説明

光フィルター素子、光フィルターモジュール、および分析機器

【課題】消費電力の低減を図れ、かつ配線信頼性の高い光フィルター素子、光フィルターモジュール、および分析機器を提供する。
【解決手段】光フィルター素子は、第一基板51と、前記第一基板51と対向する第二基板52と、前記第一基板51に設けられた第一反射膜と、前記第二基板52に設けられ、前記第一反射膜に対向する第二反射膜57と、前記第一基板51に設けられた第一電極と、前記第二基板52に設けられ、前記第一電極に対向する第二電極542と、前記第一基板51に設けられ、前記第一電極に接続された一対の第一引出電極541Aと、前記第二基板52に設けられ、前記第二電極542に接続された一対の第二引出電極542Aと、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定波長の光を取得する光フィルター素子、光フィルターモジュール、および分析機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数波長の光から、特定波長の光を取り出す波長可変干渉フィルター(光フィルター素子)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の波長可変干渉フィルターは、第1の構造体と、第1の構造体に対向する第2の構造体とを備えている。第2の構造体には、板状をなし、その厚み方向に変位可能な可動部が形成されている。また、第1の構造体は、可動部に対向する領域に、第1の反射膜と、第1の反射膜の外周側に形成される第1の駆動電極とを備えている。第2の構造体は、可動部に、第1の反射膜に対向する第2の反射膜と、第1の駆動電極に対向する第2の駆動電極と、を備えている。さらに、第1の構造体には、第1の駆動電極の外周縁から径外側に延びる1本の引き出し電極が形成され、第2の構造体には、第2の駆動電極の外周縁から径外側に延びる1本の引き出し電極が形成されている。
このような波長可変干渉フィルターは、第1の駆動電極、および第2の駆動電極に接続される各引き出し電極に電圧を印加することで、可動部が静電引力により第1の構造体側に変位し、第1の反射膜および第2の反射膜の間のギャップ寸法が可変される。これにより、波長可変干渉フィルターに入射する光のうち、ギャップ寸法に応じた波長の光が取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の波長可変干渉フィルターでは、第1の駆動電極に電圧を印加するための引き出し電極、第2の駆動電極に電圧を印加するための引き出し電極がそれぞれ1本のみ設けられる構成である。
ここで、波長可変干渉フィルターでは、第1の反射膜および第2の反射膜のギャップ寸法は、非常に小さく、例えば、200nm〜500nm程度の間で変位可能に形成されている。このような狭い領域内に、駆動電極を形成する場合、駆動電極の厚み寸法も薄くする必要があり、駆動電極と同厚み寸法の引き出し電極を形成すると、引き出し電極の抵抗が増大して消費電力が増大したり、断線などのおそれがあるなど、配線信頼性の問題があったりした。
【0006】
本発明は上述のような問題に鑑みて、消費電力の低減を図れ、かつ配線信頼性の高い光フィルター素子、光フィルターモジュール、および分析機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光フィルター素子は、第一基板と、前記第一基板と対向する第二基板と、前記第一基板に設けられた第一反射膜と、前記第二基板に設けられ、前記第一反射膜に対向する第二反射膜と、前記第一基板に設けられた第一電極と、前記第二基板に設けられ、前記第一電極に対向する第二電極と、前記第一基板に設けられ、前記第一電極に接続された一対の第一引出電極と、前記第二基板に設けられ、前記第二電極に接続された一対の第二引出電極と、を具備したことを特徴とする。
【0008】
この発明では、光フィルター素子の第一電極には、一対の第一引出電極が接続され、第二電極には、一対の第二引出電極が接続されている。このため、一対の第一引出電極により、第一電極に駆動電圧を印加することができ、一対の第二引出電極により第二電極に電圧を印加することができる。このような構成では、1つの引出電極が第一電極や第二電極に接続される場合に比べて、全体的に電気抵抗を低減できる。したがって、第一および第二電極間に静電引力を作用させて、第一反射膜および第二反射膜のギャップ寸法を変更する際に、より小さい駆動電圧でギャップ寸法を変えることができ、省電力化を図ることができる。
また、仮に、一対の第一引出電極のうちの一方、または一対の第二引出電極のうちの一方が断線した場合でも、他方の第一引出電極または他方の第二引出電極が断線していなければ、第一電極や第二電極に電圧を印加することができ、配線信頼性を向上させることができる。
【0009】
本発明の光フィルター素子では、前記第一基板および前記第二基板を厚み方向から見た平面視で、前記第一引出電極および前記第二引出電極は、それぞれ重ならない位置に配設されたことが好ましい。
【0010】
この発明では、第一引出電極および第二引出電極が重ならない位置に設けられている。すなわち、平面視において、第一引出電極および第二引出電極が重なる位置に設けられている場合、これらの第一引出電極および第二引出電極の間に静電引力が作用し、第一反射膜および第二反射膜のギャップの寸法が一様とならず、平行を維持できないおそれがある。また、基板間で絶縁破壊などにより、リーク電流が発生するおそれがあり、第一反射膜および第二反射膜のギャップ寸法の調整が不可能になったり、ギャップ調整に必要な時間が長くなったりするなどの問題が発生する。これに対して、本発明のように、第一引出電極および第二引出電極を、平面視において重ならない位置に設けることで、上記のようなリーク電流や、第一および第二引出電極間での静電引力の発生がなく、安定して光フィルター素子を駆動させることができる。
【0011】
ここで、本発明の光フィルター素子では、前記第一基板および前記第二基板は、矩形状に形成され、前記一対の第一引出電極は、それぞれ前記第一基板の対角線上で、基板中心に対して点対象となる位置に配置され、前記一対の第二引出電極は、それぞれ前記第二基板の対角線上で、基板中心に対して点対象となる位置に配置されたことが好ましい。
【0012】
この発明では、一対の第一引出電極は、それぞれ、矩形状の第一基板の対角線上に沿って、かつ、基板の中心点に対して点対象となる位置に配設されている。同様に、一対の第二引出電極は、それぞれ、矩形状の第二基板の対角線上に沿って、かつ、基板の中心点に対して点対象となる位置に配設されている。このため、上述した発明と同様、第一引出電極と第二引出電極とが互いに対向しないため、リーク電流の発生や、引出電極間の静電引力の発生を防止でき、安定して光フィルター素子を駆動できる。
また、第一電極および第二電極の間に静電引力が作用すると、第一基板および第二基板のうち少なくとも何れか一方が、他方側に撓むことで、第一反射膜および第二反射膜のギャップ寸法が調整される。この時、本発明では、第一引出電極が基板中心に対して点対象に配置されるため、第一基板が第二基板側に撓んだ際に、撓みによる応力バランスを均等にできる。第二基板においても同様に、第二基板が第一基板側に撓んだ際に、撓みによる応力バランスを均等にできる。したがって、基板の撓みバランスを均等にでき、第一反射膜および第二反射膜の平行状態を良好に維持することができ、より安定して光フィルター素子を駆動させることができる。
【0013】
本発明の光フィルター素子では、前記第一基板および前記第二基板のうち少なくともいずれか一方には、前記第一基板および前記第二基板を厚み方向から見た平面視で、前記一対の第一引出電極および前記一対の第二引出電極の配設位置に対応した凹溝が設けられることが好ましい。
【0014】
この発明では、第一基板または第二基板に、第一引出電極または第二引出電極に対応して凹溝が形成され、この凹溝に第一引出電極または第二引出電極が配設されている。このため、第一基板および第二基板を接合した際に、第一引出電極や第二引出電極が、第一基板および第二基板の接合部分に挟み込まれない。
ここで、第一基板および第二基板の接合時に、第一引出電極や第二引出電極が、接合部分に挟み込まれると、これらの電極の厚み寸法分だけ、第一基板および第二基板に歪みが生じ、第一反射膜および第二反射膜を平行に維持できなくなる問題が発生する。これに対して、本発明では、上記のように、第一引出電極や第二引出電極が、第一基板および第二基板の接合部分に挟み込まれないため、引出電極が、第一基板および第二基板の接合時に歪みの原因とならない。したがって、第一反射膜および第二反射膜を平行に維持することができ、光フィルター素子を安定して駆動させることができる。
【0015】
本発明の光フィルターモジュールは、上述したような光フィルター素子を備えたことを特徴とする。
【0016】
ここで、光フィルターモジュールとしては、例えば、光フィルター素子により取り出された光を受光し、その受光量を電気信号として出力する光フィルターモジュールなどが例示できる。
上述したように、光フィルター素子は、第一電極に一対の第一引出電極が接続され、第二電極に一対の第二引出電極が接続されており、引出電極における電気抵抗を低減させることで、消費電力を低減させることができる。したがって、このような光フィルター素子を備えた光フィルターモジュールにおいても、同様に、消費電力を低減させることができる。
また、光フィルター素子の配線信頼性を向上させることができるため、光フィルターモジュールにおける信頼性も向上させることができる。
【0017】
本発明の分析機器は、上述したような光フィルターモジュールを備えることを特徴とする。
ここで、分析機器としては、上記のような光フィルターモジュールから出力される電気信号に基づいて、光フィルターモジュールに入射した光の色度や明るさなどを分析する光測定器、ガスの吸収波長を検出してガスの種類を検査するガス検出装置、受光した光からその波長の光に含まれるデータを取得する光通信装置などを例示することができる。
本発明では、上述したように、光フィルターモジュールにより、消費電力の低減、および信頼性の向上を図ることができるため、このような光フィルターモジュールを備えた測定装置においても、消費電力の低減、および信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る一実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
【図2】前記実施形態の光フィルター素子であるエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】図2においてエタロンをIII-III線で断面した際の断面図である。
【図4】エタロンの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る一実施形態の分析機器としての測色装置について、図面を参照して説明する。
〔1.測色装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る第一実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
この測色装置1は、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の光フィルターモジュールを構成する測色センサー3と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサー3にて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0020】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
【0021】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、本発明の光フィルターモジュールを構成する。この測色センサー3は、図1に示すように、本発明の光フィルター素子を構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光する受光手段としての受光素子31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御部6と、を備えている。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光し、分光した光を受光素子31にて受光する。
受光素子31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光素子31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0022】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。図4は、エタロンの第一基板51および第二基板52を分離させた分解斜視図である。なお、図1では、エタロン5に検査対象光が図中下側から入射しているが、図3では、検査対象光が図中上側から入射するものとする。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図3に示すように、第一基板51、および第二基板52を備えている。これらの2枚の基板51,52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。これらの中でも、各基板51,52の構成材料としては、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属を含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより各基板51,52を形成することで、後述する反射膜56,57や、各電極の密着性や、基板同士の接合強度を向上させることが可能となる。そして、これらの2つの基板51,52は、外周部近傍に形成される接合面513,523が、例えば常温活性化接合など、加圧接合されることで、一体的に構成されている。
【0023】
また、第一基板51と、第二基板52との間には、本発明の一対の反射膜を構成する第一反射膜56および第二反射膜57が設けられる。ここで、第一反射膜56は、第一基板51の第二基板52に対向する面に固定され、第二反射膜57は、第二基板52の第一基板51に対向する面に固定されている。また、これらの第一反射膜56および第二反射膜57は、ギャップGを介して対向配置されている。
さらに、第一基板51と第二基板52との間には、第一反射膜56および第二反射膜57の間のギャップGの寸法を調整するための静電アクチュエーター54が設けられている。
【0024】
(3−1−1.第一基板の構成)
第一基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。具体的には、図3、図4に示すように、第一基板51には、エッチングにより電極形成溝511および反射膜固定部512が形成される。
電極形成溝511は、図2に示すようなエタロン5を厚み方向から見た平面視(以降、エタロン平面視と称す)において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。反射膜固定部512は、前記平面視において、電極形成溝511の中心部から第二基板52側に突出して形成される。
【0025】
電極形成溝511は、反射膜固定部512の外周縁から、当該電極形成溝511の内周壁面までの間に、リング状に形成される電極固定面511Aを備えている。この電極固定面511Aにリング状の第一電極541が形成される。
また、第一基板51には、電極形成溝511から、当該第一基板51の頂点方向に向かって、本発明の凹溝である第一凹溝514および第二凹溝515が形成されている。具体的には、第一凹溝514は、電極形成溝511から、第一基板51の左上頂点および右下頂点に向かって、第一基板51の対角線上に形成され、第二凹溝515は、電極形成溝511から第一基板51の左下頂点および右上頂点に向かって、第一基板51の対角線上に形成されている。これらの第一凹溝514および第二凹溝515は、同一幅寸法に形成されるとともに、それぞれ、電極形成溝511と同一深さ寸法に形成されている。
そして、第一電極541の外周縁の一部からは、図2に示すように、エタロン平面視において、エタロン5の右下方向および左上方向に向かって、第一引出電極541Aが、第一凹溝514内にそれぞれ延出して形成されている。これらの第一引出電極541Aは、先端には、それぞれ第一電極パッド541Bが形成され、これらの第一電極パッド541Bが電圧制御部6に接続される。
【0026】
ここで、静電アクチュエーター54を駆動させる際には、電圧制御部6により、一対の第一電極パッド541Bの双方に電圧が印加される。このような構成では、仮に、一対の第一引出電極541Aのうちいずれか一方が断線した場合であっても、他方の第一引出電極541Aから第一電極541に電圧を印加することができる。
また、一対の第一引出電極541Aにより、第一電極541が電圧制御部6に接続される構成では、1つの第一引出電極541Aが設けられる構成に比べて電気抵抗を低減することができるため、電気抵抗増大による電気エネルギーの損失を低減できる。したがって、第一電極541に所定の電荷を付与するために必要な駆動電圧を低減させることができ、省電力化を図ることができる。
さらに、リング状の第一電極541の左上端縁から一方の第一引出電極541Aが引き出され、右下端縁から他方の第一引出電極541Aが引き出されている。このため、第一電極541は、左上に引き出された第一引出電極541Aから、右下に引き出された第一引出電極541Aまでの間で、並列回路が形成されることとなり、第一電極541における電気抵抗を低減させることが可能となる。
【0027】
反射膜固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法となる円柱状に形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、反射膜固定部512の第二基板52に対向する反射膜固定面512Aが、電極固定面511Aよりも第二基板52に近接して形成される例を示すが、これに限らない。電極固定面511Aおよび反射膜固定面512Aの高さ位置は、反射膜固定面512Aに固定される第一反射膜56、および第二基板52に形成される第二反射膜57の間のギャップGの寸法、第一電極541および第二基板52に形成される後述の第二電極542の間の寸法、第一反射膜56や第二反射膜57の厚み寸法により適宜設定されるものであり、上記のような構成に限られない。例えば反射膜56,57として、誘電体多層膜反射膜を用い、その厚み寸法が増大する場合、電極固定面511Aと反射膜固定面512Aとが同一面に形成される構成や、電極固定面511Aの中心部に、円柱凹溝上の反射膜固定溝が形成され、この反射膜固定溝の底面に反射膜固定面512Aが形成される構成などとしてもよい。
ただし、第一電極541および第二電極542の間に作用する静電引力は、第一電極541および第二電極542の距離の二乗に反比例する。したがって、これら第一電極541および第二電極542の距離が近接するほど、静電引力の電圧値に対するギャップGの変動量も大きくなる。特に、本実施形態のように、ギャップGの可変寸法が微小な場合(例えば250nm〜450nm)、ギャップGの制御が困難となる。したがって、上記のように、反射膜固定溝を形成する場合であっても、電極形成溝511の深さ寸法をある程度確保する方が好ましく、本実施形態では、例えば、1μmに形成されることが好ましい。
【0028】
また、反射膜固定部512の反射膜固定面512Aは、エタロン5を透過させる波長域をも考慮して、溝深さが設計されることが好ましい。例えば、本実施形態では、第一反射膜56および第二反射膜57の間のギャップGの初期値(第一電極541および第二電極542間に電圧が印加されていない状態のギャップGの寸法)が450nmに設定され、第一電極541および第二電極542間に電圧を印加することにより、ギャップGが例えば250nmになるまで第二反射膜57を変位させることが可能となっており、これにより、第一電極541および第二電極542間の電圧を可変することで、可視光全域の波長の光を選択的に分光させて透過させることが可能となる。この場合、第一反射膜56および第二反射膜57の膜厚および反射膜固定面512Aや電極固定面511Aの高さ寸法は、ギャップGを250nm〜450nmの間で変位可能な値に設定されていればよい。
【0029】
そして、反射膜固定面512Aには、直径が例えば約3mmの円形状に形成される第一反射膜56が固定されている。この第一反射膜56としては、金属の単層膜により形成されるものであってもよく、誘電体多層膜により形成されるものであってもよい。金属単層膜としては、例えばAgC単層膜を用いることができ、誘電体多層膜の場合は、例えば高屈折層をTiO、低屈折層をSiOとした誘電体多層膜を用いることができる。ここで、AgC単層など金属単層により第一反射膜56を形成する場合、エタロン5で分光可能な波長域として可視光全域をカバーできる反射膜を形成することが可能となる。また、誘電体多層膜により第一反射膜56を形成する場合、エタロン5で分光可能な波長域がAgC単層膜よりも狭いが、分光された光の透過率が大きく、透過率の半値幅も狭く分解能を良好にできる。
【0030】
さらに、第一基板51は、第二基板52に対向する上面とは反対側の下面において、第一反射膜56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、第一基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0031】
(3−1−2.第二基板の構成)
第二基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、第二基板52には、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する連結保持部522と、を備えている。
【0032】
可動部521は、連結保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、第二基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521は、反射膜固定部512に平行な可動面521Aを備え、この可動面521Aに、第一反射膜56にギャップGを介して対向する第二反射膜57が固定されている。
ここで、この第二反射膜57は、上述した第一反射膜56と同一の構成の反射膜が用いられる。
【0033】
さらに、可動部521は、可動面521Aとは反対側の上面において、第二反射膜57に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、第一基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0034】
連結保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。この連結保持部522の第一基板51に対向する面には、第一電極541と、約1μmの電磁ギャップGを介して対向する、リング状の第二電極542が形成されている。ここで、この第二電極542および前述した第一電極541により、静電アクチュエーター54が構成される。
また、第二電極542の外周縁の一部からは、一対の第二引出電極542Aが外周方向に向かって形成されている。具体的には、図2、図4に示すように、第二引出電極542Aは、エタロン平面視において、エタロン5の右上方向および左下方向に向かって、それぞれ延出して形成されている。ここで、これらの第二引出電極542Aは、第二基板52の対角線上で、基板中心点に対して点対象となるように形成されている。したがって、第一基板51および第二基板52を接合した際に、これらの第二引出電極542Aは、第一基板51の第二凹溝515に対向する。そして、これらの第二引出電極542Aは、先端には、それぞれ第二電極パッド542Bが形成され、これらの第二電極パッド542Bが電圧制御部6に接続される。
そして、静電アクチュエーター54を駆動させる際には、電圧制御部6により、一対の第二電極パッド542Bの双方に電圧が印加される。
このような構成では、第一引出電極541Aと同様に、仮に一対の第二引出電極542Aのうちいずれか一方が断線した場合であっても、他方の第二引出電極542Aから第二電極542に電圧を印加することができる。
また、一対の第二引出電極542Aにより、第二電極542が電圧制御部6に接続される構成では、1つの第二引出電極542Aが設けられる構成に比べて電気抵抗を低減することができるため、電気抵抗増大による電気エネルギーの損失を低減できる。したがって、第二電極542に所定の電荷を付与するために必要な駆動電圧を低減させることができ、省電力化を図ることができる。
さらに、リング状の第二電極542の右上端縁から一方の第二引出電極542Aが引き出され、左下端縁から他方の第二引出電極542Aが引き出されている。このため、第二電極542は、例えば右上に引き出された第二引出電極542Aから、左下に引き出された第二引出電極542Aまでの間で、並列回路が形成されることとなり、第二電極542における電気抵抗を低減させることが可能となる。
【0035】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御部6は、上記エタロン5とともに、本発明の波長可変干渉フィルターを構成する。この電圧制御部6は、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の第一電極541および第二電極542に印加する電圧を制御する。この時、上述したように、電圧制御部6は、一対の第一引出電極541Aの双方、一対の第二引出電極542Aの双方に電圧を印加して、静電アクチュエーター54を駆動させる。
【0036】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および測色処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御部6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
【0037】
〔5.本実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態の測色装置1では、測色センサー3に設けられるエタロン5は、第一反射膜56および第二反射膜57の間のギャップGの寸法を調整する静電アクチュエーター54を備え、この静電アクチュエーター54は、第一基板51に形成される第一電極541と、第二基板52に形成される第二電極542とを備えている。そして、第一電極541には、一対の第一引出電極541Aが接続され、これらの一対の第一引出電極541Aから第一電極541に駆動電圧が印加される。第二電極542においても同様に、一対の第二引出電極542Aが接続され、これらの一対の第二引出電極542Aから第二電極542に駆動電圧が印加される。
このような構成では、仮に一対の第一引出電極541A(第二引出電極542A)のうちのいずれか一方が断線した場合でも、他方の第一引出電極541A(第二引出電極542A)により、第一電極541(第二電極542)に駆動電圧を印加することができ、配線信頼性を向上させることができ、安定してエタロン5を駆動させることができる。
また、一対の第一引出電極541A(第二引出電極542A)を用いて、第一電極541(第二電極542)に電圧を印加する場合、1つの第一引出電極541A(第二引出電極542A)を用いる場合に比べて、第一引出電極541A(第二引出電極542A)における電気抵抗を低減させることができる。また、第一電極541(第二電極542)においても、一対の第一引出電極541A(第二引出電極542A)が接続されることで、並列回路となるため、第一電極541(第二電極542)における電気抵抗も低減させることができる。したがって、電気抵抗による電気エネルギーの損失を抑制でき、エタロン5の駆動時の消費電力を低減させることができる。
したがって、以上のようなエタロン5を備えた測色センサー3や、測色装置1においても、信頼性が向上し、省電力化を図ることができる。
【0038】
また、第一引出電極541Aおよび第二引出電極542Aは、平面視においてそれぞれ重ならない位置に配設されている。
具体的には、第一引出電極541Aは、第一基板51の基板中心に対して、点対称となる第一基板51の対角線上に配設されている。第二引出電極542Aも、第二基板52の基板中心に対して、点対称となる第二基板52の対角線上に配設されている。
このような構成では、第一引出電極541Aと第二引出電極542Aとが対向することがないため、これらの間に働く静電引力が作用しない。したがって、可動部521は、第一電極541および第二電極542の間に働く静電引力のみにより変位されることとなり、可動部521の変位量を均一にできる。すなわち、可動部521の可動面521Aを、反射膜固定面512Aに平行に維持して、当該可動部521を変位させることが可能となり、エタロン5の安定駆動を実現できる。
また、上記のように、第二基板52の基板中心点に対して、一対の第二引出電極542Aが点対称に形成されているため、連結保持部522の撓みバランスを均一にでき、可動部521を、反射膜固定面512Aに対して平行に維持したまま、変位させることが可能となる。
【0039】
さらに、第一基板51には、対角線に沿って、第一凹溝514および第二凹溝515が形成されている。そして、第一基板51において、第一凹溝514内に、第一引出電極541Aが形成され、第二基板52において、第二凹溝515に対向する位置に第二引出電極542Aが形成されている。
このような構成では、第一引出電極541Aや第二引出電極542Aが第一基板51および第二基板52の接合部分に挟まれることがなく、第一基板51および第二基板52が平行となる状態で接合することができる。つまり、第一凹溝514や第二凹溝515が形成されない構成では、第一基板51および第二基板52の接合部分に、第一引出電極541Aや第二引出電極542Aが挟み込まれてしまうため、例えば第一基板51および第二基板52の表面を活性化してオプティカルコンタクトにより接合する場合、接合部分に挟み込まれた引出電極541A,542Aにより、接合部分が剥離するおそれがある。また、第一基板51および第二基板52を接着剤などの接着層を介して接合する場合でも、引出電極541A,542Aが挟み込まれる位置で基板51,52に歪みが生じ、可動部521を反射膜固定面512Aに対して平行に維持できなくなるおそれもある。これに対して、上記のように、第一引出電極541A,第二引出電極542Aの形成位置に対応して、第一凹溝514、第二凹溝515を形成することで、これらの第一引出電極541Aや第二引出電極542Aが接合部分に挟み込まれないため、上述のような剥離や歪みなどの問題を回避することができる。
【0040】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0041】
例えば、上記実施形態において、図2に示す平面視で、第一基板51の左上から右下に向かう対角線上に、第一引出電極541Aを配設し、第二基板52の右上から左下に向かう対角線上に第二引出電極542Aを配設したが、これに限定されない。例えば、第一基板51の右上から左下に向かう方向に第一引出電極541Aを形成し、第二基板52の左上から右下に向かう方向に第二引出電極542Aを形成する構成としてもよい。
さらに、第一電極パッド541B、第二電極パッド542Bの形成しやすさ、配線接続効率などを考慮して、第一基板51および第二基板52の対角線上に沿って第一引出電極541Aおよび第二引出電極542Aを配設する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、図2に示すエタロン平面視において、紙面左右方向をx軸方向、紙面上下方向をy軸方向、基板中心点を原点とし、第一電極541および第二電極542の外周縁までの径寸法をdとした場合、第一基板51では、第一電極541の外周縁における点(+d,0)から+x方向に延びる第一引出電極と、点(−d,0)から−x方向に延出する第一引出電極を設ける構成としてもよい。同様に、第二基板52では、第二電極542の外周縁における点(0,+d)から+y方向に延びる第二引出電極と、点(0,−d)から−y方向に延出する第二引出電極を設ける構成としてもよい。このような構成であっても、第二基板において、一対の第二引出電極が、基板中心点に対して点対称となるため、可動部521の撓み応力バランスが崩れることなく、反射膜固定面512Aに対して平行を維持した状態で可動部521を変位させることが可能である。また、第一電極51、第二電極52から第一電極パッド541B,第二電極パッド542Bまでの距離が短くなるため、第一引出電極541A,第二引出電極542Aの電気抵抗が小さくなり、より省電力化を図ることができる。
また、図2のエタロンにおいて、例えば、第一電極541から左上頂点、左下頂点に向かって第一引出電極を形成し、第二電極542から右下頂点、右上頂点に向かって第二引出電極を形成してもよい。ただし、この場合、第二基板52において、連結保持部522の右側の強度が、第二引出電極の分だけ大きくなり撓みにくくなるおそれがある。この場合では、第二電極542から左上頂点、左下頂点に向かって、第二引出電極と同等の引張強度を有するダミー電極を形成するなどしてもよい。また、この場合、第一引出電極541Aとダミー電極との間で静電引力を作用させないために、ダミー電極と第二電極542とを絶縁したり、ダミー電極を第二引出電極と同等の引張強度を有する非導電性膜に置き換えたりするなどすればよい。
【0042】
また、上記実施形態では、第一基板51に第一凹溝514および第二凹溝515を形成する構成を例示したが、第二基板52に第一凹溝および第二凹溝を形成する構成としてもよい。ただし、上記実施形態では、第一基板51が500μmに形成される基板であるのに対し、第二基板52は、200μmに形成される基板であり、これらの凹溝を形成する場合、第二基板52の第一基板51側の面に、第二電極542を形成するための電極形成溝を形成した上で、この電極形成溝を同深さ寸法の凹溝を形成する必要がある。この場合、第二基板52の基板強度の低下や、エッチング工程が煩雑であり、エッチング精度も低下するなどの問題が発生する。第二基板52の厚み寸法を増大させることで、凹溝を形成した場合でも、十分な強度を得ることが可能で、かつ可動部521がより撓みにくくなる構成を得ることができるが、この場合、連結保持部522を形成するためのエッチング量が増大するため、エッチング時間が増大するなどの問題も発生する。したがって、上述した実施形態のように、第一基板51側に凹溝を形成することが好ましい。
【0043】
さらに、上記実施形態では、エタロン5は、第二基板52に可動部521が設けられ、第二基板52の可動部521が第一基板51側に向かって変位する例を示したが、例えば第一基板51に可動部が設けられ、この可動部が第二基板52側に変位可能な構成などとしてもよい。さらには、第一基板51および第二基板52の双方に可動部が設けられ、これらの可動部がそれぞれ厚み方向に対して変位可能な構成などとしてもよい。
【0044】
さらに、上記実施形態において、光フィルターモジュールとして、測色センサー3を例示し、分析装置として測色装置1を例示したが、これに限定されない。
例えば、本発明の光フィルターモジュールを、光フィルター素子であるエタロン5により取り出された光を受光素子により受光することで、ガス特有の吸収波長を検出するガス検出モジュールとして用いることもでき、分析装置として、ガス検出モジュールにより検出された吸収波長からガスの種類を判別するガス検出装置として用いることもできる。
さらには、例えば、光フィルターモジュールは、例えば光ファイバーなどの光伝達媒体により伝送された光から所望の波長の光を抽出する光通信モジュールとしても用いることができる。また、分析装置として、このような光通信モジュールから抽出された光からデータをデコード処理し、光により伝送されたデータを抽出する光通信装置として用いることもできる。
【0045】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0046】
1…分析装置としての測色装置、3…光フィルターモジュールとしての測色センサー、5…光フィルター素子としてのエタロン、51…第一基板、52…第二基板、56…第一反射膜、57…第二反射膜、514…第一凹溝、515…第二凹溝、541…第一電極、541A…第一引出電極、542…第二電極、542A…第二引出電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と、
前記第一基板と対向する第二基板と、
前記第一基板に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板に設けられ、前記第一反射膜に対向する第二反射膜と、
前記第一基板に設けられた第一電極と、
前記第二基板に設けられ、前記第一電極に対向する第二電極と、
前記第一基板に設けられ、前記第一電極に接続された一対の第一引出電極と、
前記第二基板に設けられ、前記第二電極に接続された一対の第二引出電極と、
を具備したことを特徴とする光フィルター素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光フィルター素子において、
前記第一基板および前記第二基板を厚み方向から見た平面視で、前記第一引出電極および前記第二引出電極は、それぞれ重ならない位置に配設された
ことを特徴とする光フィルター素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光フィルター素子において、
前記第一基板および前記第二基板は、矩形状に形成され、
前記一対の第一引出電極は、それぞれ前記第一基板の対角線上で、基板中心に対して点対象となる位置に配置され、
前記一対の第二引出電極は、それぞれ前記第二基板の対角線上で、基板中心に対して点対象となる位置に配置された
ことを特徴とする光フィルター素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光フィルター素子において、
前記第一基板および前記第二基板のうち少なくともいずれか一方には、前記第一基板および前記第二基板を厚み方向から見た平面視で、前記一対の第一引出電極および前記一対の第二引出電極の配設位置に対応した凹溝が設けられた
ことを特徴とする光フィルター素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光フィルター素子を備えたことを特徴とする光フィルターモジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の光フィルターモジュールを備えたことを特徴とする分析機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−227224(P2011−227224A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95711(P2010−95711)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】