説明

光モジュール

【課題】 本願発明の課題は、変調器集積レーザのモジュール消費電力を低減することにある。
【解決手段】 レーザ活性層領域を構成する多重量子井戸をInGaAlAs/InGaAlAsで構成することによって、高温に素子を保っても信頼性および光出力レベルをたもつ。このとき変調器とレーザの波長の発振波長とバンドギャップ波長の差は上記素子設定温度上昇に比例した分だけ大きくとることが伝送特性を維持するために必要である。このことによってモジュールケース温度と素子設定温度差が小さくなり、モジュール消費電力を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体レーザ素子部と変調器とを有する光モジュールに関するものである。本願発明の光モジュールは、温度コントロールされた、例えば、電界吸収型光変調器集積レーザを含む光送信モジュールに適用して極めて有用である。光ファイバ通信において電気信号を光信号に変換する
【背景技術】
【0002】
従来、光通信用の変調器集積型半導体レーザ(以下、変調器集積レーザと記す)では、半導体レーザにおいて、レーザの発振波長、光出力パワ、および変調器の消光カーブの形状、チャーピング特性を環境温度の変化等が変化しても長期間、安定に保つために変調器集積レーザの素子温度を一定に保つ必要があった。
【0003】
例えば、従来の変調器集積型レーザでは、レーザ活性層および変調器吸収層にInGaAsP(インジウム・ガリウム・砒素・燐)からなる多重量子井戸(MQW:Multi−Quantum Well)から構成されている。従って、バンド構造の特徴から高温での光出力の低下が問題となると同時に、波長の長期安定性に問題が発生する。この為、これまで、半導体レーザ素子は、30℃以下に設定して素子温度を一定に保ちつつ、光信号を送信していた。
【0004】
又、最近、光ネットワークおよび送信モジュールの効率的運用を目的として、波長可変機能を持った光変調器集積レーザが知られている。例えば、文献(1)日本公開特許公報、特開平4―72783号あるいは、最近の文献では文献(2)IEEE Photonics Technology Letters. Volume 12、No.3、p.242に見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本公開特許公報、特開平4―72783号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters. Volume 12、No.3、p.242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いま、こうした変調器集積素子を含む光送信モジュールは、そのケースの外壁の温度が高温(例えば75℃)になることを想定して製作さればならない。しかし、図1に示すように、変調器集積素子の温度とモジュールのケース温度の差が大きくなるに従って、ペルチェ・クーラの消費電力が急激に消費電力が増大してしまうことが分かる。図1は半導体レーザ装置のケース温度と素子温度の差と、ペルチェ・クーラの消費電力との関係の例を示す図である。
【0008】
更に、その他のレーザ駆動用の消費電力は、0.2W程度であるから、モジュール全体の消費電極が急激に増大することになる。
【0009】
しかし、レーザ活性層領域にInGaAsPから構成された多重量子井戸構造を用いると、(1)光出力が低減すること、および、(2)発振波長の長期安定性が保持されないために、変調器集積レーザの設定温度は30℃以下に設定しなければならなかった。一方、半導体レーザ装置内の平均温度は、通常40℃程度以上である。従って、素子に対する設定温度を上昇させることは、ケース温度と素子温度との差を低減することになる。このことは、モジュール動作時の消費電力を低減できることを意味する。また、当該モジュールを組み込んだ光送信ボードあるいは光伝送装置の小型化を図る為には、発熱元となる本モジュールや他の駆動用ICを接近させて配置させなければならず、チップの周囲の温度はさらに上昇する要因を有することになる。
【0010】
従来のレーザ活性層にInGaAsPを用いた変調器集積半導体レーザでは、上記2つの問題点のために設定温度を上昇させてモジュール消費電力を低減することができなかった。
【0011】
前述の波長可変機能を持った光変調器集積レーザに対しては、波長可変を行うためにレーザ部分の温度をコントロールして波長を制御する方法が有力である。前記文献(2)の場合には、レーザ部分だけでなく素子全体の温度コントロールを行っている。この方法はレーザの活性層付近の温度を変化させることによって、分布帰還型レーザの発振波長を変化させる方法である。しかし、上記のように高温での出力レベルおよび長期にわたる発振波長の安定性に問題があり、最も長波長の光を得る動作条件として30℃以下の素子温度しか許されない。このため波長可変幅を大きくするためには素子温度を低温にしなければならない。このため、当該モジュールの外壁ケース温度との差が大きくなりモジュール消費電力が増大するという問題があった。また、光変調器には光デジタル信号を長距離伝送するのに適した光波長は温度によって変化し、その変化率は0.8nm/℃であるのに対し、上記レーザ発振波長の温度に対する変化率は0.1nm/℃である。このため、レーザと変調器を同じ温度のまま波長変化を得るために、素子全体の温度を変化させると、光変調器の最適動作波長からどんどんずれて行ってしまう。
【0012】
これを防ぐために変調器の温度をレーザ部の温度と独立に制御しなければならない。素子のほとんどの部分の温度をペルチェ素子(電子温度調節素子、電子冷却(及び加熱)素子)によって制御し、レーザ活性層近傍の温度を素子上に装荷されたヒータによって制御する場合、装荷したヒータに電流を流さない場合のレーザ活性層温度が低い方が、レーザ発振波長を長波長化した場合のレーザ発振波長が最も短波長に設定されたときのレーザ部温度を十分低く設定しなければ、長波長に波長を変化させたときの光出力の劣化を最小限にとどめたまま、大きな波長可変幅を確保することができなくなる。このようにInGaAsPのMQWから構成されたレーザでは、高温時の出力低下が問題となるため素子の最低設定温度を低くしなければならないが、このために光送信モジュールのケース温度が高くなると消費電力が大きくなるという問題は、最低温度が室温より低い場合が多く、上記波長可変機能の無い通常の光送信モジュールの場合よりも深刻である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の基本的形態は、半導体レーザ発光部と、当該半導体レーザ発光部よりの光を変調する光変調部と、少なくとも前記光変調部を温度制御する温度制御手段と、を少なくとも有し、且つ、前記半導体レーザ発光部は活性層領域が、In、Ga、Al、及びAsの4元混晶およびIn、Ga、N、及びAsの4元混晶の群より選ばれた少なくとも二つの4元混晶の層を有する多重量子井戸構造を有し、少なくとも前記変調器部の動作時の温度が摂氏30度以上として温度設定が可能なことを特徴とする光モジュールである。前記変調器と半導体レーザ素子を有する場合、その温度設定は、半導体レーザ素子の発光部及びこの半導体レーザ素子に熱的に接触した半導体レーザ素子の発光部を保持する部材の温度を前記摂氏30度以上として温度設定が可能な形態が多用される。前記半導体レーザ素子の発光部、具体的にはその活性層領域が、温度制御には重要な領域である。
【0014】
本願発明においては、半導体レーザ発光部は活性層領域が、In、Ga、Al、及びAsの4元混晶系あるいはIn、Ga、N、及びAsの4元混晶系の群より選ばれた4元混晶の層で多重量子井戸構造を構成することが重要である。Alを含有する4元系化合物半導体材料を用いることによって、高温雰囲気における光出力特性を確保することが可能となる。あるいは、N含有の化合物半導体材料でも、類似のことが言える。
【0015】
In、Ga、Al、及びAsの4元系化合物半導体材料を用いることによって、伝導帯のバンドオフセットの値が、価電子帯のバンドオフセットの値より大きくすることが可能となる。従って、高温での注入電流のオバーフローが減少する。こうして、本願発明では、高温での光出力の低減が抑えられるのである。このように、本願発明では、伝導帯のバンドオフセットの値が、価電子帯のバンドオフセットの値より大きくすることが、極めて重要である。
【0016】
この為、前記量子井戸構造の構成する化合物半導体材料として、他の化合物半導体材料を用いた場合、所定光出力を得る為に、光変調器部を冷却する必要を、極めて軽減することが出来る。即ち、変調器部を摂氏30度以上の温度に設定できるからである。
【0017】
更には、本願発明においては、通例、半導体素子部に対して用いている前記の温度制御手段、例えば、ペルチエ素子などは不要とすることが出来る。勿論、本願発明の趣旨を、通例の前記温度制御手段を用いても実施することができる。この場合も、設定温度を、通例より高温、例えば、摂氏31度、32度、33度、あるいは34度といったように設定できるので、その消費電力を極めて低減することが出来る。尚、本願明細書において、「冷却手段を有せず」との意図は、こうした強制的な冷却手段、電力消費を伴う冷却手段、具体的には電力消費を伴う素子、例えば、ペルチエ素子を有せずとの意図である。従って、例えば、構造上の工夫に伴う冷却手段等を排除するものではない。
【0018】
更には、少なくとも、前記本光モジュールの動作時の温度が、摂氏35度以上として温度設定することが可能である。この場合、ますます、その消費電力を極めて低減することが出来る。勿論、この場合も、本願発明の趣旨を、通例の前記温度制御手段を用いて実施することができる。この場合も、設定温度を、通例より高温に設定できるので、その消費電力を極めて低減することが出来る。
【0019】
これまで、半導体レーザ装置、わけても光変調器を搭載した半導体発光装置において、こうした高温での動作が可能なことは、考えられもしなかったのである。本願発明が、初めてこのことを実現したものである。
【0020】
InGaAlAs系の化合物半導体、InGaNAs系の化合物半導体を用いての前記量子井戸構造の構成は、通例の方法に従ってよい。
【0021】
本願発明の発明思想は、多点発光の半導体レーザ装置、複数の発振波長を有する半導体レーザ装置、半導体レーザ部と光変調部とを有する半導体発光装置などに有用である。例えば、DWDMの所定波長に対応する発光部が、複数、即ちマルチチップとして構成することが出来る。又、半導体レーザ部が、波長の異なる複数の発振を有する場合、本願発明は極めて有用である。
【0022】
わけても、本願発明は、変調器が集積された半導体レーザ装置に有用である。この場合、複数の発光部を有し、これらの光を合波器にて合波し、光変調器で光の変調を行う形態の半導体発光装置が、その代表的形態である。
【0023】
本願発明は、前記半導体レーザ素子部及び前記光変調部、あるいは合波器など、半導体発光装置を構成する諸部分の各々が別体の半導体素子部として構成された形態、あるいは、これら諸部分が、同一の基板に集積された半導体素子として構成された形態をも取り得る。
【0024】
前記変調器としては、通例の電界吸収型光変調器が有用である。
【0025】
本願発明の最も代表的な例では、半導体レーザ部の活性層領域の近傍には、温度制御手段、例えばヒータが設けられ、その発振波長の制御が可能となっている。更に、こうした例では、多くの場合、光変調器部の光変調吸収層の近傍に、温度制御手段、例えばヒータが設けられている。
【発明の効果】
【0026】
本願発明によれば、高温動作時においても、発振波長の安定性を確保しつつ、低消費電力なる光モジュールを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、素子温度とモジュールケース温度の差と、消費電力との関係を例示する図である。
【図2】図2は、InGaAsP多重量子井戸のバンドダイヤグラムである。
【図3】図3は、InGaAlAs多重量子井戸のバンドダイヤグラムである。
【図4】図4は、光出力とレーザ活性層領域の温度との関係を示す図である。
【図5】図5は、モジュールの上面図である。
【図6】図6は、モジュールの断面図である。
【図7】図7は、変調器を集積したレーザ素子の斜視図である。
【図8】図8は、変調器を集積したレーザ素子の光の進行方向と交差する面での断面図である。
【図9】図9は、本願発明を適用した、変調器を集積したレーザ装置の電流・光出力の関係を示す図である。
【図10】図10は、多点発光のレーザ素子を集積した素子の斜視図である。
【図11】図11は、多点発光のレーザ素子を集積した素子の断面図である。
【図12】図12は、変調器近傍にヒータを装着した波長可変レーザの斜視図である。
【図13】図13は、波長制御を行う為の機構の例を示すループ図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本願発明の具体的の例を説明するに先立って、本願発明に係わる技術的詳細を説明する。更には、従来技術との比較も例示する。
【0029】
本願発明の代表例では、光出力を維持するとともに、高温での発振波長安定性を確保した状態でモジュールの消費電力を低減するためにレーザ活性層として伝導帯のバンドオフセットを100meV以上としたInGaAlAsを用いて構成されたMQWを採用する。こうした、バンドオフセットを用いることによって、本願発明はより効果的である。
【0030】
図2はInGaAsPのMQWのバンド構造を模式的に示す図である。このMQWの例は、InGaAsPの井戸層102とInGaAsPの障壁層103で構成される。符号100は伝導帯の下端、符号101は価電子帯の上端を示している。符号104は電子、105は正孔を示す。正孔107は各井戸層に不均一に注入されている。図2に示すように、InGaAsPのMQWでは、通常伝導帯のバンドオフセットは価電子帯のバンドオフセットと同程度かこれより小さい。
【0031】
しかし、適切な歪のInGaAlAs―MQWでは、図3に示すように伝導帯のバンドオフセットが価電子帯のバンドオフセットよりも大きくなる。図3は、InGaAlAsのMQWのバンド構造を模式的に示す図である。このMQWの例は、InGaAlAsの井戸層112とInGaAlAsの障壁層113で構成される。符号110は伝導帯の下端、符号111は価電子帯の上端を示している。符号114は電子、115は正孔を示す。
【0032】
こうした構成よって、高温での注入電流のオーバーフローが減少し、高温での光出力の低減を抑圧できる。
【0033】
これと同時に、図2のInGaAsP−MQWでは、高温でのキャリアのオーバーフローが顕著になるため、光出力を一定に保つ制御をかけた状態で動作させている場合、結晶の劣化による光出力低下を補うためにキャリアのオーバフロー分だけ電流注入大きくしなければならない。言い換えれば、伝導帯のバンドオフセットが小さい場合、スロープ効率が電流注入レベルが高いときに低下し、余分な電流注入増加をもたらす。これによって、伝導帯オフセットが小さい従来のInGaAsP−MQWを用いた変調器集積レーザの場合には、InGaAlAs−MQWを用いた変調器集積レーザに比べて発振波長の長波長化が大きく、発振波長の長期安定性が高温動作の場合に保てない。
【0034】
図4は、レーザ素子の温度と光出力の関係を例示する図である。曲線200はInGaAlAsを用いた半導体レーザ装置、曲線201はInGaAsP−MQWを用いた変調器集積レーザの例を示す。実際、図4に示すように、本願発明においては、レーザ活性層が高温になっても出力パワの低下は小さい。これによってモジュール動作時の素子および素子周囲温度をより高温まで上昇させることができる。但し、「モジュール動作時」とは、レーザから光信号が送信されており、所望の距離のファイバ伝送後に、十分なアイ開口が得られている状態のことである。従って、この状態は、レーザ、変調器、温度調整機構、および波長調整機構が通電されて設計どおりの動作を行っている状態をさす。また、「素子の周囲温度」とは、素子を温度制御するためのペルチェ等の温度調整素子と素子の間にある素子を物理的に保持する部分の温度をしめす。実際には、図5及び図6で示すように、素子を保持するキャリア上に接触したサーミスタの示す温度を素子温度とする。実際に光送信モジュールが設置される光送信装置は40〜50℃以上となる場合が多い。尚、図5及び図6の詳細は後述される。
【0035】
レーザ活性層として、この材料を用いた場合には、光送信モジュールの平均消費電力を最小に抑えるために、光送信モジュールのケース温度の平均値付近に変調器集積素子の温度を保つ必要がある。
【0036】
又、高密度波長多重(DWDM:Dense Wavelength Division Multiplexing)伝送を行うためのレーザモジュールは、一つのレーザモジュールが多くのチャネルの波長に対応することができれば、故障時のバックアップ光源を削減することができる。従って、この形態は、伝送装置コスト制限するとともに、レーザ波長によって送信先を変更することが可能となり、ネットワーク効率的運用に効果がある。更に、レーザ活性層の温度変化によって発振波長を調整する方式の波長可変レーザは、DBRを用いた方式に比べて波長可変時の縦モードの安定性が高いことおよび、スペクトル線幅が細いことから長距離幹線系の光伝送に好適である。
【0037】
更に、変調器集積レーザで素子設定温度を上昇させるためには、レーザの活性層と変調器の吸収層の波長差を、特別な関係で変更しなければ伝送特性、出力光波形特性を得ることができない。実際、変調器集積レーザでは変調器の出力波形を決められた基準に設定するためには、図6のレーザ部分のInGaAs/InGaAlAs量子井戸の動作温度での伝注入発光波長(レーザ発振前)は1.55μm程度でありITUで定められた発振波長から5nmほど短波長に設定した。変調器部の動作温度での発光波長は40nm以上短波長になっており、1510nm以下に設定しなければならない。しかし、通常室温でMQWの構成要素の組成等は室温で測定されることから素子作製時にはレーザ部分の温度特性と変調器部分の温度特性の違いを補正するために室温と動作温度のずれをΔTとしたとき、レーザ部の室温での発振波長は変調器部のバンドギャップ波長よりもΔλ=ΔT×(レーザ発振波長の温度変化係数(nm/℃)―変調器吸収層のバンドギャップ波長)だけさらに短波長にしなければならない。尚、前記変調器吸収層は量子井戸層で構成される。実際には素子設定温度を50℃にするためにはかつ40nmのレーザ発振波長と変調器バンドギャップ波長の差が伝送特性、波形品質上適切な変調器の場合57.5nmだけ変調器のバンドギャップをレーザに対して短波長化しなければならない。
【0038】
<実施の形態1>
図5は本発明にかかわる半導体レーザモジュール内部の上方から見た平面図、図6は、モジュール内部の横断面図である。
【0039】
光変調器集積半導体レーザダイオード1は、例えば、AlN製のサブマウント2上に搭載され、さらにこのサブマウント2は、キャリア3に半田で固定されている。このキャリア3はペルチェ・クーラ4上に搭載されて、金属製の収納ケース5内に収納されている。前記レーザ・キャリアは、一般説明における半導体レーザ素子の発光部を保持する部材に相当する。温度センサであるサーミスタ9はキャリア3に接触し、キャリアの温度をモニタしている。AlN製サブマウントの厚さは0.254mmであり、熱伝導率は1.3W/cmKとなり、キャリアと素子との温度差は1℃以下にできる。よってサーミスタの示す温度はほぼ素子の温度と同一と考えてよい。
【0040】
図5において、符号6はリードフレームで、電気信号の入力端子、符号7は、変調器信号入力用マイクロストリップラインである。
【0041】
図7は、変調器集積レーザ素子の構造の斜視図である。
【0042】
符号21は変調器電界印加のためのp型電極であり、この電極の直下に光変調器を構成する光導波路が設けられる。符号22は分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)レーザの電流注入用p電極であり、変調器と同様にこの直下にレーザを構成する光導波路がある。符号27はこのDFBレーザのグレーティングであり、レーザの縦モード(光導波路に平行な方向のモード)の単一モード安定性を図る。次に、このサブマウントの裏面にもグランド用電極が設けられていて、CuW製のキャリアに固定されていると同時に接地されている。CuW製のキャリアは、図5の符号3に示される。
【0043】
図5の符号8はフォトダイオードであり、レーザチップの変調器1とは反対側から放射される光の強度をモニタすることによって、一定の光出力がレーザ部から出力するパワを一定に保つ制御を可能としている。符号13はファイバ結合用非球面レンズ、14はアイソレータ、15はシングルモードファイバである。
【0044】
図8は、図7の線分24における素子の断面図である。従って、図8はレーザ光の進行方位と交差する面での断面図である。n型のInP基板23上に、気相成長法でInGaAlAs/InGaAlAsで構成される多重量子井戸構造を持つ活性層領域31、および上側光ガイド層30を形成する。上側光ガイド層30の厚さは、例えば1.7μmである。更に、その上に0.2μm厚のInGaAsのコンタクト層を形成する。尚、このコンタクト層は図示が省略されている。
【0045】
こうして形成した半導体層30に、幅1.7μmのストライプを深さ1.9μmで形成し、導波路を構成する。この導波路を保護する保護膜29を、例えばSiOで形成する。p-電極22を形成するためにポリイミド樹脂で導波路ストライプ以外のところを平坦化する。その後、p-電極22を形成する。最後に、半導体基板の裏面にn型―電極33を形成する。
【0046】
このような高周波回路をもつキャリアは、ペルチェ・クーラー4上に搭載される。ペルチェ・クーラーは、図5に符号4として示される。このペルチェ・クーラー4は収納ケース5の底部に固定されている。このペルチェ・クーラー4のリード(9、10)を介して所定の電流を供給すると、ペルチェ・クーラーの4の上側では熱の吸収が起こり、キャリア3上のサブマウント2および半導体レーザチップ1を冷却することができる。また、供給する電流の極性を反対にすることによって、熱を素子に加え素子温度を上昇させることができる。また、図5中の1はサーミスタであり抵抗によって、温度をモニターしレーザの駆動温度を設定した温度で一定に保つ。
【0047】
図7の素子構造において、レーザ部と変調器部とは、周知の方法、即ち、選択成長技術によってバンドギャップ波長が変化させられている。量子井戸層31におけるレーザ部の室温でのバンドギャップ波長は、1550nmとし、一方、同じ量子井戸構造の変調器部分でのフォトルミネッセンス波長は1480nmと設定された。そして、50℃での発振波長は1552.5nmであり、変調器部分のバンドギャップ波長は1505nmであった。また、量子井戸の膜厚は、変調器部分で7nm、バリア層の膜厚は5nmである。又、組成比は、量子井戸部分と障壁層部分でそれぞれ、In0.7Al0.049Ga0.251AsとIn0.352Al0.1Ga0.54Asとした。量子井戸層数は8である。これによって、しきい値電流13mAであり、100mAの注入電流での光出力16mWを45℃素子設定温度の場合に得た。図9に本例の特性例を示す。横軸は注入電流、縦軸は光出力である。図での特性に、「25−85℃、20℃step」、あるいは「100−40℃、20℃step」と説明される曲線は、次の意味を示している。即ち、前者で括られた曲線群は、上側より、25℃より20℃のステップで、25℃、45℃、65℃、及び85℃での特性曲線を示している。後者も同様の考え方で説明されている。
【0048】
本例のように、本願発明によれば、消費電力を従来の4.9Wから1.7Wまで低減することができた。また、n型基板としてGaAsを用い、また量子井戸層として、InGaNAs/InGaNAs多重量子井戸構造を図6の31の層に用いても、同様なモジュールの消費電力低減の効果は得られる。
【0049】
<実施の形態2>
本例は、複数の発光部を有するレーザ部、変調素子部分、及び合波器が一つの基板に集積化された例である。
【0050】
図10には、同一基板120上に複数の分布帰還型レーザ素子部分51と変調素子部分52が合波器53で結合されている場合の実施例を示す。本願に係わる部分以外の各部の基本構成は、通例の構成で十分である。尚、符号140はレーザ部の電極、127は変調器部の電極、126は温度制御の為の手段、具体的にはヒータである。
【0051】
この例では、4つのレーザ発振部を有し、その各々の発振波長は3.2nm間隔で配置される。そして、これらの発振波長のより精度の高い制御は、レーザ活性層領域の温度をコントロールすることによって行う。そのため、レーザが1つの場合と同じように、モジュールの消費電力を低減するために活性層にInGaAlAs/InGaAlAsの多重量子井戸構造を用いることによって、素子設定温度を上昇させることができる。
【0052】
図11に素子の断面図を示す。一つの基板130に、DFBレーザ部51、合波器部52、変調器部53が搭載されている。符号131は基板と反対側の半導体層である。レーザ部51と変調器53の多重量子井戸構造とバンドギャップ波長等は、実施の形態1と同じである。しかし、合波器52は、光導波路部分のコアはInGaAsPで構成され、この室温でのバンドギャップ波長は1.2μmとした。合波器のクラッド層即ち、コアの上下の層は、InPから構成されている。本例では、波長可変幅は15nmで、消費電力1.5Wの素子を実現することができる。
【0053】
<実施の形態3>
本例は、積極的な波長可変手段を有する半導体レーザ装置に本願発明を適用した例である。上記2つの実施例と異なり、本例は、レーザ部にヒータを用いて、レーザ部を局所的に加熱することによって変長器部の温度を素子設定温度に保ちつことが出来るようにした波長可変レーザモジュールの低消費電力化をはかった実施例である。
【0054】
図12は、本例を示す斜視図である。所定の半導体基板120に、半導体諸素子部を形成する為の半導体層領域121を介して、平坦化および電極容量の削減のためのポリイミド層102が形成される。符号130、及び131は、各々、レーザ素子部で、符号132、133は、各々、レーザ部の一方の電極を示す。そして、この例では、レーザ部130、131に隣接して、温度可変手段、例えば、ヒータ部61が設けられている。レーザ部130及び131からのレーザ光は、光導波路128によって変調器部125に入力出来るように構成されている。そして、その変調器部125は、隣接して温度可変手段、例えば、ヒータ126が設けられている。尚、符号127は一方の電極である。
【0055】
本例は、レーザ部分の温度を、図12のヒータ61で行うことによって、発振波長を変化させると同時に、変調器の活性層領域(吸収層)の温度を一定に保つことによって、出力光波形の形をおよび長距離伝送特性等を最適条件に保つことができる。このときにも素子設定温度すなわち変調器活性層(吸収層)温度を高くすることによって、モジュール消費電力を低減することができる。実際、実施例とおなじように、DFB型レーザ部の量子井戸構造を有する活性層領域と変調器の量子井戸吸収層の材用を、InGaAlAs/InGaAlAsによって構成される多重量子井戸構造あるいはInGaNAs/InGaNAsによって構成される多重量子井戸構造にすることによって、高温でも高信頼かつ高出力の変長器集積レーザを実現することができる。この時、レーザ部のレーザ発振波長と変調器部のバンドギャップ波長との波長差を、室温においては、実施例1と同様に大きくすることは当然である。
【0056】
この時、波長を精度高く制御するために、図13に示すようなフィードバック機構を導入する。図13は、その基本構成を示す図である。ペルチエ・クーラ83上に、レーザ部81及び変調器部82が搭載されている。レーザ部81は複数個設けられ、各レーザ部81は、その近傍に温度可変手段、例えば、ヒータ80が設けられ、波長可変レーザ71を構成している。
【0057】
本例では、変調器82から光信号84が射出されるが、この光の波長を監視する波長モニタ72が配される。この波長モニタ72は、波長変化を電圧変化に変換する波長モニタである。波長モニタ72の信号に基づき、レーザ部81、ヒータ部80、及びペルチエ・クーラ83を制御する。こうした波長モニタは、波長依存性を持つエタロンなどのフィルタと受光素子を組み合わせることによって構成される。即ち、信号光84を一部分岐して、波長モニタ72に導く。この光は透過率が波長によって異なるエタロンフィルタを透過して、受光素子に入射する。こうすることによって、受光素子に入射する光強度と波長との間に対応関係をつけることができ、受光強度によって波長をモニタすることが出来る。
【0058】
実際には、所望の波長の光がレーザから出力されたなら、波長モニタからの出力が0となるように設計されている。実際には要求された光波長を4つに分類できるテーブルを73の制御系の中のメモリに記憶させておき、特定のレーザに電流を流し発振させる。次に波長の微調整を行うために動作しているレーザの近傍に配置されたヒータに電流をながして波長モニタの出力が0になるまでヒータの電力を増やしつづける。この時、素子のレーザ部以外の領域の温度を一定に保つように図5のサーミスタ9の出力が素子温度設定値と一致するようにペルチェー・クーラーの電流を増加させる。この2つの制御は1つのデジタルICを用いで行うことも可能であり、またアナログ回路を組み合わせても可能である。
【0059】
又、この実施例ではレーザ近傍にヒータを配置したが変長器近傍にヒータを配置し、変長器の温度をヒータとペルチェクーラで一定に保ち、レーザ部の温度をペルチェクーラで保つこのによっても波長可変レーザを実現することができる。
【0060】
これまで説明してきた本願発明の諸形態の代表的な例を列挙すれば、次の通りである。
【0061】
その第1は、光通信用変調器集積半導体レーザの活性層にInとGaとAlとAsの4元混晶が含まれた多重量子井戸から構成されており、その半導体レーザチップもしくは上記チップに熱的に接触したレーザを保持する部品上の温度がレーザおよび変調器の動作時に35℃以上である変調器集積レーザを含む光通信用モジュールである。
【0062】
その第2は、光通信用変調器集積半導体レーザの活性層にInとGaとNとAsの4元混晶が含まれた多重量子井戸から構成されており、その半導体レーザチップもしくは上記チップに熱的に接触したレーザを保持する部品上の温度がレーザおよび変調器の動作時に35℃以上である変調器集積レーザを含む光通信用モジュールである。
【0063】
その第3は、光通信用変調器集積半導体レーザの活性層にInとGaとAlとAsの4元混晶あるいはInとGaとNとAsの4元混晶が含まれた多重量子井戸から構成されており、レーザ活性層の近傍もしくは光変調器吸収層の近傍あるいはその両方の近傍に当該活性層および吸収層に熱を加えるためのヒータを形成し、かつ、モジュール動作時の活性層の最高温度が35℃以上であることを特徴とした光通信用モジュールである。
【0064】
その第4は、光通信用変調器集積半導体レーザの活性層にInとGaとAlとAsの4元混晶あるいはInとGaとNとAsの4元混晶が含まれた多重量子井戸から構成されており、モジュール内に複数の変調器集積素子と出力光信号の合波器を含み、かつモジュール動作時の活性層の最高温度が35℃以上であることを特徴とした光通信モジュールである。
【0065】
その第5は、光通信用変調器集積半導体レーザの活性層にInとGaとAlとAsの4元混晶あるいはInとGaとNとAsの4元混晶が含まれた多重量子井戸から構成されており、同一基板上にレーザを構成する光導波路、複数本とレーザ出力光を合波する為の合波器と光変調器を含み、かつモジュール動作時の活性層の最高温度が35℃以上であることを特徴とした光通信モジュールである。
【0066】
以上、詳細に説明したように、本願発明によれば、変調器集積型レーザモジュールのモジュール消費電力の低減特にペルチェ・クーラの消費電力を低減することができる。又、波長可変変調器集積レーザモジュールにおいて、広い波長可変巾とモジュール低消費電力化を同時に実現することができる。
【符号の説明】
【0067】
1:変調器集積型レーザダイオード、2:AlNサブマウント、3:CuWキャリア、4:ペルチェ・クーラ、5:モジュールケース、6: 電気信号入力端子、7: 変調器信号入力用マイクロストリップライン、9:温度モニタ用サーミスタ、10:ボンディングワイヤ ペルチェクーラ、11: ボンディングワイヤ ペルチェクーラ、12:サブマウント上のマイクロストリップライン、13:ファイバ結合用レンズ、14:アイソレータ、15:光出力用ファイバ、21:変調器集積光源の変調器部分(電極)、22: 変調器集積光源のDFBレーザ部分(電極)、23:N型InP基板、24:断面図切断位置、27:分布帰還用(DFB)グレーティング、28:平坦化用ポリイミド樹脂、38:変調器電極、29:二酸化シリコン保護膜、30:上部ガイド層、31:InGaAlAs/InGaAlAs多重量子井戸層、33:n-型電極、51:DFBレーザ部分(4本アレイを図示する)、52:電界吸収型変調器部分、53:合波器部分、61:レーザ活性層加熱用ヒータ、71:変調器レーザアレイ集積素子(レーザ4チャンネル)、72:発振波長モニタ、73:制御系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ発光部と、当該半導体レーザ発光部よりの光を変調する光変調器とが、InP基板上の集積された変調器集積半導体レーザ装置を備え、
前記光変調器の吸収層をInGaAlAsで構成し、
温度制御手段を有せず、室温以上で前記光変調器を駆動することを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
請求項1において、前記温度制御手段は、ペルチエ素子であることを特徴とする光モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−296020(P2009−296020A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218807(P2009−218807)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2001−52302(P2001−52302)の分割
【原出願日】平成13年2月27日(2001.2.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】