信号処理装置、及び走査式測距装置
【課題】走査式測距装置による測定情報を利用して、測定光の伝播方向と交差する方向に移動する移動体の速度を正確に算出することができる信号処理装置を提供する。
【解決手段】信号処理装置は、測定対象空間に向けて所定の走査周期Tで測定光を走査する走査式測距装置1から入力される単位走査毎の測定情報を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量Sと走査周期とTから移動体の速度を算出する速度演算部と、速度演算部で算出された速度に基づいて前記移動体の状態情報を出力する出力部と、を備えている。
【解決手段】信号処理装置は、測定対象空間に向けて所定の走査周期Tで測定光を走査する走査式測距装置1から入力される単位走査毎の測定情報を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量Sと走査周期とTから移動体の速度を算出する速度演算部と、速度演算部で算出された速度に基づいて前記移動体の状態情報を出力する出力部と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査式測距装置から出力される測定情報に基づいて移動体の速度を算出する信号処理装置、及び走査式測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源と、LEDやレーザダイオードを光源として、当該光源からの出力光を測定光として所定の走査周期で偏向走査する走査機構と、前記測定光に対する反射光を検知する受光部と、測定光と反射光に基づいて測定対象物までの距離を算出するAM(amplitude modulation)方式またはTOF(Time of Flight)方式の走査式測距装置が知られている。
【0003】
AM方式は、正弦波でAM変調された測定光とその反射光を光電変換して、それらの信号間の位相差Δφを計算し、位相差Δφから距離Dを以下の数式に基づいて算出する方式である。
D=Δφ・C/(4π・f)
【0004】
TOF方式は、パルス状に変調された測定光とその反射光を光電変換し、それらの信号間の遅延時間Δtから距離Dを以下の数式に基づいて算出する方式である。
D=Δt・C/2
尚、数式中、Cは光速、fは変調周波数である。
【0005】
この種の走査式測距装置は、ロボットや無人搬送車の視覚センサ、或いは、ドアの開閉センサや監視領域への侵入者の有無を検出する監視センサ、さらには、危険な装置に人や物が近づくのを検出し、機械を安全に停止する安全センサ等に利用されている。
【0006】
ところで、測定対象空間に存在する移動体の速度を検知するため、レーダ装置ではドップラー効果が利用されているが、測定用の電波の伝播方向と移動体の移動方向が交差する場合には正確な速度が検知できないという問題があり、特に、測定用の電波の伝播方向と移動体の移動方向が直交する場合には、原理的に速度を検知することができない。
【0007】
特許文献1,2には、撮像装置により撮像された画像データから特定被写体を検知し、その特定被写体の位置と撮像時刻に基づいて特定被写体の速度を算出する技術が開示されている。移動体の移動方向と直交する方向から撮像した画像データであっても特定被写体の速度を算出することが可能になる。
【0008】
また、特許文献3,4には、二台の撮像素子を用いて得られたデータから三角測量法に基づいて特定被写体の三次元座標を算出し、その特定被写体の位置と撮像時刻に基づいて特定被写体の速度を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−128347号公報
【特許文献2】特開平06−266840号公報
【特許文献3】特開平06−331635号公報
【特許文献4】特開平11−211738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1,2に開示された技術は、平面的な画像データをラベリング処理して特定領域を抽出するものであり、異なる画像データ間で抽出される特定被写体の形状が変化すると、同一物であるか否かの判別が困難になる。例えば、撮像装置と特定の被写体の間に他の被写体が位置すると、特定の被写体の一部が他の被写体の影になるためである。さらに、合焦状態で画像が撮像される必要があり、撮像装置に用いられるレンズの被写界深度から外れた被写体が存在すると、ピントがぼけた画像となり適切に速度を算出できないという問題もある。
【0011】
特許文献3,4に開示された技術も上述と同様の問題が解決できるものではなく、さらに複数の撮像素子が必要となるためコストが嵩むという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、走査式測距装置による測定情報を利用して、測定光の伝播方向と交差する方向に移動する移動体の速度を正確に算出することができる信号処理装置、及び走査式測距装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による信号処理装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、測定対象空間に向けて所定の走査周期で測定光を走査する走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから移動体の速度を算出する速度演算部と、前記速度演算部で算出された速度に基づいて前記移動体の状態情報を出力する出力部と、を備えている点にある。
【0014】
記憶部に記憶された過去つまり前回の測定情報と、現在つまり今回の測定情報には、特定の対象物に対する共通のパターンが含まれている。特定の対象物が停止している場合、前回の測定情報と今回の測定情報に変化がなく走査方向に沿って同一の測定情報が得られる。しかし、特定の対象物が移動している場合は、前回の測定情報と今回の測定情報の間に走査方向に沿って変化が現れる。つまり、特定の対象物に対する共通のパターンが走査方向に沿って異なる位置に発現する。そこで、前回と今回の測定情報の何れかを走査方向にシフトさせて比較すると、あるシフト量で特定の対象物に対する共通のパターンが一致し、或は極めて近くなる。そのときのシフト量から特定の対象物の移動距離が求まり、当該移動距離を走査周期で除すれば、特定の対象物つまり移動体の速度が求まる。
【0015】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第の特徴構成に加えて、前記速度演算部は、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報を、前記移動体の速度を算出するための測定情報として採用する点にある。
【0016】
測定情報には、査式測距装置によって走査される測定光の伝播方向に沿って、走査式測距装置と移動体との間に存在する他の対象物や移動体より遠方に位置する他の対象物に対する測定情報が含まれる。それらの測定情報がノイズとなって、シフト処理時のパターンの一致判定の精度が低下する虞がある。しかし、測定情報から測定対象である移動体の背景、及び/または、前景に対応する測定情報を除去することにより、シフト処理時のパターンの一致判定が精度良くしかも容易に行なえるようになる。
【0017】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の距離情報Dが含まれ、前記速度演算部は、前記測定情報を以下の数式
X=Dcosθ、Y=Dsinθ
に基づいてX,Y二次元座標上の点列情報に変換し、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせたときに、双方の点列情報のY成分の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから距離情報Dに基づく前記移動体の速度を算出する点にある。
【0018】
査式測距装置から出力される測定情報によって、走査角度θ毎の距離情報Dが得られる。走査角度θが移動体の移動方向に沿う方向を基準とする値であるため、上述の演算式によって得られる点列のX成分が移動体の移動方向と平行なX座標軸上の値となり、点列のY成分がX座標軸からの距離、つまり移動体の移動方向に沿った表面形状を示す情報となる。そこで、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせ、移動体の移動方向に沿った表面形状の一致度が最大となるシフト量を求めることにより移動体の移動距離が正確に求められる。
【0019】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報に基づいて、前記移動体の有無を判別する移動体判別部を備え、前記速度演算部は、前記移動体判別部により前記移動体が存在すると判別された場合にのみ、前記移動体の速度を算出する点にある。
【0020】
走査式測距装置から出力される測定情報から、走査式測距装置と移動体との間に存在する他の対象物、及び/または、移動体より遠方に位置する他の対象物に対する測定情報が除去されると、残った測定情報は主に移動体に対応する測定情報となる。移動体判別部は、このような測定情報に移動体に対応する何らかの測定情報が含まれる場合に移動体が存在すると判別し、測定情報に移動体に対応する何らかの測定情報が含まれない場合に移動体が存在しないと判別する。そして、移動体判別部により移動体が存在すると判別された場合にのみ、速度演算部によって移動体の速度が算出されるため、移動体が存在しないと判別された場合に、不要な演算処理を行なう必要がなくなる。
【0021】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記出力部は、前記速度演算部で算出された速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときにのみ、前記移動体が停止している旨の状態情報を出力する点にある。
【0022】
出力部から移動体の状態情報として停止状態であるか移動状態であるかの判定情報が出力される。出力部は、速度演算部で算出された速度が所定の停止判定閾値より低い場合に、停止状態であると判定するのであるが、移動体の特性によっては対応する測定情報に基づいて正確な移動速度が得られずに、停止判定閾値より低い速度であり、停止していると誤判定する虞もある。そのような場合であっても、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいという更なる条件を満たすときに移動体が停止していると判定することによって、判定精度を向上させることができる。
【0023】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第五の特徴構成に加えて、前記単位走査毎の測定情報に、前記走査角度θ毎の反射光の強度情報Iが含まれ、前記速度演算部は、さらに、過去と現在の単位走査毎の強度情報Iを走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報Iの一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出し、前記出力部は、前記速度演算部で算出された距離情報Dに基づく速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときであっても、強度情報Iに基づく前記移動体の速度が停止判定閾値以上であれば、前記移動体が移動している旨の状態情報を出力する点にある。
【0024】
走査角度θ毎に得られる反射光の強度情報Iに対しても、上述と同様のアルゴリズムを採用して移動体の速度を算出することができる。移動体の速度を距離情報と反射光の強度情報の二種類の情報に基づいて算出するという冗長性を持たせることにより、距離情報に基づいて算出される移動速度の確からしさを反射光の強度情報に基づいて算出される移動速度によって確認することで、移動体に対する状態情報の判定制度を向上させるのである。
【0025】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、前記速度演算部は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出する点にある。
【0026】
走査角度θ毎に得られる反射光の強度情報Iに対して、上述と同様のアルゴリズムを採用して移動体の速度を算出するのである。
【0027】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述した第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報に、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報が含まれる比率が所定値以上になると、前記走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定して、その旨を報知する報知部を備えている点にある。
【0028】
走査式測距装置の出力窓が汚れ、測定光が出力窓の表面から内側に反射すると、その反射光に対応する測定情報は、移動体より近傍の前景に対する測定情報となる。そのような前景に対する測定情報が、単位走査毎の測定情報に所定比率以上含まれると、移動体を適正に検知できなくなるため、報知部から出力窓が汚れている旨の報知を行なうことにより、適切なメンテナンスを促すことができるようになる。
【0029】
本発明による走査式測距装置の特徴構成は、光源と、光源からの出力光を測定光として所定の走査周期で偏向走査する走査機構と、前記測定光に対する反射光を検知する受光部と、測定光と反射光に基づいて単位走査毎に測定情報を生成して出力する測定情報処理部と、上述した第一から第七の何れかの特徴構成を備えた信号処理装置を備えている点にある。
【発明の効果】
【0030】
以上説明した通り、本発明によれば、走査式測距装置による測定情報を利用して、測定光の伝播方向と交差する方向に移動する移動体の速度を正確に算出することができる信号処理装置、及び走査式測距装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a),(b),(c)は本発明による信号処理装置及び走査式測距装置の設置環境の説明図
【図2】本発明による信号処理装置のブロック構成図
【図3】(a)は走査式測距装置で測定された走査角度θに対応する距離DをX,Y座標変換したときの点列の説明図、(b)は車両の移動時に走査周期T異なる点列の説明図、(c)は車両の停止時に走査周期T異なる点列の説明図
【図4】信号処理装置によって実行される速度推定処理の手順を示すフローチャート
【図5】信号処理装置によって実行される速度演算処理の手順を示すフローチャート
【図6】信号処理装置によって実行される状態判定処理の手順を示すフローチャート
【図7】走査式測距装置の構成図
【図8】(a)は複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光に基づく測距原理の説明図、(b)は一次微分反射信号及び二次微分反射信号の説明図
【図9】(a)は増幅回路で増幅された反射光に対応する信号波形の説明図、(b)は反射信号の信号処理に際して必要となる閾値等の説明図
【図10】走査式測距装置の信号処理ブロックの構成図
【図11】走査式測距装置の信号処理ブロックのうち、測距処理部の詳細な構成図
【図12】(a)検出対象からの反射光とそれ以外のノイズ反射光とが重畳する場合の波形説明図、(b)は検出対象からの反射光とそれ以外のノイズ反射光とが重畳する場合の信号処理原理の説明図
【図13】(a)は走査式測距装置で検出される通常の反射光と霧からの反射光の相違を示す説明図、(b)は走査式測距装置で検出される通常の反射光と雨滴等からの反射光の相違を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明による信号処理装置、及び、走査式測距装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1(a),(b)に示すように、鉄道のプラットホーム200に停車した移動体の一例である車両100の側面を臨むように、走査式測距装置1が天井部に架け渡された横梁(図示していない)に設置されている。走査式測距装置1は、測定対象空間に向けて所定の走査周期で測定光を走査し、測定対象空間からの反射光を受光して単位走査毎に測定情報を出力する。
【0034】
走査式測距装置1で計測された測定情報が信号処理装置30に入力され、信号処理装置30で車両の走行速度が算出され、走行速度に基づいて車両が走行しているのか停止しているのかを示す走行状態情報が生成される。信号処理装置30から走行状態情報が構内放送システム40に出力され、走行状態情報等に基づいて構内放送システム40による適切な構内放送がなされる。
【0035】
構内放送システム40は、例えばスピーカを介して、プラットホームへの到着車両の行先情報、発車時刻情報等の音声メッセージに加えて、走行状態情報に基づいて駅構内に車両が進入しつつある旨の音声メッセージ、進入した車両が停止している旨の音声メッセージ、車両が進行しつつある旨の音声メッセージ等を報知して、健常者以外の利用客にも十分な注意を促すシステムである。
【0036】
走査式測距装置1は、車両の天井部よりやや高い位置で、車両の側方から距離Lだけ離隔した位置に設置され、測定光が、プラットホーム200からの高さHの位置で車両の側部101の窓部102やドア部103を横切るように、水平面に対して角度φで走査される。
【0037】
本実施形態では、距離Lが約3000mm、高さHが約1700mm、角度φが約35度から40度程度に設定されているが、この値に限るものではない。
【0038】
図1(c)に示すように、走査式測距装置1によって、車両100の移動方向に沿うX軸方向を基準に、走査式測距装置1の設置位置である原点を中心として左周りに走査角度θが0度から180度の間で測定光が走査され、走査式測距装置1を通るY軸を中心に±50度の範囲の測定情報が生成される。測定情報には、タイムスタンプされた走査角度θと、走査角度θに対する距離情報D、及び、そのときの反射光の強度情報Iが含まれている。
【0039】
単位走査で得られる測定情報に占める移動体の情報量が密になるように、移動体である車両100の横幅つまり走査方向の幅よりも測定光の走査幅が狭く設定されている。移動体の横幅よりも測定光の走査幅が大きくなる場合で、走査幅内に複数の異なる移動体が存在する場合には、それらを個別に識別することが困難になる場合がある。その場合には、測定光の走査幅を走査方向に沿って複数領域に区分して、各領域毎に後述する速度演算処理等を実行すればよい。
【0040】
図2に示すように、信号処理装置30は、産業用のCPUボード等で構成され、走査式測距装置1から出力される測定情報を受信する入力部31としてのUSBインタフェースと、受信した測定情報を記憶するRAM等の記憶部32と、速度演算部33と、シリアルインタフェースを備えた出力部34等を備えている。
【0041】
速度演算部33は、主にCPUと制御プログラムが記憶された半導体メモリと入出力回路等の周辺回路でハードウエアが構成され、制御プログラムを実行するCPUによって、記憶部32に記憶された単位走査毎の測定情報が読み出され、その測定情報に基づいて車両100の走行速度(移動体の速度)が算出され、その結果が記憶部32に記憶される。
【0042】
出力部34は、速度演算部33によって算出された車両100の走行速度に基づいて、車両が停止しているのか、走行しているのかの状態を判定し、対応する走行状態情報を構内放送システム40に出力する。
【0043】
詳述すると、出力部34は、速度演算部33で算出された速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときにのみ、車両100が停止している旨の状態情報を出力する。
【0044】
速度演算部33は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量と走査周期とから移動体の速度を算出する。
【0045】
速度演算部33は、記憶部32に記憶された測定情報を以下の数式に基づいてX,Y二次元座標上の点列情報に変換し、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせたときに、双方の点列情報のY成分の一致度が最大となるシフト量と走査周期Tとから距離情報Dに基づく移動体の速度を算出する。
X=Dcosθ、Y=Dsinθ
【0046】
図3(a)には、速度演算部33によって測定情報がX,Y二次元座標上の点列Pi(x、y)に変換された様子が示されている。iは一回の走査で得られるデータの順序に対応する識別子で、i=1〜n(nは正整数)である。
【0047】
図3(a)に示される小さな丸印のそれぞれが点列Pi(x、y)となり、点列Pi(x、y)を連結した矩形の波形(実線で示されている)により、車両の側面の表面部101、窓部102、ドア部103に対応した表面形状が示されている。各点列Pi(x、y)のY座標がX軸を基準とする車両表面までの距離となるのである。
【0048】
図3(b),(c)には、走査式測距装置1から入力される前回走査時の測定情報から求められた各点列を接続した矩形の波形と、今回走査時の測定情報から求められた各点列を接続した矩形の波形が上下に示されている。図3(c)に示すように、車両100が停止している場合には、前回走査時の矩形の波形と今回走査時の矩形の波形はX軸方向にずれることなく完全に一致するが、図3(b)に示すように、車両100が動いている場合には、前回走査時の矩形の波形と今回走査時の矩形の波形がX軸方向に相対的にずれる。
【0049】
速度演算部33は、前回走査時と今回走査時のX軸方向へのズレ量であるシフト量Sを求め、次式に示すように、求めたシフト量Sを走査周期Tで除算することにより車両の移動速度を算出する。
移動速度V=シフト量S/走査周期T
【0050】
移動速度の算出に際して、速度演算部33は、過去と現在の単位走査毎の測定情報から車両100より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、車両100より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報を、移動体の速度を算出するための測定情報として採用するように構成されている。
【0051】
車両100の背景は本来固定値であるが、背景にノイズ源となる他の移動体が存在すると、シフト量が精度良く求められなくなる虞があるため、背景に対する測定情報を除去することが好ましいのである。
【0052】
車両100の窓やドアの高さより高い位置では、車両の側面部の表面が平坦となり、シフト量算出のための良好な凹凸が検知できないため、走査式測距装置1の測定光は、車両の窓部やドア部を横切る高さを走査するように設定されている。
【0053】
また、プラットホーム200上では、車両100の乗降客が移動しているため、測定光の走査高さを低くすると、混雑時に人間により車両100が検知できなくなるため、斜め上方から斜め下方に向けて測定光を走査し、その走査高さHを約1700mmに設定している。
【0054】
そのため、測定情報には、車両100の前景として乗降客の頭部等が含まれる場合が生じる。前景にノイズ源となる人が存在すると、シフト量が精度良く求められなくなる虞があるため、前景に対する測定情報を除去することが好ましいのである。
【0055】
測定情報に含まれる距離情報に基づけば、前景や背景と車両100の側面とを容易に識別することができる。測定情報から背景のみ除去してもよいし、前景のみを除去してもよい。また、背景、前景の双方を除去してもよい。
【0056】
速度演算部33に、記憶部32に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から車両100より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、車両100より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報に基づいて、車両100の有無を判別する移動体判別部を備えている。そして、速度演算部33は、移動体判別部により車両100が存在すると判別された場合にのみ、車両100の速度を算出するように構成されている。
【0057】
図4には、信号処理装置30で実行される速度推定処理の手順が示されている。走査式測距装置1から走査周期T(本印実施形態ではT=50msec.に設定されている。)と同期して各走査周期で測定された測定情報(本実施形態では、走査角度0.25度ピッチで400組の測定情報となる。)が出力される。入力部31を経由して走査式測距装置1から測定情報が入力されると、当該測定情報が記憶部32に記憶される(SA1)。
【0058】
速度演算部33によって、記憶部32に記憶された測定情報から走査角θと走査角θに対する距離情報D及び強度情報Iが読み出され、距離情報が上述した数式に基づいてX,Y座標変換される(SA2)。
【0059】
座標変換後の距離情報のY成分データは、車両100の側面で約2500mm前後となる。このY成分データが所定の最小閾値(例えば100mm)よりも短い値を示している場合には、エラーデータと判定されて当該Y成分データが「0」に設定される。また、当該Y成分データが100mm以上1000mm未満の値を示す場合にも、前景の距離データ、つまり車両100と走査式測距装置1との間に存在している人等を示すデータであると判定されて当該Y成分データが「0」に設定される(SA3)。
【0060】
記憶部32に背景データが格納されているか否かが、速度演算部33によってチェックされ(SA4)、背景データが格納されていないと判断されると、ステップSA3で処理された座標変換後の距離情報とそれに対応する強度情報が、背景データとして記憶部32に記憶される(SA12)。
【0061】
通常、鉄道の営業時間外つまり車両100が存在しない時間帯に走査式測距装置1がプラットホームに設置され、そのときにステップSA12が実行されるが、その後、信号処理装置30に設けられた初期化スイッチが操作されると、記憶部32に区画された背景データの格納領域がリセットされ、走査式測距装置1から最初に入力された測定情報が背景データとして記憶部32に記憶される(SA12)。
【0062】
ステップSA4で、既に背景データが記憶部32に登録されている場合には、座標変換後の距離情報のY成分データと対応する背景のY成分データの差分が各X座標について求められ、差分が所定の閾値(本実施形態では、1000mmに設定されている。)よりも小さい場合に背景に属するデータであると判定され、当該Y成分データが「1」に設定される(SA5)。
【0063】
つまり、座標変換後のY成分データは、エラーまたは前景である場合に「0」に、背景である場合に「1」に設定されるので、それら以外の値であれば車両100の側面に対応する距離であると判定できる。
【0064】
その結果、任意の走査周期に対応する400個のY成分データの何れもが「0」または「1」である場合に、車両100がプラットホーム200に進入していないと判定されて処理が終了し(SA6,N)、400個のY成分データの何れかが「0」または「1」以外の値である場合に、車両100がプラットホーム200に進入または停車していると判定されて(SA6、Y)、その後、速度演算処理が実行される(SA7)。つまり、ステップSA3,SA5,SA6の処理が移動体判別部によって実行される。
【0065】
尚、400個のY成分データのうち、「0」または「1」以外の値である比率が所定の比率(適宜設定される値で、例えば、40%に設定することができる。)より大きいときに、車両100がプラットホーム200に進入または停車していると判定されるように構成してもよい。
【0066】
さらに、車両100がプラットホーム200に進入または停車していると判定され(SA6、Y)、単位走査毎の測定情報に車両100より近傍の前景に対する測定情報が含まれる比率が所定値以上になると、走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定するステップを実行するように構成してもよい。
【0067】
この場合、ステップA3で、Y成分データがエラーデータであると判定された場合と、前景の距離データであると判定された場合とでマスクする値を異ならせ、Y成分データがエラーデータであると判定された比率が所定値以上になると、走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定するステップを実行するように構成することが好ましい。
【0068】
当該ステップは速度演算部33に備えた機能ブロックの一つである報知部で実行される。そして、報知部は、出力窓が汚れていると判定すると、その旨を走査式測距装置1に備えた表示用LEDを点灯するようにUSBインタフェースを介して指令を送信するように構成されている。出力窓の汚れを検出するための閾値となる比率は実験等で適宜設定すればよく、本実施形態では30%から40%の間の数値に設定されている。
【0069】
図5で詳述するが、ステップSA7の速度演算処理は、X軸方向に沿って正方向つまり右方向の速度データと、負方向つまり左方向の速度データがそれぞれ算出される。速度演算部33によって、算出された車両の速度データがそれぞれ記憶部32に記憶され、さらに、今回の測定情報が次回の速度演算処理で用いられる前回の測定情報として記憶部32に更新記録される(SA8)。
【0070】
ステップSA9では、ステップSA7で算出され、記憶部32に記憶された過去8回の右方向及び左方向の速度データが出力部34によって読み出され、それぞれの平均値(直近の8×50msec.=400msec.の平均速度)が推定速度として算出されて記憶部32に記憶される。
【0071】
そして、ステップSA10では、データ出力部34によって、直近から所定時間内(例えば、1000msec.程度)に算出された複数の推定速度が記憶部32から読み出され、車両100が停止しているか、進行しているかの走行状態が判定され、その判定結果が記憶部32に記憶される。
【0072】
ステップSA11では、記憶部32に記憶された判定結果である走行状態情報が構内放送システム40に出力される。
【0073】
図5には、図4のステップSA7で示した速度演算処理の詳細手順が示されている。今回の測定情報で座標変換された点列のデータをNPi(xi,yi)、前回の測定情報で座標変換された点列のデータをPPi(xi,yi)とする。i=1〜n(n=400)で、初期値がi=1に設定されている。
【0074】
図3(b)に示すように、点列のX座標軸方向のシフト量をs(s=0〜pで、初期値がs=0に設定され、pはn=400以下の所定の整数で想定最大速度等に基づき設定される)として、前回の測定情報で座標変換された点列をsだけ右にシフトした点列のデータをPPi+s(xi+s,yi+s)とする。
【0075】
速度演算部33は、NPi(xi,yi)とPPi+s(xi+s,yi+s)のY成分を対比して(SB1)、何れかのY成分が「0」、または「1」にマスクされている場合には(SB2,Y)、初期値が零に設定されているマスクカウンタ(MKカウンタ)に1加算し(SB7)、何れのY成分も「0」、または「1」にマスクされていない場合には(SB2,N)、各Y成分の差分の絶対値を算出し、その値が所定の閾値Pthより小さい場合に(SB3,Y)、マッチカウンタ(MTカウンタ)に1加算し(SB4)、閾値Pth以上であれば(SB3,N)、ステップSB4をスキップする。
【0076】
i=n−s(n=400)であるか否か、つまり、400−s個のデータが全て比較されたか否かが判断され、未だ比較が完了していない場合には(SB5,N)、iに1加算してステップSB1に戻る(SB6)。400−s個のデータが全て比較された場合には(SB5,Y)、シフト量sに対する評価値Vが、以下の数式に基づいて算出される(SB8)。
評価値V=MTカウント値/(n−s−MKカウント値)
【0077】
但し、評価値Vは、(n−s−MKカウント値)≧150のときに有効と判定され、(n−s−MKカウント値)<150のときに無効と判定される。基準値150は、点列の数に基づいて予め実験等に基づいて設定される値で、本実施形態では400−s個の点列のうち有効な点列が150個以上あれば、信頼性の高い評価値が得られるとの知見に基づいているが、この値は特に制限されるものではない。
【0078】
シフト量sが最大シフト量s=pまでシフトしたか否かが判定され、未だ最大シフト量s=pまでシフトされていなければ(SB9,N)、シフト量sに1加算してステップSB1に戻る(SB10)。シフト量sが最大シフト量pに達していると(SB9,Y)、シフト量sに対する各評価値Vのうち最大の評価値Vが得られるシフト量Sが抽出され(SB11)、以下の数式に基づいて、車両100の左方向への移動速度が算出されて、記憶部32に記憶される(SB12)。
移動速度=シフト量S/走査周期T
【0079】
前回の測定情報で座標変換された点列をsだけ左にシフトした点列のデータに対しても、ステップSB1からステップSB12迄の処理が実行され、車両100の右方向への移動速度が算出されて、記憶部32に記憶される。
【0080】
さらに、今回の測定情報に含まれる反射光の強度情報Iを用いた点列のデータをNPi(xi,Ii)、前回の測定情報に含まれる反射光の強度情報Iを用いた点列のデータをPPi(xi,Ii)として、上述のステップSB1からステップSB12迄の処理が実行され、強度情報に基づく車両100の左方向及び右方向への移動速度が算出されて、記憶部32に記憶される。移動体の表面からの反射光が、その表面形状や反射率に基づいて一定の強弱パターンを示す点に着目するものである。尚、この場合、ステップSB2の判定では、車両100表面からの反射光が取りうる強度と大きく異なる強度が「0」にマスクされている。
【0081】
図6には、図4のステップSA10で示した状態判定の詳細手順が示されている。記憶部32には、測定情報に含まれる距離データから算出された左方向の推定速度と右方向の推定速度がそれぞれ格納されている(ステップSC1で「距離速度」と表記しているのは、距離データから算出された速度である旨を示すためであり、ステップSC6で「強度速度」と表記しているのは反射光の強度に基づいて算出された速度である旨を示すためである。)
【0082】
出力部34によって、記憶部32に記憶された左右直近の推定速度データが読み出され、左右何れかの推定速度が走行判定閾値Vathよりも大きいと判定されると(SC1、Y)、車両100が走行していると判定される(SC8)。判定情報は走行状態情報として記憶部32に記憶される。
【0083】
ステップSC1で、左右何れの推定速度も、停止判定閾値Vothより小さいと判定されると(SC1,N)、次に、左右何れかの推定速度の速度変化が速度変化閾値より大きいか小さいかが判定され、少なくとも一方の速度変化が速度変化閾値より大きければ(SC2,Y)、ステップSC3のタイムスタンプチェックが実行され、NG判定されると車両100が停止していると判定され(SC4)、OK判定されると車両100が走行していると判定される(SC5)。判定情報は走行状態情報として記憶部32に記憶される。停止判定閾値Vothは、走行判定閾値Vathより小さな値に設定されている。
【0084】
タイムスタンプチェックとは、走査式測距装置1から入力された測定情報に含まれるタイムスタンプから、速度演算に用いた測定情報が走査周期Tより長い周期の測定情報であるか否かを判定する処理である。
【0085】
図4のステップSA1で説明したように、速度演算は、走査式測距装置1から測定情報が入力されたタイミングで実行されるが、何らかの原因で測定情報が走査周期Tに同期して取り込まれなかった場合には、少なくとも走査周期Tの2倍以上の周期で取り込まれた測定情報に対して速度演算が実行され、その速度が本来の速度よりも大きな値になる。
【0086】
このような場合に備えてタイムスタンプチェックが実行され、測定情報が走査周期Tに同期して取り込まれなかった場合には、算出された速度の信頼性が無いとしてNG判定され、測定情報が走査周期Tに同期して取り込まれている場合には、算出された速度の信頼性があるとしてOK判定がなされる。
【0087】
左右何れの推定速度の速度変化も速度変化閾値より小さい場合であっても直ちに停止判定されず(SC2,N)、強度に基づく左右何れかの速度が所定の閾値より大きいか否かが判定され(SC6)、大きければ走行判定され(SC5)、小さければ停止判定される(SC7)。
【0088】
つまり、単位走査毎の測定情報に、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、速度演算部は、さらに、過去と現在の単位走査毎の強度情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と走査周期とから強度情報に基づく移動体の速度を算出し、出力部は、速度演算部で算出された距離情報Dに基づく速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときであっても、強度情報Iに基づく移動体の速度が停止判定閾値以上であれば、移動体が移動している旨の状態情報を出力するように構成されている。
【0089】
車両100が貨物列車である場合、ドア部や窓部がないため、僅かなシフト量でも、前回と今回の点列のY成分データの一致度が高い値となって、実際の走行速度よりも極めて低い値となる場合がある。そのような場合に、誤判定を回避するためにステップSC2が設けられている。
【0090】
ステップSC2では、二つの判定が実行され、何れかの判定で速度変化が大きいと判定されるとステップSC3に分岐し、何れの判定でも速度変化が小さいと判定されるとステップSC6に分岐する。
【0091】
第一の判定では、過去1000msec.程度の間の推定速度(この場合、推定速度のデータ数は1000/50=20)のうち、最大値と現在の推定速度との傾き(両推定速度の差分を時間差で除した値)が所定の第1速度変化閾値以上のときに走行判定され、最大値と現在の推定速度との傾きが第1速度変化閾値よりも小さければ停止判定される。
【0092】
第二の判定では、過去2000msec.程度の間の推定速度の平均値を算出し、さらに、当該平均値と各推定速度との偏差の絶対値の平均値を算出し、偏差の絶対値の平均値が所定の第2速度変化閾値以上のときに走行判定され、第2速度変化閾値より小さいときに停止判定される。
【0093】
尚、図6には記載していないが、ステップSC1において左右の何れかの推定速度が走行判定閾値Vathと停止判定閾値Vothの間にあるときは、走行判定または停止判定は状態判定処理開始時点の状態を保持したまま処理を終了する。このことによって推定速度が走行判定閾値または停止判定閾値近傍にあるときにヒステリシス効果を発揮し、走行判定/停止判定が頻繁に切り替わることを防ぐことができる。またステップSC4において、図6ではただちに停止判定が行われているが、ステップSC4の前にステップSC6のような強度速度による停止判定を設け、判定精度の向上を図ることもできる。
【0094】
以上説明した実施形態では、単位走査毎の測定情報のうち主に距離情報に基づいて車両100の走行速度を算出し、その走行速度に基づく状態情報の信頼性を担保するために、補助的に反射光の強度情報を用いた例を説明したが、距離情報を用いずに強度情報のみで速度情報を算出し、状態情報を生成するように構成してもよい。
【0095】
つまり、移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、速度演算部は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と走査周期とから強度情報に基づく移動体の速度を算出するように構成してもよい。
【0096】
上述した実施形態では、図1(c)で説明したように、走査式測距装置1と車両が最短距離となる方向をY軸とし、それに直交するX軸方向に車両が移動する場合を例に説明したが、この場合、想定されるX,Y座標に合致するように走査式測距装置1の設置姿勢を調整する作業は煩雑である。
【0097】
そこで、走査式測距装置1が予め設定された走査角度範囲の測定情報を信号処理装置30に出力し、信号処理装置30で移動体の移動方向を算出する演算処理を実行して、その結果に基づいて移動体の移動方向が図1(c)で説明したX軸方向となるような走査角度範囲を求め、当該走査角度範囲を走査式測距装置1に出力して、走査式測距装置1から当該走査角度範囲での測定情報が出力されるように構成してもよい。
【0098】
また、対象となる走査角度範囲よりも広い走査角度範囲の測定情報が走査式測距装置1から出力されるように構成し、信号処理装置30が、移動体の移動方向を算出する演算処理を実行して、その結果に基づいて移動体の移動方向が図1(c)で説明したX軸方向となるような走査角度範囲を求め、当該走査角度範囲の測定情報に基づいて上述した速度算出処理を実行するように構成してもよい。
【0099】
例えば、信号処理装置30が測定情報を任意のX,Y直交座標系の点列に座標変換し、X方向及びY方向に個別に一致度が最大となるシフト量を求め、それぞれの最大シフト量に基づいてX方向速度とY方向速度を算出し、Y方向速度が零となるようにX,Y直交座標系を回転させ、その回転角度から必要な走査角度範囲を算出すればよい。
【0100】
このように、移動体が直線運動する場合には、その移動方向がX軸に沿うように自動設定すれば、精度の高い速度が算出できるようになる。勿論、任意のX,Y直交座標系の点列に座標変換し、X方向及びY方向に個別に速度を算出するように演算処理を実行してもよいことはいうまでもない。
【0101】
以下、本発明に用いられる走査式測距装置1の構成について詳述する。
図7に示すように、走査式測距装置1は、一対の投光部3及び受光部5を収容する円筒状のケーシング2と、ケーシング2の周方向に沿って配置された弧状の光学窓2aを備え、投光部3から出力された測定光を円筒状ケーシングの軸心Pと直交する方向に偏向反射する第一偏向ミラー9、及び、被測定物からの反射光を受光部5に向けて偏向反射する第二偏向ミラー10を軸心P周りに回転して、測定光を軸心Pと直交する平面上で回転走査する偏向光学系4を備えている。
【0102】
ケーシング2の内壁面は迷光を吸収する暗幕等の吸光部材で被覆され、軸心Pに沿って対向配置された投光部3と受光部5の間に、偏向光学系4が配置されている。
【0103】
投光部3は、赤外半導体レーザでなる発光素子と、発光素子から出力された光ビームを平行光に形成する光学レンズを備えて構成され、ケーシング2の上壁に固定されている。
【0104】
受光部5は、反射光を検出するアバランシェフォトダイオードでなる受光素子を備えて構成され、ケーシング2に固定された中空軸13上の支持板上に固定されている。
【0105】
偏向光学系4は、第一偏向ミラー9及び第二偏向ミラー10が取り付けられた天面8bと、反射光を受光部5で集光する受光レンズ14が取り付けられた周壁部8aを備えた円筒状の回転体8と、回転体8を一方向に回転駆動するモータ11を備えている。
【0106】
下端部が縮径された回転体8は、その内周面に備えた軸受12を介して中空軸13に回転可能に支承され、縮径部の外周面にモータ11の回転子となるマグネット11bが取り付けられている。当該回転子と、当該回転子に対向配置されたコイル11aでなる固定子によりモータ11が構成され、固定子のカバーがケーシング2に固定された中空軸13に取り付けられている。
【0107】
投光部3から光軸L1に沿って出射された測定光が、第一偏向ミラー9で光軸L1と直交する光軸L2に偏向され、光学窓2aを通過して測定対象空間に向けて照射される。測定対象空間に存在する被測定物Oからの反射光が、光軸L2と平行な光軸L3に沿って光学窓2aを通過して受光レンズ14に入光し、第二偏向ミラー10で光軸L3と直交する光軸L4に偏向され、受光部5に集光される。
【0108】
第一偏向ミラー9で偏向された測定光が光学窓2aの上方領域を透過し、被測定物Rからの反射光が光学窓2bの下方領域を透過する。
【0109】
モータ11で回転駆動される偏向光学系4により、測定光が光学窓2aを介して測定対象空間に走査される範囲、具体的には上述した軸心Pを基準とする約180度の角度範囲が計測用走査角度領域となり、測定光がケーシング2に遮られて測定対象空間に出射されない角度領域が非計測用走査角度領域となる。
【0110】
つまり、偏向光学系4により、投光部3から出力された測定光を、光学窓2aを介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部が構成されている。
【0111】
周方向に複数のスリットが形成された円盤状のスリット板15aが、回転体8の周壁部8aに取り付けられるとともに、当該スリットを検出するフォトインタラプタ15bがケーシング2の内壁に取り付けられ、これらにより偏向光学系4の走査角度を検出する走査角度検出部15が構成されている。
【0112】
スリット板15aに形成されるスリットは、測定光が非走査角度領域の中心に向けて照射される基準位置を除いて均等間隔で形成され、基準位置ではスリット間隔が他の間隔より狭い間隔に形成されている。従って、偏向光学系4の回転に伴なって走査角度検出部15から出力されるパルスのパルス幅に基づいて、基準位置から偏向光学系4の回転角度位置が把握できるように構成されている。
【0113】
非走査角度領域の中心には、距離補正用の基準光学系としてのプリズム16が設けられ、当該プリズム16を介して受光部5で検知される反射光に基づいて、補正用の基準距離が求められる。
【0114】
ケーシング2の底部には、装置を駆動して被測定物までの距離を算出する信号処理回路20を備えた制御基板17が収容されている。
【0115】
図10に示すように、信号処理回路20には、発光素子3aを駆動する駆動回路3b、反射光が受光素子5aで光電変換された反射信号を増幅する増幅回路5b、A/D変換部22、測距処理部23、モータ制御回路21、システム制御部24を備えている。測距処理部23及びシステム制御部24によって測定情報を生成する測距演算装置が構成されている。
【0116】
システム制御部24から本発明による信号処理装置30に測定情報が出力され、信号処理装置30で車両100の移動速度が算出され、移動速度に基づいて車両100の状態情報が構内放送システム40に出力される。
【0117】
システム制御部24には、マイクロコンピュータが設けられ、所定の制御プログラムに基づいて動作するマイクロコンピュータによって測距処理部23、モータ制御回路21等が制御される。
【0118】
システム制御部24は、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに基づいて、走査角度つまり測定光の照射方向を検出するとともに、偏向光学系4によって測定光が所定の一定速度で周期的に測定対象空間に走査されるようにモータ制御回路21を制御する。そして、測距処理部23から入力される反射光強度と、距離と、走査角度検出部15を介して検出した走査角度にタイムスタンプを付加した測定情報を、USBインタフェースを介して信号処理装置30に出力する。
【0119】
図8(a)及び図10に示すように、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに同期して、測距処理部23から駆動回路3bに出力される駆動パルス信号S1により赤外半導体レーザ3aがパルス駆動され、測定対象空間にパルス状の測定光S2が照射される。
【0120】
当該測定光S2が被測定物に照射され、被測定物からの反射光S3がアバランシェフォトダイオード5aで光電変換され、さらに増幅回路5bで増幅された反射信号S4がA/D変換部22に入力される。
【0121】
A/D変換部22でA/D変換されたデジタルの反射信号が測距処理部23に入力され、測距処理部23で駆動パルス信号S1と反射信号の時間差Δtが求められ、以下の式に基づいて被測定物迄の仮の距離D1が算出される。
D1=Δt・C/2 (但し、Cは光速)
【0122】
一方、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスが基準位置を示すときに、測定光がプリズム16に照射され、アバランシェフォトダイオード5aで検出されたプリズム16からの反射光S3に基づく時間差Δt´に対応する基準距離D2が以下の式に基づいて算出される。
D2=Δt´・C/2 (但し、Cは光速)
【0123】
被測定物迄の距離Dが、D1−D2によって算出される。当該基準距離D2は、走査式測距装置1に組み込まれた赤外半導体レーザ3a、駆動回路3b、アバランシェフォトダイオード5a等の特性ばらつきや、光学系の機差による計測距離のばらつきを吸収して、被測定物迄の正確な距離を算出するための補正値となる。
【0124】
ところで、反射信号S4の立上り時期を検知するために信号値を所定の閾値で比較する比較器を設ける場合、同じ時期に発生する反射信号S4であっても、その信号強度によって比較器からの出力時期が変動し、正確に反射信号S4の立上り時期を検知できない虞がある。
【0125】
そのため、測距処理部23は、反射信号S4を一次微分し一次微分反射信号の立上り時期を基準に当該一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光S3の検出時期として求めるように構成されている。
【0126】
図11に示すように、測距処理部23は信号処理用のゲートアレイやデジタルシグナルプロセッサを備えたASICやFPGA等の集積回路で構成され、A/D変換部22からのA/D変換信号を入力処理するデジリアライザ230、ローパスフィルタ231、微分処理部232、波形判定部233、信号分離部234、距離演算部235、補正処理部236、補正データメモリ237、出力メモリ238、パルス信号生成部239等の処理ブロックを備えている。
【0127】
パルス信号生成部239は、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに同期して、駆動回路3b及び距離演算部235に駆動パルス信号S1を出力するブロックである。
【0128】
A/D変換部22からデシリアライザ230に、複数のA/D変換データが並列化されて同時に入力されたデジタルの反射信号が、デシリアライザ230で時系列的に整列された後、高周波ノイズ成分を除去するローパスフィルタ231を介して微分処理部232及び波形判定部233に入力される。
【0129】
微分処理部232は、反射信号を一次及び二次微分処理して、一次微分反射信号及び二次微分反射信号を波形判定部233及び信号分離部234に出力する。
【0130】
図8(b)には反射信号と一次微分反射信号が例示されている。微分処理部232は、K番目(Kはサンプリング順序を示す整数である)のサンプリング値とK−1番目のサンプリング値との差分を各Kについて求め、その値を一次微分反射信号として算出する。さらに、各Kについて求めた一次微分反射信号とK−1番目に求めた一次微分反射信号との差分を求め、その値を二次微分反射信号として算出する。尚、本実施形態では、差分値が負となる場合には零に丸め込み、正領域のみ抽出するように構成されている。
【0131】
波形判定部233は、測定光が出力される前にローパスフィルタ231を介して入力される信号の最大レベルから最小レベルを減算して、反射信号を識別するための第一測定閾値L1を算出するとともに、その信号の平均レベルをオフセット値に対応した第二測定閾値L2として算出する。
【0132】
つまり、測定光が出力される迄にA/D変換部22でサンプリングされた信号に基づいて、増幅回路5bのオフセットレベルや微小な外乱光によるノイズ信号のレベルが算出される。
【0133】
距離演算部235は、微分処理部232から入力される一次微分反射信号から、第一測定閾値L1より大となる領域の信号成分を抽出し、その正側領域(図8(b)に示す微分波形)の重心位置を反射光S3の立上りタイミング、つまり検出時期として算出し、パルス信号生成部239から入力される駆動パルス信号S1の立上りエッジを測定光の出力時期として、当該反射光の検出時期との時間差に基づいて被測定物までの仮の距離D1を算出するとともに、駆動パルス信号S1の数をカウントするカウンタの値を1加算する。尚、当該カウンタの値は、走査部の一回転毎にリセットされる。
【0134】
図8(b)に示すように、一次微分反射信号のうち第一測定閾値L1を二回連続して超えるサンプリングポイントを検出し、二回目に第一測定閾値L1を超えたポイントの一次微分反射信号値Dnを中心として、例えば前後に連続する10点のサンプリングポイント(n−10〜n+10)を重心演算範囲R1として、〔数1〕に示す数式に基づいて重心位置Gを算出する。
【0135】
つまり、重心位置Gはサンプリングポイント(n−10)からの時間情報として算出される。尚、重心演算に寄与するサンプリングポイントの選定は、この例に限るものではなく、二回目に第一測定閾値L1を超えたポイントの一次微分反射信号値Dnを中心として、一次微分反射信号値が第一測定閾値L1を超える直前のサンプリングポイントから一次微分反射信号値が第一閾値L1より最初に低下したサンプリングポイント迄の間のサンプリングポイントを重心演算に寄与するサンプリングポイントに選定してもよい。
【0136】
【数1】
【0137】
このように、反射信号を一次微分してその正側領域の重心位置を反射信号の立上り時期として求める場合には、光量が異なる場合であってもほぼ等しい立上り時期として求まる。
【0138】
さらに、距離演算部235は、基準位置でプリズム16を介して検出された基準光としての反射光S3に対しても、上述と同様の処理を行ない基準距離D2を算出する。基準距離D2の算出は、走査部による測定光の回転周期と同期して毎回行なわれる。
【0139】
補正処理部236は、距離演算部235で仮の距離D1が算出される度に、仮の距離D1からその直前に算出された基準距離D2を減算して距離Dを算出し、その値をカウンタの値とともに出力メモリ236に格納する。
【0140】
測定光S2は、測定対象空間に設定された検出範囲内に存在する被測定物からの反射光を確実に検出するために十分な発光強度に設定されているため、反射光の強度によっては増幅回路5bが飽和してリニアな出力特性が得られない場合がある。つまり、微弱な反射光を十分なレベルに増幅するために、増幅回路5bのダイナミックレンジが入力スパンに対応できず、強い反射光に対して飽和するのである。
【0141】
図9(a)に示すように、増幅回路5bからの出力波形を観測すると、被測定物からの反射光量が小さいときには、反射信号S41から反射信号S43に示すようにリニアに増幅されるが、被測定物からの反射光量が大きいときには、反射信号S44から反射信号S46に示すように飽和して正確な波高値が出力されず、その出力が立ち下がるまでの時間が長くなる。このような場合には、算出された重心位置が本来あるべき重心位置とずれることとなり、被測定物との距離Lが正確に算出できなくなる。
【0142】
しかし、反射信号S44から反射信号S46のように出力が飽和したときには、その信号の積分値と反射光S3の受光光量に相関があることが見出されており、距離演算部235により検出された重心位置に基づいて算出された距離Dを、当該積分値と予め設定された補正テーブル値に従って適切に補正することができる。
【0143】
補正処理部236は、図9(b)に示すように、ローパスフィルタ231を通過した信号に対して、波形判定部233から得た第一測定閾値L1と第二測定閾値L2の加算値を最初に超える直前のサンプリング値から第二測定閾値L2を最初に下回るサンプリング値までを積分範囲R2として反射信号S4を積分処理する。
【0144】
このとき、補正処理部236は、積分範囲R2に対応する積分値から第二測定閾値L2以下の領域の積分値を減算することによりオフセット誤差を除去する。尚、オフセット誤差を除去するために、積分範囲R2のサンプリング値から第二測定閾値L2を減算した値に対して積分することも可能である。
【0145】
補正処理部236は、増幅回路5bからの出力波形が飽和している旨の情報を波形判定部233から得ると、予め補正データメモリ237に格納された積分値と補正距離の関係を示す補正テーブル値に基づいて、算出した積分値に対応する補正距離Dcを算出し、先に算出した距離Dを補正し、その値をカウンタの値とともに出力メモリ236に格納する。尚、波形判定部233は、反射信号S4のピーク値が予め設定された増幅回路5bの最大出力より数%低い値に設定された閾値を超えると出力波形が飽和していると判定する。
【0146】
以上が、測距処理部23で実行される基本的な演算処理となる。
しかし、走査式測距装置1と真に検出する必要がある被測定物Oとの間にガラス等半透明の反射物O´が存在し、当該反射物O´が被測定物Oに近接していると、当該反射物O´からの反射信号が被測定物Oからの反射信号に重畳して、真に検出する必要がある被測定物Oに対する正確な距離が算出できない虞がある。
【0147】
図12(a)には、反射物O´からの反射光と被測定物Oからの反射光が重畳した反射光S3が示されている。このような反射光S3の場合、測定光の出力時期と真の被測定物Oからの反射光の検出時期との期待される時間差ΔtよりもΔtεだけ短い時間差に基づいて距離が算出されるため、正確な距離が算出できなくなる。
【0148】
このような現象は、ガラス等半透明の反射物O´に限らず、走査式測距装置1と真に検出する必要がある被測定物Oとの間に存在する樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓2aが汚れている場合に発生する。
【0149】
図12(b)には、このような反射光S3に対応した反射信号S4と、その一次微分反射信号と、二次微分反射信号が示されている。
【0150】
図8(a),(b)に示す通常の単一の反射信号S4の場合には、反射信号S4の立上り時に一次微分反射信号が第一閾値L1を超えて反射信号S4の変曲点まで単調増加し、その後単調減少して反射信号がピークとなる時期に第一閾値L1を下回り零となるので、一次微分反射信号をモニタすれば、単一の反射信号S4であることを認識できる。
【0151】
しかし、図12(b)のように、例えば二つの反射信号S4(O),S4(O´)が重畳すると、一次微分反射信号が二山形状を呈し、ピーク間の谷部で第一閾値L1を下回ることなく再度上昇し、反射光の重畳の態様によっては一次微分反射信号をモニタしても反射信号が重畳状態にあることが明確に判断できない場合がある。
【0152】
そのような場合であっても、一次微分反射信号の二山の各ピークで、それぞれ二次微分反射信号が第一閾値L1を下回り零になるため、二次微分反射信号に基づいて重畳した波形を分離することが可能になる。重畳数が二以上の反射信号であっても同様に、それぞれの反射信号に対応する波形に分離することができる。
【0153】
そこで、波形判定部233は、微分処理部232により反射信号が一次微分された一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、反射信号が二次微分された二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かを判定するように構成されている。
【0154】
波形判定部233は、一次微分反射信号が所定閾値(ノイズを排除するために適宜設定される値であるが、ここでは第一閾値L1に設定されている)以下に立下る迄に、二次微分反射信号が所定閾値(この値もノイズを排除するために適宜設定される値であるが、ここでは等しく第一閾値L1に設定されている)以上に立上る二回目の立上りを検知すると、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定するのである。
【0155】
尚、反射光が重畳している場合であっても、一次微分反射信号が所定閾値以下に立下る迄に、二次微分反射信号が所定閾値以上に立上る二回目の立上りが検知されない場合には、反射光が重畳していないと判定される。例えば、強度が強い反射光のピーク値を示す時期以降に強度がそれより弱い反射光が重畳するような場合である。この場合には、一次微分反射信号値が第一測定閾値L1を超える時期を弱い反射光に対応する反射信号と判定して処理すればよい。
【0156】
信号分離処理部234は波形判定部233による判定結果に基づいて、微分処理部232から入力される一次微分反射信号を分離して距離演算部235に出力する。そして、距離演算部235は信号分離処理部234により分離された一次微分反射信号毎に重心演算を実行して、対応する距離演算を実行する。
【0157】
つまり、波形判定部233は、微分処理部232から入力される一次微分反射信号が第一閾値L1より低い状態から第一閾値L1を超えた時点(図12(b)のtm)で反射信号の立上りを検知する区間であると判定して第一波の判定信号を信号分離部234に出力する。第一波の判定信号は一次微分反射信号が第一閾値L1より低い値に低下した時点まで出力される。
【0158】
波形判定部233は、第一波の判定信号の出力中に、微分処理部232から入力される二次微分反射信号が第一閾値L1を二回目に超えた時点(図12(b)のtn)で第二波の判定信号を信号分離部234に出力する。このような処理を繰り返すことにより、複数の反射信号が重畳した反射信号であっても、各反射信号に波形分離することができる。
【0159】
図12(b)の例では、信号分離処理部234は、各判定信号に対応して反射信号及び一次微分反射信号を分離して距離演算部235に出力する。即ち、図12(b)の区間dtmの一次微分反射信号を最初の反射信号S4(O´)の重心演算用の信号として出力し、区間dtnの一次微分反射信号を次の反射信号S4(O)の重心演算用の信号として出力する。
【0160】
距離演算部235は、区間dtmの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出するとともに、区間dtnの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出する。算出した距離は、補正処理部236で必要に応じてそれぞれ上述の補正が実行され、補正後の距離が出力メモリ238に記憶される。
【0161】
被測定物Oに対する距離は、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に、信号分離部232で分離された反射信号S4(O)の一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光の検出時期として求められ、測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて算出される。
【0162】
つまり、区間dtnの一次微分反射信号に対して実行された重心演算によって得られる重心位置を立上り時期として算出された距離となる。しかし、実際には、区間dtnに本来の反射信号S4(O)の立上り時の一次微分反射信号が含まれていないために誤差が発生し、実際よりも長い距離として算出される可能性がある。
【0163】
そこで、補正処理部237は、上述の演算処理で得られた被測定物Oに対する距離を補正するように構成されている。
【0164】
補正データメモリ237には、予め相対位置関係が既知の複数の被測定物からの反射光を重畳した反射光に対して、一次微分反射信号の立上り時期を基準に算出した距離Dmと、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離Dnと、各距離の算出対象となる反射信号のピーク値Vpm,Vpnとの関係から、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離を補正する補正データCが記憶されている。実際には、Dn−Dmと、Vpm、Vpnを変数とする補正データテーブルが補正データメモリ237に格納されている。
【0165】
補正処理部236は、Dn−Dmと、Vpm、Vpnに対応する補正データCを補正データテーブルから読み出して、真の被測定物Oに対する距離D=Dm−Cの演算処理により求める。
【0166】
当該補正データCは、予め試験によりサンプリングされた各データと各データに基づいて上述の演算処理で求められた距離と、実際の距離との間で求められた以下の相関式を基準に算出することも可能である。
C=F(Dm,Dn,Vpm,Vpn)
【0167】
この場合には、補正処理部236は、関数Fの変数にDm,Dn,Vpm,Vpnを代入して補正値Cを算出し、真の被測定物Oに対する距離D=Dm−Cの演算処理により求める。
【0168】
尚、波形判定部233で、反射光S4が複数の被測定物O,O´からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、距離演算部235は、信号分離部234で分離された反射信号S4のうち、最大のピーク値を示す反射信号S4(O)に基づき算出した距離を真の被測定物Oに対する距離として出力するように構成することも可能である。
【0169】
このように構成すると、真の被測定物Oの近傍に、ガラス等半透明の反射物O´が存在する場合や、樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓2aが汚れている場合であっても、真の被測定物Oに対する距離のみを正確に算出して出力することができる。
【0170】
本発明に用いられる走査式測距装置1は屋外で使用され、天候の影響を受けるため、霧、雨滴、雪粒からの反射光を被測定物と誤検知することが無いように構成されている。
【0171】
図13(a)に示すように、受光部5で検出されるパルス状の反射信号は、被測定物の表面反射率や被測定物迄の距離等によって、そのピーク値(p)及びパルス幅(W)が異なるが、ピーク値(P1)とパルス幅(W1)の比(P1/W1)は略一定の相似形の信号となる(図中、「反射信号(通常)」と表記された実線及び破線の波形参照)。
【0172】
これに対して、霧からの反射光は、霧の微細な粒子群からの個別の反射光が合成された反射光となり、相対的にピーク値(p2)が低く、またパルス幅(W2)が大きくなる傾向にあるため、ピーク値(P)とパルス幅(W)の比を対比すると、必ず(P2/W2)<(P1/W1)の関係が成立する。
【0173】
そこで、波形判定部233は、反射信号のピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)が所定の閾値Pb/Wb(≒P1/W1)より小さな値であると、適正な反射光でないと判定するように構成され、距離演算部235は、波形判定部233により適正な反射光でないと判定されると、距離の算出を中止し、または算出した距離の出力メモリ238への出力を中止するように構成されている。
【0174】
霧の中に被測定物Oが存在し、霧からの反射光と被測定物Oからの反射光が重畳して受光部5で検出される場合には、微分処理部232から入力される一次微分反射信号及び二次微分反射信号に基づいて、波形判定部233が第一波の反射信号、つまり図12(b)の区間dtmの反射信号部分に対してピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)を算出し、所定の閾値Pb/Wbより小さな値である場合に、第一波が霧からの反射信号であると判定すればよい。
【0175】
このような場合には、波形判定部233の判定結果を受けた距離演算部235が、上述と同様に、信号分離部234で分離された反射信号S4のうち、最大のピーク値を示す反射信号S4(O)に基づき算出した距離を真の被測定物Oに対する距離として出力するように構成すればよい。
【0176】
また、図13(b)に示すように、雨滴や雪粒からの反射光は、通常の反射光と同様、上述の所定の閾値Pb/Wb以上の値を示すが、雨滴や雪粒は測定対象空間の同一位置に長時間留まることが無いため、走査部により走査される度にそれらからの反射信号に基づいて距離演算部235で算出される距離が異なることになる。これに対して、走査周期に対して十分長い時間で動作する被測定物に対する距離は、複数の周期でほぼ一定の値を示すことになる。
【0177】
そこで、距離演算部235は、走査部により同一方向に偏向走査された測定光に対して算出した距離が複数周期で所定の許容範囲に収まるときにのみ、当該距離を雨滴や雪粒に対する距離ではなく、真の被測定物に対する距離であると判断して出力メモリ238に当該距離を出力するように構成されている。尚、このような判定を実行する周期は、走査部の走査周期と、雨滴や雪粒の降下速度との関係で定められる。
【0178】
上述した実施形態では、駅の構内に侵入した電車や列車等の車両を測定対象として、その速度情報を算出する信号処理装置を説明したが、本発明による信号処理装置は、測定方向と交差する方向に移動する移動体の速度を算出するものであれば、電車や列車等の有軌道車両に限るものではなく、道路を走行する二輪車や四輪車等の車両、人等、任意の移動体の速度を算出することができる。また、出力部から出力される走行状態情報として、停止、進行以外に速度、移動体の数等の演算によって抽出可能な任意の情報を含めることができる。
【0179】
上述した実施形態では、信号処理装置が走査式測距装置とは別の筐体で構成される場合を説明したが、本発明による信号処理装置が走査式測距装置に内蔵された形態であってもよい。
【0180】
上述した実施形態は、本発明の一実施例であり、走査式測距装置の具体的構造、測距処理部や信号処理装置の具体的な回路構成及びソフトウェア構成等は、本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0181】
1:走査式測距装置
3:投光部
5:受光部
4:走査部
23:信号処理部
71:演算部(システム制御部)
232:微分処理部
233:波形判定部
234:信号分離部
235:演算部(距離演算部)
236:演算部(補正処理部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査式測距装置から出力される測定情報に基づいて移動体の速度を算出する信号処理装置、及び走査式測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源と、LEDやレーザダイオードを光源として、当該光源からの出力光を測定光として所定の走査周期で偏向走査する走査機構と、前記測定光に対する反射光を検知する受光部と、測定光と反射光に基づいて測定対象物までの距離を算出するAM(amplitude modulation)方式またはTOF(Time of Flight)方式の走査式測距装置が知られている。
【0003】
AM方式は、正弦波でAM変調された測定光とその反射光を光電変換して、それらの信号間の位相差Δφを計算し、位相差Δφから距離Dを以下の数式に基づいて算出する方式である。
D=Δφ・C/(4π・f)
【0004】
TOF方式は、パルス状に変調された測定光とその反射光を光電変換し、それらの信号間の遅延時間Δtから距離Dを以下の数式に基づいて算出する方式である。
D=Δt・C/2
尚、数式中、Cは光速、fは変調周波数である。
【0005】
この種の走査式測距装置は、ロボットや無人搬送車の視覚センサ、或いは、ドアの開閉センサや監視領域への侵入者の有無を検出する監視センサ、さらには、危険な装置に人や物が近づくのを検出し、機械を安全に停止する安全センサ等に利用されている。
【0006】
ところで、測定対象空間に存在する移動体の速度を検知するため、レーダ装置ではドップラー効果が利用されているが、測定用の電波の伝播方向と移動体の移動方向が交差する場合には正確な速度が検知できないという問題があり、特に、測定用の電波の伝播方向と移動体の移動方向が直交する場合には、原理的に速度を検知することができない。
【0007】
特許文献1,2には、撮像装置により撮像された画像データから特定被写体を検知し、その特定被写体の位置と撮像時刻に基づいて特定被写体の速度を算出する技術が開示されている。移動体の移動方向と直交する方向から撮像した画像データであっても特定被写体の速度を算出することが可能になる。
【0008】
また、特許文献3,4には、二台の撮像素子を用いて得られたデータから三角測量法に基づいて特定被写体の三次元座標を算出し、その特定被写体の位置と撮像時刻に基づいて特定被写体の速度を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−128347号公報
【特許文献2】特開平06−266840号公報
【特許文献3】特開平06−331635号公報
【特許文献4】特開平11−211738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1,2に開示された技術は、平面的な画像データをラベリング処理して特定領域を抽出するものであり、異なる画像データ間で抽出される特定被写体の形状が変化すると、同一物であるか否かの判別が困難になる。例えば、撮像装置と特定の被写体の間に他の被写体が位置すると、特定の被写体の一部が他の被写体の影になるためである。さらに、合焦状態で画像が撮像される必要があり、撮像装置に用いられるレンズの被写界深度から外れた被写体が存在すると、ピントがぼけた画像となり適切に速度を算出できないという問題もある。
【0011】
特許文献3,4に開示された技術も上述と同様の問題が解決できるものではなく、さらに複数の撮像素子が必要となるためコストが嵩むという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、走査式測距装置による測定情報を利用して、測定光の伝播方向と交差する方向に移動する移動体の速度を正確に算出することができる信号処理装置、及び走査式測距装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による信号処理装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、測定対象空間に向けて所定の走査周期で測定光を走査する走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから移動体の速度を算出する速度演算部と、前記速度演算部で算出された速度に基づいて前記移動体の状態情報を出力する出力部と、を備えている点にある。
【0014】
記憶部に記憶された過去つまり前回の測定情報と、現在つまり今回の測定情報には、特定の対象物に対する共通のパターンが含まれている。特定の対象物が停止している場合、前回の測定情報と今回の測定情報に変化がなく走査方向に沿って同一の測定情報が得られる。しかし、特定の対象物が移動している場合は、前回の測定情報と今回の測定情報の間に走査方向に沿って変化が現れる。つまり、特定の対象物に対する共通のパターンが走査方向に沿って異なる位置に発現する。そこで、前回と今回の測定情報の何れかを走査方向にシフトさせて比較すると、あるシフト量で特定の対象物に対する共通のパターンが一致し、或は極めて近くなる。そのときのシフト量から特定の対象物の移動距離が求まり、当該移動距離を走査周期で除すれば、特定の対象物つまり移動体の速度が求まる。
【0015】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第の特徴構成に加えて、前記速度演算部は、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報を、前記移動体の速度を算出するための測定情報として採用する点にある。
【0016】
測定情報には、査式測距装置によって走査される測定光の伝播方向に沿って、走査式測距装置と移動体との間に存在する他の対象物や移動体より遠方に位置する他の対象物に対する測定情報が含まれる。それらの測定情報がノイズとなって、シフト処理時のパターンの一致判定の精度が低下する虞がある。しかし、測定情報から測定対象である移動体の背景、及び/または、前景に対応する測定情報を除去することにより、シフト処理時のパターンの一致判定が精度良くしかも容易に行なえるようになる。
【0017】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の距離情報Dが含まれ、前記速度演算部は、前記測定情報を以下の数式
X=Dcosθ、Y=Dsinθ
に基づいてX,Y二次元座標上の点列情報に変換し、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせたときに、双方の点列情報のY成分の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから距離情報Dに基づく前記移動体の速度を算出する点にある。
【0018】
査式測距装置から出力される測定情報によって、走査角度θ毎の距離情報Dが得られる。走査角度θが移動体の移動方向に沿う方向を基準とする値であるため、上述の演算式によって得られる点列のX成分が移動体の移動方向と平行なX座標軸上の値となり、点列のY成分がX座標軸からの距離、つまり移動体の移動方向に沿った表面形状を示す情報となる。そこで、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせ、移動体の移動方向に沿った表面形状の一致度が最大となるシフト量を求めることにより移動体の移動距離が正確に求められる。
【0019】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報に基づいて、前記移動体の有無を判別する移動体判別部を備え、前記速度演算部は、前記移動体判別部により前記移動体が存在すると判別された場合にのみ、前記移動体の速度を算出する点にある。
【0020】
走査式測距装置から出力される測定情報から、走査式測距装置と移動体との間に存在する他の対象物、及び/または、移動体より遠方に位置する他の対象物に対する測定情報が除去されると、残った測定情報は主に移動体に対応する測定情報となる。移動体判別部は、このような測定情報に移動体に対応する何らかの測定情報が含まれる場合に移動体が存在すると判別し、測定情報に移動体に対応する何らかの測定情報が含まれない場合に移動体が存在しないと判別する。そして、移動体判別部により移動体が存在すると判別された場合にのみ、速度演算部によって移動体の速度が算出されるため、移動体が存在しないと判別された場合に、不要な演算処理を行なう必要がなくなる。
【0021】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記出力部は、前記速度演算部で算出された速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときにのみ、前記移動体が停止している旨の状態情報を出力する点にある。
【0022】
出力部から移動体の状態情報として停止状態であるか移動状態であるかの判定情報が出力される。出力部は、速度演算部で算出された速度が所定の停止判定閾値より低い場合に、停止状態であると判定するのであるが、移動体の特性によっては対応する測定情報に基づいて正確な移動速度が得られずに、停止判定閾値より低い速度であり、停止していると誤判定する虞もある。そのような場合であっても、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいという更なる条件を満たすときに移動体が停止していると判定することによって、判定精度を向上させることができる。
【0023】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第五の特徴構成に加えて、前記単位走査毎の測定情報に、前記走査角度θ毎の反射光の強度情報Iが含まれ、前記速度演算部は、さらに、過去と現在の単位走査毎の強度情報Iを走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報Iの一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出し、前記出力部は、前記速度演算部で算出された距離情報Dに基づく速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときであっても、強度情報Iに基づく前記移動体の速度が停止判定閾値以上であれば、前記移動体が移動している旨の状態情報を出力する点にある。
【0024】
走査角度θ毎に得られる反射光の強度情報Iに対しても、上述と同様のアルゴリズムを採用して移動体の速度を算出することができる。移動体の速度を距離情報と反射光の強度情報の二種類の情報に基づいて算出するという冗長性を持たせることにより、距離情報に基づいて算出される移動速度の確からしさを反射光の強度情報に基づいて算出される移動速度によって確認することで、移動体に対する状態情報の判定制度を向上させるのである。
【0025】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、前記速度演算部は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出する点にある。
【0026】
走査角度θ毎に得られる反射光の強度情報Iに対して、上述と同様のアルゴリズムを採用して移動体の速度を算出するのである。
【0027】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述した第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報に、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報が含まれる比率が所定値以上になると、前記走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定して、その旨を報知する報知部を備えている点にある。
【0028】
走査式測距装置の出力窓が汚れ、測定光が出力窓の表面から内側に反射すると、その反射光に対応する測定情報は、移動体より近傍の前景に対する測定情報となる。そのような前景に対する測定情報が、単位走査毎の測定情報に所定比率以上含まれると、移動体を適正に検知できなくなるため、報知部から出力窓が汚れている旨の報知を行なうことにより、適切なメンテナンスを促すことができるようになる。
【0029】
本発明による走査式測距装置の特徴構成は、光源と、光源からの出力光を測定光として所定の走査周期で偏向走査する走査機構と、前記測定光に対する反射光を検知する受光部と、測定光と反射光に基づいて単位走査毎に測定情報を生成して出力する測定情報処理部と、上述した第一から第七の何れかの特徴構成を備えた信号処理装置を備えている点にある。
【発明の効果】
【0030】
以上説明した通り、本発明によれば、走査式測距装置による測定情報を利用して、測定光の伝播方向と交差する方向に移動する移動体の速度を正確に算出することができる信号処理装置、及び走査式測距装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a),(b),(c)は本発明による信号処理装置及び走査式測距装置の設置環境の説明図
【図2】本発明による信号処理装置のブロック構成図
【図3】(a)は走査式測距装置で測定された走査角度θに対応する距離DをX,Y座標変換したときの点列の説明図、(b)は車両の移動時に走査周期T異なる点列の説明図、(c)は車両の停止時に走査周期T異なる点列の説明図
【図4】信号処理装置によって実行される速度推定処理の手順を示すフローチャート
【図5】信号処理装置によって実行される速度演算処理の手順を示すフローチャート
【図6】信号処理装置によって実行される状態判定処理の手順を示すフローチャート
【図7】走査式測距装置の構成図
【図8】(a)は複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光に基づく測距原理の説明図、(b)は一次微分反射信号及び二次微分反射信号の説明図
【図9】(a)は増幅回路で増幅された反射光に対応する信号波形の説明図、(b)は反射信号の信号処理に際して必要となる閾値等の説明図
【図10】走査式測距装置の信号処理ブロックの構成図
【図11】走査式測距装置の信号処理ブロックのうち、測距処理部の詳細な構成図
【図12】(a)検出対象からの反射光とそれ以外のノイズ反射光とが重畳する場合の波形説明図、(b)は検出対象からの反射光とそれ以外のノイズ反射光とが重畳する場合の信号処理原理の説明図
【図13】(a)は走査式測距装置で検出される通常の反射光と霧からの反射光の相違を示す説明図、(b)は走査式測距装置で検出される通常の反射光と雨滴等からの反射光の相違を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明による信号処理装置、及び、走査式測距装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1(a),(b)に示すように、鉄道のプラットホーム200に停車した移動体の一例である車両100の側面を臨むように、走査式測距装置1が天井部に架け渡された横梁(図示していない)に設置されている。走査式測距装置1は、測定対象空間に向けて所定の走査周期で測定光を走査し、測定対象空間からの反射光を受光して単位走査毎に測定情報を出力する。
【0034】
走査式測距装置1で計測された測定情報が信号処理装置30に入力され、信号処理装置30で車両の走行速度が算出され、走行速度に基づいて車両が走行しているのか停止しているのかを示す走行状態情報が生成される。信号処理装置30から走行状態情報が構内放送システム40に出力され、走行状態情報等に基づいて構内放送システム40による適切な構内放送がなされる。
【0035】
構内放送システム40は、例えばスピーカを介して、プラットホームへの到着車両の行先情報、発車時刻情報等の音声メッセージに加えて、走行状態情報に基づいて駅構内に車両が進入しつつある旨の音声メッセージ、進入した車両が停止している旨の音声メッセージ、車両が進行しつつある旨の音声メッセージ等を報知して、健常者以外の利用客にも十分な注意を促すシステムである。
【0036】
走査式測距装置1は、車両の天井部よりやや高い位置で、車両の側方から距離Lだけ離隔した位置に設置され、測定光が、プラットホーム200からの高さHの位置で車両の側部101の窓部102やドア部103を横切るように、水平面に対して角度φで走査される。
【0037】
本実施形態では、距離Lが約3000mm、高さHが約1700mm、角度φが約35度から40度程度に設定されているが、この値に限るものではない。
【0038】
図1(c)に示すように、走査式測距装置1によって、車両100の移動方向に沿うX軸方向を基準に、走査式測距装置1の設置位置である原点を中心として左周りに走査角度θが0度から180度の間で測定光が走査され、走査式測距装置1を通るY軸を中心に±50度の範囲の測定情報が生成される。測定情報には、タイムスタンプされた走査角度θと、走査角度θに対する距離情報D、及び、そのときの反射光の強度情報Iが含まれている。
【0039】
単位走査で得られる測定情報に占める移動体の情報量が密になるように、移動体である車両100の横幅つまり走査方向の幅よりも測定光の走査幅が狭く設定されている。移動体の横幅よりも測定光の走査幅が大きくなる場合で、走査幅内に複数の異なる移動体が存在する場合には、それらを個別に識別することが困難になる場合がある。その場合には、測定光の走査幅を走査方向に沿って複数領域に区分して、各領域毎に後述する速度演算処理等を実行すればよい。
【0040】
図2に示すように、信号処理装置30は、産業用のCPUボード等で構成され、走査式測距装置1から出力される測定情報を受信する入力部31としてのUSBインタフェースと、受信した測定情報を記憶するRAM等の記憶部32と、速度演算部33と、シリアルインタフェースを備えた出力部34等を備えている。
【0041】
速度演算部33は、主にCPUと制御プログラムが記憶された半導体メモリと入出力回路等の周辺回路でハードウエアが構成され、制御プログラムを実行するCPUによって、記憶部32に記憶された単位走査毎の測定情報が読み出され、その測定情報に基づいて車両100の走行速度(移動体の速度)が算出され、その結果が記憶部32に記憶される。
【0042】
出力部34は、速度演算部33によって算出された車両100の走行速度に基づいて、車両が停止しているのか、走行しているのかの状態を判定し、対応する走行状態情報を構内放送システム40に出力する。
【0043】
詳述すると、出力部34は、速度演算部33で算出された速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときにのみ、車両100が停止している旨の状態情報を出力する。
【0044】
速度演算部33は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量と走査周期とから移動体の速度を算出する。
【0045】
速度演算部33は、記憶部32に記憶された測定情報を以下の数式に基づいてX,Y二次元座標上の点列情報に変換し、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせたときに、双方の点列情報のY成分の一致度が最大となるシフト量と走査周期Tとから距離情報Dに基づく移動体の速度を算出する。
X=Dcosθ、Y=Dsinθ
【0046】
図3(a)には、速度演算部33によって測定情報がX,Y二次元座標上の点列Pi(x、y)に変換された様子が示されている。iは一回の走査で得られるデータの順序に対応する識別子で、i=1〜n(nは正整数)である。
【0047】
図3(a)に示される小さな丸印のそれぞれが点列Pi(x、y)となり、点列Pi(x、y)を連結した矩形の波形(実線で示されている)により、車両の側面の表面部101、窓部102、ドア部103に対応した表面形状が示されている。各点列Pi(x、y)のY座標がX軸を基準とする車両表面までの距離となるのである。
【0048】
図3(b),(c)には、走査式測距装置1から入力される前回走査時の測定情報から求められた各点列を接続した矩形の波形と、今回走査時の測定情報から求められた各点列を接続した矩形の波形が上下に示されている。図3(c)に示すように、車両100が停止している場合には、前回走査時の矩形の波形と今回走査時の矩形の波形はX軸方向にずれることなく完全に一致するが、図3(b)に示すように、車両100が動いている場合には、前回走査時の矩形の波形と今回走査時の矩形の波形がX軸方向に相対的にずれる。
【0049】
速度演算部33は、前回走査時と今回走査時のX軸方向へのズレ量であるシフト量Sを求め、次式に示すように、求めたシフト量Sを走査周期Tで除算することにより車両の移動速度を算出する。
移動速度V=シフト量S/走査周期T
【0050】
移動速度の算出に際して、速度演算部33は、過去と現在の単位走査毎の測定情報から車両100より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、車両100より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報を、移動体の速度を算出するための測定情報として採用するように構成されている。
【0051】
車両100の背景は本来固定値であるが、背景にノイズ源となる他の移動体が存在すると、シフト量が精度良く求められなくなる虞があるため、背景に対する測定情報を除去することが好ましいのである。
【0052】
車両100の窓やドアの高さより高い位置では、車両の側面部の表面が平坦となり、シフト量算出のための良好な凹凸が検知できないため、走査式測距装置1の測定光は、車両の窓部やドア部を横切る高さを走査するように設定されている。
【0053】
また、プラットホーム200上では、車両100の乗降客が移動しているため、測定光の走査高さを低くすると、混雑時に人間により車両100が検知できなくなるため、斜め上方から斜め下方に向けて測定光を走査し、その走査高さHを約1700mmに設定している。
【0054】
そのため、測定情報には、車両100の前景として乗降客の頭部等が含まれる場合が生じる。前景にノイズ源となる人が存在すると、シフト量が精度良く求められなくなる虞があるため、前景に対する測定情報を除去することが好ましいのである。
【0055】
測定情報に含まれる距離情報に基づけば、前景や背景と車両100の側面とを容易に識別することができる。測定情報から背景のみ除去してもよいし、前景のみを除去してもよい。また、背景、前景の双方を除去してもよい。
【0056】
速度演算部33に、記憶部32に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から車両100より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、車両100より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報に基づいて、車両100の有無を判別する移動体判別部を備えている。そして、速度演算部33は、移動体判別部により車両100が存在すると判別された場合にのみ、車両100の速度を算出するように構成されている。
【0057】
図4には、信号処理装置30で実行される速度推定処理の手順が示されている。走査式測距装置1から走査周期T(本印実施形態ではT=50msec.に設定されている。)と同期して各走査周期で測定された測定情報(本実施形態では、走査角度0.25度ピッチで400組の測定情報となる。)が出力される。入力部31を経由して走査式測距装置1から測定情報が入力されると、当該測定情報が記憶部32に記憶される(SA1)。
【0058】
速度演算部33によって、記憶部32に記憶された測定情報から走査角θと走査角θに対する距離情報D及び強度情報Iが読み出され、距離情報が上述した数式に基づいてX,Y座標変換される(SA2)。
【0059】
座標変換後の距離情報のY成分データは、車両100の側面で約2500mm前後となる。このY成分データが所定の最小閾値(例えば100mm)よりも短い値を示している場合には、エラーデータと判定されて当該Y成分データが「0」に設定される。また、当該Y成分データが100mm以上1000mm未満の値を示す場合にも、前景の距離データ、つまり車両100と走査式測距装置1との間に存在している人等を示すデータであると判定されて当該Y成分データが「0」に設定される(SA3)。
【0060】
記憶部32に背景データが格納されているか否かが、速度演算部33によってチェックされ(SA4)、背景データが格納されていないと判断されると、ステップSA3で処理された座標変換後の距離情報とそれに対応する強度情報が、背景データとして記憶部32に記憶される(SA12)。
【0061】
通常、鉄道の営業時間外つまり車両100が存在しない時間帯に走査式測距装置1がプラットホームに設置され、そのときにステップSA12が実行されるが、その後、信号処理装置30に設けられた初期化スイッチが操作されると、記憶部32に区画された背景データの格納領域がリセットされ、走査式測距装置1から最初に入力された測定情報が背景データとして記憶部32に記憶される(SA12)。
【0062】
ステップSA4で、既に背景データが記憶部32に登録されている場合には、座標変換後の距離情報のY成分データと対応する背景のY成分データの差分が各X座標について求められ、差分が所定の閾値(本実施形態では、1000mmに設定されている。)よりも小さい場合に背景に属するデータであると判定され、当該Y成分データが「1」に設定される(SA5)。
【0063】
つまり、座標変換後のY成分データは、エラーまたは前景である場合に「0」に、背景である場合に「1」に設定されるので、それら以外の値であれば車両100の側面に対応する距離であると判定できる。
【0064】
その結果、任意の走査周期に対応する400個のY成分データの何れもが「0」または「1」である場合に、車両100がプラットホーム200に進入していないと判定されて処理が終了し(SA6,N)、400個のY成分データの何れかが「0」または「1」以外の値である場合に、車両100がプラットホーム200に進入または停車していると判定されて(SA6、Y)、その後、速度演算処理が実行される(SA7)。つまり、ステップSA3,SA5,SA6の処理が移動体判別部によって実行される。
【0065】
尚、400個のY成分データのうち、「0」または「1」以外の値である比率が所定の比率(適宜設定される値で、例えば、40%に設定することができる。)より大きいときに、車両100がプラットホーム200に進入または停車していると判定されるように構成してもよい。
【0066】
さらに、車両100がプラットホーム200に進入または停車していると判定され(SA6、Y)、単位走査毎の測定情報に車両100より近傍の前景に対する測定情報が含まれる比率が所定値以上になると、走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定するステップを実行するように構成してもよい。
【0067】
この場合、ステップA3で、Y成分データがエラーデータであると判定された場合と、前景の距離データであると判定された場合とでマスクする値を異ならせ、Y成分データがエラーデータであると判定された比率が所定値以上になると、走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定するステップを実行するように構成することが好ましい。
【0068】
当該ステップは速度演算部33に備えた機能ブロックの一つである報知部で実行される。そして、報知部は、出力窓が汚れていると判定すると、その旨を走査式測距装置1に備えた表示用LEDを点灯するようにUSBインタフェースを介して指令を送信するように構成されている。出力窓の汚れを検出するための閾値となる比率は実験等で適宜設定すればよく、本実施形態では30%から40%の間の数値に設定されている。
【0069】
図5で詳述するが、ステップSA7の速度演算処理は、X軸方向に沿って正方向つまり右方向の速度データと、負方向つまり左方向の速度データがそれぞれ算出される。速度演算部33によって、算出された車両の速度データがそれぞれ記憶部32に記憶され、さらに、今回の測定情報が次回の速度演算処理で用いられる前回の測定情報として記憶部32に更新記録される(SA8)。
【0070】
ステップSA9では、ステップSA7で算出され、記憶部32に記憶された過去8回の右方向及び左方向の速度データが出力部34によって読み出され、それぞれの平均値(直近の8×50msec.=400msec.の平均速度)が推定速度として算出されて記憶部32に記憶される。
【0071】
そして、ステップSA10では、データ出力部34によって、直近から所定時間内(例えば、1000msec.程度)に算出された複数の推定速度が記憶部32から読み出され、車両100が停止しているか、進行しているかの走行状態が判定され、その判定結果が記憶部32に記憶される。
【0072】
ステップSA11では、記憶部32に記憶された判定結果である走行状態情報が構内放送システム40に出力される。
【0073】
図5には、図4のステップSA7で示した速度演算処理の詳細手順が示されている。今回の測定情報で座標変換された点列のデータをNPi(xi,yi)、前回の測定情報で座標変換された点列のデータをPPi(xi,yi)とする。i=1〜n(n=400)で、初期値がi=1に設定されている。
【0074】
図3(b)に示すように、点列のX座標軸方向のシフト量をs(s=0〜pで、初期値がs=0に設定され、pはn=400以下の所定の整数で想定最大速度等に基づき設定される)として、前回の測定情報で座標変換された点列をsだけ右にシフトした点列のデータをPPi+s(xi+s,yi+s)とする。
【0075】
速度演算部33は、NPi(xi,yi)とPPi+s(xi+s,yi+s)のY成分を対比して(SB1)、何れかのY成分が「0」、または「1」にマスクされている場合には(SB2,Y)、初期値が零に設定されているマスクカウンタ(MKカウンタ)に1加算し(SB7)、何れのY成分も「0」、または「1」にマスクされていない場合には(SB2,N)、各Y成分の差分の絶対値を算出し、その値が所定の閾値Pthより小さい場合に(SB3,Y)、マッチカウンタ(MTカウンタ)に1加算し(SB4)、閾値Pth以上であれば(SB3,N)、ステップSB4をスキップする。
【0076】
i=n−s(n=400)であるか否か、つまり、400−s個のデータが全て比較されたか否かが判断され、未だ比較が完了していない場合には(SB5,N)、iに1加算してステップSB1に戻る(SB6)。400−s個のデータが全て比較された場合には(SB5,Y)、シフト量sに対する評価値Vが、以下の数式に基づいて算出される(SB8)。
評価値V=MTカウント値/(n−s−MKカウント値)
【0077】
但し、評価値Vは、(n−s−MKカウント値)≧150のときに有効と判定され、(n−s−MKカウント値)<150のときに無効と判定される。基準値150は、点列の数に基づいて予め実験等に基づいて設定される値で、本実施形態では400−s個の点列のうち有効な点列が150個以上あれば、信頼性の高い評価値が得られるとの知見に基づいているが、この値は特に制限されるものではない。
【0078】
シフト量sが最大シフト量s=pまでシフトしたか否かが判定され、未だ最大シフト量s=pまでシフトされていなければ(SB9,N)、シフト量sに1加算してステップSB1に戻る(SB10)。シフト量sが最大シフト量pに達していると(SB9,Y)、シフト量sに対する各評価値Vのうち最大の評価値Vが得られるシフト量Sが抽出され(SB11)、以下の数式に基づいて、車両100の左方向への移動速度が算出されて、記憶部32に記憶される(SB12)。
移動速度=シフト量S/走査周期T
【0079】
前回の測定情報で座標変換された点列をsだけ左にシフトした点列のデータに対しても、ステップSB1からステップSB12迄の処理が実行され、車両100の右方向への移動速度が算出されて、記憶部32に記憶される。
【0080】
さらに、今回の測定情報に含まれる反射光の強度情報Iを用いた点列のデータをNPi(xi,Ii)、前回の測定情報に含まれる反射光の強度情報Iを用いた点列のデータをPPi(xi,Ii)として、上述のステップSB1からステップSB12迄の処理が実行され、強度情報に基づく車両100の左方向及び右方向への移動速度が算出されて、記憶部32に記憶される。移動体の表面からの反射光が、その表面形状や反射率に基づいて一定の強弱パターンを示す点に着目するものである。尚、この場合、ステップSB2の判定では、車両100表面からの反射光が取りうる強度と大きく異なる強度が「0」にマスクされている。
【0081】
図6には、図4のステップSA10で示した状態判定の詳細手順が示されている。記憶部32には、測定情報に含まれる距離データから算出された左方向の推定速度と右方向の推定速度がそれぞれ格納されている(ステップSC1で「距離速度」と表記しているのは、距離データから算出された速度である旨を示すためであり、ステップSC6で「強度速度」と表記しているのは反射光の強度に基づいて算出された速度である旨を示すためである。)
【0082】
出力部34によって、記憶部32に記憶された左右直近の推定速度データが読み出され、左右何れかの推定速度が走行判定閾値Vathよりも大きいと判定されると(SC1、Y)、車両100が走行していると判定される(SC8)。判定情報は走行状態情報として記憶部32に記憶される。
【0083】
ステップSC1で、左右何れの推定速度も、停止判定閾値Vothより小さいと判定されると(SC1,N)、次に、左右何れかの推定速度の速度変化が速度変化閾値より大きいか小さいかが判定され、少なくとも一方の速度変化が速度変化閾値より大きければ(SC2,Y)、ステップSC3のタイムスタンプチェックが実行され、NG判定されると車両100が停止していると判定され(SC4)、OK判定されると車両100が走行していると判定される(SC5)。判定情報は走行状態情報として記憶部32に記憶される。停止判定閾値Vothは、走行判定閾値Vathより小さな値に設定されている。
【0084】
タイムスタンプチェックとは、走査式測距装置1から入力された測定情報に含まれるタイムスタンプから、速度演算に用いた測定情報が走査周期Tより長い周期の測定情報であるか否かを判定する処理である。
【0085】
図4のステップSA1で説明したように、速度演算は、走査式測距装置1から測定情報が入力されたタイミングで実行されるが、何らかの原因で測定情報が走査周期Tに同期して取り込まれなかった場合には、少なくとも走査周期Tの2倍以上の周期で取り込まれた測定情報に対して速度演算が実行され、その速度が本来の速度よりも大きな値になる。
【0086】
このような場合に備えてタイムスタンプチェックが実行され、測定情報が走査周期Tに同期して取り込まれなかった場合には、算出された速度の信頼性が無いとしてNG判定され、測定情報が走査周期Tに同期して取り込まれている場合には、算出された速度の信頼性があるとしてOK判定がなされる。
【0087】
左右何れの推定速度の速度変化も速度変化閾値より小さい場合であっても直ちに停止判定されず(SC2,N)、強度に基づく左右何れかの速度が所定の閾値より大きいか否かが判定され(SC6)、大きければ走行判定され(SC5)、小さければ停止判定される(SC7)。
【0088】
つまり、単位走査毎の測定情報に、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、速度演算部は、さらに、過去と現在の単位走査毎の強度情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と走査周期とから強度情報に基づく移動体の速度を算出し、出力部は、速度演算部で算出された距離情報Dに基づく速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときであっても、強度情報Iに基づく移動体の速度が停止判定閾値以上であれば、移動体が移動している旨の状態情報を出力するように構成されている。
【0089】
車両100が貨物列車である場合、ドア部や窓部がないため、僅かなシフト量でも、前回と今回の点列のY成分データの一致度が高い値となって、実際の走行速度よりも極めて低い値となる場合がある。そのような場合に、誤判定を回避するためにステップSC2が設けられている。
【0090】
ステップSC2では、二つの判定が実行され、何れかの判定で速度変化が大きいと判定されるとステップSC3に分岐し、何れの判定でも速度変化が小さいと判定されるとステップSC6に分岐する。
【0091】
第一の判定では、過去1000msec.程度の間の推定速度(この場合、推定速度のデータ数は1000/50=20)のうち、最大値と現在の推定速度との傾き(両推定速度の差分を時間差で除した値)が所定の第1速度変化閾値以上のときに走行判定され、最大値と現在の推定速度との傾きが第1速度変化閾値よりも小さければ停止判定される。
【0092】
第二の判定では、過去2000msec.程度の間の推定速度の平均値を算出し、さらに、当該平均値と各推定速度との偏差の絶対値の平均値を算出し、偏差の絶対値の平均値が所定の第2速度変化閾値以上のときに走行判定され、第2速度変化閾値より小さいときに停止判定される。
【0093】
尚、図6には記載していないが、ステップSC1において左右の何れかの推定速度が走行判定閾値Vathと停止判定閾値Vothの間にあるときは、走行判定または停止判定は状態判定処理開始時点の状態を保持したまま処理を終了する。このことによって推定速度が走行判定閾値または停止判定閾値近傍にあるときにヒステリシス効果を発揮し、走行判定/停止判定が頻繁に切り替わることを防ぐことができる。またステップSC4において、図6ではただちに停止判定が行われているが、ステップSC4の前にステップSC6のような強度速度による停止判定を設け、判定精度の向上を図ることもできる。
【0094】
以上説明した実施形態では、単位走査毎の測定情報のうち主に距離情報に基づいて車両100の走行速度を算出し、その走行速度に基づく状態情報の信頼性を担保するために、補助的に反射光の強度情報を用いた例を説明したが、距離情報を用いずに強度情報のみで速度情報を算出し、状態情報を生成するように構成してもよい。
【0095】
つまり、移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、速度演算部は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と走査周期とから強度情報に基づく移動体の速度を算出するように構成してもよい。
【0096】
上述した実施形態では、図1(c)で説明したように、走査式測距装置1と車両が最短距離となる方向をY軸とし、それに直交するX軸方向に車両が移動する場合を例に説明したが、この場合、想定されるX,Y座標に合致するように走査式測距装置1の設置姿勢を調整する作業は煩雑である。
【0097】
そこで、走査式測距装置1が予め設定された走査角度範囲の測定情報を信号処理装置30に出力し、信号処理装置30で移動体の移動方向を算出する演算処理を実行して、その結果に基づいて移動体の移動方向が図1(c)で説明したX軸方向となるような走査角度範囲を求め、当該走査角度範囲を走査式測距装置1に出力して、走査式測距装置1から当該走査角度範囲での測定情報が出力されるように構成してもよい。
【0098】
また、対象となる走査角度範囲よりも広い走査角度範囲の測定情報が走査式測距装置1から出力されるように構成し、信号処理装置30が、移動体の移動方向を算出する演算処理を実行して、その結果に基づいて移動体の移動方向が図1(c)で説明したX軸方向となるような走査角度範囲を求め、当該走査角度範囲の測定情報に基づいて上述した速度算出処理を実行するように構成してもよい。
【0099】
例えば、信号処理装置30が測定情報を任意のX,Y直交座標系の点列に座標変換し、X方向及びY方向に個別に一致度が最大となるシフト量を求め、それぞれの最大シフト量に基づいてX方向速度とY方向速度を算出し、Y方向速度が零となるようにX,Y直交座標系を回転させ、その回転角度から必要な走査角度範囲を算出すればよい。
【0100】
このように、移動体が直線運動する場合には、その移動方向がX軸に沿うように自動設定すれば、精度の高い速度が算出できるようになる。勿論、任意のX,Y直交座標系の点列に座標変換し、X方向及びY方向に個別に速度を算出するように演算処理を実行してもよいことはいうまでもない。
【0101】
以下、本発明に用いられる走査式測距装置1の構成について詳述する。
図7に示すように、走査式測距装置1は、一対の投光部3及び受光部5を収容する円筒状のケーシング2と、ケーシング2の周方向に沿って配置された弧状の光学窓2aを備え、投光部3から出力された測定光を円筒状ケーシングの軸心Pと直交する方向に偏向反射する第一偏向ミラー9、及び、被測定物からの反射光を受光部5に向けて偏向反射する第二偏向ミラー10を軸心P周りに回転して、測定光を軸心Pと直交する平面上で回転走査する偏向光学系4を備えている。
【0102】
ケーシング2の内壁面は迷光を吸収する暗幕等の吸光部材で被覆され、軸心Pに沿って対向配置された投光部3と受光部5の間に、偏向光学系4が配置されている。
【0103】
投光部3は、赤外半導体レーザでなる発光素子と、発光素子から出力された光ビームを平行光に形成する光学レンズを備えて構成され、ケーシング2の上壁に固定されている。
【0104】
受光部5は、反射光を検出するアバランシェフォトダイオードでなる受光素子を備えて構成され、ケーシング2に固定された中空軸13上の支持板上に固定されている。
【0105】
偏向光学系4は、第一偏向ミラー9及び第二偏向ミラー10が取り付けられた天面8bと、反射光を受光部5で集光する受光レンズ14が取り付けられた周壁部8aを備えた円筒状の回転体8と、回転体8を一方向に回転駆動するモータ11を備えている。
【0106】
下端部が縮径された回転体8は、その内周面に備えた軸受12を介して中空軸13に回転可能に支承され、縮径部の外周面にモータ11の回転子となるマグネット11bが取り付けられている。当該回転子と、当該回転子に対向配置されたコイル11aでなる固定子によりモータ11が構成され、固定子のカバーがケーシング2に固定された中空軸13に取り付けられている。
【0107】
投光部3から光軸L1に沿って出射された測定光が、第一偏向ミラー9で光軸L1と直交する光軸L2に偏向され、光学窓2aを通過して測定対象空間に向けて照射される。測定対象空間に存在する被測定物Oからの反射光が、光軸L2と平行な光軸L3に沿って光学窓2aを通過して受光レンズ14に入光し、第二偏向ミラー10で光軸L3と直交する光軸L4に偏向され、受光部5に集光される。
【0108】
第一偏向ミラー9で偏向された測定光が光学窓2aの上方領域を透過し、被測定物Rからの反射光が光学窓2bの下方領域を透過する。
【0109】
モータ11で回転駆動される偏向光学系4により、測定光が光学窓2aを介して測定対象空間に走査される範囲、具体的には上述した軸心Pを基準とする約180度の角度範囲が計測用走査角度領域となり、測定光がケーシング2に遮られて測定対象空間に出射されない角度領域が非計測用走査角度領域となる。
【0110】
つまり、偏向光学系4により、投光部3から出力された測定光を、光学窓2aを介して測定対象空間に周期的に偏向走査する走査部が構成されている。
【0111】
周方向に複数のスリットが形成された円盤状のスリット板15aが、回転体8の周壁部8aに取り付けられるとともに、当該スリットを検出するフォトインタラプタ15bがケーシング2の内壁に取り付けられ、これらにより偏向光学系4の走査角度を検出する走査角度検出部15が構成されている。
【0112】
スリット板15aに形成されるスリットは、測定光が非走査角度領域の中心に向けて照射される基準位置を除いて均等間隔で形成され、基準位置ではスリット間隔が他の間隔より狭い間隔に形成されている。従って、偏向光学系4の回転に伴なって走査角度検出部15から出力されるパルスのパルス幅に基づいて、基準位置から偏向光学系4の回転角度位置が把握できるように構成されている。
【0113】
非走査角度領域の中心には、距離補正用の基準光学系としてのプリズム16が設けられ、当該プリズム16を介して受光部5で検知される反射光に基づいて、補正用の基準距離が求められる。
【0114】
ケーシング2の底部には、装置を駆動して被測定物までの距離を算出する信号処理回路20を備えた制御基板17が収容されている。
【0115】
図10に示すように、信号処理回路20には、発光素子3aを駆動する駆動回路3b、反射光が受光素子5aで光電変換された反射信号を増幅する増幅回路5b、A/D変換部22、測距処理部23、モータ制御回路21、システム制御部24を備えている。測距処理部23及びシステム制御部24によって測定情報を生成する測距演算装置が構成されている。
【0116】
システム制御部24から本発明による信号処理装置30に測定情報が出力され、信号処理装置30で車両100の移動速度が算出され、移動速度に基づいて車両100の状態情報が構内放送システム40に出力される。
【0117】
システム制御部24には、マイクロコンピュータが設けられ、所定の制御プログラムに基づいて動作するマイクロコンピュータによって測距処理部23、モータ制御回路21等が制御される。
【0118】
システム制御部24は、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに基づいて、走査角度つまり測定光の照射方向を検出するとともに、偏向光学系4によって測定光が所定の一定速度で周期的に測定対象空間に走査されるようにモータ制御回路21を制御する。そして、測距処理部23から入力される反射光強度と、距離と、走査角度検出部15を介して検出した走査角度にタイムスタンプを付加した測定情報を、USBインタフェースを介して信号処理装置30に出力する。
【0119】
図8(a)及び図10に示すように、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに同期して、測距処理部23から駆動回路3bに出力される駆動パルス信号S1により赤外半導体レーザ3aがパルス駆動され、測定対象空間にパルス状の測定光S2が照射される。
【0120】
当該測定光S2が被測定物に照射され、被測定物からの反射光S3がアバランシェフォトダイオード5aで光電変換され、さらに増幅回路5bで増幅された反射信号S4がA/D変換部22に入力される。
【0121】
A/D変換部22でA/D変換されたデジタルの反射信号が測距処理部23に入力され、測距処理部23で駆動パルス信号S1と反射信号の時間差Δtが求められ、以下の式に基づいて被測定物迄の仮の距離D1が算出される。
D1=Δt・C/2 (但し、Cは光速)
【0122】
一方、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスが基準位置を示すときに、測定光がプリズム16に照射され、アバランシェフォトダイオード5aで検出されたプリズム16からの反射光S3に基づく時間差Δt´に対応する基準距離D2が以下の式に基づいて算出される。
D2=Δt´・C/2 (但し、Cは光速)
【0123】
被測定物迄の距離Dが、D1−D2によって算出される。当該基準距離D2は、走査式測距装置1に組み込まれた赤外半導体レーザ3a、駆動回路3b、アバランシェフォトダイオード5a等の特性ばらつきや、光学系の機差による計測距離のばらつきを吸収して、被測定物迄の正確な距離を算出するための補正値となる。
【0124】
ところで、反射信号S4の立上り時期を検知するために信号値を所定の閾値で比較する比較器を設ける場合、同じ時期に発生する反射信号S4であっても、その信号強度によって比較器からの出力時期が変動し、正確に反射信号S4の立上り時期を検知できない虞がある。
【0125】
そのため、測距処理部23は、反射信号S4を一次微分し一次微分反射信号の立上り時期を基準に当該一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光S3の検出時期として求めるように構成されている。
【0126】
図11に示すように、測距処理部23は信号処理用のゲートアレイやデジタルシグナルプロセッサを備えたASICやFPGA等の集積回路で構成され、A/D変換部22からのA/D変換信号を入力処理するデジリアライザ230、ローパスフィルタ231、微分処理部232、波形判定部233、信号分離部234、距離演算部235、補正処理部236、補正データメモリ237、出力メモリ238、パルス信号生成部239等の処理ブロックを備えている。
【0127】
パルス信号生成部239は、走査角度検出部15から入力されるエンコーダパルスに同期して、駆動回路3b及び距離演算部235に駆動パルス信号S1を出力するブロックである。
【0128】
A/D変換部22からデシリアライザ230に、複数のA/D変換データが並列化されて同時に入力されたデジタルの反射信号が、デシリアライザ230で時系列的に整列された後、高周波ノイズ成分を除去するローパスフィルタ231を介して微分処理部232及び波形判定部233に入力される。
【0129】
微分処理部232は、反射信号を一次及び二次微分処理して、一次微分反射信号及び二次微分反射信号を波形判定部233及び信号分離部234に出力する。
【0130】
図8(b)には反射信号と一次微分反射信号が例示されている。微分処理部232は、K番目(Kはサンプリング順序を示す整数である)のサンプリング値とK−1番目のサンプリング値との差分を各Kについて求め、その値を一次微分反射信号として算出する。さらに、各Kについて求めた一次微分反射信号とK−1番目に求めた一次微分反射信号との差分を求め、その値を二次微分反射信号として算出する。尚、本実施形態では、差分値が負となる場合には零に丸め込み、正領域のみ抽出するように構成されている。
【0131】
波形判定部233は、測定光が出力される前にローパスフィルタ231を介して入力される信号の最大レベルから最小レベルを減算して、反射信号を識別するための第一測定閾値L1を算出するとともに、その信号の平均レベルをオフセット値に対応した第二測定閾値L2として算出する。
【0132】
つまり、測定光が出力される迄にA/D変換部22でサンプリングされた信号に基づいて、増幅回路5bのオフセットレベルや微小な外乱光によるノイズ信号のレベルが算出される。
【0133】
距離演算部235は、微分処理部232から入力される一次微分反射信号から、第一測定閾値L1より大となる領域の信号成分を抽出し、その正側領域(図8(b)に示す微分波形)の重心位置を反射光S3の立上りタイミング、つまり検出時期として算出し、パルス信号生成部239から入力される駆動パルス信号S1の立上りエッジを測定光の出力時期として、当該反射光の検出時期との時間差に基づいて被測定物までの仮の距離D1を算出するとともに、駆動パルス信号S1の数をカウントするカウンタの値を1加算する。尚、当該カウンタの値は、走査部の一回転毎にリセットされる。
【0134】
図8(b)に示すように、一次微分反射信号のうち第一測定閾値L1を二回連続して超えるサンプリングポイントを検出し、二回目に第一測定閾値L1を超えたポイントの一次微分反射信号値Dnを中心として、例えば前後に連続する10点のサンプリングポイント(n−10〜n+10)を重心演算範囲R1として、〔数1〕に示す数式に基づいて重心位置Gを算出する。
【0135】
つまり、重心位置Gはサンプリングポイント(n−10)からの時間情報として算出される。尚、重心演算に寄与するサンプリングポイントの選定は、この例に限るものではなく、二回目に第一測定閾値L1を超えたポイントの一次微分反射信号値Dnを中心として、一次微分反射信号値が第一測定閾値L1を超える直前のサンプリングポイントから一次微分反射信号値が第一閾値L1より最初に低下したサンプリングポイント迄の間のサンプリングポイントを重心演算に寄与するサンプリングポイントに選定してもよい。
【0136】
【数1】
【0137】
このように、反射信号を一次微分してその正側領域の重心位置を反射信号の立上り時期として求める場合には、光量が異なる場合であってもほぼ等しい立上り時期として求まる。
【0138】
さらに、距離演算部235は、基準位置でプリズム16を介して検出された基準光としての反射光S3に対しても、上述と同様の処理を行ない基準距離D2を算出する。基準距離D2の算出は、走査部による測定光の回転周期と同期して毎回行なわれる。
【0139】
補正処理部236は、距離演算部235で仮の距離D1が算出される度に、仮の距離D1からその直前に算出された基準距離D2を減算して距離Dを算出し、その値をカウンタの値とともに出力メモリ236に格納する。
【0140】
測定光S2は、測定対象空間に設定された検出範囲内に存在する被測定物からの反射光を確実に検出するために十分な発光強度に設定されているため、反射光の強度によっては増幅回路5bが飽和してリニアな出力特性が得られない場合がある。つまり、微弱な反射光を十分なレベルに増幅するために、増幅回路5bのダイナミックレンジが入力スパンに対応できず、強い反射光に対して飽和するのである。
【0141】
図9(a)に示すように、増幅回路5bからの出力波形を観測すると、被測定物からの反射光量が小さいときには、反射信号S41から反射信号S43に示すようにリニアに増幅されるが、被測定物からの反射光量が大きいときには、反射信号S44から反射信号S46に示すように飽和して正確な波高値が出力されず、その出力が立ち下がるまでの時間が長くなる。このような場合には、算出された重心位置が本来あるべき重心位置とずれることとなり、被測定物との距離Lが正確に算出できなくなる。
【0142】
しかし、反射信号S44から反射信号S46のように出力が飽和したときには、その信号の積分値と反射光S3の受光光量に相関があることが見出されており、距離演算部235により検出された重心位置に基づいて算出された距離Dを、当該積分値と予め設定された補正テーブル値に従って適切に補正することができる。
【0143】
補正処理部236は、図9(b)に示すように、ローパスフィルタ231を通過した信号に対して、波形判定部233から得た第一測定閾値L1と第二測定閾値L2の加算値を最初に超える直前のサンプリング値から第二測定閾値L2を最初に下回るサンプリング値までを積分範囲R2として反射信号S4を積分処理する。
【0144】
このとき、補正処理部236は、積分範囲R2に対応する積分値から第二測定閾値L2以下の領域の積分値を減算することによりオフセット誤差を除去する。尚、オフセット誤差を除去するために、積分範囲R2のサンプリング値から第二測定閾値L2を減算した値に対して積分することも可能である。
【0145】
補正処理部236は、増幅回路5bからの出力波形が飽和している旨の情報を波形判定部233から得ると、予め補正データメモリ237に格納された積分値と補正距離の関係を示す補正テーブル値に基づいて、算出した積分値に対応する補正距離Dcを算出し、先に算出した距離Dを補正し、その値をカウンタの値とともに出力メモリ236に格納する。尚、波形判定部233は、反射信号S4のピーク値が予め設定された増幅回路5bの最大出力より数%低い値に設定された閾値を超えると出力波形が飽和していると判定する。
【0146】
以上が、測距処理部23で実行される基本的な演算処理となる。
しかし、走査式測距装置1と真に検出する必要がある被測定物Oとの間にガラス等半透明の反射物O´が存在し、当該反射物O´が被測定物Oに近接していると、当該反射物O´からの反射信号が被測定物Oからの反射信号に重畳して、真に検出する必要がある被測定物Oに対する正確な距離が算出できない虞がある。
【0147】
図12(a)には、反射物O´からの反射光と被測定物Oからの反射光が重畳した反射光S3が示されている。このような反射光S3の場合、測定光の出力時期と真の被測定物Oからの反射光の検出時期との期待される時間差ΔtよりもΔtεだけ短い時間差に基づいて距離が算出されるため、正確な距離が算出できなくなる。
【0148】
このような現象は、ガラス等半透明の反射物O´に限らず、走査式測距装置1と真に検出する必要がある被測定物Oとの間に存在する樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓2aが汚れている場合に発生する。
【0149】
図12(b)には、このような反射光S3に対応した反射信号S4と、その一次微分反射信号と、二次微分反射信号が示されている。
【0150】
図8(a),(b)に示す通常の単一の反射信号S4の場合には、反射信号S4の立上り時に一次微分反射信号が第一閾値L1を超えて反射信号S4の変曲点まで単調増加し、その後単調減少して反射信号がピークとなる時期に第一閾値L1を下回り零となるので、一次微分反射信号をモニタすれば、単一の反射信号S4であることを認識できる。
【0151】
しかし、図12(b)のように、例えば二つの反射信号S4(O),S4(O´)が重畳すると、一次微分反射信号が二山形状を呈し、ピーク間の谷部で第一閾値L1を下回ることなく再度上昇し、反射光の重畳の態様によっては一次微分反射信号をモニタしても反射信号が重畳状態にあることが明確に判断できない場合がある。
【0152】
そのような場合であっても、一次微分反射信号の二山の各ピークで、それぞれ二次微分反射信号が第一閾値L1を下回り零になるため、二次微分反射信号に基づいて重畳した波形を分離することが可能になる。重畳数が二以上の反射信号であっても同様に、それぞれの反射信号に対応する波形に分離することができる。
【0153】
そこで、波形判定部233は、微分処理部232により反射信号が一次微分された一次微分反射信号の立上り及び立下り特性と、反射信号が二次微分された二次微分反射信号の立上り特性に基づいて、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であるか否かを判定するように構成されている。
【0154】
波形判定部233は、一次微分反射信号が所定閾値(ノイズを排除するために適宜設定される値であるが、ここでは第一閾値L1に設定されている)以下に立下る迄に、二次微分反射信号が所定閾値(この値もノイズを排除するために適宜設定される値であるが、ここでは等しく第一閾値L1に設定されている)以上に立上る二回目の立上りを検知すると、反射光が複数の被測定物からの反射光が重畳した反射光であると判定するのである。
【0155】
尚、反射光が重畳している場合であっても、一次微分反射信号が所定閾値以下に立下る迄に、二次微分反射信号が所定閾値以上に立上る二回目の立上りが検知されない場合には、反射光が重畳していないと判定される。例えば、強度が強い反射光のピーク値を示す時期以降に強度がそれより弱い反射光が重畳するような場合である。この場合には、一次微分反射信号値が第一測定閾値L1を超える時期を弱い反射光に対応する反射信号と判定して処理すればよい。
【0156】
信号分離処理部234は波形判定部233による判定結果に基づいて、微分処理部232から入力される一次微分反射信号を分離して距離演算部235に出力する。そして、距離演算部235は信号分離処理部234により分離された一次微分反射信号毎に重心演算を実行して、対応する距離演算を実行する。
【0157】
つまり、波形判定部233は、微分処理部232から入力される一次微分反射信号が第一閾値L1より低い状態から第一閾値L1を超えた時点(図12(b)のtm)で反射信号の立上りを検知する区間であると判定して第一波の判定信号を信号分離部234に出力する。第一波の判定信号は一次微分反射信号が第一閾値L1より低い値に低下した時点まで出力される。
【0158】
波形判定部233は、第一波の判定信号の出力中に、微分処理部232から入力される二次微分反射信号が第一閾値L1を二回目に超えた時点(図12(b)のtn)で第二波の判定信号を信号分離部234に出力する。このような処理を繰り返すことにより、複数の反射信号が重畳した反射信号であっても、各反射信号に波形分離することができる。
【0159】
図12(b)の例では、信号分離処理部234は、各判定信号に対応して反射信号及び一次微分反射信号を分離して距離演算部235に出力する。即ち、図12(b)の区間dtmの一次微分反射信号を最初の反射信号S4(O´)の重心演算用の信号として出力し、区間dtnの一次微分反射信号を次の反射信号S4(O)の重心演算用の信号として出力する。
【0160】
距離演算部235は、区間dtmの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出するとともに、区間dtnの一次微分反射信号に対して重心演算を実行して対応する距離を算出する。算出した距離は、補正処理部236で必要に応じてそれぞれ上述の補正が実行され、補正後の距離が出力メモリ238に記憶される。
【0161】
被測定物Oに対する距離は、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に、信号分離部232で分離された反射信号S4(O)の一次微分反射信号の重心位置を算出し、当該重心位置に対応する時期を反射光の検出時期として求められ、測定光の出力時期と当該反射光の検出時期との時間差に基づいて算出される。
【0162】
つまり、区間dtnの一次微分反射信号に対して実行された重心演算によって得られる重心位置を立上り時期として算出された距離となる。しかし、実際には、区間dtnに本来の反射信号S4(O)の立上り時の一次微分反射信号が含まれていないために誤差が発生し、実際よりも長い距離として算出される可能性がある。
【0163】
そこで、補正処理部237は、上述の演算処理で得られた被測定物Oに対する距離を補正するように構成されている。
【0164】
補正データメモリ237には、予め相対位置関係が既知の複数の被測定物からの反射光を重畳した反射光に対して、一次微分反射信号の立上り時期を基準に算出した距離Dmと、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離Dnと、各距離の算出対象となる反射信号のピーク値Vpm,Vpnとの関係から、二次微分反射信号の二回目の立上り時期を基準に算出した距離を補正する補正データCが記憶されている。実際には、Dn−Dmと、Vpm、Vpnを変数とする補正データテーブルが補正データメモリ237に格納されている。
【0165】
補正処理部236は、Dn−Dmと、Vpm、Vpnに対応する補正データCを補正データテーブルから読み出して、真の被測定物Oに対する距離D=Dm−Cの演算処理により求める。
【0166】
当該補正データCは、予め試験によりサンプリングされた各データと各データに基づいて上述の演算処理で求められた距離と、実際の距離との間で求められた以下の相関式を基準に算出することも可能である。
C=F(Dm,Dn,Vpm,Vpn)
【0167】
この場合には、補正処理部236は、関数Fの変数にDm,Dn,Vpm,Vpnを代入して補正値Cを算出し、真の被測定物Oに対する距離D=Dm−Cの演算処理により求める。
【0168】
尚、波形判定部233で、反射光S4が複数の被測定物O,O´からの反射光が重畳した反射光であると判定されると、距離演算部235は、信号分離部234で分離された反射信号S4のうち、最大のピーク値を示す反射信号S4(O)に基づき算出した距離を真の被測定物Oに対する距離として出力するように構成することも可能である。
【0169】
このように構成すると、真の被測定物Oの近傍に、ガラス等半透明の反射物O´が存在する場合や、樹木の枝等、測定光の光芒に比べ小さな物体が存在する場合や、光学窓2aが汚れている場合であっても、真の被測定物Oに対する距離のみを正確に算出して出力することができる。
【0170】
本発明に用いられる走査式測距装置1は屋外で使用され、天候の影響を受けるため、霧、雨滴、雪粒からの反射光を被測定物と誤検知することが無いように構成されている。
【0171】
図13(a)に示すように、受光部5で検出されるパルス状の反射信号は、被測定物の表面反射率や被測定物迄の距離等によって、そのピーク値(p)及びパルス幅(W)が異なるが、ピーク値(P1)とパルス幅(W1)の比(P1/W1)は略一定の相似形の信号となる(図中、「反射信号(通常)」と表記された実線及び破線の波形参照)。
【0172】
これに対して、霧からの反射光は、霧の微細な粒子群からの個別の反射光が合成された反射光となり、相対的にピーク値(p2)が低く、またパルス幅(W2)が大きくなる傾向にあるため、ピーク値(P)とパルス幅(W)の比を対比すると、必ず(P2/W2)<(P1/W1)の関係が成立する。
【0173】
そこで、波形判定部233は、反射信号のピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)が所定の閾値Pb/Wb(≒P1/W1)より小さな値であると、適正な反射光でないと判定するように構成され、距離演算部235は、波形判定部233により適正な反射光でないと判定されると、距離の算出を中止し、または算出した距離の出力メモリ238への出力を中止するように構成されている。
【0174】
霧の中に被測定物Oが存在し、霧からの反射光と被測定物Oからの反射光が重畳して受光部5で検出される場合には、微分処理部232から入力される一次微分反射信号及び二次微分反射信号に基づいて、波形判定部233が第一波の反射信号、つまり図12(b)の区間dtmの反射信号部分に対してピーク値(P)とパルス幅(W)の比(P/W)を算出し、所定の閾値Pb/Wbより小さな値である場合に、第一波が霧からの反射信号であると判定すればよい。
【0175】
このような場合には、波形判定部233の判定結果を受けた距離演算部235が、上述と同様に、信号分離部234で分離された反射信号S4のうち、最大のピーク値を示す反射信号S4(O)に基づき算出した距離を真の被測定物Oに対する距離として出力するように構成すればよい。
【0176】
また、図13(b)に示すように、雨滴や雪粒からの反射光は、通常の反射光と同様、上述の所定の閾値Pb/Wb以上の値を示すが、雨滴や雪粒は測定対象空間の同一位置に長時間留まることが無いため、走査部により走査される度にそれらからの反射信号に基づいて距離演算部235で算出される距離が異なることになる。これに対して、走査周期に対して十分長い時間で動作する被測定物に対する距離は、複数の周期でほぼ一定の値を示すことになる。
【0177】
そこで、距離演算部235は、走査部により同一方向に偏向走査された測定光に対して算出した距離が複数周期で所定の許容範囲に収まるときにのみ、当該距離を雨滴や雪粒に対する距離ではなく、真の被測定物に対する距離であると判断して出力メモリ238に当該距離を出力するように構成されている。尚、このような判定を実行する周期は、走査部の走査周期と、雨滴や雪粒の降下速度との関係で定められる。
【0178】
上述した実施形態では、駅の構内に侵入した電車や列車等の車両を測定対象として、その速度情報を算出する信号処理装置を説明したが、本発明による信号処理装置は、測定方向と交差する方向に移動する移動体の速度を算出するものであれば、電車や列車等の有軌道車両に限るものではなく、道路を走行する二輪車や四輪車等の車両、人等、任意の移動体の速度を算出することができる。また、出力部から出力される走行状態情報として、停止、進行以外に速度、移動体の数等の演算によって抽出可能な任意の情報を含めることができる。
【0179】
上述した実施形態では、信号処理装置が走査式測距装置とは別の筐体で構成される場合を説明したが、本発明による信号処理装置が走査式測距装置に内蔵された形態であってもよい。
【0180】
上述した実施形態は、本発明の一実施例であり、走査式測距装置の具体的構造、測距処理部や信号処理装置の具体的な回路構成及びソフトウェア構成等は、本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0181】
1:走査式測距装置
3:投光部
5:受光部
4:走査部
23:信号処理部
71:演算部(システム制御部)
232:微分処理部
233:波形判定部
234:信号分離部
235:演算部(距離演算部)
236:演算部(補正処理部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象空間に向けて所定の走査周期で測定光を走査する走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから移動体の速度を算出する速度演算部と、
前記速度演算部で算出された速度に基づいて前記移動体の状態情報を出力する出力部と、
を備えている信号処理装置。
【請求項2】
前記速度演算部は、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報を、前記移動体の速度を算出するための測定情報として採用する請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の距離情報Dが含まれ、
前記速度演算部は、前記測定情報を以下の数式
X=Dcosθ、Y=Dsinθ
に基づいてX,Y二次元座標上の点列情報に変換し、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせたときに、双方の点列情報のY成分の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから距離情報Dに基づく前記移動体の速度を算出する請求項1または2記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報に基づいて、前記移動体の有無を判別する移動体判別部を備え、
前記速度演算部は、前記移動体判別部により前記移動体が存在すると判別された場合にのみ、前記移動体の速度を算出する請求項1から3の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記速度演算部で算出された速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときにのみ、前記移動体が停止している旨の状態情報を出力する請求項1から4の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記単位走査毎の測定情報に、前記走査角度θ毎の反射光の強度情報Iが含まれ、
前記速度演算部は、さらに、過去と現在の単位走査毎の強度情報Iを走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報Iの一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出し、
前記出力部は、前記速度演算部で算出された距離情報Dに基づく速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときであっても、強度情報Iに基づく前記移動体の速度が停止判定閾値以上であれば、前記移動体が移動している旨の状態情報を出力する請求項5記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、
前記速度演算部は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出する請求項1または2記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報に、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報が含まれる比率が所定値以上になると、前記走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定して、その旨を報知する報知部を備えている請求項1から7の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項9】
光源と、光源からの出力光を測定光として所定の走査周期で偏向走査する走査機構と、前記測定光に対する反射光を検知する受光部と、測定光と反射光に基づいて単位走査毎に測定情報を生成して出力する測定情報処理部と、請求項1から7の何れかに記載の信号処理装置を備えている走査式測距装置。
【請求項1】
測定対象空間に向けて所定の走査周期で測定光を走査する走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の測定情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから移動体の速度を算出する速度演算部と、
前記速度演算部で算出された速度に基づいて前記移動体の状態情報を出力する出力部と、
を備えている信号処理装置。
【請求項2】
前記速度演算部は、前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報を、前記移動体の速度を算出するための測定情報として採用する請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の距離情報Dが含まれ、
前記速度演算部は、前記測定情報を以下の数式
X=Dcosθ、Y=Dsinθ
に基づいてX,Y二次元座標上の点列情報に変換し、過去と現在の単位走査毎の点列情報をX軸方向に相対的にシフトさせたときに、双方の点列情報のY成分の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから距離情報Dに基づく前記移動体の速度を算出する請求項1または2記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記記憶部に記憶された過去と現在の単位走査毎の測定情報から前記移動体より遠方の背景に対する測定情報、及び/または、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報を除去した測定情報に基づいて、前記移動体の有無を判別する移動体判別部を備え、
前記速度演算部は、前記移動体判別部により前記移動体が存在すると判別された場合にのみ、前記移動体の速度を算出する請求項1から3の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記速度演算部で算出された速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときにのみ、前記移動体が停止している旨の状態情報を出力する請求項1から4の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記単位走査毎の測定情報に、前記走査角度θ毎の反射光の強度情報Iが含まれ、
前記速度演算部は、さらに、過去と現在の単位走査毎の強度情報Iを走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報Iの一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出し、
前記出力部は、前記速度演算部で算出された距離情報Dに基づく速度が所定の停止判定閾値より低く、且つ、所定時間内の速度偏差が所定の速度偏差閾値より小さいときであっても、強度情報Iに基づく前記移動体の速度が停止判定閾値以上であれば、前記移動体が移動している旨の状態情報を出力する請求項5記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記単位走査毎の測定情報に、前記移動体の移動方向に沿う方向を基準とした走査角度θと、走査角度θ毎の反射光の強度情報が含まれ、
前記速度演算部は、過去と現在の単位走査毎の測定情報を走査方向に相対的にシフトさせたときに、双方の強度情報の一致度が最大となるシフト量と前記走査周期とから強度情報Iに基づく前記移動体の速度を算出する請求項1または2記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記走査式測距装置から入力される単位走査毎の測定情報に、前記移動体より近傍の前景に対する測定情報が含まれる比率が所定値以上になると、前記走査式測距装置の測定光の出力窓が汚れていると判定して、その旨を報知する報知部を備えている請求項1から7の何れかに記載の信号処理装置。
【請求項9】
光源と、光源からの出力光を測定光として所定の走査周期で偏向走査する走査機構と、前記測定光に対する反射光を検知する受光部と、測定光と反射光に基づいて単位走査毎に測定情報を生成して出力する測定情報処理部と、請求項1から7の何れかに記載の信号処理装置を備えている走査式測距装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−21896(P2012−21896A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160321(P2010−160321)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000242600)北陽電機株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000242600)北陽電機株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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