエンジン支持フレームと上記規制プレートや上下ストッパー部材とのわずかの隙間をぬうように配置する必要から、エンジンマウント作業に手間取るという問題があった。また、エンジンのローリング方向及びピッチング方向の振動を規制するために多数の箇所で規制しなければならず、部品点数も多くなるという問題もあった。
【0009】
本発明は、エンジンのローリング振動及びピッチング振動による振動量を規制するストッパー手段を、エンジンマウント作業より後に装着でき、且つその構成も簡単となるようにした、エンジンの支持構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明の作業車両におけるエンジンの支持構造は、エンジンと、前記エンジンによって駆動されるラジエータフアンと、このラジエータフアンによって冷却されるラジエータとが、走行機体に搭載された作業車両において、前記走行機体に、前記ラジエータとシュラウドとが固定される一方、前記エンジンに装備されたラジエータフアンを前記シュラウドにおける開口部に位置させ、エンジンにおける前記ラジエータフアンに近い側に位置する左右一対の第1防振ゴムと遠い側に位置する左右一対の第2防振ゴムとを介して前記エンジンを前記走行機体に弾性的に支持させ、前記走行機体の機体フレーム側に取付される機体側ブラケットと、前記エンジン側に取付されるエンジン側ブラケットとの間に前記各第1防振ゴムが介挿され、前記各第1防振ゴムにおける前記機体側ブラケットまたは前記エンジン側ブラケットのうちいずれか一方には、他方に対峙して、前記エンジンの振動量を規制するためのストッパー片を固着したものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造において、前記ストッパー片は第1防振ゴムにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造において、前記左右いずれか一方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制する位置に配置され、前記他方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制する位置に配置されているものである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の作業車両におけるエンジンの支持構造において、前記エンジンの左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケットはエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、前記各エンジン側ブラケットの長手両端部に、前記第1防振ゴム及び第2防振ゴムを取付けるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、2つのストッパー手段であるストッパー片により、エンジン後部の左右両側に配置された第1防振ゴムの振動量、ひいては、駆動時のエンジン後部の振動量が所定値に規制されるので、エンジン後部のラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を必要以上に大きく設定することを要しないから、ラジエータフアンによるラジエータへの送風効率を向上させることができる。
【0015】
請求項1及び2に係る発明によれば、前記ストッパー片は第1防振ゴムにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたものであるから、前記ストッパー片を後付けすることができ、前記走行機体に対するエンジンの組み付け作業性を簡単に向上できるものである。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、ストッパー片により、駆動時のエンジン後部のローリング方向の振動量及びピッチング方向の振動量が所定値に規制されるので、エンジン後部のラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を必要以上に大きく設定することを要しない、換言すると、ラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を小さく設定していても、エンジンの駆動により、ラジエータフアンがシュラウドの開口部と干渉しないのである。そして、ストッパー片をエンジンの後部とラジエータとの近接した位置に設ければ、上記の請求項1〜2の作用効果が著しくなる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、前記エンジンの左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケットはエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、前記各エンジン側ブラケットの長手両端部に、前記第1防振ゴム及び第2防振ゴムを取付けるものであるから、エンジン側ブラケットの取付作業、及び前記第1及び第2防振ゴムに対する取付位置の誤差が少なくなり、前記エンジンの組立作業性を一層簡単にできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1は芝刈機の全体の側面図、図2は同平面図、図3は走行機体の前部を示す側面図、図4は同平面図、図5は走行機体の前部から見たエンジン搭載部の正面図、図6はエンジンの後部に位置するラジエータ側から見た背面図、図7はエンジンの支持手段の平面図、図8はエンジン後部の右側の第1防振ゴムの支持部及びストッパー片を示す拡大平面図、図9は図7のIX−IX線矢視拡大断面図、図10は図8のX−X線矢視拡大断面図、図11は図7のXI−XI線矢視図である。
【0019】
はじめに図1及び図2を参照しながら、芝刈機の概要について説明する。この実施形態の芝刈機においては、走行機体1は、複数の横桟フレーム2を介して一体的に連結された左右の機体フレーム3,4を備えている。当該機体フレーム3,4は、その左右両側の前後に配置した左右の前車輪5及び左右の後車輪6によって支持されている。
【0020】
走行機体1の上面前部を覆うフロントカウル7の上側のボンネット8には、動力源としてのエンジン9が内蔵されている。ボンネット8の後部の上方側には、丸形の操向ハンドル10を有する操縦コラム部11が搭載されている。操縦コラム部11の進行方向に向かって右側の下方には、車速を適宜調節するための変速ペダル12と、走行機体1を制動操作するためのブレーキペダル13とが配置されている。
【0021】
走行機体1の上面後部を覆うリヤカウル14上には運転座席15が設けられている。この運転座席15に座ったオペレータが操向ハンドル10を回動操作することにより、その操作量(回動量)に応じて左右の前車輪5の舵取り角(操向角度)が変わるように構成されている。運転座席15の左側には、後述するモア装置16を昇降操作するためのモア昇降レバー17が前後回動可能に設けられている。運転座席10の右側には、モア装置16を駆動または停止操作するためのPTOクラッチレバー18が前後回動可能に設けられている。
【0022】
リヤカウル12内には、静油圧式無段変速機(HST式)等を有するミッションケース19が配置されている。機体フレーム3,4の後部に前低後高形の傾斜部を形成し、機体フレーム3,4の傾斜部の前後幅の中間部にミッションケース19を支持している。ミッションケース19は、エンジン9からの動力をミッションケース19によって適宜変速して左右の後車輪6に伝達するように構成されている。機体フレーム3,4の傾斜部の後端部に、エンジン9に燃料を供給する燃料タンク20を搭載している。右機体フレーム4の傾斜部の外側に、ミッションケース19の静油圧式無段変速機100等に作動油を供給するオイルタンク21を搭載している。オイルタンク21と反対側で、燃料タンク20を挟むように、左機体フレーム3の傾斜部の外側に、エンジン9の始動等に用いるバッテリ22を搭載している。
【0023】
機体フレーム2の下面のうち左右両前車輪5と左右両後車輪6との間には、芝刈り用のモア装置16が前後のリンク杆23,24を介して昇降動可能に装着されている。モア装置15は、下向き開口椀状のモアケース25内に、水平回転可能な左右一対のロータリ刈刃(図示省略)を備えている。また、モアケース25の左右両側の前後には、下降時にモア装置16の高さを調節する4つの前後のゲージ車輪26,27が取付けられている。モアケース25の上面には、後向きに開口したダクト部28が設けられている。
【0024】
ダクト部28は、機体フレーム3,4の下面のうち左右両後車輪6の間に配置した排出ダクト29を介して走行機体1の後部に配置した集草ボックス30に連通している。集草ボックス30は、網状シートを四角箱形に張設して形成し、集草ボックス30の上面を防塵カバー31によって覆っている。モアケース25内のロータリ刈刃によって刈取られた芝草は、そのロータリ刈刃の起風によってダクト部28から排出ダクト29を介して集草ボックス30の内部に搬送され、モア装置16で刈取られた芝草が集草ボックス30に収集されるように構成している。
【0025】
次に、図1及び図2を参照しながら、芝刈機の動力伝達系統について説明する。この実施形態の芝刈機では、エンジン9の回転動力の一部を左右両後車輪6に配分する二輪駆動方式が採用されている。
【0026】
すなわち、エンジン9の回転動力の一部は、当該エンジン9から前後外向きに突出する出力軸32の後端部から、前後両端に自在継手を備えた推進軸33と、ミッションケース19よりも前方の部位に配置した走行用伝動中継ケース34と、後述する無端入力ベルト35とを介して、ミッションケース19に伝達される。そして、このミッションケース9に左右外向きに突設した水平な後輪駆動軸36から、無端後輪駆動チェン37及びスプロケット38(一方のスプロケットの符号省略)を介して走行機体1の後ろ寄り部位に設けた左右長手の車軸に伝達される。その結果、車軸の左右両端に取付けた後車輪6が回転駆動されることになる。
【0027】
他方、エンジン9の他の回転動力は、出力軸32の前端部から、PTO動力伝達用の無端PTO伝動ベルト41を介して、機体フレーム4の前部に軸支したPTO軸42に伝達される。次いで、このPTO軸42から、前後両端に自在継手を備えた中間軸43を介して、モアケース25の上面のうち機体フレーム4よりも右側の部位に配置したモア用ギヤボックス44に動力伝達される。その結果、モアケース25内の左ロータリ刈刃(図示省略)は平面視で時計方向に回転駆動し、右ロータリ刈刃(図示省略)は平面視で反時計方向に回転駆動し、左右ロータリ刈刃によって芝草を刈取りながら、刈取った芝草をモアケース25の左右幅の中央に集めてダクト部28から排出ダクト29に放出することになる。
【0028】
次に、図3〜図10を参照しながら、エンジン9の支持構造等について説明する。ボンネット8内には、エンジン9と操向ハンドル10のステアリングポスト10aとの前後の空間内に、シュラウド52が前面に取り付けられたラジエータ50と、エンジン9の後面に取付けられたラジエータフアン51とが配置されている。
【0029】
ラジエータ50の下端は、左右の機体フレーム3、4の中途の上面に突設したブラケットフレーム53、53にグロメット状防振ゴム54及びボルト・ナット等にて弾性的に支持されている(図3、図4及び図6参照)。ラジエータ50の上端は、左右の機体フレーム3、4の前端部から立設してボッネット8内で後向きに延びる補強ステー55の後端部と、ステアリングポスト10aのブラケット10bとに連結されている(図3参照)。
【0030】
エンジン9の後面に軸受を介して回転可能に装備されたラジエータフアン51は、補助出力軸9aとの間でプーリ56a,56b及びVベルト57を介して回転駆動される。ラジエータフアン51の軸方向の略半分はシュラウド52の円形開口部52aから内部に位置している(図4参照)。
【0031】
エンジン9に装備されたラジエータフアン51をシュラウド52における開口部52a内に位置させる。エンジン9におけるラジエータフアン51に近い側に位置する左右一対の第1防振ゴム63a,63bと遠い側に位置する左右一対の第2防振ゴム64a,64bとを介してエンジン9を走行機体1に弾性的に支持させる。
【0032】
上記の構成をさらに詳述すると、エンジン9の下部側の左右両側壁には、走行機体1の前後方向に長手(クランク軸(図示せず)に沿って長手)のエンジン側ブラケット60、61を複数のボルト62にて固定する。そして、走行機体1の前進方向を向いて左側のエンジン側ブラケット60は、前後に直線的に長い平板状の縦板部60aと、この縦板部60aの前端下部にて外上向きに屈曲させた前取付け板65と、縦板部60aと前取付け板65の後端部とを溶接して固定する補強リブ板65aと、縦板部60aの後端上部にて外上向きに屈曲させた後取付け板66と、この後取付け板66の下面側と縦板部60aの前後中途部とに溶接して固定連結する平面視コ字状の補強リブ67とを備える(図7〜図11参照)。
【0033】
走行機体1の前進方向を向いて右側のエンジン側ブラケット61は、前後に長い平板状の縦板部61aと、この縦板部60aの前端下部にて外上向きに屈曲させた前取付け板71と、縦板部61aと前取付け板71の後端部とを溶接して固定する補強リブ板71aと、縦板部60aの後端の上下中途部にて溶接して外上向きに突設させた後取付け板72と、この後取付け板72の上面側と縦板部61aの前後中途部とに溶接して固定連結する平面視コ字状の補強リブ73とを備える(図5〜図8参照)。
【0034】
他方、上記第2防止ゴム64a,64bを弾性的に支持するため、左右機体フレーム3、4側に取付される前機体側ブラケット68は、図5に示すように、左右機体フレーム3、4に溶接等にて固定された横梁状であって、その傾斜部68a,68bには、紡錘型の第2防止ゴム64a,64bに挿通された取付けボルト69の下端部を挿通させてナット70にて締着している。
【0035】
なお、第2防止ゴム64a,64bは図示しない内筒の外周に截頭円錐形状のゴム弾性体が加硫接着され、その大径部の外周を外筒に加硫接着したもので、2つのゴム弾性体の外筒側を上下に隣接させて紡錘型にし、上記外筒が前取付け板65、71に穿設された挿通孔(図示せず)の箇所に位置し、上下両外筒を挟持金具74を介して前取付け板65、71にボルト・ナットなどにて固定するものである。
【0036】
上記第1防振ゴム63a,63bを弾性的に支持するための、断面逆L字状の後機体側ブラケット75、76はそれぞれ左右機体フレーム3、4側に溶接などにて取付される。なお、左機体フレーム3側では、その上面より高い位置に配置するため、左機体フレーム3から立設する複数のパイプ77にて補強されている。
【0037】
従って、エンジン9の左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケット60、61はエンジン9のクランク軸に沿って長手に形成され、各エンジン側ブラケット60、61の長手両端部の取付け板(66、72、65、71)と、機体側ブラケット75,76,68a,68bとの間に第1防振ゴム63a,63b及び第2防振ゴム64a,64bがそれぞれ取付けられる(介挿される)ことになる。そして、エンジン9の前部及び後部の左右両側を支持するための第2防振ゴム64a,64b及び第1防振ゴム63a,63bの取付けボルト69、78の軸線が上に行くにしたがって走行機体1の左右中央に近づくように傾斜している(図5、図6 及び図9参照)。
【0038】
さらに、第1防振ゴム63a,63bにより弾性的に支持されるエンジン9の後部側の振動量を規制するためのストッパー手段としてのストッパー片79、80が、エンジン側ブラケット60、61に固定された場合には、この各ストッパー片79、80の屈曲した規制部79a,80aが機体側ブラケット75、76の下面側と適宜の隙間H1,H2だけ隔てて配置されることにより、もしくは、逆にストッパー片79、80が機体側ブラケット75、76に固定された場合には、図示しないが各ストッパー片79、80の上端の屈曲した規制部がエンジン側ブラケット60、61の上面側と適宜の隙間だけ隔てて配置されることにより、エンジン9の主としてクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制したり、エンジン9の主としてクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制することができる。
【0039】
図9に示す実施形態では、第1防振ゴム63a,63bはそれぞれ、締着用のボルトが突設された上下のフランジ82、82に弾性ゴム体81が加硫接着されたものである。そして、走行機体1の前進方向を向いて左側の第1防振ゴム63aの弾性ゴム体81の外周の近傍であって、エンジン側ブラケット60を挟んでエンジン9と反対側(外側)にてストッパー片79をエンジン側ブラケット60に固着された補強リブ67の外面にボルト83にて固定する。そして、ストッパー片79の下端の規制部79aを後機体側ブラケット75の外向き自由端片75aと対向し、且つその下面側で隙間H1を有するように配置したので、主としてエンジン9のクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制することができる(図9参照)。
【0040】
他方、走行機体1の前進方向を向いて右側の第1防振ゴム63bの弾性ゴム体81の外周の近傍であって、エンジン側ブラケット60の後端を覆う補強リブ73の後板73a(平面視でラジエータ50の前面との間、図8参照)にスペーサ84を介してストッパー片80をボルト85にて固定する。そして、ストッパー片80の下端の屈曲した規制部80aを右後機体側ブラケット76の縦板部の下端縁の下方に隙間H2を有するように配置したので(図9及び図10参照)、このストッパー片80は、主としてエンジン9のクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制する機能を有する。
【0041】
上記実施形態では、エンジン側ブラケット60、61に各ストッパー片79、80をボルト・ナットで固定したが、逆に機体側ブラケット75、76に各ストッパー片79、80をボルト・ナットで固定しても良い。
【0042】
上記の2つのストッパー手段であるストッパー片79、80により、駆動時のエンジン9後部のローリング方向の振動量及びピッチング方向の振動量が所定値に規制されるので、エンジン9後部のラジエータフアン51の外周とシュラウド52の開口部52aとの隙間を必要以上に大きく設定することを要しないから、ラジエータフアン51によるラジエータへの送風効率を向上させることができる。換言すると、ラジエータフアン51の外周とシュラウド52の開口部52aとの隙間を小さく設定していても、エンジン9の駆動により、ラジエータフアン51がシュラウド52の開口部52aと干渉しないのである。また、上記の2つのストッパー手段であるストッパー片79、80はエンジン9の後部とラジエータ50との近接した位置に設けられているので、上記の作用効果が著しい。
【0043】
しかも、各ストッパー片79、80は小型部品であり、且つ、機体フレーム3、4側に予め装着した第1防振ゴム63a,63bに、エンジンマウントとしてのエンジン側ブラケット60、61を予め固定したエンジン9を搭載して固定した後に、各ストッパー片79、80を外側から装着固定すれば良いから、エンジン9の組み付け作業が至極簡単にできるという顕著な効果を奏する。
【0044】
ストッパー片79、80は第1防振ゴム63a,63bにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたものであるから、各ストッパー片79、80をエンジン側ブラケット60、61または機体側ブラケット75、76に対して後付けすることができ、走行機体に対するエンジン9の組み付け作業性を簡単に向上できるものである。
【0045】
ストッパー片により、駆動時のエンジン後部のローリング方向の振動量及びピッチング方向の振動量が所定値に規制されるので、エンジン後部のラジエータフアンの外周とシュラウドの開口部との隙間を必要以上に大きく設定することを要しない、換言すると、ラジエータフアン51の外周とシュラウド52の開口部52aとの隙間を小さく設定していても、エンジン9の駆動により、ラジエータフアン51がシュラウド52の開口部と干渉しないのである。そして、ストッパー片79、80をエンジンの後部とラジエータ50との近接した位置に設ければ、上記の作用効果が著しくなる。
【0046】
エンジン9の左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケット60、61はエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、各エンジン側ブラケット60、61の長手両端部に、前記第1防振ゴム63a,63b及び第2防振ゴム64a,64bを取付けるものであるから、エンジン側ブラケットの取付作業、及び前記第1及び第2防振ゴムに対する取付位置の誤差が少なくなり、エンジン9の組立作業性を一層簡単にできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】芝刈機の全体側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】走行機体の前部を示す側面図である。
【図4】同平面図である。
【図5】走行機体の前部から見たエンジン搭載部の正面図である。
【図6】エンジンの後部に位置するラジエータ側から見た背面図である。
【図7】エンジンの支持手段の平面図である。
【図8】エンジン後部の右側の第1防振ゴムの支持部及びストッパー片を示す拡大平面図である。
【図9】図7のIX−IX線矢視拡大断面図である。
【図10】図8のX−X線矢視拡大断面図である。
【図11】図7のXI−XI線矢視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 走行機体
2a 横桟フレーム(支持フレーム)
3,4 機体フレーム
5 前車輪(走行部)
6 後車輪(走行部)
9 エンジン
16 モア装置(草刈部)
50 ラジエータ
51 ラジエータフアン
52 シュラウド
60 左エンジン側ブラケット
61 右エンジン側ブラケット
63a,63b 第1防振ゴム
64a,64b 第2防振ゴム
75、76 機体側ブラケット
79、80 ストッパー片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンによって駆動されるラジエータフアンと、このラジエータフアンによって冷却されるラジエータとが、走行機体に搭載された作業車両において、
前記走行機体に、前記ラジエータとシュラウドとが固定される一方、前記エンジンに装備されたラジエータフアンを前記シュラウドにおける開口部に位置させ、エンジンにおける前記ラジエータフアンに近い側に位置する左右一対の第1防振ゴムと遠い側に位置する左右一対の第2防振ゴムとを介して前記エンジンを前記走行機体に弾性的に支持させ、
前記走行機体の機体フレーム側に取付される機体側ブラケットと、前記エンジン側に取付されるエンジン側ブラケットとの間に前記各第1防振ゴムが介挿され、
前記各第1防振ゴムにおける前記機体側ブラケットまたは前記エンジン側ブラケットのうちいずれか一方には、他方に対峙して、前記エンジンの振動量を規制するためのストッパー片を固着したことを特徴とする作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項2】
前記ストッパー片は第1防振ゴムにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項3】
前記左右いずれか一方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制する位置に配置され、前記他方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制する位置に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項4】
前記エンジンの左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケットはエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、前記各エンジン側ブラケットの長手両端部に、前記第1防振ゴム及び第2防振ゴムを取付けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンによって駆動されるラジエータフアンと、このラジエータフアンによって冷却されるラジエータとが、走行機体に搭載された作業車両において、
前記走行機体に、前記ラジエータとシュラウドとが固定される一方、前記エンジンに装備されたラジエータフアンを前記シュラウドにおける開口部に位置させ、エンジンにおける前記ラジエータフアンに近い側に位置する左右一対の第1防振ゴムと遠い側に位置する左右一対の第2防振ゴムとを介して前記エンジンを前記走行機体に弾性的に支持させ、
前記走行機体の機体フレーム側に取付される機体側ブラケットと、前記エンジン側に取付されるエンジン側ブラケットとの間に前記各第1防振ゴムが介挿され、
前記各第1防振ゴムにおける前記機体側ブラケットまたは前記エンジン側ブラケットのうちいずれか一方には、他方に対峙して、前記エンジンの振動量を規制するためのストッパー片を固着したことを特徴とする作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項2】
前記ストッパー片は第1防振ゴムにおけるゴム弾性体の外周に接近させて配置させたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項3】
前記左右いずれか一方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線回りのエンジンのローリング量を規制する位置に配置され、前記他方の第1防振ゴムに対するストッパー片は、エンジンの主としてクランク軸線と直交する軸線回りのピッチング量を規制する位置に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両におけるエンジンの支持構造。
【請求項4】
前記エンジンの左右両側壁に固定されたエンジン側ブラケットはエンジンのクランク軸に沿って長手に形成され、前記各エンジン側ブラケットの長手両端部に、前記第1防振ゴム及び第2防振ゴムを取付けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の作業車両におけるエンジンの支持構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−302022(P2007−302022A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129477(P2006−129477)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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