光ピックアップ
【課題】戻り光が通過する光学路に回折光学素子が配置される光ピックアップにおいて、安定して適切なTE信号が得られる技術を提供する。
【解決手段】光ピックアップは、光ディスクからの反射光(戻り光)を光検出部19に導く光路中に回折光学素子17を有する。回折光学素子17には、2つのプッシュプル信号成分領域Wの並び方向に略直交する方向を長手方向とし、戻り光の中央部が通過する略帯状の回折領域171が含まれ、光検出部19には、回折光学素子17で回折されることなく回折光学素子17を透過する光を受光するメイン受光部191と、略帯状の回折領域171で回折される回折光を受光するサブ受光部192、193と、が形成される。メイン受光部191及びサブ受光部192、193から出力される信号を用いてTE信号が生成される。
【解決手段】光ピックアップは、光ディスクからの反射光(戻り光)を光検出部19に導く光路中に回折光学素子17を有する。回折光学素子17には、2つのプッシュプル信号成分領域Wの並び方向に略直交する方向を長手方向とし、戻り光の中央部が通過する略帯状の回折領域171が含まれ、光検出部19には、回折光学素子17で回折されることなく回折光学素子17を透過する光を受光するメイン受光部191と、略帯状の回折領域171で回折される回折光を受光するサブ受光部192、193と、が形成される。メイン受光部191及びサブ受光部192、193から出力される信号を用いてTE信号が生成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに記録される情報の読み取りや光ディスクへの情報の書き込みを行う際に用いられる光ピックアップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブルーレイディスク(以下BDと記載)、デジタル多用途ディスク(以下DVDと記載)、コンパクトディスク(以下CDと記載)等の光ディスクに対して、情報を読み取ったり、情報を書き込んだりする目的で光ピックアップが使用されている。この光ピックアップには、光源から出射される光を光ディスクの情報記録面に集光するための対物レンズと、光ディスクで反射される反射光(戻り光)を受光する光検出器(PDIC)と、が含まれる。
【0003】
光ピックアップによって、光ディスクの情報を読み取ったり、光ディスクに情報を書き込んだりする場合には、対物レンズによって集光される光スポットの位置を次のように制御する必要がある。第1に、対物レンズによって集光される光スポットが、光ディスクの情報記録面上に常に存在するように制御(フォーカシング制御)する必要がある。第2に、対物レンズによって情報記録面に集光された光スポットが、光ディスクに形成されるトラックに常に追従するように制御(トラッキング制御)する必要がある。
【0004】
このために、光ピックアップにおいては、光検出器から出力される信号に基づいて、光スポットと情報記録面(目標の情報記録面)とのズレ量を表すフォーカスエラー(FE)信号と、光スポットとトラック(目標のトラック)とのズレ量を表すトラッキングエラー(TE)信号とが算出されるように構成される。そして、FE信号に基づいて対物レンズのフォーカス方向の位置を動かす制御(フォーカシング制御)が行われ、TE信号に基づいて対物レンズのトラッキング方向の位置を動かす制御(トラッキング制御)が行われる。
【0005】
なお、フォーカス方向は、光ディスクの情報記録面に略垂直な方向であり、トラッキング方向は、光ディスクのトラック(情報記録面に同心円状又は螺旋状に形成される)に略垂直な方向である。
【0006】
TE信号を算出する方法としては、従来、PP(Push-Pull)法やDPP(Differential Push-Pull)法等が知られている。DPP法は、レンズシフト(対物レンズのトラッキング方向へのオフセット)の影響を抑制してTE信号を得ることができるため、従来、光ピックアップに広く採用されている。
【0007】
しかしながら、例えばBDは、情報記録面の数が複数ある多層ディスクが一般的であり、最近では3、4層といった多層ディスクも市販されている。このような多層ディスクに光ピックアップで対応する場合、目的とする情報記録面とは異なる情報記録面からの反射光が迷光として発生する。光源から出射される光を回折格子(グレーティング)によって主光と2つの副光とからなる3つの光に分けて光ディスクに照射する構成を採用するDPP法は、前述の迷光の影響を受け易く、多層ディスクに対しては不向きである。
【0008】
また、DPP法においては、上述のように光源から出射される光を3つの光に分けて光ディスクに照射するために、1つの光のみを光ディスクに照射する場合に比べて、光の利用効率が低下してしまう。すなわち、光利用効率の面からもDPP法は好ましくないと言える。
【0009】
このようなことから、最近では、例えば特許文献1にも示されるように、光源から出射される光によって光ディスクに形成される光スポットは1つとし、光ディスクからの戻り光を回折光学素子によって複数の光に分けて光検出器で受光し、TE信号を得る構成が開発されている。
【0010】
図9は、従来(特許文献1)の光ピックアップに備えられる戻り光を分光する回折光学素子の構成を示す図である。図9には、回折光学素子101に入射する戻り光も合わせて示している。
【0011】
光ディスクに形成されるトラックは、光ディスクに入射する光に対して回折格子として作用する。このために、戻り光には0次光と±1次光とが含まれることになる。図9に示すように、戻り光は0次光と±1次光とが重なり合って生じるプッシュプル信号成分領域Wを有する。このプッシュプル信号成分領域Wは、光ディスクに入射する光がトラックを横切る際に発生する交流信号成分(プッシュプル信号成分)を含む領域である。
【0012】
回折光学素子101は3つの領域101a、101b、101cに分割されている。この3つの領域101a、101b、101cは、戻り光に2つ含まれるプッシュプル信号成分領域Wの並び方向と略直交する方向に並んでいる。中央の領域101aには回折溝は無く、この部分は透明基板となっている。中央の領域101aを挟むように配置される領域101b、101cには回折溝が設けられている。この3つの領域101a、101b、101cは、プッシュプル信号成分領域Wが中央の領域101a内に収まり、両端の領域101b、101cにはプッシュプル信号成分領域Wが入らないように形成されている。
【0013】
図10は、従来(特許文献1)の光ピックアップに備えられる光検出器に形成される受光パターンを示す図である。図10には、光検出器102の受光面に形成される光スポットも合わせて示している。
【0014】
光検出器102には、3つの受光部102a、102b、102cが形成され、メイン受光部102aを中心にサブ受光部102bとサブ受光部102cとが対称配置された構成となっている。3つの受光部102a、102b、103cの並び方向は、光ピックアップが備える対物レンズがレンズシフト(トラッキング方向に移動)した場合に、光検出器102の受光面に形成される光スポットが移動する方向(以下、第1の方向と表現する)と平行な方向となっている。この第1の方向はトラッキング方向に対応する方向である。
【0015】
メイン受光部102aは、十字状の分割線で4つの領域a、b、c、dに分割されている。サブ受光部102bは、第1の方向に直交する分割線で2分割されて2つの領域e、fが形成されている。同様に、サブ受光部102cは、第1の方向に直交する分割線で2分割されて2つの領域g、hが形成されている。
【0016】
回折光学素子101で回折されることなく回折光学素子101を透過した光(0次光)は、光スポットSP1となってメイン受光部102aで受光される。回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cで回折された+1次光は、略半月状又は略三日月状の光スポットSP2a、SP2bとなってサブ受光部102bで受光される。一方、回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cで回折された−1次光は、略半月状又は略三日月状の光スポットSP3a、SP3bとなってサブ受光部102cで受光される。
【0017】
この構成において、TE信号は以下の式(A)で得られる。式(A)では、光検出器102の各領域から出力される信号を、領域名の前に「S」を付して示している。
TE=(Sa+Sb)−(Sc+Sd)−k*((Se−Sf)+(Sg−Sh)) (A)
なお、式(1)のkは係数である。
【0018】
式(A)中で前項の(Sa+Sb)−(Sc+Sd)は、メイン受光部102aで受光される光スポットSP1から得られる信号である。この信号は、光ディスクのトラック構造によって生じるプッシュプル信号に、対物レンズがレンズシフトした場合に生じるDCオフセット信号が加わった信号となる。
【0019】
式(A)中で後項第1項の(Se−Sf)は、サブ受光部102bで受光された光スポットSP2a、SP2bから得られる信号である。サブ受光部102bで受光される光スポットSP2a、SP2bは、回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cで回折された+1次光の光スポットで、この光スポットにはプッシュプル信号成分が全く(或いはほとんど)含まれていない。このため、(Se−Sf)信号にはプッシュプル信号は含まれず、対物レンズのレンズシフトに伴う光スポットの移動に起因するDCオフセット信号だけが含まれることになる。この点、式(A)中で後項第2項の(Sg−Sh)も同様である。したがって、式(A)により、対物レンズがレンズシフトした場合の影響が除去された良好なTE信号が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2009−9628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献1に示される光ピックアップには、次のような問題点がある。第1に、サブ受光部102b、102cで受光される光スポットは、回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cからの光(回折光)であり、サブ受光部102b、102cの受光面積に比べて、サイズがかなり小さなものと成りやすい。この結果、サブ受光部102b、102cから出力される信号はノイズの影響を受けやすく、TE信号が劣化してしまう場合がある。
【0022】
第2に、光検出器102に至る光の進行方向と平行な方向(以下Z方向とする)について、光検出器102の取り付け精度が十分確保できない場合に、適切なTE信号が得られないといった問題がある。これについて、図11を参照しながら説明する。図11は、光検出器の取り付けばらつきがZ方向に発生した場合の問題点を説明するための模式図である。
【0023】
図11に示されるように、光検出器102の位置がZ方向にずれて位置P1から位置P2へと変わると、回折光学素子101で回折された回折光が光検出器102に落ちる位置が変動することがわかる。従来の光ピックアップでは、回折光学素子101で生じる回折光(±1次光)の回折方向が、第1の方向(図10参照)に平行となっている。このために、光検出器102のZ方向の取り付け位置が狙いの位置からずれると、対物レンズがレンズシフトしていないにもかかわらず、サブ受光部102bに形成される光スポットSP2a、SP2bの位置が、2つの領域e、fのいずれかに偏った状態となってしまう。同様の偏りがサブ受光部102cでも生じる。この結果、適切なTE信号が得られないといった問題が発生する。
【0024】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、戻り光が通過する光学路に回折光学素子が配置される光ピックアップにおいて、安定して適切なTE信号が得られる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために本発明の光ピックアップは、光ディスクからの反射光を光検出部に導く光路中に回折光学素子を有し、前記光検出部から出力される信号を用いてトラッキングエラー信号が生成される光ピックアップであって、前記反射光のうち、前記光ディスクのトラック構造によって生じる0次光と±1次光とが重なり合って生じる2つの領域をプッシュプル信号成分領域とした場合に、前記回折光学素子には、前記2つのプッシュプル信号成分領域の並び方向に略直交する方向を長手方向とし、前記反射光の中央部が通過する略帯状の回折領域が含まれ、前記光検出部には、前記回折光学素子で回折されることなく前記回折光学素子を透過する光を受光するメイン受光部と、前記略帯状の回折領域で回折される回折光を受光するサブ受光部と、が形成され、前記メイン受光部及び前記サブ受光部から出力される信号を用いて前記トラッキングエラー信号が生成される。
【0026】
本構成によれば、戻り光が通過する光路中に配置される回折光学素子を使用してTE信号を得ることができるようになっている。このために、本構成の光ピックアップでは、光源から出射される光を3つの光に分けて光ディスクに照射する必要がなく、DPP法を用いてTE信号を生成する場合に比べて光利用効率を高められる。また、本構成では、多層ディスクに対応する場合に、DPP法では深刻な問題となる迷光について、その影響を小さなものとできる。
【0027】
また、本構成は、戻り光のプッシュプル信号成分領域に挟まれる中央部が、サブ受光部で受光される構成となっている。このために、サブ受光部に形成される光スポットの面積を、サブ受光部の面積に対して比較的大きなものとすることが可能である。したがって、本構成によれば、サブ受光部から出力される信号についてノイズの影響を低減可能であり、安定して適切なTE信号を得ることが可能になる。
【0028】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記サブ受光部の中央部には光を検出しない不感帯が形成されているのが好ましい。
【0029】
本構成によれば、対物レンズがレンズシフトして帯状の回折領域に、戻り光のプッシュプル信号成分領域が入り込む場合でも、戻り光のプッシュプル信号成分領域がサブ受光部に入り込むことを防止できる。また、本構成によれば、サブ受光部の受光面積を小さくできるので、迷光の影響を小さなものとできる。すなわち、本構成では、サブ受光部から出力される信号について安定化を図れ、適切なTE信号を得やすい。
【0030】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記サブ受光部が間隔をおいて配置される2つの部分からなることにより、前記不感帯が形成されていることとしてもよい。不感帯は遮光部材を用いて形成することも可能である(この構成も本発明の範囲に含まれる)。しかし、本構成のように、サブ受光部を2つの部分からなる構成として不感帯を形成する方が、コスト面や製造時の作業性等で有利である。
【0031】
上記構成の光ピックアップにおいて、光源からの光を前記光ディスクの情報記録面に集光する対物レンズと、前記対物レンズを前記光ディスクのトラックとほぼ直交するトラッキング方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記対物レンズが前記トラッキング方向に移動した場合に、前記光検出部の受光面に形成される光スポットが移動する方向を第1の方向とした場合に、前記メイン受光部と前記サブ受光部とは、前記第1の方向と略直交する方向に並列配置されている、のが好ましい。本構成によれば、Z方向の光検出器の取り付け精度が多少低くても、良好なTE信号を得ることが可能である。
【0032】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記サブ受光部は2つ設けられ、前記2つのサブ受光部は、前記メイン受光部を挟むように対称配置されている、こととしてもよい。この構成は、回折光学素子にブレーズド格子を採用しない場合には好ましい態様である。
【0033】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記回折光学素子には、前記略帯状の回折領域を挟むように、他の回折領域が設けられており、前記他の回折領域によって回折される回折光は、前記メイン受光部及び前記サブ受光部で受光されないこととするのが好ましい。このように構成すると、メイン受光部において形成される光スポット内に光量のアンバランスが発生しにくく、好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、戻り光が通過する光学路に回折光学素子が配置される光ピックアップにおいて、安定して適切なTE信号が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略平面図
【図2】本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略平面図
【図3】本実施形態の光ピックアップが備える回折光学素子の構成を示す概略平面図
【図4】本実施形態の光ピックアップが備える光検出器の受光面に形成される受光パターンを示す概略平面図
【図5】対物レンズがレンズシフトした場合における、回折光学素子と戻り光との関係を示した模式図
【図6】本実施形態の光ピックアップが備える回折光学素子の変形例を説明するための図
【図7】本実施形態の光ピックアップが備える光検出器に形成されるサブ受光部の変形例を説明するための図
【図8】本実施形態の光ピックアップが備える光検出器に関する変形例を示す図
【図9】従来の光ピックアップに備えられる戻り光を分光する回折光学素子の構成を示す図
【図10】従来の光ピックアップに備えられる光検出器に形成される受光パターンを示す図
【図11】光検出器の取り付けばらつきがZ方向に発生した場合の問題点を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の光ピックアップの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
図1は、本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略平面図で、図1(a)は光ピックアップの上面図、図1(b)は光ピックアップの側面図である。なお、図1(b)は、図1(a)に示す矢印Lに沿って見た図である。また、図1(b)には、理解を容易とするために、光ディスクDも併せて示している。
【0038】
図1に示すように、本実施形態の光ピックアップ1は、ピックアップベース10と、ピックアップベース10上に固定配置される対物レンズアクチュエータ30と、を備えた構成となっている。対物レンズアクチュエータ30は、本発明のアクチュエータの一例である。
【0039】
ピックアップベース10には、光ピックアップ1が備える光学部材が搭載される。また、ピックアップベース10の左右の端部には軸受け部10a、10bが設けられている。ピックアップベース10は、この軸受け部10a、10bによって、光ディスク装置(光ディスクDの再生や記録を行うための装置)に設けられるガイドシャフト100(図1(a)に破線で示す)に摺動可能に支持されることになる。光ディスク装置に設けられるガイドシャフト100は、光ディスクの半径方向(ラジアル方向;Rad方向)に延びるように配置される。ガイドシャフト100に対して摺動可能とされる光ピックアップ1は、回転する光ディスクDの所望のアドレスにアクセスして情報の読み取りや書き込みを行うことができる。
【0040】
対物レンズアクチュエータ30は、光ピックアップ1の光学系に備えられる対物レンズ16をフォーカス方向及びトラッキング方向(Rad方向と同じ方向)に移動可能とする装置である。
【0041】
光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ16の焦点位置が常に光ディスクDの情報記録面RSに合うようにフォーカシング制御を行う必要がある。また、光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ16によって光ディスクDの情報記録面RSに集光される光スポットの位置が、光ディスクDのトラックに常に追随するようにトラッキング制御を行う必要がある。対物レンズアクチュエータ30は、例えば、これらフォーカシング制御及びトラッキング制御を行う際に駆動される。
【0042】
なお、対物レンズアクチュエータ30は、対物レンズ16を保持するレンズホルダを有し、レンズホルダをワイヤで揺動可能に支持する構成のものである。そして、コイル及び磁石を利用して発生させた力でレンズホルダを動かすものである。このようなタイプの対物レンズアクチュエータは公知であるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0043】
図2は、本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略平面図である。半導体レーザ11(本発明の光源の一例)は、光ピックアップ1で対応する光ディスクDの種類によって、その種類が決まる。例えば、光ピックアップ1がBD対応であれば、半導体レーザ11としては、波長405nm帯のレーザ光を出射するものが使用される。
【0044】
半導体レーザ11から出射されたレーザ光は、偏光ビームスプリッタ12に送られる。偏光ビームスプリッタ12は、半導体レーザ11から出射されたS偏光(直線偏光の一例であり、これに限定される趣旨ではない)を反射する。偏光ビームスプリッタ12で反射されたレーザ光は、1/4波長板13で円偏光に変換される。1/4波長板13から出射されるレーザ光は、コリメートレンズ14を透過後、立ち上げミラー15で反射される。立ち上げミラー15で反射されたレーザ光は、立ち上げミラー15の上方にある対物レンズ16へと至る。対物レンズ16は、入射したレーザ光を光ディスクDの情報記録面RSに集光する機能を有する。
【0045】
対物レンズ16によって情報記録面RSに集光された後、情報記録面RSで反射された反射光(戻り光)は、対物レンズ16を通過後、立ち上げミラー15で反射される。そして、戻り光は、コリメートレンズ14を通過し、1/4波長板13でP偏光に変換されて偏光ビームスプリッタ12を透過する。偏光ビームスプリッタ12を通過した戻り光は、回折光学素子17と、シリンドリカル面を含むセンサーレンズ18と、からなるセンサー光学系を介して光検出器19(本発明の光検出部の一例)へと集光される。
【0046】
光検出器19は、受光した光信号を電気信号に変換する光電変換手段として機能する。光検出器19から出力された電気信号は、信号処理部20に送られる。信号処理部20においては、再生信号、FE信号、TE信号等が生成される。
【0047】
なお、コリメートレンズ14は、光軸方向M(図2の左右方向)に移動可能となっており、その位置はレイヤージャンプ等に応じて適宜移動される。これにより、光ピックアップ1においては、球面収差の影響が適切に抑制される。また、回折光学素子17はTE信号を生成可能とするために設けられているが、この点の詳細については後述する。
【0048】
また、センサーレンズ22にシリンドリカル面を設けて非点収差が与えられるように構成しているのは、非点収差法を用いてFE信号を生成できるようにするためである。また、信号処理部20で生成されたFE信号及びTE信号に基づいて、光ピックアップ1の制御部(図示せず)は、フォーカシング制御及びトラッキング制御を行うべく、対物レンズアクチュエータ30の駆動を制御する。
【0049】
図3は、本実施形態の光ピックアップが備える回折光学素子の構成を示す概略平面図である。なお、図3においては、回折光学素子17に入射する戻り光も合わせて示している。図3に示すように、回折光学素子17は、真ん中に配置される第1の領域171と、この第1の領域171を挟むように配置される第2の領域172a及び第3の領域172bと、の3つの領域に分割されている。3つの領域171、172a、172bの並び方向は、回折光学素子17に入射する戻り光におけるプッシュプル信号成分領域W(2つある)の並び方向(図3の上下方向)と略平行な方向である。
【0050】
第1の領域171は、戻り光のプッシュプル信号成分領域Wの並び方向に略直交する方向(図3の左右方向)を長手方向とする略帯状の領域である。この第1の領域171は、戻り光の中央部(領域Wに挟まれた部分)が通過する領域となっている。本実施形態では、第1の領域171の幅(短手方向の長さ)は、対物レンズ16がレンズシフトしていない場合において、プッシュプル信号成分領域Wが入射しないように決められている。
【0051】
なお、第1の領域171の幅は、あまり広くしすぎると(場合によっては、戻り光の領域Wが多少入り込む構成で構わないが)、レンズシフトが発生した場合に適切なTE信号が得られなくなる場合があるために、実験等によって最適な幅を決定するのが好ましい。
【0052】
第1の領域171には、縞状の凹凸パターンからなる回折格子が形成されている。第1の領域171に形成される回折格子は、入射した戻り光がこの第1の領域171で回折されて生じる1次光が光検出器19のサブ受光部(後述する)に入射するようにパターン形成されている。なお、この第1の領域171は、本発明の略帯状の回折領域の一例である。
【0053】
第2の領域172a及び第3の領域172bは、いずれも略矩形状に設けられ、第1の領域171に隣接配置されている。第2の領域172a及び第3の領域172bにも縞状の凹凸パターンからなる回折格子が形成されている。ただし、これらの領域172a、172bに形成される回折格子は、入射した戻り光がこれらの領域172a、172bで回折されて生じる回折光が光検出器19に形成されるメイン受光部及びサブ受光部(後述する)に入射されないようにパターン形成されている。なお、第2の領域172a及び第3の領域172bは、本発明における他の回折領域の一例である。
【0054】
各領域171、172a、172bに形成される回折格子は、本実施形態では矩形の回折溝から成るものとしているが、これに限定されず、例えば鋸歯状の回折溝からなるブレーズド格子等でもよい。
【0055】
図4は、本実施形態の光ピックアップが備える光検出器の受光面に形成される受光パターンを示す概略平面図である。なお、図4には、光検出器19の受光面に形成される光スポットも合わせて示している。この光スポットは、対物レンズ16がレンズシフトしていない場合を想定して示している。
【0056】
図4に示すように、光検出器19には、真ん中に配置されるメイン受光部191と、このメイン受光部191を挟むように配置される2つのサブ受光部192、193と、が形成されている。2つのサブ受光部192、193は、メイン受光部191を中心として対称配置されている。
【0057】
3つの受光部191、192、193の並び方向は、対物レンズ16がレンズシフトした場合に、光検出器19の受光面に形成される光スポットが移動する方向(以下、第1の方向と表現する)と略直交する方向となっている。第1の方向はトラッキング方向に対応する方向である。
【0058】
なお、メイン受光部191は本発明のメイン受光部の一例であり、サブ受光部192及びサブ受光部193は本発明のサブ受光部の一例である。なお、本実施形態では、サブ受光部の数を2つとしているが、場合によっては1つとしてもよい。
【0059】
メイン受光部191には、矩形状の受光領域を第1の分割線DL1と第2の分割線DL2とで4等分して形成された4つの分割領域A、B、C、Dが設けられている。第1の分割線DL1は第1の方向に略直交する分割線であり、第1の分割線DL1と第2の分割線DL2とは互いに略直交する。対物レンズ16がレンズシフトしていない状態において、回折光学素子17からの0次光(回折光学素子17で回折されることなく回折光学素子17を透過する光)の中心と、第1の分割線DL1と第2の分割線DLの交差点と、が略一致するように、メイン受光部191は設けられている。
【0060】
サブ受光部192は、間隔を置いて並列配置される略矩形状の2つの部分192a、192bからなる。すなわち、サブ受光部192には、その中央部に光を検出しない不感帯NDが設けられた構成となっている。2つの部分192a、192bは同形状、同一サイズである。また、2つの部分192a、192bは、いずれも第1の方向に略直交する(第1の分割線DL1に略平行である)第3の分割線DL3によって2等分され、それぞれに領域Eと領域Fが形成されている。
【0061】
サブ受光部192は、対物レンズ16がレンズシフトしていない状態において、回折光学素子17からの+1次光の中心とサブ受光部192の中心M1とが略一致するように設けられている。なお、サブ受光部192の中心M1は、2つの部分192a、192bの第3の分割線DL3間を繋ぐ線(破線で示す)の中点位置が該当する(図4参照)。
【0062】
サブ受光部192と対称的な関係にあるサブ受光部193は、サブ受光部192と同様に、間隔を置いて並列配置される略矩形状の2つの部分193a、193bからなる。そして、第3の分割線DL3によって2等分され、それぞれに領域Gと領域Hが形成されている。サブ受光部193にも、サブ受光部192と同様に、その中央部に光を検出しない不感帯NDが設けられた構成となっている。サブ受光部193は、対物レンズ16がレンズシフトしていない状態において、回折光学素子17からの−1次光の中心とサブ受光部193の中心M2とが略一致するように設けられている。
【0063】
なお、サブ受光部192、193に不感帯NDを設けた理由については後述する。また、図4に示すサブ受光部192、193に形成される光スポットの形状は、回折光学素子19の第1の領域171の形状に対応しないものとなっているが、これは、センサーレンズ18に設けられるシリンドリカル面の作用によって光の形状に歪みが生じるからである。
【0064】
以上のように構成される光検出器19の各受光部191〜193(の各領域)から出力される信号を用いて、信号処理部20(図2参照)で、以下のような演算式によって再生信号(RF信号)、FE信号、TE信号が生成される。
【0065】
まず、RF信号は、以下の式(1)で生成される。
RF=SA+SB+SC+SD (1)
式(1)においては、メイン受光部191の各分割領域から出力される信号が、各分割領域の名前に「S」をつけて示されている。以下の式(2)、式(3)でも同様の表記を用いる。
【0066】
なお、RF信号は、メイン受光部191から得られる信号に加えて、サブ受光部192、193から出力される信号を用いて得てもよい。
【0067】
FE信号は、以下の式(2)で生成される。
FE=(SA+SC)−(SB+SD) (2)
なお、この演算式は公知の手法である非点収差法によるものであり、詳細な説明は省略する。また、本実施形態では非点収差法を用いてFE信号を生成する構成としているが、別の手法でFE信号を生成する構成を採用しても構わない。
【0068】
TE信号は、以下の式(3)で生成される。
TE=(SA+SB)−(SC+SD)−K*((SE−SF)+(SG−SH)) (3)
なお、式(3)のKは係数である。この係数Kは、例えば、係数を種々の値に変更しながら、適切なTE信号が得られる値を実験的に求めるというやり方で得ることができる。
【0069】
式(3)中で前項の(SA+SB)−(SC+SD)は、メイン受光部191で受光される光スポットS1から得られる信号である。この信号は、光ディスクDのトラック構造によって生じるプッシュプル信号に、対物レンズ16がレンズシフトした場合に生じるDCオフセット信号が加わった信号となる。
【0070】
式(3)中で後項第1項の(SE−SF)は、サブ受光部192で受光された光スポットS2から得られる信号である。サブ受光部192で受光される光スポットS2は、回折光学素子17の第1の領域171で回折された+1次光の光スポットで、この光スポットにはプッシュプル信号成分がほとんど含まれていない。そして、サブ受光部192、192には、中央部に不感帯NDが設けられている。このため、(SE−SF)信号にはプッシュプル信号は含まれず、対物レンズ16のレンズシフトに伴う光スポットの移動に起因するDCオフセット信号だけが含まれることになる。この点、式(3)中で後項第2項の(SG−SH)も同様である。したがって、式(3)により、対物レンズがレンズシフトした場合の影響が除去された良好なTE信号が得られる。
【0071】
ここで、サブ受光部192、193に設けられた不感帯NDの作用について説明しておく。図5は、対物レンズがレンズシフトした場合における、回折光学素子と戻り光との関係を示した模式図である。本実施形態では、回折光学素子17に設けられる第1の領域171の幅(短手方向の長さ)をできるだけ広くする構成を採用している。そして、対物レンズ16がレンズシフトした場合に、図5に示すように、戻り光のプッシュプル信号成分領域Wが第1の領域171に入り込んでしまう場合がある。
【0072】
プッシュプル信号成分領域Wの入り込みは、その形状(領域Wの形状)から第1の領域171の中央部で生じる(図5参照)。このために、光ピックアップ1においては、この領域Wの入り込みが生じる部分の光をサブ受光部192、193で受光しないように、サブ受光部192、193の中央部に不感帯NDが設けられている。そして、これにより、(SE−SF)信号及び(SG−SH)信号には、プッシュプル信号が含まれず、DCオフセット信号だけが含まれることになっている。
【0073】
以上のように設けられる光ピックアップ1の効果について説明する。光ピックアップ1は、半導体レーザ11から光ディスクDに照射される光が1つの光(光ディスクD上に1つの光スポットのみ形成される)となるように構成されている。このために、TE信号に得るためにDPP法を採用する光ピックアップに比べて光の利用効率を向上できる。また、光ピックアップ1では、多層ディスク(例えばBDで採用されることが多い)に対応する場合に、DPP法では深刻な問題となる迷光について、その影響を小さなものとできる。
【0074】
また、光ピックアップ1では、サブ受光部192、193で受光される光スポットの面積を、サブ受光部192、193の面積に対して比較的大きなものとすることが可能であるために、サブ受光部192、193から出力される信号について、ノイズの影響を低減可能である。また、不感帯NDの形成により、サブ受光部192、193の受光面積を小さくできるので、サブ受光部192、193において迷光の影響を小さなものとできる。すなわち、光ピックアップ1では、サブ受光部192、193から出力される信号について安定化を図れ、適切なTE信号を得やすい。
【0075】
また、光ピックアップ1においては、Z方向の光検出器19の取り付け精度が多少低くても、良好なTE信号が得られる。光ピックアップ1では、光検出器19における受光部191〜193の並び方向が第1の方向(トラッキング方向に相当する)に略直交する方向となっている(図4参照)。このために、光検出器19のZ方向の取り付け位置がばらついても、サブ受光部192において領域Eと領域F(サブ受光部193において領域Gと領域H)とのいずれかに偏って光スポットが形成されることがない。このため、上述した従来の光ピックアップに比べて、Z方向の光検出器の取り付けばらつきに対して性能の確保が行い易い。
【0076】
以上に示した実施形態は本発明の一例であり、本発明の光ピックアップは以上に示した構成に限定されるものではない。
【0077】
例えば、以上に示した回折光学素子17の構成は一例に過ぎず、適宜変更可能である。例えば、回折光学素子17の略帯状の回折領域(第1の領域)171について、図6に示すような構成としてもよい。すなわち、略帯状の回折領域171の中央部近傍(矢印Tで示す範囲)に、戻り光のプッシュプル信号成分領域Wの入り込みが生じないように、幅狭小部171aを設ける構成としてもよい。幅狭小部171aの形状は、プッシュプル信号成分領域Wの入り込みを避けるという目的を満たす範囲で、図6に示す形状から適宜変更して構わない。なお、この略帯状の回折領域(第1の領域)171の変更に合わせて、第2の領域172a及び第3の領域172bも、その形状が変更されることになる。
【0078】
また、回折光学素子17の第2の領域172a及び第3の領域172bには、回折格子を設けず、この部分は単に光が透過するように構成してもよい。
【0079】
また、サブ受光部192、193における不感帯NDは、サブ受光部192、193を2つの部分に分けて得るのではなく、例えばサブ受光部192、193上(或いは光検出器19と回折光学素子17との間)に遮光部材を配置して形成してもよい。また、不感帯NDを形成する領域は、プッシュプル信号成分領域Wの入り込みが防ぐことができるように設けられればよく、図7に示すようにサブ受光部192、193の中央部に限定して設けてもよい。
【0080】
また、回折光学素子17に設けられる略帯状の回折領域(第1の領域)171の幅(短手方向の長さ)を短くすることにより、対物レンズ16がレンズシフトしても戻り光のプッシュプル信号成分領域Wが帯状の回折領域171に入り込まないのであれば、場合によっては、サブ受光部192、193に不感帯を設けないようにしても構わない。
【0081】
また、光ピックアップ1において、Z方向の光検出器19の取り付け精度が高い場合には、図8に示すように、受光部191〜193の並び方向を第1の方向(トラッキング方向に対応する方向)と平行な方向としても構わない。
【0082】
また、以上に示した実施形態では、光ピックアップ1が1つの光ディスクに対応する構成とした。しかし、本発明は、例えば、光ピックアップが複数種類の光ディスク(例えば、BDとDVDの2種類、BDとDVDとCDの3種類等)に対応する光ピックアップにも勿論適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、例えば多層ディスクに対応する光ピックアップに対して好適である。
【符号の説明】
【0084】
1 光ピックアップ
11 半導体レーザ(光源)
16 対物レンズ
17 回折光学素子
19 光検出器(光検出部)
30 対物レンズアクチュエータ
171 第1の領域(略帯状の回折領域)
172a 第2の領域(他の回折領域)
172b 第3の領域(他の回折領域)
191 メイン受光部
192、193 サブ受光部
D 光ディスク
ND 不感帯
RS 情報記録面
W プッシュプル信号成分領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに記録される情報の読み取りや光ディスクへの情報の書き込みを行う際に用いられる光ピックアップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブルーレイディスク(以下BDと記載)、デジタル多用途ディスク(以下DVDと記載)、コンパクトディスク(以下CDと記載)等の光ディスクに対して、情報を読み取ったり、情報を書き込んだりする目的で光ピックアップが使用されている。この光ピックアップには、光源から出射される光を光ディスクの情報記録面に集光するための対物レンズと、光ディスクで反射される反射光(戻り光)を受光する光検出器(PDIC)と、が含まれる。
【0003】
光ピックアップによって、光ディスクの情報を読み取ったり、光ディスクに情報を書き込んだりする場合には、対物レンズによって集光される光スポットの位置を次のように制御する必要がある。第1に、対物レンズによって集光される光スポットが、光ディスクの情報記録面上に常に存在するように制御(フォーカシング制御)する必要がある。第2に、対物レンズによって情報記録面に集光された光スポットが、光ディスクに形成されるトラックに常に追従するように制御(トラッキング制御)する必要がある。
【0004】
このために、光ピックアップにおいては、光検出器から出力される信号に基づいて、光スポットと情報記録面(目標の情報記録面)とのズレ量を表すフォーカスエラー(FE)信号と、光スポットとトラック(目標のトラック)とのズレ量を表すトラッキングエラー(TE)信号とが算出されるように構成される。そして、FE信号に基づいて対物レンズのフォーカス方向の位置を動かす制御(フォーカシング制御)が行われ、TE信号に基づいて対物レンズのトラッキング方向の位置を動かす制御(トラッキング制御)が行われる。
【0005】
なお、フォーカス方向は、光ディスクの情報記録面に略垂直な方向であり、トラッキング方向は、光ディスクのトラック(情報記録面に同心円状又は螺旋状に形成される)に略垂直な方向である。
【0006】
TE信号を算出する方法としては、従来、PP(Push-Pull)法やDPP(Differential Push-Pull)法等が知られている。DPP法は、レンズシフト(対物レンズのトラッキング方向へのオフセット)の影響を抑制してTE信号を得ることができるため、従来、光ピックアップに広く採用されている。
【0007】
しかしながら、例えばBDは、情報記録面の数が複数ある多層ディスクが一般的であり、最近では3、4層といった多層ディスクも市販されている。このような多層ディスクに光ピックアップで対応する場合、目的とする情報記録面とは異なる情報記録面からの反射光が迷光として発生する。光源から出射される光を回折格子(グレーティング)によって主光と2つの副光とからなる3つの光に分けて光ディスクに照射する構成を採用するDPP法は、前述の迷光の影響を受け易く、多層ディスクに対しては不向きである。
【0008】
また、DPP法においては、上述のように光源から出射される光を3つの光に分けて光ディスクに照射するために、1つの光のみを光ディスクに照射する場合に比べて、光の利用効率が低下してしまう。すなわち、光利用効率の面からもDPP法は好ましくないと言える。
【0009】
このようなことから、最近では、例えば特許文献1にも示されるように、光源から出射される光によって光ディスクに形成される光スポットは1つとし、光ディスクからの戻り光を回折光学素子によって複数の光に分けて光検出器で受光し、TE信号を得る構成が開発されている。
【0010】
図9は、従来(特許文献1)の光ピックアップに備えられる戻り光を分光する回折光学素子の構成を示す図である。図9には、回折光学素子101に入射する戻り光も合わせて示している。
【0011】
光ディスクに形成されるトラックは、光ディスクに入射する光に対して回折格子として作用する。このために、戻り光には0次光と±1次光とが含まれることになる。図9に示すように、戻り光は0次光と±1次光とが重なり合って生じるプッシュプル信号成分領域Wを有する。このプッシュプル信号成分領域Wは、光ディスクに入射する光がトラックを横切る際に発生する交流信号成分(プッシュプル信号成分)を含む領域である。
【0012】
回折光学素子101は3つの領域101a、101b、101cに分割されている。この3つの領域101a、101b、101cは、戻り光に2つ含まれるプッシュプル信号成分領域Wの並び方向と略直交する方向に並んでいる。中央の領域101aには回折溝は無く、この部分は透明基板となっている。中央の領域101aを挟むように配置される領域101b、101cには回折溝が設けられている。この3つの領域101a、101b、101cは、プッシュプル信号成分領域Wが中央の領域101a内に収まり、両端の領域101b、101cにはプッシュプル信号成分領域Wが入らないように形成されている。
【0013】
図10は、従来(特許文献1)の光ピックアップに備えられる光検出器に形成される受光パターンを示す図である。図10には、光検出器102の受光面に形成される光スポットも合わせて示している。
【0014】
光検出器102には、3つの受光部102a、102b、102cが形成され、メイン受光部102aを中心にサブ受光部102bとサブ受光部102cとが対称配置された構成となっている。3つの受光部102a、102b、103cの並び方向は、光ピックアップが備える対物レンズがレンズシフト(トラッキング方向に移動)した場合に、光検出器102の受光面に形成される光スポットが移動する方向(以下、第1の方向と表現する)と平行な方向となっている。この第1の方向はトラッキング方向に対応する方向である。
【0015】
メイン受光部102aは、十字状の分割線で4つの領域a、b、c、dに分割されている。サブ受光部102bは、第1の方向に直交する分割線で2分割されて2つの領域e、fが形成されている。同様に、サブ受光部102cは、第1の方向に直交する分割線で2分割されて2つの領域g、hが形成されている。
【0016】
回折光学素子101で回折されることなく回折光学素子101を透過した光(0次光)は、光スポットSP1となってメイン受光部102aで受光される。回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cで回折された+1次光は、略半月状又は略三日月状の光スポットSP2a、SP2bとなってサブ受光部102bで受光される。一方、回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cで回折された−1次光は、略半月状又は略三日月状の光スポットSP3a、SP3bとなってサブ受光部102cで受光される。
【0017】
この構成において、TE信号は以下の式(A)で得られる。式(A)では、光検出器102の各領域から出力される信号を、領域名の前に「S」を付して示している。
TE=(Sa+Sb)−(Sc+Sd)−k*((Se−Sf)+(Sg−Sh)) (A)
なお、式(1)のkは係数である。
【0018】
式(A)中で前項の(Sa+Sb)−(Sc+Sd)は、メイン受光部102aで受光される光スポットSP1から得られる信号である。この信号は、光ディスクのトラック構造によって生じるプッシュプル信号に、対物レンズがレンズシフトした場合に生じるDCオフセット信号が加わった信号となる。
【0019】
式(A)中で後項第1項の(Se−Sf)は、サブ受光部102bで受光された光スポットSP2a、SP2bから得られる信号である。サブ受光部102bで受光される光スポットSP2a、SP2bは、回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cで回折された+1次光の光スポットで、この光スポットにはプッシュプル信号成分が全く(或いはほとんど)含まれていない。このため、(Se−Sf)信号にはプッシュプル信号は含まれず、対物レンズのレンズシフトに伴う光スポットの移動に起因するDCオフセット信号だけが含まれることになる。この点、式(A)中で後項第2項の(Sg−Sh)も同様である。したがって、式(A)により、対物レンズがレンズシフトした場合の影響が除去された良好なTE信号が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2009−9628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献1に示される光ピックアップには、次のような問題点がある。第1に、サブ受光部102b、102cで受光される光スポットは、回折光学素子101の格子面辺縁部領域101b、101cからの光(回折光)であり、サブ受光部102b、102cの受光面積に比べて、サイズがかなり小さなものと成りやすい。この結果、サブ受光部102b、102cから出力される信号はノイズの影響を受けやすく、TE信号が劣化してしまう場合がある。
【0022】
第2に、光検出器102に至る光の進行方向と平行な方向(以下Z方向とする)について、光検出器102の取り付け精度が十分確保できない場合に、適切なTE信号が得られないといった問題がある。これについて、図11を参照しながら説明する。図11は、光検出器の取り付けばらつきがZ方向に発生した場合の問題点を説明するための模式図である。
【0023】
図11に示されるように、光検出器102の位置がZ方向にずれて位置P1から位置P2へと変わると、回折光学素子101で回折された回折光が光検出器102に落ちる位置が変動することがわかる。従来の光ピックアップでは、回折光学素子101で生じる回折光(±1次光)の回折方向が、第1の方向(図10参照)に平行となっている。このために、光検出器102のZ方向の取り付け位置が狙いの位置からずれると、対物レンズがレンズシフトしていないにもかかわらず、サブ受光部102bに形成される光スポットSP2a、SP2bの位置が、2つの領域e、fのいずれかに偏った状態となってしまう。同様の偏りがサブ受光部102cでも生じる。この結果、適切なTE信号が得られないといった問題が発生する。
【0024】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、戻り光が通過する光学路に回折光学素子が配置される光ピックアップにおいて、安定して適切なTE信号が得られる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために本発明の光ピックアップは、光ディスクからの反射光を光検出部に導く光路中に回折光学素子を有し、前記光検出部から出力される信号を用いてトラッキングエラー信号が生成される光ピックアップであって、前記反射光のうち、前記光ディスクのトラック構造によって生じる0次光と±1次光とが重なり合って生じる2つの領域をプッシュプル信号成分領域とした場合に、前記回折光学素子には、前記2つのプッシュプル信号成分領域の並び方向に略直交する方向を長手方向とし、前記反射光の中央部が通過する略帯状の回折領域が含まれ、前記光検出部には、前記回折光学素子で回折されることなく前記回折光学素子を透過する光を受光するメイン受光部と、前記略帯状の回折領域で回折される回折光を受光するサブ受光部と、が形成され、前記メイン受光部及び前記サブ受光部から出力される信号を用いて前記トラッキングエラー信号が生成される。
【0026】
本構成によれば、戻り光が通過する光路中に配置される回折光学素子を使用してTE信号を得ることができるようになっている。このために、本構成の光ピックアップでは、光源から出射される光を3つの光に分けて光ディスクに照射する必要がなく、DPP法を用いてTE信号を生成する場合に比べて光利用効率を高められる。また、本構成では、多層ディスクに対応する場合に、DPP法では深刻な問題となる迷光について、その影響を小さなものとできる。
【0027】
また、本構成は、戻り光のプッシュプル信号成分領域に挟まれる中央部が、サブ受光部で受光される構成となっている。このために、サブ受光部に形成される光スポットの面積を、サブ受光部の面積に対して比較的大きなものとすることが可能である。したがって、本構成によれば、サブ受光部から出力される信号についてノイズの影響を低減可能であり、安定して適切なTE信号を得ることが可能になる。
【0028】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記サブ受光部の中央部には光を検出しない不感帯が形成されているのが好ましい。
【0029】
本構成によれば、対物レンズがレンズシフトして帯状の回折領域に、戻り光のプッシュプル信号成分領域が入り込む場合でも、戻り光のプッシュプル信号成分領域がサブ受光部に入り込むことを防止できる。また、本構成によれば、サブ受光部の受光面積を小さくできるので、迷光の影響を小さなものとできる。すなわち、本構成では、サブ受光部から出力される信号について安定化を図れ、適切なTE信号を得やすい。
【0030】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記サブ受光部が間隔をおいて配置される2つの部分からなることにより、前記不感帯が形成されていることとしてもよい。不感帯は遮光部材を用いて形成することも可能である(この構成も本発明の範囲に含まれる)。しかし、本構成のように、サブ受光部を2つの部分からなる構成として不感帯を形成する方が、コスト面や製造時の作業性等で有利である。
【0031】
上記構成の光ピックアップにおいて、光源からの光を前記光ディスクの情報記録面に集光する対物レンズと、前記対物レンズを前記光ディスクのトラックとほぼ直交するトラッキング方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記対物レンズが前記トラッキング方向に移動した場合に、前記光検出部の受光面に形成される光スポットが移動する方向を第1の方向とした場合に、前記メイン受光部と前記サブ受光部とは、前記第1の方向と略直交する方向に並列配置されている、のが好ましい。本構成によれば、Z方向の光検出器の取り付け精度が多少低くても、良好なTE信号を得ることが可能である。
【0032】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記サブ受光部は2つ設けられ、前記2つのサブ受光部は、前記メイン受光部を挟むように対称配置されている、こととしてもよい。この構成は、回折光学素子にブレーズド格子を採用しない場合には好ましい態様である。
【0033】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記回折光学素子には、前記略帯状の回折領域を挟むように、他の回折領域が設けられており、前記他の回折領域によって回折される回折光は、前記メイン受光部及び前記サブ受光部で受光されないこととするのが好ましい。このように構成すると、メイン受光部において形成される光スポット内に光量のアンバランスが発生しにくく、好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、戻り光が通過する光学路に回折光学素子が配置される光ピックアップにおいて、安定して適切なTE信号が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略平面図
【図2】本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略平面図
【図3】本実施形態の光ピックアップが備える回折光学素子の構成を示す概略平面図
【図4】本実施形態の光ピックアップが備える光検出器の受光面に形成される受光パターンを示す概略平面図
【図5】対物レンズがレンズシフトした場合における、回折光学素子と戻り光との関係を示した模式図
【図6】本実施形態の光ピックアップが備える回折光学素子の変形例を説明するための図
【図7】本実施形態の光ピックアップが備える光検出器に形成されるサブ受光部の変形例を説明するための図
【図8】本実施形態の光ピックアップが備える光検出器に関する変形例を示す図
【図9】従来の光ピックアップに備えられる戻り光を分光する回折光学素子の構成を示す図
【図10】従来の光ピックアップに備えられる光検出器に形成される受光パターンを示す図
【図11】光検出器の取り付けばらつきがZ方向に発生した場合の問題点を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の光ピックアップの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
図1は、本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略平面図で、図1(a)は光ピックアップの上面図、図1(b)は光ピックアップの側面図である。なお、図1(b)は、図1(a)に示す矢印Lに沿って見た図である。また、図1(b)には、理解を容易とするために、光ディスクDも併せて示している。
【0038】
図1に示すように、本実施形態の光ピックアップ1は、ピックアップベース10と、ピックアップベース10上に固定配置される対物レンズアクチュエータ30と、を備えた構成となっている。対物レンズアクチュエータ30は、本発明のアクチュエータの一例である。
【0039】
ピックアップベース10には、光ピックアップ1が備える光学部材が搭載される。また、ピックアップベース10の左右の端部には軸受け部10a、10bが設けられている。ピックアップベース10は、この軸受け部10a、10bによって、光ディスク装置(光ディスクDの再生や記録を行うための装置)に設けられるガイドシャフト100(図1(a)に破線で示す)に摺動可能に支持されることになる。光ディスク装置に設けられるガイドシャフト100は、光ディスクの半径方向(ラジアル方向;Rad方向)に延びるように配置される。ガイドシャフト100に対して摺動可能とされる光ピックアップ1は、回転する光ディスクDの所望のアドレスにアクセスして情報の読み取りや書き込みを行うことができる。
【0040】
対物レンズアクチュエータ30は、光ピックアップ1の光学系に備えられる対物レンズ16をフォーカス方向及びトラッキング方向(Rad方向と同じ方向)に移動可能とする装置である。
【0041】
光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ16の焦点位置が常に光ディスクDの情報記録面RSに合うようにフォーカシング制御を行う必要がある。また、光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ16によって光ディスクDの情報記録面RSに集光される光スポットの位置が、光ディスクDのトラックに常に追随するようにトラッキング制御を行う必要がある。対物レンズアクチュエータ30は、例えば、これらフォーカシング制御及びトラッキング制御を行う際に駆動される。
【0042】
なお、対物レンズアクチュエータ30は、対物レンズ16を保持するレンズホルダを有し、レンズホルダをワイヤで揺動可能に支持する構成のものである。そして、コイル及び磁石を利用して発生させた力でレンズホルダを動かすものである。このようなタイプの対物レンズアクチュエータは公知であるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0043】
図2は、本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略平面図である。半導体レーザ11(本発明の光源の一例)は、光ピックアップ1で対応する光ディスクDの種類によって、その種類が決まる。例えば、光ピックアップ1がBD対応であれば、半導体レーザ11としては、波長405nm帯のレーザ光を出射するものが使用される。
【0044】
半導体レーザ11から出射されたレーザ光は、偏光ビームスプリッタ12に送られる。偏光ビームスプリッタ12は、半導体レーザ11から出射されたS偏光(直線偏光の一例であり、これに限定される趣旨ではない)を反射する。偏光ビームスプリッタ12で反射されたレーザ光は、1/4波長板13で円偏光に変換される。1/4波長板13から出射されるレーザ光は、コリメートレンズ14を透過後、立ち上げミラー15で反射される。立ち上げミラー15で反射されたレーザ光は、立ち上げミラー15の上方にある対物レンズ16へと至る。対物レンズ16は、入射したレーザ光を光ディスクDの情報記録面RSに集光する機能を有する。
【0045】
対物レンズ16によって情報記録面RSに集光された後、情報記録面RSで反射された反射光(戻り光)は、対物レンズ16を通過後、立ち上げミラー15で反射される。そして、戻り光は、コリメートレンズ14を通過し、1/4波長板13でP偏光に変換されて偏光ビームスプリッタ12を透過する。偏光ビームスプリッタ12を通過した戻り光は、回折光学素子17と、シリンドリカル面を含むセンサーレンズ18と、からなるセンサー光学系を介して光検出器19(本発明の光検出部の一例)へと集光される。
【0046】
光検出器19は、受光した光信号を電気信号に変換する光電変換手段として機能する。光検出器19から出力された電気信号は、信号処理部20に送られる。信号処理部20においては、再生信号、FE信号、TE信号等が生成される。
【0047】
なお、コリメートレンズ14は、光軸方向M(図2の左右方向)に移動可能となっており、その位置はレイヤージャンプ等に応じて適宜移動される。これにより、光ピックアップ1においては、球面収差の影響が適切に抑制される。また、回折光学素子17はTE信号を生成可能とするために設けられているが、この点の詳細については後述する。
【0048】
また、センサーレンズ22にシリンドリカル面を設けて非点収差が与えられるように構成しているのは、非点収差法を用いてFE信号を生成できるようにするためである。また、信号処理部20で生成されたFE信号及びTE信号に基づいて、光ピックアップ1の制御部(図示せず)は、フォーカシング制御及びトラッキング制御を行うべく、対物レンズアクチュエータ30の駆動を制御する。
【0049】
図3は、本実施形態の光ピックアップが備える回折光学素子の構成を示す概略平面図である。なお、図3においては、回折光学素子17に入射する戻り光も合わせて示している。図3に示すように、回折光学素子17は、真ん中に配置される第1の領域171と、この第1の領域171を挟むように配置される第2の領域172a及び第3の領域172bと、の3つの領域に分割されている。3つの領域171、172a、172bの並び方向は、回折光学素子17に入射する戻り光におけるプッシュプル信号成分領域W(2つある)の並び方向(図3の上下方向)と略平行な方向である。
【0050】
第1の領域171は、戻り光のプッシュプル信号成分領域Wの並び方向に略直交する方向(図3の左右方向)を長手方向とする略帯状の領域である。この第1の領域171は、戻り光の中央部(領域Wに挟まれた部分)が通過する領域となっている。本実施形態では、第1の領域171の幅(短手方向の長さ)は、対物レンズ16がレンズシフトしていない場合において、プッシュプル信号成分領域Wが入射しないように決められている。
【0051】
なお、第1の領域171の幅は、あまり広くしすぎると(場合によっては、戻り光の領域Wが多少入り込む構成で構わないが)、レンズシフトが発生した場合に適切なTE信号が得られなくなる場合があるために、実験等によって最適な幅を決定するのが好ましい。
【0052】
第1の領域171には、縞状の凹凸パターンからなる回折格子が形成されている。第1の領域171に形成される回折格子は、入射した戻り光がこの第1の領域171で回折されて生じる1次光が光検出器19のサブ受光部(後述する)に入射するようにパターン形成されている。なお、この第1の領域171は、本発明の略帯状の回折領域の一例である。
【0053】
第2の領域172a及び第3の領域172bは、いずれも略矩形状に設けられ、第1の領域171に隣接配置されている。第2の領域172a及び第3の領域172bにも縞状の凹凸パターンからなる回折格子が形成されている。ただし、これらの領域172a、172bに形成される回折格子は、入射した戻り光がこれらの領域172a、172bで回折されて生じる回折光が光検出器19に形成されるメイン受光部及びサブ受光部(後述する)に入射されないようにパターン形成されている。なお、第2の領域172a及び第3の領域172bは、本発明における他の回折領域の一例である。
【0054】
各領域171、172a、172bに形成される回折格子は、本実施形態では矩形の回折溝から成るものとしているが、これに限定されず、例えば鋸歯状の回折溝からなるブレーズド格子等でもよい。
【0055】
図4は、本実施形態の光ピックアップが備える光検出器の受光面に形成される受光パターンを示す概略平面図である。なお、図4には、光検出器19の受光面に形成される光スポットも合わせて示している。この光スポットは、対物レンズ16がレンズシフトしていない場合を想定して示している。
【0056】
図4に示すように、光検出器19には、真ん中に配置されるメイン受光部191と、このメイン受光部191を挟むように配置される2つのサブ受光部192、193と、が形成されている。2つのサブ受光部192、193は、メイン受光部191を中心として対称配置されている。
【0057】
3つの受光部191、192、193の並び方向は、対物レンズ16がレンズシフトした場合に、光検出器19の受光面に形成される光スポットが移動する方向(以下、第1の方向と表現する)と略直交する方向となっている。第1の方向はトラッキング方向に対応する方向である。
【0058】
なお、メイン受光部191は本発明のメイン受光部の一例であり、サブ受光部192及びサブ受光部193は本発明のサブ受光部の一例である。なお、本実施形態では、サブ受光部の数を2つとしているが、場合によっては1つとしてもよい。
【0059】
メイン受光部191には、矩形状の受光領域を第1の分割線DL1と第2の分割線DL2とで4等分して形成された4つの分割領域A、B、C、Dが設けられている。第1の分割線DL1は第1の方向に略直交する分割線であり、第1の分割線DL1と第2の分割線DL2とは互いに略直交する。対物レンズ16がレンズシフトしていない状態において、回折光学素子17からの0次光(回折光学素子17で回折されることなく回折光学素子17を透過する光)の中心と、第1の分割線DL1と第2の分割線DLの交差点と、が略一致するように、メイン受光部191は設けられている。
【0060】
サブ受光部192は、間隔を置いて並列配置される略矩形状の2つの部分192a、192bからなる。すなわち、サブ受光部192には、その中央部に光を検出しない不感帯NDが設けられた構成となっている。2つの部分192a、192bは同形状、同一サイズである。また、2つの部分192a、192bは、いずれも第1の方向に略直交する(第1の分割線DL1に略平行である)第3の分割線DL3によって2等分され、それぞれに領域Eと領域Fが形成されている。
【0061】
サブ受光部192は、対物レンズ16がレンズシフトしていない状態において、回折光学素子17からの+1次光の中心とサブ受光部192の中心M1とが略一致するように設けられている。なお、サブ受光部192の中心M1は、2つの部分192a、192bの第3の分割線DL3間を繋ぐ線(破線で示す)の中点位置が該当する(図4参照)。
【0062】
サブ受光部192と対称的な関係にあるサブ受光部193は、サブ受光部192と同様に、間隔を置いて並列配置される略矩形状の2つの部分193a、193bからなる。そして、第3の分割線DL3によって2等分され、それぞれに領域Gと領域Hが形成されている。サブ受光部193にも、サブ受光部192と同様に、その中央部に光を検出しない不感帯NDが設けられた構成となっている。サブ受光部193は、対物レンズ16がレンズシフトしていない状態において、回折光学素子17からの−1次光の中心とサブ受光部193の中心M2とが略一致するように設けられている。
【0063】
なお、サブ受光部192、193に不感帯NDを設けた理由については後述する。また、図4に示すサブ受光部192、193に形成される光スポットの形状は、回折光学素子19の第1の領域171の形状に対応しないものとなっているが、これは、センサーレンズ18に設けられるシリンドリカル面の作用によって光の形状に歪みが生じるからである。
【0064】
以上のように構成される光検出器19の各受光部191〜193(の各領域)から出力される信号を用いて、信号処理部20(図2参照)で、以下のような演算式によって再生信号(RF信号)、FE信号、TE信号が生成される。
【0065】
まず、RF信号は、以下の式(1)で生成される。
RF=SA+SB+SC+SD (1)
式(1)においては、メイン受光部191の各分割領域から出力される信号が、各分割領域の名前に「S」をつけて示されている。以下の式(2)、式(3)でも同様の表記を用いる。
【0066】
なお、RF信号は、メイン受光部191から得られる信号に加えて、サブ受光部192、193から出力される信号を用いて得てもよい。
【0067】
FE信号は、以下の式(2)で生成される。
FE=(SA+SC)−(SB+SD) (2)
なお、この演算式は公知の手法である非点収差法によるものであり、詳細な説明は省略する。また、本実施形態では非点収差法を用いてFE信号を生成する構成としているが、別の手法でFE信号を生成する構成を採用しても構わない。
【0068】
TE信号は、以下の式(3)で生成される。
TE=(SA+SB)−(SC+SD)−K*((SE−SF)+(SG−SH)) (3)
なお、式(3)のKは係数である。この係数Kは、例えば、係数を種々の値に変更しながら、適切なTE信号が得られる値を実験的に求めるというやり方で得ることができる。
【0069】
式(3)中で前項の(SA+SB)−(SC+SD)は、メイン受光部191で受光される光スポットS1から得られる信号である。この信号は、光ディスクDのトラック構造によって生じるプッシュプル信号に、対物レンズ16がレンズシフトした場合に生じるDCオフセット信号が加わった信号となる。
【0070】
式(3)中で後項第1項の(SE−SF)は、サブ受光部192で受光された光スポットS2から得られる信号である。サブ受光部192で受光される光スポットS2は、回折光学素子17の第1の領域171で回折された+1次光の光スポットで、この光スポットにはプッシュプル信号成分がほとんど含まれていない。そして、サブ受光部192、192には、中央部に不感帯NDが設けられている。このため、(SE−SF)信号にはプッシュプル信号は含まれず、対物レンズ16のレンズシフトに伴う光スポットの移動に起因するDCオフセット信号だけが含まれることになる。この点、式(3)中で後項第2項の(SG−SH)も同様である。したがって、式(3)により、対物レンズがレンズシフトした場合の影響が除去された良好なTE信号が得られる。
【0071】
ここで、サブ受光部192、193に設けられた不感帯NDの作用について説明しておく。図5は、対物レンズがレンズシフトした場合における、回折光学素子と戻り光との関係を示した模式図である。本実施形態では、回折光学素子17に設けられる第1の領域171の幅(短手方向の長さ)をできるだけ広くする構成を採用している。そして、対物レンズ16がレンズシフトした場合に、図5に示すように、戻り光のプッシュプル信号成分領域Wが第1の領域171に入り込んでしまう場合がある。
【0072】
プッシュプル信号成分領域Wの入り込みは、その形状(領域Wの形状)から第1の領域171の中央部で生じる(図5参照)。このために、光ピックアップ1においては、この領域Wの入り込みが生じる部分の光をサブ受光部192、193で受光しないように、サブ受光部192、193の中央部に不感帯NDが設けられている。そして、これにより、(SE−SF)信号及び(SG−SH)信号には、プッシュプル信号が含まれず、DCオフセット信号だけが含まれることになっている。
【0073】
以上のように設けられる光ピックアップ1の効果について説明する。光ピックアップ1は、半導体レーザ11から光ディスクDに照射される光が1つの光(光ディスクD上に1つの光スポットのみ形成される)となるように構成されている。このために、TE信号に得るためにDPP法を採用する光ピックアップに比べて光の利用効率を向上できる。また、光ピックアップ1では、多層ディスク(例えばBDで採用されることが多い)に対応する場合に、DPP法では深刻な問題となる迷光について、その影響を小さなものとできる。
【0074】
また、光ピックアップ1では、サブ受光部192、193で受光される光スポットの面積を、サブ受光部192、193の面積に対して比較的大きなものとすることが可能であるために、サブ受光部192、193から出力される信号について、ノイズの影響を低減可能である。また、不感帯NDの形成により、サブ受光部192、193の受光面積を小さくできるので、サブ受光部192、193において迷光の影響を小さなものとできる。すなわち、光ピックアップ1では、サブ受光部192、193から出力される信号について安定化を図れ、適切なTE信号を得やすい。
【0075】
また、光ピックアップ1においては、Z方向の光検出器19の取り付け精度が多少低くても、良好なTE信号が得られる。光ピックアップ1では、光検出器19における受光部191〜193の並び方向が第1の方向(トラッキング方向に相当する)に略直交する方向となっている(図4参照)。このために、光検出器19のZ方向の取り付け位置がばらついても、サブ受光部192において領域Eと領域F(サブ受光部193において領域Gと領域H)とのいずれかに偏って光スポットが形成されることがない。このため、上述した従来の光ピックアップに比べて、Z方向の光検出器の取り付けばらつきに対して性能の確保が行い易い。
【0076】
以上に示した実施形態は本発明の一例であり、本発明の光ピックアップは以上に示した構成に限定されるものではない。
【0077】
例えば、以上に示した回折光学素子17の構成は一例に過ぎず、適宜変更可能である。例えば、回折光学素子17の略帯状の回折領域(第1の領域)171について、図6に示すような構成としてもよい。すなわち、略帯状の回折領域171の中央部近傍(矢印Tで示す範囲)に、戻り光のプッシュプル信号成分領域Wの入り込みが生じないように、幅狭小部171aを設ける構成としてもよい。幅狭小部171aの形状は、プッシュプル信号成分領域Wの入り込みを避けるという目的を満たす範囲で、図6に示す形状から適宜変更して構わない。なお、この略帯状の回折領域(第1の領域)171の変更に合わせて、第2の領域172a及び第3の領域172bも、その形状が変更されることになる。
【0078】
また、回折光学素子17の第2の領域172a及び第3の領域172bには、回折格子を設けず、この部分は単に光が透過するように構成してもよい。
【0079】
また、サブ受光部192、193における不感帯NDは、サブ受光部192、193を2つの部分に分けて得るのではなく、例えばサブ受光部192、193上(或いは光検出器19と回折光学素子17との間)に遮光部材を配置して形成してもよい。また、不感帯NDを形成する領域は、プッシュプル信号成分領域Wの入り込みが防ぐことができるように設けられればよく、図7に示すようにサブ受光部192、193の中央部に限定して設けてもよい。
【0080】
また、回折光学素子17に設けられる略帯状の回折領域(第1の領域)171の幅(短手方向の長さ)を短くすることにより、対物レンズ16がレンズシフトしても戻り光のプッシュプル信号成分領域Wが帯状の回折領域171に入り込まないのであれば、場合によっては、サブ受光部192、193に不感帯を設けないようにしても構わない。
【0081】
また、光ピックアップ1において、Z方向の光検出器19の取り付け精度が高い場合には、図8に示すように、受光部191〜193の並び方向を第1の方向(トラッキング方向に対応する方向)と平行な方向としても構わない。
【0082】
また、以上に示した実施形態では、光ピックアップ1が1つの光ディスクに対応する構成とした。しかし、本発明は、例えば、光ピックアップが複数種類の光ディスク(例えば、BDとDVDの2種類、BDとDVDとCDの3種類等)に対応する光ピックアップにも勿論適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、例えば多層ディスクに対応する光ピックアップに対して好適である。
【符号の説明】
【0084】
1 光ピックアップ
11 半導体レーザ(光源)
16 対物レンズ
17 回折光学素子
19 光検出器(光検出部)
30 対物レンズアクチュエータ
171 第1の領域(略帯状の回折領域)
172a 第2の領域(他の回折領域)
172b 第3の領域(他の回折領域)
191 メイン受光部
192、193 サブ受光部
D 光ディスク
ND 不感帯
RS 情報記録面
W プッシュプル信号成分領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクからの反射光を光検出部に導く光路中に回折光学素子を有し、前記光検出部から出力される信号を用いてトラッキングエラー信号が生成される光ピックアップであって、
前記反射光のうち、前記光ディスクのトラック構造によって生じる0次光と±1次光とが重なり合って生じる2つの領域をプッシュプル信号成分領域とした場合に、
前記回折光学素子には、前記2つのプッシュプル信号成分領域の並び方向に略直交する方向を長手方向とし、前記反射光の中央部が通過する略帯状の回折領域が含まれ、
前記光検出部には、
前記回折光学素子で回折されることなく前記回折光学素子を透過する光を受光するメイン受光部と、
前記略帯状の回折領域で回折される回折光を受光するサブ受光部と、
が形成され、
前記メイン受光部及び前記サブ受光部から出力される信号を用いて前記トラッキングエラー信号が生成される、光ピックアップ。
【請求項2】
前記サブ受光部の中央部には光を検出しない不感帯が形成されている、請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記サブ受光部が間隔をおいて配置される2つの部分からなることにより、前記不感帯が形成されている、請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
光源からの光を前記光ディスクの情報記録面に集光する対物レンズと、
前記対物レンズを前記光ディスクのトラックとほぼ直交するトラッキング方向に移動させるアクチュエータと、
を備え、
前記対物レンズが前記トラッキング方向に移動した場合に、前記光検出部の受光面に形成される光スポットが移動する方向を第1の方向とした場合に、
前記メイン受光部と前記サブ受光部とは、前記第1の方向と略直交する方向に並列配置されている、請求項1から3のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記サブ受光部は2つ設けられ、
前記2つのサブ受光部は、前記メイン受光部を挟むように対称配置されている、請求項1から4のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記回折光学素子には、前記略帯状の回折領域を挟むように、他の回折領域が設けられており、
前記他の回折領域によって回折される回折光は、前記メイン受光部及び前記サブ受光部で受光されない、請求項1から5のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項1】
光ディスクからの反射光を光検出部に導く光路中に回折光学素子を有し、前記光検出部から出力される信号を用いてトラッキングエラー信号が生成される光ピックアップであって、
前記反射光のうち、前記光ディスクのトラック構造によって生じる0次光と±1次光とが重なり合って生じる2つの領域をプッシュプル信号成分領域とした場合に、
前記回折光学素子には、前記2つのプッシュプル信号成分領域の並び方向に略直交する方向を長手方向とし、前記反射光の中央部が通過する略帯状の回折領域が含まれ、
前記光検出部には、
前記回折光学素子で回折されることなく前記回折光学素子を透過する光を受光するメイン受光部と、
前記略帯状の回折領域で回折される回折光を受光するサブ受光部と、
が形成され、
前記メイン受光部及び前記サブ受光部から出力される信号を用いて前記トラッキングエラー信号が生成される、光ピックアップ。
【請求項2】
前記サブ受光部の中央部には光を検出しない不感帯が形成されている、請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記サブ受光部が間隔をおいて配置される2つの部分からなることにより、前記不感帯が形成されている、請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
光源からの光を前記光ディスクの情報記録面に集光する対物レンズと、
前記対物レンズを前記光ディスクのトラックとほぼ直交するトラッキング方向に移動させるアクチュエータと、
を備え、
前記対物レンズが前記トラッキング方向に移動した場合に、前記光検出部の受光面に形成される光スポットが移動する方向を第1の方向とした場合に、
前記メイン受光部と前記サブ受光部とは、前記第1の方向と略直交する方向に並列配置されている、請求項1から3のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記サブ受光部は2つ設けられ、
前記2つのサブ受光部は、前記メイン受光部を挟むように対称配置されている、請求項1から4のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記回折光学素子には、前記略帯状の回折領域を挟むように、他の回折領域が設けられており、
前記他の回折領域によって回折される回折光は、前記メイン受光部及び前記サブ受光部で受光されない、請求項1から5のいずれかに記載の光ピックアップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−133852(P2012−133852A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286383(P2010−286383)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]