説明

傾斜地崩壊検知システム

【課題】傾斜地において地すべりや土砂崩れ等のいわゆる傾斜地崩壊の現象を検知する、傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【解決手段】傾斜地の斜面状には所定の曲率部分を有する支柱が複数打ち込まれており、光ファイバがその支柱に沿わされ配置されている。光ファイバからは、入力された基準光に対し、外力に応じた信号光が出力されており、傾斜地に崩壊現象が発生すると支柱が動くことで光ファイバには局所的な曲げが発生し、出力される信号光の出力が変動する。光ファイバに接続された検知部では、光ファイバからの出力の変動幅が予め設定された閾値を超えた場合に、傾斜地崩壊が発生したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地の崩壊、いわゆる土砂崩れや地すべりを検知するセンサシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、傾斜地の崩壊を検知するシステムとしては、斜面上に傾斜計等の電気センサを設置して斜面の状況を監視するものが広く使用されてきた。しかし、最近ではセンサに光ファイバを用いたシステムが提案されている。これは、電気センサとは異なり光ファイバには電気を通電させないため、屋外で使用する際に過度な防水対策を施す必要がなく、取り扱いが容易であるとともに、他の電子機器の誘電電流等が原因となる電磁ノイズの影響を受けないといった利点があるためである。このような光ファイバをセンサに用いて傾斜地の崩壊を検知するシステムとして、例えば特許文献1に記載されているものがある。
【0003】
特許文献1では土砂圧を受けた際に受圧具合が異なるよう場所によって目の粗さを変えた網目状の受圧体に光ファイバケーブルを固定し、これを監視対象となる傾斜地に埋設している。傾斜地の崩壊が発生すると、土砂圧を受けた受圧体は目の粗さの違いによって大きく変形する部分とあまり変形しない部分が生じる。この変形の違いによって、受圧体に固定されている光ファイバに歪が生じ、入力された光パルス信号に対する後方散乱光の周波数にずれが生じる。そして、この周波数のずれ量や、後方散乱光の戻り時間を測定することによって、光ファイバケーブルの歪量や歪が生じた箇所を把握することが出来る。
【0004】
【特許文献1】特開2001−304822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている検知システムでは、光ファイバケーブルと受圧体を傾斜地に埋設する必要がある。そのため、傾斜面を広範囲に渡って掘り起こす必要があり、非常に大きな工数を必要とする。特に傾斜面が垂直に近いがけ状となっている場合には、光ファイバケーブルと受圧体をがけの部分に埋設することは、ほぼ不可能である。また、網目状の受圧体について目の粗さを変える事で変形の発生具合に差を生じさせ、光ファイバケーブルに歪を発生させようとしているが、光ファイバケーブル及び受圧体が埋設してある部分が例えば広範囲に渡って地滑りを起こした場合には、光ファイバが埋設してある地帯一帯で動いてしまうため受圧体の変形具合に大きな差は生じなく、地滑りを検知できなかったり、検知の感度が低下したりするといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、基準光を出力する光源と、傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で斜面に設置された支柱と、支柱の動きの有無を検知するために一部分が支柱に沿うように配置され、入力された基準光に対し、支柱の動きによる外力に応じた信号光を出力する光ファイバと、信号光に基づいて光ファイバへの外力の有無を検知する外力検知手段と、外力検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知手段とを備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0007】
また本発明は上記解決手段において、光ファイバが沿う支柱の側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、支柱に動きがあると光ファイバは張力を受けることで曲率面に密接し、光ファイバに所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0008】
また本発明は上記解決手段において、支柱は複数設けられ、光ファイバの径路上の各一部分が複数の支柱に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0009】
さらに本発明は、斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、基準光を出力する光源と、傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で斜面に設置されるとともに上面に溝部が設けられた支柱と、支柱の動きの有無を検知するために一部分が溝部に沿うように配置され、入力された基準光に対し、支柱の動きによる外力に応じた信号光を出力する光ファイバと、信号光に基づいて光ファイバへの外力の有無を検知する外力検知手段と、外力検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知手段とを備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0010】
また本発明は上記解決手段において、光ファイバが沿う溝部の内側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、支柱に動きがあると光ファイバは張力を受けることで曲率面に密接し、光ファイバに所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0011】
また本発明は上記解決手段において、支柱は複数設けられ、光ファイバの径路上の各一部分が複数の支柱の溝部に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0012】
また本発明は上記解決手段において、光ファイバから出力された信号光を電気信号に変換するO/E変換器と、電気信号の高周波成分を出力するハイパスフィルターとを備え、さらに、外力検知手段は基準値を有し、高周波成分と基準値との比較結果に基づいて光ファイバへの外力の有無を検知する手段を備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0013】
また本発明は上記解決手段において、外力検知手段は、高周波成分が基準値を超える幅で変動した場合に光ファイバへの外力有りと判定し、傾斜地崩壊検知手段は、外力検知手段が外力有りと判定した場合に傾斜地崩壊が発生していると判定することを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0014】
さらに本発明は、斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で斜面に設置された支柱と、支柱の動きの有無を検知するために一部分が支柱に沿うように配置された光ファイバと、光ファイバの一端に接続され、支柱の動きによる光ファイバの変形値と変形位置とを検知する変形検知手段と、変形検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知しその位置を特定する傾斜地崩壊検知手段とを備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0015】
また本発明は上記解決手段において、光ファイバが沿う支柱の側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、支柱に動きがあると光ファイバは張力を受けることで曲率面に密接し、光ファイバには所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0016】
また本発明は上記解決手段において、支柱は複数設けられ、光ファイバの径路上の各一部分が複数の支柱に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0017】
さらに本発明は、斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で斜面に設置されるとともに上面に溝部が設けられた支柱と、支柱の動きの有無を検知するために一部分が支柱の上面に設けられた溝部に沿うように配置された光ファイバと、光ファイバの一端に接続され、支柱の動きによる光ファイバの変形値と変形位置とを検知する変形検知手段と、変形検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知しその位置を特定する傾斜地崩壊検知手段とを備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0018】
また本発明は上記解決手段において、光ファイバが沿う溝部の内側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、支柱に動きがあると光ファイバは張力を受けることで曲率面に密接し、光ファイバには所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0019】
また本発明は上記解決手段において、支柱は複数設けられ、光ファイバの径路上の各一部分が複数の支柱の溝部に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0020】
また本発明は上記解決手段において、傾斜地崩壊検知手段は基準値を有し、変形値と基準値との比較結果に基づいて傾斜地崩壊が発生していると判定し、さらにその位置を算出することを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0021】
また本発明は上記解決手段において、変形検知手段は光ファイバに基準パルス光を出力すると共に基準パルス光に基づいて発生し光ファイバから出力された後方散乱光を受光するOTDRであることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0022】
また本発明は上記解決手段において、基準光の波長は1480nm以上であることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0023】
また本発明は上記解決手段において、基準パルス光の波長は1480nm以上であることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0024】
また本発明は上記解決手段において、支柱は、支柱に沿わした光ファイバにおいて張力を受けた際の曲率が10mm以上60mm以下となる形状であることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【0025】
また本発明は上記解決手段において、光ファイバはカットオフ波長が1260nm以下のシングルモード光ファイバであることを特徴とする傾斜地崩壊検知システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1の実施例によれば、動物や監視のための人物が傾斜地に立ち入った場合でも誤って検知することなく、土砂崩れや地すべり等の崩壊が発生したことのみを確実に検知することができる。また、センサ部分を地中に埋設する必要はなく、支柱を傾斜地に固定するのみなので、設置を容易に行うことが出来る。また、センサ部分には導電を必要としない光ファイバを用いているため、電気センサを用いた場合には水密対策が必要な屋外であっても、取り扱いが容易となる。
【0027】
また、本発明の第2の実施例によれば、第1の実施例に加え、傾斜地の崩壊が発生した場所を確実に検知することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。なお、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を用いることで重複説明を省略する。
【実施例1】
【0029】
本発明における傾斜地崩壊検知システムの構成を図1及び図2により説明する。ここで、図1はシステムの使用状況の概要を示したものであり、図2は傾斜地崩壊検知システムの構成を示したものである。
【0030】
101は監視対象となる傾斜地であり土砂やコンクリートから形成されている。102は傾斜地101に設置されている支柱であり、例えば杭がこれに該当する。そして、支柱102は風雨等で容易に動くことがないように、下部の一部分が傾斜地に埋め込まれている。また、支柱102は側面の一部に所定の曲率からなる曲率面を持つ柱体であり、例えば円柱、楕円柱、三角柱、四角柱等が用いられる。ただし、支柱102の先端は傾斜地に埋め込みやすいように円錐状となっていても構わない。
【0031】
支柱102には後述する光ファイバが沿わされ、光ファイバが張力を受けると支柱102の曲率面に沿って所定の曲率の曲げが発生するようになっている。なお、光ファイバが支柱102に沿わされている際に、光ファイバが張力を受けると一部分が所定の曲率になるようであれば、どのような沿わせ方を用いてもよい。例えば、本実施例のように支柱102の側面に沿わせたり巻き付けたりしてもよいし、支柱102の上面に所定の曲率を持つ溝部を設け、そこに光ファイバを沿わしてもよい。また、曲率面における所定の曲率は、光ファイバ内を伝送する信号光の波長に応じて10mmから60mmの範囲内となっている。
【0032】
21は光源装置であり、波長が1480nm以上であって所定のパワーの連続光からなる基準光が出力される。光源装置21の光源には、例えば波長が短い赤外LED、波長が短いレーザダイオード、ドットマトリクスLED等が使用される。
【0033】
22は一端が光源装置21に接続された光ファイバであり、入力された基準光に対し、光ファイバ22に加えられた外力に応じた信号光を出力する。光ファイバ22は外力が加わっていない状態、つまり所定の曲率以下の曲げが発生していない状態では、入力された基準光に対し、光ファイバの素材に基づく伝送損失のみ発生するため、ほぼ同一パワーの信号光が出力される。一方、光ファイバ22に外力が加わり、所定の曲率以下の局所的な曲げが生じると、この部分によって入力された基準光に損失が発生する。そのため、入力された基準光に対し、パワーが低下したり変動したりする信号光が出力される。
【0034】
本実施例で使用されている光ファイバ22はカットオフ波長が1260nm以下のシングルモード光ファイバであり、ここで光ファイバ22の曲げ径(直径)と損失の関係について、曲げ損失を求める際の理論式である数式1と、数式1による計算結果を示した図3を用いて説明する。
【0035】
【数1】

【0036】
各計数は、
Pa:曲げ損失[dB/m]
a:コア半径(=5um)
R:曲げ半径[m]
Δ:比屈折率差(=0.2)
V:正規化周波数(=2)
W:クラッド中の規格化伝搬定数(=1.2)
U:コア中の規格化伝搬定数(=1.5)
を表している。なお、比屈折率差Δには一般的なシングルモード光ファイバの値を用いている。また、正規化周波数V、クラッド中の規格化伝搬定数W、コア中の規格化伝搬定数Uにはシングルモード光ファイバに波長1550nmの光を通した場合の値を用いている。
【0037】
図3は、カットオフ波長が1260nmのシングルモード光ファイバで、入力される光の波長が1550nmの場合の曲げ径(直径)と損失の関係について、上式より算出したものを示している。図において横軸は曲げ径、縦軸は損失となっている。図示のように曲げ径が大きいところでは、損失はほとんど発生していないが、曲げ径が60mm以下となるあたりから損失が発生し始め、2次曲線的に増加している。このため、光ファイバ22を曲げ径が通常では60mmを超える状態としておき、異常が発生した場合に曲げ径が60mm、もしくはそれよりも小さくなるようにすれば、異常の発生の有無を光ファイバから出力される信号の損失で検知をすることが可能となる。
【0038】
図4は、入力される光の波長が1300nm、1480nm、1550nmの場合の、曲げ径と損失の関係を示したものである。図示のように光の波長が長い方が単位長さあたりに発生する損失が大きくなっている。
【0039】
本実施例では図1および2に示すように、傾斜地101に設置された支柱102に光ファイバ22が沿わされており、これによってセンサ部23が構成されている。なお、ここで光ファイバ22を沿わすやり方としては、光ファイバ22が支柱102に側面において限られた範囲のみ接するようにするだけでなく、光ファイバ22を支柱102の側面全周に巻き付けるようにする方法や、図示していないが、支柱102の上面に溝部を設け、そこに光ファイバ22を沿わす方法も含まれる。また、沿わす際にはある程度の弛みが持たされており、通常時は光ファイバ22は支柱102に密着していなく、若干の空隙が設けられている。この空隙は支柱102と光ファイバ22との間に明らかな隙間が生じる程のものでなくても構わなく、光ファイバ22が直線状に張られる程の張力が加えられていなければよい。以下、このような状態で光ファイバ22を支柱102の側面もしくは上面に配置することを総称して沿わすと記載する。
【0040】
傾斜地に土砂崩れ等の崩壊(以後、傾斜地崩壊と記す)が発生すると、支柱102に動きが生じることで光ファイバ22は張力を受けて曲率面に密着し、光ファイバ22には支柱102の所定部分の曲率と同じ曲率の曲がりが発生する。そのため、光ファイバ22に入力された基準光に対してパワーが低下したり変動したりする信号光が出力され、この信号光を監視することによって、傾斜地崩壊の発生を検知することが可能となる。
【0041】
なお、図4を用いて説明したように、光ファイバ22に入力する信号光の波長を短くすれば光ファイバに損失が発生する曲げ径を小さくすることが出来るため、低波長の信号光を用いることで支柱102そのものを小さくして所定部分の曲率を小さくし、センサ23を小型化することが可能となる。しかし、支柱102の曲率面に沿わした際の光ファイバ22の曲率が小さすぎる場合には光ファイバ22が折れる可能性があり、また傾斜地に異常が発生した際に光ファイバに曲がりが発生する長さが短くなり、測定器側で発生した損失を検知できない可能性がある。したがって、実際の使用にあたっては、光ファイバ22に張力が発生した際に曲率が10mmから60mmの範囲内となるように支柱102の曲率面の曲率を決定し、曲率が10mm程度で小さい場合には半周程度、60mmで大きい場合には複数周光ファイバ22を巻き付けるようにするのが好ましい。また、これに対応して光ファイバ22に入力される光の波長も1480nm以上とするのがよい。
【0042】
光ファイバ22の損失は、傾斜地101の崩壊だけでなく、傾斜地101を定期的に監視する人物や、動物等が支柱102間の光ファイバに触れた場合にも発生する。しかしながら、発生する曲げの量は小さく、これによる損失も大きくない。これに対し傾斜地崩壊によって光ファイバ22に発生する曲げの量は大きくこれによる損失も大きい。そのため、発生する損失の大きさによって、その損失が傾斜崩壊によるものか、動物等それ以外によるものなのかを判別することが出来る。
【0043】
光ファイバ22を支柱102に固定する方法としては、例えば一部分を結束バンドや接着剤等で固定する方法や、予め光ファイバ22の一定部分をシートに接着剤等で固定しておき、そのシートの一部分を結束バンド等で支柱102に固定する方法が挙げられる。なお、図においては支柱102に光ファイバ22を1周分だけ巻き付けているが、前述しているように、巻き付けられる支柱の曲率や使用される信号光の波長によって巻き付け数が設定される。
【0044】
24は光ファイバ22から出力された信号光に基づいて傾斜地101に傾斜地崩壊が発生していないかを検知する検知装置である。以下、検知装置24の内部構成について説明をする。25はO/E変換器であり、光ファイバ22の他端に接続されている。そして、光ファイバ22から信号光が入力されると電気信号に変換し出力する。26はハイパスフィルター(以下、HPFと記す)であり、O/E変換器25からの出力値の高周波成分(本実施例では1Hz以上)を出力する。27は演算部であり、HPF26からの出力に基づいて、傾斜地101に傾斜地崩壊が発生していないかの判定を行い、結果を出力する。ここで、どのように傾斜地崩壊が判定されるかについて図5を用いて説明する。
【0045】
図5はHPF26から出力値を示したものであり、光ファイバ22からの出力について高周波成分を算出したものである。実線はHPF出力値の時間波形を示しており、横方向の破線は傾斜地101について崩壊の有無を判定するための基準電圧VTHDを示している。そして、光ファイバ22に人間や動物等によって曲げが発生した場合には若干の損失が発生するが、基準電圧VTHDを超えるほどではないため、傾斜地101には異常がないと判定される。一方、傾斜地101の土砂崩れによって支柱102が土砂とともに流されると光ファイバ22には張力が発生することで支柱102の曲率面と同じ曲率の曲げが発生し、HPF出力値の時間波形は基準電圧VTHDを超える幅で変動するようになる。そのため、傾斜地101に崩壊が発生したと判定される。
【0046】
以上、検知装置24について説明をしたが、検出装置24には図示せぬ操作部が設けられており、システム全体の起動の際や、基準電圧の設定等に使用される。
【0047】
28aは警報装置Aであり、検知装置24からの出力に基づいて警報を発するものである。具体的には傾斜地101に崩壊が発生したとの判定結果が入力された場合に、警報を発する。
【0048】
次に図6より動作について説明をする。監視者(本実施例におけるシステムの利用者)により検出装置24の図示せぬ操作部で監視開始の操作が行われると、基準電圧VTHDの設定が行われる(S1)。設定は以下の手順で行われる。検出装置24では、監視開始の操作が行われる前のHPF26からの高周波成分出力値がモニタされており、開始操作が行われる直前であって値に変動がない時の平均値が算出される。そしてこの平均値に対し、予め設定されている値が加算され、基準電圧VTHDが算出される。
【0049】
基準電圧VTHDの設定が完了すると監視が開始され、光源装置21から出力された基準光が光ファイバ22へ入力し、光ファイバ22内を伝送して出力された信号光は、O/E変換器25で電気信号に変換される(S2)。続いてO/E変換器25から出力された電気信号はHPF26で高周波成分が算出される(S3)。そしてHPF26から出力された高周波成分値は演算部27に入力され、基準電圧VTHDと比較される(S4)。ここで、基準電圧VTHDを超えない値であれば、光ファイバ22には支柱102の局所曲率部と同じ曲率の曲がりは発生していないと判定され、S2に戻って監視が継続される。基準電圧VTHDを超える幅で変動が続く場合には、光ファイバ22には支柱102の局所曲率部と同じ曲率の曲がりが生じており、その原因として傾斜地101に崩壊が発生していると判定される(S5)。そして、傾斜地101に崩壊が発生と判定されると、警報装置A28aによって色彩や音によって崩壊の発生を知らせる警報が発せられる(S6)。
【0050】
以上のように本発明における第1の実施例によれば、動物や監視のための人物が傾斜地101に立ち入った場合で誤って検知することなく、土砂崩れや地すべり等の崩壊が発生したことのみを確実に検知することができる。また、センサ部分を地中に埋設する必要はなく、支柱102を傾斜地101に固定するのみなので、設置を容易に行うことが出来る。また、センサ部分には導電を必要としない光ファイバを用いているため、電気センサを用いた場合には水密対策が必要な屋外であっても、取り扱いが容易となる。
【実施例2】
【0051】
続いて図7および図8を用いて実施例2の構成について説明する。図7は実施例2のシステムの使用状況の概要を示したものであり、図8は実施例2のシステムの構成を示したものである。
【0052】
傾斜地101、支柱102は実施例1と同様の構成であり、支柱102は後述する光ファイバを沿わせた際に、光ファイバの一部分が所定の曲率となる曲率面が設けられている。また、曲率についても実施例1と同様、10mmから60mmの範囲内となっている。光ファイバ22についても実施例1と同様のカットオフ波長1260nm以下のシングルモード光ファイバであるが、一端は後述するOTDRに接続されており、他端は自由端となっている。なお、自由端については光ファイバ22内を伝送する光によって不要な反射光を発生させないために、コアに対し斜め形状にカッティングされているのが望ましい。
【0053】
31は光ファイバ22の一端が接続されているOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)であり、光ファイバ22にパルス光を出力するとともに、そのパルス光が光ファイバ22を伝送することで発生する反射光(後方散乱光)を計測することで、光ファイバ22に外力が加わったかについて、ならびに光ファイバ22のどの位置に外力が加わったかを検知することが出来る。
【0054】
OTDR31の主要部は、光源32、光サーキュレータ33、受光装置34から構成されている。そして、光源32からパルス状の基準光(以下、基準パルス光と記す)が出力されると、入力光を特定方向のみに出力する光サーキュレータ33を介して光ファイバ22に基準パルス光が入力する。光ファイバ22では基準パルス光が伝送する一方で、基準パルス光の伝送方向とは反対に基準パルス光から発生されるフレネル反射による反射光、いわゆる後方散乱光が伝送する。この後方散乱光は光ファイバ22を伝送後、光サーキュレータ33を介して受光装置34に入力し、ここでOTDR31からの距離と後方散乱光の出力との関係が算出される。
【0055】
なお、光ファイバ22が巻き付けられる支柱102の曲率面の曲率は10mmから60mmとなっているため、光源32から基準パルス光の波長は実施例1と同様に1480nm以上とするのが好ましい。
【0056】
図9は受光装置34から出力される、OTDR31からの距離に対する反射光の出力の関係を示したものである。ここで41は光ファイバ22に全く外力が加わってない場合、つまり支柱102に光ファイバを巻きつけていない場合の距離と出力の関係を示しており、距離に対し一定の割合で損失が増加、つまり出力が低下するようになっている。42は光ファイバ22を支柱102に巻き付け、傾斜地崩壊検知センサとして傾斜地101に配置した場合の距離と出力の関係を示している。図では説明のために41と42の出力が異なるように表示しているが、実際には出力の初期値は同一であり、A点まで41と42は重なるようになっている。ここで43(A点)、44(B点)、45(C点)、46(D点)、47(E点)の各点は光ファイバ22が支柱102に沿わせられている、もしくは巻き付けられている位置を示しており、巻き付けられることで光ファイバ22に曲がりが発生するため、急激に出力が低下(急激に損失が増加)している。なお、この状態においては、光ファイバ22は大きな張力を受けていないため、発生している曲がりの曲率は支柱102の曲率面の曲率ほど小さくはない。そして、48の破線は傾斜地101に崩壊が発生したときの距離と出力の関係を示している。ここでは44と45の地点で42に対してさらに大きく出力が低下しており、この地点で光ファイバ22は大きな張力を受け曲率面と同じ曲率の曲がりが発生、つまり傾斜地の崩壊が発生していることが確認できるようになっている。
【0057】
35は演算装置であり、OTDR31の受光装置34から出力される距離と出力の関係から、光ファイバ22に曲率面と同じ曲率の曲がりが発生していないか、つまり傾斜地101に崩壊が発生していないかを判定する。また、光ファイバ22に初期損失が発生している位置、つまりセンサ部が監視対象となる傾斜地のどの箇所に設置されているかの情報が記録された位置情報対応テーブルを有している。そして、崩壊が発生した場合には、新たに出力が低下(損失が増加)した場所からその位置を特定する。なお、演算装置35には図示せぬ操作部が設けられており、システム全体の起動の際や、各種設定等に使用される。
【0058】
28bは警報装置Bであり、警報装置A28aの機能に加え、崩壊が発生した位置の情報を合わせて報知する。
【0059】
次に図10より動作について説明をする。監視者(本実施例におけるシステムの利用者)により検出装置31の図示せぬ操作部で監視開始の操作が行われると、光源装置21から光ファイバ22へ基準パルス光が入力され、これに対する後方散乱光として光ファイバ22から出力される信号光をOTDR初期出力として用い、損失が発生している地点と損失値を算出し、これが登録される(S11)。登録が完了すると、OTDRにおいてOTDRからの距離に対する信号光の出力の測定が行われる(S12)。続いてS11で損失ありとされた地点における信号光の出力と、S11で基準値として登録された出力とが比較され、損失の増加量が算出される(S13)。
【0060】
S13で算出された増加量は予め設定されている閾値と比較され(S14)、閾値を越えていない場合にはS12に戻って再び測定が継続され、超えている場合には次のステップに進む。S14で閾値を超えていると判定されると、傾斜地崩壊の異常が発生したと判定される(S15)。次いで、演算装置35に設けられている位置情報対応テーブルを参照し、傾斜地崩壊が発生した場所がどこであるか算出される(S16)。そして、警報装置B28bによって色彩や音によって崩壊の発生を知らせる警報が発せられるとともに、傾斜地崩壊が発生した場所が表示部に表示される(S17)。
【0061】
以上のように本発明における第2の実施例によれば、実施例1の効果に加え、傾斜地崩壊が発生した場所がどこであるかを、容易に算出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1のシステム使用状況図
【図2】実施例1のシステム構成図
【図3】曲げ径と損失の関係説明図
【図4】波長をパラメータとした曲げ径と損失の関係説明図
【図5】HPF出力説明図
【図6】実施例1の動作フロー
【図7】実施例2のシステム使用状況図
【図8】実施例2のシステム構成図
【図9】OTDR出力説明図
【図10】実施例2の動作フロー
【符号の説明】
【0063】
102:支柱
21:光源装置
22:光ファイバ
23:センサ部
24:検出装置
25:O/E変換器
26:HPF
27:演算部
31:OTDR
35:演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、
基準光を出力する光源と、
傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で前記斜面に設置された支柱と、
前記支柱の動きの有無を検知するために一部分が該支柱に沿うように配置され、入力された前記基準光に対し、該支柱の動きによる外力に応じた信号光を出力する光ファイバと、
前記信号光に基づいて前記光ファイバへの外力の有無を検知する外力検知手段と、
前記外力検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知手段と、
を備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項2】
請求項1記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記光ファイバが沿う前記支柱の側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、該支柱に動きがあると該光ファイバは張力を受けることで該曲率面に密接し、該光ファイバに該所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項3】
請求項1乃至2記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記支柱は複数設けられ、前記光ファイバの径路上の各一部分が該複数の支柱に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項4】
斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、
基準光を出力する光源と、
傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で前記斜面に設置されるとともに上面に溝部が設けられた支柱と、
前記支柱の動きの有無を検知するために一部分が前記溝部に沿うように配置され、入力された前記基準光に対し、該支柱の動きによる外力に応じた信号光を出力する光ファイバと、
前記信号光に基づいて前記光ファイバへの外力の有無を検知する外力検知手段と、
前記外力検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知手段と、
を備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項5】
請求項4記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記光ファイバが沿う前記溝部の内側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、該支柱に動きがあると該光ファイバは張力を受けることで該曲率面に密接し、該光ファイバに該所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項6】
請求項4乃至5記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記支柱は複数設けられ、前記光ファイバの径路上の各一部分が該複数の支柱の溝部に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項7】
請求項1乃至6記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記光ファイバから出力された信号光を電気信号に変換するO/E変換器と、
前記電気信号の高周波成分を出力するハイパスフィルターと、
を備え、
さらに、前記外力検知手段は基準値を有し、前記高周波成分と該基準値との比較結果に基づいて前記光ファイバへの外力の有無を検知する手段を備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項8】
請求項7記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記外力検知手段は、前記高周波成分が前記基準値を超える幅で変動した場合に前記光ファイバへの外力有りと判定し、
前記傾斜地崩壊検知手段は、前記外力検知手段が外力有りと判定した場合に傾斜地崩壊が発生していると判定することを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項9】
斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、
傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で前記斜面に設置された支柱と、
前記支柱の動きの有無を検知するために一部分が該支柱に沿うように配置された光ファイバと、
前記光ファイバの一端に接続され、該支柱の動きによる前記光ファイバの変形値と変形位置とを検知する変形検知手段と、
前記変形検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知しその位置を特定する傾斜地崩壊検知手段と、
を備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項10】
請求項9記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記光ファイバが沿う前記支柱の側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、該支柱に動きがあると該光ファイバは張力を受けることで該曲率面に密接し、該光ファイバには該所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項11】
請求項9乃至10記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記支柱は複数設けられ、前記光ファイバの径路上の各一部分が該複数の支柱に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項12】
斜面における土砂崩れや地すべり等の傾斜地崩壊を検知する傾斜地崩壊検知システムであって、
傾斜地崩壊を検知するために少なくとも一部分が埋設された状態で前記斜面に設置されるとともに上面に溝部が設けられた支柱と、
前記支柱の動きの有無を検知するために一部分が該支柱の上面に設けられた溝部に沿うように配置された光ファイバと、
前記光ファイバの一端に接続され、該支柱の動きによる前記光ファイバの変形値と変形位置とを検知する変形検知手段と、
前記変形検知手段による検知結果に基づいて傾斜地崩壊を検知しその位置を特定する傾斜地崩壊検知手段と、
を備えることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項13】
請求項12記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記光ファイバが沿う前記溝部の内側面は一部に所定の曲率からなる曲率面を有し、該支柱に動きがあると該光ファイバは張力を受けることで該曲率面に密接し、該光ファイバには該所定の曲率の曲げが発生することを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項14】
請求項12乃至13記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記支柱は複数設けられ、前記光ファイバの径路上の各一部分が該複数の支柱の溝部に沿うように配置されることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項15】
請求項9乃至14記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記傾斜地崩壊検知手段は基準値を有し、前記変形値と該基準値との比較結果に基づいて傾斜地崩壊が発生していると判定し、さらにその位置を算出することを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項16】
請求項9乃至15記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記変形検知手段は前記光ファイバに基準パルス光を出力すると共に該基準パルス光に基づいて発生し該光ファイバから出力された後方散乱光を受光するOTDRであることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項17】
請求項1乃至15記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記基準光の波長は1480nm以上であることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項18】
請求項16記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記基準パルス光の波長は1480nm以上であることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項19】
請求項1乃至18記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記支柱は、該支柱に沿わした前記光ファイバにおいて張力を受けた際の曲率が10mm以上60mm以下となる形状であることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。
【請求項20】
請求項1乃至19記載の傾斜地崩壊検知システムであって、
前記光ファイバはカットオフ波長が1260nm以下のシングルモード光ファイバであることを特徴とする傾斜地崩壊検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−155550(P2007−155550A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352496(P2005−352496)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】